説明

炭化水素油の製造方法

【課題】硫黄分やオレフィン分の高い熱分解油からガソリン基材等を効率良く得ることのできる炭化水素油の製造方法を提供する。
【解決手段】熱分解油を5〜35容量%含有する水素化精製用原料油を、水素化精製触媒と接触させて水素化精製する第1の工程、第1の工程で得られた水素化精製油から沸点範囲150〜620℃である炭化水素留分を得る第2の工程、及び第2の工程で得られた炭化水素留分を接触分解する第3の工程を含むことを特徴とする炭化水素油の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族やオレフィン分を多量に含有する熱分解油の処理方法に関し、詳しくは特定の配合割合で熱分解油と重質油を混合して、水素化処理及び接触分解処理を行うことで高オクタン価なガソリン等の付加価値の高い炭化水素油を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、ガソリンは、接触分解ガソリン、改質ガソリン、アルキレート、直留ガソリンなどのガソリン基材を配合して製造されるが、低コストでガソリンを生産するために、比較的付加価値の低い重質油を接触分解して得られる接触分解ガソリンの配合比率が高くなっている。
【0003】
また、ディーゼル軽油は、主に直留軽油を一般的な脱硫反応装置で処理した脱硫軽油留分、直留灯油留分等の直留留分の他に、付加価値の低い重質油を接触分解して得られる接触分解軽油を調合して製造している。
しかしながら重質油には一般に数%にも及ぶ比較的多量の硫黄分が含まれており、それらを接触分解した場合、接触分解ガソリンの硫黄分は数百ppm、接触分解軽油についても、硫黄分が数千ppmとなり、燃焼過程で硫黄酸化物(SO)として大気中に排出され、酸性雨の原因となるため、接触分解ガソリン、軽油中硫黄分の低減を目的とした接触分解用原料油となる重質油の高度な脱硫が必要となっている。
【0004】
一方、原油の重質化に伴い、重質油の分解により得られる重質分解油の割合が増加する傾向にある。特に、ディレードコーキング法等のプロセスにより重質油を熱分解して得られる、いわゆる熱分解油は、原油の蒸留から得られる直留留分と比較して硫黄分、窒素分のほか、多環芳香族炭化水素、不飽和炭化水素の割合が高く、これらを単独で水素化処理を行うと、堆積物発生による反応器閉塞、触媒活性の劣化による触媒寿命の著しい低下等の問題がある。
【0005】
これまで、重質油を高度に脱硫し、好適な接触分解用原料油を得るために、原料油として常圧残油と減圧軽油の混合油を含むものを特定の細孔径を有する触媒を複数種類組合せて水素化処理する方法(特許文献1)、減圧軽油留分や常圧残油留分を2段の水素化処理を行い、二環以上の芳香族を低減することにより反応性の高い接触分解用原料油を得る方法(特許文献2)、減圧軽油と軽質軽油とを混合し、得られる混合物を水素化処理する方法(特許文献3)が知られている。
【0006】
しかしながら、既出特許文献で水素化処理に用いられる原料油は不飽和炭化水素が少ない直留留分を中心とするものであり、不飽和炭化水素を多く含む重質熱分解油を用いる場合には、好適な混合比、処理条件で水素化処理を行わないと反応器内での堆積物の発生、触媒活性の劣化が起こる懸念がある。また、重質熱分解油を水素化処理することにより得られた水素化精製油は多環芳香族炭化水素を大量に含むので、接触分解の原料油として用いると、短時間で接触分解触媒の活性低下を起こし、好適に接触分解ガソリン及び軽油が得られない。よって熱分解油を含有する重質油を接触分解して接触分解ガソリン及び接触分解軽油を効率よく得るためには、水素化処理原料油の不飽和炭化水素の影響を抑制した条件で、かつ好適に芳香族を低減する接触分解原料油の製造方法が求められている。
【特許文献1】特開2006−52390号公報
【特許文献2】特開平8−183964号公報
【特許文献3】特開平6−192663号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の状況に鑑み、硫黄分やオレフィン分の高い熱分解油の効率的な処理方法、すなわち熱分解油を含有する重質油を好適に脱硫して水素化処理油を得、接触分解してガソリン基材等として有用な接触分解油を効率良く得ることのできる炭化水素油の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を進めた結果、接触分解反応へ影響を及ぼす熱分解油中の因子を把握し、その因子の量に基づく水素化精製条件を規定することにより、高収率な接触分解ガソリン及び軽油の製造に適した接触分解原料油を製造できることを見出し、本発明を提案するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は次の通りの炭化水素油の製造方法である。
(1)熱分解油を5〜35容量%含有する水素化精製用原料油を、水素化精製触媒と接触させて水素化精製する第1の工程、第1の工程で得られた水素化精製油から沸点範囲150〜620℃である炭化水素留分を得る第2の工程、及び第2の工程で得られた炭化水素留分を接触分解する第3の工程を含むことを特徴とする炭化水素油の製造方法。
【0010】
(2)水素化精製用原料油は、沸点範囲が620℃以下、硫黄分が4.0質量%以下、窒素分が1300質量ppm以下、芳香族炭素指数が35fa%以下、臭素価が8gBr/100g以下、及び臭素価が8gBr/100g以下である上記(1)に記載の炭化水素油の製造方法。
(3)第2の工程で得られた接触分解原料油は、沸点範囲が150〜620℃、硫黄分が0.3質量%以下、窒素分が600質量ppm以下、及び芳香族炭素指数が10〜25fa%である上記(1)又は(2)に記載の炭化水素油の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱分解油を特定量含有した水素化精製用原料油を原料として、水素化処理することにより、単独で処理すると種々の問題を生じる熱分解油を効率的に脱硫することができ、硫黄分等を低減した好適な接触分解用原料油を効率良く製造することが可能となる。それにより、高転化率で接触分解が可能となり、良好な品質のガソリン留分やLPG留分、軽油留分を高い収率で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の炭化水素油の製造方法は、熱分解油を5〜35容量%含有する水素化精製用原料油を、水素化精製触媒と接触させて水素化精製する第1の工程、第1の工程で得られた水素化精製油から沸点範囲150〜620℃である炭化水素留分を得る第2の工程、及び第2の工程で得られた炭化水素留分を接触分解する第3の工程からなることを特徴とする炭化水素油の製造方法である。
【0013】
〔熱分解油〕
本発明で原料油として使用される熱分解油は、減圧蒸留で得られる減圧残渣油等の重質油をディレードコーキング法、フレキシコーキング法、フルイドコーキング法等により熱分解した際に製造されるものであって、沸点範囲が150〜600℃、硫黄分が0.3〜4.5質量%、窒素分が1000〜3000質量ppm、芳香族炭素指数が30fa%以上、臭素価が9gBr2/100g以上の炭化水素油が好適に使用できる。
【0014】
ここで芳香族炭素指数とは全炭素種に対する芳香族炭素の割合(モル比)を指し、核磁気共鳴装置(NMR)を用いた測定で得られる13C−NMRスペクトルにおける全炭素種を帰属する化学シフトの総面積強度に対する芳香族炭素を帰属する化学シフト範囲の面積強度割合として算出される。具体的には、化学シフト170〜100ppmの芳香族炭素を示すピーク積分面積値が全体のピーク積分面積値に占める割合を算出し、芳香族炭素指数とする。
【0015】
〔水素化精製用原料油〕
本発明の第1の工程で使用される水素化精製用原料油を構成する熱分解油以外の成分としては、種々の重質油を用いることができる。例えば、原油の常圧蒸留により得られる重質軽油、常圧蒸留残渣油、常圧蒸留残渣油を減圧蒸留して得られる減圧軽油等が挙げられる。
重質軽油としては沸点範囲が180〜520℃、硫黄分が1.0〜3.0質量%、窒素分が500〜1500質量ppm、芳香族炭素指数が10〜15fa%、臭素価が0.5〜2.0Br/100gのものを好適に使用することができる。
常圧蒸留残渣油としては沸点範囲が250℃以上、硫黄分が2.0〜4.5質量%、窒素分が1500〜3000質量ppm、芳香族炭素指数が15〜30fa%、臭素価が2.0〜8.0Br/100gのものを好適に使用することができる。
減圧軽油は沸点範囲が240〜620℃、硫黄分が1.0〜3.5質量%、窒素分が1000〜2000質量ppm、芳香族炭素指数が15〜20fa%、臭素価が0.5〜4.0Br/100gであれば好適に使用することができる。
【0016】
本発明の第1の工程(水素化処理)の原料油としては、前記熱分解油に少なくとも1種類以上の重質油を混合したものを使用する。熱分解油の含有量としては、5〜35容量%、好ましくは5〜30容量%である。熱分解油の混合比率が35容量%より大きいと、水素化精製における芳香族成分の核水添増加による水素消費量の増加が起こり、また、処理条件によっては触媒上にコーク等の堆積物の発生、それによる触媒活性の劣化が起こるため好ましくない。
【0017】
本発明において、水素化精製用原料油を調製する際の熱分解油と重質油の混合方法に関しては、特に制限されず、通常、石油精製で用いられる混合設備を好適に使用することができ、それぞれが十分に混合した状態で水素化精製装置に提供できれば良い。
本発明の第1の工程に提供される水素化精製用原料油の沸点範囲は、620℃以下が好ましく、より好ましくは600℃以下である。好ましくは90%留出温度が530℃以下、より好ましくは525℃以下である。620℃より大きいと、水素化精製触媒上に原料油に由来する重金属及び炭素質の析出が過剰に起こり、触媒の劣化を促進させるので好ましくない。
【0018】
第1の工程に提供される原料油の硫黄分は4.0質量%以下が好ましく、より好ましくは3.0質量%以下であり、また、窒素分は1300質量ppm以下が好ましく、より好ましくは1200質量ppm以下である。硫黄分が3.0質量%より大きかったり、あるいは窒素分が1300質量ppmより大きいと、水素化処理油中の硫黄分や窒素分が好適に低減されず、後の第3の工程の接触分解で生成されるガソリンや軽油中の硫黄分、窒素分が低減されないため好ましくない。また、第1の工程の水素化処理触媒上に被毒物質として過剰に堆積し、触媒の劣化を早め、効率のよい水素化ができなくなるため好ましくない。
【0019】
第1の工程に提供される原料油の芳香族炭素指数は35fa%以下が好ましく、より好ましくは33fa%以下であり、特に好ましくは30fa%以下である。芳香族炭素指数が35fa%より大きいと、水素化精製触媒上に原料油に由来する炭素質の析出が過剰に起こり、触媒の劣化を促進させるので好ましくない。
第1の工程に提供される原料油の臭素価は8gBr/100g以下が好ましく、より好ましくは7gBr/100g以下ある。臭素価が8gBr/100gより大きいと、原量中のオレフィン分が相対的に増加するため、反応塔内に異常な発熱が発生したり、汚れや堆積物が発生するおそれがあるため好ましくない。
【0020】
〔第1の工程(水素化処理)〕
本発明の第1の工程の水素化処理は、通常の水素化精製装置により好適に実施することができる。反応装置は、バッチ式、流通式、固定床式、流動床式等の反応形式に特に制限はないが、固定床流通式反応装置に充填された水素化精製触媒に水素と原料油とを連続的に供給して接触させる形式が好ましい。
【0021】
〔水素化触媒〕
水素化触媒は、NiCoMo触媒を含む少なくとも1種類の触媒からなる。ここでいうNiCoMo触媒とは、活性金属元素としてニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びモリブデン(Mo)を含有した触媒であり、ニッケル、コバルト及びモリブデンの含有量は、好ましくはニッケルが1〜10質量%、コバルトが1〜10質量%、モリブデンが2〜30質量%である。また、リン、ホウ素、フッ素などの元素を含むものであってよい。
本発明で用いる水素化触媒は、好ましくは、メソポアの中央細孔直径が、4〜20nmであり、さらに好ましくは4〜15nmである。さらに、好ましくは、比表面積が、30〜800m/gであり、更に好ましくは50〜600m/gである。
【0022】
水素化触媒の製造方法に特に制限はないが、多孔質無機酸化物担体に上述の活性金属元素やリン等の添加元素を含ませて製造することが好ましい。多孔質無機酸化物としては、アルミナ、シリカ、チタニア、マグネシア、ジルコニア等の酸化物、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−マグネシア、シリカ−アルミナ−チタニア、シリカ−アルミナ−ジルコニア等の複合酸化物、Y型ゼオライト、安定化Y型ゼオライト、βゼオライト、モルデナイト型ゼオライト又はMCM−22等のゼオライトから選ばれる1種又は2種以上からなるものが好ましい。
【0023】
〔水素化処理の反応条件〕
水素化処理の反応条件としては、反応温度は300〜500℃、好ましくは340〜450℃、より好ましくは350〜400℃である。反応温度が300℃より小さいと、水素化精製装置に充填された水素化精製触媒の活性が十分発揮されず、原料油として硫黄分、芳香族炭化水素を多量に含有する熱分解油を含む原料油に対して脱硫、脱芳香族の効果が十分に発揮されないため好ましくなく、500℃より大きいと、原料油の熱分解が進行しすぎることにより水素化精製装置の運転が円滑に行うことができず、また水素化精製触媒の活性劣化が進行するので好ましくない。
反応圧力が、水素分圧として3〜15MPa、好ましくは5〜10MPaである。水素分圧が3MPaより小さいと、水素化反応が十分に進行せず、硫黄分、芳香族炭化水素を多量に含有する熱分解油を含む原料油に対して脱硫、脱芳香族の効果が十分に発揮されないため好ましくなく。15MPaより大きいと、原料油に対する過度の水素化が起こり、また装置建設費用及び運転における水素費用が増大し経済的でないため好ましくない。
【0024】
液空間速度が0.5〜4.0h−1、好ましくは1.0〜3.0h−1である。液空間速度が0.5h−1より小さいと、経済性を確保できないため好ましくなく、4.0h−1より大きいと、硫黄分、芳香族炭化水素を多量に含有する熱分解油を含む原料油に対して脱硫、脱芳香族の効果が十分に発揮されないため好ましくない。
水素/油比が100〜1000Nm/kl、好ましくは200〜500Nm/klの条件下で、原料油と接触させることが好ましい。水素/油比が100Nm/klより小さいと、硫黄分、芳香族炭化水素を多量に含有する熱分解油を含む原料油に対して脱硫、脱芳香族の効果が十分に発揮されないため好ましくなく、1000Nm/klより大きいと、水素費用の増大により経済性が著しく低下するので好ましくない。
【0025】
〔第2の工程(分留)〕
本発明の第2の工程は、前記第1の工程(水素化精製)によって得られた水素化精製油を分留する工程である。蒸留装置には特に制限が無く、通常、石油精製で用いられる蒸留装置であれば好適に使用することができる。
第1の工程で得られた水素化精製油は、沸点範囲150〜620℃、好ましくは170〜600℃の炭化水素留分と、それより軽質な留分に分留する。軽質留分はナフサ留分として利用できる。沸点範囲が150〜620℃の炭化水素留分は後述する第3の工程の原料として好適に使用できる。
【0026】
第2の工程により得られた炭化水素留分の沸点範囲が150℃より低いと、次の第3の工程である接触分解工程において生成するガス留分が過剰に増加するため好ましくなく、620℃を超えると、第3の工程において接触分解触媒上に炭素質が過剰に析出してしまい、それらを燃焼させる触媒再生工程の効率が悪くなるため好ましくない。炭化水素留分は、好ましくは10%留出温度が250〜350℃、より好ましくは280〜330℃、90%留出温度が450〜550℃、より好ましくは500〜530℃の蒸留性状が得られるように分留する。
【0027】
第2の工程により得られた炭化水素留分の硫黄分は0.3質量%以下が好ましく、より好ましくは0.2質量%以下であり、窒素分は600質量ppm以下が好ましく、より好ましくは500ppm以下である。硫黄分が0.3質量%を超えると第3の工程(接触分解)の生成油中の硫黄分が高くなるため好ましくない。また窒素分が600質量ppmを超えると接触分解触媒上に被毒物質として過剰に堆積し、接触分解触媒の活性を低下させるため好ましくない。
第3の工程の原料としては、芳香族炭素指数が10〜25fa%、好ましくは12〜22fa%であると好適に使用できる。芳香族炭素指数が10fa%より小さいと、接触分解で過分解が起こることによりガソリン成分がガス成分に転化するため好ましくない。一方、25fa%より大きいと、芳香族成分量が増大することにより、接触分解触媒の活性が発揮されず、十分な接触分解ガソリン基材収率が得るための接触分解原料油を提供できないため好ましくない。
【0028】
〔第3の工程(接触分解)〕
本発明の第3の工程は、前記第2の工程によって得られた炭化水素留分を接触分解する工程である。第3の工程の原料油としては、第2工程で得られた炭化水素留分と同程度の沸点範囲、硫黄分、窒素分、芳香族炭素指数である油、例えば直脱重質軽油と混合して使用することもできる。
接触分解油を製造するプロセスにおいて、接触分解装置、運転条件及び用いる触媒は特に限定されず、任意の製造工程を採用することができる。接触分解装置は、接触分解触媒を使用して、軽油から減圧軽油までの石油留分の他、重油間接脱硫装置から得られる間脱軽油、重油直接脱硫装置から得られる直脱重油、常圧残さ油などを接触分解して高オクタン価ガソリン基材等を得る装置である。例えば、流動接触分解法としては、石油学会編「石油精製プロセス」(講談社、1998年)に記載のあるUOP接触分解法、フレキシクラッキング法、ウルトラ・オルソフロー法、テキサコ流動接触分解法などの流動接触分解法、RCC法、HOC法などの残油流動接触分解法などが挙げられる。
【0029】
〔接触分解触媒〕
接触分解触媒としては、一般式:NaO・Al・nSiOで示されるホージャサイト型の結晶性アルミノシリケート(ゼオライト)で、nが5のY型ゼオライトやnが9のUSY型ゼオライトを、非晶質シリカアルミナ、クレイ、フィラー、バインダー(シリカゾル、アルミナゾル、アルミナゲル)と混合して、平均粒子径60μm程度の球形に調製した公知の触媒が使用できる。また、ゼオライトとしては、イオン交換サイトをレアアースで置換したREY型、REUSY型も適用できる。さらに、ZSM−5等のMFI型ゼオライトを混合して使用してもよい。なお本発明に使用する接触分解触媒は、特に限定されるものではないが、USY型ゼオライトにアルミナゾルバインダーを添加した触媒が好ましい。
【0030】
〔接触分解の反応条件〕
接触分解の反応条件としては、反応温度は430〜550℃が好ましく、490〜520℃が更に好ましく、再生温度は550〜760℃が好ましく、575〜720℃が更に好ましく、触媒/油比(質量比)は2〜10が好ましく、3〜8が更に好ましく、接触時間は1〜60秒が好ましく、1〜20秒が更に好ましい。
なお、本発明の接触分解方法は、添加水素ガスの不存在下で行う。外部から水素ガスを添加して接触分解を行うと、生成する接触分解油中の不飽和脂肪族炭化水素の含有率が低下してしまうため好ましくない。
【0031】
〔接触分解油〕
本発明の接触分解方法で製造される接触分解油には、飽和脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、不飽和脂肪族炭化水素が含有され、該不飽和脂肪族炭化水素は、接触分解油中に通常1質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上含有される。ここで、不飽和脂肪族炭化水素としては、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン等が挙げられる。
上記接触分解油を、例えば、蒸留塔で分留することで、炭素数3〜4の炭化水素(LPG)、接触分解ガソリン、接触分解軽油を得ることができる。ここで、接触分解ガソリンは、5%留出温度が35〜55℃、好ましくは35〜43℃、95%留出温度が150〜210℃、好ましくは150〜180℃となるように分留され、接触分解軽油は5%留出温度が190〜240℃、好ましくは190〜230℃、95%留出温度が340〜380℃、好ましくは340〜360℃となるように分留される。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0033】
実施例1
(水素化精製用原料油の調製)
水素化処理の原料油は、表1に示す熱分解油1、2及び重質油としての減圧軽油及び重質軽油を用いて、表2に示す割合で混合して調製した。調製した水素化精製用原料油の性状を表2に示す。なお、熱分解油は、ディレードコーキング法により重質油(減圧残渣)を熱分解して得たものであり、処理条件の異なる2種類の熱分解油1と熱分解油2を用いた。また、重質油の減圧軽油及び重質軽油は中東系の原油を処理して得たものを使用した。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
(第1の工程)
前記のように調製した水素化精製用原料油を用いて水素化処理を行った。触媒は市販の水素化脱硫触媒(NiCoMo触媒)を用いて、表2の下部に示す水素化条件(反応温度375℃、水素分圧8.0MPa、水素/油比230Nm/kl、及びLHSV2.0h−1)で、固定床流通式反応装置を用いて水素化処理を実施した。
【0037】
(第2の工程)
得られた水素化精製油を、蒸留装置を用いて分留して沸点範囲329〜594℃の炭化水素留分を得た。該炭化水素留分の性状を表3に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
(第3の工程)
第2の工程で得た沸点範囲329〜594℃の炭化水素留分を接触分解原料油として接触分解を行った。触媒として触媒化成製のCRN触媒(USY型ゼオライトにアルミナバインダーを添加した触媒)の平衡触媒(比表面積:130m/g, アルミナ比率:40質量%)を使用して、Xytel社製のバッチ式小型流動層接触分解装置(ACE Model−R)にて、反応温度503℃、再生温度695℃、接触時間3秒、触媒/油比(重量比)5.0の反応条件で接触分解反応を行った。分解生成物の収率及び性状を表4に示す。
表4の分解生成物の各留分は、ガソリンはC〜沸点200℃の留分、LCOは200℃〜380℃の留分、ドライガスはH、HS、C、Cの留分、LPGはC、Cの留分、BTM(ボトム)は380℃を超える留分をいう。
【0040】
【表4】

【0041】
なお、表1〜4において、密度、硫黄分、窒素分、芳香族炭素指数、臭素価、蒸留性状は以下のようにして測定した。
密度:JIS K2249の振動式密度試験法に準拠して15℃で測定した
硫黄分:JIS K2541の蛍光X線分析法に準拠して測定した
窒素分:JIS K2609に準拠して測定した
芳香族炭素指数:日本電子社製核磁気共鳴装置(NMR)を用いて13C−NMRスペクトルを測定し、化学シフト170〜100ppmの芳香族炭素を示すピーク積分面積値が全体のピーク積分面積値に占める割合を芳香族炭素指数として算出した。
臭素価:JIS K2605の方法に準拠して測定した
蒸留性状:ASTM D 7213のガスクロ蒸留法に準拠して測定した
【0042】
実施例2〜4、比較例1
実施例2〜4、比較例1の各々について、表1に示す熱分解油及び重質油を表2に示す割合で混合して第1の工程の水素化精製用原料油を調製し、表2下部に示す条件で水素化処理を行った。水素化触媒は実施例1と同じものを使用した。水素化精製油は蒸留により表3に示す炭化水素留分(接触分解用の原料油)を分取し、第3の工程(接触分解)に供給した。第3の工程の接触分解は、実施例1と同じ条件で行った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱分解油を5〜35容量%含有する水素化精製用原料油を、水素化精製触媒と接触させて水素化精製する第1の工程、第1の工程で得られた水素化精製油から沸点範囲150〜620℃である炭化水素留分を得る第2の工程、及び第2の工程で得られた炭化水素留分を接触分解する第3の工程を含むことを特徴とする炭化水素油の製造方法。
【請求項2】
水素化精製用原料油は、沸点範囲が620℃以下、硫黄分が4.0質量%以下、窒素分が1300質量ppm以下、芳香族炭素指数が35fa%以下、及び臭素価が8gBr/100g以下である請求項1記載の炭化水素油の製造方法。
【請求項3】
第2の工程で得られた炭化水素留分は、沸点範囲が150〜620℃、硫黄分が0.3質量%以下、窒素分が600質量ppm以下、及び芳香族炭素指数が10〜25fa%である請求項1又は2に記載の炭化水素油の製造方法。


【公開番号】特開2010−37503(P2010−37503A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204939(P2008−204939)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】