説明

濡れ性制御方法

【課題】 本発明は、光分解性薄膜の光分解効率を上昇させ、比較的短時間の露光により、十分に光分解させることによって、基板表面の濡れ性を効率よく制御する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、光分解性薄膜(100)に被覆された基板(10)表面の一部に光照射する露光工程を含み、該光照射で光分解性薄膜(100)を分解し、基板(10)表面に所定の濡れ性を付与する官能基(14)を露出させることによって、基板(10)表面の濡れ性を制御する方法であって、前記露光工程は、光分解性薄膜(100)を加熱しながら行う、濡れ性制御方法を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光分解性薄膜を利用して、基板表面の濡れ性を所望の微細なパターンに従って制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子を含む溶液を基板上に配置して配線パターンを形成する場合や、有機エレクトロルミネッセンス装置、液晶表示装置、プラズマ表示装置等の各種デバイスの材料層の形成に液体材料を使用する場合等、所望の領域に正確に液体が配置されるように、予め、微細なパターンに従って基板表面の濡れ性を制御しておく技術が必要とされている。
【0003】
このような技術として、基板表面に、光分解性を有する化合物による自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer; SAM)を形成し、特定の領域に光照射して分解反応を生じさせ、当該分解によって当初とは異なる官能基を露出させることによって、基板表面の濡れ性をコントロールする方法が提案されている(例えば、特許文献1または2を参照)。
【0004】
SAMを形成する方法によれば、スピンコート法によって感光性高分子膜を形成する場合に比較して、簡単なプロセスで薄膜を作製できると共に、材料の浪費を大幅に抑えることが可能である。
【特許文献1】特開2003−321479号公報
【特許文献2】特開2004−231590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、SAMは、膜厚が一分子分の厚さと非常に薄いために光吸収効率が悪く、十分に光分解反応が生じるまでに比較的長時間の光照射が必要となる(例えば、H. Sugimura et al., Surface and Coating Technology, 2003, 167-170, 211;H. Sugimura et al., Ouyou Butsuri, 2001, 70, 1182等参照。)
そこで、本発明は、光分解性薄膜の光分解効率を上昇させることにより、比較的短時間の光照射で十分に光分解させ、基板表面の濡れ性を効率よく制御する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る濡れ性の制御方法の第一の態様は、光分解性薄膜に被覆された基板表面の一部に光照射する露光工程を含み、該光照射で該光分解性薄膜を分解し、基板表面に所定の濡れ性を付与する官能基を露出させることによって、基板表面の濡れ性を制御する方法であって、前記露光工程を、前記光分解性薄膜を加熱しながら行うことを特徴とする。
【0007】
露光工程を行うときに光分解性薄膜を加熱することにより、薄膜における分子運動が活発になって活性化エネルギーが大きくなるので、光分解効率を向上させ、露光時間を短縮することができる。光分解性薄膜の加熱は、基板を加熱することによって行うことができる。また、赤外光等を照射して薄膜の表層から加熱してもよい。
【0008】
また、本発明に係る濡れ性の制御方法の第二の態様は、光分解性薄膜に被覆された基板表面の一部に光照射する露光工程を含み、該光照射で該光分解性薄膜を分解し、基板表面に所定の濡れ性を付与する官能基を露出させることによって、基板表面の濡れ性を制御する方法であって、前記露光工程は、前記基板を極性溶媒、酸水溶液、およびアルカリ水溶液からなる群から選択される一の液体に浸漬させて行うことを特徴とする。
【0009】
このような構成によれば、溶液の極性等によって光分解効率が向上されるので、露光時間を短縮することができる。また、光分解反応による分解産物を溶解可能な溶液であれば、分解産物が基板表面に再吸着することを防止できるという効果も得られる。
【0010】
基板を液体に浸漬させて露光工程を行う場合は、液体を加熱しておくことが望ましい。加熱することによって、光分解効率はより向上され、露光時間を短縮することが可能となる。
【0011】
また、本発明に係る濡れ性制御方法では、露光工程の後、前記光照射した領域に残留する薄膜を除去する除去工程を含むことが好ましい。光分解反応後、露出する官能基は、その種類によっては、分解産物を吸着させたり、経時的に濡れ性が変化したりするものがある。このような場合は、光分解反応後に残留する薄膜を除去して、別の官能基を露出させる等により、基板表面の濡れ性を制御することができる。
【0012】
除去工程は、例えば、エッチング液を加熱しながらエッチングすることによって行うことができる。このような方法によれば、加熱によって薄膜の活性化エネルギーが大きくなり、除去しやすくなる。
【0013】
また、上記エッチングの際は、薄膜の分解産物を溶解可能なエッチング液を用いることが好ましい。こうすることにより、分解産物が基板表面に再吸着することを防ぐことができる。
【0014】
また、上記エッチングの際、光照射した領域に残留する薄膜のみならず、基板表面をも侵食可能なエッチング液を用いることが好ましい。このようなエッチング液を用いれば、基板自体が有する官能基が露出されることで、さらに濡れ性を変化させることができる。
【0015】
また、除去工程は、基板表面を物理的に研磨することによっても行うことができる。露光領域と非露光領域では摩擦係数も異なると考えられるため、物理的研磨による影響も異なり、領域によって異なる官能基を露出させ、基板表面の濡れ性を変化させることができる。
【0016】
また、除去工程は、基板表面をプラズマ処理することによっても行うことができる。露光領域と非露光領域ではプラズマ処理に対する耐性も異なることから、プラズマ処理による効果も領域によって異なるので、基板表面の濡れ性を変化させることができる。
【0017】
また、本発明に係る濡れ性制御方法に用いられる光分解性薄膜としては、まず末端にアミノ基を有する化合物を基板上に固定し、このアミノ基に、下記式[I]で表される化合物のR2を結合させることによって形成されたものを用いることが好ましい。
【0018】
【化1】

【0019】
この光分解性薄膜は、基板表面に強い撥液性を付与するとともに、比較的長波長の光の照射によって分解されやすい。そして、分解反応が起こると基板表面にアミノ基が現れるので、この領域に親液性が付与されることになり、効率よく基板表面の濡れ性を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、図面を参照して本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
(光分解性薄膜の形成)
図1は、本発明に係る基板表面の濡れ性制御方法の一実施形態の概略を示す説明図である。本実施形態では、まず、基板表面に撥液性を与える光分解性薄膜を形成し、この光分解性薄膜を分解し、さらにエッチングを行って基板表面に撥液性領域と親液性領域を形成することによる基板表面の濡れ性制御方法を例に挙げて説明する。
【0021】
図1(A)に、一端にアミノ基14を有する化合物12を、基板10表面に固定する工程を示す。基板10としては、例えばガラス基板、金属基板、シリコン基板等を適宜目的に併せて用いることができる。基板は、化学洗浄処理、オゾン洗浄等により、表面を清浄にしてから用いるとよい。
【0022】
化合物12を基板10に固定する方法は特に限定されないが、化合物12として、アミノ基14とは別の末端に、基板10表面に親和性を有する官能基を備えたものを用いることにより、容易に固定することができる。このような官能基としては、例えば、アルコキシシラン、ハロゲン化シラン、アミノ基、ウレタン基、カルボキシル基、カルボニル基、ウレア基、スルホン基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基、エポキシ基、カルボジイミド基、マレイミド基、N−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS基)等が挙げられる。中でも、基板10がガラスの場合には、アルコキシシランまたは−SiLnで表されるハロゲン化シラン(ここで、Lはアルコキシ基またはハロゲンを閉めし、nは1〜4の整数を示す)、基板10がシリコンの場合には、アミノシラン、基板10が金、銀等の金属基板の場合は、チオール基が好ましく、化合物12がこれらの官能基を備えていれば、各基板表面でSAMを形成することが可能である。
【0023】
尚、本実施形態では、化合物12としてアミノ基14を備えるものを用いているが、化合物12は、基板表面の濡れ性を変化させる化合物を結合可能な官能基であれば、いずれの官能基を有するものであってもよい。化合物12が有する官能基としては、アミノ基のほか、例えば、ウレタン基、カルボキシル基、カルボニル基、ウレア基、スルホン基、チオール基、スルフィド基、ジスルフィド基、エポキシ基、カルボジイミド基、マレイミド基、アルコキシシラン、ハロゲン化シラン、NHS等を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0024】
次に、図1(B)に示すように、化合物12のアミノ基14に、撥液性を有する化合物16を結合させ、光分解性薄膜100を形成する。基板表面に撥液性を付与する化合物16としては、置換基を有していてもよい飽和または不飽和アルキル基、置換基を有していてもよい飽和または不飽和フッ素鎖を有する化合物等が好適に用いられる。このような化合物の一例として下記式[I]で表される化合物が挙げられる。
【0025】
【化2】

【0026】
式[I]で表される化合物としては、例えば、下記式[II]および[III]で示される化合物が挙げられる。
【0027】
【化3】

【0028】
【化4】

【0029】
式[I]で表される化合物を用いる場合は、当該化合物のR2部分(式[II]または[III]におけるNHS基部分)が、化合物12のアミノ基14を結合する。この結合は、比較的長波長、好ましくは254nm〜400nmの紫外線を吸収して分解される。
【0030】
図2に、化合物12の一例として、末端にアミノ基を有するチオール化合物(NH2−(CH26−SH)を用い、これに上記式[II]で表される化合物を結合させて光分解性薄膜を形成し、光照射して結合を切断する一連の反応の概略を示す。
【0031】
まず図2(A)に示されるように、チオール化合物12を、チオール基を介して基板10表面に結合させ、SAMを形成する。これにより、基板表面には、化合物12のアミノ基によって親液性が付与される。次に図2(B)に示されるように、例えばトリエチルアミンの存在下、このアミノ基に、上記式[II]で表される化合物12を結合させる。これにより光分解性薄膜100が形成され、基板10表面には、疎水性または疎油性の官能基R3が露出し、基板表面は撥液性となる。光分解性薄膜は、図2(C)に示されるように、所定の光を照射することによって分解し、再度アミノ基が出現することにより基板10表面は親液性となる。
(露光工程)
次に、本発明に係る濡れ性制御方法の露光工程について説明する。図1(C)に露光工程を示す。光分解性薄膜100は、基板表面に撥液性を付与するため、露光工程では、親液性を付与したい領域に光を照射する。領域選択的に光を照射する方法は特に限定されないが、本発明ではマスク20を用いて露光領域を選択する。
【0032】
本実施形態では、基板10を液体18に浸漬させて光照射を行う。液体18としては、分解反応を生じやすくするものが好ましく、また、光分解反応による分解産物を溶解可能なものはさらに好ましい。このような液体としては、極性溶媒、酸水溶液、アルカリ水溶液等が挙げられ、具体的には、DMF、DMSO、HNPA、ピロリドン系溶媒、ジオキサン、THF、アルコール(MeOH、EtOH及びIPA)、アセトニトリル等を用いることができる。
【0033】
また、液体18はヒーター22で加熱することが好ましい。尚、液体を加熱する方法はその他の公知の方法を用いることができ、基板10を液体に浸漬させずに露光する場合は、ホットプレート等を用いて基板10自体を加熱してもよい。
【0034】
このように、液体18中で加熱しながら露光することによって、光分解性薄膜100の分解反応が起こりやすくなり、露光時間を短縮することができる。また、液体18が、光分解反応による分解産物(例えば、図2(C)に示す分解産物13)を溶解できるものである場合は、この分解産物が再び基板表面に吸着するのを防ぐことができるという効果も得られる。
【0035】
尚、上記加熱工程は、基板が熱に弱い場合、赤外光若しくは遠赤外光を部分的に照射することによって行うこともできる。照射される表層から熱が伝わるため、基板が過度に加熱されるのを防ぐことができる。
(除去工程)
図3(C)に示すように、露光工程後、光分解性薄膜100のうち光照射された領域には、基板10表面に、アミノ基14を有する化合物12からなる薄膜が残される。この領域には、アミノ基14によって親液性が付与されるが、化合物12からなる薄膜をさらに除去することによって、別の官能基を露出させ、基板表面の濡れ性を変化させることもできる。図3(D)は、化合物12からなる薄膜を除去した状態を示す模式図である。基板10表面には、化合物と基板10との結合が切断されることによって露出した官能基15が現れる。官能基15が、アミノ基14よりも高い親液性を有していれば、露光領域と非露光領域との親液性の差もより大きくなる。
【0036】
化合物12の除去は、例えばエッチングによって行うことができる。エッチングの際も、加熱することが好ましい。加熱することによって、エッチング反応の活性化エネルギーを大きくすることができるとともに、分解産物がエッチング液に溶解しやすくなるという光かも得られる。加熱方法は、露光処理時と同様の方法を用いることができるので、ここでは説明を省略する。
【0037】
また、エッチングの際は、露光による光分解性薄膜100の分解産物(例えば図2の化合物13)を溶解可能なエッチング液を用いるとよい。このようなエッチング液を用いれば、分解産物が再び基板表面に吸着され、基板表面に撥液性を与えるのを防ぐことができる。
【0038】
また、エッチングの際は、基板10表面をも侵食可能なエッチング液を用いるとよい。これによって、基板が有する官能基が表面に露出し、基板表面の濡れ性をさらに変化させることができる。例えば、基板10としてガラス基板またはシリコン基板等を使用している場合は、エッチング液として強アルカリ水溶液(水酸化ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、アルカリ現像液FHD(富士フイルムアーチ株式会社製)等)、または酸化力が高い強酸性溶液(硫酸とか参加水素を混合したピラナー溶液等)を用い、基板10をこのエッチング液に浸漬させることによって、化合物12と基板10との結合が切断され、表面に親水性の高いSi−OH基を露出させることができる。光照射によって、基板10表面に露出するアミノ表面は、一般に接触角が変化しやすいが、これによって、より安定で親水性の高い表面を構成することが可能となる。
【0039】
上述した式[I]で表される化合物を用いて光分解性薄膜100を形成すると、非露光領域の表面はフッ素鎖が密に存在するため、エッチング液の影響を受けにくい。そのため、基板10全体をエッチング液に浸漬させても、露光によって親水性が高められた領域のみエッチングし、露光領域と非露光領域の表面エネルギーの差をより大きくすることが可能である。
【0040】
また、露光工程後、露光領域に残された化合物12からなる薄膜は、基板10表面を物理的に研磨することによっても除去することができる。例えば、研磨剤などを用いて研磨することによって、露光領域に、化合物12と基板10の結合が切断され、官能基15(図1(D)参照)が現れる。研磨は、ダイヤモンドスラリーまたはペースト、コロイダルシリカ、酸化アルミ、酸化セリウム等の研磨剤をスポンジや布等にとり、洗浄したときに濡れ性に顕著な違いがでるまで表面を研磨することによって行うことができる。
【0041】
上述した式[I]で表される化合物を用いて光分解性薄膜100を形成すると、非露光領域の表面はフッ素鎖が密に存在するため、その低い表面エネルギーによって摩擦係数が大幅に低下する。それにより、基板10表面全体を研磨しても非露光領域の薄膜は除去されにくく、露光領域の薄膜のみが除去される。基板10がガラス基板やシリコン基板である場合は、露光領域に表面にSi−OH基が現れ、非露光領域との濡れ性の差をより大きくすることができる。
【0042】
また、露光工程後、露光領域に残された化合物12からなる薄膜は、基板表面をプラズマ処理することによっても除去することができる。光照射された薄膜と、非露光領域の薄膜とで、プラズマ処理に対する耐性が異なるため、プラズマ処理による効果も領域によって異なり、結果として領域ごとに濡れ性を変化させることができる。
【0043】
上述した式[I]で表される化合物を用いて光分解性薄膜100を形成すると、非露光領域の表面には、プラズマ処理に対する耐性が比較的高いフッ素鎖が高密度に存在するため、光分解性薄膜100が略そのまま残される。一方、露光領域のアミノ基が露出している部分はプラズマ処理されて、親液性の高い官能基が現れる。こうして、非露光領域と露光領域における濡れ性の差を大きくすることができる。
【実施例1】
【0044】
(光分解性薄膜の作製)
化学洗浄処理およびオゾン処理したシリコン基板上に、スパッタ法によって金薄膜を形成し、末端官能基としてアミノ基を有するチオール化合物(NH2−(CH2n−SH[ここでnは2および11を表す])の1mMエタノール溶液に、室温にて2時間浸漬してアミノ処理基板を作成した。
【0045】
次に、このアミノ処理基板を、下記式[II]に示すコハク酸エステル誘導体の0.1mMのDMSO溶液20mLに、室温にて6時間浸漬し、コハク酸エステルと基板に固定されたアミノ基とを反応させた。この際、溶液には、トリエチルアミン0.1mL添加した。
【0046】
【化5】

【0047】
反応後、基板をイソプロピルアルコール(IPA)で洗浄し、窒素雰囲気下で乾燥させた。ここで起こる反応は、図2において、R1をOCH3、R3をCH2CH2(CF25CF3としたものであり、これにより光分解性薄膜が形成された。
(露光工程)
表面に光分解性薄膜が形成された基板を、温度調節器付きのホットプレート上に載置し、基板表面の温度が、室温、50℃、または100℃となるように調節した。さらにその上にフォトマスクを配置し、308nm光源からの光を照射して(エネルギー:0.9mW/cm2)、経過時間に対する接触角の変化を測定した。さらに、露光後、IPAで洗浄したものについても接触角の変化を測定した。
(結果)
各測定結果を図3に示す。図3で、(a)は、加熱をせずに露光のみ行った結果であり、(b)および(c)は、それぞれ50℃および100℃に加熱して露光を行った結果であり、(d)は露光せずに加熱のみ行った結果を表す。測定結果(a)〜(d)のうち、それぞれ下側の線は、露光後にIPA洗浄を行った場合の測定結果である。
【0048】
図示されるように、室温で露光した場合に比較して、50℃に加熱して露光した場合は初期の接触角変化の割合が約2倍、100℃に加熱した場合は約4倍となった。また、室温で露光した場合、最終的に接触角は60度前後までにしか変化しなかったが、100℃で加熱した場合は、40度弱にまで変化した。これらの結果から、露光工程を行う際に加熱することによって、分解反応が促進され、アミノ基が露出されることで、より基板表面の親水性を高められることが確認された。
【0049】
一方、結果(d)に示されるように、露光せずに加熱のみ行っても、接触角の変化はおこらず、光分解性薄膜が基板表面に安定に保持されることを確認できた。
【実施例2】
【0050】
光分解性薄膜の形成工程、および露光工程は、実施例1と同様に行った。但し、基板はガラス基板を用いた。
(除去工程)
露光された領域(露光時間10分)、未露光領域(露光時間0分)が存在する基盤を、エッチング溶液として0.1mMのNaOH水溶液に浸漬させた。図4に、このときの浸漬時間に対する接触角の変化を示す。図示されたように、露光直後は、その接触角の差が30度弱であったが、エッチング処理を10分行った後は、その差が70度まで増加し、露光領域は清浄なアミノ表面の接触角とほぼ同様の値40度まで低下した。さらに、継続してエッチングを行ったところ、露光領域の接触角は10度を下回り、いわゆる超親水表面になった。これらの結果から、エッチング処理により、濡れ性のヒステリシスを向上させることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る基板表面の濡れ性制御方法の概略を示す工程図である。
【図2】光分解性薄膜の形成、および光分解反応の概略を示す説明図である。
【図3】本発明に係る濡れ性制御方法による基板表面の濡れ性の変化を示す。
【図4】本発明に係る濡れ性制御方法による基板表面の濡れ性の変化を示す。
【符号の説明】
【0052】
10…基板、12…親液性化合物、14…アミノ基、16…撥液性化合物、18…液体、20…フォトマスク、22…ヒーター、100…光分解性薄膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光分解性薄膜に被覆された基板表面の一部に光照射する露光工程を含み、該光照射で該光分解性薄膜を分解し、基板表面に所定の濡れ性を付与する官能基を露出させることによって、基板表面の濡れ性を制御する方法であって、
前記露光工程は、前記光分解性薄膜を加熱しながら行う、濡れ性制御方法。
【請求項2】
光分解性薄膜に被覆された基板表面の一部に光照射する露光工程を含み、該光照射で該光分解性薄膜を分解し、基板表面に所定の濡れ性を付与する官能基を露出させることによって、基板表面の濡れ性を制御する方法であって、
前記露光工程は、前記基板を極性溶媒、酸水溶液、およびアルカリ水溶液からなる群から選択される一の液体に浸漬させて行う、濡れ性制御方法。
【請求項3】
前記露光工程は、前記液体を加熱しながら行なうことを特徴とする、請求項2に記載の濡れ性制御方法。
【請求項4】
前記露光工程の後、前記光照射した領域に残留する薄膜を除去する除去工程を含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の濡れ性制御方法。
【請求項5】
前記除去工程は、前記光分解性薄膜を加熱しながらエッチングすることによって行う、請求項4に記載の濡れ性制御方法。
【請求項6】
前記エッチングの際、前記光照射による前記光分解性薄膜の分解産物を溶解可能なエッチング液を用いることを特徴とする、請求項5に記載の濡れ性制御方法。
【請求項7】
前記エッチングの際、前記基板表面を侵食可能なエッチング液を用いることを特徴とする、請求項5に記載の濡れ性制御方法。
【請求項8】
前記除去工程は、前記基板表面を物理的に研磨することによって行う、請求項4に記載の濡れ性制御方法。
【請求項9】
前記除去工程は、前記基板表面をプラズマ処理することによって行う、請求項4に記載の濡れ性制御方法。
【請求項10】
前記光分解性薄膜は、末端にアミノ基を有する化合物を基板上に固定し、該アミノ基に下記式[I]で表される化合物のR2を結合させることによって形成されたものである、請求項1から9のいずれか1項に記載の濡れ性制御方法。
【化1】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−309075(P2006−309075A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−134361(P2005−134361)
【出願日】平成17年5月2日(2005.5.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】