説明

炭化水素の部分酸化触媒、それを用いた水素含有ガスの製造方法及び装置

【課題】炭化水素の部分酸化反応による水素含有ガス製造に関して安価かつ炭素析出を招来しない触媒を提供する。
【解決手段】触媒は少なくとも触媒成分と担体を含み、触媒成分はニッケルの酸化物とクロムの酸化物を含み、触媒成分を構成する格子酸素の少なくとも一部が部分酸化反応に供されるとともに、触媒自身を酸化することにより再生されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素の部分酸化反応に係る触媒、例えばメタン、エタン、プロパンもしくはそれらのガスを主成分とする混合ガス、又は天然ガスから部分酸化反応により水素を含有する混合ガスを製造する触媒と、それを用いて水素を含有する混合ガスを製造する方法と装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メタンガスや天然ガスを水素と一酸化炭素に転換する反応は、化学製品原料の合成ガスを得る方法として有用であるだけでなく、クリーンエネルギー源である水素の製造方法としても重要である。
【0003】
一方、燃料電池は発電の際に水しか排出せず、振動や騒音がないことから、エネルギー問題、環境問題の改善に大きく貢献すると期待されているが、燃料である水素の供給に問題があった。特に、小規模ビルや家庭用、船舶用等の比較的小型で分散配置された燃料電池については、その場で燃料を供給できる小型の燃料供給装置が求められている。
【0004】
天然ガス等の化石燃料からの水素製造は、従来から、主として水蒸気改質法によって大規模に行われているが、通常800℃付近の高温で運転され、また水蒸気改質自体が吸熱反応であるため大量のエネルギー投入を必要とし、さらに副生物である二酸化炭素を大量に大気に放出するなどの問題点があった。このような大規模な水素製造装置を分散配置された小型燃料電池に接続することは不可能であり、また大規模に製造された水素をボンベで供給するにしても、運搬費用が高価となり、小型燃料電池の普及を妨げている。
【0005】
水蒸気改質法以外に炭化水素から合成ガスや水素を製造する方法として、部分酸化法がある。飽和炭化水素の部分酸化から水素を製造する反応は次式のようになる。
x2(x+1)+(x/2)O2→xCO+(x+1)H2
部分酸化反応は発熱反応であるため外部からの大量のエネルギー投入は必要ないが、反応温度が高温になりやすく、高温に耐えうる反応容器材料に制約があり装置寿命も短くなる。そのため、比較的低い温度で反応を進める触媒が求められている。
【0006】
メタンと酸素から合成ガスや水素を製造するための部分酸化触媒としては、Ru又はRhをジルコニア又は安定化ジルコニアに担持させたもの(特許文献1参照。)や、Irを酸化チタンに担持させたもの(非特許文献1参照。)等が報告されているが、これらの触媒活性金属であるRu、Rh及びIrはいずれも高価な希少貴金属であり、実用的にはより安価な部分酸化触媒が求められていた。
【0007】
また、触媒による炭化水素の部分酸化反応では、炭素析出が起こりやすい。これらの提案の部分酸化触媒はメタンと酸素を原料ガスとして連続的に供給しながら触媒の活性の続く限り反応を継続させるのが原則であるので、触媒表面に炭素が析出すれば触媒が不活性化され短寿命となる問題点があった。
【0008】
触媒活性金属として貴金属より安価なCoをアルミナに担持したCo/Al23部分酸化触媒も提案されている(非特許文献2参照。)。しかし、アルミナを担体とするCo担持触媒では、燃料ガスの転化率や生成物の水素選択率について、実用に堪えうるものは未だ得られていない。
【0009】
本発明の対象とする部分酸化反応ではないが、メタンのCO2改質反応に対してCeO2−Al23担体にNiを担持した触媒を使用した報告がある(非特許文献3参照。)。そこでは、Ni担持量を5重量%に固定した上でCeO2が1〜5重量%のときが最適であると結論しており、しかも、その触媒が部分酸化反応に対しても有効であるかどうかは不明であった。
【0010】
また従来の部分酸化法においては、メタンとともに純酸素を供給する必要があった。このためには部分酸化反応装置に大規模な酸素製造装置からガスラインを接続するか、酸素ボンベを運搬して接続する必要があり、システムが大型化かつ高コスト化してしまうという問題点があった。
【0011】
メタンの部分酸化反応に必要な酸素を、純酸素からではなく、触媒自身から供給する考え方もある。酸化物を触媒とし、その格子酸素を利用するものである。水素の貯蔵材料として大塚らによって研究された四酸化三鉄(Fe34)も、メタン分解による水素生成も行っていることから、このような触媒の例として考えることができる(非特許文献4、5参照。)。
【0012】
また、触媒としてペロブスカイト酸化物を用い、触媒自身の酸素を使ってメタンを部分酸化し合成ガスを得るという研究結果が最近報告された(非特許文献6参照。)が、反応に900℃という高温を要するなど、実用的なシステムを設計するにはコスト面で問題となる課題が多い。
【0013】
本発明者らは、上記のような問題点を改良した部分酸化触媒として、酸化第二鉄を触媒活性成分とする新規触媒を開発し公表した。(非特許文献7)前発明によれば、担体としてはイットリアを含むことが必要であり、また貴金属であるロジウムの添加により高性能な部分酸化触媒が得られた。ロジウム添加量はわずかであり、活性主成分は安価な鉄の酸化物であるから、前発明の触媒は決して高価なものではない。しかし、より安価かつ希少性のない原料から触媒を製造することができれば、工業的にさらに有用であることは当然である。
【特許文献1】特開平5−221602号公報
【非特許文献1】K. Nakagawa, T. Suzuki, T. Kobayashi and M. Haruta, Chem. Lett., (1996) 1029
【非特許文献2】S. Teng, J. Lin and K.L. Tan, Catalysis Letter 59 (1999) 129-135
【非特許文献3】S. Wang and G. Q. Lu, Applied Catalysis B, 19, (1998) 267-277
【非特許文献4】竹中 壮、三津 愛子、山中 一郎、大塚 潔、触媒, 42 (2000) 351
【非特許文献5】竹中 壮、Van Tho Dinh Son、花泉 紀子、山中 一郎、大塚 潔、触媒, 46 (2004) 146
【非特許文献6】SHEN Shikong, LI Ranjia, ZHOU Jiping and YU Changchun, Chinese J. Chem. Eng., 11 (2003) 649-655
【非特許文献7】Osami Nakayama, Na-oki Ikenaga, Takanori Miyake, Eriko Yagasaki and Toshimitsu Suzuki, Europacat VIII, P.11-44 (26-31 Aug. 2007, Finland)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
メタンガスなどの炭化水素を原料として触媒自身の酸素により部分酸化を行うことができ、かつ再生することのできる触媒を見つけることができれば、従来の水蒸気改質法に替わる省エネルギーかつコンパクトで迅速起動可能な水素や合成ガスの製造につながる。このような水素製造は、クリーンな分散型電源である小型燃料電池への水素供給に最適であり、社会へのエネルギーの安定供給及び環境の改善に資する。
【0015】
本発明の第1の目的は、炭化水素の部分酸化反応による水素含有ガス製造に関して、部分酸化反応工程では酸素供給を必要とせず、安価で、炭素析出を抑えることができ、かつ再生可能な触媒を提供することである。
本発明の第2の目的は、その触媒を製造する方法を提供することである。
本発明の第3の目的は、その触媒を使用して水素含有ガスを製造する方法を提供することである。
本発明の第4の目的は、その触媒を使用して水素含有ガスを製造する装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ニッケルとクロムの各酸化物と、いわゆる担体としての役割を果たす酸化物から成る触媒を使用すれば、触媒自身の酸素を用いてメタンなど炭化水素の部分酸化反応が進行し、生成物中の水素選択率が高くなること、及び炭素析出を抑えることができることを見出し、さらにこの触媒は再生が容易であり、純酸素に限らず、空気等でも再生できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0017】
本発明の部分酸化触媒は、外部から酸素を供給する必要なしに、メタンなどの炭化水素の部分酸化反応に対して良好な活性を示すことを主眼として開発されたものであり、炭化水素を部分酸化して水素と一酸化炭素を含有する混合ガスを生成させるものであって、ニッケルとクロムの各酸化物を含有することを特徴とする。メタンなどの炭化水素ガスと触媒自身を構成する酸化物の格子酸素が反応して、水素及び一酸化炭素を主成分とする合成ガスを生成する部分酸化反応を進行させることが可能であり、さらに反応で消費された格子酸素は、反応後の触媒を酸素、空気等で酸化することにより再生させることができるため、触媒の繰り返し使用が可能である。
【0018】
本発明の触媒を形成するための担体としては、通常の触媒に用いられる種々の酸化物を用いることができるが、その化学組成や製造方法によって、優れた部分酸化触媒が得られる場合と充分機能しない場合がある。担体としてはマグネシア(MgO)やシリカ(SiO2)、イットリア(Y23)が好ましく、アルミナ(Al23)やセリア(CeO2)を使用した場合には充分な触媒活性が得られないことが多い。
【0019】
また、触媒の製造方法にも様々な手法がある。第1の製造方法は、触媒成分となる金属元素としてのニッケル及びクロム、並びに担体となる金属元素としてのマグネシウム、シリコン又はイットリウムの各金属元素を含む塩を溶解させた溶液を調製する工程と、前記溶液の溶媒を除去する乾燥工程と、乾燥工程後に酸化性雰囲気中で焼成する焼成工程とを含む方法である。この場合、マグネシウム、シリコン又はイットリウムは触媒成分とともに水溶液から酸化物になるが、本発明ではそのような形態のものも担体と称している。このように、材料の水溶液を予め混合してから溶媒を蒸発させた後、焼成して得た触媒では、部分酸化反応の好ましくない副反応である炭素析出が抑制される。
【0020】
第2の製造方法は、ニッケルとクロムの各金属元素を含む塩を溶解させた溶液を、担体である酸化マグネシウム、シリカ又は酸化イットリウムに加える工程と、その後、溶液の溶媒を除去する乾燥工程と、乾燥工程後に酸化性雰囲気中で焼成する焼成工程とを含む方法である。
【0021】
本発明の水素含有ガス製造方法は、炭化水素を含む原料ガスを加熱下で本発明の部分酸化触媒に接触させ、酸化剤としての酸素含有ガスを供給することなく、部分酸化触媒中の金属酸化物を構成する格子酸素により炭化水素を部分酸化して水素と一酸化炭素を含有する混合ガスを生成させる部分酸化工程と、部分酸化工程を経た部分酸化触媒を加熱下で酸素含有ガスと接触させて部分酸化触媒を再生する再生工程とを含んでいる。
【0022】
再生工程で使用する酸素含有ガスは、純酸素ガスでもよいが、実施例に示されているように、酸素と不活性なガスとの混合ガスでもよく、水蒸気や空気でもよい。コストの面からは空気を使用するのが最も好ましい。
【0023】
本発明の水素含有ガス製造装置は、本発明の部分酸化触媒が保持された反応管と、その触媒を加熱する加熱炉と、メタンなどの炭化水素を含む原料ガスを反応管に送り触媒と接触させる原料ガス供給流路と、触媒再生に用いる酸素含有ガスを反応管に送り触媒と接触させる再生ガス供給流路とを備え、反応管中で、酸化剤としての酸素含有ガスの存在しない状態下で触媒中の金属酸化物を構成する格子酸素により原料ガスの炭化水素を部分酸化して水素と一酸化炭素を含有する混合ガスを生成させ、原料ガスが存在しない状態下で再生ガス供給流路からの酸素含有ガスにより部分酸化触媒を再生する。
【0024】
反応管は部分酸化触媒が移動できないように固定された固定床反応管である場合には、反応管を2系列持てば、一方の部分酸化反応中に他方の触媒を再生することも可能であり、これにより連続的な水素含有ガス製造装置を実現できる。すなわち、その場合は、反応管と加熱炉の組が2組備えられ、原料ガス供給流路と再生ガス供給流路は切替え弁を介して両反応管に接続されており、加熱炉と切替え弁の制御により、一方の反応管での部分酸化反応中に他方の反応管での触媒を再生するようにするとともに、その操作を交互に切り替えることができるようになっている。
【0025】
反応管は触媒が移動可能な状態で保持された移動床反応管である場合には、反応管が部分酸化反応を行わせる反応部と、反応部とは異なる場所で触媒再生を行わせる再生部とを備えており、反応部と再生部の間で触媒を搬送する搬送路が設けられており、原料ガス供給流路は反応部に接続され、再生ガス供給流路は再生部に接続されているようにすれば、触媒を移動させながら部分酸化反応と触媒再生を連続的に続けることができる。
【0026】
原料となる炭化水素としては、実施例ではメタンのみを取りあげているが、メタンに限るものではない。エタンやプロパンなどの飽和炭化水素であってもよい。しかし、炭化水素の炭素数が多くなると炭素の析出量が増す傾向があるので、メタンが最も好ましい。また、不飽和炭化水素でもよいが、やはり炭素の析出量が増す傾向があるので好ましくない。
【発明の効果】
【0027】
本発明の部分酸化触媒を用いることにより、部分酸化のために酸素供給ガスラインや酸素ボンベを接続する必要なしに、部分酸化法により水素と一酸化炭素を含む混合ガスを製造することができる。得られた混合ガスから水素を分離したり、水素と一酸化炭素の混合ガスを合成ガスとして有機化合物合成の原料に供したりすることができる。特に、小型燃料電池に好適な水素製造装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明に記載の触媒組成は、他に一般的に触媒に求められる特性、例えば機械的強度の向上などを得るための成分を、本発明の触媒組成に混合して触媒調製することを排除するものではない。また、本発明に記載の触媒組成は、触媒の製造工程で不可避的に混入する微量不純物成分を排除するものでもない。
【0029】
(1)MgO担体の調製
硝酸マグネシウム(Mg(NO32・6H2O)を空気流通下、600℃まで昇温した後5時間保持し、MgOを調製した。
【0030】
(2)Y23担体の調製
しゅう酸イットリウム(Wako, Y2(C24)3・4H2O)を空気流通下、室温から5℃/分の昇温速度で600℃まで昇温し、600℃で5時間保持しY23を調製した。
【0031】
(3)その他の担体の調製
CeO2もY23担体と同様の調製法で硝酸セリウム(III)六水和物(Wako, Ce(NO3)3・6H2O)から調製した。
他の担体(Al23(Merck)、La23(ナカライテスク)、SiO2(FUJI SILYSIA))はそのまま使用した。
【0032】
(4)NiO(16)−Cr23(4)/MgO触媒の調製
所定量のNi(NO32・6H2O及びCr(NO33・9H2Oを溶解させた水溶液を、担体(MgO)1gに対して、Niとして16m mol、Crとして4m molとなるように加え、一夜放置後、蒸発乾固により乾燥させた。その後、空気流通下、室温から600℃まで昇温し、600℃で5時間保持し触媒を調製した。いわゆる含浸担持法であり、以下この方法で担持した場合、「(担持された物質)/(担体)」と表記する。
なお、触媒表示中のNiO(16)のような括弧内の数字は、担体1gあたりに担持された金属元素の量をm mol単位で表したものである。
【0033】
(5)NiO(16)−Cr23(4)−MgO触媒の調製
所定量のNi(NO32・6H2O、Cr(NO33・9H2O及びMg(NO32・6H2Oを水に溶解させ、蒸発乾固により乾燥させた。その後、空気流通下、室温から600℃まで昇温し、600℃で5時間保持し触媒を調製した。以下この方法で調製した場合、「(担持された物質)−(担体)」と表記する。括弧内の数字の標記は、含浸担持法による触媒調製の場合と同様である。
また、焼成温度を800℃としたこと以外は上記と同様の方法で調製した触媒も作製した。
なお、比較例等、他の組成の触媒もそれぞれの成分の水溶性塩を用いて同様の方法で調製した。
【0034】
(5)評価のための実験装置
評価のための実験装置として、図1に示される反応装置を使用した。ただし、この反応装置はあくまで評価のための実験装置であり、実際にこの触媒を使用して水素含有ガスを製造する装置はこの反応装置に限定されるものではなく、各部の配置や規模は目的に応じて適宜変更することができる。
【0035】
図1の反応装置において、反応管2は石英ガラス管であり、例えばその内径が10mm、長さが250mmであり、内部には部分酸化触媒層4が充填されている。触媒層4は両側から石英製グラスウールで挟み込まれて反応管2内に固定されている。反応管2を加熱するために電気炉6が設けられており、反応管2が電気炉6中に収納されるように電気炉6に対して反応管2が位置決めされている。触媒層4に対して石英ガラス製熱電対保護管(図示略)が設置され、その中に熱電対(図示略)が通されて触媒層4と接触している。触媒層4の温度はその熱電対により検出され、その検出された温度が設定温度になるように、温度コントローラ(図示略)により電気炉6への通電が制御される。
【0036】
反応管2の一端には部分酸化反応のための原料ガスとしてメタンを供給する原料ガス供給流路8と、触媒再生時に酸素含有ガスとして酸素とアルゴンの混合ガス、水蒸気又は空気を供給する再生ガス供給流路10が、三方切替弁12により切り替えてガスを供給することができるように接続されている。いずれの流路8,10もそれぞれのガスを一定流量で供給するための質量流量制御器14,18を備えている。それぞれの質量流量制御器14,18の上流には開閉弁16,20が配置されている。
【0037】
反応管2の他端は三方バルブ22を介してガスクロマトグラフ24及び質量分析計26に接続されている。質量分析計26として四重極質量分析計を用いているが他の形式の質量分析計でもよい。三方バルブ22の切替えにより、反応管2からの反応ガスをガスクロマトグラフ24又は質量分析計26に導いて適宜分析する。しかしながら、このような分析装置の配置は実験データ収集のための配置であり、実用化システムに不可欠なものではない。
【0038】
なお、分析装置の使用条件の制約から、実験に用いるガスを希釈するときは、希釈ガスとしてアルゴンを用いた。これは、質量分析計で一酸化炭素を分析しようとすると、一酸化炭素と同じ質量数をもつ窒素は希釈ガスとしては使用できないからである。そして、アルゴンは不活性ガスであるため、触媒反応にはなんら影響しないことを確認済みである。
【0039】
(6)本発明の部分酸化触媒を用いたメタンからの水素製造反応
製造した触媒は、メタンの部分酸化反応によって評価した。なお、分析装置の感度・分解能の制約から、メタンは不活性ガスであるアルゴンで希釈して導入したが、アルゴンは触媒活性の評価にはなんら影響するものではない。
【0040】
(7)本発明の触媒の再生反応
メタンの部分酸化による水素製造反応をある時間実施した後の触媒は、アルゴンで希釈した酸素ガス、又は空気により酸化し、再びメタンの部分酸化反応に供し、その性能によって完全に再生されたことを評価した。また、後で説明する図2に示すように、触媒のX線回折の結果によっても本発明の触媒は酸化によって再生することが確認された。
【0041】
実際の部分酸化実験は、調製した触媒の0.5gを反応管に充填し、アルゴン:メタン=4:1の混合ガスを流量25ml/分、流速SV=3,000ml/g−cat・h(SVは空間速度)で流す環境下で、触媒温度を毎分10度の速度で700℃まで昇温した後、700℃に所定時間保持して行った。部分酸化と触媒再生を交互に繰り返して実験を行う場合には、上記の部分酸化反応を所定時間実施した後、700℃においてガスをアルゴン:酸素=4:1の混合ガスに切り替えて、25ml/分、空間速度SV=3,000ml/g−cat・hで部分酸化と同じ時間だけ反応させ、触媒を再生した。
【0042】
以上の反応条件はあくまで評価のための実験条件であり、実際に工業的に製造する際には目的に合せて適宜変更する。
以下、本発明を実施例によりさらに詳述する。
【実施例1】
【0043】
焼成温度600℃で調製したNiO(16)−Cr23(4)−MgO触媒(MgO1gあたり16m molのNiOと4m molのCr23が含有されるよう、Mg、Ni、Crを総て溶解させた水溶液から調製した触媒)を用い、メタンの部分酸化反応−触媒再生の繰り返し実験を実施した。反応及び再生時間は10分ずつであり、3回繰り返した。反応温度と再生温度は1回目を600℃で、2回目を700℃で、3回目を800℃で行った。結果を表1に示す。600℃での反応では原料であるメタンの転化率が低いが、700℃以上の温度では90%以上の転化率が得られた。また600℃と700℃での反応では、CO選択率が高い一方、CO2選択率が低いことから、合成ガス(H2+CO)を生成する部分酸化反応が進行していることがわかる。800℃ではさらに高いメタン転化率を示すが、完全酸化の割合が高くなること、炭素析出がやや増加することなどから、本発明の触媒は700℃で充分にその機能を発揮するといえる。反応温度が低い方が、加熱のための投入エネルギーが少なくてすみ、工業的に有利であることは言うまでもない。
【0044】
実施例1の触媒を用いて、700℃での部分酸化反応と700℃での再生反応を10回繰り返す実験を行った。表2に示す結果のように、10回の反応―再生を繰り返してもメタン転化率は90%前後を維持しており、本実施例の触媒が長寿命であることが示された。水素選択率は最初の1〜2回目は若干低めであるが、以降90%前後で推移した。
【実施例2】
【0045】
焼成温度700℃で調製したNiO(16)−Cr23(4)−MgO触媒についても、700℃での部分酸化反応と700℃での再生反応を10回繰り返す実験を行った。この実験の結果も表2に示す。10回の繰り返し実験を通してメタン転化率は90%以上、水素選択率、CO選択率とも安定して高い値で推移しており、活性、寿命ともに優れた触媒であることを示した。
【実施例3】
【0046】
焼成温度800℃で調製したNiO(16)−Cr23(4)−MgO触媒についても、700℃での部分酸化反応と700℃での再生反応を10回繰り返す実験を行った。この実験の結果も表2に示す。実施例1の場合に比べ、メタン転化率はやや低下したが、水素選択率は初回が87.6%、2回目以降は90%を越えて推移しており、安定性に優れた触媒であることを示した。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【実施例4】
【0049】
Cr23の含有量を8m molと2倍に増量したほかは実施例1と同様の触媒、すなわちNiO(16)−Cr23(8)−MgO触媒((MgO1gあたり16m molのNiOと8m molのCr23が含有されるよう、Mg、Ni、Crを総て溶解させた水溶液から調製した触媒)について、メタンの部分酸化反応−触媒再生の繰り返し実験を実施した。反応及び再生時間は10分ずつであり、5回繰り返した。反応温度と再生温度は1回目を600℃で、2回目を650℃で、3回目を700℃で、4回目を750℃で、5回目を800℃で行った。結果を表3に示す。触媒性能は実施例1のものと殆ど変わらず、この程度のCr23の増量は触媒性能に影響を与えないことがわかる。
【実施例5】
【0050】
NiOの含有量を32m molと2倍に増量したほかは実施例4と同様の触媒、すなわちNiO(32)−Cr23(8)−MgO触媒((MgO1gあたり32m molのNiOと8m molのCr23が含有されるよう、Mg、Ni、Crを総て溶解させた水溶液から調製した触媒)について、メタンの部分酸化反応−触媒再生の繰り返し実験を実施した。実施例4と同じく、反応及び再生時間は10分ずつであり、5回繰り返した。反応温度と再生温度も実施例4と同じく、1回目を600℃で、2回目を650℃で、3回目を700℃で、4回目を750℃で、5回目を800℃で行った。結果を表3に示す。
メタン転化率は実施例4と同様に高いものの、CO2とH2Oの発生が多くなることから、NiOの含有量を多くすると燃焼反応が起こりやすくなるものと考えられる。
【0051】
【表3】

【実施例6】
【0052】
MgO担体にNiとCrを含む水溶液を含浸担持させて調製したNiO(16)−Cr23(4)/MgO触媒について、メタンの部分酸化反応−触媒再生反応を各10分ずつ、3回繰り返す実験を実施した。反応温度は1回目を600℃で、2回目を700℃で、3回目を800℃で行った。結果は、実施例1と併せて表1に記載した。メタン転化率、水素選択性とも実施例1と同等の性能を示し、本実施例の調製方法でも優れた触媒が得られた。しかしながら、実施例1と比較してやや炭素析出量が多く、またCO選択率が低く完全酸化の比率が高い傾向が見られたことから、実施例1の方がより優れた触媒であるといえる。
【実施例7】
【0053】
担体としてシリカ(SiO2)を使用したほかは、実施例1と同様の方法で調製したNiO(16)−Cr23(4)−SiO2触媒(SiO21gあたり16m molのNiOと4m molのCr23が含有されるよう、Si、Ni、Crを総て溶解させた水溶液から調製した触媒)を用い、メタンの部分酸化反応−触媒再生の繰り返し実験を実施した。反応及び再生時間は10分ずつであり、3回繰り返した。反応温度は1回目を600℃で、2回目を700℃で、3回目を800℃で行った。結果を表4に示す。600℃での反応では原料であるメタンの転化率が低いが、700℃以上の温度では90%以上の転化率が得られた。800℃ではさらに高いメタン転化率を示すが、完全酸化の割合が高くなることなどから、本発明の触媒は実施例1と同様に700℃で充分にその機能を発揮するといえる。炭素析出はわずかしか認められず、優れた性能を示す。
【実施例8】
【0054】
担体としてイットリア(Y23)を使用したほかは、実施例1と同様の方法で調製したNiO(16)−Cr23(4)−Y23触媒(Y231gあたり16m molのNiOと4m molのCr23が含有されるよう、Y、Ni、Crを総て溶解させた水溶液から調製した触媒)を用い、メタンの部分酸化反応−触媒再生の繰り返し実験を実施した。反応及び再生時間は10分ずつであり、3回繰り返した。反応温度は1回目を600℃で、2回目を700℃で、3回目を800℃で行った。結果を表4に示す。600℃での反応では原料であるメタンの転化率が低いが、700℃では83.4%、800℃では93.3%と良好な転化率が得られた。特に700℃での反応においては、CO選択率が高く、かつ炭素析出が抑制されており、実施例1と同様に700℃で充分にその機能を発揮する触媒となっている。
【0055】
【表4】

【0056】
[比較例1]
Cr23を含有しないほかは実施例1と同様の触媒、すなわちNiO(16)−MgO触媒(MgO1gあたり16m molのNiOが含有されるよう、MgとNiを溶解させた水溶液から調製した触媒)について、メタンの部分酸化反応−触媒再生の繰り返し実験を実施した。反応及び再生時間は10分ずつであり、4回繰り返した。反応温度は1回目を500℃で、2回目を600℃で、3回目を700℃で、4回目を800℃で行った。結果を表4に示す。700℃以上でメタン転化率は上昇してくるが、炭素析出が多く実用には適さない。
【0057】
この触媒を用いて、700℃におけるメタンの部分酸化反応−触媒再生を各10分間ずつ10回繰り返す実験を行った結果を表5に示す。700℃での反応−再生を繰り返しても炭素析出量は一貫して多く、部分酸化反応触媒として不適である。
【0058】
【表5】

【0059】
[比較例2]
担体としてセリア(CeO2)を使用したほかは実施例1と同様の触媒、すなわちNiO(16)−Cr23(4)−CeO2触媒(CeO21gあたり16m molのNiOと4m molのCr23が含有されるよう、Ce、Ni、Crを総て溶解させた水溶液から調製した触媒)について、メタンの部分酸化反応−触媒再生の繰り返し実験を実施した。反応及び再生時間は10分ずつであり、3回繰り返した。反応温度は1回目を700℃で、2回目を600℃で、3回目を800℃で行った。結果は表4に示すが、メタン転化率は700℃以上で高くなるものの、水素やCOの選択率が低い一方でCO2選択率が高いことから完全酸化反応が進行しており、MgOやSiO2を担体に使用した本発明の触媒のような部分酸化反応触媒とはなっていないことは明らかである。
【0060】
[比較例3]
担体としてセリア(CeO2)を使用したほかは実施例6と同様の触媒、すなわちCeO2担体にNiとCrを含む水溶液を含浸担持させて調製したNiO(16)−Cr23(4)/CeO2触媒について、メタンの部分酸化反応−触媒再生反応を各10分ずつ、温度500℃、600℃、700℃、800℃で実施した。メタン転化率は700℃以上で高くなるものの、CO2とH2Oの発生が多いことから燃焼反応が進行していることが明らかであり、部分酸化触媒としての活性は低い。
【0061】
[比較例4]
担体として酸化ランタン(La23)を使用したほかは実施例1と同様の触媒、すなわちNiO(16)−Cr23(4)−La23触媒(La231gあたり16m molのNiOと4m molのCr23が含有されるよう、La、Ni、Crを総て溶解させた水溶液から調製した触媒)について、比較例2と同様の条件でメタンの部分酸化反応−触媒再生の3回繰り返し実験を実施した。この結果も表4に示すが、水素選択率が低い一方でCO2選択率が高く、メタンの部分酸化反応触媒としては不適である。
【0062】
[比較例5]
担体としてアルミナ(Al23)を使用したほかは実施例6と同様の触媒、すなわちAl23担体にNiとCrを含む水溶液を含浸担持させて調製したNiO(16)−Cr23(4)/Al23触媒について、メタンの部分酸化反応−触媒再生反応を各10分ずつ、温度500℃、600℃、700℃、800℃で実施した。この結果も表4に示すが、メタン転化率は700℃以上で高くなるものの、CO選択率が低く、部分酸化反応活性に乏しいことがわかる。
【0063】
[比較例6]
Cr23の替わりにCaOを使用したほかは実施例1と同様の触媒、すなわちNiO(16)−CaO(4)−MgO触媒(MgO1gあたり16m molのNiOと4m molのCaOが含有されるよう、Mg、Ni、Caを総て溶解させた水溶液から調製した触媒)について、メタンの部分酸化反応−触媒再生反応を各10分ずつ、温度500℃、600℃、700℃、800℃で実施した結果を表6に示す。700℃以上で部分酸化反応が進行するものの、この温度領域では炭素析出量が多く、実用触媒としては不適である。
【0064】
[比較例7]
Cr23の替わりにFe23を使用したほかは実施例1と同様の触媒、すなわちNiO(16)−Fe23(4)−MgO触媒(MgO1gあたり16m molのNiOと4m molのFe23が含有されるよう、Mg、Ni、Feを総て溶解させた水溶液から調製した触媒)について、比較例6と同様の実験を行った結果を表6に示す。どの温度でもCO2発生が多いことから、完全酸化反応が優勢となっていることが明らかであり、部分酸化反応触媒とはならない。
【0065】
[比較例8]
Cr23の替わりにAl23を使用したほかは実施例1と同様の触媒、すなわちNiO(16)−Al23(4)−MgO触媒(MgO1gあたり16m molのNiOと4m molのAl23が含有されるよう、Mg、Ni、Alを総て溶解させた水溶液から調製した触媒)について、比較例6と同様の実験を行った結果を表6に示す。反応温度を800℃まで上げれば高いメタン転化率が得られ部分酸化反応が進行するが、炭素析出量が多いため実用的ではない。
【0066】
[比較例9]
Cr23の替わりにNd23を使用したほかは実施例1と同様の触媒、すなわちNiO(16)−Nd23(4)−MgO触媒(MgO1gあたり16m molのNiOと4m molのNd23が含有されるよう、Mg、Ni、Ndを総て溶解させた水溶液から調製した触媒)について、比較例6と同様の実験を行った結果を表6に示す。比較例8と同様、反応温度を800℃まで上げれば高いメタン転化率が得られ部分酸化反応が進行するが、炭素析出量が多いため実用的ではない。
【0067】
[比較例10]
Cr23の替わりにCo34を使用したほかは実施例1と同様の触媒、すなわちNiO(16)−Co34(4)−MgO触媒(MgO1gあたり16m molのNiOと4m molのCo34が含有されるよう、Mg、Ni、Coを総て溶解させた水溶液から調製した触媒)について、比較例6と同様の実験を行った結果を表6に示す。比較例8と同様、反応温度を800℃まで上げれば高いメタン転化率が得られ部分酸化反応が進行するが、炭素析出量が多いため実用的ではない。
【0068】
【表6】

【0069】
(X線回折による触媒再生の確認)
本発明の触媒の格子酸素が部分酸化反応に関与し、再生可能であることを触媒のX線回折測定により確かめた。そのX線回折測定の結果を図2に示す。触媒としては実施例1の触媒を用いた。図中、(A)と(B)では縦軸のスケールが10倍異なる。
【0070】
a)は調製後の触媒のX線回折パターンである。図中○の記号で示されているNiMgO2のピークが認められ、Niは担体のMgOと反応して複合酸化物として存在していることがわかる。縦軸スケールを拡大すると、図中□の記号で示されているMgCr24も存在することが確かめられる。
【0071】
この触媒上でメタンの部分酸化反応を行った後のX線回折パターンが(A)のb)、c)及び(B)のb)である。○の記号で示されているNiMgO2、□の記号で示されているMgCr24に加えて、△で示されている金属Niのピークが出現している。すなわち、触媒を構成するNiの複合酸化物の格子酸素がメタンの部分酸化反応に消費され、Niが還元されたことが明らかである。
【0072】
メタン部分酸化反応−触媒再生反応を10回繰り返した後の触媒のX線回折パターンを(A)のd)に示す。○で示されているNiMgO2のピークのみが見られ、調製直後の(A)のa)と同等の状態に戻っていることが確かめられた。
なお(B)のc)のパターンは、各ピークの同定のために合成した、Niを含まないCr23−MgOのX線回折パターンである。
【0073】
(空気による触媒再生)
これまでに提示した実験は、部分酸化反応に供した後の触媒の再生にアルゴンガスで希釈した酸素を用いていた。しかし、再酸化による触媒再生を空気により行うことができれば、装置に酸素供給設備を設置する必要がなくなり、システムの小型化及び低コスト化が実現され、実用化に当たって大きな利点があることは明らかである。そこで、実施例1の触媒を用いて、空気による触媒再生を行った。結果を表7に示す。再生ガスに空気を用いた場合、分析を質量分析装置で行った実験装置の制約から炭素析出量、メタン転化率、CO選択率及びCO2選択率の測定はできなかったが、水素選択率、格子酸素転化率及び他の生成物量を見る限り、アルゴンガスで希釈した酸素による触媒再生と同等の結果が得られており、空気による触媒再生になんら問題のないことが明らかである。
【0074】
【表7】

【0075】
(水素含有ガス製造装置の実施例1)
図3に部分酸化触媒が移動できないように固定された固定床反応管を用いた水素含有ガス製造装置の実施例を概略的に示す。
第1の反応管2aに加熱炉6aが配置され、第2の反応管2bに加熱炉6bが配置されている。反応管2a,2bや加熱炉6a,6bは基本的には図1の評価用の装置のものと同じである。反応管2a,2b内には本発明の部分酸化触媒層が充填されている。
【0076】
一方の反応管2aの一端には原料ガスとしてメタンその他の炭化水素を供給する原料ガス供給流路8と、触媒再生時に酸素含有ガスとして空気を供給する再生ガス供給流路10が、三方切替弁12aにより切り替えてガスを供給することができるように接続されている。他方の反応管2bの一端にはその原料ガス供給流路8と再生ガス供給流路10が三方切替弁12bにより切り替えてガスを供給することができるように接続されている。原料ガス供給流路8と再生ガス供給流路10にはそれぞれ図1に示されているように開閉弁と質量流量制御器が設けられている。
【0077】
三方切替弁12aと12bはコントローラ30により同時に切り換えられ、反応管2aに原料ガスが供給されるときは反応管2bには再生ガスが供給され、逆に反応管2bに原料ガスが供給されるときは反応管2aには再生ガスが供給されるように制御される。
【0078】
加熱炉6a,6bの温度もコントローラ30により制御され、それぞれの反応管2a,2bでの部分酸化反応又は触媒再生用の設定温度になるように調節される。部分酸化反応と触媒再生で反応管2a,2bの設定温度を変えないときは、コントローラ30により反応管2a,2bの温度が一定になるように制御される。
【0079】
このようにして、加熱炉6a,6bと切替え弁12a,12bの制御により、一方の反応管での部分酸化反応中に他方の反応管での触媒を再生するようにするとともに、その操作を交互に切り替えることができる。
【0080】
(水素含有ガス製造装置の実施例2)
図4に部分酸化触媒が移動可能な状態で保持された移動床反応管を用いた水素含有ガス製造装置の実施例を概略的に示す。
【0081】
反応管は部分酸化反応を行わせる反応部20と、反応部20とは異なる場所で触媒再生を行わせる再生部22とを備えている。反応部20と再生部22はそれぞれ加熱炉を備えてそれぞれの設定温度になるように調節されている。反応部20と再生部22の設定温度は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0082】
反応部20の上部に再生部22が配置されている。再生部22の下部には触媒再生のための酸素含有ガスとして空気を供給する再生ガス供給流路24が接続され、上部にはガス排出口26が設けられている。再生部22は再生された触媒を貯留することができるとともに、底部に開口をもち、再生された触媒をその開口から反応部20へ単位時間あたり一定量ずつ落下させる。
【0083】
反応部20の上部には原料ガスとしてメタンその他の炭化水素を供給する原料ガス供給流路28が接続され、反応部20内で流動状態にある触媒と接触して部分酸化反応が行われる。反応部20の底部には開口が設けられ、反応部20の下部には触媒受け部32が設けられ、反応部20の底部の開口から落下した使用済みの触媒が触媒受け部32で受け止められる。
【0084】
触媒受け部32で受け止められた触媒を再生部22に搬送するために、搬送路34が設けられている。搬送路34は触媒を流路内のベルト又はスクリューにより押し上げて搬送するリフターになっている。
【0085】
反応部20で部分酸化反応をした反応ガスは、搬送路34の流路を通って再生部22に送られ、再生部22のガス排出口26から使用済みの再生ガスとともに取り出される。
【0086】
この水素含有ガス製造装置では、部分酸化反応と触媒再生が異なる場所で並行して実行され、触媒は反応部20と再生部22の間を循環するので、連続的に稼動させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の部分酸化触媒並びにそれを用いた製造方法及び装置は、水素や合成ガスを製造するための原料となる水素含有混合ガスを製造するのに利用することができる。特に、本発明の触媒では、部分酸化反応においては触媒自身を構成する酸化物の格子酸素を利用し、反応後の触媒再生には空気中の酸素を利用できることから、極めてコンパクトかつ安価な水素含有混合ガス製造装置を構築することができる。かかる水素含有混合ガス製造装置は、例えば分散型電源としての燃料電池への燃料供給装置として好適である。触媒反応管を2系列組み込んで一方を反応に供している間に他方を再生するようにしたり、触媒反応管を移動床にして反応部と再生部の間で触媒を循環させるようにしたりすることにより、連続運転が可能となる。また、例えば日中に水素含有混合ガスを使用し、夜間は休止するような利用法が望まれるシステムでは、触媒を1系列のみ持ち、運転中に部分酸化反応を行い、夜間休止中に触媒再生を行うというコンパクトな装置構成が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】触媒を評価するための反応装置を示す概略構成図である。
【図2】実施例1の触媒の部分酸化反応前後と再生後のX線回折パターンを示す図である。
【図3】水素含有ガス製造装置の一実施例を示す概略構成図である。
【図4】水素含有ガス製造装置の他の実施例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0089】
2,2a,2b 反応管
4 部分酸化触媒層
6,6a,6b 電気炉
8 原料ガス供給流路
10 再生ガス供給流路
12,12a,12b 三方切替弁
20 反応部
22 再生部
30 コントローラ
32 触媒受け部
34 搬送路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素を部分酸化して水素と一酸化炭素を含有する混合ガスを生成させる部分酸化触媒において、
少なくとも触媒成分と担体を含み、
触媒成分はニッケルの酸化物とクロムの酸化物を含み、触媒成分を構成する格子酸素の少なくとも一部が前記部分酸化反応に供されるとともに、触媒自身を酸化することにより再生されるものであることを特徴とする部分酸化触媒。
【請求項2】
担体はマグネシウムの酸化物を含む請求項1の部分酸化触媒。
【請求項3】
担体はシリコンの酸化物を含む請求項1の部分酸化触媒。
【請求項4】
担体はイットリウムの酸化物を含む請求項1の部分酸化触媒。
【請求項5】
触媒成分となる金属元素としてのニッケル及びクロム、並びに担体となる金属元素としてのマグネシウム、シリコン又はイットリウムの各金属元素を含む塩を溶解させた混合溶液を調製する工程と、
前記溶液の溶媒を除去する乾燥工程と、
前記乾燥工程後に酸化性雰囲気中で焼成する焼成工程と、
を含んで請求項1に記載の部分酸化触媒を製造する触媒製造方法。
【請求項6】
ニッケルとクロムの各金属元素を含む塩を溶解させた溶液を、担体である酸化マグネシウム(MgO)、シリカ(SiO2)又は酸化イットリウム(Y23)に加える工程と、
その後、前記溶液の溶媒を除去する乾燥工程と、
前記乾燥工程後に酸化性雰囲気中で焼成する焼成工程と、
を含んで請求項1に記載の部分酸化触媒を製造する触媒製造方法。
【請求項7】
炭化水素を含む原料ガスを加熱下で請求項1から4のいずれか一項に記載の部分酸化触媒に接触させ、酸化剤としての酸素含有ガスを供給することなく、前記部分酸化触媒中の金属酸化物を構成する格子酸素により前記炭化水素を部分酸化して水素と一酸化炭素を含有する混合ガスを生成させる部分酸化工程と、
前記部分酸化工程を経た前記部分酸化触媒を加熱下で酸素含有ガスと接触させて前記部分酸化触媒を再生する再生工程と、
を含む水素含有ガス製造方法。
【請求項8】
前記酸素含有ガスとして水蒸気を使用する請求項7に記載の水素含有ガス製造方法。
【請求項9】
前記酸素含有ガスとして空気を使用する請求項7に記載の水素含有ガス製造方法。
【請求項10】
内部に請求項1から4のいずれか一項に記載の部分酸化触媒が保持された反応管と、
前記触媒を加熱する加熱炉と、
炭化水素を含む原料ガスを前記反応管に送り前記触媒と接触させる原料ガス供給流路と、
触媒再生に用いる酸素含有ガスを前記反応管に送り前記部分酸化触媒と接触させる再生ガス供給流路と、を備え、
前記反応管中で、酸化剤としての酸素含有ガスの存在しない状態下で前記部分酸化触媒中の金属酸化物を構成する格子酸素により前記原料ガス中の炭化水素を部分酸化して水素と一酸化炭素を含有する混合ガスを生成させ、前記原料ガスが存在しない状態下で前記再生ガス供給流路からの酸素含有ガスにより前記部分酸化触媒を再生する水素含有ガス製造装置。
【請求項11】
前記反応管は前記部分酸化触媒が移動できないように固定された固定床反応管であり、 前記反応管と加熱炉の組が2組備えられ、
前記原料ガス供給流路と再生ガス供給流路は切替え弁を介して両反応管に接続されており、
前記加熱炉と切替え弁の制御により、一方の反応管での部分酸化反応中に他方の反応管での触媒を再生するようにするとともに、その操作を交互に切り替えることができるようになっている請求項10に記載の水素含有ガス製造装置。
【請求項12】
前記反応管は前記触媒が移動可能な状態で保持された移動床反応管であり、かつ前記反応管は部分酸化反応を行わせる反応部と、反応部とは異なる場所で触媒再生を行わせる再生部とを備えており、
前記反応部と再生部の間で前記触媒を搬送する搬送路が設けられており、
原料ガス供給流路は前記反応部に接続され、再生ガス供給流路は前記再生部に接続されている請求項10に記載の水素含有ガス製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−66520(P2009−66520A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237561(P2007−237561)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】