説明

炭素繊維前駆体繊維束、その製造方法及び製造装置、並びに炭素繊維とその製造方法

複数の小トウを容易に1本に集束可能で焼成時に自然に元の小トウに分割可能な分割能を備え、生産性や品質に優れる炭素繊維を得るに好適な炭素繊維前駆体繊維束、その製造方法及び装置、優れた炭素繊維とその製造方法を提供する。小トウ間交絡度が1m−1以下で容器に収納した際のトウの水分率が10質量%未満の捲縮が付与されない実質的にストレートな繊維からなり、容器への収納時及び容器から引き出して焼成工程に導入す
る際には1本の集合トウの形態を保持し、焼成工程にて同工程で発生する張力により複数の小トウに分割可能な幅方向の分割能を有する炭素繊維前駆体繊維束。その製造方法。複数の小トウが隣接して通過可能な偏平矩形断面を有する糸道を備え、偏平矩形の長辺方向に所定の間隔をおいて複数配された糸道に開口するエア噴出孔を有する交絡付与装置を備える炭素繊維前駆体繊維束の製造装置。この前駆体繊維束を用いる炭素繊維とその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維とその製造方法に関する。また本発明は、炭素繊維を製造するために用いられる炭素繊維用前駆体繊維束とその製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素繊維用のアクリロニトリル系前駆体繊維としては、高強度、高弾性率の炭素繊維を得るために、糸切れや毛羽の発生の少ない、品質に優れた3,000〜20,000フィラメントの,いわゆるスモールトウが主に製造され、これから製造された炭素繊維が航空・宇宙、スポーツ分野等の多くの分野に用いられてきた。
【0003】
炭素繊維製造用の前駆体繊維は、炭化処理に先立って、200〜350℃の酸化性雰囲気中で加熱する耐炎化処理がなされる。耐炎化処理は反応熱を伴うことから繊維トウの内部に蓄熱されやすい。繊維トウの内部に余剰の蓄熱がなされると、フィラメント切れや繊維間の融着が発生しやすくなる。そのため、なるべくこの反応熱による蓄熱を抑える必要がある。この蓄熱を抑えようとするには、耐炎化炉に供給する繊維トウの太さを所定の太さ以下とせざるを得ず、繊維トウの太さに制約を受けるため、生産性を低下させると同時に製造コストを押し上げる要因にもなっている。
【0004】
こうした問題を解決するため、例えば特許文献1(特開平10−121325号公報)によれば、容器への収容時には1本のトウの形態を保ちながら、容器から引き出して使用するときに、複数の小トウに分割可能な幅方向に分割能を有する炭素繊維用前駆体繊維トウが開示されている。そして、この分割能を有する繊維トウを製造するには、紡糸された複数本の糸(繊維)を、各群が所定の糸本数となるように複数の群に分割し、その分割状態にて複数並列して走行させ、製糸工程、仕上油剤付与工程を通過させたのち、クリンパを備えた捲縮付与工程に供される。この捲縮付与により所定数の複数の群を1本のトウの形態に集束させる。前記捲縮付与工程を通さないときは、各小トウに10%以上50%以下の水分を含ませる。
【0005】
前記集束形態にあっては、小トウ形態を有する各糸条群の耳部における糸条同士を1mm程度斜交させて互いに弱く交絡させ、複数の糸条群から構成する1本のトウ形態を保持させる。各糸条群の耳部における糸条の斜交による交絡は弱いため、1本のトウ形態に保持された後に、炭素繊維製造工程に供されて使用される際にも、容易に耳部から各糸条群毎に分割可能となっており、この集束された繊維束を小トウに分割可能な形態で容器に収容する。
【0006】
容器に収容された分割能を有する炭素繊維用の前駆体繊維束は、耐炎化炉への導入前の分割工程にて、前述の小トウ毎に分割される。この分割は、たとえば溝付ロールや分割用ガイドバーを用いて行うとしている。小トウ同士は、それらの耳部で弱い交絡によって集束されているため、この分割は極めて容易に行うことができ、分割に際しても毛羽の発生や糸切れが殆ど生じないというものである。こうした所定サイズ以下の小トウ形態に分割された各小トウは、耐炎化工程に導入されて耐炎化処理がなされる。このとき、分割された状態で小トウに耐炎化処理がなされるため、過剰蓄熱が発生せず、糸切れやフィラメント間の融着も防止されるとある。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1による集束繊維束に対する小トウへの分割能の付与機構は、小トウにおける耳部に存在する繊維単位の斜行による交絡であるとされているが、小トウ分割部における交絡度が1〜10m−1では、耐炎化工程に導入される以前に分割手段によって小トウに分割すると、単糸切れを生じてしまい炭素繊維の品質に影響を与える可能性がある。さらに特許文献1には、小トウ同士を交絡する手段としては、各小トウの耳部における糸条同士が斜行されて互いに弱く交絡し1本のトウ形態に維持される捲縮付与による方法しか示されていない。こうした捲縮トウの場合は、炭素繊維製造工程において耐炎化工程へそのまま供給すると、トウ全域に渡って均等に捲縮を引き伸ばして所定の伸張を付与することが難しい。その結果、得られる炭素繊維の目付け(単位長さあたりの重量)、繊度に斑が生じ、得られる炭素繊維の品質に影響を及ぼす可能性がある。そのため耐炎化工程以前に捲縮除去手段が必要となるが、設備空間が増大するとともに省力化が難しく、生産性にも大きな影響を与える。
【0008】
一方、上記特許文献1では、捲縮が付与されていないストレートトウの形態の場合、その水分率が10〜50%であるとのみ記載されている。すなわち、水分による表面張力によって小トウが集束され1本のトウ形態を保持する機構のみが記載されていることになる。この水分率ではトウ内の水による表面張力で、容器に収納された際の折り返し部の折癖などは元に戻らず、結果として炭素繊維の製造工程に供給する際に折癖やそれに起因するトウ内のフィラメントの斜行などがそのままの状態で供給され、得られる炭素繊維の品位が損なわれ、或いは場合によっては折癖が捩れとなって、その部分に耐炎化工程での過剰な蓄熱が発生する恐れがある。
【0009】
更に、クリンパを通すかどうかは別にして、集束繊維束を容器から引き出して、焼成工程に導入する前に、同集束繊維束を所要の太さをもつ小トウに分割する必要があり、そのための分割装置をわざわざ設置する必要があり、設備空間が増大し、或いは省力化が難しく、生産性にも大きな影響を与える。
【0010】
一方、炭素繊維の利用は、自動車、土木、建築、エネルギー等の一般産業分野に拡大されつつあり、そのため、より安価で生産性の優れた太物炭素繊維はもちろんの事、高強度、高弾性率且つ高品位,高品質な太物炭素繊維の供給が強く求められている。例えば、特許文献2および3に太物炭素繊維または炭素繊維前駆体繊維束の製造法が開示されているが、いずれに開示されている炭素繊維も強度発現性が十分ではなく、従来のフィラメント数が12,000本以下のスモールトウ並のストランド強度、弾性率には至っていないのが現状である。
【特許文献1】特開平10−121325号公報
【特許文献2】特開平11−189913号公報
【特許文献3】特開2001−181925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、簡単な操作で複数本の小トウを1本の集束繊維束に集束させることが可能であって、且つ焼成工程では自然にもとの小トウに分割可能な分割能を備え、製造コストが低く、生産性に優れ、糸切れ、毛羽の発生の少ない、高品位、高品質で、特に強度発現性に優れた炭素繊維を得るに好適な炭素繊維前駆体繊維束およびその製造方法と製造装置を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、このような優れた炭素繊維とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は以下の通りである。
【0014】
1)フックドロップ法による複数の小トウ間の交絡度が1m−1以下であり、容器に収納した際のトウの水分率が10質量%未満の捲縮が付与されない実質的にストレートな繊維からなり、容器への収納時及び前記容器から引き出して焼成工程に導入する際には1本の集合トウの形態を保持し、焼成工程にて同工程で発生する張力により複数の小トウに分割可能な幅方向の分割能を有することを特徴とする炭素繊維前駆体繊維束。
【0015】
2)単繊維繊度が0.7dtex以上1.3dtex以下、前記小トウの単繊維数が50000以上150000以下、前記集合トウの総単繊維数が100000以上600000以下である1)記載の炭素繊維前駆体繊維束。
【0016】
3)小トウの幅方向の端部が隣接する小トウの幅方向端部と単繊維のエア流による交絡により1本の集合トウ形態とされた1)または2)記載の炭素繊維前駆体繊維束。
【0017】
4)単繊維間の接着本数が5ヶ/50,000本以下であり、繊維軸に垂直方向の結晶領域サイズが1.1×10−8m以上である1)〜3)のいずれか一項記載の炭素繊維前駆体繊維束。
【0018】
5)単繊維の強度が5.0cN/dtex以上であり、単繊維の繊度斑(CV値)が10%以下である、1)〜4)のいずれか一項記載の炭素繊維前駆体繊維束。
【0019】
6)長さ方向の油剤付着斑(CV値)が10%以下である1)〜5)のいずれか一項記載の炭素繊維前駆体繊維束。
【0020】
7)アクリロニトリル系重合体の有機溶剤溶液を、ジメチルアセトアミド水溶液中に、ノズル口径が45μm以上75μm以下で孔数が50,000以上の紡糸ノズルから、凝固糸引き取り速度/吐出線速度比が0.8以下で吐出して膨潤糸条とする凝固工程;
該膨潤糸条を湿熱延伸する湿熱延伸工程;
該湿熱延伸された糸条を第一油浴槽に導いて第一油剤を付与し、次いで2本以上のガイドで一旦絞りを行った後、引き続き第二油浴槽で第二油剤を付与する油剤付与工程;該第一および第二油剤が付与された糸条を、乾燥、緻密化および二次延伸してトータル延伸倍率を5倍以上10倍以下とされた小トウを得る小トウ製造工程;および
偏平矩形断面を有する糸道と、該偏平矩形の長辺方向に所定の間隔をおいて配された該糸道に開口する複数のエア噴出孔とを有する交絡付与装置に、該小トウを複数並列して隣接させて供給し、前記エア噴出孔からエアを噴出させることにより隣接する小トウ間の交絡を行って集合トウを得る集合トウ製造工程
を有することを特徴とする炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
【0021】
8)さらに、前記集合トウ製造工程の後に集合トウを容器に収容する集合トウ収容工程と、集合トウ製造工程の前に前記小トウに水を付与する水付与工程とを有し、
該集合トウ収容工程における集合トウの水含有量を10質量%未満とする7)記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
【0022】
9)さらに、前記集合トウ製造工程において用いる交絡付与装置とは別の、円形断面を有する糸道とこの糸道に開口するエア噴出孔とを有する交絡付与装置に前記小トウを通し、このエア噴出孔からエアを噴出させることにより、該小トウ内の単繊維同士の交絡を付与する小トウ内交絡工程を前記集合トウ製造工程の前に有する7)または8)記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
【0023】
10)さらに、前記集合トウ製造工程において用いる交絡付与装置とは別の、偏平矩形断面を有する糸道とこの偏平矩形の長辺方向に所定の間隔をおいて配されたこの糸道に開口する複数のエア噴出孔とを有する交絡付与装置に前記小トウを通し、このエア噴出孔からエアを噴出させることにより、該小トウ内の単繊維同士の交絡を付与する小トウ内交絡工程を前記集合トウ製造工程の前に有する7)または8)記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
【0024】
11)前記集合トウ製造工程において、前記小トウ内の単繊維同士の交絡を行う7)または8)記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
【0025】
12)前記集合トウ製造工程において用いる交絡付与装置が、糸道の小トウ同士が隣接する位置に開口し糸道の長手方向に延在する溝をさらに有する11)記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
【0026】
13)前記集合トウ製造工程において用いる交絡付与装置が、糸道の小トウ同士が隣接する位置に開口し糸道の長手方向に延在する溝をさらに有し、エア噴出孔が該溝部にのみ開口する装置であって、
この交絡付与装置に前記小トウ内交絡工程を経た小トウを複数供給することにより、小トウ内のフィラメントが交絡された複数の小トウ間を交絡する
9)または10)記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
【0027】
14)前記集合トウ製造工程で得られた集合トウをギヤーロールへ供給した後、容器へ収納する工程をさらに有する7)〜13)のいずれか一項記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
【0028】
15)前記集合トウ製造工程で得られた集合トウをニップロールに供給した後、容器へ収納する工程をさらに有する7)〜13)のいずれか一項記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
【0029】
16)複数の小トウが隣接して通過可能な偏平矩形断面を有する糸道を備え、該偏平矩形の長辺方向に所定の間隔をおいて複数配された該糸道に開口するエア噴出孔を有する交絡付与装置を備えることを特徴とする炭素繊維前駆体繊維束の製造装置。
【0030】
17)前記糸道の複数の小トウが隣接する位置に開口し糸道の長手方向に延在する溝を更に有する16)記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造装置。
【0031】
18)小トウが通過可能な円形断面を有する糸道を備え、該糸道内にエアを噴出する1以上のエア噴出孔が配された第1の交絡付与装置;および
複数の小トウが隣接して通過可能な偏平矩形断面を有する糸道を備え、この偏平矩形の長辺方向に所定の間隔をおいて複数配された、この糸道に開口するエア噴出孔を有する第2の交絡付与装置
を備えることを特徴とする炭素繊維前駆体繊維束の製造装置。
【0032】
19)小トウが通過可能な偏平矩形断面を有する糸道を備え、該糸道内にエアを噴出する1以上のエア噴出孔が配された第1の交絡付与装置;および
複数の小トウが隣接して通過可能な偏平矩形断面を有する糸道を備え、この偏平矩形状の長辺方向に所定の間隔をおいて複数配された、この糸道に開口するエア噴出孔を有する第2の交絡付与装置
を備えることを特徴とする炭素繊維前駆体繊維束の製造装置。
【0033】
20)前記第2の交絡付与装置が、その糸道の複数の小トウが隣接する位置に開口し糸道の長手方向に延在する溝を更に有する18)または19)記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造装置。
【0034】
21)前記第2の交絡付与装置のエア噴出孔が前記溝にのみ開口する20)記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造装置。
【0035】
22)前記小トウの総繊度D(dTex)と集合させる小トウの本数nとの積で表される集合トウの総繊度nD(dTex)と、前記偏平矩形断面の長辺寸法L(mm)との比n・D/Lの値が、2000dTex/mm以上12,000dTex/mm以下であり、前記エア噴出孔の各孔口径は0.3mm以上1.2mm以下である16)記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造装置。
【0036】
23)前記エア噴出口が等ピッチに配され、そのピッチが0.8mm以上1.6mm以下であり、前記糸道の長さが10mm以上40mm以下である16)に記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造装置。
【0037】
24)前記溝が円の一部の断面形状を有し、該円の直径が2mm以上10mm以下であり、その溝の深さは1.5mm以上4mm以下である17)または20)に記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造装置。
【0038】
25)前記溝が台形の断面形状を有し、その台形溝断面の長辺の寸法が2mm以上10mm以下であり、溝底に相当する短辺寸法は1.5mm以上6mm以下である17)または20)に記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造装置。
【0039】
26)上記1)〜6)のいずれか一項記載の炭素繊維前駆体繊維束を耐炎化工程に供給し、該耐炎化工程にて発生する張力により小トウに分割しながら焼成することを特徴とする炭素繊維の製造方法。
【0040】
27)上記1)〜6)のいずれか一項記載の炭素繊維前駆体繊維束を耐炎化工程の後に炭素化工程に供給し、該炭素化工程にて発生する張力により小トウに分割しながら焼成することを特徴とする炭素繊維の製造方法。
【0041】
28)上記27)記載の方法により製造され、JIS R7601−1986に定められるストランド強度が4100Mpa以上であることを特徴とする炭素繊維。
【0042】
29)炭素繊維前駆体繊維の小トウを複数並列して隣接させて配列し、隣接する小トウ間をエア流によって交絡することにより1本の集合トウを得る工程を有することを特徴とする炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
【0043】
30)前記集合トウを得る工程において、
偏平矩形断面を有する糸道と、該偏平矩形の長辺方向に所定の間隔をおいて配された該糸道に開口する複数のエア噴出孔とを有する交絡付与装置に、前記小トウを複数並列して隣接させて供給し、該エア噴出孔からエアを噴出させることにより前記交絡を行う29)記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
【発明の効果】
【0044】
本発明の炭素繊維前駆体繊維束(集合トウ)は、耐炎化処理に際して容易に小トウに分割可能なため、繊維束への蓄熱を容易に抑制でき、従って耐炎化処理に供給する繊維束の太さについての制約を受けずにすむ。このため生産性に優れ、製造コストが低い炭素繊維を得ることができる。
【0045】
しかも、上記分割可能とするために、糸切れや毛羽を誘発することがなく、炭素繊維の品位、品質を犠牲にすることがない。従って、このような前駆体繊維束を用いれば、糸切れ、毛羽の発生の少ない、高品位、高品質な、特に強度発現性に優れた炭素繊維を得ることが可能となる。
【0046】
本発明の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法によれば、上記小トウあるいは集合トウを好適に製造することができ、本発明の炭素繊維の製造方法によれば、上記のように優れた炭素繊維を好適に製造することができる。
【0047】
また本発明の炭素繊維前駆体繊維束の製造装置を用いることにより、上記集合トウを好適に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
[図1]エア噴出により交絡を付与する炭素繊維用前駆体繊維束の製造工程の一例を示す概略工程図である。
[図2]エア噴出により小トウ内に交絡を付与する第1交絡付与装置の構造例を示す模式図である。(a)は繊維束の走行方向から見た正面断面図、(b)は側断面図、(c)は上面断面図である。
[図3]エア噴出により小トウ間に交絡を付与する第2交絡付与装置の構造例を示す模式図である。(a)は繊維束の走行方向から見た正面断面図、(b)は側断面図である。
[図4]エア噴出により交絡を付与する炭素繊維用前駆体繊維束の製造工程の他の一例を示す概略工程図である。
[図5]小トウ間に交絡を付与する、溝を有する第2交絡付与装置の構造例を示す模式図である。(a)は繊維束の走行方向から見た正面断面図、(b)は側断面図である。
[図6]小トウ間に交絡を付与する、溝内部のみにエア噴出孔を有する第2交絡付与装置の構造例を示す模式図である。(a)は繊維束の走行方向から見た正面断面図、(b)は側断面図である。
[図7]小トウ間に交絡を付与する、溝内部のみにエア噴出孔を有する第2交絡付与装置の他の一例を示す模式図である。(a)は繊維束の走行方向から見た正面断面図、(b)は側断面図である。
[図8]溝の角部のアールを説明するための部分的模式図である。
【符号の説明】
【0049】
1:小トウ
2:スプレー
3:第1交絡付与装置
4、9、20、21、26:糸道
5:上ノズル
6:下ノズル
5a、6a、10a、11a:圧縮エア導入部
5b、6b、10b、11b、18b、19b、22b、23b、27b、28b:エア噴出孔
7:駆動ロール
8、17、24、25:第2交絡付与装置
12:集合トウ
13:ギヤーロール
14:シュート
15:容器
16:タッチロール
18c、19c、22c、23c、27c、28c:溝
30:溝角部のアール
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
上記課題は、フックドロップ法による複数の小トウ間の交絡度が1m−1以下であり、容器に収納した際のトウの水分率が10質量%未満の捲縮が付与されない実質的にストレートな繊維からなり、容器への収納時及び前記容器から引き出して焼成工程に導入する際には1本の集合トウの形態を保持し、焼成工程にて同工程で発生する張力により小トウに分割可能な幅方向の分割能を有する本発明の炭素繊維用前駆体繊維束によって解決される。
【0051】
本発明の炭素繊維用前駆体繊維束は、複数の小トウ同士の集合体としての1本のトウ形態が品位を損なうことなく維持され、容器からの引き出し時には1本のトウ形態を維持しながら、分割ガイドなどを設置しないでも、焼成の際に発生する張力をもって小トウ間のもつれを生じることなく分割することが可能である。
【0052】
この炭素繊維用前駆体繊維束は、単繊維繊度が0.7dtex以上1.3dtex以下であることが好ましく、総フィラメント数が100000以上600000以下であることが好ましく、小トウのフィラメント数が50000以上150000以下であることが好ましい。単繊維繊度が0.7dtex以上であるとアクリル繊維糸条などの炭素繊維前駆体繊維用原糸を安定に紡糸する事が容易であり、1.3dtex以下であると断面二重構造が顕著になるのを抑えて高性能な炭素繊維を得ることができる。炭素繊維用前駆体繊維束の総フィラメント数が100000以上であると、焼成工程にて実際に焼成される小トウの数が少なくなるのを抑えて生産性良く焼成することができ、600000以下であると、所望の長さの炭素繊維用前駆体繊維束を容器に収容することが容易に行える。また、小トウのフィラメント数が50000以上であると、分割数が増えて焼成工程における分割能が発揮されにくくなるのを抑制し、小トウが細いために成形効率が低下するのを抑制することができる。小トウのフィラメント数が150000以下であると、耐炎化工程で反応熱に基づく蓄熱を抑え、糸切れや溶着などの発生を優れて防止できる。
【0053】
単繊維間の接着によって後の耐炎化工程、前炭素化工程及び炭素化工程で毛羽や束切れ等が発生することを抑制し、ストランド強度が低下することを防止する観点から、接着本数は可能な限り少ない方が好ましい。この観点から、炭素繊維前駆体繊維束を構成する単繊維間の接着本数は5ヶ/50000本以下であることが好ましい。繊維軸に垂直方向の結晶領域サイズが110Å(1.1×10−8m)以上であることが好ましい。
【0054】
炭素繊維前駆体繊維束の単繊維強度は、好ましくは5.0cN/dtex以上であり、より好ましくは6.5cN/dtex以上であり、さらに好ましくは7.0cN/dtex以上である。単繊維強度が5.0cN/dtex以上であると、焼成工程での単糸切れによる毛羽の発生が多くなって焼成工程通過性が悪くなることを優れて防止でき、優れた強度の炭素繊維を得ることができる。
【0055】
前駆体繊維束を構成する単繊維繊度斑(CV値)は10%以下が好ましく、より好ましくは7%以下、更に好ましくは5%以下である。この値が10%以下であると紡糸工程及び焼成工程において糸切れ、巻き付きトラブルを優れて防止できる。
【0056】
また、前駆体繊維束の長さ方向における油剤の付着斑(CV値)についても10%以下が好ましく、5%未満がより好ましい。この値が10%以下であると紡糸工程において接着や融着の発生を優れて防止でき、その結果単糸切れや束切れ等のトラブルを優れて防止できる。油剤の付着斑が上記範囲にあると、得られる炭素繊維としても品質、性能(特にストランド強度)の面で好ましい。高品質、高性能な炭素繊維前駆体糸条束及び炭素繊維を得るためには、スモールトウ、ラージトウの総繊度に関係なく、極力油剤を均一に付着させることが好ましい。
【0057】
本発明によれば、炭素繊維前駆体繊維束は、炭素繊維前駆体繊維の小トウを複数並列して隣接させて配列し、隣接する小トウ間をエア流によって交絡することにより1本の集合トウを得ることによって得ることができる。この方法によれば、トウに捲縮を付与せずに、焼成工程(耐炎化工程,炭素化工程)で自然に元の小トウに分割可能な分割能を有する集合トウを形成できる。
【0058】
集合トウを得る際には、偏平矩形断面を有する糸道と、該偏平矩形の長辺方向に所定の間隔をおいて配された該糸道に開口する複数のエア噴出孔とを有する交絡付与装置に、前記小トウを複数並列して隣接させて供給し、該エア噴出孔からエアを噴出させることにより前記交絡を行うことができる。
【0059】
本発明の炭素繊維前駆体繊維束は例えば次のような方法で製造することができる。すなわち、アクリロニトリル系重合体と有機溶剤からなる紡糸原液をジメチルアセトアミド水溶液中にノズル口径が45μm以上75μm以下、孔数50、000ヶ以上の紡糸ノズルから「凝固糸引き取り速度/吐出線速度」比が0.8以下で吐出させ膨潤糸条を得る。孔数が50000以上であると、生産性を良好にすることができる。また、耐炎化工程において反応熱に基づく蓄熱による糸切れや溶着などの発生を抑制する観点から、更には、紡糸ノズルパックを小さくする事を可能とし、機台あたりの生産錘数を増加させる観点から、孔数は150000以下が好ましい。
【0060】
「凝固糸引き取り速度/吐出線速度」比が0.8以下であると、ノズルからの糸切れを防止して安定に紡糸することが容易となる。また凝固を均一に行ない、繊度斑の発生を抑制する観点からこの比は0.2以上が好ましい。
【0061】
続いて、この膨潤糸条を湿熱延伸した後、第一油浴槽に導き第一油剤を付与し、2本以上のガイドで一旦絞りを行った後、引き続き第二油浴槽で第二油剤を付与し、乾燥緻密化二次延伸によってトータル延伸倍率を5倍以上10倍以下とする事でアクリロニトリル系前駆体繊維束を得ることが可能となる。なおトータル延伸倍率とは、紡糸原液から前駆体繊維束を得るまでに行う全ての延伸操作によって延伸された倍率を意味し、上述のように湿熱延伸と二次延伸のみを行う場合は両者の延伸倍率の積である。
【0062】
紡糸原液に使用するアクリロニトリル系重合体に対する有機溶剤としては、例えば、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。中でも、ジメチルアセトアミドは、溶剤の加水分解による性状の悪化が少なく、良好な紡糸性を与えるので、好適に用いられる。
【0063】
紡糸原液を押し出すための紡糸口金には、単繊維繊度が0.7dtex以上1.3dtex以下のアクリロニトリル系重合体の単繊維を製造するに好適な45μm以上75μm以下の孔径のノズル孔を有する紡糸口金を使用できる。このような小孔径ノズルを用いることで、(凝固糸の引取り速度)/(ノズルからの紡糸原液の吐出線速度)の比を小さく(0.8倍以下に)しやすくなり、良好な紡糸性を維持することが容易になる。
【0064】
凝固浴から引き取られた膨潤糸条は、その後の湿熱延伸によって繊維の配向がさらに高められる。この湿熱延伸は膨潤状態にある膨潤繊維束を熱水中で延伸することによって行われる。
【0065】
また、湿熱延伸を施した後の乾燥前の膨潤繊維束の膨潤度を、100質量%以下にすることが好ましい。湿熱延伸を施した後の乾燥前の膨潤繊維束の膨潤度が100質量%以下にあることは、表層部と繊維内部とが均一に配向していることを意味するものである。凝固浴中での凝固糸の製造の際の「凝固糸の引取り速度/ノズルからの紡糸原液の吐出線速度」を下げることによって、凝固浴中での凝固糸の凝固を均一なものにした後、これを湿熱延伸することにより、内部まで均一に配向することができる。これによって、乾燥前の繊維束の膨潤度を100質量%以下とすることができる。
【0066】
本発明によれば、炭素繊維前駆体繊維束の製造方法において、小トウ内のフィラメント同士の交絡と小トウ間の交絡とをエアの噴出により交絡付与する事で、小トウ内のフィラメント同士の交絡及び小トウ間同士の集束性を付与して1本の集合トウの形態を保持する繊維束が得ることができる。この際、各小トウの幅方向の端部同士が交絡して1本のトウ形態を保つようにすることが望ましい。また、小トウ間の交絡は小トウ内のフィラメント同士の交絡よりも弱い交絡であることが望ましい。更にこのとき、小トウ同士は必ずしもその幅方向の端部がオーバーラップしている必要はなく、小トウの幅方向の端部同士が互いに隣接してその端部を接する状態であることが好ましい。
【0067】
また本発明にあっては、必要に応じて水を付与し、所定の容器に振り込む際の各小トウの水分率を10質量%未満とすることが好ましく、0.5質量%以上5質量%以下とすることがより好ましい。水分付与量を0.5質量%以上とすることにより、静電気の発生を抑制して取扱い性を良好にすることができ、10質量%未満とすることにより、収納時のトウの自重やプレスにより押圧された状態で容器に収納されることによってトウの折り返し部が折癖となってトウ幅が不安定になる現象をなくすこともできるし、同時に輸送効率が上がり経済性が高まる。
【0068】
また、前述のような炭素繊維前駆体は、複数本の小トウがエアの噴出により並列状態で結合される集合トウ製造工程を有する炭素繊維前駆体繊維束の製造方法によって製造できる。すなわち、その基本的な構成は、分割状態にて製糸された複数本の小トウを、小トウの幅方向の端部同士を緩やかに交絡させたのち容器へ収納する炭素繊維前駆体繊維束の製造方法にある。容器へ収納する際にはギヤロール、ニップロール等で引き取りそのまま容器へ収納すれば、繊維束の形態がより安定化するため好ましい。
【0069】
隣接する小トウ間に交絡を付与するには、偏平矩形断面形状を有する糸道にこの扁平矩形断面の長辺方向に所定の間隔をおいて複数のエア噴出孔が配された交絡付与装置の前記糸道に複数の小トウを隣接させて並列して供給し、前記エア噴出孔からエアを噴出させることにより行うことができる。なお、本明細書において、小トウ間に交絡を付与して集合トウを製造するために用いる交絡付与装置を第2の交絡付与装置といい、以下に述べる小トウ内に交絡を付与する交絡装置を第1の交絡付与装置という。
【0070】
小トウ間に交絡を付与する前に、予め第1の交絡付与装置を通して小トウ自体のトウ幅の制御と集束性を付与することができる。この場合には円形断面の糸道とこの円形断面の糸道内に開口するエア噴出孔とを有するエア交絡付与装置に小トウを通し、エア噴出孔からエアを噴出させることにより、あるいは、偏平矩形断面の糸道とこの偏平矩形断面の長辺方向に所定の間隔をおいて糸道内に開口する複数のエア噴出孔とを有するエア交絡付与装置に小トウを通し、エア噴出孔からエアを噴出させることにより、所望のトウ幅と集束性とを付与することができる。
【0071】
この場合、予め第1の交絡付与装置にて小トウの幅制御と集束性の確保とを小トウ専用に行い、続いて小トウ同士を集束一体化するために、前記第1の交絡付与装置に隣接して配された偏平矩形断面糸道を有する第2の交絡付与装置に小トウ同士を隣接して並列させて供給し、予め交絡を終えた隣接する複数の小トウ同士を一体に集束させることができる。
【0072】
また、本発明では小トウ自体に予め特別な交絡付与を行わずに、隣接するそれぞれの小トウ内のフィラメント同士の交絡と隣接する小トウ間の交絡を同時に付与することもできる。つまり、集合トウ製造工程において小トウ内の繊維同士に交絡を付与してもよい。この場合には偏平矩形糸道断面形状を有する糸道の偏平矩形断面の長辺方向に所定の間隔をおいて複数のエア噴出孔を有する交絡付与装置に、複数の交絡前の小トウを隣接して並列させて供給し、このエア噴出孔からエアを噴出させることにより、小トウ内の交絡と隣接する小トウ間の交絡とを同時に付与することができる。
【0073】
小トウ内のフィラメント同士の交絡に用いる偏平矩形断面の上記糸道形状は、小トウのトータルの繊度によってその寸法は異なり得るが、偏平矩形断面の短辺である高さ方向は1mm以上5mm以下が好ましく、より好ましくは2mm以上4mm以下である。この高さが小さい、すなわちトウの厚みが規制されると、エアの流れによるフィラメントの動きが制限され、交絡の度合いが低下する傾向があるという点で不利である。また、逆にこの寸法が大きいと、長辺寸法との関係にも依るもののトウの厚みが大きくなるため絡合の度合いが低下する傾向があるという点で不利である。
【0074】
小トウ内のフィラメント同士を交絡するために用いることのできる、偏平矩形の断面形状を有する糸道を有し、前記偏平矩形断面形状の長辺方向に所定の間隔をおいて複数配されたエア噴出孔を有する交絡付与装置は、例えば図2に示す構造を有している。長辺の寸法に対しては、小トウ総繊度とそのトウ幅の制御の点から好適な範囲が存在する。この好適な範囲を示す数値とは、小トウ1の総繊度D(dTex)と偏平断面糸道4の長辺寸法L(mm)との比D/Lの値であり、その値が2000dTex/mm以上12000dTex/mm以下であることが好ましい。この際のエア噴出孔5b、6bの各孔口径(直径)は0.3mm以上1.2mm以下であることが好ましく、0.5mm以上1.0mm以下がより好ましい。
【0075】
さらに、そのエア噴出口の配列は、0.8mm以上1.6mm以下の等ピッチで配列するのが、均一な交絡を得る観点から好ましい。糸道4の長さ、すなわち交絡付与装置の長さは、10mm以上40mm以下とすることが好ましい。この長さが40mmを超えると、それぞれの糸道の両端部において噴射エアの流れの乱れに起因すると考えられるトウの乱れ、バタツキが発生し、交絡が不均一になりやすくなる傾向があるという点で不利である。
【0076】
隣接する小トウ間に交絡を付与するには、図3に示す偏平矩形糸道断面形状を有しこの糸道に偏平矩形状の長辺方向に所定の間隔をおいて複数配されてなるエア噴出孔を有する交絡付与装置へ複数の小トウを隣接して供給することができる。扁平矩形の長辺の寸法Lに対しては、小トウ総繊度と集合させるフィラメント(繊維)の本数により、すなわち集合トウの総繊度に対してトウ幅を制御しようとすれば自ずと好適な範囲が存在する。
【0077】
すなわち、小トウの総繊度D(dTex)と集合させる小トウの本数nとの積で表される集合トウの総繊度nD(dTex)と長辺寸法L(mm)との比n・D/Lの値がそれであり、その値は2000dTex/mm以上12000dTex/mm以下が好ましい。この際のエア噴出孔の各孔口径は0.3mm以上1.2mm以下であることが好ましく、0.5mm以上1.0mm以下がより好ましい。
【0078】
さらに、そのエア噴出口の配列は、0.8mm以上1.6mm以下の等ピッチで配列するのが、均一な交絡を得る観点から好ましい。エア噴出口のピッチは、噴出されたエアーによるトウの乱れやバタツキの発生を抑制する観点から0.8mm以上が好ましく、トウ内の単繊維が旋回し交絡の斑が発生することを抑制する観点から1.6mm以下が好ましい。
【0079】
糸道の長さすなわち交絡付与装置の長さは、10mm以上40mm以下とすることが好ましい。この長さが40mmを超えると、それぞれの糸道の両端部において噴射エアの流れの乱れに起因すると考えられるトウの乱れ、バタツキが発生し、交絡が不均一になりやすくなる傾向があるという点で不利である。
【0080】
さらに、隣接する小トウ間に交絡を付与する偏平矩形糸道断面形状を有する糸道に、その偏平矩形状の長辺方向に所定の間隔をおいて複数配されてなるエア噴出孔を形成した交絡付与装置にあって、図5に示す通り、集合しようとする小トウ間の隣接端部の位置において糸道の長手方向に延在する溝を形成することも可能である。このうような溝を有することにより、偏平矩形断面糸道内でトウの交絡を得ようとする小トウの隣接端部において、フィラメントの自由動が許容される空間が形成されるため、隣接する小トウ同士の交絡を効率的に付与することができる。
【0081】
この溝の断面(繊維束通過方向に対する)形状は、半円形などの円の一部の形状や、図5に示すような台形形状などとすることができるが、半円形の溝の場合に、フィラメントに接する部分に角ができるとトウにダメージを与える可能性があり、これを避けるため、溝の糸道に面する角部にアールを設けることが好ましい。円の一部の断面形状を有する溝に替えて台形溝を用いることがより好ましい。台形溝の場合も、溝の糸道に面する側の角部にアールを設けることが好ましい。図8に、図5に示す台形形状の溝18cの糸道に面する側の各部にアール30を設けた例を示す。糸道の下側の台形溝19cにも同様のアールを設けることができる。
【0082】
溝の大きさは半円形などの円の一部である場合は、その円の直径として2mm以上10mm以下、より好ましくは3mm以上8mm以下、溝の深さは、1.5mm以上4mm以下程度が好ましい。また、台形溝の場合も偏平糸道の長辺部分に設けられる台形溝長辺の寸法として2mm以上10mm以下、より好ましくは3mm以上8mm以下、溝底に相当する短辺寸法は1.5mm以上6mm以下程度が好ましい。溝内において隣接する小トウの端部同士に交絡を付与するものであるため、溝内にエアを噴出するエア噴出孔を設ける。その配置は溝形状内において左右均等配置かもしくは溝底の中心線上に存在することが小トウの安定走行と均一交絡の観点から望ましい。これは、糸道上に溝を設けることにより、恐らくは噴射エアの交絡付与装置からの排出がスムースになることによると考えられるが、交絡付与装置への入り側において隣接して走行する小トウの形態と走行が安定になる効果も得られる。
【0083】
さらに、本発明においては上述したような溝を有したノズルにおいて、図6のようにエア噴出口が溝部のみに設けられたノズルとすることも可能である。このことにより、小トウ内のフィラメント同士の交絡よりも弱い交絡を小トウ間に付与し、1本のトウ形態を保つようにすることが容易になる。
【0084】
上述のようにして得られた炭素繊維前駆体繊維束は、フックドロップ法による小トウ間の繊維交絡度が1m−1未満であることが好ましい。繊維交絡度を1m−1未満とすることにより炭素繊維製造工程の耐炎化工程中あるいは炭素化工程中で発生する張力のみで小トウに分割することが容易になり、分割用ガイドバーなどが必要となることもなく、擦過に伴うトウのダメージ、単糸切れを抑制して、得られる炭素繊維の品位を優れたものにすることが容易である。
【0085】
また、本発明においては、小トウ内の単繊維同士に交絡を付与した後、湾曲ガイドなどを用いて隣接する小トウ同士の側端部が接するように複数の小トウの糸道を規制して、小トウ間の交絡付与装置へと供給するようにしてもよい。
【0086】
上述のようにして集束された炭素繊維用前駆体繊維束を、既述したように一旦容器内に収納して、改めて容器から取り出し、耐炎化工程や炭素化工程などに導入することができるが、この取り出すときにも1本の集合トウ形態が崩れることなく、更にはそれらの焼成工程の間に発生する張力によって、前記炭素繊維用前駆体繊維束は複数本の小トウに自然に分割していき、安定した焼成を行うことができ、高品質の炭素繊維が得られる。
【0087】
本発明において得られる炭素繊維は、ストランド強度(JIS R7601−1986)が4100Mpa以上であり、好ましくは4400Mpa以上、より好ましくは4900Mpa以上である炭素繊維である。ストランド強度が4100Mpa以上であれば、スモールトウと同等に高強度を必要とする一般産業分野への適用が容易になってくる。
【0088】
本発明の炭素繊維は、前述のアクリロニトリル系前駆体繊維束を公知な方法で焼成することによって得られるが、その中でも、炭素繊維前駆体繊維束を、低い温度から高い温度にゾーン毎に220℃〜250℃に調節した耐炎化炉で連続的に、収縮を制限しながら耐炎化処理を行い、密度1.36g/cm程度の耐炎化繊維糸条を得、その後300℃〜700℃の温度分布を有する窒素雰囲気の炭素化炉中にて、収縮を制限しながら、1〜5分間の炭素化処理を行い、続いて1,000℃〜1,300℃の温度分布を有する窒素雰囲気からなる炭素化炉中にて、収縮を制限しながら、1分間〜5分間の炭素化処理する方法が好ましい。
【0089】
(単繊維の接着本数の測定方法)
単糸間接着の判定は、前駆体繊維束を約5mmにカットし100mLのアセトン中に分散させ100rpmで1分間攪拌後、黒色濾紙にて濾過し、単糸繊維の接着個数を測定することができる。
【0090】
(結晶領域サイズの測定方法)
結晶領域サイズは以下のように測定することができる。すなわち、アクリロニトリル系前駆体繊維束を50mm長に切断し、これを30mg精秤採取し、試料繊維軸が正確に平行になるようにして引き揃えた後、試料調整用治具を用いて巾1mmの厚さが均一な繊維試料束に整える。この繊維試料束に酢酸ビニル/メタノール溶液を含浸させて形態が崩れないように固定した後、これを広角X線回折試料台に固定する。X線源として、リガク社製のCuKα線(Niフィルター使用)X線発生装置を用い、同じくリガク社製のゴニオメーターにより、透過法によってグラファイトの面指数(100)に相当する2θ=17°近傍の回折ピークをシンチレーションカウンターにより検出する。出力は40kV−100mAにて測定する。回折ピークにおける半値巾から下記の式を用いて、結晶領域サイズLaを求める。
La=Kλ/(βcosθ)
(式中、Kはシェラー定数0.9、λは用いたX線の波長(ここではCuKα線を用いているので、1.5418Å)、θはBraggの回折角、βは真の半値巾、β=β−β(βは見かけの半値巾、βは装置定数であり、ここでは1.05×10−2rad)である。)。
【0091】
(単繊維強度の測定方法)
単繊維自動引張強伸度測定機(オリエンテック社製、商品名:UTM II−20)を使用し、台紙に貼られた単繊維をロードセルのチャックに装着し、毎分20.0mmの速度で引っ張り試験を行い強伸度を測定することによって求められる。
【0092】
(単繊維の繊度斑(CV値)測定方法)
単繊維の繊度斑(CV値)は以下のように測定することができる。すなわち、内径1mmの塩化ビニル樹脂製のチューブ内に測定用のアクリロニトリル系重合体の繊維を通した後、これをナイフで輪切りにして試料を準備する。ついで、該試料をアクリロニトリル系重合体の繊維断面が上を向くようにしてSEM試料台に接着し、さらにAuを約10nmの厚さにスパッタリングしてから、PHILIPS社製、商品名:XL20走査型電子顕微鏡により、加速電圧7.00kV、作動距離31mmの条件で繊維断面を観察し、単繊維の繊維断面積をランダムに300ヶ程度測定し、繊度を算出する。
CV値(%)=(標準偏差/平均繊度)×100
式中の標準偏差および平均繊度はそれぞれ上記繊度の標準偏差および平均である。
【0093】
(油剤の長さ方向付着斑の測定)
また、油剤の長さ方向による付着斑は、前駆体糸条の長さ方向に連続してN(サンプル数)=10でサンプリングを行い、理学電気工業(株)製の波長分散型蛍光X線分析装置(商品名:ZSXmini)を用いて測定を行い油剤付着斑を測定することができる。
【0094】
(膨潤度の測定方法)
膨潤状態にある繊維束の付着液を遠心分離機(3000rpm、15分)によって除去した後の質量wと、これを105℃×2時間の熱風乾燥機で乾燥した後の質量wとにより、膨潤度(質量%)=(w−w)×100/wによって求めることができる。
【0095】
(水分率の測定方法)
ウエット状態にある炭素繊維前駆体の繊維束の質量wと、これを105℃×2時間の熱風乾燥機で乾燥した後の質量woとから、(w−wo)×100/woによって得られる値(質量%)である。
【0096】
(交絡度の評価方法)
フックドロップ法により評価する。トウをその形態を崩さないようにして、その先端に10g/3000デニール(10g/330Tex)の荷重を掛け吊す。先から20mm直角に折り曲げられた直径1mmの針金に10gの重りを吊り下げ、重りをトウ間に引っ掛け自由落下させたときの落下長をXmとするとき、
交絡度=1/X
とする。測定は30回繰り返して行い、得られた30個の数値のうち中20点の平均値を用いる。
【実施例】
【0097】
以下、本発明の対象となる炭素繊維前駆体繊維の小トウの製造について代表的な実施例に基づいて具体的に説明する。
【0098】
[実施例1]
小トウ製造方法(I)
アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリル酸を、過硫酸アンモニウム−亜硫酸水素アンモニウムおよび硫酸鉄の存在下、水系懸濁重合により共重合し、アクリロニトリル単位/アクリルアミド/メタクリル酸単位=96/3/1(質量比)からなるアクリロニトリル系重合体を得た。このアクリロニトリル系重合体をジメチルアセトアミドに溶解し、21質量%の紡糸原液を調製した。
【0099】
この紡糸原液を孔数50,000、孔径45μmの紡糸口金を通して、濃度60質量%、温度35℃のジメチルアセトアミド水溶液からなる凝固浴中に吐出させて凝固糸にし、紡糸原液の吐出線速度の0.40倍の引取り速度で引き取った。
【0100】
ついで、この繊維に対して熱水中で洗浄と同時に5.4倍の湿熱延伸を行い、1.5質量%に調製したアミノシリコン系油剤の第一油浴槽に導き第一油剤を付与し、数本のガイドで一旦絞りを行った後、引き続き1.5質量%に調製したアミノシリコン系油剤の第二油浴槽で第二油剤を付与した。この繊維を熱ロールを用いて乾燥し、熱ロール間による二次延伸を1.3倍行い、トータル延伸倍率を7.0とした。その後、タッチロールにて繊維の水分率を調整し、単繊維繊度1.2dtexの炭素繊維前駆体繊維束(小トウ)を得た。
【0101】
このようにして得られた炭素繊維前駆体繊維束の小トウ1を3本用い、それぞれ図1に示すようにスプレー2でイオン交換水を付与した後、給糸される3本の小トウ1を、図2に示す小トウ単位で交絡を付与する3つの第1の交絡付与装置3へそれぞれ供給した。それぞれの小トウ1への交絡付与装置3は図2に示す構造を備えている。すなわち、この第1の交絡付与装置3は、中央部にトウ走行方向に貫通する偏平矩形状の糸道4を有する上下ノズル5および6を備えている。この上下ノズル5および6は前記糸道4を挟んで上下に対称な構造を有しており、圧縮エア導入部5aおよび6aと、圧縮エア導入部5aおよび6aにそれぞれ連通し、そのエア導入方向に沿った対向面に開口する多数のエア噴出孔5bおよび6bとを有している。前記糸道4の糸道幅は8mm、糸道高さは3mm、糸道長さ(小トウの走行方向)は20mmであり、前記エア噴出孔5bおよび6bの噴出開口径は1mm、その配置ピッチは1.5mmとされ、供給エア圧力を50kPa−G(Gはゲージ圧であることを示す)とした。
【0102】
3つの第1の交絡付与装置3にてそれぞれ交絡された3本の小トウ1を引き揃え、一旦駆動ロール7を介し、隣接する小トウ1間に交絡を付与する第2の交絡付与装置8に供給した。この第2の交絡付与装置8は図3に示す構造を備えている。その基本構造は、上記小トウ専用の第1の交絡付与装置3と同様であるが、小トウ1が予め交絡されているため、糸道9の道幅が第1交絡装置の3倍以上に幅広く形成するとともに、糸道高さを第1交絡付与装置3よりも僅かに低く設定している。
【0103】
因みに、この第2交絡付与装置8にあっては、糸道幅を24mm、糸道高さを2.5mm、糸道長さを20mm、エア噴出孔10b,11bの開口径は0.5mm、その配置ピッチを0.8mm、圧縮エア導入部10aおよび11aに供給するエアの圧力を300kPa−Gとした。このようにして得られた1本の炭素繊維前駆体繊維束をギヤロール13に給糸して引き取り、そのままシュート14を介して容器15に振り込んだ。容器15に収納される際の炭素繊維前駆体繊維束12は、3本の小トウ1が集合して1本のトウ形態(集合トウ)を有している。このときの炭素繊維前駆体繊維束12の容器収納後の水分率は2質量%であった。得られたトウには容器15に振り込む際に用いたギヤロール13によりウエーブが付与されたが、ウエーブの山と隣接する山との間隔は25mmであった。またこのようにして得られた炭素繊維前駆体繊維束12の交絡度を評価したが、1m−1未満となった。(試長1mで実施し、10gの荷重はいずれも1m以上落下したため、測定不可能であった。)
得られた炭素繊維前駆体繊維束12を容器15から引き出し、小トウに分割することなく耐炎化工程へ給糸し、70分間耐炎化処理し、さらに炭素化工程にて3分間の炭化処理を行った。容器からの炭素繊維前駆体繊維束の引出しに際しては一旦炭素繊維前駆体繊維束を上方へ引き上げてガイドバーを複数回通過させて小トウを引き揃えた。引き揃えられた炭素繊維前駆体繊維束を小トウに分割することなく耐炎化工程へ給糸した。
【0104】
この間、トウの走行に用いたすべてのロールはフラットなロールであり、表面に溝を有するロールなどで小トウに分割したり、トウの形態を制御したりすることはまったく行わなかった。耐炎化工程中では反応の進行に伴い、特に分割ガイドなどを用いずとも自然に小トウへ分割した。炭化処理後に得られた炭素繊維束は毛羽がなく品位の優れるものであった。また、得られた炭素繊維のストランド強度は4900Mpaであった。
【0105】
[実施例2]
実施例1と同様にして得られたフィラメント数50,000の小トウ1に、図4に示すようにタッチロール16にてイオン交換水を付与した後、各小トウ1をそれぞれ単独で図2に示した第1交絡付与装置3に供給した。小トウ専用の第1交絡付与装置3の基本構造は、実施例1と同様のものであるが、糸道幅は実施例1の2倍である16mm、糸道高さは僅かに小さい2.5mm、糸道長さは同じ20mm、エア噴出孔5b,6bの開口径も同じ1mm、その配置ピッチを1.0mmとし、このときの供給エア圧力は実施例1の2倍である100kPa−Gとした。
【0106】
続いて、得られた3本の小トウ1を、引き揃えて隣接する小トウ1間を交絡させる図5に示す構造を備えた第2の交絡付与装置に供給した。
【0107】
この第2の交絡付与装置17にあって図3に示した交絡付与装置8と異なるところは、上記糸道9が単なる偏平矩形断面を有しているのに対して、この実施例に適用される第2の交絡付与装置17の上下ノズル18および19は、3本の隣接する各小トウ1の隣接位置に対応する部位の前記偏平矩形断面の上下に、更に台形断面をもつ溝部18cおよび19cをそれぞれ有している点である。その他の構造は上記実施例1と実質的に変わるところがない。本実施例にあって、前記第2交絡付与装置17の糸道20の幅は上記実施例1よりも21mm広い45mm、糸道高さは同じ2.5mm、エア噴出孔18bおよび19bの開口径も同じく0.5mm、その配置ピッチは1.0mmであり、台形溝断面の長辺の寸法が7mm、溝底に相当する短辺寸法は3mm、エア供給圧力は実施例1の2/3である200kPa−Gとした。このようにして得られた炭素繊維前駆体繊維束12を振込機に付属するギヤロール13に給糸し、シュート14を介して容器15に振り込んだ。このときの容器収納後の含水率は2質量%であった。
【0108】
第2交絡付与装置17を出た際の炭素繊維前駆体繊維束12は、3本の小トウ1が集合して1本のトウ形態を有している。容器15に振り込んだ際の炭素繊維前駆体繊維束12は振込機に併設されるギアロール13によってウエーブが付与されており、ウエーブの山と隣接する山の間隔は25mmであった。また、またこのようにして得られた炭素繊維前駆体繊維束の交絡度を評価したか、1m−1未満となった。(試長1mで実施し、10gの荷重はいずれも1m以上落下したため、測定不可能であった。)
実施例1と同様に、得られた炭素繊維前駆体繊維束12を容器15から引き出し、小トウに分割することなく耐炎化工程へ給糸し、70分間耐炎化処理し、さらに炭素化工程にて3分間の炭化処理を行った。この間、炭素繊維前駆体繊維束12の走行に用いたロールはすべてフラットなロールであり、表面に溝を有するロールなどにより小トウに分割したり、その形態の制御はまったく行わなかった。耐炎化工程中では反応の進行に伴い、特に分割ガイドなどを用いずとも自然に小トウへと分割した。炭化処理後に得られた炭素繊維は毛羽がなく品位の優れるものであった。また、得られた炭素繊維のストランド強度は4900Mpaであった。
【0109】
[実施例3]
図6に示すように、糸道21に連通する溝部22cおよび23cに複数のエア噴出孔22b,23bを形成するとともに、溝部以外の部分にはエア噴出孔が形成されていない以外は実施例2と同様の構造を備えた小トウ1間に交絡を付与する第2交絡付与装置24を使い、実施例2と同様にして3本の小トウが集合して1本のトウ形態を有した炭素繊維前駆体繊維束を得た。このようにして得られた1本の炭素繊維前駆体繊維束をギヤロール13に給糸して引き取り、そのままシュート14を介して容器15に振り込んだ。このときの容器収納後の含水率は4質量%であった。容器15に収納される際の炭素繊維前駆体繊維束12は、3本の小トウ1が集合して1本のトウ形態を有している。このときの炭素繊維前駆体繊維束12の容器収納後の水分率は2質量%であった。得られたトウには容器15に振り込む際に用いたギヤロール13によりウエーブが付与されたが、ウエーブの山と隣接する山との間隔は25mmであった。またこのようにして得られた炭素繊維前駆体繊維束12の交絡度を評価したか、1m−1未満となった(試長1mで実施し、10gの荷重はいずれも1m以上落下したため、測定不可能であった。)。
【0110】
実施例1と同様に、得られた炭素繊維前駆体繊維束12を容器15から引き出し、小トウに分割することなく耐炎化工程へ給糸し、70分間耐炎化処理し、さらに炭素化処理工程で3分間の炭化処理を行った。
【0111】
この間、トウの走行に用いたすべてのロールはフラットなロールであり、表面に溝を有するロールなどで小トウに分割したり、或いはその形態の制御はまったく行わなかった。耐炎化工程中では反応の進行に伴い、特に分割ガイドなどを用いずとも自然に小トウへ分割した。炭化処理後に得られた炭素繊維束は毛羽がなく品位の優れるものであった。また、得られた炭素繊維のストランド強度は4900Mpaであった。
【0112】
[実施例4]
隣接する小トウ間の交絡を付与する第2交絡付与装置として、図7に示す構造の交絡付与装置25を用いた以外は実施例3と同様の交絡手順にて炭素繊維前駆体繊維束12を容器15に振り込んだ。第2交絡付与装置25は、偏平矩形断面の糸道26の3本の小トウ1が隣接する部位の上下に、断面が半円形であってその直径が6mmであり、その溝の深さは3mmの溝部27cおよび28cが形成されている以外は実施例3(図6)の交絡付与装置と同様であり、実施例3と同様に複数のエア噴出孔27bおよび28bからエアを噴出して小トウ間の交絡を行った。
【0113】
得られた炭素繊維前駆体繊維束の交絡度を評価したが、1m−1未満となった(試長1mで実施し、10gの荷重はいずれも1m以上落下したため、測定不可能であった。)。
【0114】
実施例1と同様に、このようにして得られた炭素繊維前駆体繊維束1を容器15から引き出し、小トウに分割することなく耐炎化工程へ給糸し、70分間耐炎化処理し、さらに炭素化工程で3分間の炭化処理を行った。この間、トウの走行に用いたロールはすべてフラットなロールであり、表面に溝を有するロールなど分割したり、形態の制御はまったく行わなかった。耐炎化工程中では反応の進行に伴い、特に分割ガイドなどを用いずとも自然に小トウへ分割しはじめ、炭化処理後に得られた炭素繊維は小トウに完全に分割され毛羽がなく品位の優れるものであった。また、得られた炭素繊維のストランド強度は5100Mpaであった。
【0115】
[実施例5]
実施例4においてギヤロール13の替わりにフラットな表面を持つニップロールを用いるほかは、実施例4と同様にして炭素繊維前駆体繊維束を容器15に振り込んだ。その後は、実施例4(実施例1)と同様にして炭素繊維ストランドを得た。
【0116】
容器15に収納される際の炭素繊維前駆体繊維束12は、3本の小トウ1が集合して1本のトウ形態を有している。このときの炭素繊維前駆体繊維束12の水分率は2質量%であった。
【0117】
このようにして得られた炭素繊維前駆体繊維束12の交絡度を評価したか、1m−1未満となった(試長1mで実施し、10gの荷重はいずれも1m以上落下したため、測定不可能であった。)。
【0118】
実施例1と同様に、得られた炭素繊維前駆体繊維束12を容器15から引き出し、小トウに分割することなく耐炎化工程へ給糸し、70分間耐炎化処理し、さらに炭素化工程で3分間の炭化処理を行った。
【0119】
この間、トウの走行に用いたすべてのロールはフラットなロールであり、表面に溝を有するロールなどで小トウに分割したり、或いはその形態の制御はまったく行わなかった。耐炎化工程中では反応の進行に伴い、特に分割ガイドなどを用いずとも自然に小トウへ分割した。炭化処理後に得られた炭素繊維束は毛羽がなく品位の優れるものであった。また、得られた炭素繊維のストランド強度は4900Mpaであった。
【0120】
[実施例6]
トータル延伸倍率を9倍にしたほかは実施例1と同様にして炭素繊維ストランドを得た。
【0121】
[実施例7]
ノズル孔径75μm、トータル延伸倍率を9倍にしたほかは実施例1と同様にして炭素繊維ストランドを得た。
【0122】
〔比較例1〕
小トウ製造方法(I)で得られた小トウを用い、実施例1と同様に小トウ内に交絡を付与し、このようにして得られた小トウ3本を不図示の捲縮付与装置に供給し、捲縮により集束した。集束したトウは実施例1と同様に容器の中に収納した。
【0123】
このようにして得られた炭素繊維前駆体繊維束を容器から引き出し、70分間耐炎化処理し、さらに3分間の炭化処理を行った。容器からの炭素繊維前駆体繊維束の引出しは実施例5と同様に一旦炭素繊維前駆体繊維束を上方へ引き上げてガイドバーを複数回通過させて小トウを引き揃えた。引き揃えられた炭素繊維前駆体繊維束を小トウに分割することなく耐炎化工程へ給糸し、70分間耐炎化処理し、さらに3分間の炭化処理を行った。この間トウの走行に用いたロールはすべてフラットなロールであり、表面に溝を有するロール等で等の分割や形態の制御はまったく行わなかった。耐炎化工程中では反応の進行に伴い特に分割ガイド等を用いずとも自然に小トウに分割されていた。ただし、炭化処理後に得られた炭素繊維は毛羽が多く品位に優れるものではなかった。また、毛羽に起因すると思われる耐炎化工程でのロールへの巻きつきが多発した。さらに、得られた炭素繊維のストランド強度は3600Mpaであった。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フックドロップ法による複数の小トウ間の交絡度が1m−1以下であり、容器に収納した際のトウの水分率が10質量%未満の捲縮が付与されない実質的にストレートな繊維からなり、容器への収納時及び前記容器から引き出して焼成工程に導入する際には1本の集合トウの形態を保持し、焼成工程にて同工程で発生する張力により複数の小トウに分割可能な幅方向の分割能を有することを特徴とする炭素繊維前駆体繊維束。
【請求項2】
単繊維繊度が0.7dtex以上1.3dtex以下、前記小トウの単繊維数が50,000以上150,000以下、前記集合トウの総単繊維数が100,000以上600,000以下である請求項1記載の炭素繊維前駆体繊維束。
【請求項3】
小トウの幅方向の端部が隣接する小トウの幅方向端部と単繊維のエア流による交絡により1本の集合トウ形態とされた請求項1または2記載の炭素繊維前駆体繊維束。
【請求項4】
単繊維間の接着本数が5ヶ/50,000本以下であり、繊維軸に垂直方向の結晶領域サイズが1.1×10−8m以上である請求項1〜3のいずれか一項記載の炭素繊維前駆体繊維束。
【請求項5】
単繊維の強度が5.0cN/dtex以上であり、単繊維の繊度斑(CV値)が10%以下である、請求項1〜4のいずれか一項記載の炭素繊維前駆体繊維束。
【請求項6】
長さ方向の油剤付着斑(CV値)が10%以下である請求項1〜5のいずれか一項記載の炭素繊維前駆体繊維束。
【請求項7】
アクリロニトリル系重合体の有機溶剤溶液を、ジメチルアセトアミド水溶液中に、ノズル口径が45μm以上75μm以下で孔数が50,000以上の紡糸ノズルから、凝固糸引き取り速度/吐出線速度比が0.8以下で吐出して膨潤糸条とする凝固工程;
該膨潤糸条を湿熱延伸する湿熱延伸工程;
該湿熱延伸された糸条を第一油浴槽に導いて第一油剤を付与し、次いで2本以上のガイドで一旦絞りを行った後、引き続き第二油浴槽で第二油剤を付与する油剤付与工程;
該第一および第二油剤が付与された糸条を、乾燥、緻密化および二次延伸してトータル延伸倍率を5倍以上10倍以下とされた小トウを得る小トウ製造工程;および
偏平矩形断面を有する糸道と、該偏平矩形の長辺方向に所定の間隔をおいて配された該糸道に開口する複数のエア噴出孔とを有する交絡付与装置に、該小トウを複数並列して隣接させて供給し、前記エア噴出孔からエアを噴出させることにより隣接する小トウ間の交絡を行って集合トウを得る集合トウ製造工程
を有することを特徴とする炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
【請求項8】
さらに、前記集合トウ製造工程の後に集合トウを容器に収容する集合トウ収容工程と、集合トウ製造工程の前に前記小トウに水を付与する水付与工程とを有し、
該集合トウ収容工程における集合トウの水含有量を10質量%未満とする請求項7記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
【請求項9】
さらに、前記集合トウ製造工程において用いる交絡付与装置とは別の、円形断面を有する糸道とこの糸道に開口するエア噴出孔とを有する交絡付与装置に前記小トウを通し、このエア噴出孔からエアを噴出させることにより、該小トウ内の単繊維同士の交絡を付与する小トウ内交絡工程を、前記集合トウ製造工程の前に有する請求項7または8記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
【請求項10】
さらに、前記集合トウ製造工程において用いる交絡付与装置とは別の、偏平矩形断面を有する糸道とこの偏平矩形の長辺方向に所定の間隔をおいて配されたこの糸道に開口する複数のエア噴出孔とを有する交絡付与装置に前記小トウを通し、このエア噴出孔からエアを噴出させることにより、該小トウ内の単繊維同士の交絡を付与する小トウ内交絡工程を前記集合トウ製造工程の前に有する請求項7または8記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
【請求項11】
前記集合トウ製造工程において、前記小トウ内の単繊維同士の交絡を行う請求項7または8記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
【請求項12】
前記集合トウ製造工程において用いる交絡付与装置が、糸道の小トウ同士が隣接する位置に開口し糸道の長手方向に延在する溝をさらに有する請求項11記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
【請求項13】
前記集合トウ製造工程において用いる交絡付与装置が、糸道の小トウ同士が隣接する位置に開口し糸道の長手方向に延在する溝をさらに有し、エア噴出孔が該溝部にのみ開口する装置であって、
この交絡付与装置に前記小トウ内交絡工程を経た小トウを複数供給することにより、小トウ内の繊維が交絡された複数の小トウ間を交絡する
請求項9または10記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
【請求項14】
前記集合トウ製造工程で得られた集合トウをギヤーロールへ供給した後、容器へ収納する工程をさらに有する請求項7〜13のいずれか一項記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
【請求項15】
前記集合トウ製造工程で得られた集合トウをニップロールに供給した後、容器へ収納する工程をさらに有する請求項7〜13のいずれか一項記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
【請求項16】
複数の小トウが隣接して通過可能な偏平矩形断面を有する糸道を備え、該偏平矩形の長辺方向に所定の間隔をおいて複数配された該糸道に開口するエア噴出孔を有する交絡付与装置を備えることを特徴とする炭素繊維前駆体繊維束の製造装置。
【請求項17】
前記糸道の複数の小トウが隣接する位置に開口し糸道の長手方向に延在する溝を更に有する請求項16記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造装置。
【請求項18】
小トウが通過可能な円形断面を有する糸道を備え、該糸道内にエアを噴出する1以上のエア噴出孔が配された第1の交絡付与装置;および
複数の小トウが隣接して通過可能な偏平矩形断面を有する糸道を備え、この偏平矩形の長辺方向に所定の間隔をおいて複数配された、この糸道に開口するエア噴出孔を有する第2の交絡付与装置
を備えることを特徴とする炭素繊維前駆体繊維束の製造装置。
【請求項19】
小トウが通過可能な偏平矩形断面を有する糸道を備え、該糸道内にエアを噴出する1以上のエア噴出孔が配された第1の交絡付与装置;および
複数の小トウが隣接して通過可能な偏平矩形断面を有する糸道を備え、この偏平矩形の長辺方向に所定の間隔をおいて複数配された、この糸道に開口するエア噴出孔を有する第2の交絡付与装置
を備えることを特徴とする炭素繊維前駆体繊維束の製造装置。
【請求項20】
前記第2の交絡付与装置が、その糸道の複数の小トウが隣接する位置に開口し糸道の長手方向に延在する溝を更に有する請求項18または19記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造装置。
【請求項21】
前記第2の交絡付与装置のエア噴出孔が前記溝にのみ開口する請求項20記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造装置。
【請求項22】
前記小トウの総繊度D(dTex)と集合させる小トウの本数nとの積で表される集合トウの総繊度nD(dTex)と、前記偏平矩形断面の長辺寸法L(mm)との比n・D/Lの値が、2,000dTex/mm以上12,000dTex/mm以下であり、前記エア噴出孔の各孔口径は0.3mm以上1.2mm以下である請求項16記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造装置。
【請求項23】
前記エア噴出口が等ピッチに配され、そのピッチが0.8mm以上1.6mm以下であり、前記糸道の長さが10mm以上40mm以下である請求項16に記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造装置。
【請求項24】
前記溝が円の一部の断面形状を有し、該円の直径が2mm以上10mm以下であり、その溝の深さは1.5mm以上4mm以下である請求項17または20に記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造装置。
【請求項25】
前記溝が台形の断面形状を有し、その台形溝断面の長辺の寸法が2mm以上10mm以下であり、溝底に相当する短辺寸法は1.5mm以上6mm以下である請求項17または20に記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造装置。
【請求項26】
請求項1〜6のいずれか一項記載の炭素繊維前駆体繊維束を耐炎化工程に供給し、該耐炎化工程にて発生する張力により小トウに分割しながら焼成することを特徴とする炭素繊維の製造方法。
【請求項27】
請求項1〜6のいずれか一項記載の炭素繊維前駆体繊維束を耐炎化工程の後に炭素化工程に供給し、該炭素化工程にて発生する張力により小トウに分割しながら焼成することを特徴とする炭素繊維の製造方法。
【請求項28】
請求項27記載の方法により製造され、JIS R7601−1986に定められるストランド強度が4100Mpa以上であることを特徴とする炭素繊維。
【請求項29】
炭素繊維前駆体繊維の小トウを複数並列して隣接させて配列し、隣接する小トウ間をエア流によって交絡することにより1本の集合トウを得る工程を有することを特徴とする炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。
【請求項30】
前記集合トウを得る工程において、
偏平矩形断面を有する糸道と、該偏平矩形の長辺方向に所定の間隔をおいて配された該糸道に開口する複数のエア噴出孔とを有する交絡付与装置に、前記小トウを複数並列して隣接させて供給し、該エア噴出孔からエアを噴出させることにより前記交絡を行う請求項29記載の炭素繊維前駆体繊維束の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/078173
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【発行日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517972(P2005−517972)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002038
【国際出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】