説明

炭素繊維強化炭素複合材及びその製造方法

【課題】一般の黒鉛材料などの他部材と共に使用しても熱膨張差等の相互作用による割れが発生しにくく、反応性ガスによって炭化物が生成されても熱応力の発生による剥離及び/又は割れの生じにくいC/C複合材を提供する。
【解決手段】炭素繊維1と炭素質マトリックス2とを含む炭素繊維強化炭素複合材であって、前記炭素繊維は前記炭素質マトリックス内で素線状態で存在する、平均繊維長が1.0mm未満の直線状繊維であり、炭素繊維強化炭素複合材の嵩密度が1.2g/cm以上であることを特徴とする炭素繊維強化炭素複合材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化炭素複合材及びその製造方法にかかり、特に炭素繊維と炭素質マトリックスとを含む炭素繊維強化炭素複合材料の成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は高い耐熱性と、強度とを備えているため、炭素繊維と炭素質マトリックスとを含む炭素繊維強化炭素複合材料(以下「C/C複合材」とも称する)として、耐熱性、化学的安定性、及び強度を必要とする様々な分野で利用されている。C/C複合材は、炭素繊維の複合化の方法により様々な種類があり、これを用いて様々な炭素繊維成形体を形成することが出来る。
【0003】
C/C複合材は、熱硬化性樹脂又はピッチ等の炭化物からなるマトリックスと炭素繊維とからなる。炭素繊維クロスを使用するクロス積層方式、炭素繊維フィラメントを使用するフィラメントワインディング方式、炭素繊維フェルトを使用する方式、又は炭素繊維の抄造体を使用する抄造方式等、炭素繊維の構成により種々のC/C複合材がある。
【0004】
クロス積層方式は、炭素繊維からなる織布を積層し、ピッチ又は熱硬化性樹脂等のマトリックス前駆体を織布に浸み込ませて、硬化、及び焼成することによりC/C複合材を得る方法である(特許文献1)。平面の織布を積層し一軸プレスすることにより、平板のC/C複合材を得ることができる。また、小さく切断した織布片を立体型状の型に貼り付け、張り子状の複雑形状のC/C複合材も得ることができる。そしてさらに、平面の織布をロール状に圧力をかけながら巻いて積層するクロスワインディング方式により筒形状のC/C複合材を得ることもできる。
【0005】
フィラメントワインディング方式は、型に炭素繊維の束(ストランド)を張力をかけながら巻き付けた後、ピッチや熱硬化性樹脂等のマトリックス前駆体を浸み込ませ、硬化、及び焼成することによりC/C複合材を得る方法である(特許文献2)。
【0006】
また、炭素繊維フェルトを使用する方式は、炭素繊維の長繊維をフェルト状に積層し、樹脂やピッチなどのマトリックス前駆体を浸み込ませ、硬化、及び焼成することによりC/C複合材を得る方法である(特許文献3)。この方法によっても、クロス積層方式と同様に、平面のC/C複合材、筒形状のC/C複合材、又は複雑な形状のC/C複合材を得ることができる。特に平面のフェルトをロール状に圧力をかけながら中芯に巻いて積層するシートワインディング方式により筒形状のC/C複合材を得ることもできる(図19参照)。
【0007】
さらに、抄造方式は、炭素繊維を液体中に懸濁させてスラリーを形成し、このスラリー中に孔を有する吸引金型を浸漬し、スラリー中の液体を吸引金型の背面に通過させ、この吸引金型の表面側に炭素繊維を堆積させて成形物を成形し、乾燥および焼成を行うことでC/C複合材を得る方法である(特許文献4及び5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−60373 号公報
【特許文献2】特開平10−152391号公報
【特許文献3】特開2000−143360号公報
【特許文献4】特開2002−68851号公報
【特許文献5】特開2002−97082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述したC/C複合材は、次のような問題点がある。
炭素繊維は、繊維の長さ方向に黒鉛の六角網面が強く配向しているので、一般の黒鉛材料に比べて熱膨張係数が1PPM/℃前後と小さく、弾性率が高い。このような炭素繊維を主原料として作製されたC/C複合材は炭素繊維の性質を引き継ぎ、炭素繊維と同じように熱膨張係数が小さく、弾性率が高いという特徴を持っている。このようなC/C複合材を、一般の黒鉛材料と組み合わせて、例えば炉の高温部材として使用した場合には、熱膨張係数が3〜5PPM/℃である一般の黒鉛材料とC/C複合材との熱膨張差で熱応力が発生し、黒鉛材料及び/又は、C/C複合材が、破損したりすることがある。
【0010】
また、C/C複合材自体も、炉内の例えばシリコンなどの反応性ガスによって、露出する部分が反応し、SiC(熱膨張係数:4PPM/℃)などの熱膨張係数の異なる化合物に転化することがある。この場合には、残ったC/C複合材と、反応転化した炭化物との間で熱応力が発生し、炭化物及び/又は、C/C複合材側にクラックが入ったり、剥離が生じたりすることがある。
【0011】
本発明は前記実情に鑑みてなされたもので、一般の黒鉛材料などの他部材と組み合わせて使用しても熱膨張差等の相互作用による割れが発生しにくく、反応性ガスによって炭化物が生成されても熱応力の発生による剥離及び/又は割れの生じにくいC/C複合材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1] 炭素繊維と炭素質マトリックスとを含む炭素繊維強化炭素複合材であって、
前記炭素繊維強化炭素複合材は一体的に形成されており、
前記炭素繊維は前記炭素質マトリックス内で素線状態で存在する、平均繊維長が1.0mm未満の直線状繊維であり、
前記炭素繊維強化炭素複合材の嵩密度が1.2g/cm以上であることを特徴とする炭素繊維強化炭素複合材。
[2] 前記炭素繊維強化炭素複合材の弾性率が5〜15GPaであることを特徴とする上記[1]に記載の炭素繊維強化炭素複合材。
[3] 前記炭素繊維強化炭素複合材の引張り強度が50MPa以上であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の炭素繊維強化炭素複合材。
[4] 前記炭素繊維強化炭素複合材の繊維体積率が30〜50%であることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれか1に記載の炭素繊維強化炭素複合材。
[5] 前記炭素繊維強化炭素複合材は炉の構造部材用であることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれか1に記載の炭素繊維強化炭素複合材。
[6] 前記炭素繊維強化炭素複合材は半導体製造装置用であることを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれか1に記載の炭素繊維強化炭素複合材。
[7] 上記[1]〜[6]のいずれか1に記載の炭素繊維強化炭素複合材を製造する方法であって、
平均繊維長が1.0mm未満の直線状炭素繊維を素線に解繊する工程と、
前記直線状炭素繊維と、炭素質マトリックスの前駆体成分とを含み、前記炭素繊維が素線状態で存在するプリフォームを形成する工程と、
前記プリフォームを一体的に加圧成形する工程と、
前記加圧成形されたプリフォームを焼成して前記前駆体成分から炭素質マトリックスを生成する工程と、を含むことを特徴とする炭素繊維強化炭素複合材の製造方法。
[8] 前記炭素繊維を解繊する工程は、炭素質マトリックスの前駆体成分と、平均繊維長が1.0mm未満の直線状炭素繊維とを液体中に投入し分散させ、前記炭素繊維を解繊するスラリーを形成する工程であり、
前記プリフォームを形成する工程は、前記スラリーから炭素繊維と炭素質マトリックスの前駆体成分とを含むフロックを形成する工程と、前記フロックを濾過する工程とを含むことを特徴とする上記[7]に記載の炭素繊維強化炭素複合材の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、炭素繊維の短繊維のフロックを形成したのち抄造し、バインダによって接合している。このため、炭素繊維が短いので、マトリックス成分が応力を受ける割合が大きくなり、C/C複合材内でマトリックスの変形を炭素繊維が留める機能が弱く、柔軟なC/C複合材を得ることができる。また、炭素繊維は素線状態で存在しているので、マトリックスとの接着表面積を大きくすることができ、短繊維であってもマトリックスとの接着表面積が大きくなるため高強度のC/C複合材を得ることができる。このような軟らかいC/C複合材は、他の材質の部品と組み合わせても熱膨張差等によりC/C複合材自身が破壊したり、他の材質の部品を破壊することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1の成形体を示す図,(a)は斜視図、(b)は断面図、(c)は(b)の要部拡大図、(d)は(c)のさらなる要部拡大図
【図2】C/C複合材の力学的な特徴を示す概念図、(a)は本発明のC/C複合材の概念図、(b)は従来のクロス積層方式によるC/C複合材の概念図、(c)は従来のフェルトを使用する方式によるC/C複合材の概念図
【図3】本発明の実施の形態1の成形体の製造方法の工程フロー図
【図4】(A1)から(D)は本発明の実施の形態1の成形体の製造方法を示す概要図
【図5】本発明の実施の形態2の成形体を示す図、(a)は斜視図、(b)は断面図、(c)は(b)の要部拡大図、(d)は(c)のさらなる要部拡大図
【図6】(B)から(D)は本発明の実施の形態2の成形体の製造方法を示す概要図
【図7】(A)は実施例1の成形体の断面の写真、(B)は比較例1の成形体の断面の写真
【図8】(A)は実施例1の成形体表面を拡大した写真、(B)は(A)の成形体表面に見られる薄片体の写真、(C)は(A)の成形体表面から剥離された薄片体の写真
【図9】(A)は比較例1の成形体断面の走査型電子顕微鏡写真、(B)は(A)の模式図
【図10】本発明の実施例1の成形体断面の走査型電子顕微鏡写真、(A)は倍率100、(B)は倍率200、(C)は倍率500での写真
【図11】比較例1の成形体断面の走査型電子顕微鏡写真、(A)は倍率50、(B)は倍率200、(C)は倍率500での写真
【図12】本発明の実施の形態3の成形体を示す図、(a)は斜視図、(b)は断面図
【図13】(A)乃至(C)は本発明の実施の形態3の成形体の製造方法を示す概要図
【図14】本発明の実施の形態4の成形体を示す図、(a)は斜視図、(b)は断面図
【図15】(a)および(b)は本発明の実施の形態4の成形体の製造方法を示す概要図
【図16】本発明の実施の形態5の成形体を示す図、(a)は斜視図、(b)は断面図
【図17】本発明の実施の形態6の成形体を示す図、(a)は斜視図、(b)は断面図、(c)は(b)の要部拡大図、(d)は(c)のさらなる要部拡大図
【図18】本発明の実施の形態6の成形体の製造方法を示す概要図
【図19】比較例1の成形体の斜視図及び断面図
【図20】実施例及び比較例のC/C複合材の弾性率と破壊強度との関係を測定した結果を示すグラフ
【図21】実施例及び比較例のC/C複合材の弾性率と破壊歪との関係を測定した結果を示すグラフ
【図22】実施例及び比較例のC/C複合材の物性測定サンプルの取り出し方向および3点曲げ試験の試験方向を示す模式図
【図23】(A)は本発明の実施例1の成形体の断面の偏光顕微鏡写真、(B)は比較例1の成形体の断面の偏光顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1の炭素繊維強化炭素複合材(以下「C/C複合材」)を用いた成形体(以下「C/C複合材成形体」)について、図1に基づいて説明する。
図1(a)は、本実施の形態1のC/C複合材成形体100の斜視図である。そして図1(b)乃至(d)は、図1(a)の断面図、要部拡大図、更なる要部拡大図である。
本発明の実施の形態のC/C複合材は一体的に形成されたものである。すなわちプリフォームを重ねて形成したものではない。
このC/C複合材成形体においては、炭素繊維は炭素質マトリックス内で素線状態で存在し、また、炭素繊維は平均繊維長が1.0mm未満の直線状繊維であり、嵩密度が1.2g/cm以上である。
そして、図1(c)および(d)に示すように、このC/C複合材成形体100において、炭素繊維1はその多数が、炭素質マトリックス2内で繊維の長手方向が成形体100の面方向に配向することによって薄片体(シート状小片)3を形成している。このC/C複合材成形体100において、炭素繊維1はその多数が、炭素質マトリックス2内で繊維の長手方向が成形体100の曲面方向に配向することによって薄片体(シート状小片)3を形成している。本発明のC/C複合材成形体100はこの薄片体3の積層体により構成されている。
【0016】
この構成によれば、炭素繊維の平均繊維長が1.0mm未満と短いので、マトリックス成分が応力を受ける割合が高くなり、C/C複合材内でマトリックスの変形を炭素繊維が留める機能を弱くすることができ、弾性率への影響度を炭素繊維よりもマトリックス成分の方を大きくすることができるので、C/C複合材の弾性率を低くすることができる。
【0017】
また、炭素繊維が素線状態で存在しているので、マトリックスとの接着表面積を大きくすることができる。さらに炭素繊維が束になるとマトリックスが炭素繊維間に充填されていない部分は強度が弱くなるが、炭素繊維が素線状態で存在している本発明の構成においてはそのような部分がない。これらの結果亀裂伝播が起こりにくく、高強度を発現できる。ここで、素線状態とは、炭素繊維が束(ストランド)を形成していない状態を意味する。
【0018】
そしてさらに、本発明のC/C複合材は、直線状(針状)の炭素繊維であるので、突き刺さることにより互いに交差し易く、付着力が強い。直線状の炭素繊維とは、屈曲することなく直線状に延びていることを指す。これにより、抄造時や成形時に炭素繊維が突き刺さることにより互いに交差し合うことができ、高強度のC/C複合材を得ることができる。
【0019】
本発明のC/C複合材は、平均繊維長が1.0mm未満という非常に短い炭素繊維が素線状態で存在していることを特徴とする。ここで、炭素繊維は、一般に、高強度、高弾性の性質を示すことが特徴である。この炭素繊維の分散状態が、C/C複合材の力学的特徴に影響を及ぼすことになる。この点について図2を参照して説明する。
【0020】
図2はC/C複合材の力学的な特徴を示す概念図であり、(a)は本発明のC/C複合材の概念図、(b)は従来のクロス積層方式によるC/C複合材の概念図、(c)は従来のフェルトを使用する方式によるC/C複合材の概念図である。図2(a)〜(c)において1は炭素繊維、Fはマトリックスによる結合を示す。なお、X方向は紙面横方向、Y方向は紙面垂直方向、Z方向は紙面縦方向である。
【0021】
図2(b)に示す、クロス積層方式によるC/C複合材では、炭素繊維として極めて長繊維を使用するため、C/C複合材の力学的特徴は炭素繊維の特徴を大きく受け、マトリックスの影響を受け難い。ただし、炭素繊維の特徴が影響するのは主に繊維の長手方向が配向する2方向(X、Y方向)である。積層方向(厚さ方向、Z方向)には炭素繊維同士の結合はなく、マトリックスによる結合のみであるため、炭素繊維の特徴が反映されにくいと考えられる。
【0022】
また、図2(c)に示す、フィラメントワインディング方式によるC/C複合材では、クロス積層方式と同様に炭素繊維の長繊維を使っているため、C/C複合材の力学的特徴は、炭素繊維自体の性質大きく受ける。この場合、炭素繊維の特徴が影響するのは主に繊維の長手方向が配向する1方向(X方向)である。ただし、繊維の巻き方によってはY方向にもわずかに影響を及ぼし得る。クロス積層方式と同様に、積層方向(厚さ方向、Z方向)には炭素繊維同士の結合はなく、マトリックスによる結合のみであるため、十分な強度を得ることができないと考えられる。
【0023】
これに対し、短い炭素繊維が素線状態で存在する図2(a)に示す本願発明のC/C複合材では、上記の図2(b)及び図2(c)に示す長い炭素繊維からなるC/C複合材とは、力学的な特徴が異なる。すなわち本発明のC/C複合材では、短い炭素繊維が素線で存在し、バインダーとしての役目を素線間を繋ぐマトリックスが担っている。また、上記の図2(b)及び図2(c)に示すC/C複合材とは異なり、図2(a)に示す本発明のC/C複合材では炭素繊維が素線で存在しているので、互いに炭素繊維を繋ぐ接合面積を大きくすることができる。その結果、炭素繊維が束を形成してマトリックスが炭素繊維間に充填されていない強度の弱い部分がないため、亀裂伝播が起こりにくく、本発明のC/C複合材は高い強度を得ることができる。
【0024】
本発明のC/C複合材の弾性率は、炭素繊維よりもむしろマトリックス部分の影響を受けると考えられる。マトリックスの原料となる樹脂、ピッチなどは、炭化の過程でガスを発生するため、マトリックス中に気孔が形成される。気孔が多く形成されることで、気孔が変形を吸収し、弾性率を低くすることができると考えられる。したがって弾性率が高い炭素繊維を使用しているにも関わらず、柔らかいC/C複合材を得ることができる。
【0025】
なお、特許文献4、5に記載される、炭素繊維のスラリーを直接ろ過(抄造)した後に抄造体の気孔内部に炭素を沈積していく従来の方法では硬く緻密な膜を繊維表面に形成し積層していくので、マトリックスに気孔の形成が無いため高弾性のC/C複合材となる。これに対し本発明の実施形態のC/C複合材では軟らかいマトリックス成分が充填されるので低弾性のC/C複合材が得られる。
【0026】
本発明の実施形態において、繊維体積率が30〜50%であることが好ましい。繊維体積率が30%未満であると繊維同士の距離が離れすぎ、十分な強度を発現できないおそれがある。また、繊維体積率が50%以下であれば、繊維が互いに交差することができる。これに対し、繊維体積率が50%を超えると、繊維の無い部分が減る代わりに繊維の方向が揃い、強度の弱い方向ができてしまうことがある。本発明において、繊維体積率とは、炭素繊維の占める体積を、C/C複合材全体の体積で除したものを意味する。繊維体積率の算出方法については後述する。
【0027】
また、本発明のC/C複合材の嵩密度が1.2g/cm以上であることが好ましく、1.3g/cm以上であることがより好ましい。C/C複合材の、嵩密度が1.2g/cm以上であるので気孔が埋められ繊維間の接続(接着)が強くなる。なおC/C複合材の嵩密度は1.8g/cm以下であることが望ましい。C/C複合材の嵩密度が1.8g/cmを超えると、成形体の焼成時に発生するガスが抜けず、成形体の膨れや層間剥離が発生しやすくなる結果、靱性が無くなり、破損したときに形状が維持できにくくなる。
【0028】
本発明の実施形態における炭素繊維は直線状繊維からなる。直線状の炭素繊維からなるので、抄造、成形時に突き刺さり、互いに交差しやすくなることにより、高強度のC/C複合材が得られる。そして、この炭素繊維は、炭素質マトリックス内で繊維の長手方向が成形体の曲面方向に配向した薄片体(後述する)を構成する。この薄片体の積層体によってC/C複合材成形体を構成する。
【0029】
この構成によれば、薄片体は、炭素質マトリックス2が、この薄片体3を構成する炭素繊維1間に介在し、炭素繊維間を固定するように充填され構成されている。さらにこの薄片体3は、落ち葉がランダムに積み重なるように積層されているため、薄片体の端部が炭素繊維成形体内部の多くの箇所に分散される。すなわち、薄片体の積層方向に隣接する薄片体の互いの端部が、該積層方向においてずれるように薄片体が配置される。これにより、薄片体端部の重なりがなくなり、構造的に弱く剥離あるいはクラックの原因となる欠陥(薄片体の境界)が細かく分散される。大きな欠陥が一箇所に存在する場合には、応力集中が起こりやすく、その大きな欠陥がノッチとなって、強度の低下が起きやすくなる。本発明の実施形態のように欠陥部分を細かく分散されることによって欠陥部分にかかる応力を分散することができ、見かけ上均質な欠陥の無い炭素繊維成形体を得ることができる。このような構造を有しているので、高温下でも、耐熱性が高く、高強度のC/C複合材の成形体を得ることができる。
【0030】
薄片体の平均長径は、1〜10mmであることが好ましく、2〜5mmであることがより望ましい。薄片体の平均長径が1mm未満であると、薄片体に対応するフロックの大きさが小さくなるため、抄造時の通水抵抗が大きくなりやすく、厚肉のC/C複合材成形体が得られにくくなる。薄片体の平均長径が10mmを超えると、後述する製造工程において、薄片体の素となるフロックを積層する際に、フロックの中心部と周辺部とで繊維とバインダの凝集しやすさが異なることから、炭素繊維とバインダの偏析が起こりやすくなるため、薄片体内部のバインダ成分も偏析し易くなる。また、薄片体の平均長径が10mmを超えると、後の成形及び硬化でバインダが溶解しても十分に流動できず偏析が解消されにくくなる。この結果、薄片体の表面とバインダの希薄な部分ができ、C/C複合材成形体の強度が低下しやすくなる。
薄片体の平均厚さは、0.05〜1.0mmであることが好ましく、0.1〜0.5mmであることがより好ましい。薄片体の平均厚さが0.05mm未満であると、薄片体に対応するフロックの大きさが小さくなり、通水抵抗が大きくなりやすく、厚肉の成形体が得られにくくなる。薄片体の平均厚さが1.0mmを超えると、薄片体端部に空洞が出来、空洞周辺に応力が集中しやすくなり、成形体の強度が低下するおそれがある。
【0031】
また、C/C複合材に使用する炭素繊維の平均繊維長は1.0mm未満が好ましく、50μm以上1.0mm未満がより好ましく、50〜500μmがさらに好ましい。平均繊維長が1.0mm以上であると炭素繊維がC/C複合材を強く拘束するため繊維の弾性率の影響がC/C複合材にも現れるようになる。平均繊維長が50μm未満であると繊維が充分に絡まり合うことができず、強度を高めることができない。
【0032】
また本発明の実施形態のC/C複合材は、抄造法により成形されることが好ましい。ただし、一般に抄造法は、水に分散した繊維等を濾過することで抄造体を得るのに対し、本発明では、水に分散した炭素繊維と、バインダ粉(第1バインダ)に凝集剤を加えて凝集させることによりフロックを形成し、フロックを抄くことによって抄造体を成形する。炭素繊維とバインダ粉とからなるフロックを形成してから抄造体を形成しているので、フロック内の炭素繊維とバインダ粉との部分的な濃度ばらつきが発生しにくく、均一な肉厚の抄造体を得ることができる。本発明の実施形態と異なり、フロックを形成せずに抄造した場合には、炭素繊維とバインダ粉との沈降速度差及び繊維長、粒径による沈降速度差によって抄造体が不均一となり、接着力の弱い欠陥部及び短い繊維のみの偏析した部位が発生し、強度が低下しやすくなるため、高強度で厚肉の抄造体が得られにくくなる。
【0033】
本発明のC/C複合材は、弾性率が5〜15GPaであることが好ましい。C/C複合材の弾性率が15GPaを超えると、黒鉛など他の部材と組み合わせて炉の構造部材として使用したときに、他の部材との熱膨張差のために、互いに接触した際に、C/C複合材の弾性率が大きいために発生する応力が大きくなり、黒鉛部材又はC/C複合材の割れの原因となる。C/C複合材の弾性率が5GPa未満であると、炭素繊維強化炭素複合材の強度が低下しやすくなる上に、黒鉛部材の弾性率よりも小さくなるために、C/C複合材が弾性限界を超えて変形し、元の形状に戻らなくなる。
【0034】
本発明のC/C複合材は、引っ張り強度が50MPa以上であることが好ましい。C/C複合材の引っ張り強度が50MPa未満であると、炉の構造部材として使用したときに破損しやすく、安全に使用することができないおそれがある。本発明のC/C複合材は、繊維とバインダが均一に分散しているので、平均繊維長1.0mm未満の短繊維を使用しているにも関わらず、フロックを形成しフロック中にバインダを均一に分散させ、炭素繊維の偏析も起こりにくいので、欠陥の無い高強度のC/C複合材を得ることができる。
【0035】
本発明のC/C複合材は、後述する実施例(図20、図21参照。)に示すように、強度に対して弾性率の値を低くすることができる。弾性率、応力、歪みの間の関係は下記式(1)であらわすことができる。
応力=弾性率×歪み (1)
特に、破壊に至った時点では下記式(2)の関係にある。
破壊強度=弾性率×破壊歪み (2)
従って式(2)から、破壊歪は、下記式(3)に示すとおり、
破壊歪み=破壊強度/弾性率 (3)
の関係にある。すなわち、低弾性で破壊歪みの大きな材料であるほど、大きな変位が加わるまで破損することがない。このような特徴は、破壊に至った時の歪み(破壊歪み)を大きくすることができると考えられ、大きな歪みを受けやすい高温で使用する部材において、部材が破損しにくくなる。
【0036】
また、本発明の実施形態のC/C複合材を、黒鉛、アルミナ、ジルコニア、SiC等からなる炉の構造部品、又は接合部品即ちボルトなどの接合部品として使用し接合する場合にも同様に炉の構造物品又は接合部品を破損しにくい効果が得られる。
C/C複合材は、黒鉛、アルミナ、ジルコニア、SiC等の構造部品と比べ熱膨張係数が小さいため、C/C複合材製のボルトなどの接合部品を用い室温(25℃前後)で構造部品を締めつけたのち温度を上げていくと、C/C複合材製の接合部品は、引っ張られて熱歪みが発生する。本発明のC/C複合材は、弾性係数が小さいためこのような歪みに対応する応力を小さくすることが出来るため、熱歪みを緩和することが出来る。
【0037】
前記のような温度上昇に伴って発生する熱応力を防止するために、あらかじめ従来のC/C複合材からなる部材と他の黒鉛、アルミナ、ジルコニア、SiCなどの構造部材との間に熱膨張に相当するだけのクリアランスを設けておくことも可能ではあるが、室温と繰炉温度との差が大きいほど室温時のクリアランスが大きくなるため、組立精度が悪くなる上に、ガスや熱が、構造部材の外に流れやすくなる。またシリコンや金属の蒸気が発生する環境では、従来のC/C複合材と他の材質の構造部材とを接着し実質的にクリアランスの無い状態が出来てしまうことがあるため、クリアランスを設けていても熱応力の発生を防止しにくい。本発明のC/C複合材は、弾性率が小さいためクリアランスを設けておかなくてもよいため、前記の組立精度の問題は起こりにくく、他の構造部材と接着しても熱応力の発生を小さくすることができる。
【0038】
本実施の形態では、筒状部を構成しており、筒状部の軸に直交する断面は、炭素繊維が内表面に沿って配向している。そしてこの筒状部の端部に黒鉛製の鍔部(図示せず)が接合あるいは当接されて使用される。この筒状部においては炭素繊維の短繊維が、内表面に沿って配向しているので、繊維が解れにくく切削加工しても滑らかな面を形成することが出来、さらに、炭素繊維が内表面に沿って配向しているので繊維に沿って表面からの連続気孔ができにくい。このため単結晶引き上げ装置などに使用した場合において、SiO、Siなどの反応性ガス環境下で引き上げを行う場合も、反応性ガスが複合材内部への浸透しにくくすることができる。
【0039】
従ってシリコン単結晶引き上げ装置において、例えばSiO又はSi等の反応性ガス中で使用しても、C/C複合材内にガスが浸透しにくく、ライフの長いC/C複合材成形体を提供することができる。また、薄片体をランダムに積層して形成されているため滑らかな表面が形成でき、シリコンなどの濡れ性の高い物質の析出が生じにくい。
【0040】
本発明のC/C複合材は、Cl、Fなどのハロゲンガスや、CFなどハロゲン系のガスを使用し高温で熱処理することによって不純物含有量を小さくすることができる。このため、高純度のC/Cコンポジット材を得ることができ、例えば、シリコン単結晶引き上げ装置、SiC単結晶製造装置、多結晶シリコン製造装置、シリコン、化合物、SiCなどのエピタキシャル製造装置、等で好適に利用することができる。
【0041】
本実施の形態1のC/C複合材で用いる炭素繊維は、特に限定されるものではない。たとえばPAN系、ピッチ系炭素繊維のいずれでも利用可能である。中でもPAN系炭素繊維は、炭素繊維の中でも低弾性であるので、熱応力や、部分的に表面がSiCなどに反応し、反応生成物が析出した場合にも反応転化による内部応力を蓄えにくい。このため、C/C複合材の反応転化による破壊に至るのを防ぐことができ、好適に利用することができる。
【0042】
このC/C複合材は、抄造法を使用して製造することが好ましいが、短繊維を使用してC/C複合材を得ることができれば、どのような方法で製造しても良い。
【0043】
本実施の形態では、C/C複合材を抄造法を用いて形成することができる。
プリフォームの形成を中心に以下に詳述する。
【0044】
図4(A1)〜(D)に、本発明の実施の形態1の成形体の製造方法の概要図を示す。図4において炭素繊維1は直線状繊維からなる。本発明のC/C複合材成形体は、後述するように、炭素繊維とバインダとを液体中で凝集させてフロックを形成し、このフロックを積層(抄造)して形成される。フロックとは、ランダムに配向した炭素繊維とバインダとが均一に分散した炭素繊維とバインダとの凝集体であり、C/C複合材成形体における薄片体の素となる。炭素繊維1が直線状繊維であることにより、後述するフロックの積層工程(抄造時)においてフロックを金型で濾過する際に、既に金型の表面に形成されている下層のフロックに炭素繊維が突き刺さり絡まるので、成形体の曲面方向に対して垂直な方向(厚さ方向)の接合強度が得やすくなる。本発明において「直線状繊維」とは、実質的に屈曲部を有しない繊維をいい、針状の繊維であることが好ましい。繊維長の長い炭素繊維や軟らかい炭素繊維等、直線状繊維となりにくい炭素繊維を使用した場合には、既に形成されている薄片体に突き刺さりにくく、殆どの繊維の長手方向が面方向に沿うように配向し炭素繊維が絡まりにくいため、厚さ方向の接合強度が得にくい。
【0045】
本発明の成形体は、薄片体の積層方向(成形体の厚さ方向)に隣接する薄片体をつなぐ炭素繊維成分を含むことが望ましい。また、炭素繊維1の厚さ方向の配向成分が成形体の厚さ方向に連続的に存在することが望ましい。上記のように、直線状繊維を含むフロックは、既に形成されているフロックに炭素繊維が突き刺さるように積層されるので、フロックの境界であっても成形体の厚さ方向に炭素繊維の配向成分が連続的に形成される。これにより、成形体の厚さ方向に垂直な方向に界面を有しない、剥離しにくいC/C複合材の成形体を得ることが出来る。
【0046】
炭素繊維は平均繊維長が1.0mm未満であることが好ましい。平均繊維長が1.0mm以上であると、抄造時に繊維が絡まり合い、互いに反発するため、作製される抄造体の嵩密度は低い。そのため、炭素繊維の平均繊維長が1.0mm以上で作製された抄造体から高強度のC/C複合材を得るには、抄造体の嵩密度を高めるために抄造体をさらにオートクレーブなどで圧縮成形する必要がある。圧縮前後の嵩密度の差が大きいほど圧縮率が高くなり、圧縮の過程で皺が発生し、特に端部や屈曲部に皺が寄りやすくなる。このため、できあがったC/C複合材の端部や屈曲部に強度の低い部分が発生する。平均繊維長が1.0mm未満であれば、抄造時に、より嵩密度の高い抄造体を得ることができるので、オートクレーブで圧縮成形する際に圧縮率を低くすることができる。これにより、できあがったC/C複合材の端部や屈曲部などに発生する皺を抑えることができ、欠陥の少ないC/C複合材の成形体を得ることができる。
【0047】
さらに、平均繊維長が1.0mm以上であると炭素繊維が屈曲し易くなり、抄造時に炭素繊維の長手方向がC/C複合材成形体の曲面方向に配向しやすくなる。このため、厚さ方向に繊維の絡まりが少なく剥離し易くなる。炭素繊維の平均繊維長が1.0mm未満であれば直線状繊維となりやすく、炭素繊維を抄造する際に既に形成されている下層のフロックに炭素繊維が突き刺さり繊維が絡まりやすく、厚さ方向の接合強度が得やすくなる。炭素繊維の平均繊維長が1.0mm以上であると、抄造時に型面と垂直方向の配向成分が少なくなる上に型面に垂直に配向した炭素繊維は、加圧成形時に折れやすくなるため層間強度が得られにくく層間剥離しやすくなる。
【0048】
炭素繊維の平均繊維長のより望ましい範囲は0.05〜0.5mm未満である。炭素繊維の平均繊維長が0.5mm未満であれば、炭素繊維が突き刺さり繊維が絡まりやすくなるためにC/C複合材の厚み方向の強度をより強くすることができる上に炭素繊維が短いので高い密度で充填されやすくなる。よって炭素繊維の抄造時の密度を高めることができ、成形体成形時の圧縮率を高めることができる。炭素繊維の平均繊維長が0.05mm未満であると、炭素繊維がマトリックスを補強する作用がなくなり、炭素繊維が繊維としての性質を失いC/C複合材が高強度を得ることができない。
【0049】
炭素繊維の平均繊維径は、1〜20μmが好ましい。また、炭素繊維のアスペクト比は10〜1000が好ましい。平均繊維径及びアスペクト比がそれぞれ上記範囲であれば繊維長に対して繊維長を充分に細くすることができるため、繊維のマトリックスからの引き抜きに対して抵抗力を備えることができるので、C/C複合材は高い強度を得ることができる。
【0050】
炭素繊維にはピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維があるがどちらも好適に使用することができる。なかでも繊維の弾性率が低いためPAN系炭素繊維が好ましい。PAN系炭素繊維は、ピッチ系炭素繊維に比べて繊維の弾性率が低いため、例えば単結晶引き上げ装置用のるつぼ、保温筒、ルツボ受け皿、ヒーター等の柔軟性が必要な用途に好適に使用することができる。
【0051】
本発明のC/C複合材は、嵩密度が1.2g/cm以上である。C/C複合材の嵩密度が1.2g/cm以上であれば、C/C複合材中の空隙が少なくなるため炭素繊維の接合が密になり、炭素繊維がマトリックスから引き抜かれにくくなる。このため、緻密でより高い強度のC/C複合材の成形体を得ることができる。本発明のC/C複合材は嵩密度が1.8g/cm以下であることが好ましい。1.8g/cmを超えると、成形後の焼成時に成形体内部から発生するガスが抜けず、成形体に膨れや層間剥離が発生しやすくなる。
【0052】
以下、本発明のC/C複合材成形体の製造方法について説明する。図3に本発明の実施の形態1の成形体の製造工程フロー図を、図4の(A1)〜(D)に本発明の実施の形態1の成形体の製造方法を示す概要図を示す。
1.工程(A):フロック形成工程(SA)
まず、工程(A)として、図3(A)及び図4(A1)〜(A2)に示すように、炭素繊維1と、炭素質マトリックスの前駆体成分であるバインダとを液体中に投入し懸濁させ、炭素繊維を素線に解繊する。懸濁液に凝集剤を加え、炭素繊維1とバインダとを凝集させてフロック5を形成する。炭素繊維1は、はじめ図4(A1)に示すように液体中に分散してスラリーを形成するが、時間の経過と共に図4(A2)に示すように凝集してフロック5を形成する。ここで、解繊とは、束になった炭素繊維を一本ずつ解きほぐすことである。一般に炭素繊維は数百から数千本を束にしてサイジング剤等を塗布することにより、一束のストランドとしてある。解繊では一本ずつの繊維に解きほぐす工程を示す。
【0053】
2.工程(B):フロックの積層体を形成する工程(SB)
次に、工程(B)として、図3(B)及び図4(B)に示すように、フロック5が形成された液体を、多孔状型面21を有する金型20で濾過する。多孔状型面21は側面に多数の開口21Aを有する。これにより、多孔状型面21の表面にフロック5を、多孔状型面21の面方向に連続した層として積層し、フロックの積層体(プリフォーム、第一成形体)50を形成する。
本発明における製造方法では、従来のように炭素繊維が懸濁したスラリーを直接濾過(抄造)するのではなく、一旦炭素繊維をバインダと共に凝集させてフロックを形成し、フロックを濾過(抄造)することを特徴とする。これにより、多孔状型面21へのフロック5の積層が進行しても、フロック5の間を液体が透過することができるので、液体の透過を遮りにくく、厚いフロックの積層体50を容易に得ることができる。また、図4(C)に拡大して示すように、水の通過抵抗が大きくならないよう多孔状型面21の開口21Aより炭素繊維1の平均繊維長が小さい場合であっても、フロック5を開口21Aより大きく形成することができる。したがって、濾過の際に炭素繊維1が開口21Aを通過することなく、フロックの積層体(プリフォーム)50を形成することができる。
【0054】
3.工程(C):薄片体前駆体の積層体を成形する工程(SC)
次に、工程(C)として、図3(C)及び図4(C)に示すように、フロックの積層体(プリフォーム)50を一体的に加圧する。「一体的に」とは、複数の積層体を重ねることなく成形することである。これにより、炭素繊維1の長手方向は、多孔状型面21の面方向に平行に配向するようになる。そしてフロック5は薄片化して、図4(D)に示すように薄片体前駆体6となる。このようにして、図4(D)に示すように、炭素繊維が素線状態で存在する薄片体前駆体の積層体(加圧成形されたプリフォーム)60を形成する。
【0055】
4.工程(D):焼成工程(SD)
そして、工程(D)として、図3(D)及び図4(D)に示すように、薄片体前駆体の積層体60を焼成する。これにより、バインダ4を炭化して、図1(d)に示すように炭素質マトリックス2を生成し、薄片体前駆体の積層体6は薄片体3となる。このようにして、薄片体3の積層体、すなわち、本発明のC/C複合材の成形体100を得る。
【0056】
次に、各工程について下記に詳しく説明する。
【0057】
[炭素繊維の調整]
炭素繊維は、前処理として、本発明のC/C複合材の成形体に適するように調整をすることが好ましい。一般に広く流通する釣り竿や航空部品などに用いられる炭素繊維強化プラスチック(以下「CFRP」とも称する)用の炭素繊維の表面にはサイジング剤などの被膜が形成されているため、CFRPの抄造時に水に分散しにくくなる。このため炭素繊維はサイジング剤などの被膜のないものを選択することが好ましい。または、有機物から発生する炭化水素ガス、水素又は一酸化炭素等を用いた還元性雰囲気下で熱処理しサイジング剤などを除去することが好ましい。還元性雰囲気のほか、窒素ガス又は希ガス等を用いた不活性ガス雰囲気も適用可能である。なお、CFRPの製造の過程で発生する端材を用いても良い。このような被膜は500℃以上に熱処理することで除去することができる。次に炭素繊維の平均繊維長を1.0mm未満となるよう調整する。炭素繊維の平均繊維長が1.0mm未満であれば前述したように、弾性率の低いC/C複合材が得られる上に、フロックの積層体(抄造体)段階での嵩密度を高め、皺の発生を抑え、成形体の強度の弱い部分の形成をおさえることが出来、また成形体の厚さ方向の接合強度が得られるようになり、剥離しにくい高強度の成形体を得ることができる。平均繊維長が1.0mm未満の炭素繊維、又は市販の炭素繊維や、CFRPの製造の過程で発生するクロス又はストランド等の端材を粉砕することにより得ることができる。炭素繊維のクロス又はストランド等の端材を粉砕することにより、本発明で利用しやすいクロス又はストランド等の痕跡を残さない平均繊維長が1.0mm未満の炭素繊維の原材料を得ることができる。なお、粉砕は、どのような方法で行ってもよいが、例えば水中に分散しミキサーにより行うことができる。
【0058】
[フロック形成工程(A)]
フロックを調製するにあたり、液体としては水を使用することが好ましい。大量の液体を使用するために有機溶媒などに比べ水は安全に使用できる上に、廃水処理が容易であるからである。
炭素質マトリックスの前駆体成分からなるバインダ(以下、「第1バインダ」とも称する。)としては炭素繊維を懸濁する上記液体に不溶で、炭化する物であればどのような物でも利用することができる。第1バインダは、C/C複合材の内部に空洞を形成しないようにする観点から粉状であることが好ましく、粒子径は3〜100μmであることが好ましい。第1バインダとしては、例えば、フェノール樹脂、フラン樹脂、及びイミド樹脂などの熱硬化性樹脂から選ばれる1種以上を好適に利用することができる。フェノール樹脂としては、例えば、エアウォーター社製ベルパール(登録商標)を好適に利用することが出来る。ベルパールは、粉末状のフェノール樹脂であり、表面に疎水性被膜が形成されているため、水中でも溶解することなく粒状を保っているので、炭素繊維と共に凝集することができる。
第1バインダの添加量は炭素繊維100重量部に対し50〜200重量部が好ましい。第1バインダの添加量が50重量部未満であると炭素質マトリックスの量が少なくなるために成形体の強度が低下する。また第1バインダの添加量が200重量部を超えると、C/C複合材の製造段階で発生するガスによりC/C複合材に膨れ又は剥離が起こりやすくなる。
【0059】
本発明で用いる凝集剤は、電荷の変化を利用して炭素繊維とバインダとを凝集できるものであればどのような物でもよく、ζ電位を±10mV以下程度にできる物が好ましい。ζ電位を小さくすることによって、バインダ粒子、炭素繊維の反発力を小さくすることが出来、凝集しやすくすることが出来る。例えば無機凝集剤、有機高分子凝集剤等が利用でき、これらを併用しても良い。具体的には有機高分子凝集剤のアライドコロイド社製パーコール292(登録商標)等が好適に利用できる。フロックが形成されると、炭素繊維で黒く着色したスラリーの状態から、透明な液体中に黒いフロックが浮遊する混合液の状態に変化する。有機高分子凝集剤は、分子量が大きいため、架橋作用もあり、大きなフロックを得ることができる点で好ましく使用することができる。
【0060】
凝集剤の添加量としては、炭素繊維100重量部に対して0.01〜5重量部が好ましく、0.5〜1重量部がより好ましい。上記範囲とすることによりフロックを崩れにくくすることができる。
また、多孔状型面の開口径の大きさは、特には限定されないが0.5〜10mmであることが好ましく、1〜3mmがより好ましい。多孔状型面の開口径が0.5mm未満であると、炭素繊維が目詰まりし易く水の通過抵抗が大きくなることがある。多孔状型面の開口径が10mmを超えると、開口部に開口面積に負圧を乗じた吸引力が発生するため、本来通過しない大きさのフロックまでも吸引され通過してしまうことがある。フロックの大きさは、濾過に用いる多孔状型面の開口径と同等以上にすることが好ましい。フロックの大きさには分布があるので、直径の大きなフロックが型面に捕捉されると、多孔状型面へのフロックの堆積が開始する。多孔状型面の開口径よりもフロックの平均直径が大きく下回ると、フロックの大部分が型面を通過してしまいフロックが型面へ堆積することが出来ない。混合液中におけるフロックの平均直径は0.5〜10mmが好ましく、1〜5mmがより好ましい。フロックの大きさは凝集剤の量、凝集剤の種類、凝集時間、撹拌の強さにより調節することができる。
【0061】
フロックを形成する液体中にはさらに、第2バインダを添加することが好ましい。前記第1バインダ成分は、抄造段階では粉末状であるため、フロックの積層体(抄造体)の形状を保持することが難しい。第2バインダは、後に得られるフロックの積層体の形状を、後の硬化工程前まで保持するために添加する成分である。第2バインダとしてはフロックの積層体の形状を保持できればどのような物であっても構わない。フロックの積層体を形成する段階で炭素繊維と第1バインダとを、また炭素繊維同士を、物理的に結合させる作用を有する物であればどのような物でも良い。第2バインダとしては、例えば粘性液体、有機繊維などが挙げられる。粘性液体としては、でんぷん、又はラテックスなどが好適に利用できる。ラテックスは、水に混合すると白濁し懸濁液となる。細かく分散したラテックスの液滴は、炭素繊維と第1バインダとを粘着作用により結合させる作用がある。有機繊維としてはパルプなども好適に利用できる。パルプは水との親和性がよく、炭素繊維と絡み合って、炭素繊維と第1バインダとを結合させる作用を有する。第2バインダとして粘性液体を用いた場合は、例えば図4(C)に拡大して示すように、炭素繊維1と第1バインダ4の間に第2バインダ7aが、炭素繊維1間に第2バインダ7bが介在することで、フロックの積層体50の形状が保持されている。
【0062】
なお、フロックの形成にあたり、上記炭素繊維、第1バインダ、凝集剤及び第2バインダの添加順序は特に制限はなく、これらを同時に液体中に添加しても順次添加してもよいが、均一かつ安定にフロックを形成する観点から下記順序で調製することが好ましい。
a)水に炭素繊維を投入し撹拌しながら分散させる。撹拌が強すぎると気泡ができるので好ましくない。撹拌手段はプロペラ型あるいはパドル型の混合機等を用いることができる。炭素繊維の攪拌時間は3分前後が好ましい。
b)次に第1バインダを加え、第1バインダが分散するまで攪拌する。攪拌時間は0.5〜5分間が好ましい。
c)次に第2バインダを加え、第2バインダが分散するまで攪拌する。攪拌時間は0.5〜5分間が好ましい。
d)最後に凝集剤を加える。撹拌が少ないと凝集剤が混ざらず、撹拌しすぎると形成されたフロックが壊れてしまう。フロックの出来具合を確認しながら撹拌時間を調整する。攪拌時間は20〜30秒が好ましい。
【0063】
[フロックの積層体形成工程(B)]
こうして形成されたフロック5を含む液体中に金型20を浸漬する。金型20は、図4(B)に示すように、円筒形状の多孔状型面21と、減圧室22とを備えている。多孔状型面21には、開口21Aが設けられている。減圧室22は配管23により吸引ポンプ(図示せず)と連結されている。従って、吸引ポンプを作動させると、減圧室22内の空気が排出され減圧状態となり、金型20側にフロック5が吸引される。フロック5の大きさは、開口21Aよりも大きいため、フロック5は開口21Aを通過せず多孔状型面21の表面に多孔状型面の面方向に連続した層として積層する。その際にフロック5は、既に形成された積層体に炭素繊維が突き刺さるように積層する。積層したフロック5は、吸引力の影響で球形からやや扁平形状となり、フロック内の炭素繊維1の長手方向は多孔状型面21の面方向に平行に配向するようになる。一方、液体は開口21Aを通過し、配管を介して外部に排出される。こうして、フロックの積層体(プリフォーム、第一成形体)50を形成することができる。
【0064】
多孔状型面21は、液体を透過できる複数の開口を有する物であればどのような物でもよく、網、パンチングメタル、織布、又は不織布等が挙げられる。多孔状型面の開口の大きさは、液体として水を使用する場合に、水が透過し易い直径1〜3mm程度が好ましい。
なお、金型の形状については、後述するが、平面及び/又は複数の平面の組み合わせ、3次元曲面及び/又は曲面の組み合わせ、鍔部を有する円筒体、円錐体、有底体又は角柱など適宜選択可能である。
【0065】
また、吸引濾過の際、減圧はどのような物で行っても良い。空気の他液体も一緒に吸引されるので自吸式の渦巻きポンプ又はアスピレータなどが好適に利用できる。
【0066】
なお、濾過の方法としては、上記に示した吸引濾過の他に、加圧濾過又は遠心濾過等の方法を採用してもよい。加圧濾過は、例えば、多孔状型面の外表面側を加圧ガスで加圧し、多孔状型面の外表面にフロックを積層させ、フロックの積層体を形成する方法である。遠心濾過は、例えば、内面に多孔状型面を設置した回転体の型の内部にフロックを含む混合液を供給し、回転体を回転させ、多孔状型面の内表面にフロックを積層させ、フロックの積層体を形成する方法である。
【0067】
[乾燥工程]
次に、前記工程で得られたフロックの積層体に残存する水分を除去するために金型ごと乾燥することが好ましい。乾燥は水分を除去するために40℃以上で行うことが好ましい。また、第1バインダの溶融硬化を防止するため、第1バインダの溶融温度以下で行うことが好ましい。例えば、第1バインダとしてベルパール(登録商標)を用いた場合は、70℃前後で疎水性被膜が溶解することに鑑み、60℃以下で通風しながら乾燥させることにより、容易に水分を除去することができる。
【0068】
[加圧工程](成形工程(C))
成形方法としては、成形体が平面形状又は平面に近い形状である場合は1軸成形による加圧方法が利用できる。ただし、この方法は、キャビティーの両側に上型、下型を構成することができる限られた構造でのみしか利用することができない。したがって、成形体が立体形状の場合は、図4(C)に示すように、フロックの積層体50を密閉フィルム24で覆い、オートクレーブ26を用いて熱と圧力を加え成形することが好ましい。まず密閉フィルム24内の空気を吸引し真空引きした後、圧力をかける。成形圧は特に限定されないが1MPa以上が好ましい。1MPaの圧力があれば、熱硬化性樹脂の硬化反応で発生する生成ガスが加圧した抄造体が膨張することを防ぐことが出来る。このとき、フロックの積層体50の金型20面側(内側又は外側)を、支持材25で支持しながら成形することが好ましい。加熱によりフロックの積層体が軟化し、変形するおそれがあるので支持材25で支持することにより、変形を防ぐことができる。ここで用いる支持材25はフロックの積層体の形成工程(B)で使用した金型20とは異なり、多孔状型面を有さない、表面が平滑のものである。成形は一軸成形であってもオートクレーブであっても積層体を重ねることなく(積層体を接合することなく)一体的に成形する。積層体単体では、層間剥離し難いが、重ねて成形する場合は一旦乾燥してしまうと単繊維が積層体同士を結び付けにくく、層間剥離しやすくなるからである。
【0069】
[硬化工程]
第1バインダは熱硬化性樹脂が用いられるので、上記成形工程において十分に圧力を上げた後、加熱し、フロック内に含まれる熱硬化性樹脂を溶融硬化させることが好ましい。これにより、薄片体前駆体の積層体が変形しないように形状を固定化させることができる。硬化温度は熱硬化性樹脂の硬化温度以上まで上げる必要がある。例えば150〜200℃で行うことが出来る。硬化温度が150℃以上であれば十分に熱硬化性樹脂の硬化を進行させることができ、硬化温度が200℃以下であれば熱硬化性樹脂の硬化時に発生するガスによる発泡を防止することができる。前記の成形工程をオートクレーブで行う場合等、成形工程で充分に加熱できれば、硬化工程は成形工程と同時に行うこともできる。
【0070】
[脱脂工程]
焼成工程の前に、薄片体前駆体の積層体内部の有機成分を揮発させるために脱脂を行うことが好ましい。この脱脂工程を経て、第1バインダは炭化し、第2バインダはその大部分が分解し揮散する。このため、脱脂工程以降で結合作用を有するのは、第1バインダ成分を由来とする炭化物である。脱脂の温度はどの程度であっても構わない。脱脂工程の後にピッチ含浸又は、樹脂含浸を行う場合には、気孔を形成しておくことが好ましく、500℃以上で脱脂することが好ましい。脱脂の温度が500℃以上であれば、樹脂の炭化が充分に進行し、後の含浸工程で樹脂あるいはピッチの含浸される充分な大きさの気孔を形成することができる。脱脂温度の上限は、後の焼成温度以下であれば特に限定されないが、1000℃以下が好ましい。1000℃までに大半の揮発分が揮散するため、含浸される気孔を十分に形成することができるからである。脱脂は、炭素繊維及びバインダが酸化するのを防ぐため、有機物から発生する炭化水素ガス、水素、又は一酸化炭素等を用いた還元性雰囲気下で行うことが好ましい。還元性雰囲気のほか、窒素ガス又は希ガス等を用いた不活性ガス雰囲気も適用可能である。
【0071】
[含浸工程]
脱脂後の薄片体前駆体の積層体の気孔内部に、樹脂、又はピッチなどを含浸することにより成形体を高密度化することが好ましい。脱脂後の薄片体前駆体の積層体をオートクレーブに入れ、真空引きした後に、オートクレーブ中に液状の樹脂又はピッチを導入し、浸漬した後圧力を加える。液状の樹脂は、水又は有機溶媒で溶液にしたものに、熱を加え、溶融した物でも良い。溶液にしたものの場合には、使用を繰り返しても重合が進みにくいので、安定して使用することができる。ピッチの場合には、オートクレーブを軟化点以上に加熱して、ピッチを液状にして使用することが好ましい。
含浸が終了した後、上記脱脂工程と同様に脱脂を行うことにより、より高密度の成形体を得ることができる。
【0072】
[焼成工程(D)]
薄片体前駆体の積層体にさらに熱を加え焼成することにより、第1バインダは十分に炭化し、炭素質マトリックスを生成する。これにより薄片体前駆体は薄片体となり、薄片体の積層体により構成される本発明のC/C複合材からなる成形体100を得ることができる。
焼成工程においては、温度の上昇と共に支持材は熱膨張し、薄片体前駆体の積層体60(加圧成形されたプリフォーム、第二成形体)は熱収縮する。焼成工程で発生する積層体と支持材との熱膨張差による応力を回避するため薄片体前駆体の積層体60(加圧成形されたプリフォーム、第二成形体)から支持材25を外し、還元性雰囲気又は不活性雰囲気等の非酸化性雰囲気下で加熱することが好ましい。有機物から発生する炭化水素ガス、水素又は一酸化炭素等を用いた還元性雰囲気、あるいは、窒素ガス又は希ガス等を用いた不活性ガス雰囲気が適用可能である。焼成工程の好ましい温度は、1500〜2800℃である。焼成温度が1500℃以上であれば、C/C複合材中の水素、酸素、窒素などを充分に除去できる。水素、酸素、窒素などが残留すると、成形体を使用する際に炭化水素ガス等が発生する。1500℃以上で焼成されていない成形体を半導体装置などで使用すると、発生したガスが半導体に混入し、純度を下げることがある。焼成温度が2800℃以下であれば、炭素繊維強化炭素複合材の結晶化の進行を押さえることができ、成形体の強度を維持しやすくなる。さらに好ましい焼成温度は1800〜2500℃である。加熱速度は500℃/H程度で行ことが好ましい。
【0073】
本発明の実施形態によれば、多孔状型面21の形状を、所望とする成形体の形状に沿った形状とすることで、上記形状だけでなく、様々な立体形状の成形体を一体成形により製造することができる。これにより炭素繊維を均一に分散させることができるので、面の接合部などであっても構造的に弱い部分ができにくくなる。
【0074】
なお、C/C複合材の密度を高めるため、焼成工程の前に含浸工程及び脱脂工程を複数回繰り返しても良い。
【0075】
なお、抄造後乾燥工程で得られた乾燥した抄造体を150〜200℃に加熱し加圧し、5分以上保持して硬化するのが望ましい。また、硬化工程で硬化した成形体を、500℃以上加熱し、第1バインダ成分を炭素化し脱脂体を得て、さらに焼成工程は、1500℃以上で脱脂体を焼成することが好ましい。
【0076】
(平均繊維長、繊維体積率)
本願における炭素繊維の平均繊維長<L>は、どのような方法で測定しても良い。原材料段階であれば、分散させた炭素繊維粉末を走査電子顕微鏡等で直接測定することによって得ることができる。炭素繊維の平均繊維長の算出方法は、下記式に示すように、任意の領域に存在する炭素繊維の長さLiを全て計測し、計測した炭素繊維の本数nで除することで求めることができる。(炭素繊維の太さ、密度は平均繊維長には寄与しない)
<L>=ΣL/n
また、C/C複合材中に含まれる状態での炭素繊維の平均繊維長も、どのような方法で測定しても良い。炭素繊維のみを単独で抽出することは容易にできないが、例えば集束イオン・電子ビーム加工観察装置(FIB-SEM)等の方法を用いれば計測することができる。具体的には、C/C複合材を表面から集束イオン・電子ビーム等を用いて少しずつ加工しながらSEMで繊維の立体的な配置を確認し、個々の繊維長を求めることができる。さらに、炭素繊維の占める面積を加工する毎に算出することにより、繊維体積率を算出することができる。
【0077】
また、繊維体積率は、C/C複合材を直接分析する以外にも、製造段階で使用した炭素繊維の質量及び真密度から算出した炭素繊維の体積を、C/C複合材の質量及びみかけ密度(嵩密度)から算出したC/C複合材の体積で除して、求めることもできる。
【0078】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2の成形体について、図5に基づいて説明する。
図5に本発明の実施の形態2の成形体、(a)は斜視図、(b)は断面図、(c)は(b)の要部拡大図、(d)は(c)のさらなる要部拡大図を示す。また、図6(B)〜(D)に、本発明の実施形態2の成形体の製造方法を示す概要図を示す。実施の形態2のC/C複合材成形体200は、底面を有することを特徴とするもので、底面を有する点以外は、実施の形態1の成形体100と同様である。
実施の形態2のC/C複合材成形体200を製造するには、フロックの積層体(プリフォーム)を形成する際に、図6(B)に示すように、多孔状型面31を側面及び底面に有する金型30を用いてフロック5を濾過する。また、図6(C)に示すように、加圧工程における支持材35を有底とする。それ以外は、実施の形態1の製造方法と同様である。フロック5は、多孔状型面31の曲面方向に沿って積層する。そして、図5(b)に示すように炭素繊維1の長手方向は、成形体200の面200Sの方向に配向する。これにより、得られた成形体200は、底面と側面の境界領域においても薄片体が成形体200の面200Sに沿って配向するので、薄片体の境界が分散され、均一な成形体となる。
【0079】
このC/C複合材成形体においては、炭素繊維は炭素質マトリックス内で素線状態で存在する。また、炭素繊維の平均繊維長が1.0mm未満の直線状繊維であり、C/C複合材成形体の繊維体積率が30〜50%である。そして、C/C複合材成形体の嵩密度が1.2g/cm以上である。
また、このC/C複合材成形体においては、C/C複合材成形体の引張り強度が50MPa以上、C/C複合材成形体の弾性率が5〜15GPaであることが好ましい。
【0080】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3の成形体について、図12及び図13に基づいて説明する。図12(a)は本発明の実施の形態3のC/C複合材成形体の斜視図、図12(b)は断面図、図13(A)乃至(C)は本発明の実施の形態3のC/C複合材成形体の製造工程を示す概略図である。
実施の形態3のC/C複合材成形体300は、円筒状部300aの下端に鍔部300Tを有する点以外は、実施の形態1のC/C複合材成形体100と同様である。このように、鍔部300Tを有することで、円筒面を構成する曲面と、ドーナッツ状の平面とが隣接して連続的に一体形成されている。ここで円筒面を構成する曲面と、ドーナッツ状の平面との境界領域300Rにおいても、薄片体3が表面300Sに沿って配向しており高強度で均一な連続面を構成しているため、極めて高強度となっている。またこの境界領域300Rにおいても薄片体3の境界が分散され、均一な成形体となる。
【0081】
このC/C複合材成形体300の製造に際しては、前記実施の形態3と同様であるが、金型30の端部30E表面には多孔状型面を形成しないようにして一部マスキングして、フロックが析出しないようにしている。
この構成により、図13(B)に示すように、多孔状型面31を側面及び底面に有する金型30を用いてフロックをろ過する。フロックは、多孔状型面31の曲面方向に沿った連続体として積層する。このようにして金型30の外壁に沿った第1の曲面300iと、この第1の曲面300iに対向する第2の曲面300oとで構成され、鍔部300Tを持つ円筒状部300aからなる薄片体積層体を形成し所望の形状を得ることができる。
【0082】
そして、前記実施の形態1,2と同様に乾燥工程、加圧工程、脱脂工程、含浸工程、焼成工程を経て、図12(a)及び(b)に示したように、鍔部を持つ円筒状体からなるC/C複合材成形体300を得ることができる。このC/C複合材成形体300は、鍔部と円筒状部との境界部すなわち接合部においても薄片体は第1および第2の曲面300i,300oに沿って配向し、薄片体の境界が分散され、組成が均一な連続体の成形体となる。
本発明の実施の形態3のC/C複合材成形体においては、炭素繊維は炭素質マトリックス内で素線状態で存在する。また、炭素繊維の平均繊維長が1.0mm未満の直線状繊維であり、C/C複合材成形体の繊維体積率が30〜50%である。そして、C/C複合材成形体の嵩密度が1.2g/cm以上である。
また、本発明の実施の形態3のC/C複合材成形体においては、C/C複合材成形体の引張り強度が50MPa以上、C/C複合材成形体の弾性率が5〜15GPaである。
【0083】
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4の成形体について、図14および図15に基づいて説明する。図14(a)は本発明の実施の形態4のC/C複合材成形体の斜視図、図14(b)は断面図、図15(a)乃至(b)は本発明の実施の形態4のC/C複合材成形体の製造工程を示す概略図である。
実施の形態4のC/C複合材成形体400は、円筒状部400aの下端に円錐台形状筒部400bを有する点以外は、実施の形態1のC/C複合材成形体100と同様である。このように、円錐台形状筒部400bを有することで、円筒面を構成する曲面と、円錐台形状筒部を構成する曲面とが隣接して連続的に一体形成されている。ここで円筒面を構成する曲面と、円錐台形状筒部との境界領域400Rにおいても、薄片体3が表面400Sに沿って配向しており高強度で均一な連続面を構成しているため、極めて高強度となっている。またこの境界領域400Rにおいても薄片体3の境界が分散され、均一な成形体となる。
【0084】
本発明の実施の形態4のC/C複合材成形体400の製造に際しては、前記実施の形態3と同様であるが、円柱状と円錐状の外表面をもつ金型40を用いている。
この構成により、図15(b)に示すように、多孔状型面31を側面に有する金型40を用いてフロックをろ過する。フロックは、多孔状型面41の曲面方向に連続した層として積層する。このようにして金型40の外壁に沿った第1の曲面400iと、この第1の曲面400iに対向する第2の曲面400oとで構成され、円筒状部400aと円錐台形状筒部400bからなる薄片体積層体を形成し所望の形状を得ることができる。
【0085】
そして、前記実施の形態1、2、3と同様に乾燥工程、加圧工程、脱脂工程、含浸工程、焼成工程を経て、図14(a)及び(b)に示したように、鍔部を持つ円筒状体からなるC/C複合材成形体400を得ることができる。このC/C複合材成形体400は、円筒状部400aと円錐台形状筒部400bとの境界部すなわち接合部においても薄片体は第1および第2の曲面400i,400oに沿って配向し、薄片体の境界が分散され、表面400Sでは組成が連続して均一な成形体となる。
本発明の実施の形態4のC/C複合材成形体においては、炭素繊維は炭素質マトリックス内で素線状態で存在する。また、炭素繊維の平均繊維長が1.0mm未満の直線状繊維であり、C/C複合材成形体の繊維体積率が30〜50%である。そして、C/C複合材成形体の嵩密度が1.2g/cm以上である。
【0086】
また、本発明の実施の形態4のC/C複合材成形体においては、C/C複合材成形体の引張り強度が50MPa以上であり、C/C複合材成形体の弾性率は5〜15GPaのC/C複合材成形体である。
【0087】
(実施の形態5)
本発明の実施の形態5の成形体について、図16に基づいて説明する。図16は本発明の実施の形態5の成形体を示す図、(a)は斜視図、(b)は断面図である。
本発明の実施の形態5のC/C複合材成形体500は、底部500bを有する四角筒状部500aで構成されている。形状以外は、実施の形態1のC/C複合材成形体100と同様である。このように、本実施の形態5では、四角筒面を構成する4つの平面と、底面とが互いに垂直となるように位置して連続的に一体形成されている。ここで互いに直交する平面間の境界領域500Rにおいても、薄片体3が表面500Sに沿って配向しており高強度で均一な連続面を構成しているため、極めて高強度となっている。またこの境界領域500Rにおいても薄片体3の境界が分散され、均一な成形体となる。
本発明の実施の形態5のC/C複合材成形体においては、炭素繊維は炭素質マトリックス内で素線状態で存在する。また、炭素繊維の平均繊維長が1.0mm未満の直線状繊維であり、C/C複合材成形体の繊維体積率が30〜50%である。そして、C/C複合材成形体の嵩密度が1.2g/cm以上である。
また、本発明の実施の形態5のC/C複合材成形体においては、C/C複合材成形体の引張り強度が50MPa以上であり、C/C複合材成形体の弾性率が5〜15GPaのC/C複合材成形体である。
【0088】
(実施の形態6)
本発明の実施の形態6の成形体について、図17及び図18に基いて説明する。
図17(a)は、C/C複合材からなる本実施の形態6の成形体600の斜視図である。そして図17(b)は図17(a)の断面図、図17(c)は図17(b)の要部拡大図、図17(d)は図17(c)の更なる要部拡大図である。実施の形態6の成形体600は、形状が平板状である点以外は、実施の形態1のC/C複合材成形体100と同様である。
【0089】
図18は、本発明の実施の形態6の成形体の製造方法を示す概要図である。以下、本発明の実施の形態6の成形体の製造方法について、詳しく説明する。
[フロック形成工程(A)]
フロックを形成する工程(A)は、実施の形態1における工程(A)と同様に行うことができる。
[フロックの積層体形成工程(B)]
次に、フロックの積層体を形成する工程(B)として、図18(B)に示すように、フロック5が形成された液体を、多孔状型面41を有する平板状の金型40で濾過する。多孔状型面41は側面に多数の開口41Aを有する。液体を上面から加圧プレート42で加圧すると、液体は開口41Aを通過し、貯水室44からバルブ43により外部に排出される。フロック5の大きさは、開口41Aよりも大きいため、フロック5は開口41Aを通過せず多孔状型面41の表面に多孔状型面の面方向に連続した層として積層する。その際にフロック5は、既に形成された積層体に炭素繊維が突き刺さるように積層する。積層したフロック5は、吸引力の影響で球形からやや扁平形状となり、フロック内の炭素繊維1の長手方向は多孔状型面41の面方向に配向するようになる。こうして、フロックの積層体(プリフォーム、第一成形体)50Fを形成する。
【0090】
多孔状型面41は、液体を透過できる複数の開口を有する物であればどのような物でもよく、網、パンチングメタル、織布、又は不織布等が挙げられる。開口の大きさは、液体として水を使用する場合に、水が透過し易い直径1〜3mmが好ましい。
【0091】
また、濾過はどのような方法で行ってもよく、例えば吸引濾過の場合、空気の他液体も一緒に吸引されるので自吸式の渦巻きポンプや、アスピレータなどが好適に利用できる。
【0092】
なお、濾過の方法としては、上記に示した吸引濾過の他に、加圧濾過、又は単純な重力による濾過等の方法を採用してもよい。加圧濾過は、例えば、多孔状型面の外表面側を加圧ガスで加圧し、多孔状型面の外表面にフロックを積層させ、フロックの積層体を形成する方法である。
【0093】
[加圧工程](成形工程(C))
そして、前記フロックの積層体50Fを重ねることなく一体的に圧縮することにより、炭素繊維の長手方向を積層方向に直交する面方向に配向させ、成形体60Fを形成する。加圧成形方法としては、成形体が平面形状である場合は1軸成形による加圧方法が利用できる。図18(C)に示すように、フロックの積層体50Fを、プレス用板材45で挟みこみ、加圧する。成形圧は1MPa以上が好ましい。成型圧が1MPa以上であれば、フロックの積層体を十分に圧縮することができるので、高密度高強度のC/C複合材を得ることができる。特に成形圧の上限は無いが熱を加えて第一バインダを軟化させているので10MPaの圧力をかければ十分に高密度高強度の成形体を得ることができる。これにより、炭素繊維1の長手方向は、多孔状型面41の面方向に平行に配向するようになる。そしてフロック5は薄片化して、薄片体前駆体となる。このようにして、図18(D)に示すように薄片体前駆体の積層体(加圧成形されたプリフォーム、第二成形体)60Fを成形する。
【0094】
得られた薄片体前駆体の積層体60Fについて、実施の形態1と同様に、硬化工程、脱脂工程、含浸工程、及び焼成工程(D)を経て、実施の形態6の成形体600を得る。
【0095】
なお、本発明において成形体の面方向とは成形体を構成する主要な面をいい、端面を含まないこととする。焼成後、表面を研磨加工したり、孔をあけたり、機械的加工を施したりすることで新たに形成される面も含まないこととする。上記に説明したように抄造法による成型時に、外表面に沿って、炭素繊維の長手方向が、連続的に配向した構成をとることで、極めて機械的強度が高く、耐熱性に優れたC/C複合材成形体を得ることができる。
【実施例】
【0096】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
(1)炭素繊維の調整工程
CFRP用のPAN系炭素繊維を準備した。平均繊維直径は7μmであった。水への分散性を改善するために繊維表面に塗布されているサイジング剤を還元性雰囲気下550℃で焼成し除去した後、水に分散させ、平均繊維長150μmになるまでミキサで粉砕した後、脱水し乾燥させた。ここでは炭化水素ガスを多量に発生する有機物粉末とともに密閉容器の中で加熱し、密閉容器内を有機物から発生する炭化水素ガスでパージして還元性雰囲気を形成した。
(2)フロック形成工程
(a)前記炭素繊維調整工程で得られた炭素繊維を水に投入し撹拌しながら分散させた。撹拌は3分間行った。
(b)次に炭素繊維100質量部に対し第1バインダとしてフェノール樹脂(エアウォーター社製「ベルパール(登録商標)」S890(200質量部)を加え、同様に1分間撹拌した。
(c)次に第2バインダとしてラテックス(5質量部)を加え、同様に1分間撹拌した。
(d)さらに、凝集剤としてカチオン系凝集剤(アライドコロイド社製「パーコール(登録商標)」292)(0.3質量部)を加え、20秒間撹拌し、フロックを形成した。
(3)フロック積層体形成工程(抄造工程)
フロックを形成した水を、外表面に開口1mmの金網を備えた円筒形の型で内側から吸引し、金網の表面にフロックを積層し、円筒形の積層体を形成した。開口1mmの金網であるが、炭素繊維はフロックを形成しているため、網を通過する炭素繊維はほとんど無かった。そのまましばらく放置し、重力で水分が除去されてから、60℃の乾燥機で通風させながら乾燥させた。
(4)成形工程(薄片体前駆体の積層体の形成)
前記工程で得られた積層体の内側に、表面の滑らかな円筒形の金型を挿入し、更に表面を密閉フィルムで覆い、オートクレーブに入れ積層体を重ねることなく150℃の熱を加えながら加圧した。加圧圧力は2MPaとした。
(5)硬化工程
オートクレーブで最大圧力のまま2時間放置した。この工程により、第1バインダ(フェノール樹脂)は硬化した。
(6)脱脂工程
前記硬化工程で得られた積層体の金型を外し、還元性雰囲気炉で加熱した。加熱は70℃/hの昇温速度で、最高温度550℃となった時点で1時間保持した後、室温まで放冷した。ここでは炭化水素ガスを多量に発生する有機物粉末とともに密閉容器の中で加熱し、密閉容器内を有機物から発生する炭化水素ガスでパージして還元性雰囲気を形成した。
(7)(含浸工程)
第1脱脂工程までに、所望の嵩密度が得られていない場合には、更に含浸を行う。
本実施例では、脱脂後の積層体を200℃に加熱したオートクレーブ中にいれ、真空引きした後に80℃(おおよその軟化点温度)のピッチを流入し、4MPaで加圧し、積層体中にピッチを含浸した。
(8)(第2の脱脂工程)
含浸工程を経た積層体は再度脱脂を行った。条件は(6)の脱脂工程と同様に行った。含浸工程及び第2の脱脂工程は複数回繰り返し行ってもよい。
(9)焼成工程
含浸及び第2の脱脂工程を行った積層体は、最後に焼成を行った。還元性雰囲気下で、150℃/hの昇温速度で加熱し、最高温度2000℃となった時点で15分保持した後、室温まで放冷した。還元性雰囲気は、カーボン粉末に積層体を埋めて、外部からの酸素を遮断して加熱することで発生する炭化水素ガス、水素、及び一酸化炭素の混合ガスにより形成した。この焼成工程により、第1バインダからマトリックスを生成し、炭素繊維の接着力が強まり、強度を発現することが出来る。このようにして、内直径1000mm、高さ1000mm、厚さ25mmの、円筒形の成形体を得た。
【0097】
<実施例2>
炭素繊維の平均繊維長を800μmのものとした以外は実施例1と同様にして、C/C複合材の成形体を得た。
【0098】
<比較例1>
フェルトが積層したC/C複合材からなる比較例1の成形体を製造した。まず、PAN系炭素繊維を30mmに切断し、シート状のフェルトを形成した。次にフェノール樹脂のメタノール溶液中に浸漬し、ロールプレスにより3mm厚の炭素繊維シートプレプリグを形成した。このようにして形成された炭素繊維シートプレプリグをマンドレルに周回し、フェルト状のシートの積層された成形体を形成した。
次に、前記工程で成形された成形体を150℃で保持することによりフェノール樹脂を硬化させ、形状を固定化した。
次に、前記実施例と同様に脱脂、含浸、脱脂、及び焼成を行い、内直径600mm、高さ600mm、厚さ25mmの、円筒形の成形体を得た。
【0099】
<比較例2〜11>
比較例2のC/C複合材の成形体は、(4)成形工程における加圧圧力を0.8MPaとした以外は実施例1と同様に作製した。
比較例3〜11として、表2に示す市販のC/C複合材の成形体を準備した。比較例3はフィラメントワインディング、比較例4〜10はクロス積層、比較例11はフェルト積層で製造された市販のC/C複合材の成形体である。
【0100】
<評価>
下記に示す条件で物性値を測定した。
・嵩密度及び曲げ強度
実施例1及び比較例1で得られた成形体から、図22(a)に示すように円筒形の高さ方向に長い直方体の物性測定サンプルをそれぞれ2本得た。この物性測定サンプルの嵩密度及び曲げ強度を測定した。成形体の嵩密度は、C/C複合材の質量を体積で除して算出した。曲げ強度は、島津製作所社製オートグラフ(AG−IS型:0〜5kN)を用い3点曲げ試験を行って測定した。図22は、物性測定サンプルの取り出し方向および3点曲げ試験の試験方向を示す模式図である。3点曲げ試験は、図22(b)に示すように成形体の面方向に対して垂直方向(薄片体の積層方向)V及び平行方向Pの2方向から行った。
【0101】
表1に、実施例1及び比較例1のC/C複合材の成形体の嵩密度、垂直方向の曲げ強度及び平行方向の曲げ強度の測定結果を示す。
【0102】
【表1】

【0103】
実施例1及び2、ならびに比較例1〜11において、下記の物性値を求めた。
・繊維体積率
使用した炭素繊維の質量及び真密度を測定し、炭素繊維の質量を真密度で除して炭素繊維の体積を算出した。C/C複合材の質量及びみかけ密度(嵩密度)を測定し、C/C複合材の質量を嵩密度で除してC/C複合材の体積を算出した。なお、嵩密度は、C/C複合材成形体から10mm×10mm×60mmのサンプルを4本加工し、測定した体積と質量から算出した値を平均した。炭素繊維の体積をC/C複合材の体積で除して、繊維体積率を算出した。
・弾性率、破壊強度、破壊歪み
島津製作所社製オートグラフ(AG−IS型:0〜5kN)を用いて測定した。なお、破壊強度は引張強度として求めた。
【0104】
表2に、実施例1及び2、ならびに比較例1〜11のC/C複合材の製造方法、及び、平均繊維長、繊維体積率、嵩密度、弾性率、破壊強度(引張強度)、及び破壊歪みの測定結果を示す。
【0105】
【表2】

【0106】
図20はこのC/C複合材の物性分析を弾性率と破壊強度(引張強度)との関係を測定した結果を示すもので、実施例及び比較例の弾性率と引張強度との関係を示すグラフである。図21は弾性率と破壊歪との関係を測定した結果を示すもので、実施例と比較例の弾性率と破壊歪みとの関係を示すグラフである。表2、図20及び図21のグラフから、本発明のC/C複合材によれば破壊強度が高くかつ低弾性率を維持することができることがわかる。
【0107】
・表面及び断面の観察
上記実施例1及び比較例1で得られた各成形体の表面及び断面を、各種写真により観察した。
(偏光顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(SEM)写真用の試料の作成方法)
実施例1、比較例1で製造したC/C複合材の試料をエポキシ樹脂に包埋し、機械研磨法により断面を作製した後、フラットミリング処理(45°、3分)を行った。Pt-Pdスパッタを施した断面をFE−SEM、及び偏光顕微鏡にて観察した。ここでエポキシ樹脂は、軟らかい試料、変形しやすい試料、細かな試料などから平坦な面を切り出すために試料を固定するために用いた。例えば粉末の断面や、繊維の断面など通常は断面加工が難しいが、エポキシ樹脂で固定すると、観察可能となる。
(分析装置および測定条件)
[フラットミリング]
装置 :hitachi E−3200
出力 :5kV、0.5mA
[FE−SEM]
装置 :Jeol、JSM−7001F
加速電圧:5kV
観察像:二次電子像
[偏光顕微鏡]
装置 :ニコン製
【0108】
図7(A)は実施例1の成形体の断面の写真、図7(B)は比較例1の成形体の断面の写真である。写真上下方向が成形体の厚さ方向(積層方向)であり、横方向が面方向である。実施例の成形体は、成形体の面方向に配向した薄片体が形成され、薄片体の境界が分散された均一な成形体となっていることが分かる。比較例1の成形体は、年輪状の層構造が形成されていることが分かる。
【0109】
図8(A)は、本発明の実施例1の成形体表面(円筒形成形体の内表面)を拡大した写真である。図8(B)は、図8(A)の成形体表面に見られる薄片体の写真を示す。図8(B)における実線領域が各々の薄片体3を示す。図8(C)は、図8(A)の成形体表面から剥離された薄片体の写真を示す。成形体の内表面は支持材25を用いて成形しているので大きな凹凸のない平坦な面が得られているが、表面にはフロックから形成された面方向に平行に配向した薄片体が露出しているのを確認することができる。この薄片体は、構成する炭素繊維が面方向に平行に配向しているので、端部の露出した部位から少しずつ引きはがすことができるが、薄片体が一枚ずつ剥がれるのみで炭素繊維成形体全体に至る剥離は起こらない。このような剥離は、炭素繊維成形体を層方向に破壊した破断面でも同様に確認することができる。
【0110】
図9(A)は、比較例1の成形体断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示し、図9(B)は(A)の模式図を示す。写真横方向が成形体の厚さ方向(シートの積層方向)であり、上下方向が面方向である。シート界面部の繊維が界面に沿って強く平行に配向していることが確認できる。
【0111】
図10は、本発明の実施例1の成形体断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。写真上下方向が成形体の厚さ方向(薄片体の積層方向)であり、横方向が面方向である。図10(A)は倍率100、(B)は倍率200、(C)は倍率500での実施例1の成形体断面のSEM写真である。図10(A)は、断面のSEM写真の中で観察される薄片体を示す。図10(A)における実線領域が各々の薄片体3を示す。図10(B)は、図10(A)の薄片体部分をさらに拡大したSEM写真である。図10(C)は図10(B)の薄片体部分をさらに拡大したSEM写真である。図10(A)に示すように薄片体は、炭素繊維成形体の面方向に平行に配向しながら積層していることが確認できる。
【0112】
図11は、比較例1の成形体断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示し、写真上下方向が成形体の厚さ方向(シートの積層方向)であり、横方向が面方向である。図11(A)は倍率50、(B)は倍率200、(C)は倍率500の比較例1の成形体の断面のSEM写真である。図11(B)は、図11(A)の拡大したSEM写真、図11(C)は、図11(A)をさらに拡大したSEM写真である。図11(B)及び(C)で確認されるように、炭素繊維成形体の面方向に平行に炭素繊維が強く配向した領域が存在し、この領域では厚み方向の繊維のつながりがほとんど形成されていないことが確認される。このため、比較例1では図11(B)及び図11(C)で写真上下方向の張力に対して、前記の炭素繊維が強く配向した領域が欠陥となっていることがわかる。
【0113】
図23(A)は本発明の実施例1の成形体の断面の偏光顕微鏡写真を示す。写真上下方向が成形体の厚さ方向(薄片体の積層方向)であり、横方向が面方向である。また、図23(B)は比較例1の成形体の断面の偏光顕微鏡写真である。写真上下方向が成形体の厚さ方向(シートの積層方向)であり、横方向が面方向である。偏光顕微鏡は結晶の配向方向によって異なる色で観察されるので繊維及びマトリックスを容易に区別することが出来、観察面との関係により繊維は線状、楕円状又は円形状となって観察される。また、図中の濃い灰色で濃淡のない部位は、封止樹脂として用いたエポキシ樹脂Eであり、それ以外の領域は、図23(A)ではC/C複合材成形体100(マトリックス及び炭素繊維を含む薄片体)であり、図23(B)ではC/C複合材成形体Cである。
図23(A)の実線で囲んだ領域内に、偏光顕微鏡写真の上下方向(薄片体の積層方向)に隣接する薄片体同士をつなぐ炭素繊維の成分1aが確認できる。一方、図23(B)ではそのような薄片体同士をつなぐ炭素繊維成分は観察されない。
【0114】
図23(A)に示す偏光顕微鏡写真において、薄片体同士をつなぐ炭素繊維が観察されるためには、観察面に炭素繊維が存在し、かつ、炭素繊維の長手方向が観察面に含まれなければならない。図23(A)において、写真の上下方向(薄片体の積層方向)に隣接する薄片体同士をつなぐ炭素繊維成分が確認できたため、他にも多くの観察出来ない上下方向(薄片体の積層方向)に隣接する薄片体同士をつなぐ炭素繊維成分が存在していると考えられる。
【0115】
表1の測定結果に示すように、本実施例1で得られた成形体は、成形体の3点曲げ強度は成形体の面方向と垂直方向が75.7MPa、平行方向が69.0MPaと、面方向に垂直であっても平行であってもほぼ同等の3点曲げ強度が得られた。これは、本願の成形体は、薄片体が積層されて構成されており、さらに、厚さ方向(薄片体の積層方向)に隣接する薄片体をつなぐ炭素繊維成分の存在により、均質な成形体が得られているからであると考えられる。
本比較例1で得られた成形体は、成形体の面方向に垂直な方向(薄片体の積層方向)の3点曲げ強度は19.6MPaと、成形体の面方向と平行方向(P方向の3点曲げ強度)47.2MPaに比べてかなり低くなった。
本比較例1で得られた成形体は、成形体の面方向に平行な方向に比べ、垂直な方向の強度が大きく低下している。成形体の面方向に垂直な方向での3点曲げ試験では、積層されたシートが剥離するように破壊された。
本比較例1では、シートが積層されて構成されおり、厚さ方向に配向してシート間をつなぐ炭素繊維成分が存在しないので、シート間の接合力が弱く、成形体の面方向に垂直な方向での3点曲げ試験では、著しい強度の低下が見られた。また成形体の面方向に平行な方向での3点曲げ試験でも、シートの剥離が見られ、実施例1に比べ低い強度しか得られなかった。
実施例2及び比較例2〜11においても同様の結果が得られると推測される。
【0116】
また、図23(A)の実施例1の偏光顕微鏡写真において、炭素繊維成分は、素線状態で存在することが分かる。すなわち、1aに示す、薄片体の積層方向に隣接する薄片体同士をつなぐ炭素繊維成分も、1bに示す、写真の横方向すなわち成形体の面方向に配向する炭素繊維成分も、束(ストランド)を形成していないことが分かる。一方、図23(B)の比較例1の偏光顕微鏡写真の実線で囲んだ領域に示すように、炭素繊維は束(ストランド)を形成していることが分かる。実施例2及び比較例2〜11においても同様の結果が得られると推測される。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明のC/C複合材による成形体は、耐熱性、化学的安定性、強度が優れているため、シリコン単結晶引き上げ装置、化合物半導体結晶引き上げ装置、太陽電池用シリコン製造装置(薄膜形成装置など)、原子力、核融合又は冶金分野等で用いられる装置部品など、高温下で用いられる部材、あるいは宇宙部品、航空部品など、温度変化に対しても高強度を維持する必要のある分野などで多く用いることができる。
【符号の説明】
【0118】
100、200、300、400、500、600 成形体
1 炭素繊維
2 炭素質マトリックス
3 薄片体
4 バインダ(第1バインダ)
5 フロック
50、50F フロックの積層体(プリフォーム、第一成形体)
6 薄片体前駆体
60、60F 薄片体前駆体の積層体(加圧成形されたプリフォーム、第二成形体)
7 第2バインダ
20、30、40 金型
21、31、41 多孔状型面
21A、41A 開口
22 減圧室
23 配管
24、34 密閉フィルム
25、35 支持材
26、36 オートクレーブ
42 加圧プレート
43 バルブ
44 貯水室
45 プレス用板材
200i、300i、400i、500i 第1の曲面
200o、300o、400o、500o 第2の曲面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維と炭素質マトリックスとを含む炭素繊維強化炭素複合材であって、
前記炭素繊維強化炭素複合材は一体的に形成されており、
前記炭素繊維は前記炭素質マトリックス内で素線状態で存在する、平均繊維長が1.0mm未満の直線状繊維であり、
前記炭素繊維強化炭素複合材の嵩密度が1.2g/cm以上であることを特徴とする炭素繊維強化炭素複合材。
【請求項2】
前記炭素繊維強化炭素複合材の弾性率が5〜15GPaであることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維強化炭素複合材。
【請求項3】
前記炭素繊維強化炭素複合材の引張り強度が50MPa以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭素繊維強化炭素複合材。
【請求項4】
前記炭素繊維強化炭素複合材の繊維体積率が30〜50%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭素繊維強化炭素複合材。
【請求項5】
前記炭素繊維強化炭素複合材は炉の構造部材用であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭素繊維強化炭素複合材。
【請求項6】
前記炭素繊維強化炭素複合材は半導体製造装置用であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の炭素繊維強化炭素複合材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の炭素繊維強化炭素複合材を製造する方法であって、
平均繊維長が1.0mm未満の直線状炭素繊維を素線に解繊する工程と、
前記直線状炭素繊維と、炭素質マトリックスの前駆体成分とを含み、前記炭素繊維が素線状態で存在するプリフォームを形成する工程と、
前記プリフォームを一体的に加圧成形する工程と、
前記加圧成形されたプリフォームを焼成して前記前駆体成分から炭素質マトリックスを生成する工程と、を含むことを特徴とする炭素繊維強化炭素複合材の製造方法。
【請求項8】
前記炭素繊維を解繊する工程は、炭素質マトリックスの前駆体成分と、平均繊維長が1.0mm未満の直線状炭素繊維とを液体中に投入し分散させ、前記炭素繊維を解繊するスラリーを形成する工程であり、
前記プリフォームを形成する工程は、前記スラリーから炭素繊維と炭素質マトリックスの前駆体成分とを含むフロックを形成する工程と、前記フロックを濾過する工程とを含むことを特徴とする請求項7に記載の炭素繊維強化炭素複合材の製造方法。

【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図23】
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【公開番号】特開2012−36018(P2012−36018A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174968(P2010−174968)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】