説明

潤滑油組成物

【課題】低摩擦性、位置きめ性、熱安定性、低温貯蔵安定性に優れ、かつ切削液が混入した場合においても当初の低摩擦性を著しく悪化させない潤滑油組成物を提供することにあり、さらには、耐腐食性能にも優れた潤滑油組成物をも提供する。
【解決手段】潤滑油基油、並びに、組成物全量基準で特定の酸性リン酸エステル0.01〜0.5質量%と、(B)特定のアルキルアミン0.01〜2質量%と、の混合物及び/又は反応物を含有し、(A)成分に由来する酸価が0.1〜1.0mgKOH/gである潤滑油組成物。(C)硫黄化合物0.01〜5質量%を更に含有することをが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の加工テーブルなどのすべり案内面用の潤滑油には、加工精度を向上させるために低摩擦性能やスティックスリップの防止、貯蔵安定性、耐腐食性等が要求されている。また、工作機械ではすべり案内面用潤滑油が工作物の加工液に混入してしまう構造になっているものが多い。特に、加工液として水溶性切削液を用いている場合、このすべり案内面用潤滑油の混入が水溶性切削液の劣化(切削性能の低下、腐敗の促進、鉱油寿命の短縮、廃液処理コストの上昇など)の原因の1つとなっている。従って、すべり案内面用潤滑油の性能としては、すべり案内面での摩擦係数の低減やスティックスリップの防止といった潤滑特性に優れていることに加えて、水溶性切削液が混入した場合を考慮して水溶性切削液との分離性に優れ、かつ該水溶性切削液あるいはすべり案内面用潤滑油の諸性能に悪影響を与えないことが要求されている。
【0003】
摩擦低減剤として、これまでさまざまな極圧剤や油性剤が用いられてきた。昨今の工作機械においては特に精度に対する要求が高まっており、精度に重要な影響を与える低速領域における摩擦低減を実現するために、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、カルボン酸、イオウ化合物、アミン類等が用いられている(例えば、特許文献1,2,3,4を参照)。また、酸性リン酸エステルをアルキルアミンで中和することにより安定性を向上させることが試みられていた(例えば、特許文献5を参照)。
【特許文献1】特開平8−134488号公報
【特許文献2】特開2001−104973号公報
【特許文献3】特開2003−171684号公報
【特許文献4】特開2003−430949号公報
【特許文献5】特開2007−238764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの従来技術においては、添加剤の環境に対する負荷は高く、かつこのような添加剤では初期の摩擦性能および工作機械の位置決め性能は優れるものの、すべり案内面用潤滑油に水溶性切削液が混入した場合、当初の低摩擦性能を著しく阻害し、またリン酸などの酸性成分が鉄を使用する摺動面に腐食を発生させるなど、工作機械における加工精度を悪化させる原因となり、装置の使用が進むにつれて位置決め精度が悪化する傾向にあった。
【0005】
これまで酸性リン酸エステルをアルキルアミンで中和することにより安定性を向上させることが試みられていたが、従来の添加剤の組み合わせにおいては長期にわたって低摩擦を維持し続けることは困難であった。そのため長期間に亘って優れた摩擦性能を維持し続ける油剤が必要とされていた。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、低摩擦性、位置きめ性、熱安定性、低温貯蔵安定性に優れ、かつ切削液が混入した場合においても当初の低摩擦性を著しく悪化させない潤滑油組成物を提供することにあり、さらには、耐腐食性能にも優れた潤滑油組成物をも提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、潤滑油基油に、特定の酸性リン酸エステルと特定の脂肪族アミンとの混合物及び/又は反応物を特定の割合で含有し、該酸性リン酸エステルに由来する酸価が特定条件を満たす潤滑油組成物により上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の潤滑油組成物は、潤滑油基油、並びに、組成物全量基準で、(A)下記一般式(1)又は下記一般式(2)に示す酸性リン酸エステルの中から選ばれる少なくとも1種0.01〜0.5質量%と、(B)下記一般式(3)に示すアルキルアミン0.01〜2質量%と、の混合物及び/又は反応物を含有し、前記(A)成分に由来する酸価が0.1〜1.0mgKOH/gであることを特徴とする。
【化1】


[式(1)中、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を表し、R及びRの少なくとも一方は炭素数6〜12の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基であり;
式(2)中、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を表し、R及びRの少なくとも一方は炭素数13〜18の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基であり;
式中、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数4〜30の分岐鎖アルキル基を表し、R及びRの少なくとも一方は分岐鎖アルキル基である。]
【0009】
本発明の潤滑油組成物は、組成物全量基準で、(C)硫黄化合物0.01〜5質量%を更に含有することが好ましい。
【0010】
また、本発明の潤滑油組成物は、各種用途に使用可能であるが、工作機械に用いられることが好ましく、工作機械のすべり案内面に使用されることが特に好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の潤滑油組成物によれば、低摩擦性、位置きめ性、熱安定性、低温貯蔵安定性に優れ、かつ切削液が混入した場合においても当初の低摩擦性を著しく悪化させることなく、加工精度を維持することが可能であり、さらには、耐腐食性能にも優れる。したがって、本発明の潤滑油組成物は、工作機械の動作の安定化、長寿命化などの点で非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明で使用可能な鉱油系基油の製法に特に制限はないが、例えば、原油を常圧蒸留および減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の1種もしくは2種以上の精製手段を適宜組み合わせて適用して得られるパラフィン系またはナフテン系の鉱油を挙げることができる。また、本願の潤滑油基油には、油脂及び/又は合成油を配合することも出来る。
【0014】
油脂としては、牛脂、豚脂、大豆油、菜種油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、あるいはこれらの水素添加物などが挙げられる。
【0015】
合成油としては、例えば、ポリ−α−オレフィン(エチレン−プロピレン共重合体、ポリブテン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、およびこれらの水素化物など)、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、モノエステル(ブチルステアレート、オクチルラウレートなど)、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセパケートなど)、ポリエステル(トリメリット酸エステルなど)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネートなど)、ポリオキシアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、リン酸エステル(トリクレジルホスフェートなど)、含フッ素化合物(パーフルオロポリエーテル、フッ素化ポリオレフィンなど)、シリコーン油などが例示できる。
【0016】
本発明の潤滑油基油においては、上記した油脂及び/又は合成油のうちの1種を単独で又は2種以上組み合わせて配合してもよい。
【0017】
本発明で用いられる基油の粘度は特に制限されないが、40℃における動粘度が10〜700mm /sの範囲にあるものが好ましく、15〜500mm/sの範囲にあるものがより好ましい。また、基油の含有量は特に制限されないが、組成物全量基準で50〜99.98質量%の範囲であることが好ましい。
【0018】
(A)成分は、具体的には、下記一般式(1)および一般式(2)で表される化合物である。
【化2】


[式(1)中、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を表し、R及びRの少なくとも一方は炭素数6〜12の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基である。]
【化3】


[式(2)中、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を表し、R及びRの少なくとも一方は炭素数13〜18の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基である。]
【0019】
及びRの直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基としては、具体的には、直鎖ヘキシル基、直鎖ヘキセニル基、直鎖ヘプチル基、直鎖ヘプテニル基、直鎖オクチル基、直鎖オクテニル基、直鎖ノニル基、直鎖ノネニル基、直鎖デシル基、直鎖デセニル基、直鎖ウンデシル基、直鎖ウンデセニル基、直鎖ドデシル基、直酸ドデセニル基、また、R及びRのアルキル基又は直鎖アルケニル基としては、具体的には、直鎖トリデシル基、直鎖トリデセニル基、直鎖テトラデシル基、直鎖テトラデセニル基、直鎖ペンタデシル基、直鎖ペンタデセニル基、直鎖ヘキサデシル基、直鎖ヘキサデセニル基、直鎖ヘプタデシル基、直鎖ヘプタデセニル基、直鎖オクタデシル基、直鎖オクタデセニル基、オレイル基等が挙げられる。
【0020】
本発明で用いられる(A)酸性リン酸エステルには、上記一般式(1)中のR及びR、あるいは上記一般式(2)中のR及びRのうち一方が水素原子であり、他方が直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基である化合物(リン酸モノエステル)、並びにR及びRあるいはR及びRの双方が直鎖アルキル基及び/又は直鎖アルケニル基である化合物(リン酸ジエステル)が包含される。本発明では、リン酸モノエステル又はリン酸ジエステルの一方を単独で用いてもよく、あるいはリン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの混合物を用いてもよいが、摩擦特性の点からは、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの混合物を用いることが好ましい。混合物を用いる場合、リン酸モノエステル/リン酸ジエステルの混合比はモル比で10/90〜90/10であることが好ましく、20/80〜80/20であることがより好ましく、30/70〜70/30であることが更に好ましい。
【0021】
本発明の潤滑油組成物において、(A)酸性リン酸エステルの含有量は、組成物全量基準で0.01〜0.5質量%であり、低摩擦性能に一層優れる点から、組成物全量基準で、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。また、得られる潤滑油組成物の耐腐食性に一層優れる点から、酸性リン酸エステルの含有量は、組成物全量基準で、0.5質量%以下であり、好ましくは0.4質量%以下である。また、(A)成分のリン元素換算量での含有量は、(A)成分の分子量により異なるが、組成物全量基準で、リン元素換算量で、好ましくは0.0005〜0.06質量%、より好ましくは0.003〜0.06質量%、特に好ましくは0.005〜0.05質量である。
【0022】
本発明の潤滑油組成物において、(A)成分由来の酸価は0.1〜1.0mgKOH/gであり、0.1mgKOH/g未満であると、添加剤の摩擦低減効果が低いため好ましくなく、また、1.0mgKOH/gを超えるとしゅう動材料への腐食が増加することと、摩擦性能的には、長期にわたり低摩擦を維持できないために好ましくない。
【0023】
本発明における(B)成分は、下記一般式(3)で表されるアルキルアミンである。
【化4】

【0024】
式(3)中、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数4〜30の分岐鎖アルキル基であり、R及びRの少なくとも一方は分岐鎖アルキル基である。通常、式(3)で表されるアミンは、炭素数4〜30、好ましくは炭素数4〜20の分岐鎖アルキル基を1つ又は2つ以上有するモノアミン、ジアミン、ポリアミンのいずれであっても良いが、炭素数4〜20の分岐鎖アルキル基を有するモノアミンが好ましく、また、炭素数4〜20の分岐鎖アルキル基を2個有するモノアミンの2級アミンが好ましい。これらの分岐鎖アルキル基の中でも、(A)成分と混合した場合の低温貯蔵安定性、切削油が混入した場合の低摩擦性能に優れる点から、これら分岐鎖アルキル基の炭素数は6以上であることがより好ましい。また、潤滑油基油に対する溶解性の点からは、これら分岐鎖アルキル基の炭素数は、20以下であることが好ましく、16以下であることがより好ましく、14以下であることがさらに好ましい。
【0025】
上記の好ましい炭素数4〜20の分岐鎖アルキル基としては、具体的には、イソブチル基、イソペンチル基、イソヘキシル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、イソウンデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基、イソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基、イソオクタデシル基、イソノナデシル基、イソイコシル基等の分岐鎖アルキル基が挙げられる。
【0026】
本発明の潤滑油組成物において、(B)アルキルアミンの含有量は、組成物全量基準で0.01〜2質量%であり、(A)成分と混合した場合の耐腐食性に一層優れる点から、組成物全量基準で、好ましくは0.05質量%以上、特に好ましくは0.1質量%以上である。また、低温貯蔵安定性と、切削油が混入した場合の低摩擦性能に一層優れる点から、(B)成分の含有量は、組成物全量基準で、2質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下である。また、(B)成分の窒素元素換算量での含有量は、(B)成分の分子量により異なるが、組成物全量基準で、窒素元素換算量で、好ましくは0.0002〜0.4質量%、より好ましくは0.001〜0.2質量%、特に好ましくは0.002〜0.1質量%である。
【0027】
なお、本発明の潤滑油組成物において、(A)成分と(B)成分の最適な組合せとしては、炭素数6〜18の直鎖アルキル基を有する酸性リン酸エステルと炭素数4〜30の分岐鎖アルキル基を有するアミンとの組合せであり、特に、モノn−オクチルアシッドホスフェート及び/又はジn−オクチルアシッドホスフェートあるいはモノオレイルアシッドホスフェート及び/又はジオレイルアシッドホスフェートと、ジ2−エチルヘキシルアミン及び/又はジイソトリデシルアミンの組合せが最も好ましい。
【0028】
本発明の潤滑油組成物は、上記構成の(A)成分及び(B)成分を含有することにより、あるいは、潤滑油基油と上記構成の(A)成分及び(B)成分からなる構成により、低摩擦性、低温貯蔵安定性に優れ、かつ切削液が混入した場合においても当初の低摩擦性を著しく悪化させることなく、加工精度を維持することが可能であるが、さらに、耐腐食性能に優れ、摩擦係数をより低く維持することができ、加工精度を長期に渡り維持し得る点で、硫黄系化合物を含有させることが好ましい。
【0029】
本発明の(C)成分は、硫黄化合物である。(C)成分の硫黄化合物としては、分子内に硫黄原子を有し、潤滑油基油に溶解または均一に分散して、潤滑油組成物が極圧性や優れた摩擦特性を発揮し得るものであればよい。
【0030】
(C)成分の硫黄化合物としては、例えば硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チアジアゾール化合物、アルキルチオカルバモイル化合物、チオカーバメート化合物、チオテルペン化合物、ジアルキルチオジプロピオネート化合物などを挙げることができる。このような化合物を単独で用いてもよく、2種類以上の混合物として用いてもよい。
【0031】
ここで、硫化油脂は、硫黄や硫黄含有化合物と油脂(ラード油、鯨油、植物油、魚油等)を反応させて得られるものであり、その硫黄含有量は特に制限はないが、一般に5〜30質量%のものが好適である。その具体例としては、硫化ラード、硫化なたね油、硫化ひまし油、硫化大豆油、硫化米ぬか油およびこれらの混合物などを挙げることができる。
【0032】
硫化脂肪酸の例としては、硫化オレイン酸などを、硫化エステルの例としては、硫化オレイン酸メチルや硫化米ぬか脂肪酸オクチルおよびこれらの混合物などを挙げることができる。
【0033】
硫化オレフィンとしては、例えば、下記の一般式(4):
−S−R (4)
[式(4)中、Rは炭素数2〜15のアルケニル基、Rは炭素数2〜15のアルキル基またはアルケニル基を示し、aは1〜8の整数を示す]
で表される化合物などを挙げることができる。この化合物は、炭素数2〜15のオレフィンまたはその二〜四量体を、硫黄、塩化硫黄等の硫化剤と反応させることによって得られ、該オレフィンとしては、プロピレン、イソブテン、ジイソブテンなどが好ましい。
【0034】
また、ジヒドロカルビルポリサルファイドは、下記の一般式(5):
−S−R10 (5)
[式(5)中、RおよびR10は、それぞれ炭素数1〜20のアルキル基または環状アルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアルキルアリール基または炭素数7〜20のアリールアルキル基を示し、それらは互いに同一でも異なっていてもよく、bは1〜8の整数を示す]
で表される化合物である。ここで、RおよびR10がアルキル基の場合、硫化アルキルと称される。
【0035】
上記一般式(5)におけるRおよびR10の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ドデシル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基、フェネチル基などを挙げることができる。
【0036】
このジヒドロカルビルポリサルファイドとしては、例えば、ジベンジルポリサルファイド、各種ジノニルポリサルファイド、各種ジドデシルポリサルファイド、各種ジブチルポリサルファイド、各種ジオクチルポリサルファイド、ジフェニルポリサルファイド、ジシクロヘキシルポリサルファイドおよびこれらの混合物などを好ましく挙げることができる。
【0037】
チアジアゾール化合物としては、例えば、下記一般式(6)、(7)および(8):
【化5】


[式中、R11およびR12は、それぞれ水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基を示し、cおよびdは、それぞれ0〜8の整数を示す)
で表される1,3,4−チアジアゾール、1,2,4−チアジアゾール化合物、1,4,5−チアジアゾールなどが好ましく用いられる。このようなチアジアゾール化合物の具体例としては、2,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、4,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,2,3−チアジアゾールおよびこれらの混合物などを好ましく挙げることができる。
【0038】
アルキルチオカルバモイル化合物としては、例えば、下記一般式(9):
【化6】


[式中、R13〜R16は、それぞれ炭素数1〜20のアルキル基を示し、eは1〜8の整数を示す]
で表される化合物が挙げられる。このようなアルキルチオカルバモイル化合物の具体例としては、ビス(ジメチルチオカルバモイル)モノスルフィド、ビス(ジブチルチオカルバモイル)モノスルフィド、ビス(ジメチルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジブチルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジアミルチオカルバモイル)ジスルフィド、ビス(ジオクチルチオカルバモイル)ジスルフィドおよびこれらの混合物などを好ましく挙げることができる。
【0039】
アルキルチオカーバメート化合物としては、例えば、下記一般式(10):
【化7】


[式中、R13〜R16は、それぞれ炭素数1〜20のアルキル基を示し、R17は炭素数1〜10のアルキル基を示す]
で示される化合物が挙げられる。このようなアルキルチオカーバメート化合物の具体例としては、メチレンビス(ジブチルジチオカーバメート)、メチレンビス[ジ(2−エチルヘキシル)ジチオカーバメート]などを好ましく挙げることができる。
【0040】
さらに、チオテルペン化合物としては、例えば、五硫化リンとピネンの反応物を、ジアルキルチオジプロピオネート化合物としては、例えば、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネートおよびこれらの混合物などを挙げることができる。
【0041】
本発明の潤滑油組成物において、(C)成分の含有量は、得られる潤滑油組成物の摩擦特性の点から、組成物全量基準で0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらにより好ましい。また、得られる潤滑油組成物が水溶性切削液との分離性により優れること、それ以上含有させてもさらなる摩擦特性の向上は期待できない場合があることなどから、(C)成分の含有量は組成物全量基準で5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらにより好ましい。
【0042】
本発明の潤滑油組成物には、さらにその性能を高めるために、あるいは各種用途の潤滑油組成物、特に工作機械の摺動面用潤滑油組成物として必要な性能を付与するために潤滑油分野において公知の添加剤を配合することができる。
【0043】
かかる添加剤としては、例えば、1価アルコール又は多価アルコール、1塩基酸又は多塩基酸、前記アルコールと前記酸とのエステル、本願請求項1以外のアミン、アルカノールアミン等のアミン化合物等の油性剤、ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ビスフェノールA等のフェノール系化合物、フェニル−α−ナフチルアミン、N,N’−ジ(2−ナフチル)−p−フェニレンジアミン等のアミン系化合物等の酸化防止剤;ベンゾトリアゾールやアルキルチアジアゾール等の金属不活性化剤;シリコーン油、フルオロシリコン油等の消泡剤;酸性リン酸エステル以外のリン系添加剤(正リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性(亜)リン酸エステルのアミン塩など);カルボン酸等の油性剤;アルケニルコハク酸、ソルビタンモノオレート等のさび止め添加剤;ポリメタクリレート等の流動点降下剤;ポリメタクリレート、ポリブテン、ポリアルキルスチレン、オレフィンコポリマー、スチレン−ジエンコポリマー、スチレン−無水マレイン酸コポリマー等の粘度指数向上剤などが挙げられる。
【0044】
上記構成を有する本発明の潤滑油組成物は、低摩擦性能、低温貯蔵安定性に優れ、かつ切削液が混入した場合においても当初の低摩擦性を著しく悪化させることのないものであり、さらには耐腐食性にも優れる。従って、低摩擦性、低温貯蔵安定性及び耐腐食性の要求される潤滑油分野の様々な用途で好適に使用される。中でも、工作機械等のすべり案内面(摺動面)用の潤滑油として使用した場合に、本発明の効果がより一層発揮される。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
[実施例1〜8、比較例1〜4]
表1、2の各例に示すような組成を有する各種の本発明に係る潤滑油組成物及び比較例1〜4に示すような比較のための潤滑油組成物をそれぞれ調製した。各組成物の調製に用いた成分は、以下のとおりである。なお、本発明でいう粘度指数とは、JIS K 2283−1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。また、飽和炭化水素成分含有量とは、Analytical Chemistry第44巻第6号(1972)第915〜919頁“Separation of High−Boiling Petroleum Distillates Using Gradient Elution Through Dual−Packed(Silica Gel−Alumina Gel) Adsorption Columns”に記載されたシリカ−アルミナゲルクロマト分析法に準拠し、但し、この方法において飽和炭化水素成分の溶出に使用されるn−ペンタンの代わりにn−へキサンを使用する方法により分取される飽和炭化水素成分の試料全量に対する質量百分率を意味する。
潤滑油基油:
基油1:(粘度指数:101、硫黄分:0.51質量%、飽和炭化水素分:65.6容量%、40℃における動粘度:68.7mm/s、引火点:248℃、15℃における密度:0.882g/cm
(A)酸性リン酸エステル:
A1:モノn-オクチルアシッドホスフェートとジn-オクチルアシッドホスフェートの混合物(リン含有量:11.6質量%)
A2:モノオレイルアシッドホスフェートとジオレイルアシッドホスフェートの混合物(リン含有量:6.6質量%)
A3:モノn−ヘキシルアシッドホスフェート(リン含有量:17 質量%)
A4:モノ2−エチルヘキシルアシッドホスフェートとジ2−エチルヘキシルアシッドホスフェートの混合物(リン含有量:12.0質量%)
(B)アルキルアミン:
B1:ジ2−エチルヘキシルアミン
B2:ジイソトリデシルアミン
B3:2−エチルヘキシルアミン
B4:オレイルアミン
(C)硫黄化合物:
C1:ポリサルファイド(硫黄含有量:22.0質量%)
C2:硫化油脂(硫黄含有量: 11.4質量%)。
【0047】
次に、実施例1〜8及び比較例1〜4の各潤滑油組成物について以下の試験を行った。
【0048】
(摩擦特性評価試験)
図1は摩擦特性評価試験に用いた摩擦係数測定システムを示す概略構成図である。図1中、ベッド6上にはロードセル5を介して連結されたテーブル1及び可動治具4が配置されており、さらにテーブル1上には、加工工具の代用物としての重鎮9が配置されている。テーブル1及びベッド6はいずれも鋳鉄からなるものである。また、可動治具4は軸受部を有するもので、当該軸受部は送りネジ3を介してA/Cサーボモータ2に連結されている。A/Cサーボメータ2により送りネジ3を動作させることで、可動治具4を送りネジ3の軸方向(図中の矢印方向)に往復運動させることができる。さらに、ロードセル5はコンピュータ7と、コンピュータ7及びA/Cサーボメータ2はそれぞれ制御板8と電気的に接続されており、これにより可動治具4の往復運動の制御及びテーブル1と可動治具4との間の荷重の測定を行うことができる。
このような摩擦係数測定システムにおいて、ベッド6の上面に潤滑油組成物を滴下し、テーブル重鎮9の選定によりテーブル1とベッド6との間を面圧200kPaに調整した後、送り速度0.1mm/min、送り長さ15mmで可動治具4を往復運動させた。このときのテーブル1と可動治具4との間の荷重をロードセル5(荷重計)により測定し、得られた測定値に基づいて案内面(テーブル1/ベッド6=鋳鉄/鋳鉄)の摩擦係数を求めた。なお、上記試験は慣らし運転を3回行った後に行った。各潤滑油組成物の摩擦係数を表1、2に示す。
【0049】
(切削油混入時の摩擦特性評価試験)
潤滑油組成物500mLと水溶性切削液(エマルション型切削液、新日本石油(株)製、JISK2241「切削油剤」のW1種1号相当品、希釈率10倍)25mLとを1000mLビーカーに採取した。ビーカー中で、室温にて1分間磁気性回転子を用いて緩やかに撹拌した。撹拌後1時間静置し上層を測定試料とした。前記摩擦特性評価試験を行った結果を表1、2に示す。切削油混入時の摩擦係数が、0.110を越えた場合は許容範囲外(×)、0.110以下であれば許容範囲内(○)、0.09以下であれば極めて優れるもの(◎)として判定した。
【0050】
(切削液混入時のリン残存率)
潤滑油組成物500mLと水溶性切削液(エマルション型切削液、新日本石油(株)製、JISK2241「切削油剤」のW1種1号相当品、希釈率10倍)25mLとを1000mLビーカーに採取した。ビーカー中で、室温にて1分間磁気性回転子を用いて緩やかに撹拌した。撹拌後1時間静置し上層(油層)を測定試料として用い、社団法人石油学会のJPI試験法5S−38−03「潤滑油-添加元素試験方法-誘導結合プラズマ発光分光分析法」に基づきP分の定量分析を行った。(試験前のリン分/試験後のリン分)X100を算出して、リン残存率(%)とした。得られた結果を表1、2に示す。
【0051】
(切削液混入時の耐腐食性試験)
潤滑油組成物500mLと水溶性切削液(エマルション型切削液、新日本石油(株)製、JISK2241「切削油剤」のW1種1号相当品、希釈率10倍)25mLとを1000mLビーカーに採取した。ビーカー中で室温において1分間、磁気性回転子を用いて緩やかに撹拌した。撹拌後1時間静置し測定試料として用い、ガラス製ビーカーに200ml採取し、メタノールにより脱脂した7cm四方のSPC材(厚さ0.2mm、80番ダル仕上げ)を容器内に常温で浸漬した。20日経過後の試片を溶剤で洗浄した後、外観を目視により観察し気液境界における変色の有無により耐腐食性を評価した。評価基準は以下の通りである。得られた結果を表1、2に示す。
○:変色なし
△:やや変色する傾向あり
×:明らかに変色あり
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
表1、2に示した結果から明らかなように、実施例1〜8の潤滑油組成物は、比較例1〜4の組成物に比較して、低摩擦性能(低摩擦係数)であり、切削油混入時にも低摩擦性能を維持でき、耐腐食性も満足できる性能を兼ね備えていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例で用いた摩擦係数測定システムを示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0056】
1…テーブル、2…A/Cサーボメータ、3…送りネジ、4…可動治具、5…ロードセル、6…ベッド、7…コンピュータ、8…制御盤、9…重鎮。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油、並びに、
組成物全量基準で、(A)下記一般式(1)又は下記一般式(2)に示す酸性リン酸エステルの中から選ばれる少なくとも1種0.01〜0.5質量%と、(B)下記一般式(3)に示すアルキルアミン0.01〜2質量%と、の混合物及び/又は反応物
を含有し、前記(A)成分に由来する酸価が0.1〜1.0mgKOH/gであることを特徴とする潤滑油組成物。
【化1】


[式(1)中、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を表し、R及びRの少なくとも一方は炭素数6〜12の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基であり;
式(2)中、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を表し、R及びRの少なくとも一方は炭素数13〜18の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基であり;
式中、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数4〜30の分岐鎖アルキル基を表し、R及びRの少なくとも一方は分岐鎖アルキル基である。]
【請求項2】
組成物全量基準で、(C)硫黄化合物0.01〜5質量%を更に含有することを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
工作機械に用いられることを特徴とする請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。



【図1】
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【公開番号】特開2009−235266(P2009−235266A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84307(P2008−84307)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】