説明

無線受信装置

【課題】高調波の影響を回避しつつ確実にノイズ成分を検出することで安定かつ高精度なスケルチ制御を実行する。
【解決手段】無線受信装置100は、アナログ受信信号を、デジタル受信信号に変換するA/D変換器128と、デジタルの帯域阻止フィルタで形成されデジタル受信信号における隣接チャネルの妨害波を除去する隣接チャネル除去フィルタ132と、隣接チャネルの妨害波が除去されたデジタル受信信号を検波して検波信号を生成する検波部138と、検波信号をアナログ化して出力するD/A変換器136と、検波信号からノイズ成分を抽出するノイズ帯域通過フィルタ146と、抽出されたノイズ成分を整流、平滑化したときの電圧であるスケルチ電圧が所定の閾値以上となったとき、D/A変換器から出力された検波信号を抑圧するスケルチ制御部164と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズ成分の量に応じて検波信号の出力を抑圧する無線受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数変調(FM:Frequency Modulation、以下単にFMという)方式を用いた無線受信装置では、アンテナを通じて受信されたRF(Radio Frequency)信号から、IF(Intermediate Frequency)信号およびベースバンドの信号が段階的に抽出され、さらに検波器で検波された検波信号がスピーカを通じて出力される(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、上述したFM方式の無線受信装置では、有効なRF信号が受信されていないときに、信号レベルの低い不要な電波に基づいて大きなノイズがスピーカから発せられる。そこで、無線受信装置では、検波信号のノイズ成分のみを抽出し、整流および平滑化したスケルチ電圧が所定の閾値以上となると検波信号のスピーカへの出力を抑圧する、所謂、スケルチ制御が行われている(例えば、特許文献2)。また、スケルチ制御では、有効なRF信号が受信されると、検波信号のスピーカへの出力を再開する。
【0004】
このような従来の無線受信装置は、アナログ回路で構成されていたため、ディスクリミネータ(discriminator)検波の前段において受信信号を増幅し歪ませることができ、また、アナログフィルタでは通過帯域外であっても多少の漏れノイズがあることを期待できるため、検波信号におけるノイズ成分も検出し易く、スケルチ制御を容易に採用することが可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−332992号公報
【特許文献2】特開2007−189546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、占有帯域の狭帯域化(ナロー化)、通話品質や秘話性の向上が求められ、無線受信装置内の各回路のデジタル化が進み、変調方式においてはアナログFM方式の狭帯域化、さらには4値FSK(Frequency Shift Keying)のデジタル方式によりさらに狭帯域化され、検波方式もアナログ変調方式に適したディスクリミネータ方式に代えて、変調信号に相当する角変位を前回値に加算し正接関数を通じて導出された値に直交逆変換を施す逆正接関数(arctan)方式等が採用されるようになった。しかし、逆正接関数方式では、A/D変換してデジタル処理を施すことから受信信号を飽和させることができず、ディスクリミネータ方式のようにリミッタで飽和させ振幅制限を行った信号に対して検波を行うといったことができず、スケルチ制御の動作に十分なノイズを得ることが困難であった。
【0007】
また、狭帯域化によりアナログフィルタでは隣接チャネルを阻止するための急峻な特性を得ることが困難になってきた。そこでアナログフィルタに代えてデジタルフィルタを採用することで、急峻な減衰曲線を実現でき、通過帯域外の阻止性能を著しく向上することが可能となる。しかしながら、例えば、隣接チャネル除去フィルタにおいては、従来のアナログフィルタの阻止性能が劣っていることによる漏れノイズも抑圧され、さらに上述したようにリミッタで受信信号を飽和させることもできないので、検波信号におけるノイズ成分の検出が困難になった。ノイズ成分が検出されないとスケルチ制御が十分に機能しなくなり、ユーザは、聴感上不快なノイズを聴かなくてはならなくなる。
【0008】
そこで、デジタル変調方式の無線受信装置では、検波器の後段において、検波された微小なノイズ成分に対するデジタル飽和処理(例えば所定値以上の値を上限値に置換する処理)が行われ、ノイズ成分を見かけ上増幅する処理を行っていた。
【0009】
このような、飽和処理を行うことで、ノイズ成分の検出は可能となるが、その非線形な飽和処理に基づく不規則な高調波が出現してしまう。かかる高調波がスケルチ制御の判定基準である所定の閾値未満のレベルであれば問題ないが、影響を及ぼすレベルであれば不要にスケルチ制御が働いてしまう。したがって、スケルチ制御では、このような高調波を回避しつつノイズ成分を検出するのが望ましいが、高調波の出現周波数が不規則だとノイズ成分を検出する帯域を設定することができない、または、設定できたとしても、その選択肢が、影響を及ぼす高調波の出現を回避できる狭帯域に制限される。このような状況下で仮に設定したノイズ成分の検出帯域に所定レベルの高調波が出現してしまうと、上述したようにそれがスケルチ電圧と見なされ、検波信号の出力が意図せず抑圧されてしまう。
【0010】
本発明は、このような課題に鑑み、デジタル変調方式の採用に伴い、検波信号の非線形増幅が困難な場合であっても、高調波の影響を回避しつつ確実にノイズ成分を検出することで、安定かつ高精度なスケルチ制御を実行することが可能な、無線受信装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の無線受信装置は、アナログ受信信号を、デジタル受信信号に変換するA/D変換器と、デジタルの帯域阻止フィルタで形成されデジタル受信信号における隣接チャネルの妨害波を除去する隣接チャネル除去フィルタと、隣接チャネルの妨害波が除去されたデジタル受信信号を検波して検波信号を生成する検波部と、検波信号をアナログ化して出力するD/A変換器と、検波信号からノイズ成分を抽出するノイズ帯域通過フィルタと、抽出されたノイズ成分を整流、平滑化したときの電圧であるスケルチ電圧が所定の閾値以上となったとき、D/A変換器から出力された検波信号を抑圧するスケルチ制御部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
無線受信装置は、検波信号における可聴上限周波数以上の帯域に出現する高調波を回避するようにノイズ帯域通過フィルタの通過帯域を決定する帯域決定部をさらに含んでもよい。
【0013】
検波部は、逆正接関数方式に基づいてデジタル受信信号を検波してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の無線受信装置は、デジタル変調方式の採用に伴い、検波信号の非線形増幅が困難な場合であっても、高調波の影響を回避しつつ確実にノイズ成分を検出することで、安定かつ高精度なスケルチ制御を実行することが可能となる。こうして原信号の劣化を防止しつつ、適切にノイズを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】無線受信装置の電気的な構成を示した機能ブロック図である。
【図2】可聴上限周波数以上の帯域に生じ得る高調波を説明するための説明図である。
【図3】ACRフィルタの阻止帯域を説明するための説明図である。
【図4】ACRフィルタの阻止帯域を説明するための説明図である。
【図5】スケルチ電圧カーブを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0017】
FM方式の無線受信装置では、有効なRF信号が受信されない無信号時にはS/N比が変位し、信号レベルの低い不要な電波に基づいて大きなノイズが生じる。かかる大きなノイズを、有効なRF信号同様にスピーカから出力すると、ユーザは、有効なRF信号が途切れるたび聴感上不快なノイズを聴かなくてはならなくなる。そこで、本実施形態の無線受信装置100では、検波信号からノイズ成分のみを抽出し、その抽出したノイズ成分に応じて検波信号のスピーカへの出力を抑圧する(スケルチ制御)。
【0018】
また、このような無線受信装置100としてデジタル変調方式を採用したことに伴い、検波信号の非線形増幅が困難になった場合であっても、高調波の影響を回避しつつ確実にノイズ成分を検出して、安定かつ高精度なスケルチ制御を実行する。以下、本実施形態の無線受信装置100について具体的に説明する。
【0019】
(無線受信装置100)
図1は、無線受信装置100の電気的な構成を示した機能ブロック図である。無線受信装置100は、アンテナ110と、第1BPF112と、AGCアンプ114と、局部発信器116と、第1ミキサ118と、第2BPF120と、IFアンプ122と、第2ミキサ124と、第3BPF126と、第1ADC(A/D変換器)128と、直交検波部132と、デシメーションフィルタ134と、ACRフィルタ(隣接チャネル除去フィルタ)136と、検波部138と、第1DAC(D/A変換器)140と、出力アンプ142と、音声出力部144と、帯域決定部146と、ノイズBPF(ノイズ帯域通過フィルタ)150と、スケルチアンプ152と、第2DAC154と、ノイズアンプ156と、整流回路158と、平滑化回路160と、第2ADC162と、スケルチ制御部164と、スイッチ166とを含んで構成される。
【0020】
FM放送波や無線通信等の無線信号がアンテナ110を通じて受信されると、セラミックフィルタ等により構成される第1帯域通過フィルタ(BPF:Band Pass Filter、以下単にBPFという)112を通じて所望する周波数帯域のRF信号のみが抽出され、AGC(Automatic Gain Control)アンプ114によって信号レベルが一定になるようにゲインが調整される。
【0021】
AGCアンプ114で信号レベルが一定になったRF信号は、局部発振器116から得られる第1局部発振周波数の信号と第1ミキサ118によって掛け合わされ、生成された和信号成分と差信号成分のうち第2BPF120によって差信号成分(IF信号)のみが抽出される。こうして、生成されたIF信号は、IFアンプ122によって増幅された後、さらに局部発振器116から得られる第2局部発振周波数の信号と第2ミキサ124によって掛け合わされ、第3BPF126によって目的のアナログ受信信号が抽出される。
【0022】
かかるアナログ受信信号は、第1A/D変換器(ADC:Analog to Digital Converter、以下単にADCという)128を通じてデジタル受信信号に変換され、さらに直交検波部132でベースバンドに変換され、デシメーションフィルタ134を通じて例えばサンプリング周波数が96kHzのデジタル受信信号となる。
【0023】
このようにデジタル化されたベースバンドのデジタル受信信号は、CPU(Central Processing Unit)130内の隣接チャネル除去(Adjacent Channel rejection、以下単にACRという)フィルタ132によって隣接チャネルの妨害波が除去され、逆正接関数(arctan)方式を用い検波部138によって検波され検波信号が生成される。
【0024】
ここで、ACRフィルタ136は、デジタルフィルタで形成されるので、急峻な減衰曲線を実現でき、隣接チャネルからの妨害波の阻止性能を著しく向上することが可能となる。本実施形態においては、かかるACRフィルタ136として低域通過フィルタ(LPF:Low Pass Filter、以下単にLPFという)の形態を採らず、帯域阻止(BEF:Band Elimination Filter、以下単にBEFという)フィルタを用いる。その理由は後述する。
【0025】
また、検波部138で用いられる逆正接関数方式は、FM検波方式の一つであり、以下のように検波が遂行される。まず、デジタル受信信号は直交検波部132により直交した振幅成分に変換され、検波部138は直交したそれぞれの信号を同じタイミングでサンプリングすることにより、そのサンプリングされた振幅値に逆正接関数を適用することで角度を求め、そして、サンプルごとの角変位を前回値に加算(積分)し変調信号に相当する検波信号を得る。ここでは、FM検波に用いているが、かかる場合に限られず、BPSK(Binary Phase Shift Keying)やQPSK(Quadrature PSK)といった位相偏移変調(PSK)や4値FSK等、既存の様々なデジタル変調方式の検波にも用いることができる。
【0026】
検波部138によって検波された検波信号は、第1D/A変換器(DAC:Digital to Analog Converter、以下単にDACという)140によって再びアナログ信号に変換され、出力アンプ142で増幅されてスピーカやヘッドホンといった音声出力部144に出力される。ユーザは、かかる音声出力部144を通じて検波信号を聴くことができる。
【0027】
また、CPU130内の帯域決定部146は、FFT(Fast Fourier Transform)アナライザ等により周波数分析を行い、検波部138で検波された検波信号における可聴上限周波数(例えば15kHz)以上の帯域に出現する高調波を推定し、その高調波を回避するように、すなわち、高調波によるブロッキングの影響を受けない帯域(ノイズ成分の検出帯域)を探して、後述するDSP(Digital Signal Processor)148のノイズBPF150の通過帯域を決定する。このとき通過帯域は、中心周波数と帯域幅とによって特定されてもよい。かかる帯域決定部146に関する具体的な動作は後ほど詳述する。ノイズBPF150は、検波部138によって検波された検波信号から、帯域決定部146によって決定された検出帯域のノイズ成分を抽出する。
【0028】
ノイズBPF150によって抽出されたノイズ成分はスケルチアンプ152を通じて増幅され、第2DAC154によってアナログ信号に変換される。第2DAC154から出力されたノイズ信号は、さらにノイズアンプ156で増幅されて、整流回路158で整流された後、平滑化回路160によって平滑化される。このような平滑化された信号の電圧であるスケルチ電圧は、CPU130内の第2ADC162を通じて取得され、スケルチ制御部164において所定の閾値と比較される。
【0029】
スケルチ制御部164は、第2ADC162が取得したスケルチ電圧が所定の第1閾値以上となったとき、当該無線受信装置100において有効なRF信号が受信されていないと判断し、スイッチ166を開状態にして、第1DAC140を通じ出力アンプ142から出力された検波信号を抑圧(遮断)する。こうしてユーザは、不要なノイズを聴かなくて済む。
【0030】
このとき、スケルチ制御部164は、スケルチ電圧が、再び第1閾値以下になったとしてもすぐにスイッチ166を閉状態に戻さず、第1閾値より小さい第2閾値以下となったとき、はじめて閉状態に戻す、所謂ヒステリシス特性を有している。かかるヒステリシス特性により、無線受信装置100では、スケルチ電圧が第1閾値付近で発振した場合においてもスイッチ166の不要な開閉(チャタリング)を回避し、安定したスケルチ制御を実現することが可能となる。
【0031】
ところで、上述したように、帯域決定部146は、検波信号における可聴上限周波数以上の帯域に出現する高調波を回避するようにノイズBPF150の通過帯域を決定する。ここで、スケルチ制御の対象となり得る帯域である、検波信号における可聴上限周波数以上の帯域に生じる高調波は、主として、(1)原信号(可聴帯域中の有効信号成分)の高調波、(2)無線受信装置100のハードウェアの特性に基づく高調波、(3)検波における非線形処理に基づく高調波とがある。
【0032】
図2は、可聴上限周波数以上の帯域200に生じ得る高調波を説明するための説明図である。上述した高調波のうち、(1)原信号の高調波、(2)ハードウェアの特性に基づく高調波に関しては、図2(a)に実線で示したように、原信号やハードウェアさえ決まれば、その出現周波数や出現量(振幅)を特定することができる。したがって、帯域決定部146は、検波信号から(1)原信号の高調波、および、(2)ハードウェアの特性に基づく高調波を予測することが可能である。
【0033】
一方、デジタル変調方式への変更に伴い、ディスクリミネータ方式に代えて逆正接関数方式を採用したのは上述の通りだが、逆正接関数方式等のデジタル変調方式を採用した場合に検波処理の前段で受信信号を歪ませると、その歪ませた受信信号の折り返しによる高調波は、図2(b)に破線で示すように不規則に出現する。また、検波後に飽和処理を行ったとしてもやはり飽和処理に基づく高調波が可聴上限周波数以上の帯域200に不規則に出現する。かかる不規則に生じる高調波の出現周波数を予測するのは容易ではなく、(1)原信号の高調波、(2)ハードウェアの特性に基づく高調波と比べ、(3)非線形処理に基づく高調波に関してその予測精度は格段に落ちてしまう。
【0034】
スケルチ制御では、有効なRF信号が受信されていないときのノイズ成分の変化を確実に検出し、そのRF信号の変化に応じてスイッチ166を確実に開閉する性能(スケルチ性能)が求められる。また、同時に、可聴帯域中の有効信号成分、例えば3kHzまでの帯域の信号(音声信号)を当該無線受信装置100の各構成要素に通過させ、その高調波が、スケルチ制御の対象となり得る、可聴上限周波数以上の帯域に生じたとしても、そのことによってはスイッチ166の開閉に影響を与えない性能(ブロッキング性能)も求められる。
【0035】
このようなスケルチ性能とブロッキング性能とを両方満たすためには、高調波とノイズ成分とを区別し、高調波を回避しつつノイズ成分のみを検出するのが望ましい。これは、仮にスケルチ制御の対象として設定したノイズ成分の検出帯域に所定レベルの電圧値を有する高調波が出現すると、それがスケルチ電圧として所定の閾値以上となり、検波信号の出力が意図せず抑圧(ブロッキング)されてしまうからである。
【0036】
しかし、上述したように、(3)非線形処理に基づく高調波が不規則に出現することで、ノイズ成分を検出する帯域を正確に設定することができず、また、設定できたとしても、その選択肢が、影響を及ぼす高調波の出現を回避できる狭帯域に制限される。
【0037】
そこで、本実施形態における検波前のACRフィルタ136は、LPFではなくBEFを用いることとする。ACRフィルタ136は、BEFの機能により隣接チャネルに相当する帯域を阻止し、隣接チャネル帯域よりさらに離れた帯域は通過させる特性を有する。また、ACRフィルタ136は、BEFとして、有限インパルス応答(FIR:Finite Impulse Response)フィルタや無限インパルス応答(IIR:Infinite Impulse Response)フィルタ等、既存の様々なデジタルフィルタを適用して構成することができる。
【0038】
図3および図4は、ACRフィルタ136の阻止帯域を説明するための説明図である。近年では無線における周波数の利用効率向上のため狭帯域化が進み、チャネル間隔も25kHzから12.5kHz、変調が4値FSKのデジタル方式ではさらに6.25kHzと狭くなっている。帯域幅が12.5kHzであればセラミックフィルタ等を用いることで隣接チャネルを阻止できたが、帯域幅が6.25kHzではセラミックフィルタでカットオフ部分における急峻な特性を得ることが困難なため、さらなる狭帯域化に対してはデジタルフィルタを用いることで実現する。第1ADC128でデジタル化されたデジタル受信信号は、直交検波部132によりベースバンドとなっているため、ACRフィルタは基本的にLPFで構成することができる。
【0039】
従来のACRフィルタでは、図3に示すように、対象となるデジタル受信信号のチャネル帯域幅の1/2の帯域202を通過させる。それ以上の周波数である、隣接チャネルセンター周波数fcを中心とした隣接チャネル帯域204、および、さらに離れた帯域206は、不要な帯域であり、通過させる必要がないためLPFを通じて阻止していた。
【0040】
従来のFM検波器であれば、検波信号はリミッタにより飽和させているため、無信号時であっても十分なノイズ量を確保でき、検波後のスケルチ制御の動作に支障はなかった。しかし、デジタル処理を行う場合、検波部138の前段で飽和させることはできず、かつ帯域幅も狭いこともあり、検波後のノイズの量も、リミッタにより飽和させFM検波した場合に比べて著しく少なくなる。
【0041】
そのためスケルチ制御に必要なノイズ成分を抽出するために、この少ないノイズ信号に飽和処理を施し歪ませなければならず、実際の無線信号のノイズ量の変化とスケルチ制御の動作とを一致させることが困難であった。
【0042】
本実施形態では、ACRフィルタ136をBEFで形成することで、図4に示すように、LPF同様、隣接チャネル帯域204を確実に阻止し、それ以上の帯域を通過させる。
【0043】
理論的にFM検波器は、受信対象となる帯域が広いほど検波出力レベルは大きくなる。したがってFM検波する帯域を広げることで、検波後のノイズとしてスケルチ制御に十分な量を確保でき、ノイズ成分の飽和処理を必要としないため、実際のノイズ量の変化とスケルチ制御の動作とを一致させることが可能となる。
【0044】
上述した各帯域202、204は、当該無線受信装置100で想定する周波数帯域に応じて適応的に変更することができる。例えば、チャネル間隔6.25kHzに対応すべく、帯域202を3.125kHzまで、隣接チャネル帯域204を3.125kHz〜9.375kHz(隣接チャネルセンター周波数fc=6.25kHz)としてもよいし、チャネル間隔12.5kHzに対応すべく、帯域202を6.25kHzとし、隣接チャネル帯域204を6.25kHz〜18.75kHz(隣接チャネルセンター周波数fc=12.5kHz)としてもよい。また、隣接チャネルからの妨害波の影響に応じて、BEFの阻止帯域幅を拡縮することもできる。
【0045】
本実施形態では、ACRフィルタ136において、スケルチ制御の動作に十分なノイズを検出できるため、後段のノイズBPF150では従来のようなノイズ成分の飽和処理を要さない。ただし、ノイズ成分の絶対量を調整する場合を想定して、スケルチアンプ152によって線形範囲でノイズ成分のゲインを制御する。
【0046】
このようにACRフィルタ136をBEFで構成することで一貫して線形のデジタル処理を実現できるので、CPU130やDSP148で実行されているデジタル処理がアナログの線形処理に相当することとなり、不規則に出現していた高調波が規則的に出現する。したがって、(1)原信号の高調波、(2)ハードウェアの特性に基づく高調波同様、高調波の再現性が高くなり、FFTアナライザを通じて高調波の出現位置およびその出現量(振幅)を把握するのが容易になる。こうして、帯域決定部146は、高調波の影響を受けない、スケルチ制御の対象となるノイズ成分の検出帯域を容易に決定でき、ノイズBPF150は、通過帯域をその決定された検出帯域に設定することで確実に高調波を除くノイズ成分のみを抽出することが可能となる。また、ノイズ成分を安定して抽出できるので、スケルチ制御のバラつきを抑え、有効なRF信号の有無とスイッチ166の開閉の連動安定性を確保することも可能となる。
【0047】
ところで、スケルチ制御では、ブロッキング性能、アタックタイム、スケルチ電圧カーブ&タイト点の3つを配慮する必要がある。ブロッキング性能は上述した通りであり、アタックタイムは、整流回路158や平滑化回路160の処理遅延も含む、有効なRF信号が受信されなくなってから実際にスイッチ166が開かれる(スケルチが閉じる)までの応答時間である。また、スケルチ電圧カーブ&タイト点は、上述したスケルチ制御のヒステリシス特性に関係している。
【0048】
図5は、スケルチ電圧カーブを説明するための説明図である。ここでは、横軸にアンテナ110の電界強度、縦軸に電圧が示されている。アンテナ110の電界強度は、−120dBm〜−110dBmの間で推移し、例えば、その電界強度がAであった場合、Aから電界強度上下に所定の間隔離隔した電界強度BおよびCが一意に定まる。そして、その電界強度BおよびCに対応するスケルチ電圧カーブ210上の電圧が、タイト点、すなわち第1閾値および第2閾値となる。
【0049】
図5を参照して理解できるように、スケルチ電圧カーブ210の傾斜が大きい箇所では、第1閾値と第2閾値との差分が大きくなり、ヒステリシス特性の反応が遅くなるのに対し、傾斜が小さい箇所では、第1閾値と第2閾値との差分が小さいので、ヒステリシス特性の反応が早くなる。
【0050】
このようなブロッキング性能等の各パラメータは、トレードオフの関係も有し、1のパラメータの性能を優先すると他のパラメータが犠牲になる場合もある。したがって、帯域決定部146は、ノイズ成分の検出帯域を無作為に選択するのみならず、このような各パラメータの性能をバランスよく有効活用できるようにノイズ成分の検出帯域を選択しなければならない。
【0051】
本実施形態では、高調波の出現位置を比較的正確に特定できるので、高調波の出現位置の不規則性を踏まえて裕度を大きく設ける必要がなくなり、ノイズ成分の検出帯域として選択できる範囲を広くとることができる。したがって、帯域決定部146は、各パラメータの性能を十分に発揮できるようなノイズ成分の検出帯域を選択することが可能となる。また、従来では高調波の出現位置が不規則であるが故、高調波の出現位置の変更に応じて高い頻度でノイズ成分の検出帯域を変更する必要があったが、ここでは高調波の出現位置が予測可能となるのでノイズ成分の検出帯域の変更頻度を削減でき、ノイズBPF150の各フィルタ係数やタップ数を変更する処理負荷を著しく軽減することが可能となる。
【0052】
このように、高調波の影響を回避しつつ確実にノイズ成分を検出することで安定かつ高精度なスケルチ制御を実行することが可能となる。こうして原信号の劣化を防止しつつ、大きなノイズの発生を適切に遮断することができる。
【0053】
また、ACRフィルタ136がCPU130においてデジタルフィルタで形成されるので、図4に示したように、隣接チャネル帯域204を、急峻な減衰曲線と高精度のカットオフ周波数によって確実に阻止しつつ、隣接チャネル帯域204のさらに離れた帯域206を、通過させることでスケルチ制御を実行するために必要十分なレベルのノイズ成分を検波することができ、安定したスケルチ制御を見込むことが可能となる。また、無線受信装置100では、実際の無線信号上で帯域206に相当する周波数に妨害波が存在しても、第2BPF120および第3BPF126によってすでに除去されているので、ACRフィルタ136がその帯域206を通過させたとしても問題は生じない。
【0054】
さらに、ACRフィルタ136やノイズBPF150をデジタルフィルタで形成することで、そのフィルタ係数、タップ数、ゲイン、カットオフ部分の傾斜等の変更が容易となり、実験、確認、チューニングをハードウェアの変更を伴うことなく、非常に簡易にできるようになった。したがって、開発、製造コストのみならず、メンテナンスコストの削減を図ることも可能となる。
【0055】
以上、説明した無線受信装置100では、逆正接関数方式等のデジタル変調方式の採用に伴い、検波信号の非線形増幅が困難な場合であっても、高調波の影響を回避しつつ確実にノイズ成分を検出することで、隣接チャネルの妨害波を確実に除去しつつスケルチ性能やブロッキング性能を満たし、安定かつ高精度なスケルチ制御を実行することが可能となる。今後、無線受信装置100のデジタル化が益々促進されることが予想されるが、本実施形態によるスケルチ制御を採用することで、各回路の占有面積や消費電力の削減を図ることも可能となる。
【0056】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0057】
例えば、上述した実施形態においては、スケルチ制御に関する整流回路158や平滑化回路160等の各構成要素をアナログ回路で実現したが、かかる場合に限られず、デジタル回路で実現することもできる。こうすることで、第2DAC154等で一旦アナログ信号に変更する処理を省くことができるので、占有面積や消費電力的に有利になる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、ノイズ成分の量に応じて検波信号の出力を抑圧する無線受信装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
100 …無線受信装置
128 …第1ADC(A/D変換器)
136 …ACRフィルタ(隣接チャネル除去フィルタ)
138 …検波部
140 …第1DAC(D/A変換器)
146 …帯域決定部
150 …ノイズBPF(ノイズ帯域通過フィルタ)
158 …整流回路
160 …平滑化回路
164 …スケルチ制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ受信信号を、デジタル受信信号に変換するA/D変換器と、
デジタルの帯域阻止フィルタで形成され前記デジタル受信信号における隣接チャネルの妨害波を除去する隣接チャネル除去フィルタと、
隣接チャネルの妨害波が除去された前記デジタル受信信号を検波して検波信号を生成する検波部と、
前記検波信号をアナログ化して出力するD/A変換器と、
前記検波信号からノイズ成分を抽出するノイズ帯域通過フィルタと、
抽出された前記ノイズ成分を整流、平滑化したときの電圧であるスケルチ電圧が所定の閾値以上となったとき、前記D/A変換器から出力された検波信号を抑圧するスケルチ制御部と、
を備えることを特徴とする無線受信装置。
【請求項2】
前記検波信号における可聴上限周波数以上の帯域に出現する高調波を回避するように前記ノイズ帯域通過フィルタの通過帯域を決定する帯域決定部をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の無線受信装置。
【請求項3】
前記検波部は、逆正接関数方式に基づいて前記デジタル受信信号を検波することを特徴とする請求項1または2に記載の無線受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−135208(P2011−135208A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291157(P2009−291157)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000003595)株式会社ケンウッド (1,981)
【Fターム(参考)】