説明

無機膜の製造方法

【課題】可燃性溶媒を用いることなく、基板上に無機膜を安全かつ低時間、超低電力で製膜できる、工業的に極めて有利な無機膜の製膜方法を提供する。
【解決手段】泳動電着法により基板表面に無機膜を製膜する方法において、電着浴の溶媒としてハイドロフルオロエーテルを用いた無機膜を製膜する。
ハイドロフルオロエーテルとしては、好ましくは下記一般式(I)で示されるフルオロエーテルを用いる。
R1−O−R2 (I)
(R1およびR2は、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のフルオロアルキル基であり、かつR1およびR2の少なくとも一方は炭素数1〜6のフルオロアルキル基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、泳動電着法を用いた無機膜の効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に無機物などの粒子の膜を設ける方法として泳動電着法が有効であるとされている。(非特許文献1)
これは、泳動電着によれば、膜の組成を適用する粒子の段階であらかじめ決めておくことができ、製膜速度も速く、厚膜の作製が可能で、膜厚を電圧、時間等で容易に制御できると共に装置が簡便である等の理由による。
この泳動電着法は、1)溶媒中で粒子が帯電すること。2)帯電した粒子が電場により電気泳動すること。3)電気泳動した粒子が基板上に電着(堆積)することの三要素からなる。
【0003】
この中でも、1)の粒子の帯電において、溶媒の選定は重要な事項である。すなわち、電着浴で用いる溶媒に電圧を印加するので、水溶液系の場合は水の電気分解電圧(1.23V)以下でなければ、水が電気分解し、電極上で水素ガス、あるいは酸素ガスが発生し堆積した粒子層(電着膜)を破壊する可能性がある。また、水溶液の場合、電解質等により浴の導電性が上がる為、電力消費量が大きくなる傾向にあり、また、電圧をそれほど高くすることができないため、製膜速度を大きくできないといった難点がある。
【0004】
このため、電着浴の溶媒として、非水系溶媒を用いる方法も提案されているが、その条件として、常温で液体であり且つ、誘電率が高いことが必要とされる。
【0005】
これまで、このような溶媒としては、極性の有機溶媒、例えば、アセトン、アセチルアセトンなどのケトン類、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、また、炭酸プロピレンなどが用いられていた。また、誘電率の低いトルエン、ヘキサンなどでは界面活性剤などが添加されて、使用されていた。これらの有機溶媒を用いた場合では、電圧を100V、1000Vなど高くできる為、製膜速度は大幅に速くできるといった利点がある。
【0006】
たとえば、特許文献1には、「ゼオライト粉末を、例えばアセトン、アルコール類、アセトニトリル等の有機溶媒に分散させ、10〜1000Vの電圧を印加することにより、基板の表面に前記ゼオライト粉末を泳動電着させる方法」が開示されている。
【0007】
また、特許文献2は、「抗菌・防カビ性を付与したゼオライト粉末をアセトンに少量の水とヨウ素を添加した溶媒、エタノールなどの有機溶媒に分散させ、30〜1000Vの電圧を印加することにより、基板の表面に前記ゼオライト粉末を泳動電着させる方法」を提示している。
【0008】
しかしながら、これらの従来方法の電着浴に用いる溶媒は、いずれも消防法の危険物に指定されている可燃性液体であるため、その取り扱いには厳重な管理体制を採ることが必要であり、工業的規模の実用化には限界があった。また、これまでの知られている有機溶媒を用いた場合には、水溶液系溶媒に比し印加電圧を大きくすることができるものの、電流密度が高く、単位面積当たりの平均使用電力が極めて高くなるといった問題点もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−89134号公報
【特許文献2】特開平8−134697号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】小浦延幸 他、表面、「泳動電着法を用いる高機能性材料膜の作製」、42(1)、20(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術の問題点を克服し、可燃性溶媒を用いることなく、基板上に無機膜を安全かつ低時間、超低電力で製膜できる、工業的に極めて有利な無機膜の製膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、泳動電着法で基板上にシリカ膜等の無機膜を安全かつ、高効率に製造する方法を鋭意検討した結果、電着浴の溶媒として、ハイドロフルオロエーテルを用いることで、発火等の危険がなく、短時間で泳動電着浴の調製ができ、安全に、かつ低電力でシリカ膜を作製することが知見し、本発明を完成するに至った。
すなわち、この出願は、以下の発明を提供するものである。
〈1〉泳動電着法により基板表面に無機膜を製膜する方法において、電着浴の溶媒として、飽和脂肪族エーテルの水素の一部がフッ素で置換されたハイドロフルオロエーテルを用いたことを特徴とする無機膜の製膜方法。
〈2〉ハイドロフルオロエーテルが下記一般式(I)で示されるフルオロエーテルであることを特徴とする〈1〉に記載の無機膜の製造方法。
R1−O−R2 (I)
(R1およびR2は、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のフルオロアルキル基であり、かつR1およびR2の少なくとも一方は炭素数1〜6のフルオロアルキル基である。)
〈3〉基板が、金属、合金、ステンレス鋼、炭素材料、導電性が付与されたセラミックおよび導電性が付与されたプラスチック基板から選ばれる少なくとも一種の基板であることを特徴とする〈1〉または〈2〉に記載の無機膜の製造方法。
〈4〉無機膜が、シリカ類、ゼオライト類および金属酸化物類から選ばれた少なくとも一種の無機物の膜であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の無機膜の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明方法によれば、以下に示す顕著の作用効果が奏せられる。
(1)可燃性の溶媒を用いずに、泳動電着浴に高電圧を印加でき、発火等の危険性を全くなくすことができる。
(2)製造にかかる消費電力を大幅に低減することができる。
(3)泳動電着浴の調製が短時間で済む。
(4)環境や経時に依存することなく、長時間に亘って無機膜を精度高く、かつ再現性よく製造することができる。
(5)形成する膜厚を電圧や電圧印加時間を制御することで精密に制御することができる。
(6)大量生産性、低コスト化に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明方法で用いられる代表的な泳動電着装置を示す図
【図2】実施例1で得られたメソポーラスシリカ(MPS)膜の製膜写真
【図3】実施例1の泳動電着法の電着時間と電流密度の関係を測定したグラフ
【図4】実施例2で得られたハイプレシリカ膜の製膜写真
【図5】実施例2の泳動電着法の電着時間と電流密度の関係を測定したグラフ
【図6】実施例3で得られた酸化チタン膜の製膜写真
【図7】実施例4で得られた酸化マグネシウム膜の製膜写真
【図8】実施例5で得られたシリカライトR−6膜の製膜写真
【図9】実施例6で得られたYSZ膜の製膜写真
【図10】実施例7で得られたシリカライトR−6膜の製膜写真
【図11】実施例8で得られたシリカライトR−6膜の製膜写真
【図12】実施例9で得られた酸化チタン膜の製膜写真
【図13】実施例10で得られた酸化チタン膜の製膜写真
【図14】比較例1の泳動電着法の電着時間と電流密度の関係を測定したグラフ
【符号の説明】
【0015】
1、電着基板
2、電着浴
3、対極
4、直流電源(電圧印加のための装置)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の泳動電着法による無機膜の製造方法は、電着浴の有機溶媒として、飽和脂肪族エーテルの水素の一部がフッ素で置換されたハイドロフルオロエーテルを用いることを特徴としている。
【0017】
このハイドロフルオロエーテルは、オゾン破壊係数がゼロ、低い地球温暖化係数など環境にやさしく、事実上無毒、高い許容濃度、不燃・印火点なしなどの安全性が高く、また、低い表面張力、粘度、低い蒸発潜熱などから、半導体などの洗浄としての溶剤や、電気絶縁性、不燃・印火点なし、熱的、化学的安定性として、廃熱利用システムの溶剤、冷却、恒温槽の溶剤、電子部品の耐電圧テストの媒体などとして利用されている。
しかし、ハイドロフルオロエーテルの誘電率の性質を生かし、これを泳動電着の電着浴の溶媒として適用する方法はこれまでに全く知られておらず、本発明者等がはじめて見出した新規な知見である。
【0018】
本発明で好ましく用いられるハイドロフルオロエーテルは下記一般式(1)で示されるものである。
R1−O−R2 (I)
(R1およびR2は、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のフルオロアルキル基であり、かつR1およびR2の少なくとも一方は炭素数1〜6のフルオロアルキル基である。)
【0019】
このような一般式(I)で示されるハイドロフルオロエーテルとしては、たとえば、メチルノナフルオロブチルエーテル(C4F9OCH3)、エチルノナフルオロブチルエーテル(C4F9OC2H5)、メチルトリデカフルオロヘキシルエーテル(C6F13OCH3)、C3HF6-CH(CH3)O-C3HF6などが例示される。この中でも比誘電率の点からみて、メチルノナフルオロブチルエーテル(C4F9OCH3)、エチルノナフルオロブチルエーテル(C4F9OC2H5)を用いることが好ましい。
【0020】
このようなハイドロフルオロエーテルの市販品としては、たとえば、3M社製のノベックシリーズ[HFE7100(C4F9OCH3)、HFE7200(C4F9OC2H5)、HFE7300(C6F13OCH3)、HFE7600(C3HF6-CH(CH3)O-C3HF6)]が挙げられる。
【0021】
本発明方法では、製膜化する無機物質を上記ハイドロフルオロエーテルに分散溶解させて電着浴を調製し、これを泳動電着して基板上に無機膜を製膜する。
【0022】
無機物質としては、この種の泳動電着法で用いられている従来公知の種々の無機物質の全てが使用できる。
このような無機物質としては、シリカ(無水けい酸、石英、クリストバライト、アエロジル)、MFI形ゼオライト(シリカライト、ZSM−5)、メソポーラスシリカなどのシリカ粉末、アルミノケイ酸塩であらわされるゼオライト粉末、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化銅、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化タングステン、酸化ジルコニア、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)などの金属酸化物が挙げられる。この中でも、無機物質の多孔性を利用した吸着膜、分離膜などの点から見た場合、シリカライト、メソポーラスシリカ、ゼオライトを用いることが望ましい。また、無機物質の安定性を利用した堆積膜の間隙を分離に用いる分離膜の点から見た場合、シリカ、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウムを用いることが望ましい。
【0023】
上記無機物質はハイドロフルオロエーテルに均一に分散するように、粒状、粉末状の形態とすることが望ましい。たとえば、メソポーラスシリカの場合には微粉末(粒径40μm以下)の形状とすることが望ましい。この場合、それに含有される水分量を調湿法や乾燥法により、可能な限り、少なくしておくこと、好ましくはほぼ水分を含まない状態としておくことが実際の製造現場における厚膜作製の点からみて好ましい。シリカの合成法は問わない。
【0024】
ハイドロフルオロエーテル溶媒中に前記無機粉末を分散させる際の撹拌時間には制限はないが、スターラーを用いても超音波をかけてもよい。
【0025】
本発明方法においては、この溶媒中に無機粉末が分散されている中に電着基板(アノード電極)を設置し、0V超の有限の値から1000Vの電圧を印加する。
溶媒中で無機粉末たとえばシリカは負に帯電し、アノード電極に向かって移動し、電極表面に規則的構造に配列された状態として析出させることができる。
【0026】
本発明方法で用いる基板(アノード電極)は、好ましくは導電性物質により形成されるのであり、電極として用いることができるものであれば適宜採用することができる。
このような基板には、Al、Cu、Fe、Ni、Ti、Ag、Au、Pt、Wなどの金属、およびこれらの合金、ステンレス鋼,普通鋼,低合金鋼、炭素材料、導電性が付与された、セラミックス,ガラス,陶磁器、プラスチック等の非金属材料、裏側に電極を設置した多孔性のセラミック基板などが挙げられる。
導電性のない非金属材料を基板として使用する場合、泳動電着に先立って、Ni、Cu等を無電解めっきし、或いはITO等の導電性セラミックスをコーティングすることによって導電性を付与することができる。
基板は板状の他,管状、角柱状などでの変形されている種々な形状のものであってよい。厚膜を基板の表面に形成するので、装置に組み込んで使用する場合には装置を構成する部材を基板として用いることができる。管状や角柱状の変形されている場合にはその形状にそって厚膜を形成することができる。
【0027】
一般に、電着量は、ある特定の時間内では時間の経過に応じて増加する。この時間帯を経過すると、電着量は一定となる。単位当たりに電着量と電着時間の関係も同様の経過をたどる。また、電着時間と電着厚膜も同様な経過をたどる。
このような予め測定してある結果に基づいて、電圧、電着時間を制御して1mm程度までの所望の厚さの電着膜を製造することができる。
【0028】
本発明方法においては、電着液の溶媒として、ハイドロフルオロエーテルを用いたことから、環境や経時に依存することなく、超低電圧で、長時間に亘ってシリカ粒子膜を精度高く、かつ再現性よく製造することができる。
すなわち、電着浴にハイドロフルオロエーテルを用いることで、従来のアセトン−よう素電着浴や、アセトン浴、1−プロパノール浴に比べて、電流値を大幅に低下させることができ、定電圧で電着を行うため、製膜にかかる電力(電流×電圧)を大幅に低下させることができる。
【0029】
次に、本発明の泳動電着の工程を更に具体的に説明する。
図1は、本発明で用いられる泳動電着の代表的な装置を示す図である。図1において、1は電着基板、2は電着浴、3は対極、4は直流電源である。2の電着浴は、ビーカーやメスシリンダーなどの容器中で、前記ハイドロフルオロエーテル溶媒に前記の無機粉末を分散させて電着浴を調製し、図1のような角型セルに移してもよいし、図1のような角型セル中の前記ハイドロフルオロエーテル溶媒に前記の無機粉末を分散させて電着浴を調製してもよい。
調製に際してスターラー等による撹絆でも、超音波振動でも構わない。その理由は、無機粉末同士の積み重なりを防ぎ、無機粉末の配向性を高める効果があると考えられるからである。溶媒中では、無機粉末が負に帯電する場合、基板をアノードとし、対極を設置する。溶媒中では、無機粉末が正に帯電する場合、基板をカソードとし、対極を設置する。対極としては、適宜、ステンレス鋼、チタン、Ag、Pt、Auなどの公知の電極を用いることができる。
【0030】
電圧を一定時間印加することにより、無機粉末を電気泳動させ、基板表面に無機粒子からなる膜を形成することができる。電圧については、泳動電着装置の能力などによって変化する。直流電源(図1中の4)による電圧は、0V超の有限の値から1000Vの範囲のものが採用される。
「0V超の有限の値から1000Vの範囲」とは、本発明では泳動電着において電圧を印加することが必須であることを意味するものである。具体的には、その際の電圧の値は0であっては泳動電着を行うことができないから、電圧0を含むものではなく、0を超える値、例えば、0.01であっても、0.1であっても、1であっても、100Vであってもよいことを意味している。結論としては、下限値が0を超える電圧であり、上限値が1000Vまでの電圧が印加されればよいことを意味している。
【0031】
泳動電着では無機粉末の動く早さは電場に依存する。泳動電着を定電圧で行った場合、電着量は、ある特定の時間内では時間の経過に応じて増加する。この特定の時間帯を経過すると、電着量の増加はなくなり、やがて一定の値となる。単位当たりの電着量と電着時間の関係も同様の経過をたどる。また、電着時間と電着厚膜も同様な経過をたどる。このとき、電流値も電着量に依存して変化する。泳動電着を定電流で行った場合、電着量の増加は一定である。但し、どちらの場合も、電着により電着浴中の無機粉末濃度が低下すれば、電着量の増加率は低下する。
このように電着量の変化は予測可能である。したがって、予め測定可能なことに基づいて所望の電着厚膜、電着量となるまで電着を行えばよい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により説明する。
【0033】
実施例1
電着基板1(アノード基板:アルミニウム)を表面積3.5cmとし、対極3を2枚のステンレス板(表面積3.5cmを2枚)とした図1に示される電気泳動装置を用いて、メソポーラスシリカ膜を作製した。具体的には、ハイドロフルオロエーテル溶媒(ノベックHFE−7200)10ccにメソポーラスシリカ粉末0.03gを分散したものを電着浴2とし、これを印加電圧100Vで2分間に亘っての電着実験を行った。得られたメソポーラスシリカ膜の製膜写真を図2に示す。また、電着時間と電流密度の関係を測定したグラフを図3に示す。
図3から、電流密度は、0.000004mA/cm2〜0.0000015mA/cm2程度であり、平均電力値は0.000275mW/cm2(275nW/cm2)であることがわかる。この平均電力値は、後記比較例1の1/5000程度といった極めて小さい値であり、本発明においては、従来法の1/5000程度といった省電力でメソポーラスシリカの製膜が可能であることを示している。また、この平均電力値は、後記比較例2の1/60000程度といった極めて小さい値であり、本発明においては、従来法の1/60000程度といった省電力で製膜が可能であることを示している。
【0034】
実施例2
実施例1において、メソポーラスシリカ粉末をハイプレシリカ粉末に代えた以外は実施例1と同様に電着実験を行った。得られたハイプレシリカ膜の製膜写真を図4に示す。また、電着時間と電流密度の関係グラフを図5に示す。
図5から、電流密度は、0.000004mA/cm2〜0.000007mA/cm2程度であり、平均の電力は0.0005mW/cm2(500nW/cm2)であることがわかる。この平均電力値は、後記比較例2の1/33000程度といった極めて小さい値であり、本発明においては、従来法の1/33000程度といった省電力で製膜が可能であることを示している。
【0035】
実施例3〜6
実施例1において、メソポーラスシリカ粉末を、酸化チタン(実施例3)、酸化マグネシウム(実施例4)、シリカライト(実施例5)、YSZ(実施例6)に代えた以外は実施例1と同様にして、各種無機膜を製膜した。製膜写真を図6(実施例3)、図7(実施例4)、図8(実施例5)、図9(実施例6)に示す。
なお、実施例3,5,6における、平均電流密度と平均電力は以下のとおりであった。
実施例3 平均電流密度1.2nA/cm2 平均電力0.12μW/cm2
実施例5 平均電流密度1.8nA/cm2 平均電力0.18μW/cm2
実施例6 平均電流密度1.0nA/cm2 平均電力0.1μW/cm2
【0036】
実施例7〜8
実施例5において、ハイドロフルオロエーテル溶媒(ノベックHFE−7200)を、ノベックHFE−7100(実施例7)、ノベックHFE−7300(実施例8)に代えた以外は実施例5と同様にして、各種無機膜を製膜した。その製膜写真を図10(実施例7)および図11(実施例8)に示す。
なお、これらの実施例における、電流密度と平均電力は以下のとおりであった。
実施例7 平均電流密度2.0nA/cm2 平均電力0.2μW/cm2
実施例8 平均電流密度3.5nA/cm2 平均電力0.35μW/cm2
【0037】
実施例9〜10
実施例2において、ハイドロフルオロエーテル溶媒(ノベックHFE−7200)を、ノベックHFE−7100(実施例9)、ノベックHFE−7300(実施例10)に代えた以外は実施例2と同様にし、各種無機膜を製膜した。その製膜写真を図12(実施例9)および図13(実施例10)に示す。
なお、これらの実施例における、電流密度と平均電力は以下のとおりであった。
実施例9 平均電流密度1.0nA/cm2 平均電力0.1μW/cm2
実施例10 平均電流密度2.5nA/cm2 平均電力0.25μW/cm2
【0038】
比較例1
実施例1において、ハイドロフルオロエーテル溶媒(ノベックHFE−7200)を、脱水アセトンに代えた以外は実施例1と同様にして、メソポーラスシリカ膜を得た。100Vで電着したときの電流値の経時変化を図14に示した。電流値は、0.02mA/cm2〜0.005mA/cm2程度である。平均電力は1.25mW/cm2である。この電力値は実施例1の約5000倍である。また、実施例2の約2500倍である。
【0039】
比較例2
実施例6において、ハイドロフルオロエーテル溶媒(ノベックHFE−7200)を、1−プロパノールに代えた以外は実施例1と同様にして、YSZ膜を得た。その際の電流密度は、0.25mA/cm2〜0.08mA/cm2程度である。平均電力は16.5mW/cm2である。この電力値は実施例1の約60000倍である。また、実施例2の33000倍である。このことから、本発明においては、従来法の1/2500〜1/60000程度といった省電力で製膜が可能であることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
泳動電着法により基板表面に無機膜を製膜する方法において、電着浴の溶媒として、飽和脂肪族エーテルの水素の一部がフッ素で置換されたハイドロフルオロエーテルを用いたことを特徴とする無機膜の製膜方法。
【請求項2】
ハイドロフルオロエーテルが下記一般式(I)で示されるフルオロエーテルであることを特徴とする請求項1に記載の無機膜の製造方法。
R1−O−R2 (I)
(R1およびR2は、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のフルオロアルキル基であり、かつR1およびR2の少なくとも一方は炭素数1〜6のフルオロアルキル基である。)
【請求項3】
基板が、金属、合金、ステンレス鋼、炭素材料、導電性が付与されたセラミックおよび導電性が付与されたプラスチック基板から選ばれる少なくとも一種の基板であることを特徴とする請求項1または2に記載の無機膜の製造方法。
【請求項4】
無機膜が、シリカ類、ゼオライト類および金属酸化物類から選ばれた少なくとも一種の無機物の膜であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の無機膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−189684(P2010−189684A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33616(P2009−33616)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】