説明

潮流測定装置

【課題】絶対船速と対水船速との差から潮流を演算する際に、船舶の加減速及び回頭等があっても、常に安定した潮流を得ることができる潮流測定装置を提供する。
【解決手段】加減速検出手段45は、航法装置3から出力された絶対船速又は対水船速計測回路42から出力された対水船速に基づいて、船舶1が加速状態又は減速状態にあることを検出し、検出結果を加算器50に出力する。回頭状態検出手段46は、ジャイロコンパス2から出力された船首方位に基づいて、船舶1が回頭状態にあることを検出し、検出結果を加算器50に出力する。演算停止手段49の加算器50は、検出結果が入力されたときに、スイッチ51における潮流演算回路43と潮流値出力回路44との接続状態をオン状態からオフ状態に切り替えるように該スイッチ51を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船舶から水中に超音波を送信し、その反射波のドップラ効果を利用して得られる対水船速と、航法装置から得られる絶対船速との差より潮流を演算する潮流測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、潮流測定装置では、船舶から水中の斜め下方向に超音波を送信し、その反射波のドップラ効果に基づいて任意の水深における水の流れ(潮流)を求めている(特許文献1〜3参照)。すなわち、前記水深にて反射した超音波(反射波)のドップラ効果を利用して得られた前記水深に対する前記船舶の船速(対水船速)と、海底からの反射波より得られた該海底に対する前記船舶の船速(対地船速)との差を演算することで、前記水深における潮流を求めることができる。
【0003】
ところで、前記船舶に搭載され、GPS(Global Positioning System)等を利用した航法装置は、絶対測位により得られた前記船舶の船速(絶対船速)を出力している。そのため、潮流測定装置では、海底の水深が比較的浅く、対地船速を容易に得ることができる場合には、対地船速と対水船速との差、あるいは、絶対船速と対水船速との差から潮流を演算し、一方で、海底の水深が比較的深く、対地船速を容易に得ることができない場合には、絶対船速と対水船速との差から潮流を演算している。
【0004】
また、上記した各船速は所定時間間隔で得られるため、潮流測定装置では、潮流を演算する際に、各船速の値のばらつきを少なくするための平均化処理(第1の処理又は第2の処理)を行っている。すなわち、第1の処理では、航法装置において絶対測位により得られた船速に対して平均化処理を行い、平均化処理後の船速を絶対船速として出力し、一方で、反射波のドップラ効果を利用して得られた対水船速に対し平均化処理を行い、その後、平均化処理された絶対船速と対水船速との差を演算して潮流を求める。第2の方法では、航法装置は平均化処理前の船速を絶対船速として出力し、一方で、反射波のドップラ効果を利用して得られた対水船速に対しては平均化処理を行わず、その後、絶対船速と対水船速との差に対して平均化処理を行うことで潮流を求める。
【0005】
【特許文献1】特開平4−357463号公報
【特許文献2】特開平5−80151号公報
【特許文献3】特開2006−284242号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、船舶が停船し、あるいは、一定速度及び一定進路にて航行している場合に、上記の潮流測定装置は、正確な潮流を求めることが可能である。しかしながら、前記船舶の速度が変化(加減速)し、あるいは、針路が変化(回頭)した場合には、演算した潮流に大きな誤差が含まれることになる。
【0007】
図3A及び図3Bは、潮流がない状態で船舶を加減速したときの絶対船速G1、対水船速W1及び潮流C1の時系列グラフである。この場合、絶対船速G1及び対水船速W1は、平均化処理後の船速を示しており、以下同様とする。図3Aにおいて、平均化処理後の絶対船速G1及び対水船速W1は、時刻t0から時刻t1の時間帯では時間経過に伴って増加し、時刻t1以降の時間帯では時間経過に伴って減少する。ここで、絶対船速G1に対する平均化処理の時定数と、対水船速W1に対する平均化処理の時定数とが互いに異なっていると、対水船速W1と絶対船速G1との差である潮流C1(図3B参照)は、時刻t0〜t1の時間帯において正の値となり、一方で、時刻t1以降の時間帯においては負の値となる。しかしながら、前述したように、現実には潮流がない状態であるので、潮流測定装置は、偽の潮流C1を演算していることになる。すなわち、偽の潮流C1は、前記各時定数に起因した誤差を含んだものである。
【0008】
図4A及び図4Bは、潮流がない状態で船舶1(図4C参照)が針路を変更(回頭)したときの絶対船速G2及び対水船速W2の針路と、潮流C2との時系列グラフであり、図4Cは、時刻t2における絶対船速G2、対水船速W2及び潮流C2のベクトルを示している。図4Aにおいて、絶対船速G2及び対水船速W2の針路は、時刻t0から時間経過に伴って変化し、所定時刻以降は一定の針路を維持する。しかしながら、絶対船速G2に対する平均化処理の時定数と、対水船速W2に対する平均化処理の時定数とが互いに異なっていると、現実には潮流がない状態であっても、潮流測定装置は、偽の潮流C2(図4B参照)を演算することになる。すなわち、偽の潮流C2は、船舶1の針路変更(回頭)及び前記各時定数に起因した誤差を含んだものである。
【0009】
一方、航法装置から出力される絶対船速の信号は、例えば、IEC61162で規定されるシリアル信号である場合が多い。このシリアル信号の長さと、前記航法装置から前記シリアル信号が出力される間隔とから、潮流の演算時には前記絶対船速が対水船速と比べて1s〜3s程度遅延し、この結果、該遅延に起因した誤差が潮流に含まれることになる。
【0010】
図5A及び図5Bは、潮流がない状態で対水船速W3に対して絶対船速G3が遅延しているときの絶対船速G3、対水船速W3及び潮流C3の時系列グラフである。図5Aにおいて、対水船速W3は、時刻t0から時刻t4までの時間帯では時間経過に伴って増加し、時刻t4以降の時間帯では時間経過に伴って減少している。一方、絶対船速G3は、時刻t0より所定時間遅延した時刻t3から時刻t5までの時間帯では時間経過に伴って増加し、時刻t5以降の時間帯では時間経過に伴って減少している。この場合、対水船速W3に対して絶対船速G3は(t3−t0)及び(t5−t4)の時間遅れを有するので、現実には潮流がない状態であっても、図5Bの潮流C3には、前記各時間遅れに起因した誤差が含まれることになる。
【0011】
また、図6A及び図6Bは、潮流がない状態で絶対船速G4と対水船速W4との間に図5A及び図5Bと同様の時間遅れがあり、さらに、対水船速W4に対する平均化処理の時定数と、絶対船速G4に対する平均化処理の時定数とが互いに異なるときの絶対船速G4、対水船速W4及び潮流C4の時系列グラフである。図6Aにおいて、対水船速W4に対して絶対船速G4が(t3−t0)及び(t5−t4)の時間遅れを有し、さらに、前記各時定数が異なることにより、現実には潮流がない状態であっても、図6Bの潮流C4には、前記各時間遅れに起因した誤差に加え、前記各時定数の違いに起因した誤差が含まれることになるので、該潮流C4の誤差はさらに大きくなる。
【0012】
この発明は、このような問題を考慮してなされたものであり、絶対船速と対水船速との差から潮流を演算する際に、船舶の加減速や回頭等があっても、常に安定した潮流を得ることができる潮流測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明では、加減速検出手段が絶対船速又は対水船速に基づいて船舶が加速状態又は減速状態であることを検出し、及び/又は、回頭状態検出手段が方位センサから出力される船舶の方位に基づいて船舶が回頭状態であることを検出し、演算停止手段が前記加減速検出手段又は前記回頭状態検出手段の検出結果に基づいて潮流演算回路における潮流の演算を停止させる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、船舶が加速状態又は減速状態であるときや、前記船舶が針路を変更(回頭)するときに、潮流演算回路における潮流演算を一時的に停止させるので、前記船舶の加減速や回頭により潮流に誤差が発生する時間帯では、前記潮流演算回路から前記潮流が出力されることはなく、従って、前記加減速や前記回頭に関わらず、見かけ上、潮流測定装置から潮流を安定して出力することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明の実施形態に係る潮流測定装置4は、船舶1(図4C参照)に搭載され、図1に示すように、送受波器40、送受信回路41、対水船速計測回路42、潮流演算回路43、潮流値出力回路44、加減速検出手段45、回頭状態検出手段46、平均化時定数補正手段47、遅延補正手段48及び演算停止手段49を有する。演算停止手段49は、加算器50及びスイッチ51を備える。また、船舶1には、潮流測定装置4に加え、GPS等を利用した航法装置3及び方位センサとしてのジャイロコンパス2が搭載されている。
【0016】
送受波器40は、船舶1の船底に複数配置され、該船舶の斜め下方向に向けて水中に超音波ビームを送波(送信)し、送波した超音波ビームが任意の水深又は海底にて反射したときの反射波を受波(受信)する。送受信回路41は、前記超音波ビームの送信信号を送受波器40に出力し、一方で、前記反射波の受信信号を対水船速計測回路42に出力する。対水船速計測回路42は、前記反射波のドップラシフトを含む前記受信信号と、ジャイロコンパス2から出力される船舶1の船首方位とに基づいて、任意の水深に対する船舶1の船速(対水船速)を演算し、演算した対水船速を潮流演算回路43及び平均化時定数補正手段47に出力する。潮流演算回路43は、前記対水船速と、航法装置3から出力される絶対測位により得られた船舶1の船速(絶対船速)との差を前記任意の水深における水の流れ(潮流)として演算する。潮流値出力回路44は、潮流演算回路43から演算停止手段49のスイッチ51を介して入力された前記潮流の値を潮流測定装置4に接続された船舶1内の各種装置に出力する。
【0017】
加減速検出手段45は、航法装置3から出力された絶対船速に基づいて、船舶1が加速状態又は減速状態にあることを検出し、検出結果を演算停止手段49の加算器50に出力する。なお、加減速検出手段45では、船舶1が加速状態又は減速状態にあることを検出できればよいので、前記絶対船速に代えて、図1の破線で示すように、対水船速に基づいて船舶1が加速状態又は減速状態にあることを検出することも可能である。
【0018】
回頭状態検出手段46は、ジャイロコンパス2から出力された船首方位に基づいて、船舶1が回頭状態にあることを検出し、検出結果を加算器50に出力する。
【0019】
演算停止手段49の加算器50は、加減速検出手段45からの検出結果又は回頭状態検出手段46からの検出結果が入力されたときに、スイッチ51における潮流演算回路43と潮流値出力回路44との接続状態をオン状態からオフ状態に切り替えるように、該スイッチ51を制御する。従って、前記各検出結果が加算器50に入力される時間帯では、スイッチ51における潮流演算回路43と潮流値出力回路44との接続状態はオフ状態であり、一方で、前記各検出結果が加算器50に入力されていない時間帯では、前記接続状態はオン状態である。すなわち、船舶1が加速状態又は減速状態にあるときや、船舶1が回頭状態にあるときには、スイッチ51がオフ状態となって、潮流演算回路43から潮流値出力回路44に潮流を出力することができない。一方、船舶1が加速状態又は減速状態ではないときや、船舶1が回頭状態ではないときには、スイッチ51がオン状態となって、潮流演算回路43から潮流値出力回路44への潮流の出力が可能である。
【0020】
また、絶対船速及び対水船速は、所定時間間隔で得られるので、潮流測定装置4内では、前記各船速の値のばらつきを少なくするために、航法装置3又は潮流演算回路43において絶対船速に対する平均化処理を行い、一方で、対水船速計測回路42又は潮流演算回路43において対水船速に対する平均化処理を行っている。そこで、平均化時定数補正手段47は、対水船速に対する平均化処理の時定数と、絶対船速に対する平均化処理の時定数とが互いに異なる場合に、前記各時定数のうち少なくとも一方の時定数を補正するための所定の補正処理を行う。また、遅延補正手段48は、潮流演算回路43にて潮流を演算する際に、潮流演算回路43に対する対水船速の入力と、潮流演算回路43に対する絶対船速の入力との間で時間差がある場合に、前記時間差を補正する。
【0021】
次に、上述した加減速検出手段45、回頭状態検出手段46、平均化時定数補正手段47、遅延補正手段48及び演算停止手段49の機能について、図1〜図6Bを参照しながら具体的に説明する。
【0022】
船舶1に加減速等の速度変化があるときに、航法装置3又は潮流演算回路43において絶対船速に対する平均化処理を行い、一方で、対水船速計測回路42又は潮流演算回路43において対水船速に対する平均化処理を行うと、潮流演算回路43では、前述したように、絶対船速に対する平均化処理の時定数及び対水船速に対する平均化処理の時定数の違いに基づく偽の潮流C1(図3B参照)を演算することになる。
【0023】
そこで、加減速検出手段45は、絶対船速の時間微分値の絶対値、あるいは、前回得られた絶対船速の値と今回得られた絶対船速の値との変化量の絶対値が、一定値を上回るか否かを判定し、前記時間微分値の絶対値又は前記変化量の絶対値が前記一定値を上回る場合に、船舶1が加速状態又は減速状態にあると判断して、その判断結果(検出結果)を演算停止手段49の加算器50に出力する。加算器50は、加減速検出手段45からの判断結果に基づいて、スイッチ51での接続をオン状態からオフ状態に切り替えるように該スイッチ51を制御する。これにより、潮流演算回路43から潮流値出力回路44への潮流の出力が停止して、潮流演算回路43における潮流演算は、実際上、一時的に停止するに至る。この結果、潮流値出力回路44は、前回演算された潮流の値を外部に出力することになり、偽の潮流値C1が外部に出力されることを防止することができる。
【0024】
また、船舶1の針路の変更(回頭)によっても、潮流演算回路43では、偽の潮流C2(図4B参照)を演算することになる。
【0025】
そこで、回頭状態検出手段46は、船首方位の時間微分値の絶対値、あるいは、前回得られた船首方位の値と今回得られた船首方位の値との変化量の絶対値が、一定値を上回るか否かを判定し、前記時間微分値の絶対値又は前記変化量の絶対値が前記一定値を上回る場合に、船舶1の針路の変更(回頭)が発生しているものと判断して、その判断結果(検出結果)を加算器50に出力する。加算器50は、回頭状態検出手段46からの判断結果に基づいて、スイッチ51における接続をオン状態からオフ状態に切り替えるように該スイッチ51を制御する。この場合でも、潮流演算回路43から潮流値出力回路44への潮流の出力が停止して、潮流演算回路43における潮流の演算は、実際上、一時的に停止するに至るので、潮流値出力回路44から前回演算された潮流の値を外部に出力することで、偽の潮流値C2が外部に出力されることを防止することができる。
【0026】
また、潮流演算回路43において潮流の演算を行う時点で、潮流演算回路43に対する対水船速の入力と、潮流演算回路43に対する絶対船速の入力との間で時間差(時間遅れ)があると、潮流演算回路43では、前述したように、偽の潮流C3(図5B参照)を演算することになる。さらに、前記時間遅れに加え、前記対水船速に対する平均化処理の時定数と、前記絶対船速に対する平均化処理の時定数とが互いに異なっていると、潮流演算回路43では、より大きな誤差を含む偽の潮流C4(図6B参照)を演算することになる。
【0027】
ここで、対水船速に対する絶対船速の遅延量(時間遅れ)や、対水船速に対する平均化処理の時定数や、絶対船速に対する平均化処理の時定数は、潮流測定装置4において固有の値である。
【0028】
そこで、平均化時定数補正手段47は、前記各時定数が同一の時定数となるように、平均化処理後の対水船速に対して、所定の時定数による平均化処理をさらに行う。次いで、遅延補正手段48は、さらなる平均化処理を行った対水船速に対して所定時間(対水船速に対する絶対船速の遅延時間)だけ遅延させる遅延処理を行い、遅延処理後の対水船速を潮流演算回路43に出力する。潮流演算回路43は、航法装置3からの絶対船速の入力と、対水船速計測回路42からの対水船速の入力との間に時間差がある場合に、前記絶対船速と、遅延補正手段48から入力された、遅延処理後の対水船速との差を演算して潮流を求める。これにより、上記した各誤差を含まない潮流が得られる。
【0029】
図2A及び図2Bは、前述した時間遅れ及び前記各時定数の違いがある状態における絶対船速G4、対水船速W4、W51、W5及び潮流C4、C5の時系列グラフである。ここでは、対水船速計測回路42において対水船速に対する平均化処理を行って対水船速W4を出力し、航法装置3において絶対船速に対する平均化処理を行って絶対船速G4を出力するものとする。また、船舶1は、針路の変更(回頭)がなく、さらには、潮流の時間的な変化はないものとする。
【0030】
平均化時定数補正手段47は、対水船速計測回路42から入力された対水船速W4に対し、さらなる平均化処理Tを行って、平均化処理T後の対水船速W51を遅延補正手段48に出力する。遅延補正手段48は、対水船速W51に対し、(t0−t3)の時間差Dに基づく所定の遅延処理を行って、遅延処理後の対水船速W5を潮流演算回路43に出力する。潮流演算回路43には、対水船速計測回路42から対水船速W4が入力され、遅延補正手段48から対水船速W51が入力され、さらに、航法装置3から絶対船速G4が入力されている。この場合、潮流演算回路43は、絶対船速G4との時間的な誤差がない対水船速W51と、該絶対船速G4との差を演算し、演算結果を潮流C5としてスイッチ51及び潮流値出力回路44を介して外部に出力する。この場合、潮流演算回路43は、平均化処理T及び遅延処理が行われた対水船速W51と、絶対船速G4との差を潮流C5として出力するので、該潮流C5は、上述した各要因に起因した誤差を含まず、従って、実際の潮流に合致した結果となる。
【0031】
このように、この実施形態に係る潮流測定装置4は、絶対船速又は対水船速に基づいて船舶1が加速状態又は減速状態であることを検出する加減速検出手段45と、加減速検出手段45の検出結果に基づいて潮流演算回路43における潮流の演算を停止させる演算停止手段49とを有する。
【0032】
これにより、船舶1が加速状態又は減速状態であるときに、潮流演算回路43における潮流演算を実際上一時的に停止させるので、船舶1の加減速により潮流に誤差が発生する時間帯では、潮流演算回路43から潮流が演算停止手段49のスイッチ51及び潮流値出力回路44を介して外部に出力されることはなく、従って、前記加減速に関わらず、見かけ上、潮流測定装置4から潮流を安定して出力することが可能となる。
【0033】
また、潮流測定装置4は、ジャイロコンパス2から出力される船舶1の船首方位に基づいて該船舶1が回頭状態であることを検出する回頭状態検出手段46をさらに有し、演算停止手段49は、加減速検出手段45又は回頭状態検出手段46の検出結果に基づいて潮流演算回路43における潮流の演算を停止させる。
【0034】
これにより、船舶1の針路の変更(回頭)によって潮流に誤差が発生する時間帯においても、潮流演算回路43から演算停止手段49のスイッチ51及び潮流値出力回路44を介して潮流が外部に出力されることはなく、従って、前記針路の変更(回頭)に関わらず、見かけ上、潮流測定装置4から潮流を安定して出力することが可能となる。
【0035】
さらに、潮流測定装置4は、潮流演算回路43にて潮流を演算する際に、潮流演算回路43に対する対水船速の入力と、潮流演算回路43に対する絶対船速の入力との間で時間差がある場合に、前記時間差を補正する遅延補正手段48と、対水船速計測回路42又は潮流演算回路43での対水船速に対する平均化処理の時定数と、航法装置3又は潮流演算回路43での絶対船速に対する平均化処理の時定数とが互いに異なる場合に、前記各時定数のうち少なくとも一方の時定数を補正する平均化時定数補正手段47とをさらに有する。
【0036】
これにより、船舶1の加減速及び回頭や、絶対船速及び対水船速に対する平均化処理の時定数の違いや、潮流演算回路43における対水船速計測回路42からの対水船速の入力と、航法装置3からの絶対船速の入力との間で時間差が発生する場合においても、遅延補正手段48及び平均化時定数補正手段47における各補正処理によって、上記の各要因に起因した潮流の誤差を排除することができるので、前記加減速及び前記回頭や、前記各時定数の違いや、前記時間差の発生に関わらず、潮流測定装置4から潮流を常に安定して出力することができる。
【0037】
上述した潮流測定装置4では、船舶1の加減速及び回頭に応じて、加減速検出手段45、回頭状態検出手段46、平均化時定数補正手段47、遅延補正手段48及び演算停止手段49を選択的に動作させることも可能である。例えば、船舶1の加減速及び/又は回頭が比較的に緩やかであれば、平均化時定数補正手段47及び遅延補正手段48を動作させ、加減速検出手段45、回頭状態検出手段46及び演算停止手段49を停止させる。一方、船舶1の加減速及び/又は回頭が比較的に急激であれば、加減速検出手段45、回頭状態検出手段46及び演算停止手段49を動作させて、平均化時定数補正手段47及び遅延補正手段48を停止させるか、あるいは、加減速検出手段45、回頭状態検出手段46、平均化時定数補正手段47、遅延補正手段48及び演算停止手段49を全て動作させる。
【0038】
なお、この発明は、上述した実施形態に限らず、種々の構成を採り得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この実施形態に係る潮流測定装置のブロック図である。
【図2】図2Aは、図1の潮流測定装置での絶対船速及び対水船速に対する処理を示す時系列グラフであり、図2Bは、潮流の時系列グラフである。
【図3】図3Aは、潮流がない状態で船舶を加減速したときの絶対船速及び対水船速の時系列グラフであり、図3Bは、図3Aの絶対船速と対水船速との差より演算される潮流の時系列グラフである。
【図4】図4Aは、潮流がない状態で船舶の針路を変更(回頭)したときの絶対船速及び対水船速の針路の時系列グラフであり、図4Bは、図4Aの絶対船速と対水船速との差より演算される潮流の時系列グラフである。図4Cは、図4A及び図4Bの時刻t2における絶対船速、対水船速及び潮流のベクトルを示す説明図である。
【図5】図5Aは、潮流がない状態で対水船速に対して絶対船速が遅延しているときの絶対船速及び対水船速の時系列グラフであり、図5Bは、図5Aの絶対船速と対水船速との差より演算される潮流の時系列グラフである。
【図6】図6Aは、潮流がない状態で対水船速に対して絶対船速が遅延し、さらに、絶対船速及び対水船速に対する平均化処理において各時定数が異なる場合での絶対船速及び対水船速の時系列グラフであり、図6Bは、図6Aの絶対船速と対水船速との差より演算される潮流の時系列グラフである。
【符号の説明】
【0040】
1…船舶 2…ジャイロコンパス
3…航法装置 4…潮流測定装置
40…送受波器 41…送受信回路
42…対水船速計測回路 43…潮流演算回路
44…潮流値出力回路 45…加減速検出手段
46…回頭状態検出手段 47…平均化時定数補正手段
48…遅延補正手段 49…演算停止手段
50…加算器 51…スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶から水中に超音波を送信し、その反射波を受信する送受波器と、
前記反射波のドップラ効果より前記船舶の対水船速を演算する対水船速計測回路と、
航法装置から出力される前記船舶の絶対船速と前記対水船速との差より潮流を演算する潮流演算回路と、
前記絶対船速又は前記対水船速に基づいて前記船舶が加速状態又は減速状態であることを検出する加減速検出手段と、
前記加減速検出手段の検出結果に基づいて前記潮流演算回路における前記潮流の演算を停止させる演算停止手段とを有することを特徴とする潮流測定装置。
【請求項2】
船舶から水中に超音波を送信し、その反射波を受信する送受波器と、
前記反射波のドップラ効果より前記船舶の対水船速を演算する対水船速計測回路と、
航法装置から出力される前記船舶の絶対船速と前記対水船速との差より潮流を演算する潮流演算回路と、
方位センサから出力される前記船舶の方位に基づいて前記船舶が回頭状態であることを検出する回頭状態検出手段と、
前記回頭状態検出手段の検出結果に基づいて前記潮流演算回路における前記潮流の演算を停止させる演算停止手段とを有することを特徴とする潮流測定装置。
【請求項3】
船舶から水中に超音波を送信し、その反射波を受信する送受波器と、
前記反射波のドップラ効果より前記船舶の対水船速を演算する対水船速計測回路と、
航法装置から出力される前記船舶の絶対船速と前記対水船速との差より潮流を演算する潮流演算回路と、
前記絶対船速又は前記対水船速に基づいて前記船舶が加速状態又は減速状態であることを検出する加減速検出手段と、
方位センサから出力される前記船舶の方位に基づいて前記船舶が回頭状態であることを検出する回頭状態検出手段と、
前記加減速検出手段又は前記回頭状態検出手段の検出結果に基づいて前記潮流演算回路における前記潮流の演算を停止させる演算停止手段とを有することを特徴とする潮流測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−92577(P2009−92577A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265046(P2007−265046)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】