説明

炭化ケイ素材料

【課題】光透過性が低く、かつ、伝熱性が高く、半導体製造等における熱処理工程、特に、急速加熱・急速冷却熱処理に好適に用いることができる炭化ケイ素材料を提供する。
【解決手段】CVD法により成膜されたβ−SiCからなり、成膜方向に対する垂直断面において、結晶面(311)/(111)のX線回折によるピーク強度比が0.8よりも大きい層が、厚さ40μm以上で形成された炭化ケイ素材料を半導体製造装置の熱処理用部材に用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造等における熱処理用部材、特に、半導体ウェーハの急速加熱・急速冷却熱処理(Rapid Thermal Process;以下、単に、RTPという)装置の構成部材に好適に用いることができる炭化ケイ素材料に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)は、耐熱性、耐食性、強度等の特性に優れており、各種工業用部材に有用な材料である。特に、CVD(Chemical Vapor Deposition;化学気相成長)法により成膜して作製されたSiC材料(以下、CVD−SiCともいう)は、緻密で、高純度であり、均質性が高いため、半導体製造等における各種部材を始めとする高純度が要求される用途において、好適に用いられている。
【0003】
前記CVD−SiCは、原料ガスを気相反応させて、基材面上にSiCの結晶粒を析出させ、この結晶粒の成長により、被膜を形成した後、前記基材を切削や研磨等により除去して製造されるものである。
このようにして得られるCVD−SiCは、一般的に光透過性を有し、この光透過性が、半導体製造装置や熱処理装置等の構成部材として用いる場合、用途によっては問題となる。
【0004】
例えば、RTPにおいては、ウェーハの精確な温度管理が必要とされ、放射温度計による測温の際、ウェーハ被処理面の裏面側に設置されるウェーハ載置部材や遮光リングと呼ばれる部材が光透過性を有していると、加熱用ランプ等による外乱光によって、精確な側温を行うことができないという課題が生じていた。
【0005】
また、プラズマエッチング処理やCVD処理において、ウェーハの処理条件を安定化させるために用いられるダミーウェーハも、レーザ光によりウェーハ位置が検知されることから、光透過性が低いことが要求されている。
【0006】
これらに対しては、例えば、特許文献1〜4に、CVD−SiCの結晶面方位を特定の配向として、光透過性を低下させたダミーウェーハやCVD−SiC成形体等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−106298号公報
【特許文献2】特開2001−130964号公報
【特許文献3】特開2001−169298号公報
【特許文献4】特開2002−47570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、半導体熱処理用部材として、特に、シリコンウェーハと直接接触して使用されるウェーハ載置部材等には、半導体製造における歩留まり向上の観点から、ウェーハ面を均一に温度制御することができることが求められる。すなわち、シリコンウェーハとの熱伝導率の差が小さく、温度追従性に優れ、実際の急速昇降温工程において、前記部材とシリコンウェーハとの温度差が小さいことが望ましい。
【0009】
しかしながら、上記特許文献1〜4に記載されているような結晶面方位で特定したCVD−SiCは、光透過性が抑制されていても、必ずしも、熱伝導率及び温度追従性の点で良好な材料であるとは言えないものであった。
したがって、光透過性が低いこと、及び、伝熱性に優れていることの両者を兼ね備えたSiC材料が求められていた。
【0010】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、光透過性が低く、かつ、伝熱性が高く、半導体製造等における熱処理工程、特に、RTPに好適に用いることができる炭化ケイ素材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る炭化ケイ素材料は、CVD法により成膜されたSiCからなり半導体製造装置の熱処理用部材に用いられる炭化ケイ素材料であって、成膜方向に対する垂直断面において、結晶面(311)/(111)のX線回折によるピーク強度比が0.8よりも大きい層が、厚さ40μm以上形成されていることを特徴とする。
このような結晶構造を有するCVD−SiCは、高純度であり、光透過性が低く、かつ、伝熱性が高いため、半導体製造装置の熱処理用部材に好適に用いることができる炭化ケイ素材料である。
【0012】
前記炭化ケイ素材料の結晶面(311)/(111)のX線回折によるピーク強度比が0.8よりも大きい層においては、結晶面(200)/(111)のX線回折によるピーク強度比が2.0以上であることが好ましい。
このようなピーク強度比であることにより、CVD−SiCの光透過性はより低いものとなる。
【0013】
また、前記炭化ケイ素材料は、曲げ強度が300MPa以上であることが好ましい。
半導体製造装置の熱処理用部材に用いられるための十分な強度として、上記範囲の強度を有していることが好ましい。
【0014】
さらに、半導体製造装置の熱処理用部材に用いられるためには、熱伝導率が100W/m・K以上であり、また、弾性率が300GPa以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、光透過性が低く、かつ、伝熱性が高い炭化ケイ素材料が得られる。
したがって、前記炭化ケイ素材料は、優れた強度特性及び高純度であるというCVD−SiCの一般的な特長に加えて、上記特性を有することから、半導体製造等における熱処理用部材、特に、半導体ウェーハのRTP装置の構成部材に好適に用いることができる。ひいては、半導体製造における歩留まりの向上にも寄与し得るものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明にについて詳細に説明する。
本発明に係る炭化ケイ素材料は、半導体製造装置の熱処理用部材に用いられるものである。そして、CVD法により成膜されたSiCからなり、CVD成膜方向に対する垂直断面において、結晶面(311)/(111)のX線回折によるピーク強度比が0.8よりも大きい層が、厚さ40μm以上形成されていることを特徴としている。
このような結晶構造を有するCVD−SiCは、高純度であるのみならず、光透過性が低く、かつ、伝熱性が高いという特長を有するものであり、半導体製造装置の熱処理用部材、特に、半導体ウェーハのRTP装置の構成部材に好適に用いることができるものである。
【0017】
本発明に係る炭化ケイ素材料であるCVD−SiC成形体は、基材表面に、CVD法によりSiCを成膜した後、前記基材を除去することにより得られる。
前記基材の除去には、切削除去、ショットブラスト等による研磨除去、あるいはまた、空気中での焼失除去等の方法を用いることができ、基材の種類に応じて、適宜選択して行われる。
CVD法によりSiCを成膜するための基材としては、空気中で容易に焼失除去可能な炭素系材料、特に、表面が平滑な黒鉛材を好適に用いることができる。
【0018】
本発明に係る炭化ケイ素材料は、上記のようにして得られるCVD−SiCのうち、特定の結晶構造を有するもの、具体的には、CVD成膜方向に対する垂直断面において、結晶面(311)/(111)のX線回折によるピーク強度比が0.8よりも大きい層が、厚さ40μm以上形成されているものである。
なお、本発明におけるX線回折ピークは、CuK痾線を用いて測定したものである。
【0019】
前記炭化ケイ素材料において、上記のようなピーク強度比を有する厚さ40μm以上の層が形成されている位置は、特に限定されるものでなく、熱処理用部材に用いられる際に、該部材の表面に形成されていてもよく、あるいはまた、内部に形成されていてもよい。
【0020】
上記のようなピーク強度比を有する層が厚さ40μm以上形成されていれば、結晶面(200)/(111)のX線回折によるピーク強度比が1よりも小さい場合であっても、伝熱性に優れ、RTP装置のウェーハ載置部材として用いた際、ウェーハと比べた昇温速度差が小さく、また、光透過性も低いため、放射温度計による側温値の誤差も小さい。
したがって、本発明に係る炭化ケイ素材料は、結晶面(311)/(111)のX線回折によるピーク強度比に基づいて規定するものである。
なお、結晶面(311)/(111)のX線回折によるピーク強度比が0.8未満の場合は、結晶の粒界がCVD成膜方向に対して平行に配列する割合が多くなるため、CVD−SiCの反りが大きくなるという問題も生じる。
【0021】
また、上記のようなピーク強度比を有する層の厚さが40μm以上と規定しているのは、X線回折の測定方法に基づくものである。
具体的には、X線回折による表面分析では、X線の侵入深さの関係から、分析試料の表面から10μm程度の深さまでの層の結晶構造しか分析できないため、まず、CVD−SiC表面をそのままの状態で、1回目のX線回折測定を行う。
そして、機械的な研磨加工やエッチング、ブラスト等により、分析試料の表面を厚さ(深さ)10μm除去した露出面について、1回目と同様に、2回目のX線回折測定を行う。
さらに、同様にして、分析試料の表面を厚さ(深さ)10μm除去した露出面について、1回目と同様に、3回目のX線回折測定を行う。
【0022】
このような操作を繰り返し行う測定方法では、表面からの深さ10μm毎に、厚さ10μm分の層についての結晶構造分析を行うことができる。このため、例えば、1回目の測定のみ、結晶面(311)/(111)のX線回折によるピーク強度比が0.8よりも大きく、2回目及び3回目の測定では、前記ピーク強度比が0.8未満である場合は、前記ピーク強度比が0.8よりも大きい層の厚さは10μm以上であると言える。
したがって、4回以上の測定で、結晶面(311)/(111)のX線回折によるピーク強度比が0.8よりも大きくなる場合、このようなピーク強度比である層の合計の厚さは40μm以上である。
このような層を有するCVD−SiCは、光透過性が低く、かつ、伝熱性が高いことが認められる。
上記のような結晶面(311)/(111)のX線回折によるピーク強度比が0.8よりも大きくなる層は、合計の厚さが40μm以上であればよく、厚さ方向に連続して存在していても、不連続に存在していてもよい。
【0023】
また、上記のような結晶面(311)/(111)のX線回折によるピーク強度比が0.8よりも大きい層においては、光透過性がより低いものとして、結晶面(200)/(111)のX線回折によるピーク強度比は2.0以上であることが好ましい。
【0024】
また、前記炭化ケイ素材料は、半導体製造装置の熱処理用部材に用いられるためには、十分な強度を有していることが求められることから、曲げ強度が300MPa以上であることが好ましい。
前記曲げ強度が300MPa未満である場合、熱処理におけるウェーハ加熱時の熱処理用部材に温度差が生じ、それによって発生する熱応力により、該炭化ケイ素材料が破損するおそれがある。
【0025】
さらに、半導体製造装置の熱処理用部材に用いられる炭化ケイ素材料としては、伝熱性や弾性は、具体的には、熱伝導率が100W/m・K以上であり、また、弾性率が300GPa以上であることが好ましい。
前記熱伝導率が100W/m・K未満である場合、シリコンウェーハとの熱伝導率の差が大きいため、特に、RTP等の装置部材に用いられる際、急速昇降温工程において、温度追従性に劣り、シリコンウェーハとの温度差が大きくなり、被処理ウェーハの歩留まり低下を招くこととなり、好ましくない。
また、前記弾性率が300GPa未満である場合、熱処理におけるウェーハ加熱時の熱処理用部材に温度差が生じ、それによって発生する熱応力により変形し、該部材に積載されたウェーハが浮き上がりや位置ずれを生じて、ウェーハにスリップが生じる等の悪影響を及ぼす。
【0026】
基材表面へのCVD法によるSiCの成膜は、CVD反応装置内に、黒鉛等の基材をセットし、水素ガスをキャリアガスとし、トリクロロメチルシラン、トリクロロフェニルシラン、ジクロロメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、クロロトリメチルシラン等の原料ガスを送入し、熱分解反応させることにより行われる。CVD法においては、CVDが生成される。
このとき、熱分解温度、原料ガス濃度、原料ガス送入流量等を適宜調節したり、成膜を一時中断したりする等の方法により、結晶面(311)/(111)のX線回折によるピーク強度比が0.8よりも大きくなる層の形成及びその膜厚を制御することができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
かさ密度1.8g/cm3、熱膨張係数4.8×10-6-1、灰分20ppm、直径360mm、厚さ10mmの等方性黒鉛からなる基材をCVD反応装置にセットして、原料ガスにトリクロロメチルシランを用い、水素ガスをキャリアガスとし、原料ガス濃度10vol%、原料ガス流量4リットル/分として、1350℃で、CVD反応時間を変化させて、前記黒鉛基材面にSiCを厚さ1〜2mmで成膜させた。
次いで、空気中で加熱して黒鉛基材を燃失除去した後、ショットブラストにより基材面に接していた側を研磨して平滑化し、CVD−SiCを得た。
【0028】
各CVD−SiCについて、印加電圧20kV、印加電流15mA、フィルタ:Ni、X線:CuKα線の条件で、X線回折測定を行い、回折ピーク値を求めた。
また、各CVD−SiCを厚さ1mm、面粗さRaを0.2μm以下に平面研削した後、分光光度計により、温度25℃で、波長1,000nmにおける透過率を測定した。
【0029】
さらに、各CVD−SiCをRTP装置のウェーハ載置部材に加工し、これを用いて、12インチ径のシリコンウェーハのRTP試験を行った。試験条件は、昇温速度15°C/sec.、最高到達温度1,200℃とし、このときのシリコンウェーハ外周部の温度を熱電対により測定し、また、同箇所の温度を放射温度計により測定した。
シリコンウェーハが最高到達温度に達したときのウェーハ外周部の温度の熱電対による温度と放射温度計による測温値との差を求めた。
これらの測定結果を表1にまとめて示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1に示した結果から分かるように、ウェーハ積載部材において結晶面(311)/(111)のX線回折によるピーク強度比が0.8よりも大きい層において、結晶面(200)/(111)のX線回折によるピーク強度比が2.0以上であれば、加熱用ランプ等による外乱光に影響されることなくウェーハ温度を正確に測定することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CVD法により成膜されたSiCからなり半導体製造装置の熱処理用部材に用いられる炭化ケイ素材料であって、成膜方向に対する垂直断面において、結晶面(311)/(111)のX線回折によるピーク強度比が0.8よりも大きい層が、厚さ40μm以上形成されていることを特徴とする炭化ケイ素材料。
【請求項2】
結晶面(311)/(111)のX線回折によるピーク強度比が0.8よりも大きい層において、結晶面(200)/(111)のX線回折によるピーク強度比が2.0以上であることを特徴とする請求項1記載の炭化ケイ素材料。
【請求項3】
曲げ強度が300MPa以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の炭化ケイ素材料。
【請求項4】
熱伝導率が100W/m・K以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炭化ケイ素材料。
【請求項5】
弾性率が300GPa以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の炭化ケイ素材料。

【公開番号】特開2011−74436(P2011−74436A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226381(P2009−226381)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】