説明

無鉛硼珪酸塩ガラスフリット及びそのガラスペースト

【課題】 環境汚染を防ぐために、絶縁層を形成するガラス組成物中にPbOを含まない絶縁層形成用のガラスフリットを提供する。
【解決手段】
ガラス組成がSiO2 :16〜32mol%、Al23 :4〜8mol%、B23 :20〜35mol%、Li2 O+Na2 O+K2 Oの2種以上を含み合計が8〜14mol%、MgO+CaO+BaO+SrOの合計が3〜16mol%、ZnO:6〜33mol%、Cu2 O:0.01〜3mol%、Ag2 O:0.01〜1mol%、前記B23 とZnOの組成比が、ZnO/B23 =0.27〜1.3、を基本組成とする無鉛硼珪酸塩ガラスで、平均粒径1〜5μmで、最大粒径が20μm以下に粒度調整されたガラスフリットであり、ガラス転移点が500℃以下、平均線膨張係数が65〜80×10−7 /℃、耐水減量値0.1mg/cm2 以下で耐水性に優れたもので絶縁層を形成するための無鉛硼珪酸塩ガラスフリットである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無鉛硼珪酸塩ガラスフリットに係り、詳しくは、プラズマディスプレイパネルのブラックストライプ、蛍光表示管等の電子ディスプレイパネルの絶縁層やチップ抵抗体等の電子デバイス部品の絶縁層を焼成により形成するための無鉛硼珪酸塩ガラスフリットおよびそのガラスフリットを含むガラスペーストに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネル、蛍光表示管等の電子回路の層間を絶縁するガラスの組成として低融点ガラスが使用されてきた。従来の低融点ガラスは、低融点化のために鉛が主成分として含んでいるものであるが、近年鉛含有ガラスに対して環境上の問題が指摘され、作業環境および廃棄物処理に問題のない無鉛系のガラスが求められており、このような問題対応するガラスとして、プラズマディスプレイパネル、蛍光表示管等の封着・被覆を600℃以下の焼成で行えるP25 、Al23 、SnO2 、ZnO等を主成分として含有するリン酸塩系の無鉛低融点ガラスが提案されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2001−180972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、廃棄時の環境汚染を防ぐために、絶縁層を形成するガラス組成物中にPbOを含まない絶縁層形成用のガラスフリットを提供するものであり、
かつ590℃以下の温度で焼き付けることができ、平均線膨張係数が65〜80×10−7 /℃で、焼き付けた後に絶縁層にクラックが発生しないような絶縁層形成用のガラスフリットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明(請求項1)は、ガラス組成が、mol換算百分率で
SiO2 :16〜32mol%、
Al23 :4〜8mol%、
23 :20〜35mol%、
Li2 O+Na2 O+K2 O のうち少なくとも2種以上を含み、その合計が8〜14mol%、
MgO+CaO+BaO+SrO のうち少なくともBaOを3mol%以上含み、その1種以上の合計が3〜16mol%、
ZnO:6〜33mol%、
Cu2 O:0.01〜3mol%、
Ag2 O:0.01〜1mol%
前記B23 とZnOの組成比が、ZnO/B23 =0.27〜1.3、
を基本組成とする無鉛硼珪酸塩ガラスで、
前記組成のガラスが、平均粒径1〜5μmで、かつ最大粒径が20μm以下に粒度調整されたガラスフリットであり、ガラス転移点が500℃以下、
平均線膨張係数が65〜80×10−7 /℃、耐水性能が80℃の純水 に24時間暴露の条件において耐水減量値として0.1mg/cm2 以下の性能を有する耐水性に優れたものであることを特徴とする絶縁層を焼成により形成するための無鉛硼珪酸塩ガラスフリットである。
【0005】
また、本発明(請求項2)は、上記(請求項1)に記載の無鉛硼珪酸塩ガラスフリット、無機顔料および無機充填材のうち少なくとも1つ以上の無機酸化物、有機溶剤からなることを特徴とする絶縁層を焼成により形成するためのガラスペーストである。
また、本発明(請求項3)は、上記(請求項2)に記載の絶縁層を焼成により形成するためのガラスペーストは、無機顔料がCu−Cr系またはCu−Cr−Mn系の黒色無機顔料で、プラズマディスプレイパネルまたは電子ディスプレイパネルに用いられることを特徴とするものである。
詳しくは、無機顔料が、Cu−Cr系またはCu−Cr−Mn系の黒色無機顔料であり、無機充填剤がSiO2 及びAl23を含む低膨脹率の複酸化物、例えばβスポジュメンやコージライトであり、このうち少なくとも1つ以上の無機酸化物とさらに有機バインダーおよび有機溶剤からなるビヒクルを含有するガラスペーストである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の絶縁層を焼成により形成するための無鉛硼珪酸塩ガラスフリットによれば、鉛を含んでいないので環境汚染の問題のないものであり、かつガラス転移点が500℃以下、40〜300℃における平均線膨張係数が65〜80×10−7 /℃であり、耐水性能が80℃の純水に24時間暴露したとき、耐水減量値が0.1mg/cm2 以下の性能を有するもので耐水性に優れたものであり、焼成後に絶縁層にクラックが発生しないものであり、プラズマディスプレイパネルのブラックストライプ、蛍光表示管等の電子ディスプレイパネルの絶縁層やチップ抵抗体等の電子デバイス部品の絶縁層を焼成により形成するためのガラスフリットおよびガラスペーストとして優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の無鉛硼珪酸塩ガラスフリットは、無機顔料および無機充填剤のうち少なくとも1つ以上の無機酸化物、有機溶媒を混ぜガラスペーストとし、塗布・焼付して、プラズマディスプレイパネルのブラックストライプ、蛍光表示管等の電子ディスプレイパネルの絶縁層やチップ抵抗体等の電子デバイス部品の絶縁層を形成するものである。
絶縁層を焼き付けるプラズマディスプレイパネル、電子ディスプレイパネル、チップ抵抗体等の電子デバイス部品としては、一般にその基板としてソーダ石灰板ガラスが用いられている。そこで、本発明による硼珪酸塩系ガラスリットは、一般的な板ガラスであるソーダ石灰ガラスへの焼き付けができることを想定して、一般的な板ガラスの軟化温度730〜740℃、歪点495〜505℃、線熱膨脹係数87〜91×107 /℃を考慮して、590℃以下の温度で板ガラス等へ焼き付けることができるようにし、また基板との線膨張係数の差を小さいものとして、無鉛硼珪酸塩ガラスフリットをガラスペーストにして塗布・焼成したときに、焼成により形成された絶縁層にクラックが発生することないようにしたものである。また、一般に基板に用いられる、軟化温度が約870℃、歪点が約570℃の高歪点のアルミノ珪酸塩系ガラスにも590℃以下の温度で焼き付けることができ、焼成により形成された絶縁層にクラックが発生することないようにしたものである。
【0008】
まず、本発明の無鉛硼珪酸塩ガラスリットのガラス組成について説明する。
SiO2 は、ネットワークフォーマで、ガラスを安定化に効果があり、その含有量が、16mol%未満では、ガラスの安定化効果が充分ではなく、32mol%超えると軟化点が高くなりすぎる。したがってSiO2 の含有量は、16〜32mol%、好ましくは17〜30mol%であり、最も好ましくは18〜25mol%である。
Al23 は、ガラスの安定化に効果があり、化学的耐久性を高くする効果を有している。その含有量が、4mol%未満では、その効果が充分でなく、ガラス基板との密着性が悪く、耐水性も悪くなる。8mol%超えると軟化温度が高くなり590℃以下での焼成が困難となる。また、Al23 は、SiO2 の含有量の4分の1より多い方が、耐水性能に効果的である。したがってAl23 の含有量は、4〜8mol%、好ましくは4.5〜7.0mol%である。
【0009】
23 は、ガラスを安定化させ、流動性を増加させる効果を有する。その含有量が、20mol%未満では、その効果が充分でなく、また線膨脹係数を大きくする。35mol%超えでは、ガラスの安定化、流動性への効果が薄れ、また耐水性能を低下させることになる。したがってB23 の含有量は、20〜35mol%、好ましくは22〜32mol%であり、最も好ましくは25〜30mol%である。
【0010】
Li2 O、Na2 O、K2 Oは、これら3種のうち少なくとも2種以上を含むもので、その合計が8〜14mol%とする。これは、Li2 O、Na2 OおよびK2 Oは、ガラスの軟化温度を下げる効果があり、かつ流動性を増加させる効果がある。その含有量の合計が8mol%未満で効果が充分に得られない。即ちガラスの軟化温度を下げる効果が十分なものではなく、屈伏点が550℃以上になるものであった。また、ガラスの粘性も大きくなり流動性が低下する。また14mol%超では化学的耐久性の低下、電気絶縁性の低下、また膨脹係数が大きくなりすぎるという悪影響が生ずることがあるので、Li2 O+Na2 O+K2 Oはその合計8〜14mol%、好ましくは9〜12.5mol%である。
また、Li2 O、Na2 O、K2 Oの3種のうち少なくとも2種以上を含むようにするのは、ガラスの軟化温度を下げる効果、流動性を増加させる効果が1種では充分ではなかった。本発明の無鉛硼珪酸塩ガラスフリットはそのガラス転移点を500℃以下のものとすることができなかった。
Li2 O、Na2 O、K2 Oの3種は、上記のように合計で8〜14mol%であるが、それぞれの比率を例示すれば、Li2 Oが4部、Na2 Oが6部、K2 Oが2部が好適である。
【0011】
MgO、CaO、BaO、SrOは、ガラスの安定化に効果がある。その含有量の合計が3mol%未満では、ガラスの失透が生じやすく、焼成時の結晶化を抑制することができなく、16mol%超えると軟化温度が高くなり焼成が困難となる。また16mol%超えると平均線膨脹係数が80×10−7 /℃を超えるものが多くなり、ガラス基板に焼付け製膜した時にクラックが発生し、充分な絶縁効果をもったコーティング膜を得ることが出来なかった。
なお、MgO+CaO+BaO+SrOの合計は3〜16mol%であるが、このうち少なくともBaOはガラスの失透を抑制するため、焼成時の結晶化を抑制するための優れているもので、BaOの含有量は3mol%以上にするものである。
【0012】
ZnOは、ガラスの安定化に効果があり、軟化温度を下げ、また失透を抑制する成分である。その含有量が6mol%未満では、その効果が充分でなく、33mol%を超えると結晶化し易くなり安定したガラスが得られなくなので、含有量は、6〜33mol%、好ましくは10〜28mol%である。
【0013】
本発明のPbを含まない硼珪酸塩ガラスのような組成のものでは、Cu2 O:0.01〜3mol%、好ましくは0.1〜2.5mol%及びAg2 O:0.01〜1mol%好ましくは0.05〜0.5mol%を含有させることにより、590℃以下の温度で板ガラスに焼き付けることができ、また、40〜300℃における平均線膨張係数を65〜80×10−7 /℃にすることができたものてある。
なお、銅酸化物、銀酸化物は、Cu2 O、Ag2 Oとしてその量を限定したが、これらは、原料としての銅化合物、銀化合物を溶解して含有させるものであり、CuO、AgCO3 の状態の場合もある。
従来の低融点ガラスフリットには、低融点化のために鉛が主成分として含まれている。また鉛を使用しないものでは、ビスマスやリン酸が主成分として含まれている。
本発明では、鉛を含まなず、またビスマスやリン酸を含むことなく硼酸や珪酸を主成分とした硼珪酸塩系ガラスでCuOやAg2 Oを含むことにより、590℃以下で絶縁被覆を形成させるために充分な低融性能を持たせ、かつ緻密で平滑な膜を形成できるようにしたものである。
【0014】
ZnO/B23 =0.27〜1.3とすることにより、結晶化割合を低くすることができる。具体的には結晶化割合20%以下にすることができる。PbOを含まない無鉛硼珪酸塩ガラスでは、結晶化を起しやすい。しかし、結晶化割合が20%以上のような高いガラス粉末を含むガラスペーストで焼成して得られる絶縁被膜は、絶縁被膜の表面が凹凸で平滑にならない。また絶縁被膜の短絡の原因ともなる。そこで結晶化割合を低くするものである。好ましくは、ZnO/B23 =0.3〜1.1である。ZnO/B23 が0.27以下の場合は耐水性能が低下する。耐水性能の低下は微粒子を得るための微粉砕加工においてガラスの吸水性の原因となり、ガラスフリットの特性劣化の原因となる。
【0015】
本発明のガラスフリットは、ガラス組成が、mol換算百分率で、SiO2 :16〜32mol%、Al23 :4〜8mol%、B23 :20〜35mol%、Li23 とNa2 OとK2 Oのうち少なくとも2種以上を含み、その合計が8〜14mol%、MgOとCaOとBaOとSrOのうち少なくともBaOを3mol%以上含み、その1種以上の合計が3〜16mol%、ZnO:6〜33mol%、Cu2 O:0.2〜3mol%、Ag2 O:0.01〜1mol%を基本組成とするもので、かつ、B23 とZnOの組成比が、ZnO/B23 =0.27〜1.3の無鉛硼珪酸塩ガラスをガラスフリットにしたものである。
本発明の上記組成のガラスフリットは、平均粒径1〜5μmで、かつ最大粒径が20μm以下に粒度調整された微細に粉末化されたもので、溶融しやすくし、またガラスペースト化しやすくするものであり、塗布、焼成により、よりよい絶縁被膜が得られようにするものである。しかし、ガラスを微細な粉末に粉砕した場合に、表面積が大きくなるため、一般に空気中の水分を吸着しやすくなる性質が生じるが、本発明のガラスフリットは、かかる粒度に調整することにより、耐水性能が80℃の純水に24時間暴露の条件において耐水減量値として0.1mg/cm2 以下の性能を有する耐水性に優れたものとすることがでたものである。焼成して得られた絶縁被膜は、耐水性能が80℃の純水に24時間暴露の条件において耐水減量値として0.1mg/cm2 以下の性能を有することにより、絶縁被膜の特性が劣化する等の特性の変化が生じないものである。
【0016】
また、本発明のガラスフリットは、ガラス転移点が500℃以下のものである。デバイス部品およびガラス基板上に590℃以下で緻密な絶縁被覆を形成させるためには、被覆材として使用されるガラスには、500℃以下のガラス転移点を有することが求められる。本発明のガラスフリットは、上述のような組成とその粒度を調整されて微細に粉末化されていることにより、ガラス転移点が500℃以下、具体的には450℃〜500℃にすることができたものである。
ガラスペーストを塗布し焼成するとき、その焼成温度が高いとガラス基板上の電気回路の電気的特性が劣化したりガラス基板が変形したりするので、その焼成温度は590℃以下で焼成を行うことが必要である。
【0017】
また、本発明のガラスフリットは、平均線膨張係数が65〜80×10−7 /℃である。
一般的に、プラズマディスプレイパネル、蛍光表示管等の電子ディスプレイパネル、チップ抵抗体等の基板にはソーダ石灰系のガラスが用いられている。そこでソーダ石灰系のガラス基板に絶縁層を焼き付けができることを想定して、本発明のガラスフリットは、上述のような組成とすることにより、40〜300℃における平均線膨張係数が65〜80×10−7 /℃としたものである。
一般的に、ソーダ石灰系のガラスの線膨張係数が87〜91×10−7 /℃であり、それを考慮すると平均線膨張係数が65〜80×10−7 /℃のものは好ましいものである。これは、本発明のガラスフリットの平均線膨張係数と差が小さいので、ガラスペーストにして塗布し焼成したときに、焼成により形成された絶縁層にクラックが発生することないようにしたものである。
なお、絶縁層はクラックにより絶縁性能が劣化する恐れがあるので、クラックが発生することないようにしたものである。
【0018】
また、ガラス基板に絶縁層を焼き付けができる場合に、焼き付け温度でガラス基板が変形することがないようにしなければならない。ソーダ石灰系のガラスはその軟化温度730〜740℃、歪点495〜505℃であり、ソーダ石灰系のガラス基板に絶縁層を焼き付けができることを想定した場合に、焼き付け温度でガラス基板が変形することがないようにするために、また電気回路の電気的特性が劣化することがないようにするためには、ガラス転移点が500℃以下である必要があり、本発明のガラスフリットはかかる要求に応ずることができるものである。
【0019】
本発明のガラスフリットは、無機顔料および無機充填材のうち少なくとも1つ以上の無機酸化物並びに有機バインダー及び有機溶剤からなるビヒクルを含有させてガラスペーストとし、これを塗布し焼成して絶縁層を形成するものである。 無機顔料としては、黒色無機顔料が用いられ、それはCu−Cr系(例えばCuO、Cr23を主体とする酸化物)またはCu−Cr−Mn系であり、無機充填材はSiO2 及びAl23を含む低膨脹率の複酸化物、例えばβスポジュメンやコージライトである。黒色無機顔料や無機充填材は、本発明のガラスペーストで形成された絶縁被膜の膨脹率を調整する作用をし、また光の透過率を押さえるのに有用なものである。
【0020】
本発明で組成などを特定したガラスのペーストは、微細に粉末化されたガラスフリットと、無機耐熱顔料および無機充填材とを混合し、次にビヒクルと混練してガラスペースト化される。この本発明の組成などを特定したガラスのフリットを含むガラスペーストをスクリーン印刷法によって部品またはガラス基板上の所定の部位に塗布し、120℃にて充分乾燥を行った後、590℃以下で焼成される。上記ビヒクルとしては、樹脂および有機溶剤からなるもので、樹脂分であるエチルセルロースを溶剤であるブチルカルビトールアセテートまたはターピネオールに溶かしたものが使用される。
【0021】
本発明のガラスフリットは、無機顔料としてCu−Cr系またはCu−Cr−Mn系の黒色無機顔料を混合し、必要に応じて無機充填材とも混合し、次にビヒクルと混練してガラスペースト化さを含有させ、プラズマディスプレイパネルのブラックストライプとするものである。本発明のガラスペーストをスクリーン印刷法によってプラズマディスプレイパネルの所定の部位に塗布し、120℃にて充分乾燥を行った後、590℃以下で焼成により形成するものである。ビヒクルとしては、樹脂分であるエチルセルロースを溶剤であるブチルカルビトールアセテートまたはターピネオールに溶かしたものを用いる。
本発明のガラスフリットを含有しているガラスペーストによれば、本発明で特定したガラスの組成、粒度調整、結晶化割合を低くすることなどにより、緻密な被覆が形成され、プラズマディスプレイパネルのブラックストライプとして、また蛍光表示管等の電子ディスプレイパネルの絶縁層として、クリアなものである。
【0022】
本発明のガラスフリットは、原料として、ケイ砂、アルミナ、無水ホウ酸、ホウ酸、硝酸カリウム、炭酸リチウム、酸化マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、亜鉛華、銅化合物や銀化合物を、ガラス組成が、mol換算百分率で、SiO2 :16〜32mol%、Al23 :4〜8mol%、B23 :20〜35mol%、Li2 OとNa2 OとK2 Oのうち少なくとも2種以上を含み、その合計が8〜14mol%、MgOとCaOとBaOとSrOのうち少なくともBaOを3mol%以上含み、その1種以上の合計が3〜16mol%、ZnO:6〜33mol%、Cu2 O:0.2〜3mol%、Ag2 O:0.01〜1mol%を基本組成とする無鉛硼珪酸塩ガラスしなるように、配合し、溶融する。
【0023】
溶融は、白金ルツボを用いて、大気雰囲気で行う。フリット化は、鉄板上への流し出し若しくは水中への投入と乾燥により得られたガラスをボールミルにより微粉末化して得るものである。
具体的には、白金ルツボ中、で1240〜1260℃で20分、ガラス化し、急空冷する。粉砕・フリット化は、ガラスを粉砕し、平均粒径1〜5μmで、かつ最大粒径が20μm以下に粒度調整する。
また、本発明のガラスフリットを含有するガラスペーストは、
本発明のガラスフリット 40〜50重量%
黒色無機顔料 15〜25重量%
無機充填材 0〜5重量%
樹脂分 3〜5重量%
有機溶剤 30〜35重量%
であり、例えば、本発明のガラスフリット45重量%、黒色無機顔料20重量%無機充填料2.5重量%、エチルセルロース3重量%、ブチルカルビトールアセテートまたはターピネオール29.5重量%である。
【0024】
図1〜図5を参照して、本発明の無鉛硼珪酸塩ガラスフリットを用いて形成される絶縁層の実施の形態を示す。
図1〜図3は、プラズマディスプレイパネルのブラックストライプとして、本発明の無鉛硼珪酸塩ガラスフリットを用いる場合を示すものである。図1はプラズマディスプレイパネルの斜視図で、前面ガラス基板31と背面ガラス基板30を離して図示したものである。図2と図3は前面ガラス基板31と背面ガラス基板30を接合させて図示したもので、図2は図1のA−A断面図、図3は図1のB−B断面図で、ワッフル型プラズマディスプレイパネルといわれるものである
【0025】
図1〜図3に示すように、背面ガラス基板30はアドレス電極32が配置され、誘電体層33で被覆されている。リブ(隔壁)34が図1の縦方向に、またリブ(隔壁)36、37が図1の横方向に形成されている。蛍光体R、G、Bがリブ(隔壁)34及び36、37の間に形成されている。
前面ガラス基板31には透明電極42、ブラックストライプ4、バス電極43、誘電体層41および保護膜(MgO)40が形成されている。
前面ガラス基板31のブラックストライプ4は、背面ガラス基板30のリブ(隔壁)36、37に重ね合わせるものである。
【0026】
前面ガラス基板33と背面ガラス基板30は、貼り合わされ、周辺を気密封止した真空にした後、Ne−Xe等のガスを封入されるものである。
本発明のガラスフリット及び無機顔料としてCu−Cr系またはCu−Cr−Mn系の黒色無機顔料を混合し、ビヒクルで混練したガラスペーストを、図1のブラックストライプ4のように、前面ガラス基板31にスクリーン印刷法によって塗布し充分乾燥を行った後、580℃で焼成により形成するものである。
【0027】
図4は、蛍光表示管の絶縁層として、本発明の無鉛硼珪酸塩ガラスフリットを用いる場合を示すものである。
図4に示すように、蛍光表示管は基板ガラス20に形成された配線21とそのリード22、絶縁層(被膜)6、電極23、蛍光体24、グリット25、フィラメント28、透明電極26、フロントガラス27で構成されているものである。 絶縁層(被膜)6として、本発明のガラスフリット及び無機顔料としてCu−Cr系またはCu−Cr−Mn系の黒色無機顔料を混合し、ビヒクルで混練したガラスペーストを、基板ガラス20に形成された配線21の上に塗布し、充分乾燥を行った後に、580℃で焼成して形成するものである。
【0028】
図5は、チップ抵抗体の絶縁層として、本発明の無鉛硼珪酸塩ガラスフリットを用いる場合を示すものである。
図5に示すように、チップ抵抗体は、アルミナ基板10に抵抗体11、内部電極12、外部電極13、絶縁層(被膜)5で構成されているものである。絶縁層(被膜)5として、本発明のガラスフリット及びビヒクルで混練したガラスペーストを、基板10に形成された抵抗体11に塗布し、充分乾燥を行った後に、590℃以下で焼成して形成するものである。
【0029】
本発明の組成などを特定したガラスフリットは、その耐水性能が80℃の純水に24時間暴露の条件において耐水減量値として0.1mg/cm2 以下の性能を有する耐水性に優していることを特定しているものである。
この耐水性能について、耐水試験、耐酸試験を説明する。図6のフローチャートに示す。ガラスは粉末化され、平均粒径1〜5μmで、かつ最大粒径が20μm以下に粒度調整され粉末化されたガラスフリットで、このガラスフリットを焼結した状態で耐水試験、耐酸試験を行い、その耐水性能を示すものである。
図6のフローチャートに示すように、ガラスフリットを石膏型に入れ、塊状に焼結する。次いで円柱状に加工して、径φ5mm×長さ20mmの試料にする。 耐水試験は、径φ5mm×長さ20mmの円柱状ガラス試料をフタ付きポリ容器中の純水50mlに入れる。これを80℃に設定した恒温槽中に24時間保持した。それを取り出して重量減少量算出した。円柱状ガラス試料の比表面績あたりの重量減少量を算出した。これを耐水性能を示す耐水減量値とした。
【0030】
また、耐酸試験は、径φ5mm×長さ20mmの円柱状ガラス試料をフタ付きポリ容器中の1N硫酸水溶液50mlに入れる。これを50℃に設定した恒温槽中に24時間保持した。それを取り出して重量減少量算出した。円柱状ガラス試料の比表面績あたりの重量減少量を算出した。これで耐酸性能を示す。そして各ガラス試料について比較評価するものである。
本発明においては、耐水性能を80℃の純水に24時間暴露の条件において耐水減量値として0.1mg/cm2 以下の性能を有するような耐水性に優しているものに特定しているものである。これは、本発明の組成を特定している
無鉛硼珪酸塩ガラスのフリットが長期信頼性において優ていることを示すもので、従来の酸化鉛含有ガラスのフリットに比して遜色がなく、電子ディスプレイパネルの絶縁層やチップ抵抗体等の電子デバイス部品の絶縁層を形成するのに有用なものであるる
【実施例】
【0031】
本発明について、実施例1〜5及び比較例1〜3を表1、2に示す。
表1、2において、組成はmol%、ガラス転移点は℃、屈伏点は℃、線膨張係数αは40〜300℃の範囲の値で10−7 /℃、耐水性は24Hr×80℃のときの質量減(mg/cm2 )である。なお、表1、2の化学組成は、その成分の合計が100%前後になるが、それは不純物等の他の成分によるものである。
表1、2は、無鉛硼珪酸塩系ガラスのフリットの化学組成とその特性を示したものである。ガラスフリットは、平均粒径1〜5μmで、最大粒径が20μm以下に粉末化されたものである。実施例1〜5は、本発明で特定した組成の範囲内のものである。
実施例1〜5の無鉛硼珪酸塩系ガラスのフリットは、ガラス転移点が500℃以下、屈伏点も低く、線膨張係数αが65〜80×10−7 /℃、耐水性は質量減が0.1mg/cm2 以下のものであり、プラズマディスプレイパネルのブラックストライプ、電子ディスプレイパネルの絶縁層や電子デバイス部品の絶縁層を焼成により形成するためのガラスフリットとして優れたものであった。
【0032】
比較例1は、Li2 Oが2.0mol%、Na2 Oが5.0mol%のもので、本発明で特定したLi2 O+Na2 O+K2 Oが8〜14mol%の範囲外の7.0mol%である。これは屈伏点が550℃以上で、Li2 O、Na2 O、K2 Oによるガラスの軟化温度を下げる効果が十分なものではなかった。
比較例2は、BaOが14.5mol%、SrOが8.5mol%で、本発明で特定したMgO+CaO+BaO+SrOが3〜16mol%の範囲外の23.0mol%である。これは線膨張係数αが89.2×10−7 /℃で、本発明で特定した膨張係数(65〜80×10−7 /℃)の上限の80×10−7 /℃を超えてしまい、ガラス基板に焼付け製膜した時にクラックが発生し、充分な絶縁効果をもったコーティング膜を得ることが出来なかった。
比較例3は、B23 が36mol%で、本発明で特定したB23 :20〜35mol%の範囲外であり、またZnO/B23 が0.18で、本発明で特定したZnO/B23 =0.27〜1.3の範囲外である。これは耐水性(質量減 0.88mg/cm2 )で、ZnO/B23 の比が0.27未満において耐水性が悪化することを示しているものである。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
また、本発明について説明する。溶解は白金ルツボを用いて大気雰囲気で溶融を行った。ガラスバッチ約100g、1240℃で20分間行った。
フリット化は、鉄板上への流し出し若しくは水中への投入と乾燥により得られたガラスをボールミルにより微粉末化して得るものであり、平均粒径1〜5μmで、かつ最大粒径が20μm以下に粒度調整した。
このガラスフリットを黒色顔料、無機充填材、エチルセルロース樹脂とターピネオールやブチルカルビトール系溶剤の混合物であるビヒクルと撹拌混合(例えば、ガラスフリット50部、黒色顔料22部、無機充填材3部、ビヒクル40部の割合で、撹拌器とジルコニア製三本ロールを使用)してガラスペーストとした。
このガラスペーストを用いて、試験品として、図7の平面図、図8の断面図に示すように、ガラス基板15に電極16、配線17を設け、配線17の上に絶縁層7を被覆した。そして絶縁層7の上に銅箔18を設け、電極16を導線19で接続して耐電圧試験を行った。
【0036】
試験品として、実施例1〜5、比較例1、2に示した組成のガラスフリットに無機顔料とビヒクルで混練し、ガラスペーストとし、これを配線17の上に塗布し、充分乾燥を行った後に、580℃で焼成して絶縁層7を形成したものをそれぞれ作成した。
絶縁層7の耐電圧試験は、それぞれの試験品の絶縁層7の厚さを10μmとした。絶縁層7の上に銅箔18を設け、電極16を導線19で接続した。ここで銅箔18と電極16との間に電圧をかけ、電圧を上げていき、絶縁が破れる電圧を計測した。その結果、実施例1のものは600V、実施例2のものは530V、実施例3のものは700V、実施例4のものは530V、実施例5のものは530Vであった。これに対して比較例1のものは100V、比較例2のものは300Vであった。
これは、本発明は、電子部品等の絶縁層を焼成により形成するためのガラスペーストとして優れたものであり、590℃以下の温度で焼き付けることができ、平均線膨張係数が65〜80×10−7 /℃で、焼き付けた後に絶縁層にクラックが発生しないような絶縁層を形成することができ、耐電圧の高い絶縁層を形成することができるものであった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態を示す図
【図2】本発明の実施の形態を示す図
【図3】本発明の実施の形態を示す図
【図4】本発明の実施の形態を示す図
【図5】本発明の実施の形態を示す図
【図6】耐水試験、耐酸試験を説明する図
【図7】試験品を示す平面図
【図8】試験品を示す図7の断面図
【符号の説明】
【0038】
4 ブラックストライプ
5、6、7 絶縁層(被膜)
6 絶縁層(被膜)
10 アルミナ基板
11 抵抗体
12 内部電極
13 外部電極
15 ガラス基板
16 電極
17 配線
18 銅箔
20 蛍光表示管の基板ガラス
21 配線
22 リード
23 電極
24 蛍光体
25 グリット
26 透明電極
27 フロントガラス
28 フィラメント
30 背面ガラス基板
31 前面ガラス基板
32 アドレス電極
33 誘電体層
34、36、37 リブ(隔壁)
40 保護膜(MgO)
41 誘電体層
42 透明電極
43 バス電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成が、mol換算百分率で、
SiO2 :16〜32mol%、
Al23 :4〜8mol%、
23 :20〜35mol%、
Li2 O+Na2 O+K2 O のうち少なくとも2種以上を含み、その合計が8〜14mol%、
MgO+CaO+BaO+SrO のうち少なくともBaOを3mol%以上含み、その1種以上の合計が3〜16mol%、
ZnO:6〜33mol%、
Cu2 O:0.01〜3mol%、
Ag2 O:0.01〜1mol%
前記B23 とZnOの組成比が、ZnO/B23 =0.27〜1.3、
を基本組成とする無鉛硼珪酸塩ガラスで、
前記組成のガラスが、平均粒径1〜5μmで、かつ最大粒径が20μm以下に粒度調整されたガラスフリットであり、ガラス転移点が500℃以下、
平均線膨張係数が65〜80×10−7 /℃、耐水性能が80℃の純水 に24時間暴露の条件において耐水減量値として0.1mg/cm2 以下の性能を有する耐水性に優れたものであることを特徴とする絶縁層を焼成により形成するための無鉛硼珪酸塩ガラスフリット。
【請求項2】
請求項1に記載の無鉛硼珪酸塩ガラスフリット、無機顔料および無機充填材のうち少なくとも1つ以上の無機酸化物、有機溶剤からなることを特徴とする絶縁層を焼成により形成するためのガラスペースト。
【請求項3】
無機顔料が、Cu−Cr系またはCu−Cr−Mn系の黒色無機顔料で、プラズマディスプレイパネルまたは電子ディスプレイパネルに用いられることを特徴とする請求項2に記載の絶縁層を焼成により形成するためのガラスペースト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−273653(P2006−273653A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94574(P2005−94574)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(591043581)東京都 (107)
【出願人】(505114422)日本琺瑯釉薬株式会社 (4)
【Fターム(参考)】