説明

潤滑組成物

【課題】 亜鉛ジアルキルジチオホスフェート磨耗防止剤を本質的に含まない潤滑剤組成物を提供する。
【解決手段】 多量の基油;およびヒドロカルビルカルボニル化合物とグアニジン、ウレア、およびチオウレアから選択されるアミン化合物との鉛腐食防止量の反応生成物を含んでなり、但し潤滑剤が亜鉛ジアルキルジチオホスフェート磨耗防止剤を本質的に含まず、かつ、塩素化パラフィンおよびカルシウムマンニッヒフェネートを本質的に含まない潤滑剤組成物が見出された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、添加物および潤滑剤組成物と、これらを使用するための方法に関する。特に、本発明は、ヒドロカルビルカルボニル化合物と、グアニジン、ウレア、およびチオウレアから選択されるアミン化合物の反応生成物を含む添加物組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛および鉛合金は、多くのタイプのエンジンおよび他のマシンにおける使用で知られている。例えば、鉛合金は、スパーク点火式およびジーゼルエンジンとも呼ばれている圧縮点火式内燃機関で使用される主要なベアリングを含め多くの用途で使用されるベアリングにおける使用で知られている。
【0003】
鉛含有エンジンで使用される潤滑剤は、望ましくない鉛腐食を引き起こすということが観察されてきた。例えば、中速ジーゼルエンジン用の潤滑剤は、数1000馬力(例えば、2000から10,000馬力)が必要とされ、約100から1,200rpmの速度でしばしば運転される用途で使用される。この過酷な環境は、オイルの酸化を生じ、翻ってエンジン中に存在する鉛などの金属の腐食を生じる可能性がある。鉛腐食は、乗用車エンジン油、高速ジーゼルエンジン油、タービン油、自動変速機用流体、および多数の工業用潤滑剤を含む他の潤滑剤用途において問題である可能性もある。
【0004】
鉛腐食防止剤はこれらの潤滑剤配合物により引き起こされる鉛腐食の低減で知られているが、鉛腐食はなお問題である可能性がある。したがって、改善された鉛腐食保護をもたらすためには、当業界において新規な鉛腐食防止剤が望ましい。
【0005】
中速ジーゼルエンジンなどのいくつかのエンジンも銀ベアリングなどの銀部品を有する。このように、酸化に対する安定性と、スラッジおよび炭素質堆積物の形成に対する保護の提供とは別に、エンジン中の銀ベアリングがオイル中の添加物または長期のエンジン運転時に生成される分解生成物のいずれかによる攻撃を受けないように、中速ジーゼルエンジンでの使用に意図されている潤滑組成物は、特別な銀保護剤をしばしば配合される。このような試剤は、銀潤滑剤としばしば呼ばれるが、極圧、磨耗、および腐食に対する保護をもたらす。このような銀保護剤の例は(特許文献1)で開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,948,523号、David Hutchison
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
通常のエンジン潤滑組成物は、例えば清浄剤、分散剤、酸化防止剤、発泡防止剤、錆防止剤、極圧剤、および磨耗防止剤を含む。最も普通に使用される極圧および磨耗防止剤は、亜鉛ジアルキルジチオホスフェート(ZDDP)などのイオウ含有試剤である。しかしながら、イオウ含有剤は、銀ベアリングを損傷する既知の性向を考えると、銀部品を有するエンジン中で使用不能であるということが周知である。この認識済みの傾向は、例えば米国特許第4,428,850号で説明されている。このように、酸化保護をもたらすことができ、ある場合には、同時に鉛などの金属の腐食に対して保護をもたらす一方で、ZDDPなどのこれらの潜在的に損傷を与えるイオウを含有する極圧もしくは磨耗防止剤を本質的に含まない潤滑剤組成物を見出すことが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この開示によれば、本出願の一つの局面は、多量の基油;およびヒドロカルビルカルボニル化合物とグアニジン、ウレア、およびチオウレアから選択されるアミン化合物との鉛腐食防止量の反応生成物を含んでなり;但し潤滑剤が亜鉛ジアルキルジチオホスフェート磨耗防止剤を本質的に含まず、かつ、塩素化パラフィンおよびカルシウムマンニッヒフェネートを本質的に含まない潤滑剤組成物に関する。
【0009】
マシン中の鉛部品をヒドロカルビルカルボニル化合物とグアニジン、ウレア、およびチオウレアから選択される少量のアミン化合物の反応生成物を含む潤滑剤組成物と接触させることを含んでなり;
この反応生成物を含有しない同一の組成物と比較し、両方の組成物を同一のマシン運転条件下で同一の時間にわたって使用した場合、潤滑剤組成物が改善された鉛腐食保護をもたらす、マシンの鉛腐食保護を改善する方法である。
【0010】
本開示の更なる態様および利点は、次に続く説明において一部説明され、ならびに/もしくは本開示の実施により学習可能である。前出の一般的な説明と以下の詳細な説明が単に例示的および説明的なものであり、請求されているような本開示を制約するものでないということは理解されるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示は、一般に、多量の基油と、(i)ヒドロカルビルカルボニル化合物と(ii)グアニジン、ウレア、およびチオウレアから選択されるアミン化合物とを反応させることにより形成される少量の添加物化合物を含む潤滑剤組成物に関する。本出願の組成物は、減少した鉛腐食、減少した銅腐食、良好な酸化コントロール、良好な耐摩耗性、良好な分散性、および良好なシールポリマー適合性を含む1つ以上のメリットを潤滑剤組成物にもたらすことができる。
【0012】
この明細書中で使用される時、用語「多量」は、組成物の全重量に対して50重量%以上の、もしくはそれに等しい量、例えば約80から約98重量%の量を意味すると理解される。更には、この明細書中で使用される時、用語「少量」は、組成物の全重量に対して50重量%未満の量を意味すると理解される。
【0013】
ヒドロカルビルカルボニル化合物
本出願のヒドロカルビルカルボニル反応試剤化合物は、ヒドロカルビル部分とカルボニル部分を有し、アミン化合物と結合して、本出願の添加物化合物を形成する能力のあるいかなる好適な化合物であることもできる。好適なヒドロカルビルカルボニル化合物の非限定的な例は、限定ではないが、ヒドロカルビル置換コハク酸無水物、ヒドロカルビル置換コハク酸、およびヒドロカルビル置換コハク酸のエステルを含む。
【0014】
この明細書中で使用される時、用語「ヒドロカルビル基」または「ヒドロカルビル」は、当業者に周知の通常の意味で使用される。特に、これは、分子の残りに直接に結合し、主として炭化水素の性格を有する炭素原子を有する基を指す。ヒドロカルビル基の例は、(1)炭化水素置換基、すなわち、脂肪族(例えば、アルキルまたはアルケニル)、脂環式(例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル)置換基、および芳香族−、脂肪族−、および脂環式置換芳香族置換基、ならびに環が分子のもう一つの部分により完成される環状置換基(例えば、2個の置換基が一緒になって脂環式基を形成する);
(2)置換炭化水素置換基、すなわち、この明細書の説明の文脈において、主として炭化水素の置換基を変えない非炭化水素基を含む置換基[例えば、ハロ(特に、クロロおよびフルオロ)、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、およびスルホキシ];
(3)ヘテロ置換基、すなわち、主として炭化水素の性格を有するが、この説明の文脈において、炭素以外を炭素原子から構成される筈の環または鎖中に含む置換基
を含む。ヘテロ原子は、イオウ、酸素、窒素を含み、ピリジル、フリル、チエニル、およびイミダゾリルなどの置換基を包含する。一般に、2個以下の、もしくは更なる例として、1個以下の非炭化水素置換基がヒドロカルビル基中の10個の炭素原子毎に存在し;いくつかの態様においては、ヒドロカルビル基中に非炭化水素置換基は存在しない。
【0015】
ある局面においては、このヒドロカルビルカルボニル化合物は、式IV
【0016】
【化1】

【0017】
[式中、R14は、例えば約100から約10,000ダルトンの数平均分子量を有するポリオレフィン基などのヒドロカルビル部分である]のポリアルキレンコハク酸無水物反応試剤であることができる。例えば、R14の数平均分子量は、GPCにより測定して約1200から約3000など、約1000から約5000ダルトンの範囲であることができる。特記しない限り、この明細書中の分子量は数平均分子量である。
【0018】
ある局面においては、R14は、線状もしくは分岐のアルケニル単位から選択される1つ以上のポリマー単位を含むポリオレフィン基であることができる。ある局面においては、このアルケニル単位は約2から約10個の炭素原子を有することができる。例えば、このポリオレフィン基は、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンテン基、ヘキセン基、オクテン基、およびデセン基から選択される、1つ以上の線状もしくは分岐のポリマー単位を含んでなることができる。ある局面においては、R14は、例えばホモポリマー、コポリマーまたはターポリマーの形のポリオレフィン基であることができる。本開示の局面においては、R14基はポリイソブチレン基であることができる。R14ポリオレフィン基の形成に使用されるポリオレフィン化合物は、慣用のアルケンの接触的オリゴマー化などのいかなる好適な方法によっても形成可能である。
【0019】
更なる局面においては、ヒドロカルビル部分R14は、当業界で周知の方法でエチレンのオリゴマー化により製造される線状アルファオレフィンまたは酸で異性化されたアルファオレフィンから誘導可能である。これらのヒドロカルビル部分は、約8個の炭素原子から40個以上の炭素原子の範囲であることができる。例えば、このタイプのアルケニル部分は、線状C18またはC20−24アルファオレフィンの混合物から、もしくは酸で異性化されたC16アルファオレフィンから誘導可能である。
【0020】
ある局面においては、末端ビニリデン基を含む比較的高い比率のポリマー分子を有する高反応性のポリイソブテンを使用して、R14基を形成することができる。一つの例においては、約70%から約90%などの、少なくとも約60%のポリイソブテンが末端オレフィン型二重結合を含んでなる。高反応性ポリイソブテンに転換する一般的な傾向が業界に存在し、周知の高反応性ポリイソブテンが例えば参照により開示がこの明細書中に全体で組み込まれている、米国特許第4,152,499号で開示されている。
【0021】
ヒドロカルビルカルボニル化合物の具体的な例は、ドデセニルコハク酸無水物、C16−18アルケニルコハク酸無水物、およびポリイソブテニルコハク酸無水物(PIBSA)などの化合物を含む。ある態様においては、PIBSAは、約4%から約90%以上の範囲のビニリデン含量を含むポリイソブチレン部分を有し得る。ある態様においては、ヒドロカルビルカルボニル化合物中のヒドロカルビル部分の数に対するカルボニル基の数の比は、約1:1から約6:1の範囲であることができる。
【0022】
ヒドロカルビルカルボニル化合物は、いかなる好適な方法を用いても製造可能である。ヒドロカルビルカルボニル化合物を形成するための方法は当業界で周知である。ヒドロカルビルカルボニル化合物を形成するための既知の方法の一つの例は、ポリオレフィンとマレイン酸無水物をブレンドすることを含んでなる。場合によっては、塩素または過酸化物などの触媒を用いて、ポリオレフィンとマレイン酸無水物反応試剤を例えば、約150℃から約250℃の温度まで加熱する。
【0023】
アミン化合物
好適なアミン化合物は、CからC60脂肪族カルボン酸と共にグアニジン、ウレア、チオウレアから選択可能である。例えば、このアミンは、一般式III
【0024】
【化2】

【0025】
[式中、XはNR(ここで、RはHまたはCからC15ヒドロカルビルである)、OまたはSであり;
はH、−NR(ここで、RおよびRは同一もしくは異なることができ、HまたはCからC20ヒドロカルビルもしくはヒドロキシル置換ヒドロカルビルである)である]またはCからC20ヒドロカルビルもしくはヒドロキシル置換ヒドロカルビルの化合物またはこれらの塩であることができる。
【0026】
本出願の態様においては、アミンは、グアニジンのハロゲン酸塩、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩、およびオルトリン酸塩などのグアニジンの無機塩から選択可能である。用語「グアニジン」は、グアニジンおよびアミノグアニジンなどのグアニジン誘導体を指す。一つの態様においては、添加物化合物を製造するためのグアニジン化合物は、アミノグアニジン重炭酸塩である。本出願で使用されるグアニジン、ウレア、およびチオウレアは、アミノグアニジン重炭酸塩を含めて、商用源から容易に入手可能であるか、もしくは周知の方法で製造可能である。
【0027】
上記のヒドロカルビルカルボニルとアミン化合物を好適な条件下で混合して、本開示の所望の製品化合物が得られる。本開示の一つの局面においては、反応試剤化合物は、約1:1.5から約1:2.5の範囲のヒドロカルビルカルボニル:アミンのモル比で混合可能である。例えば、このモル比は約1:2など、約1:1.8から約1:2.2の範囲であることができる。
【0028】
好適な反応温度は、大気圧で約155℃から約200℃の範囲であることができる。例えば、反応温度は、約160℃から約190℃の範囲であることができる。大気以下の圧力または大気以上の圧力を含んでいかなる好適な反応圧力も使用することができる。しかしながら、温度範囲は、挙げられた範囲とは異なることができ、その場合には反応は大気
圧以外で行われる。この反応は、約1時間から約8時間の範囲内の、好ましくは約2時間から約6時間の範囲内の時間実施可能である。
【0029】
得られる反応生成物は、アミノトリアゾールであるということが考えられる。例えば、この反応生成物はビストリアゾールであることができる。トリアゾールの5員環は芳香性であると考えられる。アミノトリアゾールは酸化剤に対してかなり安定であり、加水分解に対して極めて安定である。
【0030】
一つの例示の態様においては、ヒドロカルビルカルボニルはポリイソブテニルコハク酸無水物であり、アミンはアミノグアニジン重炭酸塩である。これらの化合物を2モルのアミノグアニジン重炭酸塩に対して約1モルのポリイソブテニルコハク酸無水物の比で約160℃の温度で一緒に反応させることができる。確実ではないが、反応生成物はポリブテニルビス−3−アミノ−1,2,4−トリアゾールであるということが考えられる。このような生成物は、約1.8重量%から約2.9重量%の窒素の範囲内の比較的高窒素含量を含有する。
【0031】
本出願の化合物によって、比較的低全塩基価(「TBN」)を有する潤滑剤組成物の配合が可能となる。この開示の局面においては、この組成物は、約5から約9など約10以下のTBNを有することができる。他の局面においては、TBNは、約10から約20以上の範囲のTBNなど、10以上であることができる。「全塩基価」は、製品の1グラム当りのKOHの化学量論的等量の形の製品中のアルカリ保有量の尺度である。
【0032】
低イオウ(例えば、約500ppmw以下のイオウ)または極低イオウ(例えば約15ppmw以下)と組み合わせた低全塩基価は、硫酸生成量を低下させ、したがって酸の中和に少ないアルカリしか必要としない。大多数のアルカリ性剤/清浄剤がイオウを含有するために、本出願の1,2,4トリアゾールを使用し、潤滑剤組成物中のイオウの使用を最少とすることによって、良好な鉛および銅保護、良好な耐摩耗性および分散性が可能となる。
【0033】
本出願の化合物は、配合物中で金属およびイオウ含有清浄剤の必要性を低減することができ、したがって低イオウおよび/または低灰分の潤滑剤組成物を可能とする。現在使用中の大多数の清浄剤およびアルカリ性剤は、オイルの全「灰分」含量を生成およびこれに寄与する、金属および/またはイオウを含有する。例えば、組成物中のイオウの全濃度(下記に述べるようにいかなる遊離の活性イオウも含めて)は、約200ppmwイオウなど、約4000ppmwイオウ以下の範囲であることができる。低灰分組成物は、約0から1000ppmw硫酸塩灰分など、例えば組成物の全重量基準で約1%以下の硫酸塩灰分含量を有することができる。
【0034】
この明細書で開示されている潤滑剤組成物は、下記で更に詳細に述べる添加物組成物を含んで、分散剤、灰分含有清浄剤、無灰分清浄剤、流動点降下剤、粘度指数改善剤、摩擦変成剤、極圧添加剤、防錆剤、補助的な酸化防止剤、補助的な腐食防止剤、発泡防止剤、およびこれらの組み合わせ物などの添加物を場合によっては含有することができる。本開示のいくつかの局面においては、本出願の鉛抑止性化合物の多機能性は、これらの随意の添加物の一部の必要性を低下させることができる。例えば、本開示の化合物は、摩擦変成剤および銅腐食防止剤として潜在的に作用し、配合物に対して更なる摩擦変成剤および/または銅腐食防止剤を使用する必要性を無くす。
【0035】
潤滑剤組成物がZDDP磨耗防止剤を含有しない場合などのいくつかの局面においては、随意の添加物は、補助的な腐食防止剤を含むことができる。このような腐食防止剤の非限定的な例は、本出願のトリアゾール化合物と異なる第2のトリアゾール化合物を含む。
好適な第2のトリアゾール化合物の一つの例は、参照により開示がこの明細書中に組み込まれている、米国特許第4,948,523号で述べられているオレイル−1,2,4−トリアゾール−3−アミンである。好適なトリアゾールの更なる他の例は、参照により開示がこの明細書中に全体で組み込まれている、同時係属の米国特許出願No.11/609,084;11/567,557;および11/567,585で開示されているものを含む。このような補助的な腐食防止剤は、例えば銀部品を含むマシンおよび中速ジーゼルエンジン(銀部品を含むか、含まなくとも)中で有用であり得る。他の態様においては、この組成物はこれらの補助的な腐食防止剤を含まない。
【0036】
ある態様においては、本出願の潤滑剤組成物は、遊離の活性イオウを含有する化合物を欠落するなど、本質的に含まないことができる。本明細書中で使用される時、語句「活性イオウ」は、マシン部品と実質的に反応して、約100℃から約400℃以下の範囲の通常のエンジン走行温度で金属硫化物を形成するイオウ含有化合物として定義される。活性イオウは、400℃以下の温度では実質的に反応しないが、400℃以上の温度では金属硫化物を形成するのに充分反応性であり、極圧条件下で、もしくは境界条件が存在する場合にエンジン部品を保護する、不活性イオウと区別される。当業者ならば、これらの境界領域および極圧領域によって、通常、400℃以下など低い温度で運転されるエンジン中の種々の位置で400℃を著しく超える温度が起こることができるということを容易に理解するであろう。例えばベアリングなどの特別のエンジン部品が荷重下に置かれると、このような境界領域および極圧領域が起こる可能性がある。概ね低いエンジン運転温度では実質的に反応しないが、これらの高い温度で反応して、エンジン部品を保護する不活性イオウ化合物が使用可能である。したがって、当業者ならば、不活性イオウ化合物をなお使用して、これらのマシン中のエンジン部品を保護することができる一方で、亜鉛ジアルキルジチオホスフェート(ZDDP)などの活性イオウを含有する化合物が中速ジーゼルエンジンまたは銀部品を含有するマシンなどのマシンに測定可能な悪影響を及ぼす可能性があるいうことを理解するであろう。少なくともこの理由のために、このようなマシン中での使用に意図された配合物からは活性イオウ化合物を除くことが望ましい。当業者ならば、例えば潤滑剤に溶解した銀の量および/または銀部品上の堆積物の量を測定することなどにより、マシン部品に及ぼすイオウ含有化合物の影響を定量する方法を知っている。用語「本質的に含まない」は、本出願の目的には測定可能な悪影響を実質的に及ぼさない濃度であると定義される。
【0037】
ある態様においては、本出願の潤滑剤組成物は、イオウを含有する化合物を欠落するなど、本質的に含まないことができる。他の態様においては、本出願の潤滑剤組成物は、ホウ素を含有する化合物を欠落するなど、本質的に含まないことができる。これらの元素を潤滑剤汚染を示す標識として使用することができるように、本出願の配合物からはリンおよび/またはホウ素含有化合物を除くことが望ましい。例えば、鉄道車両用エンジン油は、一般に、リンおよびホウ素を含まないように配合される。使用中に、オイルはリンおよび/またはホウ素について定期的にチェックされるが、この存在は、オイルがエンジン運転時に例えば、ZDDPまたはホウ素の場合にはホウ素含有冷却剤により汚染されているということを示す。この方法で、リンおよび/またはホウ素は潤滑剤の汚染を示す標識として挙動する。語句実質的に含まないとは、これらの元素の濃度が例えば標識として使用されるリンおよびホウ素の能力に影響を実質的に及ぼさないように、この組成物が痕跡量のリンおよび/またはホウ素しか含まないという意味である。
【0038】
開示されている組成物の配合において使用するのに好適な基油は、合成油または鉱油またはこれらの混合物のいずれかからでも選択可能である。鉱油は、動物油および植物油(例えば、ひまし油、ラード油)、ならびにパラフィン系、ナフテン系もしくは混合パラフィン・ナフテン系タイプの液体石油および溶媒処理もしくは酸処理された鉱物質潤滑油などの他の鉱物質潤滑油を含む。石炭または頁岩由来の油も好適である。更には、ガス・ツ
ー・リキッド法由来の油も好適である。
【0039】
基油は多量に存在することができる。ここで「多量」は上述のように定義される。
【0040】
基油は、意図された目的に好適ないかなる所望の粘度も有することができる。好適なエンジン油の動粘度の例は、100℃で約2から約150cSt、更なる例としては、約5から約15cStの範囲であることができる。このように、例えば基油は、約SAE15から約SAE250の、更なる例としては、約SAE20Wから約SAE50の粘度範囲を有するように等級付け可能である。好適な自動車油は、15W−40、20W−50、75W−140、80W−90、85W−140、85W−90などのマルチグレードオイルも含む。
【0041】
合成油の非限定的な例は、重合および相互重合されたオレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリポリプロピレン、プロピレンイソブチレンコポリマーなど)などの炭化水素油;ポリ(1−ヘキセン)、ポリ−(1−オクテン)、ポリ(1−デセン)など、およびこれらの混合物のポリアルファオレフィン;アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジ−ノニルベンゼン、ジ−(2−エチルヘキシル)ベンゼンなど);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェニルなど);アルキル化ジフェニルエーテルおよびアルキル化ジフェニルスルフィド、およびこれらの誘導体、類似体、および同族体などを含む。
【0042】
アルキレンオキシドポリマーおよびインターポリマーと、末端ヒドロキシル部分をエステル化、エーテル化などにより変成したこれらの誘導体は、使用可能なもう一つの類の既知の合成油を構成する。このようなオイルは、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドの重合により製造されるオイル、これらのポリオキシアルキレンポリマーのアルキルおよびアリールエーテル(例えば、約1000の平均分子量を有するメチル−ポリイソプロピレングリコールエーテル、約500−1000の分子量を有するポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、約1000−1500の分子量を有するポリプロピレングリコールのジエチルエーテル)またはこれらのモノ−およびポリカルボン酸エステル、例えばテトラエチレングリコールの酢酸エステル、混合C3−8脂肪酸エステルまたはC13オキソ酸ジエステルにより例示される。
【0043】
使用可能な合成油のもう一つの類は、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノレン酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸など)と種々のアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコールなど)とのエステルを含む。これらのエステルの具体的な例は、ジブチルアジペート、ジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジ−n−ヘキシルフマレート、ジオクチルセバケート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソデシルアゼレート、ジオクチルフタレート、ジデシルフタレート、ジエイコシルセバケート、リノレン酸二量体の2−エチルヘキシルジエステル、1モルのセバシン酸と2モルのテトラエチレングリコールおよび2モルの2−エチルヘキサン酸とを反応させることにより形成される複合エステルを含む。
【0044】
合成油として有用なエステルは、C5−12モノカルボン酸とネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトールなどのポリオールおよびポリオールエーテルから製造されるものも含む。
【0045】
したがって、この明細書中で述べられているような組成物の製造に使用可能
な使用される基油は、米国石油協会(API)基油互換性ガイドラインにおいて規定されている、グループI−Vの基油のいずれかから選択可能である。このような基油グループは次の通りである。
【0046】
グループIは、90%未満の飽和物および/または0.03%以上のイオウを含有し、80に等しいか、もしくはそれ以上の、および120未満の粘度指数を有し;グループIIは、90%未満の飽和物および0.03%に等しいか、もしくはそれ以上のイオウを含有し、80に等しいか、もしくはそれ以上の、および120未満の粘度指数を有し;グループIIIは、90%に等しいか、もしくはそれ以上の飽和物および0.03%に等しいか、もしくはそれ未満のイオウを含有し、120に等しいか、もしくはそれ以上の粘度指数を有し;グループIVはポリアルファオレフィン(PAO)であり;そしてグループVはグループI、II、IIIまたはIVに含まれないすべての他の基油原料を含む。
【0047】
上記のグループの定義において使用される試験方法は、飽和物に対してはASTM D
2007;粘度指数に対してはASTM D 2270;およびイオウに対してはASTM D 2622、4294、4927および3120の一つである。
【0048】
グループIVの基油原料、すなわちポリアルファオレフィン(PAO)は、アルファ・オレフィンの水素化オリゴマーを含み、オリゴマー化の最も重要な方法はフリーラジカル法、チーグラー触媒法およびカチオン型のフリーデル・クラフツ触媒法である。
【0049】
ポリアルファオレフィンは、通常、100℃で2から100cStの、例えば100℃で4から8cStの範囲の粘度を有する。これらは、例えば約2から約30個の炭素原子を有する分岐鎖または直鎖のアルファ−オレフィンのオリゴマーであることができ、非限定的な例は、ポリプロペン、ポリイソブテン、ポリ−1−ブテン、ポリ−1−ヘキセン、ポリ−1−オクテンおよびポリ−1−デセンを含む。ホモポリマー、インターポリマーおよび混合物が含まれる。
【0050】
上記に参照された基油原料のバランスに関しては、生成する混和物がグループI基油原料について上記に規定したもののなかに入る特性を有するという前提ならば、「グループI基油原料」は、1つ以上の他のグループからの基油原料が混和可能なグループI基油原料も含む。
【0051】
例示の基油原料は、グループI基油原料およびグループII基油原料とグループIブライトストックとの混合物を含む。
【0052】
この明細書中での使用に好適な基油原料は、限定ではないが、蒸留、溶剤精製、水素化処理、オリゴマー化、エステル化および再精製を含む種々の異なる方法を用いて製造可能である。
【0053】
基油は、フィッシャー・トロプシュ合成炭化水素由来のオイルであることができる。フィッシャー・トロプシュ合成炭化水素は、フィッシャー・トロプシュ触媒を用いてHとCOを含有する合成ガスから製造可能である。基油として有用であるためには、このような炭化水素は、通常、更なる処理を必要とする。例えば、炭化水素は、米国特許第6,103,099号または第6,180,575号で開示されている方法を用いて水素異性化可能であり;米国特許第4,943,672号または第6,096,940号で開示されている方法を用いて水素化分解および水素異性化可能であり;米国特許第5,882,505号で開示されている方法を用いて脱ワックス可能であり;もしくは米国特許第6,013,171号;第6,080,301号;または第6,165,949号で開示されている方法を用いて水素化異性化および脱ワックス可能である。
【0054】
上記に開示したタイプの非精製、精製および再精製の、鉱物質油または合成油(ならびに、これらのいずれかの2つ以上の混合物)が基油中で使用可能である。非精製油は、更なる精製処理なしで鉱物質源または合成源から直接に入手されるものである。例えば、レトルト採取法から直接に入手されるシェール油、一次蒸留から直接に入手される石油、またはエステル化法から直接に入手され、更なる処理なしで使用されるエステルオイルが非精製油である。精製油は、1つ以上の性質を改善するために、1つ以上の精製段階で更に処理されたものであることを除いて、非精製油に類似している。溶剤抽出、二次蒸留、酸または塩基抽出、濾過、パーコレーションなどの多数のこのような精製手法は、当業者に既知である。再精製油は、運転で使用済の精製油に適用された精製油の入手に使用されるものに類似した方法により得られる。このような再精製油は、再生もしくは再処理油としても既知であり、使用済添加物、混入物質および油分解生成物の除去を目的とする手法によりしばしば更に処理される。
【0055】
ある態様においては、本出願の添加物化合物は、潤滑剤添加物パッケージ組成物の形で潤滑剤組成物に添加可能である。これらは、鉱油、合成炭化水素油、およびこれらの混合物などの希釈剤に溶解された濃厚液である。基油に添加される場合、この添加物パッケージ組成物は、基油中で添加物の有効濃度をもたらすことができる。このように、添加物パッケージ中の添加物化合物の濃度は、基油中で所望の有効濃度をもたらすいかなる好適な量にもなるように選択可能である。例えば、添加物パッケージ中の本出願の添加物化合物の量は、例えば添加物パッケージ組成物の全重量に対して約0.5重量%から約12重量%など、添加物パッケージの約0.1重量%から約15重量%以上まで変わることができる。
【0056】
この添加物組成物は、本出願で述べられる随意の添加物のいずれかを含むように配合可能である。添加物組成物を中速ジーゼルエンジン用に配合する態様においては、中速ジーゼルエンジンに対してこの明細書中で述べられる随意の添加物も使用可能である。
【0057】
更なる添加剤を本出願の潤滑組成物中に組み込み得る一方で、潤滑組成物を銀部品を含むジーゼルエンジンで使用する場合には本出願の潤滑剤組成物のある局面は、亜鉛含有磨耗剤を除外することができる。この除外は、銀部品に測定可能な悪影響を及ぼすのに充分な量の亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェート化合物などの亜鉛含有磨耗防止剤を除外するように意図される。測定可能な悪影響を示さないさらに少ない量においては、本発明の目的には、この潤滑剤は、亜鉛化合物を「本質的に含まない」と考えられる。銀部品を含有しない他のエンジン環境で使用する場合には、本発明の添加物は、有用な潤滑性、磨耗、および腐食防止性をもたらすことができ、亜鉛化合物と併せて使用され得る。
【0058】
いくつかの局面においては、本開示の組成物は、銀潤滑剤としてしばしば使用される塩素化パラフィンなどの塩素含有化合物を含まないか、もしくは実質的に含まない。クロロワックスを含むこのような塩素含有化合物の例は、開示が参照によりこの明細書中に組み込まれている、米国特許第5,174,915号で述べられている。本明細書中で使用される時、「実質的に含まない」は、組成物が痕跡量の化合物しか含まず、この化合物が組成物に実質的に影響を及ぼさないということを意味する。
【0059】
本出願の局面においては、本出願の組成物は、有機イオウ化合物を含まないこと、もしくは実質的に含まないこともできる。除外可能な有機イオウ化合物の例は、硫化オレフィン、硫化脂肪酸およびエステル、イオウ含有ヘテロ環状化合物、硫化ヒドロキシ芳香族化合物、ジスルフィド、ジチオカーバメート、およびチアジアゾールを含む。一つの態様においては、チアジアゾールのヒドロカルビル置換基がCからC30アルキルである、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2−メルカプト−5−アルキルジチ
オ−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(アルキルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、および2−メルカプト−5−アルキルチオ−1,3,4−チアジアゾール、および2,5−ビス(ヒドロカルビルジチオ)−1,3,4−チアジアゾールなどの1,3,4−チアジアゾールは除外される。他の態様においては、Vanderbiltから商品名ROKON.RTM.で入手し得る2−メルカプトベンゾチアゾール、Vanderbiltから商品名Vanlube.RTM.7723で入手し得るジベンジルジスルフィド、4,4−メチレンビス(ジブチルジチオ)カーバメートも除外可能である。
[0059]本出願の更に他の局面においては、この組成物は、本出願のトリアゾール以外の1,2,4−トリアゾールを実質的に含まないことができる。例えば、この組成物は、式II
【0060】
【化3】

【0061】
[式中、R’およびR”は水素およびヒドロカルビル基から独立に選択され、但し、R’およびR”の少なくとも1つは水素でない]
のトリアゾールを実質的に含まないことができる。好適なヒドロカルビル基の例は、CからC50の線状、分岐もしくは環状のアルキル基;CからC50の線状、分岐もしくは環状のアルケニル基;およびフェニル基、トリル基、およびキシリル基などの置換および非置換のアリール基を含む。除外可能なトリアゾールの他の例は、記述が参照によりこの明細書中に組み込まれている、David Hutchisonの名前で2007年8月21日出願の潤滑組成物という題目の同時係属出願no.11/842,729で開示されている。
【0062】
更に他の態様においては、本出願の組成物は、本質的に、マンニッヒ分散剤、カルシウムマンニッヒフェネート、カルシウムスルホネート、カルシウム硫化フェネート、鉱油、銀潤滑剤、およびポリブテニルビス−3−アミノ−1,2,4−トリアゾールから構成されない。
【0063】
更に他の局面においては、本出願の組成物は、マンニッヒ分散剤および/またはカルシウムマンニッヒフェネートなどのアルカリ土類金属マンニッヒフェネートを含まないか、もしくは実質的に含まない。
【0064】
本出願の種々の局面によれば、潤滑剤組成物において鉛腐食保護を改善する方法が存在する。本明細書中で使用される時、用語「鉛腐食保護を改善する」は、本出願の化合物を含まない同一の組成物と比較し、両方の組成物を同一のマシン運転条件下で同一の時間にわたって使用した場合、潤滑剤組成物がマシンに対してもたらすことができる鉛腐食保護性を増強することを意味すると理解される。鉛腐食保護を改善する方法は、多量の基油;および上記で開示したヒドロカルビルカルボニル化合物とアミン化合物の少量の反応生成物を含む潤滑剤組成物をマシンに提供することを含んでなることができる。一つの態様においては、このマシンは、中速ジーゼルエンジンなどのジーゼルエンジンである。
【0065】
開示されている方法におけるマシンは、ジーゼルエンジン、船舶用エンジン、ロータリーエンジン、タービンエンジン、鉄道車両用エンジン、推進エンジン、航空機ピストンエンジン、定置式発電エンジン、連続式発電エンジン、銀部品を含んでなるエンジン、および鉛部品を含んでなるエンジンを含むスパ−ク点火式および圧縮点火式内燃エンジンからなる群から選択可能である。更には、少なくとも1つの可動部品は、ギア、ピストン、ベアリング、ロッド、スプリング、カムシャフト、クランクシャフトなどを含んでなることができる。
【0066】
潤滑組成物は、マシンの潤滑に有効であるいかなる組成物であることもできる。ある局面においては、組成物は、中速ジーゼルエンジン油、高速ジーゼルエンジン油、タービン油、自動変速機用流体、工業用潤滑剤、乗用車モーター油、および重作業用ジーゼルエンジン油からなる群から選択される。ある態様においては、この組成物は中速ジーゼルエンジン油である。
【実施例】
【0067】
次の実施例は、本発明とこの有利な性質を例示するものである。これらの実施例ならびにこの出願中の各所で、全ての部数およびパーセントは、特記しない限り重量によるものである。これらの実施例は例示の目的のみに提示されるということが意図され、この明細書中で開示されている本発明の範囲を限定するようには意図されていない。
【0068】
実施例1から4
表1から6の実施例1から12は、本開示の化合物の卓越した鉛腐食防止を例示する。ASTM D943装置中300°Fでオイル中に5l/時の酸素をバブリングしながら300グラムの油と1平方インチの鉛クーポンに対して120時間継続するバブリング酸化試験ランである、エチル酸化試験(Ethyl Oxidation Test)において実施例1から12の各配合物を試験した。試験の進行とともに、酸化された油は鉛クーポンに対して極めて腐食性となる。酸化された油の鉛含量をICP法により求めた。
【0069】
下記の実施例1から12における配合物は、磨耗防止/EP剤、アルカリ性剤、清浄剤、および酸化防止剤を含む中速ジーゼル添加物成分の「コア」群からなるものであった。この配合物は約17のTBNであり、組成物の全重量基準で約1.8重量%の硫酸塩灰分レベルを有するものであった。
【0070】
実施例2から4においては、本開示のポリブテニルビス−3−アミノ−1,2,4−トリアゾール(「BAT」)(ポリイソブテニルコハク酸無水物とアミノグアニジン重炭酸塩の反応生成物)を表示した量で「コア」配合物に添加した。約2100の数平均分子量を有する高反応性ポリブテニル基を用いて、このBAT化合物を形成した。2100分子量のスクシンイミド分散剤である第2の分散剤を表1で表示した量で実施例1から3に添加した。
【0071】
【表1】

【0072】
酸化試験時、空冷コンデンサーは揮発分の大部分を保持し、潤滑剤組成物を24時間毎
にサンプリングし、分析して、オイル鉛含量を求めた。結果を表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
表2の結果から示されるように、BATを含有する実施例2から4は、BAT無しで第2の分散剤化合物を含有するのみであった実施例1と比較して著しく低下した鉛腐食性を有した。
【0075】
実施例5は、表3に表示した量で上述のような「コア」配合物に添加される、本開示のポリブテニルビス−3−アミノ−1,2,4−トリアゾール(「BAT」)(ポリイソブテニルコハク酸無水物とアミノグアニジン重炭酸塩の反応生成物)を含有するものであった。約1300の数平均分子量を有する高反応性ポリブテニル基を用いて、BAT化合物を形成した。実施例6から8は、記述が参照によりこの明細書中に組み込まれている、David Hutchisonの名前で2007年8月21日出願の潤滑組成物という題目の同時係属出願No.11/842,729で開示されている、第1の比較の金属腐食防止剤のIrgamet 30(実施例6および8)と、実施例5に使用される同一の、しかしBAT化合物無しのコア添加物パッケージにおける第2の市販の比較の金属腐食防止剤(実施例7)の比較例を示す。
【0076】
【表3】

【0077】
酸化試験時、空冷コンデンサーは揮発分の大部分を保持し、潤滑剤組成物を24時間毎にサンプリングし、分析して、オイル鉛含量を求めた。結果を表4に示す。
【0078】
【表4】

【0079】
表4の結果から示されるように、BATを含有する実施例5は、BAT無しで比較の金属腐食防止剤を含有するのみであった実施例6から8と比較して著しく低下した鉛腐食性を有した。
【0080】
実施例9においては、本開示のポリブテニルビス−3−アミノ−1,2,4−トリアゾール(「BAT」)(1000分子量のポリイソブテニルコハク酸無水物とアミノグアニジン重炭酸塩の反応生成物)によって、7.0重量%の市販の添加物(「市販のMSD添加物1」)を使用する市販のMSDエンジン油中の通常量の分散剤および境界摩擦変成剤を置き換えた。実施例10は、実施例9に使用した同一の市販のMSD添加物中に上述の第1の比較の金属腐食防止剤のIrgamet 30(比較例1)と通常の分散剤と境界摩擦変成剤を含有するが、BATを含有しないエンジン油の比較例を示す。実施例11は、市販のMSD添加物1を変成無しで含有するエンジン油である。実施例12は、第2の市販の中速ジーゼル添加物配合物を含有するエンジン油である。
【0081】
【表5】

【0082】
酸化試験時、空冷コンデンサーは揮発分の大部分を保持し、潤滑剤組成物を24時間毎にサンプリングし、分析して、オイル鉛含量を求めた。結果を表6に示す。
【0083】
【表6】

【0084】
表6の結果から示されるように、BATを含有する実施例9は、BATを含有しない実施例10から12と比較して著しく低下した鉛腐食性を有した。
【0085】
実施例13
1300分子量のポリブテニルコハク酸無水物を95℃まで加熱した。AGBCのオイルスラリーを45分間にわたって添加した。この混合物を真空下160℃まで加熱し、その温度で約6時間保持し、水と二酸化炭素を除去した。生成する混合物を濾過した。
【0086】
ベンチ試験結果は、4重量%のポリイソブテニルスクシンイミド分散剤のHiTEC646と組み合わせる場合、組成物の全重量に対して実施例13の反応生成物の2重量%といった低いレベルにおいて高温酸化試験での鉛保護の著しい改善を示す。300゜FのAfton EOT試験における酸化および腐食試験は、市販のトリアゾールに対して卓越した鉛保護および酸化防止剤性能を示した。
【0087】
この明細書および添付のクレームで使用される場合には、単数形は、一つの指示対象に明確に限定されない限り、複数の指示対象を含むということが特記される。このように、例えば「酸化防止剤」の参照は2つ以上の異なる酸化防止剤を含む。この明細書中で使用される時、用語「含む」およびこの文法的な変形物は、非限定的であるように意図され、リスト中の項目を掲げることが掲げられた項目と置換または付加可能な他の同様な類似の項目を排除することにならない。
【0088】
この明細書および添付のクレームの目的には、特記しない限り、明細書およびクレームで使用される量、パーセントまたは比率および他の数値を表すすべての数は、すべての場合において用語「約」により改変されると理解されるべきである。したがって、別に明示しない限り、明細書および添付のクレームで示される数値パラメーターは、本開示により得ようとする所望の性質に依って変わることができる近似である。最低限でも、そして均等論の適用を請求の範囲に限定する試みとしてでなく、各数値パラメーターは、示されている有意の桁数を考慮して、そして通常の丸め手法を適用することにより少なくとも解釈されるべきである。
【0089】
特別の態様を説明してきたが、出願人または当分野の他の熟練者には現時点では予知し得ない代替物、改変物、変形物、改善物および実質的な同等物が思い浮かぶ可能性がある。したがって、添付のクレームは、出願時および補正時には、このような代替物、改変物、変形物、改善物および実質的な同等物をすべて包含するように意図されている。
【0090】
本発明の特徴および態様は次の通りである。
【0091】
1.多量の基油;および
ヒドロカルビルカルボニル化合物とグアニジン、ウレア、およびチオウレアから選択されるアミン化合物との鉛腐食防止量の反応生成物を含んでなり;
但し、潤滑剤が亜鉛ジアルキルジチオホスフェート磨耗防止剤を本質的に含まず、かつ、塩素化パラフィンおよびカルシウムマンニッヒフェネートを本質的に含まない潤滑剤組成物。
【0092】
2.組成物が塩素含有化合物を本質的に含まない、項1に記載の潤滑剤組成物。
【0093】
3.組成物が組成物の全重量基準で約4000ppmw以下のイオウ濃度と約1.0重量%以下の硫酸塩灰分濃度を含む、項1に記載の潤滑剤組成物。
【0094】
4.ヒドロカルビルカルボニル化合物がヒドロカルビル置換コハク酸無水物、ヒドロカルビル置換コハク酸、およびヒドロカルビル置換コハク酸のエステルから選択される、項1に記載の潤滑剤組成物。
【0095】
5.ヒドロカルビルカルボニル化合物が式IV
【0096】
【化4】

【0097】
[式中、R14はヒドロカルビル部分である]
の化合物から選択される、項1に記載の潤滑剤組成物。
【0098】
6.R14が約100から約10,000ダルトンの数平均分子量を有するポリオレフィン基である、項5に記載の潤滑剤組成物。
【0099】
7.ポリオレフィン基がポリイソブチレン基である、項6に記載の潤滑剤組成物。
【0100】
8.ポリイソブチレン基が少なくとも60%以上の末端オレフィン型二重結合を有する高反応性ポリイソブテンから誘導される、項7に記載の潤滑剤組成物。
【0101】
9.R14がエチレンのオリゴマー化により製造されるアルファオレフィンから誘導される、項6に記載の潤滑剤組成物。
【0102】
10.アミンが一般式III
【0103】
【化5】

【0104】
[式中、XはNR(ここで、RはHまたはCからC15ヒドロカルビルである)、OまたはSであり;RはH、−NR(ここで、RおよびRは同一もしくは異なることができ、HまたはCからC20ヒドロカルビルもしくはヒドロキシル置換ヒドロカルビルである)またはCからC20ヒドロカルビルもしくはヒドロキシル置換ヒドロカルビルである]の化合物またはこれらの塩である、項1に記載の潤滑剤組成物。
【0105】
11.アミンがグアニジンの無機塩から選択される、項1に記載の潤滑剤組成物。
【0106】
12.アミンがアミノグアニジンの塩である、項1に記載の潤滑剤組成物。
【0107】
13.アミンがアミノグアニジン重炭酸塩である、項1に記載の潤滑剤組成物。
【0108】
14.マシン中の鉛部品をヒドロカルビルカルボニル化合物とグアニジン、ウレア、およびチオウレアから選択される少量のアミン化合物との反応生成物を含む潤滑剤組成物と接触させることを含んでなり;
この反応生成物を含有しない同一の組成物と比較し、両方の組成物を同一のマシン運転条件下で同一の時間にわたって使用した場合、潤滑剤組成物が改善された鉛腐食保護をもたらす、マシンの鉛腐食保護を改善する方法。
【0109】
15.潤滑剤組成物が塩素化パラフィンとカルシウムマンニッヒフェネートを本質的に含まない、項14に記載の方法。
【0110】
16.ヒドロカルビルカルボニル化合物が式IV
【0111】
【化6】

【0112】
[式中、R14はヒドロカルビル部分である]
の化合物から選択される、項14に記載の方法。
【0113】
17.R14が約100から約10,000ダルトンの数平均分子量を有するポリオレフィン基である、項16に記載の方法。
【0114】
18.ポリオレフィン基がポリイソブチレン基である、項17に記載の方法。
【0115】
19.R14がエチレンのオリゴマー化により製造されるアルファオレフィンから誘導される、項17に記載の方法。
【0116】
20.アミンが一般式III
【0117】
【化7】

【0118】
[式中、XはNR(ここで、RはHまたはCからC15ヒドロカルビルである)、OまたはSであり;
はH、−NR(ここで、RおよびRは同一もしくは異なることができ、HまたはCからC20ヒドロカルビルもしくはヒドロキシル置換ヒドロカルビルである)またはCからC20ヒドロカルビルもしくはヒドロキシル置換ヒドロカルビルである]の化合物またはこれらの塩である、項14に記載の方法。
【0119】
21.アミンがアミノグアニジン重炭酸塩である、項14に記載の方法。
【0120】
22.マシンがスパーク点火式および圧縮点火式内燃機関からなる群から選択される、項14に記載の方法。
【0121】
23.ジーゼルエンジン、船舶用エンジン、ロータリーエンジン、タービンエンジン、鉄道車両用エンジン、推進エンジン、航空機ピストンエンジン、定置式発電エンジン、連続式発電エンジン、銀部品を含むエンジン、および鉛部品を含むエンジンからなる群から選択される、項14に記載の方法。
【0122】
24.マシンが中速ジーゼルエンジンである、項14に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多量の基油;および
ヒドロカルビルカルボニル化合物とグアニジン、ウレア、およびチオウレアから選択されるアミン化合物との鉛腐食防止量の反応生成物を含んでなり;
但し潤滑剤が亜鉛ジアルキルジチオホスフェート磨耗防止剤を本質的に含まず、かつ、塩素化パラフィンおよびカルシウムマンニッヒフェネートを本質的に含まない潤滑剤組成物。
【請求項2】
組成物が塩素含有化合物を本質的に含まない、請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
組成物が組成物の全重量基準で約4000ppmw以下のイオウ濃度と約1.0重量%以下の硫酸塩灰分濃度を含む、請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】
ヒドロカルビルカルボニル化合物が式IV
【化1】

[式中、R14はヒドロカルビル部分である]
の化合物から選択される、請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項5】
14が約100から約10,000ダルトンの数平均分子量を有するポリオレフィン基である、請求項4に記載の潤滑剤組成物。
【請求項6】
ポリオレフィン基がポリイソブチレン基である、請求項5に記載の潤滑剤組成物。
【請求項7】
ポリイソブチレン基が少なくとも60%以上の末端オレフィン型二重結合を有する高反応性ポリイソブテンから誘導される、請求項6に記載の潤滑剤組成物。
【請求項8】
14がエチレンのオリゴマー化により製造されるアルファオレフィンから誘導される、請求項5に記載の潤滑剤組成物。
【請求項9】
アミンが一般式III
【化2】

[式中、XはNR(ここで、RはHまたはCからC15ヒドロカルビルである)、OまたはSであり;
はH、−NR(ここで、RおよびRは同一もしくは異なることができ、HまたはCからC20ヒドロカルビルもしくはヒドロキシル置換ヒドロカルビルである)またはCからC20ヒドロカルビルもしくはヒドロキシル置換ヒドロカルビルである]
の化合物またはこれらの塩である、請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項10】
マシン中の鉛部品をヒドロカルビルカルボニル化合物とグアニジン、ウレア、およびチオウレアから選択される少量のアミン化合物との反応生成物を含む潤滑剤組成物と接触させることを含んでなり、この反応生成物を含有しない同一の組成物と比較し、両方の組成物を同一のマシン運転条件下で同一の時間にわたって使用した場合、潤滑剤組成物が改善された鉛腐食保護をもたらす、マシンの鉛腐食保護を改善する方法。

【公開番号】特開2009−185284(P2009−185284A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14527(P2009−14527)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(391007091)アフトン・ケミカル・コーポレーション (123)
【氏名又は名称原語表記】Afton Chemical Corporation
【Fターム(参考)】