説明

無症候性(潜在性)心不全の治療のためのPDEIII阻害剤の使用

本発明は無症候性(潜在性)心不全の患者における臨床症状の発現時期の延長のため又は無症候性(潜在性)心不全の患者の心臓サイズを減少させるための薬物の調整のためのホスホジエステラーゼIII(PDE III)阻害剤又はCa2+感受性増強薬又は薬剤的に許容可能なその誘導体の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(発明の背景技術)
1. 技術分野
本発明は無症候性(潜在性)心不全の患者の心臓の逆リモデリング(reverse remodelling)及びその遅延性の臨床症状の発現の薬物治療のためのIII型ホスホジエステラーゼ(PDE III)阻害剤又は「Ca2+感受性増強薬」又は薬剤的に許容可能なその誘導体の使用に関する。
【0002】
2. 背景技術情報
心不全は異なるステージに分類される(ISACHCステージクラスIIII)。心臓の病状は、心雑音又は心室肥大が見られるが臨床症状を示さない(クラスI又は潜在性ステージ)ISACHCクラスIから始まる。心不全の進行には心臓サイズの増加が付随することが知られている。遅延性心筋症(DCM)において、左心室壁の厚さの心室の直径に対する比は減少し、僧帽弁及び三尖弁の環の外周は心室拡張の大きさに比例して増加する。DCMは第一に例えば遺伝子の異常により又は第二に心弁不全症によっていずれも心臓サイズの過負荷を引き起こすことによって起こる。しかしながら、臨床的には心臓サイズ、形及び機能の変化として明らかになる、ゲノムの発現、分子、細胞及び間質性の変化として定義される心臓リモデリングと関係する。心臓リモデリングは一般的に有害な兆候であり、心不全の進行と関連する。心臓リモデリングに逆行することが心不全治療の目標である。
【0003】
心不全治療は伝統的に根底にある疾患の問題に取り組むよりも対症療法に多大な焦点を置いてきた。症候性DCMを罹患した多くの犬が慎重な予後を有し(Monnet et al., 1995)、ドーベルマンに関してはとりわけ一般的に短い生存時間のみについて実験された(Calvert et al., 1982; Calvert et al., 1997)。DCMを発症した犬の生存実験における簡易な分析により、プラセボと比較してエナラプリルを投与した当該犬において治療成功期間が延長されることが示されたが(それぞれ142.8対56.5日間) (Ettinger et al., 1998)、症候性DCMを罹患した犬における生存への治療の影響を検討した研究はほとんどなかった。総じて、多くの知見により、短期間の血行力学的効果があるにもかかわらず、生存への副作用があることが明らかになった後は、経口の陽性変力作用薬は人の患者の急性心不全の治療において近年あまり使用されなくなってきた(Packer et al., 1991; Cowley and Skene, 1994)。最近、カルシウム感受性増強薬がドブタミン、アムリノン及びミルリノンのようなより伝統的な陽性変力作用薬に関係する副作用(カルシウムの過負荷を含む)を起こさずに陽性の変力作用を示すことが示唆されてきた。
【0004】
心雑音又は心室肥大が認められるが、臨床症状は見られないISACHCクラスIステージの心不全では、治療は2つの目的を持つ。:
-心臓サイズの病的変化を減少させる(正常値まで「逆リモデリング」)
-臨床症状の発症までの時間を延長する。
【0005】
しかしながら、現在のところ、無症候性ステージ(ISACHCクラスI)において心臓サイズの病的な変化を通常値まで減少させる「逆リモデリング」に効果的であると証明された利用可能な薬物がない。無症候性段階におけるACE阻害剤の使用についての研究が公表されてきたが、治療効果は示されておらず(SVEPTrial)、逆リモデリングも臨床症状の発症までの時間の延長についても示されていない。
【0006】
また、病状が進行すると臨床症状が存在し(クラスII又はIII)、そして、このステージに対してはいくつかの薬物がQOLと生存期間においても効果があることを示した。これらの薬物の一つはホスホジエステラーゼIII(PDE III)阻害剤又は「Ca2+感受性増強薬」であり、例えばシロスタゾール、ピモベンダン、ミルリノン、レボシメンダン、アムリノン、エノキシモン及びピロキシモンTZC-5665等である。心筋細胞へのカルシウム流入を増加させるよりむしろ、カルシウム感受性増強剤はトロポニンCとのカルシウムの結合を変更することによって既存の細胞質のカルシウムに対する収縮性蛋白質の感受性を増強することにより、彼らの陽性変力作用を達成する。カルシウム感受性増強により陽性変力作用を発生させ、それにより、細胞質カルシウム過負荷の悪影響のいくつかを避ける。細胞質カルシウム濃度の増加は不整脈及び突然死の傾向の増加に関係する。ヒトの心不全患者における経口によるピモベンダンの長期間使用についての臨床試験により、生存期間への副作用無しに運動負荷及びQOLの改善が示された(Kubo et al., 1992; Katz et al., 1992)。
【0007】
本発明の根底にある問題は、臨床症状の現れない時間を延長し、心臓サイズをリモデリングし、無症候性の心疾患(ISACHC Class I)の患者の死亡リスクを減少させる薬物を提供することであった。
【0008】
(発明の簡単な説明)
驚くべきことにホスホジエステラーゼIII(PDE III)阻害剤及び/又はCa2+感受性増強薬、好ましくはピモベンダン又は医薬的に許容可能なその誘導体が臨床症状の発症までの時間を延長することができ、及び無症候性(潜在性)心不全、例えば無症候性DCMの場合に心臓サイズを減少させるための薬物の調製に使用することができることを見出した。
【0009】
さらに、本発明は無症候性(潜在性)心不全、例えば無症候性DCMの場合に心臓サイズを減少させる方法に関し、前記方法は無症候性(潜在性)心不全、例えば無症候性DCMの患者に有効量のPDE III阻害剤、好ましくはピモベンダン又は薬剤的に許容可能なその誘導体を投与することを含む。
【0010】
さらに、本発明は無症候性(潜在性)心不全、例えば無症候性DCMの患者の臨床症状が現れるまでの時間の延長及び心臓サイズの減少に有効な組成物を含む包装材料及び組成物が無症候性(潜在性)心不全、例えば無症候性DCMの患者の症状が現れるまでの時間の延長及び心臓サイズの減少に使用できることを示すラベルを含む包装材料を含む製品に関し、前記組成物は少なくとも一つのPDE III阻害剤又はCa2+感受性増強薬、好ましくはピモベンダン又は薬剤的に許容可能なその誘導体を含む。
【0011】
(発明の詳細な説明)
本発明はホスホジエステラーゼIII(PDE III)阻害剤の使用に関し、好ましくはPDE III阻害剤、Ca2+感受性増強薬又は付加的にカルシウム感受性増強効果(Ca2+感受性増強薬)を示すPDE III阻害剤又は薬剤的に許容可能なその誘導体を心疾患の臨床症状の発症までの時間を延長する為の及び無症候性(潜在性)心不全、例えば無症候性DCMの患者の心臓サイズを減少させるための薬物の調製における使用である。
【0012】
本明細書中で使用される「PDE III阻害剤」という用語は、cAMPから5'AMPへの分解を防ぎプロテインキナーゼ及び他の二次伝達物質の活性に対するcAMPの効果を維持するホスホジエステラーゼ (PDE) III 阻害剤をいう。
【0013】
PDE III阻害剤の効果は陽性変力作用及び血管拡張であり、心不全の患者が感じる後負荷を減少させる。
【0014】
Ca2+感受性増強薬という用語は心収縮タンパクのカルシウム感受性を増加させる、例えば与えられたCa2+濃度において収縮力を増加させる化合物を言う。
【0015】
好ましいPDE III阻害剤又はCa2+感受性増強薬はシロスタゾール、ピモベンダン、ミルリノン、レボシメンダン、アムリノン、エノキシモン及びピロキシモン TZC-5665 又はそれらの医薬的に許容可能な塩、誘導体、代謝物又はプロドラッグである。最も好ましいのはピモベンダン及びレボシメンダン又はそれらの医薬的に許容可能な塩、誘導体、代謝物又はプロドラッグである。さらにより好ましいのはピモベンダン及びレボシメンダン。よりもっと好ましいのはピモベンダン、それらの医薬的に許容可能な塩、誘導体、代謝物又はプロドラッグである。
【0016】
一般的に4,5-ジヒドロ-6-[2-(4-メトキシフェニル)-1H-ベンズイミダゾール-5-イル]-5-メチル-3(2H)-ピリダゾンとして知られるピモベンダンは例えばEP 008 391 B1に開示されている。レボシメンダンはピリダゾン-ジニトリル誘導体である。とりわけ、レボシメンダンは一般に(R)-[[4-(1,4,5,6-テトラヒドロ-4-メチル-6-オキソ-3-ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルとして知られており、例えばGB 2228004、US 5,151,420及びUS 5,569,657などに以前より記載されている。
【0017】
本明細書で使用される「患者」という用語は無症候性(潜在性)心不全、例えば無症候性DCMに罹患した動物又はヒトを意味する。本明細書で使用される「患者」という用語にはヒトを含む霊長類のような哺乳類を含む。
【0018】
霊長類に加え、さまざまな他の動物を本発明の方法で治療することができる。例えばウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、モルモット、ラット又は他のウシ科、ヒツジ科、ウマ科、イヌ科、ネコ科、げっ歯類又はネズミ科の種を含む哺乳類を治療することができるがこれに限定されない。しかしながら、前記方法は例えばトリ科の種のような他の種においても実施できる。
【0019】
好ましくはヒトの患者、イヌ、ネコ及びウマである。ヒトの患者は無症候性(潜在性)心不全、例えば無症候性DCMに罹患した女性又は男性である。原則として、そのような人々は、6〜80歳(望ましくは30〜65歳)の子供、成人期初期、成人または高齢者である。
【0020】
本明細書で使用される「無症候性心疾患」という用語は心不全の臨床症状を示さない任意の心臓の収縮性障害又は疾患を意味する。特に、ISACHC‐ステージ‐クラスIの疾患に関する。本明細書で使用される「無症候性心疾患」という用語は任意の心不全の臨床症状を示さない収縮性の心臓の障害又は疾患に関する。特に、ISACHCステージクラスIの心不全に関する。とりわけISACHCステージクラスIのDCMに関する。
【0021】
本明細書で使用される「心臓サイズの減少」は心エコーを用いて診断され、無症候性(潜在性)心不全、例えば無症候性DCMを罹患する患者の心臓サイズの減少に関する。
【0022】
本明細書で使用する「臨床症状の発症までの時間を延長する」という用語は心臓の変化を診断したときから心不全の臨床症状が始まるまでの時間に関する。特にISACHCクラスIの心不全からクラスIIになるまで及びさらにClass IIIになるまでの延長に関する。
【0023】
本明細書で使用する「有効量」という用語は、前記PDE III阻害剤又はCa2+感受性増強薬を単回投与の剤形で投与した際に、臨床症状が現れるまでの時間の延長及び心臓サイズの減少を達成する為に十分な量を意味する。
【0024】
本発明のさらなる実施態様によれば、PDE III阻害剤及び/又はCa2+感受性増強薬は第二の活性治療薬と組み合わせて投与する。上記第二の活性治療薬は好ましくはカルシウムチャンネル遮断薬、ACE阻害剤、利尿薬、抗血小板薬、ベータ遮断薬及びアンジオテンシンII拮抗薬、アルドステロン拮抗薬、ジギタリス配糖体、抗不整脈薬又は利尿薬からなる群から選択され、
とりわけ、
上記カルシウムチャンネル遮断薬はジルチアゼム、ベラパミル、及びフェロジピン又は薬剤的に許容可能なそれらの誘導体からなる群から選択され、及び/又は
上記ACE阻害剤はオマパトリラート、MDL100240、アラセプリル、ベナゼプリル、カプトプリルシラザプリル、デラプリル、エナラプリル、エナラプリラート、ホシノプリル、ホシノプリラート、イミダプリル、リシノプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、ラミプリラート、酢酸サララシン、テモカプリル、トランドラプリル、トランドラプリラート、セラナプリル、モエキシプリル、キナプリラート及びスピラプリル又は薬剤的に許容可能なそれらの誘導体からなる群から選択され、及び/又は
上記ベータ遮断薬はビソプロロール、カルベジロール、メトプロロール、プロプラノロール及びチモロール又は薬剤的に許容可能なそれらの誘導体からなる群から選択され、及び/又は
上記アンジオテンシンII拮抗薬は酢酸サララシン、カンデサルタン、シレキセチル、バルサルタン、カンデサルタン、ロサルタンカリウム、エプロサルタン、イルベサルタン、タソサルタン、ポミサルタン及びテルミサルタン又は薬剤的に許容可能なそれらの誘導体からなる群から選択され、及び/又は
アルドステロン拮抗薬はスピロノラクトン、エプレレノン、カンレノン、カンレノンカリウム又は薬剤的に許容可能なそれらの誘導体からなる群から選択され、及び/又は
上記抗不整脈薬はアミオダロン、ベトリリウム(betrylium)、ジソピラミド、ドフェチリド、フレカイニド、イブチリド、メキシレチン、トカイニド、プロカインアミド、プロパフェノン、キニジン、ソタロール又は薬剤的に許容可能なそれらの誘導体からなる群から選択され、及び/又は
上記利尿薬はフロセミド、トラセミド、ブメタニド、エタクリン酸、アゾセミド、ムゾリミン、ピレタニド、トリパミド、ベンドロフルメチアジド、クロロチアジド、ヒドロクロロチアジド、ヒドロフルメチアジド、メチクロチアジド、ポリチアジド、トリクロルメチアジド、クロルチアリドン(chlorthialidone)、インダパミド、メトラゾン、キネタゾン、エトゾリン、トリアムテレン、アミロライド又は薬剤的に許容可能なそれらの誘導体からなる群から選択され、及び/又は
上記ジギタリス配糖体はジゴキシン、ジギトキシン、g-ストロファンチン、β-メチルジゴキシン、β-アセチルジゴキシン又は薬剤的に許容可能なそれらの誘導体からなる群から選択される。
【0025】
最も好ましくは、PDE III阻害剤又はCa2+感受性増強薬、好ましくはピモベンダン又はレボシメンダンさらに好ましくはピモベンダンが一又はそれ以上のACE阻害剤、一又はそれ以上の利尿剤及び一又はそれ以上のジギタリス配糖体からなる群から選択される一又はそれ以上の薬物を一緒に投与される。
【0026】
本発明の化合物は錠剤、カプセル(いずれも持続放出又は徐放性の処方を含む)、丸薬、粉末、顆粒、エリキシル、チンキ、懸濁液、シロップ及び乳剤のような経口投与用の剤形で投与することができる。また、当該化合物は経静脈(ボーラス又はインフュージョン)、腹腔内、皮下又は筋肉内投与用の剤形で投与してもよく、使用する剤形はいずれも製剤分野における当業者によく知られている。当該化合物は単独で投与することもできるが、一般的には選んだ投与経路及び標準的な製剤分野の経験に基づいて選択した薬剤的担体と共に投与される。
【0027】
本発明の化合物の投与計画はもちろん、特定の薬物の薬力学的特性及びその投与の方法及び経路;治療を受けるものの種、年齢、性別、健康状態、病状、体重;症状の性質及び程度; 並行している治療の種類;治療の頻度;投与経路、患者の腎機能及び肝機能及び望む効果、のような既知の要因に依存して変化するだろう。医師又は獣医師は障害の進行を予防し、抵抗し又は停止する為に必要な薬物の有効量を決定し、処方することができる。
【0028】
一般的な例に従うと、望ましい効果を得るために使用する場合、各活性成分(好ましくはピモベンダン又はレボシメンダン)の毎日の経口投与量は、約10μg/kg〜10mg/kg、好ましくは0.05mg/kg〜5mg/kg、特に0.1mg/kg〜2 mg/kgである。最も好ましくは1日あたり約0.1 mg/kg〜1.5 mg/kgのピモベンダンを投与する。
【0029】
PDE III阻害剤及び/又はCa2+感受性増強薬は、一度で一日量を、又は一日量の全量を毎日2、3、又は4回に分けて投与してもよい。
【0030】
PDE III阻害剤及び/又はCa2+感受性増強薬は適切な経鼻投与媒体の局所使用により経鼻で経皮パッチ剤を使用して経皮的に投与することができる。経皮投与系で投与する場合には、もちろん、投与計画中断続的に投与するよりも投与が持続的である。
【0031】
PDE III阻害剤及び/又はCa2+感受性増強薬は典型的に投与の意図する形式、つまり経口投与用の錠剤、カプセル、エリキシル、シロップ等に鑑み、及び従来の製剤分野の経験則に従って適切に選択した、適切な薬剤希釈剤、賦形剤又は担体(本明細書ではまとめて薬剤担体と呼ぶ)との混合物として投与される。
【0032】
例えば、錠剤又はカプセルの剤形での経口投与のためには有効成分はラクトース、澱粉、ショ糖、グルコース、メチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、第2リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、マンニトール、ソルビトール等のような経口の、無毒の、製剤的に許容可能な不活性担体と組み合わせることができ、液体の剤形における経口投与のためには、経口薬物成分はエタノール、グリセロール、水等のような任意の経口の、無毒の、製剤的に許容可能な不活性担体と組み合わせることができる。さらに、望ましい又は必要な場合には、適切な結合剤、潤滑剤、崩壊剤及び着色剤もまた混合物中に組み入れることができる。適切な結合剤には、澱粉、ゼラチン、グルコース又はベータ-ラクトースのような天然糖、コーン甘味料、アカシア、トラガント又はアルギン酸ナトリウムのような天然又は合成ゴム質、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ワックス類等が含まれる。これらの剤形に使用する潤滑剤にはオレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム等が含まれる。崩壊剤には澱粉、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンガム等が含まれるがこれに限定されない。
【0033】
PDE III阻害剤及び/又はCa2+感受性増強薬はまた小さな1枚膜リポソーム(small unilamellar vesicles)、大きな1枚膜リポソーム(large unilamellar vesicles)及び多重層リポソーム(multilamellar vesicles)のようなリポソーム送達システムの剤形で投与することができる。リポソームはコレステロール、ステアリルアミン、又はホスファチジルコリンのようなさまざまなリン脂質から形成することができる。
【0034】
PDE III阻害剤及び/又はCa2+感受性増強薬はまた、標的可能な薬物担体として可溶性ポリマーと組み合わせてもよい。前記ポリマーはポリビニルピロロリドン、ピラン コポリマー、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド‐フェノール、ポリヒドロキシエチルアスパルトアミドフェノール又はパルミトイル残基で置換したポリエチレンオキシドポリリジンを含むことができる。
【0035】
さらに、PDE III阻害剤及び/又はCa2+感受性増強薬は、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸のコポリマー、ポリエプシロン カプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルソエステル類、ポリアセタール類、ポリジヒドロピラン、ポリシアノアシレート類、及び架橋されたハイドロゲル又はハイドロゲルの両親媒性のブロックコポリマーのような薬物の調節性放出を達成するのに有益な生分解性ポリマー類と結合していてもよい。
【0036】
投与に適した剤形(医薬組成物)は投与単位あたり約1mgから約100mgの活性成分を含む。
【0037】
これらの医薬組成物において活性成分は通常、組成物の全質量に対し約0.5-95質量%存在する。
【0038】
ゼラチンカプセルは有効成分及びラクトース、澱粉、セルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸等のような粉末担体を含んでもよい。同様の希釈剤を錠剤を製造するのに使用することができる。錠剤及びカプセルは両方とも数時間もの間、薬物の持続的放出をもたらす持続性放出製剤として製造することも可能である。錠剤は不快な味をマスクする為に及び錠剤を環境から保護するために糖衣又はフイルムコートすることができ又は胃腸管内で選択的に崩壊するように腸溶コーティングすることもできる。
経口投与のための液体の剤形は患者が飲みやすいように着色料及び香味料を含むことができる。
【0039】
一般的に、水、適切な油、生理食塩水、ブドウ糖水溶液(グルコース)及び同類の東洋駅及びプロピレングリコール又はポリエチレングリコールのようなグリコール類は非経口的な溶液にとって適切な担体である。非経口的投与用の溶液は好ましくは有効成分の水溶性塩を含み、適切な安定剤、必要であれば緩衝剤を含む。亜硝酸ナトリウム又はアスコルビン酸のような抗酸化剤は単独で又は組み合わせても安定剤として適している。クエン酸及びその塩及びEDTAナトリウムも使用される。さらに、非経口的投与用の溶液は塩化ベンザルコニウム、メチル-又はプロピル-パラベン及びクロロブタノールのような保存料を含むことができる。
適切な製剤的担体は、本分野で標準的な参考書であるReminqton's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company に記載されている。
【0040】
2又はそれ以上の前記第二治療薬がPDE III阻害剤及び/又はCa2+感受性増強薬と共に投与される場合、一般的には各成分の量は典型的な一日投与量及び組み合わせて投与した際の治療薬の付加的又は相乗的な効果を考慮して、単独投与する場合の通常の投与量より減らした典型的な一日量である。
【0041】
特に、単回投与単位として提供された場合、組み合わせた有効成分間の化学的相互作用のの可能性が存在する。この理由の為に、式1の化合物及び第二治療薬を単回投与単位に組み合わせる場合は、活性成分を単回投与単位に組み合わせるが、活性成分間の物理的接触は最小限となるように(つまりは減少するように)処方される。例えば、一つの活性成分が腸溶コートされてもよい。一方の活性成分を腸溶コートすることによって、組み合わせた活性成分の接触が最小化するだけでなく、これらの成分のうち一方が胃の中で放出されず、むしろ腸内で放出されるように胃腸管におけるこれらの成分のうち一方の放出を調節することが可能となる。活性成分のうちの一つはまた胃腸管内で持続放出されるような材料でコートされてもよく及び組み合わせた活性成分間の物理的接触を最小化するのに貢献する。
【0042】
さらに、持続放出性の内容物をさらに腸溶コートし、この内容物の放出が腸のみによって起こるようにすることができる。さらに他のアプローチには一つの成分が持続性及び/又は腸溶ポリマーでコートされており、他の成分が有効成分を隔離する為に低粘度のグレードのヒドロキシプロピルメチルセルロース (HPMC)のようなポリマー又は技術分野で知られている他の適切な材料でコートしたものを組み合わせた生産物が含まれる。ポリマーコーティングにより他の成分との相互作用に対する障壁を形成するのに役立つ。
【0043】
本発明の組成を調整するための実施例としての方法をさらに詳細に以下に記述する。以下の実施例は、発明の内容を制限せずに、単に詳細の例証を提供する。研究は徴候性の犬で行った。
【0044】
(実施例)
本発明を支持する研究は、潜在性遅延心筋症に罹患したイヌにおいてピモベンダン(ベトメジン(Vetmedin)登録商標)を用いて実施した。
組み入れ基準(inclusion criteria)は遅延性の心筋症(DCM)によるISACHCスコアに従ってクラスIのうっ血性心不全を有すると診断されたイヌである。無症候性(潜在性)心不全、例えば無症候性DCMに罹患したイヌは、心エコー検査により確認されるような心臓の収縮力の減少又は体積過負荷又は心室拡張のような他の心効率(cardiac efficacy)の低下の兆候を有していなければならない。イヌはうっ血性心不全の症状が進行するまで、単剤療法をつづけ、心不全スコア(ISACHC)クラスII、III a又はbに悪化させた。エックス線撮影によるうっ血の確認の後、イヌはフロセミドによる治療か、または必要であれば臨床か心エコー検査の結果によりさらに別の心不全治療を受ける(第一評価項目)。イヌは最初の治療の前の0日目及び治療開始後約3か月に評価を行う。長期間の生存データを取るために、臨検を3−6ヵ月毎に繰り返すよう調節した。エコーは治療開始前(0日)に行い、臨床診断及び心臓のうっ血に対する薬物の効果の評価のためのその後の臨検の際に行った。心エコー検査はアイリッシュウルフハウンドの循環器科症例報告にしたがって行われる。検討される第一のパラメーターは心不全スコア(ISACHC)だろう。他のパラメーターは心エコー法データと同様に運動負荷試験、呼吸及び循環系の調査結果となるだろう。
【0045】
結果:4年後の暫定的な分析により、ピモベンダンで治療したイヌにおいて、臨床症状を示す段階(クラスII)進むものが有意に少ないことが示された。
【0046】
左心室の逆リモデリング(LVRR=左心室のサイズ及び機能の正常化)はピモベンダン(ca 80%)で治療したイヌにおいて示された。
【0047】
無症候性心不全に罹患したイヌにおける他の研究では臨床症状の発症までの時間の延長は示すことができていなかったので、これらの結果は予測できず、従って特許性を有する。さらに、他の研究で無症候性心不全に罹患したイヌにおいて心不全における逆リモデリングは示されておらず、したがってこれらの結果は予測できず、特許性を有する。
【0048】
(参考文献)
Calvert, C.A., Chapman, W.C., and Toal, R.C. (1982) Congestive cardiomyopathy in Doberman Pinscher dogs. Journal of the American Veterinary Medical Association 181: 598-602.
Calvert, C.A., Pickus, C.W., Jacobs, G.J., and Brown, J. (1997) Signalment, survival, and prognostic factors in Doberman Pinschers with end-stage cardiomyopathy. Journal of Veterinary Internal Medicine 11: 323-326.
Cohn J N, et al. (2000) Cardiac Remodeling - Concepts and Clinical implications:
A Consensus Paper From an International Forum on Cardiac Remodeling J. of the American College of Cardiology, Vol. 35, No.3, 569-582
Cowley, A.J. and Skene, A.M. (1994) Treatment of severe heart failure: quantity or quality of life? A trial of enoximone. British Heart Journal 72: 226-230.
Ettinger, S.J., Benitz, A.M., Ericsson, G.F., Cifelli, S., Jernigan, A.D., Longhofer, SL, Trimboli, W., and Hanson, P.D. (1998) Effects of enalapril maleate on survival of dogs with naturally acquired heart failure. The Long-Term Investigation of Veterinary Enalapril (LIVE) Study Group. Journal of the American Veterinary Medical Association 213: 1573-1577.
Katz, S.D., Kubo, S.H., Jessup, M., Brozena, S., Troha, J.M., Wahl, J., Cohn, J.N., Sonnenblick, E.H., and LeJemtel, T.H. (1992) A multicenter, randomized, double-blind, placebo-controlled trial of pimobendan, a new cardiotonic and vasodilator agent, in patients with severe congestive heart failure. American Heart Journal 123: 95-103.
Kubo, S.H., Gollub, S., Bourge, R., Rahko, P., Cobb, F., Jessup, M., Brozena, S., Brodsky, M., Kirlin, P., and Shanes, J. (1992) Beneficial effects of pimobendan on exercise tolerance and quality of life in patients with heart failure. Results of a multicenter trial. The Pimobendan Multicenter Research Group. Circulation 85: 942-949.
Monnet, E., Orton, E.C., Salman, M., and Boon, J. (1995) Idiopathic dilated cardiomyopathy in dogs: survival and prognostic indicators. Journal of Veterinary Internal Medicine 9: 12-17.
Kvart C, Haggstrom J, Pedersen HD et al.,(2002) Efficacy of enalapril for prevention of congestive heart failure in dogs with myxomatous valve disease and asymptomatic mitral regurgitation. J Vet Intern Med. 2002 Jan-Feb;16(1):80-8.
Packer, M., Carver, J.R., Rodeheffer, R.J., et al, and for the PROMISE Study Research Group (1991) Effect of oral milrinone on mortality in severe chronic heart failure. New England Journal of Medicine 325: 1468-1475.
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】国際小動物心臓会議(ISACHC)の重症度分類に対応した心不全スコアリングを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無症候性(潜在性)心不全の患者の心臓サイズを減少させる薬物の調製のための又は無症候性(潜在性)心不全の患者における臨床症状の発現時期を延長する薬物の調製のためのホスホジエステラーゼIII(PDE III)阻害剤、Ca2+感受性増強薬又は薬剤的に許容可能なその誘導体の使用。
【請求項2】
無症候性(潜在性)心不全が無症候性(潜在性)DCMである請求項1記載の使用。
【請求項3】
PDE III阻害剤がさらにカルシウム感受性増強作用を有する請求項1及び2記載の使用。
【請求項4】
PDE III阻害剤又はCa2+感受性増強薬がピモベンダン、ミルリノン、レボシメンダン、アムリノン、エノキシモン及びピロキシモン又は薬剤的に許容可能なその誘導体からなる群から選択される請求項1-3記載の使用。
【請求項5】
PDE III阻害剤又はCa2+感受性増強薬が経口又は非経口の剤形で利用される請求項1-4いずれか一項記載の使用。
【請求項6】
PDE III阻害剤又はCa2+感受性増強薬の1日あたりの投与量が10μg/kgから10mg/kgである、請求項1-5いずれか一項記載の使用。
【請求項7】
前記患者がヒトを含む霊長類、犬、猫及び馬からなる群から選択された哺乳類である、請求項1-6いずれか一項記載の使用。
【請求項8】
心不全に罹患している患者における心臓サイズの減少方法であって、前記方法が前記患者に有効量のPDE III阻害剤又はCa2+感受性増強薬又は薬剤的に許容可能なその誘導体を投与することを含む方法。
【請求項9】
無症候性(潜在性)心不全を罹患している患者の心臓サイズの減少に効果的である組成物を含む包装材料を含む製品であって、前記包装材料が、組成物が無症候性(潜在性)心不全に罹患している患者の心臓サイズを減少させることができる又は無症候性(潜在性)心不全の患者における症状の発現時期を延長することができることを示すラベルを含み、前記組成物が少なくとも一つのホスホジエステラーゼIII(PDE III)阻害剤又はCa2+感受性増強薬又は薬剤的に許容可能なその誘導体であるものを含む、上記製品。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2009−515927(P2009−515927A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−540580(P2008−540580)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【国際出願番号】PCT/EP2006/068231
【国際公開番号】WO2007/054514
【国際公開日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(504225895)ベーリンガー インゲルハイム フェトメディカ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (34)
【Fターム(参考)】