説明

炭化ケイ素焼結体の製造方法

【課題】炭化ケイ素焼結体のポアを無くし、高い耐プラズマ性を有する炭化ケイ素焼結体の製造方法を提供する。
【解決手段】炭化ケイ素を含む炭化ケイ素焼結体を製造する炭化ケイ素焼結体の製造方法であって、炭化ケイ素を含む混合粉体を形成する工程と、混合粉体を所定の形状に成形し焼成する工程と、炭化ケイ素と同一純度を有する炭化ケイ素をターゲットとして用いて、焼成された炭化ケイ素焼結体の表面に炭化ケイ素膜をスパッタリング法により形成する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素は、硬度、耐熱性、化学的安定性に優れることから、研磨剤、耐火物、発熱体などに利用することができる。半導体製造の分野では、炭化ケイ素は、半導体製造装置の部材の原料として用いられる。例えば、プラズマエッチング処理に用いられる半導体製造装置の部材として使用される場合には、プラズマによる損傷を受けにくいこと、つまり高いプラズマ耐性が求められる。
【0003】
しかし、プラズマ環境下では、炭化ケイ素焼結体の表面に形成された微細な凹部(ポアという)にフリーカーボンが集中するため、炭化ケイ素焼結体は、ポアを起点として損傷されやすく、プラズマ耐性が低下する。
【0004】
そこで、炭化ケイ素焼結体の表面のポアを埋める技術が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1に記載された方法では、炭化ケイ素焼結体の表面に化学気相蒸着法(CVD)により炭化ケイ素膜を形成することにより、表面を平滑に形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−185981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、CVD法では、炭化ケイ素焼結体のポアを改善できるが、環境負荷物質を使用することや、膜形成の均一化のための制御に高い技術が必要であることから、装置の管理・運用面において改善の余地が残されている。
【0007】
そこで、本発明は、炭化ケイ素焼結体のポアを無くし、高い耐プラズマ性を有する炭化ケイ素焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するため、本発明は、次のような特徴を有している。すなわち、本発明の第1の特徴は、炭化ケイ素を含む炭化ケイ素焼結体を製造する炭化ケイ素焼結体の製造方法であって、前記炭化ケイ素を含む混合粉体を形成する工程と、前記混合粉体を前記所定の形状に成形し焼成する工程と、前記焼成する工程によって形成された炭化ケイ素焼結体の表面に前記炭化ケイ素と同一純度を有する炭化ケイ素をターゲットとして用いて前記炭化ケイ素焼結体の表面に前記炭化ケイ素膜をスパッタリング法により形成する工程とを有することを要旨とする。
【0009】
本発明者らは、上述した特許文献1に開示された炭化ケイ素焼結体の製造方法によって製造される炭化ケイ素焼結体の表面に形成されたポアを埋める方法に関して鋭意検討を行った。その結果、通常のスパッタリング法では、炭化ケイ素焼結体の表面に、ポアを埋めることのできる程度の薄膜(すなわち、膜厚4μm以上)を形成することは困難であるが、炭化ケイ素焼結体と同一純度の炭化ケイ素をターゲットとして用いたスパッタリング法により、炭化ケイ素焼結体の表面に形成されたポアを埋め、良好な平滑状態にできることが判った。
【0010】
本発明の第2の特徴は、本発明の第1の特徴に係り、前記スパッタリング法により前記炭化ケイ素焼結体の表面に前記炭化ケイ素膜を形成する前に、前記炭化ケイ素焼結体の表面の表面粗さを所定の値以下にする表面加工工程を有することを要旨とする。
【0011】
本発明の第3の特徴は、本発明の第2の特徴に係り、前記表面加工工程は、ブラスト加工であることを要旨とする。
【0012】
本発明の第4の特徴は、本発明の第1乃至第3の特徴に係り、前記炭化ケイ素膜の厚さが4μm以上であることを要旨とする。
【0013】
また、本発明の第5の特徴は、本発明の第1乃至第4の何れか1つの特徴に係り、前記炭化ケイ素に含まれる不純物の含有量が1ppm以下であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、炭化ケイ素焼結体のポアを無くし、高い耐プラズマ性を有する炭化ケイ素焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、炭化ケイ素焼結体の製造方法の各工程を説明するフローチャートである。
【図2】図2は、プラズマ暴露試験の結果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る炭化ケイ素焼結体の製造方法の実施形態について説明する。具体的には、(1)炭化ケイ素焼結体の製造方法に用いられる成分、(2)炭化ケイ素焼結体の製造方法、(3)作用・効果、(4)その他の実施形態、(5)実施例について説明する。
【0017】
(1)炭化ケイ素焼結体の製造方法に用いられる成分
本発明の実施形態にかかる炭化ケイ素焼結体の製造方法に用いられる成分について説明する。炭化ケイ素粉末は、α型、β型、非晶質、あるいはこれらの混合物等を広く用いることができる。炭化ケイ素粉末は、市販品を用いてもよい。中でもβ型炭化ケイ素粉末が好適に用いられる。炭化ケイ素焼結体を高密度化するためには、炭化ケイ素粉末の粒度は小さいほうがよい。好ましくは0.01〜10μm程度、より好ましくは0.05〜2μmである。粒径が0.01μm未満であると、計量、混合等の処理工程における取り扱いが困難となり、一方10μmを超えると、粉体の比表面積、即ち、隣接する粉体との接触面積が小さくなり、高密度化が困難となるので好ましくない。
【0018】
高純度の炭化ケイ素粉末を用いると、得られる炭化ケイ素焼結体も高純度になるので好ましい。高純度の炭化ケイ素粉末は、例えば、ケイ素化合物(以下「ケイ素源」という場合がある)と、加熱により炭素を発生する有機材料と、重合触媒または架橋触媒とを混合し、得られた固形物を非酸化性雰囲気中で焼成することにより製造することができる。ケイ素源としては、液状、および固体状の化合物を広く用いることができるが、少なくとも液状の化合物を1種以上用いる。
【0019】
液状のケイ素源としては、アルコキシシラン(モノ−、ジ−、トリ−、テトラ−)の重合体等が挙げられる。アルコキシシランの重合体の中では、テトラアルコキシシランの重合体が好適に用いられる。具体的には、メトキシシラン、エトキシシラン、プロピロキシシラン、ブトキシシラン等が挙げられるが、ハンドリングの点からはエトキシシランが好ましい。テトラアルコキシシラン重合体の重合度は2〜15程度であると液状の低分子量重合体(オリゴマー)となる。その他、重合度が高いケイ酸ポリマーで液状のものもある。
【0020】
液状のケイ素源と併用可能な固体状のケイ素源としては、酸化ケイ素が挙げられる。ここにいう酸化ケイ素には、一酸化ケイ素(SiO)、二酸化ケイ素(SiO)の他、シリカゾル(コロイド状超微細シリカ含有液であって、コロイド分子内にOH基やアルコキシ基を含有するもの)、微細シリカ、石英粉体等も含まれる。これらのケイ素源の中でも、均質性やハンドリング性が良好であるテトラアルコキシシランのオリゴマー、またはテトラアルコキシシランのオリゴマーと微粉体シリカとの混合物等が好ましい。また、これらのケイ素源は高純度であることが好ましく、具体的には初期の不純物含有量が20ppm以下であるのが好ましく、5ppm以下であるのがさらに好ましい。
【0021】
炭素源としては、加熱により炭素を生成する有機材料を用いることができる。炭素源としては、液状のものの他、液状のものと固体状のものを併用することもできる。残炭率が高く、かつ触媒あるいは加熱により重合または架橋する有機材料が好ましい。具体的には、フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、ポリビニルアルコール等のモノマー、およびプレポリマーが好ましい。その他、セルロース、しょ糖、ピッチ、タール等の液状物も用いられる。中でもレゾール型フェノール樹脂が、熱分解性および純度の点で好ましい。有機材料の純度は、目的に応じて適宜、制御すればよい。特に高純度の炭化ケイ素粉末が必要な場合は、不純物元素の含有量が各々5ppm未満である有機材料を用いるのが好ましい。
【0022】
炭素源とケイ素源との配合比率は、炭素とケイ素のモル比(以下「C/Si」と略記する。)を目安に好ましい範囲をあらかじめ決定することができる。ここにいうC/Siとは、炭素源とケイ素源との混合物を1000℃にて炭化した炭化ケイ素中間体を元素分析し、その分析値より得られるC/Siである。炭素は、以下の反応式で表されるように、酸化ケイ素と反応し、炭化ケイ素に変化する。
【0023】
式(I): SiO+3C→SiC+2CO
したがって、化学量論的には、C/Siが3.0であると、炭化ケイ素中間体における遊離炭素は0%になるが、実際にはSiOガス等が揮散するため、C/Siが3.0より低い値であっても遊離炭素が発生する。
【0024】
遊離炭素は、粒成長を抑制する効果を有するので、目的とする粉末粒子の粒径に応じて、C/Siを決定し、その比となるようにケイ素源と炭素源とを配合すればよい。例えば、約1気圧、1600℃以上で、ケイ素源と炭素源との混合物を焼成する場合、C/Siが2.0〜2.5の範囲になるように配合すると、遊離炭素の発生を抑制することができる。同条件で、C/Siが2.5を超えるように配合すると、遊離炭素の発生が顕著となり、粒子の小さな炭化ケイ素粉末が得られる。
【0025】
このように、目的に応じて、配合比率を適宜決定することができる。なお、炭化ケイ素粉末に起因する遊離炭素の作用および効果は、焼結助剤から生じる遊離炭素の作用および効果と比較して非常に弱いため、炭化ケイ素粉末に起因する遊離炭素は、本実施形態の効果には本質的に影響しないものである。
【0026】
ケイ素源と炭素源との混合物を硬化させ、固形物にすることもできる。硬化の方法としては、加熱による架橋反応を利用する方法、硬化触媒により硬化する方法、電子線や放射線を利用する方法等がある。硬化触媒は、用いる有機材料に応じて適宜選択できるが、フェノール樹脂、フラン樹脂を有機材料に用いた場合は、トルエンスルホン酸、トルエンカルボン酸、酢酸、蓚酸、塩酸、硫酸等の酸類、ヘキサミン等のアミン類等が挙げられる。
【0027】
ケイ素源と炭素源を含有する固形物は、必要に応じ炭化される。炭化は、窒素またはアルゴン等の非酸化性の雰囲気中800℃〜1000℃にて30〜120分間加熱することにより行われる。さらに、非酸化性雰囲気中1350℃〜2000℃で加熱すると炭化ケイ素が生成する。焼成温度と焼成時間は、得られる炭化ケイ素粉末の粒径等に影響するため、適宜決定すればよいが、1600〜1900℃で焼成すると効率的で好ましい。以上に説明した高純度の炭化ケイ素粉末を得る方法は、特開平9−48605号明細書により詳細に記載されている。
【0028】
炭化ケイ素粉末中の炭素源の添加量は、炭化ケイ素焼結体の遊離炭素が2〜10重量%になるように決定する。遊離炭素がこの範囲外であると、接合処理中に進行するSiCへの化学変化、および炭化ケイ素焼結体間の接合が不十分となる。ここで、遊離炭素の含有率(重量%)は、炭化ケイ素焼結体を酸素雰囲気下において、800℃で8分間加熱し、発生したCO、COの量を炭素分析装置で測定し、その測定値から算出することができる。
【0029】
炭素源の添加量は、用いる炭素源の種類および炭化ケイ素粉末の表面シリカ(酸化ケイ素)量によって異なる。添加量を決定する目安としては、あらかじめ炭化ケイ素粉末の表面シリカ(酸化ケイ素)量を弗化水素水を用いて定量し、この酸化ケイ素を還元するのに十分な化学量論(式(I)で算出される化学量論)を算出する。これと、炭素源が加熱により炭素を生成する割合を考慮し、遊離炭素が前述の適する範囲となるように添加量を決定することができる。以上に説明した炭化ケイ素焼結体の炭素源についての説明は、特開平10−67565号公報の明細書中に詳細に記載されている。
【0030】
スラリー状の混合粉体を得る工程に用いられる溶媒としては、水、エチルアルコール等の低級アルコール類やエチルエーテル、アセトン等が挙げられる。溶媒としては不純物の含有量が低いものを使用することが好ましい。消泡剤としてはシリコーン消泡剤等が挙げられる。また、炭化ケイ素粉末からスラリー状の混合粉体を製造する際に有機バインダーを添加してもよい。有機バインダーとしては、解膠剤、粉体粘着剤等が挙げられる。
【0031】
解膠剤としては、導電性を付与する効果をさらに上げる点で窒素系の化合物が好ましく、例えばアンモニア、ポリアクリル酸アンモニウム塩等が好適に用いられる。粉体粘着剤としては、ポリビニルアルコールウレタン樹脂(例えば水溶性ポリウレタン)等が好適に用いられる。
【0032】
非金属系焼結助剤として、加熱により遊離炭素を生じる有機材料(以下「炭素源」という)を含有するものを用いる。前述の炭素源を単独で、または前述の炭素源を炭化ケイ素粉末(粒度:約0.01〜1μm)表面に被覆させたものを焼結助剤として用いてもよい。効果の点からは、炭素源を単独で用いるのが好ましい。非金属系焼結助剤としては、具体的には、残炭化率の高いコールタールピッチ、ピッチタール、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂の他、各種糖類、例えば、グルコース等の単糖類、しょ糖等の小糖類、セルロース、でんぷん等の多糖類等が挙げられる。
【0033】
炭素源を炭化ケイ素粉末と均質に混合するには、炭素源は、常温で液状のもの、溶媒に溶解するもの、または熱可塑性、熱融解性を有するもの(加熱により軟化するもの)が好ましい。中でも、フェノール樹脂を用いると炭化ケイ素焼結体の強度が向上するので好ましく、さらにレゾール型フェノール樹脂が好ましい。これらの炭素源の作用機構は明確にはなっていないが、炭素源は加熱されると系中にカーボンブラック、グラファイトの如き無機炭素系化合物を生成する。この無機炭素系化合物が焼結助剤として有効に作用しているものと考えられる。但し、カーボンブラック等を焼結助剤として用いても、同様な効果は得られない。
【0034】
非金属系焼結助剤は、所望により有機溶媒に溶解し、その溶液と炭化ケイ素粉末を混合してもよい。使用する有機溶媒は、非金属系焼結助剤により異なる。例えば、焼結助剤としてフェノール樹脂を用いる場合、エチルアルコール等の低級アルコール類、エチルエーテル、アセトン等を選択することができる。高純度の炭化ケイ素焼結体を作製する場合は、高純度の炭化ケイ素粉末を使用するのみならず、焼結助剤および有機溶媒も不純物含有量の少ないものを用いるのが好ましい。
【0035】
非金属系焼結助剤の炭化ケイ素粉末に対する添加量は、炭化ケイ素焼結体の遊離炭素が2〜10重量%になるように決定する。遊離炭素がこの範囲外であると、接合処理中に進行するSiCへの化学変化及び炭化ケイ素焼結体間の接合が不十分となる。ここで、遊離炭素の含有率(重量%)は、炭化ケイ素焼結体を酸素雰囲気下において、800℃で8分間加熱し、発生したCO、COの量を炭素分析装置で測定し、その測定値から算出することができる。
【0036】
焼結助剤の添加量は、焼結助剤の種類および炭化ケイ素粉末の表面シリカ(酸化ケイ素)量によって異なる。添加量を決定する目安としては、あらかじめ炭化ケイ素粉末の表面シリカ(酸化ケイ素)量を弗化水素水を用いて定量し、この酸化ケイ素を還元するのに十分な化学量論(式(I)で算出される化学量論)を算出する。これと、非金属系焼結助剤が加熱により炭素を生成する割合を考慮し、遊離炭素が前述の適する範囲となるように添加量を決定することができる。以上に説明した炭化ケイ素焼結体の非金属系焼結助剤についての説明は、特開平10−67565号明細書中に詳細に記載されている。
【0037】
(2)炭化ケイ素焼結体の製造方法
図1は、炭化ケイ素焼結体の製造方法の各工程を説明するフローチャートである。炭化ケイ素焼結体の製造方法は、以下の工程A〜Dを有する。すなわち、(A)炭化ケイ素粉末及び炭素源を含むスラリー溶液を調製する工程、(B)スプレードライヤー法を用いて、前記スラリー溶液から炭化ケイ素顆粒を得る工程、(C)炭化ケイ素顆粒を分級する工程、(D)炭化ケイ素顆粒をホットプレス法を用いて焼結する工程、(E)スパッタリング工程、(F)表面加工を行う工程を有する。以下、各工程について詳細に説明する。
【0038】
(2−1)工程A:スラリー溶液を調整する
炭化ケイ素粉末及び炭素源を有機溶媒に混合してスラリー溶液を調製する。混合方法としては、公知の方法、例えば、ミキサー、遊星ボールミル等を用いる方法が挙げられる。混合に使用する器具は、金属元素不純物の混入を防止するため、合成樹脂素材のものを用いるのが好ましい。
【0039】
(2−2)工程B:スラリー溶液から溶媒を除去する。
【0040】
スプレードライヤーを用いてスラリー溶液を乾燥させて溶媒を除去する。スラリー溶液から溶媒を除去することにより、炭化ケイ素顆粒を形成する。このとき、スラリー溶液を絶乾しない。
【0041】
(2−3)工程C:炭化ケイ素顆粒を分級する
スプレードライヤーによりスラリー溶液を乾燥すると、5〜300μmの粒度分布を持つ炭化ケイ素顆粒が得られる。この炭化ケイ素顆粒の中から、150〜50μm、好ましくは125〜75μmの粒度を有する炭化ケイ素顆粒を分級する。ここで「粒子径1mm以下の粒子」とは、目の直径が1mmの篩を通り抜けた粒子をいう。
【0042】
(2−4)工程D:ホットプレスにより焼結する
炭化ケイ素顆粒及び非金属系焼結助剤を成形モールドに充填し、ホットプレスにより焼結する。具体的には、炭化ケイ素顆粒を成形モールドに入れ、面圧300〜700kgf/cmで型押しするとともに加熱する。加熱温度は、2000℃〜2400℃が好ましい。最高温度までの昇温は穏やかに、かつ段階的に行うことが好ましい。このように昇温すると、各々の温度で生じる化学変化、状態変化等を十分に進行させることができる。その結果、不純物混入や亀裂および空孔の発生を防止することができる。
【0043】
(2−5)工程E:表面加工を行う工程
工程Fの前に炭化ケイ素焼結体の表面に、研削加工、鏡面加工、或いはブラスト加工を行って、表面粗さを所定の値以下にする。
【0044】
(2−6)工程F:スパッタリングする工程
続いて、(2−1)において作製された炭化ケイ素粉末と同一純度を有する炭化ケイ素をターゲットとして用いて、工程Dで形成された炭化ケイ素焼結体の表面に炭化ケイ素膜をスパッタリング法により形成する。炭化ケイ素粉末及びターゲットに含まれる不純物の含有量が1ppm以下であることが好ましい。好ましくは、不純物として、炭化ケイ素粉末及びターゲットに含まれる鉄(Fe)の含有量が1ppm以下である。形成される炭化ケイ素膜の厚さは、4μm以上である。
【0045】
工程Fの条件は、一例として、出力1kW、使用したアルゴンガス:10sccm、圧力0.67Pa、距離70mmとすることができる。
【0046】
(3)作用・効果
通常のスパッタリング法では、炭化ケイ素焼結体の表面に、ポアを埋めることのできる程度の薄膜(すなわち、膜厚4μm以上)を形成することは困難であるが、実施形態では、炭化ケイ素焼結体の表面に炭化ケイ素と同一純度を有する炭化ケイ素をターゲットとして用いて炭化ケイ素焼結体の表面に炭化ケイ素膜をスパッタリング法により形成することにより、炭化ケイ素焼結体の表面に形成されたポアを埋め、良好な平滑状態にできる。特に、炭化ケイ素に含まれる不純物の含有量が1ppm以下であることが好ましい。この場合、炭化ケイ素膜の厚さを3μm〜5μmにできる。従って、実施形態の炭化ケイ素焼結体の製造方法によれば、炭化ケイ素焼結体のポアを無くし、高い耐プラズマ性を有する炭化ケイ素焼結体を提供できる。
【0047】
特に、スパッタリングによる成膜の前処理として、炭化ケイ素焼結体の表面の表面粗さを所定の値以下にする表面加工を施すことにより、炭化ケイ素膜の剥離耐性が高められる。特に、表面加工としては、ブラスト加工が好ましい。
【0048】
(4)その他の実施形態
上記のように本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。
【0049】
実施形態では、炭化ケイ素に含まれる不純物の含有量が1ppm以下であることが好ましいと説明した。しかし、2ppm程度であっても効果が得られる。また、必ずしも同一純度でなくてもよい。例えば、不純物の含有量において±10%の違いは、誤差に含まれる。
【0050】
この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【0051】
(5)実施例
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の主旨を超えない限り本実施例に限定されるものではない。
【0052】
(5−1)剥離耐性
炭化ケイ素1、炭化ケイ素2をそれぞれ炭化ケイ素焼結体、炭化ケイ素膜のターゲットとして使用して、実施形態の工程Eの表面加工の種類と、工程Fにおいて成膜される炭化ケイ素膜の厚さを変えて炭化ケイ素膜の剥離耐性を調べた。また、得られたサンプルの熱剥離試験(1200℃×30回)を行って、炭化ケイ素膜の剥離耐性を調べた。更に十字傷剥離試験(炭化ケイ素膜の表面に十字傷を作製し、十字傷を起点とする剥離状態の観察)を行った。
【0053】
なお、炭化ケイ素の不純物の含有量が0.3ppmであり、Si含侵Sicの不純物の含有量が0.35ppmであった。
【0054】
工程Eにおいて、基材面(炭化ケイ素焼結体の表面)を研削加工した後、工程Fにおいて炭化ケイ素膜を成膜したサンプルにおける上記各試験の結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
工程Eにおいて、基材面(炭化ケイ素焼結体の表面)を鏡面加工した後、工程Fにおいて炭化ケイ素膜を成膜したサンプルにおける上記各試験の結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
工程Eにおいて、基材面(炭化ケイ素焼結体の表面)をブラスト加工した後、工程Fにおいて炭化ケイ素膜を成膜したサンプルにおける上記各試験の結果を表3に示す。
【0059】
【表3】

【0060】
表1〜表3に示すように、基材面(炭化ケイ素焼結体)に形成される炭化ケイ素膜の厚さは、同一組成なら、20μmまでのコーティングが可能で、ブラスト加工は、20μmまで、熱剥離試験、十字傷剥離試験において問題が生じなかった。
【0061】
(5−2)熱酸化試験
表面加工として、研削加工、ブラスト加工したサンプルについて、熱酸化試験を行った。通常、炭化ケイ素焼結体中には、フリーカーボンが存在する。特に、ポアに多く存在しており、このフリーカーボンの存在が熱酸化やプラズマ損傷の起点となっていることがわかっている。従って、熱酸化試験を行って重量の減少がないこと、または、増量が観察されれば、ポアがないことが証明できる。結果を表4、表5に示す。
【0062】
【表4】

【0063】
【表5】

【0064】
(5−3)プラズマ暴露試験
かさ密度3.12の炭化ケイ素焼結体(炭化ケイ素1を原料とする)の表面に、同じく炭化ケイ素1をターゲットとして、0.6μm〜12.2μmまでの炭化ケイ素膜を作製したサンプルを用意し、プラズマ暴露試験(CF/O=100/100sccm、500W、50Pa、50時間)を行い、損耗量を測定した。結果を図2に示す。
【0065】
(5−4)評価
以上、各種試験を行った結果、炭化ケイ素(不純物の含有量が0.3ppm)を焼結体及びターゲットの原料とした場合に、剥離耐性も良好であり、ポアが少ないことが判った。また、スパッタリングによる炭化ケイ素焼結体の表面に形成する炭化ケイ素膜の厚さは、4μm以上あれば、良好なプラズマ耐性が得られることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素を含む炭化ケイ素焼結体を製造する炭化ケイ素焼結体の製造方法であって、
前記炭化ケイ素を含む混合粉体を形成する工程と、
前記混合粉体を前記所定の形状に成形し焼成する工程と、
前記炭化ケイ素と同一組成を有する炭化ケイ素をターゲットとして用いて、前記焼成する工程によって形成された炭化ケイ素焼結体の表面に前記炭化ケイ素膜をスパッタリング法により形成する工程と
を有することを特徴とする炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記スパッタリング法により前記炭化ケイ素焼結体の表面に前記炭化ケイ素膜を形成する前に、前記炭化ケイ素焼結体の表面の表面粗さを所定の値以下にする表面加工工程を有する請求項1に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記表面加工工程は、ブラスト加工である請求項2に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記炭化ケイ素膜の厚さは、4μm以上である請求項1乃至3の何れか一項に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記炭化ケイ素に含まれる不純物の含有量は、1ppm以下である請求項1乃至4の何れか一項に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−256062(P2011−256062A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130510(P2010−130510)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】