説明

炭素膜の形成装置、及び炭素膜の形成方法

【課題】基板上に形成された金属触媒層の裏面と、基板の表面との間での炭素膜の成長の制御性を高めることのできる炭素膜の形成装置、及び炭素膜の形成方法を提供する。
【解決手段】熱CVD装置10は、金属触媒層に対してアセチレンガスを供給する炭素含有ガス供給部16と、基板における金属触媒層側である表面側に配置されたランプヒータ13と、基板における金属触媒層とは反対側である裏面側に配置された水冷ステージ12とを有している。ランプヒータ13は、金属触媒層の表面をアセチレンガスの分解される温度に加熱し、また、水冷ステージ12は、基板の裏面を冷却することで、ランプヒータ13によって加熱された金属触媒層の表面と該金属触媒層の裏面とに所定の温度差を形成する。これにより、炭素膜が、基板の表面と金属触媒層の裏面との間に析出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トランジスタ、配線、及び透明電極等の形成材料として用いられる炭素膜、例えばグラフェンや該グラフェンの積層体であるグラファイトの形成装置、及び炭素膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多数のベンゼン環が二次元的に連なった構造を有するグラフェン、及びグラフェンの積層体であるグラファイトを含む炭素膜は、20万cm/Vs以上という高いキャリア移動度を示すとともに、現在、配線として多用されている銅よりもはるかに大きい電流耐性を示す。炭素膜は、こうした優れた電気的特性を有していることから、トランジスタの形成材料、酸化インジウムスズ(ITO)等の透明電極材料、及び銅等の配線材料に代わる新規な材料として注目を集めている。
【0003】
炭素膜は、例えば特許文献1に記載のような熱CVD法によって形成されている。同方法では、まず、カーボンナノチューブの形成に際しても触媒として用いられるニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及び鉄(Fe)等からなる金属触媒層を形成する。そして、加熱された金属触媒層に対して、炭素を含有するガス、例えば一酸化炭素(CO)ガス、エタン(C)ガス、及びエチレン(C)ガス等を供給した後、金属触媒層を自然冷却する。これにより、均一に配列した多数のベンゼン環を有するグラフェン若しくはグラファイトとしての炭素膜が、金属触媒層の表面に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−298683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、こうした方法によって形成された炭素膜を上述のようなトランジスタ等の形成材料として用いるためには、目的とする基板に対して炭素膜を転写する必要がある。上記特許文献1では、以下のような手順にて炭素膜の転写を行っている。
【0006】
まず、金属触媒層に形成された炭素膜の表面をポリマーやレジスト等のバインダによって固定し、次いで、公知のドライエッチングやウェットエッチングによって金属触媒層を除去する。そして、バインダに固定された状態の炭素膜を目的の基板に押し付けた後、ババインダを溶解する。
【0007】
このように、特許文献1に記載の方法では、炭素膜の転写に際して、該炭素膜を目的とする基板に押し付ける必要がある。そのため、基板上の炭素膜には、しわやひずみ等の欠陥が生じていることが少なくない。その結果、基板上の炭素膜においては、上述のような優れた電気的特性が発現されにくくなってしまう。
【0008】
ここで、本願発明者は、上記金属触媒層を用いて炭素膜を形成した場合、炭素源となる炭素含有ガスが供給される金属触媒層の表面ばかりでなく、その反対側である裏面にも炭素膜が形成されることを見出した。つまり、目的とする基板上に金属触媒層を形成すれば、基板の金属触媒層側である表面と、金属触媒層の裏面との間に炭素膜を形成することが可能であることを見出した。
【0009】
しかしながら、現在のところ、基板上に炭素膜を形成することが可能であるとはいえ、金属触媒層の表面側のみに炭素膜が形成されたり、同表面側に優先的に炭素膜が形成されたりすることがほとんどである。そのため、基板の表面と金属触媒層の裏面との間での炭素膜の成長の制御性を高めることが望まれている。
【0010】
この発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、基板上に形成された金属触媒層の裏面と、基板の表面との間での炭素膜の成長の制御性を高めることのできる炭素膜の形成装置、及び炭素膜の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、基板に積層された金属触媒層に対して炭素含有ガスを供給することにより、前記基板と前記金属触媒層との間に炭素膜を形成する炭素膜の形成装置であって、前記金属触媒層に対して前記炭素含有ガスを供給する炭素含有ガス供給部と、前記基板における前記金属触媒層側である表面側に配置された加熱部と、前記基板における前記金属触媒層とは反対側である裏面側に配置された冷却部とを有し、前記加熱部は、前記金属触媒層の表面を前記炭素含有ガスの分解される温度に加熱し、前記冷却部は、前記基板の裏面を冷却することで、前記加熱部によって加熱された前記金属触媒層の表面と該金属触媒層の裏面とに所定の温度差を形成して、前記基板の表面と前記金属触媒層の裏面との間に前記炭素膜を析出させることを要旨とする。
【0012】
請求項1に記載の発明では、基板の表面側には加熱部が配置され、且つ、基板の裏面側には冷却部が配置されている。そして、加熱部が、金属触媒層の表面を炭素含有ガスの分解される温度に加熱する一方、冷却部は、基板の裏面を冷却することによって、加熱部に加熱された金属触媒層の裏面を冷却し、これによって、金属触媒層の表面と裏面との間に温度差を形成する。そのため、金属触媒層の裏面の温度が、上記温度差の分だけ該金属触媒層の表面よりも低くなることから、金属触媒層における裏面側では、炭素の溶解度が小さくなる。それゆえに、金属触媒層の表面にて生成された炭素が、金属触媒層における炭素の濃度勾配にしたがって金属触媒層の裏面側に拡散すると、上記溶解度の相対的に小さい裏面側にて炭素が析出しやすくなる。したがって、析出した炭素からなる炭素膜は、金属触媒層の表面よりも、金属触媒層の裏面と基板の表面との間に形成されやすくなる。
【0013】
なお、金属触媒層が配置される雰囲気にて温度の分布が厳密に均一でなければ、こうした雰囲気に配置される金属触媒層にも、少なからず温度の分布が形成されることになる。それゆえに、炭素含有ガスを分解するための加熱部のみが基板の表面側に備えられる構成であっても、金属触媒層の表面と表面以外の他の部分との間に少なからず温度差は形成されることになる。しかし、このようにして形成された温度差では、温度差の大きさや温度差の形成される方向にばらつきが大きいことは当然のこと、金属触媒層の表面で分解された炭素が析出する程度に金属触媒層の裏面が低温化されることすら困難である。この点、請求項1に記載の発明によれば、互いに相反する機能を有した加熱部と冷却部との共働によって、金属触媒層の表面と金属触媒層の裏面との間に、炭素膜の成長を可能にする所定の温度差が形成されることになる。そのため、金属触媒層の裏面と基板の表面との間での炭素膜の成長の制御性を高めることが可能になる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の炭素膜の形成装置において、前記加熱部が、前記金属触媒層の表面を加熱しているときに、前記冷却部が、前記基板の裏面を冷却することを要旨とする。
【0015】
請求項2に記載の発明では、上記加熱部が金属触媒層の表面を加熱しているときに、冷却部が基板の裏面を冷却するようにしている。そのため、金属触媒層が加熱されているときには、常に金属触媒層の表面と裏面との間に温度差が形成されていることになる。それゆえに、金属触媒層の表面にて炭素含有ガスが分解されている間中、該金属触媒層の表面と裏面とには温度差が生じていることになる。したがって、炭素膜の形成位置は、金属触媒層の裏面と基板の表面との間により制御されやすくなる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の炭素膜の形成装置において、前記金属触媒層がコバルトからなり、前記炭素含有ガス供給部が、前記炭素含有ガスとしてアセチレンガス又はエチレンガスを前記金属触媒層に供給しているときに、前記加熱部と前記冷却部とが、前記金属触媒層の表面の温度を350℃以上800℃以下にするとともに、前記金属触媒層の裏面の温度を100℃以上とし、且つ前記金属触媒層の表面と裏面との温度差を0.01℃以上とすることを要旨とする。
【0017】
請求項3に記載の発明では、コバルトで形成された金属触媒層に対してアセチレンガス若しくはエチレンガスが供給されるときに、金属触媒層の表面の温度を350℃以上800℃以下としている。そのため、金属触媒層の表面にて生成された炭素が、金属触媒層内に拡散されやすくなる。また、金属触媒層の裏面の温度を100℃以上としていることから、裏面側に析出した炭素が、アモルファスを形成することなく炭素膜を形成しやすくなる。加えて、金属触媒層の表面と裏面との温度差を0.01℃以上としていることから、炭素膜が、より確実に金属触媒層の裏面と基板の表面との間に形成されやすくなる。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載の炭素膜の形成装置において、前記加熱部が、前記金属触媒層の表面の加熱を停止した後に、前記冷却部が、前記基板の裏面を冷却して、前記金属触媒層の表面と裏面との間に温度差を形成することを要旨とする。
【0019】
金属触媒層が銅で形成されている場合、金属触媒層の表面で生成された炭素は、金属触媒層が加熱されている間中、該金属触媒層内に蓄積される。そして、蓄積された炭素は、金属触媒層が冷却されるときに、金属触媒層から析出して炭素膜を形成する。
【0020】
この点、請求項4に記載の発明では、加熱部が金属触媒層の表面を加熱した後に、冷却部が基板の裏面を冷却することで、金属触媒層の表面と裏面との間に温度差を形成するようにしている。そのため、冷却部によって基板の裏面が冷却されるときには、炭素膜が形成されやすくなるとともに、炭素膜が金属触媒層の裏面と基板の表面との間に形成されやすくなる。
【0021】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の炭素膜の形成装置において、前記金属触媒層が銅からなり、前記炭素含有ガス供給部が、前記金属触媒層に前記炭素含有ガスとしてアセチレンガス又はエチレンガスを供給しているときに、前記加熱部が、前記金属触媒層の表面の温度を650℃以上1050℃以下とし、前記炭素含有ガス供給部が、前記炭素含有ガスの供給を停止した後に、前記加熱部が、前記金属触媒層の加熱を停止するとともに、前記冷却部が、前記金属触媒層の裏面の温度を100℃以上とし、且つ、前記金属触媒層の表面と裏面との温度差を0.01℃以上とすることを要旨とする。
【0022】
請求項5に記載の発明では、銅で形成された金属触媒層に対してアセチレンガス若しくはエチレンガスが供給されるときに、金属触媒層の表面の温度を650℃以上1050℃以下としている。そのため、金属触媒層を溶解させることなく、該金属触媒層に供給された炭素含有ガスを分解して炭素を生成することができる。また、炭素含有ガスの供給を停止した後に、加熱部が金属触媒層の加熱を停止するとともに、冷却部が、金属触媒層の裏面の温度を100℃以上とし、且つ、金属触媒層の表面と裏面との温度差を0.01℃以上としている。そのため、金属触媒層内には、炭素含有ガスの供給中にわたって炭素が蓄積され続けることになる。また、冷却部は、金属触媒層の温度を100℃以上とするとともに、金属触媒層の表面と裏面との温度差が0.01℃以上となるように基板の裏面を冷却する。そのため、アモルファス状の炭素ではなく炭素膜が析出しやすくなるとともに、炭素膜が金属触媒層の裏面と基板の表面との間に形成されやすくなる。
【0023】
請求項6に記載の発明は、基板に積層された金属触媒層に対して炭素含有ガスを供給することにより、前記基板と前記金属触媒層との間に炭素膜を形成する炭素膜の形成方法であって、前記金属触媒層における前記基板とは反対側の表面を前記炭素含有ガスの分解される温度に加熱しつつ、該金属触媒層の表面に対して前記炭素含有ガスを供給する炭素供給工程と、前記基板における前記金属触媒層とは反対側である裏面を冷却することで、加熱された前記金属触媒層の裏面を冷却する冷却工程とを備え、前記冷却工程では、前記金属触媒層の表面と該金属触媒層の裏面とに温度差を形成して、前記基板の表面と前記金属触媒層の裏面との間に前記炭素膜を析出させることを要旨とする。
【0024】
請求項6に記載の発明では、金属触媒層の表面を炭素含有ガスの分解される温度に加熱しつつ、該金属触媒層の表面に対して炭素含有ガスを供給する炭素供給工程と、基板の裏面を冷却することで加熱された金属触媒層の裏面を冷却する冷却工程とを備えている。そして、冷却工程では、金属触媒層の表面と裏面との間で温度差を形成する。そのため、金属触媒層の裏面の温度が、上記温度差の分だけ該金属触媒層の表面よりも低くなることから、金属触媒層における裏面側では、炭素の溶解度が小さくなる。それゆえに、金属触媒層の表面にて生成された炭素が、金属触媒層における炭素の濃度勾配にしたがって金属触媒層の裏面側に拡散すると、上記溶解度の相対的に小さい裏面側にて炭素が析出しやすくなる。したがって、析出した炭素からなる炭素膜は、金属触媒層の表面よりも、金属触媒層の裏面と基板の表面との間に形成されやすくなる。
【0025】
このように、請求項6に記載の発明によれば、金属触媒層の表面を加熱する工程と同金属触媒層の裏面を冷却する工程との互いに相反した工程の共働によって、金属触媒層の表面と金属触媒層の裏面との間に所定の温度差が形成される。そのため、金属触媒層の裏面と基板の表面との間での炭素膜の成長の制御性を高めることが可能になる。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、基板上に形成された金属触媒層の裏面と、基板の表面との間での炭素膜の成長の制御性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の炭素膜の形成装置を熱CVD装置として具現化した第1実施形態の概略構成を示す図。
【図2】本発明の炭素膜の形成方法における第1実施形態での炭素含有ガスの供給開始及び停止の態様、冷却水の供給開始及び停止の態様、ランプヒータのオン及びオフの態様、成膜対象物の表面と裏面とにおける温度変化の態様を示すタイミングチャート。
【図3】(a)(b)同第1実施形態における炭素膜の形成方法を工程順に示す図。
【図4】本発明の炭素膜の形成方法における第2実施形態での炭素含有ガスの供給開始及び停止の態様、冷却水の供給開始及び停止の態様、ランプヒータのオン及びオフの態様、成膜対象物の表面と裏面とにおける温度変化の態様を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[第1実施形態]
以下、本発明の炭素膜の形成装置及び炭素膜の形成方法における第1実施形態について、図1〜図3を参照して説明する。まず、同実施形態における炭素膜の形成装置としての熱CVD装置について図1を参照して説明する。
[熱CVD装置]
熱CVD装置10の備える真空槽11内には、成膜対象物Sを保持する冷却部としての水冷ステージ12が配置されている。水冷ステージ12内には、該水冷ステージ12上に載置された成膜対象物Sを冷却するための冷却水の流れる冷却水通路12Lが形成されている。冷却水通路12Lには、真空槽11外に通じる冷却水入口12aと冷却水出口12bとが形成されている。これら冷却水入口12a及び冷却水出口12bには、冷却水の温度を所定の温度に維持しつつ、該冷却水に冷却水通路12L内を循環させる温調部Hxが接続されている。温調部Hxは、冷却水通路12Lにおける冷却水の温度が例えば20℃になるように、該冷却水通路12Lに流れる冷却水を温調する。
【0029】
例えば、温調部Hxは、冷却水の温度を冷却水出口12b側で測定することにより、冷却水通路12Lで冷却水に加えられる熱量を把握するとともに、該熱量が加えられた冷却水を20℃にするための冷却量を決定する。そして、温調部Hxは、冷却水出口12bから出る冷却水を先に決定された冷却量で冷却するとともに、該冷却された冷却水を所定の流量で冷却水入口12aに供給する。なお、冷却水の流量は、例えば0.50l/分以上1.33l/分以下の所定の流量とされる。
【0030】
真空槽11内には、上記水冷ステージ12に載置された成膜対象物Sと対向する位置に、成膜対象物Sを加熱する加熱部としてのランプヒータ13が設置されている。ランプヒータ13は、例えば成膜対象物Sの全体を加熱することのできる赤外線ランプから構成されている。ランプヒータ13は、成膜対象物Sを水冷ステージ12とは反対側の表面から加熱することで、該表面の温度を例えば600℃にまで加熱する。そして、ランプヒータ13と水冷ステージ12とは、これらの共働により、成膜対象物Sの裏面の温度を例えば452℃にするとともに、成膜対象物Sの表面と裏面との間に所定の温度差を形成する。
【0031】
熱CVD装置10には、成膜対象物Sの上記表面の温度を測定する表面温度測定部14と、同成膜対象物Sの水冷ステージ12側である裏面の温度を測定する裏面温度測定部15とが搭載されている。表面温度測定部14と裏面温度測定部15には、例えば熱電対などの接触型の温度センサーや赤外線センサーなどの非接触型の温度センサーを用いることが可能である。
【0032】
真空槽11には、炭素含有ガスである例えばアセチレン(C)ガスを真空槽11内に供給する炭素含有ガス供給部16が接続されている。炭素含有ガス供給部16は、アセチレンガスを貯蔵するボンベに接続されるマスフローコントローラであって、アセチレンガスを例えば0.1sccm以上10sccm以下の所定流量に調節しつつ真空槽11内に供給する。
【0033】
真空槽11には、アルゴン(Ar)ガスを真空槽11内に供給するアルゴンガス供給部17が接続されている。アルゴンガス供給部17は、アルゴンガスを貯蔵するボンベに接続されるマスフローコントローラであって、アルゴンガスを例えば1sccm以上2000sccm以下の所定流量に調節しつつ真空槽11内に供給する。
【0034】
真空槽11には、例えば上記アセチレンガスやアルゴンガスを含む真空槽11内の流体を所定の排気流量で真空槽11外に排気する排気部18が接続されている。排気部18は、真空槽11内の圧力を調節する圧力調整バルブや、圧力調整バルブの後段に接続された真空ポンプ等によって構成されている。排気部18は、熱CVD装置10にて成膜対象物Sに対する炭素膜の形成が行われるときに、炭素含有ガス供給部16及びアルゴンガス供給部17とともに、真空槽11内の圧力を所定の圧力に維持する。
【0035】
制御装置20は、表面温度測定部14に接続されて、成膜対象物Sにおける表面温度の測定値が表面温度測定部14から入力される。また、制御装置20は、裏面温度測定部15に接続されて、成膜対象物Sにおける裏面温度の測定値が裏面温度測定部15から入力される。そして、制御装置20は、表面温度測定部14の測定値と裏面温度測定部15の測定値との差から成膜対象物Sの表裏における温度差を算出して、この算出値が予め設定された温度範囲であるか否かを監視する。
【0036】
制御装置20は、ランプヒータ13、温調部Hx、炭素含有ガス供給部16、アルゴンガス供給部17、及び排気部18に接続されている。また、制御装置20は、熱CVD装置10を動作させる命令や手順が記述された動作プログラムと、熱CVD装置10における動作条件が記述された複数のレシピとを記憶している。制御装置20が記憶するレシピのうち、成膜対象物Sに炭素膜を形成するための成膜レシピには、ランプヒータ13をオン状態にする期間、アセチレンガスの流量、アルゴンガスの流量、及び成膜圧力などが含まれている。
【0037】
詳述すると、制御装置20が記憶する成膜レシピには、下記第1ステップ〜第3ステップがこの順で実行されるように記述されている。
・第1ステップ:ランプヒータ13、アルゴンガス供給部17、及び排気部18が駆動されて、真空槽11内がアルゴンガスで所定の圧力に維持される。この第1ステップが行われる時間には、成膜対象物Sが熱平衡状態になるのに要する時間が設定されている。
・第2ステップ:ランプヒータ13、炭素含有ガス供給部16、アルゴンガス供給部17、及び排気部18が駆動されて、真空槽11内がアルゴンガスとアセチレンガスとで所定の圧力に維持される。この第2ステップが行われる時間には、炭素膜の膜厚が所望の膜厚に到達するのに要する時間が設定されている。
・第3ステップ:ランプヒータ13の駆動、アルゴンガスの供給、アセチレンガスの供給を停止する。
【0038】
そして、制御装置20は、ランプヒータ13、温調部Hx、炭素含有ガス供給部16、アルゴンガス供給部17、及び排気部18の駆動の態様を上述した動作プログラムと成膜レシピとに基づいて制御する。
[熱CVD装置の作用]
次に、上記熱CVD装置10が成膜対象物Sに炭素膜を形成する動作について、図2を参照して説明する。なお、ここでいう炭素膜とは、多数のベンゼン環が二次元的に連なった構造を有する単原子膜であるグラフェンと、グラフェンの積層体であるグラファイトとを含む。
【0039】
まず、熱CVD装置10に電源が投入されて、制御装置20が動作プログラムを実行すると、排気部18を駆動するための制御信号が、制御装置20から排気部18に出力され、これにより真空槽11内の減圧が開始される。また、温調部Hxをオン状態にするための制御信号が、制御装置20から温調部Hxに出力され、これにより、水冷ステージ12における冷却水の循環が開始される。なお、このように熱CVD装置10に成膜対象物Sが搬入されていないアイドル状態であれ、熱CVD装置10に成膜対象物Sが搬入されている稼働状態であれ、制御装置20が動作プログラムを実行している期間では、上記冷却水の循環が継続される。そして、アイドル状態では、このような冷却水の循環が行われることで、水冷ステージ12が所定の温度に維持される。
【0040】
次いで、上述したアイドル状態から熱CVD装置10に成膜対象物Sがセットされると、制御装置20は、動作プログラムに基づいて図示されない搬送装置を駆動して成膜対象物Sを真空槽11内に搬入する。そして、図2に示されるように、タイミングt0にて成膜対象物Sが水冷ステージ12上に載置されると、成膜対象物Sが水冷ステージ12上にて所定の温度に維持される。
【0041】
続いて、成膜対象物Sが上記水冷ステージ12に載置されると、制御装置20は、動作プログラムに基づいて成膜レシピを読み出し、該成膜レシピに基づいてランプヒータ13、温調部Hx、炭素含有ガス供給部16、アルゴンガス供給部17、及び排気部18の駆動の態様を制御する。
【0042】
すなわち、上記第1ステップに基づき、タイミングt1にて、ランプヒータ13をオン状態にするための制御信号が制御装置20からランプヒータ13に出力されて、ランプヒータ13による成膜対象物Sの昇温が開始される。これにより、タイミングt2よりも前までに、成膜対象物Sの表面が600℃にまで加熱される一方、成膜対象物Sの裏面が452℃にまで加熱される。そして、成膜対象物Sの表面と裏面との間に148℃の温度差が形成される。
【0043】
また、上記第1ステップに基づき、タイミングt1では、アルゴンガス供給部17からアルゴンガスを供給するための制御信号が、制御装置20からアルゴンガス供給部17に出力されて、真空槽11内へのアルゴンガスの供給が開始される。アルゴンガス供給部17が、例えば1000sccmの流量で真空槽11内にアルゴンガスを供給することで、タイミングt2よりも前までに、同真空槽11内の圧力が例えば1kPaになる。そして、成膜対象物Sにおける表面側の雰囲気がアルゴンガスで均一に満たされることによって、こうしたアルゴンガスを媒体とした熱伝導が実現されて、ランプヒータ13の熱量が成膜対象物Sの表面に均一に伝わることとなる。
【0044】
真空槽11内が上記圧力になるとともに、成膜対象物Sの温度が上記温度で安定すると、上記第2ステップに基づき、タイミングt2にて、炭素含有ガス供給部16からアセチレンガスを供給するための制御信号が、制御装置20から炭素含有ガス供給部16に出力されて、真空槽11内へのアセチレンガスの供給が開始される。炭素含有ガス供給部16は、例えば真空槽11内に1sccmの流量でアセチレンガスを供給する。そして、アセチレンガスの供給は、タイミングt2からタイミングt3までの間、例えば20分にわたり行われる。
【0045】
ここで、成膜対象物Sの表面がランプヒータ13によって加熱されているときには、成膜対象物Sの裏面が水冷ステージ12によって温調されているため、炭素膜の形成に要する所定の温度差が、常に成膜対象物Sの表面と裏面との間に形成されていることになる。
【0046】
そして、タイミングt2から所定期間にわたりアセチレンガスの供給が行われると、上記第3ステップに基づき、タイミングt3にて、ランプヒータ13をオフ状態にするための制御信号が、制御装置20からランプヒータ13に出力される。また、上記第3ステップに基づき、アルゴンガス及びアセチレンガスの供給を停止するための制御信号が制御装置20から炭素含有ガス供給部16及びアルゴンガス供給部17に出力される。これにより、アルゴンガス及びアセチレンガスの供給が停止されることで、真空槽11内が上記排気部18によって真空排気される。同時に、タイミングt3では、ランプヒータ13がオフの状態とされる。
【0047】
次に、上述した成膜処理にて形成される炭素膜の形成過程について図3を参照して説明する。まず、成膜対象物Sとは、図3(a)に示されるように、基板21の表面に金属触媒層22が積層された積層体である。なお、以下では、炭素膜の形成過程を説明する前提として、表面に熱酸化膜の形成された厚さが775μmのシリコン基板を基板21とし、また厚さが500nmのコバルト(Co)層を金属触媒層22とする。ちなみに、こうした金属触媒層22は、例えば0.5kPa雰囲気にてコバルトターゲットに200Wのターゲット電力を供給し、且つアルゴンガスを10sccmの流量で供給することでスパッタ成膜される。また、成膜対象物Sでは、金属触媒層22の表面22bが、成膜対象物Sの上記表面、且つ、上記ランプヒータ13によって加熱される面である。他方、基板21の裏面21aが、成膜対象物Sの上記裏面、且つ、水冷ステージ12に載置される面である。
【0048】
このような成膜対象物Sが上記熱CVD装置10に搬入されると、上述したタイミングt2からタイミングt3までの間は、成膜対象物Sの表面である金属触媒層22の表面22bが600℃に保たれる。
【0049】
この際、600℃に加熱された金属触媒層22の表面22bにアセチレンガスが供給されるため、金属触媒層22の表面22bでは、アセチレンガスの分解が進行する。そして、金属触媒層22の表面22bにて生成された炭素22cは、金属触媒層22における炭素22cの濃度勾配にしたがって金属触媒層22の裏面22a側に拡散する。一方、この間、成膜対象物Sの裏面である基板21の裏面21aが水冷ステージ12によって温調されるため、金属触媒層22の表面22bと基板21の裏面21aとの間には、炭素膜の形成に要する所定の温度差が形成され続けることになる。
【0050】
ここで、シリコン基板の熱伝導率は、室温にて160W/m・kであり、また、金属触媒層22を形成するコバルト層の熱伝導率は、室温にて20W/m・k以上70W/m・k以下である。そのため、上述のようにシリコン基板の厚さが775μmであって、金属触媒層22の厚さが500nmであって、且つ成膜対象物Sの表面と裏面との温度差が150℃であるときには、金属触媒層22の表面22bと裏面22aとの温度差は1℃程度になる。しかも、成膜対象物Sの裏面の温度が100℃以上であれば、金属触媒層22の裏面22aの温度は100℃以上であると見なすことができる。
【0051】
そして、金属触媒層22の裏面22aに拡散した炭素22cは、裏面22aにおける温度が表面22bよりも低いため、相対的に溶解度が低くなる結果、表面22bよりも析出しやすくなる。また、金属触媒層22の裏面22aにおける温度が100℃以上であるため、裏面22aに析出した炭素は、図3(b)に示されるように、アモルファス状の炭素ではなくグラフェン23aを有する炭素膜23を形成するようになる。そして、上記タイミングt2からタイミングt3までの間に形成される炭素膜23の多くは、基板21の表面21bと金属触媒層22の裏面22aとの間に形成されることになる。
【0052】
なお、本発明者らの実験によれば、金属触媒層22の表面22bにおける温度、金属触媒層22の裏面22aにおける温度、金属触媒層22の表裏における温度差、金属触媒層22の降温速度は、以下の範囲が好ましい。
【0053】
すなわち、金属触媒層22の表面22bの温度は、350℃以上800℃以下の範囲の所定の温度であると、金属触媒層22の表面にてアセチレンが分解されるとともに、アセチレンの分解によって生成された炭素22cが、金属触媒層22の表面に堆積することなく、該金属触媒層22内に拡散可能な量となる。他方、金属触媒層22の表面22bの温度が、350℃未満であると、アセチレンの分解速度が低くなるため、金属触媒層22内に十分な量の炭素を供給する時間が長くなり過ぎてしまう。また、金属触媒層22の表面22bの温度が、800℃より高いと、金属触媒層22の表面に炭素が堆積してしまう。
【0054】
また、金属触媒層22の裏面22aの温度を100℃以上とするとともに、金属触媒層22の表面22bと裏面22aとの温度差を0.01℃以上とすることが好ましい。それゆえに、上述した成膜対象物Sであれば、該成膜対象物Sの表裏の温度差を2℃以上にすることが好ましい。
【0055】
また、金属触媒層22の表面22bの温度が、1℃/分以上50000℃/分以下の速度で低下する、若しくは、上記600℃から200℃にまで0.001秒以上10分以下で冷却されることが好ましい。さらには、100℃/分以上10000℃/分以下の速度で低下する、若しくは、上記600℃から200℃にまで1秒以上5分以下で冷却されることが好ましい。金属触媒層22の表面22bが上述のような速度で冷却されることによって、炭素膜23の体積変化を該炭素膜の剥離や歪みが生じない程度に抑えることができる。
【0056】
なお、炭素膜23を含む成膜対象物Sの冷却が終了すると、成膜対象物Sは、真空槽11内から搬出される。次いで、上記金属触媒層22の表面に形成された炭素膜が、酸素雰囲気での加熱、酸素を用いたアッシング、又はアルゴンイオンによるミリングによって除去された後、金属触媒層22が、アルゴンイオンによるミリング、又は希硝酸等を用いたウェットエッチングにより除去される。若しくは、ウェットエッチングによって金属触媒層22を除去することで、該金属触媒層22の表面に形成された炭素膜も同時に除去される。こうして形成された基板21と炭素膜23との積層体が、各種の処理を経ることによって、素子間を電気的に接続する配線や電極に加工される。
[実施例1]
直径200mm、且つ厚さ775μmの熱酸化膜付シリコン基板に、厚さ500nmのコバルトからなる金属触媒層を以下の条件で形成した。
○金属触媒層形成条件
・真空槽内の圧力:0.5kPa
・アルゴンガスの流量:10sccm
・コバルトターゲットへの供給電力:200W
そして、以下の条件にて炭素膜を形成した。
○炭素膜形成条件
・真空槽内の圧力:1kPa
・アルゴンガスの流量:1000sccm
・アセチレンガスの流量:1sccm
・冷却水温 冷却水入口:20℃、冷却水出口:21℃
・金属触媒層表面の温度:600℃
・シリコン基板の裏面の温度:452℃
・成膜時間:20分
・冷却速度:580℃/分
その結果、金属触媒層の裏面とシリコン基板の表面との間に、15層以上20層以下のグラフェンの積層体であるグラファイトが析出した。また、金属触媒層の表面に、3層以上5層以下のグラフェンの積層体であるグラファイトが析出した。
[実施例2]
上記実施例1の炭素膜形成条件から以下の条件のみ変更して炭素膜を形成した。
○炭素膜形成条件
・冷却水温 冷却水入口:25℃、冷却水出口:30℃
・金属触媒層表面の温度:750℃
・シリコン基板裏面の温度:700℃
その結果、金属触媒層の裏面とシリコン基板の表面との間に、30層以上40層以下のグラフェンの積層体であるグラファイトが析出した。また、金属触媒層の表面に、10層以上15層以下のグラフェンの積層体であるグラファイトが析出した。
[比較例1]
上記実施例1の炭素膜形成条件から以下の条件のみ変更して炭素膜を形成した。
○炭素膜形成条件
・冷却水温:冷却水の温調、循環なし
・金属触媒層表面の温度:700℃
・シリコン基板裏面の温度:700℃
その結果、金属触媒層の裏面とシリコン基板の表面との間には、グラファイトが析出しなかった。一方、金属触媒層の表面には、30層以上40層以下のグラフェンの積層体であるグラファイトが析出した。
【0057】
以上説明したように、上記第1実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られるようになる。
(1)互いに相反する機能を有したランプヒータ13と水冷ステージ12との共働によって、金属触媒層22の表面22bと金属触媒層22の裏面22aとの間に所定の温度差が形成される。そのため、金属触媒層22の裏面22aと基板21の表面21bとの間での炭素膜23の成長の制御性を高めることが可能になる。
【0058】
(2)金属触媒層22が、コバルトによって形成されている。そして、上記ランプヒータ13が金属触媒層22の表面22bを加熱しているときに、水冷ステージ12が基板21の裏面21aを冷却するようにしている。そのため、金属触媒層22が加熱されているときには、常に金属触媒層22の表面22bと裏面22aとの間に温度差が形成されていることになる。それゆえに、金属触媒層22の表面22bにてアセチレンガスが分解されている間中、該金属触媒層22の表面22bと裏面22aとには温度差が生じていることになる。したがって、炭素膜23の形成位置は、金属触媒層22の裏面22aと基板21の表面21bとの間により制御されやすくなる。
【0059】
(3)コバルトで形成された金属触媒層22に対してアセチレンガスが供給されるときに、金属触媒層22の表面22bの温度を350℃以上800℃以下としている。そのため、金属触媒層22の表面22bにて生成された炭素が、金属触媒層22内に拡散されやすくなる。また、金属触媒層22の裏面22aの温度を100℃以上としていることから、該裏面22a側に析出した炭素が、アモルファスを形成することなく炭素膜23を形成しやすくなる。加えて、金属触媒層22の表面22bと裏面22aとの温度差を0.01℃以上としていることから、炭素膜23が、より確実に金属触媒層22の裏面22aと基板21の表面22bとの間に形成されやすくなる。
[第2実施形態]
次に、本発明の炭素膜の形成装置及び炭素膜の形成方法における第2実施形態について、図1、図3、及び図4を参照して説明する。なお、この第2実施形態では、冷却水の循環が、アイドル状態において停止され、且つ成膜レシピに基づいて開始される。そして、この第2実施形態は、炭素膜を形成する際のアセチレンガスの供給態様、ランプヒータによる加熱の態様、及び水冷ステージによる冷却の態様が異なる。そこで以下では、上述のような第1実施形態との相違点について特に説明する。
【0060】
制御装置20が記憶する成膜レシピには、下記第1ステップ〜第5ステップをこの順で実行されるように記述されている。
・第1ステップ:ランプヒータ13、アルゴンガス供給部17、及び排気部18が駆動されて、真空槽11内がアルゴンガスで所定の圧力に維持される。この第1ステップが行われる時間には、成膜対象物Sが熱平衡状態になるのに要する時間が設定されている。
・第2ステップ:ランプヒータ13、炭素含有ガス供給部16、アルゴンガス供給部17、及び排気部18が駆動されて、真空槽11内がアルゴンガスとアセチレンガスとで所定の圧力に維持される。この第2ステップが行われる時間には、アセチレンガスの分解生成物である炭素が成膜対象物S中に拡散するのに要する時間が設定されている。
・第3ステップ:ランプヒータ13及び排気部18が駆動されて、真空槽11内のガスが加熱下で排気される。この第3ステップが行われる時間には、真空槽11内の圧力が所定の圧力値になるのに要する時間が設定されている。
・第4ステップ:ランプヒータ13及び温調部Hxが駆動されて、成膜対象物Sの表面に対する加熱と成膜対象物Sの裏面に対する冷却とが行われる。この第4ステップが行われる時間には、炭素膜の膜厚が所望の膜厚に到達するのに要する時間が設定されている。
・第5ステップ:温調部Hxが駆動されて、成膜対象物Sの裏面に対する冷却が行われる。この第5ステップが行われる時間には、加熱された成膜対象物Sの温度が水冷ステージ12の温度と略等しくなるのに要する時間が設定されている。
【0061】
そして、制御装置20は、ランプヒータ13、温調部Hx、炭素含有ガス供給部16、アルゴンガス供給部17、及び排気部18の駆動の態様を上述した動作プログラムと成膜レシピとに基づいて制御する。
[熱CVD装置の作用]
上記熱CVD装置10が上記成膜対象物Sに炭素膜を形成する動作について、図4を参照して説明する。
【0062】
まず、熱CVD装置10に電源が投入されて、制御装置20が動作プログラムを実行すると、排気部18を駆動するための制御信号が、制御装置20から排気部18に出力され、これにより真空槽11内の減圧が開始される。次いで、熱CVD装置10に成膜対象物Sがセットされると、制御装置20は、動作プログラムに基づいて図示されない搬送装置を駆動して成膜対象物Sを真空槽11内に搬入する。そして、図4に示されるように、タイミングt0にて、成膜対象物Sが水冷ステージ12上に載置される。
【0063】
次いで、成膜対象物Sが水冷ステージ12に載置されると、制御装置20は、動作プログラムに基づいて成膜レシピを読み出し、該成膜レシピに基づいてランプヒータ13、温調部Hx、炭素含有ガス供給部16、アルゴンガス供給部17、及び排気部18の駆動の態様を制御する。
【0064】
すなわち、上記第1ステップに基づき、タイミングt1にて、ランプヒータ13をオン状態にするための制御信号が制御装置20からランプヒータ13に出力されて、ランプヒータ13による成膜対象物Sの昇温が開始される。これにより、タイミングt2よりも前までに、成膜対象物Sの表面、及び成膜対象物Sの裏面が800℃にまで加熱される。なお、本実施形態では、ランプヒータ13による成膜対象物Sの昇温が開始されるときに、水冷ステージ12による該成膜対象物Sの冷却が行われていない。そのため、タイミングt2よりも前までに、成膜対象物Sの全体が同一の温度に加熱される。なお、図4では、図示の便宜上、成膜対象物Sの表面の温度を示す実線と、裏面の温度を示す実線とを上下に離間させて示している。
【0065】
また、上記第1ステップに基づき、タイミングt1では、アルゴンガス供給部17からアルゴンガスを供給するための制御信号が制御装置20からアルゴンガス供給部17に出力されて、真空槽11内へのアルゴンガスの供給が開始される。アルゴンガス供給部17が、例えば1000sccmの流量で真空槽11内にアルゴンガスを供給することで、タイミングt2よりも前までに、同真空槽11内の圧力が例えば1kPaになる。
【0066】
真空槽11内が上記の圧力になるとともに、成膜対象物Sの温度が上記温度で安定すると、上記第2ステップに基づき、タイミングt2にて、炭素含有ガス供給部16からアセチレンガスを供給するための制御信号が制御装置20から炭素含有ガス供給部16に出力されて、真空槽11内へのアセチレンガスの供給が開始される。炭素含有ガス供給部16は、例えば真空槽11内に1sccmの流量でアセチレンガスを供給する。そして、アセチレンガスの供給は、タイミングt2からタイミングt3までの間、例えば20分にわたり行われる。
【0067】
アセチレンガスの供給が上記期間にわたり行われると、上記第3ステップに基づき、アルゴンガス及びアセチレンガスの供給を停止するための制御信号が、タイミングt3にて、制御装置20から炭素含有ガス供給部16及びアルゴンガス供給部17に出力される。そして、アセチレンガスの供給及びアルゴンガスの供給が停止されて、上記排気部18によって真空槽11内が排気される。
【0068】
真空槽11内が排気されると、上記第4ステップに基づき、冷却水の循環を開始するための制御信号が、制御装置20から温調部Hxに出力され、タイミングt4にて、上記水冷ステージ12における冷却水の温調及び循環が開始される。これにより、成膜対象物Sの表面が上記ランプヒータ13によって加熱された状態で、成膜対象物Sの裏面が水冷ステージ12により急激に冷却される。それゆえに、成膜対象物Sが第1実施形態と同じであるという前提であれば、その成膜対象物Sの表面と裏面との間に、第1実施形態よりも大きな温度差を形成することが可能となる。また、成膜対象物Sの熱伝導率が第1実施形態よりも大きいという前提であっても、その成膜対象物Sの表面と裏面との間に、第1実施形態と同程度の温度差を形成することが可能にもなる。
【0069】
水冷ステージ12による成膜対象物Sの冷却が開始されると、上記第5ステップに基づき、ランプヒータ13をオフ状態にするための制御信号が、制御装置20からランプヒータ13に出力され、タイミングt5にてランプヒータ13がオフ状態にされる。これにより、上記タイミングt4からタイミングt5までの間よりも高い速度で、成膜対象物Sが冷却される。
【0070】
次に、上述した成膜処理にて形成される炭素膜の形成過程について説明する。なお、成膜対象物Sとは、第1実施形態と同様に、基板21の表面に金属触媒層22が積層された積層体である。なお、以下では、炭素膜の形成過程を説明する前提として、表面に熱酸化膜の形成された厚さが775μmのシリコン基板を基板21とし、また厚さが500nmの銅(Cu)層を金属触媒層22とする。ちなみに、こうした金属触媒層22は、例えば0.5kPa雰囲気にて銅ターゲットに200Wのターゲット電力を供給し、且つアルゴンガスを10sccmの流量で供給することでスパッタ成膜される。
【0071】
このような成膜対象物Sが上記熱CVD装置10に搬入されると、上述したタイミングt2からタイミングt3までの間は、成膜対象物Sの表面である金属触媒層22の表面22bが800℃に保たれる。
【0072】
この際、800℃に加熱された金属触媒層22の表面22bにアセチレンガスが供給されるため、金属触媒層22の表面22bでは、アセチレンガスの分解が進行する。そして、金属触媒層22の表面22bにて生成された炭素22cは、金属触媒層22における炭素22cの濃度勾配にしたがって金属触媒層22の裏面22a側に拡散し、該金属触媒層22内に蓄積し続ける。このとき、金属触媒層22の表面22bの温度は、650℃以上1050℃以下にすることが好ましい。これにより、金属触媒層22を溶解させることなく、金属触媒層22の表面にてアセチレンガスを熱分解することで、炭素膜の形成を所定速度以上とするに足るだけの炭素を該金属触媒層22内に供給することができる。
【0073】
次いで、水冷ステージ12による成膜対象物Sの冷却がタイミングt4にて開始される。水冷ステージ12による成膜対象物Sの冷却が開始されると、金属触媒層22においては以下のような温度変化が起こる。すなわち、金属触媒層22における水冷ステージ12側の面である裏面22aの温度が、冷却の開始直後に上記800℃から例えば500℃等の所定温度にまで急激に低下する。そして、該裏面22aの温度は、ランプヒータ13及び水冷ステージ12の駆動中にわたって500℃で推移する。これに対し、金属触媒層22における上記裏面22aよりも表面22b側の部位の温度は、上記裏面22aの温度と同様、800℃から500℃にまで低下するものの、裏面22aからの距離が大きくなるほど500℃になるまでに要する時間が長くなる。
【0074】
このように、水冷ステージ12による成膜対象物Sの冷却開始時から金属触媒層22の裏面22aから表面22bまでにわたって同一の温度となるまでの間は、金属触媒層22の表面22bと裏面22aとの間に所定の温度差が形成される。そして、こうした所定の温度差により、上記アセチレンガスの分解により生成された炭素22cが、金属触媒層22の裏面22aと基板21の表面21bとの間に炭素膜23として析出する。
【0075】
さらにタイミングt5にてランプヒータ13の加熱が停止される。つまり、タイミングt4にて成膜対象物Sの冷却が開始されてから、タイミングt5にてランプヒータ13の加熱が停止されるまでの間は、金属触媒層22の裏面22aは冷却される一方、該金属触媒層22の表面22bは加熱され続ける。そのため、金属触媒層22の表面22bと裏面22aとの間に所定の温度差が生じている期間が、上記タイミングt4にてランプヒータ13の加熱を停止するよりも長くなる。その結果、金属触媒層22に拡散した炭素22cが、表面22bよりも裏面22aに析出しやすくなる。
【0076】
ここで、シリコン基板の熱伝導率は、室温にて160W/m・kであり、また、金属触媒層22を形成する銅の熱伝導率は、室温にて400W/m・kである。そのため、上述のように基板21の厚さが775μmであって、金属触媒層22の厚さが500nmであって、且つ成膜対象物Sの表面と裏面との温度差が300℃であるとき、金属触媒層22の表面22bと裏面22aとの温度差は0.1℃程度になる。しかも、成膜対象物Sの裏面の温度が100℃以上であれば、金属触媒層22の裏面22aの温度は100℃以上であると見なすことができる。その結果、金属触媒層22の裏面22aに拡散した炭素22cは、第1実施形態と同様に、アモルファス状の炭素ではなくグラフェン23aを有する炭素膜23を形成するようになる。
【0077】
なお、本発明者らの実験によれば、金属触媒層22の表面22bにおける温度、金属触媒層22の裏面22aにおける温度、金属触媒層22の表裏における温度差、金属触媒層22の降温速度は、以下の範囲が好ましい。
【0078】
すなわち、金属触媒層22の表面22bにおける冷却速度は、1℃/分以上50000℃/分以下とする、若しくは、冷却開始時の温度、例えば上記800℃から炭素膜23の析出する下限温度である200℃にまでの冷却を0.001秒以上10分以下で行うことが好ましい。また、100℃/分以上10000℃/分以下の冷却速度、若しくは、上記800℃から200℃にまでの冷却を1秒以上5分以下で行うことがより好ましい。これにより、炭素膜23がアモルファス状になりにくくなる。また、炭素膜23の体積変化を該炭素膜の剥離や歪みが生じない程度に抑えることができる。
【0079】
上述のような冷却により成膜対象物Sの温度が例えば50℃にまで冷却されると、上記真空槽11内から成膜対象物Sが搬出される。そして、上記第1実施形態と同様に、金属触媒層22、及び該金属触媒層22の表面22bに形成された炭素膜が除去される。こうして形成された基板21と炭素膜23との積層体が、各種の処理を経ることによって、素子間を電気的に接続する配線や電極に加工される。
[実施例3]
直径200mm、且つ厚さ775μmの熱酸化膜付シリコン基板に、厚さ500nmの銅からなる金属触媒層を以下の条件で形成した。
○金属触媒層形成条件
・真空槽内の圧力:0.5kPa
・アルゴンガスの流量:10sccm
・銅ターゲットへの供給電力:200W
そして、以下の条件にて炭素膜を形成した。
○炭素膜形成条件
・真空槽内の圧力:1kPa
・アルゴンガスの流量:1000sccm
・アセチレンガスの流量:1sccm
・冷却水温 冷却水入口:20℃、冷却水出口:21℃
・金属触媒層表面の温度:800℃
・シリコン基板の裏面の温度:800℃
・成膜時間:20分
・冷却速度:580℃/分
その結果、金属触媒層の裏面とシリコン基板の表面との間に、30層以上40層以下のグラフェンの積層体であるグラファイトが析出した。また、金属触媒層の表面に、3層以上4層以下のグラフェンの積層体であるグラファイトが析出した。
[比較例2]
上記実施例3の炭素膜形成条件から以下の条件のみ変更して炭素膜を形成した。
○炭素膜形成条件
・冷却水温:冷却水の温調、循環なし
・金属触媒層表面の温度:800℃
・シリコン基板裏面の温度:800℃
その結果、金属触媒層の裏面とシリコン基板の表面との間には、グラファイトが析出しなかった。一方、金属触媒層の表面には、30層以上40層以下のグラフェンの積層体であるグラファイトが析出した。
【0080】
以上説明したように、上記第2実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られるようになる。
(4)金属触媒層22が銅からなるときに、ランプヒータ13が金属触媒層22の表面を加熱した後に、水冷ステージ12が基板21の裏面21aを冷却することで、金属触媒層22の表面22bと裏面22aとの間に温度差を形成するようにしている。そのため、水冷ステージ12によって基板21の裏面21aが冷却されるときには、炭素膜23が形成されやすくなるとともに、該炭素膜23が金属触媒層22の裏面22aと基板21の表面21bとの間に形成されやすくなる。
【0081】
(5)銅で形成された金属触媒層22に対してアセチレンガスが供給されるときに、金属触媒層22の表面22bの温度を650℃以上1050℃以下としている。そのため、金属触媒層22を溶解させることなく、該金属触媒層22に供給されたアセチレンガスを分解して炭素を生成することができる。また、アセチレンガスの供給を停止した後に、ランプヒータ13が金属触媒層22の加熱を停止するとともに、水冷ステージ12が、金属触媒層22の裏面22aの温度を100℃以上とし、且つ、金属触媒層22の表面22bと裏面22aとの温度差を0.01℃以上としている。そのため、金属触媒層22内には、アセチレンガスの供給中にわたって炭素が蓄積され続けることになる。また、水冷ステージ12は、金属触媒層22の温度を100℃以上とするとともに、金属触媒層22の表面22bと裏面22aとの温度差が0.01℃以上となるように基板21の裏面21aを冷却する。そのため、アモルファス状の炭素ではなく炭素膜23が析出しやすくなるとともに、該炭素膜23が金属触媒層22の裏面22aと基板21の表面21bとの間に形成されやすくなる。
【0082】
なお、上記各実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・上記第1実施形態及び第2実施形態では、冷却水によって冷却される水冷ステージ12に冷却部が具現化されているが、これに限らず、冷却部は、例えば成膜対象物Sのステージと該成膜ステージとの間に冷却媒体のHeガスを介在させるステージであってもよく、さらに該ステージが冷却水によって冷却されるステージであってもよい。要は、冷却部は、その冷却能力を変更することで金属触媒層22の表裏に所定の温度差を形成するものであればよい。
【0083】
・第1実施形態及び第2実施形態では、熱CVD装置10が、加熱部としてランプヒータ13を備えるようにしたが、これに限らず、加熱部として輻射を利用して成膜対象物Sを加熱するホットプレート、ガスを介して成膜対象物Sを加熱するマッフル炉、赤外線を利用したイメージ炉、及びRFやマイクロ波により形成したプラズマによるもの等として具現化するようにしてもよい。また、上記プラズマによる加熱と他の加熱との組み合わせであってもよい。要は、加熱部は、金属触媒層22をその表面側から加熱するとともに、上記冷却部との共働で金属触媒層22に所定の温度差を形成することのできるものであればよい。
【0084】
・第1実施形態及び第2実施形態では、ランプヒータ13が、成膜対象物Sの載置領域以上の大きさであるようにしたが、ランプヒータ13の大きさが、該成膜対象物Sの載置領域未満の大きさでも、成膜対象物Sに温度むらを形成しない大きさであればよい。
【0085】
・第1実施形態及び第2実施形態では、熱CVD装置10が、表面温度測定部14と裏面温度測定部15とを備えるようにしたが、加熱部の駆動態様や冷却部の駆動態様に基づいて金属触媒層22の温度差が推定される構成であれば、表面温度測定部14及び裏面温度測定部15のいずれか1つを割愛してもよい。
【0086】
・第1実施形態及び第2実施形態では、炭素膜23の形成時に、アルゴンガス以外の希ガスであるヘリウム(He)ガス、ネオン(Ne)ガス、クリプトン(Kr)ガス、及びキセノン(Xe)ガスを用いるようにしてもよい。
【0087】
・第1実施形態及び第2実施形態では、基板21の表面21bに熱酸化膜が形成されているようにしたが、該熱酸化膜は形成されていなくともよく、基板21に形成された能動素子を覆う絶縁膜であってもよい。
【0088】
・第1実施形態及び第2実施形態では、基板21の厚さを775μmとし、また、金属触媒層22の厚さを500nmとした。これに限らず、上記加熱部及び冷却部を用いて金属触媒層22の表面22bと裏面22aとの間に温度差を形成できるような厚さであれば適宜変更可能である。
【0089】
・上記第1実施形態及び第2実施形態では、シリコンからなる基板21上に炭素膜23を形成するようにした。この際、炭素膜23が形成される基板として、例えばCMOSが形成されたシリコン基板を用いるようにしてもよい。ここで、一般的なCMOSのうち、その耐熱温度が400℃程度であるものは少なくなく、該耐熱温度を超えるような高温にてシリコン基板を加熱してしまうと、CMOSの機能が損なわれることになる。そのため、こうした基板を用いる場合には、該基板上に炭素膜を形成するときにも、CMOSの温度を耐熱温度以下に維持する必要がある。
【0090】
この点、上記第1実施形態及び第2実施形態では、基板に積層された金属触媒層22の表面をランプヒータ13によって加熱する一方、基板の裏面を水冷ステージ12によって冷却しつつ炭素膜23の形成を行うようにしている。しかも、シリコン基板に形成されたCMOSとは、通常、後続する配線の形成工程では、層間絶縁膜等で覆われた状態であって、シリコン基板の最表面を構成することはない。そのため、シリコン基板に形成されたCMOSも、少なからず水冷ステージ12で冷却されることになる。そして、CMOSの形成される部位がシリコン基板における裏面の近傍ともなれば、上述した効果もさらに顕著なものとなる。それゆえに、基板に形成されたCMOSの温度を耐熱温度以下として該CMOSの機能を維持しつつ、金属触媒層22の表裏に上述のような温度差を形成することで基板の表面に炭素膜23を形成することもできる。
【0091】
・第1実施形態では、成膜対象物Sの表面の温度を350℃以上800℃以下の範囲の所定温度とするようにしたが、成膜対象物Sの表面の温度は、350℃未満及び800℃より高い温度であってもよい。こうした温度の範囲であっても、金属触媒層22の表面22bと裏面22aとの間に所定の温度差を形成しさえすれば、少なからず金属触媒層22の裏面22aと基板21の表面21bとの間に炭素膜23を形成することができる。
【0092】
・第1実施形態では、金属触媒層22の裏面22aの温度を100℃以上とするようにしたが、アモルファス状の炭素が形成されないのであれば、金属触媒層22の裏面22aの温度は、100℃未満の温度であってもよい。
【0093】
・第1実施形態では、アルゴンガスの流量を1000sccmとし、また、真空槽11内の圧力を1kPaとしたが、炭素膜23が形成可能な範囲であれば、アルゴンガスの流量、及び真空槽11内の圧力を任意に変更可能である。
【0094】
・第1実施形態では、アセチレンガスの流量を1sccmとしたが、炭素膜23の形成が可能であれば、該アセチレンガスの流量は任意に変更可能である。
・第1実施形態では、タイミングt3にてアセチレンガス及びアルゴンガスの供給を停止するようにしたが、タイミングt3では、ランプヒータ13のみオフの状態とし、これらガスの供給は停止しなくてもよい。つまり、アルゴンガスで希釈された炭素含有ガスの存在下で冷却するようにしたり、アルゴンガスのみが存在する条件で冷却したりするようにしてもよい。
【0095】
・第1実施形態では成膜対象物Sを冷却するときの金属触媒層22の表面22bにおける冷却速度を1℃/分以上50000℃/分以下、若しくは、上記600℃から200℃にまで0.001秒以上10分以下とするようにしたが、この速度範囲に含まれない冷却速度にて成膜対象物Sを冷却するようにしてもよい。
【0096】
・第1実施形態及び第2実施形態では、金属触媒層22をスパッタ成膜するようにしたが、金属触媒層22は、CVD法等、他の公知の成膜方法で形成してもよい。
・第2実施形態では、タイミングt3にてアルゴンガスとアセチレンガスの供給を停止した後に、成膜対象物Sの冷却を行うようにしたが、アルゴンガスの供給を継続した状態でランプヒータ13をオフの状態とするとともに、冷却水の温調及び循環を行うことによって成膜対象物Sの冷却を行うようにしてもよい。また、アルゴンガスに加えてアセチレンガスの供給を継続した状態で、成膜対象物Sの冷却を行うようにしてもよい。これにより、炭素膜23に欠陥が生じたとしても、アセチレンガス中の炭素によって補完することができる。
【0097】
・第2実施形態では、タイミングt3にてアルゴンガス及びアセチレンガスの供給を停止した後に、タイミングt4にて冷却水の循環と温調とを開始するようにしたが、これらを同時に行うようにしてもよい。
【0098】
・第2実施形態では、タイミングt4にて冷却水の温調及び循環を開始した後に、タイミングt5にてランプヒータ13をオフの状態とするようにしたが、これらを同時に行うようにしてもよい。
【0099】
・第2実施形態では、アセチレンガス及びアルゴンガスの供給の停止、冷却水の温調及び循環の開始、及びランプヒータ13のオフを同時に行うようにしてもよい。
・第2実施形態では、ランプヒータ13をオンの状態としつつ、冷却水の温調及び循環の開始と冷却水の温調及び循環の停止とを繰り返すようにしてもよい。
【0100】
・第2実施形態では、成膜対象物Sの表面の温度を650℃以上1050℃以下の範囲の所定温度とするようにしたが、成膜対象物Sの表面の温度は、650℃未満及び1050℃より高い温度であってもよい。こうした温度の範囲であっても、金属触媒層22の表面22bと裏面22aとの間に所定の温度差を形成しさえすれば、少なからず金属触媒層22の裏面22aと基板21の表面21bとの間に炭素膜23を形成することができる。
【0101】
・第2実施形態では、金属触媒層22の裏面22aの温度を100℃以上とするようにしたが、アモルファス状の炭素が形成されないのであれば、金属触媒層22の裏面22aの温度は、100℃未満の温度であってもよい。
【0102】
・第2実施形態では、アルゴンガスの流量を1000sccmとし、また、真空槽11内の圧力を1kPaとした。これに限らず、上記炭素膜23の形成が可能な範囲で、アルゴンガスの流量及び真空槽11内の圧力を任意に変更可能である。
【0103】
・第2実施形態では、アセチレンガスの流量を1sccmとしたが、上記炭素膜23の形成が可能であれば、該アセチレンガスの流量は任意に変更可能である。
・第2実施形態では、成膜対象物Sを冷却するときにおける、金属触媒層22の表面22bの冷却速度を1℃/分以上50000℃/分以下、若しくは、上記800℃から200℃にまで0.001秒以上10分以下で冷却することとしたが、この速度範囲に含まれない冷却速度にて成膜対象物Sを冷却するようにしてもよい。
【0104】
・第1実施形態及び第2実施形態では、炭素含有ガスとしてアセチレンガスを用いるようにした。これに限らず、他の炭素含有ガス、例えばエチレン(C)、一酸化炭素(CO)、メタン(CH)、エタン(C)、エタノール(COH)、プロパン(C)、プロピレン(C)、ブタン(C10)、ブタジエン(C)、ペンタン(C12)、ペンテン(C10)、シクロペンタジエン(C)、ヘキサン(C14)、シクロヘキサン(C12)、ベンゼン(C)及びトルエン(CCH)等であってもよい。
【0105】
・第1実施形態では、金属触媒層22は、コバルトからなるようにした。これに限らず、コバルト、鉄、ニッケル、チタン、及びタンタルからなる遷移金属群から選択された金属で形成された金属触媒層であればよい。また、これら遷移金属の窒化物、あるいは、遷移金属群に含まれる金属の少なくとも一つを含む合金からなる金属触媒層であってもよい。
【0106】
・第2実施形態では、金属触媒層22は、銅からなるようにした。これに限らず、金属触媒層は、窒化銅、あるいは銅を含む合金からなるものであってもよい。
・第1実施形態では、成膜対象物Sをその表面から加熱しながら、同成膜対象物Sの裏面から冷却することで、金属触媒層22の表面22bと裏面22aとの間に所定の温度差を形成して炭素膜23を析出させるようにした。また、第2実施形態では、成膜対象物Sをその表面から加熱した後に、同成膜対象物Sの裏面を冷却することで、金属触媒層22の表面22bと裏面22aとの間に所定の温度差を形成して炭素膜23を析出させるようにした。要は、炭素膜23の形成時に、成膜対象物Sをその表面である金属触媒層の表面側から加熱しつつ炭素含有ガスを供給する炭素供給工程を実施し、また、加熱された成膜対象物Sをその裏面であるシリコン基板側から冷却する冷却工程を実施するということがなされていれば、炭素膜23は、金属触媒層22の裏面22aと基板21の表面21bとの間に析出する。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、グラフェン及びグラファイトを含む炭素膜の形成装置、及び炭素膜の形成方法に関わる技術分野に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0108】
10…熱CVD装置、11…真空槽、12…水冷ステージ、12a…冷却水入口、12b…冷却水出口、12L…冷却水通路、13…ランプヒータ、14…表面温度測定部、15…裏面温度測定部、16…炭素含有ガス供給部、17…アルゴンガス供給部、18…排気部、20…制御装置、21…基板、21a…裏面、21b…表面、22…金属触媒層、22a…裏面、22b…表面、22c…炭素、23…炭素膜、23a…グラフェン、Hx…温調部、S…成膜対象物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に積層された金属触媒層に対して炭素含有ガスを供給することにより、前記基板と前記金属触媒層との間に炭素膜を形成する炭素膜の形成装置であって、
前記金属触媒層に対して前記炭素含有ガスを供給する炭素含有ガス供給部と、
前記基板における前記金属触媒層側である表面側に配置された加熱部と、
前記基板における前記金属触媒層とは反対側である裏面側に配置された冷却部とを有し、
前記加熱部は、前記金属触媒層の表面を前記炭素含有ガスの分解される温度に加熱し、
前記冷却部は、前記基板の裏面を冷却することで、前記加熱部によって加熱された前記金属触媒層の表面と該金属触媒層の裏面とに所定の温度差を形成して、前記基板の表面と前記金属触媒層の裏面との間に前記炭素膜を析出させる
ことを特徴とする炭素膜の形成装置。
【請求項2】
前記加熱部が、前記金属触媒層の表面を加熱しているときに、前記冷却部が、前記基板の裏面を冷却する
請求項1に記載の炭素膜の形成装置。
【請求項3】
前記金属触媒層がコバルトからなり、
前記炭素含有ガス供給部が、前記炭素含有ガスとしてアセチレンガス又はエチレンガスを前記金属触媒層に供給しているときに、
前記加熱部と前記冷却部とが、
前記金属触媒層の表面の温度を350℃以上800℃以下にするとともに、
前記金属触媒層の裏面の温度を100℃以上とし、且つ、
前記金属触媒層の表面と裏面との温度差を0.01℃以上とする
請求項2に記載の炭素膜の形成装置。
【請求項4】
前記加熱部が、前記金属触媒層の表面の加熱を停止した後に、前記冷却部が、前記基板の裏面を冷却して、前記金属触媒層の表面と裏面との間に温度差を形成する
請求項1又は2に記載の炭素膜の形成装置。
【請求項5】
前記金属触媒層が銅からなり、
前記炭素含有ガス供給部が、前記金属触媒層に前記炭素含有ガスとしてアセチレンガス又はエチレンガスを供給しているときに、
前記加熱部が、前記金属触媒層の表面の温度を650℃以上1050℃以下とし、
前記炭素含有ガス供給部が、前記炭素含有ガスの供給を停止した後に、
前記加熱部が、前記金属触媒層の加熱を停止するとともに、
前記冷却部が、前記金属触媒層の裏面の温度を100℃以上とし、且つ、前記金属触媒層の表面と裏面との温度差を0.01℃以上とする
請求項4に記載の炭素膜の形成装置。
【請求項6】
基板に積層された金属触媒層に対して炭素含有ガスを供給することにより、前記基板と前記金属触媒層との間に炭素膜を形成する炭素膜の形成方法であって、
前記金属触媒層における前記基板とは反対側の表面を前記炭素含有ガスの分解される温度に加熱しつつ、該金属触媒層の表面に対して前記炭素含有ガスを供給する炭素供給工程と、
前記基板における前記金属触媒層とは反対側である裏面を冷却することで、加熱された前記金属触媒層の裏面を冷却する冷却工程とを備え、
前記冷却工程では、
前記金属触媒層の表面と該金属触媒層の裏面とに温度差を形成して、前記基板の表面と前記金属触媒層の裏面との間に前記炭素膜を析出させる
ことを特徴とする炭素膜の形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−246193(P2012−246193A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120267(P2011−120267)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】