説明

無線通信システム

【課題】 通知先決定の際に複数の無線基地局からの応答を移動端末が確実に受信して衝突回避できるように回線を確保すると共に、移動端末の応答待ち時間を最短にし、消費電力を抑えることを可能とする無線通信システムを実現する。
【解決手段】 少なくとも1台の移動端末と、この移動端末からブロードキャストされる通信要求を受信して前記移動端末への応答をブロードキャストして返す少なくとも1台の無線基地局とよりなり、前記移動端末は応答を返した前記無線基地局の1つを選択して自己の状態通知を実行する無線通信システムにおいて、
前記移動端末の通信要求及び状態通知で使用する通信要求チャネルと、前記無線基地局の応答で使用する応答チャネルとを、夫々専用チャネルに分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動する監視対象者の状態を監視することで安全を図る安全支援システム等に適用される無線通信システムであり、監視対象者が携帯する移動端末が状態通知先を決定する際の、通信の衝突検出と回避手法に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、本発明が適用される無線通信システムの全体環境の一例を示す連関図である。監視対象者が携帯する移動端末11,12は、無線通信により無線基地局21,22,23またはリピータ30と通信し、特定の無線基地局またはリピータに自己の状態通知を実行する。
【0003】
無線基地局21,22,23は、ネットワーク40に接続された無線アクセスポイントを形成している。これら無線基地局に通知された状態通知データは、このネットワーク40に接続された状態監視コントローラを経由してシステム管理サーバ50に収集され、データベース化される。
【0004】
ネットワーク40に接続された状態監視コントローラは、無線基地局の状態を監視し、移動端末の状態通知をまとめることで管理サーバの負荷を軽減する。ネットワーク40に接続された状態監視モニタ71,72は、システムの状態を表示する。
【0005】
無線信号を検出して衝突を回避するためのCSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)方式では、キャリアセンス期間中に通信路が障害物によって遮断された場合や、マルチパスフェージングによる影響等で、実際には通信が継続されているにもかかわらず受信側がキャリア検出を失う事態が生じるおそれがある。
【0006】
また、データ通信は監視対象の端末が移動する中で行われるため、必ずしも全ての端末が互いの通信範囲内にいるわけではない。従って、一方の端末が電波を送信しているにもかかわらず、この無線信号をもう一方の端末がキャリア検出できない状況が生じる。その結果、複数の端末が1つの無線基地局宛に同時に通信を行う状況、いわゆる隠れ端末問題が発生する。
【0007】
この隠れ端末問題の回避策としては、IEEE802.11標準のRTS/CTS(Request To Send/Clear To Send)方式が一般的である。図7は、RTS/CTS通信方式を説明するタイムチャートである。
【0008】
通信を開始しようとする無線局は、リクエスト信号RTSをブロードキャストし、回線の使用予約を行い、それを受信した基地局は状況に応じて応答CTSを返す。別の移動端末がRTSを受信できる距離にいなくても、基地局からのCTS信号を受信することで回線が予約済みであることを知ることができる。
【0009】
RTS/CTS方式においては、リアルタイム性の高い重要な情報を載せた無線パケットであっても、全ての無線パケットは公平に扱われるため、通信が混雑している場合には重要情報の送信遅延が発生する可能性がある。
【0010】
この点を改良するため、特許文献1では各無線パケットに優先順位を付け、その優先順位に応じて衝突回避時間を設定することにより、無線パケットの衝突を回避すると共に、リアルタイム性の高いデータを優先して送信する優先制御を提案している。
【0011】
【特許文献1】特開2001−237839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の無線通信システムの衝突回避手法では、次のような問題がある。
(1)安全支援システムで等では、移動端末が無線基地局(以下、リピータを含む)からの応答を収集し最適な通知先を選択する。これらの機器からの応答が非同期に通信を開始する他の移動端末の通信と同じ条件で扱われてしまうと、無線の状況によって応答が著しく遅れてしまう可能性がある。このため、移動端末は状態通知のための待ち時間を長く設定する必要があり、移動端末自身の電力を無駄に消耗してしまう。
【0013】
(2)また、無線パケットに優先順位をつけ優先制御をする通信においても、非同期に通信を開始する他の移動端末の通信要求やRTS信号自体が無線基地局からの応答を妨害してしまう可能性がある。
【0014】
(3)無線基地局が応答待ちをしている状態では、移動端末が回線を使用中であるかどうかを検出する手段がなく、再送の繰り返し等によって、スループットの低下を招き、また移動端末自身の電力を無駄に消費してしまう。
【0015】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、通知先決定の際に複数の無線基地局からの応答を移動端末が確実に受信して衝突回避できるように回線を確保すると共に、移動端末の応答待ち時間を最短にし、消費電力を抑えることを可能とする無線通信システムの実現を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような課題を達成するために、本発明は次の通りの構成になっている。
(1)少なくとも1台の移動端末と、この移動端末からブロードキャストされる通信要求を受信して前記移動端末への応答をブロードキャストして返す少なくとも1台の無線基地局とよりなり、前記移動端末は応答を返した前記無線基地局の1つを選択して自己の状態通知を実行する無線通信システムにおいて、
前記移動端末の通信要求及び状態通知で使用する通信要求チャネルと、前記無線基地局の応答で使用する応答チャネルとを、夫々専用チャネルに分離したことを特徴とする無線通信システム。
【0017】
(2)前記移動端末及び前記無線基地局は、前記通信要求チャネルでの通信の後に前記応答チャネルの通信に切り替えて通信することを特徴とする(1)に記載の無線通信システム。
【0018】
(3)前記応答チャネルは、前記無線基地局の全数からの応答に対応するスロットが時系列的に設定され、前記無線基地局は前記スロットの最終までのスロット時間経過後にEOS(End Of Slot)をブロードキャストすることを特徴とする(1)または(2)に記載の無線通信システム。
【0019】
(4)前記スロットは、前記無線基地局の優先順位に従って時系列的に設定されることを特徴とする(3)に記載の無線通信システム。
【0020】
(5)通信要求をブロードキャストした前記移動端末は、前記応答チャネルが他の移動端末と前記無線基地局との通信で占有されている場合には、その通信要求が拒否されることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載の無線通信システム。
【0021】
(6)通信要求を拒否された前記移動端末は、前記スロット時間経過後に所定のバックオフ時間を経て再度の通信要求のブロードキャストが許可されることを特徴とする(1)乃至(5)のいずれかに記載の無線通信システム。
【0022】
(7)前記移動端末は、自己の通信要求に対する前記基地局からの応答の中で最適な無線基地局を選択し、所定のスロット時間を設定した通信要求チャネルを利用して、通信要求と自己の状態通知を周期的に実行することを特徴とする(1)乃至(6)のいずれかに記載の無線通信システム。
【0023】
(8)前記無線基地局は、通信要求チャネルで前記移動端末から状態通知を受信したとき、前記所定のスロット時間内に当該通信要求チャネルでその応答を前記移動端末に返すことを特徴とする(7)に記載の無線通信システム。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、次のような効果を期待することができる。
(1)移動端末による通信要求や状態通知の非同期な通信のチャネルと、通知先決定に重要な無線基地局からの応答通信のチャネルとを、夫々専用チャネルで分けることにより、通信品質を確保しスループットを向上させることができる。
【0025】
(2)非同期に通信を開始した移動端末は、応答チャネルでの受信により、他の移動端末宛の優先順位付けのACKやEOS応答によって通信中であることを確実に検出できる。これにより、隠れ端末問題を解消すると共に効率よく再送のためのバックオフに入ることが可能となる。
【0026】
(3)回線占有時間が長い通知先決定の処理を専用の応答チャネルとして分離することにより、リピータ等をシステムに追加した場合の通信負荷の増大に対処することか容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を図面により詳細に説明する。図1は、本発明を適用した無線通信システムの基本構成を示す機能ブロック図である。図6で説明した無線通信システムと同一要素には同一符号を付して説明を省略する。
【0028】
本発明の特徴部は、少なくとも1台の移動端末11,12,…1nと、この移動端末からブロードキャストされる通信要求を受信して移動端末への応答をブロードキャストして返す少なくとも1台の無線基地局11,12,…1nとよりなり、移動端末は応答を返した無線基地局の1つを選択して自己の状態通知を実行する無線通信システムにおいて、移動端末の通信要求及び状態通知及び状態通知ACKで使用する通信要求チャネル(CH−X)101と、無線基地局の応答で使用する応答チャネル(CH−Y)102とを、夫々専用チャネルで分離した点にある。
【0029】
図2は、移動端末の通信要求に対する無線基地局の応答の手順を説明するタイムチャートである。以下、このタイムチャートを参照して通信手順を説明する。図2(A),(D)の移動端末STA1,STA2及び(B),(C)の無線基地局AP1,AP2は、通信要求チャネルCH−Xでの通信の後に、応答チャネルCH−Yの通信に切り替えて通信する。
【0030】
応答チャネルCH−Yでは、無線基地局の全数からの応答に対応するスロットSL1,SL2,SL3,…SLnが時系列的に設定されている。無線基地局AP1,AP2は、スロットの最終までのスロット時間Aの経過後にEOS(End Of Slot)をブロードキャストした後に、通信要求チャネルCH−Xに戻る。
【0031】
これらスロットSL1,SL2,SL3,…SLnは、無線基地局の優先順位に従って時系列的に設定されている。無線基地局AP1,AP2は、通信要求チャネルCH−Xで移動端末STA1の通信要求を受信すると、応答チャネルCH−Yで優先順位に従ったスロットで移動端末STA1への応答ACKをブロードキャストする。
【0032】
移動端末STA1は、通信要求チャネルCH−Xで通信要求をブロードキャストした後に応答チャネルCH−Yに切り替えて無線基地局からの応答ACKを待つ。この応答ACKが移動端末STA1で受信されると、移動端末STA1はACKを返した無線基地局との通信可能性を認識する。
【0033】
通信要求をブロードキャストした移動端末STA2は、そのタイミングで応答チャネルCH−Yが他の移動端末STA1と無線基地局AP1及びAP2との通信で占有されているので、その通信要求が受信されず拒否される。
【0034】
通信要求を拒否された移動端末は、チャネルCH−Yにて、移動端末STA1宛のACKを受信することで通信ビジーであると判断し、受信したACKの優先順位からスロット時間Aの最後を算出し、スロット時間A経過後にバックオフに入る。
【0035】
移動端末STA2は、バックオフ時間経過後、チャネルCH−Xで再度通信要求をブロードキャストする。このタイミングでは、無線基地局AP1及びAP2のチャネルCH−Xは使用されていないので、この通信要求は受理される。
【0036】
通信要求をブロードキャストした移動端末は、自己の通信要求に対する無線基地局からの応答の中で最適な無線基地局を選択する。通信要求が成功すると、決められた周期で状態通知と通信要求を繰り返す。状態通知は通信要求応答で決定した無線基地局に通信要求チャンネルCH−Xを利用して通知し、同チャネルにてACKを待つ。
【0037】
図3は、移動端末の状態通信に対する無線基地局の応答の手順を説明するタイムチャートである。(A),(E)は移動端末STA1,STA3を示し、(B),(C)は無線基地AP1,AP2を示し、(D)はリピータRPT1を示す。
【0038】
移動端末STA1よりリピータRPT1を経由して無線基地AP1、AP2に状態を通知する例を説明する。リピータRPT1は、チャネルCH−Xで移動端末STA1からの状態通知を受けると、同じチャネルCH−Xで通信要求をブロードキャストし、その後チャネルCH−Yに変更し、通信要求に対する応答ACKを待つ。
【0039】
チャネルCH−Xで待機中に通信要求を受信した無線基地局AP1,AP2は、チャネルCH−Yで予め設定された応答優先順位に従い応答ACKブロードキャストして返す。また、スロット時間Aの経過後にEOS信号をブロードキャストで発行し、チャネルCH−Xに戻る。リピータRPT1は通信要求が成功すると、状態通知をチャネルCH−Xで発行し、同チャネルにてACKを待つ。
【0040】
次に、移動端末STA3の状態通知につき説明する。移動端末STA3は、状態通知をチャネルCH−Xで発行し、同チャネルにてACKを待つ。既に移動端末STA1と通信を開始している無線基地局AP1,AP2は、チャネルCH−Yで通信を行っているため、移動端末STA3の状態通知をCH−Xで受信することはできない。
【0041】
移動端末STA3は受信タイムアウト時間(スロット時間B)経過後、バックオフに入る。バックオフ時間経過後、チャネルCH−Xで再度状態通知を発行する。
【0042】
次に、移動端末及び無線基地局の通信シーケンスにつき説明する。図4は、移動端末STAの通信シーケンスを示すフローチャートである。ステップS1でCCA(CH−X及びCH−Yの空きの確認)に成功した後、通信要求をCH−Xでブロードキャストする。CCA不成功の場合にはバックオフ時間Cを経てスタートに戻る。
【0043】
ステップS2では、CH−Yでの基地局やリピータからの応答ACK並びにEOSの受信を確認し、ステップS3で状態通知先の無線基地局応答ACKを確認する。ステップS4で通知先を決定(AP1)し、チャネルCH−Xで無線基地局AP1に状態通知する。
【0044】
ステップS2及びステップS3の確認が不成功の場合には、バックオフ時間Dを経てスタートに戻る。
【0045】
図5は、無線基地局の通信シーケンスを示すフローチャートである。無線基地局APは、チャネルCH−Xで移動端末STAからのブロードキャストで何らかの通知を受信した場合には、ステップS1でこの通知が状態通知であるかを判断し、状態通知である場合にはこのチャネルCH−Xで状態通知受信の応答を移動端末STAに返してスタートに戻る。
【0046】
ステップS1の判断で状態通知でないと判断した場合には、ステップS2でこの通知が通信要求であるかを判断し、通信要求である場合には、優先順位が設定されたスロットでの応答を行うためのタイマーをセットし、これがカウントアップするとステップS3で応答タイミングを決定し、チャネルCH−Yで通信要求受信の応答ACKを移動端末に返す。
【0047】
更にタイマーをセットし、スロット時間Aの終了でカウントアップさせ、ステップS4でEOS発行のタイミングを決定し、チャネルCH−YでEOS信号を移動端末に返してスタートに戻る。ステップS2の判断で、移動端末STAからの通知が通信要求でない場合もスタートに戻る。
【0048】
以上説明した実施形態では、通信要求チャネル(CH−X)と応答チャネル(CH−Y)は、時系列的に切り替えて使用する形態を説明したが、無線基地局やリピータのアンテナを2本にし、同時に2つのチャネルと通信可能にすることで、無線通信システムのスループットの更なる向上を見込むことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明を適用した無線通信システムの基本構成を示す機能ブロック図である。
【図2】移動端末の通信要求に対する無線基地局の応答の手順を説明するタイムチャートである。
【図3】移動端末の状態通信に対する無線基地局の応答の手順を説明するタイムチャートである。
【図4】移動端末の通信シーケンスを示すフローチャートである。
【図5】無線基地局の通信シーケンスを示すフローチャートである。
【図6】移動端末と無線基地局との配置関係を示す連関図である。
【図7】IEEE802.11標準のRTS/CTS通信方式を説明するタイムチャートである。
【符号の説明】
【0050】
11,12,…1n 移動端末
21,22,…2n 無線基地局
101 通信要求チャネル
102 応答チャネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1台の移動端末と、この移動端末からブロードキャストされる通信要求を受信して前記移動端末への応答をブロードキャストして返す少なくとも1台の無線基地局とよりなり、前記移動端末は応答を返した前記無線基地局の1つを選択して自己の状態通知を実行する無線通信システムにおいて、
前記移動端末の通信要求及び状態通知で使用する通信要求チャネルと、前記無線基地局の応答で使用する応答チャネルとを、夫々専用チャネルに分離したことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記移動端末及び前記無線基地局は、前記通信要求チャネルでの通信の後に前記応答チャネルの通信に切り替えて通信することを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記応答チャネルは、前記無線基地局の全数からの応答に対応するスロットが時系列的に設定され、前記無線基地局は前記スロットの最終までのスロット時間経過後にEOS(End Of Slot)をブロードキャストすることを特徴とする請求項1または2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記スロットは、前記無線基地局の優先順位に従って時系列的に設定されることを特徴とする請求項3に記載の無線通信システム。
【請求項5】
通信要求をブロードキャストした前記移動端末は、前記応答チャネルが他の移動端末と前記無線基地局との通信で占有されている場合には、その通信要求が拒否されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の無線通信システム。
【請求項6】
通信要求を拒否された前記移動端末は、前記スロット時間経過後に所定のバックオフ時間を経て再度の通信要求のブロードキャストが許可されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記移動端末は、自己の通信要求に対する前記基地局からの応答の中で最適な無線基地局を選択し、所定のスロット時間を設定した通信要求チャネルを利用して、通信要求と自己の状態通知を周期的に実行することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の無線通信システム。
【請求項8】
前記無線基地局は、通信要求チャネルで前記移動端末から状態通知を受信したとき、前記所定のスロット時間内に当該通信要求チャネルでその応答を前記移動端末に返すことを特徴とする請求項7に記載の無線通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−17369(P2009−17369A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−178514(P2007−178514)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】