説明

無電解めっき用センシタイジング液および無電解めっき方法

【課題】酸を用いることなくSn化合物を容易に溶解でき、金属めっき皮膜の均一性を損なうことなく長期に渡って使用できる無電解めっきのセンシタイジング液を提供する。
【解決手段】Sn化合物と溶媒とを含み、前記溶媒が水溶性アルコールを10容量%以上含む無電解めっき用センシタイジング液とする。また、被めっき体を前処理液に浸漬する前処理工程と、前記前処理工程後の前記被めっき体をめっき液に浸漬するめっき工程とを有し、前記前処理液として、本発明の無電解めっき用センシタイジング液を用いる無電解めっき方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっき用センシタイジング液および無電解めっき方法に関し、特に、金属めっき皮膜の均一性を損なうことなく長期に渡って使用できる無電解めっきのセンシタイジング液およびこれを用いた無電解めっき方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無電解めっき法は、ガラス,セラミックス、プラスチックなどの金属以外の不導体材料からなる被めっき体に金属めっき皮膜を形成できる方法であり、装飾、電磁遮蔽、プリント基板及び大規模集積回路等の配線技術などに広く用いられている。
通常、無電解めっき法を用いて被めっき体上に金属めっき皮膜を形成する場合、被めっき体上にめっき触媒を吸着させるための前処理が行われる。前処理としては、一般に、被めっき体上へのめっき触媒の吸着を促す吸着物質を被めっき体上に供給するセンシタイジング処理(感受性化処理)と、被めっき体上にめっき触媒を吸着させるアクチベーション処理(活性化処理)とが行われている。
【0003】
センシタイジング処理およびアクチベーション処理としては、別々の処理液を用いて別々に行う「2液法」と、1つの処理液を用いて同時に行う「1液法」とがある。1液法は、2液法と比較して製造工程を少なくすることができるため、工業的に多く用いられている。また、1液法は、被めっき体がプラスチックからなるものである場合に特に好ましく用いられている。1液法の処理液としては、一般にSn−Pt混合触媒が用いられている。
【0004】
2液法は、1液法と比較して、被めっき体がガラスやセラミックスである場合における被めっき体に対する金属めっき皮膜の密着性が優れている。特に、被めっき体に対する金属めっき皮膜の高い密着性が要求されるプリント基板や大規模集積回路等の配線技術などには、2液法が好適である。
2液法において用いられるセンシタイジング液としては、塩化第一スズ(SnCl)の塩酸水溶液が知られている。このセンシタイジング液では、センシタイジング液に含まれるSn2+イオンが酸化されてSn4+になると失活する。Sn2+イオンは、容易に酸化されてSn4+となるので、このセンシタイジング液では、使用可能な時間が20時間〜40時間程度と短いという問題があった。センシタイジング液の使用可能な時間が短いと、金属めっき皮膜の均一性を損なわれやすく品質にばらつきが生じやすくなるし、センシタイジング液の更新頻度が高くなり、手間がかかり高コスト化に繋がるため工業的に好ましくない。
【0005】
この問題を解決するために、被めっき体を浸漬することにより、無電解めっきに用いる触媒を該被めっき体の表面に吸着させるための吸着サイトを該被めっき体の表面に形成する、該被めっき体への吸着物質を含有するセンシタイジング水溶液であって、吸着物質の該水溶液中における酸化を抑制し、コロイド化およびコロイド化物質の該水溶液中への分散を抑制し、かつ水に難溶性である、吸着物質酸化・コロイド化抑制物質が添加されている無電解めっき用センシタイジング液が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、長寿命のセンシタイジング液を提供する技術として、Sn2+イオンを含む強酸水溶液からなるものにおいて、前記水溶液中にハロゲン化物イオンを実質的に含まないか又はハロゲン化物イオンのモル濃度がSn2+イオン及びSn4+イオンの合計モル濃度の3倍以下である無電解めっきのセンシタイジング液が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、長寿命のセンシタイジング液を提供するために、センシタイジング液中に含まれる塩化第一スズ(SnCl)の濃度を高濃度にすることが考えられる。センシタイジング液中に含まれる塩化第一スズ(SnCl)を高濃度にするには、塩化第一スズ(SnCl)をセンシタイジング液中に溶解させるために添加される塩酸の濃度を高くする必要がある。しかし、センシタイジング液中に含まれる塩酸の濃度が高くなると寿命が短くなることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−63646号公報
【特許文献2】特開2005−248287号公報
【非特許文献1】姫路工業大学 松田 均:表面技術Vol.55(2004),No.4p.281
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の技術では、センシタイジング液の使用可能を十分に長くすることはできなかった。また、従来のセンシタイジング液では、被めっき体上へのめっき触媒の吸着を促す吸着物質として、塩化第一スズ(SnCl)などのSn化合物を用いた場合、塩酸などの酸を用いてセンシタイジング液中に溶解させる必要があった。酸は、製造装置等を腐食させるものであるので、使用を避けることが望ましい。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、酸を用いることなくSn化合物を容易に溶解でき、金属めっき皮膜の均一性を損なうことなく長期に渡って使用できる無電解めっきのセンシタイジング液を提供することを目的とする。
また、本発明は、前処理液として、長期に渡って使用できるセンシタイジング液を用い、金属めっき皮膜の均一性に優れ、品質のばらつきが生じにくく、センシタイジング液の更新頻度を低下させることができ、工業的に高い生産性が得られる無電解めっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
(1) Sn化合物と溶媒とを含み、前記溶媒が水溶性アルコールを10容量%以上含むことを特徴とする無電解めっき用センシタイジング液。
(2) 前記水溶性アルコールがメタノール、エタノール、プロパノールから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)に記載の無電解めっき用センシタイジング液。
(3) 前記Sn化合物が、SnCl、Sn(CHCOCHCOCH2、SnBr2、SnI2、SnSOから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)または(2)に記載の無電解めっき用センシタイジング液。
(4) 化合物半導体からなる被めっき体の前処理に用いられるものであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の無電解めっき用センシタイジング液。
(5) 前記Sn化合物を0.001g/L〜200g/L含むことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の無電解めっき用センシタイジング液。
【0011】
(6) 被めっき体を前処理液に浸漬する前処理工程と、前記前処理工程後の前記被めっき体をめっき液に浸漬するめっき工程とを有し、前記前処理液として、(1)〜(5)のいずれかに記載の無電解めっき用センシタイジング液を用いることを特徴とする無電解めっき方法。
(7) 被めっき体を前処理液に浸漬する前処理工程と、前記前処理工程後の前記被めっき体をめっき液に浸漬するめっき工程とを有し、前記前処理液として、(1)〜(5)のいずれかに記載の無電解めっき用センシタイジング液を、水および/または10容量%未満の水溶性アルコールを含むアルコール溶液で希釈してなる希釈液を用いることを特徴とする無電解めっき方法。
(8) 前記前処理工程と前記めっき工程との間に、前記被めっき体を、Pdを含むめっき触媒を含むアクチベーティング液に浸漬する活性化工程を行うことを特徴とする(6)または(7)に記載の無電解めっき方法。
(9) 前記めっき工程が銀鏡反応であることを特徴とする(6)または(7)に記載の無電解めっき方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の無電解めっき用センシタイジング液は、Sn化合物と溶媒とを含み、溶媒が水溶性アルコールを10容量%以上含むものであるので、金属めっき皮膜の均一性を損なうことなく長期に渡って使用できる。また、本発明の無電解めっき用センシタイジング液は、溶媒がSn化合物の溶解性に優れたものであるので、酸を用いることなくSn化合物を容易に溶解できる優れたものとなる。
また、本発明の無電解めっき方法は、前処理液として、長期に渡って使用できる本発明の無電解めっき用センシタイジング液を用いる方法であるので、金属めっき皮膜の均一性に優れ、品質のばらつきが生じにくく、センシタイジング液の更新頻度を低下させることができ、工業的に高い生産性が得られる。
【0013】
また、本発明の他の無電解めっき方法において、前処理液として、長期に渡って使用できる本発明の無電解めっき用センシタイジング液を、水および/または10容量%未満の水溶性アルコールを含むアルコール溶液で希釈してなる希釈液を用いる場合には、保存性を高めるために、センシタイジング液に含まれる水溶性アルコールの濃度を高濃度としておき、使用時に適宜希釈して用いることができる。その結果、水溶性アルコールを高濃度で含む溶媒を用いて、Sn化合物を容易に溶解させるとともに、センシタイジング液の長寿命を維持しつつ、前処理液に含まれる水溶性アルコールの使用量を、本発明の無電解めっき用センシタイジング液を用いる場合と比較して少なくすることが可能となり、前処理液の取り扱いにおける安全性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
「センシタイジング液」
本発明の無電解めっき用センシタイジング液は、Sn化合物と溶媒とを含むものであり、溶媒が水溶性アルコールを10容量%以上含むものである。
本発明の無電解めっき用センシタイジング液は、ガラス,セラミックス、プラスチックなどの金属以外の不導体材料からなる被めっき体に金属めっき皮膜を形成する際に、被めっき体の前処理において用いることができ、特に、化合物半導体からなる被めっき体の前処理において好ましく用いることができる。
【0015】
溶媒は、水溶性アルコールのみ、または水と水溶性アルコールとからなるものであることが好ましい。
水溶性アルコールとしては、特に限定されないが、メタノール、エタノール、プロパノールから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、被めっき体に対する金属めっき皮膜の高い密着性が得られ、Sn化合物の溶解性に優れ、センシタイジング液の寿命を効果的に長くすることができるエタノールを用いることが特に好ましい。
溶媒中に含まれる水溶性アルコールの濃度は、10容量%以上とされるが、Sn化合物の溶解性を向上させるとともに、センシタイジング液の寿命を長くするためには、高濃度であるほど好ましい。溶媒中に含まれる水溶性アルコールの濃度を10容量%以上とすることで、3日間以上に渡って使用できるセンシタイジング液とすることができる。
【0016】
Sn化合物としては、塩化第一錫(SnCl)、酢酸第一錫(Sn(CHCOCHCOCH )、臭化第一錫(SnBrヨウ化第一錫(SnI硫酸第一錫(SnSO)から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。中でも特に、被めっき体に対する金属めっき皮膜の高い密着性が得られるとともに、経済性に優れている塩化第一錫を用いることが好ましい。
Sn化合物は、センシタイジング液中に0.001g/L〜200g/L含まれていることが好ましく、0.001g/L〜10g/L含まれていることがより好ましく、0.05g/L〜5g/L含まれていることがさらに好ましい。センシタイジング液中におけるSn化合物の濃度が、上記範囲未満であると、Sn化合物による被めっき体上へのめっき触媒の吸着を促す効果が十分に得られない場合がある。また、センシタイジング液中におけるSn化合物の濃度が、上記範囲を超えても、Sn化合物を含むことによる効果を高めることは出来ないし、センシタイジング液の寿命が短くなる。
【0017】
「無電解めっき方法」
次に、本発明の無電解めっき方法について説明する。
まず、ガラス,セラミックス、プラスチックなどからなる被めっき体を用意する。
次に、被めっき体を本発明のセンシタイジング液である前処理液に浸漬する前処理工程を行う。このことにより、被めっき体上へのめっき触媒の吸着を促す吸着物質であるSn化合物が被めっき体上に供給される(感受性化処理)。
【0018】
なお、本発明のセンシタイジング液は、そのまま前処理液として使用できるが、センシタイジング液中におけるSn化合物の濃度が十分に濃い場合には、水および/または10容量%未満の水溶性アルコールを含むアルコール溶液で希釈してなる希釈液として用いることができる。
具体的には、例えば、センシタイジング液として、水溶性アルコールのみからなる溶媒とSn化合物とからなり、Sn化合物および水溶性アルコールを高濃度で含むものを用い、これを水で希釈して得られたSn化合物を0.05g/L〜5g/L含希釈液を前処理液として用いることが好ましい。
【0019】
なお、前処理工程においてSn化合物を被めっき体上により効果的に付着させ、被めっき体に対する金属めっき皮膜の密着性をより一層高めるためには、被めっき体をセンシタイジング液に浸漬する前に、アルカリを用いて被めっき体の表面を脱脂するアルカリ処理や、HSOなどの酸を用いる酸処理、水による洗浄処理などを必要に応じて行うことが好ましい。
【0020】
次に、前処理工程後の被めっき体を、めっき触媒を含むアクチベーティング液に浸漬する活性化工程を行う。このことにより、被めっき体上にめっき触媒が吸着する。めっき触媒としては、Pd、Ag、Cuを含むものなどを用いることができるが、優れた密着性の得られるPdを含むめっき触媒を用いることが好ましい。また、Pdを含むめっき触媒としては、PdClを含むものなどが好ましく用いられる。
【0021】
ここで、めっき触媒としてPdを含むものを用いた場合を例に挙げて、活性化工程におけるセンシタイジング液の作用を説明する。活性化工程において、センシタイジング液中に含まれるSn2+イオンは、以下に示すように、めっき触媒中に含まれるPd2+イオンと反応して、Sn4+イオンとなり、Pdを析出させる。ここで生成されたPdが無電解めっきの核として被めっき体上に吸着する。
Sn2++Pd2+→Sn4++Pd
【0022】
なお、活性化工程は、被めっき体に対する金属めっき皮膜の密着性をより一層高めるために、被めっき体をアクチベーティング液に浸漬する前および/または後に、水による洗浄処理を行うことが好ましい。
【0023】
また、被めっき体に対する前処理工程から活性化工程までの工程は、被めっき体上にめっき触媒をより確実にむら無く吸着させるために、複数回繰り返し行うことが好ましい。繰り返しの回数は、製造工程に支障を来たすことなく、十分な効果を得るために、3回程度であることが最も好ましい。
【0024】
その後、前処理工程および活性化工程の終了した被めっき体を、めっき液に浸漬するめっき工程を行う。ここで被めっき体に、無電解めっきされる金属としては、Ni系、Cu系、Co系、Sn系などの金属が挙げられる。ここで用いられるめっき液およびめっき工程条件の一例を以下に示す。
【0025】
「無電解Ni−Pめっき」(被めっき体がガラスである場合)
NiSO・6HO 0.05mol
NHCHCOOH 0.15mol
NaHPO・HO 0.20mol
Pb 0.1ppm
pH:4.5
浴温 60℃
【0026】
「無電解銅めっき」
CuSO・5HO 0.03mol (硫酸銅)
EDTA・4Na 0.24mol (エチレンジアミン4酢酸ナトリウム)
HCHO 0.20mol (ホルムアルデヒド)
2,2‘−bipyridine 10ppm (2,2’ビピリジン)
PEG−1000 100ppm (ポリエチレングリコール)
浴温 60℃
pH 12.5
空気攪拌を行いながら、溶存酸素を2−4ppmに調節する。
【0027】
「無電解Coめっき」
硫酸コパルト 0.08mol
次亜リン酸ナトリウム 0.2mol
酒石酸ナトリウム 0.5mol
ホウ酸 0.5mol
pH 9.0
浴温 90℃
【0028】
本実施形態のセンシタイジング液は、Sn化合物と溶媒とを含み、溶媒が水溶性アルコールを10容量%以上含むものであるので、酸を用いることなくSn化合物を容易に溶解でき、金属めっき皮膜の均一性を損なうことなく長期に渡って使用できる。
また、本実施形態のセンシタイジング液において、水溶性アルコールがエタノールである場合、被めっき体に対する金属めっき皮膜の高い密着性が得られるとともに、センシタイジング液の寿命を効果的に長くすることができる。
また、本実施形態のセンシタイジング液において、Sn化合物が、SnClである場合、被めっき体に対する金属めっき皮膜の高い密着性が得られる。
【0029】
また、本実施形態の無電解めっき方法は、前処理液として、長期に渡って使用できる本実施形態の無電解めっき用センシタイジング液を用いているので、金属めっき皮膜の均一性に優れ、品質のばらつきが生じにくく、センシタイジング液の更新頻度を低下させることができ、工業的に高い生産性が得られる。
【0030】
また、本実施形態の無電解めっき方法において、前処理液として、本実施形態のセンシタイジング液を、水および/または10容量%未満の水溶性アルコールを含むアルコール溶液で希釈してなる希釈液を用いた場合、保存性を高めるために、センシタイジング液に含まれる水溶性アルコールの濃度を高濃度としておき、使用時に適宜希釈して用いることができる。その結果、水溶性アルコールを高濃度で含む溶媒を用いて、Sn化合物を容易に溶解させるとともに、センシタイジング液の長寿命を維持しつつ、前処理液に含まれる水溶性アルコールの使用量を、本発明の無電解めっき用センシタイジング液を用いる場合と比較して少なくすることが可能となり、前処理液の取り扱いにおける安全性を向上させることができる。
【0031】
なお、上述した実施形態においては、被めっき体に前処理工程後、活性化工程を行い、Ni系、Cu系、Co系、Sn系などの金属を無電解めっきする場合を例に挙げて説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、例えば、活性化工程を行わずに、めっき工程においてAg系、Au系などの貴金属を含むめっき液に浸漬して被めっき体に貴金属を無電解めっきしてもよい。ここで用いられるめっき液およびめっき工程条件の一例を以下に示す。
【0032】
「無電解銀めっき」
AgNO 0.03mol
グルコース 0.025mol
アンモニア 0.15mol
KOH 0.06mol
浴温 50 ℃
【0033】
「無電解金めっき」
NaAuCl 0.012mol
Na 0.1mol
NaSO 0.1mol
NHCl 0.05mol
L−アスコルビン酸ナトリウム 0.25mol
pH 6.0
温度 60℃
【0034】
ここで、活性化工程を行わずに、めっき工程において銀鏡反応を行う場合の銀鏡反応におけるセンシタイジング液の作用を説明する。めっき工程において、センシタイジング液中に含まれるSn2+イオンは、以下に示すように、めっき液中に含まれるAg1+イオンと反応して、Sn4+イオンとなり、Agを析出させる。ここで生成されたAgが無電解めっきの核として被めっき体上に吸着する。
Sn2++Ag1+→Sn4++Ag
【0035】
めっき工程において銀鏡反応を行う場合においても、被めっき体に前処理工程後、活性化工程を行い、Ni系、Cu系、Co系、Sn系などの金属を無電解めっきする場合と同様に、前処理液として、長期に渡って使用できる本実施形態の無電解めっき用センシタイジング液を用いているので、金属めっき皮膜の均一性に優れ、品質のばらつきが生じにくく、センシタイジング液の更新頻度を低下させることができ、工業的に高い生産性が得られる。
【0036】
「実施例」
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
(実験例1)
塩化第一スズ(SnCl・2HO)0.1gを純エタノール(EtOH)1リットルに溶解して、実施例1のセンシタイジング液を得た。実施例1のセンシタイジング液では、酸を用いることなくSn化合物を0.1g/Lの濃度で容易に溶解できた。
(実験例2〜4)
塩化第一スズ(SnCl・2HO)10.0gを純エタノール(EtOH)1リットルに溶解して得られたセンシタイジング液(原液)を水で希釈することにより、エチルアルコールの濃度を10容量%(実験例2)、1容量%(実験例3)、0.1容量%(実験例4)としたこと以外は、実験例1と同様にして、実験例2〜4のセンシタイジング液(希釈液)を得た。
なお、実施例2のセンシタイジング液のSn化合物の濃度は1.0g/L、実施例3のセンシタイジング液のSn化合物の濃度は0.1g/L、実施例4のセンシタイジング液のSn化合物の濃度は0.01g/Lである。
【0037】
このようにして得られた実験例1〜4のセンシタイジング液を24時間放置したもの用いて、以下に示すようにして被めっき体に無電解Ni−Pめっきを行った。
まず、ガラスからなる被めっき体を、純水中で5分間超音波洗浄し、3質量%の苛性ソーダを用いて被めっき体の表面を脱脂するアルカリ処理を5分間行い、3質量%のHSOを用いる酸処理を1分間行った後、水による洗浄処理を行った。
【0038】
次いで、実験例1〜4のセンシタイジング液である前処理液に1分間浸漬する前処理工程を行った。次に、前処理工程後の被めっき体を水で洗浄し、アクチベーティング液に1分間浸漬し、その後、活性化工程後の被めっき体を水で洗浄する活性化工程を行った。その後、被めっき体に対する前処理工程から活性化工程までの工程を3回行った。
アクチベーティング液としては、1gのPdClを10ミリリットルのHClと4リットルの水とからなる溶媒に溶解してなるものを用いた。
【0039】
その後、前処理工程および活性化工程の終了した被めっき体を、上述した「無電解Ni−Pめっき」(被めっき体がガラスである場合)のめっき液にpH4.5、浴温60℃の条件で30分間浸漬するめっき工程を行った。その結果を図1に示す。
図1は、実験例1〜4のセンシタイジング液を24時間(1日間)放置したもの用いて無電解Ni−Pめっきを行った被めっき体の写真である。図1に示すように、実験例1〜4のいずれにおいても、均一な金属めっき皮膜が得られた。
【0040】
また、実験例1〜4のセンシタイジング液を3日間放置したもの用いたこと以外は、1日間放置したもの用いた場合と同様にして、被めっき体に無電解Ni−Pめっきを行った。その結果を図2に示す。
【0041】
図2は、実験例1〜4のセンシタイジング液を3日間放置したもの用いて無電解Ni−Pめっきを行った被めっき体の写真である。図2に示すように、エタノールを10容量%以上含む実験例1および実験例2では均一の金属めっき皮膜が得られた。しかし、エタノールを1容量%含む実験例3では、実験例1とSn化合物の濃度が同じであるのに金属めっき皮膜の付着率が30%となった。また、エタノールを0.1容量%含む実験例4では、金属めっき皮膜の付着率が20%となった。
このことから、エタノールを10容量%以上含むセンシタイジング液とすることで、センシタイジング液の寿命を効果的に長くできることが確認できた。
【0042】
また、実験例1〜4のセンシタイジング液を5日間放置したもの用いたこと以外は、1日間放置したもの用いた場合と同様にして、被めっき体に無電解Ni−Pめっきを行った。その結果を図3に示す。
【0043】
図3は、実験例1〜4のセンシタイジング液を5日間放置したもの用いて無電解Ni−Pめっきを行った被めっき体の写真である。図3に示すように、実験例1では均一の金属めっき皮膜が得られた。しかし、実験例2〜実験例4では、金属めっき皮膜の付着率が30%以下となった。
【0044】
また、実験例1のセンシタイジング液を7日間放置したものと、実験例1のセンシタイジング液を57日間放置したものをそれぞれ用いたこと以外は、1日間放置したもの用いた場合と同様にして、被めっき体に無電解Ni−Pめっきを行った。その結果を図4に示す。
【0045】
図4は、実験例1のセンシタイジング液を7日間放置したものと、実験例1のセンシタイジング液を57日間放置したものとをそれぞれ用いて無電解Ni−Pめっきを行った被めっき体の写真である。図4に示すように、実験例1では7日間放置したものでも57日間放置したものでも、均一な金属めっき皮膜が得られた。
このことから、実験例1のセンシタイジング液は、寿命が非常に長いことが確認できた。
【0046】
(実験例5〜8)
エタノールに代えて、メタノール(実験例5),プロパノール(実験例6)、エチレングリコールモノエチルエーテル(セロソルブ類)(実験例7)、乳酸(実験例8)を用いたこと以外は、実験例1と同様にして、実験例5〜8のセンシタイジング液を得た。
実施例5〜8のセンシタイジング液では、酸を用いることなくSn化合物を容易に溶解できた。
【0047】
また、実験例5〜8のセンシタイジング液を1日間放置したもの用いたこと以外は、実験例1と同様にして、被めっき体に無電解Ni−Pめっきを行った。
その結果、メタノールを用いた実験例5、プロパノールを用いた実験例6では、均一な金属めっき皮膜が得られた。しかし、セロソルブ類を用いた実験例7、乳酸を用いた実験例8では、被めっき体に対する金属めっき皮膜の密着性が不十分であった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、実験例1〜4のセンシタイジング液を24時間(1日間)放置したもの用いて無電解Ni−Pめっきを行った被めっき体の写真である。
【図2】図2は、実験例1〜4のセンシタイジング液を3日間放置したもの用いて無電解Ni−Pめっきを行った被めっき体の写真である。
【図3】図3は、実験例1〜4のセンシタイジング液を5日間放置したもの用いて無電解Ni−Pめっきを行った被めっき体の写真である。
【図4】図4は、実験例1のセンシタイジング液を7日間放置したものと、実験例1のセンシタイジング液を57日間放置したものとをそれぞれ用いて無電解Ni−Pめっきを行った被めっき体の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sn化合物と溶媒とを含み、前記溶媒が水溶性アルコールを10容量%以上含むことを特徴とする無電解めっき用センシタイジング液。
【請求項2】
前記水溶性アルコールがメタノール、エタノール、プロパノールから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の無電解めっき用センシタイジング液。
【請求項3】
前記Sn化合物が、SnCl、Sn(CHCOCHCOCH2、SnBr2、SnI2、SnSOから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の無電解めっき用センシタイジング液。
【請求項4】
化合物半導体からなる被めっき体の前処理に用いられるものであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の無電解めっき用センシタイジング液。
【請求項5】
前記Sn化合物を0.001g/L〜200g/L含むことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の無電解めっき用センシタイジング液。
【請求項6】
被めっき体を前処理液に浸漬する前処理工程と、
前記前処理工程後の前記被めっき体をめっき液に浸漬するめっき工程とを有し、
前記前処理液として、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の無電解めっき用センシタイジング液を用いることを特徴とする無電解めっき方法。
【請求項7】
被めっき体を前処理液に浸漬する前処理工程と、
前記前処理工程後の前記被めっき体をめっき液に浸漬するめっき工程とを有し、
前記前処理液として、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の無電解めっき用センシタイジング液を、水および/または10容量%未満の水溶性アルコールを含むアルコール溶液で希釈してなる希釈液を用いることを特徴とする無電解めっき方法。
【請求項8】
前記前処理工程と前記めっき工程との間に、前記被めっき体を、Pdを含むめっき触媒を含むアクチベーティング液に浸漬する活性化工程を行うことを特徴とする請求項6または請求項7に記載の無電解めっき方法。
【請求項9】
前記めっき工程が銀鏡反応であることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の無電解めっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−53435(P2010−53435A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222819(P2008−222819)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【出願人】(508263028)学校法人関東学院 (2)
【Fターム(参考)】