説明

炭疽菌(BACHILLUSANTHRACIS)の感染防御抗原に対するヒトモノクローナル抗体

炭疽の感染防御抗原035に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体を開示する。ヒト抗体は、V−D−J組換えおよびアイソタイプスイッチングを受けることによりヒトモノクローナル抗体の複数のアイソタイプを生産することができる非ヒトトランスジェニック動物、例えばトランスジェニックマウスで生産させることができる。またヒト抗体の誘導体(例えば二重特異性抗体および免疫複合体)、ヒト抗体を含んでなる製薬学的組成物、非ヒトトランスジェニック動物およびヒト抗体を生産するハイブリドーマ、およびヒト抗体を使用した治療および診断法も開示する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
炭疽菌(Bacillus anthracis)は主に家畜および野生動物、特にウシ、ヒツジ、ウマ、ラバおよびヤギのような草食動物の疾患である。ヒトにおける自然な炭疽感染は稀であるが(疾患のある動物との接触を介する感染の危険性は、約1/100,000)、バイオテロの正に現実的脅威を引き起こす。このバクテリアは耐熱性の頑丈な胞子を形成し、そして粗雑な条件下で何十年も生存することができる。皮膚炭疽は、より迅速に処置することができるが、肺炭疽の多くは2〜4日の致死率が80%より高い突然の破滅的疾病をもたらす。胞子の安定性により疾患が容易に広がり得ることは、2002年に米国で起こった5例の死亡により明らかである。炭疽菌の胞子がテロの行為により広がれば、大勢の人が治療を求め、または死ぬまでこの出来事は発見することができないだろう。抗生物質およびワクチンを含む現在の治療では、これら大多数の犠牲者を助けることはできない。
【0002】
炭疽感染の現行モデルは、胞子の双生後、活発に増殖するバクテリアの細胞が、血清および食細胞の殺バクテリア成分および食細胞の飲食作用に対してバクテリアを保護するポリ−D−グルタメートポリペプチドを含有する筴膜を生産することを教示する。この筴膜は疾患の末期よりも炭疽毒素により媒介される感染の樹立中に重要である。病因論の原因となる毒素は、感染防御抗原(PA)、致死因子(LF)および浮腫因子(EF)からなる。EFは炭疽感染に付随する浮腫を引き起こし、そして免疫細胞がバクテリアを摂取し、そして分解することを妨げると考えられているカルシウム−カルモジュリン依存性アデニル酸シクラーゼである。LFは、マイトジェンが活性化するプロテインキナーゼ−キナーゼおよび数種のペプチドホルモンを分解する細胞型特異的メタロプロテアーゼである。これはマクロファージ細胞死および毒素物質の放出を引き起こす(例えばTNF−αおよびIL−1のような敗血症ショックに関連するような)。LFは炭疽の毒性に関連する主なビルレンスであり、そして全身性ショックおよび死亡の原因となる。
【0003】
いずれの毒素成分も単独で病原性ではなく、そしてEFおよびLFはそれらの毒性効果を宿主細胞の内側で発揮するためにPAを必要とする。感染中、急速に増殖している炭疽菌(B.anthracis)から分泌される83kDaの感染防御抗原PA83タンパク質は、炭疽毒素受容体(ATR)を介して宿主の細胞表面に結合する(非特許文献1)。膜結合フリンおよび/またはフリン様プロテアーゼによるPA83の分解は、アミノ−末端の20kDaのPAフラグメントを放出し、受容体に結合する63kDaのPAを生じる。PA63の7環へのオリゴマー化は、LFおよびEFの両方のアミノ末端により認識される高親和性結合部位を形成する。受容体−毒素複合体の酸性エンドソームへの飲食作用はPA63に立体的変化を誘導し、これによりLFまたはEFがエンドソームへ放出される。リソソームの酸性化および続いて受容体の放出は、オリゴマー性のPA63孔の不可逆的な膜挿入を促進する。PA63により形成される孔は、LFおよびEFのそれぞれの毒性を現すことができる細胞質への輸送を可能とする。
【0004】
PA機能の解釈の幾つかの様式が炭疽に対する処置を開発するために調査されてきた。ATRを持つ細胞(例えばマクロファージ)を含有する培地に導入された可溶性ATR(sATR)は、細胞表面上の受容体の代わりにsATRへの結合を引き起こし(非特許文献2)、ATRが炭疽の処置の設計に有用となり得ることを示唆する。優性ネガティブインヒビター(DNI)と呼ばれるPAの変異体は、天然のPAと混合した時に7量体の複合体の形成を可能とすることも示され、これは細胞培養および齧歯類モデルの両方でEFおよびLPを細胞に注入できなかった(非特許文献3)。PAに対して生成したモノクローナル抗体は、感染の症状を弱め、ならびに予防を提供することができる。抗体はPAが細胞表面上のその受容体への結合を遮断し、かつ/またはEFもしくはLFのPAへの結合を遮断することができる。これらの方法のいずれも毒素が細胞に入り、そして傷害を引き起こすことを防止することができた。抗生物質単独でバクテリアの増殖を制御することができるが、それらは毒素の効果を中和することには役に立たない。さらにバクテリア中の耐性を作り変え、これにより抗生物質を無益にする可能性があるかもしれない。
【0005】
主要な免疫原性成分としてPAを含有する炭疽ワクチン(AVA)は、疾患に対する防御を与えることができる。しかしAVAを使用することに対しては幾つかの欠点がある。免疫感作スケジュール(例えば6回の初期投与に続いて毎年の追加免疫感作)は、強力な免疫学的記憶を生成しない。また抗原レベルの標準化の欠如により、ロット毎の効力に高度な変動性が生じる。さらにワクチンは数種の細胞成分を含有する無細胞培養基の濾液であるので、局所および全身反応の高い発生の一因となり得る。ワクチンに対応して生成されたポリクローナル抗体の予防的使用では、PAに対する抗体が炭疽に暴露された後に疾患を予防することが示された。PAに結合する抗体について、ナイーブな単鎖FvファジェミドライブラリーからスクリーニングされたヒトscFvの開発が記載された(非特許文献4)。これらのPA結合剤は、受容体が媒介する細胞へのPAの結合を阻害するそれらの能力に基づき、精製したPA83に対して選択された。しかしこれらの免疫剤は完全な抗体ではないので、処置におけるそれらの使用は低下した半減期または低い親和性により制限され、これはさらに高い投薬用量を必要とし、特に予防的処置ではそうである。
【0006】
モノクローナル抗体は抗生物質よりも利点があり、また抗体の効力を増すために使用することができる。活発な肺疾患の処置に関して、抗生物質は前もって形成されそして放出された、病因である毒素を中和しないが、抗体はさらなる毒素が炎症カスケードの一因となる前に毒素を中和することができる。予防的処置については、必要とされる抗生物質の予防期間が60日であり、これに従うことは難しい。さらにこの期間は1回の抗体の注射に代えることができる。さらに真の暴露では、抗生物質が防御免疫応答を妨害し得るので、投与が終了した後の防御免疫は獲得されない。
【0007】
したがって、炭疽感染を処置するための改善された治療、特に免疫系に十分に寛容され、しかも予防的、暴露後の予防的および治療的使用が可能な炭疽菌(B.anthracis)の感染防御抗原に対する抗体が必要である。
【参考文献】
【0008】
【非特許文献1】Bradley et al,2001,Nature 414:225−229
【非特許文献2】Bradley et al,2003,Biochem.Pharmacol.65:309−314
【非特許文献3】Sellman et al.,2001,Science 292:695−697
【非特許文献4】Cirino et al.,1999,Infection and Immunity(67:2957−2963)
【発明の開示】
【0009】
発明の要約
本発明は、炭疽菌(Bacillus anthracis)(炭疽:anthrax)の感染防御抗原に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体、これにより炭疽菌の生物学的活性を阻害すること、ならびに誘導体(例えば免疫複合体(immunoconjugate)、二重特異性分子および単鎖フラグメント(ScFv)およびそのような抗
体を単独で、または追加の治療薬と組み合わせて含有する他の治療的組成物を提供する。また本発明の抗体を使用して炭疽感染を処置し、そして防止するための方法および組成物も提供する。
【0010】
本発明の抗体は、一部は抗体が感染防御抗原活性を効果的に中和するその能力により、および抗体の完全なヒト組成物により炭疽感染を処置および防止するための改善された手段を提供し、これはヒト患者に投与した時にこれまでに生成された他の感染防御抗原抗体(例えばマウスおよびヒト化抗体)よりも抗体の免疫原性を有意に低くし、しかもさらに治療に効果的かつ有用とする。
【0011】
このように1つの観点では、本発明は少なくとも10−1の見掛け親和性(apparent affinity)を有する炭疽菌(Bacillus anthracis)の感染防御抗原に結合し、そして毒素中和アッセイにおいて5μg/ml以下のED50で炭疽菌(Bacillus anthracis)の毒素を中和する、完全なヒト抗体を提供する。
【0012】
別の観点では、本発明は炭疽感染防御抗原に対して中和するヒトモノクローナル抗体を提供し、これは以下の特徴:
(1)中和活性のためにFc受容体への結合を要し;
(2)PA83よりもPA63に高い親和性を現し;
(3)(a)標準的ELISAに従い1μg/mlではPA83に結合せず、0.2以下のOD405nmであり、
(b)競合的結合アッセイで炭疽致死因子または浮腫因子が感染防御抗原へ結合することを遮断しない、
から選択される1もしくは複数の特性を現し、
(4)PA63に対する結合において、マウスIG3、マウス2D5およびマウス14B7から選択される抗−PA抗体と競合しない、
の1もしくは複数を有する。
【0013】
特定の態様では、抗体はヒト重鎖可変領域およびヒト軽鎖可変領域の配列が、それぞれ配列番号2および4、配列番号2および6、配列番号8および10、配列番号12および14または配列番号16および18から選択される配列を含んでなり、そしてそれらの保存的な配列改変体を含むヒト重鎖可変領域およびヒト軽鎖可変領域を有する。
【0014】
別の態様では、抗体はFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4配列を含むヒト重鎖可変領域、ならびにFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4配列を含んでなるヒト軽鎖可変領域を有し、ここでヒト重鎖可変領域CDR3配列が配列番号20、38、50および62およびそれらの保存的改変体からなる群から選択され;そしてヒト軽鎖可変領域CDR3配列が配列番号26、32、44、56および68およびそれらの保存的改変体からなる群から選択される。
【0015】
さらに別の態様では、本発明の特定のヒト抗体はヒト重鎖および軽鎖CDR1領域、ヒト重鎖および軽鎖CDR2領域、およびヒト重鎖および軽鎖CDR3領域を有するCDRドメインを含んでなるものを含み、これらは図1−9に示すCDR1、CDR2およびCDR3領域のアミノ酸配列と少なくとも80%相同、好ましくは85%相同、より好ましくは90%、95%、98%または99%相同なアミノ酸配列を含んでなる。
【0016】
さらに別の態様では、抗体はヒト重鎖可変領域およびヒト軽鎖可変領域を有し、ここでヒト重鎖可変領域が、配列番号2、8、12および16、および配列番号2、8、12および16に少なくとも80%相同な配列から選択されるアミノ酸配列を含み、そしてヒト
軽鎖可変領域が、配列番号4、6、10、14および18、および配列番号4、6、10、14および18に少なくとも80%相同な配列から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0017】
本発明の特定の治療用抗体は、ヒトモノクローナル抗体(HuMab)5E8および機能的に同等な抗体を含み、これは(a)配列番号1および配列番号3にそれぞれ説明する可変領域中のヌクレオチド配列を含んでなるヒト重鎖およびヒト軽鎖核酸、およびそれらの保存的配列改変体によりコードされるか、あるいは(b)配列番号2および配列番号4にそれぞれ示すアミノ酸配列を含んでなる重鎖および軽鎖可変領域、およびそれらの保存的な配列改変体を含む。別の態様では、HuMab 5E8の軽鎖可変領域は、配列番号5および6にそれぞれ説明するヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を含んでなり、それらの保存的配列を含む。
【0018】
本発明の別の特定の治療用抗体は、ヒトモノクローナル抗体2D5および機能的に均等な抗体を含み、これは(a)配列番号7および配列番号9にそれぞれ説明する可変領域中のヌクレオチド配列を含んでなるヒト重鎖およびヒト軽鎖核酸、およびそれらの保存的な配列改変体によりコードされ、あるいは(b)配列番号8および配列番号10にそれぞれ示すアミノ酸配列を含んでなる重鎖および軽鎖可変領域、およびそれらの保存的な配列改変体を含む。
【0019】
さらに本発明の別の特定の治療用抗体は、ヒトモノクローナル抗体2H4および機能的に均等な抗体を含み、これは(a)配列番号11および配列番号13にそれぞれ説明する可変領域中のヌクレオチド配列を含んでなるヒト重鎖およびヒト軽鎖核酸、およびそれらの保存的な配列改変体によりコードされ、あるいは(b)配列番号12および配列番号14にそれぞれ示すアミノ酸配列を含んでなる重鎖および軽鎖可変領域、およびそれらの保存的な配列改変体を含む。
【0020】
さらに本発明の別の特定の治療用抗体は、ヒトモノクローナル抗体5D5および機能的に均等な抗体を含み、これは(a)配列番号15および配列番号17にそれぞれ説明する可変領域中のヌクレオチド配列を含んでなるヒト重鎖およびヒト軽鎖核酸、およびそれらの保存的な配列改変体によりコードされ、あるいは(b)配列番号16および配列番号18にそれぞれ示すアミノ酸配列を含んでなる重鎖および軽鎖可変領域、およびそれらの保存的な配列改変体を含む。
【0021】
さらに本発明は、抗体5E8、2D5、2H4もしくは5D5により定められる炭疽の感染防御抗原上のエピトープに結合し、かつ/または抗体5E8、2D5、2H4もしくは5D5と感染防御抗原への結合を競合し、または抗体5E8、2D5、2H4もしくは5D5により現される他の機能的結合特性を有する抗体を包含する。そのような抗体には感染防御抗原に特異的に結合し(例えば細胞表面抗原とは交差反応性がない)、そして毒素中和活性を現すものを含む。
【0022】
さらに別の観点では、本発明はヒト抗−PA抗体およびその部分(例えばその可変領域)をコードする核酸分子、ならびに本発明の本発明の核酸を含む組換え発現ベクター、およびそのようなベクターでトランスフェクトされた宿主細胞を提供する。これらの宿主細胞を培養することにより抗体を生産する方法も、本発明に包含される。本発明の抗体をコードする特定の核酸には、抗体5E8、2D5、2H4および5D5のヌクレオチド配列を含む。
【0023】
別の観点では、本発明は感染防御抗原に結合するヒトモノクローナル抗体を発現する、ヒト重鎖導入遺伝子または導入染色体(transchromosome)およびヒト軽鎖導入遺伝子または導入染色体を含んでなるゲノムを有するトランスジェニック非ヒト動
物を提供する。特定の態様では、トランスジェニック非ヒト動物はトランスジェニックマウスである(本明細書では”HuMAb”マウス(商標)とも呼ぶ)。
【0024】
さらに別の観点では、本発明は記載するようなトランスジェニック非ヒト動物、例えばトランスジェニックマウスに由来する、ヒト抗−PA抗体を発現する単離されたB細胞を提供する。次いで単離されたB細胞は不死化細胞と融合することにより不死化して、ヒト抗−PA抗体の供給源(例えばハイブリドーマ)を提供することができる。そのようなハイブリドーマ(すなわちヒト抗−感染防御抗原抗体を産生する)も、本発明の範囲内に含まれる。
【0025】
本明細書に例示するように、本発明のヒト抗体は抗体を発現するハイブリドーマから直接得ることができ、あるいは宿主細胞(例えばCHO細胞またはリンパ球)でクローン化し、そして組換え的に発現させることができる。したがって別の観点では本発明は、炭疽の感染防御抗原に結合するヒトモノクローナル抗体の生産法を提供し、この方法は抗体が動物のB細胞により生産されるように、炭疽菌(B.anthracis)の感染防御抗原または炭疽菌(B.anthracis)の感染防御抗原を発現する細胞で、ヒト重鎖導入遺伝子およびヒト軽鎖導入遺伝子を含有するゲノムを有するトランスジェニック非ヒト動物を免疫感作し、B細胞を単離し、そしてB細胞をミエローマ細胞と融合して抗体を分泌する不死化ハイブリドーマ細胞を形成することによる。1つの態様では、この方法はHuMab Mouse(商標)を、精製または濃縮した炭疽の感染防御抗原調製物で、かつ/または炭疽の感染防御抗原を発現する細胞で免疫感作することを含む。
【0026】
さらに別の観点では、本発明のヒト抗−PA抗体は誘導体化され、他の機能的分子、例えば他のペプチドもしくはタンパク質(例えばFab’フラグメント)に連結され、またはそれと同時に発現される。例えば本発明の抗体もしくは抗原結合部分は、別の抗体のような1もしくは複数の他の分子的実体に機能的に連結され(例えば化学的カップリング、遺伝子融合、非共有結合もしくはその他)、二重特異性または多重特異性抗体を生産することができる。したがって本発明は多種類の抗体結合体、二重および多重特異性分子、および融合タンパク質を包含し、そのすべてが炭疽の感染防御抗原に結合し、そして炭疽の感染防御抗原を特定の細胞に標的するために使用することができる。
【0027】
さらに別の観点では、本発明はサンプル中の炭疽の感染防御抗原の存在をインビトロまたはインビボで検出する方法、例えば炭疽感染の診断法を提供する。1つの態様では、これは試験するサンプルを場合により対照サンプルと一緒に本発明のヒトモノクローナル抗体(またはその抗原結合部分)に、抗体と感染防御抗原との間に複合体が形成され、続いて形成された複合体が検出できる(例えばELISAを使用して)条件下で接触させることにより行う。試験サンプルと一緒に対照サンプルを使用する場合、複合体は両サンプル中で検出され、そしてサンプル間の複合体形成における任意の統計的な有意差は、試験サンプル中に感染防御抗原が存在することの指標となる。
【0028】
別の観点では、本発明は毒素中和アッセイにおいて炭疽毒素を中和する1もしくは複数の抗体を選択し、続いて0.1μg/ml未満のED50を有する抗体を選択する連続工程により、炭疽の感染防御抗原に対する抗体をスクリーニングする方法を提供し、ここで抗原−抗体結合親和性アッセイはいずれの工程前にも選択基準として使用されない。
【0029】
別の観点では、本発明は1もしくは複数のヒト抗−PA抗体を担体と一緒に含んでなる治療用および診断用組成物を提供する。特定の態様では、組成物はさらに感染防御抗原ワクチンまたは炭疽菌、胞子、感染防御抗原、致死因子もしくは浮腫因子に対する第2の抗体、あるいは第2抗体のFab、F(ab’)、Fvもしくは単鎖Fvフラグメントのような1もしくは複数の追加の治療薬を含む。
【0030】
別の観点では本発明は、本発明のヒト抗体を治療に有効な投薬用量で、抗体に基づく臨床的生成物について当該技術分野で知られている適切な投与経路、例えばSC注射および静脈内注射を使用して、患者(例えばヒト個体)に投与することによる炭疽のインビボ処置および防止法を提供する。
【0031】
特定の態様では、本発明は:
(1)中和活性のためにFc受容体への結合を要し;
(2)PA83よりもPA63に高い親和性を現し;
(3)(a)標準的ELISAに従い1μg/mlではPA83に結合せず、0.2以下のOD405nmであり、
(b)競合的結合アッセイで炭疽致死因子または浮腫因子が感染防御抗原へ結合することを遮断しない(Little,1996を参照にされたい)、
から選択される1もしくは複数の特性を現し、
(4)PA63に対する結合において、0.1mg/kg〜100mg/kgの投薬用量でマウスIG3、マウス2D5およびマウス14B7から選択される抗−PA抗体と競合しない、
特徴を有する、炭疽の感染防御抗原に対する中和抗体を投与することにより、炭疽の処置が必要な患者を処置し、または防止する方法を提供する。本発明の別の特定の態様では、炭疽に感染し、そして炭疽疾患の兆候および/または症状を現している患者を本発明の抗体により処置することができる。
【0032】
特定の態様では、本発明のヒト抗体は1もしくは複数の追加の治療薬、例えば抗生物質、感染防御抗原ワクチン、または炭疽菌、胞子、感染防御抗原、致死因子もしくは浮腫因子に対する抗体と併用投与される(co−administrated)。そのような追加の作用物質は本発明の抗体と同時に(simultaneously)(例えば1つの組成物で、または別々に併用時投与されるか、または抗−PA抗体の投与前もしくは後に投与される。
【0033】
本発明の別の特徴および利点は、限定するとは解釈されるべきではない以下の詳細な説明および実施例から明白になるだろう。本明細書中に引用するすべての参考文献、特許および公開された特許出願は、参考により本明細書に編入する。
発明の詳細な説明
本発明は、炭疽菌(B.anthracis)を処置および診断するための新規な抗−PA抗体、ならびに改善された抗体に基づく治療を提供する。本発明の方法は炭疽の感染防御抗原に結合し、そして炭疽の感染防御抗原、浮腫因子および/または致死因子の機能を阻害する単離されたモノクローナル抗体、またはその抗原結合部分を使用し、この方法はヒトの治療に有用である。
【0034】
本発明の抗体は、完全長(例えばIgG1もしくはIgG3抗体)であることができ、または抗原結合部分(例えばFab、F(ab’)、Fvまたは単鎖Fvフラグメント)のみを含むことができる。1つの態様では、ヒト抗体はたとえばV−D−J組換えおよびアイソタイプスイッチングを経ることにより炭疽PAに対するヒトモノクローナル抗体の多数のアイソタイプ(例えばIgG、IgA、および/またはIgE)を産生することが可能なトランスジェニックマウスなどの非ヒトトランスジェニック動物で生産される。従って、本発明の特定の観点は、抗体、抗体フラグメント、およびそれらの薬学的組成物だけではなく、モノクローナル抗体を生産する非ヒトトランスジェニック動物、B細胞およびハイブリドーマも含む。生物学的サンプル中の炭疽PAを検出するために本発明の抗体を使用する方法も、本発明に包含する。炭疽PAが誘導する生物学、例えば毒素に関連する機能を遮断または阻害するための本発明の抗体の使用法も提供され、そして炭疽感染
の処置または防止に有用である。
【0035】
本発明をさらに容易に理解できるようにするために、最初にいくつかの用語を以下に定義し、さらなる定義については発明の詳細な説明全体に記載する。
【0036】
本明細書で使用する「感染防御抗原」および「PA」という用語は、炭疽菌(Bachillus antracis)(炭疽)により生産される感染防御抗原タンパク質を指し、そしてバクテリアにより自然に発現され得る、または組換え的に発現され得る炭疽の感染防御抗原の任意のバリアント、アイソフォームおよび種相同体を含む[Welkos
et al.,Gene 69:287−300(1988)を参照にされたい]。用語「感染防御抗原」および「PA」は、この用語が1つの形またはその他を具体的に限定しない限り、炭疽の感染防御抗原の83kD(PA83)および63kD(AP63)の両方を指す。
【0037】
1つの態様では、本発明の抗−PA抗体は炭疽毒素(すなわち致死因子または浮腫因子)を「中和する」。本明細書で使用するように、「中和する」およびその文法的変形は、本発明の抗体の活性を指し、この活性は抗体の炭疽PAへの結合で炭疽感染に感受性の細胞へのEFまたはLFの侵入(entry)またはトランスロケーションを防止する。特定の作用機作に限定されることを意図しないが、本発明の抗体の炭疽PAへの結合は、感染プロセスの間(例えば(1)炭疽PAの細胞上のATRへの結合、(2)PA83のPA63形への分解、(3)7つのPA63単位を含んでなる7量体の形成、および(4)毒素の7量体への結合そうでなければ会合)、多数の異なる点で細胞の細胞質への毒素のトランスロケーションの防止をもたらすことができる。本発明の抗体は炭疽PAへの結合を介して感染プロセス中に1もしくは複数の異なる点を阻害または遮断することにより炭疽毒素を中和することができる。
【0038】
本発明のヒト抗体のような治療用化合物が炭疽毒素を中和できるかどうかを測定するインビトロアッセイは、当該技術分野では周知である。本発明の抗体のそのような活性は、例えば毒素中和アッセイ(TNA)(例えばLittle et al.,1990,Infection and Immunity 58:1606−1613を参照にされたい。これは抗−PA抗体の存在下で炭疽LFおよびPAの混合物に暴露された毒素感受性マクロファージ細胞株J77A.1の使用を記載し、ここで抗体が媒介する毒素の中和は、マクロファージの生存の増加をもたらす;Little et al.,1994,Biochem.Biophys.Res.Commum.199:676−82;およびLittle et al.,1996,Microbiology 142:707−715)により測定することができる。本発明の抗体の効力を測定するためのTNAの実施において、50%(ED50)細胞生存能を達成することができる抗体の有効用量(effective dose:ED)を測定する。本発明に有用な抗−PA抗体は5μg/ml未満で、より好ましくは1μg/ml未満、そして最も好ましくは0.1μg/ml未満の濃度で炭疽毒素を中和する。すなわち本発明の抗体は、TNAにより測定した時、約0.001〜5μg/ml、好ましくは1μg/ml以下、そして最も好ましくは0.1μg/ml以下のED50を有する。
【0039】
本明細書で「抗体」という用語には、抗体全体および抗原結合フラグメント(すなわち抗原結合部分)またはその1本鎖が含まれる。「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互に結合した少なくとも2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖か、またはその抗原結合部分を含む糖タンパク質を指す。各重鎖は、重鎖可変領域(Vと省略)および重鎖定常領域からなる。重鎖定常領域は、CH1、CH2、およびCH3の3つのドメインからなる。各軽鎖は軽鎖可変領域(Vと省略)および軽鎖定常領域からなる。軽鎖定常領域はCという1つのドメインからなる。VおよびV領域はさらに、相補性決定領域(
CDR)と呼ばれる超可変領域と、その中に散在するフレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域とに分けることができる。VとVはそれぞれ3つのCDRと4つのFRからなり、アミノ末端からカルボキシ末端に向けてFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序に並んでいる。重鎖および軽鎖の可変領域には、抗原と相互作用する結合領域が含まれる。抗体の定常領域は、免疫グロブリンと、宿主組織または免疫系の各種細胞(たとえばエフェクター細胞)および古典的補体系の第一の構成要素(Clq)を含む因子の結合を媒介することができる。
【0040】
本明細書で使用する抗体の「抗原結合部分」(または単に「抗体部分」)という用語は、抗原(たとえば炭疽菌(B.anthracis)感染防御抗原)に結合する能力を保持する抗体の1もしくは複数のフラグメントを意味する。抗体の抗原結合機能は、全長の抗体のフラグメントによって発揮されることが示された。抗体の「抗原結合部分」という用語が包含する「結合フラグメント」には、(i)Fabフラグメント、V、V、CおよびCH1ドメインからなる1価の断片、(i)F(ab’)フラグメント、ヒンジ領域でジスルフィド結合によって連結している2つのFabフラグメントを含む2価のフラグメント、(iii)VおよびCH1ドメインからなるFd断片、(iv)抗体の1本の腕のVおよびV領域からなるFvフラグメント、(v)VドメインからなるdAbフラグメント(Ward et al.,(1989) Nature 341:544−546)、および(vi)単離された相補性決定領域(CDR)、を含む。さらに、Fvフラグメントの2ドメイン、VおよびVは別々の遺伝子でコードされているが、組換え法を用い、それらを1本のタンパク鎖にしてVおよびV領域をつなげて1価の分子を形成させることが可能な合成リンカーにより結合させることができる(1本鎖Fv(scFv)として知られている;例えばBird et al.(1988) Science 242:423−426;およびHuston et al.(1988) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879−5883を参照にされたい)。そのような1本鎖抗体もまた、抗体の「抗原結合部分」という用語に包含されることを意図する。このような抗体フラグメントは当業者に既知の従来技術を用いて得られ、フラグメントは用途について完全な抗体と同様の様式でスクリーニングされる。
【0041】
「エピトープ」という用語は、抗体に特異的に結合することができるタンパク質決定基を意味する。エピトープは通常、化学的に活性な表面にある、アミノ酸または糖側鎖などの分子の集団からなり、そして通常、特異的な3次元構造特性ならびに特異的な電荷特性を有する。変性溶媒の存在下では高次構造のエピトープへの結合は失われるが非高次構造のエピトープは失われない点で前者と後者は区別される。
【0042】
「二重特異性分子」という用語は、たとえばタンパク質、ペプチド、またはタンパク質もしくはペプチドの複合体など、2つの異なる結合特異性を有する任意の作用物質が含まれることを意図する。たとえば、分子は、(a)細胞表面抗原、および(b)別の抗−PA抗体と結合または相互作用することができる。「多重特異性分子」または「ヘテロ特異性分子」には、たとえばタンパク質、ペプチド、またはタンパク質もしくはペプチドの複合体など、2より多くの異なる結合特異性を有する任意の作用物質が含まれることを意図する。たとえば、分子は、(a)細胞表面抗原、(b)別の抗−PA抗体、および(c)少なくとも一つの別の構成要素と結合または相互作用することができる。したがって、本発明には、限定するわけではないが炭疽菌(B.anthracis)感染防御抗原のような細胞表面抗原、および抗−PA抗体のような他の標的に向けられた二重特異性、三重特異性、四重特異性、およびその他の多重特異性分子を含む。
【0043】
「二重特異性抗体」という用語にはディアボディ(diabody)も含む。ディアボディは、VおよびVドメインが1本のポリペプチド鎖上に発現している2価の二重特異性抗体だが、同一の鎖上でこの2領域を対にするには短すぎるリンカーを用いているた
めに、これらのドメインは別の鎖の相補領域と対になり、そして2つの抗原結合部位を作り出している(たとえばHolliger,P.,et al.(1993) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444−6448; Poljak,R.J.,et al.(1994) Structure 2:1121−1123を参照)にされたい)。本明細書で使用する「ヘテロ抗体」は、一緒に連結された少なくとも2つが異なる特異性を有する2以上の抗体、抗体結合フラグメント(例えばFab)、それらの誘導体または抗原結合領域を指す。これら異なる特異性には別の炭疽抗原に対する結合特異性を含む。
【0044】
本明細書に使用する「ヒト抗体」という用語には、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体が含まれることを意図する。本発明のヒト抗体には、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基(例えばインビトロにでのランダムなまたは位置指定な変異誘発、またはインビボの体細胞性の突然変異によって導入された突然変異)も含まれる。しかし、本明細書で使用する「ヒト抗体」という用語には、マウスのような別の哺乳類種の生殖系列に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列に移植された抗体を含むことを意図していない。
【0045】
本明細書に使用する「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」という用語は、単一分子組成物の抗体分子の調製物を意味する。モノクローナル抗体組成物は、単一の結合特性および特定のエピトープへの親和性を示す。したがって、「ヒトモノクローナル抗体」という用語は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する単一の結合特性を示す抗体を意味する。1つの態様では、ヒトモノクローナル抗体は、不死化細胞に融合させたヒト重鎖導入遺伝子および軽鎖導入遺伝子を含んでなるゲノムを有するトランスジェニック非ヒト動物、例えばトランスジェニックマウスから得たB細胞を含む、ハイブリドーマによって産生される。
【0046】
本明細書で使用する「組換えヒト抗体」という用語には、(a)ヒト免疫グロブリン遺伝子に組換えた動物(例えばマウス)から単離した抗体(以下のセクションIに詳述する)、(b)宿主細胞にトランスフェクトした組換え発現ベクターを用いて発現させた抗体、(c)組換え体、組み合わせ抗体ライブラリーから単離した抗体、および(c)ヒト免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングが関与する他の手段によって、調製、発現、作製、または単離した抗体のような、組換え手段によって調製、発現、作製、または単離されるすべてのヒト抗体を含むことを意図する。そのような組換えヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する。しかし特定の態様では、そのような組換えヒト抗体は、インビトロ突然変異誘発(またはヒトIg配列を導入したトランスジェニック動物を用いた場合、インビボ体細胞突然変異誘発)にかけることができ、したがって組換え抗体のVおよびV領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列VおよびV配列に由来し関連している一方で、インビボではヒト抗体生殖系列レパートリーに天然に存在しないかもしれない。
【0047】
本明細書で使用する「異種抗体」は、そのような抗体を生産するトランスジェニック非ヒト生物に関連して定義される。この用語は、トランスジェニック非ヒト動物から構成されない生物であって、一般にトランスジェニック非ヒト動物以外の種に見いだされるものに対応する、アミノ酸配列またはコード核酸配列を有する抗体を意味する。
【0048】
本明細書で使用する「ヘテロハイブリッド抗体」は、異なる生物に由来する軽鎖および重鎖を有する抗体を指す。たとえば、マウス軽鎖を伴うヒト重鎖を有する抗体は、ヘテロハイブリッド抗体である。ヘテロハイブリッド抗体の例には、上述のキメラ抗体、およびヒト化抗体を含む。
【0049】
本明細書で使用する「単離された抗体」とは、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を意味することを意図する(例えば、感染防御抗原に結合する単離された抗体は、感染防御抗原以外の抗原に結合する抗体を実質的に含まない)。しかし炭疽感染防御抗原のエピトープ、アイソフォーム、またはバリアントに結合する単離した抗体は、たとえば他のバクテリア種(例えば感染防御抗原の種相同体)、他に関連する抗原と交差反応性を有することができる。さらに単離した抗体は他の細胞物質および/または化学物質を実質的に含まなくても良い。本発明の1つの態様では、異なる特異性を有する「単離された」モノクローナル抗体の組み合わせを、明確な組成物中で混合する。
【0050】
本明細書で使用する「特異的な結合」とは、炭疽感染防御抗原に結合する本発明の抗−PA抗体を指す。典型的には抗体は、少なくとも約1x10−1の親和性で結合し、そして感染防御抗原には、感染防御抗原または関係性の近い抗原以外の非特異的な抗原(たとえばBSA、カゼイン)への結合性に対する親和性の少なくとも2倍大きい親和性で結合する。「感染防御抗原を認識する抗体」および「感染防御抗原に特異的な抗体」という句は、本明細書では「感染防御抗原に特異的に結合する抗体」という文言と互換的に用いられる。
【0051】
本明細書で使用するIgG抗体への「高親和性」とは、少なくとも約10−1の結合親和性を指し、好ましくは少なくとも約10−1、さらに好ましくは例えば最高1013−1以上など、少なくとも約10−1、1010−1、または1011−1以上の結合親和性を指す。しかし、「高親和性」結合は、他の抗体アイソタイプでは変化することがある。たとえば、IgMアイソタイプへの「高親和性」結合とは、少なくとも約10−1の結合親和性を指す。
【0052】
本明細書で使用する“Kassoc”または“K”という用語は、特定の抗体−抗原相互作用の会合定数を意味を指すことを意図する。
【0053】
本明細書で使用する“Kdis”または“K”という用語は、特定の抗体−抗原相互作用の解離定数を指すことを意図する。
【0054】
本明細書で使用する「アイソタイプ」とは、重鎖定常領域遺伝子によリコードされる抗体クラス(たとえばIgMまたはIgG1)を指す。本発明の単離されたヒト抗体は、任意のアイソタイプ、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgAsec、IgDおよびIgEであることができる。
【0055】
本明細書で使用する「アイソタイプスイッチング」とは、抗体のクラスまたはアイソタイプがあるIgクラスから別のIgクラスに変化する現象を意味する。
【0056】
本明細書で使用する「非スイッチ型アイソタイプ」は、アイソタイプスイッチングが生じない場合に生産される重鎖のアイソタイプクラスを意味し、非スイッチ型アイソタイプをコードするCH遺伝子は典型的には、機能的に再構成されたVDJ遺伝子の直下流の第1のCH遺伝子である。アイソタイプスイッチングは古典的または非古典的なアイソタイプスイッチングに分類されてきた。古典的なアイソタイプスイッチングは、導入遺伝子の少なくとも1つのスイッチ配列領域に関与する組換えイベントによって生じる。非古典的アイソタイプスイッチングは、たとえばヒトσμおよびヒトΣμ間の相同的組換え(δ関連欠失)などによって生じることがある。導入遺伝子間および/または染色体間組換えなどの代替的な非古典的スイッチングメカニズムが、とりわけアイソタイプスイッチングを生じて起こることがある。
【0057】
本明細書で使用する用語「スイッチ配列」とは、スイッチ組換えの原因となるDNA配
列を意味する。「スイッチドナー」配列は典型的にはμスイッチ領域で、スイッチ組換えの間に消去される構成領域(construct region)の5’(すなわち上流)側であろう。「スイッチアクセプター」領域は、消去される構成領域と置換定常領域(たとえばγ、εなど)の間にある。組換えが常に生じる特異的な部位はないため、最終遺伝子配列は構成から予測することは一般にはできないだろう。
【0058】
本明細書で使用する「グリコシル化パターン」とは、タンパク質、さらに具体的には免疫グロブリンタンパク質に共有結合した炭化水素単位のパターンとして定義される。異種抗体のグリコシル化パターンは、当業者が導入遺伝子のCH遺伝子が由来する種よりも非ヒトトランスジェニック動物種に生じた該グリコシル化パターンに類似していると認識する場合、非ヒトトランスジェニック動物種によって生産される抗体上で天然に存在するグリコシル化パターンに実質的に類似していると特徴付けられる。
【0059】
本明細書で使用する、物体に適用される「天然に存在する」という用語は、ある物体を天然に発見することができるという事実を意味する。例えば天然の供給源から単離することができ、研究室で人為的に改変されたものではない生物(ウイルスを含む)に存在するポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列は、天然に存在するものである。
【0060】
本明細書で使用する「再構成(rearranged)」という用語は、重鎖または軽鎖免疫グロブリン座位の配置を意味し、ここでVセグメントは、完全なVまたはVドメインを基本的にコードする配置において、それぞれD−JまたはJセグメントに隣接して位置する。再構成した免疫グロブリン遺伝子座は、生殖系列DNAとの比較によって同定することができ、再構成した座位は少なくとも1つの組換え7量体/9量体相同性要素を有するだろう。
【0061】
Vセグメントに関して本明細書で使用する「非再構成」または「生殖系配置」という用語は、VセグメントがDまたはJセグメントに隣接するように組換えされていない配置を指す。
【0062】
本細書で使用する「核酸分子」という用語は、DNA分子およびRNA分子を含むことを意図する。核酸分子は1本鎖または2本鎖であってよいが、好ましくは2本鎖DNAである。
【0063】
感染防御抗原に結合する抗体または抗体部分(例えばV、V、CDR3)をコードする核酸に関して、本明細書で使用する「単離された核酸分子」という用語は、抗体および抗体部分をコードするヌクレオチド配列が感染防御抗原以外の抗原と結合する抗体または抗体部分をコードするその他のヌクレオチド配列を含まない核酸分子を指し、その他の配列はヒトゲノムDNAにおける核酸を天然に挟む。1つの態様では、ヒト抗−PA抗体またはその部分は、5E8(および5E8’)、2D5、2H5、5D5のヌクレオチドおよびアミノ酸配列、または配列番号1および2、7および8、11および12、および15および16にそれぞれ示すヌクレオチドおよびアミノ酸配列を有する重鎖(V)可変領域、あるいは配列番号3および4、5および6、9および10、13および14、および17および18にそれぞれ示すヌクレオチドおよびアミノ酸配列を有する軽鎖(V)可変領域を有する。当業者は抗体5E8および5E’8が同じ重鎖を有するが、それらの軽鎖が異なることを理解するはずであり、ここで5E8は配列番号3および4にそれぞれ示すヌクレオチドおよびアミノ酸配列を有する軽鎖(V major)可変領域を有し、そして5E’8は配列番号5および6にそれぞれ示すヌクレオチドおよびアミノ酸配列を有する軽鎖(V minor)可変領域を有する。5E8ハイブリドーマに由来するこれら抗体の両方が炭疽の感染防御抗原に結合し、そしてTNAで炭疽毒素を中和する。
【0064】
本明細書に開示され、そして特許請求されるように、配列番号1〜72に説明する配列には「保存的配列改変体」、すなわちヌクレオチド配列によってコードされる抗体、またはアミノ酸配列を含む抗体の結合特性に著しく影響を及ぼすことがない、または変化させることがないヌクレオチドおよびアミノ酸配列改変体が含まれる。そのような保存的配列改変体には、ヌクレオチドおよびアミノ酸置換、付加、および欠失が含まれる。位置指定突然変異誘発およびPCRを媒介とする突然変異誘発などの当該技術分野で知られている標準技術により、配列番号1〜72に改変体を導入することができる。保存的アミノ酸置換には、アミノ酸残基を、類似の側鎖を有するアミノ酸残基と置換したものが含まれる。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該技術分野で定義されている。このファミリーには、塩基性側鎖(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、無電荷極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β分岐鎖側鎖(例えばトレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。このようにヒト抗−PA抗体における予測された非必須アミノ酸残基は、同一の側鎖ファミリーの別のアミノ酸残基に置換されることが好ましい。
【0065】
あるいは、別の態様では、突然変異は、飽和突然変異などによって抗−PA抗体コード配列の全体または部分にランダムに導入することができ、そして得られた改変体抗−PA抗体は結合活性についてスクリーニングされ得る。
【0066】
したがって本明細書に開示する(重鎖および軽鎖可変領域の)ヌクレオチド配列によりコードされる抗体、および/または本明細書に開示する(重鎖および軽鎖可変領域の)アミノ酸配列を含む抗体には、保存的に改変体された類似の配列によってコードされる、または含有する実質的に類似の抗体が含まれる。そのような実質的に類似の抗体を、配列番号1〜18としてここに開示した部分的な(すなわち重鎖および軽鎖可変領域)配列に基づいてどのように生成できるかについて、さらに後述する。
【0067】
核酸について「実質的な相同性」という用語は、2つの核酸、またはその指定の配列が適切に整列され、そして比較された時、ヌクレオチドの少なくとも約80%、通常は少なくとも約90%〜95%、そしてさらに好ましくはヌクレオチドの少なくとも約98%〜99.5%において同一である適切なヌクレオチドの挿入または欠失を有することを示す。あるいは実質的な相同性は、セグメントが選択的なハイブリダイゼーション条件下において鎖の相補鎖にハイブリダイズする場合に存在する。
【0068】
2つの配列の同一性の割合は、配列が共有する同一の位置の数の関数(すなわち、相同性の%=同一位置の#/位置#の合計 x 100)であり、2つの配列を最適にアラインメントするために導入する必要があるギャップ数および各ギャップ長を考慮したものである。配列の比較および2つの配列間の同一性の割合の決定は、以下の非限定的例に記載するように数学的アルゴリズムを用いて実行することができる。
【0069】
2つのヌクレオチド配列間の同一性の割合は、GCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.comで入手可能)のGAPプログラムを用い、NWSgapdna.CMPマトリックス、ならびに40、50、60、70もしくは80のギャップ加重、および1、2、3、4、5、または6の長さ加重を用いて定めることができる。2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列間の同一性の割合は、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれているE. Meyers and W. Miller(Comput.Appl.Biosci.,4:11−17(1988))のアルゴリズ
ムを用いて、PAM120加重残基表、12のギャップ長ペナルティ、および4のギャップペナルティを用いても定めることができる。さらに、2つのアミノ酸残基間の同一性の割合は、GCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.comで入手可能)のGAPプログラムに組み込まれているNeedleman and Wunsch(J.Mol.Biol.48:444−453(1970))のアルゴリズムを用いて、Blossum62マトリックスまたはPAM250マトリックスのいずれかを用い、16、14、12、10、8、6、もしくは4のギャップ加重、および1、2、3、4、5もしくは6の長さ加重を用いて定めることもできる。
【0070】
本発明の核酸またはタンパク質配列はさらに、例えば関連した配列を同定するために公的なデータベースに対する検索を実行するための「クエリ配列」として使用することもできる。このような検索はAltschul,et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403−10のNBLASTおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)を用いて行うことができる。BLASTヌクレオチド検索を、NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長=12を用いて行い、本発明の核酸分子に相同なヌクレオチド配列を得ることができる。BLASTタンパク質検索は、XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3を用いて行い、本発明のアミノ酸配列に相同なタンパク質分子を得ることができる。比較のためのギャップのあるアラインメントを得るには、Gapped BLASTをAltschul et al.,(1997)Nucleic Acids Res.25(17):3389−3402に記載の通り使用することができる。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを使用する場合、各プログラム(例えばXBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータを用いることができる。http://www.ncbi.nlm.nih.gov.を参照にされたい。
【0071】
核酸は、全細胞、細胞ライセート中、または部分的に精製したまたは実質的に純粋な形状で存在することができる。核酸は、アルカリ/SDS処理、CsClバンド形成、カラムクロマトグラフィ、アガロースゲル電気泳動、およびそのほかの当該技術分野で周知な方法を含む標準技術により、例えば他の細胞性核酸またはタンパク質などのその他の細胞成分またはそのほかの夾雑物を除去して精製した場合に、「単離された状態」または「実質的に純粋な状態」になる。F.Ausubel,et al.,編集 分子生物学の現在のプロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)、グリーネ出版およびウィリー インターサイエンス(Greene Publishing and Wiley Interscience)、ニューヨーク(1987)を参照にされたい。
【0072】
cDNA、ゲノム、または混合物のいずれかから得られる本発明の核酸組成物は、野生型配列に存在することが多いが(改変体された制限酵素認識部位等を除く)、遺伝子配列を提供するために標準技術に従って変異を導入することができる。コード配列の場合、この変異の導入は所望のようにアミノ酸配列に影響を与えることができる。特に本明細書に記載の天然のV、D、J、定常、スイッチおよびその他のこのような配列に実質的に相同な、または由来するDNA配列が考慮される(ここで「由来する」とは、ある配列が別の配列と同一であるかまたは改変体されていることを示す)。
【0073】
核酸が別の核酸配列と機能的な関係におかれている場合に、核酸は「操作可能に連結されて」いる。例えばプロモーターまたはエンハンサーは、配列の転写に作用する場合は、コード配列に操作可能に連結されている。転写調節配列に関して、操作可能に連結されたとは、結合したDNA配列が隣接しており、必要な場合には2つのタンパク質コード領域を連結し、隣接させ、そしててリーディングフレーム内にすることを意味する。スイッチ配列の場合、操作可能に連結されたとは、その配列がスイッチ組換えに作用することがで
きることを示す。
【0074】
本明細書で使用する用語「ベクター」は、結合している別の核酸を輸送することが可能な核酸分子を指すことを意図する。ベクターの1種が「プラスミド」で、それは別のDNAセグメントが中にライゲート(ligated)されていてもよい円形の2本鎖DNAループを指す。別の種類のベクターはウイルスベクターで、ここで別のDNAセグメントがウイルスゲノムにライゲートされていてもよい。ある種のベクターは、導入された宿主細胞中で自律複製することができる(例えば細菌の複製起点を有する細菌ベクター、およびエピソーム哺乳類ベクター)。その他のベクター(例えば非エピソーム哺乳類ベクター)は、宿主細胞に導入されると宿主細胞ゲノムに組み込まれ、これにより宿主ゲノムとともに複製され得る。さらにある種のベクターはそれが連結された遺伝子の発現を駆動することもできる。このようなベクターは、本明細書では「組換え発現ベクター」(または単に「発現ベクター」)と呼ぶ。一般に、組換えDNA技術に用いられる発現ベクターは、プラスミドの形状をしていることが多い。プラスミドは最も一般的に用いられる形状のベクターであるため、本明細書では「プラスミド」および「ベクター」は交換可能に用いられてよい。しかし、本発明では、均等な機能を提供するウイルスベクター(例えば複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)のような他の形状の発現ベクターも含むことを意図する。
【0075】
本明細書で使用する「組換え宿主細胞」(または単に「宿主細胞」)という用語は、組換え発現ベクターを導入した細胞を指すことを意図する。そのような用語は特定の対象細胞だけでなくそのような細胞の子孫も指すことを意図すると理解すべきである。突然変異または環境的な影響によって、後代に特定の改変体が生じるかもしれないため、そのような子孫は事実上親細胞と同一ではないかもしれないが、本明細書で使用する「宿主細胞」という用語の範囲内に含まれる。組換え宿主細胞には、例えばCHO細胞およびリンパ球細胞を含む。
【0076】
本発明の様々な観点を、以下の小章でさらに詳述する。
I.炭疽菌(B.anthracis)の感染防御抗原に対するヒト抗体の生産
本発明のモノクローナル抗体(MAb)は、たとえばKohler and Milstein(1975)Nature 256:495に記載の標準体細胞ハイブリダイゼーション技術など、従来のモノクローナル抗体の方法を含む各種技術によって生産することができる。体細胞ハイブリダイゼーション手法が好ましいが、原理的にはモノクローナル抗体を生産するためのその他の技術、例えばBリンパ球のウイルス性または発癌性トランスフォーメーションを用いることもできる。
【0077】
ハイブリドーマを調製する好ましい動物系は、マウス系である。マウスにおけるハイブリドーマ生産は、非常に確立した方法である。融合用の免疫感作した脾細胞の単離のための免疫感作プロトコールおよび技術は当該技術分野では公知である。融合パートナー(例えばマウスミエローマ細胞)および融合手順も既知である。
【0078】
好適な態様では、感染防御抗原に対するヒトモノクローナル抗体はマウス系よりはむしろくヒト免疫系の部分を有するトランスジェニックマウスを用いて作製することができる。これらのトランスジェニックマウスは本明細書では「HuMab」と呼び、非再構成ヒト重鎖(μおよびγ)ならびにκ軽鎖免疫グロブリン配列とともに、内因性μおよびκ鎖座を不活化する標的突然変異をコードするヒト免疫グロブリン遺伝子小座(miniloci)を含む(Lonberg,et al.(1994) Nature 368(6474):856−859)。したがってマウスはマウスIgMまたはκの低発現が見られ、免疫感作に応答して、導入したヒト重鎖および軽鎖導入遺伝子にクラススイッチおよび体細胞突然変異が生じ、高親和性ヒトIgGκモノクローナルを生じる(Lonber
g, N.et al.(1994),同上;Lonberg,N.(1994)Handbook of Experimental Pharmacology 113:49−101;Lonberg,N.and Huszar,D.(1995) Intern.Rev.Immunol.Vol.13:65−93、およびHarding,F.and Lonberg,N.(1995)Ann.N.Y.Acad.Sci 764:536−546)。HuMabマウスの調製は、後述の第II章および引用により全部、その全内容を本明細書に編入するTaylor,L.et al.(1992) Nucleic Acids Research 20:6287−6295;Chen,J.et al.(1993) International Immunology 5:647−656;Tuaillon et al.(1993) Proc.Natl.Acad.Sci USA 90:3720−3724;Choi et al.(1993) Nature Genetics 4:117−123;Chen,J.et al.(1993) EMBO J.12:821−830;Tuaillon et al.(1994) J.Immunol.152:2912−2920;Lonberg et al.,(1994) Nature 368(6474):856−859;Lonberg,N.(1994) Handbook of Experimental Pharmacology 113:49−101;Taylor,L.et
al.(1994) International Immunology 6:579−591;Lonberg,N.and Huszar,D.(1995) Intern.Rev.Immunol.Vol.13:65−93;Harding,F.and Lonberg,N.(1995) Ann.N.Y.Acad.Sci 764:536−546;Fishwild,D.et al.(1996) Nature Biotechnology 14:845−851に記載されている。さらに引用により全部、その全内容を本明細書に編入するLonberg and Kay、およびジェンファーム インターナショナル(GenPharm International)への米国特許第5,545,806号、5,569,825号、5,625,126号、5,633,425号、5,789,650号、5,877,397号、5,661,016号、5,814,318号、5,874,299号、および5,770,429号明細書、Surani et al.への米国特許第5,545,807号明細書、1998年6月11日公開の国際公開第98/24884号パンフレット、1994年11月10日公開の国際公開第94/25585号パンフレット、1993年6月24日公開の国際公開第93/1227号パンフレット、1992年12月23日公開の国際公開第92/22645号パンフレット、1992年3月19日公開の国際公開第92/03918号をパンフレットを参照にされたい。あるいは実施例1、小章IIに記載のHCO12トランスジェニックマウスを用いてヒト抗−PA抗体を作製することができる。
HuMab免疫感作
感染防御抗原に対する完全なヒトモノクローナル抗体を作製するために、HuMabマウスをLonberg,N.et al.(1994) Nature 368(6474):856−859;Fishwild,D.et al.(1996) Nature Biotechnology 14:845−851および国際公開第98/24884号パンフレットに記載されるように、炭疽PA83またはPA63または両方および/または感染防御抗原発現細胞の精製もしくは濃縮調製物で免疫感作することができる。好ましくは、マウスに最初の注射を行うのは6〜16週齢である。例えば感染防御抗原の精製または濃縮調製物(5〜20μg)(米国陸軍の感染症研究所のStephen Littleによる好意により得た)を用いてHuMabマウスの腹腔内において免疫することができる。マウスは免疫応答を促進するために、感染防御抗原を発現するトランスフェクト細胞で免疫感作することもできる。
【0079】
各種抗原を用いた経験の積み重ねから、HuMabトランスジェニックマウスは、最初に完全フロイントアジュバントに入れた抗原で腹腔内に(IP)免疫感作に、その後、隔
週に不完全フロイントアジュバントに入れた抗原で腹腔内に免疫感作する(最高で合計6回)場合に、最良の応答が得られることが示されている。免疫応答は、後眼窩からの採血によって得られた血漿サンプルを用いた免疫感作プロトコールの経過について監視することができる。血漿は、ELISAによってスクリーニングすることができ(後述)、そして抗−PAヒト免疫グロブリンの力価が十分なマウスを融合に用いることができる。マウスは屠殺および脾臓の摘出の3日前に静脈内に抗原を追加免疫することができる。各抗原につき2〜3回の融合を行う必要があるかもしれない。各抗原を数匹のマウスに免疫する。例えばHC07およびHC012系のHuMabマウス、合計12匹を免疫感作することができる。
感染防御抗原に対するヒトモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマの作製
マウス脾細胞は標準プロトコールに基づき単離して、PEGとともにマウスミエローマ細胞株と融合することができる。次いで得られたハイブリドーマを、抗原特異性抗体の産生についてスクリーニングする。例えば免疫感作マウスから得られた脾リンパ細胞の単一細胞懸濁液を、50%PEGを用いて、P3X63−Ag8.653非分泌マウスミエローマ細胞(ATCC、CRL1580)の数の1/6と融合する。平底マイクロタイタープレートに約2 x 10個の細胞をプレーティングし、20% ウシクローン血清、18% ”653”調整培地、5% origen(IGEN社)、4mM L−グルタミン、 1mM L−グルタミン、1mM ピルビン酸ナトリウム、5mM HEPES、0.055mM 2−メルカプトエタノール、50ユニット/ml ペニシリン、50mg/ml ストレプトマイシン、50mg/ml ゲンタマイシン、および1X HAT(シグマ社(sigma):融合から24時間後にHATを加える)を含有する選択培地中で2週間インキュベーションする。2週間後、HATをHTに交換した培地中で細胞を培養する。次いで各ウェルをヒト抗−PAモノクローナルIgMおよびIgG抗体について、ELISAでスクリーニングする。大規模なハイブリドーマ成長が生じたら、通常10〜14日後に培地を観察する。ハイブリドーマを分泌する抗体を再びプレーティングし、再スクリーニングし、そしてヒトIgGについてまだ陽性であれば、抗−PAモノクローナル抗体を限界希釈によって少なくとも2倍にサブクローニングすることができる。その後、安定したサブクローンをインビトロで培養し、特性決定のための抗体を組織培養培地中で少量産生する。
炭疽の感染防御抗原に対するヒトモノクローナル抗体を生産するトランスフェクトーマ(transfectoma)の生成
本発明のヒト抗体は、当該技術分野で周知であるように(例えばMorrison,S、(1985) Science 229:1202)、例えば組換えDNA技術および遺伝子トランスフェクション法の組み合わせを使用して、宿主細胞トランスフェクトーマ中に生産させることができる。
【0080】
例えば抗体またはその抗体フラグメントを発現させるために、部分または完全長の軽鎖および重鎖をコードするDNAを標準的な分子生物学的技術により得ることができ(例えばPCR増幅、位置指定突然変異誘発法)、そして遺伝子が転写および翻訳制御配列に操作可能に連結されるように発現ベクター中に挿入することができる。この内容において、用語「操作可能に連結された」とは、ベクター中の転写および翻訳制御発現が抗体遺伝子の転写および翻訳を調節する目的機能を果たすように、抗体遺伝子がベクター中に連結されることを意味するものとする。発現ベクターおよび発現制御配列は、使用する発現宿主細胞と適合するように選択される。抗体の軽鎖遺伝子および抗体の重鎖遺伝子は別個のベクターに挿入することができ、あるいはさらに典型的には両遺伝子を同じ発現ベクターに挿入される。抗体遺伝子は標準的技術(例えば抗体遺伝子フラグメントおよびベクター上の相補的制限部位のライゲーション、または制限部位が無ければ平滑末端のライゲーション)により発現ベクターに挿入される。Vセグメントがベクター中のCセグメント(1もしくは複数)に操作可能に連結され、そしてVセグメントがベクター中のCセグメントに操作可能に連結されるように、本明細書に記載する抗体の軽鎖および重鎖可変領域は、それらを、すでに所望するアイソタイプの重鎖定常および軽鎖定常領域がコードされた発現ベクターに挿入することにより、任意の抗体アイタイプの完全長抗体遺伝子を作成するために使用するとができる。さらに、あるいは代替的に、組換え発現ベクターは宿主細胞から抗体鎖の分泌を促進するシグナルペプチドをコードすることができる。抗体鎖遺伝子は、シグナルペプチドが抗体鎖遺伝子のアミノ末端にインフレームで連結されるように、ベクター中にクローン化することができる。シグナルペプチドは、免疫グロブリンシグナルペプチドまたは異種のシグナルペプチド(すなわち非免疫グロブリンタンパク質に由来するシグナルペプチド)であることができる。
【0081】
抗体鎖遺伝子に加えて、本発明の組換え発現ベクターは宿主細胞中での抗体鎖遺伝子の発現を制御する調節配列を持つ。用語「調節配列」は、プロモーター、エンハンサーおよび抗体鎖遺伝子の転写または発現を制御する他の発現制御要素(例えばポリアデニル化シグナル)を含むことを意図する。そのような調節配列は、例えばGoeddel;遺伝子発現技術(Gene Expression Technology)。Methods
in Enzymology 185、アカデッミック出版、サンディエゴ、カリフォルニア州(1990)に記載されている。当業者は、調節配列の選択を含め発現ベクターの設計が形質転換させる宿主細胞の選択、所望するタンパク質の発現レベル等のような因子に依存し得ると考えるだろう。哺乳動物の宿主細胞の発現に好適な調節配列には、サイトメガロウイルス(CMV)、シンドビスウイルス40(SV40)、アデノウイルス、(例えばアデノウイルス主要後期プロモーター(AdMLP))およびポリオーマに由来するプロモーターおよび/またはエンハンサーのような哺乳動物細胞中で高レベルのタンパク質発現を支配するウイルス要素を含む。あるいはユビキチンプロモーターまたはβ−グロビンプロモーターのような非ウイルス性の調節配列を使用してもよい。
【0082】
抗体鎖遺伝子および調節配列に加えて、本発明の組換え発現ベクターは宿主細胞中でベクターの複製を調節する配列(例えば複製起点)および選択可能なマーカー遺伝子のようなさらなる配列を含むことができる。選択可能なマーカー遺伝子は、ベクターが導入された宿主細胞の選択を容易にする(例えばすべてAxel et al.による米国特許第4,399,216号、同第4,634,655号および同第5,179,017号明細書を参照にされたい)。例えば典型的には選択可能なマーカー遺伝子はベクターが導入された宿主細胞に、G418、ハイグロマイシンまたはメトトレキセートのような薬剤に対する耐性を付与する。好適な選択可能なマーカー遺伝子にはジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子(メトトレキセート選択/増幅でdhfr−宿主細胞中にて使用する)およびneo遺伝子(G418選択用)がある。
【0083】
軽鎖および重鎖の発現には、重鎖および軽鎖をコードする発現ベクター(1もしくは複数)を、標準技術により宿主細胞にトランスフェクトする。用語「トランスフェクション」の様々な語形は、外因性DNAを原核または真核宿主細胞に導入するために通常使用される広範な技術、例えば電気穿孔、カルシウム−リン酸沈殿、DEAE−デキストラントランスフェクション等を包含することを意図する。理論的には本発明の抗体は原核または真核宿主細胞のいずれでも発現することが可能であるが、真核宿主細胞での抗体の発現、そして最も好ましくは哺乳動物宿主細胞中での発現は、そのような真核細胞そして特に哺乳動物細胞が原核細胞よりも正しくフォールドされ、そして免疫学的に活性な抗体を集成および分泌する可能性があるので最も好適である。抗体遺伝子の原核発現は、高収量で活性な抗体を生産するには非効率的であることが報告された(Boss,M.A.and Wood,C.R.(1985)Immunology Today 6:12−13)。
【0084】
本発明の組換え抗体を発現するために好適な哺乳動物宿主細胞には、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(Urlaub and Chasin,(1980)Pro
c.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216−4220に記載されたdhfr−CHO細胞を含み、例えばR.J.Kaufman and P.A.Sharp(1982)Mol.Biol.159:601−621に記載されているようなDHFR選択可能マーカーと使用する)、NS0ミエローマ細胞、COS細胞およびSP2細胞を含む。特にNSOミエローマ細胞と使用するために、別の好適な発現系は国際公開第87/04462号、同第89/01036号パンフレットおよび欧州特許第338,841号明細書に開示されているGS遺伝子発現系である。抗体遺伝子をコードするGS発現系である。抗体遺伝子をコードする組換え発現ベクターが哺乳動物の宿主細胞に導入される場合、抗体は宿主細胞中での抗体の発現、さらに好ましくは宿主細胞が増殖する培養基への抗体の分泌が可能となる十分な期間、宿主細胞を培養することにより生産される。抗体は標準的なタンパク質精製法を使用して培養基から回収することができる。
完全な抗体を発現するための部分的抗体配列の使用
抗体は、主に6つの重鎖および軽鎖相補性決定領域(CDR)に位置するアミノ酸残基を介して標的抗原と相互作用する。このため、CDR内のアミノ酸配列は、CDRの外の配列よりも、個々の抗体間で多様性に富んでいる。CDR配列はほとんどの抗体−抗原相互作用を引き起こしているため、天然に存在する特異的な抗体の特性を模倣する組換え抗体は、異なる特性を有する異なる抗体のフレームワーク配列に移植した天然に存在する特異的抗体から得たCDR配列を含む発現ベクターを構築することによって発現させることが可能である(例えばRiechmann,L.et al.,1998,Nature
332:323−327;Jones,P.et al.,1986,Nature 321:522−525;およびQueen,C.et al.,1989,Proc.Natl.Acad.See.U.S.A.86:10029−10033を参照にされたい)。このようなフレームワーク配列は、生殖系列抗体遺伝子配列を含む公的なDNAデータベースから得ることができる。これらの生殖系列配列は、B細胞成熟(maturation)中にV(D)J結合によって形成された、完全に集成された可変遺伝子を含まないため、成熟した抗体遺伝子配列とは異なるだろう。生殖系列遺伝子配列は、可変領域全体に均一に、個々の高親和性二次レパートリ抗体の配列とも異なるだろう。例えば体細胞突然変異はフレームームワーク領域のアミノ末端部分では比較的頻度が低い。たとえば、体細胞突然変異はフレームームワーク領域1のアミノ末端部分、およびフレームワーク領域4のカルボキシ末端では比較的頻度が低い。さらに、多くの体細胞突然変異は抗体の結合特性を有意に変化させない。このため、もとの抗体と同様の結合特性を有する完全な組換え抗体を再生するために、特定の抗体のDNA配列全体を得る必要はない(すべての目的のために引用により本明細書に編入する、1999年3月12日出願のPCT/US99/05535号明細書を参照にされたい)。CDR領域全体の部分的な重鎖および軽鎖は、典型的にはこの目的には十分である。この部分的配列を用いて、どの生殖系列可変および結合遺伝子セグメントが組換え抗体可変遺伝子に寄与したかを決定する。その後、生殖系列配列を用いて、可変領域の欠損部分を埋める。重鎖および軽鎖リーダー配列はタンパク質成熟の間に切断され、最終的な抗体の特性には寄与しない。このため、発現構築物に相当する生殖系列リーダー配列を用いる必要がある。欠損配列を付け加えるために、クローン化したcDNA配列を、ライゲーションまたはPCR増幅によって合成オリゴヌクレオチドと組み合わせることができる。あるいは可変領域全体を、短く、重複しているオリゴヌクレオチドのセットとして合成し、PCR増幅で組み合わせて全体を合成した可変領域クローンを作製することもできる。このプロセスには、特定の制限酵素認識部位の消去もしくは包含、または特定のコドンの最適化などの利点がある。
【0085】
ハイブリドーマから得た重鎖および軽鎖転写物のヌクレオチド配列を用いて、合成オリゴヌクレオチドの重複セットを設計し、天然の配列と同一のアミノ酸コード能力を有する合成V配列を作製する。合成重鎖およびカッパ鎖配列は、3つの点において天然の配列と異なる可能性がある。繰り返しているヌクレオチド塩基のストリングが遮られてオリゴヌクレオチド合成およびPCR増幅が容易になる。最適な翻訳開始部位がコザックの規則に
従って組み入れられている(Kozak,1991,J.Biol.Chem.266;19867−19870)。およびHindIII部位が翻訳開始部位の上流に作られている。
【0086】
重鎖および軽鎖可変領域の両方のために、最適化したコード鎖配列、および対応する非コード鎖配列を、対応する非コードオリゴヌクレオチドのおよその中間点である30〜50ヌクレオチドの大きさに切断する。すなわち各鎖について、オリゴヌクレオチドは150〜400ヌクレオチドのセグメントに広がり重複した2本鎖セットに組み立てることができる。その後、そのプールを150〜400ヌクレオチドのPCR増幅産物を産生するためのテンプレートとして用いる。典型的には、単一可変領域オリゴヌクレオチドセットを2つのプールに分割し、別々に増幅して2つの重複PCV産物を作製するだろう。これらの重複産物をPCT増幅で組み合わせ、完全な可変領域を作製する。PCR増幅において、発現ベクター構築物に容易にクローニングすることができるフラグメントを作製するための、重鎖および軽鎖定常領域の重複フラグメント(カッパ軽鎖のBbsI部位、またはガンマ重鎖であればAgeI部位を含む)を含むことも望ましい。
【0087】
次に、再構築された重鎖および軽鎖可変領域を、クローン化したプロモーター、翻訳開始、定常領域、3’非翻訳、ポリアデニル化、および転写終結配列と組み合わせて、発現ベクター構築物を作製する。重鎖および軽鎖の発現構築物を単一のベクターに挿入し、同時に、または連続して、または別々に宿主細胞にトランスフェクトし、その後融合して両方の鎖を発現する宿主細胞を形成することができる。
【0088】
ヒトIgGκの発現ベクターの構築に用いるプラスミドについて、以下に説明する。PCRで増幅したV重鎖およびVカッパ軽鎖cDNA配列を用いて完全な重鎖および軽鎖小遺伝子を再構築することができるようにプラスミドを作製した。これらのプラスミドを用いて、完全なヒトまたはキメラIgG1κまたはIgG4κ抗体を発現することができる。同様のプラスミドを、そのほかの重鎖アイソタイプの発現用、またはラムダ軽鎖を含んでなる抗体の発現用に作製することができる。
【0089】
したがって本発明の別の観点では、本発明のヒト抗−PA抗体、例えば5E8、2D5、2H4または5D5の構造的な特徴を用いて、感染防御抗原への結合のような本発明の抗体の少なくとも1つの機能的特性を保持する構造的に関連したヒト抗−PA抗体を作製する。さらに具体的には、5E8、2D5、2H4または5D5の1つ以上のCDRを、既知のヒトフレームワーク領域およびCDRと組換え的に組み合わせ、組換え的に工作されたさらなる本発明のヒト抗−PA抗体を作製することができる。
【0090】
したがって別の態様では、本発明は:
(1)ヒト重鎖フレームワーク領域およびヒト重鎖CDR(ここで少なくとも1つのヒト重鎖CDRが図1、4、6または8に示したCDRのアミノ酸配列(配列番号20、22、24、38、40、42、50、52、54、62、64および66)から選択されるアミノ酸配列を含んでなる)、および(2)ヒト軽鎖フレームワーク領域およびヒト軽鎖CDR(少なくとも1つの軽鎖CDRが図2、3、5、7または9に示したCDRのアミノ酸配列(配列番号26、28、30、32、34、36、44、46、48、56、58、60、68、70および72)から選択されたアミノ酸配列を含んでなる)、
を含んでなる抗体を調製することを含んでなる抗−PA抗体を調製する方法を提供し、ここで抗体は感染防御抗原に結合する能力を保持する。
【0091】
感染防御抗原に結合する抗体の能力は、実施例に説明する方法(たとえばELISA)など、標準結合アッセイを用いて測定することができる。
【0092】
抗体の重鎖および軽鎖CDR3ドメインが、抗原に対する抗体の結合特異性/親和性に特に重要な役割を果たしているということは当該技術分野では周知であるため、上述の本発明の組換え抗体は、5E8、2D5、2H4または5D5の重鎖および軽鎖CDR3を含んでなることが好ましい。抗体はさらに、5E8、2D5、2H4または5D5のCDR2を含んでなることができる。本発明はさらに、5E8、2D5、2H4または5D5のCDR1を含んでなることができる。本発明の抗体はさらにCDRの任意を組み合わせを含んでなることができる。
【0093】
したがって別の態様では、本発明はさらに、(1)ヒト重鎖フレームワーク領域、ヒト重鎖CDR1領域、ヒト重鎖CDR2領域、およびヒト重鎖CDR3領域(ここでヒト重鎖CDR3領域が図1、4、6または8に示す5E8、2D5、2H4または5D5の重鎖CDR3であり(配列番号20、38、50および62))、および(2)ヒト軽鎖フレームワーク領域、ヒト軽鎖CDR1領域、ヒト軽鎖CDR2領域、およびヒト軽鎖CDR3領域(ここでヒト軽鎖CDR3領域が図2、3、5、7または9に示す5E8、2D5、2H4または5D5の軽鎖CDR3であり(配列番号26、32、44、56および68))を含んでなる抗−PA抗体を提供し、ここで抗体は感染防御抗原に結合する。抗体はさらに5E8、2D5、2H4または5D5の重鎖CDR2および/または軽鎖CDR2を含んでもよい。抗体はさらに、5E8、2D5、2H4または5D5の重鎖CDR1および/または軽鎖CDR1を含んでもよい。
【0094】
本発明の抗体の上記CDR1、CDR2および/またはCDR3領域は、本明細書に開示する5E8、2D5、2H4または5D5のアミノ酸配列と厳密に同一であるアミノ酸配列を含むことができる。しかし当業者は、5E8、2D5、2H4または5D5と厳密に同一であるCDR配列からいくらかの相異は、感染防御抗原への抗体の効果的な結合能力が維持されていれば可能であることを理解するだろう。したがって別の態様では、本発明の抗体は5E8、2D5、2H4または5D5の1つ以上のCDRと例えば95%、98%または99.5%同一である1もしくは複数のCDRを含むことができる。
ヒトモノクローナル抗体の感染防御抗原への結合の特性決定
本発明のヒトモノクローナル抗−PA抗体の結合を特徴づけるために、免疫感作したマウスから採取した血清を例えばELISAなどによって試験することができる。ELISAプロトコルの一般的な(しかしこれに限定されない)例では、マイクロタイタープレートを20μg/mlの精製した感染防御抗原のPBS溶液でコートし、次いで5%ウシ血清アルブミンのPBS溶液でブロックする。抗−PA抗原を含有する血漿の希釈物を各ウエルに加え、37℃で1〜2時間インキュベートする。プレートをPBS/Tweenで洗浄し、次いでアルカリホスファターゼに結合したヤギ抗ヒトIgG Fc特異性ポリクロナール試薬とともに、37℃で1時間インキュベートする。プレートを洗浄後、pNPP基質(1mg/ml)で発色し、OD405−650で解析する。好ましくは、最高の力価を生じるマウスを融合に使用するであろう。
【0095】
上記のELISAアッセイを使用して、PA免疫原で陽性反応を示すハイブリドーマをスクリーニングすることもできる。感染防御抗原に高アビディティで結合するハイブリドーマをサブクローンし、さらに特性決定する。親細胞の反応性(ELISAによる)を維持する各ハイブリドーマから得たクローンを、−140℃で保存した5〜10バイアル細胞バンクを作製するため、および抗体を精製するために選択することができる。
【0096】
ヒト抗−PA抗体を精製するために、選択したハイブリドーマを2リットルのスピナーフラスコで成長させてモノクローナル抗体を精製することができる。上清を濾過し、濃縮してからプロテインAセファロース(ファルマシア社(Pharmacia)、ニュージャージー州ピスカタウェイ)のアフィニティクロマトグラフィにかけることができる。溶出したIgGは、ゲル電気泳動でチェックし、高性能液体クロマトグラフィで純度を確認
することができる。バッファー溶液をPBSに交換することができ、濃度を吸光係数1.43を用いてOD280によって測定することができる。モノクローナル抗体をアリコートに分割して、−80℃で保存することができる。
【0097】
選択したヒト抗−PAモノクローナル抗体が固有のエピトープに結合するかどうかを決定するために、市販の試薬(ピアス社(Pierce)、ロックフォード、イリノイ州)を使用して各抗体をビオチン化することができる。非標識のモノクローナル抗体およびビオチン化したモノクローナル抗体を用いた競合研究を、感染防御抗原でコートしたELISAプレートを用いて上記の通り行うことができる。ビオチン化MAb結合は、ストレップ−アビジン−アルカリホスファターゼプローブを用いて検出することができる。
【0098】
精製した抗体のアイソタイプを決定するために、アイソタイプELISAを行うことができる。例えばマイクロタイタープレートのウェルを10μg/mlの抗ヒトIgで、4℃で一晩かけてコートすることができる。5% BSAでブロックした後、プレートを10μg/mlのモノクローナル抗体または精製アイソタイプ対照と、室温で2時間反応させる。次いでウェルをヒトIgG1またはヒトIgM特異性アルカリホスファターゼ結合プローブと反応させることができる。プレートを発色させ、上記の通り解析する。
【0099】
抗−PAヒトIgGは、さらに感染防御抗原との反応性をウエスタンブロッティングにより試験することもできる。例えばPAをドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけることができる。電気泳動後、分離した抗原をニトロセルロース膜に移し、20%マウス血清でブロックし、試験するモノクローナル抗体でプローブする。ヒトIgG結合は、抗ヒトIgGアルカリホスファターゼを用いて検出し、BCIP/NBT基質錠(シグマケミカル社(Sigma Chemical)、セントルイス、ミズーリ州)で発色させることができる。
II.ヒトモノクローナル抗−PA抗体を生産するトランスジェニック非ヒト動物の作出
さらに別の観点では、本発明は感染防御抗原に特異的に結合するヒトモノクローナル抗体を発現することができる、トランスジェニックまたはトランスクロモゾーマル(trnschromosomal)マウスのようなトランスジェニックおよびトランスクロモゾーマル非ヒト動物を提供する。特定の態様では、本発明はマウスが炭疽の感染防御抗原および/または感染防御抗原を発現する細胞で免疫感作された時に、ヒト抗−PA抗体を生産するように、ヒト重鎖導入遺伝子を含んでなるゲノムを有するトランスジェニックまたはトランスクロモゾーマルマウスを提供する。ヒト重鎖導入遺伝子は、トランスジェニック、例えばHuMAb Mouse(商標)の場合のように、本明細書に詳細に記載し、そして例示するようにマウスの染色体DNAに組み込まれることができる。あるいはヒト重鎖導入遺伝子は、国際公開第02/43478号パンフレットに記載されているように、トランスクロモゾーマル(例えばKM−Mouse(商標))の場合のように、染色体外に維持され得る。そのようなトランスジェニックおよびトランスクロモゾーマル動物は、V−D−J組換えおよびアイソタイプスイッチングを経て、感染防御抗原に対するヒトモノクローナル抗体の複数のアイソタイプ(例えばIgG、IgA、および/またはIgE)を生産することができる。イソタイプスイッチングは、例えば古典的または非古典的アイソタイプスイッチングにより生じることができる。
【0100】
異種抗体レパートリによる外来性の抗原刺激に応答するトランスジェニックまたはトランスクロモゾーマル非ヒト動物の設計には、異種免疫グロブリン導入遺伝子が、B細胞の発達の経路全体を通してトランスジェニック動物の機能に正しく収容される必要がある。これは例えば異種重鎖導入遺伝子のアイソタイプスイッチングを含む。したがって導入遺伝子は、アイソタイプスイッチング、ならびに(1)高レベルで細胞型に特異的な発現、(2)機能的遺伝子再構成、(3)対立遺伝子排除の活性化およびそれに対する応答、(4)十分な一次レパートリの発現、(5)シグナル伝達、(6)体細胞超突然変異、およ
び(7)免疫応答中の導入遺伝子抗体座の支配、のうちの1つ以上を生じるように構築する。
【0101】
上記の要件すべてを満たす必要はない。例えばトランスジェニック動物の内因性免疫グロブリン座が機能的に破壊されている態様では、導入遺伝子は対立遺伝子排除を活性化する必要はない。さらに、導入遺伝子が機能的に再構成された重鎖および/または軽鎖免疫グロブリン遺伝子を含む態様では、機能的遺伝子の再構成の2番目の要件は、少なくともすでに再構成されている導入遺伝子の場合には不必要である。分子免疫学の背景については、引用により本明細書に編入する免疫学の基礎(Fundamental Immunology)、第2班、(1989)、Paul William E.,編集、ラベン出版(Raven Press)、ニューヨークを参照のこと。
【0102】
特定の態様では、本発明のヒトモノクローナル抗体を生産するために用いることができるトランスジェニックまたはトランスクロモゾーマル非ヒト動物は、トランスジェニック動物の生殖系列に再構成された、再構成されてない異種の免疫グロブリン重鎖および軽鎖導入遺伝子、またはそれらの組み合わせを含む。重鎖導入遺伝子はそれぞれ、少なくとも1つのC遺伝子を含む。さらに重鎖導入遺伝子は機能的アイソタイプスイッチ配列を含んでもよく、その配列はトランスジェニック動物のB細胞の中にある複数のC遺伝子をコードする異種導入遺伝子のアイソタイプスイッチングを支持することができる。そのようなスイッチ配列は、導入遺伝子C遺伝子の供給源となる種に由来する生殖系列免疫グロブリン座の中に天然に存在する配列であることができ、またはそのようなスイッチ配列は導入遺伝子構築物(トランスジェニック動物)を受け取る種の中に生じる配列に由来してもよい。例えばトランスジェニックマウスを作製するために用いるヒト導入遺伝子構築物は、マウス重鎖座に天然に存在するスイッチ配列と同様の配列が組み込まれている場合、アイソタイプスイッチング発生頻度が高くなることがある。これは恐らくマウススイッチ配列がマウススイッチリコンビナーゼ酵素系とともに機能するために最適化されているのに対し、ヒトスイッチ配列はそうではないからであろう。スイッチ配列は単離して従来のクローニング方法でクローン化してもよく、または免疫グロブリンスイッチ領域配列に関連する公開配列情報をもとに設計された重複合成オリゴヌクレオチドから、デノボ合成してもよい(Mills et al.,Nucl.Acids Res.15:7305−7316(1991);Sideras et al.,Intl.Immunol. 1:631−642 (1989))。前期の各トランスジェニック動物について、機能的に再構成された異種重鎖および軽鎖免疫グロブリン導入遺伝子は、かなりの割合のトランスジェニック動物のB細胞に見い出される(少なくとも10%)。
【0103】
本発明のヒトモノクローナル抗体を生産するために使用するトランスジェニック非ヒト動物を作出するために使用する導入遺伝子には、少なくとも1つの可変遺伝子セグメント、1つの多様性遺伝子セグメント、1つの結合遺伝子セグメント、および少なくとも1つの定常領域遺伝子セグメントをコードするDNAを含んでなる重鎖導入遺伝子が含まれる。免疫グロブリン軽鎖導入遺伝子は、少なくとも1つの可変遺伝子セグメント、1つの結合遺伝子セグメント、および少なくとも1つの定常領域遺伝子セグメントをコードするDNAを含んでなる。軽鎖および重鎖遺伝子セグメントをコードする遺伝子セグメントは、トランスジェニック非ヒト動物から構成されていない種に由来する免疫グロブリン重鎖および軽鎖の遺伝子セグメントをコードするDNAに由来するか、またはそれに相当する点でトランスジェニックヒト動物に対して異種性である。本発明のある1つの観点では、導入遺伝子は、個々の遺伝子セグメントが非再構成であるように、すなわち機能的免疫グロブリン軽鎖または重鎖をコードするように再構成されることがないように構築される。そのような非再構成の導入遺伝子はV、D、およびJ遺伝子セグメントの組換え(機能的再構成)を支持し、そして好ましくは、D領域遺伝子セグメントの全体または部分を、感染防御抗原に暴露された場合にトランスジェニック動物の中で得られる再構成免疫グロブリ
ン重鎖に組み込むことを支持する。
【0104】
あるいは別の態様では、導入遺伝子は非再構成の「小座位(mini−locus)」を含んでなる。そのような導入遺伝子は典型的には、C、D、およびJセグメントの実質的な部分ならびにV遺伝子セグメントのサブセットを含んでなる。そのような導入遺伝子構築物の場合、例えばプロモーター、エンハンサー、クラススイッチ領域、RNAプロセッシングのためのスプライスドナーおよびスプライスアクセプター配列、組換えシグナルなどの種々の調節配列は、異種DNAに由来する対応する配列を含んでなる。そのような調節配列は本発明で使用する非ヒト動物と同じ種、またはそれに関連する種に由来する導入遺伝子に組み込まれることができる。例えばヒト免疫グロブリン遺伝子セグメントは、トランスジェニックマウスに用いるための齧歯類免疫グロブリンエンハンサー配列を有する導入遺伝子と組み合わせることができる。代替的には、合成した調節配列を導入遺伝子に組み込むこともでき、ここでそのような合成した調節配列は、哺乳動物のゲノムに天然に存在することが知られている機能的DNA配列と相同ではない。合成した調節配列は、例えばスプライスアクセプター部位またはプロモーター/エンハンサーモチーフの許容され得る配列を特定するなどのコンセンサスルールにしたがって設計する。例えば小座位は、天然に存在する生殖系列のIg座と比較して、非必須DNA部分(たとえば介入配列、イントロンまたはその部分)の少なくとも1つの内部(すなわちその部分の終端においてではない)欠損を有するゲノム免疫グロブリン座の部分を含んでなる。
【0105】
本発明の好適な態様では、感染防御抗原に対するヒト抗体を生成するために用いるトランスジェニックまたはトランスクロモゾーマル動物は、国際公開第98/24884パンフレットの実施例5、6、8、もしくは14に記載の軽鎖導入遺伝子の単一のコピーを含有する動物、および国際公開第98/24884パンフレットの実施例10に記載のJを欠失した動物と交配させたその仔と交配させた国際公開第98/24884パンフレット実施例12に記載の導入遺伝子の、少なくとも1つ、典型的には2〜10個、そして時には25〜50個以上のコピーを含む。動物はこれら3つの形質のそれぞれについてホモ接合性になるように交配する。そのような動物は以下の遺伝子型を有する:ヒト重鎖非再構成小座(国際公開第98/24884号パンフレットの実施例12に記載)の単一のコピー(染色体のハプロイド1組あたり)、編成したヒトK軽鎖構築物(国際公開第98/24884号パンフレットにの実施例14に記載)の単一のコピー(染色体のハプロイド1組あたり)、および機能的Jセグメント(国際公開第98/24884パンフレットにの実施例10に記載)のすべてを除去する内因性マウス重鎖座のそれぞれにおける欠失、。そのような動物は、Jセグメントの欠失(国際公開第98/24884号パンフレットにの実施例10に記載)についてホモ接合性のマウスと配合して、J欠失についてホモ接合性であり、ヒト重鎖および軽鎖構築物についてはヘミ接合性である仔を生む。得られた動物に抗原を注射し、そしてこれらの抗原に対するヒトモノクローナル抗体生産のために使用する。
【0106】
そのような動物から単離したB細胞は、それらが各遺伝子の単一のコピーしか含まないので、ヒト重鎖および軽鎖に関して単一特異的である。さらにそれらは内因性マウス重鎖遺伝子のコピーが両方とも、国際公開第98/24884号パンフレットの実施例9および12に記載の通り導入されたJ領域全体にわたる欠失のために非機能的であるので、ヒトまたはマウス重鎖に関して単一特異的であろう。さらに再構成ヒトκ軽鎖遺伝子の単一コピーの発現が、かなりの割合のB細胞における内因性マウスκおよびラムダ鎖遺伝子の再構成を、対立遺伝子的およびアイソタイプ的に排除するので、実質的割合のB細胞はヒトまたはマウス軽鎖に関して単一特異的であろう。
【0107】
好適なトランスジェニックおよびトランスクロモゾーマル非ヒト動物、例えばマウスは、重要なレパートリー、理想的には天然のマウスのレパートリに実質的に類似のレパート
リの免疫グロブリンの生産を現すだろう。したがって例えば内因性Ig遺伝子が不活化されている態様では、総免疫グロブリンレベルが血清中約0.1〜10mg/mlであり、好ましくは0.5〜5mg/mlであり、理想的には少なくとも約1.0mg/mlである。IgMからIgGへのスイッチを行うことができる導入遺伝子がトランスジェニックマウスに導入された場合、成熟マウスにおける血清IgG対IgMの比は、好ましくは約10:1である。IgG対IgMの比は、未成熟マウスにおいてははるかに小さいだろう。一般に、約10%超、好ましくは40〜80%の脾およびリンパ節B細胞は、ヒトIgGタンパク質のみを発現する。
【0108】
このレパートリは理想的には天然のマウスに見られるレパートリである、通常は少なくとも約10%もの、好ましくは25〜50%以上に近いだろう。一般に、主にマウスゲノムに導入された異なるV、JおよびD領域の数によって、少なくとも約1000種類、好ましくは10〜10種類以上の異なる免疫グロブリン(理想的にはIgG)が生産される。これらの免疫グロブリンは典型的には、例えばスタフィロコッカス プロテインAなどの高度に抗原性のタンパク質の約半分以上を認識するだろう。一般に免疫グロブリンは、10−8M、10−9Mまたは10−10Mさらにそれ以下のようなも約10−7M未満のあらかじめ選択した抗原に対する親和性(K)を現す。幾つかの態様では、予め定めたレパートリーを有する非ヒト動物を作出して、予め定めた抗原のタイプに応答して抗体に表れるV遺伝子の選択を制限することが好ましい。予め定めたレパートリーを有する重鎖導入遺伝子は、例えばヒトにおいて予め定めた抗原タイプに対する抗体応答に優先的に用いられるヒトVH遺伝子を含んでもよい。あるいはV遺伝子の中には、様々な理由(例えば予め定めた抗原にについて高度な親和性V領域をコードする可能性が低いか、体細胞突然変異および親和性シャープニングを経る傾向が低いか、または特定のヒトに免疫原性である、など)から、所定のレパートリから排除されてもよい。このように各種重鎖または軽鎖遺伝子セグメントを含む導入遺伝子の再構成の前に、そのような遺伝子セグメントは、例えばハイブリダイゼーションまたはDNAシークエンシングにより、トランスジェニック動物以外の生物種に由来することを容易に同定することもできる。
【0109】
上記のトランスジェニックおよびトランスクロモゾーマル非ヒト動物、例えばマウスは、例えば精製された感染防御抗原もしくはその組換え調製物および/または感染防御抗原を発現する細胞で免疫感作することができる。あるいはトランスジェニック動物は、ヒト感染防御抗原をコードするDNAで免疫感作することができる。次いで動物は導入遺伝子内スイッチ組換え(cisスイッチング)によってクラススイッチを起こすB細胞を生産し、感染防御抗原と反応する免疫グロブリンを発現する。この免疫グロブリンはヒト配列でることができ(「ヒト配列抗体」とも呼ばれる)、ここで重鎖および軽鎖ポリペプチドはヒト導入遺伝子配列によってコードされ、この配列には体細胞突然変異およびV領域組換え結合ならびに生殖系列コード配列によって誘導された配列を含んでよく、これらのヒト抗体はたとえ他の非生殖系列配列が体細胞突然変異および特異な(differential)なV−JおよびV−J−D組換え結合の結果として存在していても、ヒトVまたはV遺伝子セグメントおよびヒトJまたはDおよびJセグメントによってコードされるポリペプチド配列と実質的に同一であるといってよい。各抗体配列の鎖の可変領域は一般に、少なくとも80%がヒト生殖系列V、J、および重鎖の場合はD遺伝子セグメントによってコードされており、高頻度で可変領域の少なくとも85%が導入遺伝子上に存在するヒト生殖系列配列によってコードされており、しばしば可変領域配列の90または95%以上が導入遺伝子上にて存在するヒト生殖系列配列によってコードされている。しかし、非生殖系列配列は体細胞突然変異ならびにVJおよびVDJ結合によって導入されているため、ヒト配列抗体は、マウスの生殖系列中のヒト導入遺伝子(1もしくは複数)に見られるようなヒトV、D、またはJ遺伝子セグメントによってコードされていない可変領域配列のいくつかを高頻度に有するだろう(そして定常領域配列の場合は頻度が低い)。典型的には、そのような非生殖系列配列(または個々のヌクレオチドの位置)は
CDR内もしくは近傍、または体細胞突然変異がクラスターを形成することが知られている領域中においてクラスターを形成するだろう。
【0110】
予め定めた抗原に結合するヒト配列抗体はアイソタイプスイッチングから生じることができるので、ヒト配列γ鎖(γ1、γ2a、γ2Bまたはγ3のような)およびヒト配列軽鎖(カッパのような)を含んでなるヒト抗体を生産する。そのようなアイソタイプスイッチされたヒト配列抗体は、特に2次(または後続)抗原の刺激の後に、抗原によるB細胞の親和性の成熟および選択の結果、典型的には可変領域において、およびしばしばCDRの約10残基中またはそれ以内において、1もしくは複数の体細胞突然変異を含むことが多い。これら高親和性ヒト配列抗体は、10−8M、10−9Mもしくは10−10M未満、またはそれ以下のような10−7M未満の結合親和性(K)を有することがある。
【0111】
本発明の別の観点は、本明細書に記載するようなトランスジェニックまたはトランスクロモゾーマル非ヒト動物に由来するB細胞を含む。B細胞は高親和性(例えば10−7M未満)で感染防御抗原に結合するヒトモノクローナル抗体を発現するハイブリドーマを作出するために用いることができる。したがって本発明の別の態様では、被検体として組換えヒト感染防御抗原を、そしてヒト感染防御抗原に結合するリガンドとして抗体を使用して、BIACORE3000装置で表面プラスモン共鳴(SPR)技術により測定した時、10−8M、10−9Mもしくは10−10M未満、またはそれ以下のような10−7M未満の親和性(K)を有するヒト抗体を生産するハイブリドーマを提供し、ここで抗体が:
(1)ヒトV遺伝子セグメントおよびヒトJセグメントによりコードされるポリペプチド配列と実質的に同一のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、および(2)ヒトC遺伝子セグメントによりコードされるポリペプチド配列と実質的に同一のポリペプチド配列を有する軽鎖定常領域、からなるヒト配列軽鎖;ならびに
(1)ヒトV遺伝子セグメント、場合によりそのD領域、およびヒトJセグメントによりコードされるポリペプチド配列と実質的に同一のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、および(2)ヒトC遺伝子セグメントによりコードされるポリペプチド配列と実質的に同一のポリペプチド配列を有する定常領域、からなるヒト配列重鎖、
を含んでなる。
【0112】
感染防御抗原に対する高親和性ヒトモノクローナル抗体の生成は、組み込まれたヒト免疫グロブリン導入遺伝子を含んでなるゲノムを有するトランスジェニック非ヒト動物のヒト可変領域遺伝子セグメントのレパートリーを拡大する方法により実施可能となり、この方法は該組み込まれたヒト免疫グロブリン導入遺伝子中に存在しないV領域遺伝子セグメントを含んでなるV領域遺伝子セグメントを含んでなるV遺伝子導入遺伝子をゲノムに導入する工程を含んでなる。しばしばV領域導入遺伝子は、ヒトゲノムに天然に存在するかもしれず、または組換え法によって別々に共にスプライスされているかもしれず、異常または除外V遺伝子セグメントを含むかもしれない、ヒトVまたはV(V)遺伝子セグメントアレイの一部分を含んでなる酵母人工染色体である。少なくとも5つ以上の機能的V遺伝子セグメントがYAC上に含まれていることが多い。この変形の場合、Vレパートリー拡大方法によりトランスジェニック動物を作出することが可能であり、ここで動物はV領域導入遺伝子上に存在するV領域遺伝子セグメントおよびヒトIg導入遺伝子上にコードされているC領域によりコードされる可変領域配列を含んでなる免疫グロブリン鎖を発現する。Vレパートリー拡大方法により、少なくとも5つの別個のV遺伝子を有するトランスジェニック動物を作出することができ、同様に少なくとも約24個以上のV遺伝子を含む動物を作出することもできる。いくつかのV遺伝子セグメントは、非機能的(たとえば偽遺伝子など)であってよく、これらのセグメントは、所望により当業者が実行できる組換え方法によって、維持または選択的に削除することもできる。
【0113】
いったんマウスの生殖系列を、拡大Vセグメントレパートリーを有する機能的YACを含み、JおよびC遺伝子セグメントを含むヒトIg導入遺伝子に実質的に存在しないように操作すると、その形質が増殖し、そして拡大したVセグメントレパートリーを有する機能的YACを異なるヒトIg導入遺伝子を有する非ヒト動物生殖系列に組み込むなどのバックグラウンドを含め、その他の遺伝的バックグラウンドに組み込むことができる。拡大したVセグメントレパートリーを有する複数の機能的YACを、ヒトIg導入遺伝子(または複数のヒトIg導入遺伝子)とともに働かせるために、生殖系列に組み込んでもよい。本明細書ではYAC導入遺伝子と呼んでいるが、そのような遺伝子はゲノムに組み込まれると、酵母菌の自律複製に必要な配列のような酵母配列を実質的に失うことがあり、そのような配列は場合により、酵母菌の複製の必要がもはや無くなった後(すなわち、マウスES細胞またはマウスプロ接合体への導入前)に遺伝子工学(たとえば制限消化、およびパルスフィールドゲル電気泳動、またはその他の適切な方法)によって除去することができる。ヒト配列免疫グロブリン発現の形質の拡大方法には、ヒトIg導入遺伝子(1もしくは複数)を有する、および場合により拡大したVセグメントレパートリーを有する機能的YACも有するトランスジェニックマウスの交配を含む。VおよびV遺伝子セグメントの両方がYAC上に存在してもよい。トランスジェニック動物は、ヒトIg導入遺伝子および/またはその他のヒトリンパ球タンパク質をコードする導入遺伝子を含め、その他のヒト導入遺伝子を有するバックグラウンドを含む、実施者が望むいずれのバックグラウンドと交配してもよい。本発明はまた、拡大したV領域レパートリーのYAC導入遺伝子を有するトランスジェニックマウスにより生産された高親和性ヒト配列免疫グロブリンも提供する。前述の記載は本発明のトランスジェニック動物の好ましい態様を説明しているが、4つのカテゴリーに分類したその他の態様も意図する:
I.再構成していない重鎖および再構成した軽鎖免疫グロブリン導入遺伝子と含むトランスジェニック動物;
II.再構成していない重鎖および再構成していない軽鎖免疫グロブリン導入遺伝子を含むトランスジェニック動物;
III.再構成した重鎖および再構成していない軽鎖免疫グロブリン導入遺伝子を含むトランスジェニック動物;ならびに
IV.再構成した重鎖および再構成した軽鎖免疫グロブリン導入遺伝子を含むトランスジェニック動物。
【0114】
トランスジェニック動物のこれらのカテゴリーのうち、内因性軽鎖遺伝子(または少なくともK遺伝子)が相同な組換え(またはそのほかの方法)によってノックアウトされている場合の好ましい選好順序はII>I>III>IVであり、そして内因性軽鎖遺伝子がノックアウトされず、そして対立遺伝子排除によって支配されなければならない場合にはI>II>III>IVである。
III.感染防御抗原に結合する二重特異性/多重特異性分子
本発明のさらに別の実施態様では、感染防御抗原に対するヒトモノクローナル抗体、またはその抗原結合部分は、誘導体化されるか、たとえば別のペプチドまたはタンパク質(たとえばFab’フラグメント)などの別の機能的な分子へ結合し、複数の結合部位または標的エピトープに結合する二重特異性または多重特異性分子を生じる。例えば本発明の抗体または抗原結合部分は、別の抗体、抗体断片、ペプチドまたは結合模倣物のような1もしくは複数の別の結合分子に機能的に結合することができる(たとえば化学カップリング、遺伝子融合、または非共有会合などにより)。
【0115】
したがって本発明には、感染防御抗原への少なくとも1つの第1の結合特異性、および第2の標的エピトープに関する第2の結合特異性を含んでなる二重特異性および多重特異性分子を含む。
【0116】
1つの態様では、本発明の二重特異性および多重特異性分子は、結合特異性として少なくとも1つの抗体または例えばFab、Fab’、F(ab’)、Fvもしくは1本鎖Fvを含む抗体のフラグメントを含む。また抗体は軽鎖もしくは重鎖の二量体、またはその引用により内容を本明細書に編入する1990年8月7日に発効されたLadner et al.米国特許第4,946,778明細書に記載のFvまたは1本鎖作製物のような、その任意の最小フラグメントであってもよい。
【0117】
ヒトモノクローナル抗体が好ましいが、本発明の二重特異性または多重特異性分子に用いることができる他の抗体は、マウス、キメラ、およびヒト化モノクローナル抗体である。
【0118】
キメラマウス−ヒトモノクローナル抗体(すなわちキメラ抗体)は、当該技術分野で既知の組換えDNA技術によって生産することができる。例えばマウス(またはその他の種の)モノクローナル抗体分子のFc定常領域をコードする遺伝子を制限酵素で切断し、マウスFcをコードする領域を除去し、そしてヒトFc定常領域をコードする遺伝子の等価の部分に置換する(Robinson et al.国際特許第PCT/US86/02269号パンフレット;Akira, et al.,欧州特許出願公開第184,187号明細書;Taniguchi,M.,欧州特許出願公開第171,496号明細書;Morrison et al.,欧州特許出願公開第173,494号明細書:Neuberger et al.,国際公開第86/01533号パンフレット;Cabilly et al.米国特許第4,816,567号明細書;Cabilly et al.,欧州特許出願公開第125,023号明細書;Better et al.(1988 Science 240:1041−1043);Liu et al.(1987)PNAS 84:3439−3443;Liu et al.,1987,Canc.Res.47:999−1005;Wood et al.(1985) Nature 314:446−449;およびShaw et al.,1988,J.Natl
Cancer Inst.80:1553−1559参照を参照にされたい)。
【0119】
キメラ抗体は、さらにヒトFv可変領域と等価の配列に結合する抗原に直接関与しないFv可変領域の配列に交換することによってヒト化することができる。ヒト化キメラ抗体の一般的な総説は、Morrison,S.L.,1985,Science 229:1202−1207およびOi et al.,1986,BioTechniques
4:214に提供されている。それらの方法には少なくとも1つの重鎖または軽鎖に由来する免疫グロブリンFv可変領域の全体または一部をコードする核酸配列を分離、操作、および発現する工程を含む。そのような核酸の供給源は当業者に周知であり、例えば抗GPIIIII抗体生産ハイブリドーマである7E3から得ることもできる。次にキメラ抗体またはそのフラグメントをコードする組換えDNAを、適切な発現ベクターにクローン化することができる。あるいは適切なヒト化抗体をCDR置換によって生成することもできる。米国特許第5,225,539号明細書、Jones et al.1986 Nature 321:552−525;Verhoeyan et al.1988 Science 239:1534、およびBeidler et al.1988
J. Immunol.141:4053−4060。
【0120】
特定のヒト抗体のCDRすべてを、非ヒトCDRの少なくとも一部分と交換してもよく、またはCDRの幾つかだけを非ヒトCDRと交換してもよい。ただしCDRは、ヒト化抗体をFc受容体に結合させるのに必要な数だけ交換する必要がある。
【0121】
抗体は、ヒト抗体のCDRの少なくとも一部分を非ヒト抗体に由来するCDRと交換することができる、任意の方法によってもヒト化することができる。Winterは、本発明のヒト化抗体を調製するために使用できる方法を記載し(1987年3月26日に出願
された英国特許出願第2188638A号明細書)、その内容は引用することにより本明細書に編入する。ヒトCDRは、ヒト単核食細胞に関する免疫グロブリンGのFc受容体に対するヒト化抗体(Humanized Antibodies to Fc Receptors for Immunoglobulin G on Human Mononuclear Phagocytes)という表題の国際公開第94/10332号パンフレットに記載のとおり、オリゴヌクレオチド位置指定突然変異誘発を用いて非ヒトCDRと交換することができる。
【0122】
特定のアミノ酸が置換、欠失、または付加されているキメラまたはヒト化抗体も本発明の範囲内である。特に好ましいヒト化抗体は、抗原への結合性が向上するように、フレームワーク領域においてアミノ酸が置換されている。例えばマウスCDRを有するヒト化抗体では、ヒトフレームワーク領域に位置するアミノ酸をマウス抗体の対応する位置にあるアミノ酸と交換することができる。このような置換は場合により、ヒト化抗体の抗原への結合性を向上する場合があるということが知られている。アミノ酸を付加、欠失、または置換した抗体を、本願明細書では改変体抗体または改変抗体と呼ぶ。
【0123】
改変体抗体という用語は、抗体の部分を欠失、付加、または置換するなどによって改変体されたモノクローナル抗体、キメラ抗体およびヒト化抗体のような抗体も含むことを意図する。例えば抗体は定常領域を欠失させ、たとえば血清半減期などの半減期、抗体の安定性または親和性を増加させるために定常領域と交換することによって、抗体を改変体することができる。どのような改変体も、二重特異性および多重特異性分子がFcγRに特異的な少なくとも1つの抗原結合領域を有し、そして少なくとも1つのエフェクター機能を誘導する限り、本発明の範囲内である。
【0124】
本発明の二重特異性および多重特異性分子は、化学的な技術(例えばD.M.Kranz et al.(1981) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:5807参照)、「ポリドーマ」技術(Readingへの米国特許第4,474,893号明細書)、または組換えDNA技術を用いて作製することができる。
【0125】
特に本発明の二重特異性および多重特異性分子は、当該技術分野で既知の方法および本明細書に提供する実施例に記載の方法を使用して、構成要素の結合特異性、例えば抗−FcRおよび抗−PA結合特異性を結合(conjugate)させることによって調製することができる。例えば二重特異性および多重特異性分子の各結合特異性を別々に作り出し、次いで互いに結合させることができる。結合特異性がタンパク質またはペプチドである場合、様々なカップリング剤または架橋剤を使用して共有結合を作り出すことができる。架橋剤の例にはプロテインA、カルボジイミド、N−スクシンイミジル−S−アセチル−チオアセテート(SATA)、5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)、o−フェニレンジマレイミド(oPDM)、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)およびスルホスクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロハキサン−1−カルボキシレート(スルホ−SMCC)が含まれる(例えばKarpovsky et al.(1984)J.Exp.Med.160:1686;Liu,MA et al.(1985) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:8648))。その他の方法には、Paulus(Behring Ins.Mitt.(1985) No.78,118−132);Brennan et al.(Science(1985)229:81−83)、およびGlennie et al.(J. Immunol.(1987)139:2367−2375)により記載された方法が含まれる。好ましい結合剤は、SATAおよびスルホ−SMCCで、どちらもピアスケミカル社(ロックフォード、イリノイ州)から入手することができる。
【0126】
結合特異性が抗体(例えば2つのヒト化抗体)である場合、それらは2つの重鎖のC末端ヒンジ領域のスルフィド結合を介して結合させることができる。特に好ましい態様では、ヒンジ領域を、奇数の、好ましくは1つのスルフィド残基を結合前に含むように改変体する。
【0127】
あるいは両方の結合特異性とも、同じベクターにコードされ、そして同じ宿主細胞に発現させ、そして組み立てることができる。この方法は、二重特異性および多重特異性分子がMAb x MAb、MAb x Fab、Fab x F(ab’)またはリガンドx Fab 融合タンパク質である場合に特に有用である。本発明の二重特異性および多重特異性分子、例えば二重特異性分子は、1本鎖二重特異性抗体、1つの1本鎖抗体および結合決定基を含む1本鎖二重特異性分子、または2つの結合決定基を含む1本鎖二重特異性分子のような1本鎖分子であることができる。また二重特異性および多重特異性分子は、1本鎖分子であってもよく、または少なくとも2つの1本鎖分子を含んでなるものでもよい。二重および多重特異性分子の調製方法は、たとえば米国特許第5,260,203号;同第5,455,030号;同第4,881,175号;同第5,132,405号、同第 5,091,513号;同第5,476,786号;同第5,013,653号、同第5,258,498号;および同第5,482,858号明細書に記載されている。
【0128】
二重特異性および多重特異性分子の特異的標的への結合は、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、FACS法、生物検定法(たとえば毒素中和アッセイ)、またはウエスタンブロットアッセイにより確認することができる。一般にこれらの各アッセイは目的の複合体に特異的な標識した試薬(たとえば抗体)を用いて、目的のタンパク質−抗体複合体の存在を検出する。例えばFcR抗体複合体は、例えば抗体−FcR複合体を認識し、そして特異的に結合する酵素結合抗体または抗体フラグメントを用いて検出することができる。あるいは複合体は様々な他のイムノアッセイのいずれかを使用して検出することができる。例えば抗体を放射標識し、そしてラジオイムノアッセイ(RIA)に用いることができる(例えば引用により本明細書に編入するWeintraub,B.,ラジオイムノアッセイの原理(Principles of Radioimmunoassays)、第7回、ラジオリガンドアッセイ技術に関するトレーニングコース(Seventh Training Course on Radioligand Assay Techniques)、内分泌学会(The Endocrine Society)、1986年3月を参照にされたい)。放射性同位体は、γカウンターもしくはシンチレーションカウンターなどの使用により、またはオートラジオグラフィーにより検出することができる。
V.製薬学的組成物
別の観点では、本発明は例えば製薬学的に許容され得る担体とともに配合したヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分(1もしくは複数)を単独で、または組み合わせて含有する製薬学的組成物などの組成物を提供する。すなわち1つの態様では、組成物には本発明の複数(たとえば2つ以上)の単離されたヒト抗−PA抗体または抗原結合部分の組み合わせを含む。好ましくは組成物の抗体またはその抗原結合部分のそれぞれは、感染防御抗原の予め選択された別のエピトープに結合する。
【0129】
本明細書で使用する「薬学的に許容され得る担体」には、ありとあらゆる溶媒、懸濁媒質、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤、ならびに生理学的に適合するものが含まれる。好ましくは担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄または皮内投与(例えば注射または注入による)に適する。投与経路に依存して、活性化合物、すなわち抗体、二重特異性および多重特異性分子は、酸および化合物を不活化する可能性がある他の自然条件の作用から化合物を保護するための物質でコーティングしてもよい。
【0130】
「薬学的に許容され得る塩」は、元の化合物の望ましい生物学的活性を保持し、そして望ましくない毒物学的作用はない塩を指す(例えばBerge,S.M.,et al.(1977)J.Pharm.Sci.66:1−19を参照されたい)。そのような塩の例には、酸付加塩および塩基付加塩がある。酸付加塩には、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸などの無毒性無機酸、リンなどから、ならびに脂肪族系モノカルボン酸およびジカルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、芳香族酸、脂肪族および芳香族スルホン酸等の無毒性有機酸から誘導される塩を含む。塩基付加塩には、ナトリウム、カリウム、マグネシウムおよびカルシウムなどのアルカリ土類金属から、ならびにN,N’−ジベンジルエチレンジアミン、N−メチルグルカミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、およびプロカイン等の無毒性有機アミンから誘導される塩を含む。
【0131】
本発明の組成物は、当該技術分野で既知の種々の方法により投与することができる。当業者に理解されるとおり、投与経路および/または様式は、望まれる結果によって変動する。活性化合物は、インプラント、経皮パッチおよびマイクロカプセル封入送達システムを含む放出制御製剤のような急速な放出から化合物を保護する担体とともに調製することができる。酢酸ビニルエチレン、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸のような生分解性の生物適合性ポリマーを使用することができる。そのような製剤の調製方法の多くは特許が認可されているか、または当該技術分野で一般的に知られている。例えば徐放性および放出制御薬剤送達システム(Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems)、J.R. Robinson、編集、マルセルデッカー社(Marcel Dekker,Inc.)、ニューヨーク、1978を参照されたい。
【0132】
本発明の化合物を特定の投与経路で投与するために、不活性化を防止する物質で化合物をコートするかまたは化合物と併用投与する必要があるかもしれない。例えば化合物は、例えばリポソームまたは希釈剤などの適切な担体に入れて個体に投与することができる。製薬学的に許容され得る希釈剤には、塩水および緩衝化水溶液が含まれる。リポソームには、水中油中水型CGFエマルションならびに従来のリポソームが含まれる(Strejan et al.(1984)J.Neuroimmunol.7:27)。
【0133】
製薬学的に許容され得る担体には、滅菌水溶液または分散液、および滅菌注射用溶液または分散液の即時調合用滅菌粉末が含まれる。製薬学的に活性な物質用のそのような媒質および薬剤は、当該技術分野では既知である。従来の溶媒または薬剤が活性化合物と適合性がない場合を除き、本発明の製薬学的組成物にそれらを使用することが企意される。補助的な活性化合物もまた、前記組成物に組み込むことができる。
【0134】
一般に治療用組成物は、滅菌されており製造および保存条件下で安定でなければならない。組成物は溶液、マイクロエマルション、リポソームまたは高薬物濃度に適切なその他の指示通りの(ordered)構造物として調剤することができる。担体は例えば水、エタノール、ポリオール(たとえばグリセロール、プロピレングリコール、および液状ポリエチレングリコール等)、およびそれらの適切な混合物を含む溶媒または分散媒質であっることができる。例えばレシチンなどのコーティング剤の使用により、分散液の場合は必要な粒子サイズの維持により、そして表面活性剤の使用により適切な流動性を維持することができる。多くの場合、例えば糖、マンニトールなどのポリアルコール、ソルビトール、または塩化ナトリウムなどの等張剤が組成物に含まれることが好ましいだろう。注射用組成物は、例えばモノステアリン酸塩およびゼラチンなどの吸収遅延剤を前記組成物に含むことによって、吸収を持続させることができる。
【0135】
滅菌注射用溶液は、必要に応じて上記の成分1つまたは組み合わせを含む適切な溶媒中に活性化合物必要量で包含し、続いて滅菌マイクロ濾過を行うことにより調製できる。一般に、分散液は活性化合物を、塩基性分散媒質および上記の成分からの必要な他の成分を含む滅菌賦形剤に包含することにより調製する。滅菌注射用溶液の調製用滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は真空乾燥および凍結乾燥であり、この方法により活性成分に予め滅菌濾過したその溶液から得たさらなる望ましい成分を加えた粉末を得る。
【0136】
投与計画は最適な望ましい応答(たとえば治療応答)が得られるように調整する。例えば、単回のボーラス投与でもよく、時間をかけて数回に分割して投与してもよく、または治療状況の緊急度により示されるように投与量を漸減もしくは漸増させてもよい。非経口組成物を、投与の容易さおよび投与量の均一化のために単位剤形に配合することが特に有利である。本明細書で使用する単位剤形とは、処置する個体への単回投与量として適する物理的に別れた単位を意味し、各単位には、望ましい治療効果を得るために計算した予め定めた量の活性化合物を必要な製薬学的担体と併せて含有する。本発明の単位剤形の詳細は、(a)活性化合物の固有の特性および達成すべき特定の治療効果、ならびに(b)個人の処置の感受性に対して、そのような活性化合物を製剤する技術に固有の限界にて支配され、そしてこれらに直接依存する。
【0137】
製薬学的に許容され得る抗酸化剤の例には(1)アスコルビン酸、塩酸システイン、二硫酸ナトリウム、メタ二硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等の水溶性抗酸化剤;(2)パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル,アルファトコフェロール等の油溶性抗酸化剤;および(3)クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(ETDA)、ソルビトール、酒石酸、およびリン酸等の金属キレート剤を含む。
【0138】
治療用組成物には、本発明の製剤は経口、経鼻、局所(口腔内および舌下を含む)、直腸、経膣、および/または非経口投与に適したものを含む。製剤は都合の良く単位剤形であることができ、製薬業の分野で既知のいずれの方法で調製してもよい。担体物質と混合して単回投与剤形を形成することができる活性成分の量は、処置する個体および投与の特定の様式によって変動するだろう。担体物質と合わせて単回投与剤形を製造することができる活性成分の量は、一般に組成物が治療効果を生じる量である。一般に100%のうち、この量は活性成分が約0.01%〜約99%の範囲内であり、好ましくは約0.1%〜約70%であり、最も好ましくは約1%〜約30%である。
【0139】
膣投与に適切な本発明の製剤には、当該技術分野で適切であることが知られているような担体を含むペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォームまたはスプレー製剤も含まれる。本発明の組成物の局所または経皮投与のための剤形には、粉末、スプレー、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチおよび吸入剤が含まれる。活性化合物は滅菌条件下で製薬学的に許容され得る担体、および必要であれば保存剤、緩衝剤または推進剤と混合することができる。
【0140】
本明細書で使用する「非経口投与」および「非経口的に投与する」という句は、経腸および局所投与ではない投与形態であり、通常、注射による投与形態を意味し、限定するわけではないが静脈内、筋肉内、動脈内、クモ膜下内、関節包内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、気管穿刺、皮下、皮内、関節内、皮膜下、クモ膜下、脊髄内、硬膜外および胸骨内注射ならびに注入を含む。
【0141】
本発明の製薬学的組成物に使用することができる適切な水性および非水性担体の例には、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)およびそれらの適切な混合物、オリーブ油などの植物油、オレイン酸エチル
などの注射用有機エステルが含まれる。適切な流動性は、例えばレシチンなどのコーティング材料の使用により、分散液の場合には必要な粒子サイズの維持により、および表面活性剤の使用により維持することができる。
【0142】
これらの組成物はまた、保存剤、湿潤剤、乳化剤および懸濁剤などの補助剤を含んでもよい。微生物の存在の防止は、上述の滅菌手順および例えばパラベン、クロロブタノール、およびソルビン酸フェノール等の各種抗菌剤および抗真菌剤の含有によって、確実に防止することもできる。また糖、塩化ナトリウム等の等張剤を組成物に含むことが望ましい場合もある。さらに、注射用の製薬学的剤形の長期吸収は、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収遅延剤を包含することによりもたらされ得る。
【0143】
本発明の化合物がヒトおよび動物に医薬品として投与される場合、それらは単独で、または例えば0.01%〜99.5%(さらに好ましくは0.1〜90%)の有効成分を製薬学的に許容され得る担体と組み合わせて含有する製薬学的組成物として投与することができる。
【0144】
選択した投与経路にかかわらず、適切に水和した形態で使用され得る本発明の化合物および/または本発明の製薬学的組成物は、当該技術分野で既知の従来の方法により、製薬学的に許容される剤形に製剤される。
【0145】
本発明の製薬学的組成物中の有効成分の実際の投薬用量レベルは、患者に対して毒性とならずに特定の患者に対して望ましい治療応答、組成物および投与様式が達成されるために効果的な有効成分の量が得られるように変動させてもよい。選択された投薬用量レベルは、本発明で使用する特定の組成物またはそのエステル、塩もしくはアミドの活性、投与経路、投与時間、使用する特定の化合物の排出速度、処置期間、使用する特定の組成物と組み合わせて使用する他の薬物、化合物および/または物質の、処置する患者の年齢、性別、体重、状態、健康状態、および既往歴等の医学業界で周知の同様の因子を含む、種々の薬物動態学的因子に依存するだろう。
【0146】
当該技術分野の通常の技術を有する医師または獣医師は、必要な製薬学的組成物の有効量を容易に決定し処方することができる。例えば医師または獣医師は、望ましい治療効果を達成するために必要な薬学的組成物中の本発明の化合物の用量を必要量よりも少量から開始し、望ましい効果が達成されるまで投与量を漸増することができる。一般に本発明の組成物の適切な一日用量は、治療効果を生じるために有効な最低用量である化合物の量であろう。そのような有効用量は、一般に上記の因子に依存する。
【0147】
任意の非経口投与様式が本発明で使用するために適している。投与は静脈内、筋肉内、腹腔内、または皮下であることが好ましく、好ましくは標的部位に最も近い部分に投与する。望ましい場合には、治療用組成物の有効な一日用量を2回、3回、4回、5回、6回またはそれ以上に分けて、一日のうちに適切な間隔を置き、場合により単位投与剤形にして投与してもよい。本発明の化合物を単独で投与することも可能だが、化合物を製薬学的製剤(組成物)として投与することが好ましい。
【0148】
治療用組成物は当該技術分野で知られる医療デバイスで投与することができる。例えば好適な態様では、本発明の治療用組成物は米国特許第5,399,163号、同第5,383,851号、同第5,312,335号、同第5,064,413号、同第4,941,880号、同第4,790,824号または同第4,596,556号明細書に開示されるデバイスのような無針皮下注射器で投与することができる。本発明に有用な周知のインプラントおよびモジュールの例には、制御された速度で医薬品を分配するための埋込可能なマイクロ注入ポンプを開示する米国特許第4,487,603号明細書;皮膚を通
して医薬品を投与するための治療用デバイスを開示する米国特許第4,486,194号明細書;正確な注入速度で医薬品を送達するための医薬品注入ポンプを開示する米国特許第4,447,233号明細書;連続薬物送達のための可変フロー埋込可能注入装置を開示する米国特許第4,447,224号明細書;マルチチャンバー区画を有する浸透圧薬物送達システムを開示する米国特許第4,439,196号明細書;浸透圧薬物送達システムを開示する米国特許第4,475,196号明細書が含まれる。これらの特許は引用により本明細書に編入する。このようなインプラント、送達システムおよびモジュールは、他にも数多く当該技術分野で知られている。
【0149】
特定の態様では、本発明のヒトモノクローナル抗体は、インビボて適切に分布するように調製することができる。例えば血液脳関門(BBB)は多くの高度に疎水性の化合物を通過させない。本発明の治療用化合物を確実にBBBを通過させるために(望ましい場合に)、例えばリポソーム内などに配合することができる。リポソームの作製方法は、例えば米国特許第4,522,811号、同第5,374,548号および同第5,399,331号明細書を参照にされたい。リポソームは特異的細胞または臓器へ効果的に輸送される1もしくは複数の部分を含んでなることができ、すなわち標的化された薬剤の送達を強化する(例えばV.V.Ranade(1989)J.Clin.Pharmacol.29:685参照)。例示的なターゲッティング部分には、葉酸またはビオチン(例えばLow et al.への米国特許第5,416,016号明細書を参照にされたい);マンノシド(Umezawa et al.,(1988) Biochem.Biophys.Res.Commun.153:1038);抗体(P.G.Bloeman
et al.(1995)FEBS Lett.357:140;M.Owais et al.(1995)Antimicrob.Agents Chemother.39:180);界面活性プロテインA受容体(Briscoe et al.(1995) Am.J.Physiol.1233:134)、本発明の製剤を含んでもよい異なる種、ならびに本発明の分子の成分;p120(Schreier et al.(1994)J.Biol.Chem.269:9090)を含む。K.Keinanen;M.L.Laukkanen(1994)FEBS Lett.346:123;J.J.Killion;I.J. Fidler(1994)Immunomethods 4:273も参照のこと。本発明の1つの態様では、本発明の治療用化合物をリポソーム中に調製し、さらに好ましい態様では、リポソームはターゲッティング部分を含む。最も好ましい態様では、リポソーム中の治療用化合物は、所望する領域、例えば炎症または感染部位に最も近い部位にボーラス注射することにより送達される。組成物は注射器に入れやすいようにある程度流動的でなければならない。組成物は製造および保存状況下において安定でなければならず、そして細菌および真菌などの微生物の夾雑物の活動が防止されなければならない。
【0150】
本発明の抗体の用量に関連して、「治療に有効な」とは、炭疽感染に伴う症状を少なくとも約20%、好ましくは少なくとも約40%、さらに好ましくは少なくとも約60%、さらに一層好ましくは少なくとも約80%まで減少させ、そして最も好ましくは未処置個体に比べて完全に減少させる抗体の量を意味する。好ましくは治療に有効な量の本発明の抗体は、炭疽に暴露された個体の死を防止するために十分な量である。炭疽感染に伴う死の防止を含む兆候および/または症状を減少するための本発明の抗体の能力は、ヒトの炭疽感染の処置において抗体の効力を予測する動物モデルシステムにおいて評価することができる。そのようなモデルの例は、以下の実施例6〜8に記載し、これは動物が炭疽に感染し、次いで本発明を抗体で処置されるウサギの実験を提供する。
【0151】
あるいは本発明の抗体の治療に有効な量は、当該技術分野で周知であり、そしてこれまでに記載したような毒素中和アッセイでインビトロにて炭疽毒素を中和する抗体の能力を調査することにより評価することができる。当業者は、個体のサイズ、兆候および/また
は個体の症状の重篤度、および選択した特定の組成物もしくは投与経路などの因子に基づいて、このような量を決定することができる。
【0152】
治療的用途の本発明の抗体を含有する組成物は、滅菌されており、そして注射器により送達できる程度に流動性がなければならない。担体は水に加えて等張緩衝食塩水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコールおよび液状ポリエチレングリコール等)、およびそれらの適切な混合物であることができる。例えばレシチンのようなコーティング剤の使用により、分散液の場合には必要な粒子サイズの維持により、および表面活性剤の使用により、適切な流動性を維持することができる。多くの場合、例えば糖、マンニトールもしくはソルビトールなどのポリアルコール、および塩化ナトリウムを組成物に含むことが好ましい。注射用組成物の長期吸収は、例えばモノステアリン酸アルミニウムまたはゼラチンなどの吸収遅延剤を組成物に含むことによりもたらすことができる。
【0153】
活性化合物が上記のように適切に保護される場合、化合物は例えば不活性希釈剤または吸収性の食用担体とともに経口投与してもよい。
VI.本発明の用途および方法
本発明の抗体、抗体組成物および方法には、炭疽感染の診断、防止および処置が関与するインビトロおよびインビボでの診断用および治療用の多数の用途がある。例えばこれらの抗体は炭疽感染を処置および/または防止するためにヒト個体に投与することができる。加えて、個体の炭疽感染を診断するために、血液または組織サンプルを個体から採取し、そしてサンプル中の炭疽PAの検出が可能となる条件下で本発明の抗体と接触させることができる。本明細書で使用する「個体」という用語は、ヒトおよび非ヒト動物を含むことを意図する。
【0154】
特定の態様では、抗体(例えばヒト抗体、多重特異性および二重特異性分子および組成物)は、炭疽感染をインビボで処置し、防止し、または診断するために使用される。1つの予防的用途では、個体は炭疽に暴露され、したがって炭疽による感染を防止するために、本発明のヒト抗体で予防的な暴露前の処置を受けることができる。別の予防的用途において、炭疽に暴露されたことが分かっているが、疾患の兆候または症状を現さない個体は、炭疽疾患の進行に伴う病状を防ぐために暴露後の処置を受けることができる。治療的処置では、炭疽に暴露された個体は感染し、そして疾患の兆候および/または症状を現している。本発明の抗体は炭疽の予防的設定および治療的処置の両方で使用することができる。
【0155】
例えば本発明のヒト抗体、抗体組成物および方法は、炭疽菌(B.anthracis)に感染し(または感染したと疑われている)、かつ/または炭疽感染の兆候および/または症状を現す個体を処置するために使用することができる。炭疽に感染したか、または感染した可能性がある個体の兆候および/または症状は測定可能である。例えば兆候には低pO(血中酸素)、高体温(体温測定)、肺検査での外因性の音(adventitious sound)、低血圧(またはショックの他の兆候)、胸部X線での広がった縦隔(例えば肺に排出したリンパ節の溶解による)、あるいは典型的に制御されていない肺炭疽感染および毒素放出に伴うことが知られている他の兆候を含むことができ;症状には呼吸の短さ、咳、悪寒、熱っぽさ、虚弱、深呼吸に伴う疼痛、または肺炭疽に一般的に伴う他の症状を含むことができる。皮膚炭疽は拡大し、そして侵食する(1〜2日)そう痒および小水疱から始まり、後に中央の黒い焼痂を形成する壊死潰瘍を残す。胃腸炭疽は、糜爛した喉の咽頭損傷、嚥下困難が際立つ首の膨張および局部的リンパ節症を生じるか、または熱、重度の腹痛、大量の腹水、吐血および下血を特徴する腸感染を生じる可能性がある。どのような状態の炭疽でも、出血性の髄膜炎が1次部位から生物の血流の広がりで生じる可能性がある。
【0156】
1つの態様では、本発明の抗体(例えばヒトモノクローナル抗体、多重特異性および二重特異性分子および組成物)は、生物学的サンプル中(例えば炭疽感染個体に由来する血液中)の感染防御抗原をレベルを検出するために使用することができ、このレベルを特定の病状と関連させることができる。これは当該技術分野で既知の通常の検出アッセイを使用して、例えば抗体と感染防御抗原との間に複合体を形成することができる条件下で、サンプルおよび対照サンプルを抗−PA抗体と接触させることにより行うことができる。抗体と感染防御抗原との間に形成されたいずれの複合体も検出し、そしてサンプルと対照間を比較する。
【0157】
別の態様では、本発明の抗体(例えばヒト抗体、多重特異性および二重特異性分子および組成物)は、最初にインビトロでの治療または診断的用途に関係する結合活性について試験することができる。例えば本発明の組成物は、以下の実施例に記載するELISAおよびフローサイトメトリーアッセイを使用して試験することができる。
【0158】
本発明の抗体(例えばヒト抗体、多重特異性および二重特異性分子および組成物)は、炭疽の治療および診断においてさらなる用途を有する。例えばヒトモノクローナル抗体、多重特異性または二重特異性分子は、インビボまたはインビトロで1もしくは複数の以下の生物学的活性を誘導するために使用することができる:(1)炭疽毒素の細胞への侵入またはトランスロケーションの防止;(2)感染防御抗原の、ATRを発現する細胞上のATRへの結合の防止;(3)PA83からPA63への分解の阻害;(4)PA7量体の形成の防止;(5)毒素(浮腫因子または致死因子)の7量体への結合の遮断または減少;(6)毒素が細胞に生理学的な傷害を引き起こすことができないように、致死因子または浮腫因子の中和;および/または(7)毒素の致死効果に対して細胞のその他の保護。
【0159】
インビボおよびインビトロで、本発明の抗体組成物(例えばヒトモノクローナル抗体、多重特異性および二重特異性分子および免疫複合体)の適切な投与経路は当該技術分野では周知であり、そして当業者により選択され得る。例えば抗体組成物は上記のように注射(例えば静脈内または皮下)により投与することができる。使用する分子の適当な投薬用量は、個体の年齢および体重、ならびに抗体組成物の濃度および/または配合に依存する。(i)処置(すなわち炭疽に感染し、そして臨床的兆候および/または症状を示している)、(ii)予防的処置(例えば好中球減少症のような炭疽の臨床的発現、炭疽に暴露されたと疑われる患者、または炭疽に感染したが臨床的兆候または症状を示さない患者の臨床的兆候および/または臨床的症状の防止)、あるいは(iii)予防(例えば炭疽による暴露もしくは感染前の疾患の予防、抗生物質に対してアレルギー性の個体、または炭疽が抗生物質耐性の場合、またはワクチン効力のために18カ月以上の摂取する場合のワクチン療法と組み合わせて)が必要な患者に投与するための、炭疽感染に対する本発明の治療に有効な用量の抗体には、0.1mg/kg〜100mg/kgの投薬用量を含む。特定の態様では、当業者は0.3mg/kg〜50mg/kg、または約1mg/kg〜12mg/kg投与することができる。投薬用量は、炭疽による感染が存在していしなくても、炭疽疾患の兆候もしくは症状が存在してもしなくても、そして投与が予防のためであってもなくても、とりわけ患者の健康に依存する。当業者は本発明を抗体の投薬用量がこれらの因子により変更され得ると考えるだろう。
【0160】
したがって以下の投薬計画は、限定と解釈すべきではない。例えば患者が炭疽に感染していると診断され、そして炭疽感染の兆候を現しているならば、患者の生命を救うために実質的に高い用量、例えば少なくとも約25mg/kgまたは50mg/kgまたはさらに100mg/kgを投与することができる。あるいは感染したと考えられるが、兆候もしくは症状を現していない患者は、比較的低い投薬用量、例えば12〜15mg/kg未
満、またはさらに1〜3mg/kgから利益を得ることができる。したがって炭疽ワクチンを受けている患者では、ワクチンから患者自身の抗体の適切な血漿レベルになる前に、炭疽感染に対して即時の防御を提供するために治療用抗体を提供することが望ましく、熟練者は例えば12〜50mg/kgの即時投薬用量範囲を使用することができる。
【0161】
本発明のヒト抗−PA抗体は、1もしくは複数の治療薬または免疫刺激薬と併用投与され得る。抗体はその薬剤の前、後もしくは併用投与されることができ、あるいは炭疽ワクチン、LF、EF、PAに対する抗体、および炭疽菌(B.anthracis)抗生物質、例えばシプロフロキサシン、ドキシサイクリン、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、テトラサイクリン、リファンピンおよびバンコマイシンを含む他の既知の治療薬と併用投与することができる。
【0162】
特定の態様では、本発明はサンプル中の感染防御抗原の存在を検出する方法、または感染防御抗原の量を測定する方法を提供し、この方法には抗体またはその部分と感染防御抗原との間に複合体が形成できる条件下で、サンプルおよび対照サンプルを、本発明のヒトモノクローナル抗体または感染防御抗原に特異的に結合するその抗原結合部分と接触させることを含んでなる。その後、複合体の形成を検出し、ここで対照サンプルに比べてサンプルの複合体形成間の差異が、サンプル中の感染防御抗原の存在の指標となる。
【0163】
また本発明の範囲内には、本発明の抗体組成物(例えばヒト抗体および免疫複合体)および使用説明書を含んでなるキットがある。このキットはさらに1もしくは複数の上記の追加の診断用、治療用または免疫刺激剤を含むことができる。
【0164】
本発明をさらに限定するとは解釈されない以下の実施例によりさらに具体的に説明する。
【0165】
また本発明は処置法に有用となる特性を有する新規抗体を同定するスクリーニング法も提供する。処置法に特に有用である抗体は、上記および以下の実施例での中和活性を有することに加えて、1もしくは複数の以下の特性を有する抗体を含む;中和活性のためにFc受容体に結合する(例えば2.4G2のようなFc受容体ブロッキング抗体の使用、または活性において少なくとも5倍、より好ましくは10倍低下したTNAにおけるFab’もしくScFvの使用により測定した時);PA83よりもPA63に高い親和性を現し(例えば1μg/ml抗体を使用して標準的ELISAにより測定した時)、1μg/mlでPA83には結合せず、標準的ELISAに従いOD405nmが0.2以下であり、Little et al.,1996,Microbiology 142:707−715に記載されている競合結合アッセイに従い炭疽致死因子/浮腫因子を遮断せず、あるいはPA63への結合において、マウスIG3、マウス2D5およびマウス14B7から選択される抗−PA抗体とは競合しない(例えば標準的ELISA競合アッセイにより測定した時)。これらの多くまたはすべての特性を有する抗体は、インビボでの使用に望ましい。特に有用な抗体は、PA63に対する結合において、マウス14B7から選択される抗−PA抗体と競合せず(Little et al.,1996,Microbiology 142:707−715を参照にされたい)、すなわちATRへのPA結合を遮断する抗体であり、これはインビボ治療に望ましい。
【0166】
本発明の特定のスクリーニング法では、抗体は(1)最初に毒素中和アッセイで炭疽毒素を中和する1もしくは複数の抗体を選択し、そして(2)次いでTNAで0.1μg/ml以下のED50を有する抗体を選択する、ことに基づき選択される。この方法では、抗原−抗体結合親和性アッセイ(例えばELISA)はTNA工程の前には使用されない。これはスクリーニングの第1および主要方法として抗原−抗体結合親和性アッセイに依存する従来技術で通常使用される方法とは対照的である。そのような工程を含むことによ
り、他に優れた毒素中和活性を示すHuMAb 5E8のような多くの抗体が、さらなる開発から除外される。本発明者は、PAに対する結合親和性が有用な基準ではないことを見いだし、故に本発明の選択法から省略する。記載する特性を有する抗体を得るために、上記の2つの工程に加えてさらなる選択工程を実施することができる。
【実施例】
【0167】
実施例1:完全なヒト抗体を発現するトランスジェニック動物の作出
I.トランスジェニック(Cmu標的)マウスの作出
CMDターゲッティングベクターの構築
プラスミドpICEmuは、Balb/Cゲノムラムダファージライブラリから得た、mu遺伝子全般に広がるマウスIg重鎖座位のEcoRI/XhoIフラグメントを含有する(Marcu et al.Cell 22:187,1980)。このゲノムフラグメントをプラスミドpICEMI9HのXhoI/EcoRI部位にサブクローニングした(Marsh et al;Gene 32,481−485,1984)。pICEmuに含まれる重鎖配列は、muイントロンエンハンサーの3’側にちょうど位置するEcoRI部位の下流から、mu遺伝子の最後の膜貫通エキソンの約1kb下流に位置するXhoI部位まで及ぶが、muスイッチ反復領域のほとんどが大腸菌(E.coli)の継代によりすでに消えた。
【0168】
ターゲッティングベクターは、以下の通り構築した。1.3kb HindIII/SmaIフラグメントをpICEmuから切り出し、HindIII/SmaI消化pBluescript(ストラタジーン社(Stratagene)、ラジョラ、カリフォルニア州)にサブクローニングした。このpICEmuフラグメントは、Cmu1の5’側から約1kbのところに位置するHindIII部位からCmu1内に位置するSmaI部位まで及ぶ。得られたプラスミドは、SmaI/SpeIで消化し、そしてCmu1 3’側にあるSmaI部位から最後のCmuエキソンのちょうど下流に位置するXbaI部位まで及ぶpICEmuから得た約4kbのSmaI/XbaI断片を挿入した。得られたプラスミドpTAR1をSmaI部位で直線化し、neo発現カセットを挿入した。このカセットは、マウスホスホグリセレートキナーゼ(pgk)プロモーターの転写制御下にあるneo遺伝子からなり(XbaI/TaqIフラグメント;Adra et al.(1987) Gene 60:65−74)、そしてpgkポリアデニル化部位を含む(PvuII/HindIIIフラグメント;Boer et al.(1990)
Biochemical Genetics 28:299−308)。このカセットはプラスミドpKJ1から得たもので(Tybulewicz et al.(1991) Cell 65:1153−1163に記載)、ここからneoカセットをEcoRI/HindIIIフラグメントとして切り出し、そしてEcoRI/HindIII消化pGEM−7Zf(+)にサブクローニングしてpGEM−7(KJ1)を生成した。neoカセットは、EcoRI/SalI消化によりpGEM−7(KJ1)から切り出し、末端を平滑化し、そしてゲノムCmu配列とは反対側に位置するプラスミドpTAR1のSmaI部位にサブクローニングした。得られたプラスミドをNotIで直線化し、そして単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)カセットを挿入して、Mansour et al.(1988) Nature 336:348−352に記載されるように相同性組換え体を有するESクローンを濃縮した。このカセットは、Tybulewicz et al.(1991) Cell 65:1153−1163に記載されているように、マウスpgkプロモーターおよびポリアデニル化部位によって囲まれたtk遺伝子のコード配列からなる。得られたCMD標的ベクターは、重鎖座位と相同な合計約5.3kbを含み、そして突然変異mu遺伝子を生成するように設計されており、この遺伝子に、第1のCmuエキソンの固有のSmaI部位にあるneo発現カセットを挿入した。ターゲッティングベクターをPvuIで直線化し、これをプラスミド配列内で切断した後、ES細胞に電気穿孔した。
標的ES細胞の作製および分析
AB−1 ES 細胞(McMahon,A.P.and Bradley,A.,(1990) Cell 62:1073−1085)は、基本的に(Robertson,E.J.(1987) in Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells:a Practical Approach(E.J.Robertson,ed.)オックスフォード:IRL出版、p.71−112)に記載の分裂不活性SNL76/7 支持細胞層(ibid.)上で増殖させた。直線化したCDMターゲッティングベクターをHasty et al.(Hasty,P.R. et al.(1991) Nature 350:243−246)が記載した方法によってAB−1細胞に電気穿孔で挿入した。電気穿孔した細胞を、100mmの皿に1〜2x10細胞/皿の濃度で播種した。24時間後、G418(活性成分の200μg/ml)およびFIAU(5x10−7M)を培地に加え、そして8〜9日間かけて薬物耐性クローンを成長させた。クローンを収集し、トリプシン処理して2分割し、そしてさらに増殖させた。その後、各クローンに由来する細胞の半分を冷凍し、そしてもう半分をベクターと標的配列との間の相同組換えについて分析した。
【0169】
DNA解析はサザンブロットハイブリダイゼーションにより行った。DNAはLaird et al.(Laird,P.W.et al.,(1991) Nucleic
Acids Res.19:4293)が記載した通り、クローンから単離した。単離したゲノムDNAをSpeIで消化し、そして915bpのSacIフラグメント、プローブA(図1参照)でプローブしてmuイントロンエンハンサーとmuスイッチ領域との間の配列とハイブリダイズした。プローブAは、野生種座位から得た9.9kbのSpeIフラグメント、およびCMDターゲッティングベクターと相同に組換わったmu座位から得た診断用7.6 kbバンドを検出する(neo発現カセットはSpeI部位を含む)。サザンブロット分析でスクリーニングした1132 G418およびFIAU耐性クローンのうち、3つがmu座位での相同組換えを示唆する7.6kbのSpeIバンドを示した。これら3つのクローンをさらにBglI、BstXIおよびEcoRI酵素で消化して、ベクターがmu遺伝子に相同性を導入したことを確認した。プローブAでハイブリダイズした場合、BglI、BstXIおよびEcoRIで切断した野生型DNAのサザンブロットは、それぞれ15.7、7.3および12.5 kbのフラグメントを生成し、その一方で、標的mu対立遺伝子の存在は7.7、6.6、および14.3 kbの断片により示唆される。SpeI消化により検出された3つの陽性クローンはすべて、neoカセットがCmu1エキソンに挿入されたことを示す、予想どおりのBglI、BstXIおよびEcoRI制限フラグメントを示した。
突然変異したmu遺伝子を有するマウスの作出
264、272および408番と命名した3つの標的ESクローンを解凍し、そしてBradley(Bradley,A.(1987)in Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells: a Practical
Approach)オックスフォード:IRL出版、p.113−151)に記載の通りC57BL/6J胚盤胞に注入した。注入した胚盤胞を偽妊娠したメスの子宮に移し、挿入したES細胞に由来する細胞および宿主胚盤胞の混合物を提示するキメラマウスを作出した。ES細胞のキメラへの寄与の程度は、黒色C57BL/6J背景に対するES細胞株由来のアグーチコート呈色の量によって視覚的に見積もることができる。クローン272および408はキメラの発生率が低かった(すなわちアグーチ色素沈着の割合が低かった)が、クローン264のオスキメラの発生率は高かった。これらのキメラをC57BL/6Jメスと交配し、そしてES細胞ゲノムの生殖系列の伝達を示すアグーチの仔を作出した。標的mu遺伝子のスクリーニングは、尾部の生検で採取したBglI消化DNAのサザンブロット分析によって行った(ES細胞DNAの分析について上記の通り)。約50%のアグーチ仔が、ハイブリダイズしている7.7kbのBglIバンドとともに15.7kbの野生型バンドを示し、標的mu遺伝子の生殖系列伝達を示した。
mu遺伝子の機能的不活化のためのトランスジェニックマウスの分析
Cum1へのneoカセットの挿入がIg重鎖遺伝子を不活化したかどうかを調べるために、クローン264キメラを、JH遺伝子セグメントの欠失を生じる重鎖の発現が不活化されるJHD突然変異についてホモ接合性のマウスと交配させた(Chen et al,(1993) Immunol.5:647−656)。4匹のアグーチ仔が生まれた。1ヶ月齢のこれらの動物から血清を採取し、そしてELISAでマウスIgMの存在についてアッセイした。4匹の仔のうち2匹はIgMが完全に欠損していた(表1を参照されたい)。尾部生検で採取したDNAを、BglIで消化し、そしてプローブAとハイブリダイゼーションしたもの(図1の参照されたい)、およびStuIで消化し、そして475bpのEcoRI/StuIフラグメント(同上)でハイブリダイゼーションしたものを、サザンブロットで分析して4匹の仔マウスの遺伝子型を特定したところ、血清IgMを発現できない動物は、重鎖座位の1つの対立遺伝子がJHD突然変異を有し、もう1つの対立遺伝子がCmu1突然変異を有する動物であることが証明された。JHD突然変異についてヘテロ接合のマウスは、野生型の血清Igレベルを示す。これらのデータは、Cmu1突然変異がmu遺伝子の発現を不活化することを示す。
【0170】
【表1】

【0171】
表1は、CMD及びJHD突然変異を両方とも有するマウス(CMD/JHD)、JHD突然変異についてヘテロ接合のマウス(+/JHD)、野生型(129Sv x C57BL/6J)F1マウス(+/+)、およびJHD突然変異についてホモ接合のB細胞欠失マウスについて、ELISAにより検出された血清IgMレベルを示す。
II. HCO12トランスジェニックマウスの作出
HCO12ヒト重導入遺伝子は、pHC2の80kb挿入物(Taylor et al.,1994,Int.Immunol.,6:579−591)、およびpVx6の25kb挿入物を同時に注入して生成した。プラスミドpVx6は以下のように構築した。
【0172】
生殖系列ヒトVH1−18(DP−14)遺伝子とともに約2.5kbの5’フランキング、および5kbの3’フランキングゲノム配列を含んでなる8.5kbのHindIII/SalI DNAフラグメントを、プラスミドベクターpSP72(プロメガ社(Promega)、マジソン、ウイスコンシン州)にサブクローニングし、プラスミドp343.7.16を生成した。生殖系列ヒトVH5−51(DP−73)遺伝子とともに約5kbの5’フランキング、および1kbの3’フランキングゲノム配列を含んでなる7kbのBamHI/HindIII DNAフラグメントを、pBR322を基礎にしたプラスミドクローニングベクターpGP1f(Taylor et al.1992,Nucleic Acids Res.20:6287−6295)にクローニングして、p251fを生成した。pGP1f、pGP1kに由来する新規のクローニングベクタ
ーをEcoRV/BamHIで消化し、そして生殖系列ヒトVH3−23(DP47)遺伝子とともに約4kbの5’フランキングおよび1kbの3’フランキングゲノム配列を含んでなる10kbのEcoRV/BamHI DNAフラグメントにライゲートした。得られたプラスミドp112.2RR.7をBamHI/SalIで消化し、そしてp251fの7kbの精製BamHI/SalI挿入物フラグメントにライゲートした。得られたプラスミドpVx4をXhoIで消化し、そしてp343.7.16の8.5kbのXhoI/SalI挿入物とライゲートした。
【0173】
H1−18遺伝子をそのほかの2つのV遺伝子と同一方向にしたクローンを得た。pVx6と命名したこのクローンをNotIで消化し、そしてHogan et al.(B.Hogan et al.,マウス胚の操作(Manipulating the Mouse Embryo)、ア ラボラトリーマニュアル(A Laboratory
Manual)、第2版、1994,コールドスプリングハーバーラボラトリー出版(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、プレインビュー、ニューヨーーク)に記載されている通り、精製した26kb挿入物をモル比1:1のpHC2の精製した80kbのNotI挿入物とともに1日半のF2胚の前核 (C57BL/6J x DBA/2J)に同時に注入した。Vx6およびHC2の両方から得た配列を含んでなるトランスジェニックマウスの3つの独立した株を、注入した胚から成長させたマウスから確立した。これらの株は(HCO12)14881、(HCO12)15083、および(HCO12)15087と命名する。この3つの各株を、実施例1に記載のCMD突然変異、JKD突然変異(Chen et al.1993,EMBO J.12:811−820)、および(KCo5)9272導入遺伝子(Fishwild et al.1996,Nature Biotechnology 14:845−851)を含んでなるマウスと交配させた。得られたマウスは、内因性マウス重鎖およびカッパ軽鎖座位の破壊についてホモ接合のバックグラウンドを持つヒト免疫グロブリン重鎖およびカッパ軽鎖導入遺伝子を発現する。
実施例2:炭疽の感染防御抗原に対する完全なヒト抗体の生産
炭疽の感染防御抗原に対するヒトモノクローナル抗体は、上記のように作出したトランスジェニックマウスで以下に記載のように生産された。
ヒト抗−PAモノクローナル抗体の生成
4つの異なる遺伝的改変体を有するトランスジェニックHuMAb Mouse(商標)、HC2/KCo7株を免疫感作に使用した。これらのトランスジェニックマウスは未編成ヒト重鎖(μおよびγ)およびκ軽鎖免疫グロブリン配列をコードするヒト免疫グロブリン遺伝子小座を、内因性μおよびκ鎖座を不活性にする標的突然変異と一緒に含む。したがってマウスはマウスIgMまたはκを発現せず、そして免疫感作に応答して、導入されたヒト重鎖および軽鎖導入遺伝子はクラススイッチングおよび体性突然変異を受けて高親和性のヒトIgGκモノクローナル抗体を生じる。
【0174】
マウスをフィルターケージに収容し、そして免疫感作、採血および融合の日に良好な健康状態であることを評価した。150μLのPBS中の15マイクログラムの組換え完全長炭疽PA83を、完全フロインドアジュバント(シグマF5881)またはMPL+TDM(RIBI)アジュバント(シグマM6536)1:1と、乳化針を使用して混合した。マウスに0.3ccの調製抗原を注射し、そして続いて14日の間隔で2〜4回、完全長PA83不完全フロインド(シグマF5506)またはRIBI(シグマM6536)を追加免疫感作したが、HuMab 5E8はPA63を用いて追加免疫感作することにより調製した。マウスでの抗体応答は、PAを使用してELISAにより監視した。感染防御抗原に対する抗−PA力価を生じた動物は、融合前72時間に、組換え感染防御抗原のi.v.注射を与えた。個々のマウスに由来する力価は1:200と1:100,000の間で変動した。マウス脾細胞を回収し、精製し、そして融合させた。
【0175】
免疫感作した動物に由来する脾細胞リンパ球の単一細胞懸濁液を、マウスミエローマ細胞株P3X63Ag8.653(アメリカンタイプカルチャーコレクション、ロックヴィル メリーランド州;ATCC CRL 1580、ロットF−15183)と、ポリエチレングリコールの存在下で融合させた。元のATCCバイアルを解凍し、そして培養で増殖させた。凍結バイアルのシードストックをこの増殖物から調製した。細胞は培養で3〜6カ月間維持し、1週間に2回継代した。P388D1(ATCC TIB−63 FL)を200mLに増殖させ、そして消耗させた。上清を遠心し、そして濾過し、そしてコンディション培地として知られている培地添加物(media addition)として使用した。この細胞株を3〜6カ月間継代し、そして新たなバイアルを解凍した。
【0176】
5%FBSおよびペニシリン−ストレパチエントマイシン(Strepatientomycin)(Cellgro#3004030)を含有する高グルコースDMEM(メディアテック(Mediatech)、Cellgro#10013245)を使用して、ミエローマおよびP388D1細胞を培養した。5%FBSおよびペニシリン−ストレパチエントマイシン(Cellgro#3004030)を含有する高グルコースDMEM(メディアテック、Cellgro#10013245)を使用して、ミエローマおよびP388D1細胞を培養した。追加の培地補給物をハリブリドーマ成長培地に加え、これには3%オリジン−ハイブリドーマクローニング因子(Origen−Hybridoma Cloning Factor)(イゲン(Igen)、36335)、10% P388D1コンディション培地(8/10/99DH)、10%FBS(ハイクローン(Hyclone)、SH30071ロット#AGH6843)、L−グルタミン(ギブコ(Gibco)#1016483)、0.1%ゲンタマイシン(ギブコ#1020070)、2−メルカプトエタノール(ギブコ#1019091)HAT(シグマ、H0262)1.0×10M ヒポキサンチン、4.0×10−7Mアミノパチエンテリン(Aminopatienterin)、1.6×10−5Mチミジン)。
【0177】
ハイブリドーマは融合から24時間後、HATの添加により選択した。ハイブリドーマは最初にヒトIgG生産体についてサンドイッチELISAによりスクリーニングした。簡単に説明すると、ハイブリドーマ上清をヤギ抗−ヒトカッパ(サザンバイオテック(Southern Biotech)、ブリミンハム、アリゾナ州)で捕捉し、次いでアルカリホスファターゼ結合ヤギ抗−ヒトIgG(ガンマ鎖特異的)(ジャクソン イムノリサーチラボラトリーズ社(Jackson ImmunoResearch Laboratories,Inc.)、ウエスト グローブ、ペンシルベニア州)と反応させた。
【0178】
次いでハイブリドーマが生産する特異的ヒトIgGを生産するハイブリドーマは、インビトロ毒素中和アッセイを使用してスクリーニングした(Little et al.,1990,Infection and Immunity 65:5171−5175;実施例3を参照にされたい)。最初にmAbは、完全長PA83を使用してELISAにより炭疽の防御抗原に対する結合について試験した。しかし良好な毒素中和活性(TNA)を示した数個のmAbは、ELISAによる結合が悪かった。これら抗体のほとんどが分解したPA63とよく反応した。この知見の結果、TNAを最初のスクリーニングとして使用し、続いてELISAを使用した特性決定を行った。このプロトコールは少なくとも4種の目的抗体、例えば5E8、2D5、2H4および5D5の単離を導いた。選択した抗−PA HuMabのVおよびV領域はハイブリドーマに由来するRNAから単離し、cDNAに逆転写し、そしてV領域をPCRにより増幅した。PCR産物を実施例4に示すようにシークエンシングした。
【0179】
次いでHuMabは以下の手順を使用してプロテインAカラムクロマトグラフィーにより精製した:(1)添加条件:上清はリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で平衡化した5mlのプロテインAカラムに乗せた;(2)洗浄:PBSバッファー;(3)溶出:15
0mM NaClを含有する0.1Mグリシン、pH2.9。溶出液を1M Trisバッファー(各2mlの画分に30ul)で中和した。各溶出画分はプールする前にゲルに流した。クマーシーブルー染色による純度を確認したら、画分をプールし、そして150mM NaClを含有する10mMリン酸ナトリウムバッファー、pH7.3に対して透析した。
実施例3A:抗−PAヒトモノクローナル抗体による致死毒素のインビトロ中和
TNA実験はLittle et al.,1990、同上に従い行った。簡単に説明すると、毒素感受性のマウスマクロファージ細胞株J774A.1は、抗−PAmAbが濃度を変えて存在するか、またはしないPAおよびLF(10:1)の混合物に暴露した。3時間のインキュベーション後、幾らかのマクロファージを生存能色素(MTT)を使用して測定した。結果(図10)は、ヒト抗−PA抗体がインビトロで致死毒素を中和する活性を示す。以下の表2は、TNAにおいてマクロファージの50%生存能(ED50)を維持するために必要な抗体の有効用量を示す。
【0180】
【表2】

【0181】
炭疽の感染防御抗原への直接結合について試験するために、ELISAプレートをPA83またはPA63でコートした。mAbサンプルを適切な希釈で加え、そして結合した抗体を抗−ヒトIgGアルカリホスファターゼ結合プローブで検出した。プレートはp−NPP基質で発色させ、そしてOD405をSoftmaxプレートリーダーで測定した。結合速度定数は、プラスモン共鳴技術を使用してBIAcore装置で決定した。
【0182】
予備的結合データでは、HuMabに関する解離定数がナノモル範囲であることが明らかとなった。結合活性の結果は(図11)、rPA−83に対して生成したヒト抗体が、感染防御抗原の完全長(83kD)および分解(63kD)形の両方に結合することが示された。HuMabである5D5、2H4および5E8は、PA83よりもPA63に対してより大きな反応性を現し、恐らくこれは抗原の分解後に結合エピトープがより露出するからであろう。
【0183】
炭疽毒素の抗体中和に必要な活性を測定するために、さらなる毒素中和アッセイを記載のようにHuMab 5E8およびマウス14B7を使用して行ったが、抗体は毒素の添加前(−30分)、毒素の添加時と同時(0分)、毒素の添加から15分後(+15分)、または毒素の添加から30分後(+30分)のいずれかに加えた(図12を参照されたい)。
【0184】
データは、HuMab 5E8が細胞が毒素に暴露された後、細胞を炭疽毒素から保護することを示す。PA83が受容体に結合することを防ぐマウス抗体とは対照的に(マウスmAb 14B7を10×高用量で使用した)、HuMab 5E8はPA83およびLFの添加後15分に加えて時でも炭疽毒素から細胞死を防ぎ続けた。これらのデータは細胞に結合したPA63に優先的に結合するHuMab 5E8が、暴露後でも炭疽毒素による死から細胞の救済に効果的となり得ることを示す。したがって、HuMab 5E8およびこれと類似の特性を有する抗体は、受容体結合を遮断する抗体よりも大きな治療的活性を有すると期待される。
実施例3B:Humab5E8によるインビトロ中和には、Fc受容体結合が必要である
毒素中和アッセイを前記のように行ったが、5E8抗体のF(ab’)フラグメントおよび完全な5E8mAbを、Fc受容体および抗体のFc相互作用を特異的に遮断する抗−マウスFcRII/IIIモノクローナル抗体2.4G2の不存在または存在下で使用した(BDバイオサイエンス(Biosciences)、ファミンゲン、サンディエゴ、カリフォルニア州)。F(ab’)フラグメントはmAb 5E8のペプシン消化、続いてプロテインAおよびプロテインLカラムクロマトグラフィーを使用したF(ab’)の精製により調製した。
【0185】
結果はHuMab 5E8が活性にFc受容体の結合を要することを示す(図13を参照にされたい)。PA63への完全な結合活を保持するが、Fc受容体と結合する能力が無い性HuMab 5E8のF(ab’)フラグメントは、マクロファージ様細胞の死を防ぐことができない。さらにFc受容体および抗体のFc相互作用を特異的に遮断する2.4G2抗体は、huMab 5E8の抗毒素活性を大きく減少させた。
実施例4:抗体のシークエンシング
4種のHuMabのVおよびV領域をハイブリドーマRNAから単離し、cDNAに逆転写し、PCRにより増幅し、そしてシークエンシングした。これらHuMabのVおよびV領域の核酸およびアミノ酸配列は以下に、そして図1−9に提供する。5E8ハイブリドーマは2つの軽鎖(V majorまたはV minor)の1つと対合する重鎖を有する抗体を生産することに注目されたい。両抗体(すなわち5E8V/V majorおよび5E8’V/V minor)は、炭疽PXに結合し、そしてTNAに従い炭疽毒素を中和することができる。
【0186】
これら抗体の重鎖を生産するヒト生殖細胞系配列は、図1−9に記するようにVH3−33およびVH3−7を含むが、軽鎖を生産するヒト生殖細胞系配列はA27、L18およびL15を含む。これらの生殖細胞系配列は当該技術分野では周知であり、そして免疫学の参考書および容易にアクセスできる無料のインターネットウェッブサイトに見いだすことができ、例えばKabat et al.,(1991)免疫学的に興味深いタンパク質の配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest)、第5版、アメリカ保健社会福祉省、NIH、NIH出版第91−3242(http://immuno.bme.nwu.eduおよびftp://ncbi.nlm.nih.gov./repository/kabat)およびhttp://www.mrc−cpe.cam.ac.uk/vbase−ok.php?menu=901で更新可能)を参照にされたい。
5E8 V核酸配列
【0187】
【表3】

【0188】
5E8 Vアミノ酸配列
【0189】
【表4】

【0190】
5E8 V(major)核酸配列
【0191】
【表5】

【0192】
5E8 V(major)アミノ酸配列
【0193】
【表6】

【0194】
5E8’V(minor)核酸配列
【0195】
【表7】

【0196】
5E8’V(minor)アミノ酸配列
【0197】
【表8】

【0198】
2D5 V核酸配列
【0199】
【表9】

【0200】
2D5 Vアミノ酸配列
【0201】
【表10】

【0202】
2D5 V核酸配列
【0203】
【表11】

【0204】
2D5 Vアミノ酸配列
【0205】
【表12】

【0206】
2H4 V核酸配列
【0207】
【表13】

【0208】
2H4 Vアミノ酸配列
【0209】
【表14】

【0210】
2H4 V核酸配列
【0211】
【表15】

【0212】
2H4 Vアミノ酸配列
【0213】
【表16】

【0214】
5D5 V核酸配列
【0215】
【表17】

【0216】
5D5 Vアミノ酸配列
【0217】
【表18】

【0218】
5D5 V核酸配列
【0219】
【表19】

【0220】
5D5 Vアミノ酸配列
【0221】
【表20】

【0222】
実施例5A:炭疽の感染防御抗原に関するHuMab 5E8結合特性を測定するためのELISAアッセイ
標準的ELISAアッセイは、感染防御抗原へのヒトモノクローナル抗体の結合特性決定の章に記載した通りに行った。プレートをPA83またはPA63のいずれかでコートし、そして結合した抗体をアルカリホスファターゼ結合ヤギ抗−ヒトIgG(Fc特異的)(ジャクソンイムノリサーチ ラボラトリーズ、ウエスト グローブ、ペンシルベニア州)を使用して検出した。ELISAの結合曲線は、完全長PA83およびPAの活性フラグメント(すなわちPA63)に対してHuMab 5E8について作成した。
【0223】
結果は、ELISAアッセイでHuMab 5E8がPA63には結合するが、PA83への測定できる結合が示されなかったことを示す(図14を参照にされたい)。したがってPA83へのELISA結合が主要なスクリーニングとして使用されれば、HuMab 5E8はさらなる展開に選択しなかった。この抗体−抗原結合親和性アッセイ法はこれまで感染防御抗原に対する抗体をスクリーニングするために使用されてきた(Little et al.,1988,Infection and Immunology、56:1807−1813)。
実施例5B:炭疽の感染防御抗原に関するHuMab 5E8結合特性を測定するためのELISAアッセイ
標準的ELISAアッセイは、感染防御抗原へのヒトモノクローナル抗体の結合特性決定の章に記載した通りに行った。ヒト抗体5E8は、マウスの各抗体14B7、2D5および1G3(Little et al.,1996,Microbiology 142:707−715)と一緒に、PA63をコートしたプレートでインキュベーションした。マウス抗体のPAへの結合は、ヤギ抗−マウスIgG(Fc特異的)アルカリホスファターゼ結合体(ジャクソンイムノリサーチ ラボラトリーズ、ウエスト グローブ、ペンシルベニア州)を使用して検出する。
【0224】
結果はいずれのマウスMAbも、HuMab 5E8のPA63への結合の結果としてPA63への結合を遮断されなかったことを示す(図15を参照にされたい)。これはこれらのマウス抗体のいずれもPA63への結合に関して5E8と直接競合しないことを示し、5E8抗体がPA63上の異なるエピトープに結合することを示唆している。
実施例6:ウサギへの静脈内および皮下投与後のヒトIgGの薬物動態学
この実施例では、ウサギを対象としたヒトモノクローナル抗体の静脈内および皮下注射後にヒトIgGの薬物動態を評価する。データはウサギを対象とした致死的肺炭疽モデルにおいて、炭疽の感染防御抗原に対するヒトモノクローナル抗体の効力を評価するための実験について、投与計画の選択を支持するために作成した。
【0225】
ヒトIgGは静脈内(2匹のウサギ)または皮下(4匹のウサギ)のいずれかに投与して、ウサギにおけるヒトモノクローナル抗体の薬物動を測定した。10mg/kgの静脈内用量を2匹のウサギに投与し、そして10mg/kgの皮下用量は4匹のウサギに投与した。Cmax(最大濃度)は静脈内および皮下投与後にそれぞれ389μg/mLおよび155μg/mLであった。静脈内注射後のTmax(最大濃度までの時間)は2時間であった。皮下投与後のTmaxは48時間であった。100μg/mLより高い血清濃度は、静脈内および皮下投与後の両方で4日後に観察され、そして20μg/mLより高いレベルが14日後に観察された。十分な血清レベルが皮下および静脈内投与後の両方で
達成され、そしていずれの投与経路も効力実験に適切である。そのような十分な血清レベルを長期間維持するために、抗体の負荷用量(loading dose)を最初に投与し、続いて低い第2用量の抗体を初期投与からおよそ4日後に投与することができる。しかし治療的モデルで皮下注射を行う場合、最大濃度までの延びた時間を考慮すべきである。実施例7A:ウサギの吸入モデルにおける炭疽菌(Bacillus antheacis)(エームズ(ames)株)の致死的エーロゾル攻撃に対するヒトモノクローナル抗体の効力および治療的処置
この実験は本発明の抗−PA抗体の効力を、ウサギの致死的肺炭疽モデルで示す。抗体5D5または5E8で処置した30匹のウサギのうち26匹が、炭疽に暴露してから14日後に生存していた。すなわち本発明の抗体は、炭疽への暴露に関して効果的な新規処置を提供する。
【0226】
4群のニュージーランドホワイトラビットは、炭疽菌(Bacillus antheacis)でエーロゾル攻撃した直後、および96時間後に2つのモノクローナル抗−PA抗体(PAmAb 5E8または5D5)の1つを投与した。エーロゾル化した胞子は、約100倍のLD50の用量で、吸入によってのみ鼻口部を介して送達された。動物は暴露後14日間、死亡率について観察された。炭疽感染に対する抗体による防御は、死亡に対して延びた時間と、または攻撃から2週間後の生存と定めた。以下の表3は実験群のウサギの数、暴露から1時間後に投与した抗体の投薬用量レベル、暴露から96時間後の投薬用量レベルおよびこの実験を生き抜いたウサギの数を含むヒトモノクローナル抗体の効力の評価を提供する。
【0227】
【表21】

【0228】
図16に示すこの実験結果は、ウサギを対象とした本発明の完全なヒト抗体の効力を証明する。対称群の動物は炭疽菌(Bacillus antheacis)への暴露から5日以内に死亡した。延びた生存時間(14日)は、mAb 5E8で処置した動物の85%で見られた。6mg/kgの5E8を受けた1匹のウサギが14日に死亡し、12mg/kgの5E8を受けた1匹のウサギが13日に死亡し、そして12mg/kgを受けた1匹のウサギが14日に死亡した。3mg/kgの5D5で処置した1匹のウサギは暴露から5日以内に死亡した。ウサギに由来する血清サンプルの薬物動態学的分析は、抗体の血漿レベルが投与から最初の24時間中に70μg/mLよりも高いことを示す。6mg/kgで処置した群の血漿レベルは、3mg/kgの追加投与前に50から117μg/mLの間に下降し、そして実験の終わりには30μg/mL未満であった。これは50μg/mLより高い抗−PA抗体の血漿レベルが、このモデルにおいてウサギを防御するために十分であることを示す。この実験では投与された最低用量が効力的であったので、より低い血漿濃度でも効果があるかもしれない。
実施例7B:ウサギの吸入モデルにおける炭疽菌(Bacillus antheacis)(エームズ(ames)株)の致死的エーロゾル攻撃に対するヒトモノクローナル抗体(5E8)の効力
この実験は、より低用量レベルの本発明の抗−PA抗体の効力を、ウサギの致死的肺炭疽モデルで示す。抗体5E8で処置した20匹のウサギのうち17匹が、炭疽に暴露して
から14日後に生存していた。すなわち本発明の抗体は、炭疽の暴露に関して効果的な処置を提供する。
【0229】
2群のニュージーランドホワイトラビットは、炭疽菌(Bacillus antheacis)でエーロゾル攻撃した直後、および96時間後にモノクローナル抗−PA抗体(PA mAb 5E8)を投与した。エーロゾル化した胞子は、約100倍のLD50の用量で、吸入によってのみ鼻口部を介して送達された。動物は暴露後14日間、死亡率について観察された。炭疽感染に対する抗体による防御は、死亡に対して延びた時間と、または攻撃から2週間後の生存と定めた。以下の表4は実験群のウサギの数、暴露から1時間後に投与した抗体の投薬用量レベル、暴露から96時間後の投薬用量レベルおよびこの実験を生き抜いたウサギの数を含むヒトモノクローナル抗体の効力の評価を提供する。
【0230】
【表22】

【0231】
図17に示すこの実験結果は、ウサギを対象とした本発明の完全なヒト抗体の効力を証明する。対称群の動物は炭疽菌(Bacillus antheacis)への暴露から5日以内に死亡した。延びた生存時間(14日)は、mAb 5E8で処置した動物の85%で見られた。1mg/kgの5E8を受けた1匹のウサギが、暴露から8日以内に死亡した。3mg/kgで処置した1匹のウサギが5日に死亡し、そして1匹は6日に死亡した。この実験での上昇した生存率は、わずか1mg/kgの用量レベルがこの動物モデルで死亡数を防止するのに効力的であることを示した。
実施例7C:ウサギの吸入モデルにおける炭疽菌(Bacillus antheacis)(エームズ(ames)株)の致死的エーロゾル攻撃に対するヒトモノクローナル抗体(5E8)の治療的処置
この実施例は、暴露の臨床的兆候がウサギの致死的肺炭疽モデルで始まった後、死亡数の防止における本発明の抗−PA抗体の効力を証明する。炭疽に暴露してから24時間後に抗体5E8で処置した10匹のウサギのうち9匹が、14日間生存した。暴露から48時間後に抗体5E8で処置した5匹のウサギのうち3匹が、14日間生存した。これらの動物は処置前に感染のかなりの兆候があった。すなわち本発明を抗体は、炭疽に対する暴露に関し効果的な処置を提供する。
【0232】
10匹のニュージーランドホワイトラビットは、炭疽菌(Bacillus antheacis)でエーロゾル攻撃してから24時間後にモノクローナル抗−PA抗体(PAmAb 5E8)を投与され、そして10匹のウサギはエーロゾル攻撃から48時間後にモノクローナル抗−PA抗体(PA mAb 5E8)を投与された。エーロゾル化した胞子は、約100倍のLD50の用量で、吸入によってのみ鼻口部を介して送達された。動物は暴露後14日間、死亡率について観察された。炭疽感染に対する抗体による防御は、死亡に対して延びた時間と、または攻撃から2週間後の生存と定めた。以下の表5は実験群のウサギの数、抗体の投薬用量レベル、炭疽攻撃に関して投与した時期、およびこの実験を生き抜いたウサギの数を含むヒトモノクローナル抗体の効力の評価を提供する。
【0233】
【表23】

【0234】
この実験結果は、ウサギを対象として炭疽の兆候を発症した後に本発明の完全なヒト抗体の効力を証明する(図18を参照にされたい)。好中球の循環レベルにおける低下(好中球の絶対数および相対的割合)は、炭疽への暴露から24時間後の対照動物の大部分で観察された。これらのパラメーターは、炭疽への暴露から24時間後に5E8で処置した動物においてもこの時点で評価し、そしてすべての動物で減少した。炭疽への暴露から48時間後にモノクローナル抗体で処置した5匹の動物の中で、4匹の動物の食欲が低下し、そして他の動物は処置前の活動が低下した。この実験では、対照群の動物が炭疽菌(Bacillus antheacis)への暴露から5日以内に死亡し、24時間で処置した9匹の動物の8匹が生存し、そして48時間で処置した症状を示す5匹の動物のうち3匹が生存した。合わせると、このデータはモノクローナル抗体が疾患の臨床的過程が始まった後の動物の処置に効果的である証拠と提供する。
等価物
当業者は、日常的な実験を行うだけで本明細書に記載した本発明の特定の態様の多くの等価物を認識し、あるいは確認できるであろう。そのような等価物は特許請求の範囲の包含することを意図する。
【0235】
参考文献の編入
本明細書で引用するすべての特許、係属特許出願および他の公報は、全部、引用により本明細書に編入する。
【図面の簡単な説明】
【0236】
【図1】HuMab 5E8のV領域のヌクレオチド配列(配列番号1)および対応するアミノ酸配列(配列番号2)を示す。CDR領域も示す。
【図2】HuMab 5E8(major)のV領域のヌクレオチド配列(配列番号3)および対応するアミノ酸配列(配列番号4)を示す。CDR領域も示す。
【図3】HuMab 5E8(minor)のV領域のヌクレオチド配列(配列番号5)および対応するアミノ酸配列(配列番号6)を示す。CDR領域も示す。
【図4】HuMab 2D5のV領域のヌクレオチド配列(配列番号9)および対応するアミノ酸配列(配列番号10)を示す。CDR領域も示す。
【図5】HuMab 2D5のV領域のヌクレオチド配列(配列番号11)および対応するアミノ酸配列(配列番号12)を示す。CDR領域も示す。
【図6】HuMab 2H4のV領域のヌクレオチド配列(配列番号13)および対応するアミノ酸配列(配列番号14)を示す。CDR領域も示す。
【図7】HuMab 2H4のV領域のヌクレオチド配列(配列番号15)および対応するアミノ酸配列(配列番号16)を示す。CDR領域も示す。
【図8】HuMab 5D5−2E10のV領域のヌクレオチド配列(配列番号17)および対応するアミノ酸配列(配列番号18)を示す。CDR領域も示す。
【図9】HuMab 5D5−2E10のV領域のヌクレオチド配列(配列番号19)および対応するアミノ酸配列(配列番号20)を示す。CDR領域も示す。
【図10】4種のヒト抗−PA抗体による炭疽菌(B.antheacis)致死毒素の中和を示すグラフである。
【図11】完全長の感染防御抗原(83kD;白色棒)および分解した感染防御抗原(63kD;あや目付き棒)に対するELISAによる抗−PA抗体結合を示すグラフである。
【図12】HuMab 5E8およびマウスmAb 14B7による炭疽菌(B.antheacis)致死毒素の中和の動力学的分析を示すグラフである。
【図13】抗−マウスFcRII/IIIモノクローナル抗体2.4G2の不存在または存在下、HuMab 5E8抗体のF(ab’)フラグメント、および完全な5E8mAbを使用した炭疽菌(B.antheacis)致死毒素の中和の比較を示すグラフである。
【図14】標準的ELISAアッセイを使用したHuMab 5E8のPA63およびPA83への結合の比較を示すグラフである。
【図15】PA63標準的ELISAを使用して、HuMab 5E8と3種のマウスmAbとの間の競合的結合アッセイを示すグラフである。
【図16】ウサギの吸入モデルを対象として、HuMab 5E8および5D5の効力を示すグラフである。
【図17】ウサギの吸入モデルを対象として、低用量のHuMab 5E8の効力を示すグラフである。
【図18】ウサギの吸入モデルを対象として、暴露後に投与したHuMab 5E8の効力を示すグラフである。(A)動物は暴露から24時間および5日後に処置した。(B)動物は暴露から48時間および6日後に処置した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも10−1の見掛け親和性を有する炭疽菌(Bacillus anthracis)の感染防御抗原に結合し、そして毒素中和アッセイにおいて5μg/ml以下のED50で炭疽菌(Bacillus anthracis)毒素を中和する、単離されたヒトモノクローナル抗体。
【請求項2】
ED50が1μg/ml以下である請求項1に記載のヒト抗体。
【請求項3】
ED50が0.1μg/ml以下である請求項1に記載のヒト抗体。
【請求項4】
ED50が0.05μg/ml以下である請求項1に記載のヒト抗体
【請求項5】
毒素中和アッセイにおいて炭疽菌(Bacillus anthracis)の致死因子を中和する、前記請求項のいずれかに記載のヒト抗体。
【請求項6】
毒素中和アッセイが神経、心臓、肺および骨髄から選択される組織に由来する細胞を使用する、前記請求項のいずれかに記載のヒト抗体。
【請求項7】
細胞がマクロファージである、請求項6に記載のヒト抗体。
【請求項8】
ヒトIgG重鎖およびヒトカッパ軽鎖を含んでなる前記請求項のいずれかに記載のヒト抗体。
【請求項9】
IgG1またはIgG3重鎖を含んでなる前記請求項のいずれかに記載のヒト抗体。
【請求項10】
ヒト重鎖可変領域およびヒト軽鎖可変領域を含んでなる単離されたヒトモノクローナル抗体であって、ヒト重鎖可変領域およびヒト軽鎖可変領域の配列が、それぞれ配列番号2および4、配列番号2および6、配列番号8および10、配列番号12および14または配列番号16および18から選択される配列を含んでなり、そしてそれらの保存的な配列改変体を含む上記の単離されたヒトモノクローナル抗体。
【請求項11】
炭疽の感染防御抗原に対する結合について、請求項10に記載のヒトモノクローナル抗体と競合する単離されたヒトモノクローナル抗体。
【請求項12】
FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4配列を含んでなるヒト重鎖可変領域、ならびにFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4配列を含んでなるヒト軽鎖可変領域を含んでなる単離されたヒトモノクローナル抗体であって:
(a)ヒト重鎖可変領域CDR3配列が配列番号20、38、50および62およびそれらの保存的改変体からなる群から選択され;そして
(b)ヒト軽鎖可変領域CDR3配列が配列番号26、32、44、56および68およびそれらの保存的改変体からなる群から選択され;
抗体が少なくとも10−1の見掛け親和性で炭疽菌(Bacillus anthracis)の感染防御抗原に結合し、そして毒素中和アッセイにおいて5μg/ml以下のED50で炭疽菌(Bacillus anthracis)毒素を中和する、上記の単離されたヒトモノクローナル抗体。
【請求項13】
ヒト重鎖可変領域CDR2配列が配列番号22、40、52および64およびそれらの保存的改変体からなる群から選択され、そしてヒト軽鎖可変領域CDR2配列が配列番号
28、34、46、58および70およびそれらの保存的改変体からなる群から選択される、請求項12に記載の単離されたヒト抗体。
【請求項14】
ヒト重鎖可変領域CDR1配列が配列番号24、42、54および66およびそれらの保存的改変体からなる群から選択され;そしてヒト軽鎖可変領域CDR1配列が配列番号30、36、48、60および72およびそれらの保存的改変体からなる群から選択される、請求項12または13に記載の単離されたヒト抗体。
【請求項15】
配列がヒト重鎖VH3−33またはVH3−7生殖細胞系配列に由来するFR1、FR2、FR3およびFR4配列を有するヒト重鎖可変領域を含んでなる、炭疽菌(Bacillus anthracis)の感染防御抗原に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体。
【請求項16】
配列がヒト軽鎖L15、L18またはA27生殖細胞系配列に由来するFR1、FR2、FR3およびFR4配列を有するヒト軽鎖可変領域を含んでなる、炭疽菌(Bacillus anthracis)の感染防御抗原に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体。
【請求項17】
図1〜9に示すヒト重鎖および軽鎖から選択されるCD1、CD2およびCD3領域のアミノ酸配列に少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含んでなる、ヒト重鎖および軽鎖CDR1領域、ヒト重鎖および軽鎖CDR2領域ならびにヒト重鎖および軽鎖CDR3領域を含んでなる、炭疽菌(Bacillus anthracis)の感染防御抗原に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体。
【請求項18】
ヒト重鎖可変領域およびヒト軽鎖可変領域を含んでなる、炭疽菌(Bacillus anthracis)の感染防御抗原に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体であって:
(a)ヒト重鎖可変領域が、配列番号2、8、12および16、および配列番号2、8、12および16に少なくとも80%相同な配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含んでなり;そして
(b)ヒト軽鎖可変領域が、配列番号4、6、10、14および18、および配列番号4、6、10、14および18に少なくとも80%相同な配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含んでなる、上記の単離されたヒトモノクローナル抗体
【請求項19】
抗体がFabフラグメントまたは単鎖抗体(scFv)である、前記請求項のいずれかに記載のヒト抗体。
【請求項20】
配列番号2、4、6、8、10、12、14、16および18から選択されるアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含んでなる単離された核酸。
【請求項21】
配列番号20、38、50および62から選択されるアミノ酸配列を含んでなる重鎖可変領域CDR3をコードするヌクレオチド配列、ならびに 配列番号26、32、44、56および68から選択されるアミノ酸配列を含んでなる軽鎖可変領域CDR3をコードするヌクレオチド配列を含んでなる請求項1に記載のヒト抗体をコードする単離された核酸。
【請求項22】
請求項10ないし19のいずれか1項に記載のヒト抗体をコードする単離された核酸分子。
【請求項23】
請求項20ないし21のいずれか1項に記載の単離された核酸分子を含んでなる発現ベクター。
【請求項24】
請求項23に記載の発現ベクターを含んでなるトランスフェクトーマ。
【請求項25】
請求項1ないし19のいずれか1項に記載のヒト抗体を発現するトランスジェニック非ヒト動物であって、トランスジェニック非ヒト動物がヒト重鎖導入遺伝子または導入染色体およびヒト軽鎖導入遺伝子または導入染色体を有する、上記のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項26】
ハイブリドーマにより生産される請求項1ないし19のいずれか1項に記載の単離されたヒト抗体であって、ハイブリドーマが、不死化細胞に融合された、ヒト重鎖導入遺伝子または導入染色体およびヒト軽鎖導入遺伝子または導入染色体を含んでなるゲノムを有するトランスジェニック非ヒト動物から得たB細胞から調製される、上記の単離されたヒト抗体。
【請求項27】
治療薬に連結された請求項1ないし19のいずれか1項に記載のヒト抗体を含んでなる免疫複合体。
【請求項28】
治療薬がサイトトキシンまたは放射性同位体である請求項26に記載の免疫複合体。
【請求項29】
請求項1ないし19のいずれか1項に記載のヒト抗体および製薬学的に許容され得る担体を含んでなる製薬学的組成物。
【請求項30】
さらに追加の治療薬を含んでなる請求項29に記載の製薬学的組成物。
【請求項31】
追加の治療薬が、感染防御抗原ワクチン、または炭疽菌、胞子、感染防御抗原、致死因子もしくは浮腫因子に対する第2の抗体、または該第2の抗体のFab、F(ab’)、Fvもしくは単鎖Fvフラグメントから選択される、請求項30に記載の製薬学的組成物。
【請求項32】
請求項27に記載の免疫複合体および製薬学的に許容され得る担体を含んでなる製薬学的組成物。
【請求項33】
検出可能な量の請求項1ないし19のいずれか1項に記載の抗体を生産するハイブリドーマ。
【請求項34】
請求項1ないし19のいずれか1項に記載のヒト抗体を生産する方法であって、抗体が動物のB細胞により生産されるように、ヒト重鎖導入遺伝子およびヒト軽鎖導入遺伝子を含んでなるゲノムを有するトランスジェニック非ヒト動物を、炭疽菌(B.anthracis)の感染防御抗原または炭疽菌(B.anthracis)の感染防御抗原を発現する細胞で免疫感作し、動物からB細胞を単離し、そしてB細胞をミエローマ細胞と融合させて抗体を産生する不死化ハイブリドーマ細胞を形成することを含んでなる上記生産方法。
【請求項35】
炭疽による感染が疑われる細胞における炭疽菌(B.anthracis)の感染防御抗原の生理学的活性を阻害する方法であって、感染防御抗原の生理学的活性が阻害されるように、炭疽菌(B.anthracis)の感染防御抗原を細胞の存在下で有効量の請求項1ないし19のいずれか1項に記載の抗体と接触させることを含んでなる上記阻害方法。
【請求項36】
炭疽による感染が疑われる細胞中の炭疽菌(B.anthracis)毒素を中和する方法であって、毒素が中和されるように、炭疽菌(B.anthracis)の感染防御抗原を細胞の存在下で有効量の請求項1ないし19のいずれかに記載の抗体と接触させることを含んでなる上記中和方法。
【請求項37】
炭疽菌(B.anthracis)に感染した宿主の炭疽感染を処置または防止する方法であって、宿主に炭疽感染を処置または防止するために有効な量の請求項1ないし19のいずれか1項に記載のヒト抗体を投与することを含んでなる上記処置または防止方法。
【請求項38】
さらに追加の治療薬を投与することを含んでなる請求項37に記載の方法。
【請求項39】
追加の治療薬が抗生物質およびワクチンから選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
サンプル中の炭疽菌(B.anthracis)の感染防御抗原の存在を検出する方法であって:
サンプルを請求項1ないし19、12ないし14、17または18のいずれかに記載の抗体と、抗体および感染防御抗原を含んでなる複合体が形成できる条件下で接触させ;そして
複合体の形成を検出する、
ことを含んでなる、上記検出法。
【請求項41】
抗体の毒素を中和する能力がFc受容体への結合を要する、請求項1ないし19のいずれか1項に記載のヒト抗体。
【請求項42】
標準的ELISAに従い、抗体がPA83よりもPA63に高い親和性を現す、請求項1ないし19のいずれか1項に記載のヒト抗体。
【請求項43】
(1)標準的ELISAに従い1μg/mlではPA83に結合せず、0.2以下のOD405nmであり;
(2)PAに結合する炭疽致死因子または浮腫因子を遮断しない、
請求項1ないし19のいずれか1項に記載のヒト抗体。
【請求項44】
PA63に対する結合において、マウス1G3、マウス2D5およびマウス14B7から選択される抗−PA抗体とは競合しない、請求項1ないし19のいずれか1項に記載のヒト抗体。
【請求項45】
(1)中和活性のためにFc受容体への結合を要し;
(2)PA83よりもPA63に高い親和性を現し;
(3)(a)標準的ELISAに従い1μg/mlではPA83に結合せず、0.2以下のOD405nmであり、
(b)炭疽致死因子または浮腫因子の感染防御抗原への結合を遮断しない、
から選択される1もしくは複数の特性を現し、
(4)PA63に対する結合において、マウスIG3、マウス2D5およびマウス14B7から選択される抗−PA抗体と競合しない、
特徴を含んでなる、炭疽感染防御抗原に対する中和抗体。
【請求項46】
請求項41ないし45のいずれかに1項に記載の抗体および製薬学的に許容され得る担体を含んでなる製薬学的組成物。
【請求項47】
請求項45に記載の抗体を0.1mg/kg〜100mg/kgの投薬用量で投与する工程を含んでなる、処置が必要な患者の炭疽の処置または防止方法。
【請求項48】
請求項45に記載の抗体を0.3mg/kg〜50mg/kgの投薬用量で投与する工程を含んでなる、処置が必要な患者の炭疽の処置または防止方法。
【請求項49】
請求項45に記載の抗体を1mg/kg〜12mg/kgの投薬用量で投与する工程を含んでなる、処置が必要な患者の炭疽の処置または防止方法。
【請求項50】
患者が炭疽に感染している、請求項47に記載の方法。
【請求項51】
患者が好中球減少症を現す、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
患者が炭疽感染の1もしくは複数の兆候および/または症状を現す、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
患者が炭疽に感染していない請求項47に記載の方法。
【請求項54】
投薬用量が皮下または静脈内に投与される、請求項47に記載の方法。
【請求項55】
1もしくは複数の追加の投薬用量が投与される請求項47に記載の方法。
【請求項56】
炭疽感染防御抗原に対する抗体をスクリーニングする方法であって;
(1)毒素中和アッセイにおいて炭疽毒素を中和する1もしくは複数の抗体を選択し;そして
(2)0.1μg/ml以下のED50を有する抗体を選択する、連続工程を含んでなり、選択基準として、抗原−抗体結合親和性アッセイが工程(1)または(2)の前に使用されない上記方法。
【請求項57】
スクリーニングが炭疽毒素を中和するためにFc受容体結合を要する抗体を選択することをさらに含んでなる、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
請求項56に記載の方法により選択される抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公表番号】特表2007−525191(P2007−525191A)
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−514938(P2006−514938)
【出願日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【国際出願番号】PCT/US2004/016213
【国際公開番号】WO2005/023177
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(500251630)メダレツクス・インコーポレーテツド (2)
【Fターム(参考)】