説明

無線通信システム

【課題】船外機と船体のキャビン間との無線によるデータ通信において、無線通信の高信頼性を確立する技術を提供する。
【解決手段】第1無線装置11は、船外機10のエンジン始動を契機に第1通信部111と第2通信部112とを制御して初期設定処理を起動し、第2通信部112による初期設定処理が終了したことを契機に、第2無線装置21との間で第2通信プロトコルに基づくデータ通信を開始し、第1通信プロトコルに基づく初期設定処理の終了を契機に第2通信プロトコルから第1通信プロトコルに切換えて第2無線装置21との間でデータ通信を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船体の後尾に固定された船外機に設置される第1無線装置と、前記船体のキャビンに設置される第2無線装置との間でデータ通信を行う無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶に利用される船外機は、過酷な条件下で長時間稼働し続けることが要求されるため、運転状況を含むメンテナンス情報を船体のキャビン、又は外部の保守管理施設に送信することが要求される。このため、例えば、図6に示すように、船体の後尾に固定される船外機101と、船体のキャビン102のそれぞれに無線装置103、104が設置され、この無線装置103、104間でデータの送受信を行うことにより、センサ(不図示)等により検知された船外機101のエンジン情報の送受信を行う無線通信システム100が知られている。
【0003】
尚、船体のキャビン102には、操作リモコンや表示器等が実装されたキャビンユニット105が配備され、無線装置104とはCAN(Control Area Network)バス107により接続されている。
【0004】
上述した無線通信システム100の無線通信方式として、従来、Wi−Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、Zigbee(登録商標)等が知られている。ここで、Wi−Fi(ワイファイ)とは、Wi−Fiアライアンス(米国に本拠を置く業界団体)によって無線LAN(Local Area Network)機器間の相互接続性を認証されたことを示す名称である。又、Bluetooth(ブルートゥース)、Zigbee(ジグビー)は、共に近距離無線通信規格の一つである。
【0005】
しかしながら、図6に示す無線通信システム100によれば、1系統の無線装置103、104間でデータ通信を行うため、電子レンジや他方の無線装置が発生する妨害波の影響により、通信遮断が発生することがある。又、振動、温度、湿気等により無線装置103,104の故障から通信不能状態に陥ることもある。その場合、適切な運転やメンテナンスに支障を来すことになる。
【0006】
一方、車両等において使用される移動体無線通信において、車両の速度、又は加速度、あるいはその両方を計測し、これらの変化を認識した時点で適切な無線通信方式を選択し、基地局との間で通信ネゴシエーションを行うことによって最適な通信方式に切換える技術も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら特許文献1に開示された技術によれば、移動体と基地局装置等の外部装置との間の通信であって、上述した船舶に適用しようとすれば、電波事情によっては通信が遮断され、必要な情報が得られなくなる事態も想定される。従って、船舶の場合、船外機と、船体のキャビン間で信頼性の高い無線通信を行なうことが要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−5560号公報(段落「0008」〜「0018」、図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、船外機と船体のキャビン間の無線によるデータ通信において、無線通信の高信頼性を確立する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明では、船体の後尾に固定された船外機に設置される第1無線装置と、前記船体のキャビンに設置される第2無線装置との間でデータ通信を行う無線通信システムであって、前記第1及び第2無線装置は、第1通信プロトコルに基づいてデータ通信を行う第1通信部と、前記第1通信プロトコルに比べて初期設定のための処理時間が短い第2通信プロトコルに基づいてデータ通信を行う第2通信部とをそれぞれ有し、前記第1無線装置は、前記船外機のエンジン始動を契機に、前記第1通信部と前記第2通信部とが同時に初期設定処理を開始し、前記第2通信部による初期設定処理が終了したことを契機に前記第2無線装置との間で前記第2通信プロトコルに基づくデータ通信を開始し、前記第1通信プロトコルに基づく初期設定処理の終了を契機に、前記第2通信プロトコルから前記第1通信プロトコルに切換え、前記第2無線装置との間でデータ通信を行なうことを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明では、請求項1記載の無線通信システムにおいて、前記第1無線装置は、前記第2通信プロトコルから前記第1通信プロトコルに切換えたときに、前記第2通信プロトコルに基づくデータ通信を通信復帰待ち状態に設定することを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明では、請求項2記載の無線通信システムにおいて、前記船外機の動作状態を監視するセンサを更に有し、前記第1無線装置の制御部は、前記センサが前記船外機の異常を検知すると、前記第2通信部を制御して前記通信復帰待ち状態にある前記第2通信プロトコルに基づくデータ通信を再開させ、前記第1通信部による前記第1通信プロトコルに基づくデータ通信と同時に実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、第1無線装置は、船外機のエンジン始動を契機に第1通信部と第2通信部とが同時に初期設定処理を開始し、第2通信部による初期設定処理が終了したことを契機に、第2無線装置との間で第2通信プロトコルに基づくデータ通信を開始し、第1通信プロトコルに基づく初期設定処理の終了を契機に第2通信プロトコルから第1通信プロトコルに切換えて第2無線装置との間でデータ通信を行なう。このため、初期設定処理に要する時間が短い第2通信プロトコルに基づき通信を行う第2通信部から先にデータ通信を開始することで、第1通信プロトコルに基づき通信を行う第1通信部がデータ通信を行う場合に比較して高速通信を実現できる。又、第1通信プロトコルに基づき通信を行う第1通信部を主通信に用い、第1通信プロトコルより初期設定処理に要する時間が短い第2通信プロトコルに基づき通信を行う第2通信部をバックアップ用に用いることで、一方の系統の無線装置が妨害波の電波干渉による通信遮断及び故障による通信不能に陥った場合でも、他方の系統の無線装置がバックアップをすることができ、信頼性の高い通信を維持することができる。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、第1無線装置は、第2通信プロトコルから第1通信プロトコルに切換えたときに、第2通信プロトコルに基づく第2通信部によるデータ通信を通信復帰待ち状態に設定する。このため、第1通信部による第1通信プロトコルに基づく通信が遮断した場合に第1通信部を通信復帰待ち状態に設定し、その通信復帰処理が完了するまでの間、第2通信部の通信復帰待ち状態を解除して、第2通信部による第2通信プロトコルに基づく通信の実行を行わせることができる。従って、一方の系統の無線装置が妨害波の電波干渉による通信遮断、及び故障による通信不能に陥った場合でも他方の系統の無線装置がバックアップをすることができるため、通信の継続が可能である。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、第1無線装置は、センサが船外機の異常を検知すると、第2通信部を制御して通信復帰待ち状態にある第2通信プロトコルに基づくデータ通信を再開させ、第1通信部による第1通信プロトコルに基づくデータ通信と同時に実行させる。このため、航行中、船外機に異常が発生した場合に第1通信部と第2通信部による2系統による同時通信が可能となり、従って、船外機の異常時にも安定した通信を実現でき、高信頼性の無線通信システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施例の無線通信システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本実施例の無線通信システムが設置される船体と船外機との関係を示した図である。
【図3】図2に示す船外機の内部機構図である。
【図4】本実施例の無線通信システムの動作を示すフローチャートである。
【図5】本実施例の無線通信システムの動作を示すフローチャートである。
【図6】従来の無線通信システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
(実施例の構成)
図1に示すように、本実施例に係る無線通信システム1は、第1無線装置11と、第2無線装置21とを含む。第1無線装置11は、船体20の後尾に固定された船外機10内部に設置され、第2無線装置21は、船体20内に設置される。
【0019】
第1無線装置11は、例えば、Bluetooth等の第1通信プロトコル(以下、Bluetoothという)に基づいてデータ通信を行うBluetooth対応の送受信モジュールからなる第1通信部111と、Bluetoothに比べて初期設定のための処理時間が短い、例えば、Zigbee等の第2通信プロトコル(以下、Zigbeeという)に基づいてデータ通信を行うZigbee対応の送受信モジュールからなる第2通信部112と、例えば、マイクロプロセッサにより構成される制御部110とを有する。
【0020】
制御部110は、第1通信部111と第2通信部112とは、UART(Universal AsynchoroNOuse Receiver Transmitter)等のシリアルデータ通信インタフェース経由で接続される。制御部110は、内蔵され又は外付けされるメモリに記録されたプログラムに従い、船外機本体12のエンジン120の始動を契機に、第1通信部111と第2通信部112とが同時に初期設定処理を開始し、初期設定のための処理時間が早い第2通信部112による初期設定処理が終了したことを契機に第2無線装置21の第2通信部212との間でZigbeeに基づくデータ通信を行なう。又、制御部110は、データ伝送速度に優れた第1通信部111のBluetoothに基づく初期設定の処理終了を契機にZigbeeからBluetoothに切換え、第2無線装置21(の第1通信部211)との間でBluetoothに基づくデータ通信を行なう。
【0021】
尚、船外機10は、エンジン120を中核とする船外機本体12と、エンジン周りの動作状態を検知する各種センサ類121(後述する51、52、54、56)と、を含む。エンジン120は、電子制御ユニット(ECU122)により制御され、ECU122は、第1無線装置11の制御部110とはプロセッサ間通信により有線で接続される。
【0022】
第2無線装置21は、上述した無線装置11と同じ構成を有し、Bluetoothに基づいてデータ通信を行う第1通信部211と、Zigbeeに基づいてデータ通信を行う第2通信部212と、例えば、マイクロプロセッサにより構成される制御部210とを有する。
【0023】
制御部210は、第1通信部211及び第2通信部212とは、UART等のシリアルデータ通信インタフェース経由で接続される。制御部210は、内蔵され又は外付けされるメモリに記録されたプログラムに従い、第1通信部211又は第2通信部212で受信したエンジン情報をCANバス30経由でキャビンユニット22へ供給し、又、キャビンユニット22に設置された操作リモコン221からCANバス30経由で転送される操作情報を、第1通信部211又は第2通信部212を介して船外機10の第1無線装置11へ送信する。
【0024】
尚、キャビンユニット22は、上述した操作リモコン221と各種メータ類が表示される表示器222とを含み、いずれもCANバス30経由で第2無線装置21の制御部210に接続される。操作リモコン221は、船外機のエンジンを始動させるイグニッションキー、操舵指示を入力するステアリングスイッチ、シフトチェンジと船速の増減指示を入力するシフト/スロットルスイッチ、シフトポジションを表示するインジケータ、及びチルト角とトリム角の調整指示を入力するパワーチルト・トリムスイッチを含む。
【0025】
ここで、上述した無線装置11,21が設置される船体20と船外機10の構成について、図2、図3を参照しながら簡単に説明する。図2に示されるように、船体20の後尾には船外機10が固定される。船外機10は、下部にプロペラ42を備えると共に、内部にエンジンを備える。プロペラ42は、エンジンの動力が伝達されて回転し、船体20の推力を発生する。
【0026】
一方、船体20の操縦席付近にはキャビンユニット22が配備されており、このキャビンユニット22には、操縦者によって操作される操作リモコン(図1の221)と各種メータ類が表示される表示器(図1の222)が実装されている。操作リモコン221は、例えば、レバーにより初期位置から前後方向(操縦者の手前方向と奥方向)に揺動操作自在とされ、操縦者から船外機10に対するシフトチェンジの指示やエンジン回転数の調整指示等が入力される。尚、エンジンは、4サイクルガソリンエンジンから成る。エンジンは、水面上に位置し、エンジンカバーで覆われている船外機10の内部に配置される。
【0027】
図3に示されるように、エンジンカバー40で被覆されたエンジン120の近傍には、上述したECU122と無線装置11の制御部110がプロセッサ間通信により双方向信号線を介して接続され実装されている。プロペラ42は、エンジン120の動力が伝達されて回転することにより、船体20を前進又は後進させる。又、船体20の後尾に固定されたスターンブラケット41の近傍には、不図示のスイベルシャフトを回動させて船外機10を転舵させるアクチュエータ(操舵用電動モータ48)と、船外機10のチルト角及びトリム角を調整するパワーチルト・トリムユニット50とが配置されており、共に信号線を介してECU122に接続される。
【0028】
エンジン120の吸気管にはスロットルバルブを開閉するアクチュエータ(スロットル用電動モータ44)が配置され、ECU122に接続される。更に、船外機10の下部には、不図示のシフトロッドを回動させるアクチュエータ(シフトチェンジ用電動モータ46)が配置され、信号線を介してECU122に接続される。
【0029】
又、不図示のスイベルシャフトとシフトロッドの近傍には、それぞれスイベルシャフト用の回動角センサ51とシフトロッド用の回動角センサ52が配置され、これらセンサ51、52は、スイベルシャフトの回動角に応じた信号とシフトロッドの回動角に応じた信号を出力する。又、不図示のスロットルバルブの近傍には、スロットル開度センサが54が配置され、スロットル開度センサ54は、スロットル開度に応じた信号を出力する。更に、エンジン120のクランクシャフト付近にはクランク角センサ56が配置され、エンジン120の回転数に応じた信号を出力する。
【0030】
上述した各センサ51、52、54、56の出力は、それぞれ信号線経由でECU122に出力される。ECU122は、上述した各センサ51、52、54、56と、キャビンユニット22の操作リモコンの出力に基づき、操舵用電動モータ48を駆動して船外機10を操舵すると共に、パワーチルト・トリムユニット50を作動させて船外機10のチルト角及びトリム角を調整する。又、スロットル用電動モータ44を駆動してエンジン120の回転数を調整すると共に、シフトチェンジ用電動モータ46を駆動してシフトチェンジを行う。
【0031】
(実施例の動作)
以下、図4、図5のフローチャートを参照しながら、図1に示す本実施例に係る無線通信システム1の動作について詳細に説明する。
【0032】
船外機10が内蔵する第1無線装置11の制御部110は、まず、ECU122との間でプロセッサ間通信を行い、ポーリングに対するステイタス応答を監視することにより、エンジン120の動作状態を認識する。制御部110は、エンジン始動を検知すると(ステップS101”YES”)、第1通信部111によるBluetoothの初期設定と、第2通信部112によるZigbeeの初期設定とを同時起動する(ステップS102)。
【0033】
尚、第1通信部111によるBluetoothの初期設定とは、通信相手を検索するペアリング操作のことをいい、第2通信部112によるZigbeeの初期設定とは通信チャンネル設定操作のことをいう。「ペアリング操作」とは、一方のBluetooth対応機器を探索可能な状態に設定して認証や暗号化の設定を双方で合わせておき、次に、他方のBluetooth対応機器から探索操作を行ない、探索可能な範囲、つまり電波到達範囲にあるBluetooth対応機器の一覧リストの中から所望の接続相手を指定し、双方で同一のパスキー(認証鍵情報のことであり、PINコードともいう)を交換することをいう。又、「通信チャンネル設定操作」とは、Zigbeeで利用可能な16個の通信チャンネルの中から指定した複数の通信チャンネルの電波強度を測定し、空きチャンネルを選択して、ネットワークに参加を希望する無線装置がどの通信チャンネルに属するかを調べ、目的の通信チャンネル情報を得ることをいう。
【0034】
第1無線装置11の第1通信部111と第2通信部112は、第2無線装置21の第1通信部211と第2通信部212のそれぞれとの間で上述したペアリング操作、あるいは通信チャンネル設定操作を行う。これらの初期設定に要する処理時間は、Bluetoothの場合は数秒程度であり、Zigbeeの場合は30m秒程度であることが知られている。更に、Zigbeeの場合は、スリープ状態からスタンバイ状態に復帰するのに15m秒程度と極端に短いことが知られている。
【0035】
このため、第1無線装置11の制御部110は、第2通信部112によるZigbeeの初期設定処理の完了を検知すると(ステップS103”YES”)、第1通信部111によるBluetoothの初期設定完了前に(ステップS104”NO”)、第2通信部112のZigbeeによる通信が正常に動作していることを確認したうえで(ステップS105”YES”)、ECU122とのプロセッサ間通信により取得したエンジン情報を、第2無線装置21の第2通信部212に送信する(図5のステップS106)。
【0036】
第2通信部212を介して船外機10のエンジン情報を受信した第2無線装置21の制御部210は、そのエンジン情報をキャビンユニット22の表示部222に表示する等の処理を行う。
【0037】
尚、第1無線装置11において、第2通信部112のZigbeeによる通信が正常に動作していない場合(図4のステップS105”NO”)、制御部110は、第2通信部112のZigbeeによる通信の復帰待ちとし(ステップS107)、ステップS105のZigbee正常判定処理に戻る。そして、制御部110は、第2通信部112のZigbeeによる通信が復帰し、Zigbeeによる通信が正常であることを確認すると(ステップS105”YES”)、ECU122からプロセッサ間通信により取得したエンジン情報を、Zigbeeプロトコルを用いて第2無線装置21の第2通信部212に送信する(図5のステップS106)。
【0038】
一方、制御部110は、図4のステップS104のBluetooth初期設定完了判定処理で、第1通信部111のBluetoothによる初期設定完了を検知すると(ステップS104”YES”)、これまで動作していた第2通信部112のZigbeeによる通信を休止状態(スリープ状態)に設定して第1通信部111のBluetoothによる通信を起動する(ステップS108)。
【0039】
続いて制御部110は、第1通信部111のBluetoothによる通信が正常に動作していることを確認し(ステップS109”YES”)、更に、ワーニング警告又はセンサ故障の発生が認識されなかった場合に(図5のステップS110”NO”)、ECU122からプロセッサ間通信により取得したエンジン情報を、Bluetoothにより第2無線装置21の第1通信部211に送信する(ステップS106)。
【0040】
尚、「ワーニング警告又はセンサ故障発生」とは、ECU122が、船外機本体12に内蔵されるセンサ51、52、54、56に異常があったことを検知すると制御部110に通知し、これを制御部110が認識したイベントのことをいう。ワーニング警告は、例えば、オーバヒート時に発せられる。
【0041】
制御部110は、図4のステップS109のBluetooth通信判定処理において、第1通信部111のBluetoothによる通信が正常に行われていないことを検知すると(ステップS109”NO”)、第2通信部112と第2無線装置21の第2通信部212との間のZigbeeプロトコルによる通信のスリープ状態を解除してスタンバイ状態に設定する(ステップS111)。続いて制御部110は、第1通信部111のBluetoothによる通信復帰が検知されるまでの間、第2通信部112のZigbeeによる通信を有効とし、第1通信部111のBluetoothによる通信が復帰したタイミングで(ステップS112”YES”)、ワーニング警告又はセンサ故障発生を認識したか否かを判定する(図5のステップS110)。
【0042】
制御部110は、ワーニング警告又はセンサ故障発生を認識すると(ステップS110”YES”)、第2通信部112と第2無線装置21の第2通信部212のZigbeeプロトコルによる通信のスリープ状態を解除してスタンバイ状態に設定する(ステップS113)。続いて制御部110は、第2通信部112のZigbeeによる通信が正常に動作していることを確認して(ステップS114”YES”)、ECU122経由で取得したエンジン情報を、第2通信部112のZigbeeプロトコル、第1通信部111のBluetoothプロトコルの2系統を用いて、第2無線装置21の第1通信部211、及び第2通信部212に送信する(ステップS115)。
【0043】
尚、第2通信部112のZigbeeによる通信が正常に動作していない場合は(ステップS114”NO”)、第2通信部112のZigbeeによる通信の復帰待ちとする(ステップS116)。
【0044】
一方、図4のステップS103のZigbee初期設定完了判定処理で、第2通信部112によるZigbeeの初期設定が完了していない場合(ステップS103”NO”)、制御部110は、第1通信部111によるBluetoothの初期化の完了を待つ(ステップS117)。制御部110は、第1通信部111によるBluetoothの初期設定が完了すると(ステップS117”YES”)、第1通信部111のBluetoothによる通信が正常に動作していることを確認し(ステップS118”YES”)、更に、ワーニング警告又はセンサ故障発生を認識していない場合に限り(ステップS119”NO”)、ECU122から取得したエンジン情報を、Bluetoothプロトコルを用いて第2無線装置21の第1通信部211に送信する(図5のステップS106)。
【0045】
尚、制御部110は、図4のステップS118のBluetooth正常判定処理において、第1通信部111のBluetoothによる通信が正常に動作していない場合は(ステップS118”NO”)、Zigbeeによる通信の復帰待ちとし(ステップS120)、ステップS118のBluetooth正常判定処理に戻る。そして、第1通信部111のBluetoothによる通信が復帰し、その通信が正常であることを確認すると(図4のステップS118”YES”)、ワーニング警告発生又はセンサ故障が発生していないことを認識した場合に(ステップS119”NO”)、ECU122から取得したエンジン情報を、Bluetoothプロトコルを用いて第2無線装置21の第1通信部211に送信する(ステップS106)。
【0046】
制御部110は、ワーニング警告又はセンサ故障の発生を認識すると(ステップS119”YES”)、ECU122経由で取得したエンジン情報を、第1通信部111のBluetoothプロトコル、第2通信部112のZigbeeプロトコルの2系統を用いて、第2無線装置21の第1通信部211、第2通信部212のそれぞれに送信する(ステップS115)。
【0047】
(実施例の効果)
上述したように本実施例に係る無線通信システム1によれば、第1無線装置11は、船外機10のエンジン始動を契機に第1通信部111と第2通信部112とが同時に初期設定処理を開始し、第2通信部112による初期設定処理が終了したことを契機に、第2無線装置21との間で第2通信プロトコル(例えば、Zigbee)に基づくデータ通信を開始し、第1通信プロトコル(例えば、Bluetooth)に基づく初期設定処理の終了を契機に第2通信プロトコルから第1通信プロトコルに切換えて第2無線装置21との間でデータ通信を行なう。
【0048】
このため、第1通信プロトコルに比較して初期設定に要する処理時間が短い第2通信プロトコルに基づき通信を行う第2通信部112から先にデータ通信を開始することで、第1通信プロトコルに基づき通信を行う第1通信部111がデータ通信を開始する場合に比較して高速通信を実現できる。又、第2通信プロトコルに比較して伝送速度に優れた第1通信プロトコルに基づき通信を行う第1通信部111を主通信に用い、第2通信プロトコルに基づき通信を行う第2通信部112をバックアップ用に用いることで、1系統が妨害波の電波干渉による通信遮断及び故障による通信不能に陥った場合でも、他方の系統がバックアップすることができ、信頼性の高い通信を維持することができる。
【0049】
又、本実施例に係る無線通信システム1によれば、第1無線装置11は、第1通信プロトコルから第2通信プロトコルに切換えたときに、第2通信プロトコルに基づく第2通信部112によるデータ通信を通信復帰待ち状態に設定する。このため、第1通信部111による第1通信プロトコルに基づく通信が遮断した場合に第1通信部111を通信復帰待ち状態に設定し、その通信復帰処理が完了するまでの間、第2通信部112の通信復帰待ち状態を解除して、第2通信部112による第2通信プロトコルに基づく通信の実行を行わせることができる。従って、一方の系統が妨害波の電波干渉による通信遮断、及び故障による通信不能に陥った場合でも他方の系統がバックアップすることができるため、通信の継続が可能になる。
【0050】
更に本実施例に係る無線通信システム1によれば、第1無線装置11の制御部110は、センサが船外機10の異常を検知すると、第2通信部112を制御して通信復帰待ち状態にある第2通信プロトコルに基づくデータ通信を再開させ、第1通信部111による第1通信プロトコルに基づくデータ通信と同時に実行させる。このため、航行中、船外機10に異常が発生した場合に、第1通信部111と第2通信部112による2系統による同時通信が可能となり、従って、船外機10の異常時にも安定した通信を実現でき、高信頼性の無線通信システムを提供することができる。
【0051】
尚、上述した本実施例によれば、第1無線装置11から第2無線装置12への一方向通信についてのみ説明したが、第2無線装置21から第1無線装置11への操作情報の伝送等、双方向通信が同じ原理で実現が可能である。
【0052】
又、本実施例によれば、第1通信部111にBluetoothによる送受信モジュールを、第2通信部112にZigbeeによる送受信モジュールを実装するものとして説明したが、この組み合わせに制限されるものではなく、他に、Wi−FiやUWB(Ultra Wide Band)等、無線LANよりも更に狭い範囲(数m〜数十m)で使用する、WPAN(Wireless Personal Area Network)と呼ばれる無線ネットワークを適用可能な送受信モジュールを実装してもよく、2系統の通信部のうち、一方が他方に比べて初期設定に要する処理時間が短ければその組み合わせは任意である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の無線通信システムは、主に船舶に適用されるものであり、船体の後尾に固定された船外機と、船体内部に設置されたキャビンユニットのそれぞれに、無線LANよりも更に狭い範囲で通信が可能な無線装置を設置することにより実現される。本発明の無線通信システムは、上述した船舶に限らず、車室内における車載情報機器のリモコンによる操作情報等、狭いエリアでの通信が要求される全ての分野への応用が可能である。
【符号の説明】
【0054】
1…無線通信システム、10…船外機、11…第1無線装置、12…船外機本体、21…第2無線装置、22…キャビンユニット、30…CANバス、51、52、54、56…センサ、110、210…制御部、111、211…第1通信部、112、212…第2通信部、120…エンジン、122…ECU、221…操作リモコン、222…表示器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の後尾に固定された船外機に設置される第1無線装置と、前記船体のキャビンに設置される第2無線装置との間でデータの送受信を行う無線通信システムであって、
前記第1及び第2無線装置は、
第1通信プロトコルに基づいてデータ通信を行う第1通信部と、
前記第1通信プロトコルに比べて初期設定のための処理時間が短い第2通信プロトコルに基づいてデータ通信を行う第2通信部とをそれぞれ有し、
前記第1無線装置は、
前記船外機のエンジン始動を契機に前記第1通信部と前記第2通信部が同時に初期設定処理を開始し、前記第2通信部による初期設定処理が終了したことを契機に前記第2無線装置との間で前記第2通信プロトコルに基づくデータ通信を開始し、前記第1通信プロトコルに基づく初期設定処理の終了を契機に前記第2通信プロトコルから前記第1通信プロトコルに切換え、前記第2無線装置との間でデータ通信を行なうことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記第1無線装置は、
前記第2通信プロトコルから前記第1通信プロトコルに切換えたときに、前記第2通信プロトコルに基づく第2通信部によるデータ通信を通信復帰待ち状態に設定することを特徴とする請求項1記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記船外機の動作状態を監視するセンサを更に有し、
前記第1無線装置の制御部は、
前記センサが前記船外機の異常を検知すると、前記第2通信部を制御して前記通信復帰待ち状態にある前記第2通信プロトコルに基づくデータ通信を再開させ、前記第1通信部による前記第1通信プロトコルに基づくデータ通信と同時に実行させることを特徴とする請求項2記載の無線通信システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−160058(P2011−160058A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18111(P2010−18111)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】