説明

無線品質の変動状態から安定状態への遷移を判定する無線端末、プログラム及び方法

【課題】多大な計算量を要することなく、無線品質の変動状態から安定状態への遷移に追従し、計測時間間隔Δtを適応的に長く設定し直すことができる無線端末等を提供する。
【解決手段】無線品質Cの計測回数を表す第1のサンプル数mを決定する第1のサンプル数決定手段と、m個の無線品質Cを計測する第1のサンプル計測手段と、m個の無線品質Cについて、最大値と最小値との差分である計測変動範囲ΔDを算出する計測変動範囲算出手段と、所定の第2のサンプル数N個の無線品質Cを計測する第2のサンプル計測手段と、N個の無線品質Cについて、計測変動範囲ΔD内に、信頼度(1−δ)に基づく所定数以上が存在する場合、安定状態候補とした記憶する安定状態候補記憶手段と、現時点における計測変動範囲ΔDnewが、前時点における計測変動範囲ΔDprevよりも小さい場合、無線品質が安定状態にあると判定する安定状態遷移判定手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線品質を一定時間間隔で計測する無線端末の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、移動通信システムや無線LANなど多種の無線システムが普及してきている。これに対し、複数の無線システムを同時に又は切り替えて利用する無線端末(マルチバンド受信機)の技術がある。無線端末は、複数の無線システムを用いることによって、一方の無線システムが利用不可(例えばエリア圏外への移動)となった場合でも、他方の無線システムを利用することができ、通信の持続性を向上させることができる。ここで、無線端末は、無線システムをシームレスに切り替えるために、一方の無線システムで通信中に、他方の無線システムの無線品質を定期的に監視(計測)する必要がある。
【0003】
無線端末は、無線品質を計測する時間間隔Δtを短く制御することによって、無線品質の急激な変化に追従できる。しかしながら、無線品質の計測回数の増加は、消費電力の増加を招く。逆に、その計測時間間隔Δtを長く制御することによって、無線品質の急激な変化に追従できなくなる。
【0004】
図1は、一定時間間隔で無線品質を計測する無線端末の機能構成図である。
【0005】
図1によれば、無線端末1は、データ送受信部10と、1つ以上の通信インタフェース部11と、無線品質計測部12と、計測時間間隔制御部13と、FIR(Finite Impulse Response:有限インパルス応答)フィルタ部14とを有する。通信インタフェース部11は、無線回線を介して、基地局又はアクセスポイントと通信する。
【0006】
無線品質計測部12は、通信インタフェース部11について、時刻tにおける無線品質C[t]を計測する。無線品質C[t]は、計測時間間隔制御部13からの計測時間間隔Δtに応じて計測される。計測された無線品質C[t]は、FIRフィルタ部14へ出力される。
【0007】
FIRフィルタ部14は、過去に取得した複数の無線品質C[t]を用いて、畳み込み演算によって線形予測を実行する。これによって、将来の無線品質C[t]が推定される。図1によれば、タップ数L=5のFIRフィルタが表されている。過去時刻t-4〜tで取得された無線品質に重み付けがなされ、それら無線品質が加算され、時刻t+1における無線品質C[t+1]が推定される。時刻t+2における無線品質C[t+2]は、時刻t+1における推定無線品質C[t+1]が再帰的に入力されることによって推定される。このように、FIRフィルタは、前回の推定無線品質を用いて演算を繰り返す。
【0008】
計測時間間隔制御部13は、FIRフィルタ部14によって予測された将来の無線品質に応じて、無線品質計測部12に対して無線品質の計測時間間隔を制御する。例えば、将来の推定無線品質が、現無線品質と同程度であれば、無線品質の変動は緩やかであると判定される。この場合、無線品質を頻繁に確認する必要がなく、無線品質の計測時間間隔を長く制御することができる。一方で、将来の推定無線品質が、現無線品質よりも大きく変動しているならば、無線品質は変動状態にあると判定される。この場合、無線品質を頻繁に確認する必要があり、無線品質の計測時間間隔を短く制御する。
【0009】
しかしながら、この技術によれば、無線品質の計測時間間隔を決定するだけのために、FIRフィルタを用いている。FIRフィルタは、畳み込み演算の計算量が非常に大きい。特に、将来の無線品質の変動を連続的に線形予測した場合、その計算量は膨大となる。また、FIRフィルタは、再帰的な線形予測を実行するために、一度発生した予測誤差が、以後の無線品質の推定に伝搬する。これは、将来的な無線品質の推定精度を著しく劣化させることにつながる。
【0010】
これに対し、無線品質の変動状態に追従して無線品質の計測時間間隔を適応的に変化させることができる技術がある(例えば非特許文献1参照)。この技術によれば、無線品質の急激な変動を検知するために、簡易な確率判定式(チェビシェフ不等式)を用いる。無線品質の冗長な計測回数を削減することによって、消費電力の軽減と、無線品質の変動に対する高い追従性とを実現することができる。
【0011】
図2は、時間経過に応じた無線品質の変動を表すグラフである。
【0012】
図2によれば、左側縦軸に無線品質を表し、右側縦軸に計測時間間隔を表し、横軸に経過時間を表す。0s〜8sまでは、無線品質が高く且つ変動が小さい。このとき、計測時間間隔Δtを比較的長く制御しても、無線品質の変動に追従することができる。その後、8s〜12sまで、無線品質が急激に低下している。このとき、無線品質の変動が大きいために、計測時間間隔Δtを比較的短く制御する必要がある。これによって、無線品質の変動に対する追従性を高くすることができる。その後、12s〜17sまで、無線品質が低く且つ変動が小さい。このとき、計測時間間隔Δtを比較的長く制御しても、無線品質の変動に追従することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】池田裕司、稗圃泰彦、菅野一生、山崎浩輔、石川博康、「確率判定式を用いた無線品質計測時間間隔の適応的制御法」、KDDI研究所、信学技法、Technical report of IEICE. SAT 109(72) pp.19-22 20090527、[online]、[平成21年12月16日検索]、インターネット<URL:http://ci.nii.ac.jp/Detail/detail.do?LOCALID=ART0009189234&lang=ja>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、前述した従来技術によれば、無線品質の急激な変動を検知することができるが、その変動が収束した安定状態を検知することまで検討されていない。簡易な方法として、無線品質の急激な変動を検知した際に、計測時間間隔Δtを短く設定し、その後、一定時間T経過後に、強制的に計測時間間隔Δtを長く設定することができる。
【0015】
この場合、一定時間Tを長く設定した場合、その一定時間Tの間に、無線品質が安定状態へ遷移しても、計測時間間隔Δtは依然短い。そのために、無線品質の計測回数も多くなり、消費電力の増大を招く。一方で、一定時間Tを短く設定した場合、その一定時間Tの経過後に、無線品質が変動状態にあっても、計測時間間隔Δtを長く設定し直す。そのために、無線品質の変動に対する追従性が劣化する。
【0016】
そこで、本発明は、多大な計算量を必要とすることなく、無線品質の変動状態から安定状態への遷移に追従し、安定状態を検知した際に、無線品質の計測時間間隔Δtを適応的に長く設定し直すことができる無線端末、プログラム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、無線端末において、
時間間隔Δt毎に、時刻tにおける無線品質C[t]を計測する無線品質計測手段と、
無線品質における変動状態又は安定状態を判定する無線状態判定手段と、
無線品質が安定状態にあると判定された際に、時間間隔Δtを相対的に長く制御する計測時間間隔制御手段と
を有し、
無線状態判定手段は、
無線品質Cの計測回数を表す第1のサンプル数mを決定する第1のサンプル数決定手段と、
無線品質計測手段を用いて、第1のサンプル数m個の無線品質C[t]を所定時間間隔Δt毎に計測する第1のサンプル計測手段と、
第1のサンプル数m個の無線品質C[t]について、計測最大値gmaxと計測最小値gminとの差分である計測変動範囲ΔDを算出する計測変動範囲算出手段と、
無線品質計測手段を用いて、所定の第2のサンプル数N個の無線品質C[t]を所定時間間隔Δt毎に計測する第2のサンプル計測手段と、
第2のサンプル数N個の無線品質C[t]について、計測変動範囲ΔD内に、信頼度(1−δ)に基づく所定数以上が存在する場合、当該計測変動範囲ΔDを安定状態判定候補として記録する安定状態候補記憶手段と、
第1のサンプル数決定手段、第1のサンプル計測手段、計測変動範囲算出手段、第2のサンプル計測手段及び安定状態候補記憶手段を、少なくとも2回繰り返し実行し、現時点における計測変動範囲ΔDnewが、前時点における計測変動範囲ΔDprevよりも小さい場合(ΔDprev>ΔDnew)、無線品質が安定状態にあると判定する安定状態遷移判定手段と
を有することを特徴とする。
【0018】
本発明の無線端末における他の実施形態によれば、
無線状態判定手段における第1のサンプル数決定手段は、
無線品質の変動を確率分布Dとした場合、計測最大値gmaxと真の最大値fmaxとの間に発生する未計測確率dmax(gmax、fmax)と、計測最小値gminと真の最大値fminとの間に無線品質値が発生する未計測確率dmin(gmin、fmin)との和が、高々、近似度εであることが、少なくとも信頼度(1−δ)となる
Pr(dmax(gmax、fmax)+dmin(gmin、fmin)≦ε)≧1−δ
ことを表す確率近似学習を用いて、
ε及びδを設定することによって、第1のサンプル数mは、
m=1/ε・ln(1/δ)
で決定されることも好ましい。
【0019】
本発明の無線端末における他の実施形態によれば、安定状態遷移判定手段は、第1のサンプル数決定手段、第1のサンプル計測手段、計測変動範囲算出手段、第2のサンプル計測手段及び安定状態候補記憶手段を繰り返し実行し、K回、現時点における計測変動範囲ΔDnewが、前時点における計測変動範囲ΔDprevよりも小さい場合(ΔDprev>ΔDnew)発生した際に、無線品質が安定状態にあると判定することも好ましい。
【0020】
本発明の無線端末における他の実施形態によれば、安定状態遷移判定手段は、K回連続して、ΔDprev>ΔDnewが発生した際に、無線品質が安定状態にあると判定することも好ましい。
【0021】
本発明の無線端末における他の実施形態によれば、計測時間間隔制御手段は、無線状態判定手段によって無線品質が変動状態にあると判定された際に、時間間隔Δtを相対的に短く制御することも好ましい。
【0022】
本発明の無線端末における他の実施形態によれば、
異なる無線システムにおける複数の通信インタフェースを更に有し、
第1の通信インタフェースを用いた第1の無線システムで通信している際に、第2の通信インタフェースを用いた第2の無線システムへハンドオーバするために、無線品質計測手段は、第2の通信インタフェースにおける無線品質を計測することも好ましい。
【0023】
本発明によれば、無線端末に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムにおいて、
時間間隔Δt毎に、時刻tにおける無線品質C[t]を計測する無線品質計測手段と、
無線品質における変動状態又は安定状態を判定する無線状態判定手段と、
無線品質が安定状態にあると判定された際に、時間間隔Δtを相対的に長く制御する計測時間間隔制御手段と
してコンピュータを機能させ、
無線状態判定手段は、
無線品質Cの計測回数を表す第1のサンプル数mを決定する第1のサンプル数決定手段と、
無線品質計測手段を用いて、第1のサンプル数m個の無線品質C[t]を所定時間間隔Δt毎に計測する第1のサンプル計測手段と、
第1のサンプル数m個の無線品質C[t]について、計測最大値gmaxと計測最小値gminとの差分である計測変動範囲ΔDを算出する計測変動範囲算出手段と、
無線品質計測手段を用いて、所定の第2のサンプル数N個の無線品質C[t]を所定時間間隔Δt毎に計測する第2のサンプル計測手段と、
第2のサンプル数N個の無線品質C[t]について、計測変動範囲ΔD内に、信頼度(1−δ)に基づく所定数以上が存在する場合、当該計測変動範囲ΔDを安定状態判定候補として記録する安定状態候補記憶手段と、
第1のサンプル数決定手段、第1のサンプル計測手段、計測変動範囲算出手段、第2のサンプル計測手段及び安定状態候補記憶手段を、少なくとも2回繰り返し実行し、現時点における計測変動範囲ΔDnewが、前時点における計測変動範囲ΔDprevよりも小さい場合(ΔDprev>ΔDnew)、無線品質が安定状態にあると判定する安定状態遷移判定手段と
を有するようにコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、無線端末における無線品質判定方法において、
無線品質Cの計測回数を表す第1のサンプル数mを決定する第1のステップと、
第1のサンプル数m個の無線品質C[t]を時間間隔Δt毎に計測する第2のステップと、
第1のサンプル数m個の無線品質C[t]について、計測最大値gmaxと計測最小値gminとの差分である計測変動範囲ΔDを算出する第3のステップと、
所定の第2のサンプル数N個の無線品質C[t]を時間間隔Δt毎に計測する第4のステップと、
第2のサンプル数N個の無線品質C[t]について、計測変動範囲ΔD内に、信頼度(1−δ)に基づく所定数以上が存在する場合、当該計測変動範囲ΔDを安定状態判定候補として記録する第5のステップと
を有し、
第1のステップから第5のステップを少なくとも2回繰り返し実行し、現時点における計測変動範囲ΔDnewが、前時点における計測変動範囲ΔDprevよりも小さい場合(ΔDprev>ΔDnew)、無線品質が安定状態にあると判定する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明の無線端末、プログラム及び方法によれば、確率近似学習を用いることによって、多大な計算量を必要とすることなく、無線品質の変動状態から安定状態への遷移に追従し、安定状態を検知した際に、無線品質の計測時間間隔Δtを適応的に長く設定し直すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】一定時間間隔で無線品質を計測する無線端末の機能構成図である。
【図2】時間経過に応じた無線品質の変動を表すグラフである。
【図3】時間経過に応じた計測時間間隔Δtの変化を表すグラフである。
【図4】安定状態時間区間及び変動状態時間区間におけるフローチャートである。
【図5】本発明における無線品質の変動状態から安定状態への遷移を判定するフローチャートである。
【図6】確率近似学習を概念的に表す説明図である。
【図7】図5について安定状態の判定精度を高めたフローチャートである。
【図8】本発明における無線端末の機能構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0028】
図3は、時間経過に応じた計測時間間隔Δtの変化を表すグラフである。
【0029】
図3によれば、計測時間間隔Δtは、経過時間に伴って、トレーニング時間区間と、安定状態時間区間と、変動状態時間区間とに区分される。「安定状態時間区間」とは、無線品質の変動量が小さいために、計測時間間隔Δtが比較的長く設定されている時間区間をいう。計測時間間隔Δtが長いために、無線品質の計測回数も少なく、消費電力が軽減される。また、「変動状態時間区間」とは、無線品質の変動量が大きいために、計測時間間隔Δtが比較的短く設定されている時間区間をいう。計測時間間隔Δtが短いために、無線品質の計測回数も多く、消費電力も増大するが、無線品質の急激な変動に追従することができる。
【0030】
図3によれば、トレーニング時間区間の経過後、安定状態時間区間へ遷移し、計測時間間隔Δtが長く設定される。安定状態時間区間について無線品質が急激に変動した際に、変動状態時間区間へ遷移し、計測時間間隔Δtが短く設定される。その後、本発明によれば、変動状態時間区間について無線品質の安定状態を検知した際に、安定状態時間区間へ遷移し、計測時間間隔Δtが再び長く設定される。
【0031】
図4は、安定状態時間区間及び変動状態時間区間におけるフローチャートである。
【0032】
(S401)以下のS402〜S403を繰り返す。
【0033】
(S402)安定状態時間区間か又は変動状態時間区間かによって、処理が分岐される。
Flag=0:安定状態時間区間
Flag=1:変動状態時間区間
【0034】
安定状態時間区間「Flag=0」である場合、無線品質の安定状態から変動状態へ遷移する時点を判定する。安定状態時間区間は、無線品質の変動状態が検知された際に終了する。安定状態時間区間における処理フローは、S411〜S413に表される。
【0035】
変動状態時間区間「Flag=1」である場合、無線品質の変動状態から安定状態へ遷移する時点を判定する。変動状態時間区間は、無線品質の安定状態が検知された際に終了する。変動状態時間区間における処理フローは、S421〜S423に表される。
【0036】
(S411)安定状態から変動状態への遷移を判定する。例えば非特許文献1に記載された技術によれば、無線品質の急激な変動を検知するために、簡易な確率判定式(チェビシェフ不等式)を用いる。
(S412)変動状態と判定された場合、計測時間間隔Δtは短く設定される。
(S413)変動状態時間区間へ遷移するべく、「Flag=1」に設定する。そして、S403へ移行する。
【0037】
(S421)変動状態から安定状態への遷移を判定する。ここでの判定処理は、本発明の特徴となる部分であって、図5によって詳細に後述される。
(S422)安定状態と判定された場合、計測時間間隔Δtは長く戻すべく設定される。
(S423)安定状態時間区間へ遷移するべく、「Flag=0」に設定する。そして、S403へ移行する。
【0038】
(S403)最後に、計測時間間隔Δtだけ待機して、遅延させる。その後、S401へ遷移する。
【0039】
図5は、本発明における無線品質の変動状態から安定状態への遷移を判定するフローチャートである。
【0040】
(S501)無線品質Cの計測回数を表す第1のサンプル数mを決定する。ここで、第1のサンプル数mを決定するために、確率近似学習(PAC(Probably Approximately Correct learnable))が用いられる。
【0041】
図6は、確率近似学習を概念的に表す説明図である。
【0042】
ここで、「確率近似学習可能」とは、無線品質の変動を確率分布Dとした場合、計測最大値gmaxと真の計測最大値fmaxとの間に無線品質値が発生する未計測確率dmax(gmax、fmax)と、計測最小値gminと真の計測最小値fminとの間に発生する未計測確率dmin(gmin、fmin)との和が、高々、近似度εであることが、少なくとも信頼度(1−δ)となる。これは、以下の式によって表される。
Pr(dmax(gmax、fmax)+dmin(gmin、fmin)≦ε)≧1−δ
左辺Pr()は、m個のサンプル数の無線品質によって算出される。右辺1−δは、N個のサンプル数の無線品質によって判定される。
また、第1のサンプル数mは、以下の式によって表される。
m=1/ε・ln(1/δ)
【0043】
この式からも明らかなように、必要なサンプル数mは、ε及びδによって決定される。ε及びδの値は、設計事項として任意に決定される。δは、例えば0.05であってもよい。
【0044】
(S502)計測変動範囲を、初期値にリセットする。
ΔDnew=0 :現時刻で計測された計測変動範囲
ΔDprev=0:Δt前の時刻に計測された計測変動範囲
【0045】
(S503)安定状態へ遷移したと判定されるまで、S504〜S513を繰り返す。
【0046】
(S504)時間間隔Δt毎に、第1のサンプル数m個の無線品質C[t]〜C[t+(m×Δt)]を計測する。無線品質C[t]は、信号対雑音比であって、例えばCINR(Carrier to Interference and Noise Ratio)である。「CINR」は、自己搬送波信号の電力値に対する、干渉・雑音信号の電力値の比である。CINRが相対的に高い(自己搬送波信号の電力値が、干渉・雑音信号の電力値よりも相対的に大きい)場合、無線品質は良好であると認識される。一方で、CINRが相対的に低い(自己搬送波信号の電力値が、干渉・雑音信号の電力値よりも相対的に大きい)場合、無線品質は劣悪であると認識される。無線品質としては、勿論、CNR(Carrier to Noise Ratio)、SNR(Signal to Noise Ratio)、SINR(Signal to Interference and Noise Ratio)等であってもよい。
【0047】
(S505)第1のサンプル数m個の無線品質C[t]〜C[t+(m×Δt)]について、最大値gmaxと最小値gminとの差分である計測変動範囲ΔDを算出する。
【0048】
(S506)所定の第2のサンプル数N個の無線品質C[t+(m×Δt)+1]〜C[t+(m×Δt)+(N×Δt)]を計測する。Nの個数は、設計事項として予め決定されたものである。N個のサンプルは、dmax(gmax、fmax)とdmin(gmin、fmin)との和が、高々近似度εであることが、少なくとも信頼度(1−δ)の確率で成立している(確率近似学習可能)か否を判定するためのものである。
【0049】
(S507)第2のサンプル数N個の無線品質C[t+(m×Δt)+1]〜C[t+(m×Δt)+(N×Δt)]について、計測変動範囲ΔD内に、信頼度(1−δ)に基づく所定数以上が存在するか否かを判定する。この判定は、「確率近似学習可能」(YES)か又はそうでない(NO)かによって判定される。
YES:確率近似学習可能:無線品質「安定状態候補」
NO :確率近似学習不可:無線品質「変動状態」
S507についてNOの場合、S513へ移行する。
【0050】
例えば以下の数値の場合、「確率近似学習可能」であって、安定状態候補となる。
δ=0.05
N=100
「確率近似学習可能」とは、N=100個のサンプル中で、少なくとも信頼度(1−δ)に基づく所定数(95サンプル:1−δ=1-0.05=0.95)は、真の最大値fmaxと真の最小値fminの間に存在することを意味する。従って、真の最大値fmax以下且つ真の最小値fmin以上となったサンプル数が95サンプル未満である場合、(m+N)個のサンプルの区間にあって確率分布Dは固定ではなく、無線品質が変動状態(無線品質の変動量が大きい)にあると考えられる。
【0051】
(S508)確率近似学習可能(安定状態候補)であると判定された場合、ΔDprev=0であるか否か判定する。
【0052】
(S509)ΔDprev=0であれば、ΔDは、最初に計測された計測変動範囲といえる。この場合、最初に計測された計測変動範囲ΔDを、ΔDprevに設定する(ΔDprev=ΔD)。
【0053】
(S510)ΔDprev=0でなければ、ΔDを、ΔDnewに設定する(ΔDnew=ΔD)。
【0054】
(S511)次に、ΔDprevとΔDnewとを比較する。無線品質が安定状態にある場合、現時刻で算出されたΔDnewは、Δt前の時刻に算出されたΔDprevよりも、小さくなることが想定される。即ち、無線品質が変動状態から安定状態へ遷移している場合、最大値と最小値との差であるΔDは、徐々に小さくなっていくからである。従って、以下のように判定される。
ΔDprev>ΔDnewである場合、無線品質が安定状態にある
ΔDprev≦ΔDnewである場合、無線品質がまだ安定状態にない
無線品質が安定状態にあると判定された場合、図5の安定状態遷移判定の処理を終了する。
【0055】
(S512)ΔDprev>ΔDnewでない場合(ΔDprev≦ΔDnewである場合)、ΔDprevにΔDnewを代入する(ΔDprev=ΔDnew)。無線品質は、まだ安定状態にない。
【0056】
(S513)変動状態時間区間にあって、無線品質が安定状態にない(変動状態にある)場合、最後に、計測時間間隔Δtだけ待機して、遅延させる。その後、S503へ移行する。これによって、再度、安定状態へ遷移しているか否かを判定する処理フローを実行する。
【0057】
図7は、図5について安定状態の判定精度を高めたフローチャートである。
【0058】
図7のフローチャートは、図5と比較して、S701〜S704が異なる。
(S701)最初に、k=0に設定する。kとは、安定状態候補が発生した個数を表す。
【0059】
(S702)S511によって、無線品質がまだ安定状態にない(ΔDprev≦ΔDnew)と判定された場合、以下のように処理される。
K回連続で安定状態候補が発生することを要する場合:k=0
K回、安定状態候補が発生することを要する場合 :処理なし
そして、S512へ移行する。
(S703)S511によって、無線品質が安定状態候補である(ΔDprev>ΔDnew)と判定された場合、所定数のK回、安定状態候補が発生したか否かを判定する。安定状態候補がK回発生した場合(k=K)無線品質が安定状態にあると判定され、安定状態遷移判定の処理を終了する。安定状態候補が複数回発生することによって、安定状態の判定精度が高まることとなる。
(S704)S703によって、安定状態候補がまだK回発生していない場合、k=k+1とする。そして、S512へ移行する。
【0060】
図8は、本発明における無線端末の機能構成図である。
【0061】
図8によれば、無線端末1は、図1と比較して、FIRフィルタ部14に代えて、無線状態判定部15を有する。尚、この機能構成部は、無線端末に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムを実行することによって実現される。
【0062】
無線状態判定部15は、無線品質の安定状態時に変動状態への遷移を判定する変動状態判定部と、無線品質の変動状態時に安定状態への遷移を判定する安定状態判定部とに区別される。本発明は、安定状態判定部における処理に特徴を有するものであり、変動状態判定部は既存技術である(例えば非特許文献1参照)。
【0063】
無線状態判定部15の安定状態判定部は、第1のサンプル数決定部151と、第1のサンプル計測部152と、計測変動範囲算出部153と、第2のサンプル計測部154と、安定状態候補記憶部155と、安定状態遷移判定部156とを有する。
【0064】
第1のサンプル数決定部151は、無線品質Cの計測回数を表す第1のサンプル数mを決定する。前述した図5のS501と同様の処理を実行する。
【0065】
第1のサンプル計測部152は、無線品質計測部12を用いて、第1のサンプル数m個の無線品質C[t]〜C[t+(m×Δt)]を計測する。前述した図5のS504と同様の処理を実行する。
【0066】
計測変動範囲算出部153は、第1のサンプル数m個の無線品質C[t]〜C[t+(m×Δt)]について、最大値と最小値との差分である計測変動範囲ΔDを算出する。前述した図5のS505と同様の処理を実行する。
【0067】
第2のサンプル計測部154は、無線品質計測部12を用いて、所定の第2のサンプル数N個の無線品質C[t+(m×Δt)+1]〜C[t+(m×Δt)+(N×Δt)]を計測する。前述した図5のS506と同様の処理を実行する。
【0068】
安定状態候補記憶部155は、第2のサンプル数N個の無線品質C[t]について、計測変動範囲ΔD内に、信頼度(1−δ)に基づく所定数以上が存在する場合、当該計測変動範囲ΔDを安定状態判定候補として記録する。前述した図5のS507〜S510と同様の処理を実行する。
【0069】
安定状態遷移判定部156は、第1のサンプル数決定部151、第1のサンプル計測部152、計測変動範囲算出部153、第2のサンプル計測部154及び安定状態候補記憶部155を、少なくとも2回繰り返し実行し、現時点における計測変動範囲ΔDnewが、前時点における計測変動範囲ΔDprevよりも小さい場合(ΔDprev>ΔDnew)、無線品質が安定状態にあると判定する。前述した図5のS511〜S513と同様の処理を実行する。
【0070】
ここで、安定状態遷移判定部156は、ΔDprev>ΔDnewが、K回発生した際に、又は、K回連続して発生した際に、無線品質が安定状態にあると判定するものであってもよい。安定状態候補が複数回発生することによって、安定状態の判定精度が高まることとなる。
【0071】
計測時間間隔制御部13は、無線状態判定部15によって無線品質が安定状態にあると判定された際に、計測時間間隔Δtを相対的に長く制御する。また、無線状態判定部15によって無線品質が変動状態にあると判定された際に、計測時間間隔Δtを相対的に短く制御する。
【0072】
尚、異なる無線システムにおける複数の通信インタフェース部11を更に有する場合、第1の通信インタフェース部を用いた第1の無線システムで通信している際に、第2の通信インタフェース部を用いた第2の無線システムへハンドオーバを所望する場合がある。この場合、無線品質計測部12は、第2の通信インタフェース部における無線品質を計測することが必要となる。
【0073】
以上、詳細に説明したように、本発明の無線端末、プログラム及び方法によれば、確率近似学習を用いることによって、多大な計算量を必要とすることなく、無線品質の変動状態から安定状態への遷移に追従し、安定状態を検知した際に、無線品質の計測時間間隔Δtを適応的に長く設定し直すことができる。
【0074】
本発明によれば、ε及びδを設計事項として設定することによって、確率近似学習に必要なサンプル数mを決定することができる。その後、無線品質の変動状態時に、m個のサンプル及びN個のサンプルとしての無線品質を計測することによって、確率近似学習可能であれば、安定状態へ遷移したと判定することができる。
【0075】
特に、FIRフィルタの演算と比較して、本発明における変動状態から安定状態への遷移を検知するための算出方法は極めて簡易であり、計算量の大幅な軽減につながる。また、無線品質の計測回数の削減によって、消費電力の軽減にも寄与する。
【0076】
前述した本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0077】
1 無線端末
10 データ送受信部
11 通信インタフェース部
12 無線品質計測部
13 計測時間間隔制御部
14 FIRフィルタ部
15 無線状態判定部
151 第1のサンプル数決定部
152 第1のサンプル計測部
153 計測変動範囲算出部
154 第2のサンプル計測部
155 安定状態候補記憶部
156 安定状態遷移判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線端末において、
時間間隔Δt毎に、時刻tにおける無線品質C[t]を計測する無線品質計測手段と、
前記無線品質における変動状態又は安定状態を判定する無線状態判定手段と、
前記無線品質が安定状態にあると判定された際に、前記時間間隔Δtを相対的に長く制御する計測時間間隔制御手段と
を有し、
前記無線状態判定手段は、
無線品質Cの計測回数を表す第1のサンプル数mを決定する第1のサンプル数決定手段と、
前記無線品質計測手段を用いて、第1のサンプル数m個の無線品質C[t]を所定時間間隔Δt毎に計測する第1のサンプル計測手段と、
第1のサンプル数m個の前記無線品質C[t]について、計測最大値gmaxと計測最小値gminとの差分である計測変動範囲ΔDを算出する計測変動範囲算出手段と、
前記無線品質計測手段を用いて、所定の第2のサンプル数N個の無線品質C[t]を所定時間間隔Δt毎に計測する第2のサンプル計測手段と、
第2のサンプル数N個の無線品質C[t]について、前記計測変動範囲ΔD内に、信頼度(1−δ)に基づく所定数以上が存在する場合、当該計測変動範囲ΔDを安定状態判定候補として記録する安定状態候補記憶手段と、
第1のサンプル数決定手段、第1のサンプル計測手段、計測変動範囲算出手段、第2のサンプル計測手段及び安定状態候補記憶手段を、少なくとも2回繰り返し実行し、現時点における計測変動範囲ΔDnewが、前時点における計測変動範囲ΔDprevよりも小さい場合(ΔDprev>ΔDnew)、前記無線品質が安定状態にあると判定する安定状態遷移判定手段と
を有することを特徴とする無線端末。
【請求項2】
前記無線状態判定手段における第1のサンプル数決定手段は、
前記無線品質の変動を確率分布Dとした場合、計測最大値gmaxと真の最大値fmaxとの間に発生する未計測確率dmax(gmax、fmax)と、計測最小値gminと真の最大値fminとの間に無線品質値が発生する未計測確率dmin(gmin、fmin)との和が、高々、近似度εであることが、少なくとも信頼度(1−δ)となる
Pr(dmax(gmax、fmax)+dmin(gmin、fmin)≦ε)≧1−δ
ことを表す確率近似学習を用いて、
ε及びδを設定することによって、第1のサンプル数mは、
m=1/ε・ln(1/δ)
で決定されることを特徴とする請求項1に記載の無線端末。
【請求項3】
前記安定状態遷移判定手段は、第1のサンプル数決定手段、第1のサンプル計測手段、計測変動範囲算出手段、第2のサンプル計測手段及び安定状態候補記憶手段を繰り返し実行し、K回、現時点における計測変動範囲ΔDnewが、前時点における計測変動範囲ΔDprevよりも小さい場合(ΔDprev>ΔDnew)発生した際に、前記無線品質が安定状態にあると判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の無線端末。
【請求項4】
前記安定状態遷移判定手段は、K回連続して、ΔDprev>ΔDnewが発生した際に、前記無線品質が安定状態にあると判定することを特徴とする請求項3に記載の無線端末。
【請求項5】
前記計測時間間隔制御手段は、前記無線状態判定手段によって無線品質が変動状態にあると判定された際に、時間間隔Δtを相対的に短く制御することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の無線端末。
【請求項6】
異なる無線システムにおける複数の通信インタフェースを更に有し、
第1の通信インタフェースを用いた第1の無線システムで通信している際に、第2の通信インタフェースを用いた第2の無線システムへハンドオーバするために、前記無線品質計測手段は、第2の通信インタフェースにおける無線品質を計測することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の無線端末。
【請求項7】
無線端末に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムにおいて、
時間間隔Δt毎に、時刻tにおける無線品質C[t]を計測する無線品質計測手段と、
前記無線品質における変動状態又は安定状態を判定する無線状態判定手段と、
前記無線品質が安定状態にあると判定された際に、前記時間間隔Δtを相対的に長く制御する計測時間間隔制御手段と
してコンピュータを機能させ、
前記無線状態判定手段は、
無線品質Cの計測回数を表す第1のサンプル数mを決定する第1のサンプル数決定手段と、
前記無線品質計測手段を用いて、第1のサンプル数m個の無線品質C[t]を所定時間間隔Δt毎に計測する第1のサンプル計測手段と、
第1のサンプル数m個の前記無線品質C[t]について、計測最大値gmaxと計測最小値gminとの差分である計測変動範囲ΔDを算出する計測変動範囲算出手段と、
前記無線品質計測手段を用いて、所定の第2のサンプル数N個の無線品質C[t]を所定時間間隔Δt毎に計測する第2のサンプル計測手段と、
第2のサンプル数N個の無線品質C[t]について、前記計測変動範囲ΔD内に、信頼度(1−δ)に基づく所定数以上が存在する場合、当該計測変動範囲ΔDを安定状態判定候補として記録する安定状態候補記憶手段と、
第1のサンプル数決定手段、第1のサンプル計測手段、計測変動範囲算出手段、第2のサンプル計測手段及び安定状態候補記憶手段を、少なくとも2回繰り返し実行し、現時点における計測変動範囲ΔDnewが、前時点における計測変動範囲ΔDprevよりも小さい場合(ΔDprev>ΔDnew)、前記無線品質が安定状態にあると判定する安定状態遷移判定手段と
を有するようにコンピュータを機能させることを特徴とする無線端末用のプログラム。
【請求項8】
無線端末における無線品質判定方法において、
無線品質Cの計測回数を表す第1のサンプル数mを決定する第1のステップと、
第1のサンプル数m個の無線品質C[t]を時間間隔Δt毎に計測する第2のステップと、
第1のサンプル数m個の前記無線品質C[t]について、計測最大値gmaxと計測最小値gminとの差分である計測変動範囲ΔDを算出する第3のステップと、
所定の第2のサンプル数N個の無線品質C[t]を時間間隔Δt毎に計測する第4のステップと、
第2のサンプル数N個の無線品質C[t]について、前記計測変動範囲ΔD内に、信頼度(1−δ)に基づく所定数以上が存在する場合、当該計測変動範囲ΔDを安定状態判定候補として記録する第5のステップと
を有し、
第1のステップから第5のステップを少なくとも2回繰り返し実行し、現時点における計測変動範囲ΔDnewが、前時点における計測変動範囲ΔDprevよりも小さい場合(ΔDprev>ΔDnew)、前記無線品質が安定状態にあると判定する
ことを特徴とする無線品質判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−139210(P2011−139210A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296983(P2009−296983)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】