説明

無線通信システム,測距装置

【課題】 データを送信するための通信装置内部の遅延を固定し,低コストで正確な測距を行う。
【解決手段】 無線通信による直接のデータ送受信で被測距装置との距離を測定する測距装置であって,送信データを一時的に保持するMAC層メモリ部214と,上記MAC層メモリ部から送信データ受けて上記被測距装置に送信する測距送信部と,上記被測距装置からの受信データを受信する測距受信部と,上記MACメモリ部の送信データ出力時から上記測距受信部の受信データの入力時までの時間差を測定する時間差測定部232と,上記送信データの送信レートに応じて上記MACメモリ部の送信データの出力開始時間を設定する送信開始設定部252とを備えることを特徴とする,測距装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,複数の通信端末間で無線通信が可能な無線通信システム,測距装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線ネットワークに関する標準的な規格の一例として米国電子技術者協会IEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers)802.11,HiperLAN/2,IEEE802.15.3,Bluetoothなどが挙げられる。上記IEEE802.11規格には,無線通信方式や使用する周波数帯域の違いなどにより,IEEE802.11a規格,IEEE802.11b規格などの各種無線通信プロトコルが存在する。
【0003】
従来から知られているこのような無線通信プロトコルでは,任意の通信端末同士で通信を行おうと試みた場合,コーディネータを介す必要があった。例えば,IEEE802.15.3においては,各通信端末に割り当てられる時間がコーディネータによって厳密に管理され,このコーディネータに指定されたタイミングでのみデータの送受信を行うことが可能となる。
【0004】
このような無線通信の応用としてアクセスポイントを介さずに各通信端末同士で直接通信可能なアドホック(Ad−hoc)通信も考案されている。かかるアドホック通信では,各通信端末同士が直接,非同期に無線通信を行うことができる。例えば,複数の通信装置間において特定の通信装置から測距対象の通信装置に無線インパルスを送信し,かかる測距対象からの返信インパルスの遅延時間によって距離を計算する技術が知られている(例えば,特許文献1)。
【0005】
また,IEEE802.15.3におけるUWB(Ultra Wide Band)通信では,プリアンブルを用いたパケット構造のデータ通信方式により上記のアドホック通信を実現している。このような無線通信は,極めて高い伝送周波数が用いられるため,上述の技術同様に各無線通信装置間の距離を測定するのに適している。例えば,測距用のパケットを送信し,被測距装置からの返信パケットを受信するまでの時間によって距離を計算する方法が考えられる。
【0006】
しかし,上記の無線通信システムでは,測距を行う測距装置が複数の送信レートを取り扱うことができる場合,送信レート毎に送信開始時間が変化し,正確な遅延が計算できなかった。また,測距にのみ利用される測距用のパケットを利用しているので,オーバーヘッドを生じ,さらには,ネットワーク管理情報を交換する例えばビーコン信号の正規の送信タイミングを遅らせる結果となり,無線通信システムに障害を来す場合があった。
【0007】
【特許文献1】国際公開第99/49333号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は,従来の無線通信システムが有する上記問題点に鑑みてなされたものであり,本発明の目的は,データを送信するための通信装置内部のデータ転送遅延をレート毎に固定し,低コストで正確な測距を行うことが可能な,新規かつ改良された無線通信システム,測距装置を提供することである。
【0009】
また,本発明の他の目的は,測距用のパケットではない既存の資源を利用した測距によりオーバーヘッドを低減し,かつ,ネットワーク管理情報の交換を妨げない無線通信システム,測距装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために,本発明のある観点によれば,被測距装置と,無線通信による直接のデータ送受信で該被測距装置との距離を測定する測距装置とを含む無線通信システムにおいて:上記測距装置は,送信データを一時的に保持するMAC(Medium Access Control)層メモリ部と;上記MAC層メモリ部から送信データ受けて上記被測距装置に送信する測距送信部と;上記被測距装置からの受信データを受信する測距受信部と;上記MACメモリ部の送信データ出力時から上記測距受信部の受信データの入力時までの時間差を測定する時間差測定部と;上記送信データの送信レートに応じて上記MACメモリ部の送信データの出力開始時間を設定する送信開始設定部と;を備え,上記被測距装置は,上記測距装置からの送信データを受信する被測距受信部と;上記送信データに応じて上記測距装置が受信する受信データを生成する受信データ生成部と;上記受信データを送信する被測距送信部と;を備えることを特徴とする,無線通信システムが提供される。また,上記の無線通信システムで利用される測距装置や被測距装置も提供される。
【0011】
上記送信開始設定部は,測距装置が有する複数の送信レートに応じて,MACメモリ部から送信データが出力される時間を,生じるであろう予め計算された内部遅延分だけ調整する。かかる構成により,時間差測定部の測定開始時間,即ち,MACメモリ部からの送信データの入力時が調整されるため,送信レートに拘わらず遅延時間が固定され,正確かつ確実な測距を行うことができる。また,かかる遅延動作にはメモリの増大を伴わないため,低コストでの実現も可能となる。
【0012】
上記送信データは,RTS(Request To Send)制御信号であり,上記受信データは,CTS(Clear To Send)制御信号であっても良い。また,データの通信帯域を予約するパケットであっても良い。
【0013】
例えば,コーディネータを有さないアドホックネットワークにおいて,一方の通信装置とは通信可能であるが他方の通信装置とは通信ができない所謂隠れ端末の発するデータが,他の無線通信と衝突する問題が生じる。かかる問題を回避するため,該ネットワークでは,RTS/CTS制御信号が利用される。このような制御信号として利用されるRTS/CTS制御信号は,RTS制御信号を受信してからCTS制御信号を返信するまでの時間が極めて短く設定され,クロック周波数誤差のない測距に適している。従って,このような既存の制御信号を利用して測距を行うことにより,オーバーヘッドを軽減でき,さらに正確かつ確実な測距を行うことが可能となる。
【0014】
上記測距送信部の送信データの送信タイミングを,所定の時間間隔を有する送信タイミングに再設定する送信タイミング制御部と;上記無線通信における送受信タイミングを管理するネットワーク管理情報の送信時に上記送信タイミング制御部の機能を停止するタイミングスイッチ部と;をさらに備えるとしても良い。
【0015】
上記送信タイミング制御部は,送信データの送信タイミングをクロックの所定倍の送信タイミングまで遅延(シフト)させ,かかる所定の時間に送信タイミングを再設定する。測距装置の内部遅延は,クロック周期を越える場合がある。このような不定な遅延を回避するため,全ての送信データを固定時間まで遅延させ,送信タイミングを一定にする。ただし,ネットワーク管理情報を交換するための信号は,このような遅延を許容しない。従って,上記ネットワーク管理情報であることを判断し,そのようなデータの送信時にはタイミングスイッチ部によってかかる送信タイミングの固定遅延を停止する。
【0016】
上記タイミングスイッチ部は,送信データがRTS制御信号またはCTS制御信号であるとき以外は上記送信タイミング制御部の機能を停止するとしても良い。
【0017】
上記RTS/CTS制御信号は,基本的には,ネットワーク管理情報を有するデータと同時に送信されることはない。従って,RTS/CTS制御信号にのみ送信タイミング制御部の機能をONにして,測距を行う構成にしネットワーク管理情報の交換データの送信時に測距を行わないようにする事で固定遅延を回避することが可能となる。また,RTS/CTS制御信号という条件に加えて,その送信の相手先が被測距装置であることを条件としても良い。また,上記ネットワーク管理情報と上記RTS/CTS制御信号とを同時に送信することも可能であり,そのタイミングでは測距を行わないとすることができる。
【0018】
上記課題を解決するために,本発明の他の観点によれば,被測距装置と,無線通信による直接のデータ送受信で該被測距装置との距離を測定する測距装置とを含む無線通信システムにおいて:上記測距装置は,送信データを上記被測距装置に送信する測距送信部と;上記被測距装置からの受信データを受信する測距受信部と;上記測距送信部の送信データ出力時から上記測距受信部の受信データの入力時までの時間差を測定する時間差測定部と;上記測距送信部の送信データの送信タイミングを,所定の時間間隔を有する送信タイミングに再設定する送信タイミング制御部と;上記無線通信における送受信タイミングを管理するネットワーク管理情報の送信時に上記送信タイミング制御部の機能を停止するタイミングスイッチ部と;を備え,上記被測距装置は,上記測距装置からの送信データを受信する被測距受信部と;上記送信データに応じて上記測距装置が受信する受信データを生成する受信データ生成部と;上記受信データを送信する被測距送信部と;を備えることを特徴とする,無線通信システムが提供される。また,上記の無線通信システムで利用される測距装置や被測距装置も提供される。
【0019】
上記ネットワーク管理情報は,ビーコン信号によって送信されるとしても良い。
【0020】
また,上記送信データは,RTS制御信号であり,上記受信データは,CTS制御信号であっても良い。また,データの通信帯域を予約するパケットであっても良い。また,上記タイミングスイッチ部は,送信データがRTS制御信号またはCTS制御信号であるとき以外は上記送信タイミング制御部の機能を停止するとしても良い。このようにRTS/CTS制御信号を利用することにより,上述したように,さらに正確かつ確実な測距を行うことが可能となる。
【0021】
上記測距装置と被測距装置は,一体に形成されるとしても良く,かかる測距装置として機能するプログラムや測距方法も提供される。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように本発明によれば,送信レートの変化を考慮して内部遅延を調整する送信開始設定部の構成により,データを送信するための通信装置内部のデータ転送遅延をレート毎に一定にすることができ,低コストで正確な測距を行うことが可能となる。
【0023】
さらに,測距用のパケットではない既存の資源(例えば,RTS/CTS制御信号)を利用した測距によりオーバーヘッドを低減し,かつ,ネットワーク管理情報の交換時には,固定遅延を停止する構成により,ホーム・ネットワーク等の自律分散ネットワークにも測距の機能を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0025】
近年,インターネット等の通信網に接続された通信装置と,モバイルパーソナルコンピュータ等の通信装置との間を,無線通信によって接続する無線通信ネットワークが一般化されつつある。無線ネットワークに関する標準的な規格の一例として米国電子技術者協会IEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers)802。11,HiperLAN/2,IEEE802.15.3,Bluetoothなどが挙げられる。上記IEEE802.11規格には,無線通信方式や使用する周波数帯域の違いなどにより,IEEE802.11a規格,IEEE802.11b規格などの各種無線通信プロトコルが存在する。
【0026】
このような無線通信ネットワークの一環として,アクセスポイントを介さずに各通信端末同士で直接通信可能なアドホック(Ad−hoc)通信が行われる。かかるアドホック通信では,各通信端末同士が直接,CSMAのプロトコルの管理下で非同期に無線通信を行うことができる。他にも,IEEE802.15.3におけるUWB(Ultra Wide Band)通信では,アクセスポイントを介してネットワークの管理が行われ,プリアンブルを用いたパケット構造のデータ通信方式により上記のアドホック通信(またはメッシュ通信)を実現している。
【0027】
上記のような無線通信では,極めて高い伝送周波数が用いられるため各無線通信装置間の測距を行うことも可能である。例えば,測距用のパケットを利用して各通信装置間の距離を測定する。
【0028】
このような測距用のパケットを使って測距を行う方法は様々であるが,一般的には,開ループ型と閉ループ型の2つの方法をとり得る。開ループ型とは,送信装置および受信装置の両装置にGPS(Global Positioning System)を設け,互いの装置で同一の時間を共有し,予め設定された時間に送信されたデータからの遅延時間を受信側で測定する。
【0029】
また,閉ループ型とは,送信側が測距要求パケットを送信し,受信側から送信される確認パケット(Acknoleage)を受信することで,理論的にかかる時間(例えば,各装置におけるデータ処理時間)からどれだけパケット受信が遅れたかを計る方法である。
【0030】
ホーム・ネットワーク等を考えた場合,ユーザが何かしらの特別な手続きをとることなく,極力,複雑でない構成で測距を行えた方が良い。従って,かかる場合には,閉ループ型が適している。しかし,コーディネータが存在するネットワークの場合,全ての測距要求をコーディネータに送信する必要があり,MT間の測距情報が取れないという問題がある。この場合は,個別にアドホックモードを行うことも可能である。
【0031】
IEEE802.11準拠の通信装置が測距機能を行う場合,一時的にアドホックモードに切り替えることができる。一方,最近注目されているIEEE802.15のような,ネットワーク管理がトポロジ型,データ通信はメッシュ型というような通信システムの場合,MT間のデータ通信として測距機能を実現できる。しかし,かかる場合であっても,通信するデータとは別に測距用パケットを準備して測距機能を実現させる必要があるため,測距機能がシステムパフォーマンスを下げる原因になるといった問題がある。
【0032】
このような問題点を解決する本発明は,以下の3点を特徴としている。第1に測距装置における送信開始設定部によって,測距装置が有する複数の送信レートに応じて,MAC(Medium Access Control)メモリ部から送信データが出力される時間を,生じるであろう予め計算された内部遅延分だけ調整することである。かかる構成により,時間差測定部の測定開始時間,即ち,MACメモリ部からの送信データの入力時が調整されるため,送信レートに拘わらず遅延時間が固定され,正確かつ確実な測距を行うことができる。また,かかる遅延にはメモリの増大を伴わないため,低コストでの実現も可能となる。
【0033】
第2に,既存のRTS/CTS制御信号を測距に利用する構成により,クロック周波数誤差を低減し,オーバーヘッドの無い,正確かつ確実な測距を行うことが可能となる。第3に,送信タイミング制御部の機能を,無線通信における送受信タイミングを管理するネットワーク管理情報の送信時に停止することによって,ホーム・ネットワーク等の自律分散ネットワークに測距の機能を適用することができる。
【0034】
各通信装置間の距離を測定する測距装置に関する上記第1,第2,第3の3つの特徴を,以下の第1,第2,第3の実施形態を用いて説明する。
【0035】
(第1の実施形態:送信開始設定部)
図1は,無線通信システムにおける測距装置と被測距装置との位置関係を示した概略図である。図1の測距装置STA0と被測距装置STA1は,お互いに電波が届く範囲に配置されている。この測距装置STA0と被測距装置STA1との距離を測定する場合,例えば,測距装置STA0が測距用のパケット100を送信し,被測距装置からの返信パケット110を受信するまでの時間をカウントすることによって距離を導出する。
【0036】
図2は,従来の測距装置200の概略的な構成を示したブロック図である。上記測距装置200は,アプリケーション層制御部210と,測距制御部212と,送信MAC層メモリ部214と,Txヘッダ制御部216と,送受信制御部218と,物理層メモリ部220と,物理層Tx部222と,アンテナ224と,物理層Rx部226と,物理層制御部228と,Rxヘッダ制御部230と,時間差測定部232と,受信MAC層メモリ部234とを含んで構成される。
【0037】
上記アプリケーション層制御部210は,上位レイヤであり,無線通信ネットワークの各通信装置の構成を得るために,測距制御部212に各通信装置間の距離測定を要求する。
【0038】
上記測距制御部212は,上記アプリケーション層制御部210からネットワーク構成生成の要求を受け,各通信装置間の距離測定を全体的に管理し,距離測定の具体的な指令を発する。
【0039】
上記送信MAC層メモリ部214は,測距制御部212とTxヘッダ制御部216との間でデータを一時的に保持し,上位レイヤブロックとMAC層ブロックとの転送レート等の相違を吸収する。
【0040】
上記Txヘッダ制御部216は,送受信制御部218から送信レート等の情報を得て,送信パケットを生成する。
【0041】
上記送受信制御部218は,TDMA(Time Division Multiple Access),CSMA(Carrier Sense Multiple Access)のMACプロトコルを制御し,Txヘッダ制御部216に送信レート等の情報を提供すると共に,送信MAC層メモリ部214の出力の許可も行う。また,かかる制御方式は,CSMAに類似し,CarrierではなくPreambleの相関によってパケットを識別するPSMA(Preamble Sense Multiple Access)と呼ばれるメディアアクセス制御を含むとしても良い。
【0042】
上記物理層メモリ部220は,Txヘッダ制御部216と物理層Tx部222との間でデータを一時的に保持し,MAC層ブロックと物理層ブロックの転送レート等の相違を吸収する。
【0043】
上記物理層Tx部222は,物理層制御部228からの指令を受けて,動作を開始し,物理層メモリ部220からのデータを,アンテナ224を介して出力する。ここでは,閉ループ型の測距を実現するための機構が含まれている。
【0044】
上記物理層Rx部226は,物理層制御部228からの指令を受けて,動作を開始し,物理層Tx部222が出力した送信データに対する被測距装置からの返信データを受信する。その後,Rxヘッダ制御部230に転送する。
【0045】
上記物理層制御部228は,送受信制御部218またはTxヘッダ制御部216からのデータ送信コマンドを受けて,物理層におけるデータの送信を制御し,また,被測距装置から受信したデータをRxヘッダ制御部230へ転送する。さらに,送信に関しては物理層Tx部222を,受信に関しては物理層Rx部226をタイミング制御する。
【0046】
上記Rxヘッダ制御部230は,受信(返信)データを分析し,受信したデータの種類や被測距装置を特定する情報を認識する。
【0047】
上記時間差測定部232は,送信MAC層メモリ部214が実際にデータを出力した時点(Txヘッダ制御部216への入力時)からタイマーカウントを開始し,被測距装置からの返信データの受信時までの時間差を測定する。かかる時間差測定部232がMAC層でのみ測定可能である場合,タイマーカウントはTxヘッダ制御部216の入力時に開始される。
【0048】
上記受信MAC層メモリ部234は,Rxヘッダ制御部230と測距制御部212との間でデータを一時的に保持し,MAC層ブロックと上位レイヤブロックの転送レート等の相違を吸収する。
【0049】
上記従来の測距装置200において,被測距装置との距離を測定することを前提に,測距の基本的概念を以下に説明する。
【0050】
測距装置から送信される測距用パケットは,空中伝送路に存在する時間が短いほど,送受信による閉ループの時間間隔が短くなる。従って,空中伝送路に存在する時間が短いほど,各装置におけるクロック誤差のような外的要因により誤差が生じることが少なくなり,測距の精度が高くなる。
【0051】
このような状況の下では,データ長が同じ場合であっても伝送速度(伝送レート)が速いものほど無線上のパケットが短くなり,測距の精度が良いことになる。従って,各通信装置間の通信距離が短く,かつ安定した伝搬環境を確保できる場合,データ伝送速度を速くすることが可能となり,測距の精度を確保できる。さらに,無線通信の占有帯域を短くすることもできる。上記速い伝送速度によって,外的なエラー要因が減り,周波数の利用効率も上げられる。
【0052】
しかし,例えば,物理層メモリ部が実装するメモリの容量が小さく,送信すべきパケット長を一度に保存できない場合,データ伝送速度によって送信タイミングが異なってしまう。このような状況下においては,上記時間差測定部に測定されるディレイ値が固定されない。また,データ長の上限が設定されてない場合において,データ長が異なるパケットを測距に利用ようとすると,ディレイ値にも上限がなくなり,測距が困難になる。
【0053】
図3は,時間差測定部による測定開始から物理層Tx部にデータが送信されるまでのデータの時間推移を示したタイミングチャートである。ここでは,測距装置が3種類のデータ伝送レート(100Mbps,200Mbps,400Mbps)を有す。かかる図3においては,空中伝送路におけるパケット長が同時間であり,かつ,Txヘッダ制御部から物理層メモリ部へのデータ転送時間がデータ伝送レートに拘わらず一定となることを前提とする。図3において送信MAC層メモリ部からデータ出力された時点を測定開始とし,順次Txヘッダ制御部,物理層メモリ部,物理層Tx部とデータが移行する。
【0054】
図3を参照するとデータ伝送レートによって最終的な物理層Tx部へのデータ入力時点が変化していることが理解される。上記各ディレイを固定ディレイA,B,Cと定義する。ここで,Txヘッダ制御部から物理層メモリ部へ転送されるPayloadの転送時間は,データ伝送レートが高いほど長くなっている。これは,かかるデータ量が空中伝送路におけるパケットの転送時間を基準にしており,同一の転送時間であればデータ伝送レートが高いほどそれに従ってデータ量が多くなり,伝送レートが同じMAC層では,データ伝送レートが高いほど転送時間が長くなるからである。
【0055】
ここで,測距用パケット長を,データ伝送レート100Mbps時に100Byte,400Mbps時に400Byteとし,かつ,Txヘッダ制御部から物理層メモリ部へのデータ転送速度を1Gbpsとした場合について考察する。伝送レート400Mbpsと伝送レート100Mbpsとでは,パケット送信開始時刻の差が2.4us(100MbpsのPayload転送時間は0.8us(100Byte/1Gbps),400Mbpsでは3.2us(400Byte/1Gbps))となり,空中伝送路におけるパケット長が同時間であるため,測距の精度に720m(光速3×10[m/s]×2.4us)の誤差が発生する。この誤差によって,測距機能は意味を成さなくなる。
【0056】
また,かかる内部の遅延を補償するために,固定ディレイCのみに集約することも考えられる。
【0057】
図4は,時間差測定部による測定開始から物理層Tx部にデータが送信されるまでのデータの改善した時間推移を示したタイミングチャートである。図4を参照すると,Txヘッダ制御部から物理層メモリ部へデータが転送された後,かかる物理層メモリ部で一旦そのデータを保持し,データ伝送レートに拘わらず一定の出力時間でデータを送信できる。従って,測定開始からの固定ディレイを最遅の固定ディレイCで固定可能となる。
【0058】
しかし,上記のように物理層メモリ部でウェイトをかける方法では,安易に無駄な時間が増大し,また,メモリ容量も多く必要とされるためコスト的な負担が多くなる。例えば,1024ByteのDPRAMを実装するには,現在主流の0.13プロセスであっても,0.149mmの領域が必要となる。測距用のパケット長が1024Byteであった場合,一度に1024Byteのデータしか取り扱うことができないメモリのみの運用では,当該無線通信システムのスループットが下がる原因となる。
【0059】
そこで,物理層メモリ部でデータを維持することなく,データの遅延時間を一定にする新規な測距装置を提案する。
【0060】
図5は,本実施形態における測距装置250の概略的な構成を示したブロック図である。上記測距装置250は,アプリケーション層制御部210と,測距制御部212と,送信MAC層メモリ部214と,Txヘッダ制御部216と,送受信制御部218と,物理層メモリ部220と,物理層Tx部222と,アンテナ224と,物理層Rx部226と,物理層制御部228と,Rxヘッダ制御部230と,時間差測定部232と,受信MAC層メモリ部234と,送信開始設定部252とを含んで構成される。
【0061】
上述した従来の測距装置における構成要素として既に述べたアプリケーション層制御部210と,測距制御部212と,送信MAC層メモリ部214と,Txヘッダ制御部216と,送受信制御部218と,物理層メモリ部220と,物理層Tx部222と,アンテナ224と,物理層Rx部226と,物理層制御部228と,Rxヘッダ制御部230と,時間差測定部232と,受信MAC層メモリ部234とは,実質的に機能が同一なので重複説明を省略し,ここでは,構成が相違する送信開始設定部252を主に説明する。
【0062】
上記送信開始設定部252は,送受信制御部218からデータ伝送レート情報を受け,そのデータ伝送レートに従って,送信MAC層メモリ部214から送信データを出力するタイミングを設定する。送受信制御部218は,設定されたタイミング情報を受信し,送信MAC層メモリ部214の出力自体を遅延させる。従って,時間差測定部232で測定される測定開始時点もかかるデータ出力時点(Txヘッダ制御部216の入力時)となる。
【0063】
本実施形態では,送信MAC層メモリ部214がMAC層メモリ部として,Txヘッダ制御部216,物理層メモリ部220,物理層Tx部222が測距送信部として,物理層Rx部226,Rxヘッダ制御部230が測距受信部として定義される。
【0064】
(無線通信システム)
また,上記測距装置によって距離が測定される被測距装置は,上記測距装置と共に,無線通信システムを構成する。かかる被測距装置は,基本的な構造が測距装置と実質的に同等となる。従って,被測距装置を構成する被測距受信部は,測距装置同様,物理層Rx部226,Rxヘッダ制御部230で表すことができ,受信データ生成部は,送受信制御部218を含む制御部で構成され,被測距送信部は,Txヘッダ制御部216,物理層メモリ部220,物理層Tx部222で表すことが可能である。
【0065】
図6は,時間差測定部による測定開始から物理層Tx部にデータが送信されるまでのデータの時間推移を示したタイミングチャートである。図6では,図4同様に,データ送信開始要求から空中にそのデータが送信されるまでの固定ディレイが一定となり,いかなるデータ伝送レートであっても固定ディレイCでパケット送信が行える。これは,測定開始タイミングをデータ伝送レートに対応して準備し(例えば,測定開始A,B,C),Txヘッダ制御部216から物理層メモリ部へ転送される転送時間の相違を補償している。勿論,測距の精度は内部処理のディレイを削減した方が精度が高くなるため,観測開始A,B,Cをもとに,空中へ送信するパケット時間を算出する方が効果的である。
【0066】
かかる構成により,物理層メモリ部におけるメモリ量を最小にすることが可能となる。例えば,図4に示したような従来の構成においては,MAC層メモリ部と物理層メモリ部との両メモリにおいて同一のデータを一時保存(Wait)していたが,当該実施形態によれば,MAC層メモリ部のみで送信タイミングを調整するため,物理層メモリ部における一時保存を考慮する必要がなくなり,最小のメモリ量で当該測距機能を達成できる。また,図6において,パケットの送信の終了をPayloadの転送終了直後とすることもできる。
【0067】
以上,説明したように,送信開始設定部252によって,データ伝送レート毎に空中に送信されるまでの測距装置の内部遅延が管理され,固定ディレイを一定にすることが可能となり,図4に示した無駄なディレイやメモリの増大を防ぐことが可能となる。また,技術の進歩により上記測距装置の構成がソフトウェアで実現できるようになれば,送信開始設定部による送信開始をソフトウェアによって管理することもでき,また,予め計算された遅延時間を最終的な時間差に足して測距を行うとしても良い。
【0068】
(第2の実施形態:RTS/CTS制御信号)
次に,具体的な無線通信ネットワークの構成を,IEEE802.11を例に挙げて詳しく説明する。IEEE802.11によるネットワーキングでは,BSS(Basic Service Set)の概念が用いられる。ここでは,AP(Access Point)と呼ばれるマスタ制御局が存在するインフラモードで定義されるBSSと,複数のMT(Mobile Terminal)のみにより構成されるアドホックモードで定義されるIBSS(Independent BSS)とが定義される。上記APは,例えばコーディネータであり,MTは,例えば通信端末である。
【0069】
上記インフラモードのBSSにおいては,無線通信ネットワーク内にコーディネーションを行うAPが必須となる。このAPは,AP周辺の通信可能な範囲に存在するMTをBSSとしてまとめ,所謂セルラーシステムにおけるセルを構成する。
【0070】
上記APの近隣に存在するMTは,該APに収容され,このAPによるBSSの一メンバとして無線通信ネットワークに参入する。上記APは,適当な時間間隔でビーコン信号と呼ばれるネットワーク管理情報を含んだ制御信号を送信する。このビーコン信号を受信することが可能なMTは,APが近隣に存在することを認識し,さらに該APとの間でコネクションの確立を行う。
【0071】
図7は,インフラモードで定義されるBSSを説明するための説明図であり,図8は,上記BSSにおけるビーコン信号のタイミングを示したタイミングチャートである。図7においては,通信局STA0がAPとして定義され,該STA0から通信可能な範囲300内にあるSTA1およびSTA2がMTとして定義される。上記STA0は,図8に示すように一定の時間間隔でビーコン(Beacon)信号を送信する。次回のビーコン信号の送信時刻は,ビーコン信号内のターゲットビーコン送信時刻(TBTT:Target Beacon Transmit Time)というパラメータによって通知されており,時刻がTBTTになるとAPはビーコン信号の送信手順を遂行する。
【0072】
また,周辺に存在するMT(図7におけるSTA1,STA2)は,上記APから送信されるビーコン信号を受信し,ビーコン信号内部に記されたTBTTフィールドをデコードすることによって次回のビーコン送信時刻を認識する。従って,受信の必要が無い場合などの通信状況によっては,次回あるいは複数回先のTBTTまで受信機の電源をOFFし,スリープ状態に入ることも可能である。このようにコーディネータの存在するネットワークにおいては,コーディネータのみがビーコンを送信しているため,当該無線通信ネットワーク内のMTは,APからのTBTTが一時的に遅れることも許容する。
【0073】
続いて,もう一方のアドホックモード時におけるIEEE802.11の動作を説明する。
【0074】
図9は,アドホックモードで定義されるIBSSを説明するための説明図であり,図10は,上記IBSSにおけるビーコン信号のタイミングを示したタイミングチャートである。上記アドホックモードのIBSSにおいて,STA1やSTA2で表されるMTは,自己の通信範囲302内にある複数のMTに対してネゴシエーションを行い,各MTで自律的にIBSSを定義する。このMT群は,IBSSが定義されネゴシエーションが成された後に,図9に記した一定間隔毎のTBTTを定める。各MTは,自局内のクロックを参照して時刻がTBTTになったことを認識すると,ランダム時間遅延(Random Backoff)させた後,IBSS内の他のMTがビーコン信号を送信していないことを確認し,他のMTに対してビーコン信号を送信する。
【0075】
上記の例では,IBSSに属するいずれかのMTが,TBTTが訪れる毎にビーコン信号を送信する。従って,ビーコン信号同士が衝突する可能性もある。
【0076】
また,図7のSTA0,STA1,STA2を全てMTとして定義した場合,例えば,STA1がSTA0にデータを送信しようと試みた場合,STA0の近隣にはSTA2が存在し,そのSTA2が,一方の通信装置(STA0)とは通信可能であるが他方の通信装置(STA1)とは通信ができない所謂隠れ端末となる。このような隠れ端末によってデータ通信が妨げられるのを回避するため,通信装置(STA1)および通信装置(STA0)は,RTS(Request To Send)/CTS(Clear To Send)制御信号を利用して送信端末と受信端末とを特定する。
【0077】
図11は,上記RTS/CTS制御信号による制御を説明するためのタイミングチャートである。ここで,STA0,STA1,STA2は,図7に示した位置関係に配されているとする。このとき,STA1とSTA2がSTA0にデータ・フレームを送信する場合,お互いの電波をキャリアセンスすることができない。従って,一方が送信するデータ・フレームが衝突する可能性が生じる。このようなデータ・フレームの衝突を回避するため,従来における無線ネットワーキングのMAC層では,上述したように,RTS制御信号,CTS制御信号を介したアクセス方式が提供されている。
【0078】
例えば,図11を参照すると,STA1からSTA0にデータを送信しようとした場合,先ず,STA1はRTS制御信号310を送信する。かかるRTS制御信号310は,STA0で受信されるが,STA2には届かない。しかし,STA0がRTS制御信号310に対応したCTS制御信号312をSTA1に対して返信した場合,STA2は,CTS制御信号312を受信することができ,STA0が他局(ここでは,STA1)と通信を開始していることを認識する。STA2は,STA0の通信を認識すると,STA0との通信の衝突を回避するため,自己からのデータの送信を一定時間禁止(NAV:Network Allocation Vector:非送信区間)314する。このように通信経路が確保されたSTA1は,STA0に対してData316を送信し,STA0は,それに応じてACK制御信号318を返信する。また,STA2がSTA0への送信を試みた場合,上記と同様にSTA1の送信も一定時間禁止320される。このようにして上記の隠れ端末問題を解消している。
【0079】
このようなRTS/CTS制御信号(ここでは,RTS/CTSパケット)による制御が存在するネットワークにおいて,かかる制御信号を利用した測距機能を実現する。
【0080】
上述した閉ループ型による測距では,Frame(パケット)を送受信して,受信したFrameが本来受信すべき時間からどの程度ずれているかという伝搬遅延を測定している。かかる測距の精度を高めるためには物理層が高いクロック周波数を有する方が好ましい。ここでは,非常に高いクロックを持つUWBを前提にしているが,かかる通信方式に限られない。
【0081】
図12は,上記のFrameフォーマットを示した説明図である。このようにFrameは,Preamble部と,Heading部と,Payload部とからなり,Preamble部は,規格により既知のシンボル・パターンが定義されている。Heading部は,かかるFrameのタイプ(例えば,RTS制御信号),通信をするネットワークグループを特定するためのグループ識別子,届け先を示すアドレス,送り元を示すアドレス(自己のアドレス),制御情報等を含んで構成され,Payload部は,ネットワークの同期情報,装置の属性や能力など固有の情報エレメント,自己が通信に利用する時間情報などを記載したCTAエレメント等を含んで構成される。
【0082】
例えば,測距装置が4GHzのクロックを内蔵する場合,クロックの周期は250psとなるので,かかる分解能をもって伝搬遅延を把握し,測距の高い精度を得ることが可能となる。しかし,測距装置に内蔵されているクロックにも周波数の誤差が存在するので,極力短時間に閉ループ型(送受信)を行うことによりこれらの要因を排除させる必要がある。そこで,上述した測距用のパケットとして,制御コマンドであるRTSパケットおよびCTSパケットを使用する。RTS/CTSパケットは,RTS制御信号の受信からCTS制御信号の送信まで極めて短時間で処理されるので,測距に適している。また,このような制御信号を利用することにより,特別な測距用パケットを利用する必要がなくなり,オーバーヘッドを軽減することが可能となる。
【0083】
以下に,RTS/CTSパケットを利用した測距の具体的な動作を詳述する。
【0084】
図13は,本実施形態における測距装置の測距手順を示したフローチャートである。ここでは,測距装置と被測距装置とにノードを分割して説明する。
【0085】
先ず,RTSパケットの送信に関して記載する。測距装置の測距制御部212は,測距したい被測距装置のMAC Addressをレジスタに書き込む。そして,Txヘッダ制御部216は,予め決められているタイミングで,上記MAC Addressを内部に取り込む(S400)。このとき,測距制御部212は,Txヘッダ制御部216がMAC Addressを不安定なタイミングで取り込まないように動作する。
【0086】
続いて送受信制御部218は,物理層制御部228に送信開始の合図を送り(S402),Txヘッダ制御部216は,測距の有無にか拘わらず,PSDU(PhysicalLayer Service Data Unit)を生成する(S404)。また,送受信制御部218は,データ伝送レートを決定し,そのデータ伝送レートに従った送信開始タイミングを送信開始設定部252から受け,送信MAC層メモリ部214の出力制御を行う。上記送受信制御部218によって測距が開始されると,Txヘッダ制御部216が物理層制御部228に対して測距モードへの変更を指示する(S406)。測距装置内では送受信制御部218から物理層制御部228に対して送受信の切り替えが指令され(S408),物理層Tx部222から測距モードOFFのままRTSパケットが送信される(S410)。時間差測定部232は,送信MAC層メモリ部214からデータが出力された時点を計測し,測距を開始する。
【0087】
図14は,上記RTSパケットのフレームフォーマットを示した概略図であり,図15は,そのフォーマットの各フィールドの内容を示した説明図である。例えば,Sub MAC HeaderのFrame Typeフィールドには,RTS,CTS,DATA,ACKといったフレームの種類が記載され,Max Durationフィールドには,前述したNAVに関する情報が格納されている。かかる情報は,主に,送受信する通信装置として選択されなかった近隣の通信装置がパケットの送信を禁止される期間が記される。ここでは,RTSパケットに測距機能がビットアサインされていない。
【0088】
図13の説明に戻って,被測距装置の送受信制御部218は,上記測距装置から送信されたRTSパケットを受信するため物理層制御部228に対して受信開始信号を送信する(S420)。上記受信開始信号をトリガに,物理層制御部228は,受信準備を開始し,物理層Rxに受信の開始を指令する(S422)。
【0089】
物理層Rx部226が受信したパケットの認識を行うと,物理層制御部228に対し,パケット検出ができた旨を通知する(S424)。物理層制御部228は,かかるパケットの受信開始を送受信制御部218へ通知し,受信開始するよう指令する(S426)。
【0090】
次に,物理層Rx部226は,PSDUを受信し,Rxヘッダ制御部230に受信したデータを送信する(S428)。その後,Rxヘッダ制御部230は,受信したパケットがRTSかどうかを判断する。また,送受信制御部218は,上記RTSパケットの受信が完了した時点で,送受信の切替えを行う。具体的には,物理層制御部228にかかる送受信の切り替えを通知し(S430),物理層制御部228が物理層Rx部226の動作を停止し,物理層Tx部222の動作を開始させる(S432)。
【0091】
続いて,被測距装置の送受信制御部218は,物理層制御部228に対して,RTSパケットに応じたCTSパケットの送信開始を通知し(S434),物理層制御部228は,さらに物理層Tx部222に対して送信開始を通知する。物理層Tx部222は,Txヘッダ制御部216から伝達されたCTSパケットを受け(S436),測距装置に対してそのCTSパケットを送信する(S440)。かかる送信タイミングは,物理層Tx部222の送信データの送信タイミングを所定の時間間隔,例えば250nsを有する送信タイミングに再設定される。即ち,上記所定の時間間隔に送信タイミングが合わせられている。
【0092】
そして,被測距装置からCTSパケットが返信された測距装置の送受信制御部218は,物理層制御部228に受信開始を通知し(S450),物理層制御部228は,かかる受信開始タイミングで測距モードをONにし,物理層Rx部226に通知する。
【0093】
このようにして物理層が測距モードにスイッチされ,CTSパケットの受信準備が行われる(S454)。物理層制御部228は,物理層Rx部226からCTSパケットの検出情報を受け取ると,送受信制御部218に対してCTSパケットの受信開始を通知する(S456)。
【0094】
Rxヘッダ制御部230は,物理層Rx部226からMAC Headerを受信し(S458),そのMAC HeaderにあるMAC Addressと測距要求ビットを比較し,アドレスが一致する場合,測距要求先からのCTSパケットを受信した旨,物理層制御部228に通知する(S460)。時間差測定部232は,かかるRxヘッダ制御部230へのCTSパケットの入力を検出し,CTSパケットの受信時間を保持する。時間差測定部232における,送信MAC層メモリ部214からのデータ送信時から上記受信時までの時間差から端末間の距離を導き出すことができる。
【0095】
物理層制御部228は,測距機能が有効な状態でかつ受信したCTSパケットが測距要求先からのCTSパケットであった場合,測距制御部212に対して測距測定の終了を通知する(S462)。これは,測距測定終了信号をアサートすることによって行われる。
【0096】
測距制御部212は,測距測定終了信号を確認し,測距の情報を受信したことを認識後,測距測定終了信号を下げる。このときTxヘッダ制御部216や送信MAC層メモリ部214は,時間差測定部232のレジスタが書き換えられないように,測距測定終了信号がアサートされている間データの送信を停止する。
【0097】
測距制御部212は,時間差測定部232から伝搬遅延量に関する測定値を読み出した後,次に測距したい新たな被測距装置のMAC Addressを測距要求レジスタに書き込み,測距測定終了信号をDisableにする。
【0098】
以上,本実施形態においては,測距用のパケットの代わりにRTS/CTSパケットを利用して測距を行う構成を説明した。このようにRTS/CTSといったメディアアクセス制御用コマンドを用いて測距を行う構成により,ホーム・ネットワークの問題となる隣接されたノード(通信装置)とのパケット衝突を,測距機能を通信のオーバーヘッドなく実現することが可能となる。
【0099】
また,本実施形態では,測距の一方法として閉ループ型を挙げて説明したが,かかる測定方法に限られず,伝送遅延によって距離を測定するいかなる方法も本実施形態に適用することができる。また,上記ではRTS/CTSパケットを利用する構成を述べているが,他のメディアアクセス制御用コマンド,例えば,データの通信帯域を予約するパケットを利用することも可能である。
【0100】
また,測距の要求を行う際に,通信局の識別IDとしてMAC Addressを使用したが,かかる情報に限られず,通信局を判別できるIDであればどのような情報でも良い。ここで無線通信ネットワークを考えた場合,ネットワーク固有の通し番号が使われることも多々ある。例えば,無線通信ネットワーク内に16台の通信装置を含むことが可能な場合,Node0−15として各通信装置に割り当てるとしても良い。
【0101】
また,上述の実施形態においては,FrameおよびRTSパケットのフォーマットを図12や図14のように定義しているが,かかるフォーマットには限られない。例えば,NAV情報はSub Mac Headerではなく,PHY Headerに入っているとしても良い。
【0102】
また,上述の実施形態においては,測距制御部によって測距要求が発生し,物理層制御部が測距測定終了信号をEnableにしているが,かかる場合に限られず,測距測定終了が別なモジュールから出力されても,また,別な方法によって実現されても良い。例えば,測距制御部が常に状態をPorlingする方法などがある。また,測距制御部はソフトウェアでもハードウェアでも実現できる。
【0103】
さらに,本実施形態においては,一つの測距装置に対して一つの被測距装置を想定しているが,1対複数の測距も可能である。かかる場合は,それぞれの被測距装置をハードウェアが認識し,その被測距装置毎に準備された測距要求ビットを(RTSパケットフレーム)アサートすることで実現できる。
【0104】
(第3の実施形態:タイミングスイッチ部)
本実施形態では,第1の実施形態で述べた測距装置の他の構成による測距装置を説明する。
【0105】
図16は,従来の測距装置500の概略的な構成を示したブロック図である。上記測距装置500は,アプリケーション層制御部510と,測距制御部512と,送信MAC層メモリ部514と,Txヘッダ制御部516と,送受信制御部518と,物理層メモリ部520と,物理層Tx部522と,アンテナ524と,物理層Rx部526と,物理層制御部528と,Rxヘッダ制御部530と,時間差測定部532と,受信MAC層メモリ部534と,送信タイミング制御部536とを含んで構成される。
【0106】
第1の実施形態において既に述べている符号の下2桁が等しい構成要素は,実質的に機能が同一なので,ここでは重複説明を省略する。例えば,アプリケーション部510は,第1の実施形態におけるアプリケーション部210と実質的に機能が同一である。以下に,構成が相違する時間差測定部532および送信タイミング制御部536を主に説明する。
【0107】
上記アプリケーション層制御部510からのネットワーク構成生成の要求を受け,最終的に上記物理層Tx部522は,物理層メモリ部520のデータを,アンテナ524を介して出力する。そして,上記物理層Rx部526は,物理層Tx部522が出力した送信データに対する被測距装置からの返信データを受信する。ここでは,閉ループ型の測距を実現するための機構が含まれている。
【0108】
上記時間差測定部532は,物理層Tx部522が実際にデータを出力した時点からタイマーカウントを開始し,被測距装置からの返信データを物理層Rx部526が受信する時点までの時間差を測定する。
【0109】
送信タイミング制御部536は,物理層Tx部522の送信データの送信タイミングを所定の時間間隔を有する送信タイミングに再設定する。即ち,上記所定の時間間隔,例えば250nsに送信タイミングが合わせられる。このように送信データを適切に遅延させることにより,送信データの遅延が常に一定になるように補償することができる。これは,送信データの遅延がクロック周期を越えて遅延する場合があるので,送信データの開始時をクロックの所定倍の送信タイミングに合わせることにより,不定な内部遅延を吸収するためである。
【0110】
かかる図16の無線通信システムの時間差測定部532は,Txヘッダ制御部516の制御内容に拘わらず,空中に送信されるいずれかのパケットの送信時にタイマーカウントを開始し,何かしらのパケットを受信するまでの時間を計測する。即ち,送信パケットや受信パケットの種類を問わない。
【0111】
第1の実施形態による測距装置と比較すると,本実施形態による測距装置では,パケットの内容を把握しなくても良いところに特徴がある。従って,測定開始時間に関してシステム的なしがらみがなく,容易に測定が行え,不用意に送信MAC層メモリ部514や物理層メモリ部520のメモリ容量を増やす必要がない。また,システム的なステートを持たないため状態遷移が少なく回路構成が簡単という利点もある。さらには,測距装置のデータ伝送レートに従った伝送遅延を考慮する必要が無い。しかも,送信タイミング制御部536によって,カウント開始時間を所定の時間に設定し直しているので,さらに精度良く被測距装置への距離を測定することが可能である。
【0112】
しかし,上記の無線通信システムでは送信するパケットの種類が判断されていないため,パケットの種類に関係なく,送信タイミング制御部536による所定時間の送信遅延が発生する。よって,ネットワーク制御用パケット,例えば,上記ビーコン信号に同期した無線通信ネットワークでは,ビーコン信号までも遅延して送信されるといった現象が生じる。例えば,ビーコン信号といったネットワーク制御用パケットは,複数の通信装置との同期をとるための非常に重要なパケットであり,設定されたビーコン信号の送信タイミングを例え測距のためとは言え,遅延することは許容されない。
【0113】
一旦構築された無線通信ネットワークにおいては,少なくとも,ネットワーク制御用パケットが,アクセスコントロールが想定する時間において送受信される必要がある。
【0114】
続いて,既にネットワークが構築された無線通信システム間の問題を取り上げる。
【0115】
図17は,アドホックモードで定義されるIBSSを説明するための説明図であり,図18は,上記IBSSにおけるビーコン信号のタイミングを示したタイミングチャートである。上記図17の状況では,通信装置であるSTA0とSTA1とが,またSTA2とSTA3とが既にネットワークを構築している。また,STA0,STA1とSTA2,STA3との間には,壁やドア等の電波遮蔽物によって電波が届かない。このとき各通信装置は,図18に示すように各無線通信システム内で設定されたTBTTに従ってビーコン信号を交換する。ここでは,STA0,STA1とSTA2,STA3とが独立にネットワークを構築し,また,電波が遮蔽されているので,お互いのビーコン信号が衝突することなく無線通信システムの運用がなされる。
【0116】
その後,上記無線通信ネットワーク同士を遮蔽していたドアが開き,一方のネットワークの通信可能範囲に,他方が入った場合を考える。
【0117】
図19は,2つのネットワークが混在した場合のIBSSを説明するための説明図であり,図20は,上記IBSSにおけるビーコン信号のタイミングを示したタイミングチャートである。無線通信ネットワークの電波状況の変化によって,図17の状態から図19の状態に移行すると,例えば,STA1とSTA2とが通信可能になり,お互いの発するビーコン信号が図19に示すように衝突する可能性がある。
【0118】
このように,通信装置が散乱しているような場合において,上記に示したIEEE802.11でネットワーク構築を行う場合を想定する。このとき,インフラモードでネットワークを構築すると,どの通信装置をAP(コーディネータ)として動作させるべきかの選定が問題となる。IEEE802.11においては,BSSに収容されたMTは,同BSSに属する通信局のみとの通信を行うことになっており,APは他のBSSとのゲートウエイとして動作する。
【0119】
ここで,無線通信システム全体として適切にネットワーキングするためには,事前にネットワーク全体の系をスケジューリングする必要がある。従って,ホーム・ネットワークのような,ユーザが通信装置を移動したり,電波伝搬環境が頻繁に変化したりする環境においては,どの位置に存在する通信装置をAPとすべきか,また,APの電源が落とされた場合にどのようにネットワークを再構築するかといった課題が残る。
【0120】
よって,ホーム・ネットワークで使用される通信装置はコーディネータが存在しないネットワークが適している。かかるネットワークでは,ビーコン信号を利用して各通信装置間のネットワーク制御情報を交換するので,各通信装置は,他の通信装置のTBTTタイミングを把握する必要がある。これは,全通信装置がネットワーク内にあるビーコン送信時刻を管理し,ビーコン送信時間をお互いに調整しているためである。
【0121】
このように,特にアドホックモードによる無線通信ネットワークでは,ビーコン信号の送信タイミングは非常に重要であり,各通信装置に設定されたビーコン信号の送信タイミングを変更することはできない。
【0122】
ここで,上述したような測距機能を実装した測距装置が,上記のビーコン信号の送信タイミングを遅延させてしまった場合,ビーコン信号が衝突,または,謝ったビーコン信号によってネットワークが誤動作してしまう可能性が高くなる。
【0123】
このような送信タイミングを変更する機能は,TBTTを管理する機能から独立して行われるため,かかる送信されたビーコン信号の遅延が,他の通信装置との衝突を避けるための遅延なのか,測距機能による遅延なのか,他の通信装置からは判断することができない。
【0124】
本実施形態では,コーディネータの存在しないネットワークにおいて全ての通信装置がビーコン信号を送信し,そのビーコンによって,お互いにゆるやかな同期をとっているネットワークを想定している。全ての通信装置でネットワーク内にあるビーコン送信時刻を管理し,ビーコン送信時間をお互いに調整しているため,正確なTBTT情報が必要となる。
【0125】
しかし,上述したように,測距機能を実装した物理層が,送受信制御を行う送受信制御部の範疇外で送受信タイミングの遅延を発生させてしまった場合,ネットワークの管理が適切に行われない。そこで,本実施形態では,パケットの種類に応じて測距に必要なデータ伝送の遅延をON/OFFする構成を提供する。
【0126】
図21は,本実施形態における測距装置550の概略的な構成を示したブロック図である。上記測距装置550は,アプリケーション層制御部510と,測距制御部512と,送信MAC層メモリ部514と,Txヘッダ制御部516と,送受信制御部518と,物理層メモリ部520と,物理層Tx部522と,アンテナ524と,物理層Rx部526と,物理層制御部528と,Rxヘッダ制御部530と,時間差測定部532と,受信MAC層メモリ部534と,送信タイミング制御部536と,タイミングスイッチ部552とを含んで構成される。
【0127】
上記従来の測距装置における構成要素として既に述べたアプリケーション層制御部510と,測距制御部512と,送信MAC層メモリ部514と,Txヘッダ制御部516と,送受信制御部518と,物理層メモリ部520と,物理層Tx部522と,アンテナ524と,物理層Rx部526と,物理層制御部528と,Rxヘッダ制御部530と,時間差測定部532と,受信MAC層メモリ部534と,送信タイミング制御部536とは,実質的に機能が同一なので重複説明を省略し,ここでは,構成が相違するタイミングスイッチ部552を主に説明する。
【0128】
上記タイミングスイッチ部552は,無線通信における送受信タイミングを管理するネットワーク管理情報の送信時に送信タイミング制御部536の機能を停止する。従って,ネットワーク管理情報,例えば,ビーコン信号等が送信される場合,送受信制御部518からその情報を得て,送信タイミング制御部536による送信タイミングの再設定を行わせない。
【0129】
かかる構成により,ビーコン信号以外の通常のパケットでは,送信タイミング制御部536により再設定された,例えば,250nsの時間間隔でのみデータ送信が行われ,精度の良い測距が実施される。パケットを受信する受信装置は,パケットを受信後,250nsのタイミングで送信処理を行うため,折り返しパケットを受信した送信局は250nsのタイミングからどれだけ遅延したかによって距離を把握できる。250psの遅延は距離にすると7.5cmに相当する。ビーコン信号が検知された場合は,タイミングスイッチ部552により送信タイミング制御部536をOFFし,送信すべき通常のタイミングでビーコン信号を発信する。
【0130】
図22は,物理層Tx部から空中(RF)にデータが送信されるデータの時間推移を示したタイミングチャートである。ここでは,タイミングスイッチ部552が送信タイミング制御部536をONにして,送信タイミングの再設定が行われている。従って,250nsのタイミングにおいてデータが送信開始される。
【0131】
本実施形態では,送信MAC層メモリ部514がMAC層メモリ部として,物理層Tx部522が測距送信部として,物理層Rx部526が測距受信部として定義される。
【0132】
(無線通信システム)
また,上記測距装置によって距離が測定される被測距装置は,上記測距装置と共に,無線通信システムを構成する。かかる被測距装置は,基本的な構造が測距装置と実質的に同等となる。従って,被測距装置を構成する被測距受信部は,測距装置同様,物理層Rx部526で表すことができ,受信データ生成部は,送受信制御部518を含む制御部で構成され,被測距送信部は,物理層Tx部522で表すことが可能である。
【0133】
図23は,本実施形態における測距装置の測距手順を示したフローチャートである。ここでは,測距装置と被測距装置とにノードを分割して説明する。
【0134】
先ず,RTSパケットの送信に関して記載する。測距装置の測距制御部512は,測距したい被測距装置のMAC Addressをレジスタに書き込む。そして,Txヘッダ制御部516は,予め決められているタイミングで,上記MAC Addressを内部に取り込む(S600)。このとき,測距制御部512は,Txヘッダ制御部516がMAC Addressを不安定なタイミングで取り込まないように動作する。
【0135】
続いて送受信制御部518は,物理層制御部528に送信開始の合図を送り(S602),Txヘッダ制御部516は,RTSパケットの送信時に,S600において内部に取り込んだMAC AddressとRTSパケットに含まれる送信先のMAC Addressとを比較し,送信先の通信装置が測距対象と判断された場合,RTSパケットの測距要求フィールドを「High」にしてPSDUを生成する(S604)。このとき,タイミングスイッチ部552は,送受信制御部518から送信パケットの種別情報(ここでは,RTSパケットであること)を受信し,送信タイミング制御部536をONにし,時間差測定部532に時間差の測定要求を指令する。
【0136】
また,送受信制御部518は,データ伝送レートを決定し,そのデータ伝送レートに従った送信開始タイミングを送信開始設定部552から受け,送信MAC層メモリ部514の出力制御を行う。上記送受信制御部518によって測距が開始されると,Txヘッダ制御部516が物理層制御部528に対して測距モードへの変更を指示する(S606)。測距装置内では送受信制御部518から物理層制御部528に対して送受信の切り替えが指令され(S608),物理層Tx部522から測距モードOFFのままRTSパケットが送信される(S610)。時間差測定部532は,送信MAC層メモリ部514からデータが出力された時点を計測し,測距を開始する。
【0137】
かかるRTSパケットのフレームフォーマットは,既に図14に示してある。
【0138】
図24は,そのフォーマットの各フィールドの内容を示した説明図である。例えば,Sub MAC HeaderのFrame Typeフィールドには,RTS,CTS,DATA,ACKといったフレームの種類が記載され,Max Durationフィールドには,前述したNAVに関する情報が格納されている。かかる情報は,主に,送受信する通信装置として選択されなかった近隣の通信装置がパケットの送信を禁止される期間が記される。ここでは,RTSパケットに測距機能がビットアサインされていない。
【0139】
図23の説明に戻って,被測距装置の送受信制御部518は,上記測距装置から送信されたRTSパケットを受信するため物理層制御部528に対して受信開始信号を送信する(S620)。上記受信開始信号をトリガに,物理層制御部528は,受信準備を開始し,物理層Rxに受信の開始を指令する(S622)。
【0140】
物理層Rx部526が受信したパケットの認識を行うと,物理層制御部528に対し,パケット検出ができた旨を通知する(S624)。物理層制御部528は,かかるパケットの受信開始を送受信制御部518へ通知し,受信開始により送信処理を中止するよう指令する(S626)。
【0141】
次に,物理層Rx部526は,PSDUを受信し,Rxヘッダ制御部530に受信したデータを送信する(S628)。その後,Rxヘッダ制御部530は,受信したパケットがRTSかどうかを判断し,そのRTSパケットフレームの測距要求フィールドが「High」であれば,次の送信開始タイミングまでに,CTSパケットを,測距モードをONした状態で送信できるよう,物理層制御部528に測距モード開始要求信号を送信する(S630)。本実施形態においては,測距機能がデフォルトOFFであるため,測距機能をONするトリガとして,RTSパケットにアサインした測距要求フィールドを使用している。
【0142】
また,送受信制御部518は,上記RTSパケットの受信が完了した時点で,送受信の切替えを行う。具体的には,物理層制御部528にかかる送受信の切り替えを通知し(S632),物理層制御部528が物理層Rx部226の動作を停止し,物理層Tx部522の動作を開始させる(S634)。
【0143】
続いて,被測距装置の送受信制御部518は,物理層制御部528に対して,RTSパケットに応じたCTSパケットの送信開始を通知し(S636),物理層制御部528は,測距モード開始要求信号がRxヘッダ制御部530によってアサートされた場合,物理層Tx部522へ送信する送信開始タイミングまでに測距モードを開始させ,その後にCTSパケットを物理層Tx部522へ送信する(S638)。このようにして物理層が測距モードになりCTSパケットが送信される。
【0144】
物理層制御部528は,さらに物理層Tx部522に対して送信開始を通知する。物理層Tx部522は,Txヘッダ制御部516から伝達されたCTSパケットを受け(S640),測距装置に対してそのCTSパケットを送信する(S642)。かかる送信タイミングは,物理層Tx部522の送信データの送信タイミングを所定の時間間隔,例えば250nsを有する送信タイミングに再設定する。即ち,上記所定の時間間隔に送信タイミングが合わせられている。
【0145】
そして,被測距装置からCTSパケットが返信された測距装置の送受信制御部518は,物理層制御部528に受信開始を通知し(S650),物理層制御部528は,かかる受信開始タイミングで測距モードをONにし,物理層Rx部526に通知する。
【0146】
このようにして物理層が測距モードにスイッチされ,CTSパケットの受信準備が行われる(S654)。物理層制御部528は,物理層Rx部526からCTSパケットの検出情報を受け取ると,送受信制御部518に対してCTSパケットの受信開始を通知する(S656)。
【0147】
Rxヘッダ制御部530は,物理層Rx部526からMAC Headerを受信し(S658),そのMAC HeaderにあるMAC Addressと測距要求ビットを比較し,アドレスが一致する場合,測距要求先からのCTSパケットを受信した旨,物理層制御部528に通知する(S660)。このとき,時間差測定部532は,CTSパケットを受信した時刻を検知し,その測定情報を測距制御部550に通知する。このように検知された物理層Tx部522のデータ送信時から上記受信時までの時間差より端末間の距離を導き出すことができる。
【0148】
物理層制御部528は,測距機能が有効でかつ測距要求している被測距装置からCTSパケットを受信した場合,Interrupt Statusをアサートする。
【0149】
物理層制御部528は,測距機能が有効な状態でかつ受信したCTSパケットが測距要求先からのCTSパケットであった場合,測距制御部512に対して測距測定の終了を通知する(S662)。これは,測距測定終了信号をアサートすることによって行われる。
【0150】
測距制御部512は,測距測定終了信号を確認し,測距の情報を受信したことを認識後,測距測定終了信号を下げる。このときTxヘッダ制御部516や送信MAC層メモリ部514は,時間差測定部532のレジスタが書き換えられないように,測距測定終了信号がアサートされている間データの送信を停止する。
【0151】
測距制御部512は,時間差測定部532から伝搬遅延量に関する測定値を読み出した後,次に測距したい新たな被測距装置のMAC Addressを測距要求レジスタに書き込み,測距測定終了信号をDisableにする。
【0152】
以上,本実施形態においては,第2の実施形態同様測距用のパケットの代わりにRTS/CTSパケットを利用して測距を行う構成を説明した。このようにRTS/CTSといったメディアアクセス制御用コマンドを用いて測距を行う構成により,ホーム・ネットワークの問題となる隣接されたノード(通信装置)とのパケット衝突を,測距機能を通信のオーバーヘッドなく実現することが可能となる。また,かかる測距モードのときのみ送信タイミング制御部536をONする構成により,ビーコン信号の送信時のデータ遅延を回避することができる。
【0153】
図25は,上述した測距方法の具体的な信号の変化を示したタイミングチャートである。上記図25における(I),(O),(R)は,ハードウェアの視点によるInput,Output,Register(内部レジスタ)を表している。
【0154】
かかる図25における測距装置のReset信号は,該測距装置の電源をONした時,その装置内の初期化において内部回路のResetに利用される。クロック信号は,該測距装置の基本クロックを構成する。測距要求信号は,Txヘッダ制御部516により認識される信号であり,測距制御部512がレジスタセットしたMAC Addressと,送信するパケットにおけるMAC Addressが一致したこと通知する。
【0155】
測距演算終了通知信号は,Rxヘッダ制御部530で受信したCTSパケットと測距要求のMAC Addressとが一致した場合に,測距演算が終了したことを測距制御部512への通知を行う。送信開始信号は,送受信制御部518からTxヘッダ制御部516へ送信が開始されるトリガとなる。測距開始信号は,測距を開始するためのトリガ信号である。
【0156】
また,物理層制御部の測距開始の通知信号は,物理層制御部528がTxヘッダ制御部516から測距開始トリガを受信し,測距機能がONしていることを内部で把握するための信号である。受信回路の測距開始信号は,測距機能を制御する。受信開始信号は,送信制御部から受信開始タイミングを受信する信号である。
【0157】
物理層への測距要求信号は,上記受信回路の測距開始信号が「High」の時に受信開始信号が発生した場合の,受信回路における測距モードを開始するトリガ信号である。測距要求の宛先からのCTSパケット受信信号は,測距測定状態(測距開始の通知信号が「High」)の時,受信したパケットがCTSパケットであり,受信したMAC Addressが測距要求の宛先であることを認識した信号である。測距演算終了信号は,測距演算を終了する信号であり,該信号をトリガに,上記測距演算終了通知信号が立ち上がり,測距制御部512へ通知される。
【0158】
次に,被測距装置における内部信号の動作を説明する。Reset信号は,該被測距装置の電源をONした時,その装置内の初期化において内部回路のResetに利用される。クロック信号は,該被測距装置の基本クロックを構成する。測距要求のあるRTSパケットの受信信号は,RTSパケットを受信し,ヘッダ部分を分離して測距要求ビットの検索を行なった結果,測距要求があったことを通知する。測距機能ON信号は,本被測距装置の測距モード動作を変更させる信号である。測距ONのCTSパケット送信開始信号は,測距モードでCTSパケットを送信させるトリガ信号であり,本信号によって,物理層は,前もって決められたタイミングでのみ送信を行う。
【0159】
以上のようにしてRTS/CTSパケットによる測距が実施される。このようにRTS/CTSといったメディアアクセス制御用コマンドを用いて測距を行う構成により,ホーム・ネットワークの問題となる隣接されたノード(通信装置)とのパケット衝突を,測距機能を通信のオーバーヘッドなく実現することが可能となる。また,ビーコン信号の送信時には測距を行わないことにより,自律分散ネットワークに対応させることが可能となる。
【0160】
また,本実施形態では,測距の一方法として閉ループ型を挙げて説明したが,かかる測定方法に限られず,伝送遅延によって距離を測定するいかなる方法も本実施形態に適用することができる。また,上記ではRTS/CTSパケットを利用する構成を述べているが,他のメディアアクセス制御用コマンドを利用することも可能である。
【0161】
また,本実施形態においては,ビーコン信号の送信遅延を回避する方法を述べているが,回避対象は,ビーコン信号に限られず,通信装置間で送受信タイミングを守らなければならない信号であれば,その信号の遅延を回避するように設定することも可能である。
【0162】
また,測距の要求を行う際に,通信局の識別IDとしてMAC Addressを使用したが,かかる情報に限られず,通信局を判別できるIDであればどのような情報でも良い。ここで無線通信ネットワークを考えた場合,ネットワーク固有の通し番号が使われることも多々ある。例えば,無線通信ネットワーク内に16台の通信装置を含むことが可能な場合,Node0−15として各通信装置に割り当てるとしても良い。
【0163】
また,上述の実施形態においては,FrameおよびRTSパケットのフォーマットを図12や図14のように定義しているが,かかるフォーマットには限られない。
【0164】
また,上述の実施形態においては,測距制御部によって測距要求が発生し,物理層制御部が測距測定終了信号をEnableにしているが,かかる場合に限られず,測距測定終了が別なモジュールから出力されても,別な方法によって実現されても良い。例えば,測距制御部が常に状態をPorlingする方法などがある。また,測距制御部はソフトウェアでもハードウェアでも実現できる。
【0165】
さらに,本実施形態においては,一つの測距装置に対して一つの被測距装置を想定しているが,1対複数の測距も可能である。かかる場合は,それぞれの被測距装置をハードウェアが認識し,その被測距装置毎に準備された測距要求ビットを(RTSパケットフレーム)アサートすることで実現できる。
【0166】
また,UWBの物理層を想定し,4GHzのクロック(250ps)の精度で測距を行うことを前提に説明をおこなったが,それに限らないものとする。UWBでなくても,比較的高速なクロックを使えば,本発明は対応可能である。
【0167】
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0168】
なお,本明細書の測距方法における各工程は,必ずしもタイミングチャート(フローチャート)として記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく,並列的あるいは個別に実行される処理(例えば,並列処理あるいはオブジェクトによる処理)も含むとしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0169】
複数の通信端末間で無線通信が可能な無線通信システム,測距装置に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1】無線通信システムにおける測距装置と被測距装置との位置関係を示した概略図である。
【図2】従来の測距装置の概略的な構成を示したブロック図である。
【図3】送信データの時間推移を示したタイミングチャートである。
【図4】送信データの時間推移を示したタイミングチャートである。
【図5】第1の実施形態における測距装置の概略的な構成を示したブロック図である。
【図6】送信データの時間推移を示したタイミングチャートである。
【図7】インフラモードで定義されるBSSを説明するための説明図である。
【図8】BSSにおけるビーコン信号のタイミングを示したタイミングチャートである。
【図9】アドホックモードで定義されるIBSSを説明するための説明図である。
【図10】IBSSにおけるビーコン信号のタイミングを示したタイミングチャートである。
【図11】RTS/CTS制御信号による制御を説明するためのタイミングチャートである。
【図12】Frameフォーマットを示した説明図である。
【図13】第2の実施形態における測距装置の測距手順を示したフローチャートである。
【図14】RTSパケットのフレームフォーマットを示した概略図である。
【図15】フレームフォーマットの各フィールドの内容を示した説明図である。
【図16】従来の測距装置の概略的な構成を示したブロック図である。
【図17】アドホックモードで定義されるIBSSを説明するための説明図である。
【図18】IBSSにおけるビーコン信号のタイミングを示したタイミングチャートである。
【図19】2つのネットワークが混在した場合のIBSSを説明するための説明図である。
【図20】IBSSにおけるビーコン信号のタイミングを示したタイミングチャートである。
【図21】第3の実施形態における測距装置の概略的な構成を示したブロック図である。
【図22】送信データの時間推移を示したタイミングチャートである。
【図23】第3の実施形態における測距装置の測距手順を示したフローチャートである。
【図24】フレームフォーマットの各フィールドの内容を示した説明図である。
【図25】測距方法の具体的な信号の変化を示したタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0171】
214,514 送信MAC層メモリ部
216,516 Txヘッダ制御部
220,520 物理層メモリ部
222,522 物理層Tx部
226,526 物理層Rx部
230,530 Rxヘッダ制御部
232,532 時間差測定部
252 送信開始設定部
536 送信タイミング制御部
552 タイミングスイッチ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測距装置と,無線通信による直接のデータ送受信で該被測距装置との距離を測定する測距装置とを含む無線通信システムにおいて:
前記測距装置は,
送信データを一時的に保持するMAC層メモリ部と;
前記MAC層メモリ部から送信データ受けて前記被測距装置に送信する測距送信部と;
前記被測距装置からの受信データを受信する測距受信部と;
前記MACメモリ部の送信データ出力時から前記測距受信部の受信データの入力時までの時間差を測定する時間差測定部と;
前記送信データの送信レートに応じて前記MACメモリ部の送信データの出力開始時間を設定する送信開始設定部と;
を備え,
前記被測距装置は,
前記測距装置からの送信データを受信する被測距受信部と;
前記送信データに応じて前記測距装置が受信する受信データを生成する受信データ生成部と;
前記受信データを送信する被測距送信部と;
を備えることを特徴とする,無線通信システム。
【請求項2】
無線通信による直接のデータ送受信で被測距装置との距離を測定する測距装置であって:
送信データを一時的に保持するMAC層メモリ部と;
前記MAC層メモリ部から送信データ受けて前記被測距装置に送信する測距送信部と;
前記被測距装置からの受信データを受信する測距受信部と;
前記MACメモリ部の送信データ出力時から前記測距受信部の受信データの入力時までの時間差を測定する時間差測定部と;
前記送信データの送信レートに応じて前記MACメモリ部の送信データの出力開始時間を設定する送信開始設定部と;
を備えることを特徴とする,測距装置。
【請求項3】
前記送信データは,RTS制御信号であり,前記受信データは,CTS制御信号であることを特徴とする,請求項2に記載の測距装置。
【請求項4】
前記送信データは,データの通信帯域を予約するパケットであることを特徴とする,請求項2に記載の測距装置。
【請求項5】
前記測距送信部の送信データの送信タイミングを,所定の時間間隔を有する送信タイミングに再設定する送信タイミング制御部と;
前記無線通信における送受信タイミングを管理するネットワーク管理情報の送信時に前記送信タイミング制御部の機能を停止するタイミングスイッチ部と;
をさらに備えることを特徴とする,請求項2に記載の測距装置。
【請求項6】
前記タイミングスイッチ部は,送信データがRTS制御信号またはCTS制御信号であるとき以外は前記送信タイミング制御部の機能を停止することを特徴とする,請求項5に記載の測距装置。
【請求項7】
被測距装置と,無線通信による直接のデータ送受信で該被測距装置との距離を測定する測距装置とを含む無線通信システムにおいて:
前記測距装置は,
送信データを前記被測距装置に送信する測距送信部と;
前記被測距装置からの受信データを受信する測距受信部と;
前記測距送信部の送信データ出力時から前記測距受信部の受信データの入力時までの時間差を測定する時間差測定部と;
前記測距送信部の送信データの送信タイミングを,所定の時間間隔を有する送信タイミングに再設定する送信タイミング制御部と;
前記無線通信における送受信タイミングを管理するネットワーク管理情報の送信時に前記送信タイミング制御部の機能を停止するタイミングスイッチ部と;
を備え,
前記被測距装置は,
前記測距装置からの送信データを受信する被測距受信部と;
前記送信データに応じて前記測距装置が受信する受信データを生成する受信データ生成部と;
前記受信データを送信する被測距送信部と;
を備えることを特徴とする,無線通信システム。
【請求項8】
無線通信による直接のデータ送受信で被測距装置との距離を測定する測距装置であって:
送信データを前記被測距装置に送信する測距送信部と;
前記被測距装置からの受信データを受信する測距受信部と;
前記測距送信部の送信データ出力時から前記測距受信部の受信データの入力時までの時間差を測定する時間差測定部と;
前記測距送信部の送信データの送信タイミングを所定の時間間隔を有する送信タイミングに再設定する送信タイミング制御部と;
前記無線通信における送受信タイミングを管理するネットワーク管理情報の送信時に前記送信タイミング制御部の機能を停止するタイミングスイッチ部と;
を備えることを特徴とする,測距装置。
【請求項9】
前記ネットワーク管理情報は,ビーコン信号によって送信されることを特徴とする,請求項8に記載の測距装置。
【請求項10】
前記送信データは,RTS制御信号であり,前記受信データは,CTS制御信号であることを特徴とする,請求項8に記載の測距装置。
【請求項11】
前記タイミングスイッチ部は,送信データがRTS制御信号またはCTS制御信号であるとき以外は前記送信タイミング制御部の機能を停止することを特徴とする,請求項10に記載の測距装置。
【請求項12】
前記送信データは,データの通信帯域を予約するパケットであることを特徴とする,請求項8に記載の測距装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2006−174381(P2006−174381A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−367946(P2004−367946)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】