炭化ケイ素の表面処理方法
【課題】炭化ケイ素の表面に反応性イオンエッチングにより微細加工を施す際に、炭化ケイ素の表面を任意形状かつ高精細に微細加工することができ、特に、ナノメートル級の寸法公差による微細加工を行うことができる炭化ケイ素の表面処理方法を提供する。
【解決手段】単結晶炭化ケイ素基板の表面に反応性イオンエッチング(RIE)により微細加工を施す前に行う表面処理方法であって、単結晶炭化ケイ素基板の表面に、アンモニア及び過酸化水素を含む水溶液、塩酸及び過酸化水素を含む水溶液、硫酸及び過酸化水素を含む水溶液、フッ酸及び過酸化水素を含む水溶液の群から選択される1種または2種以上を順次用いてケミカル洗浄を施し、次いで、この表面に酸素プラズマ処理を施す。
【解決手段】単結晶炭化ケイ素基板の表面に反応性イオンエッチング(RIE)により微細加工を施す前に行う表面処理方法であって、単結晶炭化ケイ素基板の表面に、アンモニア及び過酸化水素を含む水溶液、塩酸及び過酸化水素を含む水溶液、硫酸及び過酸化水素を含む水溶液、フッ酸及び過酸化水素を含む水溶液の群から選択される1種または2種以上を順次用いてケミカル洗浄を施し、次いで、この表面に酸素プラズマ処理を施す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素の表面処理方法に関し、特に、炭化ケイ素の表面に反応性イオンエッチングにより微細加工を施す炭化ケイ素の微細加工技術に好適に用いられ、炭化ケイ素の表面を任意形状かつ高精細に微細加工することが可能であり、特に、ナノメートル級の寸法公差による微細加工が可能な炭化ケイ素の表面処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、パワーエレクトロニクスの分野では、パワー半導体素子に、化学的に安定であり、しかも機械的強度が高い半導体材料であるシリコンが用いられてきた。しかしながら、近年における電力制御技術に通じた地球環境対策、電力消費削減対策が注目されているなかで、シリコンを用いたパワー半導体素子は、その材料物性値に起因する性能限界により性能を著しく向上させることが困難となっている。
そこで、次世代半導体材料として炭化珪素(silicon carbide:SiC)が注目されている。
【0003】
炭化ケイ素は、バンドギャップエネルギー(Eg)が広く、高熱伝導度、低熱膨張率などの特徴を有しており、将来、シリコンでは補いきれない物性を有する半導体材料として高周波デバイス、高電力デバイス、パワーデバイス等への応用が期待されている。
この炭化ケイ素は、その高い熱化学的安定性のために微細加工が非常に困難とされているが、その数少ない微細加工技術の一つにケミカルエッチングと称されるウエットエッチングや反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching:RIE)等を用いたドライエッチングがある。
このケミカルエッチングでは、エッチング剤として溶融水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)等を用いた場合、炭化ケイ素を600〜800℃の高温に晒す必要がある上に、得られる断面形状が等方性となるために、異方性エッチングを行うことができないという問題点がある。
【0004】
一方、反応性イオンエッチング(RIE)等を用いたドライエッチングでは、プラズマ中に存在するカチオンによる物理的エッチング及びイオンアシストエッチング、ラジカルによる化学的エッチングを同時に行うことができるために、高い生産性と選択比の高い異方性エッチングを行うことが可能である。
半導体デバイスにおける高密度集積化が著しく進んでいる現在では、より精密な微細加工パターンが要求されているために、エッチング方法としても、この反応性イオンエッチングが半導体産業において主力となっている。
そこで、本発明者等は、炭化珪素の表面を微細加工する技術として、既に、次のような炭化珪素構造体の製造方法を提案している(特許文献1)。
【0005】
この方法は、炭化珪素の表面上に、三フッ化窒素、四フッ化炭素等のフッ化物及び酸素を含む反応ガスを導入し、この表面上にてプラズマを励起させて金属源から放出される金属原子を表面上に島状粒子として堆積させ、この島状粒子をマスクとして炭化珪素の表面にエッチングを施し、この炭化珪素の表面に微小な錐体を形成する方法である。
この方法では、炭化珪素単結晶または炭化珪素多結晶体に、高さ10nm以上かつ500μm以下、その先端部の直径が1nm以上かつ100μm以下の微小な錐体を形成することができる。
【特許文献1】特開2006−103981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の本発明者等が提案した炭化珪素構造体の製造方法においては、確かに、表面に寸法精度に優れた微小な凹凸形状を有する炭化珪素構造体を得ることができるものの、炭化珪素に三フッ化窒素や四フッ化炭素等のフッ化物及び酸素を含む反応ガスを接触させた際に、接触のさせ方によっては、炭化珪素の表面に、スパイク(Spike)と称される無数の針状の突起物が発生するという問題点があった。
そこで、反応ガス中に含まれるフッ化物の種類やフッ化物と酸素の組成比等を変えることで、スパイクの発生量を減少させる工夫がなされているが、スパイクが完全に消失するまでには至っていないのが現状である。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、炭化ケイ素の表面に反応性イオンエッチングにより微細加工を施す際に、炭化ケイ素の表面を任意形状かつ高精細に微細加工することができ、特に、ナノメートル級の寸法公差による微細加工を行うことができる炭化ケイ素の表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、反応性イオンエッチングにより炭化ケイ素の表面に微細加工を施すドライエッチング技術について鋭意検討した結果、反応性イオンエッチングにより微細加工を施す前に、炭化ケイ素の表面にケミカル洗浄を施し、次いで、この表面に酸素プラズマ処理を施す表面処理を行えば、この表面処理が施された炭化ケイ素に反応性イオンエッチングにより微細加工を施すことにより、炭化ケイ素の表面を任意形状かつ高精細に微細加工することが可能であり、特に、ナノメートル級の寸法公差による微細加工を行うことが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の炭化ケイ素の表面処理方法は、炭化ケイ素の表面に反応性イオンエッチングにより微細加工を施す前に行う表面処理方法であって、前記炭化ケイ素の表面にケミカル洗浄を施し、次いで、この表面に酸素プラズマ処理を施すことを特徴とする。
【0010】
前記炭化ケイ素は、単結晶炭化ケイ素であることが好ましい。
前記ケミカル洗浄は、アンモニア及び過酸化水素を含む水溶液、塩酸及び過酸化水素を含む水溶液、フッ酸及び過酸化水素を含む水溶液 、硫酸及び過酸化水素を含む水溶液の群から選択される1種または2種以上を順次用いて、洗浄を行うことが好ましい。
【0011】
前記アンモニア及び過酸化水素を含む水溶液、前記塩酸及び過酸化水素を含む水溶液、前記フッ酸及び過酸化水素を含む水溶液または前記硫酸及び過酸化水素を含む水溶液は、溶媒として超純水または超臨界水を用いることが好ましい。
前記アンモニア及び過酸化水素を含む水溶液、前記塩酸及び過酸化水素を含む水溶液、前記フッ酸及び過酸化水素を含む水溶液または前記硫酸及び過酸化水素を含む水溶液を用いて洗浄した後、超純水または超臨界水を用いて洗浄を行うことが好ましい。
【0012】
前記酸素プラズマ処理は、酸素ガスの流量を10sccm以下に制御した状態にて酸素プラズマ励起を行うことが好ましい。
前記酸素ガスの圧力及び流量を制御することにより、前記炭化ケイ素の平均表面粗さを1nm以下とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の炭化ケイ素の表面処理方法によれば、炭化ケイ素の表面に反応性イオンエッチングにより微細加工を施す前に、前記炭化ケイ素の表面にケミカル洗浄を施し、次いで、この表面に酸素プラズマ処理を施すので、炭化ケイ素の表面の平滑性を向上させることができる。
【0014】
その後、この平滑性が向上した炭化ケイ素の表面に、反応性イオンエッチングにより微細加工を施せば、反応性イオンエッチング後においても、この炭化ケイ素の表面にナノメートル級のスパイク(Spike)と称される無数の針状の突起物が発生する虞が無く、その結果、炭化ケイ素の表面を任意形状かつ高精細に微細加工することができ、さらには、ナノメートル級の寸法公差による微細加工を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の炭化ケイ素の表面処理方法の最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0016】
本発明の一実施形態の炭化ケイ素の表面処理方法は、炭化ケイ素の表面に反応性イオンエッチングにより微細加工を施す前に行う表面処理方法であって、前記炭化ケイ素の表面にケミカル洗浄を施し、次いで、この表面に酸素プラズマ処理を施す表面処理方法である。
【0017】
ここで、炭化ケイ素としては、単結晶炭化ケイ素が好ましく、単結晶炭化ケイ素としては、立方晶系結晶構造である3C型、六方晶系結晶構造である4H型、6H型のいずれかの結晶構造を有する単結晶炭化ケイ素が好ましい。
これら3C型、4H型、6H型の3種類の結晶構造から適時選択し、この単結晶炭化ケイ素の表面を三フッ化窒素でプラズマ処理を行うことにより、極めて平滑な被エッチング面が得られるエッチングが可能となる。
【0018】
例えば、4H型構造の単結晶炭化ケイ素は、バンドギャップエネルギー(Eg)が3.2eVと広く、尚且つ、結晶欠陥が少ない。また、このように優れた性能を保持しながら大口径化が可能である。4H型単結晶炭化ケイ素は、近年、パワーデバイスが高性能化してきていることからも、将来、電気自動車などのパワーデバイスに応用される可能性が高い。
6H型構造の単結晶炭化ケイ素は、電子移動速度は遅いものの、4H型構造の単結晶炭化ケイ素に準ずるものである。
3C型構造の単結晶炭化ケイ素は、バンドギャップエネルギー(Eg)が2.9eVと狭く、結晶欠陥も多いが、比較的簡単な結晶構造で、低温で製造が可能であり、大口径化が可能である。したがって、コストメリットが要求される汎用インバータ等に利用される可能性が高い。
【0019】
このような炭化ケイ素の表面にケミカル洗浄を施す。
ここでは、水溶液A(アンモニア及び過酸化水素を含む水溶液)、水溶液B(塩酸及び過酸化水素を含む水溶液)、水溶液C(フッ酸及び過酸化水素を含む水溶液)、水溶液D(硫酸及び過酸化水素を含む水溶液)の群から選択される1種または2種以上を順次用いて、洗浄を行う。
これらの水溶液においては、過酸化水素の含有率は0.066重量%〜8重量%が好ましく、より好ましくは0.066重量%〜0.33重量%である。
過酸化水素の含有率が0.066重量%未満であると、炭化ケイ素の表面全体に酸化膜を形成することができず、したがって、表面の保護膜としての機能が不十分なものとなり、再汚染を防ぐことができないからであり、一方、含有率が8重量%を超えると、炭化ケイ素の表面全体に必要以上の厚みの酸化膜が形成されてしまい、この酸化膜が絶縁層となって炭化ケイ素の半導体特性を阻害する虞があるからである。
【0020】
このケミカル洗浄に要する時間としては、炭化ケイ素の表面の清浄度が所望の清浄度になるまでの十分な時間が必要であり、概ね0.3時間〜3時間が好ましい。
【0021】
ここで、水溶液A(アンモニア及び過酸化水素を含む水溶液)は、炭化ケイ素の表面に存在するパーティクルおよび有機物を除去するためのもので、これらを効率的に除去するためには、前記水溶液のpHを10〜12に調製することが好ましく、より好ましくは10.5〜11.5である。
この水溶液Aとしては、水溶液中にアンモニア及び過酸化水素が存在したものであればよく、アンモニア水に過酸化水素を添加したもの、過酸化水素水にアンモニアを添加したもの、アンモニア水と過酸化水素水を混合したもの等、いずれでもよい。
【0022】
また、水溶液B(塩酸及び過酸化水素を含む水溶液)は、炭化ケイ素の表面に存在する金属汚染物を除去するためのもので、これを効率的に除去するためには、前記水溶液のpHを0〜2に調製することが好ましく、より好ましくは0.5〜1.5である。
この水溶液Bとしては、水溶液中に塩酸及び過酸化水素が存在したものであればよく、塩酸に過酸化水素を添加したもの、過酸化水素水に塩化水素を添加したもの、塩酸と過酸化水素水を混合したもの等、いずれでもよい。
【0023】
また、水溶液C(フッ酸及び過酸化水素を含む水溶液)は、炭化ケイ素の表面に存在するケイ素の自然酸化膜や金属汚染物を除去するためのもので、これを効率的に除去するためには、前記水溶液のpHを0〜2に調製することが好ましく、より好ましくは概ね2である。
この水溶液Cとしては、水溶液中にフッ酸及び過酸化水素が存在したものであればよく、フッ酸に過酸化水素を添加したもの、過酸化水素水にフッ化水素を添加したもの、フッ酸と過酸化水素水を混合したもの等、いずれでもよい。このフッ酸及び過酸化水素を含む水溶液の替わりに、緩衝フッ酸溶液を用いてもよい。
【0024】
また、水溶液D(硫酸及び過酸化水素を含む水溶液)は、炭化ケイ素の表面に存在する有機汚染物や金属汚染物を除去するためのもので、これを効率的に除去するためには、前記水溶液のpHを0〜2に調製することが好ましく、より好ましくは概ね2である。
この水溶液Dとしては、水溶液中に硫酸及び過酸化水素が存在したものであればよく、硫酸に過酸化水素を添加したもの、硫酸と過酸化水素水を混合したもの等、いずれでもよい。
【0025】
これら水溶液A〜Dを作製する場合、溶媒として純水を用いてもかまわないが、これらの水溶液の作用、効果を十分得るためには、溶媒として超純水または超臨界水を用いることが好ましい。
ここで、超純水とは、理論的に限りなくH2Oに近づいた高純度水のことであり、例えば、室温(25℃)における比抵抗が17.5MΩcm〜18.5MΩcm、直径0.1μm以上の粒子数が20個/cm3以下、生菌数が0.01個/cm3以下、TOC(全有機炭素)が0.1mg/dm3以下等の特性を有するものである。
また、超臨界水とは、水の状態図において、温度、圧力、エントロピーの臨界点(347℃、22.12MPa)より上の温度及び圧力下にある状態の水のことである。
【0026】
これら水溶液A、水溶液B、水溶液C及び水溶液Dのうちいずれかを用いて洗浄した場合、この炭化ケイ素の表面から前記水溶液を完全に除去するためには、この水溶液を用いて洗浄した後、超純水または超臨界水を用いて洗浄を行うことが好ましい。
【0027】
これら水溶液A〜D、超純水及び超臨界水を、目的に応じ、適宜組み合わせることによって、炭化ケイ素の表面の洗浄を効率的に行うことができる。特に、炭化ケイ素として単結晶炭化ケイ素を用いた場合、ケミカル洗浄の過程で水溶液に含まれる過酸化水素により単結晶炭化ケイ素の表面に厚みが1nm程度の酸化膜が形成されるが、このような酸化膜は表面の保護膜として作用するために、表面が再汚染されるのを防止することができる。
【0028】
このケミカル洗浄が施された炭化ケイ素の表面には、炭素が残存しているので、この炭素を除去するために、酸素プラズマ処理を施す。
図1は、炭化ケイ素の表面状態を示す模式図であり、炭化ケイ素1の表面に酸化ケイ素からなる酸化膜2が形成され、この酸化膜2上にH2SiO3等のケイ酸化合物3及び炭素4が点在している。
【0029】
図2は、炭化珪素の表面に酸素プラズマ処理を施す際に用いられるプラズマ処理装置の一例を示す構成図であり、平行平板型電極を有する容量結合型プラズマ(Capacitively Coupled Plasma:CCP)発生装置の例である。
図において、11はステンレス鋼(SUS304)からなるチャンバ、12は高周波(RF)電極、13は高周波(RF)電源、14はアース電極、15は酸素ガス等の反応ガスGをチャンバ11内に導入するための反応ガス導入部、16はチャンバ11内を所定の真空度とするための真空排気装置である。
RF電極12とアース電極14は、必要に応じて自由に切り替えることができる。
【0030】
このプラズマ処理装置を用いて酸素プラズマ処理を施すには、ケミカル洗浄が施された炭化ケイ素1をRF電極12上に載置し、真空排気装置16によりチャンバ11内を真空引きして、例えば1.33×10−3Paの真空度とし、このチャンバ11内に酸素ガスを導入する。
【0031】
チャンバ11内における酸素ガスの圧力は15Pa以上かつ25Pa以下が好ましい。
圧力が15Pa未満であると、物理的エッチングの影響が大きくなり、平滑面が形成され難くなるからであり、また、25Paを超えると、炭化ケイ素1の表面にスパイクと称される微少の突起が多数形成され易くなるからである。
酸素ガスの流量は、10sccm以下が好ましく、より好ましくは5sccm以下、さらに好ましくは2sccm以下である。
流量が10sccmを超えると、表面を精密な平滑面とすることができない。
【0032】
次いで、RF電源13によりRF電極12に高周波電圧を印加してRF電極12とアース電極14との間にプラズマを誘起させる。
このプラズマ放電の際の印加電力(RFパワー)は、50W以上かつ100W以下が好ましい。
RFパワーが50Wよりも低いと、炭化ケイ素1の表面を精密な平滑面とすることができないからであり、一方、100Wを超えると、炭化ケイ素1の表面にスパイクと称される微少の突起が多数形成され易くなるからである。
【0033】
この印加時間、すなわち酸素プラズマ処理の時間は、10分以下が好ましい。
ここで、処理に要する時間が10分を超えると、炭化ケイ素1の表面の平滑性が失われるばかりか、スパイク(Spike)と称される無数の針状の突起物が発生するので好ましくない。
【0034】
このプラズマ誘起により、RF電極2の周囲には、電子とイオンの易動度の違いによりイオンシースと呼ばれる空間電荷領域が形成され、ほぼ電解が一様に変化する領域となる。その結果、炭化ケイ素Sの表面上に到達したラジカルにより化学反応が起こり、揮発性生成物となって炭化ケイ素Sの表面から脱離し、化学的エッチングが起こる。同時に、自己バイアスによって加速されたカチオンが炭化ケイ素Sの表面に入射し、イオンアシスト効果によってイオンアシストエッチングされ、方向性のあるエッチングが可能となる。
ここでは、この酸素プラズマ処理における酸素ガスの圧力及び流量を制御することにより、炭化ケイ素1の平均表面粗さを1nm以下とすることが可能である。
【0035】
この酸素プラズマ処理は、ダウンフローエッチング(Down Flow Etching:DFE)型プラズマ発生装置を用いても、実施可能である。
図3は、炭化珪素の表面に酸素プラズマ処理を施す際に用いられるプラズマ処理装置の他の一例を示す構成図であり、ダウンフローエッチング(Down Flow Etching:DFE)型プラズマ発生装置の例である。
このプラズマ処理装置が図2に示すプラズマ処理装置と異なる点は、上側の電極を高周波(RF)電極21とし、下側の電極をアース電極22とした点である。
【0036】
図2のプラズマ処理装置では、プラズマ電位に対してRF電極12もアース電極14も負にバイアスされるので、印加電位の大きさが異なり、アース電極14側の方が小さく、イオン加速電圧も小さい。
そこで、上側の電極を高周波(RF)電極21とし、下側の電極をアース電極22とし、炭化ケイ素1をアース電極22上に載置し、さらに、ガス圧を10〜100Paと比較的高圧に設定すると、イオン効果の小さな化学的エッチングを実現することができる。また、RF電極21とアース電極22との間に高圧の高周波電圧を印加することで、物理的エッチングをより軽減することができる。
【0037】
図4は、DFE型の酸素プラズマ処理が施された炭化ケイ素の表面状態を示す模式図であり、酸化膜2上に点在していた炭素4が、酸素プラズマ処理により消失した状態を示している。
【0038】
以上説明したように、本実施形態の炭化ケイ素の表面処理方法によれば、炭化ケイ素の表面にケミカル洗浄を施し、次いで、この表面に酸素プラズマ処理を施すので、炭化ケイ素の表面の平滑性を向上させることができる。
その後、この平滑性が向上した炭化ケイ素の表面に、反応性イオンエッチングにより微細加工を施せば、反応性イオンエッチング後においても、この炭化ケイ素の表面にナノメートル級のスパイク(Spike)と称される無数の針状の突起物が発生する虞が無く、その結果、炭化ケイ素の表面を任意形状かつ高精細に微細加工することができ、さらには、ナノメートル級の寸法公差による微細加工を行うことができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例、比較例及び従来例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
ここでは、実施例1〜16、比較例1、2及び従来例1〜4各々に用いられる単結晶炭化ケイ素として、結晶構造が4H型であり、大きさが7.0×7.0×0.4mmの正方形板状の単結晶炭化ケイ素基板を用いた。
【0040】
次いで、実施例1〜8各々の単結晶炭化ケイ素の表面に、HFPWAC−1(RCA)の洗浄方法を用いてケミカル洗浄を行った。また、実施例9〜16各々の単結晶炭化ケイ素の表面に、HFPWAC−2(RCA)の洗浄方法を用いてケミカル洗浄を行った。これらの洗浄方法に用いた水溶液A〜Cの組成を表1に示す。
ここでは、表1に示す水溶液A〜水溶液Cを順次用いて、各1時間、超音波洗浄を行った。その後、超純水を用いて1時間、超音波洗浄を行った。
【0041】
【表1】
【0042】
一方、従来例1〜4及び比較例1、2各々の単結晶炭化ケイ素の表面に、従来のEMRFCの洗浄方法を用いてケミカル洗浄を行った。この洗浄方法に用いた溶液F、G及び水溶液Hの組成を表2に示す。
ここでは、表2に示す溶液F、G及び水溶液Hを順次用いて、各1時間、超音波洗浄を行った。その後、超純水を用いて1時間、超音波洗浄を行った。
【0043】
【表2】
【0044】
次いで、実施例1〜16、比較例1、2及び従来例1〜4各々の単結晶炭化ケイ素の表面状態を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察した。
これらのうち、HFPWAC−1のケミカル洗浄を行った後の実施例1の平均表面粗さ(Root Mean Square:RMS)が6.789nmであり、また、HFPWAC−2のケミカル洗浄を行った後の実施例9の平均表面粗さ(RMS)が3.011nmであった。
一方、EMRFCの洗浄を行った後の従来例1の平均表面粗さ(RMS)が10.0nmであった。
以上の結果から、本発明のケミカル洗浄を施した表面状態は、従来のケミカル洗浄を施した表面状態と比べて平均表面粗さ(RMS)が格段に小さく、より平坦化されていることが分かった。
【0045】
次いで、実施例1〜16各々の単結晶炭化ケイ素の表面温度を25℃に保った状態で、この表面にドライ酸素ガスを導入し、酸素ガスの圧力:20Pa、流量:2sccm、プラズマ放電の印加電力:50Wにて、5分間、酸素プラズマ処理を施した。
なお、比較例1、2及び従来例1〜4については、酸素プラズマ処理を行わないこととした。
【0046】
次いで、実施例1〜16、比較例1、2及び従来例1〜4各々の単結晶炭化ケイ素の表面に、反応性イオンエッチングにより微細加工を施した。各々の反応性イオンエッチングの条件を表3に示す。
次いで、各々の単結晶炭化ケイ素の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、表面状態を評価した。
ここでは、スパイク(Spike)と称される無数の針状の突起物が認められた場合を「Spike」とし、スパイク(Spike)と称される無数の針状の突起物が全く認められなかった場合を「Smooth」とし、凹凸が認められた場合を「Rough」とした。これらの評価結果を表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
図5は、比較例2の単結晶炭化ケイ素に対してケミカル洗浄のみを施した後、三フッ化窒素(NF3:圧力:1Pa、流量:10sccm)、印加電力200Wの下、30分間、反応性イオンエッチング(RIE)を施した後の表面状態を示す原子間力顕微鏡(AFM)像である。
図6は、実施例16の単結晶炭化ケイ素に対してケミカル洗浄及び酸素プラズマ処理を施した後、三フッ化窒素(NF3:圧力:1Pa、流量:10sccm)、印加電力200Wの下、30分間、反応性イオンエッチング(RIE)を施した後の表面状態を示す原子間力顕微鏡(AFM)像である。
【0049】
これらの図から、ケミカル洗浄後に酸素プラズマ処理を施した場合の方が、平坦化されていることがわかる。
以上により、ケミカル洗浄のみの場合と比較して、ケミカル洗浄後に酸素プラズマ処理を加えると、より平坦化が可能であることがわかった。
【0050】
図7は、実施例12の単結晶炭化ケイ素に対してケミカル洗浄及び酸素プラズマ処理を施した後、三フッ化窒素(NF3)−酸素(O2)混合ガス(混合比:NF3/O2=9/1、圧力:1Pa、流量:10sccm)、印加電力100Wの下、30分間、反応性イオンエッチング(RIE)を施した後の表面状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
図8は、実施例15の単結晶炭化ケイ素に対してケミカル洗浄及び酸素プラズマ処理を施した後、三フッ化窒素(NF3)−酸素(O2)混合ガス(混合比:NF3/O2=8/2、圧力:2Pa、流量:10sccm)、印加電力100Wの下、30分間、反応性イオンエッチング(RIE)を施した後の表面状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【0051】
図7及び図8によれば、反応ガスの全圧が高い場合であっても、酸素の含有率を10%から20%へ増加することによって、NF3−O2混合ガスの圧力を1Paから2Paへと高くしても表面の平坦化が可能であった。この結果は、単結晶炭化ケイ素基板の平坦化は、反応ガスの圧力、または酸素の含有率(分圧)によって制御可能であることを示している。
【0052】
図9は、従来例2の単結晶炭化ケイ素の反応性イオンエッチング(RIE)後の表面状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
図10は、比較例1の単結晶炭化ケイ素の反応性イオンエッチング(RIE)後の表面状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
図11は、実施例12の単結晶炭化ケイ素の反応性イオンエッチング(RIE)後の表面状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【0053】
図9〜図11によれば、単結晶炭化ケイ素の表面にケミカル洗浄及び酸素プラズマ処理を順次施すことにより、炭化ケイ素の表面の平坦化が1mm以下のオーダーで可能になることが分かった。
また、ケミカル洗浄及び酸素プラズマ処理を順次施した後に反応性イオンエッチングにより微細加工を施せば、この反応性イオンエッチング後においても、この炭化ケイ素の表面にナノメートル級のスパイク(Spike)と称される無数の針状の突起物が発生する虞が無く、その結果、単結晶炭化ケイ素の表面をナノメートル級の寸法公差にて微細加工を行うことができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の炭化ケイ素の表面処理方法は、炭化ケイ素の表面に反応性イオンエッチングにより微細加工を施す前に、この炭化ケイ素の表面にケミカル洗浄を施し、次いで、この表面に酸素プラズマ処理を施すことにより、ナノメートル級のスパイク(Spike)と称される無数の針状の突起物が発生する虞が無く、炭化ケイ素の表面を任意形状かつ高精細に微細加工することができ、さらには、ナノメートル級の寸法公差による微細加工を行うことができるものであるから、高周波デバイス、高電力デバイス、パワーデバイス等の機能性セラミックスとしての炭化ケイ素の微細加工はもちろんのこと、他の耐熱性および寸法精度に優れた微小な凹凸形状が求められるあらゆる分野に適用可能であり、その工業的意義は非常に大きなものである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】炭化ケイ素の表面状態を示す模式図である。
【図2】プラズマ処理装置の一例を示す構成図である。
【図3】プラズマ処理装置の他の一例を示す構成図である。
【図4】DFE型の酸素プラズマ処理が施された炭化ケイ素の表面状態を示す模式図である。
【図5】ケミカル洗浄後にRIEを施した単結晶炭化ケイ素の表面状態を示すAFM像である。
【図6】ケミカル洗浄及び酸素プラズマ処理後にRIEを施した単結晶炭化ケイ素の表面状態を示すAFM像である。
【図7】ケミカル洗浄及び酸素プラズマ処理後にRIEを施した単結晶炭化ケイ素の表面状態を示すSEM像である。
【図8】ケミカル洗浄及び酸素プラズマ処理後にRIEを施した単結晶炭化ケイ素の表面状態を示すSEM像である。
【図9】従来例2の単結晶炭化ケイ素のRIE後の表面状態を示すSEM像である。
【図10】比較例1の単結晶炭化ケイ素のRIE後の表面状態を示すSEM像である。
【図11】実施例12の単結晶炭化ケイ素のRIE後の表面状態を示すSEM像である。
【符号の説明】
【0056】
1 炭化ケイ素
2 酸化膜
3 ケイ酸化合物
4 炭素
11 チャンバ
12 高周波(RF)電極
13 高周波(RF)電源
14 アース電極
15 反応ガス導入部
16 真空排気装置
21 高周波(RF)電極
22 アース電極
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素の表面処理方法に関し、特に、炭化ケイ素の表面に反応性イオンエッチングにより微細加工を施す炭化ケイ素の微細加工技術に好適に用いられ、炭化ケイ素の表面を任意形状かつ高精細に微細加工することが可能であり、特に、ナノメートル級の寸法公差による微細加工が可能な炭化ケイ素の表面処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、パワーエレクトロニクスの分野では、パワー半導体素子に、化学的に安定であり、しかも機械的強度が高い半導体材料であるシリコンが用いられてきた。しかしながら、近年における電力制御技術に通じた地球環境対策、電力消費削減対策が注目されているなかで、シリコンを用いたパワー半導体素子は、その材料物性値に起因する性能限界により性能を著しく向上させることが困難となっている。
そこで、次世代半導体材料として炭化珪素(silicon carbide:SiC)が注目されている。
【0003】
炭化ケイ素は、バンドギャップエネルギー(Eg)が広く、高熱伝導度、低熱膨張率などの特徴を有しており、将来、シリコンでは補いきれない物性を有する半導体材料として高周波デバイス、高電力デバイス、パワーデバイス等への応用が期待されている。
この炭化ケイ素は、その高い熱化学的安定性のために微細加工が非常に困難とされているが、その数少ない微細加工技術の一つにケミカルエッチングと称されるウエットエッチングや反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching:RIE)等を用いたドライエッチングがある。
このケミカルエッチングでは、エッチング剤として溶融水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)等を用いた場合、炭化ケイ素を600〜800℃の高温に晒す必要がある上に、得られる断面形状が等方性となるために、異方性エッチングを行うことができないという問題点がある。
【0004】
一方、反応性イオンエッチング(RIE)等を用いたドライエッチングでは、プラズマ中に存在するカチオンによる物理的エッチング及びイオンアシストエッチング、ラジカルによる化学的エッチングを同時に行うことができるために、高い生産性と選択比の高い異方性エッチングを行うことが可能である。
半導体デバイスにおける高密度集積化が著しく進んでいる現在では、より精密な微細加工パターンが要求されているために、エッチング方法としても、この反応性イオンエッチングが半導体産業において主力となっている。
そこで、本発明者等は、炭化珪素の表面を微細加工する技術として、既に、次のような炭化珪素構造体の製造方法を提案している(特許文献1)。
【0005】
この方法は、炭化珪素の表面上に、三フッ化窒素、四フッ化炭素等のフッ化物及び酸素を含む反応ガスを導入し、この表面上にてプラズマを励起させて金属源から放出される金属原子を表面上に島状粒子として堆積させ、この島状粒子をマスクとして炭化珪素の表面にエッチングを施し、この炭化珪素の表面に微小な錐体を形成する方法である。
この方法では、炭化珪素単結晶または炭化珪素多結晶体に、高さ10nm以上かつ500μm以下、その先端部の直径が1nm以上かつ100μm以下の微小な錐体を形成することができる。
【特許文献1】特開2006−103981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の本発明者等が提案した炭化珪素構造体の製造方法においては、確かに、表面に寸法精度に優れた微小な凹凸形状を有する炭化珪素構造体を得ることができるものの、炭化珪素に三フッ化窒素や四フッ化炭素等のフッ化物及び酸素を含む反応ガスを接触させた際に、接触のさせ方によっては、炭化珪素の表面に、スパイク(Spike)と称される無数の針状の突起物が発生するという問題点があった。
そこで、反応ガス中に含まれるフッ化物の種類やフッ化物と酸素の組成比等を変えることで、スパイクの発生量を減少させる工夫がなされているが、スパイクが完全に消失するまでには至っていないのが現状である。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、炭化ケイ素の表面に反応性イオンエッチングにより微細加工を施す際に、炭化ケイ素の表面を任意形状かつ高精細に微細加工することができ、特に、ナノメートル級の寸法公差による微細加工を行うことができる炭化ケイ素の表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、反応性イオンエッチングにより炭化ケイ素の表面に微細加工を施すドライエッチング技術について鋭意検討した結果、反応性イオンエッチングにより微細加工を施す前に、炭化ケイ素の表面にケミカル洗浄を施し、次いで、この表面に酸素プラズマ処理を施す表面処理を行えば、この表面処理が施された炭化ケイ素に反応性イオンエッチングにより微細加工を施すことにより、炭化ケイ素の表面を任意形状かつ高精細に微細加工することが可能であり、特に、ナノメートル級の寸法公差による微細加工を行うことが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の炭化ケイ素の表面処理方法は、炭化ケイ素の表面に反応性イオンエッチングにより微細加工を施す前に行う表面処理方法であって、前記炭化ケイ素の表面にケミカル洗浄を施し、次いで、この表面に酸素プラズマ処理を施すことを特徴とする。
【0010】
前記炭化ケイ素は、単結晶炭化ケイ素であることが好ましい。
前記ケミカル洗浄は、アンモニア及び過酸化水素を含む水溶液、塩酸及び過酸化水素を含む水溶液、フッ酸及び過酸化水素を含む水溶液 、硫酸及び過酸化水素を含む水溶液の群から選択される1種または2種以上を順次用いて、洗浄を行うことが好ましい。
【0011】
前記アンモニア及び過酸化水素を含む水溶液、前記塩酸及び過酸化水素を含む水溶液、前記フッ酸及び過酸化水素を含む水溶液または前記硫酸及び過酸化水素を含む水溶液は、溶媒として超純水または超臨界水を用いることが好ましい。
前記アンモニア及び過酸化水素を含む水溶液、前記塩酸及び過酸化水素を含む水溶液、前記フッ酸及び過酸化水素を含む水溶液または前記硫酸及び過酸化水素を含む水溶液を用いて洗浄した後、超純水または超臨界水を用いて洗浄を行うことが好ましい。
【0012】
前記酸素プラズマ処理は、酸素ガスの流量を10sccm以下に制御した状態にて酸素プラズマ励起を行うことが好ましい。
前記酸素ガスの圧力及び流量を制御することにより、前記炭化ケイ素の平均表面粗さを1nm以下とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の炭化ケイ素の表面処理方法によれば、炭化ケイ素の表面に反応性イオンエッチングにより微細加工を施す前に、前記炭化ケイ素の表面にケミカル洗浄を施し、次いで、この表面に酸素プラズマ処理を施すので、炭化ケイ素の表面の平滑性を向上させることができる。
【0014】
その後、この平滑性が向上した炭化ケイ素の表面に、反応性イオンエッチングにより微細加工を施せば、反応性イオンエッチング後においても、この炭化ケイ素の表面にナノメートル級のスパイク(Spike)と称される無数の針状の突起物が発生する虞が無く、その結果、炭化ケイ素の表面を任意形状かつ高精細に微細加工することができ、さらには、ナノメートル級の寸法公差による微細加工を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の炭化ケイ素の表面処理方法の最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0016】
本発明の一実施形態の炭化ケイ素の表面処理方法は、炭化ケイ素の表面に反応性イオンエッチングにより微細加工を施す前に行う表面処理方法であって、前記炭化ケイ素の表面にケミカル洗浄を施し、次いで、この表面に酸素プラズマ処理を施す表面処理方法である。
【0017】
ここで、炭化ケイ素としては、単結晶炭化ケイ素が好ましく、単結晶炭化ケイ素としては、立方晶系結晶構造である3C型、六方晶系結晶構造である4H型、6H型のいずれかの結晶構造を有する単結晶炭化ケイ素が好ましい。
これら3C型、4H型、6H型の3種類の結晶構造から適時選択し、この単結晶炭化ケイ素の表面を三フッ化窒素でプラズマ処理を行うことにより、極めて平滑な被エッチング面が得られるエッチングが可能となる。
【0018】
例えば、4H型構造の単結晶炭化ケイ素は、バンドギャップエネルギー(Eg)が3.2eVと広く、尚且つ、結晶欠陥が少ない。また、このように優れた性能を保持しながら大口径化が可能である。4H型単結晶炭化ケイ素は、近年、パワーデバイスが高性能化してきていることからも、将来、電気自動車などのパワーデバイスに応用される可能性が高い。
6H型構造の単結晶炭化ケイ素は、電子移動速度は遅いものの、4H型構造の単結晶炭化ケイ素に準ずるものである。
3C型構造の単結晶炭化ケイ素は、バンドギャップエネルギー(Eg)が2.9eVと狭く、結晶欠陥も多いが、比較的簡単な結晶構造で、低温で製造が可能であり、大口径化が可能である。したがって、コストメリットが要求される汎用インバータ等に利用される可能性が高い。
【0019】
このような炭化ケイ素の表面にケミカル洗浄を施す。
ここでは、水溶液A(アンモニア及び過酸化水素を含む水溶液)、水溶液B(塩酸及び過酸化水素を含む水溶液)、水溶液C(フッ酸及び過酸化水素を含む水溶液)、水溶液D(硫酸及び過酸化水素を含む水溶液)の群から選択される1種または2種以上を順次用いて、洗浄を行う。
これらの水溶液においては、過酸化水素の含有率は0.066重量%〜8重量%が好ましく、より好ましくは0.066重量%〜0.33重量%である。
過酸化水素の含有率が0.066重量%未満であると、炭化ケイ素の表面全体に酸化膜を形成することができず、したがって、表面の保護膜としての機能が不十分なものとなり、再汚染を防ぐことができないからであり、一方、含有率が8重量%を超えると、炭化ケイ素の表面全体に必要以上の厚みの酸化膜が形成されてしまい、この酸化膜が絶縁層となって炭化ケイ素の半導体特性を阻害する虞があるからである。
【0020】
このケミカル洗浄に要する時間としては、炭化ケイ素の表面の清浄度が所望の清浄度になるまでの十分な時間が必要であり、概ね0.3時間〜3時間が好ましい。
【0021】
ここで、水溶液A(アンモニア及び過酸化水素を含む水溶液)は、炭化ケイ素の表面に存在するパーティクルおよび有機物を除去するためのもので、これらを効率的に除去するためには、前記水溶液のpHを10〜12に調製することが好ましく、より好ましくは10.5〜11.5である。
この水溶液Aとしては、水溶液中にアンモニア及び過酸化水素が存在したものであればよく、アンモニア水に過酸化水素を添加したもの、過酸化水素水にアンモニアを添加したもの、アンモニア水と過酸化水素水を混合したもの等、いずれでもよい。
【0022】
また、水溶液B(塩酸及び過酸化水素を含む水溶液)は、炭化ケイ素の表面に存在する金属汚染物を除去するためのもので、これを効率的に除去するためには、前記水溶液のpHを0〜2に調製することが好ましく、より好ましくは0.5〜1.5である。
この水溶液Bとしては、水溶液中に塩酸及び過酸化水素が存在したものであればよく、塩酸に過酸化水素を添加したもの、過酸化水素水に塩化水素を添加したもの、塩酸と過酸化水素水を混合したもの等、いずれでもよい。
【0023】
また、水溶液C(フッ酸及び過酸化水素を含む水溶液)は、炭化ケイ素の表面に存在するケイ素の自然酸化膜や金属汚染物を除去するためのもので、これを効率的に除去するためには、前記水溶液のpHを0〜2に調製することが好ましく、より好ましくは概ね2である。
この水溶液Cとしては、水溶液中にフッ酸及び過酸化水素が存在したものであればよく、フッ酸に過酸化水素を添加したもの、過酸化水素水にフッ化水素を添加したもの、フッ酸と過酸化水素水を混合したもの等、いずれでもよい。このフッ酸及び過酸化水素を含む水溶液の替わりに、緩衝フッ酸溶液を用いてもよい。
【0024】
また、水溶液D(硫酸及び過酸化水素を含む水溶液)は、炭化ケイ素の表面に存在する有機汚染物や金属汚染物を除去するためのもので、これを効率的に除去するためには、前記水溶液のpHを0〜2に調製することが好ましく、より好ましくは概ね2である。
この水溶液Dとしては、水溶液中に硫酸及び過酸化水素が存在したものであればよく、硫酸に過酸化水素を添加したもの、硫酸と過酸化水素水を混合したもの等、いずれでもよい。
【0025】
これら水溶液A〜Dを作製する場合、溶媒として純水を用いてもかまわないが、これらの水溶液の作用、効果を十分得るためには、溶媒として超純水または超臨界水を用いることが好ましい。
ここで、超純水とは、理論的に限りなくH2Oに近づいた高純度水のことであり、例えば、室温(25℃)における比抵抗が17.5MΩcm〜18.5MΩcm、直径0.1μm以上の粒子数が20個/cm3以下、生菌数が0.01個/cm3以下、TOC(全有機炭素)が0.1mg/dm3以下等の特性を有するものである。
また、超臨界水とは、水の状態図において、温度、圧力、エントロピーの臨界点(347℃、22.12MPa)より上の温度及び圧力下にある状態の水のことである。
【0026】
これら水溶液A、水溶液B、水溶液C及び水溶液Dのうちいずれかを用いて洗浄した場合、この炭化ケイ素の表面から前記水溶液を完全に除去するためには、この水溶液を用いて洗浄した後、超純水または超臨界水を用いて洗浄を行うことが好ましい。
【0027】
これら水溶液A〜D、超純水及び超臨界水を、目的に応じ、適宜組み合わせることによって、炭化ケイ素の表面の洗浄を効率的に行うことができる。特に、炭化ケイ素として単結晶炭化ケイ素を用いた場合、ケミカル洗浄の過程で水溶液に含まれる過酸化水素により単結晶炭化ケイ素の表面に厚みが1nm程度の酸化膜が形成されるが、このような酸化膜は表面の保護膜として作用するために、表面が再汚染されるのを防止することができる。
【0028】
このケミカル洗浄が施された炭化ケイ素の表面には、炭素が残存しているので、この炭素を除去するために、酸素プラズマ処理を施す。
図1は、炭化ケイ素の表面状態を示す模式図であり、炭化ケイ素1の表面に酸化ケイ素からなる酸化膜2が形成され、この酸化膜2上にH2SiO3等のケイ酸化合物3及び炭素4が点在している。
【0029】
図2は、炭化珪素の表面に酸素プラズマ処理を施す際に用いられるプラズマ処理装置の一例を示す構成図であり、平行平板型電極を有する容量結合型プラズマ(Capacitively Coupled Plasma:CCP)発生装置の例である。
図において、11はステンレス鋼(SUS304)からなるチャンバ、12は高周波(RF)電極、13は高周波(RF)電源、14はアース電極、15は酸素ガス等の反応ガスGをチャンバ11内に導入するための反応ガス導入部、16はチャンバ11内を所定の真空度とするための真空排気装置である。
RF電極12とアース電極14は、必要に応じて自由に切り替えることができる。
【0030】
このプラズマ処理装置を用いて酸素プラズマ処理を施すには、ケミカル洗浄が施された炭化ケイ素1をRF電極12上に載置し、真空排気装置16によりチャンバ11内を真空引きして、例えば1.33×10−3Paの真空度とし、このチャンバ11内に酸素ガスを導入する。
【0031】
チャンバ11内における酸素ガスの圧力は15Pa以上かつ25Pa以下が好ましい。
圧力が15Pa未満であると、物理的エッチングの影響が大きくなり、平滑面が形成され難くなるからであり、また、25Paを超えると、炭化ケイ素1の表面にスパイクと称される微少の突起が多数形成され易くなるからである。
酸素ガスの流量は、10sccm以下が好ましく、より好ましくは5sccm以下、さらに好ましくは2sccm以下である。
流量が10sccmを超えると、表面を精密な平滑面とすることができない。
【0032】
次いで、RF電源13によりRF電極12に高周波電圧を印加してRF電極12とアース電極14との間にプラズマを誘起させる。
このプラズマ放電の際の印加電力(RFパワー)は、50W以上かつ100W以下が好ましい。
RFパワーが50Wよりも低いと、炭化ケイ素1の表面を精密な平滑面とすることができないからであり、一方、100Wを超えると、炭化ケイ素1の表面にスパイクと称される微少の突起が多数形成され易くなるからである。
【0033】
この印加時間、すなわち酸素プラズマ処理の時間は、10分以下が好ましい。
ここで、処理に要する時間が10分を超えると、炭化ケイ素1の表面の平滑性が失われるばかりか、スパイク(Spike)と称される無数の針状の突起物が発生するので好ましくない。
【0034】
このプラズマ誘起により、RF電極2の周囲には、電子とイオンの易動度の違いによりイオンシースと呼ばれる空間電荷領域が形成され、ほぼ電解が一様に変化する領域となる。その結果、炭化ケイ素Sの表面上に到達したラジカルにより化学反応が起こり、揮発性生成物となって炭化ケイ素Sの表面から脱離し、化学的エッチングが起こる。同時に、自己バイアスによって加速されたカチオンが炭化ケイ素Sの表面に入射し、イオンアシスト効果によってイオンアシストエッチングされ、方向性のあるエッチングが可能となる。
ここでは、この酸素プラズマ処理における酸素ガスの圧力及び流量を制御することにより、炭化ケイ素1の平均表面粗さを1nm以下とすることが可能である。
【0035】
この酸素プラズマ処理は、ダウンフローエッチング(Down Flow Etching:DFE)型プラズマ発生装置を用いても、実施可能である。
図3は、炭化珪素の表面に酸素プラズマ処理を施す際に用いられるプラズマ処理装置の他の一例を示す構成図であり、ダウンフローエッチング(Down Flow Etching:DFE)型プラズマ発生装置の例である。
このプラズマ処理装置が図2に示すプラズマ処理装置と異なる点は、上側の電極を高周波(RF)電極21とし、下側の電極をアース電極22とした点である。
【0036】
図2のプラズマ処理装置では、プラズマ電位に対してRF電極12もアース電極14も負にバイアスされるので、印加電位の大きさが異なり、アース電極14側の方が小さく、イオン加速電圧も小さい。
そこで、上側の電極を高周波(RF)電極21とし、下側の電極をアース電極22とし、炭化ケイ素1をアース電極22上に載置し、さらに、ガス圧を10〜100Paと比較的高圧に設定すると、イオン効果の小さな化学的エッチングを実現することができる。また、RF電極21とアース電極22との間に高圧の高周波電圧を印加することで、物理的エッチングをより軽減することができる。
【0037】
図4は、DFE型の酸素プラズマ処理が施された炭化ケイ素の表面状態を示す模式図であり、酸化膜2上に点在していた炭素4が、酸素プラズマ処理により消失した状態を示している。
【0038】
以上説明したように、本実施形態の炭化ケイ素の表面処理方法によれば、炭化ケイ素の表面にケミカル洗浄を施し、次いで、この表面に酸素プラズマ処理を施すので、炭化ケイ素の表面の平滑性を向上させることができる。
その後、この平滑性が向上した炭化ケイ素の表面に、反応性イオンエッチングにより微細加工を施せば、反応性イオンエッチング後においても、この炭化ケイ素の表面にナノメートル級のスパイク(Spike)と称される無数の針状の突起物が発生する虞が無く、その結果、炭化ケイ素の表面を任意形状かつ高精細に微細加工することができ、さらには、ナノメートル級の寸法公差による微細加工を行うことができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例、比較例及び従来例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
ここでは、実施例1〜16、比較例1、2及び従来例1〜4各々に用いられる単結晶炭化ケイ素として、結晶構造が4H型であり、大きさが7.0×7.0×0.4mmの正方形板状の単結晶炭化ケイ素基板を用いた。
【0040】
次いで、実施例1〜8各々の単結晶炭化ケイ素の表面に、HFPWAC−1(RCA)の洗浄方法を用いてケミカル洗浄を行った。また、実施例9〜16各々の単結晶炭化ケイ素の表面に、HFPWAC−2(RCA)の洗浄方法を用いてケミカル洗浄を行った。これらの洗浄方法に用いた水溶液A〜Cの組成を表1に示す。
ここでは、表1に示す水溶液A〜水溶液Cを順次用いて、各1時間、超音波洗浄を行った。その後、超純水を用いて1時間、超音波洗浄を行った。
【0041】
【表1】
【0042】
一方、従来例1〜4及び比較例1、2各々の単結晶炭化ケイ素の表面に、従来のEMRFCの洗浄方法を用いてケミカル洗浄を行った。この洗浄方法に用いた溶液F、G及び水溶液Hの組成を表2に示す。
ここでは、表2に示す溶液F、G及び水溶液Hを順次用いて、各1時間、超音波洗浄を行った。その後、超純水を用いて1時間、超音波洗浄を行った。
【0043】
【表2】
【0044】
次いで、実施例1〜16、比較例1、2及び従来例1〜4各々の単結晶炭化ケイ素の表面状態を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察した。
これらのうち、HFPWAC−1のケミカル洗浄を行った後の実施例1の平均表面粗さ(Root Mean Square:RMS)が6.789nmであり、また、HFPWAC−2のケミカル洗浄を行った後の実施例9の平均表面粗さ(RMS)が3.011nmであった。
一方、EMRFCの洗浄を行った後の従来例1の平均表面粗さ(RMS)が10.0nmであった。
以上の結果から、本発明のケミカル洗浄を施した表面状態は、従来のケミカル洗浄を施した表面状態と比べて平均表面粗さ(RMS)が格段に小さく、より平坦化されていることが分かった。
【0045】
次いで、実施例1〜16各々の単結晶炭化ケイ素の表面温度を25℃に保った状態で、この表面にドライ酸素ガスを導入し、酸素ガスの圧力:20Pa、流量:2sccm、プラズマ放電の印加電力:50Wにて、5分間、酸素プラズマ処理を施した。
なお、比較例1、2及び従来例1〜4については、酸素プラズマ処理を行わないこととした。
【0046】
次いで、実施例1〜16、比較例1、2及び従来例1〜4各々の単結晶炭化ケイ素の表面に、反応性イオンエッチングにより微細加工を施した。各々の反応性イオンエッチングの条件を表3に示す。
次いで、各々の単結晶炭化ケイ素の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、表面状態を評価した。
ここでは、スパイク(Spike)と称される無数の針状の突起物が認められた場合を「Spike」とし、スパイク(Spike)と称される無数の針状の突起物が全く認められなかった場合を「Smooth」とし、凹凸が認められた場合を「Rough」とした。これらの評価結果を表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
図5は、比較例2の単結晶炭化ケイ素に対してケミカル洗浄のみを施した後、三フッ化窒素(NF3:圧力:1Pa、流量:10sccm)、印加電力200Wの下、30分間、反応性イオンエッチング(RIE)を施した後の表面状態を示す原子間力顕微鏡(AFM)像である。
図6は、実施例16の単結晶炭化ケイ素に対してケミカル洗浄及び酸素プラズマ処理を施した後、三フッ化窒素(NF3:圧力:1Pa、流量:10sccm)、印加電力200Wの下、30分間、反応性イオンエッチング(RIE)を施した後の表面状態を示す原子間力顕微鏡(AFM)像である。
【0049】
これらの図から、ケミカル洗浄後に酸素プラズマ処理を施した場合の方が、平坦化されていることがわかる。
以上により、ケミカル洗浄のみの場合と比較して、ケミカル洗浄後に酸素プラズマ処理を加えると、より平坦化が可能であることがわかった。
【0050】
図7は、実施例12の単結晶炭化ケイ素に対してケミカル洗浄及び酸素プラズマ処理を施した後、三フッ化窒素(NF3)−酸素(O2)混合ガス(混合比:NF3/O2=9/1、圧力:1Pa、流量:10sccm)、印加電力100Wの下、30分間、反応性イオンエッチング(RIE)を施した後の表面状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
図8は、実施例15の単結晶炭化ケイ素に対してケミカル洗浄及び酸素プラズマ処理を施した後、三フッ化窒素(NF3)−酸素(O2)混合ガス(混合比:NF3/O2=8/2、圧力:2Pa、流量:10sccm)、印加電力100Wの下、30分間、反応性イオンエッチング(RIE)を施した後の表面状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【0051】
図7及び図8によれば、反応ガスの全圧が高い場合であっても、酸素の含有率を10%から20%へ増加することによって、NF3−O2混合ガスの圧力を1Paから2Paへと高くしても表面の平坦化が可能であった。この結果は、単結晶炭化ケイ素基板の平坦化は、反応ガスの圧力、または酸素の含有率(分圧)によって制御可能であることを示している。
【0052】
図9は、従来例2の単結晶炭化ケイ素の反応性イオンエッチング(RIE)後の表面状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
図10は、比較例1の単結晶炭化ケイ素の反応性イオンエッチング(RIE)後の表面状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
図11は、実施例12の単結晶炭化ケイ素の反応性イオンエッチング(RIE)後の表面状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【0053】
図9〜図11によれば、単結晶炭化ケイ素の表面にケミカル洗浄及び酸素プラズマ処理を順次施すことにより、炭化ケイ素の表面の平坦化が1mm以下のオーダーで可能になることが分かった。
また、ケミカル洗浄及び酸素プラズマ処理を順次施した後に反応性イオンエッチングにより微細加工を施せば、この反応性イオンエッチング後においても、この炭化ケイ素の表面にナノメートル級のスパイク(Spike)と称される無数の針状の突起物が発生する虞が無く、その結果、単結晶炭化ケイ素の表面をナノメートル級の寸法公差にて微細加工を行うことができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の炭化ケイ素の表面処理方法は、炭化ケイ素の表面に反応性イオンエッチングにより微細加工を施す前に、この炭化ケイ素の表面にケミカル洗浄を施し、次いで、この表面に酸素プラズマ処理を施すことにより、ナノメートル級のスパイク(Spike)と称される無数の針状の突起物が発生する虞が無く、炭化ケイ素の表面を任意形状かつ高精細に微細加工することができ、さらには、ナノメートル級の寸法公差による微細加工を行うことができるものであるから、高周波デバイス、高電力デバイス、パワーデバイス等の機能性セラミックスとしての炭化ケイ素の微細加工はもちろんのこと、他の耐熱性および寸法精度に優れた微小な凹凸形状が求められるあらゆる分野に適用可能であり、その工業的意義は非常に大きなものである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】炭化ケイ素の表面状態を示す模式図である。
【図2】プラズマ処理装置の一例を示す構成図である。
【図3】プラズマ処理装置の他の一例を示す構成図である。
【図4】DFE型の酸素プラズマ処理が施された炭化ケイ素の表面状態を示す模式図である。
【図5】ケミカル洗浄後にRIEを施した単結晶炭化ケイ素の表面状態を示すAFM像である。
【図6】ケミカル洗浄及び酸素プラズマ処理後にRIEを施した単結晶炭化ケイ素の表面状態を示すAFM像である。
【図7】ケミカル洗浄及び酸素プラズマ処理後にRIEを施した単結晶炭化ケイ素の表面状態を示すSEM像である。
【図8】ケミカル洗浄及び酸素プラズマ処理後にRIEを施した単結晶炭化ケイ素の表面状態を示すSEM像である。
【図9】従来例2の単結晶炭化ケイ素のRIE後の表面状態を示すSEM像である。
【図10】比較例1の単結晶炭化ケイ素のRIE後の表面状態を示すSEM像である。
【図11】実施例12の単結晶炭化ケイ素のRIE後の表面状態を示すSEM像である。
【符号の説明】
【0056】
1 炭化ケイ素
2 酸化膜
3 ケイ酸化合物
4 炭素
11 チャンバ
12 高周波(RF)電極
13 高周波(RF)電源
14 アース電極
15 反応ガス導入部
16 真空排気装置
21 高周波(RF)電極
22 アース電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素の表面に反応性イオンエッチングにより微細加工を施す前に行う表面処理方法であって、
前記炭化ケイ素の表面にケミカル洗浄を施し、次いで、この表面に酸素プラズマ処理を施すことを特徴とする炭化ケイ素の表面処理方法。
【請求項2】
前記炭化ケイ素は、単結晶炭化ケイ素であることを特徴とする請求項1記載の炭化ケイ素の表面処理方法。
【請求項3】
前記ケミカル洗浄は、アンモニア及び過酸化水素を含む水溶液、塩酸及び過酸化水素を含む水溶液、フッ酸及び過酸化水素を含む水溶液 、硫酸及び過酸化水素を含む水溶液の群から選択される1種または2種以上を順次用いて、洗浄を行うことを特徴とする請求項2記載の炭化ケイ素の表面処理方法。
【請求項4】
前記アンモニア及び過酸化水素を含む水溶液、前記塩酸及び過酸化水素を含む水溶液、前記フッ酸及び過酸化水素を含む水溶液または前記硫酸及び過酸化水素を含む水溶液は、溶媒として超純水または超臨界水を用いることを特徴とする請求項3記載の炭化ケイ素の表面処理方法。
【請求項5】
前記アンモニア及び過酸化水素を含む水溶液、前記塩酸及び過酸化水素を含む水溶液、前記フッ酸及び過酸化水素を含む水溶液または前記硫酸及び過酸化水素を含む水溶液を用いて洗浄した後、超純水または超臨界水を用いて洗浄を行うことを特徴とする請求項3または4記載の炭化ケイ素の表面処理方法。
【請求項6】
前記酸素プラズマ処理は、酸素ガスの流量を10sccm以下に制御した状態にて酸素プラズマ励起を行うことを特徴とする請求項2または3記載の炭化ケイ素の表面処理方法。
【請求項7】
前記酸素ガスの圧力及び流量を制御することにより、前記炭化ケイ素の平均表面粗さを1nm以下とすることを特徴とする請求項6記載の炭化ケイ素の表面処理方法。
【請求項1】
炭化ケイ素の表面に反応性イオンエッチングにより微細加工を施す前に行う表面処理方法であって、
前記炭化ケイ素の表面にケミカル洗浄を施し、次いで、この表面に酸素プラズマ処理を施すことを特徴とする炭化ケイ素の表面処理方法。
【請求項2】
前記炭化ケイ素は、単結晶炭化ケイ素であることを特徴とする請求項1記載の炭化ケイ素の表面処理方法。
【請求項3】
前記ケミカル洗浄は、アンモニア及び過酸化水素を含む水溶液、塩酸及び過酸化水素を含む水溶液、フッ酸及び過酸化水素を含む水溶液 、硫酸及び過酸化水素を含む水溶液の群から選択される1種または2種以上を順次用いて、洗浄を行うことを特徴とする請求項2記載の炭化ケイ素の表面処理方法。
【請求項4】
前記アンモニア及び過酸化水素を含む水溶液、前記塩酸及び過酸化水素を含む水溶液、前記フッ酸及び過酸化水素を含む水溶液または前記硫酸及び過酸化水素を含む水溶液は、溶媒として超純水または超臨界水を用いることを特徴とする請求項3記載の炭化ケイ素の表面処理方法。
【請求項5】
前記アンモニア及び過酸化水素を含む水溶液、前記塩酸及び過酸化水素を含む水溶液、前記フッ酸及び過酸化水素を含む水溶液または前記硫酸及び過酸化水素を含む水溶液を用いて洗浄した後、超純水または超臨界水を用いて洗浄を行うことを特徴とする請求項3または4記載の炭化ケイ素の表面処理方法。
【請求項6】
前記酸素プラズマ処理は、酸素ガスの流量を10sccm以下に制御した状態にて酸素プラズマ励起を行うことを特徴とする請求項2または3記載の炭化ケイ素の表面処理方法。
【請求項7】
前記酸素ガスの圧力及び流量を制御することにより、前記炭化ケイ素の平均表面粗さを1nm以下とすることを特徴とする請求項6記載の炭化ケイ素の表面処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−290888(P2008−290888A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135484(P2007−135484)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】
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