説明

無線品質推定システム、基地局、移動局、及び、無線品質推定方法

【課題】フェージングの影響があっても、より正確に無線品質を推定する無線品質推定システム、基地局、移動局、及び無線品質推定方法を提供することを目的とする。
【解決手段】干渉電力算出部202が、所定の推定区間の一部である局所推定区間における干渉信号電力を算出し、SIR算出部205が、干渉電力算出部202によって算出された干渉信号電力に基づいて、所定の推定区間におけるSIRを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の時間間隔における無線品質を推定する無線品質推定システム、基地局、移動局、及び、無線品質推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムにおいては、フェージングの影響により伝搬環境が著しく変動することから、伝搬環境の変動に追従して送信電力を制御する送信電力制御や、フェージングによる伝搬環境の変動に追従して変調方式や符号化率等の送信フォーマットを制御する適応変調・符号化等の技術が用いられている。送信電力制御及び適応変調・符号化等の技術においては、伝搬環境の変動を推定するために、受信装置側或いは送信装置側で、伝搬環境の無線品質を推定することが必要である。ここで、無線品質とは、信号対干渉比(Signal-to-Interference ratio;SIR)、キャリア対干渉比(Carrier-to-Interference ratio;CIR)、チャンネル品質指標(Channel Quality Indicator ;CQI)等である。
【0003】
又、いわゆるIMT−2000と呼ばれる第3世代移動通信システムの標準化については、地域標準化機関等により組織された3GPP(Third-Generation Partnership Project)によってW−CDMA方式、3GPP2(Third-Generation Partnership Project2)によってcdma2000の標準仕様がそれぞれ策定されている。近年のインターネットの急速な普及に伴い、特に下りリンクにおいてデータベースやWebサイトからのダウンロード等による高速・大容量のトラヒックが増加すると予測されている。このため、3GPPにおいては下り方向の高速パケット伝送方式である「HSDPA(High Speed Downlink Packet Access)」の標準化が行われている(例えば、非特許文献1参照。)。又、3GPP2においては下り方向の高速データ専用の伝送方式である「1xEV−DO」の標準化が行われている(例えば、非特許文献2参照。)。尚、1xEV−DOにおいて、DOは「データのみ(Data Only)」を意味する。
【0004】
例えば、HSDPAでは、移動局が、下りリンクの無線状態を通知するための制御情報として、CQIが用いられている。CQIは、下りリンクの共有パイロットチャネル(CPICH)の信号、即ちパイロット信号から求められるSIRに基づいて移動局によって算出される。又、例えば、3GPPにおけるHSDPA以外の通信方式や、3GPP2におけるcdma2000方式、TDD方式等の他の通信方式においてもSIRが用いられる。従って、これらの通信方式において、SIRを推定する時間間隔として仕様上規定されている時間間隔におけるSIRが正確に推定されることが望ましい。
【非特許文献1】3GPP TR25.848 V4.0.0
【非特許文献2】3GPP2 C.S0024 Rev.1.0.0
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、無線品質もフェージングの影響により著しく変動するため、無線品質を正確に推定することは困難である。
【0006】
そこで、本発明は、フェージングの影響があっても、より正確に無線品質を推定する無線品質推定システム、基地局、移動局、及び、無線品質推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の特徴は、所定の推定時間間隔における第1無線品質を推定する無線品質推定システムであって、前記推定時間間隔の一部である複数の一部時間間隔毎における第2無線品質を算出する第2品質算出部と、前記第2品質算出部によって算出された前記第2無線品質に基づいて、前記推定時間間隔における前記第1無線品質を算出する第1品質算出部とを備えることを要旨とする。
【0008】
第1の特徴にかかる無線品質推定システムによれば、第2品質算出部が第1無線品質を推定しようとする所定の推定時間間隔より短く、かつ、複数の一部時間間隔毎において、第2無線品質を算出する。又、第2品質算出部によって算出された一部時間間隔毎における第2無線品質に基づいて、推定時間間隔における第1無線品質が算出される。従って、推定しようとする第1無線品質の算出に用いられる第2無線品質が、フェージングの影響により、大きな推定時間間隔においては正確に算出されない場合であっても、より正確に第1無線品質を推定できる。即ち、第1の特徴にかかる無線品質推定システムによれば、フェージングの影響があっても、より正確に無線品質を推定することが可能になる。尚、第1無線品質と第2無線品質は同じであってもよい。
【0009】
又、第1の特徴に係る無線品質推定システムにおいて、フェージング周波数を推定するフェージング周波数推定部と、前記フェージング周波数推定部によって推定された前記フェージング周波数に基づいて、前記一部時間間隔を設定する時間間隔設定部とを更に備えるように構成されていてもよい。
【0010】
第1の特徴に係る移動通信システムにおいて、前記無線品質推定システムによって推定される前記第1無線品質は、信号対干渉比であってもよい。
【0011】
第1の特徴に係る移動通信システムは、前記推定時間間隔における受信信号の電力を示す受信信号電力を算出する第3品質算出部を更に備え、前記第2品質算出部は、前記一部時間間隔における干渉信号の電力を示す干渉信号電力を算出し、前記第1品質算出部は、前記第3品質算出部によって算出された前記受信信号電力と、前記第2品質算出部によって算出された前記干渉信号電力とに基づいて前記信号対干渉比を算出するように構成されていてもよい。
【0012】
第1の特徴に係る移動通信システムにおいて、前記第3品質算出部は、前記推定時間間隔に受信されたパイロット信号を用いて前記受信信号電力を算出し、前記第2品質算出部は、前記一部時間間隔に受信されたパイロット信号を用いて前記干渉信号電力を算出してもよい。
【0013】
第1の特徴に係る移動通信システムにおいて、N,m,nを1以上の整数、n番目の前記パイロット信号のI成分をSn,i、n番目の前記パイロット信号のQ成分をSn,q、として、前記推定時間間隔において1番目からN番目の前記パイロット信号が受信され、m番目の前記一部時間間隔においてkm番目からKm番目の前記パイロット信号が受信されるとして、前記第3品質算出部は、前記受信信号電力Sを
【数3】

【0014】
として算出し、前記第2品質算出部は、m番目の前記一部時間間隔における前記干渉信号電力Im
【数4】

但し

として算出してもよい。
【0015】
本発明の第2の特徴は、所定の推定時間間隔における第1無線品質を推定する基地局であって、前記推定時間間隔の一部である複数の一部時間間隔毎における第2無線品質を算出する第2品質算出部と、前記第2品質算出部によって算出された前記第2無線品質に基づいて、前記推定時間間隔における前記第1無線品質を算出する第1品質算出部とを備えることを要旨とする。
【0016】
本発明の第3の特徴は、所定の推定時間間隔における第1無線品質を推定する移動局であって、前記推定時間間隔の一部である複数の一部時間間隔毎における第2無線品質を算出する第2品質算出部と、前記第2品質算出部によって算出された前記第2無線品質に基づいて、前記推定時間間隔における前記第1無線品質を算出する第1品質算出部とを備えることを要旨とする。
【0017】
本発明の第4の特徴は、所定の推定時間間隔における第1無線品質を推定する無線品質推定方法であって、前記推定時間間隔の一部である複数の一部時間間隔毎における第2無線品質を算出するステップと、前記第2無線品質に基づいて、前記推定時間間隔における前記第1無線品質を算出するステップとを備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、フェージングの影響があっても、より正確に無線品質を推定する無線品質推定システム、基地局、移動局、及び、無線品質推定方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(品質推定装置)
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであることに留意すべきである。
【0020】
図1は、本発明の実施の一形態に係る品質推定方法が適用される無線品質推定装置100の構成例を示す図である。無線品質推定装置100は、アンテナから受信された受信信号を処理することによって無線品質の一つである信号対電力比、即ちSIRを推定する。又、無線品質推定装置100は、符号化されている受信信号を復号化する。
【0021】
図1に示すように、無線品質推定装置100には、低雑音増幅部101と、周波数変換部102と、自動利得制御増幅部103と、直交検波部104と、A/D変換部105と、ルートナイキストフィルタ部106と、パスサーチ部107と、CPICH用逆拡散部108と、チャネル推定部109と、データチャネル用逆拡散部110と、RAKE合成部111と、SIR推定部112と、チャネル復号部113が備えられる。
【0022】
低雑音増幅部101は、無線品質推定装置100のアンテナから受信された受信信号を増幅する。周波数変換部102は、低雑音増幅部101によって増幅された受信信号を中間周波数に周波数変換する。自動利得制御(Automatic Gain Control)増幅部103は、周波数変換部102によって中間周波数に周波数変換された受信信号を線形増幅する。直交検波部104は、線形増幅された受信信号を直交検波し、I成分及びQ成分に分解する。A/D変換部105は、I成分及びQ成分に分解されたアナログ信号である受信信号をデジタル信号に変換する。ルートナイキストフィルタ部106は、デジタル信号に変換されたI成分及びQ成分を帯域制限する。パスサーチ部107は、帯域制限後の信号を用いて、パスサーチを行う。
【0023】
CPICH用逆拡散部108は、共通パイロットチャネルであるCPICHに関して、帯域制限された信号を逆拡散する。ここで、CPICH用逆拡散部108は、パスサーチ部107によってサーチされた伝搬遅延時間の異なるパス毎に逆拡散を行う。チャネル推定部109は、CPICH用逆拡散部108によって逆拡散された信号を用いてチャネル推定を行う。
【0024】
データチャネル用逆拡散部110は、データチャネルに関して、帯域制限された信号を逆拡散する。ここで、データチャネル用逆拡散部110は、パスサーチ部107によってサーチされた伝搬遅延時間の異なるパス毎に逆拡散を行う。尚、データチャネルとは、例えば、HSDPAにおいては、共有制御チャネルHS−SCCH、共有データチャネルHS−PDSCH、上記共有チャネルに付随する個別チャネルA−DPCH等である。
【0025】
RAKE合成部111は、逆拡散されたCPICHの信号を、伝搬遅延時間の異なる1つ以上のパスに関してRAKE合成し、合成された信号を後述するSIR推定部112に入力する。又、RAKE合成部111は、逆拡散されたデータチャネルの信号を、伝搬遅延時間の異なる1つ以上のパスに関してRAKE合成し、合成された信号を後述するチャネル復号部113に入力する。
【0026】
SIR推定部112は、RAKE合成部111から取得した信号を用いて信号対干渉比SIRを推定する。SIR推定部112の詳細については後述する。
【0027】
チャネル復号部113は、RAKE合成部111から取得した信号を用いてチャネル復号する。
【0028】
以下、図2を参照して、SIR推定部112について詳細に説明する。SIR推定部112は、所定の推定区間におけるSIRを推定する。尚、所定の推定区間とは、推定時間間隔である。SIR推定部112は、信号電力算出部201と、干渉電力算出部202と、局所推定区間設定部203と、フェージング周波数推定部204と、SIR算出部205とを備える。
【0029】
信号電力算出部201は、所定の推定区間における受信信号の電力を示す受信信号電力を算出する第3品質算出部である。信号電力算出部201は、RAKE合成部111から取得された、合成後のCPICHの信号、即ちパイロット信号を用いて受信信号電力を算出する。信号電力算出部201は、所定の推定区間に、無線品質推定装置100によって受信されたCPICHの信号を用いて受信信号電力を算出する。
具体的には、信号電力算出部201は、受信信号電力Sを以下に示す(1)式に従って算出する。尚、n,Nを1以上の整数、n番目のCPICHの信号のI成分をSn,i、n番目のCPICHの信号のQ成分をSn,qとし、又、所定の推定区間において1番目からN番目のCPICHの信号が受信されたものとする。
【数5】

(1)式
干渉電力算出部202は、複数の局所推定区間毎における第2無線品質を算出する第2品質算出部である。但し、干渉電力算出部202は、後述する局所設定区間203によって1つの局所設定区間が設定された場合には、1つの局所推定区間における第2無線品質を算出する。尚、本実施の形態において干渉電力算出部202によって算出される第2無線品質は干渉信号電力である。ここで、局所推定区間は、後述する局所推定区間設定部203によって設定された所定の推定区間の一部、即ち、一部時間間隔である。本実施の形態においては、干渉電力算出部202は局所推定区間における干渉信号の電力を示す干渉信号電力を算出する。干渉電力算出部202は、RAKE合成部111から取得した、合成後のCPICHの信号、即ちパイロット信号を用いて干渉信号電力を算出する。干渉電力算出部202は、局所推定区間に受信されたCPICHの信号を用いて、干渉信号電力を算出する。
【0030】
具体的には、干渉電力算出部202は、m番目の局所推定区間における干渉信号電力Imを以下に示す(2)式に従って算出する。尚、m,Mを1以上の整数とし、m番目の局所推定区間においてkm番目からKm番目のCPICHの信号が受信さたものとする。
【数6】

但し

【0031】
更に、局所推定区間設定部203に入力によって均等な大きさのM個の局所推定区間に分割された場合には、以下に示す(3)式が成立する。
【数7】

従って、この場合、上述した(2)式は、以下に示す(2−1)式に書き換えられる。
【数8】

但し

【0032】
更に、干渉電力算出部202は、局所推定区間における干渉信号電力Imに基づいて、所定の推定区間における干渉信号電力Iを算出する第4品質算出部としても機能する。具体的には、干渉電力算出部202は、以下に示す(4)式に従って算出する。
【数9】

局所推定区間設定部203は、後述するフェージング周波数推定部204によって推定されたフェージング周波数に基づいて、局所推定区間を設定する時間間隔設定部である。尚、フェージング周波数とは、フェージングが変動する速さを表す。
【0033】
局所推定区間設定部203は、所定の推定区間を複数の局所推定区間に分割するか、若しくは、分割しないことを定める。例えば、局所推定区間設定部203は、フェージング周波数の推定値が大きいほど、局所推定区間の数を大きく決定することができる。その際、局所推定区間設定部203は、フェージング周波数の推定値を閾値と比較した比較結果に基づいて局所推定区間の数を定めてもよい。更に、局所推定区間設定部203は、所定の推定区間の大きさを考慮して局所推定区間を設定してもよい。尚、局所推定区間設定部203は、異なる大きさの複数の局所推定区間を設定してもよい。
【0034】
フェージング周波数推定部204は、フェージング周波数を推定し、推定値を局所推定区間設定部203に入力する。ここで、フェージング周波数を推定する方法としては、例えば、パイロット信号の時間相関値を用いる方法、パイロット信号によって求められるチャネル推定値の時間相関値を用いる方法、GPSからの位置情報から算出される移動速度を用いる方法が知られている。フェージング周波数推定部204は、いずれの方法によってフェージング周波数を推定してもよい。又、フェージング周波数推定部204は、車のスピードメーター等の移動速度を計測する他の機器によって測定される移動速度を用いてフェージング周波数を推定してもよい。
【0035】
SIR算出部205は、干渉電力算出部202によって算出された干渉信号電力に基づいて、所定の推定区間におけるSIRを算出する第1品質算出部である。SIR算出部205は、信号電力算出部201によって算出された受信信号電力と、干渉電力算出部202によって算出された所定の推定区間における干渉信号電力とに基づいてSIRを算出する。尚、所定の推定区間における干渉信号電力は局所推定区間における干渉信号電力に基づいて算出される。従って、SIR算出部205は、干渉電力算出部202によって算出された局所推定区間における干渉信号電力に基づいてSIRを算出する。
【0036】
具体的には、SIR算出部205は、信号電力算出部201から受信信号電力Sを取得し、干渉電力算出部202から所定の推定区間における干渉信号電力Iを取得する。SIR算出部205は、取得された受信信号電力Sと、干渉信号電力Iとを用いて、以下に示す(5)式に従ってSIRを算出する。
【数10】

【0037】
更に、SIR算出部205は、算出されたSIRを用いてCQIを算出してもよい。例えば、SIR算出部205は、図3に示されるような参照テーブル300を保持し、参照テーブル300を参照することによって、CQIを算出してもよい。尚、HSDPAにおいては、CQIはそのCQIから求められる送信フォーマットの信号を受信した際に誤り率が10%となるように算出される。
【0038】
このように、無線品質推定装置100は、単独で所定の推定区間における無線品質を推定する無線品質推定システムとして機能する。又、SIR推定部112のみでも所定の推定区間における無線品質を推定する無線品質推定システムとして機能し得る。
【0039】
(品質推定方法)
次に、品質推定方法について、図4を用いて説明する。又、一例として、2msの所定の推定区間におけるSIRを、1番目から30番目までの30個のCPICHの信号を用いて無線品質推定装置100が推定する方法について説明する。
【0040】
ステップS101において、フェージング周波数推定部204が、フェージング周波数を推定する。
【0041】
ステップS102において、局所推定区間設定部203が、推定されたフェージング周波数に基づいて、干渉成分の電力推定のための局所的な推定区間を設定する。
【0042】
例えば、局所推定区間設定部203は、推定されたフェージング周波数を閾値100Hzと比較し、フェージング周波数が100Hz以上であれば3つ均等な大きさの局所推定区間を設定し、フェージング周波数が100Hz未満であれば1つの局所推定区間を設定する。
【0043】
ステップS103において、干渉電力算出部202が、局所推定区間における干渉信号電力を算出する。
【0044】
例えば、ステップS102において、3つの均等な大きさの局所推定区間が設定されたとする。この場合、各局所推定区間の大きさは0.67msであり、各局所推定区間に受信されるCPICHの信号の数は10個である。従って、(2−1)式におけるNは30、Mは3となるため、各局所推定区間の干渉信号電力は以下に示す(2−1)’式に従って算出される。
【数11】

但し

【0045】
又、所定の推定区間の干渉信号電力は以下に示す(3)’式に従って算出される。
【数12】

【0046】
ステップS104において、信号電力算出部201が、受信信号電力を算出する。
【0047】
尚、(1)式におけるNは30となるため、受信信号電力は、以下に示す(1)’式に従って算出される。
【数13】

ステップS105において、SIR算出部205がSIRを算出する。
【0048】
(効果)
一般的に、SIRはパイロット信号を用いて算出される。例えば、図5に示されるN個のパイロット信号S,S,・・・,SからSIRを推定する場合には、受信信号電力Sは、n番目のパイロット信号のI成分、Q成分をそれぞれSn,i, Sn,qとして以下に示す(6)式に従って算出される。
【数14】

又、干渉信号電力 Iは以下に示す(7)式に従って算出される。
【数15】

ここで、

はそれぞれパイロット信号のI成分の平均値及びQ成分の平均値であり、以下に示す(8)式に従って算出される。
【数16】

即ち、干渉信号電力はパイロット信号電力の分散として求められる。尚、図5に示される

はパイロット信号電力の平均値を示し、Inは、n番目のパイロット信号電力Snのパイロット信号の信号電力の分散を示している。
【0049】
但し、パイロット信号の個数Nが大きく、かつ、フェージング変動による伝搬環境の変動が急激である場合に、上記パイロット信号電力の平均値が、SIRを推定する所定の推定区間、即ち、N個のパイロット信号を受信する時間間隔の間で大きく変動する。SIRを推定する所定の推定区間において、パイロット信号電力の平均値が大きく変動する様子を図6に模式的に示す。図6においてはパイロット信号がaで示される方向に大きく変動し、従って、パイロット信号電力の平均値はbで示される方向に変動する。
【0050】
例えば、30個のパイロット信号を用いて2msの所定の推定区間におけるSIRを算出する場合について検討する。この場合、伝搬環境のフェージング周波数が200Hzであると仮定すると、変動の1周期が5msであり、所定の推定区間である2msの間にも、伝搬環境は大きく変動する。このため、(8)式に従って、30個のパイロット信号を用いて算出された平均値を用い、(7)式に従って算出された干渉電力は不正確なものとなる。従って、SIRは正確に算出されない。
【0051】
本実施の形態に係る無線品質推定装置100によれば、干渉電力算出部202が、SIRを推定しようとする所定の推定区間より短い複数の局所推定区間毎において、干渉信号電力を算出する。又、干渉電力算出部202によって算出された局所推定区間毎における干渉信号電力に基づいて、所定の推定区間におけるSIRが算出される。従って、推定しようとするSIRの算出に用いられる干渉信号電力が、フェージングの影響により、大きな推定区間においては正確に算出されない場合であっても、より正確にSIRを推定できる。即ち、フェージングの影響があっても、より正確にSIRを推定することが可能になる。尚、例えばHSDPAにおいてCQIを算出する際に用いられるSIRが推定される時間間隔(Measurement period)は、仕様上2ms(CPICHの信号30個に対応)と規定されている。同様に、他の通信方式や、他の標準化仕様においても、SIRが推定される時間間隔が規定されているため、SIRを算出しようとする所定の推定区間の大きさを変更することは困難である。
【0052】
更に、SIR算出部205は、推定されたSIRからCQIを算出するため、フェージングにより高速に伝搬環境が変動する場合であっても、CQIをより正確に推定することが可能となる。尚、CQIは例えばHSDPAの適応変調・符号化に用いられる。
【0053】
又、フェージング周波数推定部204によって推定されたフェージング周波数に基づいて、局所推定区間設定部203が局所推定区間を設定するため、フェージング周波数の大きさに応じて適切な局所推定区間が設定される。従って、フェージング周波数が大きい場合には多くの局所推定区間毎に干渉信号電力を算出することによって正確にSIRを算出し、フェージング周波数が小さい場合には少ない局所推定区間において干渉信号電力を算出することによって、無線品質推定装置100の計算による負荷を抑制することが可能となる。更に、フェージング周波数が小さい場合には、例えば1の局所推定区間のように少ない局所推定区間を設定することにより、多くの局所推定区間を設定するよりも正確に干渉信号電力を算出することができる。
【0054】
又、本実施の形態においては、無線品質推定装置100は、HSDPA、3GPPにおけるそのHSDPA以外の通信方式、3GPP2におけるCDMA2000方式、TDD方式等の多くの通信方式において用いられるSIRをより正確に推定することができる。
【0055】
(その他の実施の形態)
本発明は上記の実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0056】
例えば、上記実施の形態においては、信号電力算出部201と、干渉電力算出部202と、局所推定区間設定部203と、フェージング周波数推定部204と、SIR算出部205とを一つの無線品質推定装置100内に備えるとして説明したが、これらが複数の装置に分けられて備えられていてもよい。その際は、それらの複数の装置間でデータのやりとりが行えるようにバス等で装置間を接続しているとする。
【0057】
又、SIR推定部112に備えられる各構成部分が移動局に備えられていてもよい。
【0058】
更に、上記実施の形態においては、下りリンクの無線品質について説明したが、上りリンクの無線品質も同様に推定される。このため、SIR推定部112に備えられる各構成部分は基地局に備えられていてもよい。
【0059】
或いは、SIR推定部112はフェージング周波数推定部204を備えなくてもよい。この場合、局所推定区間設定部203はフェージング周波数を考慮せずに局所推定区間を設定する。局所推定区間設定部203は、例えば、固定的に局所推定区間を設定する。
【0060】
又、上述した例において、局所推定区間設定部203が3つの局所推定区間を設定する例を示したが、局所推定区間設定部203は、任意の数、例えば5つの局所推定区間を設定してもよい。或いは、局所推定区間設定部203はフェージング周波数を例えば2つの閾値と比較し、比較結果に基づいて、1つ、3つ、或いは、5つの局所推定区間を設定してもよい。
【0061】
更に、上記実施の形態においては、SIR推定部112はRAKE合成部111によって合成された後の信号を用いてSIRを推定しているが、RAKE合成される前の信号を用いてSIRを推定してもよい。
【0062】
又、上記実施の形態においては、信号電力算出部201は、所定の推定区間における受信信号電力を算出したが、局所推定区間設定部203によって設定された局所設定区間における受信信号電力を算出してもよい。そして、SIR算出部205は、局所推定区間毎における受信信号電力と干渉信号電力とを用いて、局所推定区間毎におけるSIRを算出し、更に、局所推定区間毎におけるSIRに基づいて所定の推定区間におけるSIRを算出してもよい。この場合、SIR算出部205は、複数の局所設定区間毎における第2無線品質を算出する第2品質算出部として機能し、かつ、第2品質算出部によって算出された第2無線品質に基づいて所定の推定区間における第1無線品質を推定する第1品質算出部としても機能する。尚、この場合の第1無線品質及び第2無線品質は共にSIRである。
【0063】
又、上記実施の形態においては、干渉電力算出部202は、干渉信号電力を一般的な平均を求める方法で算出したが、忘却係数を用いた方法で算出してもよい。干渉信号電力を、忘却係数を用いた方法で算出する方法を以下に示す。
【0064】
N,m,jを1以上の整数、n番目のCPICHの信号のI成分をSn,i、n番目のCPICHの信号のQ成分をSn,qとして、所定の推定区間において1番目からN番目のCPICHの信号が受信され、m番目の局所推定区間においてkm番目からKm番目のCPICHの信号が受信されるとして、j番目のCPICHの信号の干渉信号電力

は、以下に示す(9)式に従って算出される。
【数17】

但し

N番目のCPICHの信号の干渉信号電力が、所定の推定区間における干渉電力信号となる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、本実施の形態に係る無線品質推定装置の構成図である。
【図2】図2は、本実施の形態に係るSIR推定部の構成図である。
【図3】図3は、本実施の形態に係る参照テーブルを示す図である。
【図4】図4は、本実施の形態に係る無線品質推定方法のフローチャートである。
【図5】図5は、SIRを算出する方法を説明する図である。
【図6】図6は、SIRを算出する際のフェージングの影響を説明する図である。
【符号の説明】
【0066】
100…無線品質推定装置
101…低雑音増幅部
102…周波数変換部
103…自動利得制御増幅部
104…直交検波部
105…A/D変換部
106…ルートナイキストフィルタ部
107…パスサーチ部
108…CPICH用逆拡散部
109…チャネル推定部
110…データチャネル用逆拡散部
111…RAKE合成部
112…SIR推定部
113…チャネル復号部
201…信号電力算出部
202…干渉電力算出部
203…局所推定区間設定部
204…フェージング周波数推定部
205…SIR算出部
300…参照テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の推定時間間隔における第1無線品質を推定する無線品質推定システムであって、
前記推定時間間隔の一部である複数の一部時間間隔毎における第2無線品質を算出する第2品質算出部と、
前記第2品質算出部によって算出された前記第2無線品質に基づいて、前記推定時間間隔における前記第1無線品質を算出する第1品質算出部とを備えることを特徴とする無線品質推定システム。
【請求項2】
フェージング周波数を推定するフェージング周波数推定部と、
前記フェージング周波数推定部によって推定された前記フェージング周波数に基づいて、前記一部時間間隔を設定する時間間隔設定部とを更に備えることを特徴とする請求項1に記載の無線品質推定システム。
【請求項3】
前記無線品質推定システムによって推定される前記第1無線品質は、信号対干渉比であることを特徴とする請求項1又は2に記載の無線品質推定システム。
【請求項4】
前記推定時間間隔における受信信号の電力を示す受信信号電力を算出する第3品質算出部と、
前記第2品質算出部によって算出された、一部時間間隔毎における前記第2無線品質に基づいて、前記推定時間間隔における前記第2無線品質を算出する第4品質算出部とを更に備え、
前記第2無線品質は、干渉信号の電力を示す干渉信号電力であり、
前記第1品質算出部は、前記第3品質算出部によって算出された前記受信信号電力と、前記第4品質算出部によって算出された前記干渉信号電力とに基づいて前記信号対干渉比を算出することを特徴とする請求項3に記載の無線品質推定システム。
【請求項5】
前記第3品質算出部は、前記推定時間間隔に受信されたパイロット信号を用いて前記受信信号電力を算出し、
前記第2品質算出部は、前記一部時間間隔に受信されたパイロット信号を用いて前記干渉信号電力を算出することを特徴とする請求項4に記載の無線品質推定システム。
【請求項6】
N,m,nを1以上の整数、n番目の前記パイロット信号のI成分をSn,i、n番目の前記パイロット信号のQ成分を, Sn,qとして、
前記推定時間間隔において1番目からN番目の前記パイロット信号が受信され、m番目の前記一部時間間隔においてkm番目からKm番目の前記パイロット信号が受信されるとして、
前記第3品質算出部は、前記受信信号電力Sを
【数1】

として算出し、
前記第2品質算出部は、m番目の前記一部時間間隔における前記干渉信号電力Im
【数2】

但し

として算出することを特徴とする請求項5に記載の無線品質推定システム。
【請求項7】
所定の推定時間間隔における第1無線品質を推定する基地局であって、
前記推定時間間隔の一部である複数の一部時間間隔毎における第2無線品質を算出する第2品質算出部と、
前記第2品質算出部によって算出された前記第2無線品質に基づいて、前記推定時間間隔における前記第1無線品質を算出する第1品質算出部とを備えることを特徴とする基地局。
【請求項8】
所定の推定時間間隔における第1無線品質を推定する移動局であって、
前記推定時間間隔の一部である複数の一部時間間隔毎における第2無線品質を算出する第2品質算出部と、
前記第2品質算出部によって算出された前記第2無線品質に基づいて、前記推定時間間隔における前記第1無線品質を算出する第1品質算出部とを備えることを特徴とする移動局。
【請求項9】
所定の推定時間間隔における第1無線品質を推定する無線品質推定方法であって、
前記推定時間間隔の一部である複数の一部時間間隔毎における第2無線品質を算出するステップと、
前記第2無線品質に基づいて、前記推定時間間隔における前記第1無線品質を算出するステップとを備えることを特徴とする無線品質推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−197416(P2006−197416A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−8456(P2005−8456)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【Fターム(参考)】