説明

無線中継装置及び無線中継方法

【課題】MIMO通信において回り込み波をキャンセル可能な無線中継装置を提供する。
【解決手段】無線中継装置500は、M個の受信アンテナ101−1,・・・,101−Mにおける回り込み波を模したM個の模擬信号をM個の第1のベースバンド信号から夫々キャンセルし、M個の第2のベースバンド信号を得るキャンセル部110と、M個の第2のベースバンド信号の各々がM個の受信アンテナ101−1,・・・,101−Mの各々に回り込むM×M個の伝搬路に対応するM×M個のウェイトを算出するウェイト算出部220と、M個の第2のベースバンド信号にM個の受信アンテナ101−1,・・・,101−Mの各々に対応するM個のウェイトを夫々乗算してから合成することにより、キャンセル部110に供給するためのM個の模擬信号の各々を得るウェイト乗算部130とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線中継装置における回り込み波のキャンセル技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無線中継装置(リピータ)は、中継元(親局)からの受信信号を増幅し、中継先(子局)に送信する。リピータからの送信信号は、中継先だけでなくリピータ自身によっても受信される。このリピータから送信されてリピータ自身によって受信される信号は、回り込み波と呼ばれる。回り込み波がリピータによって繰り返し増幅されると、系が発振するという問題がある。この問題は、周波数利用効率を高めるために同一の周波数帯で受信及び送信(中継)を行う場合に顕著である。
【0003】
従来、例えば特許文献1記載の回り込みキャンセラ及び特許文献2記載の回り込みキャンセル装置が、回り込み波の対策として活用されている。特許文献1記載の回り込みキャンセラは、1つの受信アンテナによって受信した信号から回り込み波をキャンセルし、1つの送信アンテナによって送信する。また、特許文献2記載の回り込みキャンセル装置は、複数の受信アンテナによって受信した信号群から回り込み波を夫々キャンセルし、これらを合成して1つの送信アンテナによって送信する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−355160号公報
【特許文献2】特開2003−8489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リピータを利用する無線通信システムは、典型的には、地上デジタル放送システム、2G/3Gシステムなどである。これらの無線通信システムは、いずれも単一ストリーム上で信号を伝送する。一方、近い将来にサービス開始が予定されている3GPP−LTE(Long Term Evolution)は、複数ストリーム上で信号を伝送できる。本願明細書において、単一ストリーム上での無線通信をSISO(Single Input Single Output)通信と称する。一方、本願明細書において、複数ストリーム上での無線通信をMIMO(Multiple Input Multiple Output)通信と称する。
【0006】
特許文献1記載の回り込みキャンセラ及び特許文献2記載の回り込みキャンセル装置は、いずれもMIMO通信システムにおける利用を想定していない。仮に、これらを組み込んだ複数のリピータを配列してMIMO通信システムにおける各ストリームの中継を試みたとしても、各リピータは自身の回り込み波をキャンセルできるかもしれないが、他のリピータからの回り込み波をキャンセルできない。即ち、従来のリピータは、MIMO通信の中継において回り込み波を十分にキャンセルすることができず、系が発振するおそれがある。
【0007】
従って、本発明の一観点は、MIMO通信において回り込み波をキャンセル可能な無線中継装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る無線中継装置は、第1の無線通信装置からM個(M≧2)のストリームを持つ対象信号をM個の受信アンテナを介して受信し、第2の無線通信装置にN個(N>M)の送信アンテナを介して送信するための無線中継装置において、前記M個の受信アンテナから供給されるM個の第1のRF信号に基づいてM個の第1のベースバンド信号を生成する受信部と、前記M個の受信アンテナにおける回り込み波を模したM個の模擬信号を前記M個の第1のベースバンド信号から夫々キャンセルし、M個の第2のベースバンド信号を得るキャンセル部と、前記M個の第2のベースバンド信号をN個の第3のベースバンド信号にマッピングするマッピング部と、前記N個の第3のベースバンド信号に基づいてN個の第2のRF信号を生成し、前記N個の送信アンテナに供給する送信部と、前記M個の第2のベースバンド信号の各々が前記M個の受信アンテナの各々に回り込むM×M個の伝搬路に対応するM×M個のウェイトを算出するウェイト算出部と、前記M個の第2のベースバンド信号に前記M個の受信アンテナの各々に対応するM個のウェイトを夫々乗算してから合成することにより、前記キャンセル部に供給するためのM個の模擬信号の各々を得るウェイト乗算部とを具備する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一観点によれば、MIMO通信において回り込み波をキャンセル可能な無線中継装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態に係る無線中継装置を示すブロック図。
【図2】図1の無線中継装置を含む無線通信システムを示す図。
【図3】図1のウェイト算出部を示すブロック図。
【図4】図1のウェイト乗算部を示すブロック図。
【図5】第2の実施形態に係るウェイト算出部を示すブロック図。
【図6】3GPP−LTEのフレームフォーマットを示す図。
【図7】第4の実施形態に係る無線中継装置を示すブロック図。
【図8】図7のウェイト算出部を示すブロック図。
【図9】図7の合成重み算出部を示すブロック図。
【図10】第5の実施形態に係る無線中継装置を示すブロック図。
【図11】図10のウェイト算出部を示すブロック図。
【図12】図10のウェイト乗算部を示すブロック図。
【図13】第6の実施形態に係る無線中継装置を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。尚、以降の説明において符号XXXによって参照される構成要素が複数存在する場合には、符号XXX−Aのように添え字Aによって個別の構成要素を参照したり、単に符号XXXによって係る構成要素を総称したりする。
【0012】
(第1の実施形態)
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る無線中継装置100は、M個のアンテナ101−1,・・・,101−M(Mは2以上の整数)、受信RF(radio frequency)部102、M個のアナログ−デジタル変換器(ADC)103−1,・・・,103−M、M個の受信フィルタ104−1,・・・,104−M、回り込み波キャンセル部110、ウェイト算出部120、ウェイト乗算部130、M個の送信フィルタ141−1,・・・,141−M、M個のデジタル−アナログ変換器(DAC)142−1,・・・,142−M、送信RF部143、M個の送信アンテナ144−1,・・・,144−Mを有する。
【0013】
図2に示すように、無線中継装置100は、MIMO通信システムにおいて、伝搬路20を介して親局(中継元)10からの信号を受信し、伝搬路50を介して子局(中継先)60に信号を送信する。親局10は、例えば基地局、放送局などの無線通信装置である。子局60は、例えばUE(User Equipment)などの無線通信装置である。本実施形態において、親局10は、無線中継装置100の受信アンテナ101と同じ数(即ち、M個)のストリーム上で信号を送信する。
【0014】
受信アンテナ101−1,・・・,101−Mは、親局10からのMストリームの信号を伝搬路20を介して夫々受信する。尚、無線中継装置100が中継を行っている間、受信アンテナ101−1,・・・,101−Mは、送信アンテナ144−1,・・・,144−Mからの回り込み波も回り込み伝搬路40を介して受信する。即ち、受信アンテナ101−1,・・・,101−Mによる受信信号には、親局10からの信号と送信アンテナ144−1,・・・,144−Mからの回り込み波との両方が含まれている。
【0015】
受信RF部102は、受信アンテナ101−1,・・・,101−MによるM個の受信信号を夫々調整(フィルタリング、低雑音増幅など)し、ダウンコンバートしてM個のベースバンド信号を生成する。
【0016】
ADC103−1,・・・,103−Mは、受信RF部102からのベースバンド信号(アナログ信号)を夫々デジタル信号に変換する。受信フィルタ104−1,・・・,104−Mは、ADC103−1,・・・,103−Mからのデジタル信号に所定のフィルタリング処理(ダウンサンプルなど)を夫々施す。
【0017】
回り込み波キャンセル部110は、受信フィルタ104−1,・・・,104−Mの出力信号から、受信アンテナ101−1,・・・,101−Mにおける回り込み波を模した信号(以降、模擬信号と称する)を夫々減算することにより、回り込み波のキャンセルを実現する。尚、模擬信号の詳細は後述する。回り込み波キャンセル部110のM個の出力信号は、送信フィルタ141−1,・・・,141−Mに夫々供給されると共に、ウェイト算出部120及びウェイト乗算部130にも供給される。
【0018】
送信フィルタ141−1,・・・,141−Mは、回り込み波キャンセル部110のM個の出力信号に所定のフィルタリング処理を夫々施す。DAC142−1,・・・,142−Mは、送信フィルタ141−1,・・・,141−Mの出力信号(デジタル信号)をアナログ信号に変換する。
【0019】
送信RF部143は、DAC142−1,・・・,142−MからのM個のアナログ信号を調整(フィルタリング、電力増幅など)し、アップコンバートしてM個のRF信号を生成する。
【0020】
送信アンテナ144−1,・・・,144−Mは、送信RF部143からのM個のRF信号を夫々送信する。この送信信号は、伝搬路50を介して子局60によって受信されると共に、回り込み伝搬路40を介して受信アンテナ141−1,・・・,141−Mによっても受信される。
【0021】
ウェイト算出部120は、回り込み波キャンセル部110からのM個の出力信号に基づいて、M×M個のウェイトを算出する。これらM×M個のウェイトは、回り込み波キャンセル部110からのM個の出力信号の各々がM個の受信アンテナ101−1,・・・,101−Mの各々に回り込むM×M個の伝搬路に対応する。
【0022】
ウェイト乗算部130は、回り込み波キャンセル部110からのM個の出力信号に、ウェイト算出部120からのM×M個のウェイトをM個ずつ乗算してから合成(加算)することによりM個の模擬信号を夫々得る。即ち、ウェイト乗算部130は、回り込み波キャンセル部110からのM個の出力信号にM個の受信アンテナ101−1,・・・,101−Mの各々に対応するM個のウェイトを夫々乗算してから合成することにより、回り込み波キャンセル部110に供給するM個の模擬信号の各々を得る。
【0023】
以下、本実施形態における回り込み波のキャンセルの原理の理解を容易にするために数式を用いて説明する。尚、以降の解析は、各信号を等価的にベースバンド信号として扱っている。親局10からの送信信号をX(z)と定義する。送信信号X(z)は、M行1列のベクトルである。以降の説明では、行数×列数の形式でベクトルまたは行列を表現する。また、z−1はZ変換における遅延素子を表す。伝搬路20の伝搬路行列をB(z)と定義する。送信信号X(z)は、伝搬路20の通過により伝搬路行列B(z)を乗算されて、受信アンテナ101によって受信される。回り込み伝搬路40の伝搬路行列をR(z)、ウェイト乗算部130によって乗算されるウェイトをW(z)と夫々定義する。これら伝搬路行列B(z)、伝搬路行列R(z)及びウェイトW(z)はいずれもM×Mの行列である。回り込み波キャンセル部110からの出力信号、即ち、観測点30における観測信号をY(z)と定義する。観測信号Y(z)は、M×1のベクトルである。送信RF部143内の電力増幅器の特性をKと定義する。Kは、M×Mの対角行列である。ここで、観測信号Y(z)は、次の数式(1)によって表現できる。
【数1】

【0024】
数式(1)の右辺の第1項は、親局10からの送信信号に基づく成分を表している。数式(1)の右辺の第2項は、送信アンテナ144−1,・・・,144−Mからの回り込み波に基づく成分を表している。数式(1)の右辺の第3項は、無線中継装置100内で付加される雑音成分を表しており、Q(z)はM×1のベクトルである。数式(1)の右辺の第4項は、回り込み波キャンセル部110によってキャンセルされる模擬信号の成分を表している。M×Mの単位行列をIと定義すると、数式(1)は次の数式(2)に変形できる。
【数2】

【0025】
一方、観測点30における系全体の伝搬路応答をH(z)と定義すると、観測信号Y(z)は次の数式(3)によっても表現できる。
【数3】

【0026】
数式(2)において、無線中継装置のSN比(信号対雑音電力比)が十分に高いと仮定すると、B(z)X(z)に対してQ(z)が十分に小さいため、Q(z)が零ベクトルであると仮定することができる。この場合、数式(2)及び数式(3)に基づいて、伝搬路応答H(z)は次の数式(4)によっても表現できる。
【数4】

【0027】
ここで、数式(4)は逆行列を含んでいるが、この逆行列が存在しないようなウェイトW(z)を使用すると発振が生じてしまう。この逆行列が存在することを保証にするために、ウェイトW(z)に関して次の数式(5)が成立させることが望ましい。
【数5】

【0028】
数式(5)が成立することは、次の数式(6)によって定義する誤差行列E(z)が零行列となることと等価である。
【数6】

【0029】
伝搬路応答H(z)は、送信信号X(z)が参照信号(パイロット信号などの既知信号)であるときの観測信号Y(z)から導出できる。また、伝搬路行列B(z)は、中継開始前、中継停止期間などにおいて送信信号X(z)が参照信号であるときの観測信号Y(z)から導出できる。従って、ウェイトW(z)は、例えば数式(6)によって導出した誤差行列E(z)と、次の数式(7)とを用いて更新できる。
【数7】

【0030】
数式(7)においてnはシンボル番号を表し、μは忘却係数を表す。初期のウェイトW(z)は、零行列であってもよいが、例えば適したウェイトが既知であるならばその既知ウェイトを使用してもよい。
【0031】
ウェイト算出部120は、数式(6)及び数式(7)に関する演算を行う。具体的には、図3に示すように、ウェイト算出部120は、伝搬路推定部121、ウェイト誤差算出部122及びウェイト更新部123を有する。伝搬路推定部121は、送信信号X(z)が参照信号であるときの観測信号Y(z)に基づいて伝搬路応答H(z)を推定する。ウェイト誤差算出部122は、中継開始前、中継停止期間などにおいて送信信号X(z)が参照信号であるときの観測信号Y(z)に基づいて予め推定されている伝搬路行列B(z)と、伝搬路推定部121からの伝搬路応答H(z)とを用いて、数式(6)に従って誤差行列E(z)を算出する。尚、伝搬路行列B(z)は、伝搬路推定部121によって推定されてもよいし、図示されない他の構成要素によって推定されてもよい。また、伝搬路行列B(z)は、固定されてもよいし、中継停止期間において更新されてもよい。ウェイト更新部123は、ウェイト誤差算出部122からの誤差行列E(z)を用いて、数式(7)に従ってウェイトW(z)を更新し、ウェイト乗算部130に入力する。尚、ウェイト更新部123は、過去に算出したウェイトW(z)を保持するための記憶機能を備えていてもよいし、過去に算出したウェイトW(z)を保持する図示されない記憶手段にアクセスする機能を備えていてもよい。
【0032】
ウェイト乗算部130は、数式(1)の右辺の第4項に関する演算を行う。具体的には、図4に示すように、ウェイト乗算部130は、M×M個のFIRフィルタとM個の合成器(加算器)とを含む。これらM×M個のFIRフィルタの各々は、観測信号Y(z)の要素のうちのいずれか1つに、ウェイトW(z)の要素のうちのいずれか1つを乗算する。図4において、係数wijは、ウェイトW(z)における第i行第j列の要素を表している。ここで、i及びjはいずれもM以下の任意の自然数である。合成器は、ウェイトW(z)における第i行の各列の要素の乗算を行うFIRフィルタからの出力信号を合成して、観測信号Y(z)の第i行の要素に対応する模擬信号(受信アンテナ101−iにおける模擬信号)を得る。即ち、観測信号Y(z)の第i行の要素に対応する模擬信号を得るために、ウェイト乗算部130は観測信号Y(z)の各行の要素にウェイトW(z)の第i行の各列の要素(wi1,・・・,wiM)を夫々乗算してから合成する。
【0033】
以上説明したように、本実施形態に係る無線中継装置は、回り込み波キャンセル部110からのM個の出力信号の各々がM個の受信アンテナ101−1,・・・,101−Mの各々に回り込むM×M個の伝搬路を考慮して回り込み波の模擬信号を生成している。従って、本実施形態に係る無線中継装置によれば、MIMO通信システムにおいて回り込み波を十分に抑圧し、発振を予防できる。即ち、本実施形態に係る無線中継装置によれば、MIMO通信システムにおいて安定した中継を実現できる。尚、実際の回り込み波とFIRフィルタの出力である模擬信号とのタイミングをあわせるために、送信フィルタの手前に遅延素子を設けてもよい。
【0034】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る無線中継装置は、ウェイトを周波数領域で算出する点において前述の第1の実施形態に係る無線中継装置100と異なる。以降の説明では、本実施形態において第1の実施形態と同一部分には同一符号を付して示し、異なる部分を中心に述べる。尚、以降の各実施形態において、説明の具体化のために、ウェイトを周波数領域で算出することを前提とするが、ウェイトを時間領域で算出しても勿論よい。
【0035】
本実施形態に係るウェイト算出部220を図5に示す。ウェイト算出部220は、FFT(Fast Fourier Transform)部224、伝搬路推定部221、ウェイト誤差算出部222、ウェイト更新部223及びIFFT(Inverse FFT)部225を有する。
【0036】
FFT部224は、回り込み波キャンセル部110からの出力信号、即ち、観測信号Y(z)にFFTを施す。具体的には、FFT部224は、時間領域の信号(観測信号Y(z))のサンプルを所定数蓄積するためのバッファ機能を有し、この蓄積された所定数のサンプルにFFTを施す。即ち、FFT部224は、観測信号Y(z)を周波数領域の観測信号Y(f)に変換する。尚、以降の説明において、kは周波数領域におけるサンプル番号を表す。OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplex)に関して、kはサブキャリア番号と等価である。
【0037】
伝搬路推定部221は、FFT部224からの周波数領域の観測信号Y(f)に基づいて、周波数領域の伝搬路応答H(f)を推定する。ここで、Z変換の性質上、前述の数式(1)−数式(7)においてzにexp(j2πfT)を代入することにより、周波数領域での解析を実施できる。ここで、jは虚数単位を表し、fは周波数を表し、Tはサンプリング間隔を表す。例えば、数式(3)は、周波数領域に関して次の数式(8)に書き換えることができる。
【数8】

【0038】
ところで、3GPP−LTEは、図6に示すフレームフォーマットを使用する。図6において、アンテナポート1用の参照信号及びアンテナポート2用の参照信号は特定の(相対的な)時間及び周波数において常に送信されており、アンテナポート3用の参照信号、アンテナポート4用の参照信号及びユーザ固有の参照信号は必要に応じて送信される。図6から明らかなように、LTEのフレームフォーマットでは、参照信号(RS)は時間方向及び周波数方向に間引かれている。このようなフレームフォーマットが適用される場合、伝搬路推定部221は参照信号から導出した伝搬路推定値を用いて、参照信号の存在しない時間及び周波数における伝搬路推定値を補完する機能を持つものとする。
【0039】
ウェイト誤差算出部222は、予め推定されている伝搬路行列B(f)と、伝搬路推定部221からの伝搬路応答H(f)とを用いて、次の数式(9)に従って誤差行列E(f)を算出する。
【数9】

【0040】
数式(9)は、数式(6)を書き換えることにより導出できる。尚、伝搬路行列B(f)は、伝搬路推定部221によって推定されてもよいし、図示されない他の構成要素によって推定されてもよい。また、伝搬路行列B(f)は、固定されてもよいし、更新されてもよい。
【0041】
ウェイト更新部223は、ウェイト誤差算出部222からの誤差行列E(z)を用いて、次の数式(10)に従ってウェイトW(f)を更新する。
【数10】

【0042】
数式(10)は、数式(7)を書き換えることにより導出できる。
【0043】
IFFT部225は、ウェイト更新部223からのウェイトW(f)にIFFTを施す。即ち、IFFT部225は、周波数領域のウェイトW(f)を時間領域のウェイトに変換する。尚、IFFT部225が行うIFFTのサイズの増大に伴って、時間領域のウェイトのサイズ(フィルタ長)が増大するので、処理遅延が問題となるおそれがある。故に、必要に応じて、IFFTの出力信号を間引いたり、打ち切ったりすることにより時間領域のウェイトのサイズを小さくしてもよい。IFFT部225は、時間領域のウェイトをウェイト乗算部130に入力する。
【0044】
以上説明したように、本実施形態に係る無線中継装置は、ウェイトを周波数領域で算出している。従って、本実施形態に係る無線中継装置によれば、例えばOFDMを使用するシステム、周波数領域での処理を前提とするシステム(LTEの上りリンクなど)などにおいて回り込み波をより効果的にキャンセルし、発振を予防できる。尚、実際の回り込み波とFIRフィルタの出力である模擬信号とのタイミングをあわせるために、送信フィルタの手前に遅延素子を設けてもよい。
【0045】
(第3の実施形態)
前述の実施形態は、いずれも親局10の送信ストリームの数と、無線中継装置の受信アンテナの数と、無線中継装置の送信アンテナの数とが全て同一であることを想定している。本発明の第3の実施形態は、親局10の送信ストリーム数(N≧1)が、無線中継装置の受信アンテナの数(M)及び無線中継装置の送信アンテナの数(M)よりも小さい場合を想定する。即ち、以降の説明において、N<Mが成立する。尚、後述するように、本実施形態に係る無線中継装置は、前述の第1の実施形態に係る無線中継装置100または第2の実施形態に係る無線中継装置と同一または類似の構成を利用できる。従って、以降の説明では、本実施形態において前述の各実施形態と同一部分には同一符号を付して示し、異なる部分を中心に述べる。
【0046】
本実施形態において、前述の数式(1)と同じ解析から次の数式(11)が導出できる。
【数11】

【0047】
但し、数式(11)は、周波数領域での解析であり、かつ、雑音成分を無視(即ち、Q(f)を零行列と仮定)している。ここで、前述の各実施形態に比べて本実施形態では送信ストリーム数がMからNに変更されているので、送信信号X(f)はN×1のベクトルを表し、伝搬路行列B(f)はM×Nの行列を表す。本実施形態において、{I−R(f)・K+W(f)}はM×Mの正方行列なので、W(f)次第で逆行列が存在し得る。即ち、数式(11)は、次の数式(12)に書き換えることができる。
【数12】

【0048】
数式(12)から明らかなように、本実施形態においても前述の各実施形態と同様に、逆行列の存在を保証するために、誤差行列E(f)(=W(f)−R(f)・K)が零行列となるようにウェイトW(f)を算出することが望ましい。但し、本実施形態において、伝搬路応答H(f)はM×N行列(非正方行列)なので、逆行列が存在しない。故に、次の数式(13)に示すように、ウェイト誤差算出部222は誤差行列E(f)を直接的に導出することはできない。
【数13】

【0049】
尚、伝搬路応答H(f)の要素及び伝搬路行列B(f)は、前述の各実施形態と同様の手法で導出可能である。以下、簡単化のために、数式(13)においてN=1,M=2を仮定して得られる数式(14)を考察する。
【数14】

【0050】
数式(14)において、未知数はe11(f),・・・,e22(f)の4つである。一方、数式(14)から導出可能な方程式は2つである。故に、これら2つの方程式を満たすe11(f),・・・,e22(f)を一意に導出できない。しかしながら、この問題は、誤差行列E(f)の自由度が高いことに起因している。故に、ウェイト誤差算出部222は、誤差行列E(f)の要素のうち冗長な要素に零を設定すれば、残りの要素を一意に導出できる。例えば、数式(14)に関して、ウェイト誤差算出部222が誤差行列E(f)の非対角成分に零を設定することにより、次の数式(15)に示すように、誤差行列E(f)を一意に導出できる。
【数15】

【0051】
一方、数式(14)に関して、ウェイト誤差算出部222が誤差行列E(f)の対角成分に零を設定することにより、次の数式(16)に示すように、誤差行列E(f)を一意に導出できる。
【数16】

【0052】
誤差行列E(f)の冗長な要素に零を設定することは、ウェイトW(f)における対応する要素を更新しないことと等価である。従って、初期のウェイトW(f)が零行列であるならば、ウェイトW(f)において係る要素は零に固定される。尚、ウェイトが零に固定される場合、ウェイト乗算部130において対応するFIRフィルタは実際に零を乗算してもよいし、対応するFIRフィルタの入力または出力を例えばセレクタを用いて無効にしてもよい。
【0053】
尚、誤差行列E(f)において零を設定する要素は、制約条件付きで任意に選択できる。この制約条件は、誤差行列E(f)の各要素を一意に導出できることを保証する。即ち、制約条件を満たすことにより、誤差行列E(f)の少なくとも1つの要素が複数の解を持ったり、誤差行列E(f)の少なくとも1つの要素が解を持たなかったりする事態が回避される。具体的には、「誤差行列E(f)の各行において送信ストリーム数と同数の未知数を残すこと(換言すれば、誤差行列E(f)の各行において受信アンテナ数と送信ストリーム数との間の差と同数の要素に零を設定すること)」を制約条件として採用できる。この制約条件を簡易に満たすことを目的とするならば、M−N=1のときにウェイト誤差算出部222は誤差行列E(f)の対角成分に零を設定すればよいし、N=1のときにウェイト誤差算出部222は誤差行列E(f)の非対角成分全てに零を設定すればよい。
【0054】
以上説明したように、本実施形態に係る無線中継装置は、送信ストリーム数が受信アンテナ数及び送信アンテナ数よりも小さい場合において誤差行列の冗長な要素に零を設定することにより、残りの要素を一意に導出する。従って、本実施形態に係る無線中継装置によれば、送信ストリーム数が受信アンテナ数及び送信アンテナ数よりも小さい場合においても、前述の各実施形態に係る無線中継装置と同一または類似の構成によって、回り込み波をキャンセルし、発振を予防できる。尚、実際の回り込み波とFIRフィルタの出力である模擬信号とのタイミングをあわせるために、送信フィルタの手前に遅延素子を設けてもよい。
【0055】
また、上記説明では、送信ストリーム数が固定であるかのように説明したが、例えば3GPP−LTEのようなMIMOを前提とするシステムは、伝搬路状況に応じてMIMOモード/SISOモードを切り替えたり、送信ストリーム数を増減させたりすることが予想される。従って、ウェイト誤差算出部222は、送信ストリーム数の増減に応じて、誤差行列E(f)における冗長な要素を選択し、零を設定する機能を有することが望ましい。ウェイト誤差算出部222がこのような機能を備えるならば、本実施形態に係る無線中継装置は、送信ストリーム数が可変のMIMO通信システムにおいても回り込み波を効果的にキャンセルできる。
【0056】
尚、送信ストリーム数Nが受信アンテナ数M及び送信アンテナ数Mよりも小さい場合に、(M−N)個の余剰の送受信系統を稼働させないという手法も考えられる。この場合には、前述の各実施形態と実質的に等価の効果を期待できる。しかしながら、この手法は、稼働するN個の送受信系統に電力を集中させるので、同じエリアをカバーするために必要な電力増幅器の線形性が本実施形態に比べて高くなる。一方、本実施形態に係る無線中継装置は、N個よりも多くの送受信系統を稼働させるので、電力増幅器の負担を抑えることができる。
【0057】
(第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態は、無線中継装置の受信アンテナの数(M)が、親局10の送信ストリームの数(N)及び無線中継装置の送信アンテナの数(N)よりも大きい場合を想定する。即ち、以降の説明において、N<Mが成立する。以降の説明では、本実施形態において前述の各実施形態と同一部分には同一符号を付して示し、異なる部分を中心に述べる。
【0058】
図7に示すように、本実施形態に係る無線中継装置300は、前述の無線中継装置100において送信系統の数をN個に変更し、ウェイト算出部120をウェイト算出部320に置き換え、合成重み算出部350及び重み付け合成部360を追加した構成に相当する。
【0059】
重み付け合成部360は、合成重み算出部350からの合成重みを使用して、回り込み波キャンセル部110からのM個の出力信号、即ち、M個の観測信号を重み付け合成し、N個の信号を生成する。合成重みはN×Mの行列である。合成重み算出部350は、重み付け合成を実現するために、例えばN×M個のFIRフィルタ及びN個の合成器を含む。尚、合成重み算出部350の詳細は後述する。
【0060】
本実施形態において、前述の数式(11)は、次の数式(17)に書き換えることができる。
【数17】

【0061】
数式(17)は、回り込み波に基づく成分を表す右辺第2項において観測信号Y(f)に合成重みG(f)が乗じられ、模擬信号に基づく成分を表す右辺第3項においても観測信号Y(f)に合成重みG(f)が乗じられている点で数式(11)と異なる。また、数式(17)は、伝搬路行列R(f)及びウェイトW(f)がM×Nの行列であり、電力増幅器の特性KがN×Nの対角行列である点でも数式(11)と異なる。数式(17)は、次の数式(18)に書き換えることができる。
【数18】

【0062】
数式(18)を、前述の各実施形態と同様に誤差行列E(f)について解くと、次の数式(19)を導出できる。
【数19】

【0063】
数式(19)において、誤差行列E(f)及び伝搬路応答H(f)はM×Nの行列である。
図8に示すように、ウェイト算出部320は、前述のウェイト算出部220においてFFT部224、伝搬路推定部221、ウェイト誤差算出部222、ウェイト更新部223及びIFFT部225をFFT部324、伝搬路推定部321、ウェイト誤差算出部322、ウェイト更新部323及びIFFT部325に夫々置き換えた構成に相当する。尚、ウェイト算出部320の各構成要素と、ウェイト算出部220の各構成要素とは類似しているので、同一の部分を省略し、異なる部分を中心に説明する。
【0064】
FFT部324は、重み付け合成部360からのN個の出力信号にFFTを施す。即ち、FFT部324は、重み付け合成部360からのN個の出力信号をN個の周波数領域の信号(G(f)・Y(f)に相当)に変換する。
【0065】
伝搬路推定部321は、FFT部324からのN個の周波数領域の信号に基づいて、周波数領域の伝搬路応答H(f)を推定する。尚、伝搬路応答H(f)の推定は、例えば前述の各実施形態における推定手法を応用することにより実現できる。伝搬路推定部321は、伝搬路応答H(f)をウェイト誤差算出部322及び合成重み算出部350の両方に入力する。
【0066】
ウェイト誤差算出部322は、予め推定されている伝搬路行列B(f)と、伝搬路推定部321からの伝搬路応答H(f)とを用いて、数式(19)に従って誤差行列E(f)を算出する。
【0067】
ウェイト更新部323は、ウェイト誤差算出部322からの誤差行列E(f)を用いて、数式(10)に従ってウェイトW(f)を更新する。尚、本実施形態において、数式(10)における各項はM×Nの行列である。
【0068】
IFFT部325は、ウェイト更新部323からのウェイトW(f)にIFFTを施す。即ち、IFFT部325は、周波数領域のウェイトW(f)を時間領域のウェイトに変換する。この時間領域のウェイトは、ウェイト乗算部130に入力される。
【0069】
合成重み算出部350は、図9に示すように、重み算出部351及びIFFT部352を有する。重み算出部351は、伝搬路推定部321からの伝搬路応答H(f)に基づいて合成重みG(f)を算出する。重み算出部351は、例えば最大比合成基準などの基準に基づいて受信利得が向上するような合成重みG(f)を算出する。IFFT部352は、重み算出部351からの合成重みG(f)にIFFTを施す。即ち、IFFT部352は、周波数領域の合成重みG(f)を時間領域の合成重みに変換する。尚、IFFT部352が行うIFFTのサイズの増大に伴って、時間領域の合成重みのサイズ(フィルタ長)が増大するので、処理遅延が問題となるおそれがある。故に、必要に応じて、IFFTの出力信号を間引いたり、打ち切ったりすることにより時間領域の合成重みのサイズを小さくしてもよい。IFFT部352は、時間領域の合成重みを重み付け合成部360に入力する。
【0070】
以上説明したように、本実施形態は、送信アンテナ数よりも受信アンテナ数が大きい構成を採用する場合における回り込み波のキャンセルを提供する。従って、本実施形態に係る無線中継装置によれば、受信ダイバーシチの利得を得つつ、発振を予防できる。尚、実際の回り込み波とFIRフィルタの出力である模擬信号とのタイミングをあわせるために、送信フィルタの手前に遅延素子を設けてもよい。
【0071】
(第5の実施形態)
本発明の第5の実施形態に係る無線中継装置は、無線中継装置の受信アンテナの数及び送信アンテナの数が2個であり、親局10の送信ストリームの数が2個または1個である場合を想定する。より具体的には、本実施形態は、主に3GPP−LTEを想定している但し、本実施形態に係る無線中継装置は、3GPP−LTE以外の無線通信システムにも勿論適用できる。以降の説明では、本実施形態において前述の各実施形態と同一部分には同一符号を付して示し、異なる部分を中心に述べる。
【0072】
図10に示すように、本実施形態に係る無線中継装置400は、前述の無線中継装置100において送受信系統の数を2個に設定し、ウェイト算出部120をウェイト算出部420に置き換え、タイミング同期部471、セルID検出部472及び参照信号パターン生成部473を追加した構成に相当する。
【0073】
タイミング同期部471は、同期タイミングを検出し、検出した同期タイミングをウェイト算出部420に通知する。具体的には、タイミング同期部471は、無線中継装置400が親局10からの電波を受信してから中継を開始する前に、同期タイミングを検出する。尚、図10は、タイミング同期部471が回り込み波キャンセル部110の出力信号に基づいて同期タイミングを検出する例を示している。しかしながら、同期タイミングは中継の開始前に検出されるので、この時点では回り込み波が発生しておらず、回り込み波キャンセル部110の入力信号と出力信号とは実質的に同じである。故に、タイミング同期部471は、回り込み波キャンセル部110の入力信号に基づいて同期タイミングを検出しても勿論よい。また、3GPP−LTEの仕様によれば、タイミング同期部471は、同期タイミングと共にセルIDの関連情報を検出できる。タイミング同期部471は、セルIDの関連情報をセルID検出部472に通知する。
【0074】
セルID検出部472は、タイミング同期部471からのセルIDの関連情報と、回り込み波キャンセル部110の出力信号(または、前述の通り入力信号でもよい)とに基づいてセルIDを検出する。セルIDは、無線中継装置400が中継の対象とするセルを識別する。セルID検出部472は、検出したセルIDを参照信号パターン生成部473に通知する。
【0075】
参照信号パターン生成部473は、セルID検出部472からのセルIDに応じた参照信号のパターンを生成し、ウェイト算出部420に入力する。具体的には、参照信号パターン生成部473は、前述の図6に示される参照信号部分に関して、そのパターンを生成する。
【0076】
図11に示すように、ウェイト算出部420は、FFT部424、ストリーム数判定部426、伝搬路推定部421、ウェイト誤差算出部422、ウェイト更新部223及びIFFT部225を有する。ウェイト算出部420は、時間領域のウェイトを算出し、ウェイト乗算部130に入力する。尚、ウェイト乗算部130は、図4においてM=2に設定した場合の構成である。即ち、ウェイト乗算部130は、図12に示すように、2×2個のFIRフィルタと2個の合成器とを含む。
【0077】
FFT部424は、前述のFFT部224と基本的に同じ動作をする。但し、FFT部424によるFFTの実行タイミングは、タイミング同期部471からの同期タイミングによって制御される。
【0078】
ストリーム数判定部426は、参照信号パターン生成部473からの参照信号のパターンに基づいて送信ストリーム数を判定し、判定したストリーム数を伝搬路推定部421及びウェイト誤差算出部422に通知する。MIMO通信システムは、伝搬路状況に応じてMIMOモード/SISOモードを切り替えたり、送信ストリーム数を増減させたりすることが予想される。ストリーム数判定部426によれば、送信ストリーム数の変更を伝搬路推定部421及びウェイト誤差算出部422に通知し、これらによる処理の切り替えを制御できる。尚、送信ストリーム数が既知であって、かつ、固定であるMIMO通信システムが中継対象である場合には、ストリーム数判定部426は省略されてもよい。
【0079】
伝搬路推定部421は、ストリーム数判定部426から通知される送信ストリーム数に応じて伝搬路応答H(f)の要素の数を決定する。具体的には、ストリーム数=2ならば伝搬路応答H(f)は2×2の行列で表現され、ストリーム数=1ならば伝搬路応答H(f)は2×1のベクトルで表現される。そして、伝搬路推定部421は、FFT部424からの周波数領域の観測信号Y(f)と、参照信号パターン生成部473からの参照信号のパターンとに基づいて、周波数領域の伝搬路応答H(f)を推定する。
【0080】
ウェイト誤差算出部422は、予め推定されている伝搬路行列B(f)と、伝搬路推定部421からの伝搬路応答H(f)とを用いて、前述の数式(9)または数式(13)に従って誤差行列E(f)を算出する。ウェイト誤差算出部422は、ストリーム数判定部426からの送信ストリーム数に応じて、誤差行列E(f)の算出手法を切り替える。ウェイト誤差算出部422は、送信ストリーム数=2ならば伝搬路応答H(f)が2×2の行列(正方行列)なので数式(9)に従って誤差行列E(f)を算出する。一方、ウェイト誤差算出部422は、送信ストリーム数=1ならば伝搬路応答H(f)が2×1のベクトル(非正方行列)なので数式(13)に従って、誤差行列E(f)の冗長な要素(例えば対角成分または非対角成分)に零を設定してから残りの要素を算出する。
【0081】
以上説明したように、本実施形態は、主に3GPP−LTEを想定した場合における、回り込み波のキャンセル手法の詳細を開示している。本実施形態に係る無線中継装置によれば、3GPP−LTEに代表される種々のMIMO通信システムにおいて発振を予防できる。尚、実際の回り込み波とFIRフィルタの出力である模擬信号とのタイミングをあわせるために、送信フィルタの手前に遅延素子を設けてもよい。
【0082】
(第6の実施形態)
本発明の第6の実施形態は、無線中継装置の送信アンテナの数(N)が、親局10の送信ストリームの数(M)及び無線中継装置の受信アンテナの数(M)よりも大きい場合を想定する。即ち、以降の説明において、M<Nが成立する。以降の説明では、本実施形態において前述の各実施形態と同一部分には同一符号を付して示し、異なる部分を中心に述べる。
【0083】
図13に示すように、本実施形態に係る無線中継装置500は、前述の無線中継装置100において送信系統の数をN個に変更し、空間マッピング部580を追加した構成に相当する。
【0084】
空間マッピング部580は、回り込み波キャンセル部110からのM個の出力信号、即ち、観測信号をN個の信号にマッピングし、送信フィルタ141−1,・・・,141−Nに夫々入力する。具体的には、空間マッピング部580は、観測信号Yにマッピング行列Vを乗算する。マッピング行列VはN×Mの行列である。
【0085】
本実施形態において、前述の数式(11)は、次の数式(20)に書き換えることができる。
【数20】

【0086】
数式(20)は、回り込み波に基づく成分を表す右辺第2項において観測信号Y(f)にマッピング行列V(f)が乗じられている点で数式(11)と異なる。また、数式(20)は、伝搬路行列B(f)がM×Mの行列であり、送信信号X(f)がM×1のベクトルであり、伝搬路行列R(f)がM×Nの行列であり、電力増幅器の特性KがN×Nの対角行列である点でも数式(11)と異なる。数式(20)は、次の数式(21)に書き換えることができる。
【数21】

【0087】
数式(21)を、前述の各実施形態と同様に誤差行列E(f)について解くと、次の数式(22)を導出できる。
【数22】

【0088】
数式(22)において、誤差行列E(f)及び伝搬路応答H(f)はM×Mの行列である。数式(22)から明らかなように、誤差行列E(f)は、マッピング行列V(f)に依存しない。例えば、マッピング行列Vは、無線中継装置500から子局(中継先)60までの伝搬路60に基づいて決定されてもよいし、周波数依存性のない固定の行列であってもよい。
【0089】
以上説明したように、本実施形態は、受信アンテナ数よりも送信アンテナ数が大きい構成を採用する場合における回り込み波のキャンセルを提供する。従って、本実施形態に係る無線中継装置によれば、送信ダイバーシチの利得を得つつ、発振を予防できる。尚、実際の回り込み波とFIRフィルタの出力である模擬信号とのタイミングをあわせるために、送信フィルタの手前に遅延素子を設けてもよい。
【0090】
尚、各実施形態は、リレー局、ギャップフィラーなどの中継を前提とする種々の無線通信装置として実装できる。また、各実施形態は、3GPP−LTEに限らず種々のMIMO通信システムに適用できる。例えば、各実施形態は、WiMAX、次世代PHS(XGP)、cdma2000 EV-DO Advancedなどに適用できる。
【0091】
また、本発明は各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また各実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることによって種々の発明を形成できる。また例えば、各実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除した構成も考えられる。さらに、異なる実施形態に記載した構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0092】
例えば、各実施形態の処理を実現するプログラムを、コンピュータで読み取り可能な記憶媒体に格納して提供することも可能である。記憶媒体としては、磁気ディスク、光ディスク(CD−ROM、CD−R、DVD等)、光磁気ディスク(MO等)、半導体メモリなど、プログラムを記憶でき、かつ、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体であれば、その記憶形式はいずれの形態であってもよい。
【0093】
また、各実施形態の処理を実現するプログラムを、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ(サーバ)上に格納し、ネットワーク経由でコンピュータ(クライアント)にダウンロードさせてもよい。
【符号の説明】
【0094】
10・・・親局
20・・・伝搬路
30・・・観測点
40・・・回り込み伝搬路
50・・・伝搬路
60・・・子局
100,300,400,500・・・無線中継装置
101・・・受信アンテナ
102・・・受信RF部
103・・・ADC
104・・・受信フィルタ
110・・・回り込み波キャンセル部
120,220,320,420・・・ウェイト算出部
121,221,321,421・・・伝搬路推定部
122,222,322,422・・・ウェイト誤差算出部
123,223,323・・・ウェイト更新部
224,324・・・FFT部
225,325・・・IFFT部
426・・・ストリーム数判定部
130・・・ウェイト乗算部
141・・・送信フィルタ
142・・・DAC
143・・・送信RF部
144・・・送信アンテナ
350・・・合成重み算出部
351・・・重み算出部
352・・・IFFT部
360・・・重み付け合成部
471・・・タイミング同期部
472・・・セルID検出部
473・・・参照信号パターン生成部
580・・・空間マッピング部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の無線通信装置からM個(M≧2)のストリームを持つ対象信号をM個の受信アンテナを介して受信し、第2の無線通信装置にN個(N>M)の送信アンテナを介して送信するための無線中継装置において、
前記M個の受信アンテナから供給されるM個の第1のRF信号に基づいてM個の第1のベースバンド信号を生成する受信部と、
前記M個の受信アンテナにおける回り込み波を模したM個の模擬信号を前記M個の第1のベースバンド信号から夫々キャンセルし、M個の第2のベースバンド信号を得るキャンセル部と、
前記M個の第2のベースバンド信号をN個の第3のベースバンド信号にマッピングするマッピング部と、
前記N個の第3のベースバンド信号に基づいてN個の第2のRF信号を生成し、前記N個の送信アンテナに供給する送信部と、
前記M個の第2のベースバンド信号の各々が前記M個の受信アンテナの各々に回り込むM×M個の伝搬路に対応するM×M個のウェイトを算出するウェイト算出部と、
前記M個の第2のベースバンド信号に前記M個の受信アンテナの各々に対応するM個のウェイトを夫々乗算してから合成することにより、前記キャンセル部に供給するためのM個の模擬信号の各々を得るウェイト乗算部と
を具備する無線中継装置。
【請求項2】
前記ウェイト算出部は、
前記M個の第2のベースバンド信号に高速フーリエ変換(FFT)を施してM個の周波数領域の信号を得るFFT部と、
前記M個の周波数領域の信号と、既知の参照信号とに基づいて伝搬路推定を行う伝搬路推定部と、
過去に算出したM×M個のウェイトの理想的なM×M個のウェイトに対するM×M個の誤差を前記伝搬路推定の結果に基づいて算出する誤差算出部と、
前記M×M個の誤差の各々が零に近づくように、前記過去に算出したM×M個のウェイトを更新し、更新されたM×M個のウェイトを得る更新部と、
前記更新されたM×M個のウェイトに高速逆フーリエ変換(IFFT)を施して時間領域のM×M個のウェイトを得て、前記ウェイト乗算部に供給するIFFT部と
を含む、請求項1に記載の無線中継装置。
【請求項3】
第1の無線通信装置からM個(M≧2)のストリームを持つ対象信号をM個の受信アンテナを介して受信し、第2の無線通信装置にN個(N>M)の送信アンテナを介して送信するための無線中継方法において、
前記M個の受信アンテナから供給されるM個の第1のRF信号に基づいてM個の第1のベースバンド信号を生成することと、
キャンセル部が、前記M個の受信アンテナにおける回り込み波を模したM個の模擬信号を前記M個の第1のベースバンド信号から夫々キャンセルし、M個の第2のベースバンド信号を得ることと、
前記M個の第2のベースバンド信号をN個の第3のベースバンド信号にマッピングすることと、
前記N個の第3のベースバンド信号に基づいてN個の第2のRF信号を生成し、前記N個の送信アンテナに供給することと、
前記M個の第2のベースバンド信号の各々が前記M個の受信アンテナの各々に回り込むM×M個の伝搬路に対応するM×M個のウェイトを算出することと、
前記M個の第2のベースバンド信号に前記M個の受信アンテナの各々に対応するM個のウェイトを夫々乗算してから合成することにより、前記キャンセル部に供給するためのM個の模擬信号の各々を得ることと
を具備する無線中継方法。
【請求項4】
第1の無線通信装置と、
第2の無線通信装置と、
前記第1の無線通信装置からM個(M≧2)のストリームを持つ対象信号をM個の受信アンテナを介して受信し、前記第2の無線通信装置にN個(N>M)の送信アンテナを介して送信するための無線中継装置と
を具備し、
前記無線中継装置は、
前記M個の受信アンテナから供給されるM個の第1のRF信号に基づいてM個の第1のベースバンド信号を生成する受信部と、
前記M個の受信アンテナにおける回り込み波を模したM個の模擬信号を前記M個の第1のベースバンド信号から夫々キャンセルし、M個の第2のベースバンド信号を得るキャンセル部と、
前記M個の第2のベースバンド信号をN個の第3のベースバンド信号にマッピングするマッピング部と、
前記N個の第3のベースバンド信号に基づいてN個の第2のRF信号を生成し、前記N個の送信アンテナに供給する送信部と、
前記M個の第2のベースバンド信号の各々が前記M個の受信アンテナの各々に回り込むM×M個の伝搬路に対応するM×M個のウェイトを算出するウェイト算出部と、
前記M個の第2のベースバンド信号に前記M個の受信アンテナの各々に対応するM個のウェイトを夫々乗算してから合成することにより、前記キャンセル部に供給するためのM個の模擬信号の各々を得るウェイト乗算部と
を具備する、
無線中継システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−170115(P2012−170115A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−88791(P2012−88791)
【出願日】平成24年4月9日(2012.4.9)
【分割の表示】特願2010−28114(P2010−28114)の分割
【原出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】