説明

無色透明耐熱樹脂

【課題】
透明かつ耐熱性の熱可塑性樹脂を提供する。
【解決手段】
シクロドデシリデンビスフェノール(1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン)残基を含有する樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無色透明耐熱樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギーやIT分野において樹脂素材は必須の素材として広く用いられ、それに対する高性能・高機能化の要請がますます強くなってきている。特に耐熱性や透明性など基礎物性の向上は、その素材が適用されるシステムの耐久性、信頼性ひいては安全性に大きく寄与するため活発に研究開発が行われている。
【0003】
例えば、ポリカーボネート類については、末端封鎖、不純物抑制および精密分子量制御など重合技術の進歩によりその光学特性や熱安定性が向上し(非特許文献1)、記録媒体であるディスク基板用途などとして広く用いられるようになっている。しかし、このような記録媒体基板用途についても更なる記録密度向上を目指し、耐熱性や光学特性など更なる性能信頼性の向上が望まれてきている。
【0004】
耐熱性の極限追求としては、スーパーエンジニアリングプラスチックというカテゴリーで活発に研究が行われている(非特許文献2、3)。耐熱性とともに高強度・高弾性も指向しているスーパーエンジニアリングプラスチックの基本概念は、いかに芳香族構造を導入し結晶ドメインを形成させるかがポイントになっている。そのためこれらの樹脂は基本的には不透明で光を通す用途には適用できない。透明にするには非晶質にするべく芳香環に置換基を導入したり、ビスフェノールAなどベンゼン環の間にSP3炭素を含むモノマー成分を共重合させたりする手法を用いるが、当然SP3炭素を多く含むほど耐熱性が低下する。非晶質のポリマーの中ではフルオレンビスフェノールを含有する樹脂が知られているが(特許文献1)、ビフェニル構造を含有するが故に高屈折率・低アッベ数となり光学特性に課題がある。
【0005】
また、公知となっている特許文献の中には(特許文献2および3)数多くのビスフェノール類を原料とする樹脂が記載されている。しかし、後述の本発明のシクロドデシリデンビスフェノール残基を含有する樹脂を実際に合成し物性評価した公知文献は存在しない。
【0006】
すなわち、優れた耐熱性と光学特性を併せ持つ熱可塑性樹脂については、多くの研究者が課題として取り上げ、活発に研究されてきたものの、未だ充分な特性を持つものを見いだすには至っていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6-211729号公報
【特許文献2】国際公開第2004/106413号パンフレット
【特許文献3】特開2001-329060号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】本間精一編、「ポリカーボネート樹脂ハンドブック」、日刊工業新聞社、1992年
【非特許文献2】エヌ ピー ケレミシノフ(N. P. Cheremisinoff)編、「Handbook of Polymer Science and Technology」、vol.1、マルセル デッカー(Marcel Dekker)、1988年、p.177
【非特許文献3】「ジャーナル オブ ポリマー サイエンス(J. Polym. Sci.)」、1967年、PartA-1、5、p. 2375
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、透明かつ耐熱性の熱可塑性樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
樹脂の耐熱性を向上させるためには様々な方法がある。代表的な方法として(1)無機粒子などの耐熱性成分を樹脂に混合する方法(2)樹脂を構成する分子構造を分子間力の強いものにし結晶化させる方法(3)樹脂の分子構造を網目構造とし、熱により融解しないようにする方法、などであるが、(1)や(2)の方法を用いると基本的には不透明な樹脂となり、特に光学用途には用いることができなくなる。(3)の方法は、熱融解性を用いた加工方法が適用できなくなることから、特に大型の板状物やフィルム状物への加工に適さない。つまり、樹脂の耐熱性、透明性および加工性(熱可塑性)いずれをも満足させるためには新たなる樹脂の分子構造を設計する必要があった。
【0011】
一方、樹脂の透明性についてはその屈折率(D線屈折率をnDと表す)が成型体の表面反射Reと強く依存しているため(下式A)、より屈折率の低い構造を見いだす必要があった。
【0012】
Re=(nD-1)2/(nD+1)2 ・・・(式A)
成型体を光が透過する際には空気との界面を2回通過(つまり2度反射)するので、樹脂成型体の光線透過率Tは次のようになる(式B)。
【0013】
T(%)=100-2×100×Re・・・(式B)
さらに光の波長による屈折率の違いが大きいと、樹脂成型体(特にレンズ状のもの)に対して斜めに光が入射した際に色にじみを起こすことが知られている。このいわゆる色収差をなるべく小さくすることが光学樹脂において重要であり、その指標であるアッベ数がより大きい樹脂を設計する必要もある。アッベ数(νD)は次式(式C)で表される。
【0014】
アッベ数(νD)=(nD−1)/(nF−nC) ・・・(式C)
(ここで、nD:D線(波長587.6nm)屈折率、nF:F線(波長486.1nm)屈折率、nC:C線(波長656.3nm)屈折率)
このような観点に立ち、本発明者等は、耐熱性としてガラス転移点200℃以上、かつ無色透明(屈折率1.65未満すなわち可視光透過率88%以上、アッベ数28以上)の熱可塑性樹脂を見いだすべく鋭意検討し、シクロドデシリデンビスフェノール残基を構造単位として含む樹脂が優れた耐熱性と透明性を有することを見いだした。
【0015】
また、本発明のシクロドデシリデンビスフェノール構造を既存樹脂の部分構造成分として導入することにより、その耐熱性を顕著に向上できることも見いだした。
【0016】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
[1]下記構造式1で表される、シクロドデシリデンビスフェノール残基を含み、その含有量が樹脂の総重量あたり50%以上であることを特徴とする樹脂。
【0017】
【化1】

【0018】
(Rは水素、炭素数1〜6の炭化水素基を表す。)
[2]下記構造式2で表される、シクロドデシリデンビスフェノール残基および酸残基を含む、請求項1記載の樹脂。
【0019】
【化2】

【0020】
(Rは水素、炭素数1〜6の炭化水素基を表す。R’は炭化水素基を表す。)
[3]下記構造式3で表される、シクロドデシリデンビスフェノール残基およびエステル残基を含む、請求項1記載の樹脂。
【0021】
【化3】

【0022】
(Rは水素、炭素数1〜6の炭化水素基を表す。)
[4]下記構造式4で表されるシクロドデシリデンビスフェノール残基およびヒドロキシエチル残基を含む、請求項1記載の樹脂。
【0023】
【化4】

【0024】
(Rは水素、炭素数1〜6の炭化水素基を表す。)
[5]下記構造式5で表されるシクロドデシリデンビスフェノール残基およびエーテル残基を含む、請求項1記載の樹脂。
【0025】
【化5】

【0026】
(Rは水素、炭素数1〜6の炭化水素基を表す。R’は炭化水素基を表す。)
[6]光学用である、請求項1〜5記載の樹脂。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、優れた耐熱性と透明性を兼ね備えた熱可塑性樹脂を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明樹脂について、具体的に説明する。
【0029】
通常、耐熱性を向上させるための分子設計指針としてはベンゼン環をはじめとする芳香環構造をより多く含有させ、その高分子鎖どうしの相互作用を強化するというのが一般的であるが、この場合、たとえ高結晶化による不透明化を防ぐことができても、芳香族環の光学特性が高屈折率を発現することから、表面反射や着色のしやすさなどから充分な透明性を確保できない。透明性という観点からは芳香族よりも脂肪族の方が有利であるが、直鎖状の脂肪族基を分子構造に導入すると耐熱性(ガラス転移点)が極端に低下してしまうため、通常、環状の脂肪族基を導入する試みがなされる。発明者等は、耐熱性のための芳香族基と透明性のための環状脂肪族基をともに分子内にもつシクロアルキリデンビスフェノール類(1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン類)に着目し、その合成と重合および物性について検討した。
【0030】
市販のビスフェノール化合物であるシクロヘキシリデンビスフェノール(BisZ)をモノマーとするポリカーボネート樹脂(PC-Z)は、一般に広く用いられているイソプロピリデンビスフェノール(BisA)のポリカーボネート樹脂に対しTgが30℃ほど高いことが知られているが(PC-ZのTgは約180℃)、環の員数とTgの関係を把握すべくシクロペンチリデンビスフェノール、シクロヘプチリデンビスフェノール、シクロオクチリデンビスフェノールを合成しそのポリカーボネート樹脂の物性を評価した。結果、環の員数の増加に伴い若干のTg上昇が観測されたが、シクロヘキシル体とシクロオクチル体の物性はほとんど違わず、いずれもガラス転移点は200℃以下であり充分な耐熱性は発現しなかった。
【0031】
シクロオクチル以上に環の員数を増加させても、メチレン鎖増大によりかえって耐熱性が低下することが予想されたが、より環員数の多いシクロドデシリデンビスフェノール(1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン)を合成し、そのポリカーボネート樹脂の耐熱性を評価したところ、驚くべきことに極めて高いTg243℃を発現した。
【0032】
さらに本発明の樹脂は無色透明で、かつ屈折率(nD)が1.56と通常の芳香族系樹脂に比べ非常に低いため、それに応じて優れた光線透過率(90%以上)を有した。
【0033】
この優れた特性を発現した要因については以下のように考えている。すなわち光学特性については、シクロドデシリデンビスフェノール残基の脂肪族炭素の割合がこれまでのビスフェノール構造に比べ非常に高い(脂肪族炭素と芳香族炭素の数が等しい)ことによるものであり、耐熱性については、12員環構造の体積が樹脂構造中のポリマー主鎖間に生じる自由空間体積に合致することによって熱的な分子運動が規制されることに起因するためと考えている。
【0034】
また、この効果は既存樹脂の部分構造として導入しても有効である。例えばPETのエチレングリコール部分を置換することで、Tgを80℃から116℃まで上昇させることができた。
【0035】
シクロドデシリデンビスフェノール残基の前駆体モノマーであるシクロドデシリデンビスフェノール(下記構造式6)は、環状ケトンであるシクロドデカノンとフェノール類を原料として合成できる。
【0036】
【化6】

【0037】
フェノール類として、例えばフェノールを用いればベンゼン環上の置換基RがHであるシクロドデシリデンビスフェノールを合成できる。同様にo-メチルフェノールを用いればRがメチル(炭素数1)シクロドデシリデンビスフェノールを合成でき、以下同様に、用いるフェノール類によって種々の置換基Rを有するシクロドデシリデンビスフェノールを合成し、それを重合に付すことによって、種々の置換基Rを有するシクロドデシリデンビスフェノール残基(下記構造式1)を含有する樹脂を合成することができる。ベンゼン環上の置換基Rに関しては、特に制限はないが水素もしくはメチル基が好ましく、より好ましくは水素である。
【0038】
【化7】

【0039】
ヒドロキシエチル体については、炭酸カリウムの存在下ビスフェノール体と炭酸エチレンを反応させることにより合成できる。このヒドロキシエチル体を、トリエチルアミンの存在下塩化テレフタロイルと縮合させることにより本発明のポリエステル樹脂(下記構造式4)を合成することができる。
【0040】
【化8】

【0041】
シクロドデシリデンビスフェノール残基の含有量については、それが多いほどよりすぐれた性質を発現することができるが、含まれている樹脂の総重量に対して、重量換算で50%以上であることが必要である。より好ましくは70%以上、更に好ましくは85%以上である。シクロドデシリデンビスフェノール残基の含有量の分析法については後述する。また、シクロドデカノンから環縮小もしくは環拡大反応を施し、種々の員数(11,13もしくは14員環など)の環状ケトンを合成することによって、対応するビスフェノールを合成することもできる。
【0042】
このようなシクロドデシリデンビスフェノール残基による耐熱性と光学特性の特徴は、カーボネート以外の樹脂系、例えばポリヘテロ酸エステル、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン等の樹脂系においても発現し、ビスフェノールAなどの従来のビスフェノールを用いた樹脂より物性が非常に向上することがわかった。
【0043】
例えば、ポリホスホン酸エステル重合体(あるいはそのカーボネート共重合体:下記構造式2)はより優れた光学特性を発現する。
【0044】
【化9】

【0045】
リン原子上の置換基R’は炭化水素基であるが、より好ましくは環状炭化水素基であり、更に好ましくは環状脂肪族基である。ポリマー分子間の生ずる自由空間をより有効に活用し耐熱性と光学特性をよりよくさせるという観点から、R’としてはビシクロ構造を有する環状脂肪族基が特に有効である。
【0046】
また耐熱性を更に向上させるためには下記構造式3で示されるポリアリレート系の構造が極めて有効である。
【0047】
【化10】

【0048】
構造式3中のXはベンゼンやナフタレン環であり、そのポリマー前駆体は対応するジカルボン酸誘導体であるが、カルボン酸誘導体基の位置については特に限定されない。ただし、Xがベンゼンの場合好ましくはパラ位(すなわちテレフタル酸誘導体)もしくはメタ位(すなわちイソフタル酸誘導体)が好ましい。
【0049】
更なる耐熱性向上のためには下記構造式5で示される芳香族ポリエーテル類が好ましい。すなわち構造式5中のZがカルボニル基であるポリエーテルケトン、SO2基であるポリスルホン、ホスフィンオキシド基であるポリエーテルホスフィンオキシド系の構造を重合成分とする樹脂が更に有効である。
【0050】
【化11】

【0051】
本発明の樹脂は、無色透明であるが故に耐熱性の要求される光学用途において非常に有効である。成型体としては、本発明の樹脂が熱可塑性であるが故に、フィルム状のものであれば溶融押出法あるいは溶液製膜法いずれの方法も適用でき、レンズ状の成型体の場合には射出成型やプレス成形などを適宜選択して成型することができる。
【0052】
本発明樹脂を合成するに当たっては、原料であるシクロドデシリデンビスフェノールを求核試薬として、従来のビスフェノール類(ビスフェノールAなど)を原料とする重合方法を適用することができる。すなわち、各種求電子試薬とのカップリング反応やエステル交換反応にて本発明の樹脂を合成することができ、例えば求電子試薬として炭酸クロライド(もしくはその誘導体:例としてトリホスゲン)を用いた場合にはポリカーボネート、ホスホン酸クロライドを用いた場合にはポリホスホネートを合成することができる。これらの反応は炭酸エステルなどのエステルを求電子試薬としたエステル交換反応によっても合成することができる。同様にテレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸などの2価のカルボン酸類を用いればポリアリレート類を合成することができ、4,4’-ジハロゲン化ベンゾフェノン、4,4’-ジハロゲン化ジフェニルスルホン、4,4’-ジハロゲン化ジフェニルホスフィンオキシドなどの芳香族ハロゲン化物を用いればポリ芳香族エーテル化合物を合成することができる。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。樹脂の評価は以下の方法により行った。
【0054】
〔シクロドデシリデンビスフェノール残基含有量の測定法〕
合成した樹脂を大過剰(シクロドデシリデンビスフェノール残基のモル量の4倍モル以上)のカリウムメトキシドもしくはカリウムフェノキシドのような求核試薬と反応させることにより、ポリマーを分解し、得られた粗生成物の中に含まれるシクロドデシリデンビスフェノールの量を高速液体クロマトグラフにて分離・検量し、分解前の樹脂量に対する割合を算出した。
【0055】
〔分子量〕
本発明の樹脂の0.2重量%クロロホルム溶液を、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)〔東ソー(株)製、GPC8020〕により測定し、数平均分子量(Mn)を求めた。尚、分子量は、標準ポリスチレン換算の値として求めた。
【0056】
〔熱特性:ガラス転移点〕
DSC(セイコー電子工業(株)製:SSC5200)にてガラス転移温度を測定した。
【0057】
〔光学特性〕
本発明の樹脂のアッベ数および屈折率については、以下の方法で樹脂を成型し測定した。すなわち重合により得られた樹脂粉末を、樹脂のガラス転移温度より50〜100℃高い温度に加熱した金型に投入し、圧力2tにて加圧成型することによって板状(φ30mm、厚さ3mmの円盤状)の樹脂成型品を得、それを切断して互いに直行する2面をつくり、さらにそれぞれの面が鏡面仕上げになるようにバフ研磨することによって評価サンプルを作製した。得られた板状成型品を屈折計(カルニュー光学工業(株)製:KPR−2)にて評価を行い、屈折率(nD)、およびアッベ数(νD)を測定した。
【0058】
実施例1(ポリカーボネート型樹脂)
窒素雰囲気下、塩化メチレン(40ml)中にシクロドデシリデンビスフェノール(80mmol)、およびトリエチルアミン(168mmol)を混合し、氷冷下攪拌した。この溶液にトリホスゲン(ホスゲン換算80mmol)の塩化メチレン(10ml)溶液を15分間かけて滴下し、滴下終了後室温で60分間攪拌した。その後、反応溶液を0.5μmの濾過で異物を除去し、0.1N塩酸水溶液80mlと純水300mlの混合液で数回洗浄し分離した。その後分離した有機層をエタノール2000mlに投入して再沈し、ポリマーを濾取した後、(1)エタノール1000ml(2)水/エタノール=1/1混合溶液1000ml(3)水1000mlの順で生成したポリマーを洗浄、乾燥して目的の樹脂粉末を収率90%で得た。得られた樹脂粉末の分子量およびガラス転移点を前記方法にて測定した。
【0059】
結果、得られた樹脂は、シクロドデシリデンビスフェノール残基含有量=92.6%、分子量32000,Tg=243℃、nD=1.56、νD=35を示し、光学特性、耐熱性共に満足できるものであった。
【0060】
実施例2(ポリホスホン酸型樹脂)
窒素雰囲気下、塩化メチレン(40ml)中にシクロドデシリデンビスフェノール(80mmol)、およびトリエチルアミン(168mmol)を混合し、氷冷下攪拌した。この溶液に2−ノルボルニルホスホン酸ジクロライド(80mmol)の塩化メチレン(10ml)溶液を15分間かけて滴下し、滴下終了後室温で60分間攪拌した。その後、反応溶液を0.5μmの濾過で異物を除去し、0.1N塩酸水溶液80mlと純水300mlの混合液で数回洗浄し分離した。その後分離した有機層をエタノール2000mlに投入して再沈し、ポリマーを濾取した後、(1)エタノール1000ml(2)水/エタノール=1/1混合溶液1000ml(3)水1000mlの順で生成したポリマーを洗浄、乾燥して目的の樹脂粉末を収率90%で得た。得られた樹脂粉末の物性評価を前記方法にて測定した。
【0061】
結果、得られた樹脂は、シクロドデシリデンビスフェノール残基含有量=71.1%、分子量22000、Tg=207℃、nD=1.56、νD=39を示し、光学特性、耐熱性共に満足できるものであった。
【0062】
実施例3(ポリカーボネート・ポリホスホン酸共重合型樹脂)
窒素雰囲気下、塩化メチレン(40ml)中にシクロドデシリデンビスフェノール(80mmol)、およびトリエチルアミン(168mmol)を混合し、氷冷下攪拌した。この溶液に2−ノルボルニルホスホン酸ジクロライド(40mmol)の塩化メチレン(5ml)溶液を15分間かけて滴下、続いてトリホスゲン(ホスゲン換算40mmol)の塩化メチレン(5ml)溶液を15分間かけて滴下し、滴下終了後室温で60分間攪拌した。その後、反応溶液を0.5μmの濾過で異物を除去し、0.1N塩酸水溶液80mlと純水300mlの混合液で数回洗浄し分離した。その後分離した有機層をエタノール2000mlに投入して再沈し、ポリマーを濾取した後、(1)エタノール1000ml(2)水/エタノール=1/1混合溶液1000ml(3)水1000mlの順で生成したポリマーを洗浄、乾燥して目的の樹脂粉末を収率90%で得た。得られた樹脂粉末の物性評価を前記方法にて測定した。
【0063】
結果、得られた樹脂は、シクロドデシリデンビスフェノール残基含有量=80.5%、分子量27000、Tg=225℃、nD=1.56、νD=37を示し、光学特性、耐熱性共に満足できるものであった。
【0064】
実施例4(BisA共重合ポリカーボネート型樹脂)
窒素雰囲気下、塩化メチレン(40ml)中にシクロドデシリデンビスフェノール(48mmol)、イソプロピリデンビスフェノール(BisA)(32mmol)、およびトリエチルアミン(168mmol)を混合し、氷冷下攪拌した。この溶液にトリホスゲン(ホスゲン換算80mmol)の塩化メチレン(10ml)溶液を15分間かけて滴下し、滴下終了後室温で60分間攪拌した。その後、反応溶液を0.5μmの濾過で異物を除去し、0.1N塩酸水溶液80mlと純水300mlの混合液で数回洗浄し分離した。その後分離した有機層をエタノール2000mlに投入して再沈し、ポリマーを濾取した後、(1)エタノール1000ml(2)水/エタノール=1/1混合溶液1000ml(3)水1000mlの順で生成したポリマーを洗浄、乾燥して目的の樹脂粉末を収率90%で得た。得られた樹脂粉末の分子量およびガラス転移点を前記方法にて測定した。
【0065】
結果、得られた樹脂は、シクロドデシリデンビスフェノール残基含有量=50.9%、分子量37000,Tg=206℃、nD=1.57、νD=33を示し、光学特性、耐熱性共に満足できるものであった。
【0066】
実施例5(ポリカーボネート・アリレート共重合型樹脂)
窒素雰囲気下、塩化メチレン(40ml)中にシクロドデシリデンビスフェノール(80mmol)、およびトリエチルアミン(168mmol)を混合し、氷冷下攪拌した。この溶液にイソフタル酸ジクロライド(20mmol)の塩化メチレン(3ml)溶液を15分間かけて滴下し、続いてトリホスゲン(ホスゲン換算60mmol)の塩化メチレン(7ml)溶液を15分間かけて滴下し、滴下終了後室温で60分間攪拌した。その後、反応溶液を0.5μmの濾過で異物を除去し、0.1N塩酸水溶液80mlと純水300mlの混合液で数回洗浄し分離した。その後分離した有機層をエタノール2000mlに投入して再沈し、ポリマーを濾取した後、(1)エタノール1000ml(2)水/エタノール=1/1混合溶液1000ml(3)水1000mlの順で生成したポリマーを洗浄、乾燥して目的の樹脂粉末を収率90%で得た。得られた樹脂粉末の物性評価を前記方法にて測定した。
【0067】
結果、得られた樹脂は、シクロドデシリデンビスフェノール残基含有量=86.6%、分子量31000、Tg=265℃、nd=1.59、νd=31を示し、光学特性、耐熱性共に満足できるものであった。
【0068】
実施例6(ポリエステル樹脂)
窒素雰囲気下、シクロドデシリデンビスフェノール150.4g(0.427mol)、炭酸カリウム5.90g(0.0427mol)、ジメチルアセトアミド(DMAc)200mlを混合し150℃にて1時間撹拌した。また、フラスコ上に取り付けた滴下ロート中に、DMAc180mlと炭酸エチレン82.7g(0.939mol)を加え混合し、これを6時間かけて滴下した。150℃にて、更に6時間加熱撹拌した後、酢酸エチル1lを加え希釈し、500mlの水で3回洗浄することで残存塩類及びDMAcを除去した。硫酸マグネシウムで脱水し、溶媒を除き、68℃の酢酸エチル400mlに溶解し不溶分を吸引濾過により除去した後、ヘキサン550mlを加え3℃まで冷却した。得られた白色固体を濾過により回収し、減圧乾燥することで目的のシクロドデシリデンビスフェノールビスヒドロキシエチルエーテル117.54g(0.2677mol、収率63%、融点105〜109℃)を得た。H−NMR(CDCl,270MHz):7.05(4H,d,O−CH−CH),6.78(4H,d,O−CH),4.05(4H,t,Ar−O−CH2),3.92(4H,q,OH−CH2),2.08(2H,s,OH),0.90−2.04(22H,m,CH
次いで、このシクロドデシリデンビスフェノールビスヒドロキシエチルエーテル1.00g(2.27mmol)、トリエチルアミン0.6ml、DMAc1.5mlを混合し溶解した。また、フラスコ上に取り付けた滴下ロート中には塩化テレフタロイル0.459g(2.26mmol)とDMAc1mlを加え混合した。混合後、フラスコを氷水浴で冷却しながら塩化テレフタロイル溶液をゆっくりと滴下した。滴下終了後、浴を除去し、室温で24時間反応させた。反応終了後、25mLの水へ反応液を滴下し、析出物を得た。これを濾別後、60℃で真空乾燥し、本発明のポリエステル樹脂を白色粉末として収率77%で得た。
【0069】
結果、得られた樹脂は、シクロドデシリデンビスフェノール残基含有量=61.4%、分子量21000、Tg=116℃を示し、耐熱性に関してPET(Tg=80℃)と比較し満足できるものであった。
【0070】
実施例7(ポリエーテルケトン型樹脂)
窒素雰囲気下、N-メチルピロリドン(50ml)およびトルエン(50ml)中で、シクロドデシリデンビスフェノール(40mmol)、4,4’-ジフロロベンゾフェノン(40mmol)、炭酸カリウム(50mmol)を混合し、10時間150℃に加熱することにより生成する水分を除去した。その後、反応液からトルエンを留去、続いて190℃で4時間撹拌して得られた粘調な溶液を室温に冷却した。この溶液を800mlの水に投入して析出したポリマーを濾取した後、水1000mlで洗浄、乾燥して目的の樹脂粉末を収率95%で得た。得られた樹脂粉末の物性評価を前記方法にて測定した。
【0071】
結果、得られた樹脂は、シクロドデシリデンビスフェノール残基含有量=67.6%、分子量21000、Tg=255℃、nd=1.60、νd=29を示し、光学特性、耐熱性共に満足できるものであった。
【0072】
実施例8(ポリスルホン型樹脂)
窒素雰囲気下、N-メチルピロリドン(50ml)およびトルエン(50ml)中で、シクロドデシリデンビスフェノール(40mmol)、4,4’-ジフロロジフェニルスルホン(40mmol)、炭酸カリウム(50mmol)を混合し、10時間150℃に加熱することにより生成する水分を除去した。その後、反応液からトルエンを留去、続いて190℃で4時間撹拌して得られた粘調な溶液を室温に冷却した。この溶液を800mlの水に投入して析出したポリマーを濾取した後、水1000mlで洗浄、乾燥して目的の樹脂粉末を収率95%で得た。得られた樹脂粉末の物性評価を前記方法にて測定した。
【0073】
結果、得られた樹脂は、シクロドデシリデンビスフェノール残基含有量=61.8%、分子量23000、Tg=261℃、nd=1.61、νd=28を示し、光学特性、耐熱性共に満足できるものであった。
【0074】
比較例
窒素雰囲気下、塩化メチレン(40ml)中にシクロオクチリデンビスフェノール(80mmol)、およびトリエチルアミン(168mmol)を混合し、氷冷下攪拌した。この溶液にトリホスゲン(ホスゲン換算80mmol)の塩化メチレン(10ml)溶液を15分間かけて滴下し、滴下終了後室温で60分間攪拌した。その後、反応溶液を0.5μmの濾過で異物を除去し、0.1N塩酸水溶液80mlと純水300mlの混合液で数回洗浄し分離した。その後分離した有機層をエタノール2000mlに投入して再沈し、ポリマーを濾取した後、(1)エタノール1000ml(2)水/エタノール=1/1混合溶液1000ml(3)水1000mlの順で生成したポリマーを洗浄、乾燥して目的の樹脂粉末を収率90%で得た。得られた樹脂粉末の分子量およびガラス転移点を前記方法にて測定した。
【0075】
結果、得られた樹脂は、分子量32000,Tg=181℃、nD=1.58、νD=32であった。光学特性に問題はなかったが、耐熱性は満足できるものではなかった。
【0076】
以上のように本発明の樹脂は優れた耐熱性と透明性をともに具備している。また、比較例にて明らかなように、その特性がシクロドデシリデンビスフェノール残基の極めて特異的な性質に基づくものであることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式1で表される、シクロドデシリデンビスフェノール残基を含み、その含有量が樹脂の総重量あたり50%以上であることを特徴とする樹脂。
【化1】

(Rは水素、炭素数1〜6の炭化水素基を表す。)
【請求項2】
下記構造式2で表される、シクロドデシリデンビスフェノール残基および酸残基を含む、請求項1記載の樹脂。
【化2】

(Rは水素、炭素数1〜6の炭化水素基を表す。R’は炭化水素基を表す。)
【請求項3】
下記構造式3で表される、シクロドデシリデンビスフェノール残基およびエステル残基を含む、請求項1記載の樹脂。
【化3】

(Rは水素、炭素数1〜6の炭化水素基を表す。)
【請求項4】
下記構造式4で表される、シクロドデシリデンビスフェノール残基およびヒドロキシエチル残基を含む、請求項1記載の樹脂。
【化4】

(Rは水素、炭素数1〜6の炭化水素基を表す。)
【請求項5】
下記構造式5で表されるシクロドデシリデンビスフェノール残基およびエーテル残基を含む、請求項1記載の樹脂。
【化5】

(Rは水素、炭素数1〜6の炭化水素基を表す。R’は炭化水素基を表す。)
【請求項6】
光学用である、請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂。

【公開番号】特開2010−189629(P2010−189629A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7767(P2010−7767)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】