無線通信装置
【課題】本発明は、入力磁界による渦電流の影響を抑制した、薄型、低コストの無線通信装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、非接触でデータの通信を行う無線通信装置1であり、前記無線通信装置1内にICチップ2とアンテナパターン4と周波数調整用キャパシタ5を有する無線通信装置1であって、前記周波数調整用キャパシタ5を形成する導体膜の内側に向かって外周部のみにスリット6が形成されたことを特徴とする無線通信装置1とする。
【解決手段】本発明は、非接触でデータの通信を行う無線通信装置1であり、前記無線通信装置1内にICチップ2とアンテナパターン4と周波数調整用キャパシタ5を有する無線通信装置1であって、前記周波数調整用キャパシタ5を形成する導体膜の内側に向かって外周部のみにスリット6が形成されたことを特徴とする無線通信装置1とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RF−ID(Radio Frequency Identification)やNFC(Near Field Communication)、即ちICカードやICタグなどの無線通信媒体との通信を行う無線通信媒体処理装置、あるいは無線通信媒体そのものに用いられる無線通信装置であり、電磁誘導方式、マイクロ波方式での通信性を向上させると共に、薄くて低コストの無線通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
RFID技術を用いたタグとして、情報を記憶したICチップをアンテナコイルに電気的に接続した非接触式タグが知られている。これら非接触式タグは、アンテナコイルにICカードリーダーライタから所定の周波数の電波を発信することで、タグ内のICチップを活性化し、リーダライタからのコマンドに応じてICチップに記憶された情報を読み取ることで、タグの識別が出来るようになる。このような非接触式タグやリーダライタに使用されるアンテナコイルとしては、主にループアンテナが用いられ、通信距離を伸ばすために導電性の磁性材を配置し、磁性材に発生する渦電流を防止するためにスリットが設けられている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−110290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、電力消費の大きいICチップを使用したICタグの場合、ICチップの入力インピーダンスが小さくなるため、アンテナコイルのインピーダンスも小さくする必要があるので、より高い通信性能を求める場合、アンテナコイルのインダクタンスを小さく設定しなければならない。しかし低インダクタンス回路を共振させようとすると大容量のキャパシタンスをインダクタンスと電気的に接続しなければならず、従来の構成ではアンテナコイルと電気的にキャパシタを接続できないという問題点が生じ、仮に導電性の磁性材をキャパシタに変えて配置しても、スリットが導電性の磁性材の中心まで設けられているため、スリット分のキャパシタの容量が減少してしまい、必要とする大容量のキャパシタを実現するのが困難であった。
【0004】
そこで、本発明は上記従来の問題を鑑み、低インダクタンス回路を共振させるための大容量キャパシタンスを無線通信装置内に構成しつつ、渦電流による反磁界の発生を抑制することを可能とした無線通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明は、非接触でデータの通信を行う無線通信装置であり、前記無線通信装置内にLSIとアンテナパターンと周波数調整用キャパシタを有する無線通信装置であって、前記周波数調整用キャパシタを形成する導体膜の内側に向かって外周部のみにスリットが形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の構成により、低インダクタンス回路を共振させるための大容量キャパシタンスを無線通信装置内に構成しつつ、渦電流による反磁界の発生を抑制することを可能とした無線通信装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の請求項1に記載の発明は、非接触でデータの通信を行う無線通信装置であり、無線通信装置内にLSIとアンテナパターンと周波数調整用キャパシタを有する無線通信装置であって、周波数調整用キャパシタを形成する導体膜の内側に向かって外周部のみにスリットが形成されたことを特徴とする無線通信装置であって、周波数調整用キャパシタを形成する導体膜にスリットを形成することで、渦電流の経路が複数の区分に分断され、スリットを挟んで対向する渦電流が互いの発生磁界を相殺し、渦電流による相殺磁界の総和を抑制することができる。また、スリット長さを抑制することで、周波数調整用キャパシタを形成する導電膜が、スリットによって削減される量を抑えつつ、渦電流による相殺磁界の総和を抑制することができる。
【0008】
本発明の請求項2に記載の発明は、アンテナパターンと周波数調整用キャパシタは、導体膜で形成され、積層構造であることを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置であって、導電膜を積層構造とすることで、キャパシタンスを大幅に増加させることができる。
【実施例】
【0009】
以下、本発明の実施例について以下図面を用いて説明する。
【0010】
図1は本発明の実施例における無線通信装置1の斜視図である。
【0011】
図1に表された無線通信装置1は、基板3の上にアンテナパターン4が形成されており、ICチップ2と電気的に接続されている。また基板3の各層の、ICチップ2の下部にあたる部分には、周波数調整用キャパシタ5が形成された構造となっている。周波数調整用キャパシタ5を形成する導電膜には、導電膜の外周から内側に向かって複数のスリット6が形成されている。
【0012】
以下、無線通信装置1の構成について説明する。
【0013】
まず基板3について説明する。基板3はICチップ2、アンテナパターン4、周波数調整用キャパシタ5などの電子部材を搭載するベース基板であり、本実施例では積層するために絶縁性を有する基板であればよく、例えば、ポリイミド、PET、ガラエポ基板等で形成することが可能である。
【0014】
次にアンテナパターン4について説明する。アンテナパターン4は、スパイラル状に形成される。スパイラルの構造としては、中央に開口部を備えたスパイラル形状であればよく、その形状は円形または略矩形または三角形や四角形に代表される多角形のいずれであってもよい。スパイラル構造とすることで、開口部に、リーダライタから発生された磁界を鎖交させ、誘導電力を誘起させ、ICチップを活性化させることで、ICチップに記憶された情報の読み取りが可能となり、リーダライタとの通信が可能となる。さらに、パターンの材質としては、導電性を有するものであればよく、金、銀、銅、アルミ、ニッケル等の導電性の金属製線材、金属製板材、金属製箔材、または金属製筒材等から適宜選択することができ、金属線、金属箔、導電性ペースト、めっき転写、スパッタ、蒸着、もしくは、スクリーン印刷により形成することができる。
【0015】
次に周波数調整用キャパシタ5について説明する。周波数調整用キャパシタ5は、アンテナパターン4の内側に形成されている。導体膜の材質としては、金、銀、銅、アルミ、ニッケル等の導電性の金属製線材、金属製板材、金属製箔材、または金属製筒材等から適宜選択することができ、金属線、金属箔、導電性ペースト、めっき転写、スパッタ、蒸着、もしくは、スクリーン印刷により形成することができる。
【0016】
また、周波数調整用キャパシタ5の形状は、後述するが、三角形状や四角形状等の多角形状および円形状のものでも構わないが、できるだけキャパシタの容量を増やすためには、アンテナパターン4の内周の形状に近い形状が、配置した際のスペースの無駄が少なく好ましい。
【0017】
次にスリット6について説明する。スリット6は周波数調整用キャパシタ5を形成する導電膜の外周から内側に向かって形成されている。スリット6はパターンエッチング等により形成することができる。
【0018】
次に、図2、および図3を用いて本発明の無線通信装置の構造について詳細に説明する。図2は本発明の実施例における基板の各層の銅箔パターン図であり、図3は本発明の実施例における回路図である。
【0019】
基板3はガラエポ基板からなり、図2(a)〜(b)に示されているように基板3の各層に、1ターンずつのアンテナパターン4と、1つずつの周波数調整用キャパシタ5を備えていて、周波数調整用キャパシタ5は基板3の中央部に形成されており、その外周にスリット6が設けられている。そして、周波数調整用キャパシタ5を囲うようにアンテナパターンが形成されている。
【0020】
アンテナパターン4および周波数調整用キャパシタ5は、両面銅箔の2つのガラエポ基板にパターンエッチングを行い、ガラエポ基板をガラエポ樹脂によって貼り合わせることによって形成されている。ビアaとビアa’、ビアbとビアb’、ビアcとビアc’、ビアdとビアd’とビアd’’、ビアeとビアe’とビアe’’は、それぞれIVH、またはスルーホールによって電気的に層間接続され、積層されている。
【0021】
上記説明した無線通信装置1は図3に示すような回路図となり、ICに備えられた2つのアンテナ端子と、LとCが並列に電気的に接続されており、並列共振回路で構成されている。本発明の実施例においては、図3のICがICチップ2、Lがアンテナパターン4、Cが周波数調整用キャパシタ5にあたる。回路としては並列共振回路とせず、直列共振回路で構成してもよい。
【0022】
スリット6は、周波数調整用キャパシタ5を形成する導電膜の外周から内側に向かってパターンエッチングを行うことで形成されている。周波数調整用キャパシタ5には、法線方向の磁界によって生じる渦電流によって反磁界が発生し、通信性能の低下に繋がるが、図4に示すように、スリット6を入れることで、スリット6を挟んで対向して流れる渦電流が互いの誘導磁界を打ち消すことで、反磁界の発生を抑制することができる。図5は、本発明の実施例における正方形の周波数調整用キャパシタ表面上に発生する磁界強度を表した図である。導電膜表面に流れる渦電流は、導電膜表面に発生する磁界強度に比例するため、図5の磁界強度を渦電流の強さに置き換えてもよい。図5に示すように、周波数調整用キャパシタ5の中心付近にはほとんど渦電流は流れておらず、渦電流は外周付近に集中しているため、スリットは渦電流が集中している部分のみにあればよく、スリットの長さを大幅に軽減することができる。
【0023】
例えば、相殺磁界の強さを10%に抑制するためには、スリット6の長さは、導電膜の外周から内側に1mm程度にすればよい。すなわち、渦電流の減少が大きい外周部分からスリット6を設けているため、スリット6によって導体膜が削減される量を抑制することができ、渦電流による反磁界の発生を抑制しつつキャパシタンスを維持することが可能となる。
【0024】
つまり、導体膜である周波数調整用キャパシタ5のキャパシタ容量の減少を抑えつつ渦電流を抑制するためには、渦電流があまり流れない内部にスリット6を設けるのではなく、渦電流が多く流れる外周部分のみにスリット6を設ける必要がある。
【0025】
以下、周波数調整用キャパシタ5の形状について説明する。まず、周波数調整用キャパシタ5が正方形である場合について説明する。
【0026】
周波数調整用キャパシタ5は、図6に示されているように正方形になっている。周波数調整用キャパシタ5の表面には、図4に示されているように鎖交磁束によって誘起される渦電流によって、周波数調整用キャパシタ5の表面に対して垂直方向に磁界が発生している。渦電流によって発生する磁界強度は、図5に示されているように、周波数調整用キャパシタ5のエッジで最も強く、中心に向かうに従って急激に弱くなっている。周波数調整用キャパシタ5の外周部から内側に向かってスリット6を形成すると、図4に示されているように、渦電流の経路がスリット6に沿うようになり、スリット6に対向して流れる渦電流によって発生する誘導磁界が、互いに打ち消しあう。すなわち、スリット6の、外周からの長さにあたる部分に流れる渦電流の経路が、スリット6に沿うようになり、その渦電流によって発生する誘導磁界が、互いに打ち消されることになる。周波数調整用キャパシタ5が正方形である場合、基板3上と基板3の内層に、4ターンのアンテナパターン4と、周波数調整用キャパシタ5が形成されており、外寸が9mm、内寸が8mmのアンテナパターン4と、1辺が7mmの周波数調整用キャパシタ5からなる。また、最大磁界強度を10%まで抑制するため、図5に示されているように、スリット6の長さを0.7mmとしている。
【0027】
なお、上述のように相殺磁界の強さを10%に抑制する必要がある場合には、0.7mm程度スリット6を設ければよいが、図5に示すように導電膜の外周から内側に0.5mm程度までは、渦電流が大きく減少しているため、スリット6を設けることによる周波数調整用キャパシタ5の容量の減少を考慮すると、導電膜の外周から内側に0.5mm程度スリット6を設けることが好ましい。
【0028】
次に、周波数調整用キャパシタ5が図7に示すように、正十角形である場合について説明する。周波数調整用キャパシタ5が正十角形である場合においても、正方形の場合と同様に、周波数調整用キャパシタ5の外周部から内側に向かってスリット6を形成することで、渦電流による誘導磁界を抑制することができる。正十角形の場合においては、基板3上と基板3の内層に、4ターンのアンテナパターン4と、周波数調整用キャパシタ5が形成されており、外寸が9mm、内寸が8mmのアンテナパターン4と、外寸が7mmの周波数調整用キャパシタ5からなる。また、最大磁界強度を10%まで抑制するため、図8に示されているように、スリット6の長さを1mmとしている。
【0029】
なお、スリット6を設けることによる周波数調整用キャパシタ5の容量の減少を考慮すると、導電膜の外周から内側に0.4mm程度スリット6を設けることが好ましいが、0.8mm程度でもよく、上述のように最大磁界強度を10%まで抑制する場合には1.0mmであってもよい。
【0030】
次に、周波数調整用キャパシタ5が図9に示すように、長方形である場合について説明する。周波数調整用キャパシタ5が長方形である場合においても、周波数調整用キャパシタ5の外周部から内側に向かってスリット6を形成することで、渦電流による誘導磁界を抑制することができる。長方形の場合においては、基板3上と基板3の内層に、4ターンのアンテナパターン4、周波数調整用キャパシタ5が形成されており、外寸が13mm×5mm、内寸が12mm×4mmのアンテナパターン4と、外寸が11mm×3mmの周波数調整用キャパシタ5からなる。また、最大磁界強度を10%まで抑制するため、図10に示されているように、スリット6の長さを0.6mmとしている。
【0031】
なお、スリット6を設けることによる周波数調整用キャパシタ5の容量の減少を考慮すると、導電膜の外周から内側に0.3mm程度スリット6を設けることが好ましい。
【0032】
以上のように、本発明は、相殺磁界の最大強度を10%まで抑制するために必要となるスリット長さを設定したが、10%に限定されるものではなく、抑制する量に見合ったスリット長さを設定してもよい。
【0033】
つまり、形状によってスリット6による渦電流の減少と、周波数調整用キャパシタ5の容量の減少との最適な効率を得ることができる長さは上記のように異なるため、必要なキャパシタの容量と必要な相殺磁界の最大強度とを考慮して、適宜選択すればよい。
【0034】
周波数調整用キャパシタ5に形成するスリット6は、図11に示されているように、周波数調整用キャパシタ5の外周部の4方向から中心に向かう形状だけでなく、例えば図12に示されているように、他方向から中心に向かう形状であってもよい。また、スリット6は、周波数調整用キャパシタ5の外周部から中心に向かう形状でなくてもよく、例えば図13に示されているように、外周から内側に向かう形状であればよい。
【0035】
また、スリット6の形状は上記実施例では方形状にしているが、三角形等の他の形状であってもよいが、スリット6によって向かいあう周波数調整用キャパシタ5は平行のほうが渦電流を打ち消す効果が最も高いため好ましい。
【0036】
なお、周波数調整用キャパシタ5とアンテナパターン4のギャップを広く設定した場合、周波数調整用キャパシタ5を通過する鎖交磁束が少なくなる。つまり、周波数調整用キャパシタ5の表面を流れる渦電流が小さくなるため、スリットの長さは小さくてもよい。また周波数調整用キャパシタ5とアンテナパターン4のギャップを狭く設定した場合、アンテナパターン4の鎖交磁束が小さくなることになり、通信特性の劣化に繋がる。周波数調整用キャパシタ5とアンテナパターン4の間には必要最低限のギャップは必要であり、本発明の実施例においては、周波数調整用キャパシタ5とアンテナパターン4のギャップを0.5mmに設定した。
【0037】
以上のように本発明によれば、キャパシタの容量の減少を比較的抑えつつ、渦電流の影響を抑えることができる。
【0038】
なお、上記図5、8,10は、周波数が13.56MHzの場合であり、これより周波数が高くなると、周波数調整用キャパシタ5の渦電流が外周側により集まるので、上記場合に比べ、スリット6は、短くすることができ、13.56MHzより、低い場合には、周波数調整用キャパシタ5の渦電流が内周にも分散するため、スリット6を長くする必要がある。
【0039】
また、積層した複数の周波数調整用キャパシタ5において、同じ位置、同じ形状で、さらにスリット6が同じ位置に設けられたほうが、コンデンサとしてキャパシタンスの容量が多くできるため好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の無線通信装置は、低インダクタンスの回路を持つ小型のアンテナ装置等の無線通信装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施例における無線通信装置の斜視図
【図2】本発明の実施例における基板の各層の銅箔パターン図
【図3】本発明の実施例における無線通信装置の回路図
【図4】本発明の周波数調整用キャパシタに渦電流が発生する状態を説明する平面図
【図5】本発明の実施例における正方形の周波数調整用キャパシタ表面上に発生する磁界強度を表した図
【図6】本発明の実施例1におけるアンテナパターンと正方形の周波数調整用キャパシタを示す平面図
【図7】本発明の実施例における正十角形の周波数調整用キャパシタを示す平面図
【図8】本発明の実施例における正十角形の周波数調整用キャパシタ表面上に発生する磁界強度を表した図
【図9】本発明の実施例における長方形の周波数調整用キャパシタを示す平面図
【図10】本発明の実施例における長方形の周波数調整用キャパシタ表面上に発生する磁界強度を表した図
【図11】本発明の実施例におけるスリットを示す平面図
【図12】本発明の他の実施例における他のスリットを示す平面図
【図13】本発明の他の実施例における他のスリットを示す平面図
【符号の説明】
【0042】
1 無線通信装置
2 ICチップ
3 基板
4 アンテナパターン
5 周波数調整用キャパシタ
6 スリット
【技術分野】
【0001】
本発明は、RF−ID(Radio Frequency Identification)やNFC(Near Field Communication)、即ちICカードやICタグなどの無線通信媒体との通信を行う無線通信媒体処理装置、あるいは無線通信媒体そのものに用いられる無線通信装置であり、電磁誘導方式、マイクロ波方式での通信性を向上させると共に、薄くて低コストの無線通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
RFID技術を用いたタグとして、情報を記憶したICチップをアンテナコイルに電気的に接続した非接触式タグが知られている。これら非接触式タグは、アンテナコイルにICカードリーダーライタから所定の周波数の電波を発信することで、タグ内のICチップを活性化し、リーダライタからのコマンドに応じてICチップに記憶された情報を読み取ることで、タグの識別が出来るようになる。このような非接触式タグやリーダライタに使用されるアンテナコイルとしては、主にループアンテナが用いられ、通信距離を伸ばすために導電性の磁性材を配置し、磁性材に発生する渦電流を防止するためにスリットが設けられている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−110290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、電力消費の大きいICチップを使用したICタグの場合、ICチップの入力インピーダンスが小さくなるため、アンテナコイルのインピーダンスも小さくする必要があるので、より高い通信性能を求める場合、アンテナコイルのインダクタンスを小さく設定しなければならない。しかし低インダクタンス回路を共振させようとすると大容量のキャパシタンスをインダクタンスと電気的に接続しなければならず、従来の構成ではアンテナコイルと電気的にキャパシタを接続できないという問題点が生じ、仮に導電性の磁性材をキャパシタに変えて配置しても、スリットが導電性の磁性材の中心まで設けられているため、スリット分のキャパシタの容量が減少してしまい、必要とする大容量のキャパシタを実現するのが困難であった。
【0004】
そこで、本発明は上記従来の問題を鑑み、低インダクタンス回路を共振させるための大容量キャパシタンスを無線通信装置内に構成しつつ、渦電流による反磁界の発生を抑制することを可能とした無線通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明は、非接触でデータの通信を行う無線通信装置であり、前記無線通信装置内にLSIとアンテナパターンと周波数調整用キャパシタを有する無線通信装置であって、前記周波数調整用キャパシタを形成する導体膜の内側に向かって外周部のみにスリットが形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の構成により、低インダクタンス回路を共振させるための大容量キャパシタンスを無線通信装置内に構成しつつ、渦電流による反磁界の発生を抑制することを可能とした無線通信装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の請求項1に記載の発明は、非接触でデータの通信を行う無線通信装置であり、無線通信装置内にLSIとアンテナパターンと周波数調整用キャパシタを有する無線通信装置であって、周波数調整用キャパシタを形成する導体膜の内側に向かって外周部のみにスリットが形成されたことを特徴とする無線通信装置であって、周波数調整用キャパシタを形成する導体膜にスリットを形成することで、渦電流の経路が複数の区分に分断され、スリットを挟んで対向する渦電流が互いの発生磁界を相殺し、渦電流による相殺磁界の総和を抑制することができる。また、スリット長さを抑制することで、周波数調整用キャパシタを形成する導電膜が、スリットによって削減される量を抑えつつ、渦電流による相殺磁界の総和を抑制することができる。
【0008】
本発明の請求項2に記載の発明は、アンテナパターンと周波数調整用キャパシタは、導体膜で形成され、積層構造であることを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置であって、導電膜を積層構造とすることで、キャパシタンスを大幅に増加させることができる。
【実施例】
【0009】
以下、本発明の実施例について以下図面を用いて説明する。
【0010】
図1は本発明の実施例における無線通信装置1の斜視図である。
【0011】
図1に表された無線通信装置1は、基板3の上にアンテナパターン4が形成されており、ICチップ2と電気的に接続されている。また基板3の各層の、ICチップ2の下部にあたる部分には、周波数調整用キャパシタ5が形成された構造となっている。周波数調整用キャパシタ5を形成する導電膜には、導電膜の外周から内側に向かって複数のスリット6が形成されている。
【0012】
以下、無線通信装置1の構成について説明する。
【0013】
まず基板3について説明する。基板3はICチップ2、アンテナパターン4、周波数調整用キャパシタ5などの電子部材を搭載するベース基板であり、本実施例では積層するために絶縁性を有する基板であればよく、例えば、ポリイミド、PET、ガラエポ基板等で形成することが可能である。
【0014】
次にアンテナパターン4について説明する。アンテナパターン4は、スパイラル状に形成される。スパイラルの構造としては、中央に開口部を備えたスパイラル形状であればよく、その形状は円形または略矩形または三角形や四角形に代表される多角形のいずれであってもよい。スパイラル構造とすることで、開口部に、リーダライタから発生された磁界を鎖交させ、誘導電力を誘起させ、ICチップを活性化させることで、ICチップに記憶された情報の読み取りが可能となり、リーダライタとの通信が可能となる。さらに、パターンの材質としては、導電性を有するものであればよく、金、銀、銅、アルミ、ニッケル等の導電性の金属製線材、金属製板材、金属製箔材、または金属製筒材等から適宜選択することができ、金属線、金属箔、導電性ペースト、めっき転写、スパッタ、蒸着、もしくは、スクリーン印刷により形成することができる。
【0015】
次に周波数調整用キャパシタ5について説明する。周波数調整用キャパシタ5は、アンテナパターン4の内側に形成されている。導体膜の材質としては、金、銀、銅、アルミ、ニッケル等の導電性の金属製線材、金属製板材、金属製箔材、または金属製筒材等から適宜選択することができ、金属線、金属箔、導電性ペースト、めっき転写、スパッタ、蒸着、もしくは、スクリーン印刷により形成することができる。
【0016】
また、周波数調整用キャパシタ5の形状は、後述するが、三角形状や四角形状等の多角形状および円形状のものでも構わないが、できるだけキャパシタの容量を増やすためには、アンテナパターン4の内周の形状に近い形状が、配置した際のスペースの無駄が少なく好ましい。
【0017】
次にスリット6について説明する。スリット6は周波数調整用キャパシタ5を形成する導電膜の外周から内側に向かって形成されている。スリット6はパターンエッチング等により形成することができる。
【0018】
次に、図2、および図3を用いて本発明の無線通信装置の構造について詳細に説明する。図2は本発明の実施例における基板の各層の銅箔パターン図であり、図3は本発明の実施例における回路図である。
【0019】
基板3はガラエポ基板からなり、図2(a)〜(b)に示されているように基板3の各層に、1ターンずつのアンテナパターン4と、1つずつの周波数調整用キャパシタ5を備えていて、周波数調整用キャパシタ5は基板3の中央部に形成されており、その外周にスリット6が設けられている。そして、周波数調整用キャパシタ5を囲うようにアンテナパターンが形成されている。
【0020】
アンテナパターン4および周波数調整用キャパシタ5は、両面銅箔の2つのガラエポ基板にパターンエッチングを行い、ガラエポ基板をガラエポ樹脂によって貼り合わせることによって形成されている。ビアaとビアa’、ビアbとビアb’、ビアcとビアc’、ビアdとビアd’とビアd’’、ビアeとビアe’とビアe’’は、それぞれIVH、またはスルーホールによって電気的に層間接続され、積層されている。
【0021】
上記説明した無線通信装置1は図3に示すような回路図となり、ICに備えられた2つのアンテナ端子と、LとCが並列に電気的に接続されており、並列共振回路で構成されている。本発明の実施例においては、図3のICがICチップ2、Lがアンテナパターン4、Cが周波数調整用キャパシタ5にあたる。回路としては並列共振回路とせず、直列共振回路で構成してもよい。
【0022】
スリット6は、周波数調整用キャパシタ5を形成する導電膜の外周から内側に向かってパターンエッチングを行うことで形成されている。周波数調整用キャパシタ5には、法線方向の磁界によって生じる渦電流によって反磁界が発生し、通信性能の低下に繋がるが、図4に示すように、スリット6を入れることで、スリット6を挟んで対向して流れる渦電流が互いの誘導磁界を打ち消すことで、反磁界の発生を抑制することができる。図5は、本発明の実施例における正方形の周波数調整用キャパシタ表面上に発生する磁界強度を表した図である。導電膜表面に流れる渦電流は、導電膜表面に発生する磁界強度に比例するため、図5の磁界強度を渦電流の強さに置き換えてもよい。図5に示すように、周波数調整用キャパシタ5の中心付近にはほとんど渦電流は流れておらず、渦電流は外周付近に集中しているため、スリットは渦電流が集中している部分のみにあればよく、スリットの長さを大幅に軽減することができる。
【0023】
例えば、相殺磁界の強さを10%に抑制するためには、スリット6の長さは、導電膜の外周から内側に1mm程度にすればよい。すなわち、渦電流の減少が大きい外周部分からスリット6を設けているため、スリット6によって導体膜が削減される量を抑制することができ、渦電流による反磁界の発生を抑制しつつキャパシタンスを維持することが可能となる。
【0024】
つまり、導体膜である周波数調整用キャパシタ5のキャパシタ容量の減少を抑えつつ渦電流を抑制するためには、渦電流があまり流れない内部にスリット6を設けるのではなく、渦電流が多く流れる外周部分のみにスリット6を設ける必要がある。
【0025】
以下、周波数調整用キャパシタ5の形状について説明する。まず、周波数調整用キャパシタ5が正方形である場合について説明する。
【0026】
周波数調整用キャパシタ5は、図6に示されているように正方形になっている。周波数調整用キャパシタ5の表面には、図4に示されているように鎖交磁束によって誘起される渦電流によって、周波数調整用キャパシタ5の表面に対して垂直方向に磁界が発生している。渦電流によって発生する磁界強度は、図5に示されているように、周波数調整用キャパシタ5のエッジで最も強く、中心に向かうに従って急激に弱くなっている。周波数調整用キャパシタ5の外周部から内側に向かってスリット6を形成すると、図4に示されているように、渦電流の経路がスリット6に沿うようになり、スリット6に対向して流れる渦電流によって発生する誘導磁界が、互いに打ち消しあう。すなわち、スリット6の、外周からの長さにあたる部分に流れる渦電流の経路が、スリット6に沿うようになり、その渦電流によって発生する誘導磁界が、互いに打ち消されることになる。周波数調整用キャパシタ5が正方形である場合、基板3上と基板3の内層に、4ターンのアンテナパターン4と、周波数調整用キャパシタ5が形成されており、外寸が9mm、内寸が8mmのアンテナパターン4と、1辺が7mmの周波数調整用キャパシタ5からなる。また、最大磁界強度を10%まで抑制するため、図5に示されているように、スリット6の長さを0.7mmとしている。
【0027】
なお、上述のように相殺磁界の強さを10%に抑制する必要がある場合には、0.7mm程度スリット6を設ければよいが、図5に示すように導電膜の外周から内側に0.5mm程度までは、渦電流が大きく減少しているため、スリット6を設けることによる周波数調整用キャパシタ5の容量の減少を考慮すると、導電膜の外周から内側に0.5mm程度スリット6を設けることが好ましい。
【0028】
次に、周波数調整用キャパシタ5が図7に示すように、正十角形である場合について説明する。周波数調整用キャパシタ5が正十角形である場合においても、正方形の場合と同様に、周波数調整用キャパシタ5の外周部から内側に向かってスリット6を形成することで、渦電流による誘導磁界を抑制することができる。正十角形の場合においては、基板3上と基板3の内層に、4ターンのアンテナパターン4と、周波数調整用キャパシタ5が形成されており、外寸が9mm、内寸が8mmのアンテナパターン4と、外寸が7mmの周波数調整用キャパシタ5からなる。また、最大磁界強度を10%まで抑制するため、図8に示されているように、スリット6の長さを1mmとしている。
【0029】
なお、スリット6を設けることによる周波数調整用キャパシタ5の容量の減少を考慮すると、導電膜の外周から内側に0.4mm程度スリット6を設けることが好ましいが、0.8mm程度でもよく、上述のように最大磁界強度を10%まで抑制する場合には1.0mmであってもよい。
【0030】
次に、周波数調整用キャパシタ5が図9に示すように、長方形である場合について説明する。周波数調整用キャパシタ5が長方形である場合においても、周波数調整用キャパシタ5の外周部から内側に向かってスリット6を形成することで、渦電流による誘導磁界を抑制することができる。長方形の場合においては、基板3上と基板3の内層に、4ターンのアンテナパターン4、周波数調整用キャパシタ5が形成されており、外寸が13mm×5mm、内寸が12mm×4mmのアンテナパターン4と、外寸が11mm×3mmの周波数調整用キャパシタ5からなる。また、最大磁界強度を10%まで抑制するため、図10に示されているように、スリット6の長さを0.6mmとしている。
【0031】
なお、スリット6を設けることによる周波数調整用キャパシタ5の容量の減少を考慮すると、導電膜の外周から内側に0.3mm程度スリット6を設けることが好ましい。
【0032】
以上のように、本発明は、相殺磁界の最大強度を10%まで抑制するために必要となるスリット長さを設定したが、10%に限定されるものではなく、抑制する量に見合ったスリット長さを設定してもよい。
【0033】
つまり、形状によってスリット6による渦電流の減少と、周波数調整用キャパシタ5の容量の減少との最適な効率を得ることができる長さは上記のように異なるため、必要なキャパシタの容量と必要な相殺磁界の最大強度とを考慮して、適宜選択すればよい。
【0034】
周波数調整用キャパシタ5に形成するスリット6は、図11に示されているように、周波数調整用キャパシタ5の外周部の4方向から中心に向かう形状だけでなく、例えば図12に示されているように、他方向から中心に向かう形状であってもよい。また、スリット6は、周波数調整用キャパシタ5の外周部から中心に向かう形状でなくてもよく、例えば図13に示されているように、外周から内側に向かう形状であればよい。
【0035】
また、スリット6の形状は上記実施例では方形状にしているが、三角形等の他の形状であってもよいが、スリット6によって向かいあう周波数調整用キャパシタ5は平行のほうが渦電流を打ち消す効果が最も高いため好ましい。
【0036】
なお、周波数調整用キャパシタ5とアンテナパターン4のギャップを広く設定した場合、周波数調整用キャパシタ5を通過する鎖交磁束が少なくなる。つまり、周波数調整用キャパシタ5の表面を流れる渦電流が小さくなるため、スリットの長さは小さくてもよい。また周波数調整用キャパシタ5とアンテナパターン4のギャップを狭く設定した場合、アンテナパターン4の鎖交磁束が小さくなることになり、通信特性の劣化に繋がる。周波数調整用キャパシタ5とアンテナパターン4の間には必要最低限のギャップは必要であり、本発明の実施例においては、周波数調整用キャパシタ5とアンテナパターン4のギャップを0.5mmに設定した。
【0037】
以上のように本発明によれば、キャパシタの容量の減少を比較的抑えつつ、渦電流の影響を抑えることができる。
【0038】
なお、上記図5、8,10は、周波数が13.56MHzの場合であり、これより周波数が高くなると、周波数調整用キャパシタ5の渦電流が外周側により集まるので、上記場合に比べ、スリット6は、短くすることができ、13.56MHzより、低い場合には、周波数調整用キャパシタ5の渦電流が内周にも分散するため、スリット6を長くする必要がある。
【0039】
また、積層した複数の周波数調整用キャパシタ5において、同じ位置、同じ形状で、さらにスリット6が同じ位置に設けられたほうが、コンデンサとしてキャパシタンスの容量が多くできるため好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の無線通信装置は、低インダクタンスの回路を持つ小型のアンテナ装置等の無線通信装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施例における無線通信装置の斜視図
【図2】本発明の実施例における基板の各層の銅箔パターン図
【図3】本発明の実施例における無線通信装置の回路図
【図4】本発明の周波数調整用キャパシタに渦電流が発生する状態を説明する平面図
【図5】本発明の実施例における正方形の周波数調整用キャパシタ表面上に発生する磁界強度を表した図
【図6】本発明の実施例1におけるアンテナパターンと正方形の周波数調整用キャパシタを示す平面図
【図7】本発明の実施例における正十角形の周波数調整用キャパシタを示す平面図
【図8】本発明の実施例における正十角形の周波数調整用キャパシタ表面上に発生する磁界強度を表した図
【図9】本発明の実施例における長方形の周波数調整用キャパシタを示す平面図
【図10】本発明の実施例における長方形の周波数調整用キャパシタ表面上に発生する磁界強度を表した図
【図11】本発明の実施例におけるスリットを示す平面図
【図12】本発明の他の実施例における他のスリットを示す平面図
【図13】本発明の他の実施例における他のスリットを示す平面図
【符号の説明】
【0042】
1 無線通信装置
2 ICチップ
3 基板
4 アンテナパターン
5 周波数調整用キャパシタ
6 スリット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非接触でデータの通信を行う無線通信装置であり、前記無線通信装置内にLSIとアンテナパターンと周波数調整用キャパシタを有する無線通信装置であって、前記周波数調整用キャパシタを形成する導体膜の内側に向かって外周部のみにスリットが形成されたことを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記アンテナパターンと前記周波数調整用キャパシタは、導体膜で形成され、積層構造であることを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項1】
非接触でデータの通信を行う無線通信装置であり、前記無線通信装置内にLSIとアンテナパターンと周波数調整用キャパシタを有する無線通信装置であって、前記周波数調整用キャパシタを形成する導体膜の内側に向かって外周部のみにスリットが形成されたことを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記アンテナパターンと前記周波数調整用キャパシタは、導体膜で形成され、積層構造であることを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−253797(P2009−253797A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101224(P2008−101224)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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