説明

炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物と該組成物の製造方法および射出成形品

【課題】優れた導電性および弾性率をバランスよく備え、成形性も良好な炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の提供。
【解決手段】熱可塑性樹脂(A)と、炭素繊維(B)と、ジブチルフタレート吸油量が150ml/100g以上である導電性カーボンブラック(C)とを含有し、炭素繊維(B)の含有量が35〜56質量%で、導電性カーボンブラック(C)の含有量が4〜20質量%であり、かつ、炭素繊維(B)と導電性カーボンブラック(C)の合計含有量が60質量%以下の組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物と該組成物の製造方法、該組成物からなる射出成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば携帯電話などのモバイル電子機器の筐体には、強度、比重、電磁波シールド性などの点から、マグネシウム合金が多用されてきた。ところが、昨今、筐体のさらなる軽量化が求められ、マグネシウム合金に代えて樹脂の使用が検討されている。
熱可塑性樹脂のうち芳香族ポリカーボネート樹脂は、機械特性と寸法安定性とをバランスよく備えるため、電気・電子機器の部品や筐体等に広く使用されている。また、薄肉成形時の剛性を確保するために、熱可塑性樹脂に炭素繊維やガラス繊維などの繊維状フィラーを配合したり、成形品の導電性を高め帯電防止性を得るために、熱可塑性樹脂に炭素繊維や導電性カーボンブラックを配合したりすることが行われている。例えば、特許文献1には、芳香族ポリカーボネート樹脂を含む樹脂成分100重量部に対して、炭素繊維5〜45重量部と、導電性カーボンブラック0.1〜10重量部とが配合された熱可塑性樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−34408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された熱可塑性樹脂組成物は導電性が不充分であり、この熱可塑性樹脂組成物の成形品は、高い電磁波シールド性を発揮することはできない。また、この熱可塑性樹脂組成物は弾性率も低く、例えばモバイル電子機器の筐体のように高い剛性が要求される成形品への使用には適さない。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、優れた導電性および弾性率をバランスよく備え、成形性も良好な炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、炭素繊維(B)と、ジブチルフタレート吸油量が150ml/100g以上である導電性カーボンブラック(C)とを含有し、前記炭素繊維(B)の含有量が35〜56質量%で、前記導電性カーボンブラック(C)の含有量が4〜20質量%であり、かつ、前記炭素繊維(B)と前記導電性カーボンブラック(C)の合計含有量が60質量%以下であることを特徴とする。
前記熱可塑性樹脂(A)は、非晶性熱可塑性樹脂であることが好ましい。
前記非晶性熱可塑性樹脂は、芳香族ポリカーボネート樹脂であることが好ましい。
本発明の製造方法は、前記炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、前記熱可塑性樹脂(A)と、前記炭素繊維(B)と、前記導電性カーボンブラック(C)を押出機に供給し、混練する混練工程を有し、前記混練工程では、前記炭素繊維(B)を前記熱可塑性樹脂(A)および前記導電性カーボンブラック(C)よりも下流側から前記押出機に供給することを特徴とする。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、射出成形品の成形に適している。
【発明の効果】
【0007】
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、優れた導電性および弾性率をバランスよく備え、成形性も良好である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物(以下、樹脂組成物という場合もある。)は、熱可塑性樹脂(A)と、炭素繊維(B)と、ジブチルフタレート吸油量が150ml/100g以上である導電性カーボンブラック(C)とを含有する。
【0009】
<樹脂組成物>
[熱可塑性樹脂(A)]
熱可塑性樹脂(A)としては、寸法安定性に優れることから非晶性熱可塑性樹脂が好ましく、なかでも機械特性と寸法安定性とをバランスよく備えることから、2価フェノールとカーボネート前駆体とを溶液法または溶融法で反応させて得られる芳香族ポリカーボネート樹脂が好適に使用される。以下、熱可塑性樹脂(A)を(A)成分という場合がある。
【0010】
2価フェノールとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフォンなどが挙げられる。2価フェノールはこれらのうち1種以上を使用できるが、少なくともビスフェノールAを使用することが好ましい。
【0011】
カーボネート前駆体としては、カルボニルハイドライド、カルボニルエステル、ハロホルメートなどが挙げられ、具体的には、ジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネートなどの炭酸ジエステル、ホスゲン、二価フェノールのジハロホルメートなどが挙げられ、これらのうち1種以上を使用できる。炭酸ジエステルとしては、ジフェニルカーボネートが好ましい。
【0012】
カーボネート前駆体としてホスゲンを使用する場合には、通常、酸結合剤および溶媒の存在下で反応を行い、芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する。
酸結合剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、ピリジンなどのアミン化合物が使用される。溶媒としては、例えば塩化メチレンクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素が用いられる。また、反応促進のために、例えば第三級アミンまたは第四級アンモニウム塩などの触媒を用いてもよい。反応温度は、通常0〜40℃で、反応時間は数分間〜5時間である。
【0013】
カーボネート前駆体として炭酸ジエステルを用い、エステル交換反応で芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する場合には、不活性ガス雰囲気下で所定割合の芳香族ジヒドロキシ成分と炭酸ジエステルとを加熱しながら撹拌して、生成するアルコールまたはフェノール類を留出させる。
この場合の反応温度は、生成するアルコールまたはフェノール類の沸点などにより異なるが、通常120〜300℃の範囲である。反応系の圧力は、反応の初期段階から減圧とし、アルコールまたはフェノール類を留出させながら、反応を完結させる。
反応を促進するためには、エステル交換反応に通常使用される触媒を使用してもよい。また、適当な分子量調整剤などを適宜使用してもよい。
【0014】
芳香族ポリカーボネート樹脂としては、粘度平均分子量が10,000〜60,000の範囲であるものが機械的強度と流動性(成形加工性容易性)の点で好ましく、より好ましい粘度平均分子量は、15,000〜30,000である。
【0015】
非晶性熱可塑性樹脂としては、芳香族ポリカーボネート樹脂などのポリカーボネート樹脂の他、例えば、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリアリレート(PAR)、アクリロニトリル−スチレン共重合(AS)樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合(ABS)樹脂、アクリロニトリル−エチレン−スチレン共重合(AES)樹脂、アクリルゴム−アクリロニトリル−スチレン共重合(AAS)樹脂、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン共重合(ACS)樹脂、ポリスチレン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)、環状ポリオレフィン(COP)、アクリル樹脂(PMMA)などが挙げられ、1種以上を用いることができる。
【0016】
[炭素繊維(B)]
炭素繊維(B)としては、PAN系(HT、IM、HM)、ピッチ系(GP、HM)、レーヨン系のいずれをも使用できるが、機械的強度の点から、PAN系の炭素繊維(B)を使用することが好ましい。以下、炭素繊維(B)を(B)成分という場合がある。
【0017】
炭素繊維(B)の繊維径は、5〜10μmが好ましく、6〜8μmがより好ましい。繊維径が上記範囲の下限値以上であると、炭素繊維(B)の表面積が適度となり、樹脂組成物の成形性が優れる。一方、繊維径が上記範囲の上限値以下であると、炭素繊維(B)のアスペクト比が適度であり、充分な補強効果を発揮できる。炭素繊維(B)の繊維径は、電子顕微鏡により測定できる。
【0018】
このような繊維径の炭素繊維(B)は、例えば、特開2004−11030号公報、特開2001−214334号公報、特開平5−261792号公報などに記載の方法で製造できる。
炭素繊維(B)としては、市販品を用いてもよく、上記範囲の繊維径を有する炭素繊維としては、例えば、パイロフィル(登録商標)チョップドファイバーTR066、TR066A、TR068、TR06U、TR06NE、TR06G(以上、三菱レイヨン社製);べスファイト(登録商標)・チョップドファイバーHTA−C6−S、HTA−C6−SR、HTA−C6−SRS、HTA−C6−N、HTA−C6−NR、HTA−C6−NRS、HTA−C6−US、HTA−C6−UEL1、HTA−C6−UH、HTA−C6−OW、HTA−C6−E、MC HTA−C6−US;べスファイト(登録商標)・フィラメントHTA−W05K、HTA−W1K、HTA−3K、HTA−6K、HTA−12K、HTA−24K、UT500−6K、UT500−12K、UT−500−24K、UT800−24K、IM400−3K、IM400−6K、IM400−12K、IM600−6K、IM600−12K、IM600−24K、LM16−12K、HM35−12K、TM35−6K、UM40−12K、UM40−24K、UM46−12K、UM55−12K、UM63−12K、UM68−12K(以上、東邦テナックス社製);トレカ(登録商標)チョップドファイバーT008A−003、T010−003(以上、東レ社製)などが挙げられる。
【0019】
また、炭素繊維(B)は、表面処理が施されたものが好ましく、特に電解処理されたものが好ましい。表面処理剤としては、例えばエポキシ系サイジング剤、ウレタン系サイジング剤、エポキシ−ウレンタン系サイジング剤、ポリアミド系サイジング剤、オレフィン系サイジング剤などが挙げられる。表面処理を行うことにより、樹脂組成物としての引張り強度、曲げ強度が向上する。
表面処理が施された炭素繊維(B)としては、市販品を用いてもよく、先に例示した三菱レイヨン社製のパイロフィル(登録商標)チョップドファイバーが挙げられる。なお、TR066、TR066Aはエポキシ系サイジング剤で処理され、TR068はエポキシ−ウレンタン系サイジング剤で処理され、TR06Uはウレタン系サイジング剤で処理され、TR06NEはポリアミド系サイジング剤で処理され、TR06Gは水溶性サイズされたものである。また、先に例示した東邦テナックス社製のべスファイト(登録商標)・チョップドファイバーのうち、HTA−C6−S、HTA−C6−SR、HTA−C6−SRS、HTA−C6−Eはエポキシ系サイジング剤で処理され、HTA−C6−N、HTA−C6−NR、HTA−C6−NRSはポリアミド系サイジング剤で処理され、HTA−C6−US、HTA−C6−UEL1、HTA−C6−UH、MC HTA−C6−USはウレタン系サイジング剤で処理されたものである。
【0020】
樹脂組成物中における炭素繊維(B)の質量平均繊維長は、0.1〜2.0mmが好ましく、0.2〜0.5mmがより好ましい。質量平均繊維長が上記範囲の下限値以上であると、樹脂組成物に充分な弾性率を付与でき、上限値以下であると、成形性や外観に優れる。
樹脂組成物中における炭素繊維(B)の質量平均繊維長は、樹脂組成物中の熱可塑性樹脂(A)を溶剤に溶かして除去し、残存した炭素繊維(B)を光学顕微鏡で観察して求める方法;樹脂組成物を例えば窒素雰囲気中で加熱し、熱可塑性樹脂(A)を熱分解により除去し、残存した炭素繊維(B)を光学顕微鏡で観察して求める方法が挙げられる。なお、熱可塑性樹脂(A)が芳香族ポリカーボネート樹脂である場合には、窒素雰囲気において例えば500℃で30分間加熱して熱分解すればよい。その他にも、樹脂組成物の破断面を光学顕微鏡で観察して求める方法、X線CTにより観察して求める方法などが挙げられる。
【0021】
炭素繊維(B)としては、繊維表面が金属被覆されていない非金属コート炭素繊維を用いることが好ましい。金属被覆された炭素繊維は、熱可塑性樹脂(A)との親和性に劣るため樹脂組成物中に良好に分散されにくく、樹脂組成物への配合量(含有量)を低くせざるを得ない傾向がある。この点、非金属コート炭素繊維であれば、通常の押出機での混練により樹脂組成物中に良好に分散するため、樹脂組成物中に多く含有させることができる。その結果、樹脂組成物に高い弾性率を発揮させることができる。
【0022】
[導電性カーボンブラック(C)]
導電性カーボンブラックとしては、ジブチルフタレート吸油量が150ml/100g以上のものを使用する。ここでジブチルフタレート吸油量とは、導電性の指標となるものであって、その値が大きいほど、導電性が高いことを意味する。ジブチルフタレート吸油量は、ASTM D2414−79に規定された方法に従って測定される。このような吸油量の導電性カーボンブラックを用いることによって、優れた導電性の樹脂組成物を得ることができる。好適なジブチルフタレート吸油量の上限値は、400ml/100gである。以下、導電性カーボンブラック(C)を(C)成分という場合がある。
【0023】
[その他の成分(D)]
樹脂組成物には、上記熱可塑性樹脂(A)、炭素繊維(B)、導電性カーボンブラック(C)の他に、必要に応じて、その他の成分(D)が含まれていてもよい。
その他の成分(D)としては、例えば、酸化防止剤、金属不活性剤、造核剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、ガラス繊維、無機フィラー、耐衝撃性改質剤、溶融張力向上剤、難燃剤などの各種樹脂添加剤が挙げられる。以下、その他の成分(D)を(D)成分という場合がある。
【0024】
[各成分の含有量]
樹脂組成物中における各成分の含有量は、(A)成分が24〜61質量%、(B)成分が35〜56質量%、(C)成分が4〜20質量%であって、かつ、(B)成分と(C)成分の合計含有量は60質量%以下である。また、(D)成分は好ましくは15質量%以下の範囲である。
このような範囲であると、優れた導電性および弾性率をバランスよく備え、成形性も兼ね備えた樹脂組成物を製造でき、該樹脂組成物から形成された射出成形品などの成形品は、優れた導電性に基く高い電磁波シールド性と、高い弾性率に基く充分な剛性とを具備したものとなる。
ここで、(B)成分が上記範囲の下限値未満であると、樹脂組成物の弾性率および導電性が低下し、上記範囲の上限値を超えると、樹脂組成物は成形性に劣るとともに、脆くなる。(C)成分が上記範囲の下限値未満であると、樹脂組成物の導電性が低下し、上記範囲の上限値を超えると、樹脂組成物の成形性が劣る。また、(B)成分と(C)成分の合計含有量が上記範囲を超えると、樹脂組成物の成形性が劣る。
【0025】
<樹脂組成物の製造方法>
上述の樹脂組成物は、(A)成分と、(B)成分と、(C)成分と、必要に応じて配合される(D)成分とを同方向二軸押出機などの押出機で混練することにより製造できる(混練工程)。そして、この混練工程では、(A)成分および(C)成分よりも下流側から、(B)成分(炭素繊維(B))を押出機に供給することが好ましい。これにより、押出機に供給された炭素繊維(B)の押出機内における過度な折損が抑制され、樹脂組成物中における炭素繊維(B)の質量平均繊維長を上述した範囲内、すなわち、好ましくは0.1〜2.0mm、より好ましくは0.2〜0.5mmに制御することができる。具体的には、各成分のうち炭素繊維(B)以外の成分をメインフィーダから押出機に供給し、これらを溶融混練した後に、メインフィーダよりも下流に位置するサイドフィーダから炭素繊維(B)を供給するサイドフィード法が挙げられる。
また、樹脂組成物中における炭素繊維(B)の質量平均繊維長は、このように炭素繊維(B)の押出機へのフィード方法を適切に制御する他、スクリュー回転数、押出量(吐出量)などの混練条件を適切に制御することにより、調整できる。
【0026】
また、樹脂組成物中の炭素繊維(B)の質量平均繊維長を上記範囲内に制御するためには、炭素繊維(B)として、全繊維の繊維長が2〜20mmの範囲内にある炭素繊維(B)を用い、これを混練工程に供して、樹脂組成物を調製することが好ましい。炭素繊維(B)として、全繊維の繊維長が上記範囲内であるものを用いると、樹脂組成物中において、炭素繊維(B)の質量平均繊維長を上記範囲内に制御しつつ、炭素繊維(B)を良好に分散させて、樹脂組成物に充分な弾性率を発揮させることができる。
【0027】
このような炭素繊維(B)としては、チョップドファイバーとして市販されているものが使用でき、例えば、PAN系炭素繊維では、三菱レイヨン社製「パイロフィル(登録商標)(チョップ)」、東レ社製「トレカ(登録商標)チョップ」、東邦テナックス社製「べスファイト(登録商標)(チョップ)」などが挙げられる。ピッチ系炭素繊維では、三菱樹脂社製「ダイアリード(登録商標)」、大阪ガスケミカル社製「ドナカーボ(登録商標)(チョップ)」、呉羽化学社製「クレカ(登録商標)チョップ」などが挙げられる。
【0028】
<成形品>
以上説明したように、上述の樹脂組成物は、優れた導電性と弾性率とをバランスよく備え、成形性も良好であるため、これを射出成形などで成形することにより、優れた導電性に基く高い電磁波シールド性と、高い弾性率に基く充分な剛性とを兼ね備えた成形品を得ることができる。具体的には、上述の樹脂組成物を成形することによって、表面抵抗値が50Ω以下、さらには20Ω以下の成形品を得ることも可能となる。このような表面抵抗値を備えた成形品においては、表面接触による通電が可能となり、静電シールドが可能となる。
成形品としては射出成形品が挙げられ、その用途としては、電磁波シールド性と剛性が求められる用途、例えば、携帯電話、パソコン、OA機器、AV機器、各種家電製品などの電気・電子機器の部品や筐体などが挙げられる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、以下の記載において、「部」および「%」は、「質量部」および「質量%」を意味する。
[実施例1〜4、比較例1〜6]
同方向二軸押出機(株式会社池貝製:PCM−30)を用いて、表1に示す各成分を混練し、樹脂組成物を製造した。なお、(A)成分、(C)成分、(D)成分は、メインフィーダから押出機に供給し、(B)成分は、メインフィーダよりも下流のC5部分に設置されたサイドフィーダから供給した(サイドフィード法)。混練条件は以下のとおりである。
シリンダ温度 C1:280℃、C2〜C8:300℃
スクリューフォーメーション:サイドフィーダよりも上流および下流に、各1箇所ずつニーディングゾーンを備えたもの。
スクリュー回転数:200rpm
吐出量:10kg/h
【0030】
ついで、東芝機械社製IS55射出成形機を用いて、シリンダ温度:300℃、金型温度:80℃の条件において、ペレット化された樹脂組成物からダンベル型試験片を成形した。
成形された試験片を必要に応じて切り出し、23℃の恒温室で1日間状態調節した後、以下に示す(1)〜(3)の物性評価を行った。
(1)比重:ISO1183に準ずる。
(2)曲げ弾性率:ISO178に準ずる。
(3)表面抵抗値:ダンベル試験片中央の幅が狭い部分の抵抗を、Fluke189デジタルマルチメータで測定した。
【0031】
【表1】

【0032】
使用した各成分は以下の通りである。
(A)成分:芳香族ポリカーボネート樹脂、商品名「ノバレックス7022PJ」、三菱エンジニアリングプラスチックス社製、粘度平均分子量21000
(B)成分:炭素繊維:「パイロフィル(登録商標)チョップ TR06U」、三菱レイヨン社製、繊維長6mm
(C)成分:導電性カーボンブラック、商品名「コンダクテクス975」、コロンビヤンカーボン社製、ジブチルフタレート吸油量165ml/100g
(D)成分:滑剤、商品名「Licowax PE520」(クラリアント社製、ポリエチレンワックス)
【0033】
表1に示すように、各実施例によれば、樹脂組成物を何ら問題なく射出成形でき、優れた曲げ弾性率と低い表面抵抗値をバランスよく備えた射出成形品を得ることができた。また、各実施例の樹脂組成物は比重も適度であり、軽量性に優れていた。
これに対して、炭素繊維(B)が少ない比較例1や導電性カーボンブラック(C)が少ない比較例2では、ある程度の導電性は得られたものの、実施例に比べると充分ではなかった。また、比較例3〜5の導電性カーボンブラック(C)を使用しない場合には、炭素繊維(B)の含有量を大きくしても高い導電性は得られなかった。比較例6の炭素繊維(B)を使用しない場合には、曲げ弾性率、曲げ強さおよび導電性が不充分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)と、
炭素繊維(B)と、
ジブチルフタレート吸油量が150ml/100g以上である導電性カーボンブラック(C)とを含有し、
前記炭素繊維(B)の含有量が35〜56質量%で、前記導電性カーボンブラック(C)の含有量が4〜20質量%であり、かつ、前記炭素繊維(B)と前記導電性カーボンブラック(C)の合計含有量が60質量%以下である、炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂(A)は、非晶性熱可塑性樹脂である、請求項1に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記非晶性熱可塑性樹脂は、芳香族ポリカーボネート樹脂である、請求項2に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂(A)と、前記炭素繊維(B)と、前記導電性カーボンブラック(C)を押出機に供給し、混練する混練工程を有し、
前記混練工程では、前記炭素繊維(B)を前記熱可塑性樹脂(A)および前記導電性カーボンブラック(C)よりも下流側から前記押出機に供給する、炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物からなる射出成形品。

【公開番号】特開2012−241086(P2012−241086A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111331(P2011−111331)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】