説明

潤滑油組成物

【課題】ジチオリン酸亜鉛を潤滑油中に安定に溶解もしくは分散させた潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】組成物の全質量を基準として、(A)Zn換算で、1.5〜4.0重量%の下記式(1)で表される1種以上のジチオリン酸亜鉛、
(B)Ca換算で、0.2〜0.8重量%のカルシウムスルホネート、
(C)Ba換算で、0.15〜0.4重量%のバリウムスルホネート、及び
(D)基油
を含有する潤滑油組成物。


(式中、R1、R2、R3およびR4は、各々同一でも異なってもよく、それぞれ独立して、炭素数3〜12の第一級または第二級アルキル基、または炭素数6〜12のアリール基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジチオリン酸亜鉛(以下ZnDTPと表記する)を含有する、金属の塑性加工に有用な潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ZnDTPは、酸化防止能,腐食防止能,耐荷重性能,摩耗防止能等を有し,いわゆる多機能型添加剤として自動車のエンジンオイルなどに広く使用されているが、その要求性能から配合量は少ない。従って、油中でのZnDTPの溶解状態ないし分散状態は特に問題となっていない。
これに対し、金属、特に鋼管、非鉄管、線材及び条の塑性加工は、圧延、鍛造、引き抜き又は冷けん加工により行われるが、塑性加工時、金属材料と該金属材料に力を加えるためのロール等との間で過酷な摩擦状態となるために、エンジンオイルなどに比べ、金属の塑性加工に用いる潤滑油中には、ZnDTPを多く配合する必要がある(特許文献1〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許3947936号公報
【特許文献2】特開昭51−47902号公報
【特許文献3】特公昭48−037251号公報
【特許文献4】特開昭47−032005号公報
【特許文献5】特開平10−045771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ZnDTPは潤滑油基油への溶解性が悪く、グリースや高粘度ポリマー等に分散させることはできても、油中に溶解もしくは分散させることは困難である。
従って、本発明は、ZnDTPを潤滑油中に安定に溶解もしくは分散させた潤滑油組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明により、以下の潤滑油組成物を提供する:
1.成分(A):組成物の全質量を基準として、亜鉛換算で、1.5〜4.0重量%の下記式(1)で表される1種以上のジチオリン酸亜鉛、
成分(B):組成物の全質量を基準として、カルシウム換算で、0.2〜0.8重量%のカルシウムスルホネート、
成分(C):組成物の全質量を基準として、バリウム換算で、0.15〜0.4重量%のバリウムスルホネート、及び
成分(D):基油
を含有する潤滑油組成物。
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、R1、R2、R3およびR4は、各々同一でも異なってもよく、それぞれ独立して、炭素数3〜12の第一級または第二級アルキル基、または炭素数6〜12のアリール基を示す。)
2.成分(A)が、下記(A1)及び(A2):
(A1)式中、R1〜R4が、それぞれ独立して、炭素数3〜5の第一級または第二級アルキル基である式(1)のジチオリン酸亜鉛と、
式中、R1〜R4が、それぞれ独立して、炭素数6〜12のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基である式(1)のジチオリン酸亜鉛との混合物;及び
(A2)式中、R1〜R4の少なくとも一つが、炭素数3〜5の第一級または第二級アルキル基であり、R1〜R4の少なくとも一つが、炭素数6〜12のアルキル基または炭素数6〜12のアリール基である式(1)のジチオリン酸亜鉛;
からなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記1項に記載の潤滑油組成物。
3.R1〜R4が、式(1)のジチオリン酸亜鉛のR1〜R4の合計を基準として、炭素数3〜5の基が30〜95モル%、かつ、炭素数6〜12の基が5〜70モル%である、前記1又は2項に記載の潤滑油組成物。
4.成分(B)が、全塩基価が100以上500未満(mgKOH/g)のカルシウムスルホネートである前記1〜3のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
5.成分(C)が、全塩基価が0.1〜50(mgKOH/g)のバリウムスルホネートである前記1〜4のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
6.金属の塑性加工用の潤滑油である前記1〜5のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
7.金属材料と工具との間に前記1〜5のいずれか1項記載の潤滑油を供給する工程を含む、金属の塑性加工方法。
8.金属材料と工具との間に前記1〜5のいずれか1項記載の潤滑油を供給することにより塑性加工された金属製品。
【発明の効果】
【0008】
潤滑油中に安定に溶解もしくは分散させた本発明の組成物は原液安定性が良好である。しかも、耐摩耗性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
成分(A):ZnDTP
本発明で用いるZnDTPは、下記式(1)で表される:
【0010】
【化2】

【0011】
式中、R1、R2、R3およびR4は、各々同一でも異なってもよく、それぞれ独立して、炭素数3〜12、好ましくは4〜8の第一級または第二級アルキル基、好ましくは第一級アルキル基;炭素数6〜12、好ましくは6〜8のアリール基を示す。
なお、本明細書中、「アルキル基」とは、無置換アルキル基をいう。「アリール基」とは、無置換及び置換アリール基をいう。アリール基の置換基としては、炭素数1〜6の直鎖又は分岐アルキル基があげられる。
【0012】
成分(A)としては、式中全てのR1〜R4が同一であるZnDTPよりは、R1〜R4の少なくとも一つが残りの基と異なるのが好ましい。
(A1)式中、R1〜R4が、それぞれ独立して、炭素数3〜5、好ましくは4〜5の第一級または第二級アルキル基、好ましくは第一級アルキル基である式(1)のジチオリン酸亜鉛と、
式中、R1〜R4が、それぞれ独立して、炭素数6〜12、好ましくは6〜8の第一級または第二級アルキル基、好ましくは第一級アルキル基又は炭素数6〜12、好ましくは6〜8のアリール基である式(1)のジチオリン酸亜鉛との混合物;及び
(A2)式中、R1〜R4の少なくとも一つが、炭素数3〜5、好ましくは4〜5の第一級または第二級アルキル基、好ましくは第一級アルキル基であり、R1〜R4の少なくとも一つが、炭素数6〜12、好ましくは6〜8の第一級または第二級アルキル基、好ましくは第一級アルキル基または炭素数6〜12、好ましくは6〜8のアリール基である式(1)のジチオリン酸亜鉛
が好ましい。
【0013】
炭化水素基R1〜R4は、ZnDTPのR1〜R4の合計を基準として、炭素数3〜5の基が30〜95モル%、かつ、炭素数6〜12の基が5〜70モル%であるのが好ましい。炭素数3〜5の基が80〜95モル%、かつ、炭素数6〜12の基が5〜20モル%であるのがより好ましい。炭素数3〜5の基と炭素数6〜12の基の割合がこのような範囲にあると、良好な耐摩耗性能を発揮でき、ZnDTPの基油からの分離が抑制され、満足のいく潤滑効果が発揮される。
【0014】
(A1)のうち、式中、R1〜R4が、それぞれ独立して、炭素数3〜5の第一級または第二級アルキル基である式(1)のジチオリン酸亜鉛としては、商業的に入手できるものを使用することもできるし、公知の方法により、炭素数3〜5のアルコール類から製造することもできる。公知の方法は、例えば、特公昭48−037251号公報、特開昭47−032005号公報又は特開平10−045771号公報に記載されている。
式中、R1〜R4が、それぞれ独立して、炭素数6〜12のアルキル基又は炭素数6〜12アリール基である式(1)のジチオリン酸亜鉛としては、商業的に入手できるものを使用することもできるし、公知の方法により、炭素数6〜12のアルコール類又は炭素数6〜12のフェノール類から製造することもできる。公知の方法は、例えば、特公昭48−037251号公報、特開昭47−032005号公報又は特開平10−045771号公報に記載されている。
(A2)としては、商業的に入手できるものを使用することもできるし、公知の方法により、炭素数3〜5のアルコール類と炭素数6〜12のアルコール類又は炭素数6〜12のフェノール類とから製造することもできる。公知の方法は、例えば、特公昭48−037251号公報、特開昭47−032005号公報又は特開平10−045771号公報に記載されている。
【0015】
ZnDTPの添加量は、組成物の全質量を基準として、亜鉛換算で1.3重量%〜4.0重量%、好ましくは1.5質量%〜3.5質量%の範囲である。この範囲より少なすぎると潤滑性の効果が発揮されず、この範囲より多すぎるとカルシウムスルホネートを添加しても基油とZnDTPとが分離し、原液安定性に問題が生じる恐れがあるため好ましくない。
【0016】
成分(B):カルシウムスルホネート
カルシウムスルホネートは、潤滑油組成物に通常使用されているものであれば、特に制限なく用いることができる。具体的には、親油基である有機基を有するスルホン酸のカルシウム塩を使用することができる。このような有機スルホン酸としては、潤滑油留分中の芳香族炭化水素成分のスルホン化によって得られる石油スルホン酸とジノニルナフタレンスルホン酸や重質アルキルベンゼンスルホン酸のような合成スルホン酸等が挙げられる。このうち、全塩基価(TBN、単位mgKOH/g)が100以上500未満のカルシウムスルホネートが好ましい。なお、本明細書において、TBNは、JIS K−2501に記載の方法により測定した値をいう。
カルシウムスルホネートの添加量は、組成物の全質量を基準として、カルシウム換算で0.2質量%〜0.8質量%、好ましくは0.3質量%〜0.8質量%の範囲である。この範囲より少なすぎると目的のZnDTPの分散効果が充分でなく、この範囲より多すぎるとカルシウムスルホネートとZnDTPが反応して沈殿物が発生する可能性がある。
【0017】
成分(C):バリウムスルホネート
バリウムスルホネートは、潤滑油組成物に通常使用されているものであれば、特に制限なく用いることができる。具体的には、親油基である有機基を有するスルホン酸のバリウム塩を使用することができる。有機スルホン酸としては、カルシウムスルホネートについて述べたものを使用することができる。このうち、TBNが0.1〜50のバリウムスルホネートが好ましく、TBNが0.1〜20のバリウムスルホネートがより好ましい。
バリウムスルホネートの添加量は、組成物の全質量を基準として、バリウム換算で0.15質量%〜0.4質量%、好ましくは0.2質量%〜0.4質量%の範囲である。この範囲より少なすぎると目的のZnDTPの分散効果が充分でなく、この範囲より多すぎるとバリウムスルホネートとZnDTPが反応して沈殿物が発生する可能性がある。
【0018】
成分(D):基油
基油としては、鉱油、合成油の種類を問わず、単独・混合の別を問わずあらゆる潤滑油基油が使用可能である。
鉱油としては、パラフィン系、ナフテン系いずれも使用できる。パラフィン系が好ましい。
合成油の例としては、ジエステル油、ポリオールエステル油に代表されるエステル系合成油、ポリαオレフィン、ポリブテンに代表される合成炭化水素油、アルキルジフェニルエーテル、ポリプロピレングリコールに代表されるエーテル系合成油、パーフロロアルキルポリエーテル油に代表されるフッ素系合成油などが挙げられる。合成炭化水素油が好ましい。特にポリブテンが好ましい。
基油としては、鉱油と合成油との混合油が好ましい。鉱油と合成炭化水素油との混合油がより好ましい。パラフィン系鉱油とポリブデンとの混合油が最も好ましい。混合比(質量比)は、鉱油:合成油=2:8〜8:2が好ましい。
【0019】
〔その他添加剤〕
本発明の作用を阻害しない限り、潤滑油組成物に通常含まれる添加剤を、必要に応じて使用できる。具体的には、酸化防止剤、防錆剤、油性剤、極圧剤などがあげられる。これらの添加量は通常0.01〜10質量%である。
本発明の組成物のTBNは、5〜25であるのが好ましく、10〜25であるのがより好ましい。TBNがこのような範囲だと、ZnDTPの分散効果が充分であるので好ましい。
本発明の潤滑油組成物は、金属、特に鋼管、非鉄管、線材及び条の塑性加工に好適に用いることができる。塑性加工は、圧延、鍛造、引き抜き又は冷けん加工、好ましくは冷間もしくは温間鍛造、冷間引き抜き、冷けん加工により行なうことができる。
【実施例】
【0020】
試験した潤滑油組成物の内容を表1〜表8に示す。潤滑油組成物は、表に記載した質量比率で混合し、油剤組成物を調製した。潤滑油組成物を調製するのに用いた成分は以下のとおりである。
・成分(A)ZnDTP
A1(Zn含有量:9.0質量%、炭化水素基:C4(63モル%),C5(26モル%),C8(11モル%)、いずれも第一級アルキル基)
A2(Zn含有量:7.8質量%、式(1)中、R1〜R4=C8第一級アルキル基)
A3(Zn含有量:9.3質量%、式(1)中、R1〜R4=C6第二級アルキル基)
A4(Zn含有量:10.6質量%、式(1)中、R1〜R4=C4(70モル%)及びC5(30モル%)、いずれも第一級アルキル基)
なお、A1及びA4中の炭素数のモル%は、HPLC(使用カラム:ジーエルサイエンス株式会社製Inertsil ODS−3、溶離液:水/エタノール=10/90(v/v)、流量:1ml/min)により測定した。
【0021】
・成分(B)カルシウムスルホネート
B1(Ca含有量:5.6質量%、TBN:150mgKOH/g、スルホン酸部分:長鎖アルキルアリールスルホン酸、(RC6H4SO3)2Ca)
B2(Ca含有量:15.3質量%、TBN:400mgKOH/g、スルホン酸部分:長鎖アルキルアリールスルホン酸、(RC6H4SO3)2Ca)
【0022】
・成分(C)バリウムスルホネート
C1(Ba含有量:7.0%、TBN:3mgKOH/g、スルホン酸部分:長鎖アルキルアリールスルホン酸、(RC6H4SO3)2Ba)
・成分(D)基油
パラフィン系鉱油とポリブテンとの混合油(鉱油:ポリブテン=7:3(質量比))
表中、ZnDTP、カルシウムスルホネート及びバリウムスルホネートの欄に記載の数値は「質量部」を表す。
【0023】
<試験方法>
・原液安定性
試験品の潤滑油50gをガラス製容器に取り、−5℃、25℃、50℃の恒温槽で1週間静置した。
評価方法:1週間後の潤滑油の状態を次の判定基準で目視により判定した。
○:沈殿物の発生なく安定に分散もしくは溶解している
×:容器の底部に沈殿物の発生あり
【0024】
・潤滑試験
バウデン式すべり試験を行なった。
試験条件
試験片:SPCC−SD
試験鋼球:SUJ2(3/16インチ)
試験温度:200℃
荷重:29.4N
しゅう動距離:8mm
しゅう動速度:4mm/s
しゅう動回数:50回
評価方法:試験後のしゅう動面の摩耗痕幅を次の判定基準で評価した
○:摩耗痕幅が530μm以下
△:摩耗痕幅が530μmより大きく、535μm以下
□:摩耗痕幅が535μmより大きく、540μm以下
×:摩耗痕幅が540μmより大きい
尚、原液安定性が不良のもの(上記原液安定性の判定基準で「×」を示したもの)については潤滑試験を行っていない(表中「−」で示す)。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
【表4】

【0029】
【表5】

【0030】
【表6】

【0031】
【表7】

【0032】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A):組成物の全質量を基準として、亜鉛換算で、1.5〜4.0重量%の下記式(1)で表される1種以上のジチオリン酸亜鉛、
成分(B):組成物の全質量を基準として、カルシウム換算で、0.2〜0.8重量%のカルシウムスルホネート、
成分(C):組成物の全質量を基準として、バリウム換算で、0.15〜0.4重量%のバリウムスルホネート、及び
成分(D):基油
を含有する潤滑油組成物。
【化1】

(式中、R1、R2、R3およびR4は、各々同一でも異なってもよく、それぞれ独立して、炭素数3〜12の第一級または第二級アルキル基、または炭素数6〜12のアリール基を示す。)
【請求項2】
成分(A)が、下記(A1)及び(A2):
(A1)式中、R1〜R4が、それぞれ独立して、炭素数3〜5の第一級または第二級アルキル基である式(1)のジチオリン酸亜鉛と、
式中、R1〜R4が、それぞれ独立して、炭素数6〜12のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基である式(1)のジチオリン酸亜鉛との混合物;及び
(A2)式中、R1〜R4の少なくとも一つが、炭素数3〜5の第一級または第二級アルキル基であり、R1〜R4の少なくとも一つが、炭素数6〜12のアルキル基または炭素数6〜12のアリール基である式(1)のジチオリン酸亜鉛;
からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
1〜R4が、式(1)のジチオリン酸亜鉛のR1〜R4の合計を基準として、炭素数3〜5の基が30〜95モル%、かつ、炭素数6〜12の基が5〜70モル%である、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
成分(B)が、全塩基価が100以上500未満(mgKOH/g)のカルシウムスルホネートである請求項1〜3のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
成分(C)が、全塩基価が0.1〜50(mgKOH/g)のバリウムスルホネートである請求項1〜4のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
金属の塑性加工用の潤滑油である請求項1〜5のいずれか1項記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
金属材料と工具との間に請求項1〜5のいずれか1項記載の潤滑油を供給する工程を含む、金属の塑性加工方法。
【請求項8】
金属材料と工具との間に請求項1〜5のいずれか1項記載の潤滑油を供給することにより塑性加工された金属製品。

【公開番号】特開2012−97156(P2012−97156A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244123(P2010−244123)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【Fターム(参考)】