説明

無段変速機におけるセンサ用プレートの支持構造

【課題】ナット締結によることなく、センサ用プレートをプーリ軸上に的確に支持する。
【解決手段】無段変速機は、有効ピッチ径可変の一対のプーリ11,21と、両プーリ間に巻き掛けられた無端ベルト6と、プーリ11,21に該プーリと一体回転するように設けられてその有効ピッチ径を変化させる油圧シリンダ部12,14,22,24とを具備する。油圧シリンダ部22,24は軸方向に移動しないプーリカバー22を含み、該プーリカバー22には段付形状部22aが形成されている。該プーリカバー22の外側から該段付形状部22aに対して、プーリの回転数を検出するためのセンサの構成要素51bが配置されたセンサ用プレート51を圧入して該段付形状部22aに嵌合させることにより、該センサ用プレート51を該プーリカバー22にて支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等で使用されるベルト式無段変速機(CVT)におけるセンサ用プレートの支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト式無段変速機の一例として、下記特許文献1に示されたものが知られている。この種の無段変速機においては、概ね、有効ピッチ径可変の一対のプーリと、両プーリ間に巻き掛けられた無端ベルトと、前記プーリに該プーリと一体回転するように設けられてその有効ピッチ径を変化させる油圧シリンダ部とを具備している。油圧シリンダ部は軸方向に移動しないプーリカバーを含み、プーリと共に回転する。プーリの回転を検出するためにセンサが用いられるが、公知のように、このセンサは、固定要素と可動要素とで構成され、例えば、固定要素はピックアップコイル、可動要素は該ピックアップコイルを磁気応答させるための磁性部材等で構成される。下記特許文献1においては、このセンサによりプーリの回転を検出するために、センサの可動要素が検出対象であるプーリと一体的に回転するように、該センサの可動要素が油圧シリンダ部(プーリカバー)に直接取り付けられている。
【0003】
しかし、特許文献1に示された例のようにセンサの可動要素が油圧シリンダ部(プーリカバー)に直接取り付けられる構造では、油圧シリンダ部(プーリカバー)においてそのための取り付け構造を設けなければならないため、構成の複雑化を招き、また、故障時の部品交換等も不便である。そこで、プーリの油圧シリンダ部(プーリカバー)とは別にセンサ用プレートを設け、このセンサ用プレートをプーリ組立体に組み込むことが行われている。そのような従来例におけるセンサ用プレートの支持構造について図4により説明すると、固定プーリ半体(図示せず)が固定配設されたプーリ軸40に、可動プーリ半体(図示せず)及び油圧シリンダ部(プーリカバー)41を組み付け、更に、センサ用プレート42、カラー43、出力ギヤ44、軸受45を順次組み付けた上で、プーリ軸40に螺合するナット46を締め付けることで、これらをプーリ軸40上の所定位置に固定する。円板状のセンサ用プレート42の外縁周に回転センサ47の可動要素42aが配置されており、所定の固定位置に回転センサ47の固定要素(例えばピックアップコイル)47aが配置されている。なお、センサ用プレート42の外縁周に配置される回転センサ47の可動要素42aは、例えば、回転センサ47の固定要素(例えばピックアップコイル)47aにパルスを発生させるための磁性体歯又は突起からなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平2−125244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来例のようなセンサ用プレートの支持構造にあっては、センサ用プレート42をナット46の締め付けによってプーリ軸40上に組み付けるようにしているため、1個のナット46によって該プーリ軸40上に締め付けられる部材数の増加をもたらすことになり、ナット締結の信頼性を悪化させるおそれがある。すなわち、1個のナットで締結される部材数が増すと、締結面が増加し、締結面のヘタリ総量の増加を招き、軸力ダウン量の増加を招くので、ナットの緩みが問題となる。また、センサ用プレート42をプーリ軸40上に組み付ける際に、誤って逆向きに組み付けるおそれがあり、そうすると、回転センサ47の可動要素42aの位置が固定要素47aからずれてしまうので回転検出ができなくなるという問題もあり得る。
【0006】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、ナット締結によることなく、センサ用プレートをプーリ軸上に的確に支持しうるようにしたセンサ用プレートの支持構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る無段変速機は、有効ピッチ径可変の一対のプーリ(11,21)と、両プーリ間に巻き掛けられた無端ベルト(6)と、前記プーリ(11,21)に該プーリと一体回転するように設けられてその有効ピッチ径を変化させる油圧シリンダ部(12,14,22,24)と、前記プーリの回転数を検出するためのセンサの構成要素が配置されたセンサ用プレート(51)とを具備する無段変速機において、前記油圧シリンダ部(12,14,22,24)は軸方向に移動しないプーリカバー(12,22)を含み、該プーリカバー(22)において段付形状部(22a)を形成してなり、該プーリカバーの外側から該段付形状部(22a)に対して、前記プーリの回転数を検出するためのセンサの構成要素(51b)が配置されたセンサ用プレート(51)を圧入して該段付形状部(22a)に嵌合させることにより、該センサ用プレート(51)を該プーリカバー(22)にて支持することを特徴とする。なお、括弧内の参照番号は、後述する実施例における対応要素の参照番号を参考のために例示したものである。
【0008】
本発明によれば、センサ用プレート(51)は、プーリカバーに形成された段付形状部(22a)に圧入嵌合されることで、プーリと一体的に回転しうるように支持される構造からなっている。従って、センサ用プレート(51)は、プーリ軸に所要の部材を締結するためのナットによる締結の対象外となり、該ナットによって該プーリ軸上に締め付けられる部材数を減少させることができ、ナット締結信頼性を向上させることができる。また、センサ用プレート(51)を逆向きに誤組み付けしてナット締結してしまうという問題も起こらなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る変速機の全体構成例を示す主断面図。
【図2】従動プーリ軸におけるセンサ用プレートの支持構造を説明するための拡大断面図。
【図3】センサ用プレートとカラーの係合構造を示すA矢視図。
【図4】従来例におけるセンサ用プレートの支持構造を説明するための概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る変速機の全体構成例を示す主断面図である。図1に示す変速機1は、駆動プーリ軸10上に設けた駆動プーリ11と従動プーリ軸20上に設けた従動プーリ21(即ち、有効ピッチ径可変の一対のプーリ11、21)の間に無端状のVベルト6を巻き掛けてなるベルト式無段変速機構(CVT:Continuously Variable Transmission)5を備えている。
【0011】
また、この変速機1は、トルクコンバータTCを介してエンジンなどの駆動源(図示せず)の駆動力が伝達される入力軸2を備えており、入力軸2上には、前進用クラッチ4が配設されている。一方、駆動プーリ軸10上には、後進用クラッチ7が配設されている。そして、入力軸2と駆動プーリ軸10の間には、前進用クラッチ4の係合によって入力軸2からの駆動力を駆動プーリ軸10に伝達する前進用ギヤ機構9と、後進用クラッチ7の係合によって入力軸2からの駆動力を駆動プーリ軸10に伝達する後進用ギヤ機構17とが設けられている。これにより、ベルト式無段変速機構5の駆動プーリ軸10は、入力軸2からの駆動力が伝達されて回転するようになっている。一方、従動プーリ軸20からの駆動力は、出力ギヤ機構50を介してディファレンシャル機構8に伝達され、更に、左右のアクスルシャフト8a,8bを介して左右の駆動輪(図示せず)に伝達されるようになっている。
【0012】
ベルト式無段変速機構5の駆動プーリ11は、駆動プーリ軸10と共に回転するように該駆動プーリ軸10上に設けられた固定プーリ半体11aと、固定プーリ半体11aに対向する位置で軸方向に相対的に直線移動可能に該駆動プーリ軸10上に配設された可動プーリ半体11bとを備えて構成されている。可動プーリ半体11bの背面側(固定プーリ半体11aと反対側)には、プーリカバー12で囲まれたシリンダ室(油圧シリンダ部)14が形成されている。シリンダ室14には、図示しない油圧制御バルブで調圧された油圧が供給されるようになっている。シリンダ室14に供給される制御油圧により、可動プーリ半体11bを軸方向に移動させる駆動側圧(駆動プーリ側圧)が発生するようになっている。
【0013】
従動プーリ21は、従動プーリ軸20に固定された固定プーリ半体21aと、固定プーリ半体21aに対向する位置で軸方向に相対的に直線移動可能に該従動プーリ21上に配設された可動プーリ半体21bとを備えて構成されており、ベルト6によって駆動されて一体的に回転する。可動プーリ半体21bの背面側(固定プーリ半体21aと反対側)には、プーリカバー22で囲まれたシリンダ室(油圧シリンダ部)24が形成されており、シリンダ室24には、油圧制御バルブで調圧された油圧が供給されるようになっている。シリンダ室24には圧縮スプリング23が設けられ、可動プーリ半体21bの背面に対して戻り力を付勢している。更に、シリンダ室24に供給される制御油圧により、可動プーリ半体21bを軸方向に移動させる従動側圧(従動プーリ側圧)が発生するようになっている。
【0014】
プーリカバー22で囲まれたシリンダ室(油圧シリンダ部)24は可動プーリ半体21bと共に回転する。その回転(従動プーリ21つまり従動プーリ軸20の回転)を検出するために、センサ用プレート51がプーリカバー22の外周に配置され支持されている。本発明の要旨に係るセンサ用プレート51の支持構造についての詳細は追って説明する。
【0015】
上記構成のベルト式無段変速機構5では、シリンダ室14及びシリンダ室24への供給油圧(駆動側圧および従動側圧)を制御することで、駆動プーリ11及び従動プーリ21に対して、Vベルト6が滑りの発生することのない側圧を付与する。さらに、駆動側圧および従動側圧を互いに異ならせながら調節する制御を行い、駆動プーリ11及び従動プーリ21の溝幅を適宜に変化させて、Vベルト6の巻き掛け径を変化させることで、駆動プーリ11と従動プーリ21の間の変速比を無段階に変化させる制御が行われる。
【0016】
そして、変速機1の構成部品を収容しているケーシング30は、トルクコンバータTCを収容しているトルクコンバータケース(以下、「TCケース」という。)31と、ベルト式無段変速機構5を収容しているトランスミッションケース(以下、「Mケース」という。)35とで構成されている。Mケース35は、ベルト式無段変速機構5の駆動プーリ11及び従動プーリ21の外周側を囲む筒状で、かつ、駆動プーリ軸10及び従動プーリ軸20の端部(トルクコンバータTCと反対側の端部)10a,20aを覆う底部35bを有する有底容器状に形成されている。このMケース35は、開口端35aがボルト33の締結でTCケース31に対して軸方向に連結固定されている。
【0017】
図2を参照して、従動プーリ21におけるセンサ用プレート51の支持構造について説明する。従動プーリ21のプーリカバー22において段付形状部(所謂「インロー部」)22aが形成されている。センサ用プレート51は、内周寄りの箇所において、プーリカバー22の段付形状部22aに嵌合するように段付形状部51aを有している。センサ用プレート51の段付形状部51aをプーリカバー22の段付形状部22aに圧入させ嵌合することにより、センサ用プレート51をプーリカバー22(油圧シリンダ部)にて支持し、両者が一体的に回転するようにしている。
【0018】
従動プーリ21を組み立てる際には、固定プーリ半体21aが配設された従動プーリ軸20に、可動プーリ半体21b及びプーリカバー22を組み付ける。その後(又はその前にでもよい)、センサ用プレート51をプーリカバー22の外側から該プーリカバー22に組み付け、該センサ用プレート51の段付形状部51aを該プーリカバー22の段付形状部22aに圧入させ嵌合する。次いで、カラー52を軸20に嵌め込み、更に、出力ギヤ機構50のギヤ50aを軸20に嵌め込み、軸受15を嵌め込み、最後に、従動プーリ軸20の一端に設けられた雄ねじにナット54を螺合させ、該ナット54を締め付けることで、これらを従動プーリ軸20上の所定位置に固定する。このとき、センサ用プレート51は、ナット54による締め付けの対象から除外されているので、その分だけ、ナット締結部材数が減っている。従って、ナット締結の信頼性を向上させることができる。また、センサ用プレート51の段付形状部51aをプーリカバー22の段付形状部22aに圧入させ嵌合するに際しては、センサ用プレート51を逆向きにした場合はそのような嵌合が不可能なために、該センサ用プレート51を逆向きに誤組み付けするというおそれが全くない。
【0019】
ところで、センサ用プレート51がプーリカバー22に圧入嵌合しているだけでは、プーリ回転時に遠心力等の影響によりセンサ用プレート51の回転方向の位置がプーリカバー22に対して相対的にずれることが起こり得るかもしれない。そうすると、プーリ回転検出精度に悪影響を与えるおそれがある。そこで、そのようなおそれを未然に防ぐために、センサ用プレート51がプーリカバー22に対して相対的に回転しないようにするための係合構造を設けるとよい。そのような係合構造の一例として、図3に示すように、センサ用プレート51の内周縁上の所定位置に突起51cを設けると共に、カラー52の外周縁上の所定位置に凹部52aを設け、センサ用プレート51の突起51cをカラー52の凹部52aに係合するように組み付ける。これにより、センサ用プレート51はカラー52に対して回転方向に相対的に固定されることとなり、カラー52はナット54でプーリ軸20に緊く締結されているので、センサ用プレート51の回転方向の位置がプーリカバー22に対して相対的にずれることが起らないようになる。なお、このような係合構造の具体例は図3に示したものに限らず、どのような構成からなっていてもよい。また、センサ用プレート51はカラー52に対して係合させるのではなく、他の部材(例えばプーリカバー22)に対して係合させる構造からなっていてもよい。
【0020】
なお、従来例と同様に、円板状のセンサ用プレート51の外縁周に回転センサの可動要素51bが配置されており、所定の固定位置に回転センサの固定要素(例えばピックアップコイル)55が配置されている。センサ用プレート51の外縁周に配置される回転センサの可動要素51bは、例えば、回転センサの固定要素(例えばピックアップコイル)55にパルスを発生させるための磁性体歯又は突起からなっている。勿論、回転センサの検出方式としては、ピックアップコイルを用いた電磁式のものに限らず、静電式あるいは光学式等どのような方式のものであってもよい。また、センサ用プレート51の外縁周に配置される回転センサの可動要素51bは、センサ用プレート51の材質(例えば鉄)と同一材質のものを所定形状(例えば歯又は凹凸)に加工してなるものに限らず、磁石又は適宜の磁性体あるいは導電体若しくは誘電体や光学部材等当該センサの検出原理に応じた所定物質をセンサ用プレート51の外周部に沿う所定位置に取り付けたものであってもよい。また、センサ用プレート51の形状は、全体として円板形状をなすものに限らず、少なくとも内周部寄りにおいてプーリカバー22に圧入嵌合する構造を有し、外周部寄りにおいて回転センサの可動要素51bを適宜に配置してなる形状であればよい。なお、必要に応じて、駆動プーリの回転検出を行う場合において、本発明を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0021】
2 入力軸
4 前進用クラッチ
6 無端ベルト
7 後進用クラッチ
9 前進用ギヤ機構
20 従動プーリ軸
21 従動プーリ
21a 固定プーリ半体
21b 可動プーリ半体
22 プーリカバー
22a 段付形状部
24 油圧シリンダ室
51 センサ用プレート
51a 段付形状部
51b センサの可動要素
52 カラー
54 ナット
55 センサの固定要素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効ピッチ径可変の一対のプーリと、両プーリ間に巻き掛けられた無端ベルトと、前記プーリに該プーリと一体回転するように設けられてその有効ピッチ径を変化させる油圧シリンダ部とを具備する無段変速機において、
前記油圧シリンダ部は軸方向に移動しないプーリカバーを含み、該プーリカバーにおいて段付形状部を形成してなり、該プーリカバーの外側から該段付形状部に対して、前記プーリの回転数を検出するためのセンサの構成要素が配置されたセンサ用プレートを圧入して該段付形状部に嵌合させることにより、該センサ用プレートを該プーリカバーにて支持することを特徴とする無段変速機。
【請求項2】
更に、前記段付形状部に圧入嵌合された前記センサ用プレートが前記プーリカバーに対して相対的に回転しないようにするための係合構造を設けたことを特徴とする請求項1に記載の無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−127709(P2011−127709A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287484(P2009−287484)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】