説明

無線通信装置、送信電力制御方法、プログラム

【課題】無線LAN通信を行う無線通信装置において外来ノイズの影響に係わらず適切な送信電力制御が行えるようにする。
【解決手段】無線通信装置は、無線LANのチャネルごとの受信電界レベルを、ブルートゥース(登録商標)通信により測定する。そして、この測定された各チャネルの受信電界レベルに基づいて外来ノイズの影響による誤差が排除された正規受信電界レベルを求める。次に、正規受信電界レベルに基づいて送信電力を補正し、この補正した送信電力により無線LAN通信を実行させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば無線LAN(Local Area Network)とブルートゥース(登録商標)などのように複数の方式による無線通信が可能な無線通信装置と、この無線通信装置における送信電力制御方法に関する。また、上記無線通信装置に上記送信電力制御方法に対応する機能を実現させるためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線LANによる通信を行う無線通信装置では、無線LAN通信装置間での電波の干渉の回避や低消費電力化などを目的として送信電力制御が行われる。このような送信電力制御として、データ転送速度の変化に応じて制御するという技術が知られている。
【0003】
しかし、上記の技術では、データ転送速度が固定の条件では、この固定値によるデータ転送速度に基づいた送信電力が固定的に設定されてしまうことになるため、例えば通信距離に応じて適切に送信電力を設定できないことになる。具体的に、送信電力は、通信距離が近くなるのに応じて低減されていくように設定されることが好ましい。しかし、上記の手法では、通信距離に応じて送信電力を変更できない。このために、通信距離が近い場合に送信電力が過剰になってしまったり、逆に、通信距離が遠い場合に送信電力が不足してしまったりするという問題が生じる。
【0004】
そこで、受信電力レベル、受信信号のPER(パケットエラーレート)および通信速度に基づいて送信電力を制御する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。この技術において、受信電力レベルに関しては、その変化が所定範囲に含まれる場合には送信電力を一定にするように制御することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−117303号公報(図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、無線LAN通信における受信電力レベルは外来ノイズの影響によって変化してしまう。特許文献1の技術においては、このような外来ノイズによる受信電力レベルの影響を考慮していない。このため、外来ノイズの影響を受けた場合には、実際の通信距離に対応しない受信電力レベルが取得されてしまうこととなり、適切な送信電力が設定されなくなるという問題を生じる。
【0007】
本発明は上記の課題を解決することのできる無線通信装置、送信電力制御方法、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、第1の無線通信方式による無線通信を行う第1の無線通信手段と、第2の無線通信方式による無線通信を行う第2の無線通信手段と、複数のチャネルにおける1つのチャネルを使用した通信を第1の無線通信手段に実行させる通信制御手段と、前記第2の無線通信手段による通信を実行させて、前記複数のチャネルごとに受信電界レベルを測定する受信電界レベル測定手段と、前記チャネルごとに測定された受信電界レベルにおける最小値と、送受信回路の周波数特性とに基づいて、通信距離が正しく反映された正規受信電界レベルを使用中のチャネルに対応して求める正規受信電界レベル算出手段と、前記正規受信電界レベルと、通信が保証される必要最小限の受信電界レベルとして定められる最小受信電界レベルに基づいて、当該最小受信電界レベルに対応して定められる基準送信電力を補正することにより補正送信電力を取得する送信電力補正手段と、前記第1の無線通信手段に対して前記補正送信電力を設定する送信電力設定手段とを備えることを特徴とする無線通信装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、無線通信装置として、外来ノイズの影響に係わらず適切に送信電力を制御可能になるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態における無線通信装置100の構成例を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態における無線通信装置100の機能構成例を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態における通信パラメータテーブル121およびチャネル対応周波数特性テーブル122の構造例を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態における測定受信電界レベルテーブル131の構造例を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態における無線通信装置100が実行する処理手順例を示す図である。
【図6】図5における正規受信電界レベル算出(ステップS112)のための処理手順例を示す図である。
【図7】図5における補正送信電力算出(ステップS113)のための処理手順例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[無線通信装置の構成例]
図1は、本発明を実施するための形態(実施の形態)における無線通信装置100の構成例を示している。本実施の形態の無線通信装置100は、無線通信として、無線LAN規格に対応した通信機能と、ブルートゥース(登録商標)の規格に対応した通信機能とを有するように構成されている。
【0012】
この図に示す無線通信装置100は、制御部110、記憶部120、RAM130、無線LAN通信部140、ブルートゥース通信部150およびフロントエンド部160から成る。
【0013】
制御部110は、CPU(Central Processing Unit)を含み、記憶部120に記憶されるプログラムを実行することにより、同図に示した各部を制御する。記憶部120は、補助記憶装置として機能するもので、制御部110により実行されるプログラムおよび各種所定のデータを格納する部位である。この記憶部120としてのハードウェアには、例えばハードディスクやフラッシュメモリなどを採用することができる。RAM130は、制御部110(CPU)の主記憶装置として機能するもので、記憶部120から読み出されて実行されるプログラムが展開されるとともに、制御部110の作業領域として使用される。
【0014】
無線LAN通信部140は、制御部110の制御に応じて無線LAN規格に対応した無線通信を実行する部位である。また、ブルートゥース通信部150は、制御部110の制御に応じてブルートゥース(登録商標)の規格に対応した無線通信を実行する部位である。
【0015】
フロントエンド部160は、無線LAN通信部140およびブルートゥース通信部150に対して共通に設けられるもので、信号の送受信に対応する所定の動作を実行する。この図に示すフロントエンド部160は、スイッチ161とアンテナ162を備える。スイッチ161は、アンテナ162に対して無線LAN通信部140とブルートゥース通信部150のいずれかを選択して接続するように切り替えを行う。この切り替え動作は、制御部110によって制御される。なお、フロントエンド部160は、例えば受信信号または送信信号を増幅する機能を有しているが、そのための回路についての図示は省略している。
【0016】
無線LAN通信部140は、スイッチ161により無線LAN通信部140とアンテナ162とが接続されている状態において、アンテナ162により電波を受信して得られた受信信号を入力し、復調処理やパケットからのデータ抽出などの所定の受信処理を実行し、制御部110に受け渡す。制御部110において実行されるアプリケーションは、受け渡されたデータを利用して所定の動作を実行する。また、無線LAN通信部140は、上記アプリケーションから送信データが受け渡されるのに応じて、この送信データのパケット化や変調などの送信処理を実行して送信信号を生成し、スイッチ161を介してアンテナ162から電波として送出させる。なお、無線LAN通信部140によりデータを送出する際の使用チャネル、転送速度、送信電力などのパラメータは、制御部110によって無線LAN通信部140に対して設定される。
【0017】
また、ブルートゥース通信部150は、スイッチ161によりブルートゥース通信部150とアンテナ162とが接続されている状態において、アンテナ162により電波を受信して得られた受信信号を入力し、復調処理およびパケットからのデータ抽出などの受信処理を実行し、制御部110において実行されているアプリケーションに受け渡す。また、ブルートゥース通信部150は、上記アプリケーションから送信データが受け渡されるのに応じて、この送信データのパケット化や変調などの送信処理を実行して送信信号を生成し、スイッチ161を介してアンテナ162から電波として送出させる。
【0018】
[無線通信装置の機能構成例]
図2は、無線通信装置100における送信電力制御に対応した機能構成例を示している。なお、この図において図1と同一となる部分には同一符号を付して説明を省略する。この図に示す制御部110は、機能部として、通信制御部111、チャネル・転送速度・送信電力設定部112、受信電界レベル測定部113、正規受信電界レベル算出部114、送信電力補正部115およびスイッチ切替制御部116を備える。これらの機能部は、制御部110がプログラムを実行することにより実現されるものであり、本実施の形態の送信電力に関連する。
【0019】
また、記憶部120は、本実施の形態の送信電力制御に対応して通信パラメータテーブル121およびチャネル対応周波数特性テーブル122を記憶している。また、RAM131は、測定受信電界レベルテーブル131を記憶する。
【0020】
通信制御部111は、無線LAN通信部140とブルートゥース通信部150が実行する通信動作を制御する部位である。通信制御部111の制御に応じて、無線LAN通信部140またはブルートゥース通信部150によるデータ送信処理およびデータ受信処理が実行される。チャネル・転送速度・送信電力設定部112は、無線LAN通信部140に対して、通信に使用するチャネル(使用チャネル)、データ送信時における転送速度および送信電力を設定する部位である。なお、チャネル・転送速度・送信電力設定部112は、転送速度および補正前の送信電力を設定するにあたり、記憶部120に記憶される通信パラメータテーブル121を利用する。
【0021】
受信電界レベル測定部113は、ブルートゥース通信部150の受信機能を利用して、無線LAN通信に対応する各チャネルの受信電界レベルを測定する部位である。ブルートゥース通信部150は無線LAN通信部140とアンテナ162を共用しており、かつ、その使用帯域は2.4GHzで共通している。これにより、ブルートゥース通信部150の通信機能を利用して無線LAN通信に対応する各チャネルの受信電界レベルを測定することが可能である。また、チャネルごとの受信電界レベルは、ブルートゥース通信部150に無線LAN通信に対応するチャネルを順次設定し、設定されたチャネルごとに、アンテナ162にて電波を受信して得られる受信信号のレベルに基づいて測定することが可能である。受信電界レベル測定部113は、チャネルごとの受信電界レベルの測定結果を、RAM130に測定受信電界レベルテーブル131として保持させる。
【0022】
正規受信電界レベル算出部114は、RAM130に記憶される測定受信電界レベルテーブル131と、チャネル対応周波数特性テーブル122を利用して正規受信電界レベルを算出する。受信電界レベル測定部113により測定されたチャネルごとの受信電界レベルは、例えば外来ノイズの影響によって誤差を含んでいる可能性がある。つまり、通信相手である無線通信装置との距離(通信距離)が適正に反映された受信電界レベルの値ではない可能性がある。正規受信電界レベル算出部114により算出される正規受信電界レベルは、上記の外来ノイズの影響がキャンセルされ、通信距離に応じて補正された値を有する。なお、正規受信電界レベル算出部114による正規受信電界レベルの算出手法例については後述する。
【0023】
送信電力補正部115は、上記正規受信電界レベル算出部114により算出された正規受信電界レベルに応じて送信電力を補正する。補正された送信電力を、ここでは、補正送信電力と称する。送信電力補正部115は、補正送信電力を算出する際、記憶部120に記憶されている通信パラメータテーブル121を利用する。なお、送信電力補正部115による補正送信電力の算出手法例については後述する。スイッチ切替制御部116は、フロントエンド部160におけるスイッチ161の切替制御を実行するための機能部である。
【0024】
[データ構造例]
次に、図3を参照して、記憶部120に記憶される通信パラメータテーブル121およびチャネル対応周波数特性テーブル122の構造例について説明する。図3(a)は、通信パラメータテーブル121の構造例を示している。この図に示すように、通信パラメータテーブル121は、予め規定された転送速度ごとに対応して、基準送信電力と最小受信電界レベルの各パラメータが対応付けられた構造を有する。基準送信電力は、対応の転送速度の条件下で最適であるとして定められた送信電力である。最小受信電界レベルは、対応の転送速度の条件下での通信を保証するのに必要最小限とされる受信電界レベルを示している。なお、これら基準送信電力および最小受信電界レベルの各々は、例えば一定の条件下での試験結果やシミュレーションなどに基づいて求めることができる。
【0025】
図3(a)では、例として、転送速度(6Mbps)に対応して、基準送信電力(13.0dBm)、最小受信電界レベル(−82dBm)が示される。また、転送速度(12Mbps)に対応して、基準送信電力(12.5dBm)、最小受信電界レベル(−80dBm)が示される。また、転送速度(18Mbps)に対応して、基準送信電力(12.0dBm)、最小受信電界レベル(−79dBm)が示される。
【0026】
図3(b)は、チャネル対応周波数特性テーブル122の構造例を示している。この図に示すように、チャネル対応周波数特性テーブル122は、無線LAN規格にて規定されるチャネル(ch)ごとに対応して周波数特性(dB)が対応付けられている。これらの周波数特性は、フロントエンド部160に相当する送受信回路についてのものであり、例えば予め行った測定やシミュレーションなどに基づいて定めることができる。この図では、具体例として、チャネル(1ch)に対応して、周波数特性(−1dB)とされている。また、チャネル(6ch)に対応して、周波数特性(+2dB)とされ、チャネル(9ch)に対応して、周波数特性(+1dB)とされている。
【0027】
図4は、RAM130に記憶される測定受信電界レベルテーブル131の構造例を示している。この図に示すように、測定受信電界レベルテーブル131は、無線LANにて規定されるチャネル(ch)ごとに測定受信電界レベル(dBm)を対応付けた構造を有する。測定受信電界レベルは、前述の受信電界レベル測定部113により測定されたものである。なお、図4においては、チャネルごとに対応して、補正周波数特性(dB)および正規受信電界レベル(dBm)が示されている。これら補正周波数特性および正規受信電界レベルは正規受信電界レベル算出部114がチャネルごとに対応して算出可能なものであり、後述する正規受信電界レベル算出部114の処理手順の説明を分かりやすくするための便宜として示している。したがって、これら補正周波数特性および正規受信電界レベルは、測定受信電界レベルテーブル131の構造に必ずしも含められるべきものではない。ただし、これらの補正周波数特性および正規受信電界レベルの値が算出されたことに応じて、図の構造により測定受信電界レベルテーブル131に追加して格納することとしてもよい。
【0028】
[処理手順例]
図5は、無線通信装置100が実行する送信電力制御のための処理手順例を示している。なお、この図に示す処理は、図2に示した制御部110の各機能部が適宜実行するものとしてみることができる。
【0029】
ステップS101において、スイッチ切替制御部116は、無線LAN通信部140とアンテナ162とが接続されるようにスイッチ161を切り替えるための制御を実行する。次に、通信制御部111は、ステップS102において、無線LAN通信部140により、例えばネゴシエーションに相当する通信を通信相手の無線通信装置との間で実行させる。この通信により、通信制御部111は、MACアドレスなどをはじめとする、通信相手の無線通信装置に関する所定の情報を取得する。
【0030】
次に、スイッチ切替制御部116は、ステップS103において、ブルートゥース通信部150とアンテナ162とが接続されるようにスイッチ161を切り替える。この状態の下で、通信制御部111は、ステップS104において、ブルートゥース通信部150により、ネゴシエーションに相当する通信を通信相手の無線通信装置との間で実行させる。これにより、無線通信装置100は、通信相手の無線通信装置のBD(Bluetooth Device)アドレスなどをはじめとする通信相手の無線通信装置に関する所定の情報を取得する。
【0031】
次に、チャネル・転送速度・送信電力設定部112は、ステップS105において、上記ステップS102により通信制御部111が取得した情報に基づいて、無線LAN通信部のための転送速度と使用チャネルを決定する。そして、決定した転送速度と使用チャネルを無線LAN通信部140に設定する。また、チャネル・転送速度・送信電力設定部112は、ステップS106において送信電力を決定し、この決定した送信電力を無線LAN通信部140に設定する。チャネル・転送速度・送信電力設定部112は、送信電力を決定する際、通信パラメータテーブル121を参照して、上記ステップS105において設定した転送速度に対応する基準送信電力を認識する。この認識された基準送信電力が、上記ステップS106において決定される送信電力となる。
【0032】
次に、スイッチ切替制御部116は、ステップS107において、無線LAN通信部140とアンテナ162が接続されるようにスイッチ161の切替制御を実行する。そして、この状態の下で、通信制御部111は、ステップS108において、無線LAN通信部140に通信相手の無線通信装置に対するデータ送信を開始させる。この際、無線LAN通信部140は、ステップS105およびステップS106により設定された転送速度、使用チャネルおよび送信電力により通信を実行することになる。
【0033】
この後、スイッチ切替制御部116は、ステップS109においてブルートゥース通信部150とアンテナ162が接続されるようにスイッチ161を切り替える、そして、この状態のもとで、受信電界レベル測定部113は、ステップS110において、チャネルごとの受信電界レベルを測定する。このために、受信電界レベル測定部113は、ブルートゥース通信部150が通信に使用するチャネルを順次切り替え、切り替えられたチャネルごとにアンテナ162からブルートゥース通信部150に供給される受信信号のレベルを読み込む。そして、受信電界レベル測定部113は、この読み込みを行った受信信号のレベルに基づいて受信電界レベルを求める。そして、受信電界レベル測定部113は、このように測定したチャネルごとの受信電界レベルを、測定受信電界レベルテーブル131(図4参照)としてRAM130に保持させる。このステップS110による受信電界レベルの測定が終了すると、スイッチ切替制御部116は、ステップS111において、再度、無線LAN通信部140とアンテナ162とが接続されるようにスイッチ161の切り替えを行う。
【0034】
次に、正規受信電界レベル算出部114は、ステップS112において、正規受信電界レベルを算出する。この際、正規受信電界レベル算出部114は、RAM130に記憶される測定受信電界レベルテーブル131と、記憶部120に記憶されるチャネル対応周波数特性テーブル122とを利用する。なお、このステップS112としての正規受信電界レベル算出のための手順例については後述する。
【0035】
次に、送信電力補正部115は、ステップS113において補正送信電力を算出する処理を実行する。つまり、送信電力の補正値を取得する。この際、送信電力補正部115は、上記ステップS112によって算出された正規受信電界レベルと、記憶部120に記憶される通信パラメータテーブル121を利用する。なお、このステップS113としての補正送信電力算出の処理手順例については後述する。
【0036】
次に、チャネル・転送速度・送信電力設定部112は、ステップS114において、上記ステップS113により算出された補正送信電力を、無線LAN通信部140に対して設定する。そして、この補正送信電力が設定された状態の下で、通信制御部111は、ステップS115において無線LAN通信部140に対して一定時間のデータ転送を実行させる。
【0037】
通信制御部111は、ステップS116において、上記ステップS115によりデータ転送を実行させている一定時間内に、そのデータの転送が完了したか否かについて判定する。ここで、一定時間内にデータ転送が完了していない場合は、ステップS113により算出された補正送信電力が何らかの原因で適切ではなかったためにデータ送信がエラーになったということが推定される。そこで、この場合には、ステップS108に戻ることで、再度、補正送信電力を求めるための処理を実行する。そして、適切な補正送信電力が求められたことによりステップS116において一定時間内にデータ転送が完了したことを判定すると、これまでの送信電力制御を終了する。
【0038】
図6は、上記図5のステップS112としての正規受信電界レベル算出のための処理手順例を示している。正規受信電界レベル算出部114は、ステップS201において、RAM130に記憶される測定受信電界レベルテーブル131(図4参照)を参照する。そして、正規受信電界レベル算出部114は、ステップS202において、測定受信電界レベルテーブル131から、最小値の測定受信電界レベルに対応するチャネルを特定する。
【0039】
次に、正規受信電界レベル算出部114は、ステップS203において、記憶部120に記憶されるチャネル対応周波数特性テーブル122(図3(b)参照)を参照する。そして、正規受信電界レベル算出部114は、ステップS204において、補正周波数特性を算出する。つまり、チャネル対応周波数特性テーブル122に格納される周波数特性について補正を行う。
【0040】
上記ステップS204における補正周波数特性の算出は、具体例に次のように行う。ここで、測定受信電界レベルテーブル131において格納される測定受信電界レベルの最小値は、図4においてハッチングで示す、チャネル(9ch)の測定受信電界レベル(−78dBm)であるとする。この場合、ステップS202において、最小値の測定受信電界レベルに対応するチャネルは、チャネル(9ch)であると特定されることになる。測定受信電界レベルが最小値であるということは、対応のチャネルは、すべてのチャネルのうちで、通信に要する送信電力が最も少なくてすむものであり、したがって、最も通信が良好に行われるということを意味している。本実施の形態では、この最小値の測定受信電界レベルに対応するチャネルについて、外来ノイズの影響がない状態であるとみなす。
【0041】
そこで、正規受信電界レベル算出部114は、最小値の測定受信電界レベルに対応するチャネル(9ch)における受信信号の周波数特性を(0dB)と補正する。つまり、基準値として設定する。図3(b)に示すチャネル対応周波数特性テーブル122においてチャネル(9ch)に対応する周波数特性は(+1dB)となっている。この場合、チャネル対応周波数特性テーブル122において示される周波数特性は、(+1dB)の誤差を有していたことになる。そこで、正規受信電界レベル算出部114は、図3(b)の各チャネルの周波数特性から(+1dB)を減算して補正を行う。この結果は、図4における補正送信電力として示される。つまり、チャネル(1ch)については、図3(b)のチャネル対応周波数特性テーブル122に示される周波数特性(−1dB)が、図4の補正送信電力として示すように(−2dB)に補正される。同様に、チャネル(6ch)については、図3(b)のチャネル対応周波数特性テーブル122に示される周波数特性(+2dB)が、図4の補正送信電力として示すように(+1dB)に補正される。この補正は、チャネル対応周波数特性テーブル122に示される周波数特性について、基準値に対する偏差を求めているものと見ることができる。このように、正規受信電界レベル算出部114は、ステップS204において補正周波数特性を算出する。
【0042】
上記のように補正周波数特性が算出された後、正規受信電界レベル算出部114は、ステップS205において、以下のように正規受信電界レベルを算出する。測定受信電界レベルは外来ノイズの影響による変動分を含み得るが、前述のように、最小値の測定受信電界レベルについては、外来ノイズの影響はなく、例えば通信距離に応じた適正な値が測定されているものとしてみなしている。つまり、基準としてみなされる。また、補正周波数特性は、測定受信電界レベルが最小のチャネルの周波数特性を(0dB)にシフトしたことに応じて、他のチャネルについても同じシフト量を与えたものである。そこで、基準のチャネルの測定受信電界レベルに、そのチャネルの補正周波数特性の値を加算すれば、そのチャネルに対応する正確な受信電界レベルが求められることになる。つまり、外来ノイズの影響が排除され、例えば通信距離との対応が図られた正規受信電界レベルが求められることになる。
【0043】
具体的に、図4の例では、基準となるチャネル(9ch)の測定受信電界レベルは(−78dBm)であり、チャネル(6ch)の補正周波数特性は(+1dB)となっている。したがって、チャネル(6ch)の正規受信電界レベルは、
(−78dBm)+(1dB)=(−77dBm)
のように求めることができる。
【0044】
また、チャネル(1ch)の補正周波数特性は(−2dB)となっている。したがって、チャネル(1ch)の正規受信電界レベルは、
(−78dBm)+(−2dB)=(−80dBm)
のように求めることになる。このように、正規受信電界レベル算出部114は、各チャネルの正規受信電界レベルを求めることができる。なお、補正送信電力は、すべてのチャネルのうち、現在における使用チャネル(使用中のチャネル)のみについて求めればよい。したがって、ステップS204およびステップS205については、使用チャネルのみを対象として、それぞれ補正周波数特性と正規受信電界レベルを求めるようにすればよい。
【0045】
続いて、図7を参照して、図5のステップS113としての補正送信電力算出の処理手順例について説明する。まず、送信電力補正部115は、ステップS301において、無線LAN通信部140に設定された使用チャネルの正規受信電界レベルを取得する。ここで取得する正規受信電界レベルは、図5のステップS112により正規受信電界レベル算出部114により求められたものとなる。
【0046】
次に、送信電力補正部115は、ステップS302において、記憶部120に記憶される通信パラメータテーブル121から、無線LAN通信部140に設定された転送速度に対応する基準送信電力および最小受信電界レベルを取得する。
【0047】
送信電力補正部115は、ステップS303において、ステップS301により取得した使用チャネルの正規受信電界レベルと、ステップS302により取得した基準送信電力および最小受信電界レベルを利用して、以下のように補正送信電力を算出する。具体例として、使用チャネルは(1ch)であり、転送速度は(6Mbps)であるとする。図4の例により説明したように、チャネル(1ch)の正規受信電界レベルは(−80dBm)である。この正規受信電界レベル(−80dBm)と、通信パラメータテーブル121における転送速度(6Mbps)に対応する最小受信電界レベル(−82dBm)とを比較すると、正規受信電界レベル(−80dBm)のほうが(+2dB)大きい。このことは、通信パラメータテーブル121の同じ転送速度(6Mbps)において、最小受信電界レベル(−82dBm)に対応する基準送信電力(13dBm)は、(+2dBm)が過剰であることを意味している。送信電力としては、基準送信電力(13dBm)から(+2dBm)を減算した(11dBm)が適切であることになる。つまり、補正送信電力は、
(基準送信電力)−((正規受信電界レベル)−(最小受信電界レベル))
のように求めればよい。この演算は、正規受信電界レベルに対する最小受信電界レベルの差分に応じて基準送信電力を増減することによって補正送信電力を求めているとみることができる。
【0048】
これまでの説明から理解されるように、本実施の形態では、外来ノイズの影響を排除した正しい受信電界レベルに基づいて適切な送信電力を設定することが可能となる。また、本実施の形態では、ブルートゥース通信部150によりチャネルの切り替えを行って受信電界レベルを測定している。このため、無線LAN通信部140は、図5のステップS108によりデータ送信を開始してからステップS115により完了するまで、同じ使用チャネルを継続して設定することができる。これにより、無線LAN通信部140は、使用チャネルを切り替えるたびに通信の切断と確立を繰り返す必要がないため転送効率の低下を最小限に抑えることができる。
【0049】
なお、上記実施の形態の無線通信装置100は、無線LANとブルートゥース(登録商標)による無線通信を行うように構成されているが、2つの無線通信方式としては、これら以外の組み合わせが採用されてもよい。また、本実施の形態の無線通信装置100の構成は、例えば携帯電話やPHS(Personal Handyphone System)などに適用することができるが、これ以外の機器にも適用することができる。
【0050】
また、本実施の形態において説明した処理手順は、これら一連の手順を有する方法として捉えることができる。また、これら一連の手順をコンピュータに実行させるためのプログラムまたはそのプログラムを記憶する記録媒体として捉えることができる。この記録媒体としては、例えば、ブルーレイディスク(Blu−ray Disc(登録商標))、DVD(Digital Versatile Disk)、HDD(ハードディスク)、メモリカード等を挙げることができる。
【符号の説明】
【0051】
100 無線通信装置
110 制御部
111 通信制御部
112 チャネル・転送速度・送信電力設定部
113 受信電界レベル測定部
114 正規受信電界レベル算出部
115 送信電力補正部
116 スイッチ切替制御部
120 記憶部
121 通信パラメータテーブル
122 チャネル対応周波数特性テーブル
131 測定受信電界レベルテーブル
140 無線LAN通信部
150 ブルートゥース通信部
160 フロントエンド部
161 スイッチ
162 アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の無線通信方式による無線通信を行う第1の無線通信手段と、
第2の無線通信方式による無線通信を行う第2の無線通信手段と、
複数のチャネルにおける1つのチャネルを使用した通信を第1の無線通信手段に実行させる通信制御手段と、
前記第2の無線通信手段による通信を実行させて、前記複数のチャネルごとに受信電界レベルを測定する受信電界レベル測定手段と、
前記チャネルごとに測定された受信電界レベルにおける最小値と、送受信回路の周波数特性とに基づいて、通信距離が正しく反映された正規受信電界レベルを使用中のチャネルに対応して求める正規受信電界レベル算出手段と、
前記正規受信電界レベルと、通信が保証される必要最小限の受信電界レベルとして定められる最小受信電界レベルに基づいて、当該最小受信電界レベルに対応して定められる基準送信電力を補正することにより補正送信電力を取得する送信電力補正手段と、
前記第1の無線通信手段に対して前記補正送信電力を設定する送信電力設定手段と、
を備えることを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記正規受信電界レベル算出手段は、
前記測定された受信電界レベルの最小値に対応するチャネルの周波数特性を所定の基準値に補正するとともに、他のチャネルの周波数特性を上記基準値に対する偏差値とする補正を行ったうえで、前記測定された受信電界レベルの最小値に対して使用中のチャネルの周波数特性の補正値を加算することにより前記正規受信電界レベルを算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記送信電力補正手段は、使用中のチャネルに対応して求められた前記正規受信電界レベルと前記最小受信電界レベルの差分値を求め、当該差分値に応じて前記基準送信電力を増減するように補正することで、前記補正送信電力を取得する、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
第1の無線通信方式に対応する第1の無線通信部に実行させる通信制御手順と、
第2の無線通信方式に対応する第2の無線通信部による通信を実行させて、前記複数のチャネルごとに受信電界レベルを測定する受信電界レベル測定手順と、
前記チャネルごとに測定された受信電界レベルにおける最小値と、送受信回路の周波数特性とに基づいて、通信距離が正しく反映された正規受信電界レベルを使用中のチャネルに対応して求める正規受信電界レベル算出手順と、
前記正規受信電界レベルと、通信が保証される必要最小限の受信電界レベルとして定められる最小受信電界レベルに基づいて、当該最小受信電界レベルに対応して定められる基準送信電力を補正することにより補正送信電力を取得する送信電力補正手順と、
前記第1の無線通信部に対して前記補正送信電力を設定する送信電力設定手順と、
を備えることを特徴とする送信電力制御方法。
【請求項5】
無線通信装置に、
第1の無線通信方式に対応する第1の無線通信部に実行させる通信制御手順と、
第2の無線通信方式に対応する第2の無線通信部による通信を実行させて、前記複数のチャネルごとに受信電界レベルを測定する受信電界レベル測定手順と、
前記チャネルごとに測定された受信電界レベルにおける最小値と、送受信回路の周波数特性とに基づいて、通信距離が正しく反映された正規受信電界レベルを使用中のチャネルに対応して求める正規受信電界レベル算出手順と、
前記正規受信電界レベルと、通信が保証される必要最小限の受信電界レベルとして定められる最小受信電界レベルに基づいて、当該最小受信電界レベルに対応して定められる基準送信電力を補正することにより補正送信電力を取得する送信電力補正手順と、
前記第1の無線通信部に対して前記補正送信電力を設定する送信電力設定手順と、
を実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−239056(P2012−239056A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107071(P2011−107071)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(310006855)NECカシオモバイルコミュニケーションズ株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】