炭素繊維強化炭素複合材ルツボ及びこのルツボの製造方法
【課題】半導体材料あるいは太陽電池材料等の単結晶あるいは多結晶を製造する装置において溶融材料を収容するルツボを支持、保持するために用いられる炭素繊維強化炭素複合材ルツボであって、底部湾曲部において、皺あるいは重ね合わせの段差部分をなくし、耐久性を向上させた炭素繊維強化炭素複合材ルツボを提供する。
【解決手段】周縁部に湾曲部を有する底部3と、前記底部湾曲部から上方に延びる直胴部2とを有する炭素繊維強化炭素複合材ルツボ1であって、前記底部3と直胴部2が、炭素繊維の縦糸と横糸とを交互に織り上げた炭素繊維織布11,12,13(10)を複数枚、貼り合わせることにより形成されると共に、前記底部湾曲部に位置する炭素繊維織布の縦糸と横糸の軸線が、ルツボ周方向に対し斜め方向に形成されている。
【解決手段】周縁部に湾曲部を有する底部3と、前記底部湾曲部から上方に延びる直胴部2とを有する炭素繊維強化炭素複合材ルツボ1であって、前記底部3と直胴部2が、炭素繊維の縦糸と横糸とを交互に織り上げた炭素繊維織布11,12,13(10)を複数枚、貼り合わせることにより形成されると共に、前記底部湾曲部に位置する炭素繊維織布の縦糸と横糸の軸線が、ルツボ周方向に対し斜め方向に形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化炭素複合材ルツボ及びこのルツボの製造方法に関し、例えば、半導体材料等の単結晶を引上げる装置または太陽電池材料等の多結晶を製造する装置において溶融材料を収容するルツボを支持、保持するために用いられる炭素繊維強化炭素複合材ルツボ及びこのルツボの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体材料等の単結晶を製造する場合、CZ法(チョクラルスキー法)が広く用いられている。
このCZ方法は、図12に示すように石英ルツボ50内に収容されたシリコンの溶融液Mの表面に種結晶Pを接触させ、石英ルツボ50を回転させるとともに、この種結晶Pを反対方向に回転させながら上方へ引上げることによって、種結晶Pの下端に単結晶Cを形成していくものである。
【0003】
この石英ルツボ50はシリコン単結晶Cの育成にともない、周りを取り囲むヒータ52の熱、シリコン溶融液Mの熱によって軟化する。このため、石英ルツボ50は黒鉛ルツボ51内に収容され、支持されている。
そして、シリコン単結晶引上げが終了すると、石英ルツボ50及び黒鉛ルツボ51は冷却される。このとき、前記黒鉛ルツボ51の熱膨張係数が石英ルツボ50よりも大きいため、両者が密着した状態で冷却されると、黒鉛ルツボ51に亀裂が生じ、最終的には亀裂、割れが生じるという課題があった。
【0004】
そのような課題に対し、例えば特許文献1には、従来の黒鉛ルツボ51に代えて、炭素繊維強化炭素複合材(C/C材とも呼ぶ)からなるルツボ(以下、便宜的に炭素ルツボと呼ぶ)を用いることが開示されている。このC/C材の熱膨張係数は石英ガラスルツボの熱膨張係数に近く、また、機械的強度が黒鉛材よりも高いため、冷却時の割れ発生の確率を大幅に低減することができる。
そして、この特許文献1に開示された炭素ルツボを製造する場合には、図13(a)に示すように、上部に複数枚の葉っぱ状体60aが連なる形状に切欠かれたC/C材からなるシート状の炭素繊維織布60を用意する。この用意したシート状の炭素繊維織布60を図13(b)に示すように、あたかも地球儀を製作する要領でルツボ成形型61の表面に順次貼り付け、所定の厚さとなるまでこの作業を繰り返して製作する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−60373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図13に示すような方法により製作された炭素ルツボの場合、図12に示すルツボ底部の小湾曲部R1、大湾曲部R2において、葉っぱ状体60a同士が重ね合わされ、重ね合わされた葉っぱ状体60aの段差が放射状に形成される。
このように、ルツボ底部の湾曲部R1、R2において、葉っぱ状体60a同士が重ね合わされるため、炉内において溶融液Mから発生したSiOガスが、炭素ルツボ51の外側の湾曲部R1、R2の重ね合わせ部分の段差部分に滞留し、化学反応(酸化)によって、その部分が局所的に損耗、消耗し、脆弱化するという課題があった。
また、石英ガラスルツボの外壁面と炭素ルツボの内周面とは、完全に密着せず一部に隙間が存在するため、この隙間から前記SiOガスが侵入し、炭素ルツボ51の内側の湾曲部R1、R2の重ね合わせ部分の段差部分に滞留する。この場合においても化学反応(酸化)によって、その部分が局所的に損耗、消耗し、脆弱化するという課題があった。
このように、従来の炭素ルツボにあっては、炭素ルツボ51の湾曲部R1、R2部分において重ね合わせ部分が存在するために、局所的に損耗、消耗し、炭素ルツボが脆弱化するという課題があった。
【0007】
本発明は、前記したような事情の下になされたものであり、半導体材料等の単結晶あるいは太陽電池材料等の多結晶を製造する装置において溶融材料を収容するルツボを支持、保持するために用いられる炭素繊維強化炭素複合材ルツボであって、底部湾曲部において、皺あるいは重ね合わせの段差部分をなくし、耐久性を向上させた炭素繊維強化炭素複合材ルツボを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題を解決するためになされた、本発明に係る炭素繊維強化炭素複合材ルツボは、周縁部に湾曲部を有する底部と、前記底部湾曲部から上方に延びる直胴部とを有する炭素繊維強化炭素複合材ルツボであって、前記底部と直胴部が、炭素繊維の縦糸と横糸とを交互に織り上げた炭素繊維織布を複数枚、貼り合わせることにより形成されると共に、少なくとも前記底部湾曲部に位置する炭素繊維織布の縦糸と横糸の軸線が、ルツボ周方向に対し斜め方向に形成されていることを特徴としている。
【0009】
このように底部湾曲部において、炭素繊維織布の縦糸、横糸がルツボ周方向に対し斜めになる部分において、ルツボ周方向に対し斜め方向に伸長するため、重ね目や皺などの大きな凹凸が形成されず、繊維の切れ目のない状態で成型することができる。
したがって、この炭素繊維強化炭素複合材ルツボを使用した際、ルツボの底部湾曲部の内側、外側にSiOガスが滞留することがなく、化学反応(酸化)による脆弱化を抑制することができる。
【0010】
ここで、前記底部および前記底部湾曲部には、切れ目の無い一体型の第1の炭素繊維織布が用いられ、前記底部湾曲部及び前記直胴部には、炭素繊維の縦糸と横糸がルツボ周方向に対し斜めになるように形成された第2の炭素繊維織布が用いられているのが好ましい。
【0011】
更に、前記直胴部には、炭素繊維の横糸と縦糸がルツボ周方向に対し平行方向と直交方向になるように形成された第3の炭素繊維織布が用いられ、前記直胴部において、前記第2の炭素繊維織布と、前記第3の炭素繊維織布とが交互の積層されているのが好ましい。
このように、第3の炭素繊維織布の炭素繊維の横糸と縦糸をルツボ周方向に対し平行方向と直交方向になるように形成した場合、積層する第2の炭素繊維織布と炭素繊維の方向が異なるため、強度を向上させることができる。即ち、縦糸と横糸の軸線方向が異なる炭素繊維織布を交互に積層することにより、相互の接着力が強化され、ルツボの剛性を向上することができる。
【0012】
尚、第3の炭素繊維織布は、炭素繊維の縦糸と横糸がルツボ周方向に対し斜めになるように形成しても良い。第3の炭素繊維織布の炭素繊維の縦糸と横糸をルツボ周方向に対し斜めになるように形成した場合、積層する第2の炭素繊維織布と炭素繊維の方向が同じになりルツボ周方向への引っ張り応力に対する強度をより向上することができる。
【0013】
また、前記直胴部に積層された各炭素繊維織布のルツボ周方向における不連続部が、積層方向において重ならないように、前記各炭素繊維織布が積層されているのが好ましい。
このように、重なり合う炭素繊維織布同士の間で、炭素繊維織布のルツボ周方向における不連続部同士が、積層方向において重ならないことによって、積層方向(厚さ方向)の隙間が少なくなり、直胴部における積層方向の炭素繊維量をより均一とすることができる。
【0014】
尚、前記第2の炭素繊維織布または前記第3の炭素繊維織布は、それぞれ切れ目のない一体型のもので前記直胴部を1周以上巻くことが望ましい。また、前記第2の炭素繊維織布または第3の炭素繊維織布の大きさが前記直胴部の外周長さに満たない場合であっても、前記第2の炭素繊維織布の継ぎ目(炭素繊維織布のルツボ周方向における不連続部)と前記第3の炭素繊維織布の継ぎ目(炭素繊維織布のルツボ周方向における不連続部)とが異なる位置で重なるようにすることが好ましい。
【0015】
また、前記直胴部と前記底部の少なくともいずれかにおいて、前記直胴部に積層された各炭素繊維織布の縦糸と横糸との交差部分が、積層方向において重ならないように、前記各炭素繊維織布が積層されているのが好ましい。
このように、重なり合う炭素繊維織布同士の間で、縦糸と横糸との交差部分が、積層方向において重ならないことによって、縦糸と横糸とが交差する部分の凹凸が噛み合い、重なり合う炭素繊維織布同士の接着力を強化することができる。
【0016】
前記した課題を解決するためになされた、本発明に係る炭素繊維強化炭素複合材ルツボの製造方法は、前記炭素繊維織布が熱硬化性樹脂と炭素粉との混合接着剤を用いて貼り合わされ、その後、熱硬化処理、炭素化処理、黒鉛化処理および高純度化処理を施して形成されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、底部湾曲部における皺あるいは重ね合わせの段差部分をなくし、耐久性に優れた炭素繊維強化炭素複合材ルツボを得ることができる。また本発明によれば、炭素繊維強化炭素複合材ルツボを好適に製造することができる製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明に係る炭素繊維強化炭素複合材ルツボに用いられる炭素繊維布の平面図である。
【図2】図2は、本発明に係る炭素繊維強化炭素複合材ルツボの一実施形態を示す斜視図である。
【図3】図3は、炭素繊維が縦横に格子状に編まれた横長の方形状の炭素繊維織布の概念図である。
【図4】図4は、炭素繊維が斜め45度の斜め格子状に編まれた正円形状の炭素繊維織布の概念図である。
【図5】図5は、炭素繊維が斜め45度の斜め格子状に編まれた横長の方形状の炭素繊維織布である。
【図6】図6は、図1に示した炭素繊維強化炭素複合材ルツボの製造工程を示すフロー図である。
【図7】図7は、図1に示した炭素繊維強化炭素複合材ルツボの製造工程を説明するための図である。
【図8】図8は、図1に示した炭素繊維強化炭素複合材ルツボの製造工程を説明するための図である。
【図9】図9は、図1に示した炭素繊維強化炭素複合材ルツボの製造工程を説明するための図である。
【図10】図10は、図1に示した炭素繊維強化炭素複合材ルツボの製造工程を説明するための図である。
【図11】図11は、本発明に係る炭素繊維強化炭素複合材ルツボの他の実施形態において、炭素繊維織布の好ましい積層方法を説明するための炭素繊維織布の概念図である。
【図12】図12は、シリコン単結晶引上装置において用いるルツボの説明をするための図である。
【図13】図13は、従来の炭素繊維強化複合材ルツボの製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る炭素繊維強化炭素複合材ルツボの実施の形態について図面に基づき説明する。
まず、図1に基づいて、この炭素繊維強化炭素複合材ルツボに用いられる炭素繊維布について説明する。
この炭素繊維織布10は、直径3μm〜15μmの炭素繊維1000本〜36000本を縦糸10aとし、直径3μm〜15μmの炭素繊維1000本〜36000本を横糸10bとして、交互に織り上げた炭素繊維織布であって、その目付け量は80g/m2〜1000g/m2、厚さは0.1mm〜0.8mmに形成されている。
この炭素繊維織布10は、上記したように縦糸10aと横糸10bとを交互に織り上げているために、図1に示すP方向(縦糸10a、横糸10bの軸線に対して45度方向)に伸長する性質を備えている。尚、縦糸10a、横糸10bの方向に対しては、炭素繊維自体の伸びが許容されるに過ぎない。
【0020】
次に、図2に基づいて、本発明に係る炭素繊維強化炭素複合材ルツボ1(以下、炭素ルツボ1と呼ぶ)の一実施形態について説明する。尚、図2における炭素繊維強化炭素複合材は概念的に表わされている。
この炭素ルツボ1は、例えば、半導体材料等の単結晶を引上げる単結晶引上装置(図示せず)において、シリコン溶融液を収容する石英ルツボを支持、保持するために使用されるルツボである。
【0021】
この炭素ルツボ1は、直胴部2と底部3とを有し、底部3は湾曲して形成され、その周縁部に所定の曲率で湾曲する小湾曲部R1(底部湾曲部)と、底部中央に形成された大湾曲部R2とを有している。また、前記直胴部2は、前記底部3の小湾曲部R1から上方に筒状に延設されている。
この炭素ルツボ1は、前記した炭素繊維布10を複数枚、熱硬化性樹脂と炭素粉(例えば黒鉛粉)との混合接着剤(図示せず)を担持して貼り合わせ、その後、熱硬化、炭素化、黒鉛化および高純度化処理を施すことによって形成される。即ち、この炭素ルツボ1は、炭素繊維強化炭素複合材(以下、C/C材と呼ぶ)により形成されている。
具体的には、図3乃至図5に示すシート状の炭素繊維織布、11,12,13が複数層に貼り合わせられ、熱硬化、炭素化、黒鉛化および高純度化処理を施されて形成される。
【0022】
ここで、図3に示された炭素繊維織布11は、炭素繊維布10を炭素繊維の軸線が縦横方向(垂直、水平方向)に、かつ横長の方形状の炭素繊維織布になるように裁断したもの(第3の炭素繊維織布)である。この炭素繊維織布11の幅寸法w1は、少なくとも炭素ルツボ1の直胴部2の外周を覆うことが可能な長さに形成され、高さ寸法h1は、直胴部2の高さ寸法と同じ寸法となるよう形成されている。
また、この炭素繊維織布11は、図3に示すP方向(縦糸10a、横糸10bの軸線に対して45度方向)に伸長可能である。
【0023】
また、図4に示された炭素繊維織布12は、炭素繊維織布10を正円形状の炭素繊維織布になるように裁断したもの(第1の炭素繊維織布)である。この炭素繊維織布12の直径寸法dは、炭素ルツボ1の底部3を覆うことが可能な大きさに形成されている。
また、この炭素繊維織布12は、図4に示すP方向(縦糸10a、横糸10bの軸線に対して45度方向)に伸長可能である。
【0024】
更に、図5に示された炭素繊維織布13は、炭素繊維織布10を炭素繊維の軸線(縦糸、横糸の軸線)が斜め45度方向に、かつ横長の方形状の炭素繊維織布になるように裁断したもの(第2の炭素繊維織布)である。この炭素繊維織布13の幅寸法w2は、前記炭素繊維織布11と同じく炭素ルツボ1の直胴部2の外周を覆うことが可能な長さに形成され、高さ寸法h2は、直胴部の高さ寸法よりも長く、具体的には直胴部2に加え、底部3の小湾曲部R1を覆うことが可能な長さに形成されている。
また、この炭素繊維織布13は、図5に示すP方向(縦糸10a、横糸10bの軸線に対して45度方向)に伸長可能である。
【0025】
続いて、図6に基づき、図7乃至図10を用いて、炭素ルツボ1の製造工程について説明する。
先ず、図7に示すようにルツボ成型用金型5を用意し、その直胴部6に熱硬化性樹脂と炭素粉(例えば黒鉛粉)との混合接着剤(図示せず)を担持し、炭素繊維織布11を巻き付ける(図6のステップS1)。
ここで、炭素繊維織布11の炭素繊維の軸線方向(縦糸、横糸の軸線方向)は、ルツボ周方向Tに対して平行方向と直交方向(ルツボの軸線方向)となされている。
このとき、炭素繊維織布11は、図7に矢印で示すルツボ周方向Tと平行方向に伸長せず、またルツボ周方向Tと直交方向(ルツボの軸線方向)にも伸長しないが、この直胴部6の径が変化しないため、直胴部6に炭素繊維織布11を皺なく貼り付けることができる。
尚、図10に示すように、炭素繊維織布11の下端部11aは、ルツボ成型型5の下方に突出した状態で貼り付けられる。
【0026】
次いで、図7、8に示すようにルツボ成型型5の底部7に前記混合接着剤を担持し、円形の炭素繊維織布12を貼り付けて覆い、底部3を形成する(図5のステップS2)。
ここで、この炭素繊維織布12は、従来の葉っぱ状に切れ目が入った炭素繊維織布(図13参照)ではなく、切れ目の無い一体型の炭素繊維織布である。また、炭素ルツボ1の直胴部2を形成する炭素繊維織布11と、底部3を形成する炭素繊維織布12との境界部分は、重ねられることなく、また隙間が生じないよう貼り付けが行われる。
【0027】
この円形の炭素繊維織布12の貼り付けにあっては、炭素繊維織布12の周縁部により小湾曲部R1を覆うこととなるが、炭素繊維織布12は、炭素繊維の軸線(縦糸、横糸の軸線)に対して斜め45度方向に伸ばしながら貼り付けが行われる。
より具体的には、最初に炭素繊維織布12の中央部をルツボ成形型5の底部7中央に貼り付け、炭素繊維織布12の周縁部を引っ張りながら小湾曲部R1を覆うように貼り付けが行われる。
このとき、ルツボ成形型5は底部中央から徐々に半径が大きくなるが、炭素繊維織布12は炭素繊維の軸線(縦糸、横糸の軸線)に対して略斜め45度方向に伸長するので、炭素繊維織布12を引き伸ばしながら、貼り付けることができる。これにより、小湾曲部R1において炭素繊維織布12は皺なく、貼り付けられる。
【0028】
そして、貼り付けられた炭素繊維織布11、12の上から、前記混合接着剤を担持し、図9に示すように炭素繊維織布11により形成された直胴部2(成形型5の直胴部6)と、炭素繊維織布12により形成された小湾曲部R1とを覆うように炭素繊維織布13を貼り付ける(図6のステップS3)。
この炭素繊維織布13の貼り付けにあっては、小湾曲部R1においてルツボ成形型5の外周部に向かって徐々に半径が大きくなるが、図示するようにルツボ周方向Tに対し炭素繊維の軸線(縦糸、横糸の軸線)が斜め45度方向に形成されているため、炭素繊維織布13を引き伸ばしながら貼り付けることにより、皺なく貼り付けることができる。
また、直胴部2においては、混合接着剤が担持された下地の炭素繊維織布11とは炭素繊維の軸線方向が異なるため、接着力が強化し、剛性が向上する。
【0029】
また、このように炭素繊維織布11の上に炭素繊維織布13を積層する際、ルツボ周方向における炭素繊維織布11,13の不連続部(周方向の端部)同士が積層方向(径方向)において重ならないよう、ルツボ周方向における位置をずらすことが好ましい。
また、その場合、縦糸10aと横糸10bとの交差部分が積層方向において重ならないように貼り付けることが好ましい。
そのように積層することによって、積層方向(厚さ方向)の隙間が少なくなり、直胴部2における積層方向の炭素繊維量をより均一とすることができる。
また、縦糸10aと横糸10bとの交差部分が積層方向において重ならないことによって、縦糸10aと横糸10bとが交差する部分の凹凸が噛み合い、重なり合う炭素繊維織布11,13同士の接着力を強化することができる。
【0030】
このような炭素繊維織布11,12,13の貼り付け工程は、図10の断面図に示すように複数回繰り返して行われ(図10では3回)、所定の厚さに積層されていく(図6のステップS4)。
炭素繊維織布11,12,13の貼り付け(積層)が全て終了すると、最内層の炭素繊維織布11の下端部11a(ルツボ使用時において上端部)を、図10に示す矢印方向に折曲げ、ルツボ端部を覆うように貼り付けし、端部成形処理を行う(図6のステップS5)。
【0031】
このようにして、ルツボ型のプリフォームが得られると、ルツボ成形型5の周りに貼り付けられた状態で真空炉内に配置し、100℃〜300℃の温度で熱硬化を行う(図6のステップS6)。
次いで、ルツボ成形型5を取り外し(図6のステップS7)、得られる成型体をN2ガス等の不活性ガス中で約1000℃の温度で炭素化処理を行う(図6のステップS8)。
炭素化処理の後、例えばフェノール樹脂、タールピッチ等を含浸させ、1500℃以上の温度で加熱し、黒鉛化処理を行う(図6のステップS9)。
そして、黒鉛化により得られたルツボを、通常1500℃から2500℃の温度に加熱して、高純度化処理を施し、C/C材からなる炭素ルツボ1を得る(図6のステップS10)。
【0032】
以上のようにして得られた炭素ルツボ1は、底部の湾曲部において、重ね合わせ部分における段差や皺などの凹凸が形成されず、さらに図10に示すように直胴部2から小湾曲部R1まで連続して多層形成されている。
したがって、この炭素ルツボ1における底部湾曲部の内側及び外側に、凹凸が形成されないため、炉内で生じるSiOガスが滞留することがなく、化学反応(酸化)による損耗、消耗を抑制でき、耐久性を向上させることができる。また、炭素繊維織布を複数枚貼り合わせることにより、所定の厚さを有する炭素ルツボを製作することができ、耐久性を向上させることができる。
【0033】
尚、前記実施の形態にあっては、直胴部2の形成において、炭素繊維の軸線がルツボ周方向に対し縦横方向(直胴部軸線方向、直胴部軸線に垂直な接線方向)の炭素繊維織布11と、炭素繊維の軸線がルツボ周方向に対し斜め45度方向(直胴部軸線に対し45度の角度で交差する接線方向)の炭素繊維織布13とを交互に重ねるものとした。
しかしながら、本発明にあっては、その形態に限定されるものではなく、炭素繊維の軸線がルツボ周方向に対し斜め45度方向の炭素繊維織布13のみを複数枚、積層することによって直胴部2を形成するようにしてもよい。あるいはまた炭素繊維の軸線がルツボ周方向に対し縦横方向(直胴部軸線方向、直胴部軸線に垂直な接線方向)の炭素繊維織布11を複数枚、積層することによって直胴部2を形成するようにしてもよい。
そのように直胴部2を構成することにより、ルツボ周方向への引っ張り応力に対する強度をより向上させることができる。
【0034】
尚、石英ルツボの昇温時にあっては、ルツボ軟化により炭素ルツボ内径に沿って変形が生じる。そのため、冷却時にあっては、石英ルツボと炭素繊維織布との熱膨張係数の違いによりルツボ周方向の引っ張り応力が発生する。そのようなルツボ周方向の引っ張り応力を考慮すると、前記炭素繊維織布13のみを複数枚、積層することにより直胴部2を形成するのが好ましい。
【0035】
また、その場合、重なり合う炭素繊維織布13の間において、縦糸10aと横糸10bとの交差部分が、積層方向において重ならないように積層するのが好ましい。具体的には、図11(a)に模式的に示すように下層に位置する炭素繊維織布13A(破線)の上に炭素繊維織布13B(実線)を貼り付ける場合、図11(b)に示すように積層される。
即ち、図11(b)に示すように破線で示す炭素繊維織布13Aの縦糸10aと横糸10bとの交差部分10cに、実線で示す炭素繊維織布13Bの縦糸10aと横糸10bとの交差部分10dが積層方向において重ならないようになされる。
【0036】
より好ましくは、図11(b)に示すように、下層に位置する炭素繊維織布13Aにおいてルツボ周方向に隣接する交差部分10c間を結ぶ線分d1の中央に、上層の炭素繊維織布13Bにおける交差部分10dが位置するように積層される。或いは、ルツボ周方向に対し直交方向に隣接する交差部分10c間を結ぶ線分d2の中央に、上層の炭素繊維織布13Bにおける交差部分10dが位置するように積層される。
これにより積層方向(厚さ方向)の隙間が少なくなり、直胴部2における積層方向の炭素繊維量をより均一とすることができる。また、縦糸と横糸とが交差する部分の凹凸が噛み合うため、重なり合う炭素繊維織布13同士の接着力を強化することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 炭素繊維強化炭素複合材ルツボ
2 直胴部
3 底部
5 ルツボ成形型
6 直胴部
7 底部
10 炭素繊維織布
10a 縦糸
10b 横糸
11 第3の炭素繊維織布
12 第1の炭素繊維織布
13 第2の炭素繊維織布
R1 小湾曲部(底部湾曲部)
R2 大湾曲部
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化炭素複合材ルツボ及びこのルツボの製造方法に関し、例えば、半導体材料等の単結晶を引上げる装置または太陽電池材料等の多結晶を製造する装置において溶融材料を収容するルツボを支持、保持するために用いられる炭素繊維強化炭素複合材ルツボ及びこのルツボの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体材料等の単結晶を製造する場合、CZ法(チョクラルスキー法)が広く用いられている。
このCZ方法は、図12に示すように石英ルツボ50内に収容されたシリコンの溶融液Mの表面に種結晶Pを接触させ、石英ルツボ50を回転させるとともに、この種結晶Pを反対方向に回転させながら上方へ引上げることによって、種結晶Pの下端に単結晶Cを形成していくものである。
【0003】
この石英ルツボ50はシリコン単結晶Cの育成にともない、周りを取り囲むヒータ52の熱、シリコン溶融液Mの熱によって軟化する。このため、石英ルツボ50は黒鉛ルツボ51内に収容され、支持されている。
そして、シリコン単結晶引上げが終了すると、石英ルツボ50及び黒鉛ルツボ51は冷却される。このとき、前記黒鉛ルツボ51の熱膨張係数が石英ルツボ50よりも大きいため、両者が密着した状態で冷却されると、黒鉛ルツボ51に亀裂が生じ、最終的には亀裂、割れが生じるという課題があった。
【0004】
そのような課題に対し、例えば特許文献1には、従来の黒鉛ルツボ51に代えて、炭素繊維強化炭素複合材(C/C材とも呼ぶ)からなるルツボ(以下、便宜的に炭素ルツボと呼ぶ)を用いることが開示されている。このC/C材の熱膨張係数は石英ガラスルツボの熱膨張係数に近く、また、機械的強度が黒鉛材よりも高いため、冷却時の割れ発生の確率を大幅に低減することができる。
そして、この特許文献1に開示された炭素ルツボを製造する場合には、図13(a)に示すように、上部に複数枚の葉っぱ状体60aが連なる形状に切欠かれたC/C材からなるシート状の炭素繊維織布60を用意する。この用意したシート状の炭素繊維織布60を図13(b)に示すように、あたかも地球儀を製作する要領でルツボ成形型61の表面に順次貼り付け、所定の厚さとなるまでこの作業を繰り返して製作する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−60373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図13に示すような方法により製作された炭素ルツボの場合、図12に示すルツボ底部の小湾曲部R1、大湾曲部R2において、葉っぱ状体60a同士が重ね合わされ、重ね合わされた葉っぱ状体60aの段差が放射状に形成される。
このように、ルツボ底部の湾曲部R1、R2において、葉っぱ状体60a同士が重ね合わされるため、炉内において溶融液Mから発生したSiOガスが、炭素ルツボ51の外側の湾曲部R1、R2の重ね合わせ部分の段差部分に滞留し、化学反応(酸化)によって、その部分が局所的に損耗、消耗し、脆弱化するという課題があった。
また、石英ガラスルツボの外壁面と炭素ルツボの内周面とは、完全に密着せず一部に隙間が存在するため、この隙間から前記SiOガスが侵入し、炭素ルツボ51の内側の湾曲部R1、R2の重ね合わせ部分の段差部分に滞留する。この場合においても化学反応(酸化)によって、その部分が局所的に損耗、消耗し、脆弱化するという課題があった。
このように、従来の炭素ルツボにあっては、炭素ルツボ51の湾曲部R1、R2部分において重ね合わせ部分が存在するために、局所的に損耗、消耗し、炭素ルツボが脆弱化するという課題があった。
【0007】
本発明は、前記したような事情の下になされたものであり、半導体材料等の単結晶あるいは太陽電池材料等の多結晶を製造する装置において溶融材料を収容するルツボを支持、保持するために用いられる炭素繊維強化炭素複合材ルツボであって、底部湾曲部において、皺あるいは重ね合わせの段差部分をなくし、耐久性を向上させた炭素繊維強化炭素複合材ルツボを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題を解決するためになされた、本発明に係る炭素繊維強化炭素複合材ルツボは、周縁部に湾曲部を有する底部と、前記底部湾曲部から上方に延びる直胴部とを有する炭素繊維強化炭素複合材ルツボであって、前記底部と直胴部が、炭素繊維の縦糸と横糸とを交互に織り上げた炭素繊維織布を複数枚、貼り合わせることにより形成されると共に、少なくとも前記底部湾曲部に位置する炭素繊維織布の縦糸と横糸の軸線が、ルツボ周方向に対し斜め方向に形成されていることを特徴としている。
【0009】
このように底部湾曲部において、炭素繊維織布の縦糸、横糸がルツボ周方向に対し斜めになる部分において、ルツボ周方向に対し斜め方向に伸長するため、重ね目や皺などの大きな凹凸が形成されず、繊維の切れ目のない状態で成型することができる。
したがって、この炭素繊維強化炭素複合材ルツボを使用した際、ルツボの底部湾曲部の内側、外側にSiOガスが滞留することがなく、化学反応(酸化)による脆弱化を抑制することができる。
【0010】
ここで、前記底部および前記底部湾曲部には、切れ目の無い一体型の第1の炭素繊維織布が用いられ、前記底部湾曲部及び前記直胴部には、炭素繊維の縦糸と横糸がルツボ周方向に対し斜めになるように形成された第2の炭素繊維織布が用いられているのが好ましい。
【0011】
更に、前記直胴部には、炭素繊維の横糸と縦糸がルツボ周方向に対し平行方向と直交方向になるように形成された第3の炭素繊維織布が用いられ、前記直胴部において、前記第2の炭素繊維織布と、前記第3の炭素繊維織布とが交互の積層されているのが好ましい。
このように、第3の炭素繊維織布の炭素繊維の横糸と縦糸をルツボ周方向に対し平行方向と直交方向になるように形成した場合、積層する第2の炭素繊維織布と炭素繊維の方向が異なるため、強度を向上させることができる。即ち、縦糸と横糸の軸線方向が異なる炭素繊維織布を交互に積層することにより、相互の接着力が強化され、ルツボの剛性を向上することができる。
【0012】
尚、第3の炭素繊維織布は、炭素繊維の縦糸と横糸がルツボ周方向に対し斜めになるように形成しても良い。第3の炭素繊維織布の炭素繊維の縦糸と横糸をルツボ周方向に対し斜めになるように形成した場合、積層する第2の炭素繊維織布と炭素繊維の方向が同じになりルツボ周方向への引っ張り応力に対する強度をより向上することができる。
【0013】
また、前記直胴部に積層された各炭素繊維織布のルツボ周方向における不連続部が、積層方向において重ならないように、前記各炭素繊維織布が積層されているのが好ましい。
このように、重なり合う炭素繊維織布同士の間で、炭素繊維織布のルツボ周方向における不連続部同士が、積層方向において重ならないことによって、積層方向(厚さ方向)の隙間が少なくなり、直胴部における積層方向の炭素繊維量をより均一とすることができる。
【0014】
尚、前記第2の炭素繊維織布または前記第3の炭素繊維織布は、それぞれ切れ目のない一体型のもので前記直胴部を1周以上巻くことが望ましい。また、前記第2の炭素繊維織布または第3の炭素繊維織布の大きさが前記直胴部の外周長さに満たない場合であっても、前記第2の炭素繊維織布の継ぎ目(炭素繊維織布のルツボ周方向における不連続部)と前記第3の炭素繊維織布の継ぎ目(炭素繊維織布のルツボ周方向における不連続部)とが異なる位置で重なるようにすることが好ましい。
【0015】
また、前記直胴部と前記底部の少なくともいずれかにおいて、前記直胴部に積層された各炭素繊維織布の縦糸と横糸との交差部分が、積層方向において重ならないように、前記各炭素繊維織布が積層されているのが好ましい。
このように、重なり合う炭素繊維織布同士の間で、縦糸と横糸との交差部分が、積層方向において重ならないことによって、縦糸と横糸とが交差する部分の凹凸が噛み合い、重なり合う炭素繊維織布同士の接着力を強化することができる。
【0016】
前記した課題を解決するためになされた、本発明に係る炭素繊維強化炭素複合材ルツボの製造方法は、前記炭素繊維織布が熱硬化性樹脂と炭素粉との混合接着剤を用いて貼り合わされ、その後、熱硬化処理、炭素化処理、黒鉛化処理および高純度化処理を施して形成されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、底部湾曲部における皺あるいは重ね合わせの段差部分をなくし、耐久性に優れた炭素繊維強化炭素複合材ルツボを得ることができる。また本発明によれば、炭素繊維強化炭素複合材ルツボを好適に製造することができる製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明に係る炭素繊維強化炭素複合材ルツボに用いられる炭素繊維布の平面図である。
【図2】図2は、本発明に係る炭素繊維強化炭素複合材ルツボの一実施形態を示す斜視図である。
【図3】図3は、炭素繊維が縦横に格子状に編まれた横長の方形状の炭素繊維織布の概念図である。
【図4】図4は、炭素繊維が斜め45度の斜め格子状に編まれた正円形状の炭素繊維織布の概念図である。
【図5】図5は、炭素繊維が斜め45度の斜め格子状に編まれた横長の方形状の炭素繊維織布である。
【図6】図6は、図1に示した炭素繊維強化炭素複合材ルツボの製造工程を示すフロー図である。
【図7】図7は、図1に示した炭素繊維強化炭素複合材ルツボの製造工程を説明するための図である。
【図8】図8は、図1に示した炭素繊維強化炭素複合材ルツボの製造工程を説明するための図である。
【図9】図9は、図1に示した炭素繊維強化炭素複合材ルツボの製造工程を説明するための図である。
【図10】図10は、図1に示した炭素繊維強化炭素複合材ルツボの製造工程を説明するための図である。
【図11】図11は、本発明に係る炭素繊維強化炭素複合材ルツボの他の実施形態において、炭素繊維織布の好ましい積層方法を説明するための炭素繊維織布の概念図である。
【図12】図12は、シリコン単結晶引上装置において用いるルツボの説明をするための図である。
【図13】図13は、従来の炭素繊維強化複合材ルツボの製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る炭素繊維強化炭素複合材ルツボの実施の形態について図面に基づき説明する。
まず、図1に基づいて、この炭素繊維強化炭素複合材ルツボに用いられる炭素繊維布について説明する。
この炭素繊維織布10は、直径3μm〜15μmの炭素繊維1000本〜36000本を縦糸10aとし、直径3μm〜15μmの炭素繊維1000本〜36000本を横糸10bとして、交互に織り上げた炭素繊維織布であって、その目付け量は80g/m2〜1000g/m2、厚さは0.1mm〜0.8mmに形成されている。
この炭素繊維織布10は、上記したように縦糸10aと横糸10bとを交互に織り上げているために、図1に示すP方向(縦糸10a、横糸10bの軸線に対して45度方向)に伸長する性質を備えている。尚、縦糸10a、横糸10bの方向に対しては、炭素繊維自体の伸びが許容されるに過ぎない。
【0020】
次に、図2に基づいて、本発明に係る炭素繊維強化炭素複合材ルツボ1(以下、炭素ルツボ1と呼ぶ)の一実施形態について説明する。尚、図2における炭素繊維強化炭素複合材は概念的に表わされている。
この炭素ルツボ1は、例えば、半導体材料等の単結晶を引上げる単結晶引上装置(図示せず)において、シリコン溶融液を収容する石英ルツボを支持、保持するために使用されるルツボである。
【0021】
この炭素ルツボ1は、直胴部2と底部3とを有し、底部3は湾曲して形成され、その周縁部に所定の曲率で湾曲する小湾曲部R1(底部湾曲部)と、底部中央に形成された大湾曲部R2とを有している。また、前記直胴部2は、前記底部3の小湾曲部R1から上方に筒状に延設されている。
この炭素ルツボ1は、前記した炭素繊維布10を複数枚、熱硬化性樹脂と炭素粉(例えば黒鉛粉)との混合接着剤(図示せず)を担持して貼り合わせ、その後、熱硬化、炭素化、黒鉛化および高純度化処理を施すことによって形成される。即ち、この炭素ルツボ1は、炭素繊維強化炭素複合材(以下、C/C材と呼ぶ)により形成されている。
具体的には、図3乃至図5に示すシート状の炭素繊維織布、11,12,13が複数層に貼り合わせられ、熱硬化、炭素化、黒鉛化および高純度化処理を施されて形成される。
【0022】
ここで、図3に示された炭素繊維織布11は、炭素繊維布10を炭素繊維の軸線が縦横方向(垂直、水平方向)に、かつ横長の方形状の炭素繊維織布になるように裁断したもの(第3の炭素繊維織布)である。この炭素繊維織布11の幅寸法w1は、少なくとも炭素ルツボ1の直胴部2の外周を覆うことが可能な長さに形成され、高さ寸法h1は、直胴部2の高さ寸法と同じ寸法となるよう形成されている。
また、この炭素繊維織布11は、図3に示すP方向(縦糸10a、横糸10bの軸線に対して45度方向)に伸長可能である。
【0023】
また、図4に示された炭素繊維織布12は、炭素繊維織布10を正円形状の炭素繊維織布になるように裁断したもの(第1の炭素繊維織布)である。この炭素繊維織布12の直径寸法dは、炭素ルツボ1の底部3を覆うことが可能な大きさに形成されている。
また、この炭素繊維織布12は、図4に示すP方向(縦糸10a、横糸10bの軸線に対して45度方向)に伸長可能である。
【0024】
更に、図5に示された炭素繊維織布13は、炭素繊維織布10を炭素繊維の軸線(縦糸、横糸の軸線)が斜め45度方向に、かつ横長の方形状の炭素繊維織布になるように裁断したもの(第2の炭素繊維織布)である。この炭素繊維織布13の幅寸法w2は、前記炭素繊維織布11と同じく炭素ルツボ1の直胴部2の外周を覆うことが可能な長さに形成され、高さ寸法h2は、直胴部の高さ寸法よりも長く、具体的には直胴部2に加え、底部3の小湾曲部R1を覆うことが可能な長さに形成されている。
また、この炭素繊維織布13は、図5に示すP方向(縦糸10a、横糸10bの軸線に対して45度方向)に伸長可能である。
【0025】
続いて、図6に基づき、図7乃至図10を用いて、炭素ルツボ1の製造工程について説明する。
先ず、図7に示すようにルツボ成型用金型5を用意し、その直胴部6に熱硬化性樹脂と炭素粉(例えば黒鉛粉)との混合接着剤(図示せず)を担持し、炭素繊維織布11を巻き付ける(図6のステップS1)。
ここで、炭素繊維織布11の炭素繊維の軸線方向(縦糸、横糸の軸線方向)は、ルツボ周方向Tに対して平行方向と直交方向(ルツボの軸線方向)となされている。
このとき、炭素繊維織布11は、図7に矢印で示すルツボ周方向Tと平行方向に伸長せず、またルツボ周方向Tと直交方向(ルツボの軸線方向)にも伸長しないが、この直胴部6の径が変化しないため、直胴部6に炭素繊維織布11を皺なく貼り付けることができる。
尚、図10に示すように、炭素繊維織布11の下端部11aは、ルツボ成型型5の下方に突出した状態で貼り付けられる。
【0026】
次いで、図7、8に示すようにルツボ成型型5の底部7に前記混合接着剤を担持し、円形の炭素繊維織布12を貼り付けて覆い、底部3を形成する(図5のステップS2)。
ここで、この炭素繊維織布12は、従来の葉っぱ状に切れ目が入った炭素繊維織布(図13参照)ではなく、切れ目の無い一体型の炭素繊維織布である。また、炭素ルツボ1の直胴部2を形成する炭素繊維織布11と、底部3を形成する炭素繊維織布12との境界部分は、重ねられることなく、また隙間が生じないよう貼り付けが行われる。
【0027】
この円形の炭素繊維織布12の貼り付けにあっては、炭素繊維織布12の周縁部により小湾曲部R1を覆うこととなるが、炭素繊維織布12は、炭素繊維の軸線(縦糸、横糸の軸線)に対して斜め45度方向に伸ばしながら貼り付けが行われる。
より具体的には、最初に炭素繊維織布12の中央部をルツボ成形型5の底部7中央に貼り付け、炭素繊維織布12の周縁部を引っ張りながら小湾曲部R1を覆うように貼り付けが行われる。
このとき、ルツボ成形型5は底部中央から徐々に半径が大きくなるが、炭素繊維織布12は炭素繊維の軸線(縦糸、横糸の軸線)に対して略斜め45度方向に伸長するので、炭素繊維織布12を引き伸ばしながら、貼り付けることができる。これにより、小湾曲部R1において炭素繊維織布12は皺なく、貼り付けられる。
【0028】
そして、貼り付けられた炭素繊維織布11、12の上から、前記混合接着剤を担持し、図9に示すように炭素繊維織布11により形成された直胴部2(成形型5の直胴部6)と、炭素繊維織布12により形成された小湾曲部R1とを覆うように炭素繊維織布13を貼り付ける(図6のステップS3)。
この炭素繊維織布13の貼り付けにあっては、小湾曲部R1においてルツボ成形型5の外周部に向かって徐々に半径が大きくなるが、図示するようにルツボ周方向Tに対し炭素繊維の軸線(縦糸、横糸の軸線)が斜め45度方向に形成されているため、炭素繊維織布13を引き伸ばしながら貼り付けることにより、皺なく貼り付けることができる。
また、直胴部2においては、混合接着剤が担持された下地の炭素繊維織布11とは炭素繊維の軸線方向が異なるため、接着力が強化し、剛性が向上する。
【0029】
また、このように炭素繊維織布11の上に炭素繊維織布13を積層する際、ルツボ周方向における炭素繊維織布11,13の不連続部(周方向の端部)同士が積層方向(径方向)において重ならないよう、ルツボ周方向における位置をずらすことが好ましい。
また、その場合、縦糸10aと横糸10bとの交差部分が積層方向において重ならないように貼り付けることが好ましい。
そのように積層することによって、積層方向(厚さ方向)の隙間が少なくなり、直胴部2における積層方向の炭素繊維量をより均一とすることができる。
また、縦糸10aと横糸10bとの交差部分が積層方向において重ならないことによって、縦糸10aと横糸10bとが交差する部分の凹凸が噛み合い、重なり合う炭素繊維織布11,13同士の接着力を強化することができる。
【0030】
このような炭素繊維織布11,12,13の貼り付け工程は、図10の断面図に示すように複数回繰り返して行われ(図10では3回)、所定の厚さに積層されていく(図6のステップS4)。
炭素繊維織布11,12,13の貼り付け(積層)が全て終了すると、最内層の炭素繊維織布11の下端部11a(ルツボ使用時において上端部)を、図10に示す矢印方向に折曲げ、ルツボ端部を覆うように貼り付けし、端部成形処理を行う(図6のステップS5)。
【0031】
このようにして、ルツボ型のプリフォームが得られると、ルツボ成形型5の周りに貼り付けられた状態で真空炉内に配置し、100℃〜300℃の温度で熱硬化を行う(図6のステップS6)。
次いで、ルツボ成形型5を取り外し(図6のステップS7)、得られる成型体をN2ガス等の不活性ガス中で約1000℃の温度で炭素化処理を行う(図6のステップS8)。
炭素化処理の後、例えばフェノール樹脂、タールピッチ等を含浸させ、1500℃以上の温度で加熱し、黒鉛化処理を行う(図6のステップS9)。
そして、黒鉛化により得られたルツボを、通常1500℃から2500℃の温度に加熱して、高純度化処理を施し、C/C材からなる炭素ルツボ1を得る(図6のステップS10)。
【0032】
以上のようにして得られた炭素ルツボ1は、底部の湾曲部において、重ね合わせ部分における段差や皺などの凹凸が形成されず、さらに図10に示すように直胴部2から小湾曲部R1まで連続して多層形成されている。
したがって、この炭素ルツボ1における底部湾曲部の内側及び外側に、凹凸が形成されないため、炉内で生じるSiOガスが滞留することがなく、化学反応(酸化)による損耗、消耗を抑制でき、耐久性を向上させることができる。また、炭素繊維織布を複数枚貼り合わせることにより、所定の厚さを有する炭素ルツボを製作することができ、耐久性を向上させることができる。
【0033】
尚、前記実施の形態にあっては、直胴部2の形成において、炭素繊維の軸線がルツボ周方向に対し縦横方向(直胴部軸線方向、直胴部軸線に垂直な接線方向)の炭素繊維織布11と、炭素繊維の軸線がルツボ周方向に対し斜め45度方向(直胴部軸線に対し45度の角度で交差する接線方向)の炭素繊維織布13とを交互に重ねるものとした。
しかしながら、本発明にあっては、その形態に限定されるものではなく、炭素繊維の軸線がルツボ周方向に対し斜め45度方向の炭素繊維織布13のみを複数枚、積層することによって直胴部2を形成するようにしてもよい。あるいはまた炭素繊維の軸線がルツボ周方向に対し縦横方向(直胴部軸線方向、直胴部軸線に垂直な接線方向)の炭素繊維織布11を複数枚、積層することによって直胴部2を形成するようにしてもよい。
そのように直胴部2を構成することにより、ルツボ周方向への引っ張り応力に対する強度をより向上させることができる。
【0034】
尚、石英ルツボの昇温時にあっては、ルツボ軟化により炭素ルツボ内径に沿って変形が生じる。そのため、冷却時にあっては、石英ルツボと炭素繊維織布との熱膨張係数の違いによりルツボ周方向の引っ張り応力が発生する。そのようなルツボ周方向の引っ張り応力を考慮すると、前記炭素繊維織布13のみを複数枚、積層することにより直胴部2を形成するのが好ましい。
【0035】
また、その場合、重なり合う炭素繊維織布13の間において、縦糸10aと横糸10bとの交差部分が、積層方向において重ならないように積層するのが好ましい。具体的には、図11(a)に模式的に示すように下層に位置する炭素繊維織布13A(破線)の上に炭素繊維織布13B(実線)を貼り付ける場合、図11(b)に示すように積層される。
即ち、図11(b)に示すように破線で示す炭素繊維織布13Aの縦糸10aと横糸10bとの交差部分10cに、実線で示す炭素繊維織布13Bの縦糸10aと横糸10bとの交差部分10dが積層方向において重ならないようになされる。
【0036】
より好ましくは、図11(b)に示すように、下層に位置する炭素繊維織布13Aにおいてルツボ周方向に隣接する交差部分10c間を結ぶ線分d1の中央に、上層の炭素繊維織布13Bにおける交差部分10dが位置するように積層される。或いは、ルツボ周方向に対し直交方向に隣接する交差部分10c間を結ぶ線分d2の中央に、上層の炭素繊維織布13Bにおける交差部分10dが位置するように積層される。
これにより積層方向(厚さ方向)の隙間が少なくなり、直胴部2における積層方向の炭素繊維量をより均一とすることができる。また、縦糸と横糸とが交差する部分の凹凸が噛み合うため、重なり合う炭素繊維織布13同士の接着力を強化することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 炭素繊維強化炭素複合材ルツボ
2 直胴部
3 底部
5 ルツボ成形型
6 直胴部
7 底部
10 炭素繊維織布
10a 縦糸
10b 横糸
11 第3の炭素繊維織布
12 第1の炭素繊維織布
13 第2の炭素繊維織布
R1 小湾曲部(底部湾曲部)
R2 大湾曲部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周縁部に湾曲部を有する底部と、前記底部湾曲部から上方に延びる直胴部とを有する炭素繊維強化炭素複合材ルツボであって、
前記底部と直胴部が、炭素繊維の縦糸と横糸とを交互に織り上げた炭素繊維織布を複数枚、貼り合わせることにより形成されると共に、
少なくとも前記底部湾曲部に位置する炭素繊維織布の縦糸と横糸の軸線が、ルツボ周方向に対し斜め方向に形成されていることを特徴とする炭素繊維強化炭素複合材ルツボ。
【請求項2】
前記底部および前記底部湾曲部には、切れ目の無い一体型の第1の炭素繊維織布が用いられ、
前記底部湾曲部及び前記直胴部には、炭素繊維の縦糸と横糸がルツボ周方向に対し斜めになるように形成された第2の炭素繊維織布が用いられていることを特徴とする請求項1に記載された炭素繊維強化炭素複合材ルツボ。
【請求項3】
更に、前記直胴部には、炭素繊維の横糸と縦糸がルツボ周方向に対し平行方向と直交方向になるように形成された第3の炭素繊維織布が用いられ、
前記直胴部において、前記第2の炭素繊維織布と、前記第3の炭素繊維織布とが交互の積層されていることを特徴とする請求項2に記載された炭素繊維強化炭素複合材ルツボ。
【請求項4】
前記直胴部に積層された各炭素繊維織布のルツボ周方向における不連続部が、積層方向において重ならないように、前記各炭素繊維織布が積層されていることを特徴とする請求項1及至請求項3のいずれかに記載された炭素繊維強化複合材ルツボ。
【請求項5】
前記直胴部と前記底部の少なくともいずれかにおいて、
前記直胴部に積層された各炭素繊維織布の縦糸と横糸との交差部分が、積層方向において重ならないように、前記各炭素繊維織布が積層されていることを特徴とする請求項1及至請求項4のいずれかに記載された炭素繊維強化複合材ルツボ。
【請求項6】
前記請求項1乃至請求項5のいずれかに記載された炭素繊維強化炭素複合材ルツボの製造方法であって、
前記炭素繊維織布が熱硬化性樹脂と炭素粉との混合接着剤を用いて貼り合わされ、その後、熱硬化処理、炭素化処理、黒鉛化処理および高純度化処理を施して形成されることを特徴とする炭素繊維強化炭素複合材ルツボの製造方法。
【請求項1】
周縁部に湾曲部を有する底部と、前記底部湾曲部から上方に延びる直胴部とを有する炭素繊維強化炭素複合材ルツボであって、
前記底部と直胴部が、炭素繊維の縦糸と横糸とを交互に織り上げた炭素繊維織布を複数枚、貼り合わせることにより形成されると共に、
少なくとも前記底部湾曲部に位置する炭素繊維織布の縦糸と横糸の軸線が、ルツボ周方向に対し斜め方向に形成されていることを特徴とする炭素繊維強化炭素複合材ルツボ。
【請求項2】
前記底部および前記底部湾曲部には、切れ目の無い一体型の第1の炭素繊維織布が用いられ、
前記底部湾曲部及び前記直胴部には、炭素繊維の縦糸と横糸がルツボ周方向に対し斜めになるように形成された第2の炭素繊維織布が用いられていることを特徴とする請求項1に記載された炭素繊維強化炭素複合材ルツボ。
【請求項3】
更に、前記直胴部には、炭素繊維の横糸と縦糸がルツボ周方向に対し平行方向と直交方向になるように形成された第3の炭素繊維織布が用いられ、
前記直胴部において、前記第2の炭素繊維織布と、前記第3の炭素繊維織布とが交互の積層されていることを特徴とする請求項2に記載された炭素繊維強化炭素複合材ルツボ。
【請求項4】
前記直胴部に積層された各炭素繊維織布のルツボ周方向における不連続部が、積層方向において重ならないように、前記各炭素繊維織布が積層されていることを特徴とする請求項1及至請求項3のいずれかに記載された炭素繊維強化複合材ルツボ。
【請求項5】
前記直胴部と前記底部の少なくともいずれかにおいて、
前記直胴部に積層された各炭素繊維織布の縦糸と横糸との交差部分が、積層方向において重ならないように、前記各炭素繊維織布が積層されていることを特徴とする請求項1及至請求項4のいずれかに記載された炭素繊維強化複合材ルツボ。
【請求項6】
前記請求項1乃至請求項5のいずれかに記載された炭素繊維強化炭素複合材ルツボの製造方法であって、
前記炭素繊維織布が熱硬化性樹脂と炭素粉との混合接着剤を用いて貼り合わされ、その後、熱硬化処理、炭素化処理、黒鉛化処理および高純度化処理を施して形成されることを特徴とする炭素繊維強化炭素複合材ルツボの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−157230(P2011−157230A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19911(P2010−19911)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】
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