説明

無端ベルト、定着装置及び画像形成装置

【課題】本構成を有しない無端ベルトと比べ、表面層の耐久性を向上する無端ベルトを提供する。
【解決手段】少なくとも耐熱性樹脂を含む円筒形状の外周層を有し、外周層の表面の静止摩擦係数が軸方向に不連続的に変化するように形成された定着ベルト62と、定着ベルト62に接触し回転駆動する定着ロール(回転体)61と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無端ベルト、定着装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を用いる複写機等の画像形成装置では、加熱定着法が広く採用されている。この加熱定着法に用いる定着装置として、無端ベルトを定着ロールに押圧し、用紙を挟み込む圧接域(挟込領域)形成するベルト挟込方式が開発されている(特許文献1参照)。
ベルト挟込方式の定着装置では、圧力付与部材により無端ベルトを定着ロールに圧接させる。このため、圧力付与部材−無端ベルト間や、無端ベルト表面の摺動抵抗増大を解決する手法が報告されている。
例えば、特許文献2には、普通紙に対する表面静止摩擦係数が0.06以下の表面層を有する無端ベルトを備えた定着装置が記載されている。
特許文献3には、用紙に対する静止摩擦係数μ2が定着ロールの用紙に対する静止摩擦係数μ1より小さい表面を有する無端ベルトを備えた定着装置が記載されている。
【0003】
また、ベルト挟込方式の定着装置では、用紙の紙皺や画像ずれ等の発生を抑制する手法が報告されている。例えば、特許文献4には、周長が中央部より両端部で大きく形成された無端ベルトを備える定着装置が記載されている。
さらに、無端ベルト表面の耐久性を向上させる手法として、特許文献5に、フッ素樹脂を主成分とする表面離型性外層に熱硬化性樹脂を含有する定着用環状体が記載されている。
また、特許文献6には、フッ素樹脂層中に平均粒子径5μm〜25μmの無機粒子状物質と導電性物質とが配合された加圧ベルトが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3298354号公報
【特許文献2】特開2005−037829号公報
【特許文献3】特開2005−070453号公報
【特許文献4】特開2005−148544号公報
【特許文献5】特開2002−251092号公報
【特許文献6】特開2005−258432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、本構成を有しない無端ベルトと比べ、表面層の耐久性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、少なくとも耐熱性樹脂を含む円筒形状の外周層の表面に、当該外周層の円周方向に沿って露出した充填材が偏在する第1の帯状部分と、前記第1の帯状部分に対し表面に露出した充填剤の濃度が相対的に低い第2の帯状部分と、を有し、前記第1の帯状部分と前記第2の帯状部分とが、前記外周層の軸方向に交互に配置されることを特徴とする無端ベルトである。
請求項2に係る発明は、前記外周層の表面は、当該表面に露出した充填材の濃度が、前記第1の帯状部分と前記第2の帯状部分において不連続的に変化するように形成されたことを特徴とする請求項1に記載の無端ベルトである。
請求項3に係る発明は、前記外周層の表面は、当該表面の記録材に対する静止摩擦係数が、前記第1の帯状部分と前記第2の帯状部分において軸方向に不連続的に変化することを特徴とする請求項1又は2に記載の無端ベルトである。
請求項4に係る発明は、前記第1の帯状部分に配合された充填剤の濃度に対し前記第2の帯状部分に配合された充填剤の濃度が相対的に低いことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の無端ベルトである。
【0007】
請求項5に係る発明は、少なくとも耐熱性樹脂を含む円筒形状の外周層を有し、当該外周層の表面の静止摩擦係数が軸方向に不連続的に変化するように形成された定着ベルトと、
前記定着ベルトに接触し回転駆動する回転体と、を備えることを特徴とする定着装置である。
【0008】
請求項6に係る発明は、トナー像を形成する像形成部と、前記トナー像形成部により形成されたトナー像を記録材上に転写する転写部と、駆動源に接続されて回転駆動する加圧ロールと、当該定着ロールに接触しながら従動回転し、少なくとも耐熱性樹脂を含む外周層の表面の記録材に対する静止摩擦係数が軸方向に不連続的に変化するように形成された定着ベルトとを有し、当該記録材に転写されたトナー像を当該記録材上に定着する定着部と、を有することを特徴とする画像形成装置である。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明によれば、本構成を有しない無端ベルトと比べ、表面層の耐久性が向上する。
【0010】
請求項2に係る発明によれば、表面の静止摩擦係数が軸方向に不連続的に変化するように形成されていない無端ベルトと比べ、定着ベルトとして使用すると長期使用における用紙における紙皺の発生を抑制する性能が維持される。
【0011】
請求項3に係る発明によれば、表面の記録材に対する静止摩擦係数が、第1の帯状部分と第2の帯状部分において軸方向に不連続的に変化しない無端ベルトと比べ、表面層の摩滅が減少する。
【0012】
請求項4に係る発明によれば、第1の帯状部分に配合された充填剤の濃度に対し第2の帯状部分に配合された充填剤の濃度が相対的に高い場合に比べ、表面に露出する充填材の濃度が軸方向に不連続に変化する。
【0013】
請求項5に係る発明によれば、表面の静止摩擦係数が軸方向に不連続的に変化するように形成された定着ベルトを装着しない場合に比べ、用紙の皺の発生が抑制される。
【0014】
請求項6に係る発明によれば、表面の静止摩擦係数が軸方向に不連続的に変化するように形成された定着ベルトを装着しない場合に比べ、用紙の皺の発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施の形態が適用される画像形成装置の概略構成図である。
【図2】本実施の形態が適用される定着装置の一例を説明する図である。
【図3】定着ベルトの蛇行防止部材を説明する図である。
【図4】本実施の形態が適用される定着ベルトの一例を説明する図である。
【図5】表面層における充填剤の分布の例を説明する図である。
【図6】定着ベルトの他の実施の形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。また、使用する図面は、本実施の形態を説明するために使用するものであり、実際の大きさを現すものではない。
【0017】
(画像形成装置)
図1は、本実施の形態が適用される画像形成装置の概略構成図である。ここでは、一般にタンデム型と呼ぶ中間転写方式の画像形成装置を例に挙げ説明する。図1に示す画像形成装置100は、像形成部として、電子写真方式により各色成分のトナー像を形成する複数の画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kを備える。次に、転写部として、各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kにより形成する各色成分トナー像を中間転写ベルト(像保持体)15に順次転写(一次転写)する一次転写部10と、中間転写ベルト15上に転写した重畳トナー画像を記録材である用紙に一括転写(二次転写)する二次転写部20を有する。さらに、定着部として、二次転写された画像を用紙上に定着する定着装置60を備える。また、各装置(各部)の動作を制御する制御部40を有する。
【0018】
図1に示すように、各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kは、矢印A方向に回転する感光体ドラム11と、感光体ドラム11を帯電する帯電器12と、感光体ドラム11上に静電潜像を書込むレーザ露光器13と、各色成分トナーを収容し感光体ドラム11上の静電潜像をトナーにより可視像化する現像器14とを有する。また、感光体ドラム11上に形成する各色成分トナー像を一次転写部10にて中間転写ベルト15に転写する一次転写ロール16と、感光体ドラム11上の残留トナーを除去するドラムクリーナ17と、を有する。これらの画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kは、中間転写ベルト15の上流側から、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の順に略直線状に配置されている。
【0019】
中間転写ベルト15は、各種ロールにより、図1に示す矢印B方向に循環駆動する。各種ロールとして、中間転写ベルト15を駆動する駆動ロール31と、中間転写ベルト15を支持する支持ロール32と、中間転写ベルト15に一定の張力を与え蛇行を防止するテンションロール33と、二次転写部20に設けるバックアップロール25と、中間転写ベルト15上の残留トナーを掻き取るクリーニング部に設けるクリーニングバックアップロール34とを有している。
【0020】
一次転写部10は、中間転写ベルト15を挟み感光体ドラム11に対向する一次転写ロール16を有する。二次転写部20は、中間転写ベルト15のトナー像保持面側に配置する二次転写ロール(転写部材)22と、二次転写ロール22の対向電極として中間転写ベルト15の裏面側に配置されたバックアップロール25と、バックアップロール25に二次転写バイアスを印加する給電ロール26とを有する。
【0021】
二次転写部20の下流側に、中間転写ベルト15上の残留トナーや紙粉を除去する中間転写ベルトクリーナ35を設ける。イエローの画像形成ユニット1Yの上流側に、各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kにおける画像形成タイミングをとるための基準信号を発生する基準センサ(ホームポジションセンサ)42を配設する。また、黒の画像形成ユニット1Kの下流側には、画質調整を行うための画像濃度センサ43を配設する。
【0022】
用紙搬送系には、用紙収容部50と、用紙収容部50中の用紙(P)を取り出して搬送するピックアップロール51と、用紙を搬送する搬送ロール52と、用紙を二次転写部20へと送る用紙搬送部材53と、二次転写ロール22により二次転写された用紙を定着装置60へと搬送する搬送ベルト55と、用紙を定着装置60に導く定着入口ガイド56とを有する。
【0023】
次に、画像形成装置100の基本的な作像プロセスについて説明する。
図1に示すような画像形成装置100では、画像読取装置(図示せず)等から出力される画像データに画像処理を施した後、画像データをY、M、C、Kの4色の色材階調データに変換し、レーザ露光器13に出力する。レーザ露光器13は、入力される色材階調データに応じ、例えば、半導体レーザから出射された露光ビームBmを画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kの矢印A方向に回転する各感光体ドラム11に照射する。各感光体ドラム11の表面を帯電器12によって帯電した後、レーザ露光器13によって表面を走査露光し、静電潜像を形成する。形成した静電潜像は、各々の画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kによって、Y、M、C、Kの各色のトナー像として現像する。
【0024】
つぎに、感光体ドラム11上に形成するトナー像を、一次転写部10において中間転写ベルト15の表面に順次重ね合わせて一次転写を行う。中間転写ベルト15は矢印B方向に移動してトナー像を二次転写部20に搬送する。用紙搬送系は、トナー像を二次転写部20に搬送するタイミングに合わせて、用紙収容部50から用紙を供給する。
二次転写部20では、中間転写ベルト15上に保持された未定着トナー像を、中間転写ベルト15と二次転写ロール22との間に挟み込まれた用紙上に静電転写する。その後、トナー像を静電転写した用紙を搬送ベルト55により定着装置60まで搬送し、定着装置60は、用紙上の未定着トナー像を熱および圧力で処理し用紙上に定着する。定着画像を形成した用紙は、画像形成装置の排出部に設けた排紙積載部に搬送する。
【0025】
(定着装置)
次に、図2及び図3を用いて定着装置について説明する。図2は、本実施の形態が適用される定着装置の一例を説明する図である。図2に示すように、定着装置60は、回転方向Cに回転駆動する回転体の一例としての定着ロール61、回転方向Dに従動回転する無端ベルトの一例としての定着ベルト62、定着ベルト62の内側に配置され、定着ベルト62を定着ロール61に圧接させる圧力部材としての圧力パッド部64(ここでは、弾性圧力パッド64aと、高剛性パッド64bにより構成している)、シート状の摺動部材68により主要部が構成されている。
また、剥離の補助手段として、押圧部Nの下流側に、剥離部材70が設置されている。剥離部材70は、定着ロール61の回転方向Cと対向する向き(カウンタ方向)に、定着ロール61と近接する状態で配置される剥離バッフル71と、剥離バッフル71を保持するホルダ72とで構成されている。
尚、本実施の形態に限定されず、圧力部材は、定着ベルト62と定着ロール61とが相対的に加圧されるように配置されていればよい。従って、定着ベルト62側が定着ロール61に加圧されても良く、定着ロール61側が定着ベルト62に加圧されても良い。
【0026】
定着ロール61は、金属製のコア(円筒状芯金)611の周囲に耐熱性弾性体層612、および離型層613を積層して構成されている。コア611の外径および肉厚は、本実施の形態では、通常、外径20mm〜40mmである。肉厚は、アルミニウムの場合、1mm〜3mm、SUSや鉄の場合は0.4mm〜1.5mm程度である。耐熱性弾性体層612の材料は、例えば、硬度が15°〜45°(JIS−A)程度のシリコーンゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。離型層613の材料は、本実施の形態では、フッ素樹脂が挙げられる。フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等が挙げられる。また、それらの複合材料、又それらの樹脂にカーボンやアルミナ、硫酸バリウムのようなフィラーを配合したものが使用できる。離型層613の厚みは、好ましくは5μm〜50μm、より好ましくは10μm〜40μmである。本実施の形態では、厚さ30μmのPFAチューブを被覆している。
【0027】
定着ロール61の内部には、発熱源としてのハロゲンヒータ66が配設されている。一方、定着ロール61の表面には温度センサ69が接触して配置されている。画像形成装置100(図1参照)の制御部40(図1参照)は、この温度センサ69による温度計測値に基づいてハロゲンヒータ66の点灯を制御し、定着ロール61の表面温度が設定温度(例えば、170℃)を維持するように調整している。
【0028】
定着ベルト62は、内部に配置された圧力パッド部64とベルト走行ガイド63と、さらに図2には図示しないが、両端部に配置された蛇行防止部材73(図3参照)によって回転自在に支持されている。ベルト走行ガイド63は低摩擦材料で形成され、定着ベルト62内周面との摺擦抵抗が低減される。また、ベルト走行ガイド63は低熱伝導性材料で形成され、定着ベルト62からの熱伝導を抑制している。
そして、定着ベルト62は、定着ロール61との間に用紙(P)が供給される挟込領域N(押圧部)を形成し、挟込領域Nにおいて定着ロール61に対して圧接されて配置されている。挟込領域Nには、定着入口ガイド56を介し用紙(P)が供給される。定着ベルト62の構造については後述する。
なお、挟込領域Nには、用紙(P)に限られず、プラスチックフィルム等のシートであてもよい。シートとしては、画像が記録される記録媒体に限られるものでなく、種々の用途のシートが用いられる。また、その枚数としては、1枚でもよいし、ラミネートシートを作製する場合のように複数枚であってもよい。
【0029】
圧力パッド部64は、定着ベルト62の内側に配置され、定着ベルト62を介して定着ロール61に押圧され、定着ロール61との間で挟込領域Nを形成している。圧力パッド部64は、ホルダ65に支持され、弾性圧力パッド64a(プレニップ用)を挟込領域Nの入口側に配置し、幅の広い挟込領域Nを確保している。また、高剛性パッド64b(剥離ニップ用)を挟込領域Nの出口側に配置し、定着ロール61に歪みを与えている。
弾性圧力パッド64aの材料は、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の弾性体や板バネ等が挙げられる。また、定着ロール61の外周面に倣うように凹形状を有している。
高剛性パッド64bの材料は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド、ポリエステル、ポリアミド等の耐熱性樹脂や、それらの樹脂にガラスファイバー等を添加し強化した材料、鉄、アルミニウム、SUS等の金属が挙げられる。
【0030】
弾性圧力パッド64aおよび高剛性パッド64bの定着ベルト62と接する面に摺動部材68が設けられ、定着ベルト62の内周面と圧力パッド部64との摺動抵抗を低減している。摺動部材68の材料は、例えば、シンタード成型したPTFE樹脂シート、フッ素樹脂を含浸させたガラス繊維シート、ガラス繊維にフッ素樹脂のフィルムシートを加熱融着しサンドイッチした積層シート等が挙げられる。
尚、圧力パッド部64と定着ロール61の間のニップ圧力は、スプリング等の部材(図示せず)によって荷重が負荷され、その荷重は、A4サイズ対応(A4SEF通紙幅対応)の装置で、100N〜350N、A3サイズ対応(A4LEF通紙幅対応)の装置で、150N〜450N程度である。
【0031】
ホルダ65には、定着装置60の長手方向に亘って、潤滑剤塗布部材67が配設されている。潤滑剤塗布部材67は、定着ベルト62の内周面に対して接触するように配置され、アミノ変性シリコーンオイル等の潤滑剤を適量供給する。これにより、定着ベルト62と摺動部材68との摺動部に潤滑剤を供給し、摺動部材68を介した定着ベルト62と圧力パッド部64との摺動抵抗をさらに低減している。
【0032】
また、本実施の形態が適用される定着装置60は、定着ベルト62の端面に接触し、その蛇行を防止する蛇行防止部材73を備えている。図3は、定着ベルト62の蛇行防止部材73を説明する図である。図3に示すように、蛇行防止部材73は、支持部731と、フランジ部732と、挿入部733と、を有する。蛇行防止部材73は、その挿入部733を定着ベルト62の両端部から挿入し、フランジ部732を定着ベルト62が蛇行した際にその端面と突き当たるように一定の距離離間させた状態で配置される。
【0033】
定着ベルト62はベルト走行ガイド63の外周面に沿って回転する。また、定着ベルト62は圧力パッド部64よって定着ロール61に押圧され、その押圧力による定着ロール61からの摩擦力で従動して回転する。この際、部品寸法のバラツキや挟込領域Nを通過する用紙の影響を受ける。そして、定着ロール61からの摩擦力が幅方向で不均一になると、定着ベルト62は軸方向に移動する力が働き、いずれかの端部に片寄る、いわゆるベルトウォークが発生する。蛇行防止部材73を備えることにより定着ベルト62の蛇行が抑制される。
なお、蛇行防止部材73は、PPS、PET、PBT、LCP等の耐熱性樹脂や、更に耐久性や摩擦係数を下げるためのフィラーを加えたものによって形成されている。
【0034】
(定着ベルト62)
次に、図4乃至図6を用い、定着ベルト62について説明する。
尚、本実施の形態では、定着ロール61に押圧される加圧側の定着ベルト62の例を示すが、必ずしもこれに限定されない。例えば、無端ベルトが、内側から圧力付与部材により押圧され、対向する回転体と挟込領域を形成するものであれば、定着側のベルトでもよい。また、定着側、加圧側の両方にベルトが用いられた定着装置の場合にも適用される。
【0035】
図4は、本実施の形態が適用される定着ベルトの一例を説明する図である。
図4に示すように、定着ベルト62は、全体に円筒形状を有する無端ベルトであって、内周層を形成する基層621と、基層621上に接着層625を介して形成された外周層としての表面層622とから構成されている。
表面層622は、充填材を配合したフッ素樹脂等の耐熱性樹脂から構成されている。図4に示すように、表面層622は、表面に露出した充填材が円周方向に偏在する第1の帯状部分623と、第1の帯状部分623に対し露出した充填剤の濃度が相対的に低い第2の帯状部分624と、を有している。そして、第1の帯状部分623と第2の帯状部分624とは、定着ベルト62の円周方向と平行にリング状に形成され、且つ、定着ベルト62の軸方向の全体に縞模様を形成するように交互に配置されている。
【0036】
定着ベルト62の表面層622の表面はまた、後述するように、表面に露出した充填材の濃度が、第1の帯状部分623と第2の帯状部分624において不連続的に変化するように形成されている。即ち、充填材の濃度が相対的に高い第1の帯状部分623の表面は、表面に露出した充填剤の濃度が相対的に高く、第1の帯状部分623に比べ充填材の濃度が相対的に低い第2の帯状部分624の表面は、表面に露出した充填材の濃度が相対的に低い。
【0037】
このような表面に露出した充填材の濃度が相対的に高い第1の帯状部分623の表面と、第1の帯状部分623に比べ表面に露出した充填材の濃度が相対的に低い第2の帯状部分624の表面とは、定着ベルト62の軸方向に沿って交互に、かつ円周方向に連続して形成されている。第1の帯状部分623と第2の帯状部分624とを併せた軸方向の幅は、本実施の形態では、0.5mm〜10mm程度の範囲が好ましく、1mm〜5mm程度の範囲がより好ましい。
また、表面層622における第1の帯状部分623と第2の帯状部分624との相互の割合は特に限定されない。通常、それぞれの充填材の配合量に基づき、第1の帯状部分623に対する第2の帯状部分624の割合が、10%〜90%の範囲で選択される。
【0038】
尚、本実施の形態では、無端ベルトの構造の一例として、基層621の上に接着層625を介して耐熱性樹脂を主成分とする表面層622を積層した2層構造を説明したが、接着層625を介さずに積層した2層構造としてもよく、必ずしも2層構造に限定されない。例えば、基層621と表面層622の間に複数の層を積層してもよい。さらに、耐熱性樹脂を主成分とする表面層のみの単層構造であってもよい。また、無端ベルトは、その材質、形状、大きさ等について特に限定されない。
【0039】
図5は、表面層622における充填剤の分布の例を説明する図である。図5(a)に示すように、表面層622の第1の帯状部分623には、定着ベルト62の周方向(矢印Dの方向(定着ベルト62の回転方向:図2参照))に沿って充填材Fが偏在している。一方、第1の帯状部分623に隣接して形成された第2の帯状部分624には、充填材Fが殆ど含まれず、第1の帯状部分623に対し相対的に充填材Fの濃度が低くなるように形成されている。尚、矢印Mは定着ベルト62の軸方向を示す。
また、表面層622の表面には、充填材Fが露出している。前述したように、第1の帯状部分623の表面に露出した充填材Fの濃度に対し、第2の帯状部分624の表面に露出した充填材Fの濃度は相対的に低い。
【0040】
図5(b)は、定着ベルト62の断面構造を説明する図である。図5(b)に示すように、充填材が偏在する第1の帯状部分623と、第1の帯状部分623に対し相対的に充填剤の濃度が低い第2の帯状部分624とが、定着ベルト62の軸方向Mの全体に縞模様を形成するように交互に配置されている。
図5(c)は、図5(b)に示す表面層622における充填材Fの濃度を示している。横軸は、定着ベルト62の軸方向Mの位置である。縦軸Nは、表面層622における充填剤Fの濃度である。図5(c)に示すように、表面層622に含まれる充填剤Fの濃度は、第1の帯状部分623(濃度a)と第2の帯状部分624(濃度b)とが交互に形成されていることにより、軸方向に濃度の段差Δを有するように不連続的(a→b→a)に変化する。
【0041】
本実施の形態において、充填剤Fの配合濃度は特に限定されない。通常、第1の帯状部分623において、充填剤Fの濃度は3vol%〜30vol%の範囲で、好ましくは、10vol%〜20vol%の範囲で選択される。また、第2の帯状部分624において、充填剤Fの濃度は20vol%以下、好ましくは、10vol%以下の範囲で選択される。さらに、表面層622は、第1の帯状部分623の充填剤Fの濃度と第2の帯状部分624の充填剤Fの濃度との差が、少なくとも3vol%となるように、好ましくは、5vol%以上となるように形成される。
【0042】
図5(c)はまた、表面層622の表面に露出した充填剤の濃度を示している。即ち、表面層622に露出した充填剤Fの濃度は、第1の帯状部分623(濃度a’)と第2の帯状部分624(濃度b’)とが交互に形成されていることにより、軸方向に段差Δを有するように不連続的(a’→b’→a’)に変化する。
【0043】
本実施の形態では、第1の帯状部分623の表面に露出した充填剤の濃度は、通常、3%〜30%、好ましくは、10%〜20%である。また、第2の帯状部分624の表面に露出した充填剤の濃度は、通常、20%以下である。さらに、表面層622は、第1の帯状部分623の表面に露出した充填剤Fの濃度と、第2の帯状部分624の表面に露出した充填剤Fの濃度との差が、少なくとも3%となるように、好ましくは、少なくとも5%以上となるように形成される。
ここで、表面層622の表面に露出した充填剤の濃度は、以下の測定方法により測定する。即ち、表面層622の表面層から走査型電子顕微鏡(SEM)による表面観察用に小片を切り出し、試料台に固定後、導電性を付与する為に白金を蒸着した。次に走査型電子顕微鏡(SEM)JSM−6700F(日本電子(株)製)を用いて加速電圧10KVで組成像(COMPO像)を撮影倍率500倍で撮影した。更に画像解析により150μm×150μmの領域の中に占める表面に露出した充填剤粒子部分の面積比率を求め、表面に露出した充填剤の濃度とした。
【0044】
本実施の形態が適用される定着ベルト62は、前述したように、表面層622の表面に露出した充填剤の濃度が軸方向に不連続的に変化するように形成されていることにより、表面層622の表面の用紙(P)に対する表面静止摩擦係数が、第1の帯状部分623と第2の帯状部分624において軸方向に不連続的に変化している。
即ち、フッ素樹脂等の耐熱性樹脂を含む表面層622の表面に充填材Fが露出することにより、用紙(P)との接触面積が減少し、表面静止摩擦係数を低下させることができる。本実施の形態では、表面層622の表面に露出する充填剤Fの濃度が相対的に高い第1の帯状部分623と、表面に露出する充填剤Fの濃度が相対的に低い第2の帯状部分624とが、軸方向に交互に平行に形成されている。これにより、用紙(P)に対する表面静止摩擦係数が相対的に低い部分と高い部分とが交互に形成され、表面静止摩擦係数が不連続的に変化する。
【0045】
ベルト挟込方式の定着装置では、無端ベルトは、定着ロールと圧力付与部材との間の押圧力により用紙に押し付けられ、用紙との摩擦力によって用紙の移動に合わせて従動している。このようなベルト挟込方式の場合、長期の使用により無端ベルトの表面状態が変化すると、無端ベルトの動きが定着ロールに対応し難くなる。それに伴い、用紙における紙皺の発生を抑制する性能(以下、「紙皺性能」と記すことがある。)も低下することが判明している。
これに対し、本実施形態においては定着ベルト62の表面層622をこのような構造に形成することにより、表面層622の耐久性が向上する。また、定着ベルト62を長期間使用することによる紙皺性能の低下が防止される。さらに、表面層622の耐久性が向上することにより、表面層622の摩滅によるトナーの固着や固着による用紙詰まり、摩耗粉の付着等による画像汚れが抑制される。
【0046】
本実施の形態が適用される定着ベルト62の構造は、図4に示すように、充填剤Fの濃度が相対的に高い第1の帯状部分623と相対的に低い第2の帯状部分624とが、軸方向に交互に平行に形成されていることが特に好ましい。
充填剤Fの濃度が相対的に高い部分と相対的に低い部分とが軸方向に交互に平行に形成されていないと、表面層622の耐久性等において充分な効果が得られない傾向がある。
【0047】
図6は、定着ベルト62の他の実施の形態を説明する図である。図4に示した実施の形態と同様な構成については同じ符号を使用し、その説明を省略する。
図6(a)に示すように、定着ベルト62’の表面層622には、交互に配置された第1の帯状部分626と第2の帯状部分627とが、定着ベルト62’の外周面に沿って螺旋状に形成されている。図4に示した実施の形態とは異なり、第1の帯状部分626と第2の帯状部分627とは、定着ベルト62’の円周方向と平行にリング状に形成されず、円筒形状の表面層622を周回しつつ軸方向に連続的に形成されている。
【0048】
また、図6(b)に示すように、充填剤Fが偏在する第1の帯状部分628を、表面層622の表面近傍のみに形成することもできる。この場合も図4に示した実施の形態と同様に、表面層622に露出した充填剤Fの濃度は、第1の帯状部分628と第2の帯状部分629とが交互に形成されていることにより、軸方向に不連続的に変化させることができる。この場合、充填剤Fの濃度が第1の帯状部分628に対し相対的に低い第2の帯状部分629は、表面層622のマトリックスを形成している。
尚、図6(b)では、充填剤Fが偏在する第1の帯状部分628が表面近傍に形成された実施の形態を示したが、充填剤Fの濃度が相対的に低い第2の帯状部分629が表面近傍に形成されていてもよい。
【0049】
(定着ベルト62の製造方法)
本実施の形態が適用される定着ベルト62は、例えば、以下の製造方法により製造される。充填材の濃度が異なる2種の塗布液(第1の塗布液,第2の塗布液)を調製する。次に、これら2種の塗布液を、それぞれ塗料吐出口を備えた別々の塗料圧送供給容器に入れる。続いて、これら2個の塗料圧送供給容器を、円筒形状の金型の軸方向に一定の間隔で隣接させて配置し、それぞれの塗料吐出口が、例えば、予め形成されたポリイミド前駆体からなる塗布層の表面近傍に配置されるように塗料圧送供給容器を装着する。
次に、円筒管状の金型を回転させ、金型の軸方向に沿って塗料圧送供給容器を移動しつつ、それぞれの塗料吐出口から第1の塗布液と第2の塗布液を同時に吐出させる。そして、金型に塗布したポリイミド前駆体の表面に、第1の塗布液と第2の塗布液とを、金型の軸方向に対し交互に塗布しつつ、金型をさらに回転し、加熱状態で塗布液を乾燥させる。さらに、加熱処理を行い、ポリイミド前駆体を硬化物からなる基層621上に表面層622を形成する。このような製造方法によって、表面層622は、充填剤の濃度が異なる2種の部分(第1の帯状部分623,第2の帯状部分624)が、軸方向に沿って交互に、かつ円周方向に連続して形成される。
【0050】
また、上述の製造方法以外に、例えば、円筒形状の金型の表面に第1の塗布液を塗布した後、さらに、その上から第2の塗布液を一定の間隔を空けて塗布することによっても製造可能である。
さらに、以下の製造方法も挙げられる。即ち、基層を構成する樹脂を被覆した円筒形状の金型上に充填剤を含む塗布液を塗布する。次いで、塗布した塗布膜が乾燥する前に金型を回転させ、薄い板状又は線状のブレードを塗布膜に押し当てながら軸方向に移動させ、塗布膜に剪断力を加えることにより塗膜に螺旋状に凹部分を設ける。そしてその後、再び平らな塗膜に戻るまで回転状態でレベリングさせる。この場合、最初から凹部ができるように螺旋状に塗膜を形成し、その後、塗膜が平らになるまで回転状態でレベリングさせることによっても充填材の露出濃度の高い部分と低い部分を形成することが可能である。
【0051】
(定着ベルト62の材料)
基層621を構成する材料としては特に限定されず、通常、公知の各種プラスチック材料、金属材料等から選択される。プラスチック材料としては、一般に、エンジニアリングプラスチックと呼ばれるものが適している。エンジニアリングプラスチックとしては、おり、例えば、フッ素樹脂、ポリイミド(PI)(熱硬化性ポリイミド、熱可塑性ポリイミド)、フッ化ポリイミド、ポリアミドイミド(PAI)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリサルフォン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、全芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)等が挙げられる。これらの中でも、ポリイミド、フッ化ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂等は、機械的強度、耐熱性、耐摩耗性、耐薬品性等に優れるので好ましい。
金属材料としては、例えば、SUS、ニッケル、銅、アルミ等の各種金属が使用可能である。なお、前述した各種プラスチック材料と各種金属材料を積層してもよい。
基層621の厚さは、本実施の形態では、通常、20μm〜200μmであり、好ましくは、40μm〜100μmの範囲である。
【0052】
表面層622を構成する耐熱性樹脂としては、トナーに対する離型性に優れるフッ素樹脂が好適である。フッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体(MFA)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロエチルビニルエーテル共重合体(EFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリエチレン−テトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロ三フッ化エチレン(PCTFE)、フッ化ビニル(PVF)等が挙げられる。
これらの中でも特に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体(MFA)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロエチルビニルエーテル(EFA)共重合体またはこれらの変性体は、耐熱性、機械特性等の面から好適である。さらに、フッ素樹脂以外の耐熱性樹脂としては、フッ化ポリイミド等が使用可能である。
これらの耐熱性樹脂は、それぞれ単独または2種以上を組み合わせて使用できる。また、耐熱性樹脂の分子量は特に制限はない。
【0053】
表面層622に使用する充填材としては特に限定されず、公知の無機粉末材料、耐熱樹脂粉末の中から選択して使用できる。
充填材の粒径は、平均粒径1μm〜20μm程度が好ましく、より好ましくは2μm〜10μmの範囲が好ましい。また、充填材の形状は特に限定されず、不定形、燐片状、針状、繊維状等のものが使用可能である。これらの中でも不定形がより好ましい。
【0054】
無機粉末材料としては、例えば、二硫化モリブデン、六方晶窒化硼素、マイカ、グラファイト、タルク、黒鉛等の層状構造を有する潤滑性充填材;酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化ケイ素、複合金属酸化物等の金属酸化物;炭化珪素、炭化ホウ素等の炭化物;立方晶窒化硼素、窒化珪素等の窒化物;さらに、ガラス粉末、珪酸アルミ、ホウ酸アルミ、金属粉末、炭素繊維、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、ケイ酸塩化合物等が挙げられる。
耐熱性樹脂粉末の耐熱性樹脂としては、例えば、(弗化)ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、全芳香族ポリエステル系樹脂、変性PTFE、架橋PTFE等が挙げられる。さらに、耐熱性樹脂に無機充填剤をマイクロカプセル化した粉末等も使用可能である。また、フッ素樹脂との密着性を向上させるために、フッ素系のカップリング剤で表面処理することも可能である。
【0055】
本実施の形態が適用される定着ベルト62は、基層621の全面又は一部にゴム材料を積層することも可能である。ゴム材料としては、例えば、ウレタンゴム、エチレン・プロピレンゴム(EPM)、シリコーンゴム、フッ素ゴム(FKM)等が挙げられる。特に、シリコーンゴムは、耐熱性、加工性に優れるので好ましい。ゴム材料の厚さは、30μm〜500μmの範囲が好ましく、100μm〜300μmの範囲がより好ましい。
さらに、定着ベルト62の表面層622以外の層においても、導電性、熱伝導性、絶縁性、剥離性、摺動性、補強等の目的に応じ、各種充填材を添加することも可能である。各種添加材としては表面層622に添加可能なものが使用可能である。
【実施例】
【0056】
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明する。尚、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
<画像形成装置による通紙試験>
後述する実施例1,2と比較例1乃至3で調製した無端ベルトを、図2に示す定着装置60に定着ベルト62として装着し、この定着装置60を図1に示す画像形成装置100に取り付け、以下の条件で通紙試験を行った。用紙は富士ゼロックス製C2紙を使用し、画像密度は文字画像で5%とした。
画像形成装置100により50,000枚の画像形成を実施し、画像形成の際の紙皺発生頻度、走行終了後の表面離型層の摩耗状態、その他の画像欠陥等を評価した。
【0058】
定着装置60中の定着ロール61は、肉厚0.5mm、外径25mmの炭素鋼管からなるパイプに上に、シリコーンゴム(信越化学工業株式会社製LSR)を厚さ0.6mmで押出し成型し、次いで、その上に最外表面層として、厚さ30μmのPFAチューブが一体に被覆されるように注入成型により成形した。尚、PFAチューブは、PFA(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製950HP−Plus)を押し出し成型し、内面をエキシマレーザーにより処理した。
【0059】
尚、通紙試験に際し、定着ロール61と定着ベルト62との接触域の圧力(ニップ圧力)を、通常の1.3倍に増大し、また、定着ベルト62の内側に供給するオイル潤滑剤の充填量は、通常の30%とした。このように、評価条件を加速し、定着ベルト62の耐紙皺性及び耐摩耗性を評価した。
【0060】
<無端ベルトの表面に露出した充填剤の濃度の測定方法>
表面層から走査型電子顕微鏡(SEM)による表面観察用に小片を切り出し、試料台に固定後、導電性を付与する為に白金を蒸着した。次に走査型電子顕微鏡(SEM)JSM−6700F(日本電子(株)製)を用いて加速電圧10KVで組成像(COMPO像)を撮影倍率500倍で撮影した。更に画像解析により150μm×150μmの領域の中に占める表面に露出した充填剤粒子部分の面積比率を求め、表面に露出した充填剤の濃度とした。
但し、この測定方法は破壊測定となってしまうため、通紙試験用のベルトとは別にすべて同一条件で作成した別のベルトにて測定を行った。
【0061】
<紙皺発生頻度>
紙皺の発生頻度は画像形成装置100により50,000枚の画像形成を実施し、定着装置より排出された用紙の紙皺の有無をすべて目視にて確認し、紙皺が発生した枚数の全走行枚数(50,000枚)に対する発生頻度(%)を算出した。
【0062】
<表面層最大摩耗量>
表面層の最大摩耗量は、画像形成後前の定着ベルトの膜厚と50,000枚の画像形成後の膜厚をそれぞれ測定し、画像形成後前後での膜厚変化量を摩耗量とし、その中の最大値を最大摩耗量とした。
膜厚の測定方法は(株)フィッシャー・インストルメンツ製の渦電流式膜厚計ISOSCOPE MP30を使用し、定着ベルトの軸方向に沿って定着ベルト全長を5mm間隔で測定した。また円周方向の位置は90°置きの4ヶ所とした。
【0063】
(実施例1)
以下の操作に従い、無端ベルトを調製した。先ず、外径30mm、長さ500mmのアルミニウム製円筒管の表面をブラスト処理により粗面化し、さらに、シリコーン系離型剤を塗布し、200℃で60分間乾燥した。その後、さらに340℃で30分間加熱して焼き付け、表面粗さRaが0.8μmで、表面にシリコーン系離型剤を焼き付けた金型を用意した。
次に、用意した金型の中央部470mmに、フローコーティング(螺旋巻き塗布)法により、粘度120Pa・sに調整したポリイミド前駆体のN−メチルピロリドン溶液(宇部興産株式会社製:商品名UワニスS)を塗布し、次いで、金型を100℃で50分間回転しながら塗布液を乾燥し、塗布したポリイミド前駆体を平滑化した。
【0064】
一方、フッ素樹脂(PFA)分散溶液(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製:商品名945HP−Plus)に、充填材として平均粒径5μmの硫酸バリウム(堺化学株式会社製:商品名BMH−60)を、固形分中の割合が30重量%(17.4vol%)となるように配合した。
次いで、導電剤としてカーボンブラック(ライオン株式会社製ケッチェンブラック分散溶液)を、固形分中の割合が1重量%となるように配合した。さらに、水及び増粘剤により溶液の粘度を調整し、第1の塗布液を調製した(固形分中の硫酸バリウム濃度:17.4vol%)。(塗料中の全固形分濃度は50wt%であった。)
【0065】
次いで、前述した第1の塗布液の場合と同様の操作により、硫酸バリウム(堺化学株式会社製:商品名BMH−60)を、PFA分散溶液の固形分中の割合が10wt%(5.2vol%)となるように配合した。さらに、固形分中の割合が1wt%となるようにカーボンブラックを配合した。さらに、水及び増粘剤により粘度を調整し、第2の塗布液を調製した(固形分中の硫酸バリウム濃度:5.2vol%)。(塗料中の全固形分濃度は48wt%であった。)
【0066】
続いて、第1の塗布液と第2の塗布液を、2個の別々の塗料圧送供給容器にそれぞれ入れた。次に、予め表面にポリイミド前駆体を塗布した金型(アルミニウム製円筒管)の軸方向に2個の塗料圧送供給容器を隣接させ(間隔1mm)、且つそれぞれの塗料吐出口がポリイミド前駆体の表面近傍に配置されるように塗料圧送供給容器を装着した。
次に、円筒管状の金型を回転させ、金型の軸方向に沿って塗料圧送供給容器を移動しつつ、それぞれの塗料吐出口から第1の塗布液と第2の塗布液を同時に吐出させた。そして、金型に塗布したポリイミド前駆体の表面に、第1の塗布液と第2の塗布液とを、金型の軸方向に対し交互に塗布しつつ、金型をさらに回転し、塗布液を80℃で10分間乾燥させた。さらに、380℃で60分間焼成を行い、ポリイミド前駆体を硬化させた。
【0067】
次いで、金型の表面に形成された被膜を金型表面から取り外し、さらに、両端部をカットし、無端ベルトを得た。得られた無端ベルトは、ポリイミド樹脂からなる膜厚85μmの基層と、基層の外周に形成された膜厚30μmの表面層とを有している。表面層は、PFAと、充填材として硫酸バリウム及びカーボンブラックとを含有する。また、無端ベルトは、内径30mm、全長352mmである。
【0068】
得られた無端ベルトの表面は、表面に露出した充填材の濃度は約17%であり、且つ軸方向の幅が約1mmで円周方向に周回して形成された第1の帯状部分と、表面に露出した充填材の濃度は約5%であり、且つ軸方向の幅が約1mmで円周方向に周回して形成された第2の帯状部分とが、軸方向に交互に配置されて形成されていた。無端ベルトに表面は、表面に露出した充填剤の濃度が無端ベルトの軸方向に沿って不連続的に変化し、第1の帯状部分と第2の帯状部分のそれぞれ表面に露出した充填材の濃度の差が約12%である。
このように調製した無端ベルトを定着ベルトとして定着装置60に装着し、画像形成装置100を使用して通紙試験を行った。結果を表1に示す。
【0069】
(実施例2)
実施例1において、第1の塗布液中の硫酸バリウムの固形分中の割合を25wt%(14.1vol%)とし、第2の塗布液中の硫酸バリウムの固形分中の割合を15wt%(8.0vol%)とした。それ以外は実施例1と同様な操作により、無端ベルトを調製した。
得られた無端ベルトは、ポリイミド樹脂からなる膜厚85μmの基層と、基層の外周に形成された膜厚30μmの表面層とを有している。表面層は、PFAと、充填材として硫酸バリウム及びカーボンブラックとを含有する。また、無端ベルトは、内径30mm、全長352mmである。
【0070】
得られた無端ベルトの表面は、表面に露出した充填材の濃度は約14%であり、且つ軸方向の幅が約1mmで円周方向に周回して形成された第1の帯状部分と、表面に露出した充填材の濃度は約8%であり、且つ軸方向の幅が約1mmで円周方向に周回して形成された第2の帯状部分とが、軸方向に交互に配置されて形成されていた。
無端ベルトに表面は、表面に露出した充填剤の濃度が無端ベルトの軸方向に沿って不連続的に変化し、第1の帯状部分と第2の帯状部分のそれぞれ表面に露出した充填材の濃度の差が約6%である。
このように調製した無端ベルトを定着ベルトとして定着装置60に装着し、画像形成装置100を使用して通紙試験を行った。結果を表1に示す。
【0071】
(比較例1)
実施例1において調製した第1の塗布液中に、実施例1において調製したポリイミド前駆体を塗布した金型を浸漬し、一定の速度で引き上げ、ポリイミド前駆体の表面に第1の塗布液を塗布した(浸漬塗布(ディップ塗布)法)。次いで、引き上げた金型に実施例1と同様な操作を行い、無端ベルトを調製した。
得られた無端ベルトは、ポリイミド樹脂からなる膜厚85μmの基層と、基層の外周に形成された膜厚30μmの表面層とを有している。表面層は、PFAと、充填材として硫酸バリウム及びカーボンブラックとを含有する。また、無端ベルトは、内径30mm、全長352mmである。
【0072】
得られた無端ベルトの表面は、表面全体に露出した充填材の濃度は約17%であった。
このように調製した無端ベルトを定着ベルトとして定着装置60に装着し、画像形成装置100を使用して通紙試験を行った。結果を表1に示す。
【0073】
(比較例2)
比較例1において、塗布液中の硫酸バリウムの固形分中の割合を25wt%(14.1vol%)とした以外は、比較例1と同様の操作により、無端ベルトを調製した。
得られた無端ベルトは、ポリイミド樹脂からなる膜厚85μmの基層と、基層の外周に形成された膜厚30μmの表面層とを有している。表面層は、PFAと、充填材として硫酸バリウム及びカーボンブラックとを含有する。また、無端ベルトは、内径30mm、全長352mmである。
【0074】
得られた無端ベルトの表面は、表面全体に露出した充填材の濃度は約14%であった。
このように調製した無端ベルトを定着ベルトとして定着装置60に装着し、画像形成装置100を使用して通紙試験を行った。結果を表1に示す。
【0075】
(比較例3)
比較例1において、塗布液中の硫酸バリウムの固形分中の割合を20wt%(10.9vol%)とした以外は、比較例1と同様の操作により、無端ベルトを調製した。
得られた無端ベルトは、ポリイミド樹脂からなる膜厚85μmの基層と、基層の外周に形成された膜厚30μmの表面層とを有している。表面層は、PFAと、充填材として硫酸バリウム及びカーボンブラックとを含有する。また、無端ベルトは、内径30mm、全長352mmである。
【0076】
得られた無端ベルトの表面は、表面全体に露出した充填材の濃度は約10%であった。
このように調製した無端ベルトを定着ベルトとして定着装置60に装着し、画像形成装置100を使用して通紙試験を行った。結果を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
表1に示す結果から、フッ素樹脂を含む表面層の円周方向に充填材が偏在する第1の帯状部分と、第1の帯状部分に対し相対的に充填剤の濃度が低い第2の帯状部分とが、軸方向に交互に配置され、表面に露出した充填材の濃度が軸方向に不連続的に変化するように形成された無端ベルトは、これを定着ベルトとして装着した定着装置を備えた画像形成装置による通紙試験によれば(実施例1,2)、無端ベルトの表面に露出した充填材の濃度が一定な場合(比較例1〜3)に比べ、紙皺が発生せず(紙皺発生頻度0%)、表面層最大摩耗量が少なく、さらに、ベルト表面へのトナー固着、摩耗粉付着が発生しないことが分かる。
【符号の説明】
【0079】
1Y,1M,1C,1K…画像形成ユニット、11…感光体ドラム、12…帯電器、13…レーザ露光器、14…現像器、15…中間転写ベルト、16…一次転写ロール、17…ドラムクリーナ、20…二次転写部、22…二次転写ロール、31…駆動ロール、40…制御部、50…用紙収容部、60…定着装置、61…定着ロール(回転体)、62…定着ベルト(無端ベルト)、64…圧力パッド部、621…基層、622…表面層、623,626,628…第1の帯状部分、624,627,629…第2の帯状部分、625…接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも耐熱性樹脂を含む円筒形状の外周層の表面に、当該外周層の円周方向に沿って露出した充填材が偏在する第1の帯状部分と、
前記第1の帯状部分に対し表面に露出した充填剤の濃度が相対的に低い第2の帯状部分と、を有し、
前記第1の帯状部分と前記第2の帯状部分とが、前記外周層の軸方向に交互に配置されることを特徴とする無端ベルト。
【請求項2】
前記外周層の表面は、当該表面に露出した充填材の濃度が、前記第1の帯状部分と前記第2の帯状部分において不連続的に変化するように形成されたことを特徴とする請求項1に記載の無端ベルト。
【請求項3】
前記外周層の表面は、当該表面の記録材に対する静止摩擦係数が、前記第1の帯状部分と前記第2の帯状部分において軸方向に不連続的に変化することを特徴とする請求項1又は2に記載の無端ベルト。
【請求項4】
前記第1の帯状部分に配合された充填剤の濃度に対し前記第2の帯状部分に配合された充填剤の濃度が相対的に低いことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の無端ベルト。
【請求項5】
少なくとも耐熱性樹脂を含む円筒形状の外周層を有し、当該外周層の表面の静止摩擦係数が軸方向に不連続的に変化するように形成された定着ベルトと、
前記定着ベルトに接触し回転駆動する回転体と、
を備えることを特徴とする定着装置。
【請求項6】
トナー像を形成する像形成部と、
前記トナー像形成部により形成されたトナー像を記録材上に転写する転写部と、
駆動源に接続されて回転駆動する加圧ロールと、当該定着ロールに接触しながら従動回転し、少なくとも耐熱性樹脂を含む外周層の表面の記録材に対する静止摩擦係数が軸方向に不連続的に変化するように形成された定着ベルトとを有し、当該記録材に転写されたトナー像を当該記録材上に定着する定着部と、
を有することを特徴とする画像形成装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−230709(P2010−230709A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75042(P2009−75042)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】