説明

潰瘍性大腸炎予防・治療剤、ならびにそれを配合してなる医薬品および飲食品

【課題】植物食品由来の有効成分で副作用が少なく、長期投与可能な潰瘍性大腸炎予防・治療剤を提供することを目的とする。
【解決手段】アブラナ科(Brassicaceae)アブラナ属(Brassica)植物、特に大和マナ(Brassica rapa L.)由来のイソチオシアネート化合物および/またはその配糖体(グルコシノレート)を有効成分として含有することを特徴とする潰瘍性大腸炎予防・治療剤、ならびにそれを配合してなる医薬品および飲食品などを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アブラナ科(Brassicaceae)アブラナ属(Brassica)植物、特に大和マナ(Brassica rapa L.)由来のイソチオシアネート化合物またはその配糖体(グルコシノレート)を有効成分として含有することを特徴とする潰瘍性大腸炎予防・治療剤、ならびにそれを配合してなる医薬品および飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
潰瘍性大腸炎は、大腸粘膜の粘膜層あるいは粘膜下層にびらんや潰瘍を形成する大腸の疾患であり、クローン病等と共に炎症性腸疾患に分類されるものである。その特徴的症状としては、下血、血便、腹痛および体重減少などであり、病変は直腸から連続的に、そして上行性(口側)に広がる性質があり、最大で直腸から結腸全体に拡がる。我が国では欧米と比べて少なく比較的稀な病気とされていたが、近年食生活の欧米化等に伴い患者数は年々急増しており、特に20歳代で発病するヒトが多く、再発を繰り返して難治な病気として、厚生労働省の特定疾患にも指定されている。その原因は明らかでなく、これまでに腸内細菌の関与、自己免疫反応の異常、あるいは食生活の変化の関与など種々の要因が考えられているが、詳細は未だ不明である。現在、潰瘍性大腸炎を完治に導く内科的治療はなく、大腸の炎症を抑える薬物治療が主であり、5−アミノサリチル酸製剤(サラゾスルファピリジンやメサラジンなど)、ステロイド剤(プレドニゾロンなど)、ならびに免疫抑制剤(シクロスポリンなど)が用いられている。しかし、これら薬物療法は、病勢の鎮静化効果はあるが、難治例も多く、特に、ステロイド剤を減量すると再発して長期投与を余儀なくされ、ステロイド剤の副作用に苦しむ患者が多いのが現状である。従って、薬物療法をサポートするものとして、副作用が少なく安全性が高く、日常的に摂取する食品により、潰瘍性大腸炎を予防し、その症状の進展を抑制し、さらには改善作用を有するような機能性食品も望まれている。
【0003】
近年、予防的な観点から、ヒトの健康状態や食品機能を科学的に研究する機能性食品、特にその有効成分の研究が盛んになされ、アブラナ科植物由来のイソチオシアネート化合物及びその配糖体は、そのガン予防効果等様々な生理活性作用にて注目を集めている(非特許文献1)。一方、潰瘍性大腸炎に対する効果を特徴とした食品の機能性成分についても幾つかの特許出願がある(特許文献1、2、3等)が、イソチオシアネート化合物やアブラナ科植物については報告が見当たらなかった。しかし、ごく最近、アメリカンクレス(Barbarea verna)由来のフェネチルイソチオシアネートの抗炎症作用に関する特許出願が公開され、炎症性疾患の例の一つとして潰瘍性大腸炎についても言及されているが、腸疾患関係の試験例がなく、その効果については全く不明である(特許文献4)。
【0004】
【非特許文献1】プロシーディングス・オブ・ザ・ニュートリション・ソサイアティ(Proc Nutr Soc.)、第65巻、68−75頁、2006年
【特許文献1】特開2005−232178号公報
【特許文献2】特開2006−232765号公報
【特許文献3】特開2007−77122号公報
【特許文献4】国際公開第2007/022434号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、植物食品由来で副作用が少なく、持続的かつ予防的な摂取あるいは投与可能な潰瘍性大腸炎予防・治療剤、ならびにそれを配合してなる医薬品および飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記目的を達成すべく、植物食品由来で安全性が高く潰瘍性大腸炎に効果を示す物質について鋭意検討した結果、大和マナ由来のイソチオシアネート化合物またはその配糖体(グルコシノレート)に潰瘍性大腸炎の予防・治療効果を見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)アブラナ科アブラナ属植物由来のイソチオシアネート化合物および/またはその配糖体を有効成分として含有することを特徴とする潰瘍性大腸炎予防および治療剤;
(2)前記アブラナ科アブラナ属植物が大和マナである(1)記載の潰瘍性大腸炎予防および治療剤;
(3)前記イソチオシアネート化合物が、アリールアルキルイソチオシアネートである(1)記載の潰瘍性大腸炎予防および治療剤;
(4)前記アリールアルキルイソチオシアネート化合物がフェネチルイソチオシアネートである(3)記載の潰瘍性大腸炎予防および治療剤;
(5)前記イソチオシアネート化合物が、アルケニルアルキルイソチオシアネートである(1)記載の潰瘍性大腸炎予防および治療剤;
(6)前記アルケニルアルキルイソチオシアネート化合物が3−ブテニルイソチオシアネートである(5)記載の潰瘍性大腸炎予防および治療剤;
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の潰瘍性大腸炎予防および治療剤を配合してなる医薬品;
(8)(1)〜(6)のいずれかに記載の潰瘍性大腸炎予防および治療剤を配合してなる飲食品;
などに関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、植物食品由来のイソチオシアネート化合物および/またはその配糖体を有効成分として含有することにより、副作用が少なく、経口的に、持続的かつ予防的な摂取あるいは投与可能な潰瘍性大腸炎の予防・治療剤、ならびにそれを配合してなる医薬品および飲食品を提供されることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下において、本発明を詳細に説明する。本発明におけるイソチオシアネート化合物またはその配糖体(グルコシノレート)は、アブラナ科アブラナ属由来のものが利用されるが、そのアブラナ科アブラナ属植物としては、ブロッコリー、ケール、キャベツ、ハクサイ、大和マナ、小松菜、カリフラワー、カブ、チンゲンサイ、ミズナ、ノザワナなどがある。
【0010】
本発明のイソチオシアネート化合物はアブラナ科アブラナ属由来のものが利用されるが、一方では、イソチオシアネート基を有し、潰瘍性大腸炎予防および治療作用を有する限りその構造は限定されないが、アリールアルキルイソチオシアネートおよびアルケニルアルキルイソチオシアネートが好ましく、特にアリールアルキルイソチオシアネートが好ましい。
【0011】
アリールアルキルイソチオシアネートとしては、ベンジルイソチオシアネート、フェネチルイソチオシアネート、4−ハイドロオキシベンジルイソチオシアネートなどが挙げられるが、特にフェネチルイソチオシアネートが好ましい。
【0012】
アルケニルアルキルイソチオシアネートとしては、アリルイソチオシアネート、3−ブテニルイソチオシアネート、4−ペンテニルイソチオシアネート、5−ヘキセニルイソチオシアネートなどが挙げられるが、特に3−ブテニルイソチオシアネートが好ましい。
【0013】
これらアブラナ科アブラナ属植物由来のイソチオシアネート化合物は、これら植物体において、配糖体(グルコシノレート)として存在しており、そのイソチオシアネート配糖体は細胞内在ミロシナーゼ等の酵素と接触することによりイソチオシアネート化合物へ変換される。また、イソチオシアネート配糖体は、ヒトの腸内細菌によりイソチオシアネート化合物へ変換されることが知られている。
【0014】
このようにアブラナ科アブラナ属植物においては、イソチオシアネート配糖体として存在しているため、イソチオシアネート化合物に変換して用いてもよいが、その配糖体(グルコシノレート)を潰瘍性大腸炎予防・治療剤として用いてもよい。さらにイソチオシアネート配糖体を用いる場合に、外在性のミロシナーゼを添加して用いてもよい。さらにはアブラナ科アブラナ属植物体、特に大和マナそのものを用いてもよい。
【0015】
アブラナ科アブラナ属植物、特に大和マナからのイソチオシアネート化合物の抽出は、例えば、植物体をすりおろしなどによる粉砕ないし細断した後、植物内在性のミロシナーゼにより、イソチオシアネート配糖体からイソチオシアネート化合物を十分に生成させてから、適当な溶媒にて抽出することにより行うことができる。抽出溶媒としては、イソチオシアネート化合物の性質にもよるが、酢酸エチル、酢酸メチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、エチルイソプロピルエーテルなどのエーテル類、クロロホルム、ジクロロメタンなどのハロゲン系炭化水素、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類などの溶媒が用いられる。好ましくは、酢酸エチルが用いられる。
【0016】
イソチオシアネート化合物は、試薬として市販されているものは購入により入手可能であるが、種々の化学合成によっても得られる。例えば、アミン化合物やシリルアミン化合物等から容易に得られる(Tetrahedron Letters,26,166−4(1985),Synthesis,539(1970)等)。
【0017】
一方、アブラナ科アブラナ属植物、特に大和マナからイソチオシアネート配糖体(グルコシノレート)の抽出は、例えば、あらかじめ植物体の内在性ミロシナーゼを加熱等により不活化し、続いてすりおろしなどによる粉砕ないし細断した後、ろ過し、ろ液をカラムクロマトグラフィーなどにより分離精製することにより、目的とするイソチオシアネート配糖体(グルコシノレート)が得られる。他方、イソチオシアネート配糖体(グルコシノレート)は、種々の化学的方法によっても得ることができる(Tetrahedron,36,779−783(1980)等)。
【0018】
かくして得られたイソチオシアネート化合物および/またはその配糖体は、1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、イソチオシアネート化合物および/またはその配糖体は、単独で摂取することは可能であるが、各種飲食品に添加してあるいは医薬組成物として使用することができる。具体的には、菓子、パン類、麺類の固形食品あるいはジュースや健康茶等の飲料品に添加して、または粉末状、顆粒状、カプセル状および錠剤などの医薬品・医薬部外品等の組成物として用いることができる。なお、各種飲食品に添加する場合、アブラナ科植物自体、特に大和マナ自体を用いても良い。即ち、大和マナをそのまま用いても良いが、細断あるいは粉末化したもの、ペースト状化したもの、ホモジナイズ化して不溶物をろ過したろ液、又はそのろ液を濃縮したもの等種々の形態のものが用いられる。
【0019】
本発明のイソチオシアネート化合物および/またはその配糖体を治療目的あるいは予防的目的の医薬として用いる場合の投与量は、その製剤形態、投与方法、使用目的および投与される患者の年齢、体重、症状によって異なるが、成人1日当たり好ましくは0.001〜2000mg/kg体重であり、より好ましくは0.01〜200mg/kg体重である。
【0020】
一方、イソチオシアネート化合物および/またはその配糖体、ならびにそれを含有するアブラナ科植物体を飲食品として用いる場合の有効成分の摂取量は、好ましくは0・0001〜100mg/kg体重、より好ましくは0.01〜1mg/kg体重である。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。本発明は以下の実施例によってなんら限定されるものではなく、本発明の属する技術分野における通常の変更を加えて実施することが出来ることは言うまでもない。
【0022】
実施例1 (大和マナからフェネチルイソチオシアネート(PEITC)の単離)
収穫した大和マナ40gを細断後、PBS(200mL)を加えて、5秒間ホモジナイズし10分放置した後に、ガーゼろ過を行なった。ろ液をクロロホルムにて抽出し、抽出液を乾燥後減圧濃縮すると油状物が得られた。得られた油状物(1.5g)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/n−ヘキサン)にて精製するとフェネチルイソチオシアネートが16mg得られた。本品は、HPLC分析(YMC−Pack ODS AQ−302カラム、MeOH:HO=70:30、1.0mL/min、244 nm)及びH−NMR分析の結果、共に標品(東京化成より購入のフェネチルイソチオシアネート)と完全に一致した。
【0023】
実施例2 (フェネチルグルコシノレート(PEGLS)の単離・精製)
収穫した大和マナ119gを80℃に熱した100mLの蒸留水で20分間処理し、ミロシナーゼを失活させた。その後、常温に戻したマナを蒸留水ごと、30秒間ホモジナイズ、遠心分離(3100rpm,5min)することで、マナの熱水抽出液と残渣を得た。また、残渣はもう一度、熱水抽出を行い、得られた熱水抽出液も1回目の熱水抽出液と合わせた。続いて、熱水抽出液に1M酢酸亜鉛を5mL添加し、攪拌することでタンパク質を沈殿させ、遠心分離を行うことで、除タンパクを行った。得られた上清は、陰イオン交換樹脂(DEAE Sephadex A−25)、続いて分取HPLC(Cosmosil Hilic,CHCN:10mmol/mL酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.6)=1:1,1.0mL/min,254nm)により精製すると、フェネチルグルコシノレート(フェネチルイソチオシアネート配糖体)が黄色不定形粉末として得られた。本品は、高分解能ESI−MSにより得られた分子イオンピークの値[m/z 422.05850 (M−H)、Δ−0.0mmu]より、分子式がC1521NOであり、フェネチルグルコシノレートの分子式と一致した。また、H−NMRおよび13C−NMRスペクトルデータを以下に示すが、これらのデータは文献値(Fitoterapia,72巻760−764頁2001年)と良く一致した。
H−NMR(DO):7.38(4H,m,H11 and H12),7.31(1H,t,J=7.00Hz,H13),4.89(1H,d,J=9.71Hz,H1),3.84(1H,d,J=12.80Hz,H−6a),3.67(1H,dd,J=5.10&12.80Hz,H−6b),3.47(4H,m,H2,H3,H4 and H5),3.05(4H,m,CH−8 and CH−9).
13C−NMR(DO):166.2(C7),143.4(C10),131.6(C11 and C12),129.5(C13),84.5(C1),82.9(C5),79.9(C3),74.7(C2),71.9(C4),63.4(C6),36.8 and 35.4(C8 and C9).
【0024】
実施例3 (潰瘍性大腸炎抑制効果試験)
(1)(試薬およびサンプルの調製)
DSS(デキストラン硫酸ナトリウム)30gを水道水1000mLに溶解し、3%DSS溶液を調整した。PEITCは、0.4mg/kg体重および2mg/kg体重、PEGLSは、2mg/kg体重および20mg/kg体重の用量になるようにコーン油に溶かして試験用サンプルとした。
【0025】
(2)(試験方法)
雌5週齢ICRマウス4頭(清水実験材料より購入)を1群とし、コントロール群(CTL)、対照群(DSS)、PEITC投与群(0.4、2mg/kg体重)およびPEGLS投与群(2、20mg/kg体重)の計6群に分けた。マウスへの投与スケジュールは図1(マウス大腸炎実験プロトコール)に示す。即ち、コントロール群には水道水を、対照群、PEITCおよびPEGLS投与群には7日目から3%DSS水溶液を投与し大腸炎を誘導した。PEITCおよびPEGLS投与群には、2日に1回PEITCおよびPEGLSのコーン油溶液を腹腔内投与した。DSS投与開始から7日目に解剖をおこない、大腸は摘出後直ちに肛門から盲腸までの長さを測定した。結果は、図2に示す。
【0026】
(3)(試験結果)
図2から、PEITCの腹腔内投与群においては、DSS投与によって引き起こされる大腸の萎縮が有意差を持って抑制され、潰瘍性大腸炎の予防・治療効果が判明した。また、PEGLS投与群においても、大腸の萎縮に抑制傾向が見られた。一方、肝臓、腎臓、脾臓重量については特に各群で有意差はなかった(データは示さず)。
【0027】
実施例4 (潰瘍性大腸炎抑制効果試験2)
(1)(試験用飼料の調製)
PEITC(0.24,2.4mmol/kg飼料重量)、あるいはPEGLS(0.24,2.4mmol/kg飼料重量)をメタノールに溶解してからMF粉末飼料(基本飼料;オリエンタル酵母社製)に混ぜて試験用飼料とした。
【0028】
(2)(試験方法)
雌5週齢ICRマウス5頭を1群とし、コントロール群(CTL)、対照群(DSS)、PEITC投与群(2.4、0.24mmol/kg飼料重量)およびPEGLS投与群(2.4、0.24mmol/kg飼料重量)の計6群に分け、2日間予備飼育してから実験に用いた。試験スケジュールは図3に示す。即ちコントロール群には、飲料水及び餌料(MFペレット;オリエンタル酵母社製)を自由に与え、対照群には、最初の7日間は通常の飲料水を与え、後の7日間は3%(w/v)のDSSを添加した飲料水を与え、飼料は自由に与えた。PEITC投与群およびPEGLS投与群は、最初の7日間は通常の飲料水を与え、後の7日間は3%(w/v)のDSSを添加した飲料水を与え、(1)で調製した試験用飼料を最初から試験終了(14日間)まで与えた。実験開始後14日目に解剖を行い、大腸は摘出後直ちに肛門から盲腸までの長さを測定した。結果は図4に示す。
【0029】
(3)(試験結果)
図4から、PEITC投与群およびPEGLS投与群ともに対照群より大腸の長さが長く、ともに大腸炎の抑制傾向を示した。即ち、PEITCおよびPEGLSは経口投与でも大腸炎抑制効果を示した。
【0030】
実施例5 (大腸粘膜におけるIL−1β産生量測定)
(1)(試験サンプルの調整)
実施例4で長さを測定した大腸を外科用はさみで開き、内容物を取り出した。大腸粘膜を外科用はさみで細かく刻み、粘膜15〜20mgをPBS(リン酸緩衝液)500μLに懸濁し、ホモジナイザーを使用してさらに細かく粉砕し、PBSをさらに500μL加えた後、混合物を遠心分離(1900g,4℃,15分間)した。上清をPBSで20倍に希釈し試験溶液とした。
【0031】
(2)(ELISA法によるIL−1βの濃度測定)
IL−1βの濃度を、Pierce Biotechnology, Inc.社製のEndogen Mouse IL−1β ELISA Kit(EMIL1B2)のELISAキットを用いて測定した。即ち、IL−1β抗体がウェルの底についたプレートを用い、そこへ第1抗体50μLと試験溶液50μLを入れ、ウェルにシールでフタをし、2時間室温で放置した。次にウォッシングバッファーでウェルを3度洗い、第2抗体100μLを入れ、ウェルにシールでフタをし、30分間室温で放置した。ウォッシングバッファーでウェルを3度洗い、ホースラディッシュペルオキシダーゼの基質100μLを添加し、暗所で30分間放置し、ストップバッファーを入れて反応をとめ、450nmで吸光度を測定した。同時にIL−1βの検量線を作製し、試験溶液のIL−1β濃度を算出した。また大腸粘膜のタンパク量も定量し、結果をタンパク質量当たりの値として補正した。結果を図5に示す。
【0032】
(3)(試験結果)
図5から、大腸粘膜におけるIL−1βの産生量は、PEITC投与群およびPEILS投与群ともに対照群よりも少なく、PEITCやPEILSがin vivo試験でもIL−1βの大腸粘膜における炎症性サイトカイン産生抑制効果を示すことがわかった。
【0033】
実施例6 (3−ブテニルグルコシノレート(BUGLS)の単離・精製)
収穫した大和マナ119gを80℃に熱した100mLの蒸留水で20分間処理し、ミロシナーゼを失活させた。その後、常温に戻したマナを蒸留水ごと、30秒間ホモジナイズ、遠心分離(3100rpm,5min)することで、マナの熱水抽出液と残渣を得た。また、残渣はもう一度、熱水抽出を行い、得られた熱水抽出液も1回目の熱水抽出液と合わせた。続いて、熱水抽出液に1M酢酸亜鉛を5mL添加し、攪拌することでタンパク質を沈殿させ、遠心分離を行うことで、除タンパクを行った。得られた上清は、陰イオン交換樹脂(DEAE Sephadex A−25)により精製を行い、最終的には分取HPLC(Cosmosil Hilic,CHCN:10mmol/mL酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.6)=1:1,1.0mL/min,254nm)を行うことにより、3−ブテニルイソチオシアネート配糖体(3−ブテニルグルコシノレート)を単離した。本品は、黄色不定形粉末として得られ、水に可溶であった。高分解能ESI−MSにより得られた分子イオンピークの値[m/z 372.04285 (M−H)−Δ−0.04mmu]より、分子式がC1119NOであり、3−ブテニルイソチオシアネート配糖体の分子式と一致した。
本品のH−NMRおよび13C−NMRスペクトルデータを以下に示す。そして、これらのスペクトルの解析から、本品は3−ブテニルイソチオシアネート配糖体であると決定した。
H−NMR(DO):5.94(1H,m,H10),5.17(1H,dd,J=1.25&17.24Hz,H−11a),5.09(1H,dd,J=1.25&10.50Hz,H−11b),5.04(1H,d,J=9.83Hz,H1),3.90(1H,d,J=12.59Hz,H−6a),3.72(1H,dd,J=5.63&12.59,H−6b),3.57−3.47(4H,m,H2,H3,H4 and H5),2.84(2H,m,CH2−9),2.49(2H,m,CH2−8).
13C−NMR(DO):166.6(C7),139.6(C10),118.8(C11),84.6(C1),82.9(C5),79.9(C3),74.8(C2),72.0(C4),63.4(C6),36.8 and 35.4(C8 and C9).
また、本品のミロシナーゼ(シグマ社より購入)反応生成物のHPLC分析(Cosmosil 5C18−MSII,CHOH:HO=4/6−(5min)−4/6−(5min)−6/4−(7.5min)−6/4−(7.5min)−10/0−(5min)−10/0−(10min)−10/0,1.0mL/min,254nm)の結果が標品の3−ブテニルイソチオシアネート(東京化成より購入)の結果と完全に一致した。
【0034】
実施例7 (3−ブテニルイソチオシアネート(BUITC)の検出)
収穫した大和マナ17gに100mlの蒸留水を添加し、30秒間ホモジナイズし、37℃で2時間放置し、生体内ミロシナーゼで反応させた。その後、ホモジナイズ液を、遠心分離(3100rpm,5min)することで、マナの水抽出液を得た。続いて、水抽出液を等量の酢酸エチルで分配することにより、酢酸エチル画分を得、HPLC分析用サンプルとした。上記サンプルを用いたHPLC分析(Cosmosil5C18−MSII,CHOH:HO=4/6−(5min)−4/6−(5min)−6/4−(7.5min)−6/4−(7.5min)−10/0−(5min)−10/0−(10min)−10/0,1.0mL/min,254nm)の結果、3−ブテニルイソチオシアネートの存在を確認した。
【0035】
実施例8 (マウス腹腔マクロファージにおけるIL−β産生抑制試験)
常法に従って用意したマウス腹腔マクロファージを、DSS(10μg/mL)で刺激を与え、IL−1β産生を誘発し、それに種々の濃度の3−ブテニルイソチオシアネート(BUITCは東京化成より購入)および3−ブテニルグルコシノレート(BUGLS)のDMSO溶液(0.5%、v/v)を添加し、24時間処理した後、遠心分離し、上清を実施例4と同様にELISAキットを用いてIL−1β濃度を測定した。BUITCおよびBUGLSのIL−1β産生抑制作用を調べた結果、BUITCは2μM、10μMでそれぞれ約50%、100%抑制した。一方、BUGLSは50μMで約90%抑制した。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明により、植物食品由来のイソチオシアネートまたはその配糖体を含有することにより、副作用が少なく、持続的かつ予防的な摂取あるいは投与可能な潰瘍性大腸炎予防・治療剤、さらにそれを配合してなる医薬品および飲食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例3のマウス大腸炎実験プロトコールを示す。
【図2】実施例3の各群のマウスの大腸長を示す。
【図3】実施例4のマウス大腸炎実験プロトコールを示す
【図4】実施例4の各群のマウスの大腸長を示す
【図5】実施例5の各群のマウス大腸粘膜のIL−1β産生量を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アブラナ科(Brassicaceae)アブラナ属(Brassica)植物由来のイソチオシアネート化合物および/またはその配糖体を有効成分として含有することを特徴とする潰瘍性大腸炎予防・治療剤。
【請求項2】
前記アブラナ科アブラナ属植物が大和マナ(Brassica rapa L.)である請求項1記載の潰瘍性大腸炎予防・治療剤。
【請求項3】
前記イソチオシアネート化合物が、アリールアルキルイソチオシアネートである請求項1記載の潰瘍性大腸炎予防・治療剤。
【請求項4】
前記アリールアルキルイソチオシアネート化合物がフェネチルイソチオシアネートである請求項3記載の潰瘍性大腸炎予防・治療剤。
【請求項5】
前記イソチオシアネート化合物が、アルケニルアルキルイソチオシアネートである請求項1記載の潰瘍性大腸炎予防・治療剤。
【請求項6】
前記アルケニルアルキルイソチオシアネート化合物が3−ブテニルイソチオシアネートである請求項5記載の潰瘍性大腸炎予防・治療剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の潰瘍性大腸炎予防・治療剤を配合してなる医薬品。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項記載の潰瘍性大腸炎予防・治療剤を配合してなる飲食品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−73804(P2009−73804A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322767(P2007−322767)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(306023336)財団法人奈良県中小企業支援センター (18)
【Fターム(参考)】