説明

焼結品製造方法、連続体製造方法、物品形成方法及び構造体

【課題】異なる物理特性を有する複数の部品からなる連続体及びその製造法等を提供する。
【解決手段】本発明は、磁気的特性又は硬度の如き異なる物理特性をそれぞれ備えた複数の部品を有する連続体を形成するために射出成形をいかに使用できるかを示す。これはこれら種々の部品の相対収縮率の注意深い制御により達成される。更に、使用される素材の組成における比較的小さな変更により他の特性を変更できる状態で、ある選択された物理特性のみが部品間で異なるのを許容することを保証するように注意を払う。本発明はまた、囲いに取り付けられていない状態で、囲い内に収容される物品を、単一の一体作業で形成する方法を提供する。これは、物品の収縮率が囲いの収縮率よりも実質上大きくなるようにすることにより、達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複雑な構造体の形成に特に関連する粉末冶金及び圧縮成形の一般分野に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末射出成形(PIM)処理を使用して金属又はセラミックの部品を製造することは周知である。粉末を結合剤と混合して、所望の部品に成形できる混合物を作る。結合剤はツーリング空洞内への射出及び部品の形成を許容するのに適した流れ特性を有しなければならない。成形品は普通最終部品の過剰寸法レプリカである。成形品は結合解除(debinding) を受け、粉末の方位を歪めることなく、結合剤が除去される。結合剤を除去した後、部品は焼結処理を受け、部品の密度を所望のレベルにする。
【0003】
PIMにより作られる部品は複雑な幾何学形状になることができる。部品はまた、単一の材料で作られる傾向がある。例えば、歯列矯正用のブラケットはPIM技術を使用して316Lステンレス鋼で作ることができる。
【0004】
しかし、PIMにより形成され、複数の部品を含み、その各々が隣接する部品の特性とは異なる特性を有するような物品の要求がある。従来の慣行では、これらの各部品を別個に形成し、次いで、高価な溶接又は機械的な嵌め合い方法を使用して、これらの部品を組み合わせ、異なる材料のこれらの異なる部品を一緒に結合していた。
【0005】
本発明がこの問題を解決しようとする基本的な試みを図1a及び図1bに概略的に示す。図1aにおいて、符号11、12は異なる物理特性を有し、PIMにより形成された2つの生の物品を示す。図1bは焼結後に単一の物品を形成するために結合された2つの同じ物品を示す。従来においては、物品11、12間のインターフェース13は普通溶接部(すなわち、物品11または12とは異なる材料)であった。代わりに、最終物品が連続体でない場合は、物品11、12間の単なる圧入で十分であった。
【0006】
溶接又は同様の試みに対する明らかな改善は、物品を互いに接触させながら物品11、12を焼結することであると思われていた。実際問題として、このような試みは、焼結中に2つの物品を適正に結合できないため、普通成功しなかった。本発明は、単一の連続体を形成するために、異なる物理特性を有する材料で作られた異なる部品を一体化できるように、この種の問題をいかに克服できるかを教示する。
【0007】
従来技術のルーチン調査を行ったところ、次の関連文献が見つかった。粉末冶金及び粒子材料における進歩(advances in powder metallurgy and particulate materials) の「粉末射出成形による複合部品」(第5巻、19−171ないし19−178頁、1996年発行)において、アンドレア(Andrea)等は2以上の複合体である部品を一緒に焼結する問題を検討している。彼らは、焼結中の収縮の制御が重要であることを示しているが、(後述するような)他の因子については述べていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の第1の目的は、それぞれ異なる物理特性を持つ多数の部品を有する連続体を形成する方法を提供することである。
【0009】
第2の目的は、囲いに取り付けられていない状態で、囲い内に収容される物品を、単一
の一体作業で形成する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記第1の目的は、種々の部品の相対収縮率の注意深い制御と一緒に、粉末射出成形を使用することにより、達成される。更に、使用される素材の組成における比較的小さな変更により他の特性を変更できる状態で、ある選択された物理特性のみが部品間で異なるのを許容することを保証するように注意を払う。
【0011】
上記第2の目的は、物品の収縮率が囲いの収縮率よりも実質上大きくなるような粉末射出成形により達成される。その結果、焼結後、物品自体が囲いから離脱され、囲い内で自由に運動できることが判明した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は粉末射出成形法を使用して複数材料の素子を製造する方法を開示する。異なる材料の物品の射出成形は、その高生産能力及び正しい整形能力のため、商業的に価値のある最終製品を製造する経済的に魅力のある方法である。
【0013】
当業者にとって周知のように、焼結品を形成する基本的な手順は、最初に、所要の材料を粉末の形で提供することである。次いで、この粉末を潤滑剤及び結合剤と混合し、素材を形成する。本質的に、金属物品の特性にとって有害となる望ましくない残留物を残さずに高温下で分解する任意の有機材料を使用できる。好ましい材料はステアリン酸、微粉ワックス、パラフィンワックス及びポリエチレンの如き種々の有機ポリマーである。ステアリン酸は潤滑剤として作用するが、すべての他の材料は結合剤として使用できる。粉末に添加される結合剤/潤滑剤の量及び性質は、素材の粘度及び焼結中に生じる収縮量を決定する。
【0014】
素材を準備した後、素材を適当なモールド内へ射出する。次いで、出来上がった「生の」物品をモールドから取り出す。加熱により又は溶剤の使用により、結合剤が除去される間、この物品は取扱い中にその形状を保持するのに十分な強度有する。次いで、出来上がった[スケルトン]を焼結炉内に配置し、典型的には、水素又は真空内で約30ないし180分間だけ約1,200ないし1,350℃の温度で加熱する。
【0015】
既述のように、異なる材料で作った部品を含む単一の物品を形成する試みは普通、部品を個別に形成し、後にこれらを一緒に結合することに制限されていた。その理由は、異なる材料で作った生の部品が焼結処理中に常に適正に結合するとは限らないからであった。
【0016】
本発明は、(i)部品の収縮が臨界値以上互いに異なり、そして(ii)ある物理特性が部品間で異なるという理由で、焼結中の結合についての欠陥が生じることを教示する。
【0017】
同様な理由で、ある他の物理特性は、結合に殆ど又は全く影響を及ぼすことなく、部品間で全く異なることができる。
【0018】
良好な結合を生じさせる場合に同一又は同様である必要のある物理特性は熱膨張係数及び融点を含み(ただし、これらに限定されない)、一方、結合に影響を及ぼさずに異なることのできる特性は導電率、保磁率、誘電定数、熱伝導率、ヤング係数、硬度及び反射率含む(ただし、これらに限定されない)。
【0019】
本発明の実施に十分適する場合は、2つの粉末の組成を互いに大幅に変更する必要はない。典型的には、2つの混合物の化学組成はすべての成分の約25%以下だけ異なる。
【0020】
更に、2つの部品の素材を形成するために使用される粉末が粒子形状、きめ及び寸法分布の如き同様の特徴を共有することが重要である。2つの粉末のタップ密度は約30%以上異なるべきではなく、一方、両方の粉末の平均粒子寸法は約1ないし30ミクロンの範囲内にあるべきである。
【0021】
例として、1つの部品を軟質材料(例えば低炭素鉄)とすべきであり、別の部品を高炭素鉄の如き硬質材料とすべき場合は、特定の量の炭素で低炭素鉄を合金化すれば、硬化度が向上し、高炭素鉄の要求を満たす。そうする場合、両方の粉末は依然として同様であり、同様の収縮率を有する。これは、異なる特性を有しながら、2つの材料間の良好な結合を生じさせる。
【0022】
同様に、1つの材料が低炭素鉄であり、別の材料がステンレス鋼である場合は、所要のステンレス鋼の組成を形成するためにステンレス鋼の標準合金を適当な量の鉄粉末と混合することにより、互いに近い全体粉末特徴を得ることができる。例えば、2つの材料が316Lステンレス鋼及び低炭素鉄である場合、試みることは、実際の316L組成を形成するために316Lの標準合金の1/3と低炭素鉄の2/3とを混合することである。
【0023】
2種材料の物品の成形は、最初の1つの材料の単一のバレル機械の1個又は数個の空洞の1つのツーリングで達成できることに注目されたい。成形品は、手動摘出/配置操作により又はロボットアームを使用することにより所望の物品を形成するために別の材料の別の単一のバレル機械の別のツーリングへ移される。成形方法はまた、単一のツーリング内での2つの材料による完成物品を成形するために2バレル射出機械で実施することができる。
【0024】
第1の実施の形態
この実施の形態を図2a及び図2bに示すが、開示する2つの方法は形成される構造体の形状、形態、寸法等とは関係がないことを理解すべきである。
【0025】
第1の工程は第1の素材の準備である。これは、粉末の混合物に(前述のような)潤滑剤及び結合剤を添加することにより達成される。混合物は約0.05重量%の炭素と、約15重量%のクロムと、約0.5重量%のマンガンと、約0.5重量%のケイ素と、約0.3重量%のニオブと、約4重量%のニッケルと、約80重量%の鉄とからなる。適当なモールドを使用して、この第1の素材を圧縮成形し、図2aに示すような第1の生の部品21を形成する。この部品はたまたま中空の中心22を備えた円筒形状を有する。
【0026】
次いで、約0.05重量%の炭素と、約15重量%のクロムと、約0.5重量%のマンガンと、約0.5重量%のケイ素と、約0.3重量%のニオブと、約14重量%のニッケルと、約70重量%の鉄とからなる粉末の混合物に潤滑剤及び結合剤を添加することにより、第2の素材を形成する。潤滑剤及び結合剤の濃度は、焼結後、2つの素材の収縮量がいずれか一方における総収縮の約1%以下だけ異なることを保証することが重要である。
【0027】
2つの素材は、10%分の鉄を10%分のニッケルと交換した点を除いて、同じ組成を有することに注意されたい。化学組成のこの比較的小さな変更は首尾よい焼結に関連する重要な物理特性を不変に保つが、磁気特性の大幅な変化を生じさせる。
【0028】
次に、第1の生の部品21を第2のモールドへ移し、次いで、リング(部品)21のまわりに(部品)23を配置することにより図2bに示す構造体を完成させるのに十分な量の第2の素材を第2のモールド内に射出する。
【0029】
最終の「複合の」生の物品が形成された後、先に述べた方法で、すべての潤滑剤/結合
剤を除去して粉末スケルトンを得、次いで、磁性部品及び非磁性部品の双方を有する連続体となるように、粉末スケルトンを焼結することができる。2つの素材を形成するための元の粉末の組成のため、第1の素材から得られる図2bの部品21は磁性となり、一方、第2の素材から得られる部品23は磁性とはならない。この特定の例においては、磁性部品は約800ないし1,500の最大透磁率(μmax)を有する。
【0030】
図3には、穴22を通して前後に自由に移動できるロッド33を備えた図2bに示す物品の斜視図を示す。ロッド33が磁性である場合は、穴22に関するその位置は外部コイル(図示せず)により発生される適用磁場により制御することができる。部品21は磁性材料でできているので、部品はこの適用場を集中させるためのコアとして作用する。ロッド33は別個に形成することができ、または、第2の実施の形態について後述するような方法を使用して、統合的な製造工程の一部として現場で形成することができる。
【0031】
既に暗示したように、それぞれ異なる特性を備えた複数の部品を有する連続体の形成は2つのこのような部品に限定されない。図4には、それぞれ異なる特性を備えた3つの部品を有する物品の平面図を示す。すべての部品は同心のリングである。構造体の中心において、開口44は内側リング43により取り巻かれる。リング43は非磁性である。このリングは軟質磁石であるリング41により取り巻かれる。その内側部分はリング43と同じ厚さを有する。リング41はまたリング43よりも厚い外側部分を有し、図5に断面図として示すことができるような内側側壁52を有するようにさせる。この側壁と整合し、接触して、硬質磁石である中間リング42が位置する。この関係において、軟質磁石という用語は高磁気飽和を伴う低保磁率を有する材料を言い、一方、硬質磁石という用語は高保磁率を有する材料を言う。
【0032】
図4、5に示す構造体は、リング41、43が形成された後の一体の部品内に(別個に作った)硬質磁石42を嵌め込むことにより作られる。磁気的に硬質材料のリングを図3に示すものと同様の構造体に付加する理由は、適用外部磁場のための恒久バイアスを提供することを可能にすることである。
【0033】
第2の実施の形態
この実施の形態においては、単一の一体作業で、内側物品が外側物品に取り付けられていない状態で別の物品により包まれた1つの物品を形成する方法を開示する。第1の実施の形態に関しては、方法は例として示すが、この方法は任意の形状の囲い内の任意の形状の物品に適用できることを理解すべきである。
【0034】
図6には、PIMにより形成された物品を概略的に示す。形成方法の一部として、焼結後に生の形態61が比較的多量(典型的には約20%と50%との間)収縮するような量及び質の結合剤/潤滑剤を選択した。
【0035】
ここで図7を参照すると、第2の素材の材料61を完全に囲むように形成された囲い71が示され、第2の素材に対しては、焼結後に生の形態71が比較的少量(典型的には約10%と20%との間)収縮するように結合剤/潤滑剤を選択する。部品61、71に関連する絶対収縮に関係なく、2つの収縮率間の差が少なくとも10%になることがこの方法の重要な要求点である。図7に示す物品からすべての潤滑剤及び結合剤を除去した後、出来上がった粉末スケルトンを焼結する(鉄合金スチールについては、真空内又は水素内で、約1,200ないし1,380℃の温度で、約30ないし180分)。部品71よりも部品61の収縮率が大きいため、焼結後の構造体は図8に示すような外観を有し、この場合、部品81(元の61)は部品71から離脱し、内部空間82内で自由に運動できるようになる。この型式の構造体の例としては、部品71がステータとして最終的に作用し、部品81がロータとして作用するような静電モータ(この時点では未完成)がある。従
来は、このような構造体は部品81を部品71から離脱させるための犠牲層を使用して作らねばならなかった。
【0036】
好ましい実施の形態について本発明を特に図示し、説明したが、当業者なら、本発明の要旨を逸脱することなく、形態及び詳細についての種々の変更が可能であることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1a及び図1bは、それぞれ焼結前後の、異なる材料で作られた2つの連続する部品を示す図である。
【図2】図2a及び図2bは、本発明の方法の工程を示す図である。
【図3】図2bに断面で示した物品の斜視図である。
【図4】1つの非磁性体、1つの硬質磁石及び1つの軟質磁石からなる3つの部品を有する物品の平面図である。
【図5】図4の中心を通る断面図である。
【図6】囲いの内部で物品を形成する第2の実施の形態における工程を示す図である。
【図7】囲いの内部で物品を形成する第2の実施の形態における工程を示す図である。
【図8】囲いの内部で物品を形成する第2の実施の形態における工程を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
21 部品
22 穴
23 部品
33 ロッド
41、 43 リング
42 硬質磁石
61 71 生の形態

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心を有するディスク構造体において、
軟質磁石である外側リング部分と;
硬質磁石である中間リング部分と;
非磁性の内側リング部分と;
上記中心のまわりで対称的に位置する開口と;
を有し、すべての上記3つのリング部分が、同3つのリング部分以外の材料を含まない連続体を形成することを特徴とする構造体。
【請求項2】
上記開口を通過するように位置する磁性材料の可動ロッドを更に有することを特徴とする請求項1に記載の構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−60138(P2009−60138A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295381(P2008−295381)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【分割の表示】特願2006−10640(P2006−10640)の分割
【原出願日】平成13年11月14日(2001.11.14)
【出願人】(500167146)アドヴァンスト・マテリアルズ・テクノロジーズ・ピーティーイー・リミテッド (4)
【Fターム(参考)】