炭素繊維の製造方法
【課題】 緻密、高配向度、高強度且つ高弾性率のポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】 PAN系耐炎化繊維を炭素化する炭素化工程を、第一炭素化工程と第二炭素化工程と第三炭素化工程とで構成する。第三炭素化工程では、一次処理と二次処理とに分け、それぞれの処理における繊維の比抵抗値、比重、N/C、単繊維伸度、並びに、広角X線測定(回折角26°)での結晶子サイズと、温度と、延伸倍率とを制御する。繊維張力は、繊維直径、即ち繊維断面積(S mm2)により変わるため、張力ファクターとして前記繊維断面積で換算した繊維応力(D又はE mN)を用いた数式を満たす範囲としている。
【解決手段】 PAN系耐炎化繊維を炭素化する炭素化工程を、第一炭素化工程と第二炭素化工程と第三炭素化工程とで構成する。第三炭素化工程では、一次処理と二次処理とに分け、それぞれの処理における繊維の比抵抗値、比重、N/C、単繊維伸度、並びに、広角X線測定(回折角26°)での結晶子サイズと、温度と、延伸倍率とを制御する。繊維張力は、繊維直径、即ち繊維断面積(S mm2)により変わるため、張力ファクターとして前記繊維断面積で換算した繊維応力(D又はE mN)を用いた数式を満たす範囲としている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高強度、高配向度、且つ高弾性率の炭素繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリアクリロニトリル(PAN)系繊維を原料として高性能の炭素繊維が製造されることは知られており、航空機を始めスポーツ用品まで広い範囲で使用されている。
【0003】
とりわけ、高強度・高弾性率の炭素繊維は宇宙航空用途に使用されており、これらは更なる高性能化が求められている。
【0004】
PAN系前駆体繊維を用いて炭素繊維を製造する方法としては、前駆体繊維を200〜300℃の酸化性雰囲気下で延伸又は収縮を行いながら酸化処理(耐炎化処理)を行った後、300〜1000℃以上の不活性ガス雰囲気中で炭素化を行う方法が知られている。
【0005】
とりわけ300〜900℃付近での炭素化工程の繊維処理方法は、炭素繊維の強度発現に大きく影響を及ぼし、これまでに多くの検討が行われてきた。
【0006】
特許文献1では、耐炎化繊維を300〜800℃において、不活性雰囲気中25%までの範囲で伸長を加えながら炭素化し、耐炎化繊維の原長に対し負とならないように処理することによって、高強度の炭素繊維を得ることが開示されている。
【0007】
また、特許文献2、特許文献3では、500℃付近での繊維長さの急激な変化をコントロールするため、300〜500℃、500〜800℃と、工程を2つに分けることで緻密な高強度炭素繊維が得られることが開示されている。
【0008】
さらに、特許文献4では、耐炎化繊維を不活性雰囲気中、比重が1.45に達するまでの昇温速度を50〜300℃/分、さらに比重が1.60〜1.75に達するまでの昇温速度を100〜800℃/分とする2段炭素化を行うことにより、ボイドの少ない炭素繊維が得られることが開示されている。
【0009】
特許文献5でも特許文献4と同様に、300〜800℃において昇温勾配をコントロールする事により緻密な炭素繊維が得られることが開示されている。
【0010】
しかしながら、緻密、高配向度、高強度且つ高弾性率を有する炭素繊維を得るためには、最適な繊維物性での緊縮を行う事が必要であり、これらの方法に記載されている温度範囲や、昇温勾配だけでは繊維の緻密さをコントロールする事は難しく、またパラメーターとして比重だけでは、緻密、高配向度、高強度且つ高弾性率を有する炭素繊維を得ることは困難で、従来より緻密、高配向度、高強度且つ高弾性率の炭素繊維を得るための方法が求められている。
【0011】
さらに、従来の炭素化工程においては、毛羽が多くなったり、ストランド形態についてストランドの引揃え性が乱れ、その結果として品位が悪くなったりするなどの問題がある。
【特許文献1】特開昭54−147222号公報 (第1〜3頁)
【特許文献2】特開昭59−150116号公報 (第1〜2頁)
【特許文献3】特公平3−23651号公報 (第1〜3頁)
【特許文献4】特公平3−17925号公報 (第1〜3頁)
【特許文献5】特開昭62−231028号公報 (第1〜3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者等は、長年にわたり鋭意検討を重ねた結果、PAN系耐炎化繊維を炭素化する炭素化工程を、第一炭素化工程と第二炭素化工程とで構成させた。
【0013】
第一炭素化工程においては、耐炎化繊維の各物性と、温度と、延伸倍率との間に重要な関連があり、これらを制御することにより高強度炭素繊維を製造できることを知得し、先に出願した(特願2002−253806)。
【0014】
また、第二炭素化工程を、一次処理と二次処理とに分ける場合、それぞれの処理における繊維の各物性と、温度と、繊維の延伸張力との間に重要な関連があり、これらを制御することにより高強度炭素繊維を製造できることを知得し、続いて出願した(特願2002−368810)。
【0015】
本発明者等は、更に検討を重ねた結果、第二炭素化工程の後工程として更に高温処理するための第三炭素化工程を設けた。この第三炭素化工程において、上記先願発明の製造方法で炭素化した高強度炭素繊維を、更に高温処理することによって、高強度・高弾性率の炭素繊維を得ることができることを知得し、即ち、上記先願発明で得られる炭素繊維は、高比重で高強度の炭素繊維であるので、その優位性をもって、更に高温処理しても、元の炭素繊維の優位性が保て、より高強度・高弾性率の炭素繊維を得ることができることを知得し、続いて出願した(特願2003−418594)。
【0016】
また、第三炭素化工程を、一次処理と二次処理とに分ける場合、それぞれの処理における繊維の各物性と、温度と、繊維の延伸張力との間に重要な関連があり、これらを制御することにより、更に高強度の炭素繊維を製造できることを知得し、本発明を完成するに到った。
【0017】
よって、本発明の目的とするところは、上記問題を解決した、緻密、高配向度、高強度且つ高弾性率の炭素繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載するものである。
【0019】
〔1〕 不活性雰囲気中、比重1.3〜1.4のポリアクリロニトリル系耐炎化繊維を300〜900℃の温度範囲内で第一炭素化し、次いで800〜1600℃で第二炭素化して得られた繊維を、1500〜2200℃で第三炭素化して熱処理する炭素繊維の製造方法において、第三炭素化工程における一次処理を下記の条件(1)乃至(6)のいずれをも満たす範囲で行い、二次処理を下記条件(7)乃至(12)のいずれをも満たす範囲で行う炭素繊維の製造方法。
一次処理
(1) 第二炭素化処理後の繊維の比抵抗値が21Ω・g/m2以上の範囲
(2) 第二炭素化処理後の繊維の比重が一次処理中低下し続ける範囲
(3) 第二炭素化処理後の繊維のN/C[窒素含有量/炭素含有量]が0.8質量%以上の範囲
(4) 第二炭素化処理後の繊維の単繊維伸度が低下し続ける範囲で、且つ1.8%以上の範囲
(5) 第二炭素化処理後の繊維の結晶子サイズが2.15nmより大きくならない範囲
(6) 第三炭素化工程一次処理での繊維張力(F MPa)と第二炭素化処理繊維の断面積(S mm2)とで算出される繊維応力(D mN)が下式
0.25 ≦ D ≦ 1.60
〔但し、D = F × S
S= πA2 / 4
Aは第二炭素化処理繊維の直径(mm)〕
を満たす範囲で繊維張力を与える処理
二次処理
(7) 一次処理繊維の比抵抗値が21Ω・g/m2未満の範囲
(8) 一次処理繊維の比重が二次処理中上昇し続ける範囲
(9) 一次処理後の繊維のN/C[窒素含有量/炭素含有量]が0.8質量%未満、0.5質量%以上の範囲
(10) 一次処理繊維の単繊維伸度が一端低下した後、上昇・低下する範囲において1.8%以上である範囲
(11) 一次処理繊維の結晶子サイズが2.15nm以上で、上昇又は変化しない範囲において2.4nmより大きくならない範囲
(12) 第三炭素化工程二次処理での繊維張力(G MPa)と第二炭素化処理繊維の断面積(S mm2)とで算出される繊維応力(E mN)が下式
0.65 ≦ E ≦ 2.80
〔但し、E = G × S
S = πA2 / 4
Aは第二炭素化処理繊維の直径(mm)〕
を満たす範囲で繊維張力を与える処理
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法によれば、第一炭素化工程及び第二炭素化工程において繊維の各種物性を参照して炭素化処理を行って得られた高強度炭素繊維を、第三炭素化工程において更に高温処理するに際し、第三炭素化工程を一次処理と二次処理とに分けると共に、それぞれの処理における繊維の各物性に対して、温度及び繊維の延伸張力等を所定範囲に制御しているので、緻密、高配向度、高強度且つ高弾性率の炭素繊維を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
本発明の炭素繊維の製造方法に用いるPAN系前駆体繊維は、アクリロニトリルを90質量%以上、好ましくは95質量%以上含有する単量体を重合した紡糸溶液を湿式又は乾湿式紡糸法において紡糸した後、水洗・乾燥・延伸して得られる繊維を用いることが好ましい。これらの前駆体繊維は、従来公知のものが何ら制限なく使用できる。
【0023】
得られた前駆体繊維は、次いで加熱空気中200〜280℃で耐炎化処理する。この時の処理は、一般的に、延伸倍率0.85〜1.30の範囲で処理し、繊維比重1.3〜1.4のPAN系耐炎化繊維とするものであり、耐炎化時の張力(延伸配分)は特に限定されるものでは無い。
【0024】
本発明の炭素繊維の製造方法においては、上記耐炎化繊維を、不活性雰囲気中で、第一炭素化工程において、300〜900℃の温度範囲内で、好ましくは1.03〜1.06の延伸倍率で一次延伸処理し、次いで0.9〜1.01の延伸倍率で二次延伸処理して繊維比重1.50〜1.70の第一炭素化処理繊維を得る。
【0025】
この第一炭素化処理繊維を、不活性雰囲気中で、第二炭素化工程において800〜1600℃の温度範囲内で、同工程を一次処理と二次処理とに分けて延伸処理して第二炭素化処理繊維を得る。
【0026】
この第二炭素化処理繊維を、引き続き不活性雰囲気中で第三炭素化工程において1500〜2200℃の温度範囲内で、同工程を一次処理と二次処理とに分けて熱処理する。
【0027】
第三炭素化工程の一次処理では、第二炭素化処理後の繊維の比抵抗値が21Ω・g/m2以上の範囲、同繊維の比重が一次処理中低下し続ける範囲、同繊維のN/C[窒素含有量/炭素含有量]が0.8質量%以上の範囲、同繊維の単繊維伸度が低下し続ける範囲で且つ1.8%以上の範囲、更に同繊維の広角X線測定(回折角26°)における結晶子サイズが2.15nmより大きくならない範囲で同繊維を延伸処理する。
【0028】
第二炭素化処理後の繊維の第三炭素化工程一次処理における、比抵抗値、比重、N/C、単繊維伸度、並びに、広角X線測定(回折角26°)での結晶子サイズの、変化及び条件範囲の一例を、それぞれ図1、2、3、4及び5に示す。
【0029】
なお、第三炭素化工程一次処理での繊維張力(F MPa)は、第二炭素化工程後の繊維直径、即ち繊維断面積(S mm2)により変わるため、本発明においては張力ファクターとして繊維応力(D mN)を用い、この繊維応力の範囲は下式
0.25 ≦ D ≦ 1.60
〔但し、D = F × S
S= πA2 / 4
Aは第二炭素化処理繊維の直径(mm)〕
を満たす範囲としている。
【0030】
ここで繊維断面積は、JIS−R−7601に規定する測微顕微鏡による方法において繊維直径をn=20で測定し、その平均値を用い、真円として算出した値を使用している。
【0031】
繊維応力Dが0.25mN未満の場合は、繊維の毛羽立ちが多く、品位が悪化するので好ましくない。繊維応力Dが1.60mNより大きい場合は、繊維に構造破壊が生じ、糸切れが起こり強度が低下するので好ましくない。
【0032】
上記方法により得られた一次処理繊維は、引き続いて以下の二次処理を施す。
【0033】
この二次処理においては、一次処理繊維の比抵抗値が21Ω・g/m2未満の範囲、同繊維の比重が二次処理中上昇し続ける範囲、同繊維のN/C[窒素含有量/炭素含有量]が0.8質量%未満、0.5質量%以上の範囲、同繊維の単繊維伸度が一端低下した後、上昇・低下する範囲において1.8%以上である範囲、更に、同繊維の広角X線測定(回折角26°)における結晶子サイズが2.15nm以上で、上昇又は変化しない範囲において2.4nmより大きくならない範囲で同繊維を延伸処理する。
【0034】
上記一次処理繊維の二次処理における、比抵抗値、比重、N/C、単繊維伸度、並びに、広角X線測定(回折角26°)での結晶子サイズの、変化及び条件範囲の一例を、それぞれ図6、7、8、9及び10に示す。
【0035】
なお、第三炭素化工程二次処理での繊維張力(G MPa)も、一次処理時と同様に第二炭素化工程後の繊維直径、即ち繊維断面積(S mm2)により変わるため、本発明においては張力ファクターとして繊維応力(E mN)を用い、この繊維応力の範囲は下式
0.65 ≦ E ≦ 2.80
〔但し、E = G × S
S = πA2 / 4
Aは第二炭素化処理繊維の直径(mm)〕
を満たす範囲としている。
【0036】
繊維応力Eが0.65mN未満の場合は、延伸処理による繊維強度の向上効果がでないので好ましくない。繊維応力Eが2.80mNより大きい場合は、繊維の強度低下、品位低下が起こるので好ましくない。
【0037】
得られた第三炭素化処理繊維、即ち第三炭素化工程終了後に得られる炭素繊維は、引き続き公知の方法により、表面処理を施した炭素繊維となり得る。さらに、炭素繊維の後加工をしやすくし、取扱性を向上させる目的で、サイジング処理することが好ましい。サイジング方法は、従来の公知の方法で行うことができ、サイジング剤は、用途に即して適宜組成を変更して使用し、均一付着させた後に、乾燥することが好ましい。なお、第三炭素化処理繊維の直径は4〜8μmであることが好ましい。
【0038】
このようにして得られた炭素繊維は、緻密、高配向度、高強度且つ高弾性率を有し、ストランドの引揃え性が乱れることの無い、良好なストランド形態の炭素繊維であり、本発明の製造方法によりなし得るものである。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に具体的に説明する。また、各実施例及び比較例における処理条件、及び炭素繊維物性についての評価方法は以下の方法により実施した。
【0040】
<比抵抗値>
比抵抗値の測定に関しては、JIS−R−7601に規定する体積抵抗率の炭素繊維の試験A法を参考に行うことができる。ただし、JIS−R−7601では、電気抵抗値に、炭素繊維の比重を掛け合わせた体積抵抗率を求めており、比抵抗値〔X (Ω・g/m2)〕を求めるには、下式
X = Rb×t/L
Rb:試験片長Lのときの電気抵抗(Ω)、t:試験片の繊度(tex)、L:抵抗測定時の試験片長(m)
を用いて行った。なお、抵抗測定時の試験片長については、1m程度で測定することが好ましい。
【0041】
<比重>
アルキメデス法により測定した。試料繊維はアセトン中にて脱気処理し測定した。
【0042】
<窒素含有量>
元素分析装置(FISONS INSTRUMENTS社製)により測定した元素分析値から求めた。
【0043】
<結晶子サイズ、配向度>
X線回折装置:リガク製RINT1200L、コンピュータ:日立2050/32を使用し、回折角26°における結晶子サイズを回折パターンより、配向度を半価幅より求めた。
【0044】
<単繊維伸度>
JIS R 7606(2000)に規定された方法により第一炭素化工程一次延伸処理繊維の単繊維伸度を測定した。
【0045】
<ストランド強度、弾性率>
JIS R 7601に規定された方法により第二炭素化処理繊維、第三炭素化処理繊維(炭素繊維)のストランド強度、弾性率を測定した。
【0046】
実施例1
アクリロニトリル95質量%/アクリル酸メチル4質量%/イタコン酸1質量%よりなる共重合体紡糸原液を湿式又は乾湿式紡糸し、水洗・乾燥・延伸・オイリングして繊維直径9.2μmの前駆体繊維を得た。この繊維を加熱空気中、入口温度(最低温度)240℃、出口温度(最高温度)250℃の熱風循環式耐炎化炉で耐炎化処理し、繊維比重1.35のPAN系耐炎化繊維を得た。
【0047】
次いで、この耐炎化繊維を不活性雰囲気中、入口温度(最低温度)300℃、出口温度(最高温度)600℃の第一炭素化炉において、一次延伸・二次延伸処理を以下に示す条件で実施した。
【0048】
一次延伸は、延伸倍率1.05倍で処理し、二次延伸は、延伸倍率1.00倍で処理したところ、比重1.63、配向度78.0%、繊維直径6.1μmの糸切れのない第一炭素化処理繊維を得た。
【0049】
次いで、この第一炭素化処理繊維を不活性雰囲気中、入口温度(最低温度)700℃、出口温度(最高温度)1600℃の第二炭素化炉において、一次処理・二次処理を以下に示す条件で実施した。
【0050】
先ず、上記第一炭素化処理繊維を、繊維張力27.9MPa、繊維応力0.817mNで延伸処理し、一次処理繊維を得た。
【0051】
その後この一次処理繊維を、引き続き第二炭素化工程において、繊維張力14.0MPa、繊維応力0.418mNで延伸処理し、比重1.81、繊維直径5.0μm、繊維断面積1.963×10-5mm2、ストランド強度6500MPa、ストランド弾性率280GPa、配向度81.8%、結晶子サイズ1.88nmの第二炭素化処理繊維を得た。
【0052】
次いで、この第二炭素化処理繊維を不活性雰囲気中、入口温度(最低温度)1600℃、出口温度(最高温度)2000℃の第三炭素化炉において、一次処理・二次処理を以下に示す条件で実施した。
【0053】
先ず、上記第二炭素化処理繊維を、比抵抗値、比重、N/C、単繊維伸度、及び結晶子サイズについて、図1、2、3、4及び5に示す範囲内に調節すると共に、繊維張力41.6MPa、繊維応力0.817mNで延伸処理し、一次処理繊維を得た。
【0054】
その後この一次処理繊維を、引き続き第三炭素化工程において二次処理が終了するまで、比抵抗値、比重、N/C、単繊維伸度、及び結晶子サイズについて、図6、7、8、9及び10に示す範囲内に調節すると共に、繊維張力83.2MPa、繊維応力1.633mNで延伸処理し、引き続き公知の方法にて表面処理、サイジングを施し、乾燥して比重1.79、繊維直径4.9μm、ストランド強度6050MPa、ストランド弾性率342GPa、配向度84.5%、結晶子サイズ2.25nmの炭素繊維を得た。
【0055】
比較例1
実施例1で得られた第二炭素化処理繊維を、第三炭素化工程一次処理において、表1に示すように繊維張力12.5MPa、繊維応力0.245mNで処理した以外は実施例1と同様の処理を行った。しかし、得られた炭素繊維は、比重1.79、繊維直径5.0μm、配向度84.3%、結晶子サイズ2.24nm、ストランド強度5800MPa、ストランド弾性率340GPaと低強度であり、しかも毛羽立ちが起こったストランド形態の悪いものであった。
【0056】
実施例2
実施例1で得られた第二炭素化処理繊維を、第三炭素化工程一次処理において、表1に示すように繊維張力20.8MPa、繊維応力0.408mNで処理した以外は、実施例1と同様の処理を行い、比重1.79、繊維直径4.9μm、配向度84.4%、結晶子サイズ2.25nm、ストランド強度5900MPa、ストランド弾性率341GPaの、糸切れの無いストランド形態の良好な炭素繊維を得た。
【0057】
実施例3
実施例1で得られた第二炭素化処理繊維を、第三炭素化工程一次処理において、表1に示すように繊維張力62.4MPa、繊維応力1.225mNで処理した以外は、実施例1と同様の処理を行い、比重1.78、繊維直径4.9μm、配向度84.5%、結晶子サイズ2.26nm、ストランド強度5950MPa、ストランド弾性率344GPaの、糸切れの無いストランド形態の良好な炭素繊維を得た。
【0058】
比較例2
実施例1で得られた第二炭素化処理繊維を、第三炭素化工程一次処理において、表1に示すように繊維張力83.2MPa、繊維応力1.633mNで処理した以外は実施例1と同様の処理を行った。しかし、得られた炭素繊維は、糸切れの無いストランド形態の良好なものではあったが、比重1.77、繊維直径4.8μm、配向度84.5%、結晶子サイズ2.25nm、ストランド強度5700MPa、ストランド弾性率342GPaと、低強度のものであった。
【0059】
【表1】
比較例3
実施例1で得られた第三炭素化工程一次処理繊維を、第三炭素化工程二次処理において、表2に示すように繊維張力29.1MPa、繊維応力0.572mNで処理した以外は実施例1と同様の処理を行った。しかし、得られた炭素繊維は、糸切れの無いストランド形態の良好なものではあったが、比重1.78、繊維直径5.0μm、配向度84.3%、結晶子サイズ2.25nm、ストランド強度5800MPa、ストランド弾性率339GPaと、低強度のものであった。
【0060】
実施例4
実施例1で得られた第三炭素化工程一次処理繊維を、第三炭素化工程二次処理において、表2に示すように繊維張力41.6MPa、繊維応力0.817mNで処理した以外は、実施例1と同様の処理を行い、比重1.79、繊維直径4.9μm、配向度84.4%、結晶子サイズ2.24nm、ストランド強度6000MPa、ストランド弾性率341GPaの、糸切れの無いストランド形態の良好な炭素繊維を得た。
【0061】
実施例5
実施例1で得られた第三炭素化工程一次処理繊維を、第三炭素化工程二次処理において、表2に示すように繊維張力124.8MPa、繊維応力2.450mNで処理した以外は、実施例1と同様の処理を行い、比重1.80、繊維直径4.8μm、配向度84.6%、結晶子サイズ2.25nm、ストランド強度6100MPa、ストランド弾性率345GPaの、糸切れの無いストランド形態の良好な炭素繊維を得た。
【0062】
比較例4
実施例1で得られた第三炭素化工程一次処理繊維を、第三炭素化工程二次処理において、表2に示すように繊維張力166.4MPa、繊維応力3.267mNで処理した以外は実施例1と同様の処理を行った。しかし、得られた炭素繊維は、比重1.79、繊維直径4.7μm、配向度84.7%、結晶子サイズ2.25nm、ストランド強度5850MPa、ストランド弾性率346GPaと低強度であり、しかも糸切れを生じたストランド形態の悪いものであった。
【0063】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】第三炭素化工程における一次処理時の温度上昇に対する第二炭素化処理繊維の比抵抗値の推移を示すグラフである。
【図2】第三炭素化工程における一次処理時の温度上昇に対する第二炭素化処理繊維の比重の推移を示すグラフである。
【図3】第三炭素化工程における一次処理時の温度上昇に対する第二炭素化処理繊維のN/Cの推移を示すグラフである。
【図4】第三炭素化工程における一次処理時の温度上昇に対する第二炭素化処理繊維の単繊維伸度の推移を示すグラフである。
【図5】第三炭素化工程における一次処理時の温度上昇に対する第二炭素化処理繊維の結晶子サイズの推移を示すグラフである。
【図6】第三炭素化工程における二次処理時の温度上昇に対する第三炭素化工程一次処理繊維の比抵抗値の推移を示すグラフである。
【図7】第三炭素化工程における二次処理時の温度上昇に対する第三炭素化工程一次処理繊維の比重の推移を示すグラフである。
【図8】第三炭素化工程における二次処理時の温度上昇に対する第三炭素化工程一次処理繊維のN/Cの推移を示すグラフである。
【図9】第三炭素化工程における二次処理時の温度上昇に対する第三炭素化工程一次処理繊維の単繊維伸度の推移を示すグラフである。
【図10】第三炭素化工程における二次処理時の温度上昇に対する第三炭素化工程一次処理繊維の結晶子サイズの推移を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は高強度、高配向度、且つ高弾性率の炭素繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリアクリロニトリル(PAN)系繊維を原料として高性能の炭素繊維が製造されることは知られており、航空機を始めスポーツ用品まで広い範囲で使用されている。
【0003】
とりわけ、高強度・高弾性率の炭素繊維は宇宙航空用途に使用されており、これらは更なる高性能化が求められている。
【0004】
PAN系前駆体繊維を用いて炭素繊維を製造する方法としては、前駆体繊維を200〜300℃の酸化性雰囲気下で延伸又は収縮を行いながら酸化処理(耐炎化処理)を行った後、300〜1000℃以上の不活性ガス雰囲気中で炭素化を行う方法が知られている。
【0005】
とりわけ300〜900℃付近での炭素化工程の繊維処理方法は、炭素繊維の強度発現に大きく影響を及ぼし、これまでに多くの検討が行われてきた。
【0006】
特許文献1では、耐炎化繊維を300〜800℃において、不活性雰囲気中25%までの範囲で伸長を加えながら炭素化し、耐炎化繊維の原長に対し負とならないように処理することによって、高強度の炭素繊維を得ることが開示されている。
【0007】
また、特許文献2、特許文献3では、500℃付近での繊維長さの急激な変化をコントロールするため、300〜500℃、500〜800℃と、工程を2つに分けることで緻密な高強度炭素繊維が得られることが開示されている。
【0008】
さらに、特許文献4では、耐炎化繊維を不活性雰囲気中、比重が1.45に達するまでの昇温速度を50〜300℃/分、さらに比重が1.60〜1.75に達するまでの昇温速度を100〜800℃/分とする2段炭素化を行うことにより、ボイドの少ない炭素繊維が得られることが開示されている。
【0009】
特許文献5でも特許文献4と同様に、300〜800℃において昇温勾配をコントロールする事により緻密な炭素繊維が得られることが開示されている。
【0010】
しかしながら、緻密、高配向度、高強度且つ高弾性率を有する炭素繊維を得るためには、最適な繊維物性での緊縮を行う事が必要であり、これらの方法に記載されている温度範囲や、昇温勾配だけでは繊維の緻密さをコントロールする事は難しく、またパラメーターとして比重だけでは、緻密、高配向度、高強度且つ高弾性率を有する炭素繊維を得ることは困難で、従来より緻密、高配向度、高強度且つ高弾性率の炭素繊維を得るための方法が求められている。
【0011】
さらに、従来の炭素化工程においては、毛羽が多くなったり、ストランド形態についてストランドの引揃え性が乱れ、その結果として品位が悪くなったりするなどの問題がある。
【特許文献1】特開昭54−147222号公報 (第1〜3頁)
【特許文献2】特開昭59−150116号公報 (第1〜2頁)
【特許文献3】特公平3−23651号公報 (第1〜3頁)
【特許文献4】特公平3−17925号公報 (第1〜3頁)
【特許文献5】特開昭62−231028号公報 (第1〜3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者等は、長年にわたり鋭意検討を重ねた結果、PAN系耐炎化繊維を炭素化する炭素化工程を、第一炭素化工程と第二炭素化工程とで構成させた。
【0013】
第一炭素化工程においては、耐炎化繊維の各物性と、温度と、延伸倍率との間に重要な関連があり、これらを制御することにより高強度炭素繊維を製造できることを知得し、先に出願した(特願2002−253806)。
【0014】
また、第二炭素化工程を、一次処理と二次処理とに分ける場合、それぞれの処理における繊維の各物性と、温度と、繊維の延伸張力との間に重要な関連があり、これらを制御することにより高強度炭素繊維を製造できることを知得し、続いて出願した(特願2002−368810)。
【0015】
本発明者等は、更に検討を重ねた結果、第二炭素化工程の後工程として更に高温処理するための第三炭素化工程を設けた。この第三炭素化工程において、上記先願発明の製造方法で炭素化した高強度炭素繊維を、更に高温処理することによって、高強度・高弾性率の炭素繊維を得ることができることを知得し、即ち、上記先願発明で得られる炭素繊維は、高比重で高強度の炭素繊維であるので、その優位性をもって、更に高温処理しても、元の炭素繊維の優位性が保て、より高強度・高弾性率の炭素繊維を得ることができることを知得し、続いて出願した(特願2003−418594)。
【0016】
また、第三炭素化工程を、一次処理と二次処理とに分ける場合、それぞれの処理における繊維の各物性と、温度と、繊維の延伸張力との間に重要な関連があり、これらを制御することにより、更に高強度の炭素繊維を製造できることを知得し、本発明を完成するに到った。
【0017】
よって、本発明の目的とするところは、上記問題を解決した、緻密、高配向度、高強度且つ高弾性率の炭素繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載するものである。
【0019】
〔1〕 不活性雰囲気中、比重1.3〜1.4のポリアクリロニトリル系耐炎化繊維を300〜900℃の温度範囲内で第一炭素化し、次いで800〜1600℃で第二炭素化して得られた繊維を、1500〜2200℃で第三炭素化して熱処理する炭素繊維の製造方法において、第三炭素化工程における一次処理を下記の条件(1)乃至(6)のいずれをも満たす範囲で行い、二次処理を下記条件(7)乃至(12)のいずれをも満たす範囲で行う炭素繊維の製造方法。
一次処理
(1) 第二炭素化処理後の繊維の比抵抗値が21Ω・g/m2以上の範囲
(2) 第二炭素化処理後の繊維の比重が一次処理中低下し続ける範囲
(3) 第二炭素化処理後の繊維のN/C[窒素含有量/炭素含有量]が0.8質量%以上の範囲
(4) 第二炭素化処理後の繊維の単繊維伸度が低下し続ける範囲で、且つ1.8%以上の範囲
(5) 第二炭素化処理後の繊維の結晶子サイズが2.15nmより大きくならない範囲
(6) 第三炭素化工程一次処理での繊維張力(F MPa)と第二炭素化処理繊維の断面積(S mm2)とで算出される繊維応力(D mN)が下式
0.25 ≦ D ≦ 1.60
〔但し、D = F × S
S= πA2 / 4
Aは第二炭素化処理繊維の直径(mm)〕
を満たす範囲で繊維張力を与える処理
二次処理
(7) 一次処理繊維の比抵抗値が21Ω・g/m2未満の範囲
(8) 一次処理繊維の比重が二次処理中上昇し続ける範囲
(9) 一次処理後の繊維のN/C[窒素含有量/炭素含有量]が0.8質量%未満、0.5質量%以上の範囲
(10) 一次処理繊維の単繊維伸度が一端低下した後、上昇・低下する範囲において1.8%以上である範囲
(11) 一次処理繊維の結晶子サイズが2.15nm以上で、上昇又は変化しない範囲において2.4nmより大きくならない範囲
(12) 第三炭素化工程二次処理での繊維張力(G MPa)と第二炭素化処理繊維の断面積(S mm2)とで算出される繊維応力(E mN)が下式
0.65 ≦ E ≦ 2.80
〔但し、E = G × S
S = πA2 / 4
Aは第二炭素化処理繊維の直径(mm)〕
を満たす範囲で繊維張力を与える処理
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法によれば、第一炭素化工程及び第二炭素化工程において繊維の各種物性を参照して炭素化処理を行って得られた高強度炭素繊維を、第三炭素化工程において更に高温処理するに際し、第三炭素化工程を一次処理と二次処理とに分けると共に、それぞれの処理における繊維の各物性に対して、温度及び繊維の延伸張力等を所定範囲に制御しているので、緻密、高配向度、高強度且つ高弾性率の炭素繊維を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
本発明の炭素繊維の製造方法に用いるPAN系前駆体繊維は、アクリロニトリルを90質量%以上、好ましくは95質量%以上含有する単量体を重合した紡糸溶液を湿式又は乾湿式紡糸法において紡糸した後、水洗・乾燥・延伸して得られる繊維を用いることが好ましい。これらの前駆体繊維は、従来公知のものが何ら制限なく使用できる。
【0023】
得られた前駆体繊維は、次いで加熱空気中200〜280℃で耐炎化処理する。この時の処理は、一般的に、延伸倍率0.85〜1.30の範囲で処理し、繊維比重1.3〜1.4のPAN系耐炎化繊維とするものであり、耐炎化時の張力(延伸配分)は特に限定されるものでは無い。
【0024】
本発明の炭素繊維の製造方法においては、上記耐炎化繊維を、不活性雰囲気中で、第一炭素化工程において、300〜900℃の温度範囲内で、好ましくは1.03〜1.06の延伸倍率で一次延伸処理し、次いで0.9〜1.01の延伸倍率で二次延伸処理して繊維比重1.50〜1.70の第一炭素化処理繊維を得る。
【0025】
この第一炭素化処理繊維を、不活性雰囲気中で、第二炭素化工程において800〜1600℃の温度範囲内で、同工程を一次処理と二次処理とに分けて延伸処理して第二炭素化処理繊維を得る。
【0026】
この第二炭素化処理繊維を、引き続き不活性雰囲気中で第三炭素化工程において1500〜2200℃の温度範囲内で、同工程を一次処理と二次処理とに分けて熱処理する。
【0027】
第三炭素化工程の一次処理では、第二炭素化処理後の繊維の比抵抗値が21Ω・g/m2以上の範囲、同繊維の比重が一次処理中低下し続ける範囲、同繊維のN/C[窒素含有量/炭素含有量]が0.8質量%以上の範囲、同繊維の単繊維伸度が低下し続ける範囲で且つ1.8%以上の範囲、更に同繊維の広角X線測定(回折角26°)における結晶子サイズが2.15nmより大きくならない範囲で同繊維を延伸処理する。
【0028】
第二炭素化処理後の繊維の第三炭素化工程一次処理における、比抵抗値、比重、N/C、単繊維伸度、並びに、広角X線測定(回折角26°)での結晶子サイズの、変化及び条件範囲の一例を、それぞれ図1、2、3、4及び5に示す。
【0029】
なお、第三炭素化工程一次処理での繊維張力(F MPa)は、第二炭素化工程後の繊維直径、即ち繊維断面積(S mm2)により変わるため、本発明においては張力ファクターとして繊維応力(D mN)を用い、この繊維応力の範囲は下式
0.25 ≦ D ≦ 1.60
〔但し、D = F × S
S= πA2 / 4
Aは第二炭素化処理繊維の直径(mm)〕
を満たす範囲としている。
【0030】
ここで繊維断面積は、JIS−R−7601に規定する測微顕微鏡による方法において繊維直径をn=20で測定し、その平均値を用い、真円として算出した値を使用している。
【0031】
繊維応力Dが0.25mN未満の場合は、繊維の毛羽立ちが多く、品位が悪化するので好ましくない。繊維応力Dが1.60mNより大きい場合は、繊維に構造破壊が生じ、糸切れが起こり強度が低下するので好ましくない。
【0032】
上記方法により得られた一次処理繊維は、引き続いて以下の二次処理を施す。
【0033】
この二次処理においては、一次処理繊維の比抵抗値が21Ω・g/m2未満の範囲、同繊維の比重が二次処理中上昇し続ける範囲、同繊維のN/C[窒素含有量/炭素含有量]が0.8質量%未満、0.5質量%以上の範囲、同繊維の単繊維伸度が一端低下した後、上昇・低下する範囲において1.8%以上である範囲、更に、同繊維の広角X線測定(回折角26°)における結晶子サイズが2.15nm以上で、上昇又は変化しない範囲において2.4nmより大きくならない範囲で同繊維を延伸処理する。
【0034】
上記一次処理繊維の二次処理における、比抵抗値、比重、N/C、単繊維伸度、並びに、広角X線測定(回折角26°)での結晶子サイズの、変化及び条件範囲の一例を、それぞれ図6、7、8、9及び10に示す。
【0035】
なお、第三炭素化工程二次処理での繊維張力(G MPa)も、一次処理時と同様に第二炭素化工程後の繊維直径、即ち繊維断面積(S mm2)により変わるため、本発明においては張力ファクターとして繊維応力(E mN)を用い、この繊維応力の範囲は下式
0.65 ≦ E ≦ 2.80
〔但し、E = G × S
S = πA2 / 4
Aは第二炭素化処理繊維の直径(mm)〕
を満たす範囲としている。
【0036】
繊維応力Eが0.65mN未満の場合は、延伸処理による繊維強度の向上効果がでないので好ましくない。繊維応力Eが2.80mNより大きい場合は、繊維の強度低下、品位低下が起こるので好ましくない。
【0037】
得られた第三炭素化処理繊維、即ち第三炭素化工程終了後に得られる炭素繊維は、引き続き公知の方法により、表面処理を施した炭素繊維となり得る。さらに、炭素繊維の後加工をしやすくし、取扱性を向上させる目的で、サイジング処理することが好ましい。サイジング方法は、従来の公知の方法で行うことができ、サイジング剤は、用途に即して適宜組成を変更して使用し、均一付着させた後に、乾燥することが好ましい。なお、第三炭素化処理繊維の直径は4〜8μmであることが好ましい。
【0038】
このようにして得られた炭素繊維は、緻密、高配向度、高強度且つ高弾性率を有し、ストランドの引揃え性が乱れることの無い、良好なストランド形態の炭素繊維であり、本発明の製造方法によりなし得るものである。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に具体的に説明する。また、各実施例及び比較例における処理条件、及び炭素繊維物性についての評価方法は以下の方法により実施した。
【0040】
<比抵抗値>
比抵抗値の測定に関しては、JIS−R−7601に規定する体積抵抗率の炭素繊維の試験A法を参考に行うことができる。ただし、JIS−R−7601では、電気抵抗値に、炭素繊維の比重を掛け合わせた体積抵抗率を求めており、比抵抗値〔X (Ω・g/m2)〕を求めるには、下式
X = Rb×t/L
Rb:試験片長Lのときの電気抵抗(Ω)、t:試験片の繊度(tex)、L:抵抗測定時の試験片長(m)
を用いて行った。なお、抵抗測定時の試験片長については、1m程度で測定することが好ましい。
【0041】
<比重>
アルキメデス法により測定した。試料繊維はアセトン中にて脱気処理し測定した。
【0042】
<窒素含有量>
元素分析装置(FISONS INSTRUMENTS社製)により測定した元素分析値から求めた。
【0043】
<結晶子サイズ、配向度>
X線回折装置:リガク製RINT1200L、コンピュータ:日立2050/32を使用し、回折角26°における結晶子サイズを回折パターンより、配向度を半価幅より求めた。
【0044】
<単繊維伸度>
JIS R 7606(2000)に規定された方法により第一炭素化工程一次延伸処理繊維の単繊維伸度を測定した。
【0045】
<ストランド強度、弾性率>
JIS R 7601に規定された方法により第二炭素化処理繊維、第三炭素化処理繊維(炭素繊維)のストランド強度、弾性率を測定した。
【0046】
実施例1
アクリロニトリル95質量%/アクリル酸メチル4質量%/イタコン酸1質量%よりなる共重合体紡糸原液を湿式又は乾湿式紡糸し、水洗・乾燥・延伸・オイリングして繊維直径9.2μmの前駆体繊維を得た。この繊維を加熱空気中、入口温度(最低温度)240℃、出口温度(最高温度)250℃の熱風循環式耐炎化炉で耐炎化処理し、繊維比重1.35のPAN系耐炎化繊維を得た。
【0047】
次いで、この耐炎化繊維を不活性雰囲気中、入口温度(最低温度)300℃、出口温度(最高温度)600℃の第一炭素化炉において、一次延伸・二次延伸処理を以下に示す条件で実施した。
【0048】
一次延伸は、延伸倍率1.05倍で処理し、二次延伸は、延伸倍率1.00倍で処理したところ、比重1.63、配向度78.0%、繊維直径6.1μmの糸切れのない第一炭素化処理繊維を得た。
【0049】
次いで、この第一炭素化処理繊維を不活性雰囲気中、入口温度(最低温度)700℃、出口温度(最高温度)1600℃の第二炭素化炉において、一次処理・二次処理を以下に示す条件で実施した。
【0050】
先ず、上記第一炭素化処理繊維を、繊維張力27.9MPa、繊維応力0.817mNで延伸処理し、一次処理繊維を得た。
【0051】
その後この一次処理繊維を、引き続き第二炭素化工程において、繊維張力14.0MPa、繊維応力0.418mNで延伸処理し、比重1.81、繊維直径5.0μm、繊維断面積1.963×10-5mm2、ストランド強度6500MPa、ストランド弾性率280GPa、配向度81.8%、結晶子サイズ1.88nmの第二炭素化処理繊維を得た。
【0052】
次いで、この第二炭素化処理繊維を不活性雰囲気中、入口温度(最低温度)1600℃、出口温度(最高温度)2000℃の第三炭素化炉において、一次処理・二次処理を以下に示す条件で実施した。
【0053】
先ず、上記第二炭素化処理繊維を、比抵抗値、比重、N/C、単繊維伸度、及び結晶子サイズについて、図1、2、3、4及び5に示す範囲内に調節すると共に、繊維張力41.6MPa、繊維応力0.817mNで延伸処理し、一次処理繊維を得た。
【0054】
その後この一次処理繊維を、引き続き第三炭素化工程において二次処理が終了するまで、比抵抗値、比重、N/C、単繊維伸度、及び結晶子サイズについて、図6、7、8、9及び10に示す範囲内に調節すると共に、繊維張力83.2MPa、繊維応力1.633mNで延伸処理し、引き続き公知の方法にて表面処理、サイジングを施し、乾燥して比重1.79、繊維直径4.9μm、ストランド強度6050MPa、ストランド弾性率342GPa、配向度84.5%、結晶子サイズ2.25nmの炭素繊維を得た。
【0055】
比較例1
実施例1で得られた第二炭素化処理繊維を、第三炭素化工程一次処理において、表1に示すように繊維張力12.5MPa、繊維応力0.245mNで処理した以外は実施例1と同様の処理を行った。しかし、得られた炭素繊維は、比重1.79、繊維直径5.0μm、配向度84.3%、結晶子サイズ2.24nm、ストランド強度5800MPa、ストランド弾性率340GPaと低強度であり、しかも毛羽立ちが起こったストランド形態の悪いものであった。
【0056】
実施例2
実施例1で得られた第二炭素化処理繊維を、第三炭素化工程一次処理において、表1に示すように繊維張力20.8MPa、繊維応力0.408mNで処理した以外は、実施例1と同様の処理を行い、比重1.79、繊維直径4.9μm、配向度84.4%、結晶子サイズ2.25nm、ストランド強度5900MPa、ストランド弾性率341GPaの、糸切れの無いストランド形態の良好な炭素繊維を得た。
【0057】
実施例3
実施例1で得られた第二炭素化処理繊維を、第三炭素化工程一次処理において、表1に示すように繊維張力62.4MPa、繊維応力1.225mNで処理した以外は、実施例1と同様の処理を行い、比重1.78、繊維直径4.9μm、配向度84.5%、結晶子サイズ2.26nm、ストランド強度5950MPa、ストランド弾性率344GPaの、糸切れの無いストランド形態の良好な炭素繊維を得た。
【0058】
比較例2
実施例1で得られた第二炭素化処理繊維を、第三炭素化工程一次処理において、表1に示すように繊維張力83.2MPa、繊維応力1.633mNで処理した以外は実施例1と同様の処理を行った。しかし、得られた炭素繊維は、糸切れの無いストランド形態の良好なものではあったが、比重1.77、繊維直径4.8μm、配向度84.5%、結晶子サイズ2.25nm、ストランド強度5700MPa、ストランド弾性率342GPaと、低強度のものであった。
【0059】
【表1】
比較例3
実施例1で得られた第三炭素化工程一次処理繊維を、第三炭素化工程二次処理において、表2に示すように繊維張力29.1MPa、繊維応力0.572mNで処理した以外は実施例1と同様の処理を行った。しかし、得られた炭素繊維は、糸切れの無いストランド形態の良好なものではあったが、比重1.78、繊維直径5.0μm、配向度84.3%、結晶子サイズ2.25nm、ストランド強度5800MPa、ストランド弾性率339GPaと、低強度のものであった。
【0060】
実施例4
実施例1で得られた第三炭素化工程一次処理繊維を、第三炭素化工程二次処理において、表2に示すように繊維張力41.6MPa、繊維応力0.817mNで処理した以外は、実施例1と同様の処理を行い、比重1.79、繊維直径4.9μm、配向度84.4%、結晶子サイズ2.24nm、ストランド強度6000MPa、ストランド弾性率341GPaの、糸切れの無いストランド形態の良好な炭素繊維を得た。
【0061】
実施例5
実施例1で得られた第三炭素化工程一次処理繊維を、第三炭素化工程二次処理において、表2に示すように繊維張力124.8MPa、繊維応力2.450mNで処理した以外は、実施例1と同様の処理を行い、比重1.80、繊維直径4.8μm、配向度84.6%、結晶子サイズ2.25nm、ストランド強度6100MPa、ストランド弾性率345GPaの、糸切れの無いストランド形態の良好な炭素繊維を得た。
【0062】
比較例4
実施例1で得られた第三炭素化工程一次処理繊維を、第三炭素化工程二次処理において、表2に示すように繊維張力166.4MPa、繊維応力3.267mNで処理した以外は実施例1と同様の処理を行った。しかし、得られた炭素繊維は、比重1.79、繊維直径4.7μm、配向度84.7%、結晶子サイズ2.25nm、ストランド強度5850MPa、ストランド弾性率346GPaと低強度であり、しかも糸切れを生じたストランド形態の悪いものであった。
【0063】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】第三炭素化工程における一次処理時の温度上昇に対する第二炭素化処理繊維の比抵抗値の推移を示すグラフである。
【図2】第三炭素化工程における一次処理時の温度上昇に対する第二炭素化処理繊維の比重の推移を示すグラフである。
【図3】第三炭素化工程における一次処理時の温度上昇に対する第二炭素化処理繊維のN/Cの推移を示すグラフである。
【図4】第三炭素化工程における一次処理時の温度上昇に対する第二炭素化処理繊維の単繊維伸度の推移を示すグラフである。
【図5】第三炭素化工程における一次処理時の温度上昇に対する第二炭素化処理繊維の結晶子サイズの推移を示すグラフである。
【図6】第三炭素化工程における二次処理時の温度上昇に対する第三炭素化工程一次処理繊維の比抵抗値の推移を示すグラフである。
【図7】第三炭素化工程における二次処理時の温度上昇に対する第三炭素化工程一次処理繊維の比重の推移を示すグラフである。
【図8】第三炭素化工程における二次処理時の温度上昇に対する第三炭素化工程一次処理繊維のN/Cの推移を示すグラフである。
【図9】第三炭素化工程における二次処理時の温度上昇に対する第三炭素化工程一次処理繊維の単繊維伸度の推移を示すグラフである。
【図10】第三炭素化工程における二次処理時の温度上昇に対する第三炭素化工程一次処理繊維の結晶子サイズの推移を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性雰囲気中、比重1.3〜1.4のポリアクリロニトリル系耐炎化繊維を300〜900℃の温度範囲内で第一炭素化し、次いで800〜1600℃で第二炭素化して得られた繊維を、1500〜2200℃で第三炭素化して熱処理する炭素繊維の製造方法において、第三炭素化工程における一次処理を下記の条件(1)乃至(6)のいずれをも満たす範囲で行い、二次処理を下記条件(7)乃至(12)のいずれをも満たす範囲で行う炭素繊維の製造方法。
一次処理
(1) 第二炭素化処理後の繊維の比抵抗値が21Ω・g/m2以上の範囲
(2) 第二炭素化処理後の繊維の比重が一次処理中低下し続ける範囲
(3) 第二炭素化処理後の繊維のN/C[窒素含有量/炭素含有量]が0.8質量%以上の範囲
(4) 第二炭素化処理後の繊維の単繊維伸度が低下し続ける範囲で、且つ1.8%以上の範囲
(5) 第二炭素化処理後の繊維の結晶子サイズが2.15nmより大きくならない範囲
(6) 第三炭素化工程一次処理での繊維張力(F MPa)と第二炭素化処理繊維の断面積(S mm2)とで算出される繊維応力(D mN)が下式
0.25 ≦ D ≦ 1.60
〔但し、D = F × S
S= πA2 / 4
Aは第二炭素化処理繊維の直径(mm)〕
を満たす範囲で繊維張力を与える処理
二次処理
(7) 一次処理繊維の比抵抗値が21Ω・g/m2未満の範囲
(8) 一次処理繊維の比重が二次処理中上昇し続ける範囲
(9) 一次処理後の繊維のN/C[窒素含有量/炭素含有量]が0.8質量%未満、0.5質量%以上の範囲
(10) 一次処理繊維の単繊維伸度が一端低下した後、上昇・低下する範囲において1.8%以上である範囲
(11) 一次処理繊維の結晶子サイズが2.15nm以上で、上昇又は変化しない範囲において2.4nmより大きくならない範囲
(12) 第三炭素化工程二次処理での繊維張力(G MPa)と第二炭素化処理繊維の断面積(S mm2)とで算出される繊維応力(E mN)が下式
0.65 ≦ E ≦ 2.80
〔但し、E = G × S
S = πA2 / 4
Aは第二炭素化処理繊維の直径(mm)〕
を満たす範囲で繊維張力を与える処理
【請求項1】
不活性雰囲気中、比重1.3〜1.4のポリアクリロニトリル系耐炎化繊維を300〜900℃の温度範囲内で第一炭素化し、次いで800〜1600℃で第二炭素化して得られた繊維を、1500〜2200℃で第三炭素化して熱処理する炭素繊維の製造方法において、第三炭素化工程における一次処理を下記の条件(1)乃至(6)のいずれをも満たす範囲で行い、二次処理を下記条件(7)乃至(12)のいずれをも満たす範囲で行う炭素繊維の製造方法。
一次処理
(1) 第二炭素化処理後の繊維の比抵抗値が21Ω・g/m2以上の範囲
(2) 第二炭素化処理後の繊維の比重が一次処理中低下し続ける範囲
(3) 第二炭素化処理後の繊維のN/C[窒素含有量/炭素含有量]が0.8質量%以上の範囲
(4) 第二炭素化処理後の繊維の単繊維伸度が低下し続ける範囲で、且つ1.8%以上の範囲
(5) 第二炭素化処理後の繊維の結晶子サイズが2.15nmより大きくならない範囲
(6) 第三炭素化工程一次処理での繊維張力(F MPa)と第二炭素化処理繊維の断面積(S mm2)とで算出される繊維応力(D mN)が下式
0.25 ≦ D ≦ 1.60
〔但し、D = F × S
S= πA2 / 4
Aは第二炭素化処理繊維の直径(mm)〕
を満たす範囲で繊維張力を与える処理
二次処理
(7) 一次処理繊維の比抵抗値が21Ω・g/m2未満の範囲
(8) 一次処理繊維の比重が二次処理中上昇し続ける範囲
(9) 一次処理後の繊維のN/C[窒素含有量/炭素含有量]が0.8質量%未満、0.5質量%以上の範囲
(10) 一次処理繊維の単繊維伸度が一端低下した後、上昇・低下する範囲において1.8%以上である範囲
(11) 一次処理繊維の結晶子サイズが2.15nm以上で、上昇又は変化しない範囲において2.4nmより大きくならない範囲
(12) 第三炭素化工程二次処理での繊維張力(G MPa)と第二炭素化処理繊維の断面積(S mm2)とで算出される繊維応力(E mN)が下式
0.65 ≦ E ≦ 2.80
〔但し、E = G × S
S = πA2 / 4
Aは第二炭素化処理繊維の直径(mm)〕
を満たす範囲で繊維張力を与える処理
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2006−283227(P2006−283227A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104232(P2005−104232)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】
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