説明

無電解めっき方法

【課題】無電解めっき方法において、パラジウム等の貴金属を使用することなく、またクロム酸等の有害な薬剤を使用せずにめっきと被めっき物間の良好な密着性を確保でき、かつ、めっき液を繰り返し使用することができる無電解めっき方法を提供すること。
【解決手段】被めっき物の表面上に、めっき金属の金属イオンを還元する能力を有する有機残基を側鎖に含有するポリマーを塗設する工程(1)と、前記ポリマーが塗設された被めっき物の表面上に、前記金属イオンを含みこの金属イオンを還元しうる還元剤を含まない溶液中において、前記金属イオンの部分還元金属酸化物を析出させる工程(2)と、前記金属イオンを還元しうる還元剤を含む溶液中において、前記部分還元金属酸化物を自己触媒性を有するめっき金属に還元する工程(3)と、被めっき物の表面上に、無電解めっき液中においてめっき金属の被膜を形成する工程(4)と、を含む無電解めっき方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっき方法に関する。当該無電解めっき方法は電子回路用、装飾用などの無電解銅めっき方法として好適なものである。
【背景技術】
【0002】
無電解めっき技術は、プラスチックスやセラミックスなど電気伝導性を有しない物体の表面にもめっき被膜を形成する方法として広く用いられている。電子材料分野では配線板への多層配線を行う際に、層間の接続を行うためのスルーホールやビアホールに導電性を付与するためのめっき技術として、不可欠な技術となっている。また、電子機器等から発生する電磁波を遮蔽する目的で、プラスチックなどで成型された電子機器の筐体の内面などにも無電解めっきが使用されている。さらに、プラスチックのように成形性が優れた材料へめっきを行えば複雑な形状の成型物に対して金属光沢を有する外観を付与することができ、装飾用途などに広く利用されている。さらに、自動車等の様々な工業製品において、従来は金属を使用していた部品が、軽量化、低コスト化するなどの目的でプラスチックに置き換えられており、その際に金属のような外観を付与して高級感を与えるなどの目的で無電解めっきが行われている。
【0003】
しかしながら、従来から広く行われてきた無電解めっき技術は、めっき被膜を形成したい物(被めっき物)の表面に、無電解めっき反応を促進する触媒としてパラジウムなどの貴金属微粒子を吸着させる必要があった。その方法としては被めっき物をスズ−パラジウムコロイド分散液に浸漬してコロイドを吸着させ、続いてスズを溶解除去して表面にパラジウム微粒子が付着した状態とする方法や、被めっき物をパラジウムイオン含有溶液に浸し、続いて還元処理によりパラジウムを析出させる方法が行われている。しかしながら、パラジウムは回路基板を製造する際に使用するエッチング液によって溶解除去されにくいため配線間に残存しやすい。このため、回路を高密度化するために、配線間隔を狭くすると、残存したパラジウムにより絶縁不良が発生するという問題があった。さらに、パラジウムは希少な金属であるためコスト的な問題や安定供給に不安がある。このため、パラジウムなどの貴金属触媒を使わない無電解めっき方法が望まれていた。
【0004】
また、プラスチック表面へ無電解めっきを行う際は、クロムやマンガンを含む酸化性の液でプラスチック表面を荒らし、密着性を高める工程が必要で、この工程で排出される廃液は有害な金属を含むため、作業環境面や廃棄物処理の観点で問題があった。
【0005】
これらの問題に対し、特許文献1においてパラジウムの代わりに塩化第二銅(CuCl2)と塩化第一スズ(SnCl2)を含む溶液に被めっき物を浸漬した後に、還元剤を含む溶液に浸漬して、銅を還元して触媒核を形成する方法が提案されている。この方法は、パラジウムの代わりに銅を触媒として付着させるため、配線基板を作成する際に触媒核が容易に溶解除去でき、絶縁信頼性が向上する。さらに貴金属を使用しないので低コスト化が可能である。
【0006】
パラジウムを使用しない無電解めっき方法としては、特許文献2において開示された方法及び特許文献3や非特許文献1によって開示された方法もある。これらの方法は、表面を酸化性の液で荒らす代わりにめっきや被めっき物との密着性が優れた材料をコーティングしている。これらの方法では、コーティングする材料としてポリマーなど被めっき物に対して密着性に優れるものを選択することで、クロムやマンガンを含む酸化性の液でプラスチック表面を荒らす必要がなくなるというメリットがある。
【0007】
この内、特許文献2の方法では、陽イオン交換樹脂を粉砕して得た粉末をアクリル樹脂などと混合した組成物を被めっき物に塗布してから、銅イオンなどの金属イオンを含有する溶液に浸漬させることで、陽イオン交換樹脂中のスルホン酸基などに陽イオンとして保持させ、その後に水素化ホウ素ナトリウムやジメチルアミノボラン等の還元剤で還元し、触媒核としての金属銅を析出させる工程を経て、最後に通常の無電解めっき液を用いて無電解めっきを析出させる。
【0008】
一方、特許文献3や非特許文献1において、被めっき物へ塗布するポリマーは、本発明で用いているポリマーと同様に、カテコール骨格を有するドーパミンを主原料としたポリマーである。特許文献3や非特許文献1では、ムール貝等が海中で様々な物体に体を固定するのに用いる接着性のたんぱく質にドーパミンが多く含まれることに着目し、ドーパミンを含むポリマーが様々な物質に密着性の良いコーティングをすることが可能であるとしている。これらの文献ではコーティングしたポリマーの表面に無電解めっきが可能であることが開示されている。その方法はジメチルアミノボランと塩化銅(II)(CuCl2)と水酸化ナトリウムを溶解しためっき液に、当該ポリマーを塗布した被めっき物を浸漬してめっきを析出させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−214706号公報
【特許文献2】特開2005−248220号公報
【特許文献3】国際公開第2008/049108号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Haeshin Lee, Shara M. Dellatore, William M. Miller, Phillip B. Messersmith, SCIENCE, 318, p426-430(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の特許文献に記載の方法は、いくつかの問題点を含んでいる。
特許文献1に記載の無電解めっき方法では、ABS樹脂などのプラスチック上へ無電解めっきを行う際は、クロムやマンガンを含む酸化性の液でプラスチック表面を荒らす必要があった。
【0012】
特許文献2の方法では陽イオン交換樹脂を使用するため、一般に強塩基性である無電解めっき液に対する耐性が劣るという問題があった。また、スルホン酸等の強酸性基を有するので配線パターンが微細な電子材料では絶縁信頼性が低下する恐れがある。
【0013】
また、特許文献2の段落0015において、好ましい範囲として定められるイオン交換樹脂粉末の粒子径は5〜10μmであることから、塗膜の厚さは厚い。このため被めっき物の表面が微細な形状である場合は、めっき表面の形状が被めっき物の表面形状を再現しにくくなるという問題がある。さらに、粉末を多量に含む塗膜であるために、塗膜は透明性が損なわれ、透明な被めっき体にめっきを析出させた後、裏面からは金属光沢のある外観を見ることができない。
【0014】
特許文献3や非特許文献1にも開示されているように、強い還元剤であるジメチルアミノボランと銅イオンをめっき液中で混在させると、めっき液としての安定性が悪く、被めっき物の有無にかかわらず銅が還元されて析出し、いわゆるめっき液の分解が起こることは、当該業者にはよく知られている事実である。本発明者らがドーパミン残基を含有するポリマーをPETフィルムの片面に塗布した試験片を用いて、特許文献3や非特許文献1と同様のめっき液で無電解めっきを試みたところ、最初の30分程度は何も起こらず、その後にめっき液から気泡が多数発生し、液が黒く変色した。その後、試験片を取り出したところ、PETフィルムの両面に銅めっきが析出しており、さらにめっき液を入れていたガラス製容器の内面にもめっきが析出していた。
このように特許文献3や非特許文献1に記載されている方法では銅めっきが析出するものの、ドーパミン残基を含有するポリマーの表面だけにめっきを選択的に析出させることはできない。また、この後で同じ液を用いてめっきを試みても、めっき液が分解しているため繰り返しめっきを析出させることはできなかった。
【0015】
このようなめっき方法は液が1回しか使えず、工業的にはほとんど価値が無い。また、ドーパミン残基を含有するポリマーは被塗布物との密着性を確保するのには役にたっているが、特許文献3や非特許文献1に記載されているめっき液中において、ドーパミン骨格に含まれるカテコール基はジメチルアミノボランよりも還元性が弱いので、金属イオンに対して還元性を発揮することはできず、カテコールは実質的にめっき反応に関与していないと言える。
【0016】
本発明は、無電解めっき方法において、パラジウム等の貴金属を使用することなく、またクロム酸等の有害な薬剤を使用せずにめっきと被めっき物間の良好な密着性を確保でき、かつ、めっき液を繰り返し使用することができる無電解めっき方法を提供すべく検討を行ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の(1)及び(9)に記載する解決手段を見いだした。好ましい実施形態である(2)〜(8)とともに列挙する。
(1)被めっき物の表面上に、めっき金属の金属イオンを還元する能力を有する有機残基を側鎖に含有するポリマーを塗設する工程と、前記ポリマーが塗設された被めっき物の表面上に、前記金属イオンを含みこの金属イオンを還元しうる還元剤を含まない溶液中において、前記金属イオンの部分還元金属酸化物を析出させる工程と、前記金属イオンを還元しうる還元剤を含む溶液中において、前記部分還元金属酸化物を自己触媒性を有するめっき金属に還元する工程と、被めっき物の表面上に、無電解めっき液中において、めっき金属の被膜を形成する工程と、を含む無電解めっき方法、
(2)前記有機残基がヒドロキノン残基、カテコール残基又はピロガロール残基である、(1)に記載の無電解めっき方法、
(3)前記ポリマーが架橋された、(1)又は(2)に記載の無電解めっき方法、
(4)前記有機残基のフェノール性水酸基の含有量が4mmol/gポリマー以上である、(1)〜(3)のいずれか1つに記載の無電解めっき方法、
(5)めっき金属が銅又はニッケルである、(1)〜(4)のいずれか1つに記載の無電解めっき方法、
(6)自己触媒性を有するめっき金属が被めっき物の表面を5%以上被覆している工程(3)である、(1)〜(5)のいずれか1つに記載の無電解めっき方法、
(7)前記めっき金属が銅であり、前記工程(2)における部分還元金属酸化物がCu2Oである、を含む、(1)〜(6)のいずれか1つに記載の銅の無電解めっき方法、
(8)前記ポリマーをパターニングする工程を含み、前記めっき金属のパターン状被膜を形成する工程とした、(1)〜(7)のいずれか1つに記載の無電解めっき方法、
(9)(1)〜(8)のいずれか1つに記載の無電解めっき方法で無電解めっきを析出させためっき製品。
【発明の効果】
【0018】
本発明による無電解めっき方法は従来工業的に用いられてきた無電解めっき方法とは異なり、貴金属であるパラジウムを使用することなく良好な無電解めっきができる。このため、低コストで将来の資源供給不安を解消することもできる。さらに、電子材料分野で問題となっていた、エッチング後にパラジウムが残存する問題もなくなり絶縁信頼性向上に寄与することができる。また、クロムなどの有害金属を使った粗化工程を行うことなく、被めっき物へ良好なめっき被膜の密着性が得られるため、作業時の安全性が高く、廃液の漏洩による土壌、水質汚染などの問題もなくすことができる。これらのため無電解めっき方法として極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】種々の還元剤を含む溶液のpHと酸化還元電位の関係を示すグラフである。
【図2】本発明のめっき方法において、銅の部分還元酸化物の粒子が被めっき物の表面上に形成された一例を示す原子間力顕微鏡(AFM)写真の一例(結晶構造)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明の無電解めっき方法は、被めっき物の表面上に、めっき金属のイオンを還元する能力を有する有機残基を側鎖に含有するポリマーを塗設する工程(1)と、前記ポリマーが塗設された被めっき物の表面上に、前記金属イオンを含みこの金属イオンを還元しうる還元剤を含まない溶液中において、前記金属イオンの部分還元金属酸化物を析出させる工程(2)と、前記金属イオンを還元しうる還元剤を含む溶液中において、前記部分還元金属酸化物を自己触媒性を有するめっき金属に還元する工程(3)と、被めっき物の表面上に、無電解めっき液中において、めっき金属の被膜を形成する工程(4)と、を含む。
以下、これらの工程順に説明する。
【0021】
本発明の無電解めっき方法の最初の工程は、被めっき物の表面上に、めっき金属の金属イオンを還元する能力を有する有機残基を側鎖に含有するポリマーを塗設する工程(1)である。以下、めっき金属の金属イオンを還元する能力を有する有機残基を側鎖に含有するポリマーを「還元性ポリマー」ともいう。
本発明で使用する還元性ポリマーは、めっき金属の金属イオンを還元する能力を有する有機残基を側鎖に含有するポリマーである。その還元性を有する有機残基は、ベンゼン環に2個以上のフェノール性水酸基を有することが好ましく、カテコールやハイドロキノン構造のように、その内の2個は少なくとも互いにオルト又はパラ位に相当する位置に結合していることがさらに好ましい。その理由は、2個の水酸基が互いにオルト又はパラの位置に結合していると、より還元力が高まるためである。レゾルシノールのように2個の水酸基が互いにメタの位置に結合する場合はオルト又はパラに比べて還元力が弱くて好ましく使用できないが、3個以上の水酸基が結合する場合はその内2個の水酸基がオルトかパラの位置関係にあれば、そのほかの組み合わせでメタの位置関係にある水酸基を有していてもよく、むしろ3個以上水酸基が存在すると、より還元力が強くなり好ましい場合がある。
【0022】
本発明において、ポリマー中の前記有機残基がハイドロキノン残基、カテコール残基又はピロガロール残基であることが好ましく、ピロガロール残基であることがより好ましい。
また、ポリマーが単独重合体、共重合体を問わず、ポリマー中の前記有機残基のフェノール性水酸基の含有量が4mmol/gポリマー以上であることが好ましく、4〜18.2mmol/gポリマーであることがより好ましい。
【0023】
本発明で使用する還元性ポリマーは、めっき薬品に対する耐久性を高めるなどの目的を達成するために、架橋剤と混合しておきコーティングや成型した後に架橋反応を行うことが好ましい。架橋方法と使用する架橋剤は特に限定されない。例えば架橋剤としてはエポキシ化合物を好ましく使用することができる。この場合は加熱などの処理により、エポキシ化合物に含まれるエポキシ基とポリマー中のフェノール性水酸基が反応し化学的に架橋される。この際、エポキシ樹脂の添加量には注意が必要である。すなわち、エポキシ基によって還元性を有するフェノール性水酸基が消費されるため、エポキシ樹脂を多く配合しすぎると本発明の工程では無電解めっきができなくなるためである。エポキシ化合物を配合する目安としては、エポキシ基とフェノール性水酸基が1:1で反応したと仮定して、残存するフェノール性水酸基の量がコーティング組成物の固形分あたり、4mmol/g以上になることが好ましく、より好ましくは7mmol/g以上に調製することが好ましい。
すでに説明したように、被めっき物上に形成した還元性ポリマーは、架橋をして、工程(2)以下の処理で使用する溶液中で溶解することなく、処理できるようにすることが好ましい。
【0024】
その他の架橋剤としては、イソシアネート化合物も好ましく用いることができる。イソシアネート基は、フェノール性水酸基と反応するが、アルコール性水酸基とはより反応しやすく、アルコール性水酸基を含有するモノマーをポリマーに共重合しておくことで架橋反応を速やかに行うことができるので、被めっき物が高温で変形してしまう場合などに好ましく使用することができる。このようなアルコール性水酸基を含有するモノマーは特に限定しないが、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートや3−フェノキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートのような単官能のヒドロキシアクリレートを共重合して用いることができる。
【0025】
本発明において、還元性ポリマーを被めっき物表面に配置するための手段は、好ましくは2通りある。すなわち還元性ポリマーを必要に応じて架橋剤などと配合し溶媒などで薄めた溶液を被めっき物に塗布する方法と還元性ポリマーそのものを必要に応じて架橋剤などと配合して成型する方法である。
【0026】
本発明で用いる還元性ポリマーを被めっき物に塗布するための手段は、特に限定されない。被塗布物がフィルム等の平面状であればコーターなどを使用でき、複雑な形状に塗布する場合はスプレーによる方法、刷毛などによる方法、ポリマー溶液又は分散液中に被めっき物を直接浸漬して取り出す方法も使用できる。
【0027】
本発明で用いることができる還元性ポリマーの成型物とは、めっき対象となる還元性ポリマーを溶融して型に流し込んで被めっき物を成型する方法、溶液を型に流し込んで乾燥して被めっき物とする方法、ポリマー中に架橋性の官能基を化学的に結合するか、又は、架橋剤を加えて架橋させるなどの方法で還元性ポリマーを硬化させる方法、懸濁重合、乳化重合などの方法で微粒子状に成型するなどの方法により得ることができる、還元性ポリマーを少なくとも表面に含有する被めっき物である。
【0028】
本発明における工程(2)は、上記の還元性ポリマーを表面に有する被めっき物の表面上に、前記金属イオンを含みこの金属イオンを還元しうる還元剤を含まない溶液中において、前記金属イオンの部分還元金属酸化物を析出させる工程である。
【0029】
本発明でめっき被膜を析出させる金属は、無電解めっき反応に対して自己触媒能を有するものが好ましい。そのような金属は工程(4)において使用する無電解めっき液で使用する還元剤の酸化を促進する能力を有し、使用する還元剤の種類によって自己触媒能を発揮できる金属と還元剤の組み合わせであることが好ましい。このような金属として例えば還元剤が次亜リン酸ナトリウムの場合は、金、ニッケル、コバルトなどが知られており、ホルムアルデヒドの場合は銅、金、銀などが知られている。この中でも銅、ニッケルが好ましい。自己触媒性とは、その金属が0価に還元された状態で金属イオンと還元剤を含有するめっき液に接触すると、還元剤が酸化される酸化反応を触媒的に促進し、金属イオンは還元剤から放出された電子により還元されてその表面にめっき膜として析出するというメカニズムによって、無電解めっき反応が進行する金属のことで、めっきを専門とする業界には広く知られている。
本発明において、めっき金属が銅又はニッケルであることが好ましく、銅であることがより好ましい。
【0030】
工程(2)において用いる金属イオン含有溶液は、上記の自己触媒性を有する金属イオン、pH調整剤、界面活性剤、キレート剤などの添加剤を含むが、金属イオンを還元できるような還元剤は含まない。その理由は、還元性ポリマーに結合している還元性官能基は、一般に無電解めっきに使用される還元剤に比べて還元力が弱いので、液中にこのような還元剤を含んでいると、ポリマー表面よりも液中での還元反応が優先してしまうためである。この場合、ポリマー表面における前記金属イオンが部分還元金属酸化物として析出する反応を阻害しない程度の微量の還元剤は入っていてもかまわない。
【0031】
工程(2)において用いる金属イオン含有溶液は、通常無電解めっきを行う場合のめっき液に対して還元剤を含まないものを使用することができる。その銅イオン源として硫酸銅、塩化銅などを使用することができる。これらの液はpH調整剤として水酸化ナトリウムなどの強塩基、高pHで銅イオンを安定して存在させるためのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸などのキレート剤、界面活性剤などを添加することができる。
【0032】
工程(2)において用いる、金属イオン含有溶液の温度は特に限定されず、0℃から100℃までの温度範囲を使用することができ、好ましくは5℃から60℃、さらに好ましくは10℃から40℃である。本発明において使用する還元性ポリマーは多官能フェノールなどを還元性官能基として有しているが、これらの官能基で金属イオンを還元する場合はpH11以上の条件が好ましい。本発明において使用する還元性ポリマーや被めっき物へのダメージを軽減する意味では液の温度は低い方が好ましく、また、水の揮発による液濃度の変化を抑制する意味においても低温の方が好ましい。さらに、本発明者らの実験によれば、工程(2)では、温度は高い方が反応は速いものの、20℃程度の室温でも充分に反応するため、特別寒冷な場所で作業する場合を除けば、必ずしも加熱冷却をする必要はない。
【0033】
工程(2)においては、金属イオンは0価、もしくは途中まで還元された酸化物などの形態で還元剤含有ポリマーの表面に析出する。この工程で0価まで還元されれば、工程(3)を行わず、工程(4)の無電解めっき液による無電解めっき反応工程に進むことができる。
【0034】
工程(2)により、0価まで還元されず、前記金属イオンの部分還元金属酸化物が析出された場合は、そのままでは無電解めっきの触媒として作用することができないので、工程(3)により、前記部分還元金属酸化物を自己触媒性を有するめっき金属に還元し、工程(4)において無電解めっきの触媒核として作用する状態にする必要がある。
【0035】
工程(3)において使用する液は還元剤を含む溶液であり、好ましくは水溶液である。この液にはpH調整剤、界面活性剤などを含んでもよい。還元剤は、自己触媒作用を有する金属(0価)が存在しなくても容易にめっき対象の金属イオンを還元できる能力を有するものを使用するとよい。そのような還元剤としては、ジメチルアミノボラン、水素化ホウ素ナトリウムなどが使用できる。一方、工程(3)は0価まで還元されていない部分還元金属酸化物を0価まで還元するための工程であるので、ホルマリンや次亜リン酸塩など自己触媒作用を有する金属(0価)が存在しないと、容易にはめっき対象の金属イオンを還元することができない還元剤は使用することができない。また、析出させる金属や還元剤の組み合わせにより、塩基や酸を用いて、適したpHに調整して使用する。
【0036】
上記のジメチルアミノボラン、水素化ホウ素ナトリウムは還元力が強く、自己触媒性を有する金属のような触媒を使用しなくても、金属イオンを還元する能力がある。金属イオンを含む溶液に組み合わせると金属イオンを還元してめっき液を分解してしまい、めっき液を繰り返し使用することを不可能としてしまう。このため、無電解銅めっきや無電解ニッケルめっき液の還元剤として使用されることはほとんど無い。本発明による工程(3)においては、金属は被めっき物の表面に酸化物微粒子のように固体として析出した状態で工程(3)の液に持ち込まれるため、これらの還元剤を使用しても液の分解などが起こらず繰り返し使用することができる。
【0037】
工程(3)で使用する液の温度は特に限定しないが、一般に高温ほど還元反応が速くなるため、還元剤の種類、pH、濃度などに応じて温度調整して使用する。ジメチルアミノボランでは30℃から80℃程度が好ましい。水素化ホウ素ナトリウムでは10℃から60℃でも充分な還元性が得られる。
【0038】
本発明においては、工程(3)により析出した自己触媒性を有するめっき金属は被めっき物表面の5%以上を被覆していることが好ましい。これよりも被覆率が小さいとめっき析出が遅すぎるか、全く析出しない場合がある。さらに15%以上被覆していると、短時間でめっきできるため、めっき液による還元性ポリマーや被めっき物へのダメージが少なくなりめっき可能な材料の適応範囲が広がり好ましい。
【0039】
工程(4)は工程(2)又は工程(2)及び(3)を経由して0価まで還元され、無電解めっきに対して自己触媒性を有する金属を析出させた被めっき物を無電解めっき液に接触させ無電解めっきを析出させる工程である。
【0040】
工程(4)において用いる無電解めっき液は、通常パラジウムを触媒として付着させてから無電解めっきを行う場合のめっき液と同じものを使用することができる。めっき液の代表的なものとしては、無電解銅めっきにおいては、銅イオン源として硫酸銅、塩化銅を使用することができ、還元剤としてホルマリン、次亜リン酸塩を使用する例が広く知られている。これらの液はpH調整剤として水酸化ナトリウムなどの強塩基、高pHで銅イオンを安定して存在させるためのEDTAなどのキレート剤、界面活性剤などを添加することができる。
【0041】
工程(4)で使用する液の温度は特に限定しないが、一般にパラジウムを触媒として使用する無電解めっきと同じ条件でよい。無電解銅めっきの代表的な還元剤であるホルマリン及び他の還元剤の場合、30〜80℃が好ましく、40〜70℃で使用することがより好ましい。この温度範囲であると、適度のめっき速度が得られ、めっき液も安定に使用できる。
【0042】
工程(2)から(4)の間には、各工程で用いる溶液又はめっき液が後工程の溶液又はめっき液に混合しないようにすることによって、めっき被膜の品質安定化と各溶液又はめっき液の使用回数を維持する目的で、水などによる洗浄工程、及び必要に応じて洗浄液を除去する工程などを入れるのが好ましい。
【0043】
工程(2)で用いる溶液が工程(3)の溶液に混ざると、工程(2)の溶液中で持ち込まれた金属イオンが還元されて還元剤を無駄に消費することになり、溶液を繰り返して使用できる回数が減るため好ましくない。また水などの洗浄液が工程(3)の溶液に混ざると、繰り返して使用する間に液の濃度が下がり、溶液を繰り返して使用できる回数が減るため好ましくない。
【0044】
工程(3)で用いる溶液が工程(4)のめっき液に混ざると、工程(4)で用いるめっき液の中に持ち込まれた還元剤が工程(4)のめっき液中の金属イオンを還元し、金属が析出する。析出した金属の自己触媒作用により液の分解が促進されるため、これを防ぐことが好ましい。また水などの洗浄液が工程(3)の溶液に混ざると、繰り返して使用する間に液の濃度が下がり、溶液を繰り返して使用できる回数が減るため好ましくない。
【0045】
このような隣接する工程間の洗浄液には通常水が使用され、洗浄方法は、上記の目的を達成することができれば特に限定されず、例えば、スプレーによる吹き付けや、水への浸漬によって行うことができる。
【0046】
また、洗浄液の除去の具体的な方法は、特に限定するものではないが、例えば、吊り下げたり立てかけておくことで自然に洗浄液を落とす方法や、工程にかかる時間を短縮するために空気を吹きつけたり、2本のロールに挟んでスクウィーズする方法などを実施することができる。
【0047】
本発明による無電解めっき方法は、自己触媒性を有する金属を用いた無電解めっきに使用することができる。
本発明において、被めっき物の表面上に、一旦Cu2Oを析出させる工程と、自己触媒性を有する金属銅にまで還元する工程と、を含む、銅の無電解めっき方法は好ましく実施できる。
【0048】
本発明の無電解めっき方法は、前記還元性ポリマーをパターニングする工程を含み、前記めっき金属のパターン状被膜を形成する工程を含むことができる。パターニングする工程は、公知の技法を採用することができる。シート状被めっき物に対して、工程(1)により形成された還元性ポリマーの層にフォトレジストを使用して所望のパターンを形成することができる。また、前記の還元性ポリマーの層に、目的とするパターンの逆パターンを押しつけて、還元性ポリマーを酸化分解することもできる。
【0049】
本発明の無電解めっき方法は、従来用いられてきた被めっき物表面にパラジウムを吸着させる方法とは異なり、被めっき物表面に還元性を有するポリマー被膜を形成し、続いてそのポリマー表面で自己触媒性を有する金属を析出させて、それ自体を無電解めっきに対する触媒として用いる。貴金属であるパラジウムを使わないため、低コスト化、資源の安定供給などの利点がある。また、電子回路に用いた場合にエッチング工程によって回路間にパラジウムが残存するようなことが無いため、信頼性が向上する。また、プラスチック上へのめっきにおいて、有害な金属を含む液で粗面化しなくても密着性が良好であるので、環境へ及ぼす影響が緩和される。さらに、パラジウムを使用しないことや粗化工程を必要としないことから、透明な樹脂の片面にめっきを行うと、裏面からも金属光沢を見ることができ、意匠性が向上する。
【実施例】
【0050】
以下、モノマー合成、還元性ポリマーの合成、及び実施例により本発明を説明する。
【0051】
(ドーパミン(メタ)アクリレートの製造実施例)
撹拌装置、温度計、滴下ロート、pH計、窒素ガス吹込み管を備えた1L4つ口フラスコにホウ酸ナトリウム(50.3g、0.25mol)、炭酸水素ナトリウム(21.0g、0.25mol)を入れ、蒸留水(500mL)に溶かし、氷浴で冷却しながら、30分以上窒素ガスでバブリングした。この緩衝液にドーパミン塩酸塩(25g、0.13mol)を加え溶解した。200mL滴下漏斗からアクリル酸クロリド(15.6mL、0.195mol)の脱水THF(テトラヒドロフラン)(125mL)溶液を、内温が30℃以下を維持するように、約2時間かけて滴下した。滴下中は、pH計を見ながらpH8以下にならないように、1N−水酸化ナトリウム水溶液を適量加えた。滴下終了後、氷浴をはずし、室温で1日撹拌した。窒素バブリングは反応終了まで継続した。
【0052】
反応終了後、反応液をグラスフィルターでろ過し、少量の蒸留水で洗浄した。ろ液を2L分液漏斗に移し、酢酸エチル(3×200mL)で洗浄、水層を回収した。水層を氷浴で冷却し、濃塩酸を適量加えて酸性(pH2)にした。再び1L分液漏斗に移し、酢酸エチル(3×200mL)で抽出した。有機層を蒸留水(200mL)、飽和食塩水(200mL)で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過、窒素を吹き込みながら溶媒を減圧留去して、約100mLになるまで濃縮した。激しく撹拌しながらn−ヘキサン(900mL)を加えて結晶を析出させた。氷浴上で1時間、撹拌を継続した。結晶をグラスフィルターでろ過、少量のヘキサンで洗浄して、得られた固体を減圧乾燥して、ドーパミンアクリレートを19.9g(収率74%)得た。
【0053】
上記実施例のアクリル酸クロリドをメタクリル酸無水物(23.0mL、0.146mol)に変えて、同様の操作によりメタクリレートを合成した(収量21.5g(収率75%))。
【0054】
(ポリマー合成例1:ポリドーパミンアクリルアミド)
撹拌装置、滴下ロート、冷却機、ガス吹込み管を備えた容量200mLの4つ口フラスコに、ドーパミンアクリルアミド30gをジメチルホルムアミド60gに溶解し、窒素ガス吹き込みながら2時間撹拌した。その後温度を70℃まで上げ、撹拌と窒素吹き込みを継続しながら、滴下ロートからジメチルホルムアミド10gに2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製、商品名V65)0.1gを混合した液を1時間掛けて滴下した。滴下後さらに10時間撹拌し、加熱、撹拌を停止したところ、反応溶液はやや褐色に着色し、粘度が上昇していた。ポリドーパミンアクリルアミドのホモポリマー溶液が得られた。フェノール性水酸基の含有量は、ホモポリマーの固形分当たり、9.65mmol/gであった。
この溶液にメタノール200gを加えてポリマー濃度を10重量%に希釈し、実施例のコーティング用組成物配合に使用した。
【0055】
(ポリマー合成例2)
撹拌装置、滴下ロート、冷却機、ガス吹込み管を備えた容量2Lの4つ口フラスコに、ドーパミンアクリルアミド15gと3−フェノキシ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート(東亞合成(株)製、商品名アロニックスM5700)15gをジメチルホルムアミド60gに溶解し、窒素ガス吹き込みながら2時間撹拌した。その後温度を70℃まで上げ、撹拌と窒素吹き込みを継続しながら、滴下ロートからジメチルホルムアミド10gに2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製、商品名V65)0.1gを混合した液を1時間掛けて滴下した。滴下後さらに10時間撹拌し、加熱し、撹拌を停止したところ、反応溶液はやや褐色に着色し、粘度が上昇していた。ドーパミンアクリルアミドのコポリマー溶液が得られた。フェノール性水酸基の含有量は、コポリマーの固形分当たり、4.83mmol/gであった。
この溶液にメタノール200gを加えてポリマー濃度を10重量%に希釈し、実施例のコーティング用組成物配合に使用した。
【0056】
(ポリマー合成例3)
撹拌装置、滴下ロート、冷却機、ガス吹込み管を備えた容量2Lの4つ口フラスコに、ドーパミンアクリルアミド27gと2−ヒドロキシエチルアクリレート3gをジメチルホルムアミド60gに溶解し、窒素ガス吹き込みながら2時間撹拌した。その後温度を70℃まで上げ、撹拌と窒素吹き込みを継続しながら、滴下ロートからジメチルホルムアミド10gに2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製、商品名V65)0.1gを混合した液を1時間掛けて滴下した。滴下後さらに10時間撹拌し、加熱、撹拌を停止したところ、反応溶液はやや褐色に着色し、粘度が上昇していた。ドーパミンアクリルアミド27gと2−ヒドロキシエチルアクリレートのコポリマー溶液が得られた。フェノール性水酸基の含有量は、コポリマーの固形分当たり、8.69mmol/gであった。
得られたポリドーパミンアクリルアミドのコポリマー溶液にジメチルホルムアミド200gを加えてポリマー濃度を10重量%に希釈し、実施例のコーティング用組成物配合に使用した。
【0057】
(ポリマー合成例4)
撹拌装置、滴下ロート、冷却機、ガス吹込み管を備えた容量200mLの4つ口フラスコに、ドーパミンメタクリルアミド30gをジメチルホルムアミド60gに溶解し、窒素ガス吹き込みながら2時間撹拌した。その後温度を70℃まで上げ、撹拌と窒素吹き込みを継続しながら、滴下ロートからジメチルホルムアミド10gに2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製、商品名V65)0.1gを混合した液を1時間掛けて滴下した。滴下後さらに10時間撹拌し、加熱、撹拌を停止したところ、反応溶液はやや褐色に着色し、粘度が上昇していた。得られたポリドーパミンメタクリルアミドの溶液にメタノール200gを加えてポリマー濃度を10重量%に希釈し、実施例のコーティング用組成物配合に使用した。
【0058】
以下に、工程(2)〜(4)で使用する溶液の配合例を記す。
(配合例1)
(工程(2)で用いる溶液の配合例1)
硫酸銅五水和物7.5g、エチレンジアミンテトラアセテート4ナトリウム塩4水和物91.2g、ポリエチレングリコール(三洋化成工業(株)製、商品名PEG2000)0.1g、2,2’−ビピリジル0.02gをビーカーに入れ、水を加えて1Lとした。ここに水酸化ナトリウムを溶解しながらpHが12.5になるまで加えた。
【0059】
(配合例2)
(工程(2)で用いる溶液の配合例2)
塩化第二銅二水和物3g、エチレンジアミンテトラアセテート4ナトリウム塩4水和物91.2gをビーカーに入れ、水を加えて1Lとした。ここに水酸化ナトリウムを溶解しながらpHが12.5になるまで加えた。
【0060】
(配合例3)
(工程(3)で用いる溶液の配合例1)
ジメチルアミノボラン35.5gをビーカーに入れ、水を加えて1Lとした。ここに水酸化ナトリウムを溶解しながらpHが12.5になるまで加えた。
【0061】
(配合例4)
(工程(3)で用いる溶液の配合例2)
水素化ホウ素ナトリウム2gをビーカーに入れ、水を加えて1Lとした。ここに水酸化ナトリウムを溶解しながらpHが10になるまで加えた。
【0062】
(配合例5)
(工程(4)で用いる溶液の配合例)
硫酸銅五水和物7.5g、エチレンジアミンテトラアセテート四ナトリウム塩四水和物91.2g、ポリエチレングリコール(三洋化成工業(株)製、商品名PEG2000)0.1g、2,2’−ビピリジル0.02gをビーカーに入れ、水を加えて1Lとした。ここに20%ホルマリン16mLを加え、最後に水酸化ナトリウムを溶解しながらpHが12.5になるまで加えた。
【0063】
(実施例1)
合成例1で得られた濃度10重量%のポリマー溶液2.0gにエポキシ当量が約190g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名JER828)1.5g、2−メチルイミダゾール0.015g、メタノール9g、ジメチルホルムアミド4.5gからなるエポキシ樹脂溶液0.56gを加えて撹拌混合し、コーティング溶液を作成した。この溶液をバーコーターにより厚さ50μmのPETフィルムに塗布し、窒素を吹き込んだオーブン中に投入し、110℃で1時間乾燥するとともにエポキシ化合物によるポリドーパミンアクリルアミドの架橋反応を進めた。この場合、エポキシ基とフェノール性水酸基が架橋反応したとして、残存するフェノール性水酸基の濃度を計算すると、コーティング組成物の固形分に対して約8.2mmol/gであった。
【0064】
作成しためっき用試験片を用いて下記の条件で無電解めっきを実施したところ、いずれも還元性を有するポリマーを塗布した面のみに光沢のある銅めっきが析出した。これらの液は繰り返し数回使用しても同様にめっきができることが確認できた。
なお、表1〜8においてめっき析出性の評価は、全面にめっきが析出した場合○、一部に析出が見られた場合を△、全く析出しなかった場合を×で表すこととする。
【0065】
工程(3)を経過した後の試験片について原子間力顕微鏡(AFM)で拡大観察して観察された粒子の写真を、図2に示す。図2の写真では直径約10nmの粒子状の物質が密集していることが観察できた。
【0066】
【表1】

【0067】
(実施例2)
合成例2で得られた濃度10重量%のポリマー溶液2.0gにエポキシ当量が約190g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名JER828)1.5g、2−メチルイミダゾール0.015g、メタノール9g、ジメチルホルムアミド4.5gからなるエポキシ樹脂溶液0.56gを加えて撹拌混合し、コーティング溶液を作成した。この溶液をバーコーターにより厚さ50μmのPETフィルムに塗布し、窒素を吹き込んだオーブン中に投入し、110℃で1時間乾燥するとともにエポキシ化合物によるポリドーパミンアクリルアミドの架橋反応を進めた。この場合、エポキシ基とフェノール性水酸基が架橋反応したとして、残存するフェノール性水酸基の濃度を計算すると、コーティング組成物の固形分に対して約3.8mmol/gであった。
【0068】
作成しためっき用試験片を用いて下記の条件で無電解めっきを実施したところ、実施例1に比べて温度を高めに設定し、時間を長めに設定することで、還元性を有するポリマーを塗布した面のみに光沢のある銅めっきが析出した。これらの液は繰り返し数回使用しても同様にめっきができることを確認できた。なお、表中においてめっき析出性の評価は、前に説明した通りである。この実施例においてめっき析出性が△であった条件、○であった条件について、それぞれ工程(3)経過後のテストピースをAFMで表面観察し、AFM像を観察したところ、△の場合よりも○になるにつれて、微粒子状析出物の大きさや数が増えている様子が判った。
また、条件番号4及び5の工程(3)により生成した微粒子状析出物の画像内での面積比率を画像処理ソフトによって計算したところ、それぞれ5.7%、19.0%となった。したがって、めっきを析出させるためには微粒子の析出面積が5%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましいことが判った。
【0069】
【表2】

【0070】
(実施例3)
合成例2で得られた濃度10重量%のポリマー溶液2.0gに対し、エポキシ当量が約190g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名JER828)1.5g、2−メチルイミダゾール0.015g、メタノール9g、ジメチルホルムアミド4.5gからなるエポキシ樹脂溶液1.4gを加えて撹拌混合し、コーティング溶液を作成した。この溶液をバーコーターにより厚さ50μmのPETフィルムに塗布し、窒素を吹き込んだオーブン中に投入し、110℃で1時間乾燥するとともにエポキシ化合物によるポリドーパミンアクリルアミドの架橋反応を進めた。この場合、エポキシ基とフェノール性水酸基が架橋反応したとして、残存するフェノール性水酸基の濃度を計算すると、コーティング組成物の固形分に対して約2.8mmol/gであった。
【0071】
作成しためっき用試験片を用いて下記の条件で無電解めっきを実施したところ、実施例2に比べて温度を高めに設定し、時間を長めに設定することで、還元性を有するポリマーを塗布した面の一部に光沢のある銅めっきが析出した。さらに時間を掛けることで全面にめっきが析出する可能性はあるが、工業的には時間がかかりすぎるのでこれ以上条件を検討しなかった。これらの液は繰り返し数回使用しても同様にめっきができることを確認できた。
【0072】
【表3】

【0073】
(実施例4)
合成例3で得られた濃度10重量%のポリマー溶液2.0gにイソシアネート含有率13.2%、固形分濃度75%の溶液(日本ポリウレタン工業(株)製、商品名コロネートL)0.03g、ジメチルホルムアミド0.2gを加えて撹拌混合し、コーティング溶液を作成した。この溶液をバーコーターにより厚さ50μmのPETフィルムに塗布し、窒素を吹き込んだオーブン中に投入し、80℃で1時間乾燥するとともにイソシアネート化合物によるポリドーパミンアクリルアミドの架橋反応を進めた。この場合、エポキシ樹脂とフェノール性水酸基が架橋反応したとして、残存するフェノール性水酸基の濃度を計算すると、コーティング組成物の固形分に対して約8.2mmol/gであった。
【0074】
作成しためっき用試験片を用いて下記の条件で無電解めっきを実施したところ、実施例1と同様の条件で、還元性を有するポリマーを塗布した面に光沢のある銅めっきが析出した。これらの液は繰り返し数回使用しても同様にめっきができることを確認できた。なお、表中においてめっき析出性の評価は、全面にめっきした場合○で表した。
【0075】
【表4】

【0076】
(実施例5)
合成例4で得られた濃度10重量%のポリドーパミンメタクリルアミドの溶液2.0gにエポキシ当量が約190g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名JER828)1.5g、2−メチルイミダゾール0.015g、メタノール9g、ジメチルホルムアミド4.5gからなるエポキシ樹脂溶液0.56gを加えて撹拌混合し、コーティング溶液を作成した。この溶液をバーコーターにより厚さ50μmのPETフィルムに塗布し、窒素を吹き込んだオーブン中に投入し、110℃で1時間乾燥するとともにエポキシ化合物によるポリドーパミンアクリルアミドの架橋反応を進めた。この場合、エポキシ基とフェノール性水酸基が架橋反応したとして、残存するフェノール性水酸基の濃度を計算すると、コーティング組成物の固形分に対して約7.6mmol/gであった。
【0077】
作成しためっき用試験片を用いて下記の条件で無電解めっきを実施したところ、いずれも還元性を有するポリマーを塗布した面のみに光沢のある銅めっきが析出した。これらの液は繰り返し数回使用しても同様にめっきができることを確認できた。
【0078】
【表5】

【0079】
(実施例6)パターン形成例
合成例1で得られた濃度10重量%のポリマー溶液2.0gに紫外線硬化性樹脂としてトリメチロールプロパントリアクリレート(東亞合成(株)製、商品名アロニックスM309)0.4g、ラジカル系光重合開始剤(BASF社製、商品名イルガキュア907)、エポキシ当量が約190g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名JER828)1.5g、2−メチルイミダゾール0.015g、メタノール9g、ジメチルホルムアミド4.5gからなるエポキシ樹脂溶液0.56gを加えて撹拌混合し、コーティング溶液を作成した。この溶液をバーコーターにより厚さ50μmのPETフィルムに塗布し、窒素を吹き込んだオーブン中に投入し、60℃で1時間乾燥後取り出した。この上に直径3mmの円形の黒色パターンが格子状に配列されたフォトマスクを密着させ、フォトマスクの上から紫外線を400mJ/cm2照射した。続いてフォトマスクをはずして、コーティング面をメタノールで洗浄した。さらに窒素を吹き込んだオーブン中に投入し、110℃で1時間、エポキシ化合物によるポリドーパミンアクリルアミドの架橋反応を進めた。この場合、エポキシ基とフェノール性水酸基が架橋反応したとして、残存するフェノール性水酸基の濃度を計算すると、コーティング組成物の固形分に対して約5.9mmol/gであった。
【0080】
作成しためっき用試験片を用いて実施例2の条件5で無電解めっきを実施したところ、フォトマスクの黒色の円形パターンに相当する部分以外に銅めっきが析出した。
【0081】
(比較例1)
実施例1で作成した試験片について、工程(2)の後、工程(3)を行わずに工程(4)を実施したところ、条件を変えてもめっきは析出しなかった。工程(2)経由後のサンプルをAFMで観察したところ、全面に直径数十nmの微粒子が密集したような表面形状が観察された。
工程(2)及び(3)を経由した場合には、被めっき物上に粒子が密集したような類似した形状が観察できたが、工程(2)を経由しただけでは無電解めっきの析出は見られず、工程(2)で析出する微粒子は自己触媒性を有していない、すなわち0価の銅ではないといえる。後述の参考例の結果より工程(2)経由後に表面に析出した微粒子状の物質は亜酸化銅(Cu2O)であると考えられる。
【0082】
【表6】

【0083】
(比較例2)
実施例1で作成した試験片について、工程(2)を行わずに工程(3)と工程(4)を実施したところ、条件を変えてもめっきは析出しなかった。この結果、工程(3)で還元剤が付着したことにより、工程(4)でめっきができるという可能性は無い。また比較例1及び2の結果より、この場合は工程(2)及び(3)の両方を経由することで、工程(4)でめっきが析出したと言える。
【0084】
【表7】

【0085】
(比較例3)
実施例1で作成した試験片について、工程(2)及び工程(3)のいずれもを行わずに工程(4)のみを実施したところ、条件を変えてもめっきは析出しなかった。
【0086】
【表8】

【0087】
(比較例4)
特許文献3に基づき、塩化銅(II)2水和物8.5g、エチレンジアミン四酢酸14.6g、ほう酸6.2g、ジメチルアミノボラン5.9gをビーカーにとり、超純水を加えて1Lとした、ここに水酸化ナトリウムを溶解させながら加えてpHを7に調整した。この液を30℃に保持し、実施例1で作成した試験片を浸漬したところ、約40分間はめっきが析出せず、40分経過後に液が黒く変色して黒い固体が析出した。試験片を取り出すと還元性基含有ポリマーの塗布面と塗布していない面の両側にめっきが析出しており、ビーカーの内側にも一部めっきが析出した。また、このめっき液は試験片投入前には青緑色であったが、黒い固体が沈殿したあとは無色透明になっており、繰り返してめっきに使用することができなかった。めっき業者ではよく知られた、めっき液が分解した状態となっていた。
【0088】
(参考例)
容量300mLの4つ口フラスコに、に各種フェノール類とジメチルアミノボランをそれぞれフェノール性水酸基濃度で0.2mol/L、ジメチルアミノボランの場合はその濃度を0.2mol/Lとなるように採取し、水を加えて200mLとした。このビーカーを温水浴に浸してビーカー内の液温度を60℃±1℃に保持した。ここへ水酸化ナトリウムを少量ずつ添加しながらpHを上げていき、酸化還元電位を測定した。pHと酸化還元電位の関係を図1に示す。
さらに同様の液についてpHを変えた液を用意し、それぞれに塩化銅(II)1.5gを加えて撹拌し、室温まで冷却後、液をろ過し、超純水で数回洗浄した後にろ紙ごと減圧乾燥器で乾燥した。pHや還元性化合物の種類ごとに沈殿の発生状況は異なり、カテコール、ハイドロキノン、ピロガロールを添加した水溶液ではpH12付近で赤褐色の沈殿が発生しており、pH10未満では沈殿を生じなかった。また、フェノールとレゾルシノールの水溶液からは沈殿は発生しなかった。フェノールとレゾルシノールは、カテコールやハイドロキノンに比べて、pH12付近でも酸化還元電位が高く、金属イオンを還元する能力は無いものと考えられ、水酸基が1個しかない場合や水酸基が2個あっても互いにメタ位に位置する構造では還元力が不十分である。一方互いにメタ位に位置する水酸基が存在しても、ピロガロールのようにいずれかの組み合わせがオルトもしくはパラ位になっていれば充分な還元性が得られる。比較に用いたジメチルアミノボラン水溶液からはpH12で黒褐色の沈殿が得られた。
【0089】
これら沈殿をX線回折装置(XRD)により、CuKα線の回折で分析したところ、カテコール、ハイドロキノン、ピロガロール入りの溶液から得られた赤褐色沈殿の主成分は、回折角2θ=38.4°及び42.2°のピークが標品と一致することから、亜酸化銅(Cu2O)であることが判った。またジメチルアミノボラン水溶液から得られた黒褐色の沈殿は銅であった。したがって、自己触媒を有する金属が銅の場合、カテコール、ハイドロキノン、ピロガロールは、酸化還元電位で比較しても判るようにジメチルアミノボランほどの還元力は無いが、pHが12付近まで高くなると、2価の銅イオンを1価まで還元する能力を有しており、その際の酸化還元電位は、Ag/AgCl電極を基準とした場合に−300mV以下である必要がある。
この結果より、実施例の工程(2)で析出してきた微粒子状の物質は亜酸化銅(Cu2O)であると思われ、工程(3)においてジメチルアミノボランなどの還元剤でCuまで還元することで、工程(4)における無電解銅めっきの触媒として機能するに至ったと考えられる。
【0090】
(めっきの性能評価方法)
実施例1〜3及び比較例4で析出した無電解めっき被膜について、密着性を調べるために、めっき上にカッターナイフによる切れ込み2本を30度に交差するように入れた。ここに透明なテープを張り、引き剥がしてめっきの剥がれを観察した。いずれも剥がれは無く良好な密着性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被めっき物の表面上に、めっき金属の金属イオンを還元する能力を有する有機残基を側鎖に含有するポリマーを塗設する工程(1)と、
前記ポリマーが塗設された被めっき物の表面上に、前記金属イオンを含みこの金属イオンを還元しうる還元剤を含まない溶液中において、前記金属イオンの部分還元金属酸化物を析出させる工程(2)と、
前記金属イオンを還元しうる還元剤を含む溶液中において、前記部分還元金属酸化物を自己触媒性を有するめっき金属に還元する工程(3)と、
被めっき物の表面上に、無電解めっき液中において、めっき金属の被膜を形成する工程(4)と、を含む
無電解めっき方法。
【請求項2】
前記有機残基がヒドロキノン残基、カテコール残基又はピロガロール残基である、請求項1に記載の無電解めっき方法。
【請求項3】
前記ポリマーが架橋された、請求項1又は2に記載の無電解めっき方法。
【請求項4】
前記有機残基のフェノール性水酸基の含有量が4mmol/gポリマー以上である、請求項1〜3のいずれか1つに記載の無電解めっき方法。
【請求項5】
めっき金属が銅又はニッケルである、請求項1〜4のいずれか1つに記載の無電解めっき方法。
【請求項6】
自己触媒性を有するめっき金属が被めっき物の表面を5%以上被覆している工程(3)である、請求項1〜5のいずれか1つに記載の無電解めっき方法。
【請求項7】
前記めっき金属が銅であり、前記工程(2)における部分還元金属酸化物がCu2Oである、請求項1〜6のいずれか1つに記載の銅の無電解めっき方法。
【請求項8】
前記ポリマーをパターニングする工程を含み、前記めっき金属のパターン状被膜を形成する工程とした、請求項1〜7のいずれか1つに記載の無電解めっき方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つに記載の無電解めっき方法で無電解めっきを析出させためっき製品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−72440(P2012−72440A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218073(P2010−218073)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【出願人】(502273096)株式会社関東学院大学表面工学研究所 (52)
【Fターム(参考)】