説明

潤滑油組成物及び流体軸受用潤滑油、並びにそれを用いた流体軸受及び流体軸受の潤滑方法

【課題】酸化安定性及び低温流動性に優れた潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】炭素数6〜12で両末端の炭素にそれぞれ水酸基を有する直鎖状の二価アルコールと、炭素数6〜12の分岐鎖状の飽和一価脂肪酸とから得たジエステルを基油として用いることを特徴とする潤滑油組成物である。前記二価アルコールは、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール又は1,10-デカンジオールであることが好ましく、前記一価脂肪酸は、2-エチルヘキサン酸又は3,5,5-トリメチルヘキサン酸であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物、該潤滑油組成物からなる流体軸受用潤滑油、並びに該潤滑油組成物を用いた流体軸受及び流体軸受の潤滑方法に関し、特に酸化安定性が高く、低温流動性に優れ、軸受油、ギヤー油、冷凍機油、タービン油、油圧作動油、圧縮機油、工作機械油及び金属加工油等の工業用潤滑油、並びに自動車用潤滑油及び船舶用潤滑油等に好適な潤滑油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、潤滑油は、各種産業分野で広く用いられており、その作用は、主として金属同士の接触摺動時の接触面における摩擦、摩耗を軽減することである。該潤滑油に要求される物性としては、利用分野によっても異なるが、一般的には潤滑性、酸化安定性、熱安定性、低温流動性及び粘度特性等が挙げられる。これらの性能を満たすために、従来、潤滑油組成物の基油及び添加剤として、種々の天然物及び合成物が用いられている。例えば、天然物としては、鉱油、動植物油脂、動植物油由来の脂肪酸が使用されており、また、合成物としては、α-オレフィンオリゴマー、ポリアルキレングリコール、脂肪酸モノエステル及びジエステル、ポリオール(ヒンダード)エステル、リン酸エステル、ケイ酸エステル、シラン、シリコーン、ポリフェニルエーテル及びフルオロカーボン等が使用されている。そして、これらを単独又は組み合わせて用いることで、目的とする性能を有する潤滑油が実用化されている。
【0003】
一方、近年の産業分野の多様化及び高度化に伴い、潤滑油の使用条件がより過酷になりつつあり、従来の合成潤滑油では必要とされる性能を十分に満たすことが難しくなっている。具体的には、使用される温度が-30℃以下の極低温域や、加熱や金属との摺動等により150℃を超える高温域になるなど、使用条件が過酷になりつつある。そして、昨今、こうした条件下においても長時間使用できる潤滑油が求められており、かかる潤滑油の性能としては、良好な潤滑性、耐熱性、酸化安定性及び低温流動性、並びに粘度指数が高いことが特に重要とされている。そして、このような潤滑油として、ジカルボン酸エステルや、ポリオキシアルキレングリコールとアルコールからなるエーテルや、ポリオキシアルキレングリコールと脂肪族一価カルボン酸からなるエステルを基油とする潤滑油(特許文献1参照)が提案されている。
【0004】
また、昨今、映像・音響機器、パソコン等の電子機器のFD、MO、zip、ミニディスク、コンパクトディスク(CD)、DVD、ハードディスク等の磁気ディスクや光ディスクを駆動するための回転装置に、潤滑油を介して対向するスリーブと回転軸とを具える流体軸受が使用されつつある。そして、該流体軸受用の潤滑油には、一般に潤滑性、劣化安定性(寿命)、スラッジ生成防止性、摩耗防止性、腐食防止性等が必要とされ、これまでに、オレフィン系、ジエステル系又はネオペンチルポリオールエステル系の合成油、スクワラン及びナフテン系鉱油の1種以上とウレア化合物増稠剤のグリースからなるもの(特許文献2参照)、トリメチロールプロパンの脂肪酸トリエステルを基油とし、ヒンダードフェノール系酸化防止剤及びベンゾトリアゾール誘導体を含有するもの(特許文献3参照)、特定の高分子ヒンダードフェノール系酸化防止剤及び芳香族アミン系酸化防止剤を特定の割合で含有するもの(特許文献4参照)、フェニル基を有する特定のモノカルボン酸エステル及び/又は特定のジカルボン酸ジエステルを基油とするもの(特許文献5参照)、単体組成物を基油とするもの(特許文献6参照)、炭酸エステルを基油とし、硫黄含有フェノール系酸化防止剤及び亜鉛系極圧剤を含有するもの(特許文献7参照)、磁性流体を含有するもの(特許文献8、9、10参照)、特定の炭酸エステルを基油とし、フェノール系酸化防止剤を含有するもの(特許文献11参照)、トリメチロールプロパンと炭素数4〜8の1価脂肪酸とのエステルを基油とするもの(特許文献12参照)、ピメリン酸及び/又はスベリン酸と炭素数6〜10の分岐1価アルコールとのジエステルを基油とするもの(特許文献13参照)、ジカルボン酸とオキシアルキレンアルコールとのジエステルを基油とするもの(特許文献14参照)等が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開昭62−263288号公報
【特許文献2】特開平01−279117号公報
【特許文献3】特開平01−188592号公報
【特許文献4】特閑平01−225697号公報
【特許文献5】特開平04−357318号公報
【特許文献6】特許第2621329号公報
【特許文献7】特開平08−34987号公報
【特許文献8】特開平08−259977号公報
【特許文献9】特開平08−259982号公報
【特許文献10】特開平08−259985号公報
【特許文献11】特開平10−183159号公報
【特許文献12】特開2004−091524号公報
【特許文献13】特開2004−250625号公報
【特許文献14】特開2006−096849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、昨今、潤滑油は、過酷な条件下で長時間使用できることが要求されており、特に、潤滑性、耐熱性、酸化安定性及び低温流動性に優れ、粘度指数が高いことが求められるが、上記特許文献1に記載の潤滑油をもってしても、これらの諸性能を十分に満たすことができず、特に酸化安定性及び低温流動性に改善の余地がある。
【0007】
また、上記電子機器も、昨今大衆化が進んだため、過酷な環境で使用されることが増えており、特に、車に搭載されて使用されるカーナビゲーション等の機器は、自動車の使用環境を考慮すると、寒冷地から炎天下までの使用に耐えるものでなければならない。そのため、流体軸受用潤滑油にも、上記諸性能に加えて、酸化安定性及び低温流動性に優れることが求められる。しかしながら、上記特許文献2〜14に開示の流体軸受用潤滑油は、酸化安定性及び低温流動性の点で必ずしも十分とは言えず、更なる向上が求められている。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、酸化安定性及び低温流動性に優れた潤滑油組成物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかる潤滑油組成物からなる流体軸受用潤滑油、並びにかかる潤滑油組成物を用いた流体軸受及び流体軸受の潤滑方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、両末端に水酸基を有する直鎖状の二価アルコールと分岐鎖状の飽和一価脂肪酸とのジエステルを潤滑油組成物の基油として用いることにより、潤滑油組成物の酸化安定性、加水分解安定性及び低温流動性が向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明の潤滑油組成物は、炭素数6〜12で両末端の炭素にそれぞれ水酸基を有する直鎖状の二価アルコールと、炭素数6〜12の分岐鎖状の飽和一価脂肪酸とから得たジエステルを基油として用いることを特徴とする。
【0011】
本発明の潤滑油組成物において、前記二価アルコールは、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール又は1,10-デカンジオールであることが好ましく、一方、前記一価脂肪酸は、2-エチルヘキサン酸又は3,5,5-トリメチルヘキサン酸であることが好ましい。
【0012】
本発明の潤滑油組成物は、粘度指数が100以上であって、流動点が-50℃以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の潤滑油組成物は、アミン系酸化防止剤を0.01〜5質量%含有することが好ましい。この場合、該潤滑油組成物は、フェノール系酸化防止剤の含有量が0.1質量%以下であることが更に好ましい。また、該潤滑油組成物は、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、及びトリアゾール化合物からなる群から選択される少なくとも一種を0.01〜2質量%含有することが更に好ましい。
【0014】
また、本発明の流体軸受用潤滑油は、上記の潤滑油組成物からなることを特徴とし、本発明の流体軸受は、軸とスリーブとを具え、該軸とスリーブとの隙間に上記の潤滑油組成物が保持されていることを特徴とし、本発明の流体軸受の潤滑方法は、軸とスリーブとを具える流体軸受の軸とスリーブとの隙間を上記の潤滑油組成物を用いて潤滑することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、両末端に水酸基を有する直鎖状の二価アルコールと分岐鎖状の飽和一価脂肪酸とから合成されジエステルを基油とし、酸化安定性、加水分解安定性及び低温流動性(特に長期保存後の低温流動性)に優れた潤滑油組成物を提供することができる。また、かかる潤滑油組成物からなる流体軸受用潤滑油、並びにかかる潤滑油組成物を用いた流体軸受及び流体軸受の潤滑方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<潤滑油組成物>
以下に、本発明の潤滑油組成物を詳細に説明する。本発明の潤滑油組成物は、炭素数6〜12で両末端の炭素にそれぞれ水酸基を有する直鎖状の二価アルコールと、炭素数6〜12の分岐鎖状の飽和一価脂肪酸とから得たジエステルを基油として用いることを特徴とする。本発明の潤滑油組成物の基油として用いる上記ジエステルは、脂肪酸由来の部分が分岐鎖状であるため、流動点が低く、また、低温で長期間保管しても、固化することがない。なお、炭素数6〜12の分岐鎖状の二価アルコールと炭素数6〜12の直鎖状の飽和一価脂肪酸とから得たジエステルは、アルコール由来の部分が分岐鎖状であるため、流動点が低いが、低温で長期間保管し場合、固化してしまうことがある。また、理由は必ずしも明らかではないが、本発明の潤滑油組成物は、炭素数6〜12で両末端にそれぞれカルボキシル基を有する直鎖状の二価カルボン酸と炭素数6〜12の分岐鎖状の飽和一価アルコールとから得たジエステルを基油とする潤滑油組成物よりも、高い酸化安定性を有し、特にアミン系酸化防止剤の添加による酸化安定性の向上効果が著しく高い。
【0017】
本発明の潤滑油組成物に用いるジエステルは、炭素数6〜12で両末端の炭素にそれぞれ水酸基を有する直鎖状の二価アルコールと、炭素数6〜12の分岐鎖状の飽和一価脂肪酸とのエステル化反応によって合成される。
【0018】
上記二価アルコールとしては、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール等が挙げられ、これらの中でも、低蒸発性と省エネルギー性のバランスの点で、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール及び1,10-デカンジオールが好ましい。これら二価アルコールは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
一方、上記一価脂肪酸としては、2-メチルペンタン酸、2-エチルペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルヘキサン酸、3-エチルヘキサン酸、2-メチルヘプタン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、イソデカン酸等が挙げられ、これらの中でも、低蒸発性と低温流動性の点で、2-エチルヘキサン酸及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸が好ましく、2-エチルヘキサン酸が特に好ましい。これら一価脂肪酸は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
また、上記二価アルコールと上記一価脂肪酸とから合成されるジエステルとしては、1,8-ビス(2-エチルヘキサノイルオキシ)オクタン、1,9-ビス(2-エチルヘキサノイルオキシ)ノナン、1,10-ビス(2-エチルヘキサノイルオキシ)デカン、1,8-ビス(3,5,5-トリメチルヘキサノイルオキシ)オクタン、1,9-ビス(3,5,5-トリメチルヘキサノイルオキシ)ノナン、1,10-ビス(3,5,5-トリメチルヘキサノイルオキシ)デカン等が挙げられる。これらジエステルは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
本発明の潤滑油組成物において、上記ジエステルの含有量は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることが更に好ましい。上記ジエステルの含有量が90質量%以上であれば、潤滑油組成物の酸化安定性及び低温流動性を十分に向上させることができる。
【0022】
本発明の潤滑油組成物は、添加剤として、アミン系酸化防止剤を0.01〜5質量%含有することが好ましく、0.02〜3質量%含有することが更に好ましく、0.05〜2質量%含有することがより一層好ましい。アミン系酸化防止剤の含有量が0.01質量%以上であれば、潤滑油組成物に十分な酸化安定性を付与することができ、一方、5質量%以下であれば、スラッジの生成を十分に抑制することができる。
【0023】
上記アミン系酸化防止剤としては、(1)モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミン等のモノアルキルジフェニルアミン、(2)4,4'-ジブチルジフェニルアミン、4,4'-ジペンチルジフェニルアミン、4,4'-ジヘキシルジフェニルアミン、4,4'-ジヘプチルジフェニルアミン、4,4'-ジオクチルジフェニルアミン、4,4'-ジノニルジフェニルアミン等のジアルキルジフェニルアミン、(3)テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミン等のポリアルキルジフェニルアミン、(4)α-ナフチルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、ブチルフェニル-α-ナフチルアミン、ペンチルフェニル-α-ナフチルアミン、ヘキシルフェニル-α-ナフチルアミン、ヘプチルフェニル-α-ナフチルアミン、オクチルフェニル-α-ナフチルアミン、ノニルフェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン及びその誘導体を挙げることができる。これらの中でも、ジアルキルジフェニルアミン及びアルキルフェニルナフチルアミンが好ましく、炭素数4〜24のアルキル基を有するジアルキルジフェニルアミン及びアルキルフェニルナフチルアミンが更に好ましく、炭素数6〜18のアルキル基を有するジアルキルジフェニルアミン及びアルキルフェニルナフチルアミンがより一層好ましい。これらアミン系酸化防止剤は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
本発明の潤滑油組成物は、アミン系酸化防止剤の他に、更にフェノール系酸化防止剤を含有してもよいが、該フェノール系酸化防止剤の含有量は、0.1質量%以下であることが好ましく、0.03質量%以下であることが更に好ましく、0.01質量%以下であることがより一層好ましく、フェノール系酸化防止剤を含有しないことが最も好ましい。フェノール系酸化防止剤の含有量が0.1質量%以下であれば、潤滑油組成物により優れた酸化安定性を付与することができる。
【0025】
上記フェノール系酸化防止剤としては、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、4,4'-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2'-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4'-イソプロピリデンビスフェノール、2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、2,6-ビス(2'-ヒドロキシ-3'-t-ブチル-5'-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、ビス[2-(2-ヒドロキシ-5-メチル-3-t-ブチルベンジル)-4-メチル-6-t-ブチルフェニル]テレフタレート、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等を挙げることができる。
【0026】
本発明の潤滑油組成物は、上記アミン系酸化防止剤に加えて、更に、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、及びトリアゾール化合物からなる群から選択される少なくとも一種を0.01〜2質量%含有することが好ましく、0.02〜1質量%含有することが更に好ましい。これら化合物の含有量が0.01質量%以上であれば、潤滑油組成物の酸化安定性が更に向上すると共に、基油として用いる上記ジエステルの加水分解安定性を向上させることができ、また、2質量%以下であれば、スラッジの生成を十分に抑制することができる。
【0027】
上記エポキシ化合物は、炭素数が4〜60であることが好ましく、炭素数が5〜25であることが更に好ましい。ここで、該エポキシ化合物として、具体的には、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、t-ブチルフェニルグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類、アジピン酸グシリジルエステル、2-エチルヘキサン酸グリシジルエステル、イソノナン酸グリシジルエステル、ネオデカン酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル類、エポキシ化ステアリン酸メチル等のエポキシ化脂肪酸モノエステル類や、エポキシ化大豆油等のエポキシ化植物油が挙げられる。また、上記エポキシ化合物としては、下記一般式(I):
【化1】

[式中、R1は、水素原子、炭素数1〜24の直鎖若しくは分岐のアルキル基、又は炭素数7〜24のアルキルフェニル基である]で表わされるグリシジルエーテル、下記一般式(II):
【化2】

[式中、R2は、炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐のアルキレン基である]で表わされるグリシジルエーテル、及び下記一般式(III):
【化3】

[式中、R3は、炭素数1〜24の直鎖若しくは分岐のアルキル基、又は炭素数7〜24のアルキルフェニル基である]で表わされるグリシジルエステルが好ましく、式(I)のグリシジルエーテルが特に好ましい。これらエポキシ化合物は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
上記カルボジイミド化合物は、下記一般式(IV):
4−N=C=N−R5 ・・・ (IV)
[式中、R4及びR5は、それぞれ独立して炭素数1〜24の炭化水素基であり、好ましくは炭素数7〜24のアルキルフェニル基であり、より好ましくは炭素数7〜18のアルキルフェニル基である]で表わされことが好ましい。該カルボジイミド化合物として、具体的には、1,3-ジイソプロピルカルボジイミド、1,3-ジ-t-ブチルカルボジイミド、1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミド、1,3-ジ-p-トリルカルボジイミド、1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド等が挙げられ、これらの中でも、1,3-ジイソプロピルカルボジイミド、1,3-ジ-p-トリルカルボジイミド、及び1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)カルボジイミドが好ましい。これらカルボジイミド化合物は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
上記トリアゾール化合物としては、ベンゾトリアゾール及びベンゾトリアゾール誘導体が挙げられ、下記一般式(V):
【化4】

[式中、R6は、水素原子又はメチル基であり、R7は、水素原子、或いは窒素原子及び/又は酸素原子を含有する炭素数0〜20の一価の基である]で表わされる化合物が好ましい。上記トリアゾール化合物としては、ベンゾトリアゾール誘導体が更に好ましく、上記式(V)で表わされ、R7が窒素原子を含有する炭素数5〜20の一価の基である化合物がより一層好ましい。上記トリアゾール化合物として、具体的には、2-(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2'-ヒドロキシ-3',5'-ビス(α,α'-ジメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール等が挙げられる。これらトリアゾール化合物は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
なお、本発明の潤滑油組成物は、必要に応じて、清浄分散剤、耐摩耗剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、無灰系分散剤、金属不活性剤、金属系清浄剤、油性剤、界面活性剤、消泡剤、摩擦調整剤、防錆剤、腐食防止剤等を更に含有してもよい。
【0031】
本発明の潤滑油組成物は、粘度指数が100以上であることが好ましく、105以上であることが更に好ましく、110以上であることがより一層好ましい。潤滑油組成物の粘度指数が100以上であれば、極低温における粘度が異常に高くなることがなく、電力消費量の増加を抑制できる。また、本発明の潤滑油組成物は、低温流動性の観点から、流動点が-50℃以下であることが好ましい。
【0032】
本発明の潤滑油組成物は、長期保管後の低温流動性の観点から、-40℃で30日保管しても結晶化しないことが好ましい。また、本発明の潤滑油組成物は、腐食防止性、耐摩耗性及び安定性の観点から、全酸価が1mgKOH/g以下であることが好ましく、0.3mgKOH/g以下であることが更に好ましい。更に、本発明の潤滑油組成物は、耐吸湿性及び安定性の観点から、水酸基価が20mgKOH/g以下であることが好ましく、5mgKOH/g以下であることが更に好ましい。また更に、本発明の潤滑油組成物は、25℃での比誘電率が2.5以上であることが好ましく、2.7〜10であることが更に好ましく、2.9〜8.0であることがより一層好ましい。
【0033】
<流体軸受用潤滑油、流体軸受及び流体軸受の潤滑方法>
次に、本発明の流体軸受用潤滑油、流体軸受及び流体軸受の潤滑方法を詳細に説明する。本発明の流体軸受用潤滑油は、上述した潤滑油組成物からなることを特徴とし、また、本発明の流体軸受は、軸とスリーブとを具え、該軸とスリーブとの隙間に上述した潤滑油組成物が保持されていることを特徴とし、更に、本発明の流体軸受の潤滑方法は、軸とスリーブとを具える流体軸受の該軸とスリーブとの隙間を上述した潤滑油組成物を用いて潤滑することを特徴とする。本発明の流体軸受は、ボールベアリング等の機構を有さず、スリーブと軸とを具え、それらの間に収容された潤滑油によって互いに直接接触することがないように間隔が保持される流体軸受であれば、機械的に特に限定されるものではない。また、本発明の流体軸受は、回転軸及び/又はスリーブに動圧発生溝が設けられ、回転軸が動圧によって支持される流体軸受や、回転軸に垂直方向に動圧を生じるようにスラストプレートが設けられている流体軸受等も含む。
【0034】
流体軸受は、非回転時には動圧が生じないためにスリーブと回転軸又はスリーブとスラストプレートが部分的若しくは全面接触しており、回転により動圧が生じて非接触状態となる。こうしたことから接触、非接触を繰り返し、スリーブと回転軸又はスリーブとスラストプレートの金属摩耗が起こったり、回転中の一時的な接触により焼き付きを起こすことがある。しかしながら、酸化安定性及び低温流動性に優れた本発明の潤滑油組成物を用いることによって、長期に亘り高速回転安定性及び耐久性が維持され、また、低温でも安定して作動する。
【0035】
以下に、図を参照しながら、本発明の流体軸受及び流体軸受の潤滑方法を詳細に説明する。図1は、潤滑油を用いる記録ディスク駆動用の流体軸受を装備したモータの概略構成を模式的に示す断面図である。図1において、モータ1は、ブラケット2と、該ブラケット2の中央開口部に一方の端部が外嵌固定されたシャフト4と、該シャフト4に対して相対的に回転自在に保持されたロータ6とを備える。ブラケット2にはステータ12が固定され、これに対向してロータ6に設けられたロータマグネット10との間で、回転駆動力が生じる。
【0036】
また、シャフト4の上部及び下部には、半径方向外方に突出する円盤状の上部スラストプレート4a及び下部スラストプレート4bが配設されており、これらのスラストプレート間のシャフト外側面には、気体介在部22が形成されている。一方、ロータ6は、その外周部に記録ディスクDが載置されるロータハブ6aと、ロータ6の内周側に位置し潤滑油8が保持される微小間隙を介してシャフト4に支持されるスリーブ6bとを具えている。さらにスリーブ6bには、上部及び下部スラストプレートの外側に蓋をする形で、上部カウンタプレート7a及び下部カウンタプレート7bが設けられている。
【0037】
ここで、シャフト4の中央部に設けられた気体介在部22の上部に隣接するシャフト4の外周部から、上部スラストプレート4aの下面、外周面及び上面外周部に至る部分には、対向するスリーブ6bの内周部貫通孔6cの上部から上部カウンタプレート7aの下面に至る部分との間に、微小間隙が形成され、潤滑油8が保持されている。そして、上部スラストプレート4aの下面には、ロータ6の回転にともない潤滑油8中に動圧を発生するスパイラル溝14が形成されており、モータ回転時にロータ部を軸線方向に保持する支持力を発生すると同時に、潤滑油8を矢印Aの方向に押し戻す。さらにスリーブ6bの内周部貫通孔6c上部内面の潤滑油保持部には、アンバランスなヘリンボーン状溝24が形成されており、モータ回転時にロータ部を半径方向に保持する支持力を発生すると同時に、潤滑油8を矢印Bの方向に押し上げる。
【0038】
これらの溝により生じる潤滑油8の動圧により、微小間隙内の潤滑油8に生じる圧力分布は、上部スラストプレート4aの下面内周部Pで最も高くなっている。その結果、仮に潤滑油8内に溶け込んだ空気が気泡化しても、その気泡は前記内周部Pの外側に拡散排除され、下方の気体介在部22空隙部又は上方の上部カウンタプレート7a下面空隙部に至る。そして、これらの空隙部は、直接又は外気連通孔20により大気に解放されており、前記気泡は外気に解放され、潤滑油漏れがなく且つ支持力の高い流体軸受構造を実現している。
【0039】
また、同様の微小間隙、溝、潤滑油保持部の構造が、シャフト4の中央部に設けられた気体介在部22の下部から下部スラストプレート4b及び下部カウンタプレート7bに、上下逆配置で形成されており、この下部動圧軸受部により、ロータ部は一層安定に支持される。また、本構造の流体軸受は、毎分2万回転前後の高速回転においても、回転遠心力による潤滑油8の外周方向への発散が、上部及び下部カウンタプレート7a,7bにより効果的に防止される。さらに、本構造の流体軸受に上述の潤滑油組成物を用いることにより、広い温度範囲での使用が可能となり、優れた耐久性を伴いながら、一層高速で安定した回転を実現できる。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0041】
<基油の評価>
(A)1,8-オクタンジオールと2-エチルヘキサン酸とのジエステル、
(B)1,9-ノナンジオールと2-エチルヘキサン酸とのジエステル、
(C)1,10-デカンジオールと2-エチルヘキサン酸とのジエステル、
(D)1,9-ノナンジオールとn-オクタン酸とのジエステル、
(E)2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールとn-オクタン酸とのジエステル、
(F)セバシン酸と2-エチル-1-ヘキサノールとのジエステル、及び
(G)アゼライン酸と2-エチル-1-ヘキサノールとのジエステルに対して、動粘度、粘度指数、全酸価、水酸基価、蒸発量、流動点、低温流動性及び加水分解安定性を下記の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0042】
(1)動粘度及び粘度指数
JIS K 2283に準じ、キャノン−フェンスケ粘度計を用いて動粘度を測定すると共に粘度指数を算出した。
【0043】
(2)全酸価
JIS K 2501に準じて全酸価を測定した。
【0044】
(3)水酸基価
JIS K 0070に準じて水酸基価を測定した。
【0045】
(4)蒸発量
熱重量分析法(TG法)により、120℃で12時間保持したときの質量減少量から蒸発量を求めた。
【0046】
(5)流動点
JIS K 2269に準じて流動点を測定した。
【0047】
(6)低温流動性
50mLのサンプル瓶に供試油を20mL入れ、-40℃で30日間静置し、供試油の流動性(固化状況)を観察した。評価は、30日間静置後に取り出したサンプル瓶を逆さにし、1分以内に流動しないものを固化とした。
【0048】
(7)加水分解安定性
ASTM D2619に準拠して、93℃で20日間保管した後の供試油の全酸価を測定し、加水分解安定性を評価した。
【0049】
【表1】

【0050】
実施例1〜3から明らかなように、両末端に水酸基を有する直鎖状の二価アルコールと分岐鎖状の飽和一価脂肪酸とのジエステルは、流動点が低く、長期保管後の低温流動性も良好であった。一方、比較例1から、両末端に水酸基を有する直鎖状の二価アルコールと直鎖状の飽和一価脂肪酸とのジエステルは、流動点が高く、長期保管後の低温流動性が悪いことが分かる。また、比較例2から、両末端に水酸基を有する分岐鎖状の二価アルコールと直鎖状の飽和一価脂肪酸とのジエステルは、流動点が低いものの、長期保管後の低温流動性が悪いことが分かる。更に、比較例3及び4から、両末端にカルボキシル基を有する直鎖状の二価カルボン酸と分岐鎖状の飽和一価アルコールとのジエステルは、加水分解安定性が悪いことが分かる。
【0051】
<流体軸受用潤滑油の酸化安定性評価>
次に、上記ジステルを基油とし、表2に示す添加剤を添加して潤滑油組成物を調製し、回転ボンベ式酸化安定度(RBOT):JIS K 2514により得られた潤滑油組成物の酸化安定性を評価した。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
*1 チバスペシャリティケミカルズ製Irganox L135T, 3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクチル
*2 Vanderbilt社製Vanlube 81, 4,4'-ジオクチルジフェニルアミン
*3 チバスペシャリティケミカルズ製Irganox L06, オクチルフェニル-α-ナフチルアミン
*4 2-エチルヘキシルグリシジルエーテル
*5 1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド
*6 チバスペシャリティケミカルズ製Irgamet 39, ベンゾトリアゾール誘導体
【0054】
実施例4〜16から明らかなように、両末端に水酸基を有する直鎖状の二価アルコールと分岐鎖状の飽和一価脂肪酸とのジエステルを基油とする潤滑油組成物は、酸化安定性が良好であった。一方、両末端にカルボキシル基を有する直鎖状の二価カルボン酸と分岐鎖状の飽和一価アルコールとのジエステルを基油とする比較例5〜8の潤滑油組成物は、実施例の潤滑油組成物に比べて、酸化安定性が低かった。
【0055】
また、実施例4,5,7と、実施例8,9,10との比較から、アミン系酸化防止剤を使用する場合、フェノール系酸化防止剤を添加しない方が、酸化安定性の向上効果が高いことが分かる。更に、実施例11〜15から、アミン系酸化防止剤を添加した上で、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、及びトリアゾール化合物の少なくとも一種を更に添加することで、潤滑油の酸化安定性を更に改善できることが分かる。
【0056】
<流体軸受用潤滑油の加水分解安定性評価>
次に、上記ジステルを基油とし、表3に示す添加剤を添加して潤滑油組成物を調製し、得られた潤滑油組成物の加水分解安定性を評価した。結果を表3に示す。なお、表3中の*2、*4、*5は上記と同じである。
【0057】
【表3】

【0058】
表3から、エポキシ化合物やカルボジイミド化合物を添加することで、ジエステル基油の加水分解安定性が向上することが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】流体軸受を装備したモータの概略構成を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 モータ
2 ブラケット
4 シャフト(軸)
4a 上部スラストプレート
4b 下部スラストプレート
6 ロータ
6a ロータハブ
6b スリーブ
6c 内周部貫通孔
7a 上部カウンタプレート
7b 下部カウンタプレート
8 潤滑油
10 ロータマグネット
12 ステータ
14 スパイラル溝
20 外気連通孔
22 気体介在部
24 ヘリンボーン状溝
D 記録ディスク
P 上部スラストプレートの下面内周部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数6〜12で両末端の炭素にそれぞれ水酸基を有する直鎖状の二価アルコールと、炭素数6〜12の分岐鎖状の飽和一価脂肪酸とから得たジエステルを基油として用いることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
前記二価アルコールが、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール又は1,10-デカンジオールであることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記一価脂肪酸が、2-エチルヘキサン酸又は3,5,5-トリメチルヘキサン酸であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
粘度指数が100以上であって、流動点が-50℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
アミン系酸化防止剤を0.01〜5質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
フェノール系酸化防止剤の含有量が0.1質量%以下であることを特徴とする請求項5に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、及びトリアゾール化合物からなる群から選択される少なくとも一種を0.01〜2質量%含有することを特徴とする請求項5に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の潤滑油組成物からなる流体軸受用潤滑油。
【請求項9】
軸とスリーブとを具え、該軸とスリーブとの隙間に請求項1〜7のいずれかに記載の潤滑油組成物が保持されていることを特徴とする流体軸受。
【請求項10】
軸とスリーブとを具える流体軸受の潤滑方法において、
前記軸とスリーブとの隙間を請求項1〜7のいずれかに記載の潤滑油組成物を用いて潤滑することを特徴とする流体軸受の潤滑方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−69234(P2008−69234A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−248211(P2006−248211)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】