説明

無段変速機

【課題】 無段変速機の変速比の制御を、電動モータのような特別の駆動源を必要とせずに行えるようにする。
【解決手段】 無段変速機の変速比は、コントロールシャフト20を軸線L方向に移動させることで変更可能である。コントロールシャフト20に接続された油圧シリンダ22の第1、第2油室26,27を相互に接続する油路29には、作動油の流通を遮断する位置と、作動油の一方向への流通のみを許容する位置と、作動油の他方向への流通のみを許容する位置とを切り換え可能な制御バルブ30が配置される。入力軸12が出力軸に伝達する駆動力の反力でコントロールシャフト20が周期的に押し引きされるのを利用し、制御バルブ30の位置を切り換えることで、電動モータのような特別の駆動源を必要とせずに、無段変速機の変速比をホールドしたり変更したりすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力軸と共に回転する第1支点と、出力軸にワンウェイクラッチを介して支持された第2支点と、前記第1支点および前記第2支点を連結するコネクティングロッドと、前記入力軸の軸線に対する前記第1支点の偏心量を変更することで前記入力軸および前記出力軸間の変速比を変更する偏心量変更手段とを備える無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる無段変速機において、入力軸の軸線に対する第1支点の偏心量を変更する偏心量変更手段を、電動モータと、電動モータの回転軸に固定したピニオンと、ピニオンに噛合する内歯ギヤが偏心して形成された偏心ディスク(第1支点)とで構成し、電動モータでピニオンを回転させることで内歯ギヤを介して偏心ディスクを揺動させるものが、下記特許文献1により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2005−502543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のものは、変速比の制御用として特別のアクチュエータ(電動モータ)を必要とするため、その分だけ無段変速機の部品点数やコストが増加する問題があった。また偏心ディスクが受ける駆動反力を電動モータのトルクで受け止める構造のため、変速比がホールドされている期間でも、電動モータが前記駆動反力に対抗するトルクを発生し続ける必要が生じて消費電力が増加するだけでなく、入力軸の1回転の間に変化する駆動反力に同期して電動モータのトルクを変化させる面倒な制御が必要になる問題があった。
【0005】
また変速比がホールドされている期間には、電動モータの回転軸の回転数が入力軸の回転数に追従するように制御する必要があり、かつ変速比が変化する期間には、入力軸の回転数に対して電動モータの回転軸の回転数を異ならせて偏心ディスクを所定角度揺動させる必要があるため、電動モータの回転数制御が難しいという問題があった。
【0006】
更に、電動モータの回転軸に設けたピニオンが偏心ディクスを支持する軸受けを兼ねるため、その耐久性が懸念されるという問題があった。
【0007】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、無段変速機の変速比の制御を、電動モータのような特別の駆動源を必要とせずに行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、入力軸と共に回転する第1支点と、出力軸にワンウェイクラッチを介して支持された第2支点と、前記第1支点および前記第2支点を連結するコネクティングロッドと、前記入力軸の軸線に対する前記第1支点の偏心量を変更することで前記入力軸および前記出力軸間の変速比を変更する偏心量変更手段とを備える無段変速機において、前記偏心量変更手段は、前記入力軸の回転に伴って前記コネクティングロッドから正逆両方向の反力を受けるコントロールシャフトと、前記コントロールシャフトの前記反力による移動を許可および規制する移動規制手段とを備えることを特徴とする無段変速機が提案される。
【0009】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記入力軸は前記軸線に対して偏心したクランクピンを備え、前記第1支点は前記クランクピンに揺動自在に支持されたエキセントリックディスクで構成されることを特徴とする無段変速機が提案される。
【0010】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項2の構成に加えて、前記軸線に対する前記第1支点の偏心量がゼロのとき、前記エキセントリックディスクの重心位置は前記軸線から偏心していることを特徴とする無段変速機が提案される。
【0011】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1〜請求項3の何れか1項の構成に加えて、前記移動規制手段は、シリンダと、前記シリンダに摺動自在に嵌合して前記コントロールシャフトに接続されたピストンと、前記ピストンの両側に区画された第1、第2油室と、前記第1、第2油室を相互に連通させる油路と、前記油路に設けられた制御バルブとを備え、前記制御バルブは、前記第1、第2油室間の作動油の流通を阻止する位置と、前記第1油室から前記第2油室への作動油の流通のみを許容する位置と、前記第2油室から前記第1油室への作動油の流通のみを許容する位置とを切り換え可能であることを特徴とする無段変速機が提案される。
【0012】
尚、実施の形態の変速ユニット15は本発明の偏心量変更手段に対応し、実施の形態の油圧シリンダ22は本発明の偏心量変更手段あるいは移動規制手段に対応し、実施の形態の制御バルブ30は本発明の偏心量変更手段あるいは移動規制手段に対応し、実施の形態のエキセントリックディスク31は本発明の第1支点に対応し、実施の形態のプル側コネクティングロッド39およびプッシュ側コネクティングロッド40は本発明のコネクティングロッドに対応し、実施の形態のピン45は本発明の第2支点に対応する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の構成によれば、入力軸と共に回転する第1支点と、出力軸にワンウェイクラッチを介して支持された第2支点とをコネクティングロッドで連結したので、入力軸の回転に伴って往復動するコネクティングロッドがワンウェイクラッチを介して出力軸を間欠回転させ、その際に偏心量変更手段で入力軸の軸線に対する第1支点の偏心量を変更することで、コネクティングロッドの往復動のストロークを増減して入力軸および出力軸間の変速比を変更することができる。偏心量変更手段は、入力軸の回転に伴ってコネクティングロッドから正逆両方向の反力を受けるコントロールシャフトと、コントロールシャフトの前記反力による移動を許可および規制する移動規制手段とを備えるので、電動モータのような特別の駆動源を必要とせずに、コントロールシャフトをコネクティングロッドからの反力で移動させることで変速比を変更し、かつコントロールシャフトの移動を移動規制手段で規制することで変速比をホールドすることができる。これにより、駆動源の面倒な制御が不要になるだけでなく、駆動源の消費電力の問題や偏心量変更手段の耐久性の問題も同時に解消される。
【0014】
また請求項2の構成によれば、入力軸は軸線に対して偏心したクランクピンを備え、クランクピンに揺動自在に支持されたエキセントリックディスクで第1支点を構成したので、エキセントリックディスクを入力軸に強固に支持して変速比の安定した制御を可能にすることができる。
【0015】
また請求項3の構成によれば、軸線に対する第1支点の偏心量がゼロのとき、つまり無段変速機が変速比が無限大であって駆動力を伝達しておらず、コネクティングロッドにワンウェイクラッチからの反力が作用していない場合でも、エキセントリックディスクの重心位置が前記軸線から偏心しているので、前記重心位置に作用する遠心力でエキセントリックディスクを付勢してコントロールシャフトを軸方向に駆動し、有限の変速比に向けて変速を開始することができる。
【0016】
また請求項4の構成によれば、移動規制手段が、シリンダと、シリンダに摺動自在に嵌合してコントロールシャフトに接続されたピストンと、ピストンの両側に区画された第1、第2油室と、第1、第2油室を相互に連通させる油路と、油路に設けられた制御バルブとを備えるので、制御バルブを第1、第2油室間の作動油の流通を阻止する位置に操作することで、コントロールシャフトを移動不能に拘束して変速段をホールドすることができ、制御バルブを第1油室から第2油室への作動油の流通のみを許容する位置に操作することで、コントロールシャフトを一方向に移動させて変速比を一方向に変更することができ、制御バルブを第2油室から第1油室への作動油の流通のみを許容する位置に操作することで、コントロールシャフトを他方向に移動させて変速比を他方向に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】無段変速機の縦断面図。
【図2】図1の2−2線矢視図(ニュートラルポジション)。
【図3】図2の3−3線断面図(ニュートラルポジション)。
【図4】図3の4−4線矢視図(ニュートラルポジション)。
【図5】図3の5Aー5A線、5Bー5B線および5Cー5C線矢視図(ニュートラルポジション)。
【図6】前記図3に対応する図(UDポジション)。
【図7】図6の7−7線矢視図(UDポジション)。
【図8】UDポジションにおける4個のエキセントリックディスクの偏心状態を示す図。
【図9】前記図3に対応する図(ODポジション)。
【図10】図9の10−10線矢視図(ODポジション)。
【図11】ODポジションにおける4個のエキセントリックディスクの偏心状態を示す図。
【図12】変速ユニットの分解斜視図。
【図13】コントロールシャフトが受ける駆動反力の説明図。
【図14】制御バルブによる無段変速機の変速制御の説明図。
【図15】エンジンの始動から停止までの変速制御の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1〜図15に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
図1〜図5および図12に示すように、エンジンEの駆動力を左右の駆動輪W,Wに伝達する無段変速機Tは、エンジンEのクランクシャフト11に直列かつ同軸に接続された入力軸12と、入力軸12と平行に配置された出力軸13とを備える。出力軸13はディファレンシャルギヤDを介して左右の車軸14,14に接続されており、一方の車軸14は出力軸13の内部を相対回転自在に貫通する。
【0020】
入力軸12と出力軸13とは、同一構造を有して入力軸12の軸線L方向に重ね合わされた4セットの変速ユニット15…で接続される。クランク状に形成された入力軸12は、その両端に位置してボールベアリング16,16で支持された2個のジャーナル17,17と、相互に90°ずつ位相をずらして配置された4個のクランクピン18…と、ジャーナル17,17およびクランクピン18…を一体に連結する5個のクランクウエブ19…とで構成される。
【0021】
入力軸12の2個のジャーナル17,17の中心と、5個のクランクウエブ19…にそれぞれ形成した貫通孔19a…(図2および図12参照)とを、コントロールシャフト20が軸線L方向摺動自在に嵌合しており、このコントロールシャフト20の一端に、軸線L方向のスラスト力を伝達してトルクを伝達しないカップリング21を介して油圧シリンダ22が接続される。
【0022】
油圧シリンダ22は、軸線L上に配置されたピストンロッド23と、ピストンロッド23に固定されたピストン24と、ピストン24が摺動自在に嵌合するシリンダ25と、ピストン24の両側に区画された第1、第2油室26,27と、ピストン24を一方向に付勢するリターンスプリング28とを備える。第1、第2油室26,27を相互に接続する油路29には、第1油室26から第2油室27への作動油の流通のみを許容するポジションと、第1、第2油室26,27相互間の作動油の流通を阻止するポジションと、第2油室27から第1油室26への作動油の流通をのみを許容するポジションとを選択可能なソレノイドバルブよりなる制御バルブ30が配置される
次に、図1〜図5および図12に基づいて変速ユニット15…の構造を説明する。4セットの変速ユニット15…は位相が相互に90°ずれている以外は同一構造であるため(図2および図5参照)、代表としてその一つの構造を説明する。
【0023】
変速ユニット15は入力軸12のクランクピン18の外周にピン孔31aを回転自在に支持された浅いカップ状のエキセントリックディスク31を備える。エキセントリックディスク31の中心Oに対するピン孔31aの偏心量εは、入力軸の軸線Lに対するクランクピン18の偏心量εに一致している(図4および図8参照)。従って、入力軸12のクランクピン18に対してエキセントリックディスク31が所定の位置関係にあるとき、エキセントリックディスク31の中心Oは入力軸12の軸線Lに一致する。エキセントリックディスク31がクランクピン18まわりに揺動するとき、コントロールシャフト20との干渉を回避すべく、エキセントリックディスク31の底面にピン孔31aを中心とする円弧状の長孔31bが形成される。
【0024】
浅いカップ状のエキセントリックディスク31の底面に対向するクランクウエブ19の一側面に設けた一対のブラケット32,32に、クランクピン18と直交する方向に延びる支軸33が回転自在に支持されており、この支軸33に相互に同軸に結合されたピニオン34およびベベルギヤ35が設けられる。ピニオン34はコントロールシャフト20の表面に軸線L方向に形成したラック36(図4および図12参照)に噛合するとともに、ベベルギヤ35はエキセントリックディスク31の底面にピン孔31aを中心とする円弧状に形成したセクタギヤ37に噛合する。
【0025】
エキセントリックディスク31の外周面には、それぞれボールベアリング38,38を介してプル側コネクティングロッド39およびプッシュ側コネクティングロッド40一端の内周面が支持される。出力軸13の外周には、それぞれインナー部材41、複数のローラ42…およびアウター部材43を有するワンウェイクラッチ44,44が支持されており、一方のアウター部材43の上部に設けた凸部43aにプル側コネクティングロッド39の他端がピン45を介して連結されるとともに、他方のアウター部材43の下部に設けた凸部43bにプッシュ側コネクティングロッド40の他端がピン45を介して連結される。
【0026】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0027】
エンジンEのクランクシャフト11に接続された入力軸12が回転すると、入力軸12の4個のクランクピン18…にピン孔31a…を支持された4個のエキセントリックディスク31…が入力軸12と一体に回転する。図2〜図4に示すニュートラルポジション(変速比が無限大の状態)では、エキセントリックディスク31…の偏心量はゼロであり、エキセントリックディスク31…の中心Oが入力軸12の軸線Lに一致している。従ってエキセントリックディスク31…の外周面にボールベアリング38…を介して支持された4本のプル側コネクティングロッド39…および4本のプッシュ側コネクティングロッド40…は往復動せず、それらのプル側コネクティングロッド39…およびプッシュ側コネクティングロッド40…にワンウェイクラッチ44…を介して接続された出力軸13も回転しない。
【0028】
この状態から、図6に示すように、油圧シリンダ22のピストンロッド23が図中右方向に僅かに移動すると(UDポジション)、ピストンロッド23にカップリング21を介して接続されたコントロールシャフト20が軸線L方向に移動し、その表面に形成したラック36が各変速ユニット15のピニオン34を支軸33まわりに回転させる。その結果、ピニオン34と一体に回転するベベルギヤ35にセクタギヤ37を噛合させたエキセントリックディスク31が、入力軸12のクランクピン18まわりに揺動し、図7に示すように、エキセントリックディスク31の中心Oが入力軸12の軸線Lから偏心量ε1だけ偏心する。
【0029】
その結果、エキセントリックディスク31の外周面にボールベアリング38,38を介して支持されたプル側コネクティングロッド39およびプッシュ側コネクティングロッド40が、前記偏心量ε1の2倍のストロークで往復運動する。図7において、プル側コネクティングロッド39が図中右側に引かれたとき、インナー部材41およびアウター部材43間にローラ42…が噛み込んでワンウェイクラッチ44が係合し、プル側コネクティングロッド39が図中左側に押されたとき、ローラ42…がスリップしてワンウェイクラッチ44が係合解除する。
【0030】
またプッシュ側コネクティングロッド40が図中左側に押されたとき、インナー部材41およびアウター部材43間にローラ42…が噛み込んでワンウェイクラッチ44が係合し、プッシュ側コネクティングロッド40が図中右側に引かれたとき、ローラ42…がスリップしてワンウェイクラッチ44が係合解除する。このように、入力軸12の回転に伴ってエキセントリックディスク31によりプル側コネクティングロッド39およびプッシュ側コネクティングロッド40が往復動すると、プル側コネクティングロッド39のプル動作およびプッシュ側コネクティングロッド40のプッシュ動作に応じて出力軸13が間欠回転する。
【0031】
図8から明らかなように、4セットの変速ユニット15…の4個のエキセントリックディスク31…は位相が相互に90°ずれているので、入力軸12の回転中に4セットの変速ユニット15…のうちの何れか1セットが必ず駆動力を伝達することで、出力軸13は連続的に回転する。出力軸13の回転は、ディファレンシャルギヤDおよび左右の車軸14,14を介して左右の駆動輪W,Wに伝達される。このとき、エキセントリックディスク31…の偏心量ε1が小さいため、プル側コネクティングロッド39…およびプッシュ側コネクティングロッド40…は小ストロークで往復動し、出力軸13は大トルク小回転数で回転して無段変速機TはUDポジション(最大変速比状態)になる。
【0032】
図9に示すように、油圧シリンダ22のピストンロッド23がUDポジションを超えて図中右方向に更に移動するとODポジション(最小変速比状態)になり、エキセントリックディスク31が入力軸12のクランクピン18まわりに更に揺動し、図10に示すように、エキセントリックディスク31の中心Oが入力軸12の軸線LからUDポジションのときの偏心量ε1よりも大きい偏心量ε2だけ偏心する。
【0033】
その結果、エキセントリックディスク31の外周面にボールベアリング38,38を介して支持されたプル側コネクティングロッド39およびプッシュ側コネクティングロッド40が、前記偏心量ε2の2倍のストロークで往復運動することで、プル側コネクティングロッド39…およびプッシュ側コネクティングロッド40…はUDポジションのときよりも大ストロークで往復動し、出力軸13は小トルク大回転数で回転して無段変速機Tの変速比はODになる。
【0034】
以上のように、油圧シリンダ22でコントロールシャフト20の位置を無段階に制御することで、電動モータのような特別のアクチュエータを必要とせずに無段変速機Tの変速比をニュートラルポジションおよびODポジション間で無段階に制御することができ、部品点数およびコストの削減が可能となる。しかもエキセントリックディスク31…が入力軸12のクランクピン18…に揺動自在に支持されるので、エキセントリックディスク31…を強固に支持して安定した変速性能および耐久性能を確保することができる。
【0035】
ところで、本実施の形態の油圧シリンダ22は、油圧ポンプや電動モータのような特別の駆動源を必要とせず、コントロールシャフト20がエキセントリックディスク31…から受ける反力によって作動する。以下、油圧シリンダ22の作用を説明する。
【0036】
図13に示すように、ワンウェイクラッチ44が係合してプル側コネクティングロッド39が駆動力を伝達するとき、プル側コネクティングロッド39がワンウェイクラッチ44から受ける駆動反力によりエキセントリックディスク31に反力トルクが作用する。同様に、ワンウェイクラッチ44が係合してプッシュ側コネクティングロッド40がが駆動力を伝達するとき、プッシュ側コネクティングロッド40がワンウェイクラッチ44から受ける駆動反力によりエキセントリックディスク31に反力トルクが作用する。これら二つの反力トルクは、共に正弦波状であって位相が相互に約180°ずれており、エキセントリックディスク31からセクタギヤ37、ベベルギヤ35、ピニオン34およびラック36を介してコントロールシャフト20を軸線L方向の両方向に押し引きするように作用する。
【0037】
4個のエキセントリックディスク31…が受ける上記二つの反力トルクによるコントロールシャフト20のスラスト力を全て重ね合わせると、90°を1周期とする波形が得られ、各90°の1周期において、コントロールシャフト20は変速比をOD側に変化させる方向とUD側に変化させる方向とに押し引きされることになる。
【0038】
図14には、制御バルブ30による無段変速機Tの変速比の制御手法が示される。図中のホールド領域は変速比がホールドされる領域、UD側シフト領域は変速比がOD側からUD側にダウンシフトする領域、OD側シフト領域は変速比がUD側からOD側にアップシフトする領域である。
【0039】
ホールド領域では、制御バルブ30を作動させる一対のソレノイド46,47を共にOFFすることで、第1、第2油室26,27間の連通を遮断する。これにより、油圧シリンダ22はロック状態になり、コントロールシャフト20が移動不能にロックされて変速比がホールドされる。
【0040】
UD側シフト領域では、一方のソレノイド46をONすることで、一方のチェックバルブを介して第1、第2油室26,27を連通させる。これにより、コントロールシャフト20がUD側に付勢される期間には第1油室26から押し出された作動油が制御バルブ30を通過して反対側の第2油室27に流入し、かつコントロールシャフト20がOD側に付勢される期間には油圧シリンダ22がロック状態になるため、コントロールシャフト20はUD側に向けて間欠的に移動する。
【0041】
OD側シフト領域では、他方のソレノイド47をONすることで、他方のチェックバルブを介して第1、第2油室26,27を連通させる。これにより、コントロールシャフト20がOD側に付勢される期間には第2油室27から押し出された作動油が制御バルブ30を通過して反対側の第1油室26に流入し、かつコントロールシャフト20がUD側に付勢される期間には油圧シリンダ22がロック状態になるため、コントロールシャフト20はOD側に向けて間欠的に移動する。
【0042】
以上のように、本実施の形態によれば、コントロールシャフト20をエキセントリックディスク31…から受ける駆動反力によって作動させて変速比を変更することができるので、電動モータのような特別の駆動源が不要になって部品点数およびコストの削減が可能になる。
【0043】
ところで、無段変速機Tの変速比が無限大であってエキセントリックディスク31…の偏心量がゼロであるとき、プル側コネクティングロッド39…およびプッシュ側コネクティングロッド40…は往復動せずに停止している。従って、コントロールシャフト20は軸線L方向に押し引きされることはなく、変速比が無限大の状態から変速比が有限の状態にシフトすることができないため、車両の発進が不能になる問題がある。
【0044】
また無段変速機Tが有限の変速比で車両が走行しているときにエンジン回転数を低減すると、ワンウェイクラッチ44が係合解除してプル側コネクティングロッド39…およびプッシュ側コネクティングロッド40…は駆動力を伝達しなくなり、その反力による変速が不能になって変速比をUDを経て無限大に戻せなくなる問題がある。
【0045】
そこで本実施の形態では、以下のような手法で上記問題を解決している。図15に示すように、各エキセントリックディスク31の重心位置Gは、その中心Oから距離ε3だけ偏心した位置に存在するように重量配分が設定されているため、変速比が無限大の状態でエキセントリックディスク31の中心Oが軸線Lに一致して回転しているときでも、前記重心位置Gに作用する遠心力でエキセントリックディスク31を揺動させるモーメントが発生する。
【0046】
またエキセントリックディスク31は所定の慣性モーメントを有するため、入力軸12の回転数が増加するときには、つまり入力軸12の角加速度が増加するときには、エキセントリックディスク31を回転方向遅れ側に付勢するモーメントが発生し、入力軸12の回転数が減少するときには、つまり入力軸12の角加速度が減少するときには、エキセントリックディスク31を回転方向進み側に付勢するモーメントが発生する。
【0047】
さて、図15の時刻t1においてエンジンEを始動したとき、無段変速機Tの変速比は無限大であって駆動力を伝達しておらず、エキセントリックディスク31…の偏心量はゼロであってプル側コネクティングロッド39…およびプッシュ側コネクティングロッド40…は変速のための駆動反力を受けていない。このとき、コントロールシャフト20を付勢する荷重は油圧シリンダ22のリターンスプリング28の弾発力(UD側)と、エキセントリックディスク31の偏心した重心位置Gに作用する遠心力(OD側)と、エキセントリックディスク31の回転の加減速に伴う慣性力(加速時はOD側、減速時はUD側)の三つである。
【0048】
尚、リターンスプリング28はコントロールシャフト20をUD側に付勢するように配置されており、第1、第2油室26,27を接続する油路29が万一失陥したような場合に、リターンスプリング28でコントロールシャフト20をUD側に付勢することで、車速を低下させて安全性を確保することができる。
【0049】
時刻t1に変速比を無限大からOD側に変化させるべくソレノイド47をONしても、その時点でエキセントリックディスク31に作用する荷重はUD側に向かうリターンスプリング28の弾発力だけであるため、変速比は変化せずに無限大の状態にホールドされる。その後のエンジンEの加速によって時刻t2に前記遠心力および前記慣性力の和が前記リターンスプリング28の弾発力を超えると、変速比が無限大からOD側に変化し始めて入力軸12から出力軸13への駆動力の伝達が開始され、時刻t3にODポジションに達する。
【0050】
時刻t4に変速比をUD側に変化させるべくソレノイド46をONしたとき、駆動力の伝達によってプル側コネクティングロッド39…およびプッシュ側コネクティングロッド40…は既に周期的な駆動反力を受けているため、その駆動反力で変速比はODからUD側に向かって変化する。時刻t5から時刻t6までのクルーズ時には、両ソレノイド46,47がOFFして変速比がホールドされる。
【0051】
時刻t7にエンジン回転数を減少させて車両を減速するとともに、変速比を更にUD側に変化させるべくソレノイド46をONしたとき、エキセントリックディスク31をUD側に付勢する荷重は、リターンスプリング28の弾発力と、エキセントリックディスク31の回転の減速に伴う慣性力であり、エキセントリックディスク31をOD側に付勢する荷重は、エキセントリックディスク31の重心位置Gに作用する遠心力である。時刻t7にUD側への付勢力であるリターンスプリング28の弾発力と前記慣性力との和が、OD側への付勢力である前記遠心力を上回ったときにUD側への変速が開始され、時刻t8にエンジンEが停止した後もリターンスプリング28の弾発力でUD側への変速が継続し、時刻t9にニュートラルポジションに達して変速が終了する。
【0052】
尚、時刻t1にエンジンEが始動する時点で既に足軸回転数(車速)がゼロを超えているのは、本実施の形態の車両がハイブリッド車両であり、エンジンEに接続された駆動輪W,Wとは別の駆動輪をモータで駆動して走行しているからである。
【0053】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0054】
例えば、入力軸12の軸線Lに対するエキセントリックディスク31の中心Oの偏心量を変更する変速ユニット15の構造は、実施の形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0055】
12 入力軸
13 出力軸
15 変速ユニット(偏心量変更手段)
18 クランクピン
20 コントロールシャフト
22 油圧シリンダ(偏心量変更手段、移動規制手段)
24 ピストン
25 シリンダ
26 第1油室
27 第2油室
29 油路
30 制御バルブ(偏心量変更手段、移動規制手段)
31 エキセントリックディスク(第1支点)
39 プッシュ側コネクティングロッド(コネクティングロッド)
40 プル側コネクティングロッド(コネクティングロッド)
44 ワンウェイクラッチ
45 ピン(第2支点)
ε1 第1支点の偏心量
ε2 第1支点の偏心量
L 入力軸の軸線
G エキセントリックディスクの重心位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸(12)と共に回転する第1支点(31)と、
出力軸(13)にワンウェイクラッチ(44)を介して支持された第2支点(45)と、
前記第1支点(31)および前記第2支点(45)を連結するコネクティングロッド(39,40)と、
前記入力軸(12)の軸線(L)に対する前記第1支点(31)の偏心量(ε1,ε2)を変更することで前記入力軸(12)および前記出力軸(13)間の変速比を変更する偏心量変更手段(15,22,30)と、
を備える無段変速機において、
前記偏心量変更手段は、前記入力軸(12)の回転に伴って前記コネクティングロッド(39,40)から正逆両方向の反力を受けるコントロールシャフト(20)と、前記コントロールシャフト(20)の前記反力による移動を許可および規制する移動規制手段(22,30)とを備えることを特徴とする無段変速機。
【請求項2】
前記入力軸(12)は前記軸線(L)に対して偏心したクランクピン(18)を備え、前記第1支点は前記クランクピン(18)に揺動自在に支持されたエキセントリックディスク(31)で構成されることを特徴とする、請求項1に記載の無段変速機。
【請求項3】
前記軸線(L)に対する前記第1支点(31)の偏心量(ε1,ε2)がゼロのとき、前記エキセントリックディスク(31)の重心位置(G)は前記軸線(L)から偏心していることを特徴とする、請求項2に記載の無段変速機。
【請求項4】
前記移動規制手段は、シリンダ(25)と、前記シリンダ(25)に摺動自在に嵌合して前記コントロールシャフト(20)に接続されたピストン(24)と、前記ピストン(24)の両側に区画された第1、第2油室(26,27)と、前記第1、第2油室(26,27)を相互に連通させる油路(29)と、前記油路(29)に設けられた制御バルブ(30)とを備え、
前記制御バルブ(30)は、前記第1、第2油室(26,27)間の作動油の流通を阻止する位置と、前記第1油室(26)から前記第2油室(27)への作動油の流通のみを許容する位置と、前記第2油室(27)から前記第1油室(26)への作動油の流通のみを許容する位置とを切り換え可能であることを特徴とする、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−140999(P2011−140999A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2589(P2010−2589)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】