説明

炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維の製造方法

【課題】生産性や、組成設計の自由度が高く、高性能の炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維を製造するのに好適な炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維の製造方法の提供。
【解決手段】カルボキシ基を含まないアクリロニトリル系重合体(A)と、カルボキシ基を含む重合体(B)とを、ブレンドして紡糸することを特徴とする炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維の製造方法。前記重合体(B)は、カルボキシ基を含むモノマー単位を0.014質量%以上100質量%以下の割合で含有することが好ましい。前記重合体(B)と前記アクリロニトリル系重合体(A)との質量比((B)/(A))は0.0001以上2.3以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素繊維は、その優れた力学的性質により、航空宇宙用途を始め、スポーツ、レジャー用途の複合材料の補強繊維としてなど、広い範囲で利用されている。現在、産業資材用途への更なる広がりが期待されており、これらの複合材料の高性能化等のために、炭素繊維の品質や性能の向上、製造コストの低減等が求められる。
炭素繊維の製造に用いられる炭素繊維前駆体は、一般的には、重合体を有機又は無機溶媒に溶解して溶液(ドープ)とした後、湿式あるいは乾湿式紡糸を行って繊維状に賦型し、延伸、洗浄、乾燥緻密化することにより製造される。炭素繊維の製造方法としては、この炭素繊維前駆体を200〜300℃の酸化性雰囲気下で熱処理することによって耐炎化繊維とし、引き続き、少なくとも1000℃の不活性雰囲気下で炭素化(焼成)する方法が工業的に広く採用されている。
【0003】
炭素繊維前駆体として用いられるアクリロニトリル系繊維(炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維)の原料としては、アクリロニトリル系重合体が広く利用されている。
炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維を用いて炭素繊維を製造するにあたり、焼成を短時間で行うために、アミン類や過酸化物を添加して炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維を製造する方法が提案されている(特許文献1〜2参照。)。しかしながら、この方法はドープや炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維の安定性に悪影響を及ぼし工業的に優れた方法ではない。
また、アクリロニトリル系重合体に、ニトリル基の環化縮合反応を促進する反応開始基として、カルボキシ基を導入する方法も提案されている(特許文献3参照。)。
一方、カルボキシ基は焼成段階で環構造に取り込まれ難いため、得られる炭素繊維中に欠陥点として存在し、機械的特性を低下させるおそれがあるため、アクリロニトリル系重合体中にカルボキシ基をランダムに分散させる提案もなされている(特許文献4参照。)。
【特許文献1】特公昭51−7209号公報
【特許文献2】特開昭48−87120号公報
【特許文献3】特開平5−339813号公報
【特許文献4】特開2000−119342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、カルボキシ基を共重合で導入するような上記方法では、カルボキシ基量を変更するような品種を生産したい場合、生産ラインの洗浄や、複数の重合体の保存庫が必要であり、生産性が著しく悪化する。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、生産性や、組成設計の自由度が高く、高性能の炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維を製造するのに好適な炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する本発明の炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維の製造方法は、カルボキシ基を含まないアクリロニトリル系重合体(A)と、カルボキシ基を含む重合体(B)とを、ブレンドして紡糸することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、生産性や、組成設計の自由度が高く、高性能の炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維を製造するのに好適な炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維の製造方法においては、まず、カルボキシ基を含まないアクリロニトリル系重合体(A)と、カルボキシ基を含む重合体(B)をブレンドする。
ここで、本明細書及び特許請求の範囲において、カルボキシ基を含まないアクリロニトリル系重合体(A)とは、重合体中のアクリロニトリル単位の割合が、90質量%以上100質量%以下のものをいう。重合体中のアクリロニトリル単位の割合は95質量%以上100質量%以下がより好ましい。上記範囲において、アクリロニトリル単位が多いほど、得られる炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維を焼成して炭素繊維としたときに、高強度で、品質並びに性能に優れた炭素繊維が得られる。
【0008】
本発明に用いるカルボキシ基を含まないアクリロニトリル系重合体(A)は、上記条件を満足する限り、アクリル酸のエステル類、メタクリル酸のエステル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、メタクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレン等の、カルボキシ基を含まないモノマーを共重合することによって製造することができる。使用するモノマーは1種類でも多種類でもかまわない。
カルボキシ基を含まないアクリロニトリル系重合体(A)の製造方法は特に限定されず、溶液重合、懸濁重合等公知の重合方法のうちの任意の重合方法を用いて、上述したカルボキシ基を含まないモノマーを重合させればよい。
重合に用いる重合開始剤、触媒は特に限定されず、たとえばアゾ系化合物、有機過酸化物、又は過硫酸/亜硫酸、塩素酸/亜硫酸あるいはそれらのアンモニウム塩等のレドックス触媒が挙げられる。
カルボキシ基を含まないアクリロニトリル系重合体(A)の製造方法として、最適な方法としては、オーバーフロー式の重合容器に、モノマー、蒸留水、重合開始剤として過硫酸アンモニウム、亜硫酸水素アンモニウム及び硫酸を毎分一定量供給し、一定の温度に維持しながら攪拌を続け、オーバーフローしてきた重合スラリーから洗浄、乾燥を経てアクリロニトリル系重合体を得る方法が挙げられる。
【0009】
カルボキシ基を含まないアクリル系重合体(A)の重合度は、カルボキシ基を含まないアクリル系重合体(A)とカルボキシ基を含む重合体(B)とのブレンド後の紡糸工程での延伸特性や、炭素繊維の性能発現性などの点から、極限粘度[η]で1以上が好ましく、1.4以上が更に好ましい。
【0010】
カルボキシ基を含まないアクリル系重合体(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上のポリマーの混合物を用いてもかまわない。
【0011】
カルボキシ基を含む重合体(B)とは、カルボキシ基を含むモノマー単位を含有する重合体をいう。
カルボキシ基を含むモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等が挙げられ、また、加水分解することによりカルボキシ基となる酸無水物基を含むモノマーも含まれる。酸無水物基を含むモノマーとしては無水マレイン酸等が挙げられる。これらのモノマーは、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
カルボキシ基を含むモノマーとしては、アクリル酸及び/又はメタクリル酸及び/又はイタコン酸が好ましい。
【0012】
カルボキシ基を含む重合体(B)中のカルボキシ基を含むモノマー単位の割合は、0.014質量%以上100質量%以下であることが好ましい。カルボキシ基が0.014質量%以上含まれると、焼成時間を短時間で進めることができる。得られるカルボキシ基を含む重合体(B)が、ドープ作製の際に溶媒に溶解可能であれば、全てのモノマー単位がカルボキシ基を含むモノマー単位でもかまわない。
カルボキシ基を含むモノマー単位が多いほど、炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維中のカルボキシ基量を調整しやすいため、カルボキシ基を含むモノマー単位の割合は、0.1質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましい。
【0013】
カルボキシ基を含む重合体(B)は、本発明の効果を損なわない範囲で、カルボキシ基を含むモノマー単位以外のモノマー単位を有していてもよい。
カルボキシ基を含むモノマー以外の成分としては、特に限定しないが、焼成時に炭素骨格へ取り込まれやすい点から、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、メタクリロニトリル等が好ましい。これらのモノマーは、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、本発明の効果を損なわない範囲で、スルホン酸基含有ビニル単量体及び硫酸基含有ビニル単量体等のニトリル基の環化縮合反応を促進する基を含む化合物を共重合することもできる。
【0014】
カルボキシ基を含む重合体(B)の製造方法は特に限定されず、前記カルボキシ基を含まないアクリロニトリル系重合体(A)と同様の方法で製造できる。
【0015】
カルボキシ基を含む重合体(B)の重合度は、カルボキシ基を含まないアクリロニトリル系重合体(A)とカルボキシ基を含む重合体(B)とのブレンド後の紡糸工程で系外へ著しく溶け出さず、延伸特性や炭素繊維の性能発現性を損なわない範囲であれば特に限定されない。
【0016】
カルボキシ基を含む重合体(B)としては、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0017】
本発明においてブレンドする、カルボキシ基を含む重合体(B)と、カルボキシ基を含まないアクリロニトリル系重合体(A)との質量比((B)/(A))は、0.0001以上2.3以下であることが好ましい。(B)/(A)が0.0001以上であると、焼成時間を短時間で進めることが可能になり、2.3以下であると、炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維中のカルボキシ基量を調整しやすいため好ましい。
焼成時間を短時間で進める効果と、プレカーサー中のカルボキシ基量を調整しやすさとのバランスから、(B)/(A)は、0.001以上1.5以下がより好ましく、0.002以上1以下がさらに好ましい。
【0018】
紡糸方法としては、カルボキシ基を含まないアクリロニトリル系重合体(A)とカルボキシ基を含む重合体(B)とが溶媒に溶解したドープを、紡糸口金(円形断面を有するノズル孔等)から湿式紡糸法又は乾−湿式紡糸法により紡出する方法が好ましい。
ドープの溶媒としては、カルボキシ基を含まないアクリロニトリル系重合体(A)及びカルボキシ基を含む重合体(B)を均一に溶解できるものならば特に限定されず、たとえばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、塩化亜鉛水溶液、チオシアン酸水溶液などが挙げられる。
アクリロニトリル系重合体を溶媒に溶解する方法は、特に限定されず、例えば、アクリロニトリル系重合体と溶媒とをニーダーで混合したのち、加熱することにより溶解できる。
このとき、カルボキシ基を含まないアクリロニトリル系重合体(A)とカルボキシ基を含む重合体(B)とをブレンドした後で溶媒に溶解させてもかまわないし、カルボキシ基を含まないアクリロニトリル系重合体(A)及びカルボキシ基を含む重合体(B)をそれぞれ別個に溶解させた後、それらの溶液を混合してもかまわない。また、いずれか一方の重合体を溶解させた溶液に他方の重合体を添加し、溶解させてもよい。たとえば、カルボキシ基を含む重合体(B)を紡糸直前で添加することにより、ドープのゲル化を抑制することも可能である。
ドープは、紡糸性の観点から、重合体濃度(カルボキシ基を含まないアクリロニトリル系重合体(A)及びカルボキシ基を含む重合体(B)の合計の濃度)が10質量%以上であることが好ましく、17質量%以上がより好ましく、19質量%以上がさらに好ましい。アクリロニトリル系重合体濃度の上限は、紡糸性を考慮すると、30質量%以下が好ましく、27質量%以下がより好ましい。
紡糸ドラフト(紡糸工程中、どの部分で延伸をかけるか)は、アクリロニトリル系重合体濃度、延伸倍率に応じ、所望の繊度が得られるように適切に設定すればよい。
炭素繊維用前駆体繊維として用いる場合、アクリロニトリル繊維の単糸繊度は、炭素繊維の機械物性の観点から、2.0dtex以下が好ましく、1.5dtex以下がより好ましい。
【0019】
湿式紡糸法の場合は、ドープを紡糸口金より直接凝固浴中に吐出し凝固糸とし、乾湿式紡糸の場合は、ドープを紡糸口金より一旦空気中に吐出しその後直ちに凝固浴にて凝固糸とする。
凝固浴は、凝固糸引き取り及び後の延伸に充分な余裕がある条件に設定することが好ましく、これらの要件を満たすよう凝固浴濃度、温度を設定することが好ましい。
凝固浴には、ドープに用いられる溶剤を含む水溶液が好適に使用され、含まれる溶剤の濃度を適宜調節する。
凝固浴の温度は、凝固糸の緻密性の観点からは温度が低い方が好ましいが、温度を下げすぎると凝固糸の引き取り速度が低下し生産性が低下する点を考慮し、湿式紡糸では、50℃以下が好ましく、さらに好ましくは20℃以上40℃以下である。乾湿式紡糸では、30℃以下が好ましく、さらに好ましくは0℃以上20℃以下である。
【0020】
凝固糸は、通常、洗浄、延伸を経た後、油剤処理が施される。また、油剤処理後、乾燥緻密化し、必要に応じて、加熱ロールや加圧スチーム下で再度延伸が施される。これにより、炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維が得られる。
【0021】
凝固糸の延伸方法としては、沸水中で凝固糸に含まれている溶媒を洗浄しながら延伸する湿熱延伸法が好ましい。乾燥緻密化後にさらに延伸を加える場合、このときの延伸倍率は、特に大きな倍率を必要としないので2倍以上5倍以下であれば十分である。乾燥緻密化後に延伸を加えない場合はここで必要なだけの延伸倍率に設定する必要がある。また、湿熱延伸法として、2段以上の多段延伸法を用いることも可能である。また、湿熱延伸より前に空気中延伸を行うことも可能である。空気中延伸および湿熱延伸の手順は、本発明による特段の制限はなく、公知の方法を適用することができる。
湿熱延伸法における延伸浴温度は、単糸同士が融着しない範囲でできるだけ高温にすることが効果的である。この観点から、延伸浴の温度は70℃以上とすることが好ましい。湿熱延伸を多段で行う場合は、最終浴を90℃以上とすることが好ましい。
【0022】
油剤処理方法については本発明による特段の制限はなく、公知の方法を適用することができる。油剤の種類は特に限定されないが、アミノシリコーン系油剤が好適に使用される。
乾燥緻密化の温度は、繊維のガラス転移温度を超えた温度で行う必要があるが、実質的には含水状態から乾燥状態によって異なることもあり、100〜200℃程度の加熱ローラーによる方法が好ましい。
合計延伸倍率が低いと繊維の配向が低下して、アクリロニトリル系繊維及び炭素繊維の性能が低下する傾向があるという点で不利であり、高いと糸切れが生じる傾向があり生産上不利である。この観点から、乾燥緻密化後、さらに延伸を施すのが好ましい。この延伸の方法は加熱ローラー間で行う乾熱延伸、加熱板上で行う熱板延伸、加圧蒸気中で行うスチーム延伸等を採用することができる。特に、高い延伸倍率を実現できるスチーム延伸が好ましい。また、同じ観点からこの延伸を含む合計延伸倍率は、8倍以上20倍以下が好ましい。
【0023】
上記のようにして得られた炭素前駆体アクリロニトリル系繊維は、200℃〜400℃の酸化性雰囲気中で加熱処理(耐炎化処理)することにより耐炎化繊維に転換することができる。さらに、該耐炎化繊維を、公知の方法により1000℃〜1500℃程度の不活性雰囲気中で炭素化することにより、炭素繊維を得ることができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
実施例中において、アクリロニトリル、アクリルアミド及びメタクリル酸はそれぞれAN、AAm及びMAAと表し、%は質量%を表す。
(イ)「重合体の組成」
系重合体の組成(各モノマー単位の比率(質量比))は、H−NMR法(日本電子社製、GSZ−400型超伝導FT−NMR)により定量した。
(ロ)「重合体の極限粘度[η]」
25℃のジメチルホルムアミド溶液を用い、ウベローデ式粘度計を用い測定した。
(ハ)「炭素繊維のストランド特性」
ストランド強度及びストランド弾性率は、JIS−R−7601に記載された試験法に準拠して測定した。
【0025】
[製造例1:重合体(A1)の作製]
オーバーフロー式の重合容器にAN、AAmと蒸留水、そして重合開始剤の過硫酸アンモニウム、亜硫酸水素アンモニウムを毎分一定量供給し、50℃に維持しながら攪拌を続け、オーバーフローしてきた重合スラリーから洗浄、乾燥を経て重合体(A1)を得た。この重合体の組成はAN/AAm=97.5/2.5であった。また、この重合体の極限粘度[η]は1.8であった。
【0026】
[製造例2:重合体(B1)の作製]
AN、AAmの代わりにAN、AAm、MAAを用いた以外は製造例1と同様にして重合体(B1)を得た。この重合体の組成はAN/AAm/MAA=95.7/2.5/1.8であった。また、この重合体の極限粘度[η]は1.8であった。
【0027】
[製造例3:重合体(C1)の作製]
AN、AAm、MAAの使用量を変更した以外は製造例1と同様にしてアクリロニトリル系重合体(C1)を得た。この重合体の組成はAN/AAm/MAA=96.6/2.5/0.9であった。また、この重合体の極限粘度[η]は1.8であった。
【0028】
[実施例1]
製造例1で作製した重合体(A1)50部と、製造例2で作製した重合体(B1)50部と、ジメチルアセトアミドとを、ニーダーで混合したのち、加熱溶解して、重合体濃度21質量%のアクリロニトリル系重合体溶液(ドープ)を調製した。
このドープを、孔径0.75mm、孔数3000の紡糸口金を用いて、濃度69%のジメチルアセトアミド水溶液(浴温35℃)中に吐出して凝固繊維とし、更にこの凝固繊維を水洗槽中で脱溶媒するとともに3倍に延伸して水膨潤状態のアクリロニトリル系繊維とした。この水膨潤状態のアクリロニトリル系繊維にアミノシリコーン系油剤を付与し、表面温度130℃の加熱ロールで乾燥緻密化し、170℃の加圧蒸気中で3倍延伸を施して炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維を得た。
この炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維を、230℃〜270℃の温度勾配を有する耐炎化炉で60分かけて通し、さらに窒素雰囲気下で300℃〜1400℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維を得た。この炭素繊維のストランド特性を表1に示す。
【0029】
[比較例1]
製造例3で作製した重合体(C1)とジメチルアセトアミドとを所定量、常温で、ニーダーで混合したのち、加熱溶解して、重合体濃度21質量%のドープを調製した。
このドープを用いて、実施例1と同様にして炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維を得た。
この炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維を、230℃〜270℃の温度勾配を有する耐炎化炉で60分かけて通し、さらに窒素雰囲気下で300℃〜1400℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維を得た。この炭素繊維のストランド特性を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
上記結果に示すように、実施例1においては、重合体(A1)と重合体(B1)とをブレンドし、紡糸することで、みかけ上同じ組成である単一の重合体(C)を用いた比較例1と同レベルの高性能の炭素繊維を得られる炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維が製造できた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維の製造方法は、生産性や、組成設計の自由度が高く、高性能の炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維を製造するのに好適である。
たとえば、本発明により製造される炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維によれば、重合体(A)と重合体(B)とのブレンドと見かけ上同じ組成の単一重合体を用いて得られる炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維を用いる場合と同等の性能(たとえば強度、弾性率等)を有する炭素繊維を得ることができる。そのため、単一重合体を用いる場合に比べ、容易に高性能の炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維を製造できる。
また、重合体(A)と重合体(B)とのブレンド比率を変えるだけで、炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維中のカルボキシ基量を容易に変更できる。
また、重合体(B)により、炭素繊維製造時の焼成を短時間で行うために必要なカルボキシ基の量を確保できるため、アクリロニトリル系重合体(A)として、共重合が困難な、立体規則性を制御したポリアクリロニトリルや、超高分子量ポリアクリロニトリルなどを用いることができ、高性能な炭素繊維を得ることが可能となる。「立体規則性を制御したポリマー」とは、13C−NMR測定により定量可能なアイソタクチックトライアッド(mm)、やシンジオタクチックトリアッド(rr)が0.3を超えるようなポリマーを意味する。超高分子量ポリアクリロニトリルは、極限粘度[η]で3以上の超高分子量のものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシ基を含まないアクリロニトリル系重合体(A)と、カルボキシ基を含む重合体(B)とを、ブレンドして紡糸することを特徴とする炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維の製造方法。

【公開番号】特開2008−303500(P2008−303500A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−151794(P2007−151794)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】