説明

焼結体およびその製造方法

【課題】 機械的強度および生体親和性が高く、気孔内に骨芽細胞等が侵入、定着、成長やすく、生体内での代謝が容易な多孔質構造を持つ生体材料用の焼結体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 気孔が非球形でかつ連通している多孔質構造からなり、気孔率が50〜90%である生体材料用の焼結体、および無機質粉末と重合性モノマーとを混合、起泡させたのちモノマーを重合させ多孔質重合体とし、該多孔質重合体に応力を加え変形させた状態を保ったまま焼成する焼結体の製造方法の提供である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焼結体およびその製造方法に関し、詳しくは人工骨や人工歯などに利用できる生体材料としての焼結体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外科や歯科などで用いられる人工骨、人工歯あるいは骨や歯などへの補填材料(以下「骨補填材」という)は、機械的強度が十分で、無毒性など生体との適合性が高いものが好適とされている。さらに、使用部位によっては生体内での代謝性がよく、新生の骨や歯と自然に置き替えられる骨補填材が求められている。このような観点から、リン酸カルシウム化合物からなる多孔質構造の骨補填材は生体の骨や歯に近い成分であり、優れた骨補填材として利用されている。生体内での代謝性のよい骨補填材として、リン酸カルシウム化合物などのセラミックス粉末と有機物等とを混合成形し、これを焼結した多孔質骨補填材が知られている(特許文献1、特許文献2)。これらの従来から公知の多孔質な生体材料用の焼結体では、気孔の形成方法によっては形成された気孔の大部分は独立した気孔となり易く、形成された隣接気孔同士が接しており連続していたとしても、各気孔の連通する部分(以下「連通部」ともいう)の断面積が小さくなりやすかった。このような気孔構造の焼結体では生体内に挿入した際、各気孔内に満遍なく骨生成に必要な骨芽細胞等を侵入させることが困難である。そこで、多孔質骨補填材の気孔連通性、生体適合性等の改善を目指し、例えば気孔率、気孔径、球形気孔およびその連通部分の孔径を調整した燐酸カルシウム系多孔質焼結体(特許文献3)、有機多孔質体にセラミック原料スラリーを含浸させこれを変形させた状態で焼成した気孔密度に偏りを持たせた骨補填材成形品(特許文献4)などが知られている。
【0003】
【特許文献1】特開昭60−16879号公報
【特許文献2】特開昭60−21763号公報
【特許文献3】特開2000−302567号公報
【特許文献4】特開2002−58688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の多孔質補填材においても、生体適合性等の改善の点では十分ではなく、特に、流動性のある原料中に気泡を生成させて製造する多孔体の場合、気孔の連通部分はある程度広くなっているものの、ほとんどの気泡はほぼ球形であり、気孔内での骨芽細胞等の定着、成長、代謝、骨形成等をスムースに進行させるためにも気孔容積に対し、気孔表面積を大きくすることが望ましい。一方、焼結体の気孔の表面積を上げるためには気孔率を大幅に高くしたり、気孔径を小さくせねばならない。気孔率を上げすぎれば焼結体の強度が下がってしまい生体材料としては好ましくない。また、気孔径を小さくしすぎると骨芽細胞等の気孔内への侵入が困難になり、生体内での代謝が難しくなり生体適合性が悪くなる。
【0005】
本発明は上記の課題を解決するため、比較的大きな連通孔で繋がった特殊な形状の気孔の多孔質構造を有し、機械的強度および気孔内へ骨芽細胞等の侵入、定着、成長及び骨形成し易い代謝適合性の高い焼結体およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題を解決するための手段は、
(1)気孔が非球形でかつ連通している多孔質構造からなり、気孔率が50〜90%である生体材料用の焼結体である。
(2)気孔率が60〜80%である(1)に記載の焼結体である。
(3)無機質粉末と重合性モノマーとを混合、起泡させたのちモノマーを重合させ多孔質重合体とし、該多孔質重合体に応力を加え変形させた状態を保ったまま焼成する焼結体の製造方法である。
(4)多孔質重合体に加える応力が圧縮応力である(3)に記載の焼結体の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の焼結体は、機械的強度および生体適合性が高く、大半の気孔が大きな連通孔による連通状態にあり、かつ気孔の形状が複雑であるため、気孔表面積が大きく、気孔内に骨芽細胞等が侵入、定着、成長やすく、生体内での代謝及び骨形成が容易な多孔質構造を有する生体材料用の焼結体である。また、本発明の焼結体の製造方法は上記焼結体の好適な製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の焼結体は、気孔が非球形でかつ連通している多孔質構造からなり、気孔率が50〜90%、好ましくは60〜80%である。本発明の特長のとして気孔が非球形であることが重要である。非球形とは楕円球や扁平球、多面体、多角形、半月形、三日月形などは勿論、断面が四角や三角になった形状でもよい。通常液体やスラリー等の粘性流体を攪拌等により発泡体とすると、その多孔質構造の気泡は球形になる。気泡が独立気泡でも気泡同士が連通している連続気泡でも各気泡はほぼ球形をしている。連続気泡の場合は完全な球形ではないが、球形の気泡が連通したものであり実質的に球形とみなすことができる。上記のような実質的に球形の気孔を持つ多孔質な弾性体を圧縮、引張り、ねじりなどの応力により変形させると球形の気孔も変形する。本発明における非球形とは、このような球形の気孔を応力によって種々の変形をさせた際に生ずる気孔のような形状のことを呼んでいる。なお、この非球形の形状は結果として非球形の形状となっておればよく、上述のような気孔生成方法による必要はない。また、本発明の非球形の形状は実質的に非球形となっており、ほとんどの気孔が非球形の形状をしており、逆にほとんどの気孔が実質的に球形の形状をしているものは含まない。このように気孔を非球形にすることで同じ気孔率でも気孔の表面積を大きくでき、焼結体と骨芽細胞等の生体物質等との接触面積を大きくでき骨芽細胞等の定着を容易にし、生体への代謝適性をよくする効果がある。
【0009】
本発明の焼結体はこれらの非球形の気孔同士が連通して多孔質構造となっている。気孔同士の連通は規則的でなくともよい。一部の気孔は独立していても構わないし、一部の気孔は数個の他の気孔と連通している場合もある。連通している多孔質構造とは焼結体外部から気体や液体、骨芽細胞などの生体物質等が連通している各気孔に侵入できる構造である。
【0010】
気孔率Pの算出は通常の方法で行えばよい。例えば、測定対象の焼結体と同じ組成、結晶形の気孔を持たない焼結体の真密度ρを測定しておき、測定対象の焼結体の体積と重さから算出した見かけ密度ρ’とから気孔率P=1−ρ’/ρとして算出すればよい。あるいは焼結体の電子顕微鏡写真における気孔面積の比率から計算値として求めてこれを近似値として気孔率としてもよい。気孔率が50〜90%、好ましくは60〜80%であると、焼結体の強度を保てると同時に表面積が大きくなり骨芽細胞等の生体物質等との接触面積が大きくなり代謝適性がよくなる効果がある。また、気孔率がこの範囲であると気孔同士の連通が容易な構造になり易い特長もある。
【0011】
このような焼結体は、気孔同士の連通部分すなわち連通孔の大きさが25μm以上、好ましくは50μm以上であることが好ましい。連通孔は通常円形ではなく、大きさに分布もある。連通孔の大きさは、ここでは水銀ポロシメーターで測定した平均的な換算直径としての大きさである。連通孔の大きさが25μm以上、好ましくは50μm以上であれば骨芽細胞等の生体物質等が侵入しやすく生体材料として好適である。なお、連通孔の大きさが25μm以上、好ましくは50μm以上であれば当然気孔径も25μm以上、好ましくは50μm以上であるので、気孔全体にも骨芽細胞等の生体物質等が侵入しやすい生体材料である。通常は連続気泡の連通部分が最も細くなっていると考えられるので、この部分に生体物質等が侵入しやすくなっておれば問題はない。連通孔の大きさに上限はないが8mm位までは製造可能であるが、現実的には1mm以下の場合が多い。気孔径および連通孔の大きさをあまり大きくすると、焼結体の強度低下とともに表面積が小さくなり、骨芽細胞等の生体物質等との接触面積が小さくなり代謝適性が落ちてくることがある。
【0012】
本発明の焼結体はどのような材料で出来ていても良いが、リン酸カルシウム系材料が好適である。例えば、CaHPO4、Ca3(PO4)2、Ca5(PO4)3OH、Ca4O(PO4)2、Ca10(PO4)6(OH)2、CaP411、Ca(PO3)2、Ca227、Ca(H2PO4)2、Ca227、Ca(H2PO4)2・H2Oからなる1群の化合物の1種または2種以上を主成分とするリン酸カルシウム系焼結体がある。これらのCaの成分の一部が、Sr、Ba、Mg、Fe、Al、Y、La、Na、K、Ag、Pd、Zn、Pb、Cd、H、および、前記以外の希土類元素から選ばれる1種または2種以上の原子で置換され得るものでもよい。また、(PO4)成分の一部が、VO4、BO3、SO4、CO3、SiO4から選ばれる1種または2種以上の原子団で置換されたものでもよい。さらに、(OH)成分の一部が、F、Cl、O、CO3、I、Brから選ばれる1種または2種以上の原子等で置換されたものでもよい。その他の材料としては、アルミナ、ジルコニア、カーボン、窒化珪素、シリカ、チタニア等を用いることが出来る。また、焼結体は結晶体、非晶質体、固溶体のいずれかあるいはこれらの混合物でもよい。
【0013】
本発明の焼結体の製造方法は特に限定はされないが、以下に好適な製造方法について図13を参照しながら述べる。通常は最初に無機質粉末スラリー調製を行う。原料無機質粉末としては、上述の材料の原料となる無機質粉末を用いればよい。特にリン酸カルシウム系の粉末が好適である。すなわち、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸2水素カルシウム、およびこれらの混合物や化合物が用いられる。水酸アパタイトやβ−リン酸カルシウムの混合物を800℃で焼成した粉末は特に好適な原料である。粉末の粒度や粒形には特に制限はなく、スラリー媒体と混合してスラリーを生成し易いものであればよい。
【0014】
スラリー媒体は、通常は水である。水の割合は後述の起泡、重合体製造に支障のない範囲で少なくしておくとよい。ただし、あまり水の割合が少ないと適度な大きさの気孔を持つ発泡体が生成しにくいので注意をする。原料無機質粉末に対して10〜200重量%、好ましくは20〜100重量%の水を使用すれば所望のスラリーが得易い。原料無機質粉末に水を加えて攪拌し均一なスラリーとする。水以外のスラリー媒体としてはアルコールあるいは下記の重合用のモノマーを溶解し得る液体を用いてもよい。
【0015】
この原料無機質粉末スラリーに重合用のモノマーを添加する。モノマーとしては、モノマーを添加した原料無機質粉末スラリーを後述のように発泡させ、重合させた際に連通した多孔質構造を持つ弾性体または塑性変形可能な成形体(塑性体という)である重合体を形成できるものであればよい。例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、マレイン酸などの単官能基モノマーが挙げられる。その中でもアクリルアミド、メタクリルアミドが好ましいモノマーとして挙げられる。また、架橋成分として三次元構造の重合体を生成する多官能基モノマーを加えることも好ましい。多官能基モノマーとしては、メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、エチレングリコールジアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレートなどが好適である。さらに、重合体に架橋剤を加えて三次元構造重合体を生成することもできる。架橋剤としてはエポキシ化合物などが好適である。その他にもモノマーの分散を良くするための分散剤、必要な時期に重合を開始させるための触媒や重合禁止剤等の添加剤を加えてもよい。
【0016】
また、モノマーが酸素等で重合し難い場合は、モノマー添加原料無機質粉末スラリーを真空脱気等して窒素等の不活性ガス雰囲気中で工程を進めるとよい。原料無機質粉末スラリーへのモノマーの添加量は特に制限はないが、通常は目的の重合体ができる範囲で少ないことが経済的にも焼成工程上からも望ましい。一般に、原料無機質粉末スラリー100重量部に対しモノマーの添加量1〜50重量部を用いればよい。
【0017】
次に起泡工程としてモノマー添加原料無機質粉末スラリーを攪拌したり、界面活性剤や発泡剤(これらを合わせて発泡剤という。)を添加して攪拌したりしてスラリーを発泡させる。発泡は通常のスラリーの発泡方法に従えばよい。発泡の程度により重合体の気孔率が決まるので、これを勘案して発泡させることが必要である。なお、焼結体の気孔率は重合体をさらに変形させた後の気孔率に近くなるので、圧縮変形の場合は特に圧縮分も考慮して発泡させる。また、重合体の気孔の大きさもこの起泡工程でほぼ決まるのでこれにも注意して発泡させるとよい。一般に、攪拌を強く長時間行えば気泡は小さくなる。通常攪拌は1〜60分程度が適当である。発泡剤としては、陰イオン性、陽イオン性、非イオン性、両性の界面活性剤を用いることが出来る。例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、デカグリセリンモノラウレート、アルカノールアミドなどを使用することが出来る。
【0018】
発泡が終わったら発泡スラリー中のモノマーを重合させる。重合は重合開始剤を加えたり、あるいは熱、光、放射線を加える等、モノマーの通常の重合条件に合わせて行えばよい。通常は室温で重合開始剤により重合させることが便利である。例えばアクリルアミド系モノマーに対しては過硫酸アンモニウム水溶液を少量加えてやればよい。重合を均一に早く行うため、重合開始剤を加えた直後にスラリーを攪拌し、重合開始剤を均一に分散させるとよい。ただし、重合が進んできたら攪拌は行わず多孔質の重合成形体の形成を待つ。この重合成形体を切断して所望の形状にする。あるいは重合前の発泡スラリーを所望の形状をした容器に入れて重合させて所望の形状の重合成形体を得ることもできる。この重合成形体は次の重合体変形工程において実質的に弾性変形または塑性変形できるものでなければならない。言いかえれば、この重合成形体に変形のための応力を加えた際、成形体が分断されて破壊してしまうものではない。このためには重合用モノマーおよび重合条件等を適宜選択する必要がある。
【0019】
重合体変形工程では、この重合成形体に応力を加えて変形させる。応力としては圧縮、引張り、剪断、ねじり、曲げ、さらにこれらの複合的な応力など重合成形体が変形する応力ならばどのようなものでもよい。通常はこの重合成形体より容積の小さい容器に圧縮しながら挿入すればよい。これによって、重合成形体は圧縮応力により変形し、内部の気孔も球形から非球形へと変形する。変形の程度としては、圧縮の場合で言えば容積を20〜95%、このましくは35〜85%、さらに好ましくは50〜75%に圧縮することが望ましい。
【0020】
変形した重合体が得られたら、これを焼成して焼結体を製造する。焼成の前に成形体を乾燥する。乾燥が不十分だと通常の焼結体のように焼成時にひびが入ったり異常変形したりするので注意する。乾燥は変形やひびの入らない条件で実施することが重要である。重合体の大きさ、形状により適当な条件を決めればよいが、通常は90℃以下の温度で数時間から数日かけて行う。また、変形後の成形体は弾性変形による成形体であれば、応力をかけたまま乾燥および次に説明する焼成を行う。塑性変形による成型体であれば応力をかけたままでなくとも乾燥、焼成ができる。
【0021】
焼成工程は原料無機質粉末を焼成して焼結体とする工程である。その際、ポリマーをはじめ添加した有機物や残存水分は分解または脱離してしまう。焼成条件は原料無機質粉末および成形体に含まれる有機物量、水分量等により適宜選べばよい。通常は、室温から800〜1300℃の焼結最終温度までは5〜100℃/時程度で昇温し、1〜12時間程度焼結最終温度で焼結すればよい。なお、100℃前後の水分蒸発温度域、300〜450℃の有機物分解温度域、無機質原料の結晶水脱離温度域など成形体の形状変形が起こり易い温度領域では、昇温速度を落とす等特に注意して焼成する必要がある。成形体は焼結後放冷して良好な本発明の焼結体となる。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
水酸化アパタイト2重量部、β−リン酸3カルシウム8重量部の割合で混合し、800℃で焼成したリン酸カルシウム粉末170gに蒸留水67,6gを加えてリン酸カルシウムスラリーを調製した。このスラリーに単官能基モノマーとしてアクリルアミド8.37g、多官能基モノマーとしてメチレンビスアクリルアミド0.0628g、ジエチレングリコールジアリルエーテル0.39g、触媒としてテトラメチルエチレンジアミン0.110g、分散剤としてポイズ532A(花王株式会社製)2.30gを加えて15分間真空脱気した。この脱気スラリーを窒素雰囲気下に置いて、起泡用界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルアルコール3.45gを加えてハンドミキサーで室温で20分間攪拌し発泡させた。この発泡スラリーに重合開始剤としてペルオキソ二硫酸アンモニウム水溶液1g(ペルオキソ二硫酸アンモニウムとして0.0265g相当)を加え、約1分撹拌を続け均一に混合した。この発泡スラリーを正方形の容器に移し、蓋をして30分間放置し架橋重合を完成させ発泡体を得た。この発泡体を1cm四方の正方形に切断して圧縮用サンプルとする。
【0023】
この圧縮用サンプルを体積を20%圧縮するため、容積が0.8cmの正方形容器に挿入した。軽く蓋をして80℃で12時間乾燥する。乾燥したサンプルを形状を保ったまま20時間で600℃まで等速昇温し、8時間そのまま保つ。その後2時間で1050℃まで等速昇温し、1050℃で3時間焼成した。焼成が終了したら放冷して本発明の焼結体を得た。この焼結体の気孔率、連通孔の平均径、および相対的表面積を測定した。その結果を表1に示した。なお、焼結体の気孔率は焼結体の体積及び重量から算出した。連通孔の平均径は水銀ポロシメーターによる水銀圧入法により測定した。気孔の相対的表面積は、電子顕微鏡の100倍断面写真の測定領域内(640×480μm)における気孔の全周囲長を測定し、圧縮をしていない比較例1を基準(100%)として各実施例の相対的な周囲長を算出してこれを相対的表面積とした。通常は実際の表面積の比は相対的表面積(周囲長比)よりさらに大きいと考えられる。焼結体の電子顕微鏡写真を図3(100倍),図4(30倍)に示した。図9には連通孔の気孔径の分布の測定チャートを示した。
【0024】
(実施例2)
実施例1において圧縮用サンプルを体積を20%圧縮したかわりに、40%圧縮した以外は実施例1と同様にして焼結体を作製した。この焼結体の気孔率、連通孔の平均径、相対的表面積、圧縮強度を実施例1と同様にして測定した。その結果を表1に示した。焼結体の電子顕微鏡写真を図1(100倍),図2(30倍)に示した。また、図10には気孔径の分布の測定チャートを示した。
【0025】
(実施例3)
実施例1において圧縮用サンプルを体積を20%圧縮したかわりに、60%圧縮した以外は実施例1と同様にして焼結体を作製した。この焼結体の気孔率、連通孔の平均径、相対的表面積、圧縮強度を実施例1と同様にして測定した。その結果を表1に示した。焼結体の電子顕微鏡写真を図5(100倍),図6(30倍)に示した。また、図11には気孔径の分布の測定チャートを示した。
【0026】
(比較例1)
実施例1において圧縮用サンプル圧縮せずに、実施例1と同様にして乾燥、焼成して焼結体を作製した。この焼結体の気孔率、連通孔の平均径、相対的表面積、圧縮強度を実施例1と同様にして測定した。その結果を表1に示した。焼結体の電子顕微鏡写真を図7(100倍),図8(30倍)に示した。また、図12には気孔径の分布の測定チャートを示した。
【0027】
【表1】

【0028】
測定結果および電子顕微鏡写真から判るように、比較例の気孔はほぼ円形(球形)で実施例の気孔はどれも変形した非円形(非球形)である。図9〜12は実施例1〜3、比較例1の連通部の気孔径の分布を示しているが、圧縮率が高くなるに従い連通部の気孔径は小さくなるが、表1に示すように実施例の気孔径のピークはいずれもほぼ30μm以上あり骨芽細胞、歯芽細胞等の侵入には十分な大きさである。また、実施例の相対的表面積(周囲長比)は圧縮率が高くなるに従い上昇しており、変形により表面積が増加していることが窺われる。なお、焼結体の圧縮強度は記載していないが1MPa以上あり使用上問題はない。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の焼結体は、外科や歯科などで用いられる人工骨、人工歯あるいは骨や歯などへの補填材料として利用できる。人体は勿論、動物の骨や歯などにも利用が可能である。また、生体外での骨芽細胞、歯芽細胞等の増殖用基体などにも応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は60%に圧縮した後の焼結体の電子顕微鏡写真(100倍)である。
【図2】図2は60%に圧縮した後の焼結体の電子顕微鏡写真(30倍)である。
【図3】図3は80%に圧縮した後の焼結体の電子顕微鏡写真(100倍)である。
【図4】図4は80%に圧縮した後の焼結体の電子顕微鏡写真(30倍)である。
【図5】図5は40%に圧縮した後の焼結体の電子顕微鏡写真(100倍)である。
【図6】図6は40%に圧縮した後の焼結体の電子顕微鏡写真(30倍)である。
【図7】図7は圧縮しない焼結体の電子顕微鏡写真(100倍)である。
【図8】図8は圧縮しない焼結体の電子顕微鏡写真(30倍)である。
【図9】図9はは40%に圧縮した後の焼結体の気孔径分布チャートである。
【図10】図10は60%に圧縮した後の焼結体の気孔径分布チャートである。
【図11】図11は80%に圧縮した後の焼結体の気孔径分布チャートである。
【図12】図12は圧縮しない焼結体の気孔径分布チャートである。
【図13】図13は本発明の焼結体の製造方法を示したブロックフロー図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気孔が非球形でかつ連通している多孔質構造からなり、気孔率が50〜90%である生体材料用の焼結体。
【請求項2】
気孔率が60〜80%である請求項1に記載の焼結体。
【請求項3】
無機質粉末と重合性モノマーとを混合、起泡させたのちモノマーを重合させ多孔質重合体とし、該多孔質重合体に応力を加え変形させた状態を保ったまま焼成する焼結体の製造方法。
【請求項4】
多孔質重合体に加える応力が圧縮応力である請求項3に記載の焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−160556(P2006−160556A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−353524(P2004−353524)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】