説明

炭化物及び分解生成物の製造方法

【課題】炭化の前処理なく、有機物から直接活性炭あるいは分解生成物を短時間で製造する活性炭の製造方法及びその装置を提供する。
【解決手段】過熱水蒸気とマイクロ波が共存する空間に有機物を投入する製造方法であって、炉内のセラミックヒータ及び試料にマイクロ波を照射することで、過熱水蒸気の精密温度制御をすること、及びマイクロ波照射により、試料内の温度分布が少なく、試料内部からも炭化が進むことで閉気孔の少ない活性炭を得ること、更に、650℃以上で炭素の放電を利用することで、水素ガス等の分解生成物を瞬時に得ること、を特徴とする炭化物及び/又は分解生成物の製造方法、及びその装置。
【効果】高品質の活性炭及び/又は分解生成物を高効率に製造する方法及びその装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性炭及びその分解生成物の製造方法に関するものであり、更に詳しくは、過熱水蒸気で満たされた空間に有機物原料を投入し、短時間に炭化させた後、マイクロ波照射を施すことにより炭化物及びその分解生成物を製造する方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上下水の処理をはじめ、水の浄化や回収、更には、製糖工業やバイオプロダクトの精製等の分野で、フィルター材等として活性炭が賞用されている。また、地球環境保護や生産コストの観点から、活性炭の原料には樹脂や鋸屑などの廃材をはじめとする有機物も利用し始めている。これらの活性炭の製造工程では、有機物原料を300−800℃でまず炭化させ、次に、水蒸気や炭酸ガス等を用いたガス賦活法(C+HO→CO+H)で賦活化する方法が適用されていた。
【0003】
しかしながら、従来の炭化物の製造方法では、まず、300−800℃付近での炭化処理が必要であり、その後に500−1000℃付近で賦活化を施すという2段プロセスが適用されているため、多量の熱を必要とし、賦活後の洗浄処理を含めると、製造時間も長時間に及んでいた。
【0004】
加えて、通常の電気炉を用いると、部材表面から内部へ炭化が進行するため、部材内に温度分布ができ、表面近傍では炭化が先に進むため、タールが沈着し、閉気孔が生成するなど、得られる活性炭が不均質であるという問題があった。加えて、代表的な賦活ガスである水蒸気は、温度制御が困難であるため、炭化や賦活が進む高比表面積部位と低比表面積部位が部材内に混在する問題があった。
【0005】
これらの炭化物の製造方法に関する先行技術としては、例えば、600℃以上で一度炭化を行った炭素材料を、賦活ガスと接触させ、マイクロ波により加熱する方法が提案されている(特許文献1)。また、バイオマス系材料にマイクロ波を照射して、部材内部を炭化、及び未炭化部を放冷、かつ燃焼除去することにより、500−900m/gの比表面積を有する活性炭が得られている(特許文献2)。加えて、ヒータによる外部加熱、マイクロ波による内部加熱、薬品賦活による活性炭の製造も検討されている(特許文献3−4)。一方、誘電率の大きい発熱体と有機物原料との混合物にマイクロ波を照射し、活性炭を製造する方法も報告されている(特許文献5)。
【0006】
以上のように、マイクロ波照射により活性炭を製造する方法に関しては、原料を不活性雰囲気下で炭化させ、その後にマイクロ波を用いて再度高温まで昇温し、賦活処理を行う2段階の製造プロセス、あるいは原料にマイクロ波を吸収しやすい発熱体との混合物を使用し、該混合物からの活性炭の製造方法がある。また、マイクロ波を用いて、省エネルギーで活性炭を得る方法は、公知の方法である。
【0007】
しかし、活性炭の製造では、マイクロ波を吸収しにくい有機物を原料とするため、マイクロ波照射を行っても吸着水等の脱水後は、加熱効果が少ないため、予め炭化させること、あるいはマイクロ波照射と同時に外部加熱を行うこと、がプロセス上重要であった。しかしながら、予め炭化する処理は、電気炉等を用いると、表面から炭化が始まり内部へ伝熱されてゆくため、表面へのタールの沈着に伴う閉気孔の形成の問題があった。マイクロ波照射と同時に外部加熱することも、結局は、原料有機物の表面から炭化が始まるため、同様に閉気孔形成の問題があった。
【0008】
一方、上記の炭素と水蒸気の反応は、水素製造反応としても利用されている。今後、燃料電池普及の見込みから、水素ステーションの設置や短時間、かつ高効率での水素製造が期待されている。その温度は、一般に、800−1000℃程度である。しかしながら、従来法では、炭素材の燃焼熱を用いて炭素を改質し、水素を生成するため、均一な加熱が困難である上、炭素を酸化により消費し、加えて、改質ガスである水蒸気の温度制御も困難であった。
【0009】
水素製造に関する先行技術としては、例えば、上述したように、炭素材の燃焼(酸化)熱を用いて炭素を改質し、水素を生成するため、炭素材全体の均一な加熱が困難であり、そのため、反応制御が難しく、改質ガスである水蒸気の温度制御が困難であった(特許文献6)。マイクロ波を用いた炭素材の水蒸気改質も報告が観られるが、この種の方法では、製造した高温の水素や炭酸ガスの熱を水蒸気生成の熱に利用していた(特許文献7)。
【0010】
上述のように、従来法では、例えば、水素は、炭化物と水蒸気とを反応させることにより製造されているが、水素採取に必要である炭化物の均一加熱や、水蒸気の高精度での温度制御が困難であるため、改質反応に分布ができることを解決できないという問題があった。以上、活性炭及び水素ガス製造に関する先行技術としては、下記に示す数報が報告されている。
【0011】
【特許文献1】特開昭51−37890号公報
【特許文献2】特開2002−161278号公報
【特許文献3】特開2004−352595号公報
【特許文献4】特開2006−89344号公報
【特許文献5】特開2000−34114号公報
【特許文献6】特開平6−184565号公報
【特許文献7】特開2006−89322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、炭化物部材内での炭化あるいは賦活の進行に分布が少なく、かつ微細な細孔が連続孔として存在する活性炭、そして、過熱水蒸気の高精度での温度制御が可能で、有機物の分解生成物、活性炭の短時間での製造を可能とする新しい活性炭及び/又は分解生成物の製造方法を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた。
【0013】
その結果、過熱水蒸気用のマイクロ波吸収性セラミックヒータがマイクロ波照射装置内に存在し、かつ試料室がヒータ直上に存在するようにすることで、過熱水蒸気の精密な温度制御が可能になり、加えて、試料室内の有機物原料は、他のガスより伝熱効果の高い過熱水蒸気により炭化が短時間で進行し、かつ試料にもマイクロ波照射されていることから、炭化時の温度斑を防ぎ、高精度に高温に昇温させた過熱水蒸気により炭化物の賦活反応を均一に進行させることができ、それにより、所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明者らは、有機物の炭化、賦活化、ガス化は、過熱水蒸気の温度制御が大変重要なプロセスであり、セラミックヒータと試料室内の原料とが同時にチャンバ内に設置されること、それによって、はじめて高い精度での温度制御が可能となること、を見出した。本発明は、高精度に過熱水蒸気の温度制御をすることで、有機物原料の炭化や賦活時の温度斑や反応進行に分布がなく、かつ高効率で活性炭あるいは水素をはじめとする有機物の分解生成物を製造する方法及びその装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)過熱水蒸気処理とマイクロ波処理を併用して有機物から炭化物及び/又は分解生成物を製造する方法であって、1)過熱水蒸気とマイクロ波が共存する炉内の空間に有機物原料を投入すること、2)その際に、炉内に導入した水蒸気をセラミックヒータで加熱して、高精度に温度制御した過熱水蒸気を該ヒータ直上に位置させた有機物原料に供給して所定の温度領域で炭化及び/又は賦活反応を進行させて、あるいは更に生成した炭化物間の放電を利用して、炭化物及び/又は分解生成物を製造すること、を特徴とする炭化物及び/又は分解生成物の製造方法。
(2)炉内に導入した水蒸気をセラミックヒータで加熱して、500℃以下、500−700℃、700℃以上の温度で高精度に温度制御した過熱水蒸気を生成し、有機物に供給する、前記(1)に記載の炭化物及び/又は分解生成物の製造方法。
(3)上記有機物が、廃材、石炭、石油残渣、石油コークス、石油ピッチ、藻類、鋸屑、プラスチック、又は廃衣類である、前記(1)に記載の炭化物及び/又は分解成生物の製造方法。
(4)有機物から300m/g以上の比表面積を有する炭化物を1回の工程で製造する、前記(1)に記載の炭化物の製造方法。
(5)500℃以下の過熱水蒸気を有機物と接触させることで有機物の炭化を進行させる、前記(1)に記載の炭化物の製造方法。
(6)600℃以上に過熱水蒸気を昇温させることで炭化物の賦活反応を進行させる、前記(1)に記載の炭化物の製造方法。
(7)700℃以上でマイクロ波照射による炭素物の放電を利用することで、炭化物をガス化させ、少なくとも水素ガスを含む分解生成物を製造する、前記(1)に記載の分解生成ガスの製造方法。
(8)導入した水蒸気を加熱して過熱水蒸気を発生させる過熱水蒸気発生用セラミックヒータ、被処理材料の有機物原料を投入する試料室、該有機物原料にマイクロ波を照射するマイクロ波照射装置を具備した有機物原料から炭化物及び分解生成物を製造する装置であって、過熱水蒸気発生用セラミックヒータがマイクロ波照射装置内に存在し、かつ試料室がヒータ直上に存在すること、それにより、試料室内の被処理材料に供給する過熱水蒸気の温度を高精度に制御し、かつ大容量の過熱水蒸気の発生を容易としたこと、を特徴とする炭化物及び/又は分解生成物製造装置。
(9)上記過熱水蒸気発生用セラミックヒータが、マイクロ波吸収性の炭化珪素、又はジルコニア材料で構成される、前記(8)に記載の装置。
(10)上記有機物に供給する過熱水蒸気の温度を所定の温度領域に高精度に制御する過熱水蒸気の温度制御手段を有する、前記(8)に記載の装置
【0016】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、過熱水蒸気処理とマイクロ波処理を併用して有機物から炭化物及び/又は分解生成物を製造する方法であって、1)過熱水蒸気とマイクロ波が共存する炉内の空間に有機物原料を投入すること、2)その際に、炉内に導入した水蒸気をセラミックヒータで加熱して、高精度に温度制御した過熱水蒸気を該ヒータ直上に位置させた有機物原料に供給して所定の温度領域で炭化及び/又は賦活反応を進行させて、あるいは更に生成した炭化物間の放電を利用して炭化物及び/又は分解生成物を製造すること、を特徴とするものである。
【0017】
また、本発明は、導入した水蒸気を加熱して過熱水蒸気を発生させる過熱水蒸気発生用セラミックヒータ、被処理材料の有機物原料を投入する試料室、該有機物原料にマイクロ波を照射するマイクロ波照射装置を具備した有機物原料から炭化物及び分解生成物を製造する装置であって、過熱水蒸気発生用セラミックヒータがマイクロ波照射装置内に存在し、かつ試料室がヒータ直上に存在すること、それにより、試料室内の被処理材料に供給する過熱水蒸気の温度を高精度に制御し、かつ大容量の過熱水蒸気の発生を容易としたこと、を特徴とするものである。
【0018】
本発明は、活性炭製造時に、炭化あるいは賦活の進行に分布が少なく、かつ高精度に温度制御された過熱水蒸気による有機物の炭化物及び/又は分解生成物の製造方法及びその装置を提供することを目標とする。本発明では、過熱水蒸気用ヒータと試料室とがマイクロ波照射装置内に存在するようにすることで、水蒸気の精密な温度制御が可能になり、試料室内に有機物原料を投入することでヒータと原料とを同時にマイクロ波照射することで、高効率に炭化物及び/又は分解ガスを製造するものである。
【0019】
出発原料の有機物としては、例えば、廃材、石炭、石油残渣、石油コークス、石油ピッチ、藻類、鋸屑、プラスチック、衣類などが例示されるが、これらに制限されるものではない。炭化後に、主に炭素から構成されていれば、微量の酸素、水素、窒素、硫黄、リン、金属等を含有していてもよく、出発物質は、特に限定されるものではない。これを、試料室内に投入した後にマイクロ波を照射する。
【0020】
上記有機物原料の形状は何ら限定されるものではない。各種成形方法を適用して成形することが可能であり、所望の形状に成形するための添加物との混合、あるいは溶解させ基材へ塗膜することなど、本発明の趣意から逸脱するものでなければ、よく知られた成形方法を利用、又は複数種類の方法を伴用することもできる。
【0021】
過熱水蒸気の温度は、200−1300℃で制御することが望ましいが、好適には200−1000℃で制御する。これは、1300℃以上の温度では、セラミックヒータの腐食が進行するため望ましくないためである。尚、雰囲気としては、過熱水蒸気との混合ガスを用いることができ、あるいは過熱水蒸気流通の前後に他の酸化性ガス、非酸化性ガスを用いることも適宜可能である。
【0022】
従来のマイクロ波を用いた活性炭の製造においては、有機物を原料とするため、マイクロ波照射を行っても吸着水等の脱水後は加熱効果が少ないため、予め炭化させる必要や、マイクロ波吸収性の不純物との混合、あるいは外部加熱により複合的に加熱する必要性があった。
【0023】
このように、マイクロ波を吸収しにくい有機物を原料に用いて、マイクロ波照射により活性炭を得る際には、炭化のために外部加熱の必要性があった。マイクロ波照射により得られる活性炭は、内部から加熱されるため、閉気孔が少ないことがよく知られている。しかしながら、マイクロ波照射と外部加熱との複合加熱法を用いても、有機物原料は、結局、表面から加熱されるため、表面にタール分等が沈着してしまい、閉気孔が生成するというマイクロ波照射の利点を生かせない問題があった。
【0024】
加えて、マイクロ波吸収性の他原料と有機物とを混合させ、活性炭を得る手法には、不純物が混入する問題があった。以上のように、有機物をマイクロ波照射チャンバ内で直接炭化を行う炭化物の製造方法には、各種の方法が観られるものの、従来法では、閉気孔が少なく、かつ均質な炭化物を得ることは困難であった。加えて、炭化後に賦活処理を行う手法に関しては、水蒸気を導入させた際に炉内に充満する水蒸気に温度勾配を持たせないためには、大きなエネルギーが必要であるため、賦活斑のない活性炭の製造方法は、これまでに検討されていなかった。
【0025】
これに対し、本発明では、マイクロ波吸収性のセラミックを過熱水蒸気発生用ヒータとして炉内に設置することで、大容量の過熱水蒸気の温度を制御することができ、かつヒータ直上に試料室を存在させることにより、有機物原料を高精度に温度制御された伝熱効率の高い過熱水蒸気と接触させることで、短時間に炭化を進行させることが可能となった。炭化は、一般的には、有機物がアルゴンや窒素などの不活性雰囲気で処理されるが、過熱水蒸気も500℃以下の温度であれば、有機物に対して不活性である。
【0026】
加えて、過熱水蒸気の伝熱効果は、対流伝熱に加え、放射伝熱、凝縮電熱などの複合伝熱作用を有しており、他のガスより、非常に熱効率が高い。過熱水蒸気の温度制御は、これまで熱源の問題があり、試料室まで温度を保持することが非常に困難であったが、本発明により、マイクロ波で照射され高温に加熱されたセラミックスヒータを熱源とし、その直上に試料室を設置させることで、瞬時の炭化と過熱水蒸気の温度保持の両方の問題を解決することが可能となった。
【0027】
加えて、本発明では、まず、500℃以下の大容量の過熱水蒸気を有機物と接触させることで、炭化を進行させたため、タール等の分解生成物を大容量の蒸気と共に瞬時に部材外に放出させることが可能である。その後、600℃以上に過熱水蒸気を昇温させることで、炭化物の賦活反応を進行させることが可能である。また、過熱水蒸気温度が700℃以上であれば、炭化物のガス化、即ち、水素製造も進行させることができる。これは、有機物の炭化等をマイクロ波照射環境下で行うため、炭化物間では放電が始まり、繊維状の炭化物等であれば、瞬時にガス化が起こり、水素ガスを得ることができるためである。
【0028】
これらの操作では、試料室とヒータ両方にマイクロ波が照射されていることから、炭化や賦活の進行に斑が少ない。以上詳述したように、有機物の炭化、賦活化では、過熱水蒸気の温度制御が大変重要なプロセスであり、活性炭の特性上、原料全体が均一に賦活される必要があり、均一な炭化、均一な賦活を達成するには、セラミックスヒータと試料室内の原料とを同時にチャンバ内に設置することが重要であり、それにより、はじめて、高い精度での温度制御が可能となり、それによって、はじめて、本発明の効果を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)500℃以下の大容量の過熱水蒸気とマイクロ波が共存する空間に有機物原料を投入することで、部材内に比表面積の高い部位と低い部位とが混在しない、即ち、炭化斑の少ない炭化物を得ることができる。
(2)上記(1)の後、500℃以上の過熱水蒸気を流通させることで、炭化物の賦活を進行させることができ、かつマイクロ波が照射されているため、賦活に斑の無い、即ち、部材内で比表面積の差が少ない活性炭を得ることができる。
(3)一方、上記(2)の後、700℃以上の過熱水蒸気中を流通させ、マイクロ波照射を行うことで、炭化物間で放電が始まり、瞬時にガス化が進行するため、水素を含む分解生成物を効率よく製造することが可能となる。
(4)有機物をマイクロ波と過熱水蒸気が共存する空間に投入することで、炭化の前処理なしに650℃以下で300−700m/gの比表面積を有する中品位の活性炭を1時間以内に製造することができる。
(5)650℃以上では、マイクロ波照射に起因する炭化物間の放電と過熱水蒸気の存在により瞬時に水素ガス等が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、以下の実施例によって、本発明は、何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
本実施例では、有機物原料として、衣類(コットン;セルロース)、あるいはプレス成形した鋸屑を用いた。2gあるいは4g秤量後、試料室に投入した。図1に示すように、マイクロ波照射装置内にセラミックヒータを、かつその直上に有機物原料を載置するための試料室を設置した。ヒータは、炭化珪素、ジルコニア等のマイクロ波吸収性のセラミックを使用した。マイクロ波照射を開始すると、まず、ヒータが加熱され、400℃の時点で、過熱水蒸気を流通させた。過熱水蒸気流通前の試料室の温度は、室温近傍である。
【0032】
以上のセラミックヒータの温度は、熱電対で測温し、試料の温度は、二色高温計あるいは熱電対で測温した。過熱水蒸気流通後のヒータと試料室との温度差は徐々に小さくなった。水蒸気流通後、おおよそ5−10分以内に、マイクロ波出力によりセラミックヒータの温度が制御可能になり、即ち、過熱水蒸気の温度制御も可能になった。試料の目標温度は500℃、600℃、650℃、700℃とし、それぞれ10分保持を行った。水蒸気導入後の試料室の昇温速度は、約40℃/分であり、ヒータ加熱時間を含め、全操作時間も500℃処理で30分、700℃処理で40分と、いずれの操作も、1時間程度であった。
【0033】
活性炭の比表面積は、窒素吸着装置を用い、BET法からP/P=0.05−0.3の範囲でBETプロットから求めた。表1に、コットンの過熱水蒸気及びマイクロ波照射併用処理を行った活性炭の比表面積を示す。尚、結果に示す処理温度は、試料室の温度とした。
【0034】
【表1】

【0035】
比表面積は650℃で最大値を示した。過熱水蒸気との接触により炭化することにより、マイクロ波が吸収しやすくなる。そのため、700℃以上から試料室内の炭化物間で放電が始まり、瞬時にガス化が起こる。そのため、活性炭を得る際には、700℃以下で処理し、水素ガスを得る際には700℃で処理することが望ましい。一度、600℃で比表面積が低下するのは、炭化の進行に伴う収縮により、一部の微細孔が潰されるためである。炭化が終了した後の650℃処理では、再び比表面積が増大するため、賦活が進んでいることが伺える。
【0036】
一般的に、水素ガスを得る際には、天然ガスの水蒸気改質が用いられ、800℃での処理が行われているが、本発明では、廃衣類をはじめとする綿を原料にして、700℃程度で水素ガスを得ることが可能である。
【0037】
比較例
マイクロ波照射を行わず、通常の電気炉を用いて、アルゴン中、あるいは誘導加熱を用いて発生させた過熱水蒸気中で、実施例と同様にコットンの処理を行った。処理温度は、この場合は電気炉内の試料から、1cm以内の熱電対の温度とした。また、昇温、保持時間と共に、実施例と同様の条件を適用した。表2に、コットンの雰囲気、処理温度に対する活性炭の収率と比表面積を示す。
【0038】
【表2】

【0039】
本発明により得られた表1の比表面積と比較すると、マイクロ波照射を行わない場合は低い比表面積となった。これは、電気炉を用いた際には、試料表面から炭化が始まり、内部まで伝熱される際の温度斑、それらに伴うタール分の表面沈着に起因するものと考えられる。加えて、過熱水蒸気による処理は、アルゴン処理よりも大きな比表面積が得られたが、表1のマイクロ波照射と過熱水蒸気の併用処理の比表面積よりは低い値であった。
【0040】
表2での600℃及び650℃で過熱水蒸気処理を行った比表面積を観ると、処理温度は、50℃と僅かな温度差であるものの、比表面積は2倍以上と大きく異なる値が得られた。50℃差であっても、水蒸気の温度制御は、非常に重要であることを意味している。
【0041】
次に、図2に、表1に示した過熱水蒸気とマイクロ波の併用処理650℃(a−b)、表2に示したアルゴン雰囲気下650℃処理(c−d)の活性炭のSEM観察像を示す。観察結果(a−b)では、得られた繊維は平滑であり、斑が無く、均一に炭化されていることが伺える。
【0042】
一方、アルゴン中で炭化させた観察結果(c−d)を観ると、部分的に沈着物が観られ(丸印で示す)、高倍率像では、捻れた繊維が顕著に観察された。これは、電気炉での炭化では、温度斑が存在するため、炭化の進む部位と進まない部位とが混在してしまい、その結果、均一に収縮することができないためであると考えられる。このように、マイクロ波と過熱水蒸気を用いることにより、均質性が高い活性炭が得られた。
【0043】
以上、比表面積とSEM観察の比較から明らかなように、マイクロ波と過熱水蒸気が共存する試料室に有機物を投入することで、最短30分以内、最長でも1時間以内程度の短時間で、炭化の前処理や外部加熱の必要が無く、炭化斑、賦活斑の少ない活性炭を製造することが可能となった。
【0044】
次に、表3に、鋸屑を過熱水蒸気とマイクロ波照射併用処理を行った際の比表面積を示す。
【0045】
【表3】

【0046】
高温処理では、比表面積の増大が効果的であり、賦活が進んでいることが伺える。
【0047】
次に、表4に、鋸屑のアルゴン中での処理温度に対する収率と比表面積を示す。処理条件は、実施例と同様とした。
【0048】
【表4】

【0049】
高温処理の方が比表面積は大きいものの、表3の過熱水蒸気とマイクロ波照射の併用処理例と比較すると、比表面積は小さい値であった。また、水素ガスは、廃衣類等の繊維状有機物の方が、効率よく低温で採取することができた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上詳述したように、本発明は、マイクロ波と過熱水蒸気が共存する空間内に有機物を投入することによる炭化物及びその分解生成物の製造方法及び装置に係るものであり、本発明により、炭化の前処理なく有機物を直接高比表面積化、あるいはガス化する技術を提供することができる。本発明により、水の浄化や回収、分離用のフィルター等に有用である活性炭を短時間で製造し、提供することができる。加えて、本発明では、炭化物間の放電を利用することで、瞬時にガス化が可能なため、水素ガス等の分解生成物の製造にも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】マイクロ波照射及び過熱水蒸気導入に関する従来法と本発明の相違を示す説明図である。
【図2】マイクロ波照射及び過熱水蒸気の併用処理した650℃処理炭化物(a−b)及び電気炉中650℃で処理した炭化物(c−d)のSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過熱水蒸気処理とマイクロ波処理を併用して有機物から炭化物及び/又は分解生成物を製造する方法であって、1)過熱水蒸気とマイクロ波が共存する炉内の空間に有機物原料を投入すること、2)その際に、炉内に導入した水蒸気をセラミックヒータで加熱して、高精度に温度制御した過熱水蒸気を該ヒータ直上に位置させた有機物原料に供給して所定の温度領域で炭化及び/又は賦活反応を進行させて、あるいは更に生成した炭化物間の放電を利用して、炭化物及び/又は分解生成物を製造すること、を特徴とする炭化物及び/又は分解生成物の製造方法。
【請求項2】
炉内に導入した水蒸気をセラミックヒータで加熱して、500℃以下、500−700℃、700℃以上の温度で高精度に温度制御した過熱水蒸気を生成し、有機物に供給する、請求項1に記載の炭化物及び/又は分解生成物の製造方法。
【請求項3】
上記有機物が、廃材、石炭、石油残渣、石油コークス、石油ピッチ、藻類、鋸屑、プラスチック、又は廃衣類である、請求項1に記載の炭化物及び/又は分解成生物の製造方法。
【請求項4】
有機物から300m/g以上の比表面積を有する炭化物を1回の工程で製造する、請求項1に記載の炭化物の製造方法。
【請求項5】
500℃以下の過熱水蒸気を有機物と接触させることで有機物の炭化を進行させる、請求項1に記載の炭化物の製造方法。
【請求項6】
600℃以上に過熱水蒸気を昇温させることで炭化物の賦活反応を進行させる、請求項1に記載の炭化物の製造方法。
【請求項7】
700℃以上でマイクロ波照射による炭素物の放電を利用することで、炭化物をガス化させ、少なくとも水素ガスを含む分解生成物を製造する、請求項1に記載の分解生成ガスの製造方法。
【請求項8】
導入した水蒸気を加熱して過熱水蒸気を発生させる過熱水蒸気発生用セラミックヒータ、被処理材料の有機物原料を投入する試料室、該有機物原料にマイクロ波を照射するマイクロ波照射装置を具備した有機物原料から炭化物及び分解生成物を製造する装置であって、過熱水蒸気発生用セラミックヒータがマイクロ波照射装置内に存在し、かつ試料室がヒータ直上に存在すること、それにより、試料室内の被処理材料に供給する過熱水蒸気の温度を高精度に制御し、かつ大容量の過熱水蒸気の発生を容易としたこと、を特徴とする炭化物及び/又は分解生成物製造装置。
【請求項9】
上記過熱水蒸気発生用セラミックヒータが、マイクロ波吸収性の炭化珪素、又はジルコニア材料で構成される、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
上記有機物に供給する過熱水蒸気の温度を所定の温度領域に高精度に制御する過熱水蒸気の温度制御手段を有する、請求項8に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−63169(P2008−63169A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−240719(P2006−240719)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)経済産業省「平成18年度 地域中小企業支援型研究開発制度(共同研究型)木質材料の高機能化並びに高度利用技術の開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(501228783)株式会社オーエスユー (7)
【Fターム(参考)】