説明

無線通信装置

【課題】アンテナ効率が向上した高性能のアンテナを実現するアンテナ一体型モジュールを備えた無線通信装置を提供する。
【解決手段】無線通信装置1は、断面長方形状の貫通孔3を有する実装基板2と、貫通孔3を覆って実装基板2に実装されたアンテナ一体型モジュール4とを備え、アンテナ一体型モジュール4の貫通孔3に露出する面には、放射波を放射するパッチアンテナ5が設けられ、アンテナ一体型モジュール4と実装基板2との間には、パッチアンテナ5を囲むように環状接地シート6が配置され、貫通孔3の長辺の長さaが、放射波の波長λに対して、λ/2≦a≦λ、となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ機能を有するマイクロ波・ミリ波無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイビジョン映像信号の無線伝送が注目されており、大容量情報を伝達する必要から、広い帯域を確保できるミリ波を用いた無線映像伝送装置の開発が試みられている。ミリ波帯においては、アンテナと高周波回路を別々に形成してコネクタ等で接続した場合、その接続部での電力の損失が大きくなる。この接続部の損失を低減するために、アンテナと高周波回路を一つのモジュール内に収めたアンテナ一体型モジュールの開発が行われている。
【0003】
上記アンテナ一体型モジュールの一例として、たとえば特許文献1に開示されている。図7は、従来の無線通信装置に設けられたアンテナ一体型モジュールの構成を説明するための図である。このアンテナ一体型モジュールは、図7に示すように、第1誘電体基板902にアンテナ素子903とそのアンテナ素子903に給電するための高周波線路904・905とが形成されたアンテナ回路基板Aと、第2誘電体基板907の一部に形成されたキャビティ908内に高周波デバイス909が収納されて蓋体910で封止され、高周波デバイス909に信号を伝達するための伝送線路911・912が形成された高周波基板Bとを積層一体化している。
【特許文献1】特開平9−237867号公報(平成9年(1997)9月9日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記構成を有するアンテナ一体型モジュールにおいては、以下に示すような問題がある。すなわち、高周波回路で発生した高周波信号の大部分はアンテナから放射されるが、一部は表面波となってアンテナ回路基板Aの面上を伝播し、基板端から放射される。低コスト化のためにアンテナ一体型モジュールのサイズを小さくしていった場合、基板端から放射される表面波の影響が大きくなり、アンテナ効率が低下する。
【0005】
本発明の目的は、アンテナ効率が向上した高性能のアンテナを実現するアンテナ一体型モジュールを備えた無線通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る無線通信装置は、上記課題を解決するために、断面長方形状の貫通孔を有する実装基板と、前記貫通孔を覆って前記実装基板に実装されたアンテナ一体型モジュールとを備え、前記アンテナ一体型モジュールの前記貫通孔に露出する面には、放射波を放射するパッチアンテナが設けられ、前記アンテナ一体型モジュールと前記実装基板との間には、前記パッチアンテナを囲むように環状接地部が配置され、前記貫通孔の長辺の長さaが、前記放射波の波長λに対して、λ/2≦a≦λ、となっていることを特徴とする。
【0007】
上記の特徴によれば、貫通孔の長辺の長さaが、前記放射波の波長λに対して、λ/2≦a≦λ、となっている。このため、放射に最適なTE10モードのみが低損失に伝播できる。仮にa<λ/2の場合は、TE10モードがカットオフとなり、大きく減衰する(他に伝播できるモードはない)。a>λの場合は、TE10モードの一部がTE20モードに変換されて効率が落ちる。
【0008】
本発明に係る無線通信装置では、前記貫通孔の短辺の長さbが、前記放射波の波長λに対して、0<b≦λ/2、となっていることが好ましい。
【0009】
上記構成によれば、前記貫通孔の短辺の長さbが、前記放射波の波長λに対して、0<b≦λ/2、となっているので、電磁波に対して垂直な電磁波がカットオフされ、偏波比を向上させることができる。仮にb>λ/2となると、例えば、実装ばらつき等により構造の左右のバランスが崩れている場合、電磁波に対して垂直な電磁波が発生して、偏波比が低下する可能性がある。b=a/2と設定した場合は、aが上限値のλに等しい場合でも、b=λ/2となり、電磁波に対して垂直な電磁波がカットオフされる。
【0010】
本発明に係る無線通信装置では、前記貫通孔の内壁には、前記実装基板の表面導体と裏面導体とを電気的に接続する内壁導体が形成されていることが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、電波が貫通孔を通過する際の損失を低減できるため、アンテナ効率が向上する。
【0012】
本発明に係る無線通信装置では、前記貫通孔と実質的に同一の開口寸法を有する接続部を備えたホーンアンテナが前記貫通孔に接続されていることが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、アンテナから放射された電波はすべてホーンアンテナから放射されるため、高効率のアンテナが形成できる。
【0014】
本発明に係る無線通信装置では、前記ホーンアンテナと接続されて前記アンテナ一体型モジュールを収納する筐体をさらに備えることが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、小型で軽量な無線通信装置が実現できる。また、アンテナ一体型モジュール内で発生した熱は、筐体内に籠らず、ホーンアンテナから外部に放出されるため、アンテナ一体型モジュールの信頼性が向上する。
【0016】
本発明に係る無線通信装置は、上記課題を解決するために、断面円形状の貫通孔を有する実装基板と、前記貫通孔を覆って前記実装基板に実装されたアンテナ一体型モジュールとを備え、前記アンテナ一体型モジュールの前記貫通孔に露出する面には、放射波を放射するパッチアンテナが設けられ、前記アンテナ一体型モジュールと前記実装基板との間には、前記パッチアンテナを囲むように環状接地部が配置され、前記貫通孔の直径eが、前記放射波の波長λに対して、λ/1.706≦e≦λ/1.3065、となっていることを特徴とする。
【0017】
この特徴によれば、貫通孔の直径eが、前記放射波の波長λに対して、λ/1.706≦e≦λ/1.3065、となっている。e=λ/1.706は円形導波管のTE11モードがカットオフとなる寸法であり、e=λ/1.3065は円形導波管の最初の高次モードであるTM01がカットオフとなる寸法である。e<λ/1.706の場合は、TE11モードがカットオフとなり、大きく減衰する(他に伝播できるモードはない)。e>λ/1.3065の場合は、TE11モードの一部がTM01モードに変換されて効率が落ちる。したがって、λ/1.706≦e≦λ/1.3065とすることにより、放射に最適なTE11モードのみが低損失に伝播できる。
【0018】
本発明に係る無線通信装置では、前記貫通孔の内壁には、前記実装基板の表面導体と裏面導体とを電気的に接続する内壁導体が形成されていることが好ましい。
【0019】
本発明に係る無線通信装置では、前記貫通孔と実質的に同一の開口寸法を有する接続部を備えたホーンアンテナが前記貫通孔に接続されていることが好ましい。
【0020】
本発明に係る無線通信装置では、前記ホーンアンテナと接続されて前記アンテナ一体型モジュールを収納する筐体をさらに備えることが好ましい。
【0021】
本発明に係る無線通信装置では、下部円形開口部と上部円形開口部とを有するすり鉢状構造体と、前記すり鉢状構造体を覆う誘電体レンズとをさらに備え、前記下部円形開口部が上記貫通孔上に配置され、前記誘電体レンズが前記上部円形開口部を覆って配置されていることが好ましい。
【0022】
上記構成によれば、パッチアンテナから放射された電波はすべて誘電体レンズから放射されるため、高効率のアンテナが形成できる。
【0023】
本発明に係る無線通信装置では、上記すり鉢状構造体は、前記下部円形開口部の中心が前記誘電体レンズの焦点となるように深さが設定されていることが好ましい。
【0024】
上記構成によれば、誘電体レンズから放射される電波は、平面波に変換されるため、より高利得のアンテナが実現できる。
【0025】
本発明に係る無線通信装置では、前記下部円形開口部の直径は、上記貫通孔の長辺の長さと実質的に等しいことが好ましい。
【0026】
上記構成によれば、貫通孔から放射された電波が散乱されることなく、誘電体レンズに入射されるのである。
【0027】
本発明に係る無線通信装置では、上部円形開口部の直径は、前記誘電体レンズの直径と実質的に等しいことが好ましい。
【0028】
上記構成によれば、貫通孔から放射された電波が誘電体レンズの周辺部まで有効に入射させることができるため、誘電体レンズの開口効率を高めることができる。
【0029】
本発明に係る無線通信装置では、前記すり鉢状構造体が、前記アンテナ一体型モジュールを収納する筐体に一体成型されていることが好ましい。
【0030】
上記構成によれば、アンテナを一体化した小型で高性能な無線通信装置が実現できる。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る無線通信装置は、以上のように、貫通孔の長辺の長さaが、放射波の波長λに対して、λ/2≦a≦λ、となっているので、放射に最適なTE10モードのみが低損失に伝播できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の一実施形態について図1ないし図6、図8、図9に基づいて説明すると以下の通りである。
【0033】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る無線通信装置1の構成を示す図であり、(a)は無線通信装置1に設けられた実装基板2の平面図であり、(b)は無線通信装置1の断面図であり、(c)は無線通信装置1に設けられたアンテナ一体型モジュール4の平面図である。
【0034】
図1(c)は、アンテナ一体型モジュール4をアンテナ面から見た図である。図1(a)には、実装基板2の貫通孔3の寸法a・bが示されている。
【0035】
無線通信装置1は、実装基板2を備えている。実装基板2には、断面長方形状の貫通孔3が形成されている。無線通信装置1には、貫通孔3を覆って実装基板2に実装されたアンテナ一体型モジュール4が設けられている。アンテナ一体型モジュール4の貫通孔3に露出する面には、放射波を放射するパッチアンテナ5が設けられている。アンテナ一体型モジュール4と実装基板2との間には、パッチアンテナ5を囲むように環状接地シート6が、貫通孔3の内壁に沿って配置されている。
【0036】
貫通孔3の長辺の長さaは、パッチアンテナ5が放射する放射波の波長λに対して、
λ/2≦a≦λ、
となっている。このため、放射に最適なTE10モードのみが低損失に伝播できる。仮にa<λ/2の場合は、TE10モードがカットオフとなり、大きく減衰する(他に伝播できるモードはない)。a>λの場合は、TE10モードの一部がTE20モードに変換されて効率が落ちる。
【0037】
貫通孔3の短辺の長さbは、放射波の波長λに対して、
0<b≦λ/2、
となっている。
【0038】
貫通孔3の短辺の長さbが、放射波の波長λに対して、0<b≦λ/2、となっていると、電磁波に対して垂直な電磁波がカットオフされ、偏波比を向上させることができる。仮にb>λ/2となると、例えば、実装ばらつき等により構造の左右のバランスが崩れている場合、電磁波に対して垂直な電磁波が発生して、偏波比が低下する可能性がある。b=a/2と設定した場合は、aが上限値のλに等しい場合でも、b=λ/2となり、電磁波に対して垂直な電磁波がカットオフされる。
【0039】
貫通孔3の内壁には、実装基板2の表面導体13と裏面導体14とを電気的に接続する内壁導体12が形成されている。
【0040】
アンテナ一体型モジュール4は、アンテナ一体型モジュール基板17と、ふた18とで構成される。アンテナ一体型モジュール基板17のアンテナ面には、所定の間隔を空けて形成された複数の接続端子16が、環状接地シート6を挟むように配置されている。
【0041】
アンテナ一体型モジュール基板17には、所定の間隔を空けて配置された複数のスルーホール15が、環状接地シート6と重なる位置に形成されている。環状接地シート6は、スルーホール15を介して、アンテナ一体型モジュール基板17の内部に形成されたモジュール内層地板20と接続されている。アンテナ一体型モジュール基板17は、低温焼成セラミックの多層基板で作製した。
【0042】
一方、実装基板2は、アンテナ一体型モジュール4側に接地面を有し、貫通孔3の内壁導体12を介して実装基板2の反対面の表面導体13と接続されており、電気的に導通する。実装基板2は、ガラスエポキシのプリント基板で形成した。
【0043】
アンテナ一体型モジュール基板17の環状接地シート6と、実装基板2の裏面導体14(接地面)は半田付け(図示せず)によって接続されている。また、アンテナ一体型モジュール4の接続端子16は、実装基板2の接続端子19と半田付けにより接続されている。さらに実装基板2において、環状接地シート6によって囲まれる内側の領域と重なる部分は、ドリルで形成された貫通孔3となっている。貫通孔3の内壁には内壁導体12が形成されている。貫通孔3の断面は図1(a)に示すように長方形となっており、この寸法は導波管規格WR−15と同一の寸法、すなわちa=3.8mm、b=1.9mmとなっている。もっとも貫通孔3の断面の形状は、必ずしも正確な長方形である必要はなく、貫通孔形成時のドリルの丸形状が四隅に残っても差し支えない。
【0044】
パッチアンテナ5は、スルーホール15を介して反対面の高周波回路(図示せず)に接続されている。高周波回路は、基板17上の伝送線路や半導体集積回路で構成されている。
【0045】
ここで、60GHz帯送信機としての無線通信装置1の動作について説明する。高周波回路で発生した60GHz帯の高周波信号は、その大部分がパッチアンテナ5から空間に放射されるが、環状接地シート6、裏面導体14、内層地板20、スルーホール15、及び内壁導体12で形成される領域が電波を閉じ込める金属壁として働き、電波は正面方向(パッチアンテナ5からアンテナ一体型モジュール4の基板17に垂直な方向)へのみ伝播する。ところで導波管規格WR−15は、周波数が約50GHz〜75GHzのTE10モードのみを伝播する。貫通孔3は、導波管規格WR−15の寸法とほぼ同一となっているため、パッチアンテナ5から放射された60GHz帯の高周波信号は高次モードに変換されることなく、貫通孔3を伝播し、そのまま正面方向に導かれて放射される。貫通孔3の内壁は内壁導体12が形成されているため、貫通孔3内ではほとんど損失がないのである。貫通孔3の開口形状に関しては、必ずしも導波管規格と同一にする必要はなく、長辺の長さaが、放射波の波長λに対してλ/2≦a≦λを満たしていればよい。ここで、a=λ/2は矩形導波管のTE10モードがカットオフとなる寸法であり、a=λは矩形導波管の最初の高次モードであるTE20がカットオフとなる寸法である。ただし、導波管規格と同一に設定することにより、導波管を介してアンテナと測定器を接続することが可能となり、たとえば量産時の検査時間を短縮することが可能となる。
【0046】
アンテナ一体型モジュール4は、高温焼成セラミックの多層基板で構成してもよい。実装基板2はテフロン(登録商標)系のプリント基板で形成してもよい。また高周波回路(図示せず)の構成を変更することにより受信機としても使用できる。
【0047】
図2は、無線通信装置1に設けられたホーンアンテナ9の構成を示す図であり、(a)はその平面図であり、(b)はその正面断面図である。貫通孔3と実質的に同一の開口寸法を有する接続部10を備えたホーンアンテナ9が貫通孔3に接続されている。
【0048】
前述した図1に示す構成と異なる点は、実装基板2の貫通孔3の正面側の開口部分に、貫通孔3とほぼ同一の開口寸法(すなわち導波管規格WR−15の開口寸法)の接続部10を有するホーンアンテナ9が接続されている点である。ホーンアンテナ9は、アルミ等の金属で形成する。ホーンアンテナ9の長さhと、先端部の開口寸法c・dを適宜設定することにより、所望の指向性を実現することが可能となる。
【0049】
指向性に関しては誘電体レンズを用いても調整が可能である。しかしながら、仮にパッチアンテナ5に誘電体レンズを組み合わせた場合、パッチアンテナ5からの放射波のすべてを誘電体レンズに入射させることは不可能で、放射波の一部は誘電体レンズからスピルオーバーする。このためアンテナ効率は低下する。これに対して、本実施の形態のホーンアンテナ9を用いた構造は、パッチアンテナ5から放射された電波がすべてホーンアンテナ9から放射されるため、高効率のアンテナが形成できるのである。
【0050】
図3(a)〜図3(c)は、無線通信装置1のアンテナ指向性を示すグラフである。図3(a)は、ホーンアンテナ9無しのときのアンテナ指向性を示しており、図3(b)は、図2(a)(b)に示す構成においてh=11mm、c=6.5mm、d=5mmであるときのアンテナ指向性を示している。図3(c)は、h=11mm、c=11.7mm、d=9mmであるときの放射パターンを示したものである。横軸は正面方向に対する角度を示し、縦軸はアンテナ利得を示す。正面方向のアンテナ利得は、図3(a)では約5dBiとなっており、図3(b)では約10dBiとなっており、図3(c)約15dBiとなっている。ホーンアンテナ9の開口寸法の設定により、指向性が調整できることが分かる。
【0051】
図4は、無線通信装置の筐体11を示す図であり、(a)はその平面図であり、(b)はその断面図である。図4に示す無線通信装置は、図2で示した無線通信装置を筐体11内に組み込んだものである。筐体11はプラスチックで形成されている。実装基板2には、アンテナ一体型モジュール4の他、キャパシタや抵抗等の表面実装部品21が実装されている。ホーンアンテナ9は、筐体11にビス(図示せず)等で取り付けられている。
【0052】
実装基板2は、ビス23により筐体11内部に取り付けられているが、ホーンアンテナ9の高さを適切に設定しておくことにより、実装基板2を筐体11に取り付けた際に、ホーンアンテナ9の接続部10を実装基板2とちょうど接触させることができる。この構造により、従来は、導波管部品と組み合わせるしか方法がなかったホーンアンテナ9を、小型で軽量な無線通信装置1に組み入れることが可能となり、すぐれたアンテナ特性を有する無線通信装置が実現できる。
【0053】
さらに、ここでは軽量化のためにプラスチックによって構成した筐体11を用いているが、通常プラスチックは熱伝導性が低く、放熱作用に乏しい。しかしながら、金属性のホーンアンテナ9を実装基板2に接触させることにより、アンテナ一体型モジュール4内部で発生した熱がホーンアンテナ9を介して速やかに外部に放熱されるため、熱が筐体11内に籠らず、無線通信装置1の信頼性が向上するという副次的な効果が得られた。
【0054】
以上のように実施の形態1によれば、パッチアンテナ5から放射された高周波信号が、高次モードに変換されることなく正面方向にのみ伝播されるため、アンテナの効率が上がる。
【0055】
また、無線通信装置は矩形導波管の規格品と接続が容易となり検査時間の短縮が可能となる。
【0056】
(実施の形態2)
図5は、実施の形態2に係る無線通信装置1aの構成を示す図であり、(a)は無線通信装置1aに設けられた実装基板2aの平面図であり、(b)は無線通信装置1aの断面図であり、(c)は無線通信装置1aに設けられたアンテナ一体型モジュール4aの平面図である。
【0057】
実施の形態1で前述した構成要素と同一・類似の構成要素には、同一・類似の参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。実施の形態1と異なる点は、環状接地シート6aおよび貫通孔3aの開口が円形である点である。
【0058】
無線通信装置1aは、実装基板2aを備えている。実装基板2aには、断面円形状の貫通孔3aが形成されている。無線通信装置1aには、貫通孔3aを覆って実装基板2aに実装されたアンテナ一体型モジュール4aが設けられている。アンテナ一体型モジュール4aの貫通孔3aに露出する面には、放射波を放射するパッチアンテナ5が設けられている。アンテナ一体型モジュール4aと実装基板2aとの間には、パッチアンテナ5を囲むように環状接地シート6aが、貫通孔3aの内壁に沿って配置されている。
【0059】
貫通孔3aの直径eは、パッチアンテナ5からの放射波の波長λに対して、
λ/1.706≦e≦λ/1.3065、
となっている。
【0060】
e=λ/1.706は円形導波管のTE11モードがカットオフとなる寸法であり、e=λ/1.3065は円形導波管の最初の高次モードであるTM01がカットオフとなる寸法である。e<λ/1.706の場合は、TE11モードがカットオフとなり、大きく減衰する(他に伝播できるモードはない)。e>λ/1.3065の場合は、TE11モードの一部がTM01モードに変換されて効率が落ちる。したがって、λ/1.706≦e≦λ/1.3065とすることにより、放射に最適なTE11モードのみが低損失に伝播できる。
【0061】
貫通孔3aの直径eは3.58mmとしている。この径も導波管規格であるV帯Mediumサイズであり、約58GHz〜68GHzのTE11モードが通過できる。貫通孔3aの開口形状に関しては、必ずしも導波管規格と同一にする必要はなく、直径eが、放射波の波長λに対してλ/1.706≦e≦λ/1.3065を満たしていれば、高次モードに変換されることなく正面方向に電波を導くことができる。ここで、e=λ/1.706は円形導波管のTE11モードがカットオフとなる寸法であり、e=λ/1.3065は円形導波管の最初の高次モードであるTM01がカットオフとなる寸法である。
【0062】
図6は、無線通信装置1aに設けられたホーンアンテナ9aの構成を示す図であり、(a)はその平面図であり、(b)はその断面図である。図5に示す構成と異なる点は、実装基板2aの貫通孔3aの正面側の開口部分に、貫通孔3aとほぼ同一の開口寸法(すなわち導波管規格V帯Mediumサイズ)の接続部10aを有するホーンアンテナ9aが接続されている点である。
【0063】
ホーンアンテナ9aは、アルミ等の金属で形成する。ホーンアンテナ長さgと、先端部の開口部の直径fとを適宜設定することにより、所望の指向性を実現することが可能となる。本実施の形態は、実施の形態1の図4で示した構成と同様に筐体内に組み込むことも可能である。
【0064】
以上のように実施の形態2によれば、貫通孔3aの直径eが、放射波の波長λに対してλ/1.706<e<λ/1.3065となっているので、パッチアンテナ5から放射された高周波信号が、高次モードに変換されることなく正面方向にのみ伝播される。このため、アンテナの効率が上がる。
【0065】
実施の形態1及び2では、貫通孔の断面が長方形状及び円形状の例を示したが、本発明はこれに限定されない、貫通孔の断面は、楕円形状であってもよい。
【0066】
(実施の形態3)
図8は、実施の形態1で前述した無線通信装置1に、すり鉢状構造体26と誘電体レンズ25を配置した構成を示す図であり、(a)はその平面図であり、(b)はその正面断面図である。
【0067】
図2に示すホーンアンテナ9と異なる点は、下部円形開口部27と上部円形開口部28を有するすり鉢状構造体26を貫通孔3bの上に配置していることと、上部円形開口部28に誘電体レンズ25が配置されている点である。誘電体レンズ25の焦点は、下部円形開口部27の中心となるように、すり鉢状構造体26の深さHが設定されている。
【0068】
また貫通孔3bは、ドリル用いて形成した一例を示しており、長方形の短辺に相当する部分が半円形状となっている。
【0069】
すり鉢状構造体26の下部円形開口部27の直径は、貫通孔3bの長辺と実質的に同じ長さとしている。
【0070】
すり鉢状構造体26は、アルミ等の金属によって形成する。また、誘電体レンズ25はポリプロピレン、ポリエチレン、テフロン等の低損失の材料で形成する。
【0071】
実施の形態1で前述した動作と同様、アンテナ一体型モジュール4の内部の高周波回路で発生した高周波信号は、その大部分がパッチアンテナ5(図2)から空間に放射され、貫通孔3を伝播し、そのまま正面方向に導かれて放射される。貫通孔3bから放出された高周波信号は、広がりもって放射されるが、すり鉢状構造体26の内壁によって広がりが制限されるため、スピルオーバーすることなく、すべての電波が誘電体レンズ25の下面に入射される。貫通孔3bは、誘電体レンズ25の点波源と見なすことができ、誘電体レンズ25の焦点は、下部円形開口部27の中心となるように配置しているため、誘電体レンズ25に入射した電波は、すべて誘電体レンズ25によって、同相の平面波に変換され、アンテナ利得が向上する。
【0072】
下部円形開口部27の直径を、貫通孔3bの長辺と実質的に同じ長さとすることにより、下部円形開口部27から上部円形開口部28に到る経路で、散乱面がほとんどなくなるため、貫通孔3bから放射された電波が散乱されることなく、誘電体レンズ25に入射されるのである。
【0073】
また、上部円形開口部28の直径は誘電体レンズ25の直径とほぼ等しくなっているため、貫通孔3bから放射された電波が誘電体レンズ25の周辺部まで有効に入射させることができ、誘電体レンズ25の開口効率を高めることができる。
【0074】
図9に示す無線通信装置は、図8で示した無線通信装置を筐体29内に組み込んだものである。図8におけるすり鉢構造体26は、筐体29と一体型に成型されている。筐体29の中に設けられた実装基板2には、アンテナ一体型モジュール4の他、キャパシタや抵抗等の表面実装部品が実装されている。以上のように、筐体29にすり鉢構造を体26を形成することにより、小型で優れたアンテナ特性を有する無線通信装置が実現できる。
【0075】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、アンテナ機能を有するマイクロ波・ミリ波無線通信装置に適用することができる。また、本発明は、小型で高性能な無線通信装置を実現する上で有効であり、ハイビジョン映像信号の無線伝送装置等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】実施の形態1に係る無線通信装置の構成を示す図であり、(a)は上記無線通信装置に設けられた実装基板の平面図であり、(b)は上記無線通信装置の断面図であり、(c)は上記無線通信装置に設けられたアンテナ一体型モジュールの平面図である。
【図2】上記無線通信装置に設けられたホーンアンテナの構成を示す図であり、(a)はその平面図であり、(b)はその断面図である。
【図3】(a)〜(c)は、上記無線通信装置のアンテナ指向性を示すグラフである。
【図4】上記無線通信装置の筐体を示す図であり、(a)はその平面図であり、(b)はその断面図である。
【図5】実施の形態2に係る無線通信装置の構成を示す図であり、(a)は上記無線通信装置に設けられた実装基板の平面図であり、(b)は上記無線通信装置の断面図であり、(c)は上記無線通信装置に設けられたアンテナ一体型モジュールの平面図である。
【図6】上記無線通信装置に設けられたホーンアンテナの構成を示す図であり、(a)はその平面図であり、(b)はその断面図である。
【図7】従来の無線通信装置に設けられたアンテナ一体型モジュールの構成を説明するための図である。
【図8】実施の形態3に係る無線通信装置の構成を示す図であり、(a)はその平面図であり、(b)はその正面断面図である。
【図9】実施の形態3に係る他の無線通信装置の構成を示す正面断面図である。
【符号の説明】
【0078】
1 無線通信装置
2 実装基板
3 貫通孔
4 アンテナ一体型モジュール
5 パッチアンテナ
6 環状接地シート(環状接地部)
9 ホーンアンテナ
10 接続部
11 筐体
12 内壁導体
25 誘電体レンズ
26 すり鉢状構造体
27 下部円形開口部
28 上部円形開口部
29 筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面長方形状の貫通孔を有する実装基板と、
前記貫通孔を覆って前記実装基板に実装されたアンテナ一体型モジュールとを備え、
前記アンテナ一体型モジュールの前記貫通孔に露出する面には、放射波を放射するパッチアンテナが設けられ、
前記アンテナ一体型モジュールと前記実装基板との間には、前記パッチアンテナを囲むように環状接地部が配置され、
前記貫通孔の長辺の長さaが、前記放射波の波長λに対して、
λ/2≦a≦λ、
となっていることを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記貫通孔の短辺の長さbが、前記放射波の波長λに対して、
0<b≦λ/2、
となっている請求項1記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記貫通孔の内壁には、前記実装基板の表面導体と裏面導体とを電気的に接続する内壁導体が形成されている請求項1記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記貫通孔と実質的に同一の開口寸法を有する接続部を備えたホーンアンテナが前記貫通孔に接続されている請求項1記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記ホーンアンテナと接続されて前記アンテナ一体型モジュールを収納する筐体をさらに備える請求項4記載の無線通信装置。
【請求項6】
断面円形状の貫通孔を有する実装基板と、
前記貫通孔を覆って前記実装基板に実装されたアンテナ一体型モジュールとを備え、
前記アンテナ一体型モジュールの前記貫通孔に露出する面には、放射波を放射するパッチアンテナが設けられ、
前記アンテナ一体型モジュールと前記実装基板との間には、前記パッチアンテナを囲むように環状接地部が配置され、
前記貫通孔の直径eが、前記放射波の波長λに対して、
λ/1.706≦e≦λ/1.3065、
となっていることを特徴とする無線通信装置。
【請求項7】
前記貫通孔の内壁には、前記実装基板の表面導体と裏面導体とを電気的に接続する内壁導体が形成されている請求項6記載の無線通信装置。
【請求項8】
前記貫通孔と実質的に同一の開口寸法を有する接続部を備えたホーンアンテナが前記貫通孔に接続されている請求項6記載の無線通信装置。
【請求項9】
前記ホーンアンテナと接続されて前記アンテナ一体型モジュールを収納する筐体をさらに備える請求項8記載の無線通信装置。
【請求項10】
下部円形開口部と上部円形開口部とを有するすり鉢状構造体と、前記すり鉢状構造体を覆う誘電体レンズとをさらに備え、前記下部円形開口部が上記貫通孔上に配置され、前記誘電体レンズが前記上部円形開口部を覆って配置されている請求項1記載の無線通信装置。
【請求項11】
上記すり鉢状構造体は、前記下部円形開口部の中心が前記誘電体レンズの焦点となるように深さが設定されている請求項10記載の無線通信装置。
【請求項12】
前記下部円形開口部の直径は、上記貫通孔の長辺の長さと実質的に等しい請求項10記載の無線通信装置。
【請求項13】
上部円形開口部の直径は、前記誘電体レンズの直径と実質的に等しい請求項10記載の無線通信装置。
【請求項14】
前記すり鉢状構造体が、前記アンテナ一体型モジュールを収納する筐体に一体成型されている請求項10記載の無線通信装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−81833(P2009−81833A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−172496(P2008−172496)
【出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度総務省「電波資源拡大のための研究開発」のうち、「ミリ波帯無線装置の低コスト化の小型ワンチップモジュール化技術の研究開発」委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】