説明

無段変速機構及び自動車用駆動システム

【課題】部品の加工を簡素化するとともにコスト低減が図れる無段変速機構を提供する。
【解決手段】入力中心軸線O1を中心に回転するジャーナル支持部材151と、入力中心軸線O1に対する偏心量を変更可能で、偏心量を保ちつつ入力中心軸線O1を中心にしてジャーナル支持部材151と共に回転する第1支点O3と、第1支点O3を中心に持つと共に入力中心軸線O1を中心に回転し、且つ貫通孔104a,104bが形成された偏心ディスク104と、貫通孔104a,104bに回転自在に嵌合するクランクピン106c,107cと、クランクピン106c,107cの各軸線106k,107kから等しい距離オフセットした位置に軸線106b,107bを有するクランクジャーナルを備えたクランク部材106,107とで構成され、偏心ディスク104に対してクランクピン106c、107cを相対回転させて入力中心軸線O1に対する第1支点O3の偏心量を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機構及び自動車用駆動システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の無段変速機構として、エンジンの出力軸の回転運動を揺動運動に変換し、更に揺動運動を回転運動に変換して変速機の出力軸から出力する方式のものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載の回転運動を揺動運動に変換する機構では、図17に示すように、ピニオン209と、このピニオン209の歯に噛み合う内歯を有する偏心ディスク205と、ピニオン209及び偏心ディスク205のそれぞれの位置関係を保つ内側ディスク204とを備え、ピニオン209の回転に伴って偏心ディスク205を偏心回転すると共に、ピニオン209と偏心ディスク205との偏心量を変えることによって変速比を変化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国特許発明第102009039993号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、図17に示す偏心ディスク205では、ピニオン209と噛み合う内歯を形成する必要があり、また、各内歯の先端には、内側ディスク204と摺動する摺動面も形成しなければならず、加工が複雑になって生産性が低下するとともにコストが嵩むという課題がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みて為されたものであり、部品の加工を簡素化するとともにコスト低減が図れる無段変速機構及び自動車用駆動システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、動力源(例えば、後述の実施形態における第1のエンジンENG1、第2のエンジンENG2)から発生する回転動力を変速して出力する無段変速機構(例えば、後述の実施形態における無段変速機構BD1、BD2)であって、
該回転動力を受けることで入力中心軸線(例えば、後述の実施形態における入力中心軸線O1)の周りを回転する入力軸(例えば、後述の実施形態におけるジャーナル支持部材151)と、
該入力中心軸線の周囲で周方向に等間隔に設けられると共に、それぞれが前記入力中心軸線に対する偏心量(例えば、後述の実施形態における偏心量r)を変更可能な各第1支点(例えば、後述の実施形態における第1支点O3)をそれぞれの中心に有して、該偏心量を保ちつつ該入力中心軸線の周りに前記入力軸と共に回転し、且つ、前記入力中心軸線と平行に延びる貫通孔(例えば、後述の実施形態における貫通孔104a,104b)がそれぞれ形成される複数の偏心ディスク(例えば、後述の実施形態における偏心ディスク104)と、
前記複数の偏心ディスクに形成された前記貫通孔を回転自在に貫通すると共に、それぞれ連結される複数の第1クランクピン(例えば、後述の実施形態における第1クランクピン106c〜106h)と、該各第1クランクピンの中心軸線(例えば、後述の実施形態における中心軸線106k)から等しい距離オフセットした位置に中心軸線(例えば、後述の実施形態における中心軸線106b)を有する複数の第1クランクジャーナル(例えば、後述の実施形態における第1クランクジャーナル106p,106q,106r)を備えた第1のクランク部材(例えば、後述の実施形態における第1クランク部材106)と、
前記複数の偏心ディスクに形成された前記貫通孔を回転自在に貫通すると共に、それぞれ連結される複数の第2クランクピン(例えば、後述の実施形態における第2クランクピン107c〜107h)と、該各第2クランクピンの中心軸線(例えば、後述の実施形態における中心軸線107k)から等しい距離オフセットした位置に中心軸線(例えば、後述の実施形態における中心軸線107b)を有する複数の第2クランクジャーナル(例えば、後述の実施形態における第2クランクジャーナル107p,107q,107r)を備えた第2のクランク部材(例えば、後述の実施形態における第2クランク部材107)と、
前記入力中心軸線から離れた出力中心軸線(例えば、後述の実施形態における出力中心軸線O2)の周りを回転する出力部材(例えば、後述の実施形態におけるクラッチインナ121)と、外部から回転方向の動力を受けることで前記出力中心軸線の周りを揺動する入力部材(例えば、後述の実施形態におけるクラッチアウタ122)と、これら入力部材および出力部材を互いにロック状態または非ロック状態にする係合部材(例えば、後述の実施形態におけるローラ123)とを有し、前記入力部材の正方向の回転速度が前記出力部材の正方向の回転速度を上回ったとき、前記入力部材に入力された回転動力を前記出力部材に伝達し、それにより前記入力部材の揺動運動を前記出力部材の回転運動に変換するワンウェイ・クラッチ(例えば、後述の実施形態における第1のワンウェイ・クラッチOWC1、第2のワンウェイ・クラッチOWC2)と、
それぞれ一端が前記各偏心ディスクの外周に前記第1支点を中心に回転自在に連結され、他端が前記ワンウェイ・クラッチの入力部材上の前記出力中心軸線から離間した位置に設けられた第2支点(例えば、後述の実施形態における第2支点O4)に回動自在に連結されることで、前記入力軸から前記偏心ディスクに与えられる回転運動を、前記ワンウェイ・クラッチの入力部材に対し該入力部材の揺動運動として伝える複数の連結部材(例えば、後述の実施形態における連結部材130)と、
前記第1及び第2クランクジャーナルをそれぞれ中心として前記第1クランクピン及び前記第2クランクピンを同期して回転させ、前記入力中心軸線に対する前記第1支点の偏心量を調節することで、前記偏心ディスクから前記ワンウェイ・クラッチの入力部材に伝えられる揺動運動の揺動角度を変更し、それにより、前記入力軸に入力される回転動力が前記偏心ディスクおよび前記連結部材を介して前記ワンウェイ・クラッチの出力部材に回転動力として伝達される際の変速比を変更すると共に、前記偏心量がゼロに設定可能とされることで変速比を無限大に設定する変速比可変機構(例えば、後述の実施形態における変速比可変機構112,112a)と、
を具備することを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1の構成において、
前記第1及び第2クランクジャーナルに構成される被動ギヤ(例えば、後述の実施形態における被動ギヤ106a,107a)と噛合して前記第1及び第2クランクジャーナルを回転自在に支持するとともに、前記第1及び第2クランクジャーナルと共にケース(例えば、後述の実施形態におけるミッションケース160)に対して回転可能なリングギヤ(例えば、後述の実施形態におけるリングギヤ115)をさらに備え、
前記変速比可変機構は、前記入力中心軸線上で回転し、前記第1及び第2クランクジャーナルの被動ギヤと噛合するピニオン(例えば、後述の実施形態におけるピニオン180b)を有して、前記ケースに固定されるアクチュエータ(例えば、後述の実施形態におけるアクチュエータ180)を備えることを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1の構成において、
前記第1及び第2クランクジャーナルを回転自在に支持するとともに、前記第1及び第2クランクジャーナルと共にケースに対して回転可能な他のジャーナル支持部材(例えば、後述の実施形態におけるジャーナル支持部材153)をさらに備え、
前記変速比可変機構は、前記入力中心軸線上で回転し、前記第1及び第2クランクジャーナルに構成される被動ギヤと噛合するピニオン(例えば、後述の実施形態におけるピニオン180b)を有して、前記他のジャーナル支持部材に固定されるアクチュエータ(例えば、後述の実施形態におけるアクチュエータ180)を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明は、自動車用駆動システムにおいて、
回転動力を発生する前記動力源としてのエンジン(例えば、後述の実施形態における第1のエンジンENG1、第2のエンジンENG2)と、
前記エンジンの発生する回転動力をそれぞれ変速して出力する請求項1から3のいずれか1項に記載の無断変速機構と、
前記ワンウェイ・クラッチの出力部材に連結され、該出力部材に伝達された回転動力を駆動車輪(例えば、後述の実施形態における駆動車輪2)に伝える被回転駆動部材(例えば、後述の実施形態における被回転駆動部材11)と、
を備え、前記エンジンの発生する回転動力を前記無段変速機構を介して前記被回転駆動部材に入力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、偏心ディスクには貫通孔を形成するだけなので、偏心ディスクに従来のような歯車に噛み合う内歯や摺動面を設ける必要がなく、部品の加工を簡素化することができ、偏心ディスクの生産性、ひいては無段変速機構の生産性を向上させることができるとともにコストを低減することができる。
【0011】
請求項2及び3の発明によれば、アクチュエータの回転速度を制御することでで、入力中心軸線に対する第1支点の偏心量を調節して変速比を容易に変更することができる。また、アクチュエータに設けられた入力中心軸線上を回転するピニオンが2本のクランク部材のクランクジャーナルの被動ギヤと噛合するので、容易に調芯することができる。
【0012】
請求項4の発明によれば、無段変速機構によって、エンジンの回転数を変更せずに変速比を無段階に調節してスムーズに出力回転数を変化させることができるので、エンジンを効率の良い回転数で運転することができる。従って、エンジンの燃料消費を低減することができる。また、変速比を無限大とすることで、入力軸から出力軸への動力伝達を切断することができ、クラッチの機能を果たすことができるため、クラッチを省くことができ、コストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る無段変速機構を備える自動車用駆動システムを示す説明図である。
【図2】無段変速機構を示す断面図である。
【図3】無段変速機構を示す側面図である。
【図4】無段変速機構の要部を示す斜視図である。
【図5】無段変速機構における各クランク部材の側面図である。
【図6】無段変速機構における2種類の偏心ディスクを示す側面図である。
【図7】無段変速機構を構成する各偏心ディスクと各クランクピンの位置関係を示す説明図である。
【図8】無段変速機構における偏心ディスクを、偏心量を一定とした状態で入力中心軸線回りに回転させた際の変化を回転角度60°毎に示す作用図である。
【図9】無段変速機構における偏心ディスクの偏心量を変更する状態を各クランク部材の回転角度45°毎に示す説明図である。
【図10】無段変速機構の各偏心量における各偏心ディスクと各クランクピンの位置関係を示し、(a)は、偏心量rが「ゼロ」の状態を示す図、(b)は偏心量rが「中」の状態を示す図、(c)は偏心量rが「大」の状態を示す図である。
【図11】無段変速機構の四節リンク機構を示す原理図である。
【図12】無段変速機構の偏心ディスクの偏心量を異ならせた場合のワンウェイ・クラッチアウタ部材の揺動量の変化を示す作用図であり、(a)は偏心量rが大きい「大」の状態を示す図、(b)は偏心量rが(a)の場合より小さい「中」の状態を示す図、(c)は偏心量rが(b)の場合より小さい「小」の状態を示す図である。
【図13】無段変速機構において、入力軸と共に等速回転する偏心ディスクの偏心量r(変速比i)を「大」、「中」、「小」と変化させた場合の、入力軸の回転角度θとワンウェイ・クラッチの入力部材の揺動角速度ωの関係を示す図である。
【図14】無段変速機構において、複数の連結部材によって入力側(入力軸や偏心ディスク)から出力側(ワンウェイ・クラッチの出力部材)へ動力が伝達される際の出力の取り出し原理を説明するための図である。
【図15】本発明に係る無段変速機構の変形例を示す断面図である。
【図16】本発明の別の実施形態に係る自動車用駆動システムを示す説明図である。
【図17】従来の無段変速機構における回転運動を揺動運動に変換する機構を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態における無段変速機構が適用される自動車用駆動システムについて、図面に基づいて説明する。
図1に示すように、自動車用駆動システム1は、それぞれ独立して回転動力を発生する動力源としての第1、第2の2つのエンジンENG1、ENG2と、第1、第2のエンジンENG1、ENG2の動力の各下流側に設けられた第1、第2のトランスミッションTM1、TM2と、各トランスミッションTM1、TM2の出力部に連結された出力回転を受ける被回転駆動部材11と、この被回転駆動部材11に接続されたメインモータジェネレータMG1と、第1のエンジンENG1の出力軸S1に接続されたサブモータジェネレータMG2と、メインおよび/またはサブのモータジェネレータMG1、MG2との間で電力のやりとりが可能なバッテリ8と、各種要素を制御することで車両の発進や走行パターンなどの制御を行う制御手段5と、を備えている。
【0015】
第1、第2のトランスミッションTM1、TM2は、その出力部に第1、第2のワンウェイ・クラッチOWC1、OWC2を備える。第1、第2のワンウェイ・クラッチOWC1、OWC2は、ディファレンシャル装置10を挟んで車幅方向の右と左に配置されており、第1、第2のワンウェイ・クラッチOWC1、OWC2の各クラッチインナ121は、それぞれ別の第1、第2のクラッチ機構CL1、CL2を介して、被回転駆動部材11に共に連結されている。
【0016】
第1、第2のクラッチ機構CL1、CL2は、第1、第2のワンウェイ・クラッチOWC1、OWC2の各クラッチインナ121と被回転駆動部材11との間の動力の伝達/遮断を制御するために設けられており、ONのときに伝達可能な状態になり、OFFのとき伝達が遮断された状態になる。これらのクラッチ機構CL1、CL2としては、他の種類のクラッチ(摩擦クラッチ等)を使用してもよいが、伝達ロスの低さからドグクラッチが使用されている。
【0017】
被回転駆動部材11は、ディファレンシャル装置10のデフケースにより構成されており、各ワンウェイ・クラッチOWC1、OWC2のクラッチインナ121に伝達された回転動力は、ディファレンシャル装置10および左右のアクスルシャフト13L、13Rを介して、左右の駆動車輪2に伝達される。ディファレンシャル装置10のデフケース(被回転駆動部材11)には、図示しないデフピニオンやサイドギヤが取り付けられており、左右のサイドギヤに左右のアクスルシャフト13L、13Rが連結され、左右のアクスルシャフト13L、13Rは差動回転する。
【0018】
第1、第2の2つのエンジンENG1、ENG2には、高効率運転領域の互いに異なるエンジンが用いられており、第1のエンジンENG1は排気量の小さいエンジンとされ、第2のエンジンENG2は、第1のエンジンENG1よりも排気量の大きいエンジンとされている。例えば、第1のエンジンENG1の排気量は500ccとされ、第2のエンジンENG2の排気量は1000ccとされており、合計排気量が1500ccとされている。もちろん、排気量の組み合わせは任意である。
【0019】
メインモータジェネレータMG1と被回転駆動部材11は、メインモータジェネレータMG1の出力軸に取り付けられたドライブギヤ15と被回転駆動部材11に設けられたドリブンギヤ12とが噛合することにより、動力伝達可能に接続されている。
【0020】
例えば、メインモータジェネレータMG1がモータとして機能するときは、メインモータジェネレータMG1から被回転駆動部材11に駆動力が伝達される。また、メインモータジェネレータMG1を発電機として機能するときは、被回転駆動部材11からメインモータジェネレータMG1に動力が入力され、機械エネルギーが電気エネルギーに変換される。同時に、メインモータジェネレータMG1から被回転駆動部材11に回生制動力が作用する。
【0021】
また、サブモータジェネレータMG2は、第1のエンジンENG1の出力軸S1に直に接続されており、この出力軸S1との間で動力の相互伝達を行う。この場合も、サブモータジェネレータMG2がモータとして機能するときは、サブモータジェネレータMG2から第1のエンジンENG1の出力軸S1に駆動力が伝達される。また、サブモータジェネレータMG2が発電機として機能するときは、第1のエンジンENG1の出力軸S1からサブモータジェネレータMG2に動力が伝達される。
【0022】
以上の要素を備えたこの自動車用駆動システム1では、第1のエンジンENG1および第2のエンジンENG2の発生する回転動力が、第1のトランスミッションTM1および第2のトランスミッションTM2に備えられた第1のワンウェイ・クラッチOWC1および第2のワンウェイ・クラッチOWC2に入力され、第1のワンウェイ・クラッチOWC1および第2のワンウェイ・クラッチOWC2を介して、回転動力が被回転駆動部材11に入力される。
【0023】
また、この自動車用駆動システム1では、第2のエンジンENG2の出力軸S2と被回転駆動部材11との間に、第2のトランスミッションTM2を介した動力伝達と異なる、出力軸S2と被回転駆動部材11の間での動力伝達を接続又は切断可能なシンクロ機構(スタータ・クラッチとも言われるクラッチ手段)20が設けられている。このシンクロ機構20は、被回転駆動部材11に設けたドリブンギヤ12に常時噛み合うとともに第2のエンジンENG2の出力軸S2の周りに回転自在に設けられた第1ギヤ21と、第2のエンジンENG2の出力軸S2の周りにこの出力軸S2と一体に回転するように設けられた第2ギヤ22と、軸方向にスライド操作されることで第1ギヤ21と第2ギヤ22とを結合又は結合解除させるスリーブ24と、を備えている。即ち、シンクロ機構20は、第2のトランスミッションTM2、クラッチ機構CL2を介した動力伝達経路と異なる動力伝達経路を構成し、この動力伝達経路での動力伝達を接続又は切断する。
【0024】
《トランスミッションの構成》
次に、この駆動システム1に用いられている第1、第2の2つのトランスミッションTM1、TM2について説明する。
第1、第2のトランスミッションTM1、TM2は、ほぼ同じ構成の無段変速機構により構成されている。この場合の無段変速機構は、IVT(Infinity Variable Transmission=クラッチを使用せずに変速比を無限大にして出力回転をゼロにできる方式の変速機構)と呼ばれるものの一種であり、変速比(レシオ=i)を無段階に変更できると共に、変速比の最大値を無限大(∞)に設定することのできる、無限・無段変速機構BD(第1の無限・無段変速機構BD1、第2の無限・無段変速機構BD2)により構成されている。
【0025】
図2に示すように、無限・無段変速機構BDは、第1、第2のエンジンENG1,ENG2(図1参照)の出力軸S1、S2に連結されて、各エンジンENG1,ENG2の回転動力を受けることで入力中心軸線O1の周りを回転する入力軸としてのジャーナル支持部材151と、第1及び第2クランク部材106,107を介してジャーナル支持部材151と一体回転する複数(本実施形態では、6枚)の偏心ディスク104(以下、6枚の偏心ディスクをそれぞれ104A〜104Fとも称す)と、入力側と出力側とを結ぶための偏心ディスク104と同数の連結部材130と、出力側に設けられたワンウェイ・クラッチ120とを備えている。
【0026】
図3、図4及び図6にも併せて示すように、複数の偏心ディスク104は、それぞれ第1支点O3を中心とした円形形状に形成されており、各第1支点O3が入力中心軸線O1の周囲で周方向に等間隔に位置するように配置されている。そして、複数の偏心ディスク104は、それぞれに偏心量rを保った状態で、入力中心軸線O1の周りにジャーナル支持部材151の回転に伴って偏心回転する。また、複数の偏心ディスク104は、各第1支点O3が入力中心軸線O1に対する偏心量rを変更可能となるように構成される。さらに、複数の偏心ディスク104には、入力中心軸線O1と平行に延びる2つの貫通孔104a,104bがそれぞれ形成されている。
【0027】
図2〜図5に示すように、第1のクランク部材106は、複数の偏心ディスク104に形成された2つの貫通孔104a,104bのうち一方の貫通孔104a内を滑り軸受155を介してそれぞれ回転自在に貫通すると共に、それぞれ連結される複数の第1クランクピン106c〜106hと、各第1クランクピン106c〜106hの中心軸線106kから等しい距離オフセットした位置に中心軸線106bを有する複数の第1クランクジャーナル106p,106q,106rと、を有する。
【0028】
第2のクランク部材107も同様に、複数の偏心ディスク104に形成された他方の貫通孔104b内を滑り軸受155を介してそれぞれ回転自在に貫通すると共に、それぞれ連結される複数の第2クランクピン107c〜107hと、各第2クランクピン107c〜107hの中心軸線107bから等しい距離オフセットした位置に中心軸線107kを有する複数の第2クランクジャーナル107p,107q,107rと、を有する。
【0029】
従って、これらクランク部材106,107の各クランクピン106c〜106h,107c〜107hの各中心軸線106k,107k、及び各クランクジャーナル106p,106q,106r、107p,107q,107rの中心軸線106b、107bは、無限・無段変速機構BDに取り付けられた状態で、入力中心軸線O1に対して平行に配置される。
【0030】
また、各クランク部材106,107の各クランクピン106c〜106h,107c〜107hは、これらの各中心軸線106k,107kがクランクジャーナル106p,106q,106r、107p,107q,107rの中心軸線106b、107bを中心として円周方向に所定角度(本実施形態では、60°)間隔となるようにそれぞれ結合されている。
なお、図4では、第1、第2クランクジャーナル106q,107qを省略して図示している。
【0031】
また、図6に示すように、各クランクピン106c〜106h,107c〜107hが貫通する各偏心ディスク104の2つの貫通孔104a,104bは、互いに隣接して並ぶと共に、貫通孔104a,104bの中間点Mが第1支点O3からオフセットするように形成されている。また、各偏心ディスク104の2つの貫通孔104a,104bは、複数の偏心ディスク104の貫通孔104a,104bの中間点Mが第1支点O3を中心として円周方向に所定角度(本実施形態では、60°)間隔となるようにそれぞれ形成されている。具体的に、本実施形態の6つの偏心ディスク104のうち、クランクピン106c,107cが貫通する偏心ディスク104Aと、クランクピン106f,107fが貫通する偏心ディスク104Dとは、貫通孔104a,104bの中心104e,104fを結ぶ線が第1支点O3を通る線上に位置するものによって構成される。また、クランクピン106d,107dが貫通する偏心ディスク104B、クランクピン106e,107eが貫通する偏心ディスク104C、クランクピン106g,107gが貫通する偏心ディスク104E、及びクランクピン106h,107hが貫通する偏心ディスク104Fは、中間点Mと第1支点O3を結ぶ線が2つの貫通孔104a,104bの中心104e,104fを結ぶ線と60°で交差するものによって構成される。
【0032】
従って、偏心量rにおける各偏心ディスク104A〜104Eを、入力中心軸線O1を中心として個々に示すと各偏心ディスク104A〜104Fは図7に示すような位置関係を有している。即ち、各偏心ディスク104A〜104Eの中心となる第1支点O3の入力中心軸線O1に対する偏心量rを同一とした状態で、各クランクピン106c〜106h,107c〜107hは中心軸線106b,107bを中心にして時計回りに順に60°ずつ回転した位置となり、各偏心ディスク104A〜104Fも、入力中心軸線O1を中心にして時計回りに順に60°ずつ回転した位置関係となる。
なお、各クランクピン106c〜106h,107c〜107hを中心軸線106b、107bを中心として結合する角度や、各偏心ディスク104に形成される各貫通孔104a,104bと第1支点O3との関係(例えば、各貫通孔104a,104bの中間点Mと第1支点O3を結ぶ線と2つの貫通孔104a,104bの中心104e,104fを結ぶ線とが交差する角度)は、偏心ディスク104の枚数によって決定され、即ち、360度を偏心ディスク104の数で割った値となる。
【0033】
ジャーナル支持部材151は、第1、第2のエンジンENG1,ENG2の出力軸S1,S2の先端とスプライン結合される円筒部151dと、クランク部材106,107のクランクジャーナル106p,107pを滑り軸受157を介して回転自在に支持する2つの貫通孔151a,151bを有するジャーナル支持部151hとからなる一体成形品である。
また、2つの偏心ディスク104C,104Dとの間に位置するクランク部材106,107のクランクジャーナル106q,107qは、ジャーナル支持部材152に形成された2つの貫通孔152a,152bによって滑り軸受157を介して回転自在に支持される。
【0034】
さらに、クランク部材106,107のクランクジャーナル106r,107rには、被動ギヤ106a,107aが形成されており、これら被動ギヤ106a,107aは、アクチュエータ180において、入力中心軸線O1と同軸に設けられた回転軸180aのピニオン180bと噛み合うと共に、これらの周囲に設けられたリングギヤ115とも噛み合う。
【0035】
そして、2本のクランク部材106,107を回転自在に支持するジャーナル支持部材151,152とリングギヤ115とは、それぞれベアリング102,105,103を介して第1、第2のトランスミッションTM1,TM2(図1参照)のミッションケース160に支持されている。
【0036】
2本のクランク部材106,107の被動ギヤ106a,107aの歯数は同一であり、アクチュエータ180によって、ピニオン180bが回転することで、2つの被動ギヤ106a,107aは同一回転速度で回転する。アクチュエータ180は、直流モータおよび減速機構などによって構成され、通常時は、ジャーナル支持部材151の回転と同期させてピニオン180bを回転させる。従って、図8(a)〜(f)に示すように、クランク部材106,107及び偏心ディスク104は、入力中心軸線O1を中心に一体的に回転し、図8(d)に示したように、偏心ディスク104の最大振れ幅Wは、偏心ディスク104の直径をDとすると、W=D+2・rとなる。なお、図8(a)〜図8(f)はクランク部材106,107及び偏心ディスク104の回転角度をそれぞれ、α=0°、60°、120°、180°、240°、300°とした状態を示している。
【0037】
また、ジャーナル支持部材151とピニオン180bが同期する回転数を基準として、ピニオン180bにジャーナル支持部材151の回転数を上回るか下回るかする回転数を与えることにより、ピニオン180bをジャーナル支持部材151に対して相対回転させる。このアクチュエータ180による回転数制御は、例えば、アクチュエータ180の回転数に減速機構(例えば、遊星歯車)による減速比をかけることで与えられるピニオン180bの回転数を、ジャーナル支持部材151の回転数に対して制御することで実現できる。この際、ピニオン180bとジャーナル支持部材151の回転差がなく同期している場合には、偏心量rは変化しない。
【0038】
従って、ピニオン180bにジャーナル支持部材151の回転数を上回るか下回るかする回転数を与えることにより、被動ギヤ106a,107aを有するクランクジャーナル106r、107rが自転することで、第1及び第2クランクジャーナル106,107をそれぞれ中心として第1クランクピン106c〜106h及び第2クランクピン107c〜107hが同期して回転し、入力中心軸線O1に対する第1支点O3の偏心量rを調節する。
【0039】
また、ワンウェイ・クラッチOWCは、入力中心軸線O1から離れた出力中心軸線O2の周りを回転する出力部材としてのクラッチインナ121と、外部から回転方向の動力を受けることで出力中心軸線O2の回りを揺動する入力部材としてのリング状のクラッチアウタ122と、これらクラッチアウタ122およびクラッチインナ121を互いにロック状態または非ロック状態にするために、クラッチアウタ122とクラッチインナ121の間に挿入された係合部材としての複数のローラ123と、ロック状態を与える方向にローラ123を付勢する付勢部材126とを有し、クラッチアウタ122の正方向(図3中の矢印RD1で示す方向)の回転速度がクラッチインナ121の正方向の回転速度を上回ったとき、クラッチアウタ122に入力された回転動力をクラッチインナ121に伝達し、それにより、クラッチアウタ122の揺動運動を出力部材121の回転運動に変換することができるようになっている。
【0040】
図2に示すように、ワンウェイ・クラッチOWCのクラッチインナ121は、軸方向に一体に連続した部材として構成されたものであるが、クラッチアウタ122は、軸方向に複数に分割されており、偏心ディスク104および連結部材130の数だけ、軸方向に各々独立して揺動できるように配列されている。そして、ローラ123は、クラッチアウタ122毎に、クラッチアウタ122とクラッチインナ121との間に挿入されている。
【0041】
リング状の各クラッチアウタ122上の周方向の1箇所には張り出し部124が設けられており、その張り出し部124には、出力中心軸線O2から離間した第2支点O4が設けられている。そして、各クラッチアウタ122の第2支点O4上にピン125が配置され、このピン125によって、連結部材130の先端(他端部)132がクラッチアウタ122に回転自在に連結されている。
【0042】
連結部材130は、一端側にリング部131を有し、そのリング部131の円形開口133の内周が、ベアリング140を介して、偏心ディスク104の外周に回転自在に嵌合されている。従って、このように連結部材130の一端が偏心ディスク104の外周に回転自在に連結されると共に、連結部材130の他端が、ワンウェイ・クラッチOWCのクラッチアウタ122上に設けられた第2支点O4に回動自在に連結されることにより、入力中心軸線O1、第1支点O3、出力中心軸線O2、第2支点O4の4つの節を回動点とする四節リンク機構が構成されており、入力軸としてのジャーナル支持部材151から2つのクランク部材106,107を介して偏心ディスク104に与えられる回転運動が、ワンウェイ・クラッチ120のクラッチアウタ122に対して該クラッチアウタ122の揺動運動として伝えられ、そのクラッチアウタ122の揺動運動がクラッチインナ121の回転運動に変換される。
【0043】
その際、2本のクランク部材106,107、アクチュエータ180などにより構成された変速比可変機構112のピニオン180bをアクチュエータ180で動かすことにより、偏心ディスク104の偏心量rを変化させることができる。そして、偏心量rを変更することで、ワンウェイ・クラッチ120のクラッチアウタ122の揺動角度θ2を変更することができ、それにより、入力軸としてのジャーナル支持部材151の回転数に対するクラッチインナ121の回転数の比(変速比:レシオi)を変えることができる。従って、ジャーナル支持部材151に入力される回転動力が偏心ディスク104および連結部材140を介してワンウェイ・クラッチ120のクラッチインナ121に回転動力として伝達される際の変速比を変更することができ、また、偏心量rがゼロに設定可能とされることで変速比を無限大に設定することができる。
【0044】
以上に述べた無限・無段変速機構BD(BD1、BD2)の変速原理を図9及び図10を参照して説明する。
図9(a)〜(e)において、左側の図は、偏心ディスク104Aにおいて、ピニオン180bを相対回転させた時のクランク部材106,107の各回動角度θcにおける偏心量の変化を示す図であり、右側の図は、クランクジャーナル106r,107rの中心軸線106b,107b(黒丸)と、クランクピン106c,107cの中心軸線106k,107k(白丸)との位置関係を左側の図から抜き書きした図である。なお、クランクピン106c,107cには、形状の理解を容易にするためにハッチングを施しており、また、図9(b)〜(e)では、図9(a)で示しているピニオン180bを省略し、被動ギヤ106a,107aを実線の円で示している。
【0045】
図9(a)に示すように、偏心ディスク104Aにおいて、クランク部材106,107の回動角度θc=0°では、クランクピン106c,107cの中心軸線106k,107kに対して、クランクジャーナル106r,107rの中心軸線106b,107bがそれぞれ上方にオフセットした位置となり、ピニオン180bと同軸の入力中心軸線O1と偏心ディスク104Aの中心である第1支点O3とが重なっている。従って、入力中心軸線O1に対する偏心ディスク104の中心(第1支点O3)の偏心量rはゼロとなり、変速比iを「無限大(∞)」にすることができる。
【0046】
次に、図9(b)〜図9(d)に示すように、クランク部材106,107の回動角度θc=45°、90°、135°では、クランクピン106c,107cの中心軸線106k,107kがクランクジャーナル106r,107rの中心軸線106b,107bに対して同一方向に回動し、入力中心軸線O1から偏心ディスク104の中心(第1支点O3)が徐々に離れ、偏心量rが徐々に大きくなる。
【0047】
そして、図9(e)に示すように、クランク部材106,107の回動角度がθc=180°では、クランクピン106c,107cの中心軸線106k,107kに対して、クランクジャーナル106r,107rの中心軸線106b,107bがそれぞれ下方にオフセットした位置となり、入力中心軸線O1に対する偏心ディスク104の中心(第1支点O3)が最も離れ、偏心量rが最大となり、小さな変速比を実現することができる。
【0048】
図10(a)〜(c)は6枚の偏心ディスク104A〜104Eをそれぞれアクチュエータ180側から見た図であり、図10(a)は、入力中心軸線O1に偏心ディスク104A〜104Fの各第1支点O3が一致した、偏心量rを「ゼロ」にした状態、即ち、変速比iを無限大とした場合を示し、図10(b)は、入力中心軸線O1から偏心ディスク104A〜104Fの各第1支点O3が離れた、偏心量rを「中」にした状態、即ち、変速比iを中間の変速比とした場合を示し、図10(c)は、入力中心軸線O1から偏心ディスク104A〜104Fの各第1支点O3が最も離れた、偏心量rを[大]にした状態、即ち、変速比iを小さな変速比とした場合を示している。
【0049】
このようなクランク部材106,107の回動角度θcによる偏心量rの調整は、図2に示したアクチュエータ180の回転軸180aの回転速度を、制御手段5(図1参照)によって制御することにより行われる。
【0050】
図11に示すように、無限・無段変速機構BDでは、入力中心軸線O1、第1支点O3、出力中心軸線O2、第2支点O4の4つの節を回動点とする四節リンク機構が構成されており、ジャーナル支持部材151から偏心ディスク104に与えられる回転運動が、ワンウェイ・クラッチOWCのクラッチアウタ122に揺動運動として伝えられ、そのクラッチアウタ122の揺動運動がクラッチインナ121の回転運動に変換される。
【0051】
図12(a)に示すように、偏心ディスク104の偏心量rを「大」にし、第1支点O3を入力中心軸線O1を中心として矢印方向に回転させた場合は、ワンウェイ・クラッチOWCのクラッチアウタ122の揺動角度θを大きくすることができるので、小さな変速比iを実現することができる。
【0052】
図12(b)に示すように、偏心ディスク104の偏心量rを「中」にした場合は、ワンウェイ・クラッチOWCのクラッチアウタ122の揺動角度θを、図12(a)の場合の揺動角度θより小さくすることができるので、図12(a)の場合より大きな変速比iを実現することができる。
【0053】
図12(c)に示すように、偏心ディスク104の偏心量rを「小」にした場合は、ワンウェイ・クラッチOWCのクラッチアウタ122の揺動角度θを、図12(b)の場合の揺動角度θより小さくすることができるので、図12(b)の場合より大きな変速比iを実現することができる。
【0054】
従って、偏心ディスク104の偏心量rが小さいほどクラッチアウタ122の揺動角度θが小さくなる一方、変速比iは大きくなり、偏心ディスク104の偏心量rを「ゼロ」にした場合は、ワンウェイ・クラッチOWCのクラッチアウタ122の揺動角度θを「ゼロ」にすることができるので、変速比iを「無限大(∞)」にすることができる。
【0055】
図11に示すように、ワンウェイ・クラッチOWCのクラッチアウタ122は、連結部材130を介して偏心ディスク104から与えられる動力を受けて揺動運動する。偏心ディスク104を回転させるジャーナル支持部材151が1回転すると、ワンウェイ・クラッチOWCのクラッチアウタ122は、1往復揺動する。図13に示すように、偏心ディスク104の偏心量rの値に関係なく、ワンウェイ・クラッチOWCのクラッチアウタ122の揺動周期は常に一定である。クラッチアウタ122の揺動角速度ωは、偏心ディスク104(ジャーナル支持部材151)の回転角速度ωと偏心量rによって決まる。
【0056】
ジャーナル支持部材151とワンウェイ・クラッチOWCを繋ぐ複数の連結部材130のリング部131は、入力中心軸線O1の周りに周方向等間隔で設けられた複数の偏心ディスク104に回転自在に連結されているので、各偏心ディスク104の回転運動によりワンウェイ・クラッチOWCのクラッチアウタ122にもたらされる揺動運動は、図14に示すように、一定の位相で順番に起こることになる。
【0057】
その際、ワンウェイ・クラッチOWCのクラッチアウタ122からクラッチインナ121への動力(トルク)の伝達は、クラッチアウタ122の正方向(図11の矢印RD1方向)の回転速度がクラッチインナ121の正方向の回転速度を超えた条件でのみ行われる。つまり、ワンウェイ・クラッチOWCでは、クラッチアウタ122の回転速度がクラッチインナ121の回転速度より高くなったときに初めてローラ123を介してクラッチアウタ122とクラッチインナ121との噛み合い(ロック)が発生し、クラッチアウタ122の動力がクラッチインナ121に伝達され、駆動力が発生する。
【0058】
1つの連結部材130による駆動が終了した後は、クラッチアウタ122の回転速度がクラッチインナ121の回転速度より低下すると共に、他の連結部材130の駆動力によってローラ123によるロックが解除されて、フリーな状態(空転状態)に戻る。これが、連結部材130の数だけ順番に行われることで、揺動運動が一方向の回転運動に変換される。そのため、クラッチインナ121の回転速度を超えたタイミングのクラッチアウタ122の動力のみがクラッチインナ121に順番に伝えられ、ほぼ平滑に均された回転動力がクラッチインナ121に与えられることになる。
【0059】
また、図12(a)〜(c)に示したように、四節リンク機構式の無限・無段変速機構BDでは、偏心ディスク104の偏心量rを変更することで、変速比(レシオ=第1、第2のエンジンENG1、ENG2(図1参照)のクランク軸の1回転でどれだけ被回転駆動部材11(図1参照)を回転させるか)を決めることができる。この場合、偏心量rをゼロに設定することで、変速比iを無限大(∞)に設定することができ、第1、第2のエンジンENG1、ENG2のクランク軸の回転中にも拘わらず、クラッチアウタ122に伝達される揺動角度θをゼロにすることができる。つまり、第1、第2のエンジンENG1、ENG2の出力軸S1、S2(図1参照)が回転していても、ワンウェイ・クラッチOWCのクラッチインナ121の回転数をゼロにすることができる。
【0060】
以上説明したように、本実施形態の無段変速機構BD1、BD2によれば、第1、第2のエンジンENG1,ENG2からの回転動力が偏心ディスク104から連結部材130を介してワンウェイ・クラッチOWC1,OWC2のクラッチアウタ122に伝達される機構において、入力中心軸線O1の周囲で周方向に等間隔に設けられると共に、それぞれが入力中心軸線O1に対する偏心量rを変更可能な各第1支点O3をそれぞれの中心に有して、該偏心量rを保ちつつ入力中心軸線O1の周りにジャーナル支持部材151と共に回転し、且つ、入力中心軸線O1と平行に延びる2つの貫通孔104a,104bがそれぞれ形成される複数の偏心ディスク104と、複数の偏心ディスク104に形成された2つの貫通孔104a,104bをそれぞれ回転自在に貫通すると共に、それぞれ連結される複数の第1及び第2クランクピン106c〜106h、107c〜107hと、各第1及び第2クランクピンの中心軸線106k、107kから等しい距離オフセットした位置に中心軸線106b、107bを有する複数の第1及び第2クランクジャーナル106p,106q,106r,107p,107q,107rとを備えた第1及び第2のクランク部材106,107を備え、アクチュエータ180によって、第1及び第2クランクジャーナル106r,107rをそれぞれ中心として第1及び第2クランクピン106c〜106h、107c〜107hを同期して回転させ、入力中心軸線O1に対する第1支点O3の偏心量を調節する構成としている。従って、偏心ディスク104に従来のような歯車に噛み合う内歯や摺動面を設ける必要がなく、部品の加工を簡素化することができ、偏心ディスク104の生産性、ひいては無段変速機構BD1,BD2の生産性を向上させることができるとともにコストを低減することができる。
【0061】
また、無限・無段変速機構BDは、第1、第2クランクジャーナル106r,107rの端部に形成された被動ギヤ106a,107aと噛合して第1、第2クランクジャーナル106r,107rを回転自在に支持するとともに、第1、第2クランクジャーナル106r,107rと共にミッションケース160に対して回転可能なリングギヤ115をさらに備え、変速比可変機構112は、入力中心軸線O1上で回転し、第1、第2クランクジャーナル106r,107rの被動ギヤ106a,107aと噛合するピニオン180bを有して、ミッションケース160に固定されるアクチュエータ180を備える。従って、リングギヤ115と共に、被動ギヤ106a,107aがプラネタリギヤを、ピニオン180bがサンギヤを、ジャーナル支持部材151がキャリアをなすことで、遊星歯車機構が構成される。これにより、アクチュエータ180の回転速度を制御するだけで、入力中心軸線O1に対する第1支点O3の偏心量rを調節して変速比を容易に変更することができる。また、アクチュエータ180に設けられた入力中心軸線O1上で回転するピニオン180bが2本のクランク部材106,107のクランクジャーナル106r,107rの被動ギヤ106a,107aと噛合するので、容易に調芯することができる。
【0062】
また、本実施形態の自動車用駆動システム1は、回転動力を発生する第1、第2のエンジンENG1、ENG2と、これらの第1、第2のエンジンENG1、ENG2の発生する回転動力をそれぞれ変速して出力する無限・無断変速機構BDと、ワンウェイ・クラッチOWCのクラッチインナ121に連結され、クラッチインナ121に伝達された回転動力を駆動車輪2に伝える被回転駆動部材11と、を備え、第1、第2のエンジンENG1、ENG2の発生する回転動力を無限・無段変速機構BDを介して被回転駆動部材11に入力する。これにより、無限・無段変速機構BDによって、第1、第2のエンジンENG1、ENG2の回転数を変更せずに変速比を無段階に調節してスムーズに出力回転数を変化させることができるので、第1、第2のエンジンENG1、ENG2を効率の良い回転数で運転することができる。従って、第1、第2のエンジンENG1、ENG2の燃料消費を低減することができる。また、変速比無限大とすることで、ジャーナル支持部材151から変速機出力軸127への動力伝達を切断することができ、クラッチの機能を果たすことができるため、クラッチを省くことができ、コストを削減することができる。
【0063】
図15は、無限・無段変速機構BDの変形例を示している。なお、上記実施形態に示した無段変速機構と同一または同等部分については同一符号を付して、説明を省略或いは簡略化する。
【0064】
図15に示すように、無限・無段変速機構BDでは、第1・第2のエンジンENG1,ENG2(図1参照)の出力軸S1、S2(図1参照)に連結されてこれらの出力軸S1、S2の回転運動を揺動運動に変換するとともに変速比を変更可能な変速機可変機112aの構成において、上記実施形態のものと異なる。
【0065】
この変速比可変機構112aでは、2本のクランク部材106,107のクランクジャーナル106r,107rとベアリング103との間に、上記実施形態のリングギヤ115の代わりに、他のジャーナル支持部材153が配置されている。
【0066】
他のジャーナル支持部材153は、クランク部材106,107のクランクジャーナル106r,107rの円柱部分を滑り軸受157を介して回転自在に支持する2つの貫通孔153a,153bを有するディスク部153hと、このディスク部153hの外周部から軸方向に延びる円筒部153jと、この円筒部153jの端部に形成されたフランジ部153kとからなる一体成形品であり、このフランジ部153kにアクチュエータ180が固定されている。なお、符号161はアクチュエータ180を覆うためにミッションケース160に取付けられるカバー部材である。
【0067】
また、こられ第1及び第2クランク部材106,107のクランクジャーナル106r,107rでは、他のジャーナル支持部材153の貫通孔153a,153bに支持される円柱部分の先端部分に被動ギヤ106a,107aが形成されており、この被動ギヤ106a,107aにアクチュエータ180の回転軸180aに設けられたピニオン180bが噛合する。
【0068】
このように構成された変速比可変機構112aでは、第1、第2のエンジンENG1、ENG2(図1参照)の出力軸S1、S2と共にジャーナル支持部材151が第1及び第2のクランク部材106,107を回転させることで、所定の偏心量rにて各偏心ディスク104が一体回転すると共に、他のジャーナル支持部材153に取り付けられたアクチュエータ180全体も一体回転する。
そして、アクチュエータ180のピニオン180bを回転駆動させて、第1及び第2のクランク部材106,107のクランクジャーナル106r,107rを同期して回転させ、偏心ディスク104に対するクランクピン106c〜106h,107c〜107hの回動角度θcを調整することで、偏心量rを調節する。
【0069】
従って、該変形例の無段変速機構BDのおいても、アクチュエータ180の回転角度を制御することで、入力中心軸線O1に対する第1支点O3の偏心量rを調節して変速比を容易に変更することができる。また、アクチュエータ180に設けられた入力中心軸線O1上で回転するピニオン180bが2本のクランク部材106,107のクランクジャーナル106r,107rの被動ギヤ106a,107aと噛合するので、容易に調芯することができる。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0070】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0071】
例えば、上記実施形態では、各偏心ディスク104には、第1及び第2クランクピンが貫通する2つの貫通孔104a,104bが設けられる構成としたが、第1及び第2クランクピンの両方が貫通する長孔からなる単一の貫通孔が設けられる構成としてもよい。
【0072】
また、第1クランク部材106及び第2クランク部材107とでは、クランクピンの直径を互いに等しくし、また、クランクピンの中心軸線とクランクジャーナルの中心軸線の距離を互いに等しい距離としたが、いずれも必ずしも等しくしなくてもよい。
【0073】
また、図1に示したように、ディファレンシャル装置10の左右両側に第1のワンウェイ・クラッチOWC1と第2のワンウェイ・クラッチOWC2をそれぞれ配置し、各ワンウェイ・クラッチOWC1、OWC2のクラッチインナ121をそれぞれクラッチ機構CL1、CL2を介して被回転駆動部材11に接続した場合を示したが、図16に示す別の実施形態のように、ディファレンシャル装置10の片側に第1と第2の両方のワンウェイ・クラッチOWC1、OWC2を配置し、これら両方のワンウェイ・クラッチOWC1、OWC2の出力部材を連結した上で、1つのクラッチ機構CLを介して被回転駆動部材11に接続してもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、2つのエンジンENG1,ENG2、2つのトランスミッションTM1,TM2、2つのワンウェイ・クラッチOWC1,OWC2、2つのモータジェネレータMG1,MG2、及び2つのクラッチ機構CL1,CL2を有する場合について説明したが、エンジン、トランスミッション、ワンウェイ・クラッチ、クラッチ機構を1つずつ備える構成、あるいは、3つ以上備える構成にも適用可能である。また、エンジンとしては、主にガソリンエンジンやディーゼルエンジンを用いることができるが、それ以外に水素エンジンなどを用いることもできるし、種類の異なるエンジンを組み合わせて用いることもできる。
【符号の説明】
【0075】
1 自動車用駆動システム
2 駆動車輪
11 デフケース材(被回転駆動部)
101 入力軸
104 偏心ディスク
104a,104b 貫通孔
106 第1のクランク部材
106a,107a 被動ギヤ
106b 第1クランクジャーナルの中心軸線
106c〜106h 第1クランクピン
106k 第1クランクピンの中心軸線
106p〜106r 第1クランクジャーナル
107 第2のクランク部材
107b 第2クランクジャーナルの中心軸線
107c〜107h 第2クランクピン
107k 第2クランクピンの中心軸線
107p〜107r 第2クランクジャーナル
112,112a 変速比可変機構
115 リングギヤ
121 クラッチインナ(出力部材)
122 クラッチアウタ(入力部材)
123 ローラ(係合部材)
130 連結部材
151,152 ジャーナル支持部材
153 他のジャーナル支持部材
160 ミッションケース(ケース)
180 アクチュエータ
180b ピニオン
BD、BD1,BD2 無段変速機構
ENG1 第1のエンジン(駆動源)
ENG2 第2のエンジン(動力源)
O1 入力中心軸線
O2 出力中心軸線
O3 第1支点
O4 第2支点
OWC,OWC1,OWC2 ワンウェイ・クラッチ
r 偏心量
S1 第1のエンジンの出力軸(出力軸)
S2 第2のエンジンの出力軸(出力軸)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源から発生する回転動力を変速して出力する無段変速機構であって、
該回転動力を受けることで入力中心軸線の周りを回転する入力軸と、
該入力中心軸線の周囲で周方向に等間隔に設けられると共に、それぞれが前記入力中心軸線に対する偏心量を変更可能な各第1支点をそれぞれの中心に有して、該偏心量を保ちつつ該入力中心軸線の周りに前記入力軸と共に回転し、且つ、前記入力中心軸線と平行に延びる貫通孔がそれぞれ形成される複数の偏心ディスクと、
前記複数の偏心ディスクに形成された前記貫通孔を回転自在に貫通すると共に、それぞれ連結される複数の第1クランクピンと、該各第1クランクピンの中心軸線から等しい距離オフセットした位置に中心軸線を有する複数の第1クランクジャーナルを有する第1のクランク部材と、
前記複数の偏心ディスクに形成された前記貫通孔を回転自在に貫通すると共に、それぞれ連結される複数の第2クランクピンと、該各第2クランクピンの中心軸線から等しい距離オフセットした位置に中心軸線を有する複数の第2クランクジャーナルを有する第2のクランク部材と、
前記入力中心軸線から離れた出力中心軸線の周りを回転する出力部材と、外部から回転方向の動力を受けることで前記出力中心軸線の周りを揺動する入力部材と、これら入力部材および出力部材を互いにロック状態または非ロック状態にする係合部材とを有し、前記入力部材の正方向の回転速度が前記出力部材の正方向の回転速度を上回ったとき、前記入力部材に入力された回転動力を前記出力部材に伝達し、それにより前記入力部材の揺動運動を前記出力部材の回転運動に変換するワンウェイ・クラッチと、
それぞれ一端が前記各偏心ディスクの外周に前記第1支点を中心に回転自在に連結され、他端が前記ワンウェイ・クラッチの入力部材上の前記出力中心軸線から離間した位置に設けられた第2支点に回動自在に連結されることで、前記入力軸から前記偏心ディスクに与えられる回転運動を、前記ワンウェイ・クラッチの入力部材に対し該入力部材の揺動運動として伝える複数の連結部材と、
前記第1及び第2クランクジャーナルをそれぞれ中心として前記第1クランクピン及び前記第2クランクピンを同期して回転させ、前記入力中心軸線に対する前記第1支点の偏心量を調節することで、前記偏心ディスクから前記ワンウェイ・クラッチの入力部材に伝えられる揺動運動の揺動角度を変更するアクチュエータを備え、それにより、前記入力軸に入力される回転動力が前記偏心ディスクおよび前記連結部材を介して前記ワンウェイ・クラッチの出力部材に回転動力として伝達される際の変速比を変更すると共に、前記偏心量がゼロに設定可能とされることで変速比を無限大に設定する変速比可変機構と、
を具備することを特徴とする無段変速機構。
【請求項2】
前記第1及び第2クランクジャーナルに構成される被動ギヤと噛合して前記第1及び第2クランクジャーナルを回転自在に支持するとともに、前記第1及び第2クランクジャーナルと共にケースに対して回転可能なリングギヤをさらに備え、
前記変速比可変機構は、前記入力中心軸線上で回転し、前記第1及び第2クランクジャーナルの被動ギヤと噛合するピニオンを有して、前記ケースに固定されるアクチュエータを備えることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機構。
【請求項3】
前記第1及び第2クランクジャーナルを回転自在に支持するとともに、前記第1及び第2クランクジャーナルと共にケースに対して回転可能な他のジャーナル支持部材をさらに備え、
前記変速比可変機構は、前記入力中心軸線上で回転し、前記第1及び第2クランクジャーナルに構成される被動ギヤと噛合するピニオンを有して、前記他のジャーナル支持部材に固定されるアクチュエータを備えることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機構。
【請求項4】
回転動力を発生する前記動力源としてのエンジンと、
前記エンジンの発生する回転動力をそれぞれ変速して出力する請求項1から3のいずれか1項に記載の無断変速機構と、
前記ワンウェイ・クラッチの出力部材に連結され、該出力部材に伝達された回転動力を駆動車輪に伝える被回転駆動部材と、
を備え、前記エンジンの発生する回転動力を前記無段変速機構を介して前記被回転駆動部材に入力することを特徴とする自動車用駆動システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−141048(P2012−141048A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1215(P2011−1215)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】