説明

焼結工具

【課題】 加工物の溶着や拡散による摩耗や衝撃によるフレーキングを防止して、高い耐溶着性、耐摩耗性および耐フレーキング性を備えた焼結工具を提供することである。
【解決手段】 ダイヤモンド粒子間を鉄族金属で結合したダイヤモンド質焼結体からなる長尺状の芯材の外周面を、周期律表4a,5a,6a族金属の群から選ばれる少なくとも1種の金属元素の炭化物、窒化物および炭窒化物のうち1種以上の硬質粒子を鉄族金属で結合した焼結合金からなる表皮材で被覆してなる複合構造体16を用いた焼結工具11であって、前記表皮材は、繊維の向きが一方向に配向したカーボンナノチューブ32を1〜45体積%含有し、少なくとも切刃部における前記カーボンナノチューブ32の配向方向とすくい面15とのなす角θが45〜90°であることを特徴とする焼結工具である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺状の芯材が表皮材で被覆された複合繊維体を用いた焼結工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、材料の硬度および強度とともに靱性を改善するために、金属の酸化物、炭化物、窒化物、炭窒化物等の焼結体で形成される長尺状の芯材の外周面を他の焼結体で形成される表皮材で被覆した複合繊維体(繊維状の複合材料)が知られている。この複合繊維体としては、例えば特許文献1に記載されたものが挙げられる。
【0003】
しかしながら、この文献に記載されているような従来の複合繊維体を用いた焼結工具では、必要とされる高い硬度および強度と優れた靱性とを兼ね備えたものを得ることは困難であり、その結果、切削や掘削における耐摩耗性が得られないという問題がある。特に、前記表皮材は、加工物が溶着しやすく、摩耗が大きい。
【0004】
ところで、ダイヤモンドは最も硬い物質であり、そのダイヤモンドを用いたダイヤモンド質焼結体は優れた耐摩耗性を有することが知られている。このため、ダイヤモンド質焼結体は、切削工具、掘削工具等の各種工具や、線引きダイスのような耐摩耗性が必要とされる分野で用いられている。
【0005】
一般に、ダイヤモンド質焼結体は、Co等の鉄族金属を結合材としている。特許文献2には、機械加工用のダイヤモンドバイトにおいて、ダイヤモンド結晶が隣接するダイヤモンド結晶と直接結合しており、ダイヤモンド結晶材の塊が焼結炭化物支持材(結合材)の塊と直接結合している複合物(ダイヤモンド質焼結体)が記載されている。このダイヤモンド質焼結体は、ダイヤモンド粉末をWC−Co超硬合金母材上に配置し、ついで、高温高圧下で超硬合金母材からCoあるいはCo−W−C共晶液相をダイヤモンド粉末中に溶浸させ、焼結することによって得ている。
【0006】
しかしながら、上記ダイヤモンド質焼結体は、ダイヤモンド粒子の脱落を防止するために、鉄族金属などの結合材でダイヤモンド粒子を保持している。このため、Al−Si合金やTi合金等の切削加工中に工具の温度が上昇する。この温度上昇は、特に工具のすくい面において大きく、その結果、すくい面に加工物が溶着し、その溶着によってダイヤモンド粒子が剥離し、加工物成分の工具内部への拡散による摩耗(クレータ摩耗)が進行するという問題がある。また、ダイヤモンド質焼結体は、硬度が高く靭性が低いので、掘削加工のように鉱物粒子が激しく衝突する場合には、すくい面側が大きく剥離するフレーキングの問題があった。
【0007】
【特許文献1】米国特許6063502号明細書
【特許文献2】特公昭52−12126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、加工物の溶着や加工物成分の工具内部への拡散による摩耗を防止し、しかも衝撃によるフレーキングを防止して、耐溶着性、耐摩耗性および耐フレーキング性に優れた焼結工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ダイヤモンド質焼結体からなる長尺状の芯材の外周面を、焼結合金からなる表皮材で被覆した複合繊維体を用いた焼結工具において、前記表皮材に所定量のカーボンナノチューブを特定方向に配向させた状態で含有させることで、カーボンナノチューブの特長である高い熱伝導性および靭性を生かし、焼結工具の切刃と加工物との接触面で発生する熱を効果的に工具全体に拡散させて逃がすことができるので、加工物の溶着および溶着した加工物の工具内部への拡散を防止でき、また、加工時の衝撃エネルギーを分散させることによってフレーキングを防止して耐溶着性、耐摩耗性およびフレーキング性に優れた焼結工具が得られることを見出した。
【0010】
より詳細には、表皮材にカーボンナノチューブを所定量含有させ、そのカーボンナノチューブの配向方向をすくい面に対して45〜90°になるように配置することによって、加工中に最も温度が上昇するすくい面に発生した熱を効果的に逃がし、加工物の溶着および拡散による摩耗を抑制することができると共に、フレーキングが発生するような加工時の衝撃エネルギーをカーボンナノチューブが分散することにより吸収し、クラックの進行を抑制することができる。
【0011】
すなわち、上記課題を解決するための本発明の焼結工具は、以下の構成からなる。
(1)ダイヤモンド粒子間を鉄族金属で結合したダイヤモンド質焼結体からなる長尺状の芯材の外周面を、周期律表4a,5a,6a族金属から選ばれる少なくとも1種の金属元素の炭化物、窒化物および炭窒化物のうち1種以上の硬質粒子を鉄族金属で結合した焼結合金からなる表皮材で被覆してなる複合繊維体を用いた焼結工具であって、前記表皮材は繊維の向きが一方向に配向したカーボンナノチューブを1〜45体積%含有し、少なくとも切刃部における前記カーボンナノチューブの配向方向とすくい面とのなす角θが45〜90°であることを特徴とする焼結工具。
(2)前記芯材は、繊維の向きが一方向に配向したカーボンナノチューブを1〜45体積%含有する(1)に記載の焼結工具。
(3)前記複合繊維体の断面観察において、前記カーボンナノチューブの平均直径が1〜500nm、アスペクト比が2〜500である(1)または(2)に記載の焼結工具。
(4)前記カーボンナノチューブの表面の一部または全部が、周期律表4a,5a,6a族金属、AlおよびSiから選ばれる少なくとも1種の金属、または該金属の炭化物、窒化物および炭窒化物の少なくとも1種で被覆されている(1)〜(3)のいずれかに記載の焼結工具。
(5)工具本体と、該工具本体の取付座にろう付けされた切刃チップとからなり、該切刃チップの少なくとも切刃部が前記複合繊維体からなる(1)〜(4)のいずれかに記載の焼結工具。
【発明の効果】
【0012】
上記(1)に記載の発明によれば、高い耐溶着性、耐摩耗性および耐フレーキング性を備えた長寿命の焼結工具が得られるという効果がある。上記(2)に記載の発明によれば、芯材中にも所定の方向に配向したカーボンナノチューブを含有するので、焼結体の熱伝導性が高まり、切刃で発生する熱を焼結体全体により素早く逃がすことができる。これにより、特にドライ加工のように切刃が高温になりやすく、かつ加工物が溶着しやすい場合であっても、高い耐溶着性が得られる。上記(3)に記載の発明によれば、カーボンナノチューブの繊維強化作用を高め、優れた強度、靱性を発揮させることができる。上記(4)に記載の発明によれば、焼成時にカーボンナノチューブが酸化して分解したり、カーボンナノチューブが焼結時に結合相(表皮材における鉄族金属)中へ溶解してカーボンナノチューブが細くなってしまい本来の効果が発揮できなくなるのを抑制することができる。上記(5)に記載の発明によれば、切刃チップを工具本体の取付座にろう付けするタイプであるので、焼結体中のカーボンナノチューブの繊維方向を工具の切刃部の形状に応じて容易に制御することができると共に、複数のコーナーに切刃を設ける場合にも、焼結体中のカーボンナノチューブの配列を容易に調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態にかかる焼結工具について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施形態の焼結工具を構成する複合繊維体を示す斜視図である。図2は、本実施形態にかかる焼結工具を示す斜視図である。図3は、本実施形態にかかる焼結工具の切刃チップ付近を示す概略断面図である。
(複合繊維体)
図1に示すように、複合繊維体1は長尺状の芯材2の外周面が表皮材3で被覆された構造を有している。
【0014】
芯材2は、ダイヤモンド粒子間を鉄族金属で結合したダイヤモンド質焼結体からなる。ダイヤモンド粒子の平均粒径は、好ましくは50μm以下、より好ましくは0.1〜10μmであるのがよい。また、鉄族金属としては、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)が挙げられる。このうち、Coを必須として含有するのが、ダイヤモンド粒子の脱粒を抑制できる点で望ましく、さらには鉄族金属としてCoのみからなることが、ダイヤモンド粒子の結合力を高めかつ切削工具として用いたときの耐溶着性の点で望ましい。また、その含有量は4〜10体積%であることが望ましい。
【0015】
上記ダイヤモンド質焼結体中のダイヤモンド粒子の含有量は好ましくは50〜98体積%、より好ましくは75〜92体積%であるのがよい。ダイヤモンド粒子の含有量がこの範囲内であることにより、焼結体としての硬度を維持して工具としての耐摩耗性を維持でき、かつダイヤモンド粒子を強固に保持してダイヤモンド粒子の脱粒を抑制し摩耗が進行するのを抑制できる。
【0016】
表皮材3は、周期律表4a,5a,6a族金属から選ばれる少なくとも1種の金属元素の炭化物、窒化物および炭窒化物のうち1種以上の硬質粒子を鉄族金属で結合した焼結合金からなる。硬質粒子としては、例えばWC、TiC、TiCN、TiN、TaC、NbC、ZrC、ZrN、VC、Cr2CおよびMo2Cからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。また、鉄族金属としては、芯材2で例示したものと同様のものが挙げられる。なお、上記した硬質粒子は、前記芯材2をなすダイヤモンド質焼結体中に10体積%以下の割合で含有させてもよい。
【0017】
表皮材3は、繊維の向きが一方向に配向したカーボンナノチューブを1〜45体積%含有する。カーボンナノチューブの含有量が1体積%より小さいと、カーボンナノチューブを含有する効果が発揮されず、45体積%より多いと、カーボンナノチューブの凝集物が生成し、その凝集物が破壊源となって欠損が発生するおそれがある。
【0018】
カーボンナノチューブは、繊維の向きが一方向に配向している。そして、後述する焼結工具の少なくとも切刃部におけるカーボンナノチューブの配向方向とすくい面とのなす角θが45〜90°、好ましく80〜90°である。本発明における、カーボンナノチューブの配向方向および角θは、例えば後述する走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて測定することができる。
【0019】
芯材2は、繊維の向きが一方向に配向したカーボンナノチューブを1〜45体積%含有するのが好ましい。これにより、複合繊維体1の熱伝導性が高まり、切刃部で発生する熱を焼結体全体により素早く逃がすことができる。また、カーボンナノチューブの含有量が上記範囲であれば、カーボンナノチューブが凝集して破壊源となることもない。なお、カーボンナノチューブは、表皮材3で例示したのと同様に、焼結工具の切刃部におけるカーボンナノチューブとすくい面とのなす角θが、45〜90°、好ましく80〜90°であるのがよい。
【0020】
本発明におけるカーボンナノチューブは、直径1μm以下の円筒繊維状をなす炭素管のことを意味する。本発明では、複合繊維体1の断面観察において、カーボンナノチューブの平均直径が1〜500nm、アスペクト比が2〜500であるのが好ましく、特に、平均直径が5〜200nm、アスペクト比が5〜200であるのがカーボンナノチューブの特長をより効果的に発揮させ、焼結体内へのナノチューブの分散性および配向性を高めると共に、焼結体の強度を高める上でより好ましい。なお、複合繊維体1の断面観察は、複合繊維体をカットし、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて観察することにより行われる。
【0021】
上記カーボンナノチューブの平均直径が1nm〜500nmの範囲内であると、カーボンナノチューブを表皮材3および心材2に均一に混合分散させることができ、かつ破壊源となる可能性も低くなる。また、カーボンナノチューブのアスペクト比が2〜200の範囲内であると、カーボンナノチューブの繊維形状から得られる効果(繊維強化作用)を発揮し、かつ従来から公知の混合方法で均一分散させることも可能である。
【0022】
さらに、カーボンナノチューブは、その表面の一部または全部が、周期律表第4a、5a、6a族金属、Al(アルミニウム)およびSi(シリコン)から選ばれる少なくとも一種の金属、または該記金属の炭化物、窒化物および炭窒化物の少なくとも1種で被覆されているのが好ましい。これにより、焼成中に酸化して分解したり、結合相として機能する鉄族金属へ溶解することによる繊維強化作用の低下を抑制できると共に、加工中の耐酸化性を高めることができる。特に、本発明では、上記カーボンナノチューブを被覆する物質としては、製法上簡便なTi(チタン)、Si(シリコン)が望ましく、また、より細いカーボンナノチューブに用いる場合に特に上記被覆が効果的である。
【0023】
前記周期律表第4a、5a、6a族金属、Al(アルミニウム)およびSi(シリコン)から選ばれる少なくとも一種の金属、または該記金属の炭化物、窒化物および炭窒化物としては、例えば金属Ti、金属Si、TiCおよびSiCの群から選ばれる1種または2種以上等が挙げられる。
【0024】
(焼結工具)
次に、複合繊維体1を材料の一部として用いた焼結工具の一実施形態について説明する。図2,図3に示すように、焼結工具11は平板状をなし、工具本体12の1つの角部に形成された取付座13には、裏板19と複合構造体16とが一体化された切刃チップ14がろう付けされている。複合構造体16は、芯材2を表皮材3で被覆した複合繊維体1が後述する製造方法により複数本集束された構造を有している。焼結工具11は、すくい面15と逃げ面20との交差稜線部に切刃17が構成されている。さらに、焼結工具11の中央部には、バイトなどの工具に取り付けるためのクランプねじ等を挿通される取付孔18が形成されている。
【0025】
図3に示すように、複合構造体16の芯材2および表皮材3は、カーボンナノチューブの繊維の向きが全体的に見て芯材2および表皮材3の繊維方向と一致するように一方向に配向したカーボンナノチューブ32を所定量含有し、かつ焼結工具11のすくい面15に対して複合繊維体1の芯材2および表皮材3の繊維方向が角度θ=45〜90°をなすようにして配向している。カーボンナノチューブ32の配向方向と、すくい面15とのなす角θは、好ましくは80〜90°である。これにより、加工中にすくい面15に発生した熱を効果的に逃がし、すくい面15の温度上昇を抑制し、加工物の溶着および拡散による摩耗を抑制することができる。
【0026】
カーボンナノチューブ32の配向方向および前記角θは、例えば図3に示すように、焼結工具11をすくい面15から垂直に切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて各ナノチューブ32の繊維方向および長さを特定し、一視野における各ナノチューブ32の方向ベクトルの総和からナノチューブ32全体の方向ベクトル、すなわちナノチューブ32の配向方向を算出して、カーボンナノチューブの配向方向とすくい面15とのなす角θを求めることができる。なお、焼結工具11のすくい面15にブレーカが形成されている場合には、角度θの算出に用いるすくい面は、焼結工具11のホルダと接する着座面21を代用して算出する。
【0027】
本発明によれば、焼結工具としてはソリッドタイプの工具であっても良いが、低コストであり、簡単に製造できる上でスローアウェイ式工具、または刃先のみをロウ付けしたロウ付け工具であることが望ましい。さらに、図2,図3に示すように、工具本体12の切刃部分を切り欠いて、複合構造体16を有する切刃チップ14を取付座13にはめ込み、ろう付け等で固定することによって、工具の切刃形状に対するカーボンナノチューブ32の配向方向を容易に制御することができる。また、複数のコーナーに切刃を設ける際にも、カーボンナノチューブ32の配列が容易に行えるというメリットがある。
なお、本発明の焼結工具は、上述した切削用途以外にも掘削や耐摩用途として好適に使用可能である。
【0028】
<製造方法>
以下、本発明における焼結工具の製造方法の一例について、図面を参照して詳細に説明する。図4,図5は、複合成形体を作製する製造方法を示す概略図であり、図6は、複合成形体を複合体ディスクに成形する方法を示す概略図である。
【0029】
(芯材用成形体)
まず、前記したダイヤモンド粉末および鉄族金属を混合し、必要に応じて、この混合物にカーボンナノチューブ、焼結助剤成分粉末、有機バインダ、可塑剤、溶剤、分散剤、滑剤等を添加し混練する。ついで、図4(a)に示すように、得られた混合物をプレス成形または鋳込み成形等の成形法により円柱形状に成形して芯材用成形体50を作製する。ここで、後述する共押出成形によって均質な複合成形体を得るためには、前記有機バインダの添加量を30〜70体積%、特に40〜60体積%とするのが望ましい。
【0030】
有機バインダ、可塑剤としては、例えばパラフィンワックス、ポリスチレン、ポリエチレン、エチレン‐エチルアクリレート、エチレン‐ビニルアセテート、ポリブチルメタクリレート、ポリエチレングリコール、ジブチルフタレート等を使用することができる。溶剤、分散剤および滑剤としては、例えばポリエチレングリコール、ミネラルオイル、ブチルオリエート、ステアリン酸等を使用することができる。
【0031】
(表皮材用成形体)
前記硬質粒子、鉄族金属およびカーボンナノチューブを混合して混合物を得た後、必要に応じて、この混合物に上記した焼結助剤成分粉末、有機バインダ、可塑剤、溶剤等を添加し、混合する。ついで、図4(b)に示すように、得られた混合物をプレス成形または鋳込み成形等の成形法により半割円筒形状に成形し、2つの表皮材用成形体51,51を作製する。そして、図4(c)に示すように、得られた表皮材用成形体51,51を上記で得られた芯材用成形体50の外周面を覆うように配置し、成形体52を作製する。
【0032】
(押出成形)
ついで、図4(d)に示すように、押出機100を用いて、上記成形体52を押出成形(芯材用成形体50と表皮材用成形体51,51を共押出成形)することによって、芯材用成形体50の周囲に表皮材用成形体51が被覆され、細い径に伸延された複合成形体53を作製する。このとき、複合成形体53の繊維方向と配向したカーボンナノチューブの繊維方向(配向方向)は同じ方向に揃っている。押出し方向への配向は、押出成形時のせん断速度や吐出口の大きさ等で制御可能であるが、吐出部に電場をつくることによって、より効果的に配向させることもできる。
【0033】
また、図5に示すように、複合成形体53を複数本集束した集束体54を再度押出成形することによって、カーボンナノチューブがより配向した複合成形体55を作製してもよい。なお、複合成形体53,55の断面は、押出機100の出口形状を変えることによって円形の他、三角形、四角形、五角形、六角形、楕円形等の任意形状に成形することもできる。
【0034】
そして、図6(a)に示すように、長尺状の複合成形体55をさらに束ねて集束体56を形成し、集束体56を型101内で加熱加圧する。ついで、図6(b)に示すように、加熱加圧して得られた棒状成形体57を長尺方向に対して垂直な面で切断し、複合体ディスク58を得ることができる。なお、複合成形体55に代えて複合成形体53を用いてもよい。
【0035】
そして、複合体ディスク58を超硬合金製の図2に示した裏板19上に載置する。このとき、複合体ディスク58の具体的な載置方向としては、複合体ディスク58の平面を裏板19の平面に平行に配置することによって、複合体ディスク58の平面方向に垂直に整列した複数の複合成形体55の繊維方向、すなわち複合成形体55が含有するカーボンナノチューブ32の繊維方向が、裏板19と垂直になるように配置する。
【0036】
(焼成)
ついで、複合体ディスク58を裏板19上に載置したものを、300〜700℃、10〜200時間で昇温または保持させて脱バインダ処理する。そして、超高圧装置内にセットし、加圧圧力4〜6GPa、1350〜1600℃、1〜60分で焼成して一体化することにより、裏板19と接合一体化された複合構造体16とからなる切刃チップ14を作製することができる。この複合構造体16は、図1に示すような複合繊維体1が複数本集束された構造を有している。
【0037】
上記で得られた切刃チップ14を所定の形状にワイヤー放電加工機で切断し、切削、研磨等で切刃形状に加工する。ついで、切刃チップ14を取付座13に銀ろうなどを用いてろう付けすることにより、図2に示す焼結工具11を得ることができる。
【0038】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明の焼結工具について、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
[実施例]
<焼結工具の作製>
表1に示す組み合わせで、平均粒径1.5μmのダイヤモンド粒子と、平均粒径1.0μmのCo粉末と、平均直径20nm、長さ1μm〜3μmのカーボンナノチューブまたは平均直径150nm、長さ4μm〜6μmのカーボンナノチューブとを表1に示す割合で混合し、これに有機バインダとしてセルロース、ポリエチレングリコールを、溶剤としてポリビニルアルコールを混錬して、円柱形状に押出成形して芯材用成形体を作製した。有機バインダおよび溶剤の合計添加量は、ダイヤモンド粒子、Co粉末およびカーボンナノチューブの合計体積と同量(体積)とした。
【0040】
ついで、表1に示す組み合わせで、平均粒径2.0μmのWC粉末と、平均粒径1.0μmのCo粉末と、平均直径20nm、長さ1μm〜3μmのカーボンナノチューブまたは平均直径150nm、長さ4μm〜6μmのカーボンナノチューブとを混合し、これに、上記と同様の有機バインダ、溶剤を加えて混錬し、半割円筒形状の表皮材用成形体2つを押出成形にて作製した。ついで、これらの表皮材用成形体を芯材用成形体の外周を覆うように配置して成形体を作製した。ここで、平均直径20nmのカーボンナノチューブは、予めSi/SiO2混合粉末を配置したアルミナ坩堝に入れ、1300℃、真空中で被覆処理を行い、カーボンナノチューブの表面にSiCが被覆されたものを用いた。
【0041】
そして、上記成形体を押出して直径が2mmの伸延された複合成形体を作製した。なお、伸延された複合成形体をミクロトームで薄片に切断し、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いて観察したところ、添加したカーボンナノチューブは明らかに押出し方向(繊維長手方向)に配向していた。
【0042】
上記で得られた複合成形体を、直径10mmの円柱形状にプレス成形して棒状成形体を作製し、この棒状成形体を長尺方向に対して垂直な面で切断して複合体ディスクを作製した。その後、この複合体ディスクの下面に厚さ5mmの超硬合金の焼結体からなる裏板を配し、これを300〜700℃まで100時間で昇温することによって脱バインダ処理を行った後、超高圧装置に配置し、1450℃×10分の条件で焼成し、複合構造体と裏板が一体化された切刃チップを作製した。焼結後、切刃チップ中のカーボンナノチューブは一方向に配向していることが確認された。その後、この切刃チップをそれぞれ加工し、超硬合金からなる工具本体の取付座に、銀ろうを用いて700℃でろう付けし、焼結工具をそれぞれ作製した(表1の試料No.1〜7)。
【0043】
ここで、上記でえられた焼結工具について、複合焼結体中のカーボンナノチューブの繊維方向と、切刃チップのすくい面とのなす角θを測定し、その結果を表2に示した。なお、前記角θは、焼結工具をすくい面から垂直にカットし、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、各ナノチューブの繊維ベクトルの総和を算出して求めた。
【0044】
また、表1には、複合構造体中のカーボンナノチューブの直径およびアスペクト比を示す。これらの直径およびアスペクト比は、複合構造体をカットし、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。具体的には、複合構造体の断面の5カ所でSEM観察を行い、5μm×5μmの範囲に存在するカーボンナノチューブを全数測定し、その平均値を算出した。
【0045】
【表1】

【0046】
[比較例1]
カーボンナノチューブを添加しない(試料No.10)、またはカーボンナノチューブの含有量が45体積%を越える割合で添加した(試料No.8)以外は、実施例と同様にして、複合体ディスクをそれぞれ作製した。ついで、得られた複合体ディスクを用いて、実施例と同様にして、焼結工具をそれぞれ作製した。
【0047】
[比較例2]
カーボンナノチューブの配向方向とすくい面とのなす角度θが45°より小さい角度となるように複合焼結体の向きを調整して裏板にロウ付けした(試料No.9)以外は、実施例と同様にして、複合体ディスクを作製した。ついで、得られた複合体ディスクを用いて、実施例と同様にして、焼結工具をそれぞれ作製した。
【0048】
<焼結工具の評価方法>
上記工程にて作製した各焼結工具について、複数の被削材(AC4B、4本溝入り)を切削し、溶着、摩耗およびフレーキングが発生するまでの被削材の加工数(最大3000個)を評価した。評価条件を以下に示すと共に、その評価結果を表2に併せて示す。
(被削材の加工数の評価条件)
切込み量d=1mm
切削速度V=1000m/分
送りf=0.1mm/rev
乾式切削
【0049】
【表2】

【0050】
表2から明らかなように、カーボンナノチューブの含有量が1体積%より少ない試料No.10では早期に溶着が発生した。また、カーボンナノチューブの含有量が45体積%より多い試料No.8では切刃部で複合焼結体が欠損した。さらに、カーボンナノチューブの配向方向と焼結工具のすくい面とのなす角度θが45°より小さい試料No.9でも比較的早期に溶着が発生してしまった。
【0051】
これに対して、本発明に従い、カーボンナノチューブを1〜45体積%の割合で含有し、かつその配向方向とすくい面とのなす角度θが45°〜90°をなす試料No.1〜7では、いずれも優れた切削性能を示した。なお、芯材中にもカーボンナノチューブを含有させた試料No.5〜6では、さらに耐溶着性の高いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本実施形態の焼結工具を構成する複合繊維体を示す斜視図である。
【図2】本実施形態の焼結工具を示す斜視図である。
【図3】本実施形態にかかる焼結工具の切刃チップ付近を示す概略断面図である。
【図4】(a)〜(d)は、複合成形体を作製する製造方法を示す概略図である。
【図5】他の複合成形体を作製する製造方法を示す概略図である。
【図6】(a),(b)は、複合成形体を複合体ディスクに成形する方法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0053】
1 複合繊維体
2 芯材
3 表皮材
11 焼結工具
12 工具本体
13 取付座
14 切刃チップ
15 すくい面
16 複合構造体
17 切刃部
18 取付孔
19 裏板
20 逃げ面
21 着座面
32 カーボンナノチューブ
50 芯材用成形体
51 表皮材用成形体
52 成形体
53,55 複合成形体
54,56 集束体
58 複合体ディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド粒子間を鉄族金属で結合したダイヤモンド質焼結体からなる長尺状の芯材の外周面を、周期律表4a,5a,6a族金属から選ばれる少なくとも1種の金属元素の炭化物、窒化物および炭窒化物のうち1種以上の硬質粒子を鉄族金属で結合した焼結合金からなる表皮材で被覆してなる複合繊維体を用いた焼結工具であって、
前記表皮材は繊維の向きが一方向に配向したカーボンナノチューブを1〜45体積%含有し、少なくとも切刃部における前記カーボンナノチューブの配向方向とすくい面とのなす角θが45〜90°であることを特徴とする焼結工具。
【請求項2】
前記芯材は、繊維の向きが一方向に配向したカーボンナノチューブを1〜45体積%含有する請求項1記載の焼結工具。
【請求項3】
前記複合繊維体の断面観察において、前記カーボンナノチューブの平均直径が1〜500nm、アスペクト比が2〜500である請求項1または2記載の焼結工具。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブの表面の一部または全部が、周期律表4a,5a,6a族金属、AlおよびSiから選ばれる少なくとも1種の金属、または該金属の炭化物、窒化物および炭窒化物の少なくとも1種で被覆されている請求項1〜3のいずれかに記載の焼結工具。
【請求項5】
工具本体と、該工具本体の取付座にろう付けされた切刃チップとからなり、該切刃チップの少なくとも切刃部が前記複合繊維体からなる請求項1〜4のいずれかに記載の焼結工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−255853(P2006−255853A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−79182(P2005−79182)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】