説明

点眼剤

【課題】 コンタクトレンズ装着中でも安全に適用できるトラニラスト含有点眼剤を提供する。
【解決手段】 トラニラスト又はその薬理学的に許容される塩、ポリビニルピロリドン、及び0.075〜1重量%の非イオン性界面活性剤を含有することを特徴とする点眼剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有効成分としてトラニラスト又はその薬理学的に許容される塩を含有する点眼剤に関し、さらに詳しくは、コンタクトレンズ装着中に使用可能な点眼剤に関する。
【従来の技術】
【0002】
トラニラスト(3,4−ジメトキシシンナモイルアントラニル酸)は、アレルギー性気管支喘息やアレルギー性鼻炎等を初め、春季カタルやアレルギー性結膜炎などの眼科領域の疾患に対しても、経口投与で有効とされている。一般に、トラニラスト及びその塩は水に難溶性であるが、安定な水溶液製剤を製造するための方法が開発され(例えば特開1−294620号、特公平7−116029号公報、特開平11−302162号公報)、トラニラストを含有するアレルギー性疾患用の点眼剤も上市されている(リザベン)。しかし、トラニラストを含有するコンタクトレンズ装用中に使用可能な点眼剤は未だ提供されていない。
【0003】
コンタクトレンズは、ハードタイプとソフトタイプに大別される。安全性や装用感が徐々に改良された結果、若年層を中心に幅広く普及し続けており、現在では高含水ソフトコンタクトレンズや酸素透過性ハードコンタクトレンズ、さらに、ソフトコンタクトレンズには、2週間の頻回交換レンズや一回使い捨てコンタクトレンズなど、様々な種類のレンズが上市されている。このように、使用者の選択の幅が広がり、利便性が増したが、その一方で眼障害を起こす例も増えている。
【0004】
コンタクトレンズ(以下、「CL」と称することもある)装用に伴う合併症として巨大乳頭結膜炎(Giant Papillary Conjunctivitis、GPC)がよく知られている。GPCは、CL装用者で分泌物の増加、掻痒感、上眼瞼結膜の乳頭増殖があるものをいい、コンタクトレンズの汚れを抗原とするアレルギー性結膜炎である。この疾患はソフトタイプ、ハードタイプのいずれでも起こりうるが、ソフトコンタクトレンズに多発する傾向がある。
【0005】
さらに、コンタクトレンズ使用者は、上記のGPCに限らず、アレルギー性の眼疾患(季節性/通年性のアレルギー性結膜炎など)にも罹患する。いずれの場合でも、治療には、抗アレルギー薬が用いられるが、眼部に激しい掻痒感を伴うことから、経口投与よりも点眼剤等による局所投与が望ましい。また、トラニラストの製剤に関して、例えば、上記した特開平1−294620号公報には、トラニラストに対し4倍量以上、好ましくは6倍量以上のポリビニルピロリドンを溶解補助剤として用い、必要に応じ塩基性物質を加えることにより澄明なトラニラスト水溶液が得られること、特開平2−264716号公報には、ポリビニルピロリドンにHLB10〜16の非イオン性界面活性剤又は両性界面活性剤を含有させることでさらに溶解性が向上することが記載されている。また、特開平11−302162号公報には、有機アミンに少量の非イオン性界面活性剤を組合わせることで、ポリビニルピロリドンを使用せずにトラニラスト含有水溶液製剤を得たことが記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来から、種々の抗アレルギー薬を有効成分とする点眼剤が提供されているが、抗アレルギー薬のレンズへの悪影響を避けるため、コンタクトレンズを外して点眼することを前提としている。しかし、コンタクトレンズの使用者にとって、一々レンズを外して点眼し、再びレンズを装用するという作業は煩雑であるばかりか、細菌感染の機会を増やすことになりかねない。また、場所によってはこのような作業に適さず、点眼することができない場合も起こりうる。さらに、強度近視者にはコンタクトレンズ装用者が多いが、そのような人にとってレンズを外して点眼することは特に困難である。このように、コンタクトレンズ装用者にとって、抗アレルギー薬を含有する点眼剤の点眼は煩雑であることから、誤って装用したまま点眼してしまう例さえある。また、点眼後、どの位時間を経れば涙液中の抗アレルギー薬や添加剤などの濃度が低減し、レンズが装着可能になるかを確認し難いため、点眼後にレンズを再装着するタイミングを測ることが困難である。さらに、頻回交換レンズには、汚染防止の観点から、途中ではずし、再装着することができない種類のレンズもあるが、このような場合には、点眼のタイミングが問題になる。
【0007】
また、コンタクトレンズを装着した状態で点眼すると、例えば、次のような事故(弊害)が起こる可能性がある。<1>有効成分や保存剤、界面活性剤などの成分がレンズに吸着してレンズを汚染する。<2>主として有効成分がレンズ自体のサイズ(規格)を変化させる。<3>吸着の結果、有効成分の濃度が低下して有効性に影響する。<4>レンズ中に高度に成分濃度が蓄積し、逆に眼組織に毒性を及ぼす。
【0008】
トラニラストは既述のごとく優れた抗アレルギー薬であり、点眼剤として既に使用されているが、コンタクトレンズ装用中に用いることができる点眼剤は未だ開発されていない。そのようなレンズ装用中に使用しうる点眼剤を得ることができれば、GPCを初めとする眼科領域におけるアレルギー性疾患の予防及び治療に大いに貢献すると考えられる。
【0009】
しかし、前述の公報に記載の水溶液製剤は、後述する試験例に記載のごとく、レンズに何らかの作用を及ぼして直径を規格より大きくするという問題や、配合されている塩化ベンザルコニウムや塩化ベンゼトニウムが、コンタクトレンズ、特にソフトコンタクトレンズや酸素透過性コンタクトレンズに吸着しやすいために角膜に対して毒性を表すという問題がある。従って、これら既知の水溶液製剤を、そのままコンタクトレンズ装用者に対するアレルギー点眼薬として用いることはできなかった。
また、これらのいずれにも、有効成分であるトラニラスト自体のコンタクトレンズに対する影響については記載されていない。
従って、上記の問題を回避し、どのようなコンタクトレンズであっても装用中に適用できるアレルギー性結膜炎の治療に有用なトラニラスト含有点眼剤の開発が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、コンタクトレンズ装用中に適用(使用)することができるトラニラスト含有点眼剤を開発することを目的として鋭意検討を重ねた結果、トラニラストは、ポリビニルピロリドンの存在下でコンタクトレンズのサイズ変化をもたらすことを見出した(試験例1参照)。このような現象はこれまで報告された例がなく、原因は未解明であるが、トラニラストとPVPとの相互作用によると考えられる。アメリカ規格協会ANSI(American National Standards Institute)のコンタクトレンズについての規格 ANSI Z80.8(1986)のソフトコンタクトレンズのサイズの許容幅0.5mmを参考にすると、試験前後のサイズの差が許容範囲を超えており、使用者に違和感を与え、延いては角膜損傷などの障害を起こす可能性がある。
さらに、既述のごとく、水性点眼剤の調製に必須の溶解補助剤や保存剤の中には、レンズに吸着したり悪影響を及ぼすものがあり、そのような作用を未然に防ぐ必要がある。
従って、トラニラストを含有し、コンタクトレンズ装用中に使用できる点眼剤を調製するためには、上記の様々な問題点を全て解決しなければならない。
【0011】
本発明者らは、有効量のトラニラストを含有し、かつコンタクトレンズに悪影響を及ぼさず安定で安全なトラニラスト含有水溶液製剤を提供することを目的として鋭意研究を重ねた結果、一定量の非イオン性界面活性剤を配合すると、レンズに対する影響のない、安全な点眼剤を得ることができることを見出した。
即ち本発明は、トラニラスト又はその薬理学的に許容される塩、ポリビニルピロリドン、及び0.075〜1重量%の非イオン性界面活性剤を含有することを特徴とする、コンタクトレンズ装着時に適用可能な点眼剤を提供するものである。
【0012】
上記のように構成された本発明の点眼剤は、安定に溶液状態を維持するトラニラスト水溶液製剤であって、コンタクトレンズになんら影響を及ぼすことなく装用したままで適用可能な製剤として、広範なアレルギー患者の予防又は治療に有用である。また、点眼剤における媒質としては、眼科的に許容される任意のものを使用しうるが、水性媒質であることが好ましい。
本発明に用いるトラニラストの薬理学的に許容される塩は、ナトリウム塩又はカリウム塩などである。トラニラスト又はその薬理学的に許容される塩の本発明の点眼剤における有効量は0.1〜1.0%、好ましくは0.2〜0.5%の範囲である。
なお、本明細書中、各成分の含有率は重量%で表されている。
【0013】
本発明の点眼剤には、トラニラストの溶解性を高め、水溶液中での安定性を維持するためにポリビニルピロリドンを含有させる。
ポリビニルピロリドンとしては眼科的に許容できるものならいずれでもよいが、製剤の粘度を考慮して適当な重合度のものを選択する。好ましくは平均分子量約25000〜約120,000の範囲、より好ましくは、約25000〜約40000の範囲のものが使用できる。具体的には、ポリビニルピロリドンK-25、ポリビニルピロリドンK-30、ポリビニルピロリドンK-90などが使用できる。点眼剤中には、重量%でトラニラストに対して4〜6倍、好ましくは5〜6倍用いることができる。
ポリビニルピロリドンは、トラニラストの溶解性を高め、その水溶液中での安定化を確保する上で重要であるが、その共存下では、コンタクトレンズのサイズ変化を起す。しかし、このような影響は、本発明の一定濃度の非イオン性界面活性剤を含有する点眼剤中では回避される。
【0014】
非イオン性界面活性剤としてはHLB10〜16のものが適当であり、点眼剤として用いうるものから適宜選択されるが、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60等のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等のポリオキシエチレンソルビタン類が挙げられる。その中でもポリオキシエチレンソルビタン類が好ましく、特にポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(ポリソルベート80)が好ましい。非イオン性界面活性剤の濃度は0.075〜1%、好ましくは0.10〜1.0%である。トラニラストとポリビニルピロリドンを含有する水溶液中におけるコンタクトレンズのサイズ変化を防止するためには、0.075%以上が好ましく、1%を越えると粘つきがあり、眼に適用した場合、不快感を与えるので好ましくない。従って、本発明の点眼剤中の非イオン性界面活性剤の濃度は、0.10%以上1.0%未満であることがより好ましく、0.10%を超え、1.0%未満であることがさらに好ましく、0.15〜0.95%程度であることが好ましい。より一層好ましい範囲は0.2%〜0.90%である。
【0015】
なお、本発明の目的に反しない限り、両性界面活性剤をも含有していてもよい。そのような両性界面活性剤の例として、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド、ラウリルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。両性界面活性剤を含有する場合、その濃度は0.001〜1%好ましくは0.05〜0.5%である。
【0016】
塩基性物質としては、有機アミン、尿素及びクレアチニン等が挙げられるが、これらに限定されない。有機アミンとしては、トロメタモール、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン、HEPES、1,4−ビス(2−スルホエチル)ピペラジン、1,4−ビス(3−スルホプロピル)ピペラジン、1,4−ビス(4−スルホブチル)ピペラジン等のスルホアルキルピペラジン、N,N’−ビス(3−スルホプロピル)エチレンジアミン等のスルホアルキルアルキレンジアミンなどが好ましく、特にトロメタモールやモノエタノールアミンが好ましい。塩基性物質の濃度は0.01〜5.0 %好ましくは0.1〜4.0%である。
【0017】
本発明の点眼剤は適当なpH調節剤で眼科的に許容される範囲内に調節する必要がある。トラニラストの溶解性や刺激性を考慮して、pHをpH5.0〜9.0、好ましくは、6.5〜8.5の範囲に維持することが望ましい。即ち、pH5以下においては、トラニラストの溶解性が不充分で刺激性がある。
【0018】
また、本発明の点眼剤には、適当な保存剤を含有させる。そのような保存剤は当該技術分野で既知のものから選択されるが、コンタクトレンズ装用者が使用することから、一定のものは、レンズへの吸着という点で望ましくない。従って、本願発明の点眼剤には以下から選択される保存剤が適当である。
クロルヘキシンジン及びその塩(例えばグルコン酸クロルヘキシジン)、アルキルポリアミノエチルグリシン、ソルビン酸及びその塩(例えば、ソルビン酸カリウム)、チメロサール、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、クロロブタノール、ベンジルアルコール、塩化セチルピリジニウム、アルキル基の炭素数が12の塩化ベンザルコニウム、第四級アンモニウムポリマーおよびその塩、ビグアニド化合物及びその塩、等よりなる群から1種又は2種以上を用いることができる。好ましくは、クロルヘキシンジン及びその塩、ソルビン酸及びその塩、アルキル基の炭素数が12の塩化ベンザルコニウム、第四級アンモニウムポリマーおよびその塩、ビグアニド化合物及びその塩等である。
例えば、第四級アンモニウムポリマーおよびその塩は、塩化ポリドロニウム(ポリクォーテリウム−1)、Glokill PQ(商品名、ローディア社製)、ユニセンスCP(商品名、ポリ (ジアリルジメチルアンモニウムクロライド) 、センカ社製)、WSCP(商品名、ポリ[ オキシエチレン(ジメチルイミニオ)エチレンー(ジメチルイミニオ)エチレンジクロリド] を約60重量%含有、バックマン・ラボラトリーズ社製)、から入手できる。また、ビグアニド化合物又はその塩は、コスモシルCQ(商品名、ポリヘキサメチレンビグアニド塩酸塩を約20重量%含有、ICI アメリカズ社製)から入手できる。
【0019】
保存剤の濃度はそれぞれの保存剤について既知の濃度範囲で決定するとよい。例えば、グルコン酸クロルヘキシジンの濃度は、0.0001〜0.02%好ましくは0.001〜0.01%である。アルキルポリアミノエチルグリシンの濃度は、0.001〜0.2%好ましくは0.01〜0.1%である。ソルビン酸、ソルビン酸カリウムの濃度は、0.001〜0.2%好ましくは0.01〜0.1%である。チメロサールの濃度は、0.001〜0.2%好ましくは0.01〜0.1%である。パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチルの濃度は、0.001〜0.1%好ましくは0.01〜0.05%である。クロロブタノールの濃度は、0.001〜0.5%好ましくは0.1〜0.2%である。ベンジルアルコールの濃度は、0.001〜0.5%好ましくは0.1〜0.2%である。塩化ポリドロニウムの濃度は、0.00001〜0.5%好ましくは0.00001〜0.01%である。ポリヘキサメチレンビグアニド塩酸塩の濃度は0.00001%〜0.5%好ましくは0.00001%〜0.01%である。ポリ[オキシエチレン(ジメチルイミニオ)エチレン−(ジメチルイミニオ)エチレンジクロリド]の濃度は、0.00001〜0.5%好ましくは、0.00001%〜0.01%である。保存剤のコンタクトレンズへの吸着を防止するためには、非イオン性界面活性剤は、前記した0.075〜1%が適当であり、0.10〜1.0%であることが好ましい。
【0020】
このように、本発明の点眼剤は上記の一定のpH範囲内で、非イオン性界面活性剤及びポリビニルピロリドン、並びに所望により塩基性物質、及び保存剤を、上記の濃度範囲で含有している。これら添加剤は、この濃度範囲においては、光遮光下におけるトラニラスト又はその薬理学的に許容される塩の安定性には影響せず、点眼剤としての刺激性、製剤的な安定性、包装容器との相互作用もないので、トラニラスト又はその薬理学的に許容される塩の配合成分としては最適である。
【0021】
さらに、本発明の点眼剤には、本発明の目的を達成し得ることを条件として、当該技術分野で既知の等張化剤、pH調節剤、上記以外の保存剤、粘稠化剤、溶解補助剤、安定化剤、溶解剤、キレート剤及び他の有効成分を配合することができる。
等張化剤としては、例えば塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、グリセリン、D−マントール、アミノエチルスルホン酸、ブドウ糖等があげられる。
【0022】
pH調節剤としては、塩酸、希塩酸、氷酢酸、水酸化ナトリウム等があげられる。
【0023】
粘稠化剤としては、デキストラン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシセルロース、カルボキシメチルセルロース、カーボポール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、コンドロイチン硫酸ナトリウム、アガロース、トラガント、キサンタンガム等があげられる。
【0024】
溶解補助剤としては、尿素、エタノール、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシエチレンヒマシ油、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリソルベート80、マクロゴール4000、モノエタノールアミン等がある。
【0025】
安定化剤としては、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等があげられる。キレート剤としては、エデト酸ナトリウムとクエン酸ナトリウム等があげられる。
【0026】
溶解剤としては、滅菌精製水、注射用水及び精製水等があげられる。
また、他の薬効成分としては、抗炎症剤、抗アレルギー剤、抗菌剤、抗生物質、ビタミン剤、角膜創傷治癒促進剤等があげられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の内容を以下の実施例でさらに詳しく説明するが、本発明はその内容に限定されるものではない。
実施例1〜23
以下の表1、実施例1〜23に記載の処方でトラニラスト0.5%点眼薬を調製した(表1〜4)。
方法:各処方の成分を精製水に溶解し、全量が100mLになるように精製水を加える。さらに無菌環境下、調製した液を無菌ろ過した。これを洗浄滅菌済みのプラスチック製点眼容器に無菌充填後閉塞し澄明な点眼剤を得た。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
同様の方法で、非イオン性界面活性剤の濃度が低い組成物(比較例1〜3)、トラニラスト不含の組成物(比較例4)を調製した。
【表5】

【0033】
試験例1 点眼剤の成分がコンタクトレンズのサイズに及ぼす影響
(1) 眼科的に許容されるコンタクトレンズのサイズ変化の適否の判定は、アメリカ規格協会ANSI(American National Standards Institute)のコンタクトレンズに関する規格に従った。即ち、ANSI Z80.8(1986)では、ソフトコンタクトレンズのサイズ変化の許容幅を0.5mmと定めている。よって、以下の試験では、試験前後のサイズの差が0.5mm以内のものを適、0.5mmを超えるものを不適とした。
【0034】
(2)非イオン性界面活性剤含有点眼剤のレンズサイズへの影響
ANSI280.8(1986)の試験方法に準じて試験を行った。生理食塩水中でソフトコンタクトレンズのサイズを測定した後、そのレンズを各試験溶液10mLに3分間浸漬し、試験液から出して生理食塩水中で直ちに再度、レンズのサイズを測定した。
使用レンズ:SUREVUE(Johnson & Johnson 社、含水率58%のGroupIVレンズ)
試験液:実施例5、7〜11の組成物及び比較例2の組成物
サイズの測定方法:万能投影機を用い、レンズの垂直交差する2ヶ所の直径を生理食塩水中で測定。(n=1)
結果を表6に示す。
【0035】
【表6】

表6に記載の結果から、トラニラスト及びポリビニルピロリドンとを含有する水性組成物は、0.05%の非イオン性界面活性剤の存在下では、レンズサイズの拡大程度が許容範囲を超える(比較例2)が、0.075%以上の非イオン性界面活性剤の存在下では、許容範囲内に抑制されることが分かる。この結果は、トラニラスト及びポリビニルピロリドン含有組成物のコンタクトレンズサイズへの影響に対する非イオン性界面活性剤の抑制効果が、濃度0.05%の場合に比較して、濃度0.075%の場合には飛躍的に向上することを示している。なお、非イオン性界面活性剤の濃度が1.0%の場合にも優れた効果が認められるが、1.0%を超えた濃度で非イオン性界面活性剤を含有する組成物は、物理的な性質(粘性)に鑑みて、本発明の点眼剤として不適であることから、この値を本発明組成物中の非イオン性界面活性剤の濃度の上限値としている。
【0036】
試験例2 トラニラストのコンタクトレンズへの吸着
試験液5mLを調製し、ソフトコンタクトレンズ5枚を浸漬し、24時間後のレンズへの吸着を高速液体クロマトグラフィーにより定量した。
使用レンズ:SCL−A(含水率43%のGroupIレンズ)
SCL−B(含水率55%のGroupIVレンズ)
試験液:実施例3の組成物
(GroupIレンズとは、含水率50%未満で非イオン性材料からなるものを指し、GroupIVレンズとは、含水率50%以上で、イオン性材料からなるものを指す。)
結果を表7に示す。
【0037】
【表7】

上記の結果から、トラニラストはほとんどレンズに吸着しないことが分かる。
【0038】
試験例3 製剤中の保存剤のコンタクトレンズへの吸着
試験液5mLにソフトコンタクトレンズ1枚を浸漬し、24時間後の浸漬液中の保存剤(グルコン酸クロルヘキシジン、ソルビン酸カリウム、塩化ベンザルコニウム)の含量を測定した。
使用レンズ:SCL−A(含水率43%のGroupIレンズ)
試験液:実施例1〜6及び比較例1〜4の組成物。
定量法:高速液体クロマトグラフによるグルコン酸クロルヘキシジン、ソルビン酸カリウム、塩化ベンザルコニウムの定量。
試験の結果を表8に示す。
【0039】
【表8】

表に記載の通り、本願製剤の場合には、保存剤の吸着が防止されている。
【0040】
試験例4 製剤中の安定性
試験液5mLをプラスチック容器に充填し、室温で1週間保存し、目視で性状を確認した。実施例1〜6のいずれの液剤も澄明に維持され、異物を認めなかった。
【0041】
有効成分としてのトラニラスト又はその薬理学的に許容される塩を含有する本発明の点眼剤は、コンタクトレンズ装着中においても、レンズに影響を及ぼさず適用できるので、アレルギー性結膜炎等の様々な眼科的な異常を有する患者に好都合であり、コンプライアンスを得ることが一層容易になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラニラスト又はその薬理学的に許容される塩、ポリビニルピロリドン、及び0.075〜1重量%の非イオン性界面活性剤を含有することを特徴とする、コンタクトレンズ装着時に適用可能な点眼剤。
【請求項2】
非イオン性界面活性剤が、HLB10〜16の界面活性剤であることを特徴とする請求項1に記載の点眼剤。
【請求項3】
ポリビニルピロリドンが平均分子量25,000〜120,000のポリビニルピロリドンから選択されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の点眼剤。
【請求項4】
さらに塩基性物質をも含有する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の点眼剤。
【請求項5】
塩基性物質が、有機アミン、尿素及びクレアチニンからなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の点眼剤。
【請求項6】
さらに、クロルヘキシンジン及びその塩、アルキルポリアミノエチルグリシン、ソルビン酸及びその塩、チメロサール、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、クロロブタノール、ベンジルアルコール、塩化セチルピリジニウム、炭素数12のアルキル基を有する塩化ベンザルコニウム、第四級アンモニウムポリマーおよびその塩並びにビグアニド化合物及びその塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種の保存剤を含有することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の点眼剤。

【公開番号】特開2008−88192(P2008−88192A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335794(P2007−335794)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【分割の表示】特願2002−25690(P2002−25690)の分割
【原出願日】平成14年2月1日(2002.2.1)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】