説明

無線通信システム、受信装置及び受信方法

【課題】誤り率やスループットを改善することができる無線通信システム、受信装置及び受信方法を提供する。
【解決手段】受信装置から通知された情報に基づいて変調方式または符号化率の少なくともいずれか一方を変更する送信装置が送信した信号を受信する受信装置であって、周波数領域で受信信号を等化する等化部と、等化後の受信信号から信号雑音比を測定する等化後受信SNR推定部と、前記受信品質から変調方式または符号化率の少なくともいずれか一方を設定し、送信装置に通知する信号を生成する変調・符号化率情報生成部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システム、受信装置及び受信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代移動体通信システムの研究が盛んに行われており、システムの周波数利用効率を高めるための方式として、各セルが同じ周波数帯域を使用することで各セルがシステムに割り当てられた帯域全体を利用可能な1周波数繰り返しセルラシステムが提案されている。
下りリンク(基地局装置から移動局への通信)では、OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access:直交周波数分割多元接続)方式が最も有力な候補となっている。OFDMA方式は、情報データに対して64QAM(64−ary Quadrature Amplitude Modulation:64値直交振幅変調)やBPSK(Binary Phase Shift Keying:2相位相変調)など受信状況に応じて異なる変調方式をかけて通信を行うOFDM信号を用いて、時間軸と周波数軸で構成される無線リソースを複数の移動端末装置で柔軟に割り当てて通信を行うシステムである。
【0003】
一般に、OFDM信号は伝送帯域全体が周波数選択性フェージングであっても、各サブキャリアが狭帯域であることからサブキャリア単位で見ると伝搬路の遅延波をフラットフェージングと扱える。さらに、サブキャリア単位で独立に制御できるため、遅延波によって生じる符号間干渉の影響は存在せず、等化が必要ないものとされる。そのため、各サブキャリアの受信信号がそのままの受信状況で検出できるので、受信状況に応じて適切な変調方式を割り当てる適応変調方式を用いた場合には伝送品質を適切に制御できるという特徴がある。
【0004】
この場合、OFDM信号を使用するため、非常にPAPR(Peak to Average Power Ratio:ピーク対平均電力比)が高くなることがあり、高いピーク電力が、送信電力増幅機能に比較的余裕のある下りリンクの通信においては大きな問題とはならないが、送信電力増幅機能に余裕のない上りリンク(移動局から基地局装置への通信)では致命的な問題となってしまう。
そのため、上りリンク(移動局から基地局装置への通信)では、PAPRの低いシングルキャリア方式を基にした通信方式が望ましい。
【0005】
しかしながら、シングルキャリア方式を基にした通信方式を用いると、OFDM方式のようにサブキャリアを独立に処理できず、遅延波により生じる符号間干渉が抑圧できないことから、受信信号の符号間干渉を抑圧する適応等化技術が必要になる。
【0006】
そのため、適応等化技術の1つとして、複数の送信信号をブロック化した時間信号(以下、FFTの単位がブロックになるので、ブロック化された送信信号をFFTブロックと呼ぶ)に対し、マルチパスフェージング環境下においても周期性を維持する目的でサイクリックプレフィックス(CP:Cyclic Prefix)を付加し、受信側で削除することで周波数領域において1回の乗積で等化が可能な周波数領域等化技術(FDE:Frequency Domain Equalization)が提案されている(非特許文献1)。
【0007】
このFDEにおいて、時間軸上でのインパルス応答の畳み込みが周波数領域の乗算であることに着目し、伝搬路の周波数応答の逆特性を乗積して信号成分を元に戻すZF(Zero Forcing)型のものがあるが、受信側で等化する場合には受信機内部で必ず熱雑音が受信信号に加算されているため、伝搬路の逆特性をかけると雑音の項にも伝搬路の逆特性が乗積されてしまう。その結果、雑音が有色化してしまうという雑音強調が生じるため、伝送特性が実際よりも非常に悪くなるという問題があった。
【0008】
そこで、雑音強調を抑圧する目的で、等化後の信号と送信信号の誤差の自乗を最小にするという最小二乗誤差(MMSE:Minimum Mean Square Error)規範に基づいたMMSE−FDEが提案されており、そのタップ行列は式(1)で表される。
【0009】
【数1】

【0010】
式(1)において、Wはタップ係数を要素とする複素数のFFTブロックサイズの正方行列で表されるタップ行列、Ξは伝搬路の周波数応答を対角成分に並べた複素数の対角行列、Iは対角行列のみが1で、残りの要素が0となる単位行列、σは熱雑音の分散を表す実数である。ここで、タップ行列について述べる。一般に、FFTブロック内のk番目の送信信号を等化により推定する場合、次式で表される。
【0011】
【数2】

【0012】
ただし、FはDFT処理を施すK×Kの複素数の正方行列、KはFFTブロックのブロックサイズ、w(k)はFFTブロック内のk番目の送信信号を検出するためのK×1の複素数の列ベクトル、Rは周波数軸のK×1の複素数の受信信号ベクトルを表している。式(1)のタップ行列は、ブロック内の全シンボルを同時に検出するために拡張したものであり、次式のように拡張されているものを表している。
【0013】
【数3】

【0014】
一方で、伝送効率を向上させる技術として、適応変調符号化方式が注目を集めている。適応変調符号化方式は、伝搬路の特性の時間的な変動に対し、伝送品質を維持するために、所要品質を満たす中で伝送レートが最大となる変調方式や通信路符号化における符号化率を選択する技術である。
【0015】
一般的に、適応変調符号化方式は、伝搬路による歪みのない加法性白色ガウス雑音(AWGN:Additive White Gaussian Noise)環境下において測定された誤り率特性に基づいて、伝送機会毎に伝搬路の歪みまで含めた受信品質を測定し、所要品質を満たしつつ最大の伝送レートが達成できる変調方式や符号化率が決定される。
【0016】
例えば、所要の品質をビット誤り率10−5、使用可能な変調方式と符号化率の組み合わせとして、AWGN環境下における符号化率1/2のBPSK、符号化率2/3のBPSK、符号化率1/2のQPSK、符号化率3/4のQPSK、符号化率5/6のQPSKにおけるビット誤り率10−5に必要な受信SNRがそれぞれ1dB、2dB、3dB、6dB、8dBであるとし、ある伝送機会において測定した受信SNRが7.5dBであったものとすると、この場合に選択される変調方式と符号化率は7.5dB以下で所要品質を満たし、最も高い伝送レートが達成できる符号化率3/4のQPSKが変調方式、符号化率として設定される。
【0017】
ここで、MMSE−FDEという等化方式を用いるときであってもシングルキャリア方式に適応変調符号化方式を採用する場合、一般的に等化前における信号雑音電力比(SNR:Signal to Noise power Ratio)を基準に変調方式が採用されている現状がある。
【非特許文献1】D.Falconer、S.L.Ariyavisitakul、A.Benyamin−Seeyar、and B.Eidson、“Frequency Domain Equalization for Single−Carrier Broadband Wireless Systems、”IEEE Communications Magazine、vol.40、pp.58−66、April 2002.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、式(1)のタップ行列に注目すると、k番目の離散周波数におけるタップ係数は、式(2)のようになり、各周波数でタップの大きさが各周波数の受信品質に応じて設定されることが分かる。
【0019】
【数4】

【0020】
式(2)において、w(k)はブロック内のk番目の離散周波数に乗積されるタップ係数、Ξ(k)はk番目の離散周波数における伝搬路の複素利得、σは観測される雑音の分散を表している。
【0021】
これは、MMSE型のFDEが伝搬路の逆特性を乗積しているわけではなく、逆特性を乗積することにより問題となる雑音強調を抑えるという目的から、符号間干渉と雑音強調の影響のバランスが最適になるよう受信品質に応じた補正項がσとして設定されていることを意味している。
さらに、伝搬路特性と雑音の分散に依存することから、平均受信SNRが同じであっても伝搬路の遅延分散によりタップ係数の周波数軸での変動が激しくなるだけでなく、取り切れない符号間干渉や雑音強調の影響が異なるということを意味している。
これは、等化前の平均受信SNRが同じでも伝搬路の遅延分散が異なる場合には除去できない符号間干渉の量や雑音強調の量が異なるということも意味している。
【0022】
本来、適応変調符号化方式は受信品質を維持する目的で導入されなければならないので、等化前の受信SNRに応じて設定される場合には、等化後で取り切れなかった符号間干渉や雑音強調の影響まで含まれず、適切に動作していないという問題があった。例えば、等化の前に測定した受信SNRが6dBであったにも関わらず、等化後の受信SNRが符号間干渉や雑音強調の影響で実効的に5dBに相当するSNRになった場合、6dBで所要品質となる変調方式、符号化率を採用している場合には所要品質を満たせなくなるという問題があった。
【0023】
さらに、等化後の受信品質で適応変調符号化方式を行うためにはタップ係数を乗積した伝搬路特性を時間領域に戻すことで符号間干渉の量を別途計算する必要があるため、計算が煩雑となり使用できないという問題があった。このとき、ブロック内のk番目の信号の受信SNRは、式(3)で表される。
【0024】
【数5】

【0025】
式(3)において、Kはブロック内に含まれる信号数、heq(l)は伝搬路の周波数応答にタップ係数を乗算したものをIFFTにより周波数時間変換した等価的な伝搬路のインパルス応答のl番目の伝搬路利得、s(k)はブロック内のk番目の時間信号、n(k)はブロック内のk番目の信号におけるタップ係数が乗算された周波数の雑音をIFFTにより時間信号に変換した雑音成分である。このように、heq(l)やn(k)を推定するのにIFFTを用いるだけでなく、これらを計算してもさらに式(3)を用いる必要があり、受信SNRを計算するのに多くの演算が必要になることが分かる。
【0026】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、誤り率やスループットを改善することができる無線通信システム、受信装置及び受信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
(1) 本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、本発明の一態様による無線通信システムは、変調方式または符号化率の少なくともいずれか一方を変更してデータを送信する送信装置と、受信信号から無線伝搬路による歪みを周波数領域等化により等化する受信装置とを備える無線通信システムであって、前記受信装置は、周波数領域等化後の信号雑音比に基づいて変調方式または符号化率の少なくともいずれか一方を設定する。
【0028】
(2) また、本発明の一態様による無線通信システムの前記周波数領域等化は、最小二乗誤差に基づく。
【0029】
(3) また、本発明の一態様による無線通信システムの前記周波数領域等化は、ゼロフォーシングに基づく。
【0030】
(4) また、本発明の一態様による無線通信システムの前記信号雑音比は、周波数領域等化により算出される等価振幅利得または等価雑音の分散の少なくともいずれか一方に基づいて算出される。
【0031】
(5) また、本発明の一態様による無線通信システムの前記等価振幅利得は、最小二乗誤差に基づく場合には各周波数のタップ係数と伝搬路の周波数応答の積を周波数領域で平均化することで算出される。
【0032】
(6) また、本発明の一態様による無線通信システムの前記等価雑音の分散は、ゼロフォーシングに基づく場合には各周波数のタップ係数の絶対値に1を加算し、それを周波数領域で平均化することで算出される。
【0033】
(7) また、本発明の一態様による無線通信システムの前記信号雑音比は、伝搬路の周波数応答を測定するためのパイロット信号から測定される。
【0034】
(8) また、本発明の一態様による受信装置は、受信品質に応じて変調方式または符号化率の少なくともいずれか一方を変更する送信装置が送信した信号を受信する受信装置であって、周波数領域で受信信号を等化する等化部と、等化後の受信信号から信号雑音比を測定する等化後受信SNR推定部と、前記信号雑音比から変調方式または符号化率の少なくともいずれか一方を設定し、送信装置に通知する信号を生成する変調・符号化率情報生成部とを備える。
本発明では、適応変調方式における変調方式の設定を等化前ではなく等化後に得られる受信SNRを推定し、適切に適応変調符号化方式を動作させ、誤り率やスループットを改善することができる。
【0035】
(9) また、本発明の一態様による受信装置の前記等化部は、最小二乗誤差に基づく等化処理を行う。
【0036】
(10) また、本発明の一態様による受信装置の前記等化部は、ゼロフォーシングに基づく等化処理を行う。
【0037】
(11) また、本発明の一態様による受信装置の前記等化部は、等価振幅利得または等価雑音の分散の少なくともいずれか一方を出力する。
【0038】
(12) また、本発明の一態様による受信装置の前記等化後受信SNR推定部は、最小二乗誤差に基づく等化処理を行う場合には等価振幅利得から等化後の信号雑音比を算出する。
【0039】
(13) また、本発明の一態様による受信装置の前記等化後受信SNR推定部は、ゼロフォーシングに基づく等化処理を行う場合には等価振幅利得から等化後の信号雑音比を算出する。
【0040】
(14) また、本発明の一態様による受信装置は、伝搬路推定のためのパイロット信号と、受信品質に応じて変調方式または符号化率の少なくともいずれか一方を変更された送信データ信号とが多重された送信装置からの送信信号を受信する受信装置であって、周波数領域で受信信号を等化する等化部と、等化後の受信信号から信号雑音比を測定する等化後受信SNR推定部と、前記信号雑音比から変調方式または符号化率の少なくともいずれか一方を設定し、送信装置に通知する信号を生成する変調・符号化率情報生成部とを備える。
【0041】
(15) また、本発明の一態様による受信装置の前記等化後受信SNR推定部は、受信パイロット信号を等化した信号に基づいて算出する。
【0042】
(16) また、本発明の一態様による受信方法は、受信品質に応じて変調方式または符号化率の少なくともいずれか一方を変更する送信装置が送信した信号を受信する受信装置を用いた受信方法であって、周波数領域で受信信号を等化する等化過程と、等化後の受信信号から信号雑音比を測定する等化後受信SNR推定過程と、前記信号雑音比から変調方式または符号化率の少なくともいずれか一方を設定し、送信装置に通知する信号を生成する変調・符号化率情報生成過程とを有する。
【0043】
(17) また、本発明の一態様による受信方法は、伝搬路推定のためのパイロット信号と、受信品質に応じて変調方式または符号化率の少なくともいずれか一方を変更された送信データ信号とが多重された送信装置からの送信信号を受信する受信装置を用いた受信方法であって、周波数領域で受信信号を等化する等化過程と、等化後の受信信号から信号雑音比を測定する等化後受信SNR推定過程と、前記信号雑音比から変調方式または符号化率の少なくともいずれか一方を設定し、送信装置に通知する信号を生成する変調・符号化率情報生成過程とを有する。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、適応符号化変調方式における変調方式や符号化率の設定をタップ係数と伝搬路特性から推定するため、符号間干渉や雑音強調の影響まで含めた伝送品質を推定でき、適切な変調方式、符号化率を選択でき、誤り率やスループットを改善することができる。さらに、伝搬路の遅延分散によらず、受信装置で等化後のSNRを推定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
以下の実施形態においては、シングルキャリア伝送方式を用い、受信等化方式としてMMSE基準型のFDEを採用するものとするが、MMSE基準型の周波数領域等化が採用できる方式であればDFT−S−OFDM(Discrete Fourier Transform Spread OFDM)方式やSC−ASA(Single Carrier with Adaptive Spectrum Allocation)方式のような元の時間波形を周波数変換しで任意の周波数に割り当て、割り当て後の周波数信号から時間波形を再生成する方式、MC−CDM(Multi−Carrier Code Division Multiplexing)のような時間信号が複数の周波数信号に拡散されているものなどを採用しても良い。
【0046】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態による送信装置100aの構成を示す概略ブロック図である。送信装置100aは、具体的には移動局装置を送信装置と受信装置に分けたときの前者であることが好ましいが、それに限定されない。送信装置100aは、符号部1、検出部2、符号化率制御部3、パンクチャ部4、変調方式制御部5、変調部6、パイロット生成部7、パイロット多重部8、CP付加部9、無線部10、送信アンテナ11を備えている。
【0047】
まず、送信ビットは、符号部1により誤り訂正符号化され、パンクチャ部4に入力される。一方、受信装置から通知された変調・符号化率情報(MCS:Modulation and Coding Schemes)は、検出部2により符号化率と変調方式が検出される。検出された符号化率情報は符号化率制御部3に入力され、変調方式情報は変調方式制御部5に入力される。
パンクチャ部4では、入力された符号ビットを設定された符号化率になるように間引くパンクチャリング処理が行われる。このとき、符号化率制御部3が、設定された符号化率情報から予め用意されているビットを間引くパンクチャパターンに応じて間引くよう制御することで、パンクチャ部4は適切な符号化率の符号ビットを生成する。
【0048】
次に、パンクチャリングにより得られた符号ビットは、変調部6に入力され、設定された変調方式になるよう変調がなされる。このとき、変調方式制御部5が、設定された変調方式になるように制御する。
このとき同時に、パイロット生成部7において伝搬路の周波数応答を推定するためのパイロット信号が生成され、パイロット多重部8において変調部6で得られた変調信号と多重される。多重された送信信号はCP付加部9によりCPが付加され、無線部10により無線周波数帯にアップコンバートされ、送信アンテナ11から送信される。
【0049】
図2は、本発明の第1の実施形態による受信装置200aの構成を示す概略ブロック図である。受信装置200aは、具体的には、基地局装置を送信装置と受信装置に分けたときの後者であることが好ましいが、これに限定されない。受信装置200aは、受信アンテナ12、無線部13、CP除去部14、パイロット分離部15、伝搬路特性推定部16、分散推定部17、FFT部18、等化部19、IFFT部20、復調部21、復号部22、等化SNR推定部23、変調・符号化率情報生成部24を備えている。
【0050】
受信信号は、受信アンテナ12で受信された後、無線部13により無線周波数からベースバンド信号にダウンコンバートされる。得られた受信信号はCP除去部14によりCPを除去され、パイロット分離部15により受信パイロット信号と受信変調信号が分離される。分離された受信パイロット信号は伝搬路推定部16および分散推定部17において伝搬路の周波数特性と各周波数の雑音の分散が推定され、等化に使用する目的で等化部19に入力される。
【0051】
ここで、分散推定部17では、伝搬路推定部16で推定された伝搬路特性と受信信号から受信パイロット信号の分散を推定することで算出される。このとき、分散σは次式(4)のように推定される。
【0052】
【数6】

【0053】
式(4)において、Kがブロック内の信号数、y(k)はk番目の周波数の複素受信パイロット信号、Ξ(k)は伝搬路推定部16で推定されたk番目の周波数における伝搬路の複素利得、c(k)は送受信側で既知となっているk番目の周波数の送信パイロット信号である。また、式(4)は、雑音の影響を受けていない受信パイロット信号をΞ(k)c(k)で生成し、それを受信パイロット信号y(k)から減算した誤差が雑音に相当する部分となることから、その電力を周波数方向に平均化することで二乗平均値を算出することで雑音の分散を算出している。
【0054】
一方、パイロット信号を分離された受信信号はFFT部18により周波数信号に変換され、伝搬路の周波数特性とともに等化部19において周波数領域における受信信号の等化が行われるとともに、タップ係数から算出される等価振幅利得を出力する。
まず、等化部19では伝搬路推定部16で推定された伝搬路の周波数特性と分散推定部17で算出された分散の値を用いて、式(5)によりタップ行列が計算される。
【0055】
【数7】

【0056】
式(5)において、Ξは伝搬路の周波数応答を対角成分に並べた伝搬路行列、σは等化前の雑音の分散を表す実数、Iは対角成分にのみ1で非対角成分が0の単位行列、xは行列xの随伴行列(エルミート転置を施した行列)である。式(5)により得られたタップ行列を受信信号に乗積することで、受信信号の等化が行われ、IFFT部20に入力されると同時に、タップ行列を用いて等価振幅利得の計算が行われる。等価振幅利得は、式(6)で計算される。
【0057】
【数8】

【0058】
このように、等化部19では、タップ係数が計算され、タップ係数から等化された受信信号をIFFT部20に出力すると同時に、タップ係数からμも計算する。
また、式(6)において、FはDFT演算を表す複素数のDFT行列、μはブロック内の各シンボルの等価振幅利得を対角成分にならべた実数対角行列であるが、式(6)より、単位行列のスカラー倍で表されることから、等価振幅利得はブロック内で一定値μになることがわかる。また、式(6)においてKはブロック内に含まれる信号数、w(k)はk番目の周波数のタップ係数の複素共役、Ξ(k)はk番目の周波数の伝搬路の複素利得を表す。また、μは次式(7)のようにおいている。
【0059】
【数9】

【0060】
等化された受信信号はIFFT部20において時間領域に変換され、復調部21に入力される。復調部21では受信されたデータ信号を各ビットの受信信号に分解し、復号部22に入力され、誤り訂正が行われる。
【0061】
一方、等化部19から出力された等価振幅利得を用いて、等化後の受信SNRを推定する。ここで、等価振幅利得の計算法について説明する。まず、等化後の受信信号を送信信号と等価振幅利得、等価雑音を用いて、式(8)で表される。
【0062】
【数10】

【0063】
式(7)において、zは等化後の受信信号ベクトル、μは式(6)で表されるブロック内で一定の値となる等価振幅利得、sは送信信号ベクトル、νは等価雑音ベクトルを表す。ここで、式(8)の等価雑音の分散σは、次式(9)で表される。
【0064】
【数11】

【0065】
式(9)において、rは等化前の受信信号を表しており、式(9)より等価雑音の分散は等価振幅利得そのものであることから、受信SNRはMMSE基準型のFDEの場合、式(10)で表される。
【0066】
【数12】

【0067】
したがって、等化部19から出力された等価振幅利得を用いて等化後受信SNR推定部24において等化後の受信SNRを式(10)により推定し、得られた等化後の受信SNRから変調・符号化率情報生成部25により次の伝送機会における変調方式と符号化率の組み合わせを設定し、変調・符号化率情報信号を生成して送信装置にフィードバックする。
ただし、変調・符号化率情報信号は送信側の検出部で変調方式と符号化率が検出できるよう情報の変調ルールが既知であるものであればどの信号形式を採用しても良い。
また、得られた等化後の受信SNRの情報を示す信号を送信装置(移動局装置)へ送信し、移動局装置においてその受信した信号から変調・符号化の態様を生成しても良い。
【0068】
このように、本実施形態は等化後の受信SNRを式(10)のように計算することができ、適応変調符号化方式を等化前の受信SNRに基づいて制御を行う従来のものより良好な特性を示す。
本実施形態は等価振幅利得のみを算出する手法で示したが、等価雑音の分散が等価振幅利得で算出されることを考慮すると、等化部19が等価振幅利得を必ず出力する必要はなく、等価雑音の分散でも良い。
【0069】
なお、本実施形態はMMSE−FDEで説明を行ったが、例えば、逆特性を乗算するZFなども使用可能であり、ZFの場合、等価振幅利得と等価雑音の分散は次式で表される。
【0070】
【数13】

【0071】
【数14】

【0072】
式(12)において、σは等価雑音の分散、σは等化前の熱雑音の分散、w(k)はタップ係数、kは周波数インデックス、Kは伝送帯域における離散周波数のポイント数を表している。
【0073】
この場合、本実施形態に適用すると、等化部19から出力されるのが等価振幅利得ではなく、等化雑音利得に変更する。この場合の受信SNRは式(13)のようになる。
【0074】
【数15】

【0075】
したがって、ZFの場合も図2における等化部19の出力を等化後の受信信号と等価雑音の分散とすれば等化後受信SNR推定部24により受信SNRを推定でき、適用可能である。ただし、ZFの場合は、等化部19の出力は式(12)で表される等価雑音の分散を必ず出力する必要がある。
同様に、例えば、等利得合成(EGC:Equal Gain Combining)や最大比合成(MRC:Maximum Ratio Combining)などの等化法も同様に等化後の受信SNRを計算することができるため、適用可能である。
【0076】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態の送信装置は、第1の実施形態による送信装置100a(図1)と同様であるため、その説明を省略する。
【0077】
図3は、本発明の第2の実施形態による受信装置200bの構成を示す概略ブロック図である。受信装置200bは、送受信側で既知の信号系列であるパイロット信号を用いて等化後の受信SNRを推定する。
【0078】
受信装置200bは、受信アンテナ101、無線部102、CP除去部103、パイロットコピー部104、伝搬路特性推定部105、分散推定部106、FFT部107、等化部108、IFFT部109、パイロット分離部110、復調部111、復号部112、等化後SNR推定部113、変調・符号化率情報生成部114を備えている。
【0079】
受信装置200bの受信アンテナ101、無線部102、CP除去部103、伝搬路特性推定部105、分散推定部106、FFT部107、等化部108、IFFT部109、復号部110、復調部111、変調・符号化率情報生成部114は、第1の実施形態と同じであるため、ここでは説明を省略する。
第1の実施形態との違いは、CPを除去した後にパイロット信号を分離するのではなく、伝搬路推定と分散の推定を行うためにコピーし、パイロット信号も等化するというところにある。パイロット信号の分離は、等化後の受信状況を算出するためにIFFT部109の後で行う。
【0080】
等化後SNR推定部113では、等化後のパイロット信号から等価振幅利得と等化雑音の分散を推定する。等価振幅利得をμ、等価雑音の分散をσとすると、それぞれ式(14)、式(15)で表される。
【0081】
【数16】

【0082】
【数17】

【0083】
式(14)、式(15)で、kは離散周波数インデックス、Kは処理している離散周波数のポイント数を表している。
【0084】
式(14)を式(15)で除算することで受信SNRを推定し、変調・符号化率情報生成部114において通知信号が生成され、送信装置にフィードバックする。
このように、送信信号が既知である場合にはパイロットまで等化し、等化後の信号を測定することでも受信SNRを推定し、変調方式や符号化率を設定する。その結果、適切に変調方式を制御可能となり、所要品質の維持やスループットが向上する。
【0085】
なお、本実施形態はMMSE−FDEで説明を行ったが、例えば、逆特性をタップ係数とするZF型のものも使用できる。また、受信側で変調方式や符号化率を設定しているが、受信SNR情報を送信装置に通知して送信装置で変調方式や符号化率を設定しても良い。
また、本実施形態ではパイロットに続いて所望の自局宛のデータ信号が送信されているが、多重されているデータ信号は自局宛である必要はなく、この場合には等化後の受信品質の測定が可能となり、定期的に等化後の受信品質を測定して自局宛のデータの適応符号化変調制御に使用することもできる。
さらに、第1、第2の実施形態では受信側で変調方式や符号化率を設定しているが、伝搬路の周波数応答をCQI(Channel Quality Indicator)でフィードバックする場合には、送信装置で等化後の受信品質の測定を行い、変調方式や符号化率を設定しても良い。
【0086】
なお、以上説明した実施形態において、送信装置(図1)、受信装置(図2、図3)のの機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより送信装置や受信装置の制御を行っても良い。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0087】
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時刻の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時刻プログラムを保持しているものも含むものとする。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【0088】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も特許請求の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の第1の実施形態による送信装置100aの構成を示す概略ブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態による受信装置200aの構成を示す概略ブロック図である。
【図3】本発明の第2の実施形態による受信装置200bの構成を示す概略ブロック図である。
【符号の説明】
【0090】
1・・・符号部、2・・・検出部、3・・・符号化率制御部、4・・・パンクチャ部、5・・・変調方式制御部、6・・・変調部、7・・・パイロット生成部、8・・・パイロット多重部、9・・・CP付加部、10・・・無線部、11・・・送信アンテナ、12・・・受信アンテナ、13・・・無線部、14・・・CP除去部、15・・・パイロット分離部、16・・・伝搬路特性推定部、17・・・分散推定部、18・・・FFT部、19・・・等化部、20・・・IFFT部、21・・・復調部、22・・・復号部、23・・・等化SNR推定部、24・・・変調・符号化率情報生成部、100a・・・送信装置、101・・・受信アンテナ、102・・・無線部、103・・・CP除去部、104・・・パイロットコピー部、105・・・伝搬路特性推定部、106・・・分散推定部、107・・・FFT部、108・・・等化部、109・・・IFFT部、110・・・パイロット分離部、111・・・復調部、112・・・復号部、113・・・等化後SNR推定部、114・・・変調・符号化率情報生成部、200a、200b・・・受信装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信装置から通知された情報に基づいて変調方式または符号化率の少なくともいずれか一方を変更してデータを送信する送信装置と、
受信信号から無線伝搬路による歪みを周波数領域等化により等化する受信装置と、
を備える無線通信システムであって、
前記受信装置は、周波数領域等化後の信号雑音比に基づいて変調方式または符号化率の少なくともいずれか一方を設定することを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記周波数領域等化は、最小二乗誤差に基づくことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記周波数領域等化は、ゼロフォーシングに基づくことを特徴とする請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記信号雑音比は、周波数領域等化により算出される等価振幅利得または等価雑音の分散の少なくともいずれか一方に基づいて算出されることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの項に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記等価振幅利得は、最小二乗誤差に基づく場合には各周波数のタップ係数と伝搬路の周波数応答の積を周波数領域で平均化することで算出されることを特徴とする請求項4に記載の無線通信システム。
【請求項6】
前記等価雑音の分散は、ゼロフォーシングに基づく場合には各周波数のタップ係数の絶対値に1を加算し、それを周波数領域で平均化することで算出されることを特徴とする請求項4に記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記信号雑音比は、伝搬路の周波数応答を測定するためのパイロット信号から測定されることを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項8】
受信品質に応じて変調方式または符号化率の少なくともいずれか一方を変更する送信装置が送信した信号を受信する受信装置であって、
周波数領域で受信信号を等化する等化部と、
等化後の受信信号から信号雑音比を測定する等化後受信SNR推定部と、
前記信号雑音比から変調方式または符号化率の少なくともいずれか一方を設定し、送信装置に通知する信号を生成する変調・符号化率情報生成部と、
を備えることを特徴とする受信装置。
【請求項9】
前記等化部は、最小二乗誤差に基づく等化処理を行うことを特徴とする請求項8に記載の受信装置。
【請求項10】
前記等化部は、ゼロフォーシングに基づく等化処理を行うことを特徴とする請求項8に記載の受信装置。
【請求項11】
前記等化部は、等価振幅利得または等価雑音の分散の少なくともいずれか一方を出力することを特徴とする請求項8に記載の受信装置。
【請求項12】
前記等化後受信SNR推定部は、最小二乗誤差に基づく等化処理を行う場合には等価振幅利得から等化後の信号雑音比を算出することを特徴とする請求項9または請求項11に記載の受信装置。
【請求項13】
前記等化後受信SNR推定部は、ゼロフォーシングに基づく等化処理を行う場合には等価振幅利得から等化後の信号雑音比を算出することを特徴とする請求項10または請求項11に記載の受信装置。
【請求項14】
伝搬路推定のためのパイロット信号と、受信品質に応じて変調方式または符号化率の少なくともいずれか一方を変更された送信データ信号とが多重された送信装置からの送信信号を受信する受信装置であって、
周波数領域で受信信号を等化する等化部と、
等化後の受信信号から信号雑音比を測定する等化後受信SNR推定部と、
前記信号雑音比から変調方式または符号化率の少なくともいずれか一方を設定し、送信装置に通知する信号を生成する変調・符号化率情報生成部と、
を備えることを特徴とする受信装置。
【請求項15】
前記等化後受信SNR推定部は、受信パイロット信号を等化した信号に基づいて前記信号雑音比を算出することを特徴とする請求項14に記載の受信装置。
【請求項16】
受信品質に応じて変調方式または符号化率の少なくともいずれか一方を変更する送信装置が送信した信号を受信する受信装置を用いた受信方法であって、
周波数領域で受信信号を等化する等化過程と、
等化後の受信信号から信号雑音比を測定する等化後受信SNR推定過程と、
前記信号雑音比から変調方式または符号化率の少なくともいずれか一方を設定し、送信装置に通知する信号を生成する変調・符号化率情報生成過程と、
を有することを特徴とする受信方法。
【請求項17】
伝搬路推定のためのパイロット信号と、受信品質に応じて変調方式または符号化率の少なくともいずれか一方を変更された送信データ信号とが多重された送信装置からの送信信号を受信する受信装置を用いた受信方法であって、
周波数領域で受信パイロット信号を等化する等化過程と、
等化後の受信信号から信号雑音比を測定する等化後受信SNR推定過程と、
前記信号雑音比から変調方式または符号化率の少なくともいずれか一方を設定し、送信装置に通知する信号を生成する変調・符号化率情報生成過程と、
を有することを特徴とする受信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−152876(P2009−152876A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329008(P2007−329008)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】