説明

潤滑油組成物

【課題】低粘度かつ粘度の温度依存性が少なく、油膜維持性に優れ、疲労寿命の長い潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の潤滑油組成物は、100℃における動粘度が1〜5mm/sである潤滑油基油と、100℃における動粘度が400〜4000mm/sであるオレフィンコポリマー(OCP)を組成物全量基準で2.5質量%以上と、を含有し、100℃における動粘度が6.5mm/s以下、かつ、粘度指数が160以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関する。詳しくは、低粘度かつ疲労寿命に優れ、特に自動車の変速機用潤滑油として好適な潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球規模の二酸化炭素排出量問題と世界的なエネルギー需要の増大を背景とし、自動車の省燃費化に対する要求はますます高くなっている。その中で、変速機にも従来に増して動力伝達効率の向上が求められており、その重要な構成要素である潤滑油にも高トルク容量化が求められている。
例えば、変速機の省燃費化手段の一つとして、潤滑油の低粘度化が挙げられる。変速機の中でも自動車用の自動変速機や無段変速機はトルクコンバータ、湿式クラッチ、歯車軸受機構、オイルポンプ、油圧制御機構などを有しており、これらに使用される潤滑油をより低粘度化することにより、攪拌抵抗および摩擦抵抗が低減され、動力の伝達効率が向上することで自動車の燃費の向上が可能となる。
【0003】
しかしながら、低粘度化された潤滑油は、金属間の接触を生じさせ易く,その結果,軸受や歯車等の機械要素部品の疲労寿命が大幅に低下し、焼付きなどが生じて変速機などに、不具合が生じることがある。
そこで、低粘度でありながらも疲労寿命が長い変速機用潤滑油組成物が特許文献1〜4に提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−117851号公報
【特許文献2】特開2006−117852号公報
【特許文献3】特開2006−117853号公報
【特許文献4】特開2006−117854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜4に開示された潤滑油組成物は、いずれも粘度指数向上剤としてポリメタアクリレート(PMA)を使用しているため、粘度指数は向上するものの、油膜維持性に劣るという問題があった。特に、弾性流体潤滑(EHL:Elasto Hydrodynamic Lubrication)の条件の下では、油膜の厚さを維持することは困難である。EHLとは、高い接触圧力のために潤滑面が変形するなどの影響が現れる流体潤滑領域のことであり、ベアリングやギヤなどの極めて狭い接触面積に高い荷重が負荷されるような高接触圧力領域で生じる潤滑状態である。このようなEHL条件下では、油膜の厚さを維持することが難しいので、金属同士の摩耗が起きやすく、結果として疲労寿命が短くなってしまうのである。
【0006】
そこで、本発明の目的は、低粘度かつ粘度の温度依存性が少なく、油膜維持性に優れ、さらに疲労寿命の長い潤滑油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決すべく、本発明は、以下のような潤滑油組成物を提供するものである。
(1)100℃における動粘度が1〜5mm/sである潤滑油基油と、100℃における動粘度が400〜4000mm/sであるオレフィンコポリマー(OCP)を組成物全量基準で2.5質量%以上と、を含有しており、さらに、潤滑油組成物の100℃における動粘度が6.5mm/s以下、かつ、粘度指数が160以上であることを特徴とする潤滑油組成物。
(2)自動車の変速機用潤滑油として用いられることを特徴とする上記(1)に記載の潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低粘度で、粘度の温度依存性が小さく、さらに、油膜維持性に優れ、疲労寿命の長い潤滑油組成物を提供することができる。特に、EHL条件下で使用される変速機用潤滑油組成物として有効に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の潤滑油組成物に含まれる潤滑油基油は、100℃における動粘度が1〜5mm/sの範囲であるものを使用する。100℃における動粘度が5mm/sを超えると、潤滑油組成物の粘度指数が良好な値を示さない。また、粘性抵抗による動力損失が大きくなり、燃費改善効果が得られない。一方、100℃における動粘度が1mm/s未満だと、油膜が十分に形成されず、摩擦抵抗が増大してしまう。また、蒸発損失も大きくなってしまう。潤滑油基油の100℃における動粘度のより好ましい範囲は、2〜4.5mm/sである。
なお、100℃における動粘度は、JIS K 2283に準拠して測定した値である。
【0010】
ここで、潤滑油基油は、特に限定されるものではなく、通常潤滑油の基油として使用されているものであれば鉱油および合成油を問わず使用できる。
鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留および減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、あるいは白土処理等の精製処埋を適宜組み合わせて精製したパラフィン系、ナフテン系などの基油が好適に使用できる。
【0011】
また、合成油としては、例えば、ポリブテン、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステル、ポリフェニルエーテル、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリオキシアルキレングリコール、ネオペンチルグリコール、シリコーンオイル、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、さらにはヒンダードエステルなどを用いることができる。
【0012】
これらの鉱油や合成油で、100℃における動粘度が1〜5mm/sの範囲内のものを単独で使用しても良く、またこれらの中から選ばれる2種以上の基油を任意の割合で混合して使用してもよい。
【0013】
また、本発明の潤滑油組成物には、100℃における動粘度が400〜4000mm/sのオレフィンコポリマー(OCP)が組成物全量基準で2.5質量%以上含まれている。
OCPの100℃における動粘度が400mm/s未満であると、潤滑油組成物の油膜の粘性抵抗が小さくなってしまう。特にEHL条件下で使用した場合、荷重がかかると油膜の厚さを維持できない。すなわち、油膜が薄くなるので金属同士の摩耗が起きやすく、結果として疲労寿命が短くなってしまう。また、100℃における動粘度が4000mm/sを超えると、油膜の形成能が著しく低下する。
OCPの100℃における動粘度のより好ましい範囲は、600mm/s〜3000mm/sである。
【0014】
また、潤滑油組成物は、上記範囲の100℃における動粘度であるOCPが2.5質量%未満であると、高い粘度指数が得られず、温度の変化による粘度の変化が大きくなってしまう。なお、OCPの添加量は、OCPの100℃における動粘度が大きいほど少ないほうがよい。
OCPとして、例えば、エチレン−プロピレン共重合体などを用いることができる。
【0015】
さらに、本発明の潤滑油組成物には、各種添加剤を含むことができる。添加剤は、所望の特性を発揮する各種添加剤を使用する。例えば、酸化防止剤、他の極圧剤、耐摩耗剤、油性剤、清浄分散剤および流動点降下剤などが挙げられる。
酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤および硫黄系酸化防止剤などが挙げられる。
【0016】
アミン系酸化防止剤としては、例えば、モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミンなどのモノアルキルジフェニルアミン系、4,4’−ジブチルジフェニルアミン、4,4’−ジペンチルジフェニルアミン、4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、4,4’−ジノニルジフェニルアミンなどのジアルキルジフェニルアミン系、テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミンなどのポリアルキルジフェニルアミン系、α−ナフチルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、ブチルフェニル−α−ナフチルアミン、ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン、オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどのナフチルアミン系を挙げることができ、中でもジアルキルジフェニルアミン系のものが好ましい。
【0017】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノールなどのモノフェノール系、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)などのジフェノール系を挙げることができる。
硫黄系酸化防止剤としては、例えばフェノチアジン、ペンタエリスリトール−テトラキス−(3−ラウリルチオプロピオネート)、ビス(3,5−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、チオジエチレンビス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル))プロピオネート、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−メチルアミノ)フェノールなどが挙げられる。
【0018】
これらの酸化防止剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.01〜10質量%、好ま
しくは0.03〜5質量%の範囲で選定される。
【0019】
他の極圧剤、耐摩耗剤、油性剤としては、例えばジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、ジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC)、硫化オキシモリブデンオルガノホスホロジチオエート(MoDTP)、硫化オキシモリブデンジチオカルバメート(MoDTC)などの有機金属系化合物が挙げられる。これらの配合量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.05〜5質量%、好ましくは0.1〜3質量%である。
【0020】
また、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの重合脂肪酸、リシノレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸などのヒドロキシ脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族飽和及び不飽和モノアルコール、ステアリルアミン、オレイルアミンなどの脂肪族飽和及び不飽和モノアミン、ラウリン酸アミド、オレイン酸アミドなどの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸アミドなどの油性剤が挙げられる。
これらの油性剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量基準で0.01〜10質量%の範囲であり、0.1〜5質量%の範囲が特に好ましい。
【0021】
清浄分散剤としては、例えばコハク酸イミド類、ホウ素含有コハク酸イミド類、ベンジルアミン類、ホウ素含有ベンジルアミン類、コハク酸エステル類、脂肪酸あるいはコハク酸で代表される一価又は二価カルボン酸アミド類などの無灰系分散剤、中性金属スルホネート、中性金属フェネート、中性金属サリチレート、中性金属ホスホネート、塩基性スルホネート、塩基性フェネート、塩基性サリチレート、過塩基性スルホネート、過塩基性サリチレート、過塩基性ホスホネートなどの金属系清浄剤が挙げられる。これらの配合量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.1〜20質量%、好ましくは0.5〜10質量%である。
流動点降下剤としては、重量平均分子量が5万〜15万程度のポリメタクリレートなどを用いることができる。
【0022】
本発明の潤滑油組成物には、所望により、前記以外の添加剤、例えば防錆剤、金属不活性化剤、消泡剤、界面活性剤などを含有させることができる。
防錆剤としては、例えば、アルケニルコハク酸やその部分エステルなどが、金属腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンズイミダゾール系、ベンゾチアゾール系、チアジアゾール系などが、金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾチアゾール、ベンゾチアゾール誘導体、トリアゾール、トリアゾール誘導体、ジチオカルバメート、ジチオカルバメート誘導体、イミダゾール、イミダゾール誘導体などが用いられる。消泡剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、ポリアクリレートなどが、界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどが用いられる。
【0023】
なお、これら各種添加剤を合わせた配合量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.1〜20質量%、好ましくは5〜15質量%となるように調整する。
【0024】
以上の配合で調整された潤滑油組成物は、100℃における動粘度が6.5mm/s以下である。100℃における動粘度が6.5mm/sを超えると、粘度が高いために摩擦抵抗が大きくなり、動力の伝達効率が低下する。
また、潤滑油組成物の粘度指数は160以上、より好ましくは170以上である。粘度指数が160未満であると、温度の変化による粘度変化が大きくなる恐れがあり好ましくない。
【0025】
以上より、100℃における動粘度が1〜5mm/sである潤滑油基油と、100℃における動粘度が400〜4000mm/sのOCPを少なくとも2.5質量%以上と、添加剤とを含有する潤滑油組成物の100℃における動粘度が6.5mm/s以下、かつ、粘度指数が160以上であるように潤滑油基油とOCPの添加量を調整するものである。そして、このようにして調整した潤滑油組成物は、油膜維持性に優れており、金属同士の摩耗が起きにくく、疲労寿命が長い。
したがって、低粘度かつ粘度の温度依存性が少なく、油膜維持性に優れた疲労寿命の長い潤滑油組成物を提供することができる。
【0026】
このような特性を備えた潤滑油組成物は、特にEHL条件下でその特性を発揮できるので、自動車などの変速機用潤滑油として好適に用いられる。
【実施例】
【0027】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例の記載内容に何ら制約されるものではない。
【0028】
[実施例1〜5、比較例1〜8]
表1に示す組成で潤滑油組成物を調整し、調整した組成物の100℃における動粘度、粘度指数および摩擦係数立ち上がり時間を以下に示す方法で測定した。
【0029】
[100℃における動粘度]
JIS K 2283に準拠して測定した。
【0030】
[粘度指数(VI:Viscosity Index)]
JIS K 2283に準拠して測定した。
【0031】
[摩擦係数立ち上がり時間]
摩擦係数立ち上がり時間とは、金属と金属との間に摩擦が発生した場合その摩擦係数は時間とともに増大するが、ある摩擦係数に到達するまでの時間をmsecで表したものである。なお、摩擦係数立ち上がり時間と,4球試験による転がり疲労寿命には相関係数0.97の相関が確認されている。
測定にはブロックオンリング試験機を用い,1m/sの状態で無負荷から,50kgfの荷重をかけた時における摩擦係数の変化を測定した。本実施例では、摩擦係数μ=0.02となる時間を測定し、摩擦係数立ち上がり時間とした。摩擦係数立ち上がり時間は、275msec以上であることが好ましい。
上記の方法により測定した実施例の結果を表1に、比較例の結果を表2に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
実施例および比較例では、基油として、API(American Petroleum Institute、米国石油協会)が規定しているGroup IIの基油を用い、添加剤には、インフィニアム社製、商品名「Infineum T4261」を用いた。
【0035】
表1が示すように、本発明の潤滑油組成物である実施例1〜5はいずれも、摩擦係数立ち上がり時間が275msec以上で、摩擦係数μ=0.02になるまでの時間が長い。すなわち、油膜が維持される時間が長いということである。したがって、油膜維持性に優れており、さらに、100℃における動粘度が6.5mm/s以下と低粘度で、粘度指数も160以上で良好である。
【0036】
表2が示すように、比較例1〜8は、潤滑油組成物の100℃における動粘度、粘度指数、摩擦係数立ち上がり時間のうち少なくとも一つ以上が良好な範囲から外れているため、低粘度、粘度指数および油膜維持性に優れるという3つの特性を同時に発揮することができない。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、例えば、自動車の変速機用潤滑油、パワーステアリング油、ショックアブソーバ油、エンジン油及び自動車・産業用ギヤー油、油圧油、軸受油などに好適に用いられるが、特に、EHL条件下で使用される自動車の自動変速機、手動変速機、無段変速機などの変速機用潤滑油として好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100℃における動粘度が1〜5mm/sである潤滑油基油と、
100℃における動粘度が400〜4000mm/sであるオレフィンコポリマー(OCP)を組成物全量基準で2.5質量%以上と、を含有し、
100℃における動粘度が6.5mm/s以下、かつ、
粘度指数が160以上である
ことを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の潤滑油組成物であって、
自動車の変速機用潤滑油として用いられることを特徴とした潤滑油組成物。

【公開番号】特開2008−208220(P2008−208220A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46308(P2007−46308)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】