説明

無線中継システム、無線中継方法、およびプログラム

【課題】子機からのノイズを低減して接続する子機を増やせ得る無線中継システムを提供する。
【解決手段】無線中継システムを、アンテナから無線信号を受けると共に適に増幅するゲインを調整し、調整したゲインで無線信号を増幅して中継機に送ると共に該ゲインを報告する複数の子機と、有線ケーブルを介して接続された複数の子機から受けた無線信号を多重して基地局に送出する際に、個々の子機から送られてきた無線信号と該無線信号に加えられたゲインの組み合わせから、個々の子機で受信された無線信号間の類似性を識別すると共に、類似した無線信号の中から所望の無線信号を選択して、該選択した無線信号を受信している子機からの無線信号について、多重する無線信号に加えて基地局に送出する中継機を組み合わせて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体通信システムに関し、特に、複数の子機を有して成るレピータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
移動体通信システムにおいて、基地局と移動機(移動局、無線端末、ユーザ端末)とが無線接続できる範囲(エリア:セル)を拡張させる目的のもと、様々な技術開発が成されている。
【0003】
これらの技術は、例えば特許文献1ないし特許文献2に記載されている。
【0004】
特許文献1には、基地局と移動機との間を受持ちブースタとして機能する無線中継装置が記載されている。特許文献1では、無線中継装置において、移動機側アンテナから受けた入力信号に基づいて、基地局側アンテナから送出する出力信号の利得を調節し、移動機が在圏していない場合には無線中継装置から基地局に向けての出力信号(上り回線)をオフにする技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2は、特許文献1と同様に、無線中継装置において、移動機側アンテナから受けた入力信号に基づいて、移動機が在圏していない場合には無線中継装置から基地局に向けての基地局側アンテナから送出する出力信号(上り回線)をオフにする技術が開示されている。また、特許文献2には、無線中継装置(屋内レピータシステム)を、1台の親機と光ファイバを介して接続する複数台の子機とで構成すると共に、基地局と親機とを同軸ケーブルで接続することが記載されており、加えて、個々の子機において、移動機側アンテナから受けた入力信号に基づいて、移動機が在圏していない場合には子機から親機に向けての光ファイバを介して送出する出力信号(上り信号)を無くする技術が開示されている。
【0006】
上記ブースタ装置や屋内レピータシステムは、基地局を増設するよりも安価なコストであり、移動体通信システムにおける不感地帯のエリア化や通信速度の向上の目的のもとに多く設置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−251789号公報
【特許文献2】国際公開第2008/129680号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、移動体通信システムなどにおける屋内レピータシステムは、基地局の増設よりも安価なコストで実現可能であり、近年その需要が高まっている。更に、大規模ビルなどでは、子機数が100台を超える大規模な構成で運用されている中継局もある。その一方、特許文献2にも示されているように、複数の子機を有する無線中継装置では、親機から移動体通信システムへの信号送出を、専用の基地局設置を設け、その基地局装置へのケーブル接続によって行っている。
これは、子機数の増加による上りノイズ信号レベルの増加により、アンテナを介して親機から基地局へRF信号として送信させる事ができず、そのために、専用の基地局を設置して有線接続する必要性が生じている。
【0009】
屋内レピータシステム等の無線中継システムにおいて、子機を多数設置してエリアをカバーするとともに、子機の上り信号を多重して基地局に送信する無線送信した場合には、ノイズ成分も多重された状態で親機から無線送信されることとなる。その結果、基地局エリア内の干渉波レベルが増大し、エリア全体の上り無線信号の品質が低下する。
【0010】
一つの試算によれば、子機を256台収容する屋内レピータシステムにおいて、全ての子機の上り雑音レベルを合成して中継すると、上り雑音レベルが子機1台又は子機を用いないシステムに対比して24dBほど増加する。このような雑音レベルでは、移動体通信システムの基地局が許容可能な上り雑音信号レベルを大きく上回ってしまう。
【0011】
また、既存システムのように該当屋内エリア専用の基地局を準備すると共に、基地局と中継機とをケーブルによって接続する構成とした場合、通信事業者において、無線中継システムのコストに加え、基地局の設置とケーブル敷設の為の初期コスト、及びケーブル維持の為の運用コストが必要となる。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みて成されたものであり、複数の子機を有して成る中継機からの上り信号に含まれるノイズを低減した無線中継システムの提供を目的とする。
【0013】
また、本発明の別の目的は、多数の子機を接続可能とできる無線中継システムを提供することにある。
【0014】
また、本発明の別の目的は、複数の子機を有して成る無線中継システムの設置および維持コストの低減を行える無線中継システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る無線中継システムは、アンテナから無線信号を受けると共に適に増幅するゲインを調整し、調整したゲインで前記無線信号を増幅して中継機に送ると共に該ゲインを報告する複数の子機と、有線ケーブルを介して接続された複数の子機から受けた無線信号を多重して基地局に送出する際に、個々の子機から送られてきた無線信号と該無線信号に加えられたゲインの組み合わせから、前記個々の子機で受信された無線信号間の類似性を識別すると共に、類似した無線信号の中から所望の無線信号を選択して、該選択した無線信号を受信している子機からの無線信号について、多重する無線信号に加えて基地局に送出する中継機とを含み成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、複数の子機を有して成る中継機からの上り信号に含まれるノイズを低減した無線中継システムを提供できる。
【0017】
同じく、本発明によれば、多数の子機を接続可能とできる無線中継システムを提供できる。
【0018】
同じく、本発明によれば、複数の子機を有して成る中継システムの設置および維持コストの低減を行える無線中継システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態に係る無線中継システムの構成を示すブロック図である。
【図2】隣接する複数の子機と特定の移動機との間でのRF信号の送受信を説明する概略図である。
【図3】中継機と子機間での上りゲイン制御シーケンスの一例を示す説明図である。
【図4】特定の移動機から隣接する3台の子機でそれぞれ受けるRF信号を例示する説明図である。
【図5】子機の受信信号間の類似性の算定方法を説明するための概念図である。
【図6】ゲイン調整に基づく接続可能台数の増加を示す説明図である。
【図7】他の実施形態に係る無線中継システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態を図1ないし図7に基づいて説明する。
【0021】
本実施の形態の無線中継システムは、複数の子機を有すると共に、無線中継する屋内レピータシステムである。本無線中継システムでは、既存システムに対して、子機全体の上り信号のノイズ成分を所定のレベル以下に低減させて、基地局への干渉を軽減させ得る。
【0022】
図1は、実施の一形態に係る屋内レピータシステムの構成を示すブロック図である。
屋内レピータシステムは、無線中継機及び子機を少なくとも含み構成され、基地局と移動機間の上り/下りRF信号の中継を行う。図1を参照すると、屋内レピータシステム1は、移動機100と通信する複数の子機10a、10b、…、10nと、複数の子機10a、10b、…、10nと基地局200とを無線中継する無線中継機20とを備えている。また、図示するように、子機10と無線中継機20との間には、ハブ30を設けてもよい。
【0023】
子機10は、1又は複数台設置され、無線中継機20又はハブ30と移動機100との間で、上り/下りRF信号(上りRF信号、下りRF信号)の送受信を、光又は電気の有線ケーブルおよびアンテナを経由して行う。
また、個々の子機10は、上りゲイン値を必要最小限に抑える機能と共に、無線中継機20に対して上りゲインを通知する機能を有し、加えて、無線中継機20からの通知に従い、自装置の動作を制御する機能を有する。
【0024】
無線中継機20又はそのアンテナは、ビルの外などの屋外に設置され、基地局200との間で多重された上り/下りRF信号の送受信を行う。無線中継機20は、複数の子機10のそれぞれから通知された上りゲインに基づいて、子機それぞれの無線中継機20に対する出力信号を適正化制御する。この適正化では、同様の位置からの所定タイミングの上り信号を隣接する複数の子機10で受信し中継する動作を抑制し、十分に信号レベルの高い子機1台で受信・中継するように子機10の動作を制御する。これは、同一の移動機からの上り信号を複数子機で中継することを抑制することに加え、同一位置に居る複数台からそれぞれ送信されて合成されている上り信号を複数子機で中継することを抑制できる。
【0025】
ハブ30は、1ないし複数台設置され、無線中継機20と1ないし複数の子機10を接続し、上り/下りRF信号、及び制御信号の中継配信を光又は電気の有線ケーブルを経由して行う。なお、ハブ30は、必ずしも必須の装置ではなく、無線中継機20の機能の一部に含めたり、又は子機10の機能を付加して子機の機能の一部として扱うこととしてもよい。
【0026】
なお、有線ケーブルでの信号伝送方式は問わない。上り/下りRF信号はアナログ信号として伝送しても良いし、デジタル変換された信号で伝送しても良い。
【0027】
次に、本実施の形態に係る屋内レピータシステム1の動作について説明する。
【0028】
図2は、隣接する複数の子機10a〜10cと特定の移動機100との間でのRF信号の送受信を説明する概略図である。
図2(a)に示すように、初期状態などでは隣接する子機10a〜子機10cと移動機100とは、それぞれ上り/下りRF信号を送受信する。その後、以下に説明するように各子機を制御して図2(b)に例示すように、隣接する子機10a〜子機10cの中から子機10bが選択されたように移動機100と上り/下りRF信号を送受信するように調整する。
【0029】
図3は、無線中継機20と子機10間での子機10a〜子機10cの上りゲイン制御シーケンス例を示している。なお、本実施の形態では、ハブ30は単に有線ケーブル上の上り/下りRF信号と制御信号を中継するだけなので、ここでの説明は省略する。
それぞれの子機10a〜10cは、アンテナを介して上りRF信号とする無線信号を受信し増幅するゲイン値をリアルタイムに制御しており、そのゲイン値を無線中継機20に制御信号を用いて報告する。報告契機は、ゲイン値の変化をトリガとして報告する方式と、ゲイン値の変化の有無に関わらず周期的に報告する方式などが挙げられるが、その方式は問わない。なお、子機が自立的に行なうゲインを調整は、既知の技術を用いればよい。
【0030】
無線中継機20は、全ての子機10からの報告される上りゲイン値と受信した信号波形に基づき、図4および図5を用いて以下に例示する動作で各子機への通知するゲイン値を定め、制御信号で指示する。なお、合わせて無線中継機20のゲインを下げ得た分に基づいて調整することとしても良い。
【0031】
図4には、図2で例示した特定の移動機からの隣接する3台の子機10a〜10cでそれぞれ受けたとするRF信号を示す。図示するように、移動機100との距離に応じて、それぞれの子機10の上りRF信号受信レベルは異なり、子機10bの受信レベルが最も高く、子機10aの受信レベルが次に高く、子機10cの受信レベルが最も低くなる。
無線中継機20は、上記無線信号とそのゲインの組み合わせそれぞれを受けて、子機10bからの上りRF信号を中継処理(多重化処理)し、子機10aと子機10cの上りRF信号を中継しないように動作する。
【0032】
ここで、中継する上りRF信号の選択は、複数の基準に基づいて選択すればよい。
一つの基準として、幾つかの子機で受信した複数のRF信号に、類似するRF信号が含まれていた場合に、その類似するRF信号の中から、特定の移動機から発せられた無線信号として中継に適するRF信号と思われる信号を選択して中継する候補とすると共に、他の類似したRF信号について中継しない候補とする。
別の一つの基準は、中継する信号レベルを閾値で定め、閾値以下であれば中継しない候補とする。
また、別の一つの基準は、特定のノイズパターンについて中継しない候補とする。
【0033】
上記例示した基準を図4に示した各信号に当てはめると、子機10cの上りRF信号はOFF検出閾値レベルを下回る為に、中継しないこととなる。また、子機10aの上りRF信号は、OFF閾値検出レベルを上回りものの、子機10bの上りRF信号と比較することによって類似性が高いと識別され、且つ、同じ移動機の上りRF信号としては信号強度の強い子機10bの上りRF信号の方が適すると判定され、中継しないこととなる。
【0034】
無線中継機20で受けた複数の上りRF信号の間での類似性の識別処理について例示する。類似性の識別処理は、まず最も受信レベルの高い子機10bを比較の基準として選択し、次にその子機に隣接する子機10aおよび子機10cを予め有するテーブル情報から選択する。そして、それぞれの子機10における上りRF信号の変化量を所定の時間ウィンドウ幅で比較処理する。なお、子機間の隣接については設置位置(同一フロアであること)や、ハブを介した接続形態の近接などから取得してもよい。また、過去に類似したRF信号を受信したことのある子機間を、無線中継機20が紐付けして記憶して用いるようにしても良い。また、過去に通知された子機毎のゲイン値を統計処理して集計した総計の値が大きい子機からのRF信号を類似性を識別する基準の信号にしても良い。このように、隣接する子機間での類似性の識別処理を優先的に行なうことが望ましい。
【0035】
またこの際、移動機100と子機10間の距離がそれぞれ異なる為、上りRF信号間の変化は多少時間的にずれる事を想定し、同一タイミングに加えて、1から数サンプリング分ずらして比較して、類似性を識別する。この無線信号の到達時間差を考慮する処理は、中継する信号レベルが所定の閾値を越えた場合に始めるようにしても良い。また、順次拡大するように類似性を識別できる許容時間量を増やして行き、所定の遅延量まで行なえば良い。所定の遅延量としては、例えば無線信号のノイズレベルが所定値以下になる時間や、所定の物理的離隔距離から定まる時間を用いればよい。
【0036】
図5は、類似性の算出処理方法を説明するための概念図であり、信号間の類似性算出値の結果を示している。本概念図での類似性の識別では、現在から10サンプル分さかのぼり、現在のサンプルと前サンプルとの受信RF信号の振幅値の大小を比較し、その結果を『増』又は『減』としてそれぞれの子機に対して記録する。その後、それぞれの子機の結果である『増』又は『減』を対比して差異あれば『1』、差異なければ『0』とし、全サンプルの累計値を類似性算出値として算出する。この際、図示するように、同一無線信号の到達遅延時間差に基づく無線信号の遅延量を考慮して、複数のタイミングで信号間の類似性について識別処理を行う。
図中のマッチング1では、同一サンプリングタイミングで得られたサンプル間で類似性を判定してその結果を示している。マッチング2では、1サンプル分遅れたサンプリングタイミングで得られたサンプル間で類似性を判定してその結果を示している。マッチング3では、2サンプル分遅れたサンプリングタイミングで得られたサンプル間で類似性を判定してその結果を示している。
【0037】
図示された例では、1サンプルずれを示すマッチング2で類似性算出値が『0』と非常に相関が高い事を示す事から、同一の移動機からのRF信号を子機Aと子機Bで受信していると識別し、子機Bの信号中継をOFF又はゲインを低減する。
他方、類似性の判定の結果、それぞれの子機の上りRF信号の相関が低い場合には、類似性測定値が高い値を示す事になり、異なる移動機からの信号を受信していると判定して、中継をOFFしないように扱う。
この際、無線中継機20での中継処理のON/OFFが瞬間的にバタつかないように、ON検出とする閾値レベルとOFF検出とする閾値レベルとの両方を使用するなど、保護段数を設けるようにする事が望ましい。
【0038】
また、無線中継機20は、多重する無線信号として選択したRF信号について、特定の移動機100から発せられた中継に適するRF信号として扱い、他の選択しなかったRF信号について、RF信号の増幅をOFFまたは低減させる制御信号(上りゲイン指示)を、それぞれの子機10aと子機10cに通知する。
【0039】
子機10aと子機10cは、制御信号による上りゲイン指示の通知を受けて、指定されたゲインに基づき、受けた無線信号の増幅を制御する。このように制御信号によって指定されたゲインに基づき、各子機が増幅に用いるゲインを制御することで、システム全体として増幅に用いるゲイン総量を減少させることが可能となる。またその値を中継機がコントロールすることが出来る。また、必要に応じて、多重するとした無線信号のゲインについても低減させ得る場合も有り、このように無線中継システムを制御すると、移動機と基地局とでは、あたかも伝搬ロスが大きな環境下に変動したようになり、移動機と基地局それぞれの送信電力制御機能によって補完的な処理が行われる。換言すれば、無線中継システムとしてのゲインを低下させることで、移動機と基地局の送信電力制御機能に補完させる動作を行なわせる。このことによって、基地局への上り信号に含まれるノイズを低減することが可能となる。この際、無線中継機でのゲインも合わせて考慮することが望ましい。
【0040】
次に、上り信号に含まれるノイズを低減することによる有益性を図6を用いて詳細に説明する。
屋内レピータシステムにおける移動機100の送信電力をT1u、子機10における受信電力をR1u、無線中継機20の送信電力をT2u、基地局200における受信電力をR2uで示す。また、移動機−子機間の伝搬ロスをL1、子機−無線中継機間の伝搬ロスをL2、無線中継機−基地局間の伝搬ロスをL3で示す。また、子機のゲインをGs、無線中継機でのゲインをGdで示す。
【0041】
図6(a)に示すケース1では、既存の屋内レピータシステムでの上りRF信号の送受信レベルの遷移を示す。移動機100は基地局200との間の伝搬ロスに応じて可能な範囲で送信レベルT1uを適に制御する。このとき、屋内レピータシステムの全体ゲインGは、子機n台分の信号が合成される為、ノイズ成分もn台分合成される。
【0042】
一方図6(b)に示すケース2では、上記実施の形態で示したように子機10全体としてのゲインを下げることができた場合の上りRF信号の送受信レベルの遷移を示す。なお、この際、下げ得た分の余力を用いて子機の接続台数を増加させ得ることを合わせて示している。また、子機の送信電力を必要に応じて上げることができ、移動機との通信環境を良好にすることも可能である。
【0043】
ケース1とケース2の対比にすれば、数式上からも明白なように、屋内レピータシステム全体のゲインを変えずに(基地局への影響を変えずに)中継する子機の台数をn1台増加させる事が可能となる。
【0044】
具体的に数値計算を行ったとすれば、図面中に示すように、子機全体のゲインを平均3dB(2分の1)低下、無線中継機のゲインを変えず、子機−無線中継機間のロスをゼロ、当初の子機中継台数を16台とすれば、n1=16となる。すなわち、子機台数について16台を追加することができ、接続できる子機台数を倍増できる。
【0045】
このようにして、既存のケース1で運用中の屋内レピータシステムにおいて、イベントなどによる一時的なトラヒックの増大により上りRF信号を中継する子機の台数を増加したい場合に、ケース2の様に子機側の見かけ上の総ゲイン値を上記説明したように下げ得る手段を準備する事で、屋内レピータシステム全体のゲインを変えずに、接続できる子機の台数を増加できる。このことは、常時接続できる子機の台数においても同様であり、基地局側が許容できるノイズ余力内と成るように、屋内レピータシステムの各所のゲインを調整して、総じて送られるノイズ量を削減することによって、接続子機台数を増加させられる。
【0046】
この効果は、無線中継機が、多重する無線信号として選択しなかった無線信号について、その無線信号の増幅を停止または低減する制御信号を該当子機に通知し、その通知を受けた子機によって、指定されたゲインに基づき受けた無線信号の増幅を制御することで得られる。
【0047】
また、他の側面から上記事象を捉えれば、上りRF信号に他の子機から得られた信号に比べて有意な移動機の信号を含まない子機の中継を抑止する事で、本来中継すべき子機のゲイン設定値に更に余裕を持たせることが可能とできる。
【0048】
一般的な既存の複数の子機を用いる屋内レピータシステムでは、子機1台のサービスエリアは10〜100メートル程度であり、ある時点で使用状況を参照すると、有意に無線信号を中継している子機の台数は限られ、多くの子機がエリアに在圏する移動機がいない若しくは通信状態に無い。このことは、全ての子機の上りRF信号に移動機の有意な信号が含まれているわけではないことを示す。
他方、既存システムのように全ての子機の上りRF信号を合成するとその分ノイズ成分も合成されて基地局への干渉波入力によるエリア品質低下の悪影響を及ぼすこととなる。
よって、上りRF受信レベル等から有意な信号を含んだ子機からの上りRF信号のみ中継する。
【0049】
また、前記のような上りRF信号に有意な信号を含んだ子機は、移動機の移動などによって時間的にシステム内のトラヒック状態が変動する為、一律で定義する事が難しい。
そこで、中継機において、多重して中継する信号(対象子機、系統)の選択処理を、個々の子機から送られてきた無線信号とゲインの組み合わせを用いて、複数の無線信号間の類似性の識別と所望の無線信号の選択をダイナミック(動的)且つ並列的に制御する。
【0050】
中継機において、多重化する信号をダイナミックに制御することで、特定の移動機から発せられた上り信号が複数の子機で受信されて中継されることを抑制して、上りゲイン量を極力小さくする。
【0051】
なお、上記実施の形態では、基地局と無線中継システムとが無線で中継する例を示したが、図7に示すように、基地局と無線中継システムとの間は有線接続としてもよい。
有線接続であっても、子機の上り受信信号を中継機にて多重して送信する際、子機の上りゲインをオフ又は必要最小限に抑える事で、多重されて中継機から送信される上り信号のノイズレベルを低減でき、上記の無線接続と同様の効果を得られる。すなわち、子機の上り信号のゲインを、在圏する移動機の通信状況に応じてオフ又は必要最小限に抑える事で、屋内レピータシステムなどとして子機全体の上り信号のノイズ成分を低減させて基地局への干渉を軽減させる。
【0052】
上記中継機をより詳細に例示すれば、複数の子機から個々に無線信号とゲインとを受け付ける受信部と、個々の子機から送られてきた無線信号とゲインの組み合わせから、個々の子機で受信された無線信号間の類似性を識別する類似性識別部と、類似した無線信号の中から所望の無線信号を選択して該選択した無線信号を受信している子機からの無線信号について多重する多重部と、多重した信号を必要に応じて増幅して基地局に送出する送出部と記載できる。
【0053】
なお、無線中継システムとして子機全体の上り信号のノイズ成分を低減して、基地局への干渉波送信レベルを低減させることができる事で、基地局の無線回線設計を容易にし、基地局と中継局との間をわざわざ光や同軸ケーブルで直接接続して屋内エリア専用のセル構成とせずとも、アンテナ間での無線通信で実現可能となるケースも増え、通信事業者のコスト投資を抑制できる効果も期待できる。
【0054】
また、上記処理について、ハブに類似性を識別する手段と、類似した信号の中から中継機に送る信号を選択する手段などを設けても有効に機能する。別の表現で説明すれば、中継する複数の子機から個々に無線信号とゲインとを受け付ける手段と、接続された個々の子機から送られてきた無線信号とゲインの組み合わせから、受け付けたその無線信号間の類似性を識別する手段と、類似した無線信号の中から中継すべき無線信号を選択して、選択した無線信号の子機からの無線信号について中継機に送出する手段とをハブに持たせる。
【0055】
以上説明したように本発明によれば、複数の子機を有して成る中継機からの上り信号に含まれるノイズを低減した無線中継システムを提供できる。
同じく、本発明によれば、多数の子機を接続可能とできる無線中継システムを提供できる。
同じく、本発明によれば、複数の子機を有して成る中継システムの設置および維持コストの低減を行える無線中継システムを提供できる。
【0056】
尚、無線中継システムの各部は、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせを用いて実現すればよい。ハードウェアとソフトウェアとを組み合わせた形態では、RAMに中継機用プログラム又は子機用プログラムが展開され、プログラムに基づいて制御部(CPU)等のハードウェアを動作させることによって、各部を各種手段として実現する。また、前記プログラムは、記憶媒体に記録されて頒布されても良い。当該記録媒体に記録されたプログラムは、有線、無線、又は記録媒体そのものを介して、メモリに読込まれ、制御部等を動作させる。尚、記録媒体を例示すれば、オプティカルディスクや磁気ディスク、半導体メモリ装置、ハードディスクなどが挙げられる。
【0057】
また、本発明の具体的な構成は前述の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の変更があってもこの発明に含まれる。
【0058】
また、上記の実施形態の一部又は全部は、以下のようにも記載されうる。尚、以下の付記は本発明をなんら限定するものではない。
[付記1]
アンテナから無線信号を受けると共に適に増幅するゲインを調整し、調整したゲインで前記無線信号を増幅して中継機に送ると共に該ゲインを報告する複数の子機と、
有線ケーブルを介して接続された複数の子機から受けた無線信号を多重して基地局に送出する際に、個々の子機から送られてきた無線信号と該無線信号に加えられたゲインの組み合わせから、前記個々の子機で受信された無線信号間の類似性を識別すると共に、類似した無線信号の中から所望の無線信号を選択して、該選択した無線信号を受信している子機からの無線信号について、多重する無線信号に加えて基地局に送出する中継機と
を含み成ることを特徴とする無線中継システム。
【0059】
[付記2]
前記中継機は、
前記多重する無線信号として選択した無線信号について、特定の移動機から発せられた無線信号として扱い、
前記多重する無線信号として選択しなかった無線信号について、該無線信号の増幅を停止または低減させる制御信号を、該無線信号を中継した子機に通知し、
前記通知を受けた子機は、前記制御信号によって指定されたゲインに基づき、受けた無線信号の増幅を制御する
ことを特徴とする上記付記記載の無線中継システム。
【0060】
[付記3]
前記中継機は、多重する無線信号の選択を動的に制御する
ことを特徴とする上記付記記載の無線中継システム。
【0061】
[付記4]
無線信号間の類似性を識別する際に、同一無線信号の到達遅延時間差に基づく無線信号の遅延量までの間で、無線信号間の類似性について識別処理を行う
ことを特徴とする上記付記記載の無線中継システム。
【0062】
[付記5]
前記複数の子機の設置場所を示す情報を保持し、隣接する子機間でそれぞれ受信された無線信号についての類似性の識別処理を優先的に行なう
ことを特徴とする上記付記記載の無線中継システム。
【0063】
[付記6]
前記中継機は、前記複数の子機から受けた無線信号を多重して無線信号として基地局に送出する
ことを特徴とする上記付記記載の無線中継システム。
【0064】
[付記7]
前記中継機は、前記基地局へのノイズ余量に基づいて、前記複数の子機および/自中継機のゲインを調整する
ことを特徴とする上記付記記載の無線中継システム。
【0065】
[付記8]
アンテナで受信した無線信号と前記無線信号の増幅に用いたゲインとを送出する複数の子機から、個々に無線信号とゲインとを受け付ける手段と、
個々の子機から送られてきた無線信号と該無線信号に加えられたゲインの組み合わせから、前記個々の子機で受信された無線信号間の類似性を識別する手段と、
類似した無線信号の中から所望の無線信号を選択して、該選択した無線信号を受信している子機からの無線信号について多重する手段と、
多重した信号を基地局に送出する手段と
を有することを特徴とする無線中継システムの中継機。
【0066】
[付記9]
前記多重する無線信号として選択した無線信号について、特定の移動機から発せられた無線信号として扱い、
前記多重する無線信号として選択しなかった無線信号について、該無線信号の増幅を停止または低減させる制御信号を、該無線信号を中継した子機に通知することを特徴とする上記付記記載の中継機。
【0067】
[付記10]
多重する無線信号の選択を動的に制御することを特徴とする上記付記記載の中継機。
【0068】
[付記11]
無線信号間の類似性を識別する際に、同一無線信号の到達遅延時間差に基づく無線信号の遅延量までの間で、無線信号間の類似性について識別処理を行う
ことを特徴とする上記付記記載の中継機。
【0069】
[付記12]
前記複数の子機の設置場所を示す情報を保持し、隣接する子機間でそれぞれ受信された無線信号についての類似性の識別処理を優先的に行なう
ことを特徴とする上記付記記載の中継機。
【0070】
[付記13]
前記複数の子機から受けた無線信号を多重して無線信号として基地局に送出する手段を有して、該基地局と無線通信することを特徴とする上記付記記載の中継機。
【0071】
[付記14]
前記基地局へのノイズ余量に基づいて、前記複数の子機および/自中継機のゲインを調整することを特徴とする上記付記記載の中継機。
【0072】
[付記15]
付記8ないし付記14に記載された中継機からの制御信号により指定されたゲインに基づき、アンテナを介して受けた無線信号の増幅を制御する子機。
【0073】
[付記16]
アンテナで受信した無線信号と前記無線信号の増幅に用いたゲインとを送出する複数の子機から、個々に無線信号とゲインとを受け付ける手段と、
個々の子機から送られてきた無線信号と該無線信号に加えられたゲインの組み合わせから、前記個々の子機で受信された無線信号間の類似性を識別する手段と、
類似した無線信号の中から所望の無線信号を選択して、該選択した無線信号を受信している子機からの無線信号について中継機に送出する手段と
を有することを特徴とする無線中継システムのハブ。
【0074】
[付記17]
アンテナから無線信号を受けて該無線信号を増幅して有線ケーブルを介して接続された中継機に送る複数の子機と、有線ケーブルを介して接続された複数の子機から受けた無線信号を多重して基地局に送出する中継機とを有し、
前記複数の子機それぞれで、アンテナから無線信号を受けると共に適に増幅するゲインを調整し、
調整したゲインで前記無線信号を増幅して前記中継機に送ると共に該ゲインを報告し、
前記中継機で、前記複数の子機から送られてきた無線信号と該無線信号に加えられたゲインの組み合わせから、該個々の子機で受信された無線信号間の類似性を識別し、
類似した無線信号の中から所望の無線信号を選択して、該選択した無線信号を受信している子機からの無線信号について、多重して基地局に送出する
ことを特徴とする無線中継方法。
【0075】
[付記18]
無線中継システムで用いられる中継機を、
アンテナで受信した無線信号と前記無線信号の増幅に用いたゲインとを送出する複数の子機から、個々に無線信号とゲインとを受け付ける手段と、
個々の子機から送られてきた無線信号と該無線信号に加えられたゲインの組み合わせから、前記個々の子機で受信された無線信号間の類似性を識別する手段と、
類似した無線信号の中から所望の無線信号を選択して、該選択した無線信号を受信している子機からの無線信号について多重する手段と、
多重した信号を基地局に送出する手段
として機能させることを特徴とするプログラム。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、LTEやCDMA、W−CDMAシステム等の移動体通信システムに使用できる。また、WiMAXや、PHSシステムにも使用できる。
【符号の説明】
【0077】
10 子機
20 中継機(無線)
21 中継機(有線)
30 ハブ
100 移動機
200 基地局

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナから無線信号を受けると共に適に増幅するゲインを調整し、調整したゲインで前記無線信号を増幅して中継機に送ると共に該ゲインを報告する複数の子機と、
有線ケーブルを介して接続された複数の子機から受けた無線信号を多重して基地局に送出する際に、個々の子機から送られてきた無線信号と該無線信号に加えられたゲインの組み合わせから、前記個々の子機で受信された無線信号間の類似性を識別すると共に、類似した無線信号の中から所望の無線信号を選択して、該選択した無線信号を受信している子機からの無線信号について、多重する無線信号に加えて基地局に送出する中継機と
を含み成ることを特徴とする無線中継システム。
【請求項2】
前記中継機は、
前記多重する無線信号として選択した無線信号について、特定の移動機から発せられた無線信号として扱い、
前記多重する無線信号として選択しなかった無線信号について、該無線信号の増幅を停止または低減させる制御信号を、該無線信号を中継した子機に通知し、
前記通知を受けた子機は、前記制御信号によって指定されたゲインに基づき、受けた無線信号の増幅を制御する
ことを特徴とする請求項1記載の無線中継システム。
【請求項3】
前記中継機は、多重する無線信号の選択を動的に制御する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の無線中継システム。
【請求項4】
無線信号間の類似性を識別する際に、同一無線信号の到達遅延時間差に基づく無線信号の遅延量までの間で、無線信号間の類似性について識別処理を行う
ことを特徴とする請求項1ないし3の何れかに一記載の無線中継システム。
【請求項5】
前記複数の子機の設置場所を示す情報を保持し、隣接する子機間でそれぞれ受信された無線信号についての類似性の識別処理を優先的に行なう
ことを特徴とする請求項1ないし4の何れかに一記載の無線中継システム。
【請求項6】
前記中継機は、前記複数の子機から受けた無線信号を多重して無線信号として基地局に送出する
ことを特徴とする請求項1ないし5の何れかに一記載の無線中継システム。
【請求項7】
アンテナで受信した無線信号と前記無線信号の増幅に用いたゲインとを送出する複数の子機から、個々に無線信号とゲインとを受け付ける手段と、
個々の子機から送られてきた無線信号と該無線信号に加えられたゲインの組み合わせから、前記個々の子機で受信された無線信号間の類似性を識別する手段と、
類似した無線信号の中から所望の無線信号を選択して、該選択した無線信号を受信している子機からの無線信号について多重する手段と、
多重した信号を基地局に送出する手段と
を有することを特徴とする無線中継システムの中継機。
【請求項8】
アンテナで受信した無線信号と前記無線信号の増幅に用いたゲインとを送出する複数の子機から、個々に無線信号とゲインとを受け付ける手段と、
個々の子機から送られてきた無線信号と該無線信号に加えられたゲインの組み合わせから、前記個々の子機で受信された無線信号間の類似性を識別する手段と、
類似した無線信号の中から所望の無線信号を選択して、該選択した無線信号を受信している子機からの無線信号について中継機に送出する手段と
を有することを特徴とする無線中継システムのハブ。
【請求項9】
アンテナから無線信号を受けて該無線信号を増幅して有線ケーブルを介して接続された中継機に送る複数の子機と、有線ケーブルを介して接続された複数の子機から受けた無線信号を多重して基地局に送出する中継機とを有し、
前記複数の子機それぞれで、アンテナから無線信号を受けると共に適に増幅するゲインを調整し、
調整したゲインで前記無線信号を増幅して前記中継機に送ると共に該ゲインを報告し、
前記中継機で、前記複数の子機から送られてきた無線信号と該無線信号に加えられたゲインの組み合わせから、該個々の子機で受信された無線信号間の類似性を識別し、
類似した無線信号の中から所望の無線信号を選択して、該選択した無線信号を受信している子機からの無線信号について、多重して基地局に送出する
ことを特徴とする無線中継方法。
【請求項10】
無線中継システムで用いられる中継機を、
アンテナで受信した無線信号と前記無線信号の増幅に用いたゲインとを送出する複数の子機から、個々に無線信号とゲインとを受け付ける手段と、
個々の子機から送られてきた無線信号と該無線信号に加えられたゲインの組み合わせから、前記個々の子機で受信された無線信号間の類似性を識別する手段と、
類似した無線信号の中から所望の無線信号を選択して、該選択した無線信号を受信している子機からの無線信号について多重する手段と、
多重した信号を基地局に送出する手段
として機能させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−222384(P2012−222384A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82444(P2011−82444)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】