説明

無線通信方法およびシステムならびにその無線通信装置

【課題】周囲の環境に影響されることなく、かつ無線通信装置同士を接触あるいは近接させることなく、さらにはユーザに不慣れな操作や煩雑な操作を要求することなく、無線通信装置間のペアリングを行えるようにする。
【解決手段】移動端末2は超音波を放射する機能を備え、超音波に自身のペアリング情報および超音波の放射時刻情報を重畳して超音波信号を生成し、これを内蔵スピーカから常時または所定の周期で繰り返し放射する。通信制御装置1は、各移動端末2から受信した超音波信号を解析してペアリング情報および放射時刻情報を抽出し、当該超音波信号の受信時刻trと前記抽出された放射時刻情報tsとの差分に基づいて移動端末2との距離Δdを推定する。そして、前記距離Δdが自身を中心とした半径R内であれば、前記ペアリング情報に基づいて当該移動端末2とペアリング処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信方法およびシステムならびにその無線通信装置に係り、特に、近距離無線接続用のペアリングを簡素化できる無線通信方法およびシステムならびにその無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、無線デバイスが自身の近傍に位置するBluetooth(登録商標)デバイスを検出してペアリングする方式が開示されている。この方式では、第1のデバイスと第2のデバイスとのペアリングにおいて、第2のデバイスから送信された問い合わせ信号に第1のデバイスが応答する場合、第2のデバイスから第1のデバイスへパスキーが送信され、第1のデバイスが前記パスキーを用いてペアリングを開始する。第2のデバイスの問い合わせ信号は、出力電力レベルを微小レベルから徐々に増加し、最初に応答するデバイスが最も近傍に位置すると判定してペアリングが行われる。
【0003】
特許文献2には、赤外線通信による無線通信デバイス間のペアリング方式が開示されている。この方式では、被制御デバイスと、これを無線通信路を介して制御する制御デバイスとのペアリングにおいて、一方のデバイスが他方のデバイスの認識情報を、無線通信路とは異なる赤外線通信により取得することで通信が可能となる。
【0004】
特許文献3には、無線通信デバイス間のペアリングを二次元コードの読み取りにより達成する技術が開示されている。この方式では、車載装置が認証鍵を生成し、生成された認証鍵およびネットワーク上における所定のWEBページを指すURLを含んだ二次元コードを表示部へ表示し、携帯端末装置が撮像部で二次元コードを読み取ることによって二次元コードから認証鍵およびURLを取得し、URLに係るWEBページから車載装置と通信するための通信プログラムをダウンロードし、ダウンロードされた通信プログラムで認証鍵を車載装置へ送信することによりペアリングが行われる。
【0005】
特許文献4には、専用の接触面によるBluetooth(登録商標)デバイス間のぺアリング方式が開示されている。この方式では、Bluetooth(登録商標)デバイスに専用の接触面を設置し、Bluetooth(登録商標)接続を確立する前に二つのBluetooth(登録商標)デバイスの接触面を互いに物理的または光学的に接触させることでペアリング情報が交換される。
【0006】
特許文献5には、音声信号によりペアリング情報を送受信するペアリング処理方式が開示されている。この方式では、第1のデバイスと第2のデバイスとのペアリングにおいて、第1のデバイスがBluetooth(登録商標)デバイスアドレスをDTMFの規則にしたがってオーディオ信号に変換し、スピーカから出力する。第2のデバイスはマイクロホンで検知されたオーディオ信号をDTMFの規則にしたがってBluetooth(登録商標)デバイスアドレスに変換し、これがBluetooth(登録商標)プロトコルスタックに接続相手先情報として登録される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2007-536852号公報
【特許文献2】特開2006-157681号公報
【特許文献3】特開2009-135688号公報
【特許文献4】特表2007-513532号公報
【特許文献5】特開2005-136871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
2つのデバイスの間で近距離無線接続を確立するためには、最初にデバイス間で信頼された関係を構築する必要がある。これは、デバイスIDもしくはネットワークIDとパスキーとを必要とするペアリング処理を通じて行われる。ペアリング処理が行われているとき、単一かつ同一のパスキーが両方のデバイスに入力される必要がある。例えば、携帯電話とコンピュータとをペアリングするための代表的なペアリング処理では、以下のような手順が必要となる。

・手順1:携帯電話からリモートデバイスの検出処理を実行する。この検出処理は、問い合わせ用の電波を発射して、周囲からどのような応答があるかを検出するものである。
・手順2:検出処理を行った携帯電話が、応答してきたデバイスを一覧表示する。
・手順3:ユーザが一覧表示の中から所望の通信相手を選択して接続操作を実施する。
・手順4:選択した通信相手にセキュリティが設定されていれば、携帯電話の画面上で認証用のパスキーを入力して接続を確立する。また、マウスやヘッドセットのように、パスキー設定用のユーザインタフェースを備えないデバイスでは固定のパスキーが用いられる。
【0009】
このように、従来のペアリング処理では、ユーザにとって不慣れな操作や煩雑な操作が必要であり、多くのユーザが煩わしいと感じるため、ペアリングが頻繁に行われる環境下では、より簡略化されたペアリング処理手法が必須である。
【0010】
特許文献1では、問い合わせ信号の応答から最も近傍に位置するBluetooth(登録商標)デバイスを検出してペアリングが行われ、通信相手のPINコードが既知の場合には自動ペアリングが可能となるものの、PINコードが未知であると自動ペアリングを行えない。
【0011】
特許文献2では、ペアリング情報が赤外線通信により通知されるので、直射日光が当たっている場所や蛍光灯の真下、赤外線装置の近くでは正常に通信できない場合がある。また、指向性の強い赤外線では、ペアリングの端末同士が赤外線通信ポートを接近して向き合わせる必要があり、端末同士の距離が離れているとペアリングが難しい。
【0012】
特許文献3では、ペアリング情報が二次元コード化されているので、その読み取りにはカメラの起動、ピント合わせ、撮影という手順を踏む必要があり、依然としてユーザの多くの操作が要求される。
【0013】
特許文献4では、ペアリング情報が専用の接触面を介して通知されるので、端末同士を近接あるいは接触させる必要があり、端末間の距離が離れているとペアリングを行えない。
【0014】
特許文献5では、ペアリング情報が音声信号により通知されるので、屋外などの騒音環境下ではペアリングが難しくなる。また、ペアリングを行う際は端末同士を近接させる必要があり、端末間の距離が離れているとペアリングを行えない。さらに、このペアリング方式は一対一のペアリングを前提としており、一つの無線装置に複数の無線端末からペアリングすることができない。
【0015】
本発明の目的は、上記した従来技術の課題を解決し、周囲の環境に影響されることなく、かつ端末同士を接触あるいは近接させることなく、さらにはユーザに不慣れな操作や煩雑な操作を要求することなく、端末間のペアリングを簡単かつ確実に行える無線通信方法およびシステムならびにその無線通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために、本発明は、一方および他方の無線通信装置間に近距離無線接続を確立して通信する無線通信システムにおいて、各無線端末が、以下の構成を具備した点に特徴がある。
【0017】
(a)一方の無線通信装置;
【0018】
他方の無線通信装置との接続に用いるペアリング情報として、例えばMACアドレスとパスキーとを管理する手段と、超音波帯の搬送波をペアリング情報で変調して超音波信号を生成する手段と、超音波信号を放射する手段と、ペアリング情報の記述された接続要求を受信し、接続応答を返信することで近距離無線接続を確立する手段とを具備した。
【0019】
(b)他方の無線通信装置;
【0020】
一方の無線通信装置から超音波信号を受信する手段と、超音波信号からペアリング情報を抽出する手段と、超音波信号に基づいて一方の無線通信装置との距離を推定し、当該距離が所定の範囲内であるか否かを判定する手段と、一方の無線通信装置との距離が所定の範囲内であるときに、前記ペアリング情報の記述された接続要求を送信して近距離無線接続を確立する手段とを具備した。
【0021】
(c)他方の無線通信装置は、一方の無線通信装置から受信した超音波信号の受信強度に基づいて当該一方の無線通信装置との距離を推定できる。
【0022】
(d)一方の無線通信装置との距離を推定するために、距離推定の指標となる情報を一方の無線通信装置が超音波信号に重畳して送信し、他方の無線通信装置では、受信した超音波信号から前記指標情報を抽出して前記距離推定を行う。
【0023】
(e)距離推定の指標情報として、超音波信号の放射時刻情報や各無線通信装置の現在位置を用いることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、以下のような効果が達成される。
【0025】
(a)無線通信装置は、通信相手となる他方の無線通信装置に接近するだけで近距離無線接続を自動的に確立できるので、ユーザは不慣れな操作や煩雑な操作を要求されることなく無線通信を開始できるようになる。
【0026】
(b)無線通信装置同士は超音波信号を利用してペアリングの通信相手を探索するので、装置同士は接触するほど近接させる必要がなく、また装置間に遮蔽物があっても相手装置を見通せない場合でも探索を行えるようになる。
【0027】
(c)装置間の距離を超音波信号の受信強度に基づいて推定すれば、距離推定のための構成や手順を簡素化できる。
【0028】
(d)装置間の距離を距離推定の指標情報に基づいて推定すれば、距離推定の精度が向上する。
【0029】
(e)距離推定に超音波信号の送受信時刻の遅延を用いれば、距離推定のための構成を簡略化できる。また、距離推定に各無線通信装置の現在位置を用いれば、装置間の時刻同期を意識することなく正確な距離推定が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態の概要を模式的に表現した図である。
【図2】本発明の第1実施形態の機能ブロック図である。
【図3】本発明における超音波信号の変調方法を説明するための図である。
【図4】本発明における送信データのビット配列を示した図である。
【図5】本発明における送信データのフレーム構造を示した図である。
【図6】本発明における無線通信装置間でのBluetooth(登録商標)接続の確立手順を示した図である。
【図7】本発明の第2実施形態の概要を模式的に表現した図である。
【図8】本発明の第2実施形態の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態の概要を模式的に表現した図であり、ここでは、相互に近距離無線接続される無線通信装置が、一つの通信制御装置1と複数の移動端末2との組み合わせである場合を例にして説明する。
【0032】
各移動端末2は超音波を放射する機能を備え、超音波に自身のペアリング情報およびその放射時刻情報を重畳して超音波信号を生成し、これを内蔵スピーカから常時または所定の周期で繰り返し放射する。前記ペアリング情報には端末自身のMACアドレスおよび固有のパスキーが登録されている。前記超音波信号は、帯域が20kHz〜24kHzの超音波を前記ペアリング情報および放射時刻情報で適宜に変調することにより生成される。
【0033】
通信制御装置1は、各移動端末2から受信した超音波信号を解析してペアリング情報(MACアドレスおよびパスキー)および放射時刻情報tsを抽出し、当該超音波信号の受信時刻trと前記抽出された放射時刻情報tsとの差分に基づいて移動端末2との距離Δdを推定する。そして、前記距離Δdが自身を中心とした所定の半径R内であれば、前記ペアリング情報に基づいて当該移動端末2との近距離無線接続用のペアリング処理を実行する。
【0034】
図1の例では、通信制御装置1と移動端末2a,2d,2eとの距離Δdは半径Rを上回っているので、当該移動端末2a,2d,2eと通信制御装置1との間では近距離無線接続が実行されない。これに対して、通信制御装置1と移動端末2b,2cとの距離Δdは半径Rを下回っているので、当該移動端末2b,2cと通信制御装置1との間では、前記ペアリング情報に基づいて自動的に近距離無線接続が実行され、接続確立後にBluetooth(登録商標)パケットの送受信が開始される。
【0035】
図2は、前記通信制御装置1および移動端末2の主要部の構成を示した機能ブロック図であり、ここでは、本発明の説明に不要な構成は図示が省略されている。
【0036】
移動端末2において、ペアリング情報管理部201では自端末のMACアドレスおよび固有のパスキーが管理されている。変調部202は、帯域が20kHz〜24kHzの超音波を前記MACアドレス、パスキーおよび放射時刻情報で変調して超音波信号を生成する。超音波放射部203は、前記超音波信号を放射する。Bluetooth(登録商標)接続応答部204は、通信制御装置1から送信されるBluetooth(登録商標)接続要求に応答してBluetooth(登録商標)接続応答を返信する。Bluetooth(登録商標)送受信部205は、通信制御装置1のBluetooth(登録商標)送受信部105との間でBluetooth(登録商標)パケットを双方向で送受信する。
【0037】
通信制御装置1において、超音波受信部101は前記移動端末2から放射される超音波信号を受信する。復調部102は、受信した超音波信号を復調して前記ペアリング情報および放射時刻情報を抽出する。距離判定部103は、前記超音波信号の受信時刻trと前記抽出された放射時刻情報tsとの差分Δt(tr−ts)に基づいて前記移動端末2との距離Δdを算出し、当該距離Δdが自身を中心とした所定の半径R内であるか否かを判定する。
【0038】
Bluetooth(登録商標)接続要求部104は、前記距離判定部103において移動端末2との距離Δdが半径R内であると判定されると、前記抽出されたペアリング情報(MACアドレスおよびパスキーのペア)の記述されたBluetooth(登録商標)接続要求を生成して送信する。Bluetooth(登録商標)送受信部105は、移動端末2のBluetooth(登録商標)送受信部205との間でBluetooth(登録商標)パケットを双方向で送受信する。
【0039】
なお、前記移動端末2の変調部202における変調方式には特に制限が無く、振幅偏移変調や位相偏移変調などの適宜の変調方式を利用可能であるが、ここでは、ASK振幅偏移変調が利用されるものとして説明を続ける。
【0040】
ASK振幅偏移変調では、送信データのビット列に対応して搬送波の振幅を変化させることで変調が行われる。この変調方式では、搬送波の周波数および位相はそのままで振幅のみが変化する。単純な2値ASK振幅偏移変調の場合、デジタル信号が「0」で振幅小、デジタル信号が「1」で振幅大となる。
【0041】
図3は、ASK振幅偏移変調において「0」および「1」をそれぞれ代表する搬送波(超音波)のスペクトルの一例を示している。本実施形態では、この搬送波のスペクトルの1周期分あるいは整数倍に対して送信データの1ビットが割り当てられる。通信制御装置1は超音波信号を受信して復調・解析し、振幅スペクトルの出力が閾値を越えていれば「1」、超えていなければ「0」と判定できる。
【0042】
次いで、移動端末2においてペアリング情報および放射時刻情報を符号化して送信データを構築する方法について説明する。
【0043】
本実施形態では、送信データのデジタルビット列がフレーム単位で送信され、各フレームは、図4に一例を示したように、4ビットのヘッダ、32ビットのMACアドレス、64ビットのパスキー、32ビットの放射時刻情報(int 4)、4ビットのフッタおよび1ビットのパリティビットから構成される。ペアリング情報(MACアドレスおよびパスキーのペア)の各文字は8ビット固定長のアスキーコードに符号化されるが、シンボル毎の出現確率に基づき異なる長さの符号語長を用いるエントロピー符号化を採用しても良い。ビット誤り検出のため、本実施形態ではパリティビットがペアリング情報に付加される。なお、セキュリティを高めるために、ペアリング情報に関しては暗号化処理を組み込むことが好ましい。
【0044】
次いで、移動端末2の変調部105により、前記符号化された送信データから超音波の音声ファイルを構成する方法を説明する。
【0045】
本実施形態では、移動端末2がWAVフォーマット(RIFF waveform Audio Format)のPCM音を再生して放射する。図5は、WAVフォーマットの音声ファイルの構造を示した図であり、最初にRIFF(RIFF chunk descriptor)の開始マークが付き、その後にWAVフォーマットのヘッダ、次いでPCMデータ…という構造となっている。WAVフォーマットのヘッダは、音声のパラメータを順に埋めていくものである。図5のWAVフォーマットは、PCM音声が1チャンネル、サンプリング周波数が48kHz、サンプリング解像度が16bitである場合のヘッダ定義例を示している。データ部には変調されたデータが蓄積される。このように1チャンネルで48kHz/16bitとした場合、1秒あたりのデータ量は96KBとなる。
【0046】
次いで、通信制御装置1の復調部102における雑音除去処理について説明する。本実施形態では、環境雑音が重畳された超音波信号から雑音を除去するため、受信された超音波信号にFIR(Finite Impulse Response : 有限インパルス応答)型のバンドバスフィルタを適用することで、超音波帯域である20kHz〜24kHzの信号のみが抽出される。復調部102は、受信した超音波信号を復調し、前記振幅スペクトルあるいは位相変化の判定により「0」,「1」のビット列を再現し、前記符号化方法に基づいてペアリング情報(Bluetooth(登録商標) MACアドレス、パスキー)および放射時刻情報を再現して距離判定部103およびBluetooth(登録商標)接続要求部104へ渡す。
【0047】
次いで、通信制御装置1の距離判定部103が移動端末2との距離Δdを測定する方法について説明する。
【0048】
通信制御装置1では、超音波信号を受信したときの受信時刻trを記録し、当該受信した超音波信号に記述されている放射時刻情報tsとの差分により移動端末2との距離Δdを推定する。音速は気温10度で337メートル程度であるため、距離Δdは次式(1)で求められる。
【0049】
距離Δd=(受信時刻tr−放射時刻ts)× 337メートル … (1)
【0050】
本実施形態では、この距離Δdが一定値(ここでは、半径R)を下回る場合、通信制御装置1が接近状態と判定し、上記復調されたペアリング情報に基づいて移動端末2にBluetooth(登録商標)接続の要求を送信する。距離測定の精度を向上するためには、通信制御装置1および移動端末2を時刻同期させる必要がある。一般には、それぞれがペアリングの前にネットワーク時刻サーバと時刻同期をとるようにしても良いが、平均数十msの誤差が存在するため、無線基地局やGPSとの時刻同期により誤差を1ms以下に抑えることが好ましい。
【0051】
なお、距離Δdの推定方法は上記に限定されるものではなく、通信制御装置1が超音波信号の受信強度に基づいて推定するようにしても良いし、あるいは移動端末2がGPSを搭載しているならば、GPSで測位した現在位置を前記放射時刻情報の代わりに超音波に重畳して放射し、移動端末2では、自身の所在地(既知)と前記受信した超音波信号から抽出した移動端末2の現在位置とに基づいて前記距離Δdを推定するようにしても良い。
【0052】
次いで、通信制御装置1および移動端末2によるBluetooth(登録商標)接続の確立手順について、図6に示したBluetooth(登録商標) SPP (Serial Port Profile)による確立シーケンスを例にして説明する。
【0053】
移動端末2では、時刻t1でBluetooth(登録商標)接続応答部204がSPP通信ポートを開いて待受けの状態となる。時刻t2において、通信制御装置1のBluetooth(登録商標)接続要求部104が移動端末2へ接続要求を送信すると、時刻t3では、当該接続要求を受信できた移動端末2から通信制御装置1へACK情報が返信される。
【0054】
時刻t4では、通信制御装置1から移動端末2へSPPの初期化およびパラメータの設定要求が送信される。時刻t5において、接続承認のACK情報が移動端末2から通信制御装置1へ返信されると、通信制御装置1および移動端末2のいずれもがデータ受信モードで待機して接続確立を完了する。
【0055】
次いで、通信制御装置1が複数台の移動端末2と同時にペアリングする方法について説明する。複数台の移動端末2が同時に通信制御装置1へ超音波信号を放射する場合は、超音波周波数帯域(20kHz〜24kHz)を複数の狭い帯域(チャンネル)に分割し、個々の帯域で別々に通信を行う多重化通信方式を利用できる。あるいは、複数の超音波信号をそれぞれ一定の時間(タイムスロット)ごとに切り換えて伝送する時分割多重化通信方式を利用してもよい。ここでは、超音波周波数帯域を10個のチャンネルを分割して複数台の移動端末2が通信制御装置1と同時にペアリングする場合について説明する。
【0056】
移動端末2は、10個のチャンネル候補からランダムに1個のチャンネルを選定して超音波信号を放射する。その後、一定時間が過ぎてもBluetooth(登録商標)接続が確立されなければ、同じ帯域を使う他の移動端末2が存在することが原因の送信エラーと判定し、チャンネルを切り替えて超音波信号の再送を試みる。以下、Bluetooth(登録商標)接続が確立されるまで同様の手順を繰り返す。
【0057】
なお、上記の実施形態では、移動端末2が超音波信号を送信し、通信制御装置1が接続の許否を判定するものとして説明したが、本発明はこれのみに限定されるものではなく、図7,8に示した第2実施形態のように、通信制御装置1が超音波信号を送信し、移動端末2が接続の許否を判定するようにしてもよい。
【0058】
図7は、本発明の第2実施形態の概要を模式的に表現した図であり、前記と同一の符号は同一または同等部分を表している。
【0059】
通信制御装置1は超音波を放射する機能を備え、超音波に自身のペアリング情報およびその放射時刻情報を重畳して超音波信号を生成し、これを内蔵スピーカから常時または所定の周期で繰り返し放射する。
【0060】
各移動端末2は、通信制御装置1から受信した超音波信号を解析してペアリング情報(MACアドレスおよびパスキー)および放射時刻情報tsを抽出し、当該超音波信号の受信時刻trと前記抽出された放射時刻情報tsとの差分に基づいて通信制御装置1との距離Δdを推定する。そして、前記距離Δdが自身を中心とした半径R内であれば、前記ペアリング情報に基づいて当該通信制御装置1とペアリング処理を実行する。
【0061】
図7の例では、通信制御装置1と移動端末2a,2d,2eとの距離Δdは半径Rを上回っているので、当該移動端末2a,2d,2eと通信制御装置1との間では近距離無線接続が実行されない。これに対して、通信制御装置1と移動端末2b,2cとの距離Δdは半径Rを下回っているので、当該移動端末2b,2cと通信制御装置1との間では、前記ペアリング情報に基づいて自動的に近距離無線接続が実行され、接続確立後にBluetooth(登録商標)パケットの送受信が開始される。
【0062】
図8は、本実施形態における通信制御装置1および移動端末2の主要部の構成を示した機能ブロック図であり、ここでは、本発明の説明に不要な構成は図示が省略されている。
【0063】
通信制御装置1において、ペアリング情報管理部106では自端末のMACアドレスおよび固有のパスキーが管理されている。変調部107は、帯域が20kHz〜24kHzの超音波を前記MACアドレス、パスキーおよび放射時刻情報で変調して超音波信号を生成する。超音波放射部108は、前記超音波信号を放射する。Bluetooth(登録商標)接続応答部109は、移動端末2から送信されるBluetooth(登録商標)接続要求に応答してBluetooth(登録商標)接続応答を返信する。Bluetooth(登録商標)送受信部105は、移動端末2のBluetooth(登録商標)送受信部205との間でBluetooth(登録商標)パケットを双方向で送受信する。
【0064】
移動端末2において、超音波受信部206は前記通信制御装置1から放射される超音波信号を受信する。復調部207は、受信した超音波信号を復調して前記ペアリング情報および放射時刻情報を抽出する。距離判定部208は、前記超音波信号の受信時刻trと前記抽出された放射時刻情報tsとの差分Δt(tr−ts)に基づいて前記通信制御装置1との距離Δdを算出し、当該距離Δdが自身を中心とした所定の半径R内であるか否かを判定する。
【0065】
Bluetooth(登録商標)接続要求部209は、前記距離判定部208において通信制御装置1との距離Δdが半径R内であると判定されると、前記抽出されたペアリング情報(MACアドレスおよびパスキーのペア)が記述されたBluetooth(登録商標)接続要求を生成して送信する。Bluetooth(登録商標)送受信部205は、通信制御装置1のBluetooth(登録商標)送受信部105との間でBluetooth(登録商標)パケットを双方向で送受信する。
【符号の説明】
【0066】
1・・・無線装置、2・・・無線端末。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方および他方の無線通信装置間に近距離無線接続を確立して通信する無線通信システムにおいて、
前記一方の無線通信装置が、
前記他方の無線通信装置との接続に用いるペアリング情報を管理する手段と、
超音波帯の搬送波を前記ペアリング情報で変調して超音波信号を生成する手段と、
前記超音波信号を放射する手段と、
前記ペアリング情報の記述された接続要求を受信し、接続応答を返信することで近距離無線接続を確立する手段とを具備し、
前記他方の無線通信装置が、
前記一方の無線通信装置から超音波信号を受信する手段と、
前記超音波信号からペアリング情報を抽出する手段と、
前記超音波信号に基づいて一方の無線通信装置との距離を推定し、当該距離が所定の範囲内であるか否かを判定する手段と、
前記一方の無線通信装置との距離が所定の範囲内であるときに、前記ペアリング情報の記述された接続要求を送信して近距離無線接続を確立する手段とを具備したことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記他方の無線通信装置では、超音波信号の受信強度に基づいて前記一方の無線通信装置との距離を推定することを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記一方の無線通信装置において、
前記他方の無線通信装置が一方の無線通信装置との距離を推定する際の指標となる情報を発生する手段をさらに具備し、
前記超音波信号を生成する手段は、前記超音波帯の搬送波を前記ペアリング情報および指標情報で変調して超音波信号を生成し、
前記他方の無線通信装置は、受信した超音波信号から前記指標情報を抽出して前記一方の無線通信装置との距離を推定することを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記指標情報が超音波信号の放射時刻情報であり、
前記他方の無線通信装置は、前記超音波信号の受信時刻と当該超音波信号から抽出した放射時刻情報との差分に基づいて前記一方の無線通信装置との距離を推定することを特徴とする請求項3に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記指標情報がGPSにより測位された前記一方の無線通信装置の現在位置であり、
前記他方の無線通信装置は、自身の所在地と前記超音波信号から抽出した前記一方の無線通信装置の現在位置とに基づいて前記一方の無線通信装置との距離を推定することを特徴とする請求項3に記載の無線通信システム。
【請求項6】
前記ペアリング情報が前記一方の無線通信装置のMACアドレスおよび固有のパスキーを含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記一方および他方の無線通信装置のいずれかが移動端末であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の無線通信システム。
【請求項8】
通信相手との間に近距離無線接続を確立して通信する無線通信装置において、
通信相手との無線接続に用いるペアリング情報を管理する手段と、
超音波帯の搬送波を前記ペアリング情報で変調して超音波信号を生成する手段と、
前記超音波信号を放射する手段と、
前記ペアリング情報の記述された接続要求を受信し、接続応答を返信することで近距離無線接続を確立する手段とを具備したことを特徴とする無線通信装置。
【請求項9】
前記通信相手が自装置との距離を推定する際の指標となる情報を発生する手段をさらに具備し、
前記超音波信号を生成する手段は、前記超音波帯の搬送波を前記ペアリング情報および指標情報で変調して超音波信号を生成することを特徴とする請求項8に記載の無線通信装置。
【請求項10】
前記指標情報が超音波信号の放射時刻情報であることを特徴とする請求項9に記載の無線通信装置。
【請求項11】
前記指標情報がGPSにより測位された無線通信装置の現在位置であることを特徴とする請求項9に記載の無線通信装置。
【請求項12】
前記ペアリング情報が前記無線通信装置のMACアドレスおよび固有のパスキーを含むことを特徴とする請求項8ないし11のいずれかに記載の無線通信装置。
【請求項13】
通信相手との間に近距離無線接続を確立して通信する無線通信装置において、
通信相手から超音波信号を受信する手段と、
前記超音波信号から、前記通信相手との接続に用いるペアリング情報を抽出する手段と、
前記超音波信号に基づいて通信相手との距離を推定し、当該距離が所定の範囲内であるか否かを判定する手段と、
前記通信相手との距離が所定の範囲内であるときに、前記ペアリング情報の記述された接続要求を送信して近距離無線接続を確立する手段とを具備したことを特徴とする無線通信装置。
【請求項14】
前記判定手段は、前記超音波信号の受信強度に基づいて前記通信相手との距離を推定することを特徴とする請求項13に記載の無線通信装置。
【請求項15】
前記超音波信号には、通信相手との距離を推定する際の指標となる情報が記述されており、
前記判定手段は、受信した超音波信号から前記指標情報を抽出して前記通信相手との距離を推定することを特徴とする請求項13に記載の無線通信装置。
【請求項16】
前記指標情報が超音波信号の放射時刻情報であり、
前記判定手段は、前記超音波信号の受信時刻と当該超音波信号から抽出した放射時刻情報との差分に基づいて前記通信相手との距離を推定することを特徴とする請求項15に記載の無線通信装置。
【請求項17】
前記指標情報がGPSにより測位された前記通信相手の現在位置であり、
前記判定手段は、自身の所在地と前記超音波信号から抽出した前記通信相手の現在位置とに基づいて前記通信相手との距離を推定することを特徴とする請求項15に記載の無線通信装置。
【請求項18】
前記ペアリング情報が前記通信相手のMACアドレスおよび固有のパスキーを含むことを特徴とする請求項13ないし17のいずれかに記載の無線通信装置。
【請求項19】
一方および他方の無線通信装置間に近距離無線接続を確立して通信する無線通信方法において、
前記一方の無線通信装置が、
超音波帯の搬送波を、前記他方の無線通信装置との接続に用いるペアリング情報で変調して超音波信号を生成し、
前記超音波信号を放射し、
前記他方の無線通信装置が、
前記一方の無線通信装置から超音波信号を受信し、
前記超音波信号からペアリング情報を抽出し、
前記超音波信号に基づいて一方の無線通信装置との距離を推定し、
前記距離が所定の範囲内であるときに、前記ペアリング情報の記述された接続要求を送信し、
前記一方の無線通信装置がさらに、
前記ペアリング情報の記述された接続要求を受信し、これに接続応答を返信することで近距離無線接続を確立することを特徴とする無線通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−199381(P2011−199381A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61104(P2010−61104)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】