説明

無励磁作動ブレーキ

【課題】部品数や組立工数が増えることがないように手動解放レバーを装備した安価な手動解放装置付き無励磁作動ブレーキを提供する。
【解決手段】ブレーキディスク7と、励磁コイル11を有するフィールドコア2と、ブレーキディスク7とフィールドコア2との間に位置するアーマチュア13とを備える。アーマチュア13をブレーキディスク7に向けて押圧する制動ばね12を備える。前記フィールドコア2を外側から挟むように形成されかつフィールドコア2に回動自在に支持された手動解放レバー21を備える。手動解放レバー21は、両端部どうしの間隔が拡がるように弾性変形されることによりフィールドコア2に対して着脱可能に形成されている。手動解放レバー21の両端部の近傍には、手動解放レバー21が回されることによってアーマチュア13をフィールドコア2に向けて押圧する押圧部26が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手動解放レバーを備えた無励磁作動ブレーキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の無励磁作動ブレーキとしては、例えば特許文献1および特許文献2に記載されているものがある。特許文献1に開示された無励磁作動ブレーキは、励磁コイルへの通電が絶たれたときにアーマチュアが制動ばねのばね力でブレーキディスクに押し付けられるように構成されている。前記アーマチュアは、励磁コイルを有するフィールドコアに移動自在に支持されており、励磁コイルが通電されている状態でフィールドコアに磁気によって吸着され、ブレーキディスクから離間する。励磁コイルへの通電が絶たれて前記アーマチュアがブレーキディスクに押し付けられることによって、ブレーキディスクが制動される。このブレーキディスクは、モータの回転軸と一体に回転するものである。
【0003】
この無励磁作動ブレーキは、励磁コイルに通電できない状態(制動状態)であるときに手動でアーマチュアをブレーキディスクから離間させて制動を解放するために手動解放レバーを備えている。この手動解放レバーは、前記フィールドコアに回動自在に支持されており、フィールドコアに対して回すことによって、アーマチュアの一対のアームに操作力を伝えるように構成されている。この操作力は、アームにアーマチュアがフィールドコア側へ移動するように作用する。
【0004】
前記アームは、円板状を呈するアーマチュアの外周部からフィールドコアの外周に沿ってブレーキディスクとは反対側に延びるように形成されている。このアームは、アーマチュアの外周部に溶接またはねじ止めによって固着されている。
前記手動解放レバーは、前記アームを貫通する状態でフィールドコアに回動自在に支持されており、アームを貫通する部分にカム部を備えている。このカム部は、アーマチュアが制動状態にあるときに手動解放レバーがフィールドコアに対して手動解放方向に回されることによって、アームをブレーキディスクとは反対側に押すように構成されている。
【0005】
特許文献2に記載されている無励磁作動ブレーキは、回転軸と一体に回転するブレーキディスクを制動時にアーマチュアと協働して挟むサイドプレートを備えている。このサイドプレートは、ブレーキディスクを挟んでアーマチュアと対向する位置に位置付けられており、フィールドコアに移動できないように固定されている。
【0006】
この無励磁作動ブレーキの手動解放レバーは、前記回転軸の軸線とは直交する方向に平行移動することによってアーマチュアをフィールドコア側に押す構成が採られている。この手動解放レバーの支持は、前記サイドプレートの外周部に立てて設けられた調整ねじを用いて行われている。この調整ねじは、サイドプレートからアーマチュアに向けて延びるようにサイドプレートに取付けられている。この調整ねじの先端部は、手動解放レバーに形成された長穴の中に部分的に臨み、手動解放レバーをアーマチュアに沿う状態で保持している。前記長穴は、制動解放時に手動解放レバーが移動する方向と平行に延びている。
【0007】
手動解放レバーにおける前記長穴を有する部分には、前記サイドプレートに向けて突出する凸面形状が形成されている。すなわち、この無励磁作動ブレーキにおいては、手動解放レバーが平行移動して前記凸面形状の凸部分が調整ねじによって押されることによって、この手動解放レバーがアーマチュアをフィールドコア側に押し、制動が解放される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実公平3−17073号公報
【特許文献2】実用新案登録第3076422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載されている無励磁作動ブレーキでは、手動解放レバーから操作力を受けるアームをアーマチュアに設けなければならない。前記アームがアーマチュアとは別体に形成されていると、部品数および組立工数が多くなるから、不経済であり、生産性が悪い。このような不具合は、アームとアーマチュアとを有する母材を板材から打ち抜き、その後、アームを折り曲げて所定の形状に形成することによって、ある程度は解消できる。しかし、このようにアームをアーマチュアと一体成形によって一体に形成する場合であっても、前記母材の形状が原因で材料の歩留まりが悪く、経済的ではないという問題がある。
【0010】
特許文献2に記載されている無励磁作動ブレーキでは、調整ねじをサイドプレートにねじ込んで立て、この調整ねじの突出長さが変化することがないようにナットで緩みを防止しなければならない。このため、特許文献2記載の無励磁作動ブレーキにおいては、部品数や機械加工数、組立工数が多く、経済性や生産性が悪いという問題があった。
【0011】
本発明はこのような問題を解消するためになされたもので、部品数や組立工数が増えることがないように手動解放レバーを装備した安価な手動解放装置付き無励磁作動ブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的を達成するために、本発明に係る無励磁作動ブレーキは、回転軸と一体に回転するブレーキディスクと、励磁コイルを有しかつ前記ブレーキディスクを指向するように磁極面が形成されたフィールドコアと、前記ブレーキディスクと前記フィールドコアとの間に位置付けられ、前記磁極面に対して接離可能に前記フィールドコアに支持されたアーマチュアと、前記アーマチュアを前記ブレーキディスクに向けて押圧する制動ばねと、前記フィールドコアにおける前記回転軸の軸線方向とは直交する方向の一端部と他端部とを前記フィールドコアの外側から挟むように形成されかつこれらの一端部と他端部とが回動中心となるようにフィールドコアに回動自在に支持された手動解放レバーとを備え、前記手動解放レバーは、両端部どうしの間隔が拡がるように弾性変形されることによりフィールドコアに対して着脱可能に形成され、この手動解放レバーにおける前記フィールドコアに支持される両端部の近傍には、手動解放レバーが回されることによって、前記アーマチュアをフィールドコアに向けて押圧する押圧部が設けられているものである。
【0013】
本発明は、上記発明に係る無励磁作動ブレーキおいて、前記手動解放レバーの回動端部は、前記回転軸の軸線方向から見てフィールドコアの外側に位置するように形成され、前記フィールドコアにおける前記手動解放レバーを支持する部分は、手動解放レバーの両端部を構成する支持軸が挿抜自在に挿入される軸孔と、この軸孔より浅く形成されてこの軸孔からフィールドコアの外表面に沿って延びる凹溝とによって構成され、前記凹溝は、前記手動解放レバーが回動するときの軸線の方向から見て、前記フィールドコアにおける手動解放レバーの前記回動端部と近接する端部に向かうにしたがって次第に前記アーマチュアから離間するように形成されているものである。
【0014】
本発明は、上記発明に係る無励磁作動ブレーキおいて、前記ブレーキディスクは、前記回転軸に対して軸方向へ移動自在に支持され、前記フィールドコアは、制動時に前記アーマチュアによって押された前記ブレーキディスクの軸線方向への移動を規制するサイドプレートを更に備え、前記手動解放レバーの前記押圧部と回動端部との間には、前記励磁コイルが励磁状態であるときに前記サイドプレートにおける前記フィールドコアとは反対側の端面と対向する回動規制部が設けられているものである。
【0015】
本発明は、上記発明に係る無励磁作動ブレーキにおいて、前記手動解放レバーが1本の線材を曲げて所定の形状に形成されたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アーマチュアにおけるフィールドコアの磁極面と対向する本体部分で手動解放レバーから操作力を受けることができるから、操作力を受けるためのアームなどの突出部をアーマチュアに設ける必要がない。
また、手動解放レバーは、自らの弾性でフィールドコアに支持されるから、手動解放レバーをフィールドコアに支持させるための部品は不要である。
したがって、本発明によれば、アーマチュアを単純な形状に形成でき、しかも手動解放レバーを支持する部品が不要であるから、経済的で生産性が高い無励磁作動ブレーキを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る無励磁作動ブレーキの斜視図で、同図においては、サイドプレートの一部を破断した状態で描いてある。
【図2】無励磁作動ブレーキのサイドプレート側から見た正面図である。
【図3】無励磁作動ブレーキの左側面図で、同図においては無励磁作動ブレーキの一部を破断した状態で描いてある。
【図4】フィールドコアにおける支持孔が形成された一部を拡大して示す側面図である。
【図5】図4におけるV−V線断面図である。
【図6】手動解放レバーの正面図である。
【図7】手動解放レバーの底面図である。
【図8】手動解放レバーの断面図で、同図は図6におけるVIIIーVIII線断面図である。
【図9】手動解放レバーを揺動させて手動解放状態とした無励磁作動ブレーキの側面図である。
【図10】手動解放レバーをスライドさせて手動解放状態とした無励磁作動ブレーキの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る無励磁作動ブレーキの一実施の形態を図1〜図10によって詳細に説明する。
図1に示す無励磁作動ブレーキ1は、円柱状を呈する形状に形成されたフィールドコア2に後述する各部材を組み付けることによって形成されている。この無励磁作動ブレーキ1は、図3に示すように、モータ3のリアハウジング4にこのモータ3の回転軸5が貫通する状態で装着されている。前記無励磁作動ブレーキ1は、モータ3の駆動が停止されたときや、停電時、故障により通電が絶たれたときなどに前記回転軸5を制動するためのものである。
【0019】
前記回転軸5の軸端部にはハブ6が一体に回転するように取付けられている。このハブ6には、スプライン嵌合によってブレーキディスク7が軸線方向に移動可能かつ一体に回転するように取付けられている。ブレーキディスク7は、円環状に形成されており、回転軸5と同一軸線上に位置付けられている。また、このブレーキディスク7の外径は、フィールドコア2の外径より小さく形成されている。
【0020】
前記フィールドコア2は、一端面が磁極面2aとなるように形成されており、この磁極面2aが前記ブレーキディスク7を指向するように前記リアハウジング4に固定されている。このフィールドコア2は回転軸5と同一軸線上に位置している。このフィールドコア2の内部には、図3に示すように、励磁コイル11と制動ばね12とが設けられている。
【0021】
前記励磁コイル11は、通電されることにより励磁し、前記磁極面2aを通るように磁束を発生させる。この励磁コイル11は、前記モータ3の駆動が停止されると通電が絶たれるように構成されている。
前記制動ばね12は、後述するアーマチュア13をブレーキディスク7に押し付けるためのもので、フィールドコア2を周方向に3等分する位置に配置されている。
【0022】
アーマチュア13は、磁性材によって円環板状に形成されており、前記磁極面2aと対向するようにフィールドコア2に移動自在に支持され、フィールドコア2と前記ブレーキディスク7との間に配置されている。このアーマチュア13の支持は、フィールドコア2の外周部に複数のカラー14を立てて設け、これらのカラー14をアーマチュア13の切欠き部15に挿入することによって行われている。
【0023】
前記カラー14は、円筒状に形成され、前記回転軸5の軸線と平行になる状態で固定ねじ16によってフィールドコア2に固定されている。カラー14は、フィールドコア2を周方向に3等分する位置に配置されている。前記切欠き部15は、前記カラー14が挿入された状態でアーマチュア13が回転軸5の軸線方向に移動できるように形成されている。この実施の形態によるアーマチュア13は、前記軸線方向にのみ移動することができるものである。
【0024】
前記固定ねじ16は、カラー14の先端部にサイドプレート17(図3参照)が重ねられた状態でサイドプレート17とカラー14とを貫通し、フィールドコア2に螺着されている。サイドプレート17は、制動時にアーマチュア13によって押されたブレーキディスク7の軸線方向への移動を規制するためのもので、円環板状に形成され、ブレーキディスク7に対してアーマチュア13とは反対側に位置付けられている。
【0025】
この無励磁作動ブレーキ1は、前記励磁コイル11が励磁されていない状態において、アーマチュア13が制動ばね12のばね力でブレーキディスク7をサイドプレート17側に押し、このブレーキディスク7がサイドプレート17に押し付けられる。この結果、ブレーキディスク7がアーマチュア13とサイドプレート17とによって挟まれて制動される。
【0026】
前記フィールドコア2の外周部には、図1および図2に示すように、励磁コイル11が励磁されていない上記制動状態で作業者(図示せず)が制動を解放するための手動解放レバー21が取付けられている。この実施の形態による手動解放レバー21は、断面円形の線材を曲げることによって所定の形状に形成されている。
この手動解放レバー21は、フィールドコア2の径方向、言い換えれば前記回転軸5の軸線方向とは直交する方向の一端部と他端部とをフィールドコア2の外側から挟むように形成されている。この手動解放レバー21は、両端部どうしの間隔が拡がるように弾性変形できるものである。
【0027】
フィールドコア2の前記一端部と前記他端部とには、図4および図5に示すように、支持孔22と傾斜溝23とがそれぞれ形成されている。この実施の形態においては、前記支持孔22によって、請求項2記載の発明でいう軸孔が構成され、前記傾斜溝23によって、請求項2記載の発明でいう凹溝が形成されている。
前記支持孔22は、開口形状が円形で、フィールドコア2を貫通しないように形成された、いわゆる非貫通孔である。
【0028】
前記一端部の支持孔22と、前記他端部の支持孔22とは、同一軸線上に位置付けられている。これらの支持孔22,22の孔径は、手動解放レバー21の両端部が挿抜自在に挿入できるように形成されている。手動解放レバー21の両端部は、図7に示すように、直線状に形成された一対の支持軸24,24によって構成されている。これらの支持軸24,24は、同一軸線上に位置するように形成されている。すなわち、手動解放レバー21は、この支持軸24が支持孔22に挿入された状態においては、支持孔22が位置する前記一端部と前記他端部とが回動中心となるようにフィールドコア2に回動自在に支持されることになる。
【0029】
手動解放レバー21は、図6に示すように、前記両端部の支持軸24と、この支持軸24に第1の連結部25を介して接続された一対の横向きU字状の押圧部26と、これらの押圧部26にそれぞれ第2の連結部27を介して接続された一対の回動規制部28と、これらの回動規制部28どうしを接続する操作部29とによって構成されている。
前記支持軸24は、手動解放レバー21を両端部どうしの間隔が拡がるように弾性変形させることによって、前記支持孔22に挿入したり抜き出したりできるように形成されている。すなわち、手動解放レバー21は、両端部どうしの間隔が拡がるように弾性変形されることによりフィールドコア2に対して着脱可能に形成されている。
【0030】
前記第1の連結部25は、図1〜図3に示すように、支持軸24からアーマチュア13の外側を通ってサイドプレート17側に延びている。
前記押圧部26は、アーマチュア13におけるフィールドコア2とは反対側の端面13a(図3参照)と所定の間隔をおいて対向するように位置付けられている。また、この押圧部26は、図2に示すように、回転軸5の軸線方向から見て回転軸5を指向するU字状に形成されている。すなわち、押圧部26の屈曲部分と両端部分とは、図3に示す制動時や、励磁コイル11が励磁状態である非制動時にアーマチュア13の前記端面13aと平行か平行に近い平面に沿って並ぶようになる。
【0031】
この押圧部26は、図9に示すように、手動解放レバー21が前記支持軸24を中心にして同図中に矢印Aで示す制動解放方向に回されることによって、アーマチュア13をフィールドコア2に向けて押圧する。
前記第2の連結部27は、図2に示すように、正面から見て(回転軸5の軸線方向から見て)サイドプレート17の外側で前記押圧部26の一端から支持軸24とは反対側に延びている。また、この第2の連結部27は、図3に示すように、側方から見て(手動解放レバー21が回動するときの軸線の方向から見て)前記押圧部26の一端からサイドプレート17の径方向の外側を通ってサイドプレート17に対してフィールドコア2とは反対側に延びている。
【0032】
前記回動規制部28は、図2に示すように、前記正面から見て前記第2の連結部27の一端からサイドプレート17の外周部と重なるように斜めに延びている。また、回動規制部28は、図3に示すように、手動解放レバー21が操作されていない状態において、前記側方から見てサイドプレート17と沿うように延びている。すなわち、回動規制部28は、図3に示す制動時や、励磁コイル11が励磁状態である非制動時に、サイドプレート17におけるフィールドコア2とは反対側の端面17aと所定の間隔をおいて対向するように形成されている。
【0033】
前記操作部29は、手動解放レバー21の回動端部となる部分で、図2に示すように、前記正面から見てフィールドコア2の外側に位置するように形成されている。この操作部29は、作業者が指を掛け易くなるように、図2に示す正面視において、回転軸5に向けて開放される半円状に形成されている。また、操作部29は、図3に示すように、前記側方から見て、前記半円状の部分がフィールドコア2の径方向外側に位置するようにL字状に形成されている。
【0034】
フィールドコア2の外周部に形成された前記傾斜溝23は、図4および図5に示すように、前記支持孔22より浅くかつ溝幅が支持孔22の孔径より小さく形成され、支持孔22からフィールドコア2の外表面に沿って延びている。詳述すると、傾斜溝23は、図3に示すように、手動解放レバー21が回動するときの軸線の方向から見て、フィールドコア2における手動解放レバー21の前記操作部29(回動端部)と近接する端部2bに向かうにしたがって次第にアーマチュア13から離間するように形成されている。
【0035】
このように構成された無励磁作動ブレーキ1は、モータ3の駆動が停止されて励磁コイル11への通電が絶たれると、制動ばね12のばね力でアーマチュア13がブレーキディスク7をサイドプレート17に押し付けるために、ブレーキディスク7とともに回転軸5が制動される。この制動状態は、励磁コイル11に通電されたり、手動で制動が解放されることがない限り保持される。
【0036】
手動で制動を解放するためには、図9に示すように、前記支持軸24を中心として手動解放レバー21を同図中に矢印Aで示す制動解放方向に回す。ここでいう手動解放方向とは、手動解放レバー21の回動端部がフィールドコア2の径方向外側の初期位置からサイドプレート17側に移動する方向である。
このように手動解放レバー21が回されることによって、押圧部26がアーマチュア13を押してフィールドコア2側に移動させるために、制動が解放される。
【0037】
このとき、押圧部26は、アーマチュア13におけるフィールドコア2とは反対側の端面13aを押す。言い換えれば、アーマチュア13は、フィールドコア2の磁極面2aと対向する本体部分で手動解放レバー21から操作力を受けることになる。すなわち、この無励磁作動ブレーキ1においては、手動解放レバー21の操作力を受けるためのアームなどの突出部をアーマチュア13に設ける必要はないから、単純な形状である円環板状に形成されたアーマチュア13を用いることができた。
【0038】
また、手動解放レバー21は、自らの弾性でフィールドコア2に支持されるものである。このため、この無励磁作動ブレーキ1においては、手動解放レバー21をフィールドコア2に支持させるための部品は不要である。
したがって、この実施の形態によれば、アーマチュア13を単純な形状に形成でき、しかも手動解放レバー21を支持する部品が不要であるから、経済的で生産性が高い無励磁作動ブレーキ1を提供することができる。
【0039】
この実施の形態による手動解放レバー21の操作部29(回動端部)は、図2に示すように、回転軸5の軸線方向から見てフィールドコア2の外側に位置するように形成されている。このため、作業者は手動解放レバーに指を容易に掛けることができる。フィールドコア2における手動解放レバー21を支持する部分は、支持孔22と傾斜溝23とによって構成されている。傾斜溝23は、図3に示すように、前記手動解放レバー21が回動するときの軸線の方向から見て、前記フィールドコア2における手動解放レバー21の回動端部と近接する端部2bに向かうにしたがって次第に前記アーマチュア13から離間するように形成されている。
【0040】
この実施の形態による手動解放レバー21は、その両端部どうしの間隔が拡がるように弾性変形させることができるものであるから、このように弾性変形させた状態で支持軸24を支持孔22から傾斜溝23に移すことができる。支持軸24が支持孔22から傾斜溝23に移された状態においては、支持軸24が傾斜溝23内を滑って平行移動できるようになる。
【0041】
この手動解放レバー21は、支持軸24が傾斜溝23に入っている状態で作業者によって操作部29がフィールドコア2から離間する方向に引かれることによって、図10に示すように、傾斜溝23に沿って平行移動する。このように手動解放レバー21が移動すると、手動解放レバー21の押圧部26がアーマチュア13の前記端面13aをフィールドコア2側に向けて押すようになる。この無励磁作動ブレーキ1が制動状態にあるときにこのように手動解放レバー21が移動させられることによって、前記押圧部26が制動ばね12のばね力に抗してアーマチュア13をフィールドコア2側に移動させるから、制動が解放される。
【0042】
手動解放レバー21は、このように制動が解放された状態においては、作業者が手を放したとしても同一位置に留まる。この理由は、このときに支持軸24が制動ばね12のばね力によって傾斜溝23の側壁に強く押し付けられるからである。すなわち、支持軸24に大きな摩擦力が作用するために、作業者が手を放したとしても支持軸24が滑って初期位置に戻ることはない。この結果、作業者が手動解放レバー21から手を放した後も無励磁作動ブレーキ1は制動が解放された状態を保持する。したがって、この実施の形態による無励磁作動ブレーキ1は、手動で制動が解放された状態を人手に頼ることなく維持できるから、モータ3への給電を停止した状態で回転軸5を回転させて行う作業を容易に行うことができる。
【0043】
この実施の形態によるブレーキディスク7は、回転軸5に対して軸方向へ移動自在に支持されている。また、フィールドコア2は、制動時にアーマチュア13によって押されたブレーキディスク7の軸線方向への移動を規制するサイドプレート17を備えている。また、この実施の形態による手動解放レバー21の押圧部26と回動端部との間には、図2や図3に示すように、励磁コイル11が励磁されていない状態であるときにサイドプレート17の前記端面17aと対向する回動規制部28が設けられている。
【0044】
このため、この実施の形態による手動解放レバー21は、回動規制部28がサイドプレート17から離間する一方向にのみ回すことができるものとなる。なお、この実施の形態による無励磁作動ブレーキ1は、フィールドコア2における手動解放レバー21を支持する部分が支持孔22と傾斜溝23とによって構成されているが、本発明に係る無励磁作動ブレーキは、このような限定にとらわれることはなく、支持孔22のみで手動解放レバー21を支持する構成を採ることができる。
【0045】
手動解放レバー21が支持孔22のみで構成される無励磁作動ブレーキであれば、手動解放レバー21が回転軸5の軸線方向に移動することはないから、回動規制部28とサイドプレート17との間の間隔を狭く形成することができる。すなわち、励磁コイル11が励磁されていない状態であるときに、サイドプレート17の端面17aに手動解放レバー21の回動規制部28を当接させることにより、手動解放レバー21の押圧部26の屈曲部分および両端部がアーマチュア13の端面13aから離間しかつ前記端面13aと平行か平行に近い平面に沿って並ぶ構成にすることができる。この構成を採ることにより、無励磁作動ブレーキが非制動状態から制動状態に移行することに伴ってアーマチュア13が押圧部26に当打されることを防ぐことができる。
【0046】
ところで、手動解放レバー21は、モータ3が運転されているとき(励磁コイル11が励磁されている非制動時)に不必要に遊動することがなく停止していることが望ましい。この理由は、騒音や振動の発生を防ぐためである。手動解放レバー21が不必要に遊動することを防ぐためには、手動解放レバー21を押さえる構造の遊動規制部材を例えばフィールドコア2に装備することによって実現することができる。
【0047】
この実施の形態による無励磁作動ブレーキ1においては、手動解放レバー21の回る方向が前記一方向に規制されているから、前記遊動規制部材は、前記一方向の移動を規制するだけの機能を有する簡単な構造のものを使用することができる。このため、この実施の形態によれば、少ないコストで手動解放レバー21の前記遊動を規制可能な無励磁作動ブレーキ1を提供することができる。
【0048】
この実施の形態による手動解放レバー21は、1本の線材を曲げて所定の形状に形成されている。このため、この実施の形態によれば、手動解放レバー21の製造コストを低く抑えることができるから、より一層安価な無励磁作動ブレーキを提供することができる。
【0049】
上述した実施の形態による無励磁作動ブレーキ1は、アーマチュア13によって押されたブレーキディスク7が軸線方向に移動してサイドプレート17に押し付けられる構造のものである。しかし、本発明は、このような限定にとらわれることはなく、制動時に制動ばね12のばね力でアーマチュア13がフィールドコア2から離間する構造のものであれば、どのような無励磁作動ブレーキにも適用することができる。例えば、サイドプレート17を備えていない無励磁作動ブレーキにも本発明を適用することができる。この種の無励磁作動ブレーキのブレーキディスク7は、回転軸のハブに軸方向へ移動することができないように固定されている。
【符号の説明】
【0050】
1…無励磁作動ブレーキ、2…フィールドコア、2a…磁極面、5…回転軸、7…ブレーキディスク、11…励磁コイル、12…制動ばね、13…アーマチュア、17…サイドプレート、21…手動解放レバー、22…支持孔、23…傾斜溝、24…支持軸、26…押圧部、28…回動規制部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と一体に回転するブレーキディスクと、
励磁コイルを有しかつ前記ブレーキディスクを指向するように磁極面が形成されたフィールドコアと、
前記ブレーキディスクと前記フィールドコアとの間に位置付けられ、前記磁極面に対して接離可能に前記フィールドコアに支持されたアーマチュアと、
前記アーマチュアを前記ブレーキディスクに向けて押圧する制動ばねと、
前記フィールドコアにおける前記回転軸の軸線方向とは直交する方向の一端部と他端部とを前記フィールドコアの外側から挟むように形成されかつこれらの一端部と他端部とが回動中心となるようにフィールドコアに回動自在に支持された手動解放レバーとを備え、
前記手動解放レバーは、両端部どうしの間隔が拡がるように弾性変形されることによりフィールドコアに対して着脱可能に形成され、
この手動解放レバーにおける前記フィールドコアに支持される両端部の近傍には、手動解放レバーが回されることによって、前記アーマチュアをフィールドコアに向けて押圧する押圧部が設けられていることを特徴とする無励磁作動ブレーキ。
【請求項2】
請求項1記載の無励磁作動ブレーキにおいて、前記手動解放レバーの回動端部は、前記回転軸の軸線方向から見てフィールドコアの外側に位置するように形成され、
前記フィールドコアにおける前記手動解放レバーを支持する部分は、手動解放レバーの両端部を構成する支持軸が挿抜自在に挿入される軸孔と、
この軸孔より浅く形成されてこの軸孔からフィールドコアの外表面に沿って延びる凹溝とによって構成され、
前記凹溝は、前記手動解放レバーが回動するときの軸線の方向から見て、前記フィールドコアにおける手動解放レバーの前記回動端部と近接する端部に向かうにしたがって次第に前記アーマチュアから離間するように形成されていることを特徴とする無励磁作動ブレーキ。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の無励磁作動ブレーキにおいて、前記ブレーキディスクは、前記回転軸に軸方向へ移動自在に支持され、
前記フィールドコアは、制動時に前記アーマチュアによって押された前記ブレーキディスクの軸線方向への移動を規制するサイドプレートを更に備え、
前記手動解放レバーの前記押圧部と回動端部との間には、前記励磁コイルが励磁状態であるときに前記サイドプレートにおける前記フィールドコアとは反対側の端面と対向する回動規制部が設けられていることを特徴とする無励磁作動ブレーキ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちいずれか一つに記載の無励磁作動ブレーキにおいて、前記手動解放レバーは、1本の線材を曲げて所定の形状に形成されたものであることを特徴とする無励磁作動ブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−2617(P2013−2617A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137455(P2011−137455)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000185248)小倉クラッチ株式会社 (55)
【Fターム(参考)】